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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】打具の挙動の解析装置
(51)【国際特許分類】
   A63B 69/36 20060101AFI20220222BHJP
【FI】
A63B69/36 541W
A63B69/36 541P
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2017175200
(22)【出願日】2017-09-12
(65)【公開番号】P2019050863
(43)【公開日】2019-04-04
【審査請求日】2020-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【弁理士】
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 弘祐
(72)【発明者】
【氏名】植田 勝彦
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-094265(JP,A)
【文献】特開2010-187749(JP,A)
【文献】特開2017-119102(JP,A)
【文献】特開2011-115250(JP,A)
【文献】特開2007-325713(JP,A)
【文献】国際公開第2017/043181(WO,A1)
【文献】特開2013-192591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B37/00-60/64
A63B69/00-69/40
JSTPlus(JDream3)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者にスイングされる打具の挙動を解析する解析装置であって、
第1計測器から前記打具の挙動を計測した第1計測データを取得する第1取得部と、
第2計測器から前記打具の挙動を計測した第2計測データを取得する第2取得部と、
第1のスイング中の前記第2計測データに基づいて、前記第1のスイングの結果として生じる前記打具の所定の挙動を特定する特定部と、
前記第1のスイング中の前記第1計測データに基づいて、前記使用者が前記打具を使用するときの特徴を解析パラメータとするモデルに従って、前記第1のスイング中の前記打具の変形を解析する解析部と、
前記解析部による解析結果が、前記特定部により特定された前記所定の挙動に整合するように、前記解析パラメータを決定する決定部と
を備える、解析装置。
【請求項2】
前記解析パラメータは、前記使用者が前記打具を把持する把持力の強さ、及び、前記使用者によるスイング中の前記打具における回転中心の少なくとも一方である、
請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
前記解析部は、前記回転中心に基づいて、前記第1計測データを補正し、前記補正後の第1計測データに基づいて、前記打具の変形を解析する、
請求項2に記載の解析装置。
【請求項4】
前記解析部は、前記打具に含まれるグリップをバネモデルでモデル化して、前記打具の変形を解析し、
前記決定部は、前記把持力の強さとして、前記バネモデルのバネ定数を決定する、
請求項2又は3に記載の解析装置。
【請求項5】
前記決定部は、前記解析部による前記解析結果に基づいて、前記第1のスイングによる前記所定の挙動を特定し、当該所定の挙動が前記特定部により特定された前記所定の挙動に一致する又は近付くように前記解析パラメータを最適化することにより、前記解析パラメータを決定する、
請求項1から4のいずれかに記載の解析装置。
【請求項6】
前記解析部は、第2のスイング中の前記第1計測データ及び前記決定部により決定された前記解析パラメータに基づいて、前記第2のスイング中の前記打具の変形をさらに解析する、
請求項1から5のいずれかに記載の解析装置。
【請求項7】
前記所定の挙動には、前記打具に含まれる所定の部位の速度、角度及び進行方向の少なくとも1つが含まれる、
請求項1から6のいずれかに記載の解析装置。
【請求項8】
前記打具は、ゴルフクラブである、
請求項1から7のいずれかに記載の解析装置。
【請求項9】
前記所定の挙動には、ヘッド速度、フェース角、軌道角及びブロー角の少なくとも1つが含まれる、
請求項8に記載の解析装置。
【請求項10】
前記第1計測器は、前記打具に含まれるグリップの挙動を計測するように構成されており、
前記第2計測器は、前記打具に含まれるヘッドの挙動を計測するように構成されている、
請求項8又は9に記載の解析装置。
【請求項11】
前記第1計測器には、慣性センサが含まれる、
請求項1から10のいずれかに記載の解析装置。
【請求項12】
前記解析部による前記解析結果が、前記特定部により特定された前記所定の挙動に整合するように、前記第1のスイング中の前記第1計測データに含まれる角速度のバイアス成分を除去するための補正パラメータを算出し、前記補正パラメータに基づいて、前記角速度を補正する補正部
をさらに備え、
前記解析部は、前記補正後の角速度を含む前記第1計測データに基づいて、前記打具の変形を解析する、
請求項11に記載の解析装置。
【請求項13】
使用者にスイングされる打具の挙動を解析する解析プログラムであって、
第1計測器から前記打具の挙動を計測した第1計測データを取得するステップと、
第2計測器から前記打具の挙動を計測した第2計測データを取得するステップと、
第1のスイング中の前記第2計測データに基づいて、前記第1のスイングの結果として生じる前記打具の所定の挙動を特定するステップと、
前記第1のスイング中の前記第1計測データに基づいて、前記使用者が前記打具を使用するときの特徴を解析パラメータとするモデルに従って、前記第1のスイング中の前記打具の変形を解析するステップと、
前記変形の解析結果が、前記第2計測データに基づく前記所定の挙動に整合するように、前記解析パラメータを決定するステップと
をコンピュータに実行させる、
解析プログラム。
【請求項14】
使用者にスイングされる打具の挙動を解析する解析方法であって、コンピュータにより実行されるステップを含み、前記ステップは、
第1計測器から前記打具の挙動を計測した第1計測データを取得するステップと、
第2計測器から前記打具の挙動を計測した第2計測データを取得するステップと、
第1のスイング中の前記第2計測データに基づいて、前記第1のスイングの結果として生じる前記打具の所定の挙動を特定するステップと、
前記第1のスイング中の前記第1計測データに基づいて、前記使用者が前記打具を使用するときの特徴を解析パラメータとするモデルに従って、前記第1のスイング中の前記打具の変形を解析するステップと、
前記変形の解析結果が、前記第2計測データに基づく前記所定の挙動に整合するように、前記解析パラメータを決定するステップと
を含む、解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者にスイングされる打具の挙動を解析する解析装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、使用者にスイングされる打具の挙動を解析する技術が知られている(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1は、有限要素法に基づく解析モデルに従って、ゴルフクラブのシャフトを構成する微小な各要素のスイング中の撓み変形をシミュレーションする技術を開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】松本賢太,他5名,「クラブヘッドの慣性がシャフト挙動に及ぼす影響」,スポーツ工学・ヒューマンダイナミクス2015講演論文集,B-34(USB memory),2015年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、使用者が打具を使用する態様には、その者に特有の特徴が現れる。例えば、ゴルフクラブで考えると、グリップを強く握るタイプの使用者もいれば、そうでない者もいる。また、グリップのどこを握るかも使用者によって異なり、浅く握る(グリップ端近傍を握る)者もいれば、深く握る(グリップ端からヘッド側に遠ざかった位置を握る)者もいる。そして、使用者が打具を使用するときのこうした特徴は、スイング中の打具の挙動に影響を与え得る。よって、使用者が打具を使用するときの特徴を特定することは重要である。
