IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ライオン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤 図1
  • 特許-筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/167 20060101AFI20220222BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20220222BHJP
   A61K 31/616 20060101ALI20220222BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220222BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20220222BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220222BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
A61K31/167
A61K31/192
A61K31/616
A61P21/00
A61P25/02 101
A61P29/00
A61P43/00 121
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017198382
(22)【出願日】2017-10-12
(65)【公開番号】P2019073449
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下平 哲大
【審査官】一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-504401(JP,A)
【文献】Clin J Pain,2014年,Vol.30,No.12,p.1076-1083
【文献】Phys Med Rehabil Clin N Am,2014年,Vol.25,No.2,p.357-374
【文献】PLOS ONE,2019年,Vol.14,No.11,e0224809
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アセトアミノフェンと、
(B)ロキソプロフェン(b-1)及びアセチルサリチル酸(b-2)から選ばれる1種と
を有効成分として含み、
(b-1):(A)で表される(A)成分と(b-1)成分との配合質量比が、1:4.5~8.5、又は
(b-2):(A)で表される(A)成分と(b-2)成分との配合質量比が、1:0.3~1.0である、
筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤。
【請求項2】
(A)アセトアミノフェンと、(B)ロキソプロフェン(b-1)とを有効成分として含み、(b-1):(A)で表される(A)成分と(b-1)成分との配合質量比が、1:4.5~8.5である、請求項1記載の筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤。
【請求項3】
(A)アセトアミノフェンと、(B)アセチルサリチル酸(b-2)とを有効成分として含み、(b-2):(A)で表される(A)成分と(b-2)成分との配合質量比が、1:0.3~1.0である、請求項1記載の筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤。
【請求項4】
(b-2):(A)で表される(A)成分と(b-2)成分の配合質量比が、1:0.5~0.7である、請求項1又は3記載の筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤。
【請求項5】
(A)アセトアミノフェンの成人1回あたりの投与量が、65~1,000mgである、請求項1~4のいずれか1項記載の筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤。
【請求項6】
(B)ロキソプロフェン(b-1)の成人1回あたりの投与量が、10~150mgである、請求項1又は2記載の筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤。
【請求項7】
(B)アセチルサリチル酸(b-2)の成人1回あたりの投与量が、100~1,500mgである、請求項1、3及び4のいずれか1項記載の筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤。
【請求項8】
