(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】プレグラウトPC鋼材、そのプレグラウトPC鋼材を用いたモニタリング装置およびモニタリング方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/12 20060101AFI20220222BHJP
E04C 5/10 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
E04G21/12 104D
E04G21/12 104C
E04G21/12 104F
E04C5/10
(21)【出願番号】P 2018099823
(22)【出願日】2018-05-24
【審査請求日】2021-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000192626
【氏名又は名称】神鋼鋼線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】細居 清剛
(72)【発明者】
【氏名】堀井 智紀
【審査官】津熊 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-098563(JP,A)
【文献】特開平07-317215(JP,A)
【文献】特開2017-078618(JP,A)
【文献】特開2000-046527(JP,A)
【文献】特開2010-133871(JP,A)
【文献】特開2018-028443(JP,A)
【文献】特開2012-117243(JP,A)
【文献】特開2007-211486(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0077740(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/12
E04C 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレストレストコンクリート構造物に適用されるプレグラウトPC鋼材であって、
緊張力が付与されるPC鋼線と、
前記PC鋼線を被覆する被覆材と、
前記PC鋼線と前記被覆材との間隙に未硬化状態で充填され、前記PC鋼線が緊張された後に硬化する常温硬化性のプレグラウト樹脂と、
前記PC鋼線の長手方向に平行でかつ捻られることなく、前記PC鋼線と接触することなく、前記プレグラウト樹脂に埋設された、光ファイバとを含
み、
前記被覆材は、前記長手方向に垂直な断面から見て、前記PC鋼線中心から前記被覆材側への方向へ、前記被覆材の外表面から突出した空間を構成するリブを備え、
前記光ファイバは前記リブに充填された前記プレグラウト樹脂に埋設された、プレグラウトPC鋼材。
【請求項2】
前記光ファイバは接着剤を伴うことなく前記プレグラウト樹脂に埋設された、請求項
1に記載のプレグラウトPC鋼材。
【請求項3】
請求項1
または請求項2に記載のプレグラウトPC鋼材を用いて、前記プレグラウトPC鋼材の各種状態を監視するモニタリング装置であって、
前記光ファイバに光信号を発信する光信号発信部と、
前記光ファイバからの光信号を受信する光信号受信部と、
前記光信号受信部で受信された前記光信号を解析することにより前記プレグラウト樹脂の硬化状態を取得する取得部とを含む、モニタリング装置。
【請求項4】
前記モニタリング装置は、前記プレグラウト樹脂の硬化完了を判定する判定部をさらに含む、請求項
3に記載のモニタリング装置。
【請求項5】
前記モニタリング装置は、前記プレグラウト樹脂の硬化完了後に、前記プレグラウトPC鋼材に発生した異常または前記プレグラウトPC鋼材が適用されたプレストレストコンクリート構造物に発生した異常を検出する検出部をさらに含む、請求項
4に記載のモニタリング装置。
【請求項6】
請求項1
