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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】圧縮比可変機構
(51)【国際特許分類】
   F02B 75/04 20060101AFI20220222BHJP
   F02D 15/02 20060101ALI20220222BHJP
   F16N 7/38 20060101ALI20220222BHJP
   F16N 13/00 20060101ALI20220222BHJP
   F04B 3/00 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
F02B75/04
F02D15/02 B
F16N7/38 B
F16N13/00
F04B3/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018034780
(22)【出願日】2018-02-28
(65)【公開番号】P2019148251
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 光昭
(72)【発明者】
【氏名】増田 裕
【審査官】池田 匡利
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/108182(WO,A1)
【文献】特開昭59-110878(JP,A)
【文献】特表2004-506839(JP,A)
【文献】特開2006-144698(JP,A)
【文献】特開2005-282618(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102012200708(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 75/04
F02D 15/02
F16N 7/38
F16N 13/00
F04B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧室に接続される排出油路と、
油圧供給源に接続される供給油路と、
前記排出油路および前記供給油路に接続される第1貯油室、ならびに、プランジャによって前記第1貯油室と区画された第2貯油室を有するポンプシリンダと、
前記第2貯油室に接続される連通路と、
前記連通路に設けられたオリフィスと、
を備え
前記油圧室に供給される油圧よって、圧縮比を変更する、
圧縮比可変機構。
【請求項2】
前記連通路は、前記第1貯油室と前記第2貯油室を連通する
請求項1に記載の圧縮比可変機構。
【請求項3】
前記連通路のうち、前記オリフィスを境にして前記第1貯油室側と前記第2貯油室側とを接続するバイパス油路と、
前記バイパス油路に設けられ、前記第2貯油室から前記第1貯油室への作動油の流れを制限するチェック弁と、
をさらに備える請求項2に記載の圧縮比可変機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧縮比可変機構に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の圧縮比可変機構は、ピストンロッドとクロスヘッドピンとの間に形成された油圧室に作動油を供給可能なプランジャポンプを備えている。プランジャポンプは、クロスヘッドピンに取り付けられ、クロスヘッドピンと一体的に移動する。プランジャポンプは、クランクピンの動きに応じて作動油を吸入および排出する。プランジャポンプは、作動油を吸入することで内部に作動油を蓄え、作動油を排出することで油圧室に作動油を供給する。油圧室に作動油を供給することで、ピストンの上死点位置が変更される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/108182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、プランジャポンプは、ピストンが下死点近傍を移動する僅かな時間で作動油の吸入および排出を行う。このとき、プランジャポンプへの作動油の吸入が急速になされると、供給圧が負圧となってキャビテーションが発生するおそれがあった。
【0005】
本開示は、キャビテーションの発生を抑制することが可能な圧縮比可変機構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の圧縮比可変機構は、油圧室に接続される排出油路と、油圧供給源に接続される供給油路と、排出油路および供給油路に接続される第1貯油室、ならびに、プランジャによって第1貯油室と区画された第2貯油室を有するポンプシリンダと、第2貯油室に接続される連通路と、連通路に設けられたオリフィスと、を備え、油圧室に供給される油圧よって、圧縮比を変更する
【0007】
連通路は、第1貯油室と第2貯油室を連通してもよい。
【0008】
連通路のうち、オリフィスを境にして第1貯油室側と第2貯油室側とを接続するバイパス油路と、バイパス油路に設けられ、第2貯油室から第1貯油室への作動油の流れを制限するチェック弁と、をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示の圧縮比可変機構によれば、キャビテーションの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ユニフロー掃気式2サイクルエンジンの全体構成を示す説明図である。
図2図2(a)、図2(b)は、ピストンロッドとクロスヘッドピンとの連結部分を説明するための説明図である。
図3図3(a)、図3(b)は、ピストンロッドとクロスヘッドピンの相対的な位置の変化を説明するための説明図である。
図4】プランジャポンプおよびスピル弁の配置を説明するための説明図である。
図5】油圧調整機構の構成を説明するための説明図である。
