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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】合金板材供給装置および缶成形装置
(51)【国際特許分類】
   B21D 43/09 20060101AFI20220221BHJP
   B05C 1/08 20060101ALI20220221BHJP
   B05C 9/04 20060101ALI20220221BHJP
   B21D 51/26 20060101ALI20220221BHJP
【FI】
B21D43/09 Z
B05C1/08
B05C9/04
B21D51/26 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020152268
(22)【出願日】2020-09-10
【審査請求日】2021-11-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521469760
【氏名又は名称】昭和アルミニウム缶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100113310
【弁理士】
【氏名又は名称】水戸 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】阿部 勝則
【審査官】山本 裕太
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-215783(JP,A)
【文献】特開平5-237570(JP,A)
【文献】特開平3-229668(JP,A)
【文献】実開昭61-195824(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 43/09
B05C 1/08
B05C 9/04
B21D 51/26
B21D 43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金板材を金属製飲料缶に成形する缶成形装置に、巻き解かれたコイル材を当該合金板材として供給する合金板材供給装置であって、
潤滑油を第1外周部に含む第1ロールと、
第2外周部を有する第2ロールと、
前記合金板材が前記第1ロールの前記第1外周部及び前記第2ロールの前記第2外周部に接し当該第1外周部及び/又は当該第2外周部により当該合金板材に潤滑油を塗布する第1状態と、当該第1状態で潤滑油を塗布する当該第1ロール及び/又は当該第2ロールが当該合金板材から離れて空転可能な第2状態と、に切り替える切り替え手段と、
前記切り替え手段により前記第2状態のときに空転可能な前記第1ロール及び/又は前記第2ロールに駆動力を付与する駆動力付与手段と、
を備える合金板材供給装置。
【請求項2】
前記駆動力付与手段は、駆動力を付与する期間と駆動力を付与しない期間とが交互になるように、空転可能な前記第1ロール及び/又は前記第2ロールに回転駆動力を付与する、ことを特徴とする請求項1に記載の合金板材供給装置。
【請求項3】
前記駆動力付与手段は、圧縮空気の噴き出しを制御する制御部と、噴き出した圧縮空気を受ける前記第1ロールの部分及び/又は前記第2ロールの部分とを含んで構成される、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の合金板材供給装置。
【請求項4】
前記切り替え手段は、前記第1状態において前記第1ロールと前記第2ロールのうちの一方を他方から遠ざかる方向に移動させ、前記合金板材を当該他方から遠ざかる方向に移動させることで前記第2状態に切り替える、ことを特徴とする請求項1に記載の合金板材供給装置。
【請求項5】
コイル材が巻き解かれた状態の合金板材を金属製缶に成形する缶成形装置であって、
潤滑油を第1外周部に含む第1ロールと、
第2外周部を有する第2ロールと、
前記合金板材が前記第1ロールの前記第1外周部及び前記第2ロールの前記第2外周部に接し当該第1外周部及び/又は当該第2外周部により当該合金板材に潤滑油を塗布する第1状態と、当該第1状態で潤滑油を塗布する当該第1ロール及び/又は当該第2ロールが当該合金板材から離れて空転可能な第2状態と、に切り替える切り替え手段と、
前記切り替え手段により前記第2状態のときに空転可能な前記第1ロール及び/又は前記第2ロールに駆動力を付与する駆動力付与手段と、
