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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】電磁波シールド材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20220221BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20220221BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20220221BHJP
【FI】
H05K9/00 W
B32B7/025
B32B5/26
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021021249
(22)【出願日】2021-02-12
【審査請求日】2021-02-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592162922
【氏名又は名称】株式会社ユウホウ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 将也
(72)【発明者】
【氏名】野島 伸司
【審査官】鹿野 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-071145(JP,A)
【文献】特開2001-267787(JP,A)
【文献】特開2016-219466(JP,A)
【文献】特開2011-144473(JP,A)
【文献】特表2020-526029(JP,A)
【文献】特開平07-045989(JP,A)
【文献】米国特許第05312678(US,A)
【文献】特開2007-335680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B32B 7/025
B32B 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維を含むA層と金属繊維を含むB層とを含み、前記A層及び前記B層の少なくとも一方に樹脂を含み、前記無機繊維の平均繊維長は15~100mmであり、前記金属繊維の平均繊維長は25~200mmであることを特徴とする電磁波シールド材。
【請求項2】
前記無機繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、及び天然鉱物繊維の少なくとも一種を含む請求項1に記載の電磁波シールド材。
【請求項3】
厚みが0.5~6.0mmである請求項1又は2に記載の電磁波シールド材。
【請求項4】
目付が500~5000g/m2である請求項1~3のいずれか1項に記載の電磁波シールド材。
【請求項5】
前記B層に含まれる繊維のうち、金属繊維の含有率は90%以上である請求項1~4のいずれか1項に記載の電磁波シールド材。
【請求項6】
前記樹脂は熱可塑性樹脂である請求項1~5のいずれか1項に記載の電磁波シールド材。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の電磁波シールド材である成形体。
【請求項8】
請求項6に記載の電磁波シールド材を製造する製造方法であって、少なくとも1枚の無機繊維含有不織布aと少なくとも1枚の金属繊維含有不織布bとを積層する工程と、前記積層した不織布を加熱及び加圧する工程とを有し、前記不織布a及び前記不織布bの少なくとも一方に熱可塑性樹脂が含まれていることを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁波シールド材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動作により電磁波ノイズを発生する機器、カーナビ、スマートメータなどのマルチインフォメーションディスプレイ、車載カメラ、エンジンコントロールユニットなどの電子機器の筐体において、電磁波シールド性を高めることが求められている。
【0003】
電磁波をシールドする成形品として、例えば、特許文献1には、炭素繊維、金属繊維、および熱可塑性樹脂を含む成形材料を成形してなる成形品が開示されており、特許文献2には、炭素繊維と金属繊維又は金属被覆繊維とを含む導電性繊維含有プラスチックよりなる成形品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-229345号公報