筋・筋膜性疼痛発痛後に単回摂取する、請求項1~7のいずれか1項記載の筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋・筋膜性疼痛に対して、高い軽減効果、治癒効果を有する内服治療剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、炎症や組織損傷等により増加する発痛増強物質プロスタグランジン(PG)の産生を担うシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の活性を阻害することで、鎮痛、抗炎症効果を発現する。このため、NSAIDsは炎症や組織損傷に起因しCOXが関与する疼痛には有効であるが、癌性疼痛や神経障害性疼痛等、COXやPGの寄与が低い疼痛には効果が低いことが知られており、こうした疼痛には、オピオイド受容体や疼痛に関与する各種Na、Caチャネル等のCOXとは異なる作用機序を有する鎮痛薬が用いられている。
【0003】
近年、腰痛についても様々な疼痛発生経路があることが示されている。腰痛は、その病態から、特異的腰痛と非特異的腰痛に大別される。全腰痛の15%を占める特異的腰痛は、骨折や炎症、神経圧迫、腫瘍等の基礎疾患を伴う腰痛とされ、こうした腰痛の内、炎症を伴う腰痛にはNSAIDsが有効な場合がある。一方、全腰痛の85%を占めるとされる非特異的腰痛は、主な原因組織として、筋、椎間関節、椎間板等が挙げられる。
【0004】
非特異的腰痛の原因の一つである筋痛は、細菌・ウィルス感染等の筋への物理的負荷によらない筋痛と、打撲や捻挫等の筋への物理的負荷を契機とする筋痛に大別することができる。さらに、これら筋痛は、炎症や筋組織の損傷の有無によって病態を分類することができる。感染や運動時の打撲や捻挫によって生じる筋痛は主に炎症や組織損傷を伴う疼痛であり、こうした炎症や組織損傷が主体の疼痛は、COXやPGの関与が大きいことからNSAIDsが有効であり、一般的に疼痛緩和の目的でNSAIDsが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2009-501700号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】ペインクリニック,38:645-654,2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、筋痛の一つである筋・筋膜性疼痛は、筋への物理的負荷により生じる筋痛であるが、前述の筋痛と異なり、索状硬結、筋硬結、圧痛点、トリガーポイントの有無、可動域制限等の随伴症状から診断され、これらが重要な臨床所見となる。筋・筋膜性疼痛の発生機序仮説としては諸説あるが、筋肉への過負荷を契機とする筋収縮や筋血流低下・虚血により増大したアセチルコリン活性がさらなる筋収縮を惹起するという悪循環が提唱されている。この点で、筋・筋膜性疼痛は、感染や打撲等の前述の単なる筋の損傷や炎症による筋痛とは異なる。近年、筋・筋膜性疼痛の発生機序の解明に向けて動物モデルが開発され、初めて組織学的、生化学的な検討が可能となった。動物モデルを用いた組織学的な検討から、筋・筋膜性疼痛発生時の筋は、炎症や顕著な筋組織の損傷を伴わないことが明らかにされている。さらに、筋・筋膜性疼痛モデルにおいては、NSAIDsであるセレコキシブ(CXB)やザルトプロフェン、ケトプロフェンは、疼痛発生後に投与しても鎮痛効果がないことが報告されており、これまでNSAIDsは筋・筋膜性疼痛には鎮痛効果がないと考えられていた。実際に、昨今の生化学的な検討から、筋・筋膜性疼痛の主原因は、NSAIDsのターゲットであるCOX-2やPGではなく、神経成長因子やイオンチャネルの機能変化であることが報告されており、従来の炎症や損傷とは全く異なる病態であることが示されている。
【0008】
以上の通り、病態、及びCXB等のNSAIDsが無効であることから、従来、筋・筋膜性疼痛にはNSAIDsは効果がないと考えられており、アセチルサリチル酸(ASP:アスピリン(登録商標))、イブプロフェン(IBP)、ロキソプロフェンナトリウム水和物(LOX)等のNSAIDsや、アセトアミノフェン(APAP)の筋・筋膜性疼痛に対する効果も不明であった。現在、医療現場では、上記の臨床所見を元に、トリガーポイント部位に注射針を用いて局所麻酔薬を投与するトリガーポイント注射による神経ブロック療法が広く用いられている。しかしながら、本法は侵襲性であり、刺入による筋や皮膚等の組織の損傷や炎症、またそれに伴う感染などの課題がある。これらの事情から、筋・筋膜性疼痛に対して、より高い軽減効果、治癒効果を有する内服治療剤の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、筋・筋膜性疼痛の病態を反映した動物モデルを作製し、筋・筋膜性疼痛に対して高い治癒効果を有する有効成分の検討を行った。その結果、アセトアミノフェン(APAP)と、特定の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が、筋・筋膜性疼痛に対して高い治癒効果を示すことを知見した。特に、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の1種であるセレコキシブ(CXB)投与では、疼痛発生後のCXB投与では鎮痛効果が認められない一方で、APAP、ASP、IBP、LOXは疼痛発生後の投与でも鎮痛効果が認められることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
