(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】被験試料の評価方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6809 20180101AFI20220221BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220221BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220221BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220221BHJP
A61P 17/10 20060101ALI20220221BHJP
A61K 8/26 20060101ALI20220221BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220221BHJP
A61K 33/06 20060101ALI20220221BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220221BHJP
【FI】
C12Q1/6809 Z ZNA
C12Q1/02
A61P43/00 111
A61P17/00
A61P17/10
A61K8/26
A61Q19/00
A61K33/06
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2020506648
(86)(22)【出願日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2019010547
(87)【国際公開番号】W WO2019177099
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2018048603
(32)【優先日】2018-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390011442
【氏名又は名称】株式会社マンダム
(73)【特許権者】
【識別番号】505314022
【氏名又は名称】国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100141472
【氏名又は名称】赤松 善弘
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 香織
(72)【発明者】
【氏名】藤田 郁尚
(72)【発明者】
【氏名】岡田 文裕
(72)【発明者】
【氏名】石井 健
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-211985(JP,A)
【文献】国際公開第2006/070860(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/042779(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/080983(WO,A1)
【文献】SCIENCE,2004年,Vol.306,p.1374-1377,abstract
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/6809
C12Q 1/02
A61P 43/00
A61P 17/00
A61P 17/10
A61K 8/26
A61Q 19/00
A61K 33/06
A61P 29/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験試料が有す
るサイトカイン産生抑制作用を評価する被験試料の評価方法であって、TRPM4発現細胞と被験試料とを接触させ、被験試料によってTRPM4を介して引き起こされる生理学的事象を測定し、当該生理学的事象に基づき、前記被験試料が有するサイトカイン産生抑制作用を評価する
際に、前記TRPM4発現細胞としてサイトカイン発現能を有する角化細胞を用い、前記生理学的事象としてサイトカイン産生を用い、
(A1)サイトカイン発現能を有する角化細胞と被験試料とサイトカイン産生促進物質とを接触させ、前記サイトカイン発現能を有する角化細胞におけるサイトカインおよび/またはその遺伝子の発現量を測定するステップ、
(A2)サイトカイン発現能を有する角化細胞とサイトカイン産生促進物質とを接触させ、前記サイトカイン発現能を有する角化細胞におけるサイトカインおよび/またはその遺伝子の発現量を測定するステップ、
(A3)前記サイトカイン発現能を有する角化細胞におけるTRPM4の機能が欠損したTRPM4欠損細胞と被験試料とサイトカイン産生促進物質とを接触させ、前記TRPM4欠損細胞におけるサイトカインおよび/またはその遺伝子の発現量を測定するステップ、
(A4)前記サイトカイン発現能を有する角化細胞におけるTRPM4の機能が欠損したTRPM4欠損細胞とサイトカイン産生促進物質とを接触させ、前記TRPM4欠損細胞におけるサイトカインおよび/またはその遺伝子の発現量を測定するステップ、および
(A5)ステップ(A1)~(A4)で測定された発現量に基づき、前記被験試料が有するサイトカイン産生抑制作用を評価するステップ
を行なうことを特徴とする被験試料の評価方法
。
【請求項2】
被験試料が有するサイトカイン産生抑制作用を評価する被験試料の評価方法であって、TRPM4発現細胞と被験試料とを接触させ、TRPM4活性を測定し、当該
TRPM4活性に基づき、前記被験試料が有するサイトカイン産生抑制作用を評価する際
に、前記TRPM4発現細胞としてサイトカイン発現能を有する角化細胞を用い、
(B1)前記
サイトカイン発現
能を有する角化細胞と被験試料とを接触させ、被験試料の接触前後の
サイトカイン発現
能を有する角化細胞におけるTRPM4活性の変化を測定するステップ、および
(B2)ステップ(B1)で測定されたTRPM4活性の変化に基づき、前記被験試料が有するサイトカイン産生抑制作用を評価するステップ
を
行なうことを特徴とする被験試料の評価方法。
【請求項3】
前記サイトカインがインターロイキン-1α、インターロイキン-1β、インターロイキン-2、インターロイキン-6、インターロイキン-8または腫瘍壊死因子である請求項1または2に記載の被験試料の評価方法。
【請求項4】
前記サイトカイン産生がTRPM4の活性化によるサイトカイン産生である請求項1~3のいずれかに記載の被験試料の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験試料の評価方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、被験物質がサイトカイン産生抑制作用を有するかどうかを評価するための被験試料の評価方法およびサイトカイン産生抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚に生じた炎症は、ニキビ痕、シミ、シワなどが生じる原因となる。そこで、皮膚に生じた炎症を抑制する抗炎症剤を含む化粧料などが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、前記抗炎症剤は、皮膚に既に発生している炎症を鎮静化するものであることから、炎症の原因因子の一つであるサイトカインの産生を抑制することにより、炎症の発症を抑制することができる炎症予防用化粧料、炎症予防剤などの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、被験試料が皮膚細胞におけるサイトカイン産生を抑制する作用を有するかどうかを容易に評価することができる被験試料の評価方法および皮膚細胞におけるサイトカイン産生を効果的に抑制することができるサイトカイン産生抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
(1)被験試料が有するサイトカイン産生抑制作用を評価する被験試料の評価方法であって、TRPM4発現細胞と被験試料とを接触させ、被験試料によってTRPM4を介して引き起こされる生理学的事象を測定し、当該生理学的事象に基づき、前記被験試料が有するサイトカイン産生抑制作用を評価する際に、前記TRPM4発現細胞としてサイトカイン発現能を有する角化細胞を用い、前記生理学的事象としてサイトカイン産生を用い、
(A1)サイトカイン発現能を有する角化細胞と被験試料とサイトカイン産生促進物質とを接触させ、前記サイトカイン発現能を有する角化細胞におけるサイトカインおよび/またはその遺伝子の発現量を測定するステップ、
(A2)サイトカイン発現能を有する角化細胞とサイトカイン産生促進物質とを接触させ、前記サイトカイン発現能を有する角化細胞におけるサイトカインおよび/またはその遺伝子の発現量を測定するステップ、
(A3)前記サイトカイン発現能を有する角化細胞におけるTRPM4の機能が欠損したTRPM4欠損細胞と被験試料とサイトカイン産生促進物質とを接触させ、前記TRPM4欠損細胞におけるサイトカインおよび/またはその遺伝子の発現量を測定するステップ、
(A4)前記サイトカイン発現能を有する角化細胞におけるTRPM4の機能が欠損したTRPM4欠損細胞とサイトカイン産生促進物質とを接触させ、前記TRPM4欠損細胞におけるサイトカインおよび/またはその遺伝子の発現量を測定するステップ、および
(A5)ステップ(A1)~(A4)で測定された発現量に基づき、前記被験試料が有するサイトカイン産生抑制作用を評価するステップ
を行なうことを特徴とする被験試料の評価方法、
(2)被験試料が有するサイトカイン産生抑制作用を評価する被験試料の評価方法であって、TRPM4発現細胞と被験試料とを接触させ、TRPM4活性を測定し、当該TRPM4活性に基づき、前記被験試料が有するサイトカイン産生抑制作用を評価する際に、前記TRPM4発現細胞としてサイトカイン発現能を有する角化細胞を用い、
(B1)前記サイトカイン発現能を有する角化細胞と被験試料とを接触させ、被験試料の接触前後のサイトカイン発現能を有する角化細胞におけるTRPM4活性の変化を測定するステップ、および
(B2)ステップ(B1)で測定されたTRPM4活性の変化に基づき、前記被験試料が有するサイトカイン産生抑制作用を評価するステップ
を行なうことを特徴とする被験試料の評価方法、
(3)前記サイトカインがインターロイキン-1α、インターロイキン-1β、インターロイキン-2、インターロイキン-6、インターロイキン-8または腫瘍壊死因子である前記(1)または(2)に記載の被験試料の評価方法、および
(4)前記サイトカイン産生がTRPM4の活性化によるサイトカイン産生である前記(1)~(3)のいずれかに記載の被験試料の評価方法
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、被験試料が皮膚細胞におけるサイトカイン産生を抑制する作用を有するかどうかを容易に評価することができる被験試料の評価方法および皮膚細胞におけるサイトカイン産生を効果的に抑制することができるサイトカイン産生抑制剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】参考例1において、ウェスタンブロット解析の結果を示す図面代用写真である。