を備える缶成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製缶を製造する缶成形装置に合金板材を供給する合金板材供給装置および当該缶成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、上下一対のローラ間に、所望の板厚からなる板材を挟み込んで走行させて、所望の油を板材の表面に塗布する際、板材の所望の速度に応じて、板材の表面に塗布される塗布厚を調整すべく、油の塗布量を、一対のローラの少なくとも一方のローラの表面に油を供給する定量ポンプを可変型回転駆動装置で制御して、板材の表面に油を塗布する構成が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、搬送樋の両端間に設けた上下二段のガイドレールを循環して移動するエンドレスチェーンに、スクレーパを片持ちアームを介して揺動可能に複数個取り付け、搬送樋の両端部に設けたスクレーパガイドに片持ちアームを摺接させて各スクレーパの向きを反転させるスクレーパコンベヤにおいて、上段のガイドレールを移動する非搬送状態のスクレーパの片持ちアームに接触するローラと、ローラに潤滑油を補充するオイルポットとを設けたことを特徴とするスクレーパコンベヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-334565号公報
【文献】特開2007-169031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一対のロールが回転している状態では、各ロールに補充されて内部に蓄えられた潤滑油がロールの外周面の周方向においてほぼ均一に分布するので、一対のロールの間を通される合金板材への潤滑油の塗布が均一に行われる。
【0006】
しかしながら、ロールの回転が停止している場合、各ロール内で潤滑油が下側に溜まることから、時間の経過と共にロール外周面の周方向に均一な分布が維持されなくなる。
ブランク材をカップ状素材に成形する工程が停止した場合、合金板材の走行が停止し、潤滑油を塗布するロールも停止する。このため、長期間停止後に再稼働する初期の段階では合金板材に潤滑油が均一に塗布されずに塗布ムラが生じると、製品品質の点で、塗布ムラの部分で成形されたカップ状素材は廃棄され、歩留まりの悪化を招く。
【0007】
本発明の目的は、再稼働後の合金板材への潤滑油の塗布ムラを抑制可能な合金板材供給装置および缶成形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明が適用される合金板材供給装置は、合金板材を金属製飲料缶に成形する缶成形装置に、巻き解かれたコイル材を当該合金板材として供給する合金板材供給装置であって、潤滑油を第1外周部に含む第1ロールと、第2外周部を有する第2ロールと、前記合金板材が前記第1ロールの前記第1外周部及び前記第2ロールの前記第2外周部に接し当該第1外周部及び/又は当該第2外周部により当該合金板材に潤滑油を塗布する第1状態と、当該第1状態で潤滑油を塗布する当該第1ロール及び/又は当該第2ロールが当該合金板材から離れて空転可能な第2状態と、に切り替える切り替え手段と、前記切り替え手段により前記第2状態のときに空転可能な前記第1ロール及び/又は前記第2ロールに駆動力を付与する駆動力付与手段と、を備えるものである。
【0009】
ここで、前記駆動力付与手段は、駆動力を付与する期間と駆動力を付与しない期間とが交互になるように、空転可能な前記第1ロール及び/又は前記第2ロールに回転駆動力を付与する、ことを特徴とすることができる。また、前記駆動力付与手段は、圧縮空気の噴き出しを制御する制御部と、噴き出した圧縮空気を受ける前記第1ロールの部分及び/又は前記第2ロールの部分とを含んで構成される、ことを特徴とすることができる。また、前記切り替え手段は、前記第1状態において前記第1ロールと前記第2ロールのうちの一方を他方から遠ざかる方向に移動させ、前記合金板材を当該他方から遠ざかる方向に移動させることで前記第2状態に切り替える、ことを特徴とすることができる。
【0010】
他の観点から捉えると、本発明が適用される缶成形装置は、コイル材が巻き解かれた状態の合金板材を金属製缶に成形する缶成形装置であって、潤滑油を第1外周部に含む第1ロールと、第2外周部を有する第2ロールと、前記合金板材が前記第1ロールの前記第1外周部及び前記第2ロールの前記第2外周部に接し当該第1外周部及び/又は当該第2外周部により当該合金板材に潤滑油を塗布する第1状態と、当該第1状態で潤滑油を塗布する当該第1ロール及び/又は当該第2ロールが当該合金板材から離れて空転可能な第2状態と、に切り替える切り替え手段と、前記切り替え手段により前記第2状態のときに空転可能な前記第1ロール及び/又は前記第2ロールに駆動力を付与する駆動力付与手段と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、再稼働後の合金板材への潤滑油の塗布ムラを抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】金属製飲料缶製造ラインの潤滑油の塗布例を説明するための簡略図である。