【0005】
本発明は、使用者が打具を使用するときの特徴を特定することができる解析装置、方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1観点に係る解析装置は、使用者にスイングされる打具の挙動を解析する解析装置であって、第1計測器から前記打具の挙動を計測した第1計測データを取得する第1取得部と、第2計測器から前記打具の挙動を計測した第2計測データを取得する第2取得部と、第1のスイング中の前記第2計測データに基づいて、前記第1のスイングの結果として生じる前記打具の所定の挙動を特定する特定部と、前記第1のスイング中の前記第1計測データに基づいて、前記使用者が前記打具を使用するときの特徴を解析パラメータとするモデルに従って、前記第1のスイング中の前記打具の変形を解析する解析部と、前記解析部による解析結果が、前記特定部により特定された前記所定の挙動に整合するように、前記解析パラメータを決定する決定部とを備える。
【0007】
第2観点に係る解析装置は、第1観点に係る解析装置であって、前記解析パラメータは、前記使用者が前記打具を把持する把持力の強さ、及び、前記使用者によるスイング中の前記打具における回転中心の少なくとも一方である。
【0008】
第3観点に係る解析装置は、第2観点に係る解析装置であって、前記解析部は、前記回転中心に基づいて、前記第1計測データを補正し、前記補正後の第1計測データに基づいて、前記打具の変形を解析する。
【0009】
第4観点に係る解析装置は、第2観点又は第3観点に係る解析装置であって、前記解析部は、前記打具に含まれるグリップをバネモデルでモデル化して、前記打具の変形を解析する。前記決定部は、前記把持力の強さとして、前記バネモデルのバネ定数を決定する。
【0010】
第5観点に係る解析装置は、第1観点から第4観点のいずれかに係る解析装置であって、前記決定部は、前記解析部による前記解析結果に基づいて、前記第1のスイングによる前記所定の挙動を特定し、当該所定の挙動が前記特定部により特定された前記所定の挙動に一致する又は近付くように前記解析パラメータを最適化することにより、前記解析パラメータを決定する。
【0011】
第6観点に係る解析装置は、第1観点から第5観点のいずれかに係る解析装置であって、前記解析部は、第2のスイング中の前記第1計測データ及び前記決定部により決定された前記解析パラメータに基づいて、前記第2のスイング中の前記打具の変形をさらに解析する。
【0012】
第7観点に係る解析装置は、第1観点から第6観点のいずれかに係る解析装置であって、前記所定の挙動には、前記打具に含まれる所定の部位の速度、角度及び進行方向の少なくとも1つが含まれる。
【0013】
第8観点に係る解析装置は、第1観点から第7観点のいずれかに係る解析装置であって、前記打具は、ゴルフクラブである。
【0014】
第9観点に係る解析装置は、第8観点に係る解析装置であって、前記所定の挙動には、ヘッド速度、フェース角、軌道角及びブロー角の少なくとも1つが含まれる。
【0015】
第10観点に係る解析装置は、第8観点又は第9観点に係る解析装置であって、前記第1計測器は、前記打具に含まれるグリップの挙動を計測するように構成されている。前記第2計測器は、前記打具に含まれるヘッドの挙動を計測するように構成されている。
【0016】
第11観点に係る解析装置は、第1観点から第10観点のいずれかに係る解析装置であって、前記第1計測器には、慣性センサが含まれる。
【0017】
第12観点に係る解析装置は、第11観点に係る解析装置であって、前記解析部による前記解析結果が、前記特定部により特定された前記所定の挙動に整合するように、前記第1のスイング中の前記第1計測データに含まれる角速度のバイアス成分を除去するための補正パラメータを算出し、前記補正パラメータに基づいて、前記角速度を補正する補正部をさらに備える。前記解析部は、前記補正後の角速度を含む前記第1計測データに基づいて、前記打具の変形を解析する。
【0018】
第13観点に係る解析プログラムは、使用者にスイングされる打具の挙動を解析する解析プログラムであって、以下のステップをコンピュータに実行させる。
・第1計測器から前記打具の挙動を計測した第1計測データを取得するステップ
・第2計測器から前記打具の挙動を計測した第2計測データを取得するステップ
・第1のスイング中の前記第2計測データに基づいて、前記第1のスイングの結果として生じる前記打具の所定の挙動を特定するステップ
・前記第1のスイング中の前記第1計測データに基づいて、前記使用者が前記打具を使用するときの特徴を解析パラメータとするモデルに従って、前記第1のスイング中の前記打具の変形を解析するステップ
・前記変形の解析結果が、前記第2計測データに基づく前記所定の挙動に整合するように、前記解析パラメータを決定するステップ
【0019】
第14観点に係る解析方法は、使用者にスイングされる打具の挙動を解析する解析方法であって、以下のステップを含む。
・第1計測器から前記打具の挙動を計測した第1計測データを取得するステップ
・第2計測器から前記打具の挙動を計測した第2計測データを取得するステップ
・第1のスイング中の前記第2計測データに基づいて、前記第1のスイングの結果として生じる前記打具の所定の挙動を特定するステップ
・前記第1のスイング中の前記第1計測データに基づいて、前記使用者が前記打具を使用するときの特徴を解析パラメータとするモデルに従って、前記第1のスイング中の前記打具の変形を解析するステップ
・前記変形の解析結果が、前記第2計測データに基づく前記所定の挙動に整合するように、前記解析パラメータを決定するステップ
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、第1計測器及び第2計測器により、打具の挙動が別々に計測される。また、第1計測器により計測されるスイング中の第1計測データに基づいて、使用者が打具を使用するときの特徴を解析パラメータとするモデルに従って、スイング中の打具の変形が解析される。また、第2計測器により計測されるスイング中の第2計測データからは、スイングの結果として生じる打具の所定の挙動が特定される。そして、打具の変形の解析結果が、第2計測データに基づく所定の挙動に整合するように、解析パラメータが決定される。以上より、使用者が打具を使用するときの特徴を解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る解析装置を含むスイング解析システムの側面図。
図2】スイング解析システムの正面図。
図3】スイング解析システムの平面図。
図4】スイング解析システムの構成を示す機能ブロック図。
図5】xyz局所座標系を説明するゴルフクラブの斜視図。
図6】ヘッドに取り付けられたマーカーの位置を示す図。
図7】1打目のスイングに対する解析処理の流れを示すフローチャート。
図8】2打目以降のスイングに対する解析処理の流れを示すフローチャート。
図9】打具における回転中心を説明する図。
図10】打具における回転中心に基づく補正前及び補正後のセンサデータに基づくグリップエンドの軌跡のグラフ。
図11】有限要素法に従うシャフトの変形の解析モデルを説明する図。
図12】角速度の真値と、角速度センサによる計測値との関係を概念的に示すグラフ。
図13】バイアス成分を除去するための補正パラメータである閾値を算出するための処理を表すフローチャート。
図14】参考例及び実施例1,2に係るゴルフクラブのヘッドに貼付されるマーカーの位置を示す図。
図15A】参考例及び実施例1に係るヘッド速度の解析結果を示す図。
図15B】参考例及び実施例1に係るフェース角の解析結果を示す図。
図15C】参考例及び実施例1に係る軌道角の解析結果を示す図。
図15D】参考例及び実施例1に係るブロー角の解析結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る解析装置、方法及びプログラムについて説明する。