図6図6(a)、図6(b)、図6(c)、図6(d)は、圧縮比可変機構の動作を説明するための説明図である。
図7】クランク角とプランジャポンプおよびスピル弁の基本動作タイミングを説明するための説明図である。
図8】本実施形態のプランジャポンプの構成を説明するための説明図である。
図9図9(a)、図9(b)は、本実施形態のプランジャポンプの動作を説明するための説明図である。
図10】変形例のプランジャポンプの構成を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
以下の実施形態では、気体燃料である燃料ガスを主に燃焼させるガス運転モードと、液体燃料である燃料油を燃焼させるディーゼル運転モードのいずれかの運転モードを選択的に実行することができる、所謂デュアルフューエル型のエンジンについて説明する。また、1周期が2サイクル(ストローク)であって、シリンダ内部をガスが一方向に流れるユニフロー掃気式である場合について説明する。しかし、エンジンの種類は、デュアルフューエル型、2サイクル型、ユニフロー掃気式、クロスヘッド型に限られず、レシプロエンジンであればよい。
【0015】
図1は、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン(クロスヘッド型エンジン)100の全体構成を示す説明図である。本実施形態のユニフロー掃気式2サイクルエンジン100は、例えば、船舶等に用いられる。具体的に、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100は、シリンダ110と、ピストン112と、クロスヘッド114と、連結棒116と、クランクシャフト118と、排気ポート120と、排気弁122と、掃気ポート124と、掃気溜126と、冷却器128と、掃気室130と、燃焼室132とを含んで構成される。
【0016】
ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100では、ピストン112の上昇行程および下降行程の2行程の間に、排気、吸気、圧縮、燃焼、膨張が行われて、ピストン112がシリンダ110内を往復移動する。ピストン112には、ピストンロッド112aの一端が固定されている。また、ピストンロッド112aの他端には、クロスヘッド114におけるクロスヘッドピン114aが連結されている。クロスヘッド114は、ピストン112とともに往復移動する。クロスヘッド114はクロスヘッドシュー114bによって、ピストン112のストローク方向に垂直な方向(図1中、左右方向)の移動が規制されている。
【0017】
クロスヘッドピン114aは、連結棒116の一端に設けられた孔に挿通されており、連結棒116の一端を支持している。また、連結棒116の他端は、クランクシャフト118に連結され、連結棒116に対してクランクシャフト118が回転する構造となっている。その結果、ピストン112の往復移動に伴いクロスヘッド114が往復移動すると、その往復移動に連動して、クランクシャフト118が回転することとなる。
【0018】
排気ポート120は、ピストン112の上死点より上方のシリンダヘッド110aに設けられた開口部であり、シリンダ110内で生じた燃焼後の排気ガスを排気するために開閉される。排気弁122は、不図示の排気弁駆動装置によって所定のタイミングで上下に摺動され、排気ポート120を開閉する。このようにして排気ポート120を介して排気された排気ガスは、排気管120aを介して過給機Cのタービン側に供給された後、外部に排気される。
【0019】
掃気ポート124は、シリンダ110の下端側の内周面(シリンダライナ110bの内周面)から外周面まで貫通する孔であり、シリンダ110の全周囲に亘って、複数設けられている。そして、掃気ポート124は、ピストン112の摺動動作に応じてシリンダ110内に活性ガスを吸入する。かかる活性ガスは、酸素、オゾン等の酸化剤、または、その混合気(例えば空気)を含む。
【0020】
掃気溜126には、過給機Cのコンプレッサによって加圧された活性ガス(例えば空気)が封入されており、冷却器128によって活性ガスが冷却されている。冷却された活性ガスはシリンダジャケット110c内に形成された掃気室130に圧入される。そして、掃気室130とシリンダ110内の差圧をもって掃気ポート124からシリンダ110内に活性ガスが吸入される。
【0021】
また、シリンダヘッド110aには、不図示のパイロット噴射弁が設けられる。ガス運転モードにおいては、エンジンサイクルにおける所望の時点で適量の燃料油がパイロット噴射弁から噴射される。かかる燃料油は、シリンダヘッド110aと、シリンダライナ110bと、ピストン112とに囲繞された燃焼室132の熱で気化して燃料ガスとなる。燃焼室132の熱で気化した燃料ガスは、自然着火し、僅かな時間で燃焼して、燃焼室132の温度を極めて高くする。その結果、シリンダ110に流入した燃料ガスを、所望のタイミングで確実に燃焼することができる。ピストン112は、主に燃料ガスの燃焼による膨張圧によって往復移動する。
【0022】
ここで、燃料ガスは、例えば、LNG(液化天然ガス)をガス化して生成されるものとする。また、燃料ガスは、LNGに限らず、例えば、LPG(液化石油ガス)、軽油、重油等をガス化したものを適用することもできる。
【0023】
一方、ディーゼル運転モードにおいては、ガス運転モードにおける燃料油の噴射量よりも多量の燃料油がパイロット噴射弁から噴射される。ピストン112は、燃料ガスではなく、燃料油の燃焼による膨張圧によって往復移動する。
【0024】
このように、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100は、ガス運転モードとディーゼル運転モードのいずれかの運転モードを選択的に実行する。そして、それぞれの選択モードに応じてピストン112の圧縮比を可変とするため、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100には、圧縮比可変機構Vが設けられている。以下、圧縮比可変機構Vについて詳述する。