【文献】特開平6-53688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電磁波ノイズを発生させる機器が増加したことや、外来ノイズによる機器の誤作動の問題から、特に100kHz~500MHz程度の低周波の磁界のシールド性能が求められている。しかし、特許文献1や2の成形品では100kHz~500MHz程度の低周波の磁界を十分にシールドすることができなかった。
【0006】
本発明の課題は、低周波の磁界を効果的にシールドすることができる電磁波シールド材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、無機繊維を含むA層と金属繊維を含むB層とを含み、前記A層及び前記B層の少なくとも一方に樹脂を含む電磁波シールド材を用いることにより低周波の磁界を効果的にシールドできることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明を含む。
[1]無機繊維を含むA層と金属繊維を含むB層とを含み、前記A層及び前記B層の少なくとも一方に樹脂を含むことを特徴とする電磁波シールド材。
[2]前記無機繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、及び天然鉱物繊維の少なくとも一種を含む上記[1]に記載の電磁波シールド材。
[3]厚みが0.5~6.0mmである上記[1]又は[2]に記載の電磁波シールド材。
[4]目付が500~5000g/m2である上記[1]~[3]のいずれかに記載の電磁波シールド材。
[5]前記B層に含まれる繊維のうち、金属繊維の含有率は90%以上である上記[1]~[4]のいずれかに記載の電磁波シールド材。
[6]前記樹脂は熱可塑性樹脂である上記[1]~[5]のいずれかに記載の電磁波シールド材。
[7]上記[1]~[6]のいずれかに記載の電磁波シールド材である成形体。
[8]上記[6]に記載の電磁波シールド材を製造する製造方法であって、少なくとも1枚の無機繊維含有不織布aと少なくとも1枚の金属繊維含有不織布bとを積層する工程と、前記積層した不織布を加熱及び加圧する工程とを有し、前記不織布a及び前記不織布bの少なくとも一方に熱可塑性樹脂が含まれていることを特徴とする製造方法。
【発明の効果】
【0009】
無機繊維を含むA層と金属繊維を含むB層とを含み、前記A層及び前記B層の少なくとも一方に樹脂を含む電磁波シールド材を用いることにより、低周波の磁界を効果的にシールドすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の成形体の断面写真である。
図2】実施例1-1及び比較例1-1~2における周波数と磁界シールド特性との関係を示す図である。
図3】実施例2-1~3における周波数と磁界シールド特性との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の電磁波シールド材は、無機繊維を含むA層と金属繊維を含むB層とを含む。また、本発明の電磁波シールド材は、前記A層及び前記B層の少なくとも一方に樹脂を含み、前記A層に樹脂を含むことが好ましい。なお、本明細書では金属繊維は無機繊維に含まないものとする。
【0012】
<A層>
A層に含まれる無機繊維としては、特に限定されないが、炭素繊維、ガラス繊維、及び天然鉱物繊維の少なくとも一種を含むことが好ましく、炭素繊維及びガラス繊維の少なくとも一種を含むことがより好ましく、炭素繊維を含むことがさらに好ましい。
【0013】
炭素繊維としては、特に限定されず、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、気相成長系炭素繊維、これらの黒鉛化繊維などが挙げられ、1種又は2種以上を使用できる。炭素繊維はPAN系炭素繊維を含むことが好ましい。PAN系炭素繊維はポリアクリロニトリル繊維を原料とする炭素繊維である。ピッチ系炭素繊維は石油タールや石油ピッチを原料とする炭素繊維である。セルロース系炭素繊維はビスコースレーヨンや酢酸セルロースなどを原料とする炭素繊維である。気相成長系炭素繊維は炭化水素などを原料とする炭素繊維である。
【0014】
無機繊維の平均繊維長は、15~100mmであることが好ましく、より好ましくは30~90mm、さらに好ましくは40~80mmである。平均繊維長が15mm以上の場合、A層の力学的強度が維持されやすく、ひいては電磁波シールド材の力学的強度が維持されやすい。また、平均繊維長が100mm以下の場合、A層における無機繊維の分散性を高めることができる。