【0023】
<1.スイング解析システムの概要>
図1図4に、本発明の一実施形態に係る解析装置1を含むスイング解析システム100の全体構成図を示す。スイング解析システム100は、ゴルファーGにスイングされるゴルフクラブ5の挙動を解析するシステムである。ゴルフクラブ5の挙動は、第1計測器MD1及び第2計測器MD2のそれぞれにより計測される。第1計測器MD1及び第2計測器MD2は、解析装置1とともにスイング解析システム100を構成する。
【0024】
ゴルフクラブ5の特にシャフト52の部分は、スイング中に変形する性質を有している。解析装置1は、第1計測器MD1により計測されるスイング中のゴルフクラブ5のグリップエンド51aの挙動を示す計測データ(第1計測データ)に基づいて、スイング中のゴルフクラブ5のシャフト52の変形を解析する。このとき、シャフト52の変形は、ゴルファーGがゴルフクラブ5を使用するときのゴルファーGに特有の特徴を解析パラメータとするモデルに従って、解析される。本実施形態では、スイング中にゴルファーGがゴルフクラブ5を把持する把持力の強さ、及び、スイング中のゴルフクラブ5における回転中心Cが、解析パラメータとして使用される。また、解析装置1は、第2計測器MD2により計測される計測データ(第2計測データ)に基づいて、スイングの結果として生じるゴルフクラブ5の所定の挙動を特定する。ここでいう所定の挙動とは、例えば、ゴルフクラブ5に含まれる所定の部位の位置、速度、角度及び進行方向等である。続いて、解析装置1は、第1計測器MD1に基づくシャフト52の変形の解析結果が、第2計測器MD2に基づくゴルフクラブ5の所定の挙動に整合するように、上述の解析パラメータを決定(最適化)する。これにより、ゴルファーGがゴルフクラブ5を使用するときの特徴を特定することができる。また、最終的に決定された解析パラメータは、同じゴルファーGによる以後のスイング時のシャフト52の変形の解析に利用される。
【0025】
以下、第1計測器MD1、第2計測器MD2及び解析装置1の構成について説明した後、解析処理の流れについて説明する。
【0026】
<2.各部の詳細>
本実施形態に係る第1計測器MD1は、以下の慣性センサユニット40と、2台構成の距離画像センサ2A,2Bとから構成される。一方、本実施形態に係る第2計測器MD2は、高性能撮影システムから構成される。以下、順に説明する。
【0027】
<2-1.第1計測器>
<2-1-1.慣性センサユニット>
慣性センサユニット40は、図1に示すとおり、ゴルフクラブ5のグリップ51におけるヘッド53と反対側の端部であるグリップエンド51aに取り付けられており、グリップエンド51aの挙動を計測する。図5に示すとおり、ゴルフクラブ5は、一般的なゴルフクラブであり、シャフト52と、シャフト52の一端に設けられたヘッド53と、シャフト52の他端に設けられたグリップ51とから構成される。慣性センサユニット40は、スイング動作の妨げとならないよう、小型且つ軽量に構成されている。
【0028】
図4に示すように、本実施形態に係る慣性センサユニット40には、加速度センサ41、角速度センサ42及び地磁気センサ43が搭載されている。また、慣性センサユニット40には、これらのセンサ41~43から出力されるセンサデータを、通信線17を介して解析装置1等の外部のデバイスに送信するための通信装置44も搭載されている。なお、本実施形態では、通信装置44は、スイング動作の妨げにならないように無線式であるが、ケーブルを介して有線式に解析装置1に接続するようにしてもよい。センサデータは、通信装置44を介してセンサ41~43からリアルタイムに解析装置1に送信される。しかしながら、例えば、慣性センサユニット40内の記憶装置にセンサデータを格納しておき、スイング動作の終了後に当該記憶装置からセンサデータを取り出して、解析装置1に受け渡すようにしてもよい。
【0029】
加速度センサ41、角速度センサ42及び地磁気センサ43はそれぞれ、xyz局所座標系における加速度、角速度及び地磁気を計測する。より具体的には、加速度センサ41は、x軸、y軸及びz軸方向のグリップエンド51aの加速度ax,ay,azを計測する。角速度センサ42は、x軸、y軸及びz軸周りのグリップエンド51aの角速度ωx,ωy,ωzを計測する。地磁気センサ43は、グリップエンド51aにおけるx軸、y軸及びz軸方向の地磁気mx,my,mzを計測する。これらの加速度、角速度及び地磁気に関するセンサデータ(第1計測データ)は、所定の短いサンプリング周期の時系列データとして取得される。
【0030】
なお、xyz局所座標系は、図5に示すとおりに定義される3軸直交座標系である。すなわち、z軸は、シャフト52の延びる方向に一致し、ヘッド53からグリップ51に向かう方向が、z軸正方向である。y軸は、ゴルフクラブ5のアドレス時の飛球方向にできる限り沿うように、すなわち、フェース-バック方向に概ね沿うように配向され、バック側からフェース側に向かう方向がy軸正方向である。x軸は、y軸及びz軸に直交するように、すなわち、トゥ-ヒール方向に概ね沿うように配向され、ヒール側からトゥ側に向かう方向がx軸正方向である。xyz局所座標系の原点は、グリップエンド51aである。
【0031】
また、xyz局所座標系の他、図1図3に示される3軸直交座標系である、XYZ慣性座標系も定義される。Z軸は、鉛直下方から上方に向かう方向であり、X軸は、ゴルファーGの背から腹に向かう方向であり、Y軸は、地平面に平行でボール55の打球地点から目標地点に向かう方向である。
【0032】
なお、ゴルフスイングは、一般に、アドレス、トップ、インパクト、フィニッシュの順に進む。アドレスとは、ヘッド53をボール55近くに配置した静止状態を意味し、トップとは、アドレスからゴルフクラブ5をテイクバックし、最もヘッド53が振り上げられた状態を意味する。インパクトとは、トップからゴルフクラブ5が振り下ろされ、ヘッド53がボール55と衝突した瞬間の状態を意味し、フィニッシュとは、インパクト後、ゴルフクラブ5を前方へ振り抜いた状態を意味する。
【0033】
<2-1-2.距離画像センサ>
距離画像センサ2A,2Bは、ゴルファーGがゴルフクラブ5を試打する様子を二次元画像として撮影するとともに、被写体までの距離を測定する測距機能を有するカメラである。従って、距離画像センサ2A,2Bは、時系列の二次元画像とともに、時系列の深度画像を出力することができる。なお、ここでいう二次元画像とは、撮影空間の像をカメラの光軸に直交する平面内へ投影した画像である。また、深度画像とは、カメラの光軸方向の被写体の奥行きのデータを、二次元画像と略同じ撮像範囲内の画素に割り当てた画像である。本実施形態では、図1に示すとおり、1台目の距離画像センサ2Aは、ゴルフスイングをゴルファーGの正面側から撮影すべく、ゴルファーGの前方に設置される。一方、2台目の距離画像センサ2Bは、ゴルフスイングを距離画像センサ2Aとは異なる方向から撮影すべく、具体的には、ゴルファーGを右側から撮影すべく、ゴルファーGの右側に設置される。
【0034】
図4に示すとおり、両距離画像センサ2A,2Bは同様の構成を有している。よって、以下では、簡単のため、距離画像センサ2Aの構成について説明するが、距離画像センサ2Bについても同様であるものとする。なお、解析装置1は、複数台のコンピュータから構成されていてもよく、例えば、距離画像センサ2A,2Bが異なるコンピュータに接続されていてもよい。
【0035】
本実施形態で使用される距離画像センサ2Aは、二次元画像を赤外線画像(以下、IR画像という)として撮影する。また、深度画像は、赤外線を用いたタイムオブフライト方式やドットパターン投影方式等の方法により得られる。従って、図1に示すように、距離画像センサ2Aは、赤外線を前方に向けて発光するIR発光部21と、IR発光部21から照射され、被写体に反射して戻ってきた赤外線を受光するIR受光部22とを有する。IR受光部22は、光学系及び撮像素子等を有するカメラである。本実施形態では、IR発光部21及びIR受光部22は、同じ筐体20内に収容され、筐体20の前方に配置されている。
【0036】