または請求項2に記載のプレグラウトPC鋼材を用いて、前記プレグラウト樹脂の硬化状態、前記プレグラウトPC鋼材に発生した異常状態または前記プレグラウトPC鋼材が適用されたプレストレストコンクリート構造物に発生した異常状態を検出するモニタリング方法であって、
前記PC鋼線の緊張後であって前記プレグラウト樹脂の硬化開始後において、前記光ファイバに光信号を発信して前記光ファイバから受信した光信号を解析することにより、前記プレグラウト樹脂の硬化状態を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにおいて取得される前記プレグラウト樹脂の硬化状態に基づいて前記プレグラウト樹脂の硬化完了を判定する判定ステップと、
前記判定ステップにより硬化完了と判定された後に、前記光ファイバに光信号を発信して前記光ファイバから受信した光信号を解析することにより、前記プレグラウトPC鋼材に発生した異常状態または前記プレグラウトPC鋼材が適用されたプレストレストコンクリート構造物に発生した異常状態を検出する検出ステップとを含む、モニタリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレストレストコンクリート(PC:Prestressed Concrete)構造物に用いられるプレグラウトPC鋼材に関し、特に、PC鋼線とそれを被覆する被覆材とこれらのPC鋼線と被覆材との間隙に未硬化状態で充填されPC鋼線が緊張された後に硬化する常温硬化性のプレグラウト樹脂とを含むプレグラウトPC鋼材に関する。また、本発明は、このプレグラウトPC鋼材を用いてプレグラウトPC鋼材の各種状態を監視するモニタリング装置およびモニタリング方法に関する。なお、本発明において、PC鋼線には、PC鋼より線、PC鋼線およびPC鋼棒を含む。
【背景技術】
【0002】
橋梁等においては、ポストテンション工法を用いたプレストレストコンクリート桁(プレストレストコンクリート構造物)が採用されることが多い。このようなポストテンション工法を用いたプレストレストコンクリート構造物においては、コンクリートの打設前にポリエチレン製(樹脂製)または金属製のシースを配置し、コンクリートを打設した後にこのシース中に集合体ケーブル(PC鋼線)を挿入し、コンクリートの強度が所定強度まで達した後に集合体ケーブルを緊張・定着し、最後に、集合体ケーブルの防錆処理および集合体ケーブルとコンクリートとの付着一体化処理を目的として、セメントミルク等(グラウトと呼ばれることがある樹脂配合物)を集合体ケーブルとシースとの間に注入する。この場合、シースの配筋、シース中への集合体ケーブルの挿入およびグラウト注入作業は、非常に煩雑な作業で多大な労力と時間を要するという問題があった。
【0003】
特許第2559802号公報(特許文献1)は、このような問題を解決する緊張用ケーブルを開示する。この緊張用ケーブルは、鋼線、鋼より線、鋼棒等を複数本使用したケーブルが樹脂、金属等で成形されたシース中に挿入されもしくはシースで被覆されて、緊張材として用いる緊張用ケーブルであって、この緊張材が緊張されるまでは硬化せずに流動性があり、緊張後に常温で硬化するように所要の硬化時間に応じた配合比率で硬化剤が添加されて硬化を開始させてなる鋼材に対する防錆能力を有する樹脂配合物をケーブルとシースとの間隙に充填したことを特徴とする。
【0004】
この特許文献1に開示された緊張用ケーブルをプレストレストコンクリート構造物に適用する場合には、ポストテンション工法で行われているシースの配筋、ケーブルの挿入およびグラウト注入作業が不要となるので、大幅な省力化及び工期短縮が図られる。また、ケーブルに使用している樹脂配合物は、硬化するまでには流動性があり、かつ、経時的に硬化する性質を持っているので、配筋後コンクリートを打設し、必要な強度が得られた後にPC鋼線を緊張することができ、その後、樹脂が硬化することによってPC鋼線とコンクリートとの間で付着が得られるので、従来のポストテンション工法によるコンクリート構造物と同様な特性を発現させることができる。特に、樹脂を硬化させるために加熱や人為的な手段を用いないので、硬化のための装置、手間がかからず危険もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、特許文献1に開示された緊張用ケーブルによると、樹脂を硬化させるために加熱や人為的な手段を用いないので、硬化のための装置、手間がかからず危険もないという大きな長所を備える。