【0015】
A層は無機繊維のみでもよく、無機繊維及び樹脂を含むものでもよいが、無機繊維は金属繊維等の他の繊維よりも分散性や繊維同士の絡み合いが弱いため、無機繊維及び樹脂を含むことが好ましい。
【0016】
A層に含まれる樹脂としては、特に限定されず、熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹脂でもよいが、熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂としては、常温では弾性を持ち、変形しにくく、加熱により軟化して所望の形に成形加工できる合成樹脂であれば、特に限定されるものではなく、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂等が挙げられる。
【0017】
また、熱可塑性樹脂は酸変性熱可塑性樹脂であってもよい。酸変性熱可塑性樹脂は、酸変性により酸変性基が導入された熱可塑性樹脂である。酸変性基の種類は特に限定されず、酸変性基は1種のみでもよく、2種以上を含んでもよいが、無水カルボン酸残基(-CO-O-OC-)又はカルボン酸残基(-COOH)であることが好ましい。酸変性基はどのような化合物により導入されたものであってもよく、無水カルボン酸としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸などが挙げられ、カルボン酸としては、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられるが、中でも、カルボン酸であることが好ましく、マレイン酸であることがより好ましい。なお、本明細書では「熱可塑性樹脂」は酸変性熱可塑性樹脂も酸変性していない熱可塑性樹脂も包含するものとする。
【0018】
A層における無機繊維の含有率は、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましく、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0019】
A層における樹脂の含有率は、20質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。
【0020】
A層における無機繊維及び樹脂の合計の含有率は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%であることが特に好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0021】
本発明の効果を損なわない範囲であればA層に金属繊維が含まれていてもよいが、金属繊維はほとんど又は全く含まないことが好ましい。A層における金属繊維の含有率は、10質量%未満であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0022】
<B層>
B層は金属繊維を含む。金属繊維を構成する金属成分としては、特に限定されず、銅、鉄、アルミニウム、ニッケル、クロム等の卑金属であってもよく、ステンレス等の合金であってもよく、金、白金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、及びオスミウム等の貴金属であってもよい。これらの中でも金属繊維を構成する金属成分としては、生産性、材料コストの観点から卑金属及び合金の少なくとも一種であることが好ましく、卑金属であることがより好ましく、導電率が高く、比較的薄い層でも高いシールド性が期待できるという観点から、銅であることがさらに好ましい。
【0023】
金属繊維の繊維径は、10~100μmであることが好ましく、20~70μmであることがより好ましい。繊維径が10μm以上の場合、B層の力学的強度が維持されやすく、ひいては電磁波シールド材の力学的強度が維持されやすい。また、繊維径が100μm以下の場合、B層における金属繊維の分散性を高めることができる。
【0024】
B層における金属繊維の含有率は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。
【0025】
B層は樹脂を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。B層における樹脂の含有率は、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることさらに好ましい。
【0026】