距離画像センサ2Aには、距離画像センサ2Aの動作全体を制御するCPU23の他、撮影された時系列のIR画像及び深度画像の画像データ(第1計測データ)を少なくとも一時的に記憶するメモリ24が搭載されている。距離画像センサ2Aの動作を制御する制御プログラムは、メモリ24内に格納されている。また、距離画像センサ2Aには、通信部25も内蔵されており、当該通信部25は、撮影された画像データを、有線又は無線の通信線17を介して、解析装置1等の外部のデバイスへと出力することができる。本実施形態では、CPU23及びメモリ24も、IR発光部21及びIR受光部22とともに、筐体20内に収納されている。なお、解析装置1への画像データの受け渡しは、必ずしも通信部25を介して行う必要はない。例えば、メモリ24が着脱式であれば、これを筐体20内から取り外し、解析装置1のリーダー(後述する通信部15に対応)に挿入する等して、解析装置1で画像データを読み出すことができる。
【0037】
本実施形態では、以上のとおり、距離画像センサ2Aにより赤外線撮影が行われ、撮影されたIR画像に基づいて、グリップエンド51aの挙動が解析される。従って、図5では省略されているが、距離画像センサ2A,2Bによるグリップエンド51aの挙動の計測が容易となるように、グリップエンド51aには、赤外線を効率的に反射する反射シートがマーカーとして貼付されている。また、シャフト52にも、同様の赤外線の反射シートがマーカーとして貼付されている。
【0038】
<2-2.第2計測器>
第2計測器MD2の詳細な構成は、図2及び図3に示されている。なお、図1では、第2計測器MD2が省略されているが、反対に図2及び図3では、第1計測器MD1が省略されている。第2計測器MD2は、複数台のカメラ3A~3Hを備える高性能撮影システムであり、これらのカメラ3A~3Hにより、様々な方向からスイング中のヘッド53の挙動を計測した時系列の画像データ(第2計測データ)が撮影される。カメラ3A~3Hは、ストロボ式である。従って、第2計測器MD2は、カメラ3A~3Hの撮影範囲を照射するストロボ4A~4Hをさらに備えるとともに、カメラ3A~3H及びストロボ4A~4Hの作動のタイミングを決定するトリガー装置8も備える。
【0039】
カメラ3A~3Hは、インパクト付近でのヘッド53の近傍の様子を撮影する。すなわち、インパクト付近のヘッド53の挙動が、複数台のカメラ3A~3Hにより複数の方向から撮影される。そのため、複数台のカメラ3A~3Hから出力される複数系列の画像データにより、ヘッド53の挙動が三次元的に捉えられる。解析装置1は、これらの画像データを画像処理することにより、ゴルフクラブ5のスイングの結果としてのヘッド53の挙動を高精度に算出することができる。本実施形態では、ヘッド53の挙動として、インパクト直前のヘッド速度、フェース角、ブロー角及び軌道角が算出される。
【0040】
カメラ3A~3Hは、天井に吊り下げられる等、ゴルファーGの頭上に配置される。このうち、カメラ3A~3Dは、ゴルファーGの直上近傍に配置され、カメラ3E~3Hは、ゴルファーGを基準としてY軸方向正側にやや離間して配置される。カメラ3A~3Hは、有線又は無線の通信線18を介して解析装置1に接続されている。カメラ3A~3Hにより撮影された画像データは、解析装置1にリアルタイムに送信される。なお、カメラ3A~3Hに内蔵される記憶装置内に画像データを保存しておき、後に記憶装置から解析装置1に受け渡すこともできる。
【0041】
ストロボ4A~4Hは、カメラ3A~3Hの撮影を補助する発光装置である。ストロボ4A~4Hも、天井に吊り下げられる等、ゴルファーGの頭上に配置される。このうち、ストロボ4A~4Eは、ゴルファーGの直上近傍に配置され、ストロボ4F~4Hは、ゴルファーGを基準としてY軸方向正側にやや離間して配置される。ストロボ4A~4Hは、カメラ3A~3Hに同期して作動する。
【0042】
図6に示すように、ヘッド53には、複数のマーカーM1~M5が取り付けられている。マーカーM1~M5は、ストロボ4A~4Hから照射される光を効率的に反射し、カメラ3A~3HにおいてマーカーM1~M5の位置、ひいてはヘッド53の挙動を捉え易くするために貼付される。マーカーM1~M4は、ヘッド53においてボール55を打撃するフェース面53aに取り付けられており、好ましくは、フェース面53aでのボール55の打撃の妨げとならないよう、フェース面53a上における中央付近の領域を避けて貼付される。マーカーM5は、ヘッド53のトップ面においてフェース面53aの上縁中央付近に沿って細長く延びるように取り付けられている。なお、ここでのマーカーM1~M5の貼付位置は、例示である。
【0043】
トリガー装置8は、複数組のタイミングセンサと、タイミング制御装置9とを備える。より具体的には、投光器6Aと受光器7A、投光器6Bと受光器7B、並びに投光器6Cと受光器7Cが、各々1組のタイミングセンサを構成している。投光器6A~6C及び受光器7A~7Cは、ゴルファーGの足元付近に配置される。タイミング制御装置9は、投光器6A~6C及び受光器7A~7Cに加え、カメラ3A~3H、ストロボ4A~4H及び解析装置1に接続されている。
【0044】
各タイミングセンサに含まれる投光器及び受光器は、X軸に概ね平行な直線上に配置されており、互いに対向している(図3参照)。スイング中、投光器6A~6Cは、それぞれ常時受光器7A~7Cに向けて光を照射しており、受光器7A~7Cがこれを受光する。しかしながら、ゴルフクラブ5が投光器6A~6Cと受光器7A~7Cとの間を通過するタイミングでは、投光器6A~6Cからの光がゴルフクラブ5により遮断されるため、受光器7A~7Cはこれを受光することができない。受光器7A~7Cは各々、このタイミングを検出し、このタイミングに基づいて、タイミング制御装置9がカメラ3A~3H及びストロボ4A~4Hを作動させるタイミングを生成する。タイミング制御装置9により生成されたタイミングの信号は、タイミング制御装置9からカメラ3A~3H及びストロボ4A~4Hに送信される。これを受けて、これらのカメラ3A~3H及びストロボ4A~4Hは、撮影及び発光を行う。
【0045】
<2-3.解析装置>
解析装置1は、ハードウェアとしては汎用のコンピュータであり、例えば、タブレットコンピュータ、スマートフォン、ノート型コンピュータ、デスクトップ型コンピュータとして実現される。図4に示すとおり、解析装置1は、CD-ROM等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体30から解析プログラム31を汎用のコンピュータにインストールすることにより製造される。解析プログラム31は、第1及び第2計測器MD1,MD2からそれぞれ送られてくる第1及び第2計測データに基づいて、ゴルフスイングを解析するためのソフトウェアであり、解析装置1に後述する動作を実行させる。
【0046】
解析装置1は、表示部11、入力部12、記憶部13、制御部14及び通信部15を備える。これらの部11~15は、互いにバス線16を介して接続されており、相互に通信可能である。表示部11は、液晶ディスプレイ等で構成することができ、ゴルフスイングの解析の結果等をユーザに対し表示する。なお、ここでいうユーザとは、ゴルファーG自身やそのインストラクター、ゴルフ用品の開発者等、ゴルフスイングの解析の結果を必要とする者の総称である。入力部12は、マウス、キーボード、タッチパネル等で構成することができ、解析装置1に対するユーザからの操作を受け付ける。
【0047】
記憶部13は、ハードディスク等で構成することができる。記憶部13内には、解析プログラム31が格納されている他、第1及び第2計測器MD1,MD2から送られてくる第1及び第2計測データも保存される。制御部14は、CPU、ROMおよびRAM等から構成することができる。制御部14は、記憶部13内の解析プログラム31を読み出して実行することにより、仮想的に第1取得部14a、第2取得部14b、解析部14c、特定部14d、決定部14e及び補正部14fとして動作する。各部14a~14fの動作の詳細については、後述する。通信部15は、慣性センサユニット40、距離画像センサ2A,2B及びカメラ3A~3Hを含む外部のデバイスから通信線17,18を介してデータを受信する通信インターフェースとして機能する。