従って、本発明は下記内服治療剤を提供する。
[1].(A)アセトアミノフェン、及び(B)非ステロイド性抗炎症薬(但し、セレコキシブ、ザルトプロフェン、ケトロラック、ニメスリド、アセクロフェナクは除く)から選ばれる1種以上を有効成分として含む、筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤。
[2].(B)成分が、(b-1)ロキソプロフェン、(b-2)アセチルサリチル酸、(b-3)イブプロフェンである[1]記載の筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤。
[3].(A)アセトアミノフェンを必須成分とする[1]又は[2]記載の筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤。
[4].さらに、(b-1)ロキソプロフェンを含む[3]記載の筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤。
[5].(b-1):(A)で表される(A)成分と(b-1)成分の配合質量比が、1:4.5~8.5である[4]記載の筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤。
[6].さらに、(b-2)アセチルサリチル酸を含む[3]記載の筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤。
[7].(b-2):(A)で表される(A)成分と(b-2)成分の配合質量比が、1:0.3~1.0である[6]記載の筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤。
[8].筋・筋膜性疼痛発痛後に単回摂取する、[1]~[7]のいずれかに記載の筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、筋・筋膜性疼痛に対して、高い軽減効果、治癒効果を有する筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】筋・筋膜性疼痛に対する治癒効果の評価方法-1の結果を示すグラフである。
図2】筋・筋膜性疼痛に対する治癒効果の評価方法-2の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤の有効成分は、(A)アセトアミノフェン、及び(B)非ステロイド性抗炎症薬(但し、セレコキシブ、ザルトプロフェン、ケトロラック、ニメスリド、アセクロフェナクは除く)から選ばれる1種以上であり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0014】
[(A)成分]
アセトアミノフェン(N-(4-hydroxyphenyl)acetamide) アセトアミノフェンは、薬学的に許容される塩類も用いることができる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。(A)成分を配合する場合、(A)成分の配合量は、本発明の筋・筋膜性疼痛に対する薬理効果、及び製造上問題ない範囲内であれば特に限定されない。ヒトの投与量は、成人で通常65~1,000mg/回であり、95~500mg/回が好ましく、100~400mg/回がより好ましく、130~300mg/回がさらに好ましい。下限値以上とすることで本発明用途の有効性が十分得られ、上限値以下とすることで副作用の発生が抑制され、人体に安全な筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤とすることができる。1日の投与回数は1~4回から適宜選定される。(A)成分の筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤(以下、治療剤と記載する場合がある)中の配合量は上記摂取量や、後述する任意成分(生理活性物質や添加剤)により適宜選定されるが、3.0~70質量%が好ましい。
【0015】
[(B)成分]