ところで、この特許文献1に開示された緊張用ケーブルの樹脂配合物に関しては、特許文献1には、樹脂が硬化するまでの所要日数は硬化促進剤の量の調整により自由に設定することができると記載されているだけであって、この樹脂を硬化させる過程において硬化状態を実際に検出することについては記載されていない。
【0007】
樹脂の硬化状態について理論的にはその硬化が解析できても、実際の施工時において樹脂の硬化状態を実際に判断するためには、プレストレストコンクリート構造物の一部を破壊して緊張用ケーブルのシースを取り除いて樹脂を露出させる必要がある。この作業を実施すると、(1)一部であるとしてもその破壊箇所のプレストレス力を戻すことが不可能であること、(2)被覆除去箇所の復旧時に確実な防錆処理を行う必要があり現実的ではないこと、のために、樹脂の硬化状態を検出することは事実上不可能である。その一方、樹脂の硬化状態はプレストレストコンクリート構造物の強度に影響を及ぼすために、樹脂の硬化状態を検出することには大きな意義がある。
【0008】
本発明は、このような意義に鑑みて開発されたものであり、その目的とするところは、プレストレストコンクリート構造物をポストテンション方式により施工する際に、PC鋼線とそれを被覆する被覆材とPC鋼線と被覆材との間隙に未硬化状態で充填されPC鋼線が緊張された後に硬化する常温硬化性のプレグラウト樹脂とを含むプレグラウトPC鋼材におけるプレグラウト樹脂の硬化状態を的確に検出することができる安価に製造可能なプレグラウトPC鋼材を提供することである。さらに本発明の目的は、このプレグラウトPC鋼材を用いてプレグラウトPC鋼材の各種状態を監視するモニタリング装置およびモニタリング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のある局面に係るプレグラウトPC鋼材は、以下の技術的手段を講じている。
すなわち、本発明に係るプレグラウトPC鋼材は、プレストレストコンクリート構造物に適用されるプレグラウトPC鋼材であって、緊張力が付与されるPC鋼線と、前記PC鋼線を被覆する被覆材と、前記PC鋼線と前記被覆材との間隙に未硬化状態で充填され、前記PC鋼線が緊張された後に硬化する常温硬化性のプレグラウト樹脂と、前記PC鋼線の長手方向に平行でかつ捻られることなく、前記PC鋼線と接触することなく、前記プレグラウト樹脂に埋設された、光ファイバとを含む。
【0010】
好ましくは、前記被覆材は、前記長手方向に垂直な断面から見て、前記PC鋼線中心から前記被覆材側への方向へ、前記被覆材の外表面から突出した空間を構成するリブを備え、前記光ファイバは前記リブに充填された前記プレグラウト樹脂に埋設されたように構成することができる。
さらに好ましくは、前記光ファイバは接着剤を伴うことなく前記プレグラウト樹脂に埋設されたように構成することができる。
【0011】
本発明の別の局面に係るモニタリング装置は以下の技術的手段を講じている。
すなわち、本発明に係るモニタリング装置は、上述したいずれかのプレグラウトPC鋼材を用いて、前記プレグラウトPC鋼材の各種状態を監視するモニタリング装置であって、前記光ファイバに光信号を発信する光信号発信部と、前記光ファイバからの光信号を受信する光信号受信部と、前記光信号受信部で受信された前記光信号を解析することにより前記プレグラウト樹脂の硬化状態を取得する取得部とを含む。
【0012】
好ましくは、前記モニタリング装置は、前記プレグラウト樹脂の硬化完了を判定する判定部をさらに含むように構成することができる。
さらに好ましくは、前記モニタリング装置は、前記プレグラウト樹脂の硬化完了後に、前記プレグラウトPC鋼材に発生した異常または前記プレグラウトPC鋼材が適用されたプレストレストコンクリート構造物に発生した異常を検出する検出部をさらに含むように構成することができる。