図2】金属製飲料缶製造ラインを説明するための概略図である。
図3】ルブリケーターの構成例を示す図である。
図4】フェルトロール内のルブリカントの分布を示す図であり、(a)は運転中、(b)はアイドリング中ないし空転中を示し、(c)は比較例として長時間の停止中を示す。
図5】空転機構を説明する図であり、(a)はフェルトロールの一端部を示す平面図、(b)はその側面図、(c)は(b)の線C-Cによる断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、金属製飲料缶製造ライン10の潤滑油の塗布例を説明するための簡略図であり、図2は、金属製飲料缶製造ライン10を説明するための概略図である。
金属製飲料缶、特にアルミニウム合金製飲料缶は、合金板材11が成形されてなるものであり、通常、以下に詳述する従来と同様の各工程を経て製造される。
【0014】
なお、ここにいう飲料缶は、特に有底円筒状の缶が好ましく、その材料は、アルミニウムまたはアルミニウム合金が好ましく、金属缶胴体に広く用いられる3004合金や3104合金が特に好ましい。飲料缶は、絞りしごき加工により缶胴が成形されるものであり、内容物としては、ビール系またはチューハイ系等のアルコール系飲料もしくは非アルコール系の清涼飲料等が好ましい。
【0015】
図1に示すように、金属製飲料缶製造ライン10は、ルブリケーター(LU)2及びカッピングプレス(CP)4を含んで構成されている。また、金属製飲料缶製造ライン10は、コイル材1を巻き解くための図2に示すアンコイラー(UC)を含んで構成されている。
【0016】
図1に示す合金板材11には、輸送中の擦り傷防止のため予め第1潤滑油が合金板材11の両面に塗布され、コイル状に巻かれたコイル材1が用いられる。
なお、第1潤滑油が合金板材11の両面に塗布された状態とは、合金板材11の何れか片面に第1潤滑油を塗布してコイル状に巻くことにより、結果として合金板材11の両面に第1潤滑油が付着した状態のものも含む。
【0017】
コイル材1は、アンコイラー(UC)によって巻き解かれて合金板材11となり、合金板材11の上下両側に設けられたフェルトロール21,22で挟まれた状態で送りロール3によって下流側へ送られる。
【0018】
アンコイラー(UC)の下流側にはカッピングプレス4が設けられ、当該カッピングプレス4によって合金板材11から円形のブランク材が打ち抜かれるとともに、パンチ41がダイス42に押し込まれることによりカップ状素材を成形する絞り加工が行われる。
【0019】
絞り加工で成形されるカップ状素材の表面に、欠け、傷、シワ、ピンチング(異常な伸び)などの外観不良が発生することを防止するため、絞り加工工程の前工程では、ルブリケーター(LU)2により合金板材11の表面にルブリカントが塗布される工程が設けられる。
【0020】
カップ状素材が成形されるとボディメーカー(BM)に送られ、カップ状素材に絞りしごき加工などを施すことにより、所定厚さの側壁を有する缶体を成形するとともに底部を成形し、更にトリマー(TR)において缶体の周壁上部の耳部が切り揃えられて有底円筒状の缶体となる。
缶体は、洗浄装置(WS)により洗浄が行われた後、プリンター(PR)で缶体の外周側面に印刷、ボトムコーター(BTC)で缶底外面に塗装が施され、ピンオーブン(PO)で焼き付けが行われる。
【0021】
外面の印刷がなされた缶体は、インサイドスプレー(INS)で内面に塗装が施され、塗装した内面をベークオーブン(BO)で焼き付けて乾燥させる。
その後、ネッカー・フランジャー(QNF)で缶体の開口縁部の縮径及びフランジ加工がなされて、或いはネジ蓋缶の場合は開口縁部の縮径後ネジ付け加工を行い、最終形状の缶体に成形される。
【0022】
最終形状に成形された缶体は、ディフェクティブキャンテスター(DCT)による外観検査、及びライトテスター(LT)による穴あき検査などの検査がなされ、各検査で良品と判定された缶体がパレタイザー(PT)によりパレットに積載されて製品として出荷される。
【0023】
製造ラインにおいてタクトタイムの長い工程は、同一工程が複数に分かれて並行処理されることにより、コイル材1から缶体が成形されてパレットに積載されるまでの製造ライン全体のサイクルタイムの短縮を行っている。
【0024】
<第1潤滑油及び第2潤滑油>
缶外面となる側は、内面となる側に比べて、絞りしごき加工の工程で厳しい加工を受けるので、油膜厚を厚く維持する必要がある。一般に、潤滑油粘度が高いことにより、油膜を厚く維持することが可能となり、要求される潤滑性能を満たすことができるので、第2潤滑油の粘度は第1潤滑油の粘度以上の粘度であることが好ましいが、カップ状素材の表面の油膜が充分に維持されるのであれば、特にこれに限定されるものではない。
【0025】