【0025】
図2は、ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aとの連結部分を説明するための説明図である。図2(a)には、図1の一点鎖線部分を抽出した拡大図を示し、図2(b)には、図2(a)のII(b)―II(b)線断面を示す。
【0026】
図2(a)、図2(b)に示すように、クロスヘッドピン114aには、ピストンロッド112aの端部が挿入される。具体的に、クロスヘッドピン114aには、クロスヘッドピン114aの軸方向(図2(b)中、左右方向)に垂直に延在する連結穴160が形成されている。この連結穴160は油圧室となっており、この油圧室に、ピストンロッド112aの端部が挿入(進入)されている。このように、連結穴160にピストンロッド112aの端部が挿入されることで、クロスヘッドピン114aと、ピストンロッド112aが連結される。
【0027】
より詳細には、ピストンロッド112aには、大径部162aと、小径部162bが形成されている。大径部162aは、ピストンロッド112aの一端側よりも大きい外径を有する。小径部162bは、大径部162aよりも他端側に位置し、大径部162aよりも小さい外径を有する。
【0028】
そして、連結穴160は、大径穴部164aと、小径穴部164bとを有している。大径穴部164aは、連結穴160におけるピストン112側に位置する。小径穴部164bは、大径穴部164aに対して連結棒116側に連続し、大径穴部164aよりも小さい内径を有する。
【0029】
ピストンロッド112aの小径部162bは、連結穴160の小径穴部164bに挿入可能であって、ピストンロッド112aの大径部162aは、連結穴160の大径穴部164aに挿入可能な寸法関係となっている。小径穴部164bの内周面には、Oリングで構成される第1シール部材Oが配される。
【0030】
ピストンロッド112aの大径部162aよりピストンロッド112aの一端側には、連結穴160よりも外径が大きい固定蓋166が固定されている。固定蓋166は、環状部材であって、ピストンロッド112aが挿通されている。ピストンロッド112aが挿通される固定蓋166の内周面には、Oリングで構成される第2シール部材Oが配される。
【0031】
クロスヘッドピン114aの外周面には、クロスヘッドピン114aの径方向に窪んだ窪み114cが形成されており、この窪み114cに固定蓋166が当接する。
【0032】
また、ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aとの連結部分であって、クロスヘッドピン114aの内部には、第1油圧室(油圧室)168aおよび第2油圧室168bが形成されている。
【0033】
第1油圧室168aは、大径部162aと小径部162bの外径差による段差面と、大径穴部164aの内周面と、大径穴部164aと小径穴部164bの内径差による段差面によって囲繞される。
【0034】
ピストンロッド112aの大径部162aと小径部162bの外径差による段差面は、クロスヘッドピン114aの大径穴部164aと小径穴部164bの内径差による段差面と対向する。以下、ピストンロッド112aの大径部162aと小径部162bの外径差による段差面を、単にピストンロッド112aの段差面という。また、クロスヘッドピン114aの大径穴部164aと小径穴部164bの内径差による段差面を、単にクロスヘッドピン114aの段差面という。ピストンロッド112aの段差面とクロスヘッドピン114aの段差面は、互いに対向する対向部を構成する。ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aの対向部は、第1油圧室168aを形成する。
【0035】
第2油圧室168bは、大径部162aのうち、ピストンロッド112aの一端側の端面と、大径穴部164aの内周面と、固定蓋166によって囲繞される。つまり、ピストンロッド112aの大径部162aによって、大径穴部164aが、当該ピストンロッド112aの一端側と他端側とに区画される。つまり、大径部162aよりも他端側に区画された大径穴部164aによって第1油圧室168aが形成され、大径部162aよりも一端側に区画された大径穴部164aによって第2油圧室168bが形成されている。
【0036】
第1油圧室168aには、第1油路170aおよび第2油路170bが連通している。第1油路170aは、一端が大径穴部164aの内周面(第1油圧室168a)に開口し、他端が後述するプランジャポンプに連通している。第2油路170bは、一端が大径穴部164aの内周面に開口し、他端が後述するスピル弁に連通している。
【0037】
第2油圧室168bには、固定蓋166の壁面に開口する補助油路170cが連通している。補助油路170cは、固定蓋166とクロスヘッドピン114aとの当接部分を介してクロスヘッドピン114aの内部を通り、油圧ポンプに連通している。
【0038】
図3(a)、図3(b)は、ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aの相対的な位置の変化を説明するための説明図である。図3(a)では、ピストンロッド112aが連結穴160に浅く進入した状態を示し、図3(b)では、ピストンロッド112aが連結穴160に深く進入した状態を示す。
【0039】
第1油圧室168aは、ピストン112のストローク方向の長さが可変となっており、第1油圧室168aに作動油を供給した状態で第1油圧室168aを密閉すると、作動油が非圧縮性であることから、図3(a)の状態を維持可能となっている。
【0040】