【0013】
本発明のさらに別の局面に係るモニタリング方法は以下の技術的手段を講じている。
すなわち、本発明に係るモニタリング方法は、上述したいずれかのプレグラウトPC鋼材を用いて、前記プレグラウト樹脂の硬化状態、前記プレグラウトPC鋼材に発生した異常状態または前記プレグラウトPC鋼材が適用されたプレストレストコンクリート構造物に発生した異常状態を検出するモニタリング方法であって、前記PC鋼線の緊張後であって前記プレグラウト樹脂の硬化開始後において、前記光ファイバに光信号を発信して前記光ファイバから受信した光信号を解析することにより、前記プレグラウト樹脂の硬化状態を取得する取得ステップと、前記取得ステップにおいて取得される前記プレグラウト樹脂の硬化状態に基づいて前記プレグラウト樹脂の硬化完了を判定する判定ステップと、前記判定ステップにより硬化完了と判定された後に、前記光ファイバに光信号を発信して前記光ファイバから受信した光信号を解析することにより、前記プレグラウトPC鋼材に発生した異常状態または前記プレグラウトPC鋼材が適用されたプレストレストコンクリート構造物に発生した異常状態を検出する検出ステップとを含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るプレグラウトPC鋼材によると、プレストレストコンクリート構造物をポストテンション方式により施工する際に、PC鋼線とそれを被覆する被覆材とPC鋼線と被覆材との間隙に未硬化状態で充填されPC鋼線が緊張された後に硬化する常温硬化性のプレグラウト樹脂とを含むプレグラウトPC鋼材におけるプレグラウト樹脂の硬化状態を的確に検出することができる安価に製造可能なプレグラウトPC鋼材を提供することができる。さらに、このプレグラウトPC鋼材を用いてプレグラウトPC鋼材の各種状態を監視するモニタリング装置およびモニタリング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係るプレグラウトPC鋼材の構造を説明するための断面図である。
【
図2】
図1に示したプレグラウトPC鋼材を用いたモニタリング状態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係るプレグラウトPC鋼材、このプレグラウトPC鋼材を用いたモニタリング装置およびモニタリング方法を、図面に基づき説明する。
[プレグラウトPC鋼材の構造]
本実施の形態に係るプレグラウトPC鋼材の構造について、プレグラウトPC鋼材の断面図である
図1(A)~
図1(D)を参照して説明する。なお、このプレグラウトPC鋼材は、PC鋼線として、素線の構成本数、線径およびより状態等が異なる各種のPC鋼より線、線径等が異なる各種のPC鋼線、または、線径(棒径)等が異なる各種のPC鋼棒を含むものである。
【0017】
図1(A)および
図1(B)がPC鋼線としてPC鋼より線110を採用したプレグラウトPC鋼材100およびプレグラウトPC鋼材200であって、
図1(C)および
図1(D)がPC鋼線として1の素線から構成されるPC鋼線またはPC鋼棒(以下においてはPC鋼線310で代表させて説明する)を採用したプレグラウトPC鋼材300およびプレグラウトPC鋼材400である。また、
図1(A)および
図1(C)がPC鋼線を被覆する被覆材としてリブ140があるリブ付き被覆材130を採用したプレグラウトPC鋼材100およびプレグラウトPC鋼材300であって、
図1(B)および
図1(D)がPC鋼線を被覆する被覆材としてリブがないリブなし被覆材230を採用したプレグラウトPC鋼材200およびプレグラウトPC鋼材400である。なお、
図1(A)~
図1(D)のいずれもPC鋼線の長手方向(プレグラウトPC鋼材の長手方向と同じ)に垂直な断面図であって、端部処理が施される場合の両端部以外は同じ断面図である。また、
図1(A)~
図1(D)において同じ構成については同じ参照符号を付しており、重複する説明は繰り返さない。