B層における金属繊維及び樹脂の合計の含有率は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%であることが特に好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0027】
本発明の効果を損なわない範囲であればB層に無機繊維が含まれていてもよい。B層における無機繊維の含有率は、10質量%未満であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0028】
B層に含まれる繊維のうち、金属繊維の含有率は90%以上であることが好ましく、100%であることが好ましい。B層の厚み方向の略中心部分における厚み方向と垂直な面について光学顕微鏡を用いて200μm四方の画像を撮影し、該画像に含まれる金属繊維及び無機繊維の本数を確認し、金属繊維及び無機繊維の合計本数に対する金属繊維の本数の割合を金属繊維の含有率とする。なお、B層全面が金属繊維で覆われていることやB層全面において金属繊維の含有率が90%以上であることは求められておらず、B層において金属繊維の含有率が90%以上である領域を含んでいればよく、本発明の効果を損なわない程度に部分的に金属繊維が分散していない領域が存在していてもよい。また、電磁波シールド材の縦横のいずれか一方の辺が200μm未満である場合、短辺をP(μm)とすると、P(μm)×200(μm)の画像を撮影して金属繊維及び無機繊維の合計本数に対する金属繊維の本数の割合を算出し、縦横の両辺ともに200μm未満である場合は、B層の厚み方向と垂直な面に存在する全ての金属繊維及び無機繊維の本数を確認し、金属繊維及び無機繊維の合計本数に対する金属繊維の本数の割合を算出する。
【0029】
金属繊維の平均繊維長は25~200mmであることが好ましく、50~150mmであることがより好ましく、80~120mmであることがさらに好ましい。平均繊維長が25mm以上の場合、B層の力学的強度が維持されやすく、ひいては電磁波シールド材の力学的強度が維持されやすい。また、平均繊維長が100mm以下の場合、B層における金属繊維の分散性を高めることができる。
【0030】
<電磁波シールド材>
本発明の電磁波シールド材の目付は、自動車部品用途等の成型品加工をスムーズに行なうという観点から500~5000g/m2であることが好ましく、1000~4000g/m2であることがより好ましく、1500~3500g/m2であることがさらに好ましく、2000~3000g/m2であることがさらに好ましい。
【0031】
本発明の電磁波シールド材の厚みは、自動車部品用途等の成型品加工をスムーズに行なうという観点から0.5~6.0mmであることが好ましく、1.0~5.0mmであることがより好ましく、1.5~4.0mmであることがさらに好ましい。
【0032】
本発明の電磁波シールド材において、磁界シールド性能SEは、0.1MHzにおいて3dB以上であることが好ましく、8dB以上であることがより好ましく、1MHzにおいて10dB以上であることが好ましく、20dB以上であることがより好ましく、10MHzにおいて20dB以上であることが好ましく、35dB以上であることがより好ましく、100MHzにおいて40dB以上であることが好ましく、50dB以上であることがより好ましく、500MHzにおいて60dB以上であることが好ましく、75dB以上であることがより好ましい。ここで、磁界シールド性能SEは、KEC法に基づき、電磁波シールド材がない空間の磁界強度をM(A/m)とし、電磁波シールド材を配置したときの磁界強度をM’(A/m)としたとき、下記の式に基づいて求められる値である。なお、KEC法は関西電子工業振興センターで開発された電磁波シールド効果測定装置を用いて電磁波シールド効果を測定する方法であり、公知の方法である。
磁界シールド性能SE(dB)=20・log10(M/M’)
【0033】
本発明の電磁波シールド材では、A層には無機繊維が比較的多く含まれており、B層には金属繊維が比較的多く含まれている。なお、「無機繊維が比較的多く含まれる」とは電磁波シールド材全体における無機繊維の含有率と比べて無機繊維が多く含まれることを意味し、「金属繊維が比較的多く含まれる」とは電磁波シールド材全体における金属繊維の含有率と比べて金属繊維が多く含まれることを意味する。A層とB層とは隣接していることが好ましいが、A層とB層との境界線が明確でなくてもよく、A層とB層との間に無機繊維と金属繊維が共に含まれる中間層が存在してもよい。電磁波シールド材の層構成は特に限定されず、電磁波シールド材の表面はA層であってもB層であってもよい。電磁波シールド材には、A層とB層はそれぞれ少なくとも1層は存在するが、A層、B層のいずれも2層以上存在してもよく、A層/B層の順に積層された電磁波シールド材であることが好ましく、成形したときの反りが少なくなるためA層/B層/A層の順に積層された電磁波シールド材であることがより好ましい。