第1潤滑油としてのリオイル及び第2潤滑油としてのルブリカントなどの潤滑油は、合金板材11の表面に油膜を形成するために塗布されるものであり、ルブリカントは、絞り加工工程の前工程でのみ塗布される一方、リオイルは、コイル材1に予め少量塗布されている。
【0026】
また、絞りしごき加工工程では、成形における潤滑性を維持するとともに合金板材11を冷却するための潤滑油であるクーラントが塗布される。
なお、絞りしごき加工工程で塗布されるクーラントと、コイル材1に予め少量塗布されているリオイルとは、同一のものであってもよいし異なる粘度のものであってもよく、特に限定されるものではない。
【0027】
ルブリカントは注油機であるルブリケーター2のタンク23に貯蔵され、ルブリケーター2のタンク23から供給管24を介して上側のフェルトロール21に供給されたルブリカントは、フェルトロール21を介して合金板材11の上側面A(缶体の内面Aとなる側)に塗布される。また、タンク23から供給管25を介して下側のフェルトロール22に供給されたルブリカントは、フェルトロール22を介して合金板材11の下側面B(缶体の外面Bとなる側)に塗布される。
なお、ルブリカントの塗布は合金板材11の両面に行われるが、これに限られず、合金板材11の片面のみに行う構成例を採用しても良い。例えばルブリカントが合金板材11の上側面Aには塗布されず、下側のフェルトロール22を介して合金板材11の下側面Bにのみ塗布される構成である。
【0028】
<ルブリケーター2の構成例>
図3は、ルブリケーター2の構成例を示す図である。
図3に示すルブリケーター2は、合金板材11を持ち上げる板材リフト51を備え、板材リフト51の合金板材11の搬送方向上流側と下流側とにフェルトロール21,22をそれぞれ配置している。上流側のフェルトロール21,22と下流側のフェルトロール21,22とは、板材リフト51の長さ方向(紙面垂直方向)の位置を互いに違えて配置されている(千鳥配置)。合金板材11の幅に合わせて、板材リフト51の長さ方向に並べる数(千鳥配置する数)が決定される。
【0029】
板材リフト51は、合金板材11に対して接離可能な持ち上げ部51aと、持ち上げ部51aを昇降させるエアシリンダ51bと、を含んで構成される。エアシリンダ51bには、エア配管27によりエア(圧縮空気)が供給される。エア配管27の電磁弁51cをON/OFF制御することにより、持ち上げ部51aが昇降する。電磁弁51cは、制御部53によりON/OFF制御される。
このように、板材リフト51は、フェルトロール21をフェルトロール22から遠ざかる方向に移動させた状態で、合金板材11を同じ方向に移動させて持ち上げる。合金板材11とすべてのフェルトロール21,22とを離脱させ、後述の空転機構(図5参照)によりフェルトロール21,22を回転させる。
【0030】
ルブリケーター2は、上側のフェルトロール21を上下方向に移動するための移動機構52を備える。この移動機構52は、本実施の形態では、固定側支点52aを持つシリンダ52bと、移動側支点52cを持つロッド52dと、による駆動源としてのエアシリンダである。移動機構52のシリンダ52bには、エア配管27によりエアが供給される。エア配管27の電磁弁52eをON/OFF制御することにより、持ち上げ部51aが昇降する。電磁弁52eは、制御部53によりON/OFF制御される。
この移動機構52により上側のフェルトロール21を上方に退避させることで、フェルトロール21とフェルトロール22とを互いに離間させることができる。
なお、本実施の形態では、下側のフェルトロール22は、フェルトロール21とは異なり、上下動しない構成を採用する。
【0031】
ルブリケーター2は、板材リフト51及び移動機構52の電磁弁51c,52eにより、合金板材11がフェルトロール21,22の外周面21a,22aに接する状態と、合金板材11がフェルトロール21,22の外周面21a,22aから離れる状態と、に切り替え可能である。本実施の形態における板材リフト51、移動機構52、電磁弁51c,52e及び制御部53は、切り替え手段の一例である。
【0032】
上述のルブリケーター2は、合金板材供給装置の一例であり、金属製飲料缶製造ライン10は、缶成形装置の一例である。ルブリケーター2により合金板材11に塗布されるルブリカントは、潤滑油の一例である。フェルトロール21,22のいずれか一方が第1ロールの一例であり、他方が第2ロールの一例であり、当該一方の外周面が第1外周部の一例であり、当該他方の外周面が第2外周部の一例である。
【0033】
<ルブリカントの分布>
図4は、フェルトロール21,22内のルブリカントの分布を示す図であり、(a)は運転中、(b)はアイドリング中ないし空転中を示し、(c)は比較例として長時間の停止中を示す。なお、図4では、説明の便宜のために1組のフェルトロール21,22を示す。