【0018】
図1(A)~
図1(D)に示すように、本実施の形態に係るプレグラウトPC鋼材100(リブあり被覆、PC鋼より線)、プレグラウトPC鋼材200(リブなし被覆、PC鋼より線)、プレグラウトPC鋼材300(リブあり被覆、PC鋼線)、プレグラウトPC鋼材400(リブなし被覆、PC鋼線)は、プレストレストコンクリートに適用されるプレグラウトPC鋼材であって、緊張力が付与されるPC鋼線(PC鋼より線110またはPC鋼線310)と、PC鋼線を被覆する被覆材(リブ付き被覆材130またはリブなし被覆材230)と、PC鋼線と被覆材との間隙に未硬化状態で充填されPC鋼線が緊張された後に硬化する常温硬化性のプレグラウト樹脂120とを含む。
【0019】
これらのプレグラウトPC鋼材の特徴的な構造として、このPC鋼線の長手方向に平行でかつ捻られることなくPC鋼線と接触することなくプレグラウト樹脂(後硬化樹脂やエポキシ樹脂と記載する場合がある)120に埋設された光ファイバ150を含む。
ここで、この特徴的な構造以外については、これらのプレグラウトPC鋼材100、200、300、400は、上述した特許文献1に開示された公知のプレグラウトPC鋼材であって、常温硬化性のプレグラウト樹脂120をPC鋼線の表面に未硬化状態で塗布して被覆材であるシース管で覆ったPC鋼線であって、一例として、出願人が製造販売するアフターボンド(登録商標)PC鋼線が挙げられる。
【0020】
このような公知のプレグラウトPC鋼材における未硬化状態のプレグラウト樹脂120に埋設される光ファイバ150は、(1)特殊な構造を備えない通常の構造の光ファイバであって、(2)PC鋼線の長手方向(プレグラウトPC鋼材の長手方向と同じ)に平行でかつ捻られることなくPC鋼線と接触することなく埋設されている。このように光ファイバ150をプレグラウト樹脂120に埋設するにあたり、(PC鋼線に接触させるために)特殊な構造の光ファイバを用いる必要もなく、(PC鋼より線に接触させるためにより状態に沿って)捻るような特殊な形態で光ファイバを埋設する必要もなく、PC鋼線に接触させるような特殊な位置関係で光ファイバを埋設する必要もないために(さらに後述するように光ファイバ150は接着剤を伴うことなく未硬化状態で充填されたプレグラウト樹脂120に埋設されているために)、本実施の形態に係るプレグラウトPC鋼材を安価に製造することができる。なお、光ファイバ150の埋設本数は図示した1本に限定されるものではない。
【0021】
ここで、PC鋼線の長手方向に平行でかつ捻られることなく埋設されているとは、PC鋼線がPC鋼より線110の場合において、PC鋼線のひずみを光ファイバ150により検出する等の目的でPC鋼より線110に接触させるためにPC鋼より線110のより(撚り、捻れ)に対応させて光ファイバ150が捻られている場合を含まないことを意味するものである。このため、完全に平行な場合以外を除外して、完全に平行な場合のみを意味するものではなく、PC鋼線の長手方向に平行でかつ捻られることなく埋設されているとは、PC鋼線の長手方向に「略」平行でかつ「実質的に」捻られることなく埋設されていることを意味する。すなわち、本実施の形態に係るプレグラウトPC鋼材の製造工程においてPC鋼線と光ファイバ150との一部が互いに平行でなく、光ファイバ150の一部が捻れて製造されたものであっても構わない。
【0022】
さらに、PC鋼線と接触することなく埋設されているとは、PC鋼線のひずみを光ファイバにより検出する等の目的でPC鋼線(PC鋼より線、PC鋼線、PC鋼棒)に接触させて光ファイバ150が埋設されている場合を含まないことを意味するものである。このため、完全に接触しない場合以外を除外して、完全に接触しない場合のみを意味するものではなく、PC鋼線と接触することなく埋設されているとは、PC鋼線と「実質的に」接触することなく埋設されていることを意味する。すなわち、本実施の形態に係るプレグラウトPC鋼材の製造工程においてPC鋼線と光ファイバとの一部どうしが接触して製造されたものであっても構わない。