【
図2】試験例1において、実施例1~2および比較例1~2で得られた各細胞におけるIL-1α遺伝子の発現量を調べた結果を示すグラフである。
【
図3】試験例1において、実施例1~2および比較例1~2で得られた各細胞におけるIL-8遺伝子の発現量を調べた結果を示すグラフである。
【
図4】試験例1において、実施例1~2および比較例1~2で得られた各細胞におけるTNF遺伝子の発現量を調べた結果を示すグラフである。
【
図5】試験例2において、比較例3~6で得られた各細胞におけるIL-8遺伝子の発現量を調べた結果を示すグラフである。
【
図6】参考例2において、TRPM4アゴニストの有無と相対蛍光強度との関係を調べた結果を示すグラフである。
【
図7】実施例3において、被験試料の種類と相対蛍光強度との関係を調べた結果を示すグラフである。
【
図8】試験例3において、実施例4および比較例7で得られた各表皮角化細胞におけるIL-1α発現量を調べた結果を示すグラフである。
【
図9】試験例3において、実施例4および比較例7で得られた各表皮角化細胞におけるIL-6発現量を調べた結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.被験試料の評価方法
本発明の被験試料の評価方法は、被験試料が有する皮膚細胞におけるサイトカイン産生抑制作用を評価する被験試料の評価方法であって、TRPM4発現細胞と被験試料とを接触させ、被験試料によってTRPM4発現細胞におけるTRPM4を介して引き起こされる生理学的事象を測定し、当該生理学的事象に基づき、被験試料が有するサイトカイン産生抑制作用を評価することを特徴とする。
【0009】
本発明の被験試料の評価方法によれば、被験試料によってTRPM4発現細胞におけるTRPM4を介して引き起こされる生理学的事象を測定し、当該生理学的事象に基づき、被験試料が有するサイトカイン産生抑制作用を評価するという操作が採られているので、被験試料が皮膚細胞におけるTRPM4の活性化によるサイトカイン産生を抑制するかどうかを的確に評価することができる。したがって、本発明の被験試料の評価方法によれば、被験試料が皮膚細胞におけるサイトカイン産生を抑制する作用を有するかどうかを容易に評価することができる。また、本発明の被験試料の評価方法によれば、TRPM4発現細胞が用いられているので、被験試料が有するサイトカイン産生抑制作用の評価を再現性よく、しかも同一条件下に同時に何回も行なうことができる。
【0010】
被験試料は、サイトカイン産生抑制作用を有するかどうかの評価対象の試料である。被験試料としては、例えば、無機化合物、有機化合物、植物抽出物、細胞培養物、細胞抽出物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。被験試料は、液体である場合、そのまま用いてもよく、必要に応じて溶媒で希釈して用いてもよい。また、被験試料は、固体である場合、溶媒に溶解させて用いることができる。
【0011】
溶媒は、被験試料の種類、測定対象の生理学的事象の種類などによって異なるので一概には決定することができないことから、被験試料の種類、測定対象の生理学的事象の種類などに応じて決定することが好ましい。溶媒としては、例えば、エタノール、生理的食塩水、リン酸緩衝生理的食塩水、精製水、培地、カルシウム含有溶液〔組成:140mM塩化ナトリウム、5mM塩化カリウム、2mM塩化マグネシウム、2mM塩化カルシウム、10mMグルコースおよび10mM2-[4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル]エタンスルホン酸(HEPES)塩酸緩衝液(pH7.4)〕、カルシウム不含溶液〔組成:140mM塩化ナトリウム、5mM塩化カリウム、2mM塩化マグネシウム、5mMグリコールエーテルジアミン四酢酸、10mMグルコースおよび10mMのHEPES緩衝液(pH7.4)〕などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。培地は、TRPM4発現細胞が生育するのに適した培地成分を含有する。培地成分としては、例えば、グルコース、アミノ酸、ペプトン、ビタミン、細胞増殖促進因子、血清、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。培地は、基本培地に培地成分を補うことによって製造された培地であってもよく、商業的に入手可能な培地であってもよい。基本培地としては、特に限定されないが、イーグル最小培地(以下、「MEM」という)、ダルベッコ改変イーグル培地(以下、「DMEM」という)、RPMI-1640培地などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。培地は、TRPM4発現細胞の種類などによって異なるので一概には決定することができないことから、TRPM4発現細胞の種類などに応じて決定することが好ましい。
【0012】
TRPM4発現細胞は、野生型TRPM4を発現する細胞と同等の生理学的機能を発現する細胞である。野生型TRPM4を発現する細胞と同等の生理学的機能としては、例えば、TRPM4アゴニストによる化学刺激などの刺激による細胞外から細胞内へのカリウムイオンおよびナトリウムイオンの透過などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。TRPM4発現細胞は、内因性TRPM4を発現する内因性TRPM4発現細胞であってもよく、外因性TRPM4発現細胞であってもよい。
【0013】
内因性TRPM4発現細胞としては、例えば、正常ヒト表皮角化細胞、HaCaT細胞、NCTC2544などの角化細胞;ヒト心筋細胞、ヒトT細胞、Jurkat細胞、MOLT-4細胞、U-937細胞などのT細胞;ヒト肥満細胞、HMC-1などの肥満細胞;ヒト単球細胞、THP-1などの単球細胞などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0014】
外因性TRPM4発現細胞は、外因性TRPM4を過剰発現している細胞であればよい。外因性TRPM4細胞は、宿主細胞に導入された核酸が染色体外要素として存在し、一過的にTRPM4を発現する細胞であってもよく、宿主細胞に導入された核酸が当該宿主細胞の染色体に組み込まれた細胞であってもよい。なお、外因性TRPM4発現細胞は、本発明の目的を妨げない範囲で、内因性TRPM4を発現していてもよい。外因性TRPM4発現細胞は、例えば、TRPM4をコードする核酸を保持するTRPM4発現ベクターを宿主細胞に導入することなどによって得ることができる。
【0015】
TRPM4をコードする核酸としては、例えば、GenBankアクセッション番号:NM_017636に示されるmRNA、当該mRNAから得られるcDNAなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。TRPM4をコードする核酸の具体例としては、例えば、配列番号:1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸、配列番号:1に示される配列に対する配列同一性が80%以上であるアミノ酸配列からなり、TRPM4活性を示す変異型ポリペプチドをコードする核酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。なお、「配列同一性」は、BLASTアルゴリズムに基づくPROTEIN BLASTをデフォルト値で用い、配列番号:1に示されるアミノ酸配列(参照配列)に対して、評価対象のアミノ酸配列(クエリー配列)をアライメントして算出された値をいう。配列同一性は、TRPM4活性を発現させる観点から、85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上であり、その上限値は100%である。
【0016】
TRPM4活性としては、例えば、細胞におけるカリウムイオン流束およびナトリウムイオン流束の調節活性、細胞における膜電位の調節活性などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのTRPM4活性は、例えば、TRPM4アゴニストによってTRPM4が活性化されることによって発現する。
【0017】
宿主細胞は、内因性TRPM4を発現する細胞であってもよく、内因性TRPM4を発現しない細胞であってもよい。宿主細胞としては、例えば、ヒト細胞、サル細胞、マウス細胞、チャイニーズハムスター細胞などの哺乳動物細胞などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。ヒト細胞としては、例えば、HEK293細胞などのヒト腎臓細胞;Hela細胞などのヒトがん細胞などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。サル細胞としては、例えば、COS-7細胞などのサル腎臓細胞などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。マウス細胞としては、例えば、NIH3T3細胞などのマウス胎児皮膚線維芽細胞などのマウス細胞などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。チャイニーズハムスター細胞としては、例えば、CHO細胞などのチャイニーズハムスター卵巣細胞などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの宿主細胞のなかでは、優れた取り扱い性を確保し、ディッシュ、プレートなどの培養容器、観察用カバーグラスなどへの接着性を確保し、外因性TRPM4遺伝子の発現効率を向上させる観点から、HEK293細胞、CHO細胞、COS-7細胞およびNIN3T3細胞が好ましく、HEK293細胞がより好ましい。TRPM4発現ベクターは、TRPM4をコードする核酸をベクターと連結させることなどにより得られる。ベクターは、宿主細胞の種類などによって異なるので一概には決定することができないことから、宿主細胞の種類などに応じて決定することが好ましい。得られた細胞が外因性TRPM4発現細胞であることの確認方法としては、例えば、細胞をTRPM4アゴニストと接触させ、細胞内カルシウムイオン濃度を指標として細胞外から細胞内に取り込まれたナトリウムイオンの流入によるカルシウムイオン濃度の減少量を測定する方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。TRPM4アゴニストの接触後の細胞の細胞内カルシウムイオン濃度がTRPM4アゴニストと接触させていない細胞の細胞内カルシウムイオン濃度よりも小さい場合、得られた細胞が外因性TRPM4発現細胞であると判断することができる。既知のTRPM4アゴニストとしては、例えば、N-[4-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)-1H-ピラゾール-1-イル]フェニル]-4-メチル-1,2,3-チアジアゾール-5-カルボキサミド)(以下、「BTP2」という)、1-(6-[(17β-3-メトキシエストラ-1,3,5(10)-トリエン-17-イル)アミノ]ヘキシル)-1H-ピロール-2,5-ジオン(以下、「U-73122」という)、デカバナジウム酸塩などが挙げられるが、本発明は、特に限定されるものではない。