そして、スピル弁が開口すると、ピストン112の往復移動によるピストンロッド112aおよびクロスヘッドピン114aからの圧縮荷重によって、作動油が第1油圧室168aから第2油路170bを通ってスピル弁側に排出される。その結果、図3(b)に示すように、第1油圧室168aのピストン112のストローク方向の長さが短くなる。一方、第2油圧室168bは、ピストン112のストローク方向の長さが長くなる。
【0041】
このように、ピストンロッド112aおよびクロスヘッドピン114aは、上記の対向部のストローク方向の離隔距離に応じて、ピストンロッド112aおよびクロスヘッドピン114aを含むピストン112のストローク方向の全長を可変とする。換言すれば、ピストンロッド112aおよびクロスヘッドピン114aを含むピストン112のストローク方向の全長は、ピストンロッド112aの段差面およびクロスヘッドピン114aの段差面のストローク方向の離隔距離に応じて変化する。
【0042】
第1油圧室168aおよび第2油圧室168bのピストン112のストローク方向の長さが変更された分、ピストンロッド112aがクロスヘッドピン114aの連結穴(油圧室)160に進入する進入位置(進入深さ)が変化する。このように、ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aの相対的な位置を変化させることで、ピストン112の上死点および下死点の位置を可変としている。
【0043】
ところで、図3(b)に示す状態でピストン112が上死点に到達したとき、クロスヘッドピン114aは連結棒116によってピストン112のストローク方向の位置が固定されている。一方、ピストンロッド112aは、クロスヘッドピン114aに連結されているものの、第2油圧室168bの分だけ遊びが生じている。
【0044】
そのため、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100の回転数によってはピストンロッド112aの慣性力が大きく、ピストンロッド112aがピストン112側に移動しすぎてしまう可能性がある。このように上死点位置のずれが生じないように、第2油圧室168bには、補助油路170cを介して油圧ポンプからの油圧を作用させ、このようなピストンロッド112aの移動を抑えている。
【0045】
また、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100は、比較的低速の回転数で用いられることから、ピストンロッド112aの慣性力が小さく、第2油圧室168bに供給する油圧が低くても、上死点位置のずれを抑えることができる。
【0046】
また、ピストンロッド112aには、ピストンロッド112aの外周面から径方向内側に向かう流路穴172が設けられている。また、クロスヘッドピン114aには、クロスヘッドピン114aの外周面側から連結穴160まで貫通する貫通孔174が設けられている。貫通孔174は、油圧ポンプと連通している。
【0047】
また、流路穴172と貫通孔174は、ピストンロッド112aの径方向に対向しており、流路穴172と貫通孔174が連通している。流路穴172の外周面側の端部は、流路穴172の他の部位よりも、ピストン112のストローク方向(図3中、上下方向)の流路幅が広く形成されている。したがって、図3(a)、(b)に示すように、ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aの相対的な位置が変わっても、流路穴172と貫通孔174の連通状態が維持される。
【0048】
ピストンロッド112aの外周面には、流路穴172の外周面側の端部をピストンロッド112aの軸方向に挟んで、Oリングで構成される第3シール部材O、第4シール部材Oが配される。
【0049】
大径部162aは、流路穴172の分だけ、大径穴部164aの内周面に対向する面積が小さくなり、大径穴部164aに対して傾き易くなる。ここでは、小径部162bが小径穴部164bにガイドされることで、ピストンロッド112aのストローク方向に対する傾きが抑えられている。
【0050】
そして、ピストンロッド112aの内部には、ピストン112のストローク方向に延在し、ピストン112およびピストンロッド112aを冷却する冷却油が流通する冷却油路176が形成されている。冷却油路176は、内部に冷却管178が配されており、冷却管178によってピストンロッド112aの径方向外側の往路176aと内側の復路176bに分けられている。流路穴172は、冷却油路176のうちの往路176aに開口している。
【0051】
油圧ポンプから供給された冷却油は、貫通孔174、流路穴172を介して冷却油路176の往路176aに流入する。往路176aと復路176bは、ピストン112の内部で連通しており、往路176aを流れた冷却油は、ピストン112の内壁に到達すると復路176bを通って、小径部162b側に戻る。冷却油路176の内壁およびピストン112の内壁に冷却油が接触することで、ピストン112が冷却される。
【0052】
また、クロスヘッドピン114aには、クロスヘッドピン114aの軸方向に延在する出口孔180が形成されており、小径穴部164bは、出口孔180に連通している。ピストン112を冷却した後に、冷却油路176から小径穴部164bに流入した冷却油は、出口孔180を通って、クロスヘッドピン114a外に排出され、タンクに還流する。
【0053】
第1油圧室168aおよび第2油圧室168bに供給される作動油と、冷却油路176に供給される冷却油は、いずれも同じタンクに還流して同じ油圧ポンプで昇圧される。そのため、油圧を作用させる作動油の供給と、冷却用の冷却油の供給を、1つの油圧ポンプで遂行でき、コストを低減することが可能となる。
【0054】
ピストン112の圧縮比を可変とする圧縮比可変機構Vには、上記の第1油圧室168aに加えて、第1油圧室168aの油圧を調整する油圧調整機構を含んで構成される。続いて、油圧調整機構について詳述する。
【0055】