【0023】
図1(A)および
図1(C)に示すプレグラウトPC鋼材100およびプレグラウトPC鋼材300においては、リブ付き被覆材130がPC鋼線の長手方向に垂直な断面から見て、PC鋼線中心から被覆材側への方向へ、被覆材の外表面から突出した空間を構成するリブ140を備える。そして、上述したようにPC鋼線の長手方向に平行でかつ捻られることなくPC鋼線と接触することなく埋設される光ファイバ150は、このリブ140に充填されたプレグラウト樹脂120に埋設されている。
【0024】
一方、
図1(B)および
図1(D)に示すプレグラウトPC鋼材200およびプレグラウトPC鋼材400においては、リブなし被覆材230がこのようなリブ140を備えない。上述したようにPC鋼線の長手方向に平行でかつ捻られることなくPC鋼線と接触することなく埋設される光ファイバ150は、(リブが存在しないためにリブではなく)PC鋼線と被覆材リブなし230との間隙に未硬化状態で充填されたプレグラウト樹脂120に埋設されている。
【0025】
なお、
図1(A)~
図1(D)のいずれのプレグラウトPC鋼材100、200、300、400であっても、光ファイバ150は接着剤を伴うことなく未硬化状態で充填されたプレグラウト樹脂120に埋設されている。このプレグラウト樹脂120は、PC鋼線が緊張された後に硬化する常温硬化性を備えるために、接着剤を伴うことなく光ファイバ150を埋設してもプレグラウト樹脂120が硬化した後においては、光ファイバ150を含みPC鋼線(PC鋼より線110またはPC鋼線310)、プレグラウト樹脂120および被覆材(リブ付き被覆材130またはリブなし被覆材230)が(プレストレストコンクリート構造物とともに)一体化される。そのため、接着剤を用いることなくこのプレグラウト樹脂120が硬化した後においては、PC鋼線(PC鋼より線110またはPC鋼線310)と光ファイバ150と(プレストレストコンクリート構造物と)が一体化される。
【0026】
光ファイバ150は、プレグラウト樹脂120の硬化が完了するまではプレグラウト樹脂の硬化による収縮に起因する圧力変化を測定するセンサとして、プレグラウト樹脂120の硬化が完了した後はPC鋼線のひずみ変化を測定するセンサとして用いられる。この光ファイバ150は、PC鋼線に接触させるために特殊な構造を備えるものではなく、公知の一般的なたとえばコアとクラッドとで構成されるものを好適に利用できる。
【0027】
光ファイバ150を埋設する本数は、上述した単数(1本)に限定されるものではなく複数本でもよく、プレグラウト樹脂120の硬化が完了するまでの圧力変化およびプレグラウト樹脂120の硬化が完了した後のひずみ変化の測定方式に応じて適宜選択できる。
プレグラウト樹脂120の硬化が完了するまでは、プレグラウト樹脂120が備える常温硬化性によって、硬化開始から時間の経過に従ってプレグラウト樹脂120が硬化して、この硬化に従ってプレグラウト樹脂120が収縮する。プレグラウト樹脂120が収縮するとこのプレグラウト樹脂120に埋設された光ファイバ150もプレグラウト樹脂120の収縮に対応して受ける圧力が変化する。従って、光ファイバへ入出力する光信号を解析することにより光ファイバ150が受ける圧力(または圧力変化)を測定し、間接的にプレグラウト樹脂120の硬化状態を測定することができる。
【0028】
プレグラウト樹脂120の硬化が完了した後において、PC鋼線、PC鋼材またはプレストレストコンクリート構造物(これらをまとめてPC鋼線等またはPC鋼材等と記載する場合がある)の伸縮等を含む異常によってひずみが発生した場合、PC鋼線等と一体化された光ファイバ150もPC鋼線等の変形に対応してひずむ。従って、光ファイバへ入出力する光信号を解析することにより光ファイバ150のひずみ(またはひずみ変化)を測定し、間接的にPC鋼線等のひずみ(またはひずみ変化)を測定することができる。
[モニタリング装置およびモニタリング方法]