(B)非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)とは、抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用を有する薬剤の総称であり、ステロイドではない抗炎症薬をいう。本発明の(B)成分としては、セレコキシブ、ザルトプロフェン、ケトロラック、ニメスリド、アセクロフェナクは除くものであれば特に限定されない。上記以外の非ステロイド性抗炎症薬としては、サリチル酸、アセチルサリチル酸(アスピリン(登録商標))、アスピリンアルミニウム、サルサラート(サザピリン)、サリチルアミド、エテンザミド、サリチル酸ナトリウム、イブプロフェン、ロキソプロフェン、ジクロフェナク、ケトプロフェン、ナプロキセン、フルルビプロフェン、ピロキシカム、チアプロフェン酸、スプロフェン、トルメチン、アルミノプロフェン、ベノキサプロフェン、ベンジダミン、スリンダク、アセメタシン、プログルメタシン、アンフェナク、モフェゾラク、ロルノキシカム、アンピロキシカム、フェノプロフェン、チアプロフェン酸、オキサプロジン、メフェナム酸、フルフェナム酸、フェルビナク、アザプロパゾン、フェンブフェン、エトドラク、ロフェコキシブ、ジフルニサル、ゾメピラク等が挙げられ、これらは薬学的に許容される塩類も用いることができる。中でも、筋・筋膜性疼痛に対する治癒効果の点から、(b-1)ロキソプロフェン、(b-2)アセチルサリチル酸、(b-3)イブプロフェンが好ましい。
【0016】
(B)成分を配合する場合、(B)成分の配合量は、本発明の筋・筋膜性疼痛に対する薬理効果、及び製造上問題ない範囲内であれば特に限定されない。ヒトへの投与量は、成人で通常10~1,500mg/回であり、15~1,000mg/回が好ましい。下限値以上とすることで、目的とする有効性が十分に得られ、上限値以下とすることで副作用の発生が抑制され、人体に安全な筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤とすることができる。1日の投与回数は1~4回から適宜選定される。(B)成分の治療剤中の配合量は上記摂取量や、後述する任意成分(生理活性物質や添加剤)により適宜選定されるが、0.1~70質量%が好ましい。
【0017】
[(b-1)成分]
ロキソプロフェン(2-[p-[2-Oxocyclopentylmethyl]Phenyl]Propionic Acid)
ロキソプロフェンは、その薬学的に許容される塩類も用いることができ、それらの水和物の状態で存在していてもよく、例としては、ロキソプロフェンナトリウム二水和物が挙げられる(水分量として原薬末中約12質量%に相当する)。なお、本発明において、ロキソプロフェンの量や比率は、全てロキソプロフェンナトリウム二水和物換算量である。なお、治療剤中の水分量は、ロキソプロフェンナトリウム二水和物より持ち込まれる水分量を含むものである。ロキソプロフェン及びその塩としては、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0018】
(b-1)成分を配合する場合、(b-1)成分の配合量は本発明の筋・筋膜性疼痛に対する薬理効果、及び製造上問題ない範囲内であれば特に限定されない。ヒトへの投与量は、成人で通常10~150mg/回であり、15~100mg/回が好ましい。下限値以上とすることで、目的とする有効性が十分得られ、上限値以下とすることで副作用の発生が抑制され、人体に安全な筋・筋膜性疼痛の内服治療剤とすることができる。1日の投与回数は1~3回から適宜選定される。(b-1)成分の治療剤中の配合量は上記摂取量や、後述する任意成分(生理活性物質や添加剤)により適宜選定されるが、0.5~70質量%が好ましい。
【0019】
[(b-2)成分]
アセチルサリチル酸(アスピリン(登録商標)、2-Acetoxybenzoic Acid)
アセチルサリチル酸は、その薬学的に許容される塩類も用いることができる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。(b-2)成分を配合する場合、(b-2)成分の配合量は本発明の筋・筋膜性疼痛に対する薬理効果、及び製造上問題ない範囲内であれば特に限定されない。ヒトへの投与量は、成人で通常100~1,500mg/回であり、300~1,000mg/回がより好ましい。下限値以上とすることで、目的とする有効性が十分得られ、上限値以下とすることで副作用の発生が抑制され、人体に安全な筋・筋膜性疼痛の内服治療剤とすることができる。1日の投与回数は1~3回から適宜選定される。(b-2)成分の治療剤中の配合量は上記摂取量や、後述する任意成分(生理活性物質や添加剤)により適宜選定されるが、10.0~70質量%が好ましい。
【0020】
[(b-3)成分]
イブプロフェン(2-(4-isobutylphenyl)Propionic Acid)