【0048】
<3.解析方法>
以下、スイング中のゴルフクラブ5の挙動を解析する解析方法について説明する。本解析方法では、シャフト52が変形する様子が解析されるとともに、スイングの結果として生じるヘッド53の所定の挙動が導出される。このとき、ゴルファーGがゴルフクラブ5をスイングするときの特徴が考慮される。具体的には、シャフト52の変形の解析の過程において、ゴルファーGがゴルフクラブ5をスイングするときのゴルファーGに特有の特徴が決定され、解析パラメータとして使用される。また、同じゴルファーGは同じ特徴を有するものと考えられるため、同じゴルファーGが行う以後のゴルフスイングの解析には、既出の解析パラメータが流用される。そのため、同じゴルファーGによる1打目のゴルフスイングと、それ以降のゴルフスイングとに対しては、異なる解析処理が行われる。前者に対応する解析処理が図7に示され、後者に対応する解析処理が図8に示され、以下、順に説明する。なお、図8の処理は図7の処理に類似しているため、図8の処理については、図7の処理との相違点を中心に説明する。
【0049】
<3-1.1打目のゴルフスイングの解析処理>
まず、ゴルファーGにより、上述の慣性センサユニット40付きゴルフクラブ5がスイングされる。ステップS1では、このとき、第1計測器MD1に含まれる慣性センサユニット40により、ゴルフスイング中の加速度ax,ay,az、角速度ωx,ωy,ωz及び地磁気mx,my,mzのセンサデータ(第1計測データ)が検出される。また、これらのセンサデータは、慣性センサユニット40の通信装置44を介して解析装置1に送信される。一方、解析装置1側では、第1取得部14aが通信部15を介してこれを受信し、記憶部13内に格納する。本実施形態では、少なくともアドレスの少し前からフィニッシュまでの区間を含む、スイング中の各時刻における時系列のセンサデータが収集される。
【0050】
また、ステップS2では、ゴルフクラブ5のスイング動作が、第1計測器MD1に含まれる距離画像センサ2A,2Bにより撮影される。すなわち、距離画像センサ2A,2Bにより、ゴルフスイングを捉えた画像データ(第1計測データ)が検出される。ステップS2は、ステップS1と並行して、ステップS1と同じスイング動作を対象として行われる。検出された画像データは、距離画像センサ2A,2Bの通信部25を介して解析装置1に送信される。一方、解析装置1側では、第1取得部14aが通信部15を介してこれを受信し、記憶部13内に格納する。本実施形態では、スイング中の各時刻での時系列の画像データが収集される。
【0051】
また、ステップS3では、ゴルフクラブ5のスイング動作が、第2計測器MD2により撮影される。すなわち、カメラ3A~3Hにより、ゴルフスイングを捉えた画像データ(第2計測データ)が検出される。ステップS3は、ステップS1,S2と並行して、ステップS1,S2と同じスイング動作を対象として行われる。検出された画像データは、カメラ3A~3Hから解析装置1に送信される。一方、解析装置1側では、第2取得部14bが通信部15を介してこれを受信し、記憶部13内に格納する。本実施形態では、スイング中の各時刻における時系列の画像データが収集される。
【0052】
続くステップS4では、解析部14cは、スイング中の各時刻における第1計測データを補正する。この補正は、ゴルファーGによるスイング中のゴルフクラブ5における回転中心Cを考慮することにより行われる。多くの場合、ゴルファーGは、図9に示すように、ゴルフクラブ5の端部付近を把持してゴルフクラブ5をスイングする。そのため、従来、ゴルフクラブ5のスイング中の挙動を解析するためのシミュレーションモデルでは、ゴルフクラブ5はグリップエンド51aを中心として回転するものと仮定される。しかしながら、実際には、ゴルフクラブ5の回転中心Cは、グリップエンド51aではなく、ゴルフクラブ5においてプレイヤーがまさに把持する把持位置の近傍にくることが多い。従来、このようなゴルフクラブ5の真の回転中心は考慮されてこなかったが、これを把握することは、より正確なシミュレーションに寄与し得る。このグリップ51上の把持位置は、ゴルファーGに特有であり、ゴルファーGがゴルフクラブ5をスイングするときの特徴を表す解析パラメータとして使用される。
【0053】
具体的には、ステップS4では、解析部14cは、特定の回転中心Cの値を設定し、この回転中心Cに基づいて、ステップS1で取得されたセンサデータを補正する。なお、図7に示すとおり、ステップS4~S9は、最終的にゴルファーGに特有の回転中心Cが決定される(ステップS11)まで繰り返し実行され、これにより回転中心Cの最適解が決定される。そのため、ステップS4では、採用される最適化方法のアルゴリズムに従って、回転中心Cの値が適宜選択される。最初のステップS4で設定される回転中心Cの値(初期値)は、補正前のセンサデータから推定されてもよいし、所定の値(回転中心がグリップエンド51aに一致することを意味する0とする場合が含まれる)としてもよい。
【0054】
本実施形態においてステップS4の補正の対象となる第1計測データは、スイング中の各時刻における加速度ax,ay,azのセンサデータである。慣性センサユニット40により計測されるグリップエンド51aにおける加速度ax,ay,azには、慣性センサユニット40の位置が回転中心Cから距離dhだけオフセットしているため、回転中心C周りの回転成分が含まれる。この回転成分は、回転中心C周りの回転に伴って慣性センサユニット40の位置に発生する角速度及び角加速度の影響により生じる。解析部14cは、回転中心Cに基づいてこの回転成分を算出し、これをas=(ax,ay,az)から除去することにより、グリップエンド51aにおける補正後の加速度as’=(ax’,ay’,az’)のセンサデータを算出する。この回転成分は、([ωs_T][ωs_T]+[ωs_T’]){h}と表すことができる。なお、ωs_Tは、ωs=(ωx,ωy,ωz)のテンソル(外積を表す反対称テンソル)であり、ωs_T’は、ωs_Tの微分である。また、h=(0,0,dh)である。
【0055】
図10は、本発明者らが実際に行ったシミュレーションにより導出されたグリップエンドの軌跡のグラフである。より具体的には、xyz局所座標系での加速度asの時系列データをXYZ慣性座標系での値に変換した後、変換後の加速度の時系列データを2回積分することにより、ゴルフスイング中のグリップエンドの位置を表す時系列データを算出した。図10中の「補正前」のグラフは、回転中心Cに基づく補正を行わず、加速度as及び角速度ωsの時系列データから導出されたグリップエンドの軌跡のグラフであり、「補正後」のグラフは、回転中心Cに基づく補正後の加速度as’及び角速度ωsの時系列データから導出されたグリップエンドの軌跡のグラフである。なお、補正後のグラフを算出するに当たり、回転中心Cを計算したところ、dh=19.15cmとなった。これらのグラフを比較すると分かるように、補正前のグラフはギザギザしており、同グラフには角速度及び角加速度によるものと思われるノイズが確認されるが、補正後のグラフからはこのようなノイズが除去されていることが分かる。
【0056】
続くステップS5では、ステップS4で補正された時系列のセンサデータと、ステップS2で取得された時系列の画像データとの時刻合わせが行われる。言い換えると、解析部14cが、センサデータ(特に断らない限り、最新の補正後のセンサデータを意味する。以下同様)と画像データとを同期させる。
【0057】
具体的には、まず、解析部14cは、センサデータに基づいて、アドレス、トップ及びインパクトの時刻を導出する。これらの時刻の導出方法としては、様々なものが公知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0058】
続いて、解析部14cは、センサデータに基づいて、スイング中の各時刻における姿勢行列Nを導出する。今、姿勢行列Nを以下の式で表す。姿勢行列Nは、xyz局所座標系の値をXYZ慣性座標系の値に変換するための行列である。
【数1】
【0059】
姿勢行列Nの9つの成分の意味は、以下のとおりである。