図4は、プランジャポンプ182およびスピル弁184の配置を説明するための説明図であり、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100のうち、クロスヘッド114近傍の外観および部分断面を示す。プランジャポンプ182およびスピル弁184は、それぞれ、図4にクロスハッチングで示すクロスヘッドピン114aに固定されている。
【0056】
プランジャポンプ182およびスピル弁184それぞれの下方には、クロスヘッド114の往復移動をガイドする2つのガイド板186aに両端が固定され、両ガイド板186aを支持する機関架橋186bが配されている。機関架橋186bには、第1カム板188および第2カム板190が載置されており、第1カム板188および第2カム板190は、それぞれ、第1アクチュエータ192および第2アクチュエータ194によって、機関架橋186b上を図4中、左右の向きに可動する。
【0057】
プランジャポンプ182およびスピル弁184は、ピストン112のストローク方向にクロスヘッドピン114aと一体に往復移動する。一方、第1カム板188および第2カム板190は、機関架橋186b上にあって、機関架橋186bに対してピストン112のストローク方向には移動しない。
【0058】
図5は、油圧調整機構196の構成を説明するための説明図である。図5に示すように、油圧調整機構196は、プランジャポンプ182と、スピル弁184と、第1カム板188と、第2カム板190と、第1アクチュエータ192と、第2アクチュエータ194と、第1切換弁198と、第2切換弁200と、位置センサ202と、油圧制御部204とを含んで構成される。
【0059】
プランジャポンプ182は、ポンプシリンダ182aと、プランジャ182bとを含んで構成される。ポンプシリンダ182aは、油圧ポンプPに連通する供給油路を介して、内部に作動油が導かれる。プランジャ182bは、ポンプシリンダ182a内をストローク方向に移動するとともに一端がポンプシリンダ182aから突出する。
【0060】
第1カム板188は、ピストン112のストローク方向に対して傾斜する傾斜面188aを有し、プランジャポンプ182のストローク方向の下方に配置されている。そして、プランジャポンプ182がクロスヘッドピン114aとともにストローク方向に移動すると、下死点に近いクランク角において、ポンプシリンダ182aから突出したプランジャ182bの一端が、第1カム板188の傾斜面188aに接触する。
【0061】
そして、プランジャ182bは、第1カム板188の傾斜面188aから、クロスヘッド114の往復移動の力に対向する反力を受けて、ポンプシリンダ182a内に押し込まれる。プランジャポンプ182は、プランジャ182bがポンプシリンダ182a内に押し込まれることで、ポンプシリンダ182a内の作動油を第1油圧室168aに供給(圧入)する。
【0062】
第1アクチュエータ192は、例えば、第1切換弁198を介して供給される作動油の油圧によって作動し、第1カム板188をストローク方向と交差する方向(ここでは、ストローク方向に垂直な方向)に移動させる。すなわち、第1アクチュエータ192は、第1カム板188を可動し、第1カム板188のプランジャ182bに対する相対位置を変化させる。
【0063】
このように、第1カム板188がストローク方向に垂直な方向に移動すると、プランジャ182bと第1カム板188とのストローク方向における接触位置が相対変化する。例えば、図5中、左側に第1カム板188が移動すると、接触位置はストローク方向の上方に変位し、図5中、右側に第1カム板188が移動すると、接触位置はストローク方向の下方に変位する。そして、接触位置によってポンプシリンダ182aに対する最大押し込み量が設定される。
【0064】
スピル弁184は、本体184aと、弁体184bと、ロッド184cとを含んで構成される。スピル弁184の本体184aの内部には、第1油圧室168aから排出された作動油が流通する内部流路が形成されている。弁体184bは、本体184a内の内部流路に配される。ロッド184cは、一端が本体184a内の弁体184bに対向するとともに、他端が本体184aから突出している。
【0065】
第2カム板190は、ストローク方向に対して傾斜する傾斜面190aを有し、ロッド184cのストローク方向の下方に配置されている。そして、スピル弁184がクロスヘッドピン114aとともにストローク方向に移動すると、下死点に近いクランク角において、スピル弁184の本体184aから突出したロッド184cの一端が、第2カム板190の傾斜面190aに接触する。
【0066】
そして、ロッド184cは、第2カム板190の傾斜面190aから、クロスヘッド114の往復移動の力に対向する反力を受けて、本体184a内に押し込まれる。スピル弁184は、ロッド184cが本体184a内に所定量以上押し込まれることで弁体184bが移動し、スピル弁184の内部流路を作動油が流通可能となって、第1油圧室168aからタンクTに向かって作動油が排出される。
【0067】
第2アクチュエータ194は、例えば、第2切換弁200を介して供給される作動油の油圧によって作動し、第2カム板190をストローク方向と交差する方向(ここでは、ストローク方向に垂直な方向)に移動させる。すなわち、第2アクチュエータ194は、第2カム板190を可動し、第2カム板190のロッド184cに対する相対位置を変化させる。
【0068】
第2カム板190の相対位置に応じて、ロッド184cと第2カム板190とのストローク方向における接触位置が変化する。例えば、図5中、左側に第2カム板190が移動すると、接触位置はストローク方向の上方に変位し、図5中、右側に第2カム板190が移動すると、接触位置はストローク方向の下方に変位する。そして、接触位置によってスピル弁184に対する最大押し込み量が設定される。
【0069】