上述した構造を備えるプレグラウトPC鋼材を用いてプレグラウトPC鋼材等の各種状態を監視するモニタリング装置およびモニタリング方法について以下に詳しく説明する。
【0029】
このモニタリング装置は、光ファイバ150に光信号を発信する光信号発信部と、光ファイバからの光信号を受信する光信号受信部と、光信号受信部で受信された光信号を解析することによりプレグラウト樹脂120の硬化状態を取得する取得部とを含む。さらに、このモニタリング装置は、プレグラウト樹脂120の硬化完了を判定する判定部を含むこともできる。さらに、このモニタリング装置は、プレグラウト樹脂120の硬化完了後に、プレグラウトPC鋼材に発生した異常またはプレグラウトPC鋼材が適用されたプレストレストコンクリート構造物に発生した異常を検出する検出部を含むこともできる。
【0030】
本発明の実施の形態に係るモニタリング装置の一例を以下に詳しく説明する。
このモニタリング装置は、光ファイバ150の両端からレーザ光を入出力するタイプの測定装置である。なお、光ファイバ150の片端からレーザ光を入出力するタイプの測定装置であっても構わない。いずれであっても、入出力される光信号に基づいて光ファイバ150の長手方向の圧力分布およびひずみ分布を解析することにより、プレグラウトPC鋼材の長手方向の各位置に発生している圧力変化およびひずみ変化を検出することができる。
【0031】
モニタリング装置は、光ファイバ150に光信号を発信する光信号発信部と、光ファイバ150からの光信号を受信する光信号受信部と、光信号受信部で受信された光信号を解析することによりプレグラウト樹脂120の硬化状態を取得する取得部と、プレグラウト樹脂120の硬化完了を判定する判定部と、プレグラウト樹脂120の硬化完了後に、プレグラウトPC鋼材に発生した異常またはプレグラウトPC鋼材が適用されたプレストレストコンクリート構造物に発生した異常を検出する検出部を含む。なお、モニタリング装置は、これらの取得部、判定部および検出部に加えて、プレグラウト樹脂120の硬化状態およびPC鋼材等のひずみ状態を表示する表示部を備える。
【0032】
光信号発信部と光信号受信部とはたとえば一体の測定器として構成されてもよく、取得部、判定部および検出部はたとえばコンピュータ等の演算装置およびその演算装置で実行されるプログラムにより実現されていても構わないし、表示部はたとえば演算装置による演算結果を画面表示するディスプレイモニタにより実現されていても構わない。
取得部、判定部および検出部を演算装置およびその演算装置で実行されるプログラムにより実現した場合には、これらの取得部、判定部および検出部は、以下のように実現される。
【0033】
取得部は、プレグラウト樹脂120の硬化開始から光信号受信部で受信された光信号を解析して、プレグラウト樹脂120の収縮に対応して変化する圧力変化に基づいてプレグラウト樹脂120の硬化状態を取得する。
判定部は、取得部で取得されたプレグラウト樹脂120の硬化状態に基づいて、たとえば単位時間あたり圧力変化がしきい値以下になると圧力変化が非常に小さくなり(もうこれ以上収縮しないと判定して)プレグラウト樹脂120の硬化が完了したと判定する。
【0034】
検出部は、プレグラウト樹脂120の硬化完了後から取得部と同じように機能して、光信号受信部で受信された光信号を解析して、光ファイバ150と(プレグラウト樹脂120および被覆材とともに)一体化されたPC鋼線のひずみ、および/または、光ファイバ150と(PC鋼線、プレグラウト樹脂120および被覆材とともに)一体化されたこのプレグラウトPC鋼材が適用されたプレストレストコンクリート構造物のひずみを検出する。この場合において、検出部は、プレグラウト樹脂120の硬化完了時における光信号の解析値を基準値として記憶しておいて、たとえばこの基準値からのひずみ変化がしきい値以上になるとこのプレグラウトPC鋼材に発生した異常またはこのプレグラウトPC鋼材が適用されたプレストレストコンクリート構造物に発生した異常を検出する。
【0035】
次に、このモニタリング装置を用いたモニタリング方法について