イブプロフェンは、その薬学的に許容される塩類も用いることができる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。(b-3)成分を配合する場合、(b-3)成分の配合量は本発明の筋・筋膜性疼痛に対する薬理効果、及び製造上問題ない範囲内であれば特に限定されない。ヒトへの投与量は、成人で通常100~200mg/回であり、130~200mg/回がより好ましい。下限値以上とすることで、目的とする有効性が十分得られ、上限値以下とすることで副作用の発生が抑制され、人体に安全な筋・筋膜性疼痛の内服治療剤とすることができる。1日の投与回数は1~3回から適宜選定される。(b-3)成分の治療剤中の配合量は上記摂取量や、後述する任意成分(生理活性物質や添加剤)により適宜選定されるが、3.0~70質量%が好ましい。
【0021】
筋・筋膜性疼痛に対する治癒効果の点から、(A)アセトアミノフェンを必須成分とすることが好ましく、(A)成分と、(b-1)ロキソプロフェン二水和物との組み合わせ、(A)成分と、(b-2)アセチルサリチル酸との組み合わせでは、相乗効果を有し、特に好ましい。
【0022】
(b-1):(A)で表される(A)成分と(b-1)成分の配合質量比は、1:4.5~8.5が好ましく、1:4.5~6がより好ましい。
(b-2):(A)で表される(A)成分と(b-2)成分の配合質量比が、1:0.3~1.0が好ましく、1:0.5~0.7がより好ましい。
上記比の下限値以上とすることで、筋・筋膜性疼痛に対する相乗的な鎮痛効果が得られやすくなる。一方、上記比の上限値以下とすることで、副作用を抑え、かつ高い鎮痛効果が得られる。さらに、製造性、服用性(錠剤の大きさ、服用数、味(苦味抑制))に優れた製剤とすることができる。
【0023】
本発明の治療剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、内服医薬製剤に配合される任意成分(生理活性物質や添加剤)を配合することができる。任意成分としては、添加物の例としては、結合剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、香料、甘味料、酸味料等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて、適量を用いることができる。
【0024】
生理活性物質としては、例えば、鎮静催眠成分(アリルイソプロピルアセチル尿素、ブロムワレリル尿素等)、抗ヒスタミン成分(塩酸イソチペンジル、塩酸ジフェニルピラリン、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸ジフェテロール、塩酸トリプロリジン、塩酸トリペレナミン、塩酸トンジルアミン、塩酸フェネタジン、塩酸メトジラジン、サリチル酸ジフェンヒドラミン、ジフェニルジスルホン酸カルビノキサミン、酒石酸アリメマジン、タンニン酸ジフェンヒドラミン、テオクル酸ジフェニルピラリン、ナパジシル酸メブヒドロリン、プロメタジンメチレン二サリチル酸塩、マレイン酸カルビノキサミン、dl-マレイン酸クロルフェニラミン、d-マレイン酸クロルフェニラミン、リン酸ジフェテロール等)、中枢興奮成分(安息香酸ナトリウムカフェイン、カフェイン、無水カフェイン等)、鎮咳去痰成分(コデインリン酸塩、デキストロメトルファン臭化水素酸塩、ジメモルファンリン酸塩、チペピジンヒベンズ酸塩、メトキシフェナミン塩酸塩、トリメトキノール塩酸塩、カルボシステイン、アセチルシステイン、エチルシステイン、dl-メチルエフェドリン、ブロムヘキシン塩酸塩、セラペプターゼ、塩化リゾチーム、アンブロキソール、テオフィリン、アミノフィリン等)、ビタミン成分(ビタミンB1及びその誘導体並びにそれらの塩類、ビタミンB2及びその誘導体並びにそれらの塩類、ビタミンC及びその誘導体並びにそれらの塩類、ヘスペリジン及びその誘導体並びにそれらの塩類等)等が挙げられる。
【0025】
結合剤としては、澱粉、α化デンプン、ショ糖、ゼラチン、アラビアゴム末、ポリビニルピロリドン、プルラン、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、シクロデキストリン、ヒプロメロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0026】
賦形剤としては、結晶セルロース、乳糖、乳糖造粒物、メチルエチルセルロース、キシリトール、エリスリトール、トレハロース、マルチロール、ラクチトール、ソルビトール、マルチトール、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カルシウム、コーンスターチ、粉糖、マンニトール、L-システイン等が挙げられる。
【0027】
崩壊剤としては、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドン等が挙げられる。
【0028】
滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、軽質無水ケイ酸等を用いることができる。
【0029】