位置センサ202は、ピストンロッド112aのストローク方向の位置を検知して、ストローク方向の位置を示す信号を出力する。
【0070】
油圧制御部204は、位置センサ202からの信号を取得し、ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aの相対的な位置を特定する。そして、ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aの相対的な位置が、設定位置となるように、第1アクチュエータ192および第2アクチュエータ194を駆動させて、第1油圧室168a内の油圧(作動油の油量)を調整する。
【0071】
このように、油圧調整機構196は、第1油圧室168aに作動油を供給、もしくは、第1油圧室168aから作動油を排出する。
【0072】
図6(a)、図6(b)、図6(c)、図6(d)は、圧縮比可変機構Vの動作を説明するための説明図である。図6(a)では、ロッド184cと第2カム板190の接触位置が比較的高い位置となるように、第2カム板190の相対位置が調整されている。そのため、下死点に近いクランク角において、スピル弁184の本体184aにロッド184cが深くまで押し込まれ、スピル弁184が開いて、第1油圧室168aから作動油が排出される。このとき、第2油圧室168bには油圧ポンプPの油圧が作用していることから、ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aの相対的な位置が安定して保持されている。
【0073】
この状態において、ピストン112の上死点は低くなっている(クロスヘッドピン114a側に近くなっている)。すなわち、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100の圧縮比は小さくなっている。
【0074】
そして、油圧制御部204は、ECU(Engine Control Unit)などの上位の制御部からユニフロー掃気式2サイクルエンジン100の圧縮比を大きくする指示を受けると、図6(b)に示すように、第2カム板190を図6(b)中、右側に移動させる。その結果、ロッド184cと第2カム板190の接触位置が低くなり、下死点に近いクランク角においても、ロッド184cが本体184a内に押し込まれなくなり、ピストン112のストローク位置に拘わらず、スピル弁184が閉じた状態に維持される。すなわち、第1油圧室168a内の作動油が排出されなくなる。
【0075】
そして、油圧制御部204は、図6(c)に示すように、第1カム板188を図6(c)中、右側に移動させる。その結果、プランジャ182bと第1カム板188の接触位置が高くなる。そして、下死点に近いクランク角において、プランジャ182bが第1カム板188からの反力によってポンプシリンダ182a内に押し込まれると、ポンプシリンダ182a内の作動油が第1油圧室168aに圧入される。
【0076】
その結果、油圧によってピストンロッド112aが押し上げられ、図6(c)に示すように、ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aの相対的な位置が変位し、ピストン112の上死点が高くなる(クロスヘッドピン114a側から遠くなる)。すなわち、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100の圧縮比は大きくなる。
【0077】
プランジャポンプ182は、ピストン112の1ストローク毎に、プランジャポンプ182内に蓄えられた作動油を、第1油圧室168aに圧入する。ここでは、プランジャポンプ182内の最大容積に対して、第1油圧室168aの最大容積が数倍あるとする。そのため、プランジャポンプ182がピストン112のストローク何回分、動作をするかによって、第1油圧室168aに圧入される作動油の量を調整し、ピストンロッド112aの押し上げ量を調整することが可能となっている。
【0078】
ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aの相対的な位置が所望の位置となると、油圧制御部204は、第1カム板188を図6(d)中、右側に移動させ、プランジャ182bと第1カム板188の接触位置を低くする。こうして、下死点に近いクランク角においても、プランジャ182bがポンプシリンダ182a内に押し込まれることがなく、プランジャポンプ182が作動しなくなる。すなわち、第1油圧室168aへの作動油の圧入が停止する。
【0079】
こうして、油圧調整機構196は、第1油圧室168aに対するストローク方向のピストンロッド112aの進入位置を調整する。圧縮比可変機構Vは、油圧調整機構196によって第1油圧室168aの油圧を調整し、ピストンロッド112aおよびクロスヘッド114のストローク方向の相対的な位置を変更することで、ピストン112の上死点および下死点の位置を可変とする。
【0080】
図7は、クランク角とプランジャポンプ182およびスピル弁184の基本動作タイミングを説明するための説明図である。図7においては、説明の便宜上、第1カム板188の傾斜面188aとの接触位置が異なる2つのプランジャポンプ182を並べて示すが、実際には、プランジャポンプ182は、1つであって、第1カム板188が移動することで、プランジャポンプ182との接触位置が変位する。また、スピル弁184および第2カム板190は図示を省略する。
【0081】
図7に示すように、下死点手前から下死点までのクランク角の範囲を角aとし、下死点から角aと同じ大きさの位相角分のクランク角の範囲を角bとする。また、上死点手前から上死点までのクランク角の範囲を角cとし、上死点から角cと同じ大きさの位相角分のクランク角の範囲を角dとする。
【0082】