【0034】
図1は後述する実施例1の電磁波シールド材(成形体)の断面写真である。図1内の「1000.00μm」という文字に近い側に位置する層がA層であり、図1内の「1000.00μm」という文字から離れた側に位置する層でありA層に比べると薄い層がB層である。図1より、実施例1の電磁波シールド材は、無機繊維が比較的多く含まれるA層と金属繊維が比較的多く含まれるB層とを有することがわかる。なお、実施例1の成形体ではB層が成形体の表面に位置するが、必ずしも成形体表面の全面が金属繊維で覆われていなくてもよく(金属繊維の含有率が90%以上である領域を含んでいればよく)、本発明の効果を損なわない程度に部分的に金属繊維が分散していないエリアが存在してもよい(図1参照)。
【0035】
このように、本発明の電磁波シールド材は、A層に無機繊維が比較的多く分散して存在しており、B層に金属繊維が比較的多く分散して存在する構成であるため、曲げ強度や曲げ弾性率などの力学特性も優れており、伸長を伴う成形に用いることも可能である。
【0036】
<電磁波シールド材の製造方法>
熱可塑性樹脂を含む電磁波シールド材を製造する製造方法としては、少なくとも1枚の無機繊維含有不織布aと少なくとも1枚の金属繊維含有不織布bとを積層する工程と、前記積層した不織布を加熱及び加圧する工程とを有し、前記不織布a及び前記不織布bの少なくとも一方に熱可塑性樹脂が含まれていることを特徴とする製造方法であることが好ましい。後述の実施例では全ての実施例で加熱及び加圧を行っているが、加熱や加圧は必須ではなく、実施形態次第では、例えば、前記不織布aと前記不織布bとを積層した積層体(加熱及び加圧を行っていない積層体)を電磁波シールド材として用いてもよいし、前記不織布aと前記不織布bとを積層した積層体に対して加熱のみ行ったものを電磁波シールド材として用いてもよい。熱可塑性樹脂を含む電磁波シールド材を製造する製造方法としては、少なくとも1枚の無機繊維含有不織布aと少なくとも1枚の金属繊維含有不織布bとを積層する工程と、前記積層した不織布を熱プレス成形する工程とを有し、前記不織布aには樹脂が含まれていることがより好ましい。
【0037】
熱硬化性樹脂を含む電磁波シールド材を製造する製造方法としては、少なくとも1枚の無機繊維含有不織布aと少なくとも1枚の金属繊維含有不織布bとを積層する工程と、前記積層した不織布に熱硬化性樹脂組成物を添加する工程と、加熱することにより前記熱硬化性樹脂組成物を硬化させる工程とを有する製造方法であることが好ましい。なお、前記加熱時に加圧も行ってもよい。
【0038】
前記積層した不織布を加熱・加圧する方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、操作性、汎用性の観点から、熱プレス機を用いてプレス成形を行なうことが好ましい。加圧力は、得られる成形体の強度を考慮して、0.1~15MPaが好ましく、より好ましくは0.5~10MPa、さらに好ましくは1~7MPaである。また、加熱時間は、30~300秒が好ましく、より好ましくは40~240秒、さらに好ましくは50~180秒である。熱可塑性樹脂を用いる場合、加熱温度は、不織布aに含まれる樹脂の融点を考慮して該樹脂の融点~融点+100℃が好ましく、該樹脂の融点+20℃~融点+100℃であることがより好ましく、該樹脂の融点+40℃~該融点+100℃であることがさらに好ましく、樹脂がポリプロピレンの場合は、加熱温度は160~270℃であることが好ましく、180~260℃であることがより好ましく、200~250℃であることがさらに好ましい。熱硬化性樹脂を用いる場合、熱硬化性樹脂組成物が硬化する温度に加熱すればよいため、用いる熱硬化性樹脂の種類により加熱温度は決めればよく、公知の条件で熱硬化性樹脂を製造すればよい。
【0039】
なお、無機繊維含有不織布aに代えて無機繊維を含む熱可塑性樹脂フィルムを用いて電磁波シールド材を製造することが可能であり、金属繊維含有不織布bに代えて金属繊維を含む熱可塑性樹脂フィルムを用いて電磁波シールド材を製造することも可能である。無機繊維を含む熱可塑性樹脂フィルムを製造する方法としては、例えば、熱可塑性樹脂フィルム上に無機繊維を散布し、熱によって熱可塑性樹脂を溶融させ、必要に応じて加圧を行い熱可塑性樹脂フィルムと無機繊維とを一体化する方法が挙げられる。金属繊維を含む熱可塑性樹脂フィルムも無機繊維を含む熱可塑性樹脂フィルムと同様に製造することができる。