【0018】
TRPM4発現細胞は、被験試料がサイトカイン産生抑制作用を有するかどうかを高い精度で評価する観点から、好ましくはサイトカイン発現能を有するTRPM4発現細胞である。サイトカイン発現能を有するTRPM4発現細胞としては、例えば、HaCaT細胞などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0019】
TRPM4を介して引き起こされる生理学的事象としては、例えば、TRPM4の活性化に起因するサイトカイン遺伝子の発現量の減少、TRPM4の活性化に起因するサイトカインの発現量の減少、TRPM4自体の活性の発現などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0020】
TRPM4を介して引き起こされる生理学的事象として、TRPM4の活性化に起因するサイトカイン遺伝子の発現量の減少を用いる場合、本発明の被験試料の評価方法の具体例としては、以下の評価法1などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0021】
<評価法1>
生理学的事象がサイトカイン産生であり、TRPM4発現細胞としてサイトカイン発現能を有するTRPM4発現細胞を用い、前記生理学的事象を測定し、当該生理学的事象に基づき、前記被験試料が有するサイトカイン産生抑制作用を評価する際の操作が、
(A1)サイトカイン発現能を有するTRPM4発現細胞と被験試料とサイトカイン産生促進物質とを接触させ、当該TRPM4発現細胞におけるサイトカインおよび/またはその遺伝子の発現量を測定するステップ、
(A2)サイトカイン発現能を有するTRPM4発現細胞とサイトカイン産生促進物質とを接触させ、当該TRPM4発現細胞におけるサイトカインおよび/またはその遺伝子の発現量を測定するステップ、
(A3)前記TRPM4発現細胞におけるTRPM4の機能が欠損したTRPM4欠損細胞と被験試料とサイトカイン産生促進物質とを接触させ、当該TRPM4欠損細胞におけるサイトカインおよび/またはその遺伝子の発現量を測定するステップ、
(A4)前記TRPM4発現細胞におけるTRPM4の機能が欠損したTRPM4欠損細胞とサイトカイン産生促進物質とを接触させ、当該TRPM4欠損細胞におけるサイトカインおよび/またはその遺伝子の発現量を測定するステップ、および
(A5)ステップ(A1)~(A4)で測定された発現量に基づき、被験試料が有するサイトカイン産生抑制作用を評価するステップ
を含む方法。
【0022】
評価法1では、ステップ(A3)および(A4)にTRPM4欠損細胞が用いられているので、被験試料によってTRPM4発現細胞に引き起こされる生理学的事象が、TRPM4を介して引き起こされる生理学的事象であるかどうかを確認することができる。このことから、評価法1に用いられるTRPM4発現細胞は、TRPM4を発現する点を除き、TRPM4欠損細胞を用いたときと同じ条件下に当該確認を行なう観点から、内因性TRPM4発現細胞が好ましい。また、TRPM4発現細胞は、被験試料がサイトカイン産生抑制作用を有するかどうかを高い精度で評価する観点から、好ましくはサイトカイン発現能を有するTRPM4細胞である。サイトカイン発現能を有する内因性TRPM4発現細胞としては、例えば、HaCaT細胞などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0023】
ステップ(A1)では、サイトカイン発現能を有するTRPM4発現細胞と被験試料とサイトカイン産生促進物質とを接触させ、当該TRPM4発現細胞におけるサイトカインおよび/またはその遺伝子の発現量を測定する。
【0024】
サイトカインとしては、例えば、インターロイキン-1α(以下、「IL-1α」という)、インターロイキン-1β(以下、「IL-1βという」、インターロイキン-2(以下、「IL-2」という)、インターロイキン-6(以下、「IL-6」という)、インターロイキン-8(以下、「IL-8」という)、腫瘍壊死因子(以下、「TNF」という)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのサイトカインのなかでは、皮膚における炎症の発症を抑制する作用を的確に評価する観点から、IL-1αおよびIL-8が好ましい。サイトカイン遺伝子としては、例えば、IL-1α遺伝子、IL-1β遺伝子、IL-2遺伝子、IL-6遺伝子、IL-8遺伝子、TNF遺伝子などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのサイトカイン遺伝子のなかでは、皮膚における炎症の発症を抑制する作用を的確に評価する観点から、IL-1α遺伝子およびIL-8遺伝子が好ましい。
【0025】
サイトカイン産生促進物質としては、例えば、腫瘍壊死因子α(以下、「TNFα」という)、リポポリサッカライド、ホルボール12-ミリスタート13-アセタート(以下、「PMA」という)、インターフェロンγ(以下、「IFNγ」という)、IL-17、IL-22、IL-33、ヒスタミンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0026】
TRPM4発現細胞と被験試料とサイトカイン産生促進物質とを接触させる順序としては、例えば、(a1)TRPM4発現細胞と被験試料とを接触させた後、当該TRPM4発現細胞とサイトカイン産生促進物質と接触させる順序、(a2)TRPM4発現細胞に被験試料およびサイトカイン産生促進物質を同時に接触させる順序、(a3)TRPM4発現細胞とサイトカイン産生促進物質とを接触させた後、当該TRPM4発現細胞と被験試料とを接触させる順序などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0027】
ステップ(A1)において、(a1)の順序を採用する場合、TRPM4発現細胞と被験試料との接触方法としては、例えば、被験試料中において、TRPM4発現細胞をインキュベーションする方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、TRPM4発現細胞とサイトカイン産生促進物質との接触方法としては、インキュベーション後の被験試料とTRPM4発現細胞との混合物にサイトカイン産生促進物質を添加し、得られた混合物をインキュベーションする方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。TRPM4発現細胞と被験試料との接触の際およびTRPM4発現細胞とサイトカイン産生促進物質との接触の際には、測定対象の生理学的事象の測定に用いられる試薬を用いてもよい。
【0028】
TRPM4発現細胞と被験試料との接触温度およびTRPM4発現細胞とサイトカイン産生促進物質との接触温度は、TRPM4発現細胞の種類などによって異なるので一概には決定することができないことから、TRPM4発現細胞の種類などに応じて決定することが好ましい。TRPM4発現細胞と被験試料との接触温度およびTRPM4発現細胞とサイトカイン産生促進物質との接触温度は、TRPM4発現細胞におけるTRPM4活性の発現に適した温度条件を確保する観点から、通常、好ましくは35~40℃である。また、TRPM4発現細胞と被験試料との接触時間は、TRPM4発現細胞の種類、被験試料の種類などによって異なるので一概には決定することができないことから、TRPM4発現細胞の種類、被験試料の種類などに応じて決定することが好ましい。TRPM4発現細胞と被験試料との接触時間は、TRPM4活性への被験試料の影響を的確に評価する観点から、通常、好ましくは1分間~24時間である。TRPM4発現細胞とサイトカイン産生促進物質との接触時間は、TRPM4発現細胞の種類、サイトカイン産生促進物質の種類、発現量の測定対象物質の種類などによって異なるので一概には決定することができないことから、TRPM4発現細胞の種類、サイトカイン産生促進物質の種類、発現量の測定対象物質の種類などに応じて決定することが好ましい。TRPM4発現細胞とサイトカイン産生促進物質との接触時間は、TRPM4活性への被験試料の影響を的確に評価する観点から、サイトカインの発現量を評価する場合、通常、好ましくは6~72時間であり、サイトカイン遺伝子の発現量を評価する場合、通常、好ましくは1~12時間である。
【0029】
TRPM4発現細胞と被験試料との接触に際して、被験試料1mLあたりのTRPM4発現細胞の個数は、TRPM4発現細胞の種類、被験試料の種類などによって異なるので一概には決定することができないことから、TRPM4発現細胞の種類、被験試料の種類などに応じて決定することが好ましい。被験試料1mLあたりのTRPM4発現細胞の個数は、TRPM4を介して引き起こされる生理学的事象の測定精度を向上させる観点から、通常、好ましくは1×103個以上、より好ましくは1×104個以上であり、TRPM4細胞におけるTRPM4を介して引き起こされる生理学的事象を的確に生じさせる観点から、好ましくは1×109個以下、より好ましくは1×108個以下である。
【0030】
TRPM4発現細胞と被験試料との接触に際して、被験試料1mLあたりのサイトカイン産生促進物質の量は、サイトカイン産生促進物質の種類、TRPM4発現細胞の種類などによって異なるので一概には決定することができないことから、サイトカイン産生促進物質の種類、TRPM4発現細胞の種類などに応じて決定することが好ましい。被験試料1mLあたりのサイトカイン産生促進物質の量は、TRPM4活性への被験試料の影響を的確に評価する観点から、通常、好ましくは5~500ngである。
【0031】
ステップ(A1)において、(a2)または(a3)の順序を採用する場合、被験試料1mLあたりのTRPM4発現細胞の個数および被験試料1mLあたりのサイトカイン産生促進物質の量は、(a1)の順序を採用するときの被験試料1mLあたりのTRPM4発現細胞の個数および被験試料1mLあたりのサイトカイン産生促進物質の量と同様である。
【0032】
TRPM4発現細胞と被験試料とサイトカイン産生促進物質との接触温度は、TRPM4発現細胞の種類などによって異なるので一概には決定することができないことから、TRPM4発現細胞の種類などに応じて決定することが好ましい。TRPM4発現細胞と被験試料とサイトカイン産生促進物質との接触温度は、TRPM4発現細胞におけるTRPM4活性の発現に適した温度条件を確保する観点から、通常、好ましくは35~40℃である。
【0033】
TRPM4発現細胞と被験試料とサイトカイン産生促進物質との接触時間は、TRPM4発現細胞の種類、被験試料の種類、サイトカイン産生促進物質の種類、発現量の測定対象物質の種類などによって異なるので一概には決定することができないことから、TRPM4発現細胞の種類、被験試料の種類、サイトカイン産生促進物質の種類、発現量の測定対象物質の種類などに応じて決定することが好ましい。TRPM4発現細胞と被験試料とサイトカイン産生促進物質との接触時間は、TRPM4活性への被験試料の影響を的確に評価する観点から、通常、サイトカインの発現量を評価する場合、通常、好ましくは6~72時間であり、サイトカイン遺伝子の発現量を評価する場合、通常、好ましくは1~12時間である。
【0034】