プランジャポンプ182と第1カム板188の相対位置が、図7中、右側に示すプランジャポンプ182で示される状態であるとき、プランジャ182bは、第1カム板188の傾斜面188aと、クランク角が角aの開始位置で接触を開始する。そして、プランジャ182bは、傾斜面188aと、クランク角が下死点を超えて角bの終了位置で接触が解除される。図7中、プランジャポンプ182のストローク幅を幅sで示す。
【0083】
また、プランジャポンプ182と第1カム板188の相対位置が、図7中、左側に示すプランジャポンプ182で示される状態であるとき、プランジャポンプ182のプランジャ182bは、クランク角が下死点で接触する。しかし、プランジャ182bはポンプシリンダ182aに押し込まれることなく、すぐに離隔する。
【0084】
このように、プランジャポンプ182は、クランク角が角aおよび角bの範囲にあるとき動作する。具体的には、クランク角が角aの範囲にあるとき、プランジャポンプ182は、作動油を第1油圧室168aに圧入する。また、クランク角が角bの範囲にあるとき、プランジャポンプ182は、作動油を吸入する。
【0085】
また、スピル弁184は、クランク角が角aおよび角bの範囲にあるとき動作する。具体的には、クランク角が角aの開始位置から角bの終了位置までの間、スピル弁184は、作動油を第1油圧室168aから排出する。
【0086】
ここでは、プランジャポンプ182およびスピル弁184は、クランク角が角aおよび角bの範囲にあるとき動作する場合について説明した。しかし、プランジャポンプ182およびスピル弁184は、クランク角が角cおよび角dの範囲にあるとき動作してもよい。この場合、クランク角が角cの範囲にあるとき、プランジャポンプ182は、作動油を第1油圧室168aに圧入する。また、クランク角が角dの範囲にあるとき、プランジャポンプ182は、作動油を吸入する。また、クランク角が角cの開始位置から角dの終了位置までの間、スピル弁184は、作動油を第1油圧室168aから排出する。
【0087】
上死点や下死点以外のストローク範囲でプランジャポンプ182やスピル弁184を動作させる場合、第1カム板188、第2カム板190などを、プランジャポンプ182やスピル弁184の往復移動に同期させて移動させなければならない。しかし、本実施形態のように、上死点や下死点付近で、プランジャポンプ182やスピル弁184を動作させることで、このような同期機構を設けずともよく、コストを低減することが可能となる。
【0088】
ただし、クランク角が下死点を挟んだ角度範囲(角a、角b)においてプランジャポンプ182およびスピル弁184が動作する場合の方が、シリンダ110内の圧力は低いことから、プランジャポンプ182から第1油圧室168aに作動油を容易に圧入することが可能となる。また、スピル弁184から排出される作動油の油圧も低く、キャビテーションの発生を抑え、スピル弁184を作動させる荷重を低く抑えることが可能となる。さらに、作動油の圧力が高いことからピストン112の位置が不安定になるといった事態を回避することが可能となる。
【0089】
ところで、プランジャポンプ182には、ポンプシリンダ182a内にプランジャ182bが押し込まれた後、ポンプシリンダ182a内からプランジャ182bを引き出すために、後述する付勢部が設けられている。付勢部は、クランク角が角bの開始位置において、プランジャ182bをポンプシリンダ182a内から引き出し始める。ここで、付勢部は、クランク角が角bの終了位置に達したとき、プランジャ182bをポンプシリンダ182a内から完全に引き出すとする。この場合、プランジャポンプ182は、クランク角が角bの開始位置において作動油の吸入を開始し、クランク角が角bの終了位置において作動油の吸入を終了する。
【0090】
このように、プランジャポンプ182は、クランク角が角bの開始位置において作動油の吸入を開始し、クランク角が角bの終了位置において作動油の吸入を終了すると、作動油の吸入が急速になされる。作動油の吸入が急速になされると、供給圧が負圧となってキャビテーションが発生するおそれがあった。
【0091】
そこで、本実施形態の圧縮比可変機構Vは、キャビテーションの発生を抑制すべく、以下で説明する構成を備えたプランジャポンプ182を有する。以下、本実施形態のプランジャポンプ182の具体的な構成について説明する。
【0092】
図8は、本実施形態のプランジャポンプ182の構成を説明するための説明図である。図8は、プランジャ182bの中心軸を含む面による断面を示す。図8に示すように、ポンプシリンダ182aには、第1流入口182cと、第2流入口182dと、排出口182eが設けられている。
【0093】
第1流入口182cは、供給油路182fと接続される。供給油路182fは、油圧ポンプ(油圧供給源)Pに接続され、油圧ポンプPから送出される作動油を第1流入口182cに供給する。供給油路182fには、油圧ポンプPと第1流入口182cとの間に逆止弁182gが設けられている。逆止弁182gは、作動油が油圧ポンプPから第1流入口182cに向かって流れる際に開弁し、第1流入口182c側から油圧ポンプP側へ向かう作動油の流れを制限(閉弁)する。
【0094】
供給油路182fには、逆止弁182gと第1流入口182cとの間に、分岐油路(連通路)182hが接続される。分岐油路182hには、第2流入口182dが接続される。したがって、分岐油路182hの一端は、供給油路182fに接続され、分岐油路182hの他端は、第2流入口182dに接続される。
【0095】
分岐油路182hには、分岐油路182hを流れる作動油の油量を絞るオリフィス182iが設けられている。また、分岐油路182hには、オリフィス182iを迂回(バイパス)するバイパス油路182jが接続される。
【0096】
バイパス油路182jの一端は、供給油路182fとオリフィス182iとの間に接続され、バイパス油路182jの他端は、第2流入口182dとオリフィス182iとの間に接続される。バイパス油路182jは、オリフィス182iを境にして後述する第1貯油室側と第2貯油室側とに接続される。
【0097】