成分a:慣性座標系のX軸と、局所座標系のx軸とのなす角度の余弦
成分b:慣性座標系のY軸と、局所座標系のx軸とのなす角度の余弦
成分c:慣性座標系のZ軸と、局所座標系のx軸とのなす角度の余弦
成分d:慣性座標系のX軸と、局所座標系のy軸とのなす角度の余弦
成分e:慣性座標系のY軸と、局所座標系のy軸とのなす角度の余弦
成分f:慣性座標系のZ軸と、局所座標系のy軸とのなす角度の余弦
成分g:慣性座標系のX軸と、局所座標系のz軸とのなす角度の余弦
成分h:慣性座標系のY軸と、局所座標系のz軸とのなす角度の余弦
成分i:慣性座標系のZ軸と、局所座標系のz軸とのなす角度の余弦
ここで、ベクトル(a,b,c)は、x軸方向の単位ベクトルを表し、ベクトル(d,e,f)は、y軸方向の単位ベクトルを表し、ベクトル(g,h,i)は、z軸方向の単位ベクトルを表している。
【0060】
なお、慣性センサユニットから出力されるセンサデータに基づいて、姿勢行列Nを算出する方法としては、様々知られているため、ここでは詳細な説明を省略する。必要であれば、同出願人らによる特開2016-2429号公報や特開2016-2430号公報等に記載の方法に従うことができる。
【0061】
続いて、解析部14cは、距離画像センサ2Aに由来するスイング中の各時刻における画像データ(以下、正面画像データという)を画像処理することにより、各時刻の直線状のシャフト52の像を検出し、時系列のシャフト52の向きの向きを特定する。また、スイング中の各時刻における姿勢行列Nから特定される、z軸の方向を表すベクトル(g,h,i)に基づいて、シャフト52の向きを特定する。そして、解析部14cは、センサデータ由来の時系列のシャフト52の向きと、正面画像データ由来の時系列のシャフト52の向きとの一致度が最も高くなるように、両時系列データを位置合わせする。
【0062】
続いて、正面画像データと、距離画像センサ2Bにより右側から撮影された画像データ(以下、右側画像データという)との同期が取られる。具体的には、解析部14cは、正面画像データを画像処理することにより、スイング中の各時刻におけるグリップエンド51aの三次元座標を導出する。同様に、解析部14cは、右側画像データを画像処理することにより、スイング中の各時刻におけるグリップエンド51aの三次元座標を導出する。
【0063】
続いて、解析部14cは、正面画像データ由来の時系列のグリップエンド51aの三次元座標と、右側画像データ由来の時系列のグリップエンド51aの三次元座標との一致度が最も高くなるように、両時系列データを位置合わせする。以上により、正面画像データを介して、右側画像データとセンサデータも時刻合わせされる。
【0064】
続くステップS6では、解析部14cが、スイング中の各時刻におけるグリップ51の姿勢を導出する。グリップ51の姿勢は、地面に対して固定されているXYZ慣性座標系の中での上述したxyz局所座標系の向きにより表すことができる。従って、本実施形態では、グリップ51の姿勢として、XYZ慣性座標系をxyz局所座標系に変換するための姿勢行列であるNT(右肩のTは転置行列を表す)が導出される。
【0065】
ステップS5の説明の中で述べたとおり、姿勢行列NTはセンサデータのみからでも算出可能であるが、本実施形態では、さらに解析の精度を向上させるべく、ステップS2で取得された画像データも参照して、姿勢行列NTが算出される。すなわち、ステップS1で取得されたセンサデータ(ステップS4で補正されたセンサデータ)も、ステップS2で取得された画像データも、ゴルフクラブ5の同じ動作を捉えたものである。よって、ステップS4のセンサデータ及びステップS2の画像データを用いて、姿勢行列NTを含む所定の目的関数を定義し、これを最小化又は最大化するような最適解として、姿勢行列NTを導出することができる。
【0066】
続くステップS7では、解析部14cが、スイング中の各時刻におけるxyz局所座標系におけるグリップ51(より正確には、グリップエンド51a)の加速度、並びにxyz局所座標系におけるグリップ51(より正確には、グリップエンド51a)の角速度及び角加速度を算出する。具体的には、xyz局所座標系におけるグリップ51の加速度は、センサデータに含まれる加速度の値から重力成分をキャンセルすることにより導出される。xyz局所座標系におけるグリップ51の角速度は、センサデータに含まれる角速度の値に一致する。xyz局所座標系におけるグリップ51の角加速度は、センサデータに含まれる角速度の値を微分することにより算出される。
【0067】
以上のとおり、センサデータのみからでも、xyz局所座標系におけるグリップ51の加速度、角速度及び角加速度の値を算出可能である。ただし、本実施形態では、さらに解析の精度を向上させるべく、姿勢行列NTの場合と同様に、ステップS2で取得された画像データも参照して、グリップ51の加速度、角速度及び角加速度の値が最適化される。
【0068】
続くステップS8では、解析部14cは、スイング中の各時刻におけるシャフト52の変形を解析する。本実施形態に係るシャフト52の変形の解析モデルは、有限要素法に従うモデルである。グリップ51及びシャフト52は多段円筒梁要素と仮定され、ヘッド53は剛体と仮定される。図11に示すように、グリップ51及びシャフト52は、それぞれ長手方向に沿って複数の微小な要素に分割される。本実施形態では、グリップ51と、シャフト52において最もグリップ51近傍の要素とは、物理領域とされ、残りの領域は、弾性変形領域とされる。
【0069】
また、グリップ51は、ゴルファーGに把持されるが、固定端のように硬く把持されるのではなく、柔軟な手の動きを伴って移動するように把持される。従って、本解析モデルでは、このような柔軟な把持条件を表現するために、図11に示すように、グリップ51をバネモデルでモデル化して、シャフト52の変形が解析される。バネモデルにおいて、以上の把持条件は、グリップ51に対応する要素のバネ定数で表現される。バネ定数は、ゴルファーGがグリップ51を把持する把持力の強さを表し、ゴルファーGがゴルフクラブ5をスイングするときの特徴を表す。また、一般的に、把持力の強さは、スイング期間中において一定ではなく、アドレスからトップまでは比較的小さく、トップ以降のダウンスイング中は比較的大きい。そのため、本バネモデルでは、バネ定数は、アドレスからトップまでは一定値であり、トップからインパクトまでは線形的に上昇するものと仮定される。よって、本バネモデルにおいて、バネ定数は、アドレス時(より詳細には、アドレスからトップまで)のx、y及びz方向の成分kax,kay,kazと、インパクト時のx、y及びz方向の成分kix,kiy,kizとにより表される。バネ定数kax,kay,kaz,kix,kiy,kizは、本解析モデルの解析パラメータとなる。
【0070】
ステップS8では、解析部14cは、バネ定数kax,kay,kaz,kix,kiy,kizを設定し、このバネ定数kax,kay,kaz,kix,kiy,kizを上述したシャフト52の変形の解析モデルに入力する。なお、上述したとおり、ステップS8は、ゴルファーGに特有の把持力の強さ、すなわちバネ定数kax,kay,kaz,kix,kiy,kizの最適解が決定される(ステップS11)まで繰り返し実行される。従って、ステップS8は、採用される最適化方法のアルゴリズムに従って、バネ定数kax,kay,kaz,kix,kiy,kizの値が適宜選択される。最初のステップS8で設定されるバネ定数kax,kay,kaz,kix,kiy,kizの値(初期値)は、補正前のセンサデータから推定されてもよいし、所定の値としてもよい。さらに、解析部14cは、グリップ51の挙動を表すパラメータとして、ステップS6,S7で算出されたスイング中の各時刻におけるグリップ51の姿勢、並びにxyz局所座標系におけるグリップ51の加速度、角速度及び角加速度を、上述したシャフト52の変形の解析モデルに入力する。これにより、グリップ51及びシャフト52の各要素の変形量が算出される。
【0071】
なお、本実施形態に係るシャフト52の変形の解析モデルの基本的な考え方は、非特許文献1にも示されている。従って、本解析モデルは、非特許文献1を参照することで、より詳細に理解することができる。
【0072】