サイトカインの発現量の測定方法としては、ウェスタンブロッティング法、酵素標識免疫測定法(ELISA)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。サイトカイン遺伝子の発現量の測定方法としては、例えば、ノーザンブロッティング法、定量的RT-PCR法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0035】
ウェスタンブロッティング法およびELISAに用いられる抗体としては、例えば、抗サイトカイン抗体またはその抗体断片などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。抗サイトカイン抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよい。サイトカインの発現量の定量性を向上させる観点から、モノクローナル抗体が好ましい。モノクローナル抗体は、例えば、サイトカインまたはその一部に対して反応性を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを培養し、培養上清を得、得られた培養上清について、必要に応じて硫安分画法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどによる精製を行なうことにより得られる。ハイブリドーマは、例えば、サイトカインまたはその一部を動物の静脈内、皮下または腹腔内に投与することにより当該動物を免疫し、抗体産生細胞を得、この抗体産生細胞とミエローマ細胞とを細胞融合させ、得られた融合細胞をHAT培地で培養することなどにより得られる。また、ポリクローナル抗体は、サイトカインまたはその一部を動物の静脈内、皮下または腹腔内に投与することにより当該動物を免疫し、抗血清を得、得られた抗血清について、必要に応じて硫安分画法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどによる精製を行なうことなどにより得られる。抗体断片は、例えば、抗サイトカイン抗体を消化酵素で分解し、必要に応じて得られた分解産物を精製することなどにより得られる。また、抗サイトカイン抗体およびその抗体断片として、商業的に入手可能な抗サイトカイン抗体およびその抗体断片を用いることができる。
【0036】
ノーザンブロッティング法に用いられるプローブとしては、例えば、サイトカイン遺伝子をコードする核酸の全部または一部からなる核酸、サイトカイン遺伝子をコードする核酸のアンチセンス鎖の全部または一部からなる核酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。サイトカイン遺伝子をコードする核酸の一部からなる核酸または当該核酸のアンチセンス鎖の一部からなる核酸である場合、プローブの長さは、サイトカイン遺伝子の種類などによって異なるので一概には決定することができないことから、サイトカイン遺伝子の種類などに応じて決定することが好ましい。プローブの長さは、サイトカイン遺伝子の発現量の測定精度を向上させる観点から、通常、好ましくは20~500ヌクレオチド長である。
【0037】
定量的RT-PCR法に用いられるプライマー対としては、例えば、サイトカイン遺伝子をコードする核酸の塩基配列の一部からなるプライマーと当該核酸のアンチセンス鎖の塩基配列の一部からなるプライマーとからなるプライマーなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。プライマー対を構成する各プライマーの長さ、GC含量およびTm値ならびにサイトカイン遺伝子をコードする核酸上におけるプライマー間の距離は、サイトカイン遺伝子の種類などによって異なるので一概には決定することができないことから、サイトカイン遺伝子の種類などに応じて決定することが好ましい。プライマーの長さは、サイトカイン遺伝子の発現量の測定精度を向上させる観点から、通常、好ましくは12~30ヌクレオチド長である。プライマーのGC含量は、サイトカイン遺伝子の発現量の測定精度を向上させる観点から、通常、好ましくは40~60%である。プライマーのTm値は、サイトカイン遺伝子の発現量の測定精度を向上させる観点から、好ましくは55~80℃である。サイトカイン遺伝子をコードする核酸上におけるプライマー間の距離は、通常、サイトカイン遺伝子の発現量を迅速に測定する観点から、好ましくは100~800ヌクレオチド長である。また、プライマー対を構成する各プライマーは、サイトカイン遺伝子の発現量の測定精度を向上させる観点から、チミン残基またはシトシン残基が連続する配列(ポリピリミジン配列)およびアデニン残基またはグアニン残基が連続する配列(ポリプリン配列)の双方を含まない配列を有することが好ましい。プライマー対を構成する各プライマーは、サイトカイン遺伝子の発現量の測定精度を向上させる観点から、サイトカイン遺伝子をコードする核酸またはそのアンチセンス鎖の塩基配列の一部からなり、他の遺伝子などの配列には含まれない配列からなることが好ましい。プライマーに用いられる配列は、例えば、Primer BLASTなどのプライマー設計プログラムを用いることによって求めることができる。プライマー対は、商業的に入手可能なプライマー対であってもよい。
【0038】
ステップ(A2)では、サイトカイン発現能を有するTRPM4発現細胞とサイトカイン産生促進物質とを接触させ、TRPM4発現細胞におけるサイトカインおよび/またはその遺伝子の発現量を測定する。
【0039】
ステップ(A2)に用いられるTRPM4発現細胞とサイトカイン産生促進物質との接触方法、TRPM4欠損細胞とサイトカイン産生促進物質との接触温度、TRPM4欠損細胞とサイトカイン産生促進物質との接触時間ならびにサイトカイン遺伝子およびサイトカインの各発現量の測定方法は、ステップ(A1)に用いられるTRPM4発現細胞とサイトカイン産生促進物質との接触方法、TRPM4発現細胞とサイトカイン産生促進物質との接触温度、TRPM4発現細胞とサイトカイン産生促進物質との接触時間ならびにサイトカインおよびその遺伝子の各発現量の測定方法と同様である。TRPM4発現細胞に接触させるサイトカイン産生促進物質の量は、ステップ(A1)におけるTRPM4発現細胞と被験物質とサイトカイン産生促進物質との接触の際に用いられるサイトカイン産生促進物質の量と同じである。
【0040】
ステップ(A3)では、TRPM4発現細胞におけるTRPM4の機能が欠損したTRPM4欠損細胞と被験試料とサイトカイン産生促進物質とを接触させ、当該TRPM4欠損細胞におけるサイトカインおよび/またはその遺伝子の発現量を測定する。
【0041】
TRPM4欠損細胞は、TRPM4の機能が欠損していることを除き、ステップ(A1)およびステップ(A2)で用いられたTRPM4発現細胞と同様である。TRPM4欠損細胞は、TRPM4発現細胞におけるTRPM4遺伝子を遺伝子ノックアウト法によって破壊すること、TRPM4発現細胞におけるTRPM4の機能を欠損させることなどによって製造することができる。遺伝子ノックアウト法としては、例えば、相同組換法によってTRPM4遺伝子を破壊する方法、ゲノム編集技術によってTRPM4遺伝子を破壊する方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、TRPM4の機能を欠損させる方法としては、siRNAまたはshRNAを用いるRNAサイレンシング法によってTRPM4遺伝子の発現を阻害する方法、TRPM4発現細胞中でドミナント・ネガティブ変異体を発現させることによって正常なTRPM4の機能を阻害する方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0042】
ステップ(A3)では、ステップ(A1)において、サイトカイン発現能を有するTRPM4発現細胞を用いる代わりにTRPM4欠損細胞を用いることを除き、ステップ(A1)と同様の条件で同様の操作を行なうことにより、サイトカインおよび/またはその遺伝子の発現量を測定する。
【0043】
ステップ(A4)では、TRPM4発現細胞におけるTRPM4の機能が欠損したTRPM4欠損細胞とサイトカイン産生促進物質とを接触させ、当該TRPM4欠損細胞におけるサイトカインおよび/またはその遺伝子の発現量を測定する。
【0044】
ステップ(A4)では、ステップ(A2)において、サイトカイン発現能を有するTRPM4発現細胞を用いる代わりにTRPM4欠損細胞を用いることを除き、ステップ(A2)と同様の条件で同様の操作を行なうことにより、サイトカインおよび/またはその遺伝子の発現量を測定する。
【0045】
なお、本発明の被験試料の評価方法においては、評価の精度を向上させる観点から、対照試料を用い、被験試料を用いたときの発現量を較正することが好ましい。対照試料としては、被験試料を含まない液体であればよく、例えば、被験試料の希釈に用いられる溶媒、被験試料の溶解に用いられる溶媒などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。対照試料を用いる場合、ステップ(A1)~(A4)において、被験試料を用いる代わりに対照試料を用いることを除き、ステップ(A1)~(A4)と同様の操作を行ない、サイトカインおよび/またはその遺伝子の発現量を測定する。
【0046】
ステップ(A4)では、ステップ(A1)~(A4)で測定された発現量に基づき、被験試料が有するサイトカイン産生抑制作用を評価する。
【0047】
ステップ(A1)で測定された発現量が、ステップ(A2)で測定された発現量と比べて少なく、ステップ(A3)で測定された発現量がステップ(A4)で測定された発現量と同等である場合、被験試料がTRPM4を活性化し、皮膚細胞におけるサイトカイン産生を抑制する作用を有する物質であると評価することができる。
【0048】
TRPM4を介して引き起こされる生理学的事象としてTRPM4自体の活性の発現を用いる場合、本発明の被験試料の評価方法の具体例としては、例えば、以下の評価法2などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0049】
<評価法2>
前記生理学的事象を測定し、当該生理学的事象に基づき、前記被験試料が有するサイトカイン産生抑制作用を評価する際の操作が、
(B1)前記TRPM4発現細胞と被験試料とを接触させ、被験試料の接触前後のTRPM4発現細胞におけるTRPM4活性の変化を測定するステップ、および
(B2)ステップ(B1)で測定されたTRPM4活性の変化に基づき、前記被験試料が有するサイトカイン産生抑制作用を評価するステップ
を含む方法。
【0050】
評価法2に用いられるTRPM4発現細胞は、好ましくは外因性TRPM4発現細胞であり、TRPM4活性の変化の観察が容易に行なう観点から、より好ましくは外因性TRPM4を過剰発現している細胞である。
【0051】
TRPM4活性の変化としては、例えば、被験試料の接触前後のTRPM4発現細胞におけるTRPM4による細胞内へのナトリウムイオンの取り込み量の変化、被験試料の接触前後のTRPM4発現細胞におけるTRPM4の活性化に起因する電流の増加などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0052】