香料としては、メントール、リモネン、植物精油(ハッカ油、ミント油、ライチ油、オレンジ油、レモン油等)等が挙げられる。
【0030】
甘味料としては、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビア、グリチルリチン酸二カリウム、アセスルファムカリウム、ソーマチン、スクラロース等が挙げられる。
【0031】
酸味料としては、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸、乳酸又はそれらの塩等を用いることができる。
【0032】
本発明の治療剤の剤型としては、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、ゼリー剤等が可能であるが、錠剤が好ましい。錠剤とすることで、製造性、服用性、保存安定性に優れた製剤を製造することができる。
【0033】
得られた錠剤は、必要に応じてコーティング剤によりコーティング処理を施してもよい。コーティング剤としては、崩壊性を著しく損なわないものを選択することが好ましく、中でも水溶性高分子化合物や可塑剤が好ましい。コーティング剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
水溶性高分子化合物としては、例えばカルメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)、ヒドロキシメチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース類;アラビアゴム、カルボキシビニルポリマー、ポビドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、単糖類、二糖類以上の多糖類(砂糖(グラニュー糖等)、乳糖、麦芽糖、キシロース、異性化乳糖等)、糖アルコール(パラチニット、ソルビトール、ラクチトール、エリスリトール、キシリトール、還元澱粉糖化物、マルチトール、マンニトール等)、水飴、異性化糖類、オリゴ糖、スクロース、トレハロース、還元澱粉糖化物(還元澱粉分解物等)などが挙げられる。特に、製造性および防湿性に優れる点からヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0035】
可塑剤としては、例えばクエン酸トリエチル、トリアセチン、カルナウバロウ等の日本薬局方(広川書店)および医薬品添加物規格(株式会社薬事日報社)等の公定書に記載されているものが挙げられる。
【0036】
[筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤]
本発明の(A)成分、及び(B)成分は、筋・筋膜性疼痛に対して高い軽減効果、治癒効果を有することから、前記成分を有効成分として、筋・筋膜性疼痛用の内服治療剤、筋・筋膜性疼痛用の内服軽減剤として用いるものである。筋・筋膜性疼痛には上述したような特徴があり、その摂取方法は、「発痛前」、「発痛後」でも制限はないが、本発明の軽減、治癒効果は「筋・筋膜性疼痛発痛後」でも十分発揮される。さらに、摂取回数も特に限定されないが、単回摂取でも筋・筋膜性疼痛に対する、軽減、治癒効果が十分発揮される。
【0037】
[筋・筋膜性疼痛に対する治癒効果の評価方法]
本測定方法は、後述する実施例に記載するものであるが、所定の筋に一定の伸長角度・速度にて伸張性収縮負荷を50回施すことで筋・筋膜性疼痛を惹起し、疼痛発生部位筋を機械刺激した際の逃避閾値を測定することで疼痛を評価する手法である。閾値測定の際に、先端径2.6mm以上の機械刺激用プローブを用いることで、経皮的な機械刺激においても皮膚感覚を除いた筋の痛覚のみを特異的に検出することができる。なお、一般に疼痛評価に広く用いられているランダールセリットテストやVon Freyテストは、機械刺激用プローブの先端径が細く、皮膚痛覚が混在することから、筋の痛みを特異的に評価可能な手法ではない(ペインクリニック,38:645-654,2017)。
【実施例
【0038】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において特に明記のない場合は、組成の「%」は質量%、比率は質量比を示す。
【0039】
[筋・筋膜性疼痛に対する治癒効果の評価方法-1]
(1)筋・筋膜性疼痛モデルの作製
ラット(SD系、♂、8週齢)の左側後肢下腿筋群に、文献の記載に準じて伸張性収縮負荷を50回施した(ペインクリニック,38:645-654,2017)。
【0040】
(2)試料
i.投与試料
1.コントロール:5%アラビアゴム懸濁溶液
2.アセチルサリチル酸:75mg/kg
3.ロキソプロフェンナトリウム二水和物:6.81mg/kg
4.イブプロフェン:20mg/kg
5.アセトアミノフェン:30mg/kg
6.アセチルサリチル酸:50mg/kg+アセトアミノフェン:30mg/kg