バイパス油路182jには、チェック弁182kが設けられている。チェック弁182kは、オリフィス182iと並列に設けられる。チェック弁182kは、作動油が第1流入口182cから第2流入口182dに向かって流れる際に開弁し、第2流入口182d(第2貯油室)側から第1流入口182c(第1貯油室)側への作動油の流れを制限(閉弁)する。
【0098】
図8に示すように、ポンプシリンダ182aには、プランジャ182bにより区画される第1貯油室182mと、第2貯油室182nとが内部に形成される。第1流入口182cは、第1貯油室182mと連通する。したがって、第1貯油室182mは、供給油路182fと連通する。第1貯油室182mは、供給油路182fから第1流入口182cを介して流入した作動油を貯留する。
【0099】
第1貯油室182mは、排出口182eと連通する。第1貯油室182mと排出口182eの間には、逆止弁182pが設けられている。逆止弁182pは、作動油が第1貯油室182mから排出口182eに向かって流れる際に開弁し、排出口182e側から第1貯油室182m側への作動油の流れを制限(閉弁)する。排出口182eは、第1油路(排出油路)170aを介して第1油圧室168aに接続され、第1貯油室182mに貯留された作動油を第1油圧室168aに供給(排出)する。
【0100】
また、第2流入口182dは、第2貯油室182nと連通する。したがって、第2貯油室182nは、分岐油路182hと連通する。第2貯油室182nは、分岐油路182hから第2流入口182dを介して流入した作動油を貯留する。
【0101】
付勢部182qは、例えば、コイルバネで構成され、一端がポンプシリンダ182aに固定されるとともに、他端がプランジャ182bに固定されている。付勢部182qは、プランジャ182bに対して、第1カム板188側に向けて付勢する付勢力を作用させる。
【0102】
つぎに、本実施形態のプランジャポンプ182の動作について説明する。図9(a)、図9(b)は、本実施形態のプランジャポンプ182の動作を説明するための説明図である。図7で説明したように、クランク角が角aの範囲にあるとき、プランジャポンプ182は、作動油を第1油圧室168aに圧入する。このとき、プランジャポンプ182のプランジャ182bは、第1カム板188によりポンプシリンダ182aに押し込まれ、図9(a)に示す状態から図9(b)に示す状態に移行する。
【0103】
プランジャ182bは、図9(a)に示す状態から図9(b)に示す状態に移行する際に、第1貯油室182mに貯留された作動油を押圧する。第1貯油室182mに貯留された作動油の一部は、プランジャ182bにより押圧されることで、排出口182eから第1油圧室168aに排出(供給)される。
【0104】
また、第1貯油室182mに貯留された作動油の一部は、プランジャ182bにより押圧されることで、第1流入口182cから供給油路182fに排出される。しかし、供給油路182fには、逆止弁182gが設けられている。そのため、第1流入口182cから供給油路182fに排出された作動油は、分岐油路182hに流入する。
【0105】
分岐油路182hには、オリフィス182iが設けられている。そのため、分岐油路182hは、オリフィス182iにより絞られ、分岐油路182hを流通する油量が制限される。そのため、分岐油路182hを流通する作動油の多くは、バイパス油路182jに流入する。
【0106】
バイパス油路182jには、チェック弁182kが設けられている。チェック弁182kは、作動油が第1流入口182cから第2流入口182dに向かって流れるときに開弁する。そのため、バイパス油路182jに流入した作動油は、チェック弁182kを通過して、第2流入口182dから第2貯油室182nに流入する。
【0107】
なお、プランジャ182bの第1貯油室182mと第2貯油室182nを区画する区画壁は、第1貯油室182m側の面積よりも第2貯油室182n側の面積の方が小さい。また、第1貯油室182mの最大容量は、第2貯油室182nの最大容量よりも大きい。つまり、図9(a)に示す状態のとき、第1貯油室182mには、第2貯油室182nの最大容量よりも多くの作動油が貯留されている。したがって、図9(a)に示す状態から図9(b)に示す状態に移行するとき、第1貯油室182mは、第2貯油室182nに作動油を供給する。また、第1貯油室182mは、第1貯油室182mの最大容量と第2貯油室182nの最大容量の差に相当する作動油(油量)を第1油圧室168aに供給する。
【0108】
一方、クランク角が角aの範囲(角bの開始位置)を超えたとき、プランジャポンプ182は、第1貯油室182mに作動油を吸入する吸入動作を開始する。このとき、プランジャ182bは、付勢部182qによりポンプシリンダ182aから引き出され、図9(b)に示す状態から図9(a)に示す状態まで移行する。
【0109】
具体的に、図9(b)に示す状態で、ピストン112の上昇行程で、プランジャ182bが第1カム板188から離隔する向きに移動すると、プランジャ182bは、付勢部182qの付勢力に従って、図9(a)に示す位置に戻る。このようなプランジャ182bの移動の過程において、第1流入口182cから第1貯油室182mに作動油が流入する。
【0110】
第1貯油室182mに流入した作動油は、次にプランジャ182bがポンプシリンダ182aに押し込まれるときに、排出口182eから第1油圧室168aに向かって供給されることとなる。
【0111】
プランジャ182bは、図9(b)に示す状態から図9(a)に示す状態に移行する際に、第2貯油室182nに貯留された作動油を押圧する。第2貯油室182nに貯留された作動油は、プランジャ182bにより押圧されることで、第2流入口182dから分岐油路182hに排出(供給)される。
【0112】
しかし、分岐油路182hには、オリフィス182iが設けられている。そのため、分岐油路182hは、オリフィス182iにより絞られ、分岐油路182hを流