(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】走査アンテナおよび走査アンテナの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01Q 3/44 20060101AFI20220221BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20220221BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20220221BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20220221BHJP
【FI】
H01Q3/44
H01L29/78 612Z
G02F1/13 505
(21)【出願番号】P 2020559190
(86)(22)【出願日】2019-12-02
(86)【国際出願番号】 JP2019047073
(87)【国際公開番号】W WO2020121877
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2018232636
(32)【優先日】2018-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】516247177
【氏名又は名称】カイメタ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100139930
【氏名又は名称】山下 亮司
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【氏名又は名称】三宅 章子
(74)【代理人】
【識別番号】100184985
【氏名又は名称】田中 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100202142
【氏名又は名称】北 倫子
(72)【発明者】
【氏名】原 猛
(72)【発明者】
【氏名】中野 晋
(72)【発明者】
【氏名】安田 浩二
(72)【発明者】
【氏名】谷口 洋二
(72)【発明者】
【氏名】田中 義規
(72)【発明者】
【氏名】スティーヴンソン ライアン エイ.
(72)【発明者】
【氏名】リン スティーヴ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレル カグダス
(72)【発明者】
【氏名】ショート コリン
(72)【発明者】
【氏名】チェン フェリックス
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/173941(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/012490(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 3/44
H01L 21/336
G02F 1/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナ単位を含む送受信領域と、前記送受信領域外の非送受信領域とを有し、
第1誘電体基板と、前記第1誘電体基板に支持された、複数のTFT、複数のゲートバスライン、複数のソースバスラインおよび複数のパッチ電極とを有するTFT基板と、
第2誘電体基板と、前記第2誘電体基板の第1主面上に形成されたスロット電極であって、前記複数のパッチ電極に対応して配置された複数のスロットを有するスロット電極とを有するスロット基板と、
前記TFT基板と前記スロット基板との間に設けられた液晶層と、
前記液晶層を包囲するシール部と、
前記非送受信領域のうちの前記シール部で包囲された領域内に配置された壁状構造体と、
前記第2誘電体基板の前記第1主面と反対側の第2主面に誘電体層を介して対向するように配置された反射導電板と、
前記送受信領域に配置された、前記送受信領域における前記第1誘電体基板と前記第2誘電体基板との第1間隙を規定する第1スペーサ構造体と、
前記第1間隙よりも広い、前記非送受信領域における前記第1誘電体基板と前記第2誘電体基板との第2間隙を規定する、前記壁状構造体内に配置された第2スペーサ構造体とを有し、
前記壁状構造体は、前記第1誘電体基板の表面と交わる第1主側面および第2主側面を有し、前記第1誘電体基板の法線方向から見たとき、前記第1主側面および前記第2主側面の少なくとも一方は、複数の凹部および/または複数の凸部を有する、走査アンテナ。
【請求項2】
前記第1誘電体基板の法線方向から見たとき、前記複数の凹部および/または複数の凸部のピッチは、2mm以上100mm以下である、請求項1に記載の走査アンテナ。
【請求項3】
前記シール部は、前記送受信領域の前記液晶層の厚さを規定する第1粒状スペーサを含み、
前記第2スペーサ構造体は、前記第1粒状スペーサよりも粒径の大きい第2粒状スペーサを含む、請求項1または2に記載の走査アンテナ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の走査アンテナの製造方法であって、前記液晶層を形成する工程は、前記TFT基板と前記スロット基板との間、かつ、前記シール部で包囲された領域内に真空気泡を生じさせるように液晶材料を供給する工程を包含する、走査アンテナの製造方法。
【請求項5】
前記液晶層を形成する工程は、前記液晶材料を供給する工程の後に、前記液晶層の温度を80℃以上に上昇させる工程をさらに包含する、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記液晶層が真空注入法を用いて形成される、請求項4または5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記液晶層が滴下注入法を用いて形成され、前記液晶層を形成する工程は、前記TFT基板と前記スロット基板との間、かつ、前記シール部で包囲された領域の体積よりも少ない液晶材料を滴下する工程を包含する、請求項4または5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査アンテナに関し、特に、アンテナ単位(「素子アンテナ」ということもある。)が液晶容量を有する走査アンテナ(「液晶アレイアンテナ」ということもある。)およびそのような走査アンテナの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体通信や衛星放送用のアンテナは、ビームの方向を変えられる(「ビーム走査」または「ビームステアリング」と言われる。)機能を必要とする。このような機能を有するアンテナ(以下、「走査アンテナ(scanned antenna)」という。)として、アンテナ単位を備えるフェイズドアレイアンテナが知られている。しかしながら、従来のフェイズドアレイアンテナは高価であり、民生品への普及の障害となっている。特に、アンテナ単位の数が増えると、コストが著しく上昇する。
【0003】
そこで、液晶材料(ネマチック液晶、高分子分散液晶を含む)の大きな誘電異方性(複屈折率)を利用した走査アンテナが提案されている(特許文献1~5および非特許文献1)。液晶材料の誘電率は周波数分散を有するので、本明細書において、マイクロ波の周波数帯における誘電率(「マイクロ波に対する誘電率」ということもある。)を特に「誘電率M(εM)」と表記することにする。
【0004】
特許文献3および非特許文献1には、液晶表示装置(以下、「LCD」という。)の技術を利用することによって低価格な走査アンテナが得られると記載されている。
【0005】
本出願人は、従来のLCDの製造技術を利用して量産することが可能な走査アンテナを開発している。本出願人による特許文献6は、従来のLCDの製造技術を利用して量産することが可能な走査アンテナ、そのような走査アンテナに用いられるTFT基板ならびにそのような走査アンテナの製造方法および駆動方法を開示している。参考のために、特許文献6の開示内容の全てを本明細書に援用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-116573号公報
【文献】特開2007-295044号公報
【文献】特表2009-538565号公報
【文献】特表2013-539949号公報
【文献】国際公開第2015/126550号
【文献】国際公開第2017/061527号
【非特許文献】
【0007】
【文献】R. A. Stevenson et al., ”Rethinking Wireless Communications:Advanced Antenna Design using LCD Technology”, SID 2015 DIGEST, pp.827-830.
【文献】M. ANDO et al., ”A Radial Line Slot Antenna for 12GHz Satellite TV Reception”, IEEE Transactions of Antennas and Propagation, Vol. AP-33, No.12, pp. 1347-1353 (1985).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明のある目的は、特許文献6に記載の走査アンテナの性能をさらに向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態によると、以下の項目に記載の解決手段が提供される。
[項目1]
複数のアンテナ単位を含む送受信領域と、前記送受信領域外の非送受信領域とを有し、
第1誘電体基板と、前記第1誘電体基板に支持された、複数のTFT、複数のゲートバスライン、複数のソースバスラインおよび複数のパッチ電極とを有するTFT基板と、
第2誘電体基板と、前記第2誘電体基板の第1主面上に形成されたスロット電極であって、前記複数のパッチ電極に対応して配置された複数のスロットを有するスロット電極とを有するスロット基板と、
前記TFT基板と前記スロット基板との間に設けられた液晶層と、
前記液晶層を包囲するシール部と、
前記非送受信領域のうちの前記シール部で包囲された領域内に配置された壁状構造体と、
前記第2誘電体基板の前記第1主面と反対側の第2主面に誘電体層を介して対向するように配置された反射導電板と、
前記送受信領域に配置された、前記送受信領域における前記第1誘電体基板と前記第2誘電体基板との第1間隙を規定する第1スペーサ構造体と、
前記第1間隙よりも広い、前記非送受信領域における前記第1誘電体基板と前記第2誘電体基板との第2間隙を規定する、前記壁状構造体内に配置された第2スペーサ構造体とを有し、
前記壁状構造体は、前記第1誘電体基板の表面と交わる第1主側面および第2主側面を有し、前記第1誘電体基板の法線方向から見たとき、前記第1主側面および前記第2主側面の少なくとも一方は、複数の凹部および/または複数の凸部を有する、走査アンテナ。
[項目2]
前記第1誘電体基板の法線方向から見たとき、前記複数の凹部および/または複数の凸部のピッチは、2mm以上100mm以下である、項目1に記載の走査アンテナ。
[項目3]
前記シール部は、前記送受信領域の前記液晶層の厚さを規定する第1粒状スペーサを含み、
前記第2スペーサ構造体は、前記第1粒状スペーサよりも粒径の大きい第2粒状スペーサを含む、項目1または2に記載の走査アンテナ。
[項目4]
項目1から3のいずれかに記載の走査アンテナの製造方法であって、前記液晶層を形成する工程は、前記TFT基板と前記スロット基板との間、かつ、前記シール部で包囲された領域内に真空気泡を生じさせるように液晶材料を供給する工程を包含する、走査アンテナの製造方法。
[項目5]
前記液晶層を形成する工程は、前記液晶材料を供給する工程の後に、前記液晶層の温度を80℃以上に上昇させる工程をさらに包含する、項目4に記載の製造方法。
[項目6]
前記液晶層が真空注入法を用いて形成される、項目4または5に記載の製造方法。
[項目7]
前記液晶層が滴下注入法を用いて形成され、前記液晶層を形成する工程は、前記TFT基板と前記スロット基板との間、かつ、前記シール部で包囲された領域の体積よりも少ない液晶材料を滴下する工程を包含する、項目4または5に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のある実施形態によると、走査アンテナのアンテナ性能をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】走査アンテナ1000の一部を模式的に示す断面図である。
【
図2A】走査アンテナ1000が備えるTFT基板101を示す模式的な平面図である。
【
図2B】走査アンテナ1000が備えるスロット基板201を示す模式的な平面図である。
【
図3】走査アンテナ1000の変形例の走査アンテナ1001の模式的な平面図である。
【