TRPM4活性の変化として、被験試料の接触前後のTRPM4発現細胞におけるTRPM4による細胞内へのナトリウムイオンの取り込み量の変化を用いる場合、TRPM4による細胞内へのナトリウムイオンの取り込み量の測定方法としては、例えば、TRPM4発現細胞の細胞内カルシウムイオン濃度を細胞内へのナトリウムイオンの取り込み量の指標として用い、細胞内へのナトリウムイオンの取り込み量を測定する方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0053】
TRPM4による細胞内へのナトリウムイオンの取り込み量の測定に細胞内カルシウムイオン濃度を指標として用いる場合、細胞内カルシウムイオン濃度の測定は、例えば、カルシウムイオンと特異的に結合するカルシウム指示薬をTRPM4発現細胞に導入し、当該TRPM4発現細胞内のカルシウムイオンにカルシウム指示薬を結合させ、TRPM4発現細胞内のカルシウムイオンと結合したカルシウム指示薬の量を測定することなどによって行なうことができる。
【0054】
TRPM4が活性化したTRPM4発現細胞内では、TRPM4が活性化していないTRPM4発現細胞と比べて、TRPM4を介するTRPM4発現細胞外からTRPM4発現細胞内へのナトリウムイオンの流入量が増加し、TRPM4発現細胞の細胞内ナトリウムイオン濃度が増加する。TRPM4発現細胞の細胞内ナトリウムイオン濃度の増加に伴い、当該TRPM4発現細胞の細胞内カルシウムイオン濃度が減少する。また、後述の実施例に示されるようにTRPM4の活性化と皮膚細胞におけるサイトカイン産生の抑制とは、相関している。したがって、被験試料と接触させたTRPM4発現細胞の細胞内カルシウム濃度が被験試料と接触させていないTRPM4発現細胞の細胞内カルシウム濃度と比べて低い場合、被験試料がTRPM4を活性化し、皮膚細胞におけるサイトカイン産生を抑制する作用を有する物質であると評価することができる。これに対し、被験試料と接触させたTRPM4発現細胞の細胞内カルシウム濃度が被験試料と接触させていないTRPM4発現細胞の細胞内カルシウム濃度と比べて高い場合または両者が同等である場合、被験試料が皮膚細胞におけるサイトカイン産生を抑制する作用を有しない物質であると評価することができる。
【0055】
TRPM4による細胞内へのナトリウムイオンの取り込み量の測定に細胞内カルシウムイオン濃度を指標として用いる場合、TRPM4活性化作用は、例えば、
(I)カルシウム指示薬を用いてTRPM4発現細胞の細胞内カルシウムイオン濃度Aを測定するステップ、
(II)TRPM4発現細胞と被験試料とを接触させ、カルシウム指示薬を用いて当該TRPM4発現細胞の細胞内カルシウムイオン濃度Bを測定するステップ、および
(III)ステップ(I)で得られた細胞内カルシウムイオン濃度Aとステップ(II)で得られた細胞内カルシウムイオン濃度Bとを比較し、被験試料が有するTRPM4活性化作用を評価するステップ
を含む方法などによって評価することができる。
【0056】
ステップ(I)では、カルシウム指示薬を用いてTRPM4発現細胞の細胞内カルシウムイオン濃度Aを測定する。TRPM4発現細胞として、外因性TRPM4を発現するHEK293細胞などを用いることが好ましい。
【0057】
カルシウム指示薬は、カルシウムイオンと結合したカルシウム指示薬の量を簡便な操作で測定することができることから、カルシウムイオンとの結合前後の変化を光学的特性の変化などによって検出することができる試薬であることが好ましい。光学的特性の変化としては、例えば、蛍光強度の変化、吸光度の変化などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものでない。カルシウム指示薬としては、例えば、カルシウムイオンとの結合前後に蛍光強度が変化する蛍光カルシウム指示薬などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。カルシウム指示薬の具体例としては、1-[6-アミノ-2-(5-カルボキシ-2-オキサゾリル)-5-ベンゾフラニルオキシ]-2-(2-アミノ-5-メチルフェノキシ)エタン-N,N,N’,N’-四酢酸ペンタアセトキシメチルエステル(Fura 2-AM)、1-[2-アミノ-5-(2,7-ジクロロ-6-ヒドロキシ-3-オキソ-9-キサンテニル)フェノキシ]-2-(2-アミノ-5-メチルフェノキシ)エタン-N,N,N’,N’-四酢酸テトラアセトキシメチルエステル(Fluo 3-AM)、1-[2-アミノ-5-(2,7-ジフルオロ-6-アセトキシメトキシ-3-オキソ-9-キサンテニル)フェノキシ]-2-(2-アミノ-5-メチルフェノキシ)エタン-N,N,N’,N’-四酢酸テトラアセトキシメチルエステル(Fluo 4-AM)などの蛍光カルシウム指示薬などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。カルシウム指示薬のなかでは、測定が容易であり、しかもTRPM4発現細胞内に存在する夾雑物質の動態との区別化が容易である観点から、カルシウムイオンとの結合前後に蛍光強度が変化する蛍光カルシウム指示薬が好ましい。
【0058】
蛍光カルシウム指示薬は、1種類の励起波長を有していてもよく、2種類以上の励起波長を有していてもよい。カルシウム指示薬が蛍光カルシウム指示薬である場合、当該蛍光カルシウム指示薬は、蛍光強度の測定が容易であり、検出強度が高いことから、2種類の励起波長を有する蛍光カルシウム指示薬が好ましい。細胞内カルシウム濃度の変化の測定に際して、1種類の励起波長を有する蛍光カルシウム指示薬を用いる場合、当該励起波長における蛍光強度に基づき、細胞内カルシウム濃度の変化を測定することができる。細胞内カルシウム濃度の変化の測定に際し、2種類以上の励起波長を有する蛍光カルシウム指示薬を用いる場合、被験試料が有するサイトカイン産生抑制作用の評価の精度を向上させる観点から、当該2種類以上の励起波長から選ばれた2種類の励起波長(第1励起波長および第2励起波長)を選択し、第1励起波長および第2励起波長のそれぞれにおける蛍光強度から算出された蛍光強度比に基づき、細胞内カルシウム濃度の変化を測定することができる。細胞内カルシウム濃度の測定に際し、例えば、2種類の励起波長を有する蛍光カルシウム指示薬であるFURA 2-AMを用いる場合、第1励起波長における蛍光強度(以下、「第1蛍光強度」ともいう)として励起波長340nmにおける蛍光強度および第2励起波長における蛍光強度(以下、「第2蛍光強度」ともいう)として励起波長380nmにおける蛍光強度を用いることができる。蛍光強度比は、例えば、式(I):
[蛍光強度比]=[第1蛍光強度]/[第2蛍光強度] (I)
に基づいて求めることができる。
【0059】
蛍光カルシウム指示薬を用いる細胞内カルシウムイオン濃度Aの測定方法としては、例えば、以下の測定法1などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0060】
<測定法1>
TRPM4発現細胞に蛍光カルシウム指示薬を導入して指示薬導入細胞を得るステップ、
指示薬導入細胞とカルシウムイオンとを接触させ、当該指示薬導入細胞内の蛍光カルシウム指示薬にカルシウムイオンを結合させるステップ、および
指示薬導入細胞内におけるカルシウムイオンと結合した蛍光カルシウム指示薬の蛍光強度を測定するステップ
を含む方法。
【0061】
TRPM4発現細胞に蛍光カルシウム指示薬を導入する方法としては、例えば、TRPM4発現細胞が入った還流チャンバー内で蛍光カルシウム指示薬を含有する緩衝液を循環させる方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。緩衝液としては、例えば、HEPES緩衝液などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0062】
蛍光カルシウム指示薬が導入されたTRPM4発現細胞とカルシウムイオンとを接触させる方法としては、例えば、蛍光カルシウム指示薬が導入されたTRPM4発現細胞が入った還流チャンバー内でカルシウムイオンを含有する緩衝液を循環させる方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。緩衝液としては、例えば、HEPES緩衝液などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0063】
蛍光カルシウム指示薬が導入されたTRPM4発現細胞とカルシウムイオンを含有する緩衝液との接触温度は、TRPM4発現細胞の種類などによって異なるので一概には決定することができないことから、TRPM4発現細胞の種類などに応じて決定することが好ましい。なお、温度によるTRPM4活性への影響を排除するため、TRPM4発現細胞とカルシウムイオンを含有する緩衝液との接触は、一定温度環境下で行なうことが好ましい。
【0064】
ステップ(I)に用いられるTRPM4発現細胞の数は、カルシウムイオン濃度Aの測定手段の種類などによって異なるので一概には決定することができないことから、カルシウムイオン濃度Aの測定手段の種類などに応じて決定することが好ましい。例えば、倒立顕微鏡を用いて100倍の倍率で細胞を観察してカルシウムイオン濃度Aを測定する場合、1視野(データ解析範囲)あたりのTRPM4発現細胞の数は、測定結果の信頼性を向上させる観点から、好ましくは10個以上、より好ましくは100個以上であり、細胞が密になり過ぎないように細胞同士の間隔を確保する観点から、好ましくは300個以下、より好ましくは200個以下である。
【0065】
ステップ(II)では、TRPM4発現細胞と被験試料とを接触させ、カルシウム指示薬を用いて当該TRPM4発現細胞の細胞内カルシウムイオン濃度Bを測定する。
【0066】
蛍光カルシウム指示薬を用いる細胞内カルシウムイオン濃度Bの測定方法としては、例えば、以下の測定法2などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0067】
<測定法2>
TRPM4発現細胞に蛍光カルシウム指示薬を導入して指示薬導入細胞を得るステップ、
指示薬導入細胞と被験試料とを接触させるステップ、
被験試料接触後の細胞とカルシウムイオンとを接触させ、当該細胞内の蛍光カルシウム指示薬にカルシウムイオンを結合させるステップ、および
細胞内におけるカルシウムイオンと結合した蛍光カルシウム指示薬の蛍光強度を測定するステップ
を含む方法。
【0068】
蛍光カルシウム指示薬が導入されたTRPM4発現細胞と被験試料とを接触させる方法としては、蛍光カルシウム指示薬が導入されたTRPM4発現細胞が入った還流チャンバー内で蛍光カルシウム指示薬を含有する緩衝液を循環させる方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。被験試料接触後の細胞とカルシウムイオンとを接触させる方法としては、例えば、カルシウムイオンを含有し、被験試料を含まない緩衝液を循環させる方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。なお、本発明では、蛍光カルシウム指示薬が導入されたTRPM4発現細胞が入った還流チャンバー内で被験試料を含有する緩衝液を循環させた後に、被験試料とカルシウムイオンとを含有する緩衝液を循環させてもよい。
【0069】