続くステップS9では、決定部14eは、ステップS8で算出されたグリップ51及びシャフト52の各要素の変形量に基づいて、スイングの結果として生じるゴルフクラブ5の所定の挙動(以下、第1結果値という)を特定する。本実施形態での第1結果値は、ヘッド53の挙動に関するものであり、より具体的には、インパクト直前のヘッド速度HSSim、フェース角FASim、ブロー角BASim及び軌道角PATHSimである。
【0073】
ステップS9の実行時においては、これまでのステップにより、スイング中の各時刻におけるゴルフクラブ5の各要素の変形量等が導出されている。従って、決定部14eは、この情報に基づいて、スイング中の各時刻におけるシャフト52上の最もヘッド53側の要素(以下、最終要素という)の挙動を導出する。そして、この最終要素の挙動、並びにヘッド53の形状のデータから、スイング中の各時刻におけるヘッド53の様々な注目点(ヘッド53の重心を含む)の位置を算出する。ヘッド53の形状のデータとは、例えば、ヘッド53の設計時のCADデータであり、記憶部13内に予め記憶されているものとする。そして、決定部14eは、これらの時系列のヘッド53の様々な注目点の位置に基づいて、上述したようなヘッド53の挙動を導出する。
【0074】
また、ステップS4~S9と並行して、ステップS10が実行される。ステップS10では、特定部14dは、ステップS3で取得された第2計測器MD2からの第2計測データに基づいて、ステップS9と同様の、ゴルフクラブ5の所定の挙動(以下、第2結果値という)を特定する。すなわち、ここでは、第2結果値として、高精度の第2計測器MD2の計測結果に由来する、インパクト直前のヘッド速度HSMot、フェース角FAMot、ブロー角BAMot及び軌道角PATHMotが特定される。具体的には、ステップS3で取得されたスイング中の各時刻における画像データを画像処理することにより、マーカーM1~M5の像を検出し、検出されたマーカーM1~M5の像の位置及び向きに基づいて、第2結果値が算出される。
【0075】
続くステップS11では、決定部14eは、第1結果値及び第2結果値に基づいて、回転中心C及び把持力の強さに関する解析パラメータを決定する。本実施形態では、第1結果値が、第2結果値に一致する又は近付くように解析パラメータを最適化することにより、解析パラメータの最適解が特定される。つまり、高精度の解析性能を有する第2計測器MD2の計測結果である第2結果値は、極めて真値に近く、第1結果値をこれに一致させる又は近付けることにより、回転中心C及び把持力の強さの最適解を取得することができる。
【0076】
具体的には、決定部14eは、以下の目的関数Jを定義し、目的関数Jが最小化されるような回転中心C及び把持力の強さを、それぞれの最適解として決定する。そのために、決定部14eは、直前のステップS9により算出された第1結果値と、ステップS10により算出された第2結果値とを以下の式に代入し、これらの値が0に近い所定の範囲内の値に収束する(以下、終了条件)かどうかを判断する。そして、終了条件が満たされる場合には、最適化の処理を終了し、最新の回転中心C及び把持力の強さを、ゴルファーGに特有の回転中心C及び把持力の強さとして決定する。一方、終了条件が満たされない場合には、ステップS4に戻る。
【数2】
【0077】
続くステップS12では、補正部14fは、ステップS1で取得されたスイング中の各時刻における第1計測データ、より具体的には、角速度ωx,ωy,ωzのセンサデータを補正する。この補正は、角速度ωx,ωy,ωzのバイアス成分を考慮することにより行われる。すなわち、一般に、角速度センサ42(ジャイロセンサ)の出力値には、誤差として、バイアス成分が含まれる。特に、ダウンスイング期間に概ね相当するインパクト直前においてはゴルフクラブ5が高速に運動するため、バイアス成分が大きくなる。従って、このようなバイアス成分を除去することで、より高精度のゴルフスイングのシミュレーションが可能になる。
【0078】
図12は、角速度センサ42の計測値である角速度ωiと、その真値との関係を概念的に示すグラフである(i=x,y,z)。同図に示すように、角速度ωiの計測値と真値とは、角速度ωiの大きさが小さい場合には線形の関係にあるが、角速度ωiの大きさが大きくなると線形の関係が崩れる。その結果、バイアス成分は、角速度ωiの高速域(ωi>THi)では大きくなり、角速度ωiの低速域(ωi<-THi)では小さくなる。従って、本実施形態では、角速度ωiが以下の補正式に従って補正される。なお、ωi’は、補正後の角速度(バイアス成分を加味した角速度)であり、THiは、真値と計測値との線形関係が維持される範囲を定める閾値であり、kiは、補正係数である。なお、下式中、上下の閾値の絶対値を同じとしているが、異なるように設定することもできる。
ωi’=THi+(ωi-THi)×ki (ωi>THiの場合)
ωi’=-THi+(ωi+THi)×ki (ωi<-THiの場合)
【0079】
THi及びkiは、角速度ωiのバイアス成分を除去するための補正パラメータである。本実施形態では、閾値THiは、ステップS1で取得されたセンサデータと、ステップS3で取得された第2計測器MD2からの第2計測データとに基づいて設定される。具体的には、補正部14fは、ステップS9で算出されたヘッド速度HSSim及びフェース角FASimが、ステップS10で算出されたヘッド速度HSMot及びフェース角FAMotに一致する又は近付くような閾値THiを算出する。そして、補正部14fは、この閾値THiに基づいて、上記補正式に従って、スイング中の各時刻における角速度ωx,ωy,ωzのセンサデータを補正する。
【0080】
図13は、ステップS12に含まれる、閾値THiを算出するための処理を示すフローチャートである。本処理のアルゴリズムは、本発明者らが実験を通して得た以下の知見に基づく。すなわち、ゴルフクラブ5のような慣性センサ付きのゴルフクラブを様々な被験者に多数回スイングさせ、そのときのスイングデータを解析したところ、閾値THxを大きくすると、ヘッド速度HSSimがより速くなり、フェース角FASimがより閉じる傾向が見られた。また、閾値THyを大きくすると、ヘッド速度HSSimがより遅くなり、フェース角FASimがより開く傾向が見られた。また、閾値THzを大きくすると、ヘッド速度HSSimがより遅くなり、フェース角FASimがより開く傾向が見られた。この関係を表1にまとめる。
【表1】
【0081】
以上の知見に基づいて、補正部14fは、ヘッド速度HSSimがヘッド速度HSMotよりも第1値以上速いかを判断する(ステップS21)。速い場合には、ステップS22に進み、ヘッド速度HSSimがヘッド速度HSMotに一致する又は近付くように、閾値THx及びTHzをそれぞれ所定値(例えば、それぞれ0rad/s、1rad/s)に設定する。また、ステップS22では、二分法を用いて、ヘッド速度HSSimがヘッド速度HSMotに一致する又は近付くような閾値THyを設定する。
【0082】
また、補正部14fは、ヘッド速度HSSimがヘッド速度HSMotよりも、第1値より小さい第2値以上速いかを判断する(ステップS23)。速い場合には、ステップS24に進み、ヘッド速度HSSimがヘッド速度HSMotに一致する又は近付くように、閾値THx、THy及びTHzをそれぞれ所定値(例えば、それぞれ0.5rad/s、0rad/s、1rad/s)に設定する。
【0083】
また、補正部14fは、ヘッド速度HSSimがヘッド速度HSMotよりも第3値以上遅いかを判断する(ステップS25)。遅い場合には、ステップS26に進み、ヘッド速度HSSimがヘッド速度HSMotに一致する又は近付くように、閾値THy及びTHzをそれぞれ所定値(例えば、それぞれ0rad/s、1rad/s)に設定する。また、ステップS26では、二分法を用いて、ヘッド速度HSSimがヘッド速度HSMotに一致する又は近付くような閾値THxを設定する。
【0084】
ステップS21~S26によりヘッド速度についての調整が終わると、次に、フェース角についての調整が行われる(ステップS27,S28)。なお、ヘッド速度についての調整の後、フェース角についての調整を行ってもよい。ステップS27では、補正部14fは、フェース角FASimがフェース角FAMotから所定値以上離れているかを判断する。離れている場合には、ステップS28に進み、二分法を用いて、フェース角FASimをフェース角FAMotに一致させる又は近付けるような閾値THzを設定する。