【0040】
不織布a、不織布bともに1枚のみでもよく、2枚以上でもよいが、不織布aは2枚以上であり不織布bは1枚のみであることが好ましい。
【0041】
(無機繊維含有不織布a)
前記不織布aは、無機繊維の他に熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。前記熱可塑性樹脂としては、熱可塑性樹脂繊維又は熱可塑性樹脂粒子を用いることが好ましく、熱可塑性樹脂繊維を用いる(すなわち、不織布aは無機繊維と熱可塑性樹脂繊維とを混綿した不織布である)ことがより好ましい。熱可塑性樹脂繊維としては、生産性、材料コスト等の観点から、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、及びポリカーボネート樹脂から選択される少なくとも一種を含む繊維であることが好ましい。
【0042】
熱可塑性樹脂繊維の平均繊維長は25~100mmであることが好ましく、30~80mmであることがより好ましく、40~70mmであることがさらに好ましい。平均繊維長が25mm以上の場合、無機繊維と熱可塑性樹脂繊維を含む不織布からなる成形体を成形した際の力学的強度が向上する。また、平均繊維長が100mm以下の場合、該不織布における樹脂繊維と熱可塑性樹脂繊維の分散性が良くなり、均一な不織布を形成しやすくなる。
【0043】
熱可塑性樹脂繊維の繊度は、2~22dtexであることが好ましく、3~15dtexであることがより好ましく、4~10dtexであることがさらに好ましい。繊度が2dtex以上の場合、または、22dtex以下の場合、該不織布における無機繊維と熱可塑性樹脂繊維の分散性が良くなり、均一な不織布を形成しやすくなる。
【0044】
不織布aの目付は、400~4000g/m2であることが好ましく、800~3200g/m2であることがより好ましく、1200~2800g/m2であることがさらに好ましく、1600~2400g/m2であることがよりさらに好ましい。
【0045】
電磁波シールド材の製造において不織布aは1枚のみ用いてもよく2枚以上用いてもよい。2枚以上の不織布aを用いる場合、同一の不織布aを用いてもよく、異なる不織布aを用いてもよいが、同一の不織布aを用いることが好ましい。異なる不織布aを用いた場合、「不織布aにおける無機繊維の含有率」及び「不織布aにおける樹脂の含有率」は、全ての不織布aにおける無機繊維の含有率及び樹脂の含有率を指す。また、不織布aを2枚以上積層した電磁波シールド材においては「不織布aの目付」は全ての不織布aの目付を合計した値を指す。
【0046】
不織布aの製造方法は特に限定されないが、(1)無機繊維と熱可塑性樹脂繊維とを混綿してシート状にし、最後に無機繊維と熱可塑性樹脂繊維とを結合させることにより不織布aを製造する方法、(2)樹脂粒子を無機繊維に付着させた後に加熱して無機繊維と樹脂とを結合させることにより不織布aを製造する方法、(3)溶媒に融解させた樹脂組成物を無機繊維にコーティング、含浸、又は浸漬させた後に加熱して不織布aを製造する方法、(4)無機繊維のみから不織布aを製造する方法などが挙げられるが不織布a中に無機繊維を均一に分散させる観点から上記(1)の製造方法が好ましい。
【0047】
上記(1)の製造方法としては、具体的には、無機繊維束を開繊し、開繊した無機繊維と熱可塑性樹脂繊維とを所望の質量比(例えば、無機繊維40質量%、熱可塑性樹脂繊維60質量%)にて混綿してシート状にし、最後に加熱や加圧により無機繊維と熱可塑性樹脂繊維とを結合させることにより不織布aを得ることができる。例えば、混綿は市販のブレンダー機を用いることができる。シート化については、カーディング方式を用いることができ、例えば、カーディング不織布作製装置等の市販のカード機を用いてカーディングすることができる。また、無機繊維と熱可塑性樹脂繊維との結合は、サーマルボンド法、レジンボンド法等の公知の結合方法を用いることができ、中でもベルトプレス機等によりサーマルボンドを行うことが好ましい。
【0048】
上記(2)の製造方法では、例えば、無機繊維に熱可塑性樹脂粒子を噴霧することにより樹脂粒子を付着させることができ、熱可塑性樹脂粒子が付着した無機繊維を加熱や加圧により無機繊維と熱可塑性樹脂とを結合させることにより不織布aを製造することができる。
【0049】