ステップ(II)に用いられる細胞内カルシウムイオン濃度Bの測定方法、接触温度およびTRPM4発現細胞の数は、ステップ(I)に用いられる細胞内カルシウムイオン濃度Bの測定方法、接触温度およびTRPM4発現細胞の数と同様である。
【0070】
ステップ(III)では、ステップ(I)で得られた細胞内カルシウムイオン濃度Aとステップ(II)で得られた細胞内カルシウムイオン濃度Bとを比較し、被験試料が有するTRPM4活性化作用を評価する。ステップ(III)において、カルシウムイオン濃度Aと比べてカルシウムイオン濃度Bが減少している場合、当該被験試料は、TRPM4活性化作用を有すると評価することができ、さらに、カルシウムイオン濃度Aとカルシウムイオン濃度Bとの間の差が大きいほど、当該被験試料は、高いTRPM4活性化作用を有すると評価することができる。
【0071】
TRPM4活性の変化として、被験試料の接触前後のTRPM4発現細胞におけるTRPM4の活性化に起因する電流の増加を用いる場合、TRPM4の活性化作用は、例えば、
(i)一定電位下にTRPM4発現細胞内の電流Aを測定するステップ、
(ii)TRPM4発現細胞と被験試料とを接触させ、ステップ(i)における電位と同じ電位下に当該TRPM4発現細胞内の電流Bを測定するステップ、および
(iii)ステップ(i)で得られた電流Aとステップ(ii)で得られた電流Bとを比較し、被験試料が有するTRPM4活性化作用を評価するステップ
を含む方法などによって評価することができる。
【0072】
ステップ(i)では、一定電位下にTRPM4発現細胞内のTRPM4の活性化に起因する電流Aを測定する。電流Aの測定方法としては、例えば、パッチクランプ法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。パッチクランプ法によれば、TRPM4発現細胞の細胞膜に存在する1または複数個のTRPM4の活性化に起因する電流を測定することができる。パッチクランプ法としては、例えば、ホールセル法、セルアタッチ法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0073】
ステップ(ii)では、TRPM4発現細胞と被験試料とを接触させ、ステップ(i)における電位と同じ電位下に当該TRPM4発現細胞内の電流Bを測定する。ステップ(ii)に用いられる電流Bの測定方法は、ステップ(i)に用いられる電流Aの測定方法と同様である。
【0074】
ステップ(iii)では、ステップ(i)で得られた電流Aとステップ(ii)で得られた電流Bとを比較し、被験試料が有するTRPM4活性化作用を評価する。ステップ(iii)において、電流Bと比べて電流Aが小さい場合、当該被験試料は、TRPM4活性化作用を有すると評価することができる。また、電流Aと電流Bとの間の差が大きいほど、当該被験試料は、高いTRPM4活性化作用を有すると評価することができる。
【0075】
以上説明したように、本発明の被験試料の評価方法によれば、被験試料によってTRPM4発現細胞におけるTRPM4を介して引き起こされる生理学的事象を測定し、当該生理学的事象に基づき、被験試料が有するサイトカイン産生抑制作用を評価するという操作が採られているので、被験試料が皮膚細胞におけるサイトカイン産生を抑制する作用を有するかどうかを容易に、しかも的確に評価することができる。したがって、本発明の被験試料の評価方法は、炎症予防用化粧料、炎症予防剤などの開発に好適に用いられることが期待されるものである。
【0076】
2.サイトカイン産生抑制剤
本発明のサイトカイン産生抑制剤は、TRPM4を活性化して皮膚細胞におけるサイトカイン産生を抑制する用途に用いられるサイトカイン産生抑制剤であって、TRPM4を活性化させるための有効成分としてアルミニウム化合物を含有することを特徴とする。
【0077】
本発明のサイトカイン産生抑制剤は、TRPM4を活性化させるための有効成分としてアルミニウム化合物を含有するので、皮膚細胞におけるサイトカイン産生を効果的に抑制することができる。したがって、本発明のサイトカイン産生抑制剤は、皮膚細胞におけるサイトカイン産生の抑制などに好適に用いることができる。
【0078】
本発明の活性抑制剤におけるアルミニウム化合物の含有率は、アルミニウム化合物の種類、本発明のサイトカイン産生抑制剤の用途などによって異なるので一概には決定することができないので、アルミニウム化合物の種類、本発明のサイトカイン産生抑制剤の用途などに応じて適宜設定することが好ましい。本発明のサイトカイン産生抑制剤におけるアルミニウム化合物の含有率は、通常、TRPM4を活性化して皮膚細胞におけるサイトカイン産生を抑制する作用を十分に発現させる観点から、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.008質量%以上、特に好ましくは0.01質量%以上であり、皮膚に対する負荷を抑制する観点から、好ましくは100質量%以下である。
【0079】
本発明のサイトカイン産生抑制剤は、本発明の目的が妨げられない範囲内で、例えば、水、pH調整剤、安定化剤などの他の成分を含有していてもよい。なお、本発明のサイトカイン産生抑制剤が他の成分を含有する場合、本発明の目的が妨げられない範囲で、本発明のサイトカイン産生抑制剤中において、アルミニウム化合物と他の成分とが複合体を形成していてもよい。
【0080】
以上説明したように、本発明のサイトカイン産生抑制剤は、皮膚細胞におけるサイトカイン産生を効果的に抑制することができるので、皮膚における炎症の発症の未然抑制に好適に用いることができる。したがって、本発明のサイトカイン産生抑制剤は、皮膚における炎症予防用化粧料、皮膚における炎症予防剤などの用途に用いられることが期待されるものである。
【0081】
本発明のサイトカイン産生抑制剤を皮膚における炎症予防用化粧料または皮膚における炎症予防剤に用いる場合、当該炎症予防用化粧料または炎症予防剤における本発明のサイトカイン産生抑制剤の含有率は、炎症予防用化粧料または炎症予防剤の用途、本発明のサイトカイン産生抑制剤に含まれるアルミニウム化合物の種類などによって異なるので一概には決定することができないことから、炎症予防用化粧料または炎症予防剤の用途、本発明のサイトカイン産生抑制剤に含まれるアルミニウム化合物の種類などに応じて決定することが好ましい。炎症予防用化粧料または炎症予防剤における本発明のサイトカイン産生抑制剤の含有率は、通常、TRPM4を活性化して皮膚における炎症を抑制する作用を十分に発現させる観点から、炎症予防用化粧料または炎症予防剤におけるアルミニウム化合物の含有率が、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.0005質量%以上、さらに好ましくは0.0008質量%以上、特に好ましくは0.01質量%以上となり、皮膚に対する負荷を抑制する観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下となるように調整されていることが望ましい。炎症予防用化粧料または炎症予防剤には、TRPM4を活性化して皮膚における炎症を抑制する作用が妨げられない範囲で、例えば、溶媒、界面活性剤、保湿剤、増粘剤、防腐剤、酸化防止剤、pH調整剤などの他の成分が配合されていてもよい。炎症予防用化粧料または炎症予防剤の用量および適用回数は、炎症の種類、適用対象の種類、適用対象の年齢、適用対象の体重などによって異なるので一概には決定することができないことから、炎症の種類、適用対象の種類、適用対象の年齢、適用対象の体重などに応じて決定することが好ましい。
【実施例】
【0082】
以下に実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。なお、以下において、「%(m/m)」は質量/質量パーセント(質量%)、「%(m/v)」は質量/体積パーセント、「%(v/v)」は体積/体積パーセント(体積%)を示す。
【0083】
製造例1
5%(v/v)二酸化炭素含有空気の雰囲気中、37℃に維持された直径35mmのシャーレ上の10%(v/v)%ウシ胎仔血清含有DMEM中において、5×106細胞のHEK293細胞を培養した。培養後のHEK293細胞とヒトTRPM4発現ベクター〔オリジーン(OriGene)社製、商品名:TrueClone TRPM4(NM_017636) Human cDNA Clone〕と遺伝子導入用試薬〔サーモフィッシャー・サイエンティフィック(ThermoFisher SCIENTIFIC)社製、商品名:Lipofectamine Transfection Reagent〕とを用い、当該遺伝子導入用試薬に添付のプロトコールに準じてHEK293細胞にヒトTRPM4をコードする核酸および赤色蛍光タンパク質をコードする核酸を一過的に導入し、トランスフェクタントを得た。以下において、赤色の蛍光を発するトランスフェクタントをTRPM4過剰発現細胞として用いた。
【0084】
参考例1
製造例1で得られたTRPM4過剰発現細胞(実験番号1)をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄した。洗浄後の細胞1×106個に対して溶解緩衝液〔組成:25mMトリスヒドロキシメチルアミノメタン(以下、「トリス」という)、1mMエチレンジアミン四酢酸、0.1mMグリコールエーテルジアミン四酢酸、5mM塩化マグネシウム、100mM塩化ナトリウム、10%(v/v)グリセロールおよび1%(v/v)ポリエチレングリコール-tert-オクチルフェニルエーテル(Triton X-100)〕100μLを添加した。得られた混合物を撹拌した後、氷上で10分間インキュベーションして細胞溶解物を得た。細胞溶解物を20000×gで10分間の遠心分離(4℃)に供し、上清を得た。得られた上清90μLに試料緩衝液〔組成:187mMトリス/塩酸緩衝液(pH6.8)、6%(m/v)ドデシル硫酸ナトリウム、15%(m/v)スクロース、0.015%(m/v)ブロモフェノールブルー、15%(v/v) 2-メルカプトエタノール〕45μLを添加して電気泳動用試料を得た(実験番号1)。
【0085】
実験番号1において、製造例1で得られたTRPM4過剰発現細胞(実験番号1)を用いる代わりにヒト表皮角化細胞樹立株(HaCaT細胞)(実験番号2)または正常ヒト表皮角化細胞(実験番号3)を用いたことを除き、実験番号1と同様の操作を行ない、実験番号2および実験番号3の各電気泳動用試料を得た。
【0086】
実験番号1~3の各電気泳動用試料5μLを泳動ゲル〔インビトロジェン社製、商品名:NuPAGE 4-12% Bis Tris Gel〕のウェルに注入し、200Vで45分間電気泳動した。つぎに、転写キット〔インビトロジェン社製、商品名:iBlot gel transfer stacks mini〕および転写装置〔インビトロジェン社製、商品名:iBlot〕を用い、泳動後のゲル上のタンパク質をメンブレンに転写した。
【0087】
転写後のメンブレンとマウス抗TRPM4抗体〔オリジーン(OriGene)社製、商品名:Anti-TRPM4,Mouse-Mono(10H5) TrueMAB、品番:TA500381〕と二次抗体〔HRP結合抗マウスIgG抗体〔シー・エス・ティー(CST)ジャパン(株)製、商品名:Anti-mouse IgG,HRP-linked Antibody、品番:#7076〕とを用い、ウェスタンブロット解析を行なった。
【0088】