フェルトロール21は、ルブリカントを含む外周面21aを有し、フェルトロール22は、ルブリカントを含む外周面22aを有する。図4(a)に示す運転中は、送りロール3(図1参照)により合金板材11が搬送され、合金板材11を挟むフェルトロール21,22が従動回転する。これにより、フェルトロール21,22は、回転に伴い、外周面21a,22aの全周にわたって内部のルブリカントに触れるので、フェルトロール21,22の外周面21a,22aの周方向にわたるルブリカントの分布が均一になる。
なお、上述したように、運転中は、タンク23(図1参照)からフェルトロール21,22にルブリカントが供給される。
【0034】
また、図4(b)に示すアイドリング中は、合金板材11は移動していない状態である一方でフェルトロール21,22は回転可能な状態である。アイドリング中は、同図(a)の運転中とは異なり、フェルトロール21,22が互いに離間し、かつ、合金板材11もフェルトロール21,22と離間している。
なお、アイドリング中は、ルブリカントの供給が停止されている。
【0035】
さらに説明すると、アイドリング中のフェルトロール21,22は、ずっと停止しているのではなく、空転する。かかるフェルトロール21,22の空転は、フェルトロール21,22の外周面21a,22aの周方向にわたるルブリカントの分布を均一にするための動作である。このため、フェルトロール21,22を常に回転させる場合の他、回転と停止を繰り返す場合でも良い。後者の場合を言い換えると、フェルトロール21,22に対し、駆動力を付与する期間と駆動力を付与しない期間とが交互になるように回転駆動力を付与する。駆動力を付与しない期間を挟むことで、ルブリカントの分布均一を維持しつつ動力の抑制を図ることが可能になり、省エネルギーに寄与することができる。
【0036】
フェルトロール21,22の空転は、いずれか一方を回転させ他方を回転させない制御を交互に行う場合も考えられ、また、一方を回転させる状態と、他方を回転させる状態と、両方とも回転させない状態を繰り返す場合も考えられる。さらには、フェルトロール21,22を空転させる場合、正転する状態と逆転する状態とを繰り返す制御例も考えられる。
【0037】
ここで、比較例として示す図4(c)は、上側のフェルトロール21が移動機構52により持ち上げられ、下側のフェルトロール22から離れている。また、合金板材11は、上側のフェルトロール21の外周面21aから離れているが、下側のフェルトロール22の外周面22aと接している。
【0038】
比較例として示す状態は、長時間の停止中であり、合金板材11の搬送が停止されると共にフェルトロール21,22の回転も停止されている。このため、フェルトロール21,22内のルブリカントが下側に溜まり、外周面21a,22aの各下側部分ではルブリカントの量が多くなる一方で、上側部分ではルブリカントの量が減っていく。
【0039】
このように、比較例の場合には、フェルトロール21,22の外周面21a,22aの周方向におけるルブリカントの均一な分布が維持されず、不均一になってしまう。したがって、再稼働時には、合金板材11にルブリカントが均一に塗布することができず、カッピングプレス4で打ち抜かれて絞り加工が行われる際に成形の不具合が発生する可能性が高いことから、成形されたカップ状素材が廃棄される。
【0040】
また、フェルトロール21の外周面21aからルブリカントがしたたって合金板材11に落ちる。同図(c)では、フェルトロール21の下側部分から合金板材11にしたたり落ちたルブリカントdが示されている。このような合金板材11の部分で成形されたカップ状素材も製品品質の観点から好ましくなく、廃棄される。
【0041】
比較例の場合には、再稼働時のカップ状素材の廃棄により、歩留まりの悪化を招いており、さらには、再稼働時の操作人員が必要となることから、自動による再稼働を行うことが困難である。
【0042】
図4(b)に示すように、停止時には、合金板材11を外周面21a,22aから離した状態でフェルトロール21,22を空転させることで、フェルトロール21,22の外周面21a,22aの周方向におけるルブリカントの均一な分布を維持でき、塗布ムラの発生を抑制できる。また、合金板材11にフェルトロール21からルブリカントがしたたり落ちることを防止できる。
【0043】
ここで、図4(b)および図4(c)において、ルブリケーター2が停止するまではフェルトロール21,22は正常に稼働していたため、フェルトロール21,22を通過した合金板材11にはルブリカントが正常に塗布されている(図4(a)においてフェルトロール21,22の出側の合金板材11を参照)が、図4(b)および図4(c)では理解を促進するため、塗布されたルブリカントを図示していない。
なお、合金板材11へのルブリカント塗布を下側のフェルトロール22のみで行う場合であっても、再稼働時に合金板材11へのルブリカントの塗布ムラという不具合が発生する。上側のフェルトロール21のみで行う場合も同様である。