図2を参照して説明する。
図2は、プレグラウトPC鋼材の長手方向のある位置(特定の1ヶ所の位置)における状態量の経時的変化を示すグラフであって、横軸を時間軸として、縦軸をプレグラウト樹脂120の硬化度(圧力変化)またはひずみ変化として、光信号受信部で受信された(プレグラウトPC鋼材の長手方向のある位置における)光信号の解析値(またはその解析値に基づく数値)を示す。この
図2に示すグラフはたとえば表示部であるディスプレイモニタに表示される。また、光信号受信部で受信された光信号に基づいて、プレグラウトPC鋼材の長手方向の複数の位置におけるプレグラウト樹脂120の硬化度(圧力変化)または複数の位置におけるひずみ変化を検出することも可能である。この場合には、硬化異常およびひずみ異常の有無に加えてこれらの異常発生箇所を特定することができる。
【0036】
このモニタリング方法は、PC鋼線の緊張後であってプレグラウト樹脂120の硬化開始後において(
図2において硬化開始t=0以降のプレグラウト樹脂モニタリング期間)、光ファイバ150に光信号を発信して光ファイバから受信した光信号を解析することにより、プレグラウト樹脂120の硬化状態を取得部が取得する取得ステップと、取得ステップにおいて取得されるプレグラウト樹脂120の硬化状態に基づいてプレグラウト樹脂120の硬化完了を判定部が判定する判定ステップと、判定ステップにより硬化完了と判定された後において(
図2において硬化完了以降のPC鋼線ひずみモニタリング期間)、光ファイバに光信号を発信して光ファイバから受信した光信号を解析することによりプレグラウトPC鋼材に発生した異常状態またはプレグラウトPC鋼材が適用されたプレストレストコンクリート構造物に発生した異常状態を検出部が検出する検出ステップとを含む。
【0037】
プレグラウト樹脂120の硬化が完了するまでの取得ステップにおける取得部の構成および動作とプレグラウト樹脂120の硬化が完了した後の検出ステップにおける検出部の構成および動作とは基本的に同じであって、同じ構成および動作により、プレグラウト樹脂120の硬化状態、および、プレグラウトPC鋼材に発生した異常状態またはプレグラウトPC鋼材が適用されたプレストレストコンクリート構造物に発生した異常状態をモニタリングできる点が、PC鋼線のひずみを光ファイバで検出する従来の技術と大きく異なる。
【0038】
以上のようにして、本実施の形態に係るプレグラウトPC鋼材によると、安価に製造できるとともに、プレストレストコンクリート構造物をポストテンション方式により施工する際に、PC鋼線とそれを被覆する被覆材とPC鋼線と被覆材との間隙に未硬化状態で充填されPC鋼線が緊張された後に硬化する常温硬化性のプレグラウト樹脂とを含むプレグラウトPC鋼材におけるプレグラウト樹脂の硬化状態を的確に検出することができる。さらに、このプレグラウトPC鋼材を用いたモニタリング装置およびモニタリング方法によると、プレグラウト樹脂の硬化状態、プレグラウトPC鋼材に発生した異常状態またはプレグラウトPC鋼材が適用されたプレストレストコンクリート構造物に発生した異常状態を的確に検出することができる。
【0039】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、プレストレストコンクリート構造物に適用されるプレグラウトPC鋼材およびそのモニタリング技術に好ましく、プレグラウト樹脂の硬化状態、プレグラウトPC鋼材に発生した異常状態またはプレグラウトPC鋼材が適用されたプレストレストコンクリート構造物に発生した異常状態を的確に検出することのできる点で特に好ましい。
【符号の説明】
【0041】
100 プレグラウトPC鋼材(リブあり被覆、PC鋼より線)
110 PC鋼より線(PC鋼線)
120 プレグラウト樹脂
150 光ファイバ
200 プレグラウトPC鋼材(リブなし被覆、PC鋼より線)
310 PC鋼線、PC鋼棒(PC鋼線)
300 プレグラウトPC鋼材(リブあり被覆、PC鋼線)
400 プレグラウトPC鋼材(リブなし被覆、PC鋼線)