参考例1において、ウェスタンブロット解析の結果を
図1に示す。図中、レーンMはマーカー、レーン1は実験番号1の電気泳動用試料のウェスタンブロット解析の結果、レーン2は実験番号2の電気泳動用試料のウェスタンブロット解析の結果、レーン3は実験番号3の電気泳動用試料のウェスタンブロット解析の結果を示す。また、図中、矢印AはTRPM4に対応するバンド、矢印Bはβ-アクチンに対応するバンドを示す。
【0089】
図1に示された結果から、レーン1~3において、TRPM4に対応する位置にバンドが検出されたことから、製造例1で得られたTRPM4過剰発現細胞、HaCaT細胞および正常ヒト表皮角化細胞は、いずれもTRPM4タンパク質を発現していることがわかる。
【0090】
実施例1および2
5%(v/v)二酸化炭素含有空気の雰囲気中、37℃に維持された96穴プレートの培地A〔10%(v/v)ウシ胎仔血清-100U/mLペニシリン-100μg/mLストレプトマイシン-1%(v/v)L-アラニル-L-グルタミン含有培地用サプリメント(サーモフィッシャー・サイエンティフィック社製、商品名:GlutaMAX)含有DMEM〕0.1mL中において、HaCaT細胞を24時間培養し、HaCaT細胞6.4×103個を含有する細胞培養物を得た。
【0091】
細胞培養物に、TRPM4アゴニストであるBTP2をその濃度が1nM(実施例1)または10nM(実施例2)となるように添加することにより、BTP2とHaCaT細胞とを接触させた。得られた混合物を37℃で10分間インキュベーションした。インキュベーション後の混合物に、TNFαをその濃度が20ng/mLとなるように添加した後、得られた混合物を37℃で1時間インキュベーションすることにより、TNFαとHaCaT細胞とを接触させた。その後、混合物に含まれるHaCaT細胞を回収した。
【0092】
比較例1
5%(v/v)二酸化炭素含有空気の雰囲気中、37℃に維持された96穴プレートの培地A0.1mL中において、HaCaT細胞を24時間培養し、HaCaT細胞6.4×103個を含有する細胞培養物を得た。細胞培養物を培地中で、37℃で1時間10分間インキュベーションし、その後、細胞を回収した。
【0093】
比較例2
5%(v/v)二酸化炭素含有空気の雰囲気中、37℃に維持された96穴プレートの培地A0.1mL中において、HaCaT細胞を24時間培養し、HaCaT細胞6.4×103個を含有する細胞培養物を得た。細胞培養物に、TNFαをその濃度が20ng/mLとなるように添加した後、得られた混合物を37℃で1時間インキュベーションすることにより、TNFαとHaCaT細胞とを接触させた。その後、混合物から細胞を回収した。
【0094】
試験例1
実施例1~2および比較例1~2で得られた各細胞と細胞溶解試薬〔ロシュ(Roche)社製、商品名:Realtime ReadyCell Lysis Kit〕とを用い、RNA含有試料を得た。得られたRNA含有試料とRT-PCR用キット〔タカラバイオ(株)製、商品名:One step PrimeScript RT-PCR kit〕とを用い、qRT-PCRを行なうことにより、実施例1~2および比較例1~2で得られた各細胞におけるIL-1α遺伝子、IL-8遺伝子およびTNF遺伝子の各発現量を測定した。なお、IL-1α、IL-8およびTNFは、TNFαによって誘導される炎症性サイトカインである。
【0095】
試験例1において、実施例1~2および比較例1~2で得られた各細胞におけるIL-1α遺伝子の発現量を調べた結果を
図2、実施例1~2および比較例1~2で得られた各細胞におけるIL-8遺伝子の発現量を調べた結果を
図3、実施例1~2および比較例1~2で得られた各細胞におけるTNF遺伝子の発現量を調べた結果を
図4に示す。
図2中、レーン1は比較例1で得られた細胞におけるIL-1α遺伝子の発現量、レーン2は比較例2で得られた細胞におけるIL-1α遺伝子の発現量、レーン3は実施例1で得られた細胞におけるIL-1α遺伝子の発現量、レーン4は実施例2で得られた細胞におけるIL-1α遺伝子の発現量を示す。
図3中、レーン1は比較例1で得られた細胞におけるIL-8遺伝子の発現量、レーン2は比較例2で得られた細胞におけるIL-8遺伝子の発現量、レーン3は実施例1で得られた細胞におけるIL-8遺伝子の発現量、レーン4は実施例2で得られた細胞におけるIL-8遺伝子の発現量を示す。
図4中、レーン1は比較例1で得られた細胞におけるTNF遺伝子の発現量、レーン2は比較例2で得られた細胞におけるTNF遺伝子の発現量、レーン3は実施例1で得られた細胞におけるTNF遺伝子の発現量、レーン4は実施例2で得られた細胞におけるTNF遺伝子の発現量を示す。
【0096】
図2~4に示された結果から、IL-1α遺伝子、IL-8遺伝子およびTNF遺伝子の各発現量は、BTP2の濃度の増加に伴って減少することがわかる。これらの結果から、TRPM4の活性化とIL-1α遺伝子、IL-8遺伝子、TNF遺伝子などの炎症性サイトカイン遺伝子の発現の抑制とが相関していることが示唆される。また、TRPM4を活性化する作用を有する物質を予め皮膚細胞と接触させることにより、TNFαによって誘導される炎症性サイトカインの遺伝子レベルでの発現を抑制することができることから、TRPM4を活性化する作用を有する物質によれば、炎症を予防することができることが示唆される。
【0097】
製造例2
HaCaT細胞におけるTRPM4遺伝子を遺伝子ノックアウト技術によって破壊することにより、TRPM4遺伝子がノックアウトされたノックアウトHaCaT細胞を得た。
【0098】
比較例3
実施例1において、HaCaT細胞を用いる代わりに製造例2で得られたノックアウトHaCaT細胞を用いたことを除き、実施例1と同様の操作を行ない、細胞を得た。
【0099】
比較例4
実施例2において、HaCaT細胞を用いる代わりに製造例2で得られたノックアウトHaCaT細胞を用いたことを除き、実施例2と同様の操作を行ない、細胞を得た。
【0100】
比較例5
比較例1において、HaCaT細胞を用いる代わりに製造例2で得られたノックアウトHaCaT細胞を用いたことを除き、比較例1と同様の操作を行ない、細胞を得た。
【0101】
比較例6
比較例2において、HaCaT細胞を用いる代わりに製造例2で得られたノックアウトHaCaT細胞を用いたことを除き、比較例2と同様の操作を行ない、細胞を得た。
【0102】
試験例2
試験例1において、実施例1~2および比較例1~2で得られた各細胞を用いる代わりに比較例3~6で得られた各細胞を用いたことを除き、試験例1と同様の操作を行ない、比較例3~6で得られた各細胞におけるIL-1α遺伝子、IL-8遺伝子およびTNF遺伝子の各発現量を測定した。
【0103】
試験例2において、比較例3~6で得られた各細胞におけるIL-8遺伝子の発現量を調べた結果を
図5に示す。
図5中、レーン1は比較例5で得られた細胞におけるIL-8遺伝子の発現量、レーン2は比較例6で得られた細胞におけるIL-8遺伝子の発現量、レーン3は比較例3で得られた細胞におけるIL-8遺伝子の発現量、レーン4は比較例4で得られた細胞におけるIL-8遺伝子の発現量を示す。
【0104】
図5に示された結果から、ノックアウトHaCaT細胞をBTP2と接触させた後、TNFαと接触させたときのIL-8遺伝子の発現量は、ノックアウトHaCaT細胞をBTP2と接触させずにTNFαと接触させたときのIL-8遺伝子の発現量と同程度であることがわかる。また、IL-1α遺伝子、TNF遺伝子などのIL-8遺伝子以外の炎症性サイトカイン遺伝子についても、IL-8遺伝子と同様の傾向が見られた。これらの結果から、BTP2と接触させたときのTRPM4発現細胞における炎症性サイトカイン遺伝子の発現量の減少は、TRPM4の活性化に起因することがわかる。
【0105】
以上説明したように、TRPM4を活性化する作用を有する物質を予め皮膚細胞と接触させることにより、皮膚細胞における炎症性サイトカイン遺伝子の発現が抑制されることから、TRPM4を活性化する作用を有する物質によれば、炎症性サイトカインの発現を抑制することができ、炎症を予防することができることがわかる。
【0106】
製造例3
タプシガーギンをその濃度が1μMとなるようにカルシウム不含溶液(以下、「溶液B」という)〔組成:140mM塩化ナトリウム、5mM塩化カリウム、2mM塩化マグネシウム、5mMグリコールエーテルジアミン四酢酸、10mMグルコースおよび10mMのHEPES緩衝液(pH7.4)〕に添加し、タプシガーギン含有バスソリューションを得た。
【0107】
製造例4
イオノマイシンをその濃度が25μMとなるようにカルシウム含有溶液(以下、「溶液A」という)〔組成:140mM塩化ナトリウム、5mM塩化カリウム、2mM塩化マグネシウム、2mM塩化カルシウム、10mMグルコースおよび10mMのHEPES緩衝液(pH7.4)〕に添加し、イオノマイシン含有溶液Aを得た。
【0108】
製造例5
TRPM4アゴニストであるU-73122をその濃度が10μMとなるように溶液Bに添加し、U-73122含有バスソリューションを得た。
【0109】
製造例6
TRPM4アゴニストであるU-73122をその濃度が10μMとなるように溶液Aに添加し、U-73122含有溶液Aを得た。
【0110】
参考例2
(1)Fura 2-AM導入細胞の調製
TRPM4発現細胞として製造例1で得られた外因性TRPM4を発現するTRPM4過剰発現細胞を細胞内カルシウムイオン測定用試薬Fura 2-AM含有DMEM中において、室温(25℃)で60分間インキュベーションすることにより、Fura 2-AM導入細胞を得た。
【0111】
(2)TRPM4アゴニスト非存在下における細胞内カルシウムイオン濃度の測定
参考例2(1)で得られたFURA 2-AM導入細胞を還流チャンバー付倒立顕微鏡の還流チャンバーに入れた。以下において、CCDカメラを用い、FURA 2-AM導入細胞内のFURA 2-AMに基づく励起波長340nmにおける蛍光とFURA 2-AM導入細胞内のFURA 2-AMに基づく励起波長380nmにおける蛍光とを連続録画し、画像解析用ソフトウエア〔(株)ソリューションシステムズ製、商品名:IPLab〕を用いてFURA 2-AM導入細胞内のFURA 2-AMに基づく励起波長340nmにおける蛍光の強度(以下、「蛍光強度340nm」という)およびFURA 2-AM導入細胞内のFURA 2-AMに基づく励起波長380nmにおける蛍光強度(以下、「蛍光強度380nm」という)を求めた。
【0112】
FURA 2-AM導入細胞が入った還流チャンバー内において、溶液Bを還流させた。溶液Bの還流開始時から50秒間経過後、FURA 2-AM導入細胞が入った還流チャンバー内において、製造例3で得られたタプシガーギン含有バスソリューションを還流させることにより、小胞体からカルシウムイオンを放出させた。タプシガーギン含有バスソリューション還流開始時から240秒間経過後、FURA 2-AM導入細胞が入った還流チャンバー内において、溶液Aを還流させた。溶液A還流開始時から150秒間経過後、FURA 2-AM導入細胞が入った還流チャンバー内において、製造例4で得られたイオノマイシン含有溶液Aを180秒間還流させた。TRPM4が活性化した場合、TRPM4を介してナトリウムイオンが細胞内に取り込まれ、取り込まれたナトリウムイオンの量の増加に伴って細胞内に流入するカルシウムイオンの量が減少する。したがって、細胞内カルシウムイオン濃度の経時的変化を測定することにより、間接的にTRPM4活性を測定することができる。