【0085】
その後、ステップS13では、解析部14cは、ステップS12による補正後の角速度ωx’,ωy’,ωz’のセンサデータ、並びにステップS11で決定された回転中心C及び把持力の強さの最適解を用いて、再度ステップS4~S9と同様の処理を行う。すなわち、シャフト52の変形を再解析するとともに、ヘッド速度HSSim、フェース角FASim、ブロー角BASim及び軌道角PATHSimを含む第1結果値を再計算する。
【0086】
続くステップS14では、ステップS13の結果が表示部11上に表示される。例えば、ステップS13で算出された第1結果値に含まれる、ヘッド速度HSSim、フェース角FASim、ブロー角BASim及び軌道角PATHSimの値が表示され、これに代えて又は加えて、スイング中のグリップ51及びシャフト52の変形がグラフィック表示される。以上により、1打目のゴルフスイングの解析処理が終了する。
【0087】
<3-2.2打目以降のゴルフスイングの解析処理>
次に、図8を参照しつつ、2打目以降のゴルフスイングの解析処理について説明する。2打目以降の解析処理では、1打目で決定された解析パラメータ及び補正パラメータの値を流用し、シャフト52の変形が解析され、第1結果値が算出される。そのため、2打目以降の解析処理では、1打目の場合と同様に、第1計測器MD1からの第1計測データが収集される(ステップS1,S2)ものの、上述したステップS3のような第2計測器MD2からの第2計測データの収集は省略される。
【0088】
ステップS1,S2の後、解析部14cは、1打目の閾値THiを用いて、ステップS12の補正式に従って、角速度ωx,ωy,ωzのセンサデータからバイアス成分を除去する(ステップS15)。その後、解析部14cは、補正後の角速度ωx’,ωy’,ωz’のセンサデータ、並びに1打目の回転中心C及び把持力の強さの最適解を用いて、ステップS4~S9,S14と同様の処理を行う。これにより、2打目以降のシャフト52の変形が解析されるとともに、ヘッド速度HSSim、フェース角FASim、ブロー角BASim及び軌道角PATHSimを含む第1結果値が計算され、さらにこれらの解析結果が表示部11上に表示される。
【0089】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0090】
<4-1>
上記実施形態に係る解析装置、方法及びプログラムは、ゴルフクラブの挙動を解析するのに適するように構成されていたが、同様のアルゴリズムは、スイングされる任意の打具の挙動を解析するのに用いることができる。
【0091】
<4-2>
第1計測器MD1及び第2計測器MD2の上述した構成は例示であり、第1計測器MD1及び第2計測器MD2は、様々に構成することができる。例えば、第1計測器MD1は、1台の距離画像センサ2Aと慣性センサユニット40のみから構成することもできるし、慣性センサユニット40のみから構成することもできるし、1又は複数台の距離画像センサのみから構成することもできる。また、慣性センサユニット40から地磁気センサ43を省略することもできる。
【0092】
また、第2計測器MD2は、複数台のカメラからなる高性能のモーションキャプチャシステムとすることもできる。ただし、第2計測器MD2からの第2計測データは、第1計測データの補正パラメータ、及び、ゴルファーGの特徴を表す解析パラメータを決定するのに用いられるため、第1計測器MD1よりも高精度にゴルフクラブ5の挙動を計測できる装置であることが好ましい。
【0093】
<4-3>
ステップS9,S10等で特定されるゴルフクラブ5の所定の挙動は、上述したヘッド速度、フェース角、ブロー角及び軌道角の例に限らず、ヘッド53のその他の様々な挙動が特定されてもよいし、ヘッド53以外の様々な部位の様々な挙動が特定されてもよい。また、解析パラメータを決定するために使用される所定の挙動は、複数である必要はなく、1つであってもよい。例えば、第1計測データに基づくヘッド速度のみが第2計測データに基づく同指標に整合するように、解析パラメータを決定することができる。
【0094】
<4-4>
上記実施形態では、1打目の結果のみに基づいて解析パラメータが決定されたが、複数打の結果に基づいて解析パラメータを決定してもよい。この場合も、それ以後のシャフト52の解析には、同解析パラメータを流用することができる。補正パラメータについても同様である。
【0095】
<4-5>
上記実施形態では、ゴルファーGがゴルフクラブ5をスイングするときの特徴を表す解析パラメータとして、回転中心C及び把持力の強さが使用されたが、これらの一方のみを使用することもできる。また、解析パラメータとして、回転中心Cや把持力の強さの他にも、ゴルファーGがゴルフクラブ5をスイングするときの様々な特徴を解析パラメータとして使用することができる。
【0096】
<4-6>
上記実施形態では、回転中心C及び把持力の強さに基づいてシャフト52の変形を解析した後、バイアス成分を除去する補正が行われたが、両ステップを逆の順番で実行することもできる。
【実施例
【0097】
<参考例(真値)>
図14に示すように、ヘッドのクラウン部上におけるフェース面近傍の位置であって、トゥ側の端部付近とヒール側の端部付近とにマーカーを貼付したゴルフクラブを用意した。そして、複数台のカメラからなる高精度の三次元計測を可能にするモーションキャプチャシステムにより、このゴルフクラブを用いたスイング中のこれらのマーカーの軌道を計測した。そして、以上のマーカーの軌道から、インパクト直前のヘッド速度、フェース角、軌道角及びブロー角を算出した。
【0098】
<実施例1>
上記実施形態に係る図7の解析処理と同様の処理により、スイング中の回転中心C及びゴルファーの把持力の強さを考慮してシャフトの変形を解析し、その結果に基づいて、インパクト直前のヘッド速度、フェース角、軌道角及びブロー角を算出した。ただし、ここでは、ステップS12のバイアス成分を除去する補正は省略された。また、実施例1では、第1計測器由来の第1計測データとして、モーションキャプチャシステム由来のグリップ部分の加速度のデータ及び角速度のデータ、及び距離画像センサ由来の画像データが用いられ、第2計測器としても、モーションキャプチャシステムが用いられた。
【0099】
<実施例2>
上記実施形態に係る図7の解析処理と同様の処理により、スイング中の回転中心C及びゴルファーの把持力の強さを考慮するとともに、バイアス成分を除去する補正を行ってシャフトの変形を解析し、その結果に基づいて、インパクト直前のヘッド速度、フェース角、軌道角及びブロー角を算出した。ただし、実施例2では、第2計測器としては、モーションキャプチャシステムが用いられた。
【0100】
<検証>
図15A図15Dは、それぞれ、参考例及び実施例1に係るインパクト直前のヘッド速度、フェース角、軌道角及びブロー角の相関を示すグラフである。同図からも分かるとおり、参考例に対する実施例1の誤差は、ヘッド速度について±1.5m/s程度、フェース角、軌道角及びブロー角について±1.5deg程度であり、非常に小さかった。この結果から、実施例1に係るアルゴリズムの効果が確認された。
【0101】
また、下表2は、参考例及び実施例2に係るヘッド速度、フェース角、軌道角及びブロー角である。同表からも分かるとおり、参考例に対する実施例の誤差は、非常に小さかった。この結果から、実施例2に係るアルゴリズムの効果が確認された。
【表2】
【符号の説明】
【0102】
1 解析装置
14a 第1取得部
14b 第2取得部
14c 解析部
14d 特定部
14e 決定部
14f 補正部
2A 距離画像センサ
2B 距離画像センサ
3A~3H カメラ
40 慣性センサユニット
5 ゴルフクラブ
51 グリップ
52 シャフト
53 ヘッド
MD1 第1計測器
MD2 第2計測器
G ゴルファー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図15C
図15D