【0044】
<空転機構>
図5は、空転機構を説明する図であり、(a)はフェルトロール21,22の一端部を示す平面図、(b)はその側面図、(c)は(b)の線C-Cによる断面図である。なお、図5に示す構成は、フェルトロール21,22のいずれにも共通することから、1つの図で説明する。
図5の(a)に示すように、本実施の形態に係る空転機構では、フェルトロール21,22の端部を回転支持する支持部材26に、上述の供給管24,25のほかに、エアを供給するためのエア配管27が設けられている。エア配管27により供給されるエアは、電磁弁により噴射制御される。電磁弁のON/OFF制御により、エアがフェルトロール21,22の端面に向けて噴き出される。
【0045】
さらに説明すると、図5の(b)に示すように、エア配管27のエアは、フェルトロール21,22の回転軸J以外の方向に向けて噴き出される。そして、フェルトロール21,22の端面には、回転軸Jを中心とする周方向に所定間隔でエア受け部28が複数形成されている。エア受け部28は、端面においてフェルトロール21,22の回転軸Jから離れた位置に設けられている。本実施の形態では、エア受け部28を30度間隔で12個設けている。
【0046】
フェルトロール21,22のエア受け部28は、図5の(c)に示すように、フェルトロール21,22の端面に形成された凹部と、凹部に形成された受け面28aと、を備える。受け面28aは、エアが当たるとフェルトロール21,22を回転させる力が作用するように傾斜している。これにより、フェルトロール21,22の端面が羽車のように作用し、エアが噴き出されると、フェルトロール21,22が空転する。
【0047】
フェルトロール21,22は、回転自在に保持されていることから、エアの噴き出しを止めた後に直ちに停止するものではなく、しばらくは回転する。このため、噴き出しを断続的に行うことで、フェルトロール21,22を定期的に空転させることができる。
【0048】
より詳細には、エア噴き出しによりフェルトロール21,22に駆動力が付与され、エア噴き出しの停止により、フェルトロール21,22に駆動力が付与されない。駆動力が付与される期間には、フェルトロール21,22が回転し続けるものの、駆動力が付与されない期間にフェルトロール21,22は回転しないというわけではなく、フェルトロール21,22が慣性により回転し続けるが摩擦等により減速し、やがて停止する。
このため、運転中以外の場合に、駆動力が付与される期間と駆動力が付与されない期間とが交互になるように電磁弁を制御することでフェルトロール21,22が定期的に回転し、これにより、フェルトロール21,22の周方向におけるルブリカントの分布を均一に保つことが可能になる。
フェルトロール21,22のエア受け部28、エア及び制御部53は、駆動力付与手段の一例である。
【0049】
本実施の形態では、フェルトロール21,22に駆動力を付与する手段として、エアを用いているが、これは、上述したように、板材リフト51や移動機構52はエアを駆動源としていることから、従来の装置を改造する場合に配管し易い構造である。
なお、フェルトロール21,22に駆動力を付与する手段として、電動モータを用いても良いが、エアの場合よりも制御が面倒になったり保全の手間がかかったりするという欠点がある。本実施の形態では、エアを用いることで電動モータを用いる場合に比べ、制御の複雑化を防止でき、保全の作業性低下を抑制することができる。
【符号の説明】
【0050】
2…ルブリケーター、10…金属製飲料缶製造ライン、11…合金板材、21,22…フェルトロール、21a,22a…外周面、28…エア受け部、51…板材リフト、51c,52e…電磁弁、52…移動機構、53…制御部
【要約】
【課題】再稼働後の合金板材への潤滑油の塗布ムラを抑制可能な合金板材供給装置および缶成形装置を提供する。
【解決手段】ルブリケーター2は、合金板材11を金属製飲料缶に成形する金属製飲料缶製造ラインに、巻き解かれたコイル材を合金板材11として供給する。ルブリケーター2は、潤滑油を第1外周部に含むフェルトロール21と、第2外周部を有するフェルトロール22と、合金板材11がフェルトロール21の第1外周部及びフェルトロール22の第2外周部に接し第1外周部及び/又は第2外周部により合金板材11に潤滑油を塗布する第1状態と、第1状態で潤滑油を塗布するフェルトロール21及び/又はフェルトロール22が合金板材11から離れて空転可能な第2状態と、に切り替える板材リフト等と、板材リフト等により第2状態のときに空転可能なフェルトロール21及び/又はフェルトロール22に駆動力を付与するエア受け部等と、を備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5