【0113】
(3)TRPM4アゴニスト存在下における細胞内カルシウムイオン濃度の測定
参考例2(1)で得られたFURA 2-AM導入細胞を還流チャンバー付倒立顕微鏡の還流チャンバーに入れた。以下において、FURA 2-AM導入細胞内のFURA 2-AMに基づく蛍光強度340nmおよびFURA 2-AM導入細胞内のFURA 2-AMに基づく蛍光強度380nmを経時的に測定した。測定された蛍光強度340nmおよび蛍光強度380nmを用い、式(Ia):
蛍光強度比=蛍光強度340nm/蛍光強度380nm (Ia)
に基づいて蛍光強度比の経時的変化を求めた。
【0114】
FURA 2-AM導入細胞が入った還流チャンバー内において、溶液Bを還流させた。溶液Bの還流開始時から50秒間経過後、FURA 2-AM導入細胞が入った還流チャンバー内において、製造例3で得られたタプシガーギン含有バスソリューションを還流させることにより、小胞体からカルシウムイオンを放出させた。タプシガーギン含有バスソリューション還流開始時から120秒間経過後、FURA 2-AM導入細胞が入った還流チャンバー内において、製造例5で得られたU-73122含有バスソリューションを還流させた。U-73122含有バスソリューション還流開始時から120秒間経過後、FURA 2-AM導入細胞が入った還流チャンバー内において、製造例6で得られたU-73122含有溶液Aを還流させた。U-73122含有溶液A還流開始時から150秒間経過後、FURA 2-AM導入細胞が入った還流チャンバー内において、製造例4で得られたイオノマイシン含有溶液Aを180秒間還流させた。
【0115】
(4)相対蛍光強度の算出
参考例2(2)における溶液A還流開始時から40秒間経過後の蛍光強度比Aと参考例2(2)におけるイオノマイシン含有溶液A還流開始時から170秒間経過後の蛍光強度比Bとを用い、式(II):
[相対蛍光強度]=蛍光強度比A/蛍光強度比B (II)
にしたがって、TRPM4アゴニスト非存在下(対照)での相対蛍光強度を算出した。
【0116】
参考例2(3)におけるU-73122含有溶液A還流開始時から40秒間経過後の蛍光強度比と参考例2(3)におけるイオノマイシン含有溶液A還流開始時から170秒間経過後の蛍光強度比とを用い、式(II)にしたがって、TRPM4アゴニスト存在下での相対蛍光強度を算出した。
【0117】
参考例2において、TRPM4アゴニストの有無と相対蛍光強度との関係を調べた結果を
図6に示す。図中、レーン1はTRPM4アゴニスト存在下での相対蛍光強度、レーン2はTRPM4アゴニスト非存在下での相対蛍光強度を示す。
【0118】
図6に示された結果から、TRPM4アゴニスト存在下での相対蛍光強度は、TRPM4アゴニスト非存在下での相対蛍光強度と比べて低いことから、TRPM4の活性化に伴い、HEK293細胞内に流入するナトリウムイオン量が増加したことに伴い、細胞内カルシウムイオン濃度が減少したことがわかる。これらの結果から、製造例1で得られたTRPM4過剰発現細胞のように、外因性TRPM4を過剰発現している細胞を用い、細胞内カルシウムイオン濃度に対する被験試料の作用を調べることにより、被験試料がTRPM4を活性化して皮膚細胞におけるサイトカイン産生を抑制する作用を有するかどうかを評価することができることがわかる。
【0119】
製造例7
被験試料として塩化アルミニウムをその濃度が1mMとなるように溶液Bに添加し、被験試料含有バスソリューションを得た。
【0120】
製造例8
被験試料として塩化アルミニウムをその濃度が1mMとなるように溶液Aに添加し、被験試料含有溶液Aを得た。
【0121】
製造例9
被験試料として硫酸アルミニウムカリウムをその濃度が1mMとなるように溶液Bに添加し、被験試料含有バスソリューションを得た。
【0122】
製造例10
被験試料として硫酸アルミニウムカリウムをその濃度が1mMとなるように溶液Aに添加し、被験試料含有溶液Aを得た。
【0123】
実施例3
参考例2において、U-73122含有バスソリューションを用いる代わりに製造例7で得られた被験試料含有バスソリューションを用いたことおよびU-73122含有溶液Aを用いる代わりに製造例8で得られた被験試料含有溶液Aを用いたことを除き、参考例2と同様の操作を行ない、相対蛍光強度を算出した。
【0124】
また、前記において、製造例7で得られた被験試料含有バスソリューションを用いる代わりに製造例9で得られた被験試料含有バスソリューションを用いたことおよび製造例8で得られた被験試料含有溶液Aを用いる代わりに製造例10で得られた被験試料含有溶液Aを用いたことを除き、前記と同様の操作を行ない、相対蛍光強度を算出した。
【0125】
実施例3において、被験試料の種類と相対蛍光強度との関係を調べた結果を
図7に示す。図中、レーン1は被験試料として塩化アルミニウムを用いたときの相対蛍光強度、レーン2は被験試料として硫酸アルミニウムカリウムを用いたときの相対蛍光強度、レーン3は被験試料非存在下での相対蛍光強度を示す。
【0126】
図7に示された結果から、被験試料として塩化アルミニウムまたは硫酸アルミニウムカリウムを用いたときの相対蛍光強度は、被験試料非存在下での相対蛍光強度よりも低いことがわかる。これらの結果から、塩化アルミニウムおよび硫酸アルミニウムカリウムは、TRPM4を活性化してサイトカイン産生を抑制する作用を有することがわかる。
【0127】
実施例4
表皮角化細胞をDMEM中において37℃で1日間培養した。得られた培養細胞にトリプシン処理を施した。トリプシン処理後の培養細胞にDMEMを添加して培養細胞の濃度が1×105個/mLとなるように調整することにより、培養液を得た。得られた培養液1mLを12穴プレートの各穴に播種し、前記培養細胞を37℃で24時間培養した。培養後、培養上清500μLを、硫酸アルミニウムカリウム含有DMEM(硫酸アルミニウムカリウム濃度:2mM)500μLで置換した後、37℃で10分間静置した。静置後、TNFα含有DMEM(TNFα濃度:220ng/mL)100μLを添加し、培養液A(硫酸アルミニウムカリウム濃度:1mMおよびTNFα濃度:20ng/mL)を得た。
【0128】
得られた培養液Aを37℃で48時間培養した後、培養上清を遠心チューブに入れ、14000×gで5分間遠心分離し、培養上清Aを回収した。一方、12穴プレートの各穴に残った細胞を氷冷PBSで洗浄した。当該細胞にタンパク質抽出用緩衝液〔サンタクルズ社製、商品名:RIPAバッファー〕200μLを添加し、セルスクレイパーを用いて各穴の壁面から細胞を剥がして細胞懸濁液を得た。細胞懸濁液を14000×gで5分間遠心分離して上清を回収することにより、細胞抽出液Aを得た。
【0129】
比較例7
表皮角化細胞をDMEM培地中において37℃で1日間培養した。得られた培養細胞にトリプシン処理を施した。トリプシン処理後の培養細胞にDMEMを添加して培養細胞の濃度が1×105個/mLとなるように調整することにより、培養液を得た。得られた培養液1mLを12穴プレートの各穴に播種し、前記培養細胞を37℃で24時間培養した。培養後、培養上清500μLをDMEM500μLで置換した後、37℃で10分間静置した。静置後、TNFα含有DMEM(TNFα濃度:220ng/mL)100μLを添加し、培養液B(TNFα濃度:20ng/mL)を得た。
【0130】
得られた培養液Bを37℃で48時間培養した後、培養上清を遠心チューブに入れ、14000×gで5分間遠心分離し、培養上清Bを回収した。一方、12穴プレートの各穴に残った細胞を氷冷PBSで洗浄した。当該細胞にタンパク質抽出用緩衝液〔サンタクルズ社製、商品名:RIPAバッファー〕200μLを添加し、セルスクレイパーを用いて各穴の壁面から細胞を剥がして細胞懸濁液を得た。細胞懸濁液を14000×gで5分間遠心分離して上清を回収することにより、細胞抽出液Bを得た。
【0131】
試験例3
実施例4で得られた細胞抽出液Aまたは比較例7で得られた細胞抽出液BとIL-1α定量試薬〔R&D社製、商品名:Human IL-1 alpha/IL-1F1 DuoSet ELISA DY200〕とを用い、実施例4および比較例7で得られた各培養細胞(表皮角化細胞)におけるIL-1α発現量を測定した。
【0132】
試験例3において、実施例4および比較例7で得られた各表皮角化細胞におけるIL-1a発現量を調べた結果を
図8に示す。図中、レーン1は実施例4で得られた表皮角化細胞におけるIL-1α発現量、レーン2は比較例7で得られた表皮角化細胞におけるIL-1α発現量を示す。
【0133】
図8に示された結果から、実施例4で得られた表皮角化細胞におけるIL-1α発現量は、比較例7で得られた表皮角化細胞におけるIL-1α発現量と対比して少ないことがわかる。この結果から、硫酸アルミニウムカリウムは、TNFαによって誘導されるIL-1αの発現を抑制することがわかる。
【0134】
また、実施例4で得られた培養上清Aまたは比較例7で得られた培養上清BとIL-6定量試薬〔R&D社製、商品名:Human IL-6 DuoSet ELISA DY206〕とを用い、実施例4および比較例7で得られた各培養細胞(表皮角化細胞)におけるIL-6発現量を測定した。
【0135】
試験例3において、実施例4および比較例7で得られた各表皮角化細胞におけるIL-6発現量を調べた結果を
図9に示す。図中、レーン1は実施例4で得られた表皮角化細胞におけるIL-6発現量、レーン2は比較例7で得られた表皮角化細胞におけるIL-6発現量を示す。
【0136】
図9に示された結果から、実施例4で得られた表皮角化細胞におけるIL-6発現量は、比較例7で得られた表皮角化細胞におけるIL-6発現量よりも少ないことがわかる。この結果から、硫酸アルミニウムカリウムは、TNFαによって誘導されるIL-6の発現を抑制することがわかる。
【0137】
これらの結果から、被験試料によってTRPM4発現細胞のTRPM4を介して引き起こされる生理学的事象を用いることにより、TRPM4を活性化し、炎症性サイトカインの発現を抑制する物質を評価することができることがわかる。また、TRPM4を活性化する物質によれば、IL-1α、IL-6などの炎症性サイトカインの発現を抑制することができ、炎症を予防することができることがわかる。
【0138】
以上説明したように、BTP2などのTRPM4アゴニスト;塩化アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウムなどのアルミニウム化合物などのTRPM4を活性化する作用を有する物質を予め皮膚細胞と接触させることにより、皮膚細胞における炎症性サイトカインおよびその遺伝子の発現が抑制されることから、TRPM4を活性化する作用を有する物質によれば、炎症性サイトカインの発現を抑制することができ、炎症を予防することができることがわかる。したがって、本発明は、炎症予防用化粧料、炎症予防剤などの開発に好適に用いられることが期待される。
【0139】
また、TRPM4発現細胞を用い、被験試料によってTRPM4発現細胞のTRPM4を介して引き起こされる生理学的事象を測定し、被験試料の評価に当該生理学的事象を用いることにより、被験試料が有する皮膚細胞におけるサイトカイン産生抑制作用を評価することができることがわかる。
【配列表】