7.イブプロフェン:13mg/kg+アセトアミノフェン:13mg/kg
8.ロキソプロフェンナトリウム二水和物:3.63mg/kg+アセトアミノフェン:30mg/kg
9.セレコキシブ:10mg/kg
【0041】
なお、上記投与群はヒトが服用する1回量とした場合は、例えば以下のような割合とすることができる。以下、検体名で示す。
【0042】
【表1】
【0043】
ii.試料の調製
試料(投与群記載の成分量の3倍量)、及びアラビアゴム1.5gを量りとり、乳鉢で混合した後、水を加えて30mLの懸濁液を調製した。なお、コントロールは5%アラビアゴム懸濁液を使用した。
iii.試料の投与
ラットに対する試料の投与量を10mL/kgとし、あらかじめ測定しておいたラットの体重にあわせた量(例ラット200g:2mL)を、ラット用経口投与ゾンデを装着したディスポーサブル注射筒にとり、強制経口投与した。
【0044】
(3)評価方法
ラット(SD系、♂、8週齢)の左側後肢の前頸骨筋の機械逃避閾値(PWT;Paw Withdrawal Threshould)をVon Frey 2390 電子痛覚測定装置にて1匹について5回測定し、5回の平均値を初期値とした。初期値測定の翌日にPWT測定側の下腿筋群に伸張性収縮負荷を施した。負荷24時間後に逃避閾値を5回測定し、5回の平均値を検体投与0時間のPWTとした。検体投与0時間のPWT測定直後に、検体を経口投与し、投与後4時間まで1時間おきにPWTを測定した。
各時点でのPWTを各時点でのコントロール群のPWTで除し、PWT上昇率(%)(rPWT)を算出した。検体投与0時間から4時間までのrPWT曲線の曲線下面積(AUC0-4hr;Area under the Curve 0-4hr)を下記計算式より算出した。結果を表2及び図1に示す。
【0045】
【数1】
【0046】
【表2】
【0047】
(4)評価結果
セレコキシブ群のAUCが0.5%・hrであるのに対して、アセチルサリチル酸では16.9%・hr、ロキソプロフェンナトリウム水和物では40.1%・hr、イブプロフェンでは36.7%・hr、アセトアミノフェンでは11.2%・hr、アセチルサリチル酸+アセトアミノフェンでは13.6%・hr、イブプロフェン+アセトアミノフェンでは23.9%・hr、ロキソプロフェンナトリウム二水和物+アセトアミノフェンでは37.9%・hrであり、筋・筋膜性疼痛に対する治癒効果が認められた。
【0048】
[筋・筋膜性疼痛に対する治癒効果の評価方法-2]
(1)筋・筋膜性疼痛モデルの作製
ラット(SD系、♂、8週齢)の左側後肢下腿筋群に、文献の記載に準じて、伸張性収縮負荷を50回施した(ペインクリニック,38:645-654,2017)。
【0049】
(2)試料
i.投与試料
1.コントロール:5%アラビアゴム懸濁溶液
2.アセチルサリチル酸:250mg/kg
3.アセトアミノフェン:150mg/kg
4.ロキソプロフェンナトリウム水和物:18.2mg/kg
5.アスピリン:250mg/kg+アセトアミノフェン:150mg/kg
6.ロキソプロフェンナトリウム二水和物:18.2mg/kg+アセトアミノフェン:150mg/kg
薬物を含まない試料(アラビアゴムのみ含む)を調製し、コントロールとした。なお、ロキソプロフェンナトリウムの用量は、ロキソプロフェンナトリウム二水和物として計算した。
【0050】
ii.試料の調製
試料(投与群記載の成分量の3倍量)、及びアラビアゴム1.5gを量りとり、乳鉢で混合した後、水を加えて30mLの懸濁液を調製した。なお、コントロールは5%アラビアゴム懸濁液を使用した。
iii.試料の投与
ラットに対する試料の投与量を10mL/kgとし、あらかじめ測定しておいたラットの体重にあわせた量(例ラット200g:2mL)を、ラット用経口投与ゾンデを装着したディスポーサブル注射筒にとり、強制経口投与した。
【0051】
(3)評価方法
検体投与0時間のPWTを得るまでは評価方法-1と同様に行った。検体投与0時間後PWT測定直後に、検体を経口投与し、投与後1時間のPWTを測定した。
検体投与0時間後PWT(PWT0hr)と検体投与1時間後PWT(PWT1hr)の差(ΔPWT)を下記計算式より算出し、試料によるPWT変化量を評価した。結果を下記表3,図2に示す。
【0052】
【数2】
【0053】
【表3】
【0054】
(4)評価結果
アセチルサリチル酸:250mg/kgにより増加したPWTが20.7g、アセトアミノフェン:150mg/kgが22.2g、ロキソプロフェンナトリウム二水和物:18.6mg/kgが16.4gであるのに対して、アセチルサリチル酸:250mg/kg+アセトアミノフェン:150mg/kgでは60.0g、ロキソプロフェンナトリウム二水和物:18.2mg/kg+アセトアミノフェン:150mg/kgでは44.1gであり、アセチルサリチル酸やロキソプロフェンをアセトアミノフェンと組み合わせることで相乗的な効果が得られた。
図1
図2