図4A】走査アンテナ1001のタイリング構造の例を示す図である。
【
図4B】走査アンテナ1001のタイリング構造の例を示す図である。
【
図4C】走査アンテナ1001が備える液晶パネル100a1を示す模式的な平面図である。
【
図5】走査アンテナ1001の、シール部73に包囲された領域の模式的な断面図である。
【
図6A】本発明の実施形態による走査アンテナの液晶パネルを4枚の液晶パネルをタイリングすることによって作製する際の1枚の液晶パネル100Aaの模式的な平面図である。
【
図6B】液晶パネル100Aaの模式的な断面図である。
【
図6C】液晶材料を注入した直後の液晶パネル100Aaの模式的な平面図である。
【
図6D】液晶材料を注入してから一定の時間が経過した後の液晶パネル100Aaの模式的な平面図である。
【
図7A】本発明の実施形態の変形例による走査アンテナの液晶パネルを4枚の液晶パネルをタイリングすることによって作製する際の1枚の液晶パネル100Baの模式的な平面図である。
【
図7B】本発明の実施形態の他の変形例による走査アンテナの液晶パネルを4枚の液晶パネルをタイリングすることによって作製する際の1枚の液晶パネル100Caの模式的な平面図である。
【
図7C】追加シール部76Dの第1主側面79aの一部を示す、第1誘電体基板1の法線方向から見た模式的な平面図である。
【
図7D】追加シール部76Eの第1主側面79aの一部を示す、第1誘電体基板1の法線方向から見た模式的な平面図である。
【
図7E】追加シール部76Fの第1主側面79aの一部を示す、第1誘電体基板1の法線方向から見た模式的な平面図である。
【
図7F】追加シール部76Gの第1主側面79aの一部を示す、第1誘電体基板1の法線方向から見た模式的な平面図である。
【
図8】TFT基板101のアンテナ単位領域Uを示す模式的な平面図である。
【
図9A】TFT基板101のアンテナ単位領域Uを示す模式的な断面図である。
【
図9B】TFT基板101の非送受信領域R2の内の柱状スペーサPSを有する領域を示す模式的な断面図である。
【
図10A】TFT基板101の非送受信領域R2の模式的な断面図を示す。
【
図10B】TFT基板101の非送受信領域R2の模式的な断面図を示す。
【
図10C】TFT基板101の非送受信領域R2の模式的な断面図を示す。
【
図11】TFT基板101のトランスファー端子部PTと、スロット基板201Aの端子部ITとを接続するトランスファー部を説明するための模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下で、図面を参照しながら本発明の実施形態による走査アンテナ、走査アンテナの製造方法、および走査アンテナに用いられるTFT基板を説明する。なお、本発明は以下で例示する実施形態に限られない。また、本発明の実施形態は図面に限定されるものではない。例えば、断面図における層の厚さ、平面図における導電部および開口部のサイズ等は例示である。
【0013】
<走査アンテナの基本構造>
液晶材料の大きな誘電率M(εM)の異方性(複屈折率)を利用したアンテナ単位を用いた走査アンテナは、LCDパネルの画素に対応付けられるアンテナ単位の各液晶層に印加する電圧を制御し、各アンテナ単位の液晶層の実効的な誘電率M(εM)を変化させることによって、静電容量の異なるアンテナ単位で2次元的なパターンを形成する(LCDによる画像の表示に対応する。)。アンテナから出射される、または、アンテナによって受信される電磁波(例えば、マイクロ波)には、各アンテナ単位の静電容量に応じた位相差が与えられ、静電容量の異なるアンテナ単位によって形成された2次元的なパターンに応じて、特定の方向に強い指向性を有することになる(ビーム走査)。例えば、アンテナから出射される電磁波は、入力電磁波が各アンテナ単位に入射し、各アンテナ単位で散乱された結果得られる球面波を、各アンテナ単位によって与えられる位相差を考慮して積分することによって得られる。各アンテナ単位が、「フェイズシフター:phase shifter」として機能していると考えることもできる。液晶材料を用いた走査アンテナの基本的な構造および動作原理については、特許文献1~4および非特許文献1、2を参照されたい。非特許文献2は、らせん状のスロットが配列された走査アンテナの基本的な構造を開示している。参考のために、特許文献1~4および非特許文献1、2の開示内容の全てを本明細書に援用する。
【0014】
なお、走査アンテナにおけるアンテナ単位はLCDパネルの画素に類似してはいるものの、LCDパネルの画素の構造とは異なっているし、複数のアンテナ単位の配列もLCDパネルにおける画素の配列とは異なっている。特許文献6に記載の走査アンテナ1000を示す
図1を参照して、走査アンテナの基本構造を説明する。走査アンテナ1000は、スロットが同心円状に配列されたラジアルインラインスロットアンテナであるが、本発明の実施形態による走査アンテナはこれに限られず、例えば、スロットの配列は、公知の種々の配列であってよい。特に、スロットおよび/またはアンテナ単位の配列について、特許文献5の全ての開示内容を参考のために本明細書に援用する。
【0015】
図1は、走査アンテナ1000の一部を模式的に示す断面図であり、同心円状に配列されたスロットの中心近傍に設けられた給電ピン72(
図2B参照)から半径方向に沿った断面の一部を模式的に示す。
【0016】
走査アンテナ1000は、TFT基板101と、スロット基板201と、これらの間に配置された液晶層LCと、スロット基板201と、空気層54を介して対向するように配置された反射導電板65とを備えている。走査アンテナ1000は、TFT基板101側からマイクロ波を送受信する。
【0017】
TFT基板101は、ガラス基板などの誘電体基板1と、誘電体基板1上に形成された複数のパッチ電極15と、複数のTFT10とを有している。各パッチ電極15は、対応するTFT10に接続されている。各TFT10は、ゲートバスラインとソースバスラインとに接続されている。
【0018】
スロット基板201は、ガラス基板などの誘電体基板51と、誘電体基板51の液晶層LC側に形成されたスロット電極55とを有している。スロット電極55は複数のスロット57を有している。
【0019】
スロット基板201と、空気層54を介して対向するように反射導電板65が配置されている。空気層54に代えて、マイクロ波に対する誘電率Mが小さい誘電体(例えば、PTFEなどのフッ素樹脂)で形成された層を用いることができる。スロット電極55と反射導電板65と、これらの間の誘電体基板51および空気層54とが導波路301として機能する。
【0020】
パッチ電極15と、スロット57を含むスロット電極55の部分と、これらの間の液晶層LCとがアンテナ単位Uを構成する。各アンテナ単位Uにおいて、1つのパッチ電極15が1つのスロット57を含むスロット電極55の部分と液晶層LCを介して対向しており、液晶容量を構成している。パッチ電極15とスロット電極55とが液晶層LCを介して対向する構造は、LCDパネルの画素電極と対向電極とが液晶層を介して対向する構造と似ている。すなわち、走査アンテナ1000のアンテナ単位Uと、LCDパネルにおける画素とは似た構成を有している。また、アンテナ単位は、液晶容量と電気的に並列に接続された補助容量を有している点でもLCDパネルにおける画素と似た構成を有している。しかしながら、走査アンテナ1000は、LCDパネルと多くの相違点を有している。
【0021】
まず、走査アンテナ1000の誘電体基板1、51に求められる性能は、LCDパネルの基板に求められる性能と異なる。
【0022】
一般にLCDパネルには、可視光に透明な基板が用いられ、例えば、ガラス基板またはプラスチック基板が用いられる。反射型のLCDパネルにおいては、背面側の基板には透明性が必要ないので、半導体基板が用いられることもある。これに対し、アンテナ用の誘電体基板1、51としては、マイクロ波に対する誘電損失(マイクロ波に対する誘電正接をtanδMと表すことにする。)が小さいことが好ましい。誘電体基板1、51のtanδMは、概ね0.03以下であることが好ましく、0.01以下がさらに好ましい。具体的には、ガラス基板またはプラスチック基板を用いることができる。ガラス基板はプラスチック基板よりも寸法安定性、耐熱性に優れ、TFT、配線、電極等の回路要素をLCD技術を用いて形成するのに適している。例えば、導波路を形成する材料が空気とガラスである場合、ガラスの方が上記誘電損失が大きいため、ガラスがより薄い方が導波ロスを減らすことができるとの観点から、好ましくは400μm以下であり、300μm以下がさらに好ましい。下限は特になく、製造プロセスにおいて、割れることなくハンドリングできればよい。
【0023】
電極に用いられる導電材料も異なる。LCDパネルの画素電極や対向電極には透明導電膜としてITO膜が用いられることが多い。しかしながら、ITOはマイクロ波に対するtanδMが大きく、アンテナにおける導電層として用いることができない。スロット電極55は、反射導電板65とともに導波路301の壁として機能する。したがって、導波路301の壁におけるマイクロ波の透過を抑制するためには、導波路301の壁の厚さ、すなわち、金属層(Cu層またはAl層)の厚さは大きいことが好ましい。金属層の厚さが表皮深さの3倍であれば、電磁波は1/20(-26dB)に減衰され、5倍であれば1/150(-43dB)程度に減衰されることが知られている。したがって、金属層の厚さが表皮深さの5倍であれば、電磁波の透過率を1%に低減することができる。例えば、10GHzのマイクロ波に対しては、厚さが3.3μm以上のCu層、および厚さが4.0μm以上のAl層を用いると、マイクロ波を1/150まで低減することができる。また、30GHzのマイクロ波に対しては、厚さが1.9μm以上のCu層、および厚さが2.3μm以上のAl層を用いると、マイクロ波を1/150まで低減することができる。このように、スロット電極55は、比較的厚いCu層またはAl層で形成することが好ましい。Cu層またはAl層の厚さに上限は特になく、成膜時間やコストを考慮して、適宜設定され得る。Cu層を用いると、Al層を用いるよりも薄くできるという利点が得られる。比較的厚いCu層またはAl層の形成は、LCDの製造プロセスで用いられる薄膜堆積法だけでなく、Cu箔またはAl箔を基板に貼り付ける等、他の方法を採用することもできる。金属層の厚さは、例えば、2μm以上30μm以下である。薄膜堆積法を用いて形成する場合、金属層の厚さは5μm以下であることが好ましい。なお、反射導電板65は、例えば、厚さが数mmのアルミニウム板、銅板などを用いることができる。
【0024】
パッチ電極15は、スロット電極55のように導波路301を構成する訳ではないので、スロット電極55よりも厚さが小さいCu層またはAl層を用いることができる。ただし、スロット電極55のスロット57付近の自由電子の振動がパッチ電極15内の自由電子の振動を誘起する際に熱に変わるロスを避けるために、抵抗が低い方が好ましい。量産性の観点からはCu層よりもAl層を用いることが好ましく、Al層の厚さは例えば0.3μm以上2μm以下が好ましい。
【0025】
また、アンテナ単位Uの配列ピッチは、画素ピッチと大きく異なる。例えば、12GHz(Ku band)のマイクロ波用のアンテナを考えると、波長λは、例えば25mmである。そうすると、特許文献4に記載されているように、アンテナ単位Uのピッチはλ/4以下および/またはλ/5以下であるので、6.25mm以下および/または5mm以下ということになる。これはLCDパネルの画素のピッチと比べて10倍以上大きい。したがって、アンテナ単位Uの長さおよび幅もLCDパネルの画素長さおよび幅よりも約10倍大きいことになる。
【0026】
もちろん、アンテナ単位Uの配列はLCDパネルにおける画素の配列と異なり得る。ここでは、同心円状に配列した例(例えば、特開2002-217640号公報参照)を示すが、これに限られず、例えば、非特許文献2に記載されているように、らせん状に配列されてもよい。さらに、特許文献4に記載されているようにマトリクス状に配列してもよい。
【0027】
走査アンテナ1000の液晶層LCの液晶材料に求められる特性は、LCDパネルの液晶材料に求められる特性と異なる。LCDパネルは画素の液晶層の屈折率変化によって、可視光(波長380nm~830nm)の偏光に位相差を与えることによって、偏光状態を変化させる(例えば、直線偏光の偏光軸方向を回転させる、または、円偏光の円偏光度を変化させる)ことによって、表示を行う。これに対して走査アンテナ1000は、アンテナ単位Uが有する液晶容量の静電容量値を変化させることによって、各パッチ電極から励振(再輻射)されるマイクロ波の位相を変化させる。したがって、液晶層は、マイクロ波に対する誘電率M(εM)の異方性(ΔεM)が大きいことが好ましく、tanδMは小さいことが好ましい。例えば、M. Wittek et al., SID 2015 DIGESTpp.824-826に記載のΔεMが4以上で、tanδMが0.02以下(いずれも19GHzの値)を好適に用いることができる。この他、九鬼、高分子55巻8月号pp.599-602(2006)に記載のΔεMが0.4以上、tanδMが0.04以下の液晶材料を用いることができる。
【0028】
一般に液晶材料の誘電率は周波数分散を有するが、マイクロ波に対する誘電異方性ΔεMは、可視光に対する屈折率異方性Δnと正の相関がある。したがって、マイクロ波に対するアンテナ単位用の液晶材料は、可視光に対する屈折率異方性Δnが大きい材料が好ましいと言える。LCD用の液晶材料の屈折率異方性Δnは550nmの光に対する屈折率異方性で評価される。ここでも550nmの光に対するΔn(複屈折率)を指標に用いると、Δnが0.3以上、好ましくは0.4以上のネマチック液晶が、マイクロ波に対するアンテナ単位用に用いられる。Δnに特に上限はない。ただし、Δnが大きい液晶材料は極性が強い傾向にあるので、信頼性を低下させる恐れがある。液晶層の厚さは、例えば、1μm~500μmである。
【0029】
以下、走査アンテナの構造をより詳細に説明する。
【0030】
まず、
図1、
図2Aおよび
図2Bを参照する。
図1は詳述した様に走査アンテナ1000の中心付近の模式的な部分断面図であり、
図2Aおよび
図2Bは、それぞれ、走査アンテナ1000が備えるTFT基板101およびスロット基板201を示す模式的な平面図である。
【0031】
走査アンテナ1000は2次元に配列された複数のアンテナ単位Uを有しており、ここで例示する走査アンテナ1000では、複数のアンテナ単位が同心円状に配列されている。以下の説明においては、アンテナ単位Uに対応するTFT基板101の領域およびスロット基板201の領域を「アンテナ単位領域」と呼び、アンテナ単位と同じ参照符号Uを付すことにする。また、
図2Aおよび
図2Bに示す様に、TFT基板101およびスロット基板201において、2次元的に配列された複数のアンテナ単位領域によって画定される領域を「送受信領域R1」と呼び、送受信領域R1以外の領域を「非送受信領域R2」と呼ぶ。非送受信領域R2には、端子部、駆動回路などが設けられる。
【0032】
図2Aは、走査アンテナ1000が備えるTFT基板101を示す模式的な平面図である。
【0033】
図示する例では、TFT基板101の法線方向から見たとき、送受信領域R1はドーナツ状である。非送受信領域R2は、送受信領域R1の中心部に位置する第1非送受信領域R2aと、送受信領域R1の周縁部に位置する第2非送受信領域R2bとを含む。送受信領域R1の外径は、例えば200mm~1500mmで、通信量などに応じて設定される。
【0034】
TFT基板101の送受信領域R1には、誘電体基板1に支持された複数のゲートバスラインGLおよび複数のソースバスラインSLが設けられ、これらの配線によってアンテナ単位領域Uが規定されている。アンテナ単位領域Uは、送受信領域R1において、例えば同心円状に配列されている。アンテナ単位領域Uのそれぞれは、TFTと、TFTに電気的に接続されたパッチ電極とを含んでいる。TFTのソース電極はソースバスラインSLに、ゲート電極はゲートバスラインGLにそれぞれ電気的に接続されている。また、ドレイン電極は、パッチ電極と電気的に接続されている。
【0035】
非送受信領域R2(R2a、R2b)には、送受信領域R1を包囲するようにシール領域Rsが配置されている。シール領域Rsにはシール材が付与されている。シール材は、TFT基板101およびスロット基板201を互いに接着させるとともに、これらの基板101、201の間に液晶を封入する。
【0036】
非送受信領域R2のうちシール領域Rsによって包囲された領域の外側には、ゲート端子部GT、ゲートドライバGD、ソース端子部STおよびソースドライバSDが設けられている。ゲートバスラインGLのそれぞれはゲート端子部GTを介してゲートドライバGDに接続されている。ソースバスラインSLのそれぞれはソース端子部STを介してソースドライバSDに接続されている。なお、この例では、ソースドライバSDおよびゲートドライバGDは誘電体基板1上に形成されているが、これらのドライバの一方または両方は他の誘電体基板上に設けられていてもよい。
【0037】
非送受信領域R2には、また、複数のトランスファー端子部PTが設けられている。トランスファー端子部PTは、スロット基板201のスロット電極55(
図2B)と電気的に接続される。本明細書では、トランスファー端子部PTとスロット電極55との接続部を「トランスファー部」と称する。図示するように、トランスファー端子部PT(トランスファー部)は、シール領域Rs内に配置されてもよい。この場合、シール材として導電性粒子を含有する樹脂を用いてもよい。これにより、TFT基板101とスロット基板201との間に液晶を封入させるとともに、トランスファー端子部PTとスロット基板201のスロット電極55との電気的な接続を確保できる。この例では、第1非送受信領域R2aおよび第2非送受信領域R2bの両方にトランスファー端子部PTが配置されているが、いずれか一方のみに配置されていてもよい。
【0038】
なお、トランスファー端子部PT(トランスファー部)は、シール領域Rs内に配置されていなくてもよい。例えば非送受信領域R2のうちシール領域Rs以外の領域内に配置されていてもよい。トランスファー部は、シール領域Rs内およびシール領域Rs以外の領域内の両方に配置されていてももちろんよい。
【0039】
図2Bは、走査アンテナ1000におけるスロット基板201を例示する模式的な平面図であり、スロット基板201の液晶層LC側の表面を示している。
【0040】
スロット基板201では、誘電体基板51上に、送受信領域R1および非送受信領域R2に亘ってスロット電極55が形成されている。
【0041】
スロット基板201の送受信領域R1では、スロット電極55には複数のスロット57が配置されている。スロット57は、TFT基板101におけるアンテナ単位領域Uに対応して配置されている。図示する例では、複数のスロット57は、ラジアルインラインスロットアンテナを構成するように、互いに概ね直交する方向に延びる一対のスロット57が同心円状に配列されている。互いに概ね直交するスロットを有するので、走査アンテナ1000は、円偏波を送受信することができる。
【0042】
非送受信領域R2には、複数の、スロット電極55の端子部ITが設けられている。端子部ITは、TFT基板101のトランスファー端子部PT(
図2A)と電気的に接続される。この例では、端子部ITは、シール領域Rs内に配置されており、導電性粒子を含有するシール材によって対応するトランスファー端子部PTと電気的に接続される。
【0043】
また、第1非送受信領域R2aにおいて、スロット基板201の裏面側に給電ピン72が配置されている。給電ピン72によって、スロット電極55、反射導電板65および誘電体基板51で構成された導波路301にマイクロ波が挿入される。給電ピン72は給電装置70に接続されている。給電は、スロット57が配列された同心円の中心から行う。給電の方式は、直結給電方式および電磁結合方式のいずれであってもよく、公知の給電構造を採用することができる。
【0044】
図2Aおよび
図2Bでは、シール領域Rsは、送受信領域R1を含む比較的狭い領域を包囲するように設けた例を示したが、これに限られない。
図3に、走査アンテナ1000の変形例の走査アンテナ1001の模式的な平面図を示す。例えば
図3に示す例のように、送受信領域R1の外側に設けられるシール領域Rsは、送受信領域R1から一定以上の距離を持つように、例えば、誘電体基板1および/または誘電体基板51の辺の近傍に設けてもよい。すなわち、
図3に示す例では、シール領域Rsによって包囲された領域は、送受信領域R1と、非送受信領域R2の一部とを含む。もちろん、非送受信領域R2に設けられる、例えば端子部や駆動回路(ゲートドライバGDおよびソースドライバSDを含む)は、シール領域Rsに包囲された領域の外側(すなわち、液晶層が存在しない側)に形成してもよい。一般的には、TFT基板101のうち、端子部や駆動回路(例えば、ゲートドライバGD、ソースドライバSD、ソース端子部STおよびゲート端子部GT)を有する部分は、スロット基板201と重ならずに露出されている。
図3では、簡単のために、スロット基板201の端とシール領域Rs(シール部73)とを区別せずに示しているが、スロット基板201の端はシール領域Rs(シール部73)とTFT基板101の端との間にある。以降の図面でも簡単のために同様に示すことがある。送受信領域R1から一定以上の離れた位置にシール領域Rsを形成することによって、シール材(特に、硬化性樹脂)に含まれている不純物(特にイオン性不純物)の影響を受けてアンテナ特性が低下することを抑制することができる。
【0045】
走査アンテナ1000および走査アンテナ1001は、例えば出願人による国際公開第2017/065088号に記載されているように、複数の走査アンテナ部分をタイリングすることによって作製されてもよい。例えば、走査アンテナの液晶パネルを分割して作製することができる。走査アンテナの液晶パネルは、それぞれ、TFT基板と、スロット基板と、これらの間に設けられた液晶層とを有している。空気層(あるいは他の誘電体層)54および反射導電板65は、複数の走査アンテナ部分に対して共通に設けられていてもよい。
【0046】
図4Aおよび
図4Bに、走査アンテナ1001が備える液晶パネルのタイリング構造の例を示す。例えば、走査アンテナ1001の液晶パネルは、
図4Aに示すように、4つの液晶パネル100a1~100a4をタイリングすることによって作製してもよいし、
図4Bに示すように、2つの液晶パネル100b1および100b2をタイリングすることによって作製してもよい。簡単のために、走査アンテナ部分が有する構成要素について、走査アンテナと同じ参照符号を付すことがある。
【0047】
図4Cに、液晶パネル100a1の模式的な平面図を示す。
図4Cに示すように、液晶パネル100a1は、TFT基板101aと、スロット基板201aと、これらの間に設けられた液晶層LCと、液晶層LCを包囲するシール部73aとを有している。スロット基板201aとTFT基板101aとは、シール部73aを形成するシール材で互いに接着、固定されている。例えばシール部73aは、メインシール部75aと、エンドシール部(不図示)とを有する。図示する例では、シール部73aは、送受信領域R1と非送受信領域R2の一部とを包囲するように形成されている。非送受信領域R2は、既に述べたように、送受信領域R1以外の領域である。液晶パネル100a1のTFT基板101aおよびスロット基板201aは、それぞれ、走査アンテナ1001のTFT基板101およびスロット基板201を構成するので、以下の説明でTFT基板101およびスロット基板201と称することもある。なお、
図3、
図4A、
図4Bおよび
図4Cでは、送受信領域R1にハッチングを付している。
【0048】
シール部73aは次のようにして形成される。まず、スロット基板201aおよびTFT基板101aの一方の基板上に、例えばディスペンサを用いて、注入口74aとなる部分に開口を有するパターンをシール材で描画する。ディスペンサによるシール材の描画に代えて、例えば、スクリーン印刷によって、所定のパターンにシール材を付与してもよい。その後、他方の基板と重ね合わせ、圧力をかけながら、所定の温度で、所定の時間加熱することによって、シール材を硬化する。シール材には、セルギャップを制御するための粒状のスペーサ(例えば樹脂ビーズまたはガラスビーズ)が混入されており、スロット基板201aとTFT基板101aとの間に液晶層LCが形成されるギャップを保って、互いに接着、固定される。これにより、メインシール部75aが形成される。
【0049】
その後、液晶層LCを形成する。注入口74aから、液晶材料を真空注入法で注入する。その後、注入口74aを塞ぐように例えば熱硬化型の封止材を付与し、所定の温度で、所定の時間加熱することによって、封止材が硬化され、エンドシール部が形成される。真空注入法を用いる場合、このように、メインシール部75aとエンドシール部とで、液晶層LCを包囲するシール部73aの全体が形成される。なお、滴下注入法を用いて液晶層LCを形成してもよい。滴下注入法を用いる場合、メインシール部が液晶層LCを包囲するように形成されるので、注入口およびエンドシール部は形成されない。
【0050】
なお、1枚のマザーガラス基板から複数のTFT基板を作製し、1枚のマザーガラス基板から複数のスロット基板を作製する場合は、例えば、マザーガラス基板同士を貼り合せてシール部を形成した後、液晶層を形成する前に、例えばダイシング、レーザ加工により、各液晶パネルに対応する部分を切り出せばよい。
【0051】
上述したように、走査アンテナは、アンテナ単位の各液晶層に印加する電圧を制御し、各アンテナ単位の液晶層の実効的な誘電率M(εM)を変化させることによって、静電容量の異なるアンテナ単位で2次元的なパターンを形成する。ところが、アンテナ単位の静電容量値が変動することがある。例えば走査アンテナの環境温度によって液晶材料の体積が変化し、それに起因して、液晶容量の静電容量値が変化することがある。その結果、アンテナ単位の液晶層がマイクロ波に与える位相差が所定の値からずれることになる。位相差が所定の値からずれると、アンテナ特性が低下する。このアンテナ特性の低下は、例えば、共振周波数のずれとして評価され得る。実際には、例えば、走査アンテナは予め決められた共振周波数でゲインが最大となるように設計されるので、アンテナ特性の低下は、例えば、ゲインの変化として現れる。あるいは、走査アンテナのゲインが最大となる方向が所望する方向からずれると、例えば、通信衛星を正確に追尾できないことになる。
【0052】
走査アンテナ1000または走査アンテナ1001におけるアンテナ性能の低下の原因となり得る問題(問題1)を具体的に説明する。
【0053】
走査アンテナ1000または走査アンテナ1001の液晶層LCが形成された直後には、液晶層LCに真空気泡がほぼ発生していないことが一般的である。液晶層LCが形成されるとは、例えば、TFT基板101およびスロット基板201の間、かつ、シール部73で包囲された領域内に液晶材料が注入されることをいう。液晶層は真空注入法で形成されてもよいし、滴下注入法で形成されてもよい。液晶層を形成する工程において、液晶材料の供給量が不足すると、局所的に液晶材料が不足する状態となり、その結果、気泡(「真空気泡」と呼ばれることがある。)が発生する場合がある。アンテナ単位Uの液晶層LCに真空気泡が発生すると、液晶容量の静電容量値が変化することによって、アンテナ特性の低下が生じ得る。従って、液晶層に真空気泡が発生することを避けるために、液晶層を形成する工程において、液晶材料の供給量が不足しないようにするのが一般的である。しかしながら、この場合、液晶層LCを形成した後に、液晶層LCを構成する液晶材料の体積が変化すると、TFT基板101が有する誘電体基板1および/またはスロット基板201が有する誘電体基板51のたわみによって液晶層LCの厚さが変化する。誘電体基板1および51は例えばガラス基板である。液晶材料が熱膨張すると、液晶層LCの厚さが大きくなり、液晶材料が熱収縮すると、液晶層LCの厚さが小さくなる。液晶層LCの厚さが変化すると、液晶容量の静電容量値が変化し、その結果、アンテナ特性の低下の原因となり得る。
【0054】
走査アンテナ1000または走査アンテナ1001におけるアンテナ性能の低下の原因となり得る他の問題(問題2)について、
図5を参照しながら説明する。
図5は、走査アンテナ1001の、シール部73に包囲された領域の模式的な断面図である。
図5においては、反射導電板65および誘電体層54(
図1)の図示を省略している。以後、走査アンテナの断面図において、反射導電板65および誘電体層54(反射導電板65と誘電体基板51との間に設けられた誘電体層54)の図示を省略することがある。ここで、シール部73は、
図3に示したように、送受信領域R1と非送受信領域R2の一部とを包囲するように形成されている。非送受信領域R2は、既に述べたように、送受信領域R1以外の領域である。ここで、送受信領域R1と非送受信領域R2との境界線は、例えば、最も外側のアンテナ単位から2mm以上離れた点を含む線とすることができる。
【0055】
図5に示すように、送受信領域R1には、セルギャップを制御する柱状スペーサ(フォトスペーサ)PSが設けられている。すなわち、液晶層LCの厚さを均一にするために、TFT基板101およびスロット基板201の少なくとも一方に、紫外線硬化性樹脂を用いて形成された柱状のフォトスペーサが配置されている。図示するように、柱状スペーサPSは、非送受信領域R2にも設けられていてもよい。柱状スペーサPSが設けられていると、温度が降下して液晶材料が熱収縮しても、柱状スペーサPSによってセルギャップの変化が抑制される。すなわち、TFT基板101および/またはスロット基板201がたわむことがある程度抑制されるので、液晶層LCの厚さの変化が抑制される。しかしながら、熱収縮による液晶材料の体積の減少に柱状スペーサが追随しないことによって、低温において柱状スペーサの周辺に真空気泡が生じることがある。このように生じる真空気泡は「低温気泡」と呼ばれることもある。特に送受信領域R1の柱状スペーサPSの周辺に真空気泡が生じると、液晶容量の静電容量値が変化し、その結果、アンテナ特性が低下する場合がある。
【0056】
本発明の実施形態による走査アンテナは、これらの問題の発生を抑制し、高温時から低温時までの広い温度範囲において、アンテナ性能の低下を抑制することができる。
【0057】
本発明の実施形態による走査アンテナを、
図6Aおよび
図6Bを参照しながら説明する。
図6Aは、本発明の実施形態による走査アンテナの液晶パネルを4枚の液晶パネルをタイリングすることによって作製する際の1枚の液晶パネル100Aaの模式的な平面図である。
図6Bは、液晶パネル100Aaの模式的な断面図である。走査アンテナ1000または走査アンテナ1001と共通する構成には共通の参照符号を付し、説明を省略することがある。以下では、走査アンテナを4つに分割して作製する例を説明するが、本発明の実施形態はこれに限られないことはもちろんである。
【0058】
図6Aおよび
図6Bに示すように、液晶パネル100Aaのシール部73aは、
図3に示した走査アンテナ1001と同様に、送受信領域R1と非送受信領域R2の一部とを包囲するように形成されている。
図6Aでは、送受信領域R1にハッチングを付している。液晶パネル100Aaは、非送受信領域R2のうちのシール部73aで包囲された領域内に配置された追加シール部76Aをさらに有する点において、液晶パネル100aと異なる。
図6Bに示すように、追加シール部76Aにおける第1誘電体基板1と第2誘電体基板51との間隙G2は、送受信領域R1における第1誘電体基板1と第2誘電体基板51との間隙G1よりも広い。なお、
図6Bのシール部73aよりも左側は、シール部73aに包囲された領域を示している。
図6Aに示すように、追加シール部76Aは、第1誘電体基板1の表面と交わる第1主側面79aおよび第2主側面79bを有し、第1誘電体基板1の法線方向から見たとき、第1主側面79aおよび第2主側面79bは、複数の凹部および/または複数の凸部を有する。すなわち、第1誘電体基板1の法線方向から見たとき、第1主側面79aおよび第2主側面79bは、凹凸構造を有する。言い換えると、追加シール部76Aを第1誘電体基板1の法線方向から見たときの形状を追加シール部76Aの平面形状とすると、追加シール部76Aの平面形状は、複数の凹部および/または複数の凸部を含む。
【0059】
図6Bに示すように、液晶パネル100Aaを用いて作製される走査アンテナにおいては、液晶層LCを形成する工程において、液晶層LCに(すなわち、TFT基板101aとスロット基板201aとの間、かつ、シール部73aに包囲された領域に)意図的に真空気泡(真空領域)BBを発生させておく。これによって、液晶材料の体積変化による液晶層LCの厚さの変化を抑制する。つまり、液晶材料の体積変化を真空気泡が吸収することによって、液晶層LCの厚さの変化が抑制される。このとき、非送受信領域R2に追加シール部76Aを有することによって、液晶層LCを形成する工程において生じさせる真空気泡(真空領域)BBの位置を制御し、真空気泡が送受信領域R1に形成されることを抑制することができる。液晶層LCを形成する工程において、真空気泡(真空領域)は、TFT基板とスロット基板との間の距離が最も大きい領域に形成され易い傾向にあるためである。さらに、追加シール部76Aが側面(液晶材料に接し得る表面)に凹凸構造を有することにより、凹凸構造の周辺に真空気泡が形成され易いので、真空気泡の位置をさらに高い精度で制御できる。シール部73aで包囲された領域の大きさにもよるが、例えば、液晶層LCの温度が25℃(室温)において、誘電体基板1の法線方向から見たとき、真空気泡の面積が、シール部73aで包囲された領域の面積の2%以上21%以下であることが好ましい。
【0060】
図6Cおよび
図6Dを参照しながら、液晶層を形成した後の液晶材料の移動を説明する。
図6Cは、液晶材料を注入した直後の液晶パネル100Aaの模式的な平面図であり、
図6Dは、液晶材料を注入してから一定の時間が経過した後の液晶パネル100Aaの模式的な平面図である。
図6Cおよび
図6Dでは、シール部73aに包囲された領域のうち、液晶材料を有する領域にハッチングを付している。シール部73aに包囲された領域のうち、液晶材料を有しない領域が真空気泡(真空領域)BBである。
図6Cおよび
図6Dに示すように、真空気泡を含む液晶層LCが形成されてから時間が経過するにつれて、真空気泡が追加シール部76A付近に位置する確率は高くなる。
図6Cに示すように、液晶材料を注入した直後(すなわち液晶層LCを形成した直後)においては、注入口74aから近い領域から順に液晶材料が充填されており、真空気泡(真空領域)BBは、注入口74aから遠い領域に生じている。
図6Cの状態から時間が経過するにつれて、液晶材料が移動することにより、
図6Dに示すように、追加シール部76Aの周囲にも真空気泡(真空領域)BBが形成され、
図6Cにおいて注入口74aから遠い領域に形成されていた真空気泡(真空領域)BBは減少する。これは、液晶材料ができるだけ平坦な領域(TFT基板とスロット基板との間の距離が一定な領域)に存在しようとして移動することによる。
【0061】
液晶材料の移動は(すなわち
図6Cの状態から
図6Dの状態への遷移は)、液晶層の温度を上げることによって加速される。例えば、室温では1週間程度かかるのに対して、およそ80℃では数時間程度で済む。液晶層の温度が上がると、液晶材料の粘度が下がり、液晶材料は移動しやすくなる。従って、液晶材料を注入した後、液晶層の温度を例えば80℃以上に上昇させる工程を行ってもよい。液晶材料が移動した後、液晶層を例えば室温に降温すればよい。
【0062】
以上のように、真空気泡は追加シール部76A周辺(すなわち非送受信領域R2)に形成され易いので、真空気泡が送受信領域R1に形成されることを抑制することができる。従って、例えば室温において、真空気泡が送受信領域R1に形成されることを抑制することによって、アンテナ性能の低下を抑制することができる。室温から液晶層の温度が変化したときは、液晶材料の体積変化を真空気泡が吸収することによって、液晶層の厚さの変化を抑制することにより、アンテナ性能の低下を抑制することができる。
【0063】
液晶層LCを形成する工程において、液晶材料の供給量を調整することによって、液晶層LCに(すなわち、TFT基板101aとスロット基板201aとの間、かつ、シール部73aに包囲された領域に)真空気泡(真空領域)BBを形成することができる。これにより、液晶材料の体積変化を真空気泡が吸収することによって、液晶層LCの厚さの変化が抑制される。つまり、TFT基板101aおよび/またはスロット基板201aが有する誘電体基板(例えばガラス基板)のたわみも抑制される。液晶材料が膨張した場合は、真空気泡の体積が小さくなり、液晶材料が収縮した場合は、真空気泡の体積が大きくなる。特に、液晶材料が熱膨張した場合は、真空気泡が残存している限り、TFT基板101aおよびスロット基板201aの変形(たわみ)を回避することができるので、真空気泡が残存している限り液晶層LCの厚さは変化しないと考えられる。
【0064】
液晶層は真空注入法で形成してもよいし、滴下注入法で形成してもよい。真空注入法を用いる場合は、例えば、TFT基板とスロット基板との間、かつ、シール部に包囲された領域内に真空領域が存在する状態で、液晶材料の供給を止めればよい。滴下注入法を用いる場合は、例えば、シール部で包囲された領域の全てを満たすのに必要な体積よりも少ない量の液晶材料を滴下すればよい。滴下注入法を用いる場合は、送受信領域R1に優先的に液晶材料を滴下してもよい。
【0065】
本実施形態による走査アンテナは、非送受信領域R2の内のシール部73aで包囲された領域内に追加シール部76Aを有することによって、液晶材料が熱収縮した場合、送受信領域R1の柱状スペーサPSの周辺に真空気泡(低温気泡)が生じることを抑制することができるという効果も得られる。これにより、真空気泡(低温気泡)によるアンテナ性能の低下を抑制することができる。上述したように、液晶材料が熱収縮した場合、熱収縮による液晶材料の体積の減少に柱状スペーサが追随しないことによって、真空気泡(低温気泡)が柱状スペーサの周辺に生じることがある。送受信領域R1内の液晶層LC(なかでもパッチ電極15およびスロット57近傍の液晶層LC)に真空気泡が発生すると、液晶容量の静電容量値の変化によりアンテナ性能に影響するおそれがある。ここで、温度降下時に低温気泡が最初に生じるのは、最も大きいセルギャップを規定するスペーサの周辺である。従って、本実施形態による走査アンテナは、追加シール部76Aを非送受信領域R2に有し、追加シール部76Aが規定する第1誘電体基板1と第2誘電体基板51との間隙が、送受信領域R1における第1誘電体基板1と第2誘電体基板51との間隙よりも広いことによって、低温気泡を追加シール部76Aの周辺(すなわち非送受信領域R2)に優先的に発生させ、送受信領域R1の柱状スペーサPSの周辺に低温気泡が生じることを抑制することができる。これにより、アンテナ性能の低下が抑制される。
【0066】
液晶層を形成する工程において、液晶材料を注入した後、液晶層の温度を例えば120℃以上(または例えばTni点以上)に上昇させ、その後降温することによって、液晶層に形成された真空気泡(真空領域)の位置をより高い精度で制御することができる。すなわち、液晶層を加熱すると、上述したように、液晶材料の体積が増加することによって、真空気泡(真空領域)の体積が小さくなる。例えば真空気泡(真空領域)が消える程度にまで液晶層の温度を上昇させ、その後降温すると、上述したように、最も大きいセルギャップを有する追加シール部76Aの周辺から真空気泡が生じ始める。
【0067】
なお、上述した
図6Cおよび
図6Dは、液晶材料の移動を模式的に示したものであり、実際には、液晶層を形成してから一定の時間が経過しても、
図6Dに示したように全ての真空気泡が非送受信領域R2に位置するとは限らない場合があり得る。このような場合においても、上記のように、真空気泡をいったん消滅させる程度にまで液晶層の温度を上げる工程を行うことによって、真空気泡の位置をより高い精度で制御することができる。
【0068】
追加シール部76Aは、例えば、シール部73aに含まれる粒状スペーサよりも粒径の大きい粒状スペーサを含む。シール部73aによって規定される、第1誘電体基板1と第2誘電体基板51との間隙は、典型的には、送受信領域R1における第1誘電体基板1と第2誘電体基板51との間隙と同じである。この場合、追加シール部76Aが、シール部73aに含まれる粒状スペーサよりも粒径の大きい粒状スペーサを含むことによって、追加シール部76Aは、送受信領域R1における第1誘電体基板1と第2誘電体基板51との間隙よりも大きい、第1誘電体基板1と第2誘電体基板51との間隙を規定することができる。
【0069】
追加シール部76Aは、送受信領域R1における第1誘電体基板1と第2誘電体基板51との間隙(「第1間隙」ということがある。)よりも大きい第1誘電体基板1と第2誘電体基板51との間隙を規定するスペーサ構造体を有すればよい。本明細書において、「スペーサ構造体」は、第1誘電体基板1と第2誘電体基板51との間に含まれる導電層、絶縁層、および、スペーサ(柱状スペーサまたは粒状スペーサ等)を全て含む。送受信領域R1に配置された、第1間隙を規定するスペーサ構造体を「第1スペーサ構造体」ということがある。図示する例では、第1スペーサ構造体は柱状スペーサPSを含む。第1スペーサ構造体は、典型的には、パッチ電極15とスロット電極55との間の液晶層LCの厚さを規定する柱状スペーサを含む。本発明の実施形態による走査アンテナは、追加シール部が第1スペーサ構造体よりも高い第2スペーサ構造体を有すればよい。第1間隙を規定する第1スペーサ構造体の高さを1とすると、第2スペーサ構造体の高さは、例えば1.1以上2.0以下であることが好ましい。第1スペーサ構造体の高さと第2スペーサ構造体の高さとの差は、例えば0.9μm以上3μm以下である。第2スペーサ構造体が第1スペーサ構造体に比べて高すぎると、送受信領域R1の液晶層LCの厚さに影響を及ぼすおそれがある。
【0070】
追加シール部76Aの側面に沿って真空気泡が形成され易くする観点からは、第1誘電体基板1の法線方向から見たとき、追加シール部76Aの第1主側面79aおよび第2主側面79bが有する複数の凹部または複数の凸部のピッチは、例えば、2mm以上100mm以下であることが好ましい。図示する例では、第1誘電体基板1の法線方向から見たとき、追加シール部76Aの第1主側面79aおよび第2主側面79bは、それぞれ独立に、複数の凹部を有するということもできるし、複数の凸部を有するということもできる。凹部の幅と凸部の幅とはほぼ等しく、複数の凹部のピッチ(または複数の凸部のピッチ)は、1個の凹部の幅と1個の凸部の幅との和である。図示する例では、第1誘電体基板1の法線方向から見たとき、追加シール部76Aの第1主側面79aおよび第2主側面79bが有する凹部および凸部は、略三角形状である。ただし、追加シール部の形状は例示するものに限られず、第1誘電体基板1の法線方向から見たとき、追加シール部の第1主側面および第2主側面が有する凹部および/または凸部は、例えば矩形状、半円状、半楕円状等であってよい。第1誘電体基板1の法線方向から見たとき、追加シール部の第1主側面および第2主側面は、互いに異なる複数の形状の凸部(または凹部)を含んでもよいし、同じ形状の凸部(または凹部)の繰り返し構造を含んでもよい。図示する例では、第1誘電体基板1の法線方向から見たとき、第1主側面79aおよび第2主側面79bは、互いに略平行である。追加シール部は、複数の部分に分離していてもよいが、図示する例のように、第1誘電体基板1の法線方向から見たとき、連続した線(直線および曲線を含む)状であると、以下で述べるようにシール材で描画することによって形成することができるので、量産性の観点から好ましい。図示する例のように、第1誘電体基板1の法線方向から見たとき、追加シール部76Aの一端は、シール部73aに接していてもよい。
【0071】
なお、ここでは、追加シール部76Aの第1主側面79aおよび第2主側面79bの両方が、複数の凹部および/または複数の凸部を有する例を示したが、本発明の実施形態はこれに限られない。追加シール部の第1主側面および第2主側面の少なくとも一方が、複数の凹部および/または複数の凸部を有すればよい。この場合、追加シール部76Aを有する走査アンテナと同様の効果が得られる。
【0072】
液晶パネル100Aaは例えば次のようにして作製される。液晶パネル100Aaは、追加シール部76Aを除いて、液晶パネル100aと同様の方法で作製することができる。
【0073】
液晶パネル100aと同様に、スロット基板201aおよびTFT基板101aの一方の基板上に、シール部73aを形成するシールパターンをシール材で描画する。このとき、スロット基板201aおよびTFT基板101aの一方の基板(典型的には、シール部73aを形成するシールパターンと同じ基板)上に、例えばディスペンサを用いて、追加シール部76Aを形成するシールパターンをシール材で描画する。追加シール部76Aを形成するシール材は、例えば、シール部73aを形成するシール材に含まれる粒状スペーサよりも粒径の大きい粒状スペーサを含む。
【0074】
その後、他方の基板と重ね合わせ、圧力をかけながら、所定の温度で、所定の時間加熱することによって、シール材を硬化する。
【0075】
その後、上述した方法で、液晶層LCを形成する。すなわち、TFT基板101aとスロット基板201aとの間、かつ、シール部73aで包囲された領域内に真空気泡を生じさせるように液晶材料を供給する。例えば、注入口74aから、液晶材料を真空注入法で注入してもよいし、滴下注入法を用いて液晶層LCを形成してもよい。
【0076】
上記では、シール材を用いて追加シール部76Aを形成する例を説明したが、本発明の実施形態による走査アンテナが有する追加シール部は、シール材を用いて形成するものに限られず、例えばフォトリソグラフィプロセスで形成してもよい。例えば、柱状スペーサPSと同じ材料(例えば紫外線硬化性樹脂)を用いて形成してもよいし、異なる樹脂材料をさらに含んでもよい。柱状スペーサPSと同じプロセスで形成することもできる。
【0077】
追加シール部がシール材を用いて形成するものに限られないということを明確にするために、追加シール部を「壁状構造体」と呼ぶことがある。本明細書で追加シール部として説明する事項は、壁状構造体にもあてはまる。壁状構造体は、追加シール部としてここまで説明してきたように、以下の構造(1)および(2)を有するものであればよい。(1)第1間隙(送受信領域R1における第1誘電体基板1と第2誘電体基板51との間隙)よりも広い、非送受信領域R2における第1誘電体基板1と第2誘電体基板51との間隙を規定するスペーサ構造体を有する。(2)第1誘電体基板1の表面と交わる第1主側面および第2主側面を有し、第1誘電体基板1の法線方向から見たとき、第1主側面および第2主側面の少なくとも一方が、複数の凹部および/または複数の凸部を有する。
【0078】
<変形例>
図7Aおよび
図7Bを参照しながら、追加シール部の変形例を説明する。
図7Aおよび
図7Bは、本発明の実施形態の変形例による走査アンテナの液晶パネルを4枚の液晶パネルをタイリングすることによって作製する際の1枚の液晶パネル100Baおよび液晶パネル100Caの模式的な平面図である。
図7Aおよび
図7Bでは、
図6Aと同様に、送受信領域R1にハッチングを付している。
【0079】
図7Aに示すように、第1誘電体基板1の法線方向から見たとき、液晶パネル100Baが有する追加シール部76Bの第1主側面79aおよび第2主側面79bが有する、複数の凹部および/または複数の凸部は、矩形状である。
【0080】
図7Bに示すように、第1誘電体基板1の法線方向から見たとき、液晶パネル100Caが有する追加シール部76Cの第1主側面79aおよび第2主側面79bが有する、複数の凹部および/または複数の凸部は、矩形状の凹部または凸部と、三角形状の凹部または凸部とを含む。
【0081】
以上のような構造を有する液晶パネル100Baまたは液晶パネル100Caを用いて作製した走査アンテナによっても、液晶パネル100Aaを用いて作製した走査アンテナと同様の効果を得ることができる。
【0082】
図7C、
図7D、
図7Eおよび
図7Fを参照しながら、追加シール部のさらに他の変形例を説明する。
図7C、
図7D、
図7Eおよび
図7Fは、本発明の実施形態による走査アンテナが有し得る追加シール部76D、76E、76F、76Gの第1主側面79aの一部を示す、第1誘電体基板1の法線方向から見た模式的な平面図である。以下の例は、第2主側面にも適用されてもよいし、適用されなくてもよい。例示したもののいずれか複数が組み合わされていてももちろんよい。本発明の実施形態による走査アンテナが有する追加シール部は例示したものに限られず、適宜改変され得る。
【0083】
図7Cに示すように、第1誘電体基板1の法線方向から見たとき、追加シール部76Dの第1主側面79aは、複数の凸部81Dを有するということもできるし、複数の凹部82Dを有するということもできる。凸部81Dの幅Wrと凹部82Dの幅Wdとは互いに異なる。複数の凸部81Dのピッチ(または複数の凹部82Dのピッチ)は、凸部81Dの幅Wrと凹部82Dの幅Wdとの和(Wr+Wd)である。
【0084】
図7Dに示すように、第1誘電体基板1の法線方向から見たとき、追加シール部76Eの第1主側面79aは、複数の凸部81Eを有するということもできるし、複数の凹部82Eを有するということもできる。第1誘電体基板1の法線方向から見たとき、追加シール部76Eの第1主側面79aは、それぞれの凸部81E(「第1凸部81E」ということがある。)に重畳して形成された第2凸部83E、または、それぞれの凹部82E(「第1凹部82E」ということがある。)に重畳して形成された第2凹部84Eをさらに有する。この例では、複数の凸部81Eのピッチ(または複数の凹部82Eのピッチ)は、第1凸部81Eの幅Wr1と第2凹部84Eの幅Wd2との和(Wr1+Wd2)または第1凹部82Eの幅Wd1と第2凸部83Eの幅Wr2との和(Wd1+Wr2)である。
【0085】
図7Eに示すように、第1誘電体基板1の法線方向から見たとき、追加シール部76Fの第1主側面79aは、複数の凸部81Fを有するということもできるし、複数の凹部82Fを有するということもできる。凸部81Fの形状と凹部82Fの形状とは互いに異なる。この例では、複数の凸部81Fのピッチ(または複数の凹部82Fのピッチ)は、凹部82Fの幅Wdである。
【0086】
図7Fに示すように、第1誘電体基板1の法線方向から見たとき、追加シール部76Gの第1主側面79aは、複数の凸部81Gを有するということもできるし、複数の凹部82Gを有するということもできる。凸部81Gの形状と凹部82Gの形状とは互いに異なる。この例では、複数の凸部81Gのピッチ(または複数の凹部82Gのピッチ)は、凸部81Gの幅Wrである。
【0087】
<TFT基板101の構造>
図8、
図9Aおよび
図9Bを参照して、TFT基板101の構造を説明する。
図8は、TFT基板101のアンテナ単位領域Uを示す模式的な平面図であり、
図9Aは、TFT基板101のアンテナ単位領域Uを示す模式的な断面図であり、
図8中のA-A’線に沿った断面を示している。
図9Bは、TFT基板101の非送受信領域R2の内の柱状スペーサPSを有する領域を示す模式的な断面図である。
【0088】
なお、本発明の実施形態による走査アンテナが有するTFT基板の構造は、例示するものに限られない。
【0089】
図8、
図9Aおよび
図9Bに示すように、TFT基板101は、誘電体基板1と、誘電体基板1上に配列された複数のアンテナ単位領域Uとを有する。複数のアンテナ単位領域Uのそれぞれは、TFT10と、TFT10のドレイン電極7Dに電気的に接続されたパッチ電極15とを有する。
【0090】
TFT基板101は、誘電体基板1に支持されたゲートメタル層3と、ゲートメタル層3上に形成されたゲート絶縁層4と、ゲート絶縁層4上に形成されたソースメタル層7と、ソースメタル層7上に形成された第1絶縁層11と、第1絶縁層11上に形成されたパッチメタル層15lと、パッチメタル層15l上に形成された第2絶縁層17とを有する。ここでは、TFT基板101は、後述する
図10A、
図10Bおよび
図10Cに非送受信領域R2の構造を示すように、第2絶縁層17上に形成された上部導電層19をさらに有する。
【0091】
各アンテナ単位領域Uが有するTFT10は、ゲート電極3Gと、島状の半導体層5と、コンタクト層6Sおよび6Dと、ゲート電極3Gと半導体層5との間に配置されたゲート絶縁層4と、ソース電極7Sおよびドレイン電極7Dとを備える。この例では、TFT10は、ボトムゲート構造を有するチャネルエッチ型のTFTである。
【0092】
ゲート電極3Gは、ゲートバスラインGLに電気的に接続されており、ゲートバスラインGLから走査信号を供給される。ソース電極7Sは、ソースバスラインSLに電気的に接続されており、ソースバスラインSLからデータ信号を供給される。ゲート電極3GおよびゲートバスラインGLは同じ導電膜(ゲート用導電膜)から形成されていてもよい。ソース電極7S、ドレイン電極7DおよびソースバスラインSLは同じ導電膜(ソース用導電膜)から形成されていてもよい。ゲート用導電膜およびソース用導電膜は、例えば金属膜である。本明細書では、ゲート用導電膜を用いて形成された層(レイヤー)を「ゲートメタル層」と呼ぶことがあり、ソース用導電膜を用いて形成された層を「ソースメタル層」と呼ぶことがある。また、パッチ電極15を含む層を「パッチメタル層」と呼ぶことがある。
【0093】
半導体層5は、ゲート絶縁層4を介してゲート電極3Gと重なるように配置されている。図示する例では、半導体層5上に、ソースコンタクト層6Sおよびドレインコンタクト層6Dが形成されている。ソースコンタクト層6Sおよびドレインコンタクト層6Dは、それぞれ、半導体層5のうちチャネルが形成される領域(チャネル領域)の両側に配置されている。この例では、半導体層5は真性アモルファスシリコン(i-a-Si)層であり、ソースコンタクト層6Sおよびドレインコンタクト層6Dはn+型アモルファスシリコン(n+-a-Si)層である。
【0094】
ソース電極7Sは、ソースコンタクト層6Sに接するように設けられ、ソースコンタクト層6Sを介して半導体層5に接続されている。ドレイン電極7Dは、ドレインコンタクト層6Dに接するように設けられ、ドレインコンタクト層6Dを介して半導体層5に接続されている。
【0095】
第1絶縁層11は、TFT10のドレイン電極7Dから延設された部分に達する開口部11pを有している。
【0096】
パッチ電極15は、第1絶縁層11上および開口部11p内に設けられており、開口部11p内で、ドレイン電極7Dから延設された部分と接続されている。パッチ電極15は、金属層を含む。パッチ電極15は、金属層のみから形成された金属電極であってもよい。パッチ電極15は、主層としてCu層またはAl層を含んでもよい。走査アンテナの性能はパッチ電極15の電気抵抗と相関があり、主層の厚さは、所望の抵抗が得られるように設定される。電気抵抗の観点から、Cu層の方がAl層よりもパッチ電極15の厚さを小さくできる可能性がある。
【0097】
ここでは、各アンテナ単位領域Uは、液晶容量と電気的に並列に接続された補助容量を有している。補助容量は、例えば、ドレイン電極7Dと電気的に接続された上部補助容量電極7Cと、ゲート絶縁層4と、ゲート絶縁層4を介して上部補助容量電極7Cと対向する下部補助容量電極3Cとによって構成される。例えば、下部補助容量電極3Cはゲートメタル層3に含まれており、上部補助容量電極7Cはソースメタル層7に含まれている。ゲートメタル層3は、下部補助容量電極3Cに接続されたCSバスライン(補助容量線)CLをさらに含んでもよい。
【0098】
図9Bに示すように、ここでは、TFT基板101は、柱状スペーサPSと重なる凸部15hを有している(
図6Bも参照)。凸部15hは、ここではパッチ電極15と同じ導電膜から形成されている(すなわちパッチメタル層15lに含まれている)。凸部15hの上に柱状スペーサPSを形成すれば、柱状スペーサPSの高さを低減できる。凸部15hは、他の導電層から形成されていてもよいし、省略してもよい。
【0099】
図10A、
図10Bおよび
図10Cに、TFT基板101の非送受信領域R2の模式的な断面図を示す。
図10A、
図10Bおよび
図10Cは、それぞれ、ゲート端子部GT、ソース端子部STおよびトランスファー端子部PTを模式的に示している。なお、断面図では、簡単のために、無機絶縁層を平坦化層のように表している場合があるが、一般に、薄膜堆積法(例えばCVD法、スパッタ法、真空蒸着法)によって形成される層は、下地の段差を反映した表面を有する。
【0100】
図10Aに示すように、ゲート端子部GTは、ゲートバスラインGLに電気的に接続されたゲート端子用下部接続部3g(単に「下部接続部3g」ということがある。)と、ゲート絶縁層4、第1絶縁層11、および第2絶縁層17に形成されたコンタクトホールCH_gと、ゲート端子用上部接続部19g(単に「上部接続部19g」ということがある。)とを有する。
【0101】
下部接続部3gは、この例では、ゲートメタル層3に含まれる。下部接続部3gは、例えばゲートバスラインGLと一体的に形成されてもよい。
【0102】
ゲート絶縁層4、第1絶縁層11、および第2絶縁層17に形成されたコンタクトホールCH_gは、下部接続部3gに達している。コンタクトホールCH_gは、ゲート絶縁層4に形成された開口部4g、第1絶縁層11に形成された開口部11g、および第2絶縁層17に形成された開口部17gを含む。
【0103】
上部接続部19gは、上部導電層19に含まれる。上部接続部19gは、ゲート絶縁層4、第1絶縁層11、および第2絶縁層17に形成されたコンタクトホールCH_g内で、下部接続部3gと接続されている。
【0104】
図10Bに示すように、ソース端子部STは、ソースバスラインに電気的に接続されたソース端子用下部接続部7s(単に「下部接続部7s」ということがある。)と、第1絶縁層11および第2絶縁層17に形成されたコンタクトホールCH_sと、ソース端子用上部接続部19s(単に「上部接続部19s」ということがある。)とを有する。
【0105】
下部接続部7sは、この例では、ソースメタル層7に含まれる。下部接続部7sは、例えばソースバスラインSLと一体的に形成されてもよい。ただし、図示する例に限られず、ソース端子用下部接続部は、ゲートメタル層3から形成されていてもよい。この場合、ソース端子部の断面構造は、ゲート端子部GTの断面構造と同様であり得る。
【0106】
第1絶縁層11および第2絶縁層17に形成されたコンタクトホールCH_sは、下部接続部7sに達している。
【0107】
上部接続部19sは、上部導電層19に含まれる。上部接続部19sは、第1絶縁層11および第2絶縁層17に形成されたコンタクトホールCH_s内で、下部接続部7sと接続されている。
【0108】
図10Cに示すように、トランスファー端子部PTは、トランスファー端子用下部接続部15p(単に「下部接続部15p」ということがある。)と、第2絶縁層17に形成されたコンタクトホールCH_p(開口部17p)と、トランスファー端子用上部接続部19p(単に「上部接続部19p」ということがある。)とを有する。
【0109】
下部接続部15pは、この例では、パッチメタル層15lに含まれる。
【0110】
第2絶縁層17に形成された開口部17pは、下部接続部15pに達している。開口部17pをコンタクトホールCH_pということがある。
【0111】
上部接続部19pは、上部導電層19に含まれる。上部接続部19pは、第2絶縁層17に形成されたコンタクトホールCH_p内で、下部接続部15pと接続されている。
【0112】
図10Aに示すように、TFT基板101は、ゲートメタル層3よりも誘電体基板1側に、アライメントマーク(例えば金属層)21と、アライメントマーク21を覆う下地絶縁層2とをさらに有していてもよい。アライメントマーク21は、1枚のガラス基板から例えばm枚のTFT基板を作製する場合において、フォトマスク枚がn枚(n<m)であると、各露光工程を複数回に分けて行う必要が生じる。このようにフォトマスクの枚数(n枚)が1枚のガラス基板から作製されるTFT基板の枚数(m枚)よりも少ないとき、フォトマスクのアライメントに用いられる。アライメントマーク21および下地絶縁層2は省略され得る。
図10においては、アライメントマーク21および下地絶縁層2の図示を省略している。
【0113】
なお、アライメントマークの形状および位置は、図示する例に限定されない。例えば、アライメントマークは、ゲートメタル層3から形成されていてもよい。この場合は、アライメントマークをゲートメタル層3よりも誘電体基板1側の金属層から形成する場合(例えば
図10A参照)に比べて、製造コスト(例えばフォトマスク数)を削減することができる。この場合、下地絶縁層2は省略され得る。
【0114】
<TFT基板101の製造方法>
TFT基板101の製造方法を説明する。
【0115】
まず、誘電体基板1上に、金属膜(例えばTi膜、Mo膜、Ta膜、Al膜、Cu膜)を形成し、これをパターニングすることにより、アライメントマーク21を形成する。誘電体基板1としては、例えばガラス基板、耐熱性を有するプラスチック基板(樹脂基板)などを用いることができる。次いで、アライメントマーク21を覆うように、下地絶縁層2を形成する。ここでは、下地絶縁層2として、例えば酸化珪素(SiOx)または窒化珪素(SixNy)膜を形成する。なお、アライメントマークをゲートメタル層3から形成する場合は、アライメントマーク21および下地絶縁層2を形成する工程は省略される。この場合は、以下で述べるゲート用導電膜をパターニングする工程において、アライメントマークを形成すればよい。
【0116】
続いて、誘電体基板1上に、スパッタ法などによって、ゲート用導電膜を形成する。ゲート用導電膜の材料は特に限定されず、例えば、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、銅(Cu)等の金属またはその合金、若しくはその金属窒化物を含む膜を適宜用いることができる。ここでは、ゲート用導電膜として、Al膜(厚さ:例えば150nm)およびMoN膜(厚さ:例えば100nm)をこの順で積層した積層膜(MoN/Al)を形成する。あるいは、ゲート用導電膜として、Ti膜(厚さ:例えば20nm)およびCu膜(厚さ:例えば200nm)をこの順で積層した積層膜(Cu/Ti)を形成してもよい。
【0117】
次いで、ゲート用導電膜をパターニングすることにより、ゲートメタル層3を形成する。具体的には、アンテナ単位形成領域に、TFT10のゲート電極3Gと、ゲートバスラインGLと、下部補助容量電極3Cとを形成し、ゲート端子部形成領域に、下部接続部3gを形成する。ゲート用導電膜のパターニングは、例えばウェットエッチング(湿式エッチング)および/またはドライエッチング(乾式エッチング)によって行う。
【0118】
この後、ゲートメタル層3を覆うように、ゲート絶縁膜、真性アモルファスシリコン膜およびn+型アモルファスシリコン膜をこの順で形成する。ゲート絶縁膜は、CVD法等によって形成され得る。ゲート絶縁膜としては、酸化珪素(SiOx)膜、窒化珪素(SixNy)膜、酸化窒化珪素(SiOxNy;x>y)膜、窒化酸化珪素(SiNxOy;x>y)膜等を適宜用いることができる。ここでは、ゲート絶縁膜として、例えば厚さ350nmの窒化珪素(SixNy)膜を堆積する。ゲート絶縁膜上に、例えば厚さ120nmの真性アモルファスシリコン膜および例えば厚さ30nmのn+型アモルファスシリコン膜を形成する。
【0119】
次いで、真性アモルファスシリコン膜およびn+型アモルファスシリコン膜をパターニングすることにより、島状の半導体層5およびコンタクト部を得る。なお、半導体層5に用いる半導体膜はアモルファスシリコン膜に限定されない。例えば、半導体層5として酸化物半導体層を形成してもよい。この場合には、半導体層5と、ソース電極およびドレイン電極との間にコンタクト層を設けなくてもよい。
【0120】
次いで、ゲート絶縁膜上、およびコンタクト部上に、スパッタ法などによってソース用導電膜を形成する。ソース用導電膜の材料は特に限定されず、例えば、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、銅(Cu)等の金属またはその合金、若しくはその金属窒化物を含む膜を適宜用いることができる。ここでは、ソース用導電膜として、MoN(厚さ:例えば50nm)、Al(厚さ:例えば150nm)およびMoN(厚さ:例えば100nm)をこの順で積層した積層膜(MoN/Al/MoN)を形成する。あるいは、ソース用導電膜として、Ti(厚さ:例えば20nm)およびCu(厚さ:例えば200nm)をこの順で積層した積層膜(Cu/Ti)を形成してもよい。
【0121】
次いで、ソース用導電膜をパターニングすることによって、ソースメタル層7を形成する。このとき、コンタクト部もエッチングされ、互いに分離されたソースコンタクト層6Sとドレインコンタクト層6Dとが形成される。具体的には、アンテナ単位形成領域に、TFT10のソース電極7Sおよびドレイン電極7Dと、ソースバスラインSLと、上部補助容量電極7Cとを形成し、ソース端子部形成領域に下部接続部7sを形成する。
【0122】
ソース用導電膜のパターニングは、例えばウェットエッチング(湿式エッチング)および/またはドライエッチング(乾式エッチング)によって行う。例えば、ソース用導電膜としてMoN膜、Al膜およびMoN膜をこの順で積層した積層膜を形成した場合には、例えばウェットエッチングでMoN膜およびAl膜を同時にパターニングする。ソース用導電膜として、Ti膜およびCu膜をこの順で積層した積層膜を形成した場合には、例えばウェットエッチングでTi膜およびCu膜をパターニングすることができる。その後、例えばドライエッチングにより、コンタクト層のうち、半導体層5のチャネル領域となる領域上に位置する部分を除去してギャップ部を形成し、ソースコンタクト層6Sおよびドレインコンタクト層6Dとに分離する。このとき、ギャップ部において、半導体層5の表面近傍もエッチングされる(オーバーエッチング)。このようにして、TFT10が得られる。
【0123】
次に、TFT10およびソースメタル層7を覆うように、例えばCVD法によって、第1絶縁膜を形成する。第1絶縁膜としては、酸化珪素(SiOx)膜、窒化珪素(SixNy)膜、酸化窒化珪素(SiOxNy;x>y)膜、窒化酸化珪素(SiNxOy;x>y)膜等を適宜用いることができる。この例では、第1絶縁膜は、半導体層5のチャネル領域と接するように形成される。ここでは、第1絶縁膜として、例えば厚さ330nmの窒化珪素(SixNy)膜を堆積する。
【0124】
続いて、公知のフォトリソグラフィプロセスによって、第1絶縁膜のエッチングを行うことによって、ドレイン電極から延設された部分に達する開口部11pを形成する。
【0125】
次いで、第1絶縁膜上および開口部11p内に、スパッタ法などによってパッチ用導電膜を形成する。パッチ用導電膜の材料として、ゲート用導電膜またはソース用導電膜と同様の材料が用いられ得る。パッチ用導電膜は、ゲート用導電膜およびソース用導電膜よりも厚くなるように設定されてもよい。これにより、パッチ電極のシート抵抗を低減させることで、パッチ電極内の自由電子の振動が熱に変わるロスを低減させることが可能になる。ここでは、Ti(厚さ:例えば50nm)およびCu(厚さ:例えば600nm)をこの順で積層した積層膜(Cu/Ti)を形成する。
【0126】
次いで、パッチ用導電膜をパターニングすることによって、パッチメタル層15lを形成する。具体的には、アンテナ単位形成領域にパッチ電極15を形成し、柱状スペーサPS形成領域に凸部15hを形成し、トランスファー端子部形成領域に下部接続部15pを形成する。パッチ用導電膜のパターニングは、例えばウェットエッチング(湿式エッチング)および/またはドライエッチング(乾式エッチング)によって行う。
【0127】
次に、パッチメタル層15l上および第1絶縁膜上に、例えばCVD法によって、第2絶縁膜を形成する。第2絶縁膜としては、酸化珪素(SiOx)膜、窒化珪素(SixNy)膜、酸化窒化珪素(SiOxNy;x>y)膜、窒化酸化珪素(SiNxOy;x>y)膜等を適宜用いることができる。ここでは、第2絶縁膜として、例えば厚さ130nmの窒化珪素(SixNy)膜を堆積する。
【0128】
続いて、公知のフォトリソグラフィプロセスによって、ゲート絶縁膜、第1絶縁膜、および第2絶縁膜のエッチングを行うことによって、ゲート絶縁層4、第1絶縁層11、および第2絶縁層17を形成する。具体的には、ゲート端子部形成領域の下部接続部3gに達するコンタクトホールCH_gをゲート絶縁膜、第1絶縁膜および第2絶縁膜に形成し、ソース端子部形成領域の下部接続部7sに達するコンタクトホールCH_sを第1絶縁膜および第2絶縁膜に形成し、トランスファー端子部形成領域の下部接続部15pに達するコンタクトホールCH_pを第2絶縁膜に形成する。ここでは、フッ素系ガスを用いたドライエッチングによって、ゲート絶縁膜、第1絶縁膜、および第2絶縁膜を一括してエッチングする。
【0129】
次いで、第2絶縁層17上、コンタクトホールCH_g内、コンタクトホールCH_s内、およびコンタクトホールCH_p内に、例えばスパッタ法により、透明導電膜を含む上部導電膜を形成する。透明導電膜として、例えばITO(インジウム・錫酸化物)膜、IZO膜、ZnO膜(酸化亜鉛膜)などを用いることができる。ここでは、上部導電膜として、Ti(厚さ:例えば50nm)およびITO(厚さ:例えば70nm)をこの順で積層した積層膜(ITO/Ti)を用いる。
【0130】
次いで、上部導電膜をパターニングすることにより、上部導電層19を形成する。具体的には、ゲート端子部形成領域の上部接続部19g、ソース端子部形成領域の上部接続部19sおよびトランスファー端子形成領域の上部接続部19pを形成する。
【0131】
このようにして、TFT基板101が製造される。
【0132】
<スロット基板201の構造>
図6Bおよび
図11を参照しながら、スロット基板201の構造をより詳細に説明する。
図11は、TFT基板101のトランスファー端子部PTと、スロット基板201の端子部ITとを接続するトランスファー部を説明するための模式的な断面図である。
【0133】
スロット基板201は、表面および裏面を有する誘電体基板51と、誘電体基板51の表面に形成された第3絶縁層52と、第3絶縁層52上に形成されたスロット電極55と、スロット電極55を覆う第4絶縁層58とを備える。反射導電板65(
図1参照)は、誘電体基板51の裏面に誘電体層(空気層)54を介して対向するように配置される。スロット電極55および反射導電板65が導波路301の壁として機能する。
【0134】
第3絶縁層52としては、例えば酸化珪素(SiO
x)膜、窒化珪素(SiN
x)膜、酸化窒化珪素(SiO
xN
y;x>y)膜、窒化酸化珪素(SiN
xO
y;x>y)膜等を適宜用いることができる。なお、第3絶縁層52は、省略され得る。
図6Bでは第3絶縁層52の図示は省略している。
【0135】
スロット基板201は、TFT基板101と同様に、第3絶縁層52よりも誘電体基板51側に、アライメントマーク(例えば金属層)と、アライメントマークを覆う下地絶縁層とをさらに有していてもよい。
【0136】
送受信領域R1において、スロット電極55には複数のスロット57が形成されている。スロット57はスロット電極55を貫通する開口である。この例では、各アンテナ単位領域Uに1個のスロット57が配置されている。
【0137】
第4絶縁層58は、スロット電極55上およびスロット57内に形成されている。第4絶縁層58は、ここでは、スロット57内に第3絶縁層52(第3絶縁層52が省略された場合は誘電体基板51)に達する開口部58aを有する。開口部58aは省略され得る。第4絶縁層58の材料は、第3絶縁層52の材料と同じであってもよい。第4絶縁層58でスロット電極55を覆うことにより、スロット電極55と液晶層LCとが直接接触しないので、信頼性を高めることができる。スロット電極55がCu層で形成されていると、Cuが液晶層LCに溶出することがある。また、スロット電極55を薄膜堆積技術を用いてAl層で形成すると、Al層にボイドが含まれることがある。第4絶縁層58は、Al層のボイドに液晶材料が侵入するのを防止することができる。なお、アルミ箔を接着材により誘電体基板51に貼り付けることによってAl層を形成し、これをパターニングすることによってスロット電極55を作製すれば、ボイドの問題を回避できる。
【0138】
スロット電極55は、Cu層、Al層などの主層を含む。スロット電極55は、主層と、それを挟むように配置された上層および/または下層とを含む積層構造を有していてもよい。主層の厚さは、材料に応じて表皮効果を考慮して設定され、例えば2μm以上30μm以下であってもよい。主層の厚さは、典型的には上層および下層の厚さよりも大きい。例えば、主層はCu層であり、上層および下層はTi層である。主層と第3絶縁層52との間に下層を配置することにより、スロット電極55と第3絶縁層52との密着性を向上できる。また、上層を設けることにより、主層(例えばCu層)の腐食を抑制できる。
【0139】
反射導電板65は、導波路301の壁を構成するので、表皮深さの3倍以上、好ましくは5倍以上の厚さを有することが好ましい。反射導電板65は、例えば、削り出しによって作製された厚さが数mmのアルミニウム板、銅板などを用いることができる。
【0140】
図11に示すように、スロット基板201の非送受信領域R2には、端子部ITが設けられている。端子部ITは、スロット電極55と、スロット電極55を覆う第4絶縁層58と、上部接続部60とを備える。第4絶縁層58は、スロット電極55に達する開口部58pを有している。上部接続部60は、開口部58p内でスロット電極55に接している。
【0141】
図11に示すように、トランスファー部では、スロット基板201の端子部ITの上部接続部60は、TFT基板101のトランスファー端子部PTのトランスファー端子用上部接続部19pと電気的に接続される。ここでは、上部接続部60とトランスファー端子用上部接続部19pとを、導電性ビーズ71を含む樹脂(例えばシール樹脂)78を介して接続する。
【0142】
上部接続部60および19pは、いずれも、ITO膜、IZO膜などの透明導電層であり、その表面に酸化膜が形成される場合がある。酸化膜が形成されると、透明導電層同士の電気的な接続が確保できず、コンタクト抵抗が高くなる可能性がある。これに対し、本実施形態では、導電性ビーズ(例えばAuビーズ)71を含む樹脂を介して、これらの透明導電層を接着させるので、表面酸化膜が形成されていても、導電性ビーズが表面酸化膜を突き破る(貫通する)ことにより、コンタクト抵抗の増大を抑えることが可能である。導電性ビーズ71は、表面酸化膜だけでなく、透明導電層である上部接続部60および19pをも貫通し、下部接続部15pおよびスロット電極55に直接接していてもよい。
【0143】
なお、シール領域Rs(シール部73)も、上記のトランスファー部と同様の構造を有していてもよい。すなわち、シール領域Rs(シール部73)内に上記のトランスファー部が配置されてもよい。
【0144】
<スロット基板201の製造方法>
スロット基板201は、例えば以下の方法で製造され得る。
【0145】
まず、誘電体基板51上に第3絶縁層52(厚さ:例えば300nm~1500nm)を例えばCVD法により形成する。ここでは、第3絶縁層52として、例えば厚さ500nmのSiNx膜を堆積する。
【0146】
誘電体基板51としては、ガラス基板、樹脂基板などの、電磁波に対する透過率の高い(誘電率εMおよび誘電損失tanδMが小さい)基板を用いることができる。誘電体基板51は電磁波の減衰を抑制するために薄い方が好ましい。例えば、ガラス基板の表面に後述するプロセスでスロット電極55などの構成要素を形成した後、ガラス基板を裏面側から薄板化してもよい。これにより、ガラス基板の厚さを例えば500μm以下に低減できる。
【0147】
なお、誘電体基板として樹脂基板を用いる場合、TFT等の構成要素を直接、樹脂基板上に形成してもよいし、転写法を用いて樹脂基板上に形成してもよい。転写法によると、例えば、ガラス基板上に樹脂膜(例えばポリイミド膜)を形成し、樹脂膜上に後述するプロセスで構成要素を形成した後、構成要素が形成された樹脂膜とガラス基板とを分離させる。一般に、ガラスよりも樹脂の方が誘電率εMおよび誘電損失tanδMが小さい。樹脂基板の厚さは、例えば、3μm~300μmである。樹脂材料としては、ポリイミドの他、例えば、液晶高分子を用いることもできる。
【0148】
次いで、第3絶縁層52の上に金属膜(例えばCu膜またはAl膜)を例えばスパッタ法により形成し、これをパターニングすることによって、複数のスロット57を有するスロット電極55を得る。金属膜としては、例えば厚さが1.5μm~6μmのCu膜を用いてもよい。ここでは、金属膜として、Ti膜(厚さ:例えば20nm)およびCu膜(厚さ:例えば3000nm)をこの順で積層した積層膜(Cu/Ti)を形成する。
【0149】
この後、スロット電極55上およびスロット57内に第4絶縁膜(厚さ:例えば50nm~400nm)を形成する。ここでは、第4絶縁膜として、例えば厚さ130nmの窒化珪素(SixNy)膜を堆積する。
【0150】
この後、公知のフォトリソグラフィプロセスによって第4絶縁膜のエッチングを行うことによって、第4絶縁層58を得る。具体的には、第4絶縁層58は、非送受信領域R2において、スロット電極55に達する開口部58pを形成する。
【0151】
この後、第4絶縁層58上および開口部58p内に例えばスパッタ法により透明導電膜を形成し、これをパターニングすることにより、開口部58p内でスロット電極55と接する上部接続部60を形成する。これにより、端子部ITを得ることができる。透明導電膜として、例えばITO(インジウム・錫酸化物)膜、IZO膜、ZnO膜(酸化亜鉛膜)などを用いることができる。透明導電膜は、Ti膜と、ITO膜、IZO膜、またはZnO膜とをこの順で有する積層構造を有していてもよい。ここでは、透明導電膜として、Ti(厚さ:例えば50nm)およびITO(厚さ:例えば70nm)をこの順で積層した積層膜(ITO/Ti)を用いる。
【0152】
このようにして、スロット基板201が製造される。
【0153】
この後、スロット基板201上に柱状スペーサPSを形成する。例えば、第4絶縁層58上および第4絶縁層58上に形成された透明導電層(上部接続部60を含む層)上に感光性樹脂膜を形成し、所定のパターンの開口部を有するフォトマスクを介して、感光性樹脂膜を露光、現像することによって、柱状スペーサPSを形成することができる。感光性樹脂は、ネガ型でもポジ型でもよい。ここでは、厚さ例えば2.7μmの感光性樹脂膜を用いる。
【0154】
なお、TFT基板101上に柱状スペーサPSを形成してもよい。この場合には、上述する方法でTFT基板101を製造した後、第2絶縁層17上および上部導電層19上に感光性樹脂膜を形成し、露光、現像することによって、柱状スペーサPSを形成すればよい。
【0155】
スロット基板201またはTFT基板101の少なくとも一方に柱状スペーサPSを形成した後、上述したように、シール部73aおよび追加シール部76Aを形成してスロット基板201およびTFT基板101を貼り合わせる工程、液晶層を形成する工程等を行うことによって、本発明の実施形態による走査アンテナが得られる。
【0156】
<TFTの材料および構造>
本発明の実施形態では、各画素に配置されるスイッチング素子として、半導体層5を活性層とするTFTが用いられる。半導体層5はアモルファスシリコン層に限定されず、ポリシリコン層、酸化物半導体層であってもよい。
【0157】
酸化物半導体層を用いる場合、酸化物半導体層に含まれる酸化物半導体は、アモルファス酸化物半導体であってもよいし、結晶質部分を有する結晶質酸化物半導体であってもよい。結晶質酸化物半導体としては、多結晶酸化物半導体、微結晶酸化物半導体、c軸が層面に概ね垂直に配向した結晶質酸化物半導体などが挙げられる。
【0158】
酸化物半導体層は、2層以上の積層構造を有していてもよい。酸化物半導体層が積層構造を有する場合には、酸化物半導体層は、非晶質酸化物半導体層と結晶質酸化物半導体層とを含んでいてもよい。あるいは、結晶構造の異なる複数の結晶質酸化物半導体層を含んでいてもよい。また、複数の非晶質酸化物半導体層を含んでいてもよい。酸化物半導体層が上層と下層とを含む2層構造を有する場合、上層に含まれる酸化物半導体のエネルギーギャップは、下層に含まれる酸化物半導体のエネルギーギャップよりも大きいことが好ましい。ただし、これらの層のエネルギーギャップの差が比較的小さい場合には、下層の酸化物半導体のエネルギーギャップが上層の酸化物半導体のエネルギーギャップよりも大きくてもよい。
【0159】
非晶質酸化物半導体および上記の各結晶質酸化物半導体の材料、構造、成膜方法、積層構造を有する酸化物半導体層の構成などは、例えば特開2014-007399号公報に記載されている。参考のために、特開2014-007399号公報の開示内容の全てを本明細書に援用する。
【0160】
酸化物半導体層は、例えば、In、GaおよびZnのうち少なくとも1種の金属元素を含んでもよい。本実施形態では、酸化物半導体層は、例えば、In-Ga-Zn-O系の半導体(例えば酸化インジウムガリウム亜鉛)を含む。ここで、In-Ga-Zn-O系の半導体は、In(インジウム)、Ga(ガリウム)、Zn(亜鉛)の三元系酸化物であって、In、GaおよびZnの割合(組成比)は特に限定されず、例えばIn:Ga:Zn=2:2:1、In:Ga:Zn=1:1:1、In:Ga:Zn=1:1:2等を含む。このような酸化物半導体層は、In-Ga-Zn-O系の半導体を含む酸化物半導体膜から形成され得る。
【0161】
In-Ga-Zn-O系の半導体は、アモルファスでもよいし、結晶質でもよい。結晶質In-Ga-Zn-O系の半導体としては、c軸が層面に概ね垂直に配向した結晶質In-Ga-Zn-O系の半導体が好ましい。
【0162】
なお、結晶質In-Ga-Zn-O系の半導体の結晶構造は、例えば、上述した特開2014-007399号公報、特開2012-134475号公報、特開2014-209727号公報などに開示されている。参考のために、特開2012-134475号公報および特開2014-209727号公報の開示内容の全てを本明細書に援用する。In-Ga-Zn-O系半導体層を有するTFTは、高い移動度(a-SiTFTに比べ20倍超)および低いリーク電流(a-SiTFTに比べ100分の1未満)を有しているので、駆動TFT(例えば、非送受信領域に設けられる駆動回路に含まれるTFT)および各アンテナ単位領域に設けられるTFTとして好適に用いられる。
【0163】
酸化物半導体層は、In-Ga-Zn-O系半導体の代わりに、他の酸化物半導体を含んでいてもよい。例えばIn-Sn-Zn-O系半導体(例えばIn2O3-SnO2-ZnO;InSnZnO)を含んでもよい。In-Sn-Zn-O系半導体は、In(インジウム)、Sn(スズ)およびZn(亜鉛)の三元系酸化物である。あるいは、酸化物半導体層は、In-Al-Zn-O系半導体、In-Al-Sn-Zn-O系半導体、Zn-O系半導体、In-Zn-O系半導体、Zn-Ti-O系半導体、Cd-Ge-O系半導体、Cd-Pb-O系半導体、CdO(酸化カドミウム)、Mg-Zn-O系半導体、In-Ga-Sn-O系半導体、In-Ga-O系半導体、Zr-In-Zn-O系半導体、Hf-In-Zn-O系半導体、Al-Ga-Zn-O系半導体、Ga-Zn-O系半導体、In-Ga-Zn-Sn-O系半導体などを含んでいてもよい。
【0164】
上述した例では、TFT10は、ボトムゲート構造を有するチャネルエッチ型のTFTである。「チャネルエッチ型のTFT」では、チャネル領域上にエッチストップ層が形成されておらず、ソースおよびドレイン電極のチャネル側の端部下面は、半導体層の上面と接するように配置されている。チャネルエッチ型のTFTは、例えば半導体層上にソース・ドレイン電極用の導電膜を形成し、ソース・ドレイン分離を行うことによって形成される。ソース・ドレイン分離工程において、チャネル領域の表面部分がエッチングされる場合がある。
【0165】
なお、各アンテナ単位が有するTFTは、チャネル領域上にエッチストップ層が形成されたエッチストップ型TFTであってもよい。エッチストップ型TFTでは、ソースおよびドレイン電極のチャネル側の端部下面は、例えばエッチストップ層上に位置する。エッチストップ型のTFTは、例えば半導体層のうちチャネル領域となる部分を覆うエッチストップ層を形成した後、半導体層およびエッチストップ層上にソース・ドレイン電極用の導電膜を形成し、ソース・ドレイン分離を行うことによって形成される。
【0166】
また、TFT10は、ソースおよびドレイン電極が半導体層の上面と接するトップコンタクト構造を有するが、ソースおよびドレイン電極は半導体層の下面と接するように配置されていてもよい(ボトムコンタクト構造)。さらに、TFTは、半導体層の誘電体基板側にゲート電極を有するボトムゲート構造であってもよいし、半導体層の上方にゲート電極を有するトップゲート構造であってもよい。
【0167】
<アンテナ単位の配列、ゲートバスライン、ソースバスラインの接続の例>
本発明の実施形態による走査アンテナにおいて、アンテナ単位は例えば、同心円状に配列される。
【0168】
例えば、m個の同心円に配列されている場合、ゲートバスラインは例えば、各円に対して1本ずつ設けられ、合計m本のゲートバスラインが設けられる。送受信領域R1の外径を、例えば800mmとすると、mは例えば、200である。最も内側のゲートバスラインを1番目とすると、1番目のゲートバスラインには、n個(例えば30個)のアンテナ単位が接続され、m番目のゲートバスラインにはnx個(例えば620個)のアンテナ単位が接続されている。
【0169】
このような配列では、各ゲートバスラインに接続されているアンテナ単位の数が異なる。また、最も外側の円を構成するnx個のアンテナ単位に接続されているnx本のソースバスラインのうち、最も内側の円を構成するアンテナ単位にも接続されているn本のソースバスラインには、m個のアンテナ単位が接続されているが、その他のソースバスラインに接続されているアンテナ単位の数はmよりも小さい。
【0170】
このように、走査アンテナにおけるアンテナ単位の配列は、LCDパネルにおける画素(ドット)の配列とは異なり、ゲートバスラインおよび/またはソースバスラインによって、接続されているアンテナ単位の数が異なる。したがって、全てのアンテナ単位の容量(液晶容量+補助容量)を同じにすると、ゲートバスラインおよび/またはソースバスラインによって、接続されている電気的な負荷が異なることになる。そうすると、アンテナ単位への電圧の書き込みにばらつきが生じるという問題がある。
【0171】
そこで、これを防止するために、例えば、補助容量の容量値を調整することによって、あるいは、ゲートバスラインおよび/またはソースバスラインに接続するアンテナ単位の数を調整することによって、各ゲートバスラインおよび各ソースバスラインに接続されている電気的な負荷を略同一にすることが好ましい。
【0172】
本発明の実施形態による走査アンテナは、必要に応じて、例えばプラスチック製の筺体に収容される。筺体にはマイクロ波の送受信に影響を与えない誘電率εMが小さい材料を用いることが好ましい。また、筺体の送受信領域R1に対応する部分には貫通孔を設けてもよい。さらに、液晶材料が光に曝されないように、遮光構造を設けてもよい。遮光構造は、例えば、TFT基板101の誘電体基板1および/またはスロット基板201の誘電体基板51の側面から誘電体基板1および/または51内を伝播し、液晶層に入射する光を遮光するように設ける。誘電異方性ΔεMが大きな液晶材料は、光劣化しやすいものがあり、紫外線だけでなく、可視光の中でも短波長の青色光も遮光することが好ましい。遮光構造は、例えば、黒色の粘着テープなどの遮光性のテープを用いることによって、必要な個所に容易に形成できる。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明による実施形態は、例えば、移動体(例えば、船舶、航空機、自動車)に搭載される衛星通信や衛星放送用の走査アンテナおよびその製造に用いられる。
【符号の説明】
【0174】
1 :誘電体基板
2 :下地絶縁層
3 :ゲートメタル層
3C :下部補助容量電極
3G :ゲート電極
3g :下部接続部
4 :ゲート絶縁層
4g :開口部
5 :半導体層
6D :ドレインコンタクト層
6S :ソースコンタクト層
7 :ソースメタル層
7C :上部補助容量電極
7D :ドレイン電極
7S :ソース電極
7s :下部接続部
11 :第1絶縁層
11g、11p:開口部
15 :パッチ電極
15h :凸部
15l :パッチメタル層
15p :下部接続部
17 :第2絶縁層
17g、17p:開口部
19 :上部導電層
19g、19p、19s:上部接続部
21 :アライメントマーク
51 :誘電体基板
52 :第3絶縁層
54 :誘電体層(空気層)
55 :スロット電極
57 :スロット
58 :第4絶縁層
58a、58p:開口部
60 :上部接続部
65 :反射導電板
70 :給電装置
71 :導電性ビーズ
72 :給電ピン
73、73a:シール部
74a :注入口
75a :メインシール部
76A、76B、76C、76D、76E、76F、76G:追加シール部(壁状構造体)
79a :第1主側面
79b :第2主側面
100Aa、100Ba、100Ca:液晶パネル
101、101a:TFT基板
201、201a:スロット基板
301 :導波路
1000、1001:走査アンテナ
CH_g、CH_p、CH_s:コンタクトホール
GD :ゲートドライバ
GL :ゲートバスライン
GT :ゲート端子部
IT :端子部
LC :液晶層
PS :柱状スペーサ
PT :トランスファー端子部
R1 :送受信領域
R2 :非送受信領域
R2a :第1非送受信領域
R2b :第2非送受信領域
Rs :シール領域
SD :ソースドライバ
SL :ソースバスライン
ST :ソース端子部
U :アンテナ単位、アンテナ単位領域