上記(3)の製造方法では、熱可塑性樹脂を用いても熱硬化性樹脂を用いてもよい。含浸法として、プレス機、ダブルベルトプレス機等での含浸、またはトランスファーモールド法等が挙げられる。浸漬法として、プルトルージョン法、プリプレグ法、ワインディング法等が挙げられる。
【0050】
上記(4)の製造方法としては、例えば、無機繊維をニードルパンチ等により絡ませる方法、短繊維化した無機繊維を抄造する方法、織機などを用いて無機繊維を織る方法、無機繊維束を開繊してシート状にした後に加圧する方法等が挙げられる。
【0051】
(金属繊維含有不織布b)
不織布bの製造方法は特に限定されず、例えば、無機繊維をニードルパンチ等により絡ませる方法、短繊維化した無機繊維を抄造する方法、織機などを用いて無機繊維を織る方法等が挙げられる。
【0052】
不織布bは金属繊維のみからなる不織布であることが好ましいが、樹脂を含んでもよい。不織布bに含まれる樹脂としては、特に限定されず、熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹脂でもよい。不織布bに含まれる熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の具体例は不織布aに含まれる樹脂と同じであり、樹脂を含む不織布bの製造方法は不織布aの製造方法に記載の(1)~(3)のいずれの製造方法でもよい。
【0053】
不織布bの目付は、100~1000g/m2であることが好ましく、150~700g/m2であることがより好ましく、200~400g/m2であることがさらに好ましい。
【0054】
電磁波シールド材の製造において不織布bは1枚のみ用いてもよく2枚以上用いてもよい。2枚以上の不織布bを用いる場合、同一の不織布bを用いてもよく、異なる不織布bを用いてもよい。異なる不織布bを用いた場合、不織布bを2枚以上積層した電磁波シールド材においては「不織布bの目付」は全ての不織布bの目付を合計した値を指す。
【実施例
【0055】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0056】
(目付の測定)
縦150mm、横150mmの成形体の質量を市販の電子秤で測定し、測定した質量を面積(0.225m2)で割ることで成形体の目付(単位:g/m2)を算出した。
【0057】
(見かけ厚みの測定)
実施例及び比較例において、市販の厚みゲージによりプレス成形前の不織布積層体及びプレス成形後の成形体の見かけ厚みをそれぞれ測定した。
【0058】
(磁界シールド性の測定)
縦150mm、横150mmの成形体1~6を用意し、関西電子工業振興センターで開発された電磁波シールド効果測定装置を用いて各成形体の周波数0.1~1000MHzにおける電磁波シールド材がない空間の磁界強度M(A/m)及び電磁波シールド材を配置したときの磁界強度M’(A/m)を測定し、下記の式に基づき各周波数における磁界シールド性能SEを算出した。
磁界シールド性能SE(dB)=20・log10(M/M’)
【0059】
以下の実施例及び比較例では、無機繊維として炭素繊維(東レ株式会社製T700、70mmカット繊維)を用い、マトリックス樹脂繊維としてマレイン酸変性ポリプロピレン繊維(大和紡績株式会社製、繊度4.4dT、平均繊維長51mm)を用い、金属繊維として銅繊維(株式会社日工テクノ製、繊維径50μm、平均繊維長100mm)、ニッケル繊維(株式会社日工テクノ製、繊維径40μm、平均繊維長100mm)、及び鉄繊維(株式会社日工テクノ製、繊維径50μm、平均繊維長100mm)を用いた。
【0060】
<実施例1-1(成形体1)>
上記炭素繊維40質量%と上記マレイン酸変性ポリプロピレン繊維60質量%とを混綿し、カーディング不織布作製装置を用いてウェブを作製した後、熱を用いた低圧ベルトプレス機にて厚み0.8mm、目付250g/m2の不織布a1を作製した。次に上記銅繊維をニードルパンチして作製された株式会社日工テクノ製銅繊維不織布b1(目付300g/m2)の一方の面に不織布a1を8枚積層させて、不織布積層体1(目付2300g/m2、見かけ厚み10mm)を作製した。その後、熱プレス機を用いて不織布積層体1を、温度230℃、圧力5MPa、加圧時間60秒の条件下でプレス成形を行った。最後に冷却をし、厚み2mmの成形体1を作製した。
【0061】
実施例1で得られた成形体1の断面の様子を光学顕微鏡(KEYENCE製VHX-900)により観察し、銅繊維の配置状態を調べた。成形体1の表面において200μm四方に含まれる繊維のうち、銅繊維の含有率は90%以上であることが確認できた。すなわち、成形体1において炭素繊維が比較的多く含まれるA層の上に銅繊維が比較的多く含まれるB層(成形体1全体における銅繊維の含有率と比べて銅繊維が多く含まれる層)が形成されており、A層の上に銅繊維が略均一に分散しているB層が存在することがわかった。
【0062】
<比較例1-1(成形体2)>
上記炭素繊維40質量%、上記銅繊維15質量%、及び上記マレイン酸変性ポリプロピレン繊維45質量%を混綿し、カーディング不織布作製装置を用いてウェブを作製した後、熱を用いた低圧ベルトプレス機にて目付250g/m2の不織布cを9つ作製した。次に9つの不織布cを積層させて、不織布積層体2(目付2250g/m2、見かけ厚み8mm)を作製した。その後、熱プレス機を用いて不織布積層体2を、温度230℃、圧力5MPa、加圧時間60秒の条件下でプレス成形を行った。最後にプレス成形された不織布積層体2の冷却を行い、厚み2mmの成形体2を得た。
【0063】
<比較例1-2(成形体3)>
上記不織布a1を9層積層させた不織布積層体3(目付2250g/m2、見かけ厚み8mm)を作製した。その後、熱プレス機を用いて不織布積層体3を、温度230℃、圧力5MPa、加圧時間60秒の条件下でプレス成形を行った。最後にプレス成形された不織布積層体3の冷却を行い、厚み2mmの成形体3を得た。
【0064】
成形体1~3(実施例1-1、比較例1-1~2)の周波数0.1~1000MHzにおける磁界シールド性能SEを求め、周波数と磁界シールド性能SEとの関係を示す図を図2に示した。また、周波数0.1MHz、1MHz、10MHz、100MHz、及び500MHzにおける成形体1~3の磁界シールド性能SE(単位:dB)を表1に示した。
【0065】
【表1】
【0066】
比較例である成形体2や成形体3と比べて、実施例である成形体1は周波数0.1~500MHzのいずれの周波数でも磁界シールド性能SEが非常に優れている。よって、成形体1は、炭素繊維が含まれるA層と銅繊維が含まれるB層とが別々に存在する成形体であるため、低周波の磁界を効果的にシールドすることができる。なお、実施例1の成形品は比較例1の成形品と同程度の電界シールド性を有しており、実施例1は磁界シールド性のみならず電界シールド性にも優れた成形品であった。
【0067】
<実施例2-1(成形体4)>
上記不織布b1の両面に上記不織布a1をそれぞれ4層ずつ積層させた不織布積層体4(目付2300g/m2、見かけ厚み10mm)を作製した。その後、熱プレス機を用いて不織布積層体4を、温度230℃、圧力5MPa、加圧時間60秒の条件下でプレス成形を行った。最後に冷却を行い、厚み2mmの成形体4を得た。
【0068】
<実施例2-2(成形体5)>
上記不織布b1に代えて上記ニッケル繊維をニードルパンチして作製された株式会社日工テクノ製ニッケル繊維不織布b2(目付300g/m2)を用いた以外は実施例2-1と同様に成形体を作製し、目付2300g/m2、厚み2mmの成形体5を得た。
【0069】
<実施例2-3(成形体6)>
上記不織布b1に代えて上記鉄繊維をニードルパンチして作製された株式会社日工テクノ製鉄繊維不織布b3(目付300g/m2)を用いた以外は実施例2-1と同様に成形体を作製し、目付2300g/m2、厚み2mmの成形体6を得た。
【0070】
成形体4~6(実施例2-1~3)の周波数0.1~1000MHzにおける磁界シールド性能SEを求め、周波数と磁界シールド性能SEとの関係を示す図を図3に示した。また、周波数0.1MHz、1MHz、10MHz、100MHz、及び500MHzにおける成形体4~6の磁界シールド性能SE(単位:dB)を表2に示した。
【0071】
【表2】
【0072】
実施例である成形体4~6は周波数0.1~500MHzのいずれの周波数でも磁界シールド性能SEが優れており、特に金属繊維として銅繊維を用いた成形体4は磁界シールド性能SEが非常に優れている。よって、成形体4~6は、炭素繊維が含まれるA層と金属繊維が含まれるB層とが別々に存在する成形体であるため、低周波の磁界を効果的にシールドすることができ、中でも金属繊維として銅繊維を用いることによりシールド性を非常に高めることができる。なお、実施例2-1~3の成形品は実施例1-1の成形品と同程度の電界シールド性を有しており、実施例2-1~3は磁界シールド性のみならず電界シールド性にも優れた成形品であった。
【要約】
【課題】低周波の磁界を効果的にシールドすることができる電磁波シールド材を提供する。
【解決手段】無機繊維を含むA層と金属繊維を含むB層とを含み、前記A層及び前記B層の少なくとも一方に樹脂を含むことを特徴とする電磁波シールド材。
【選択図】図1
図1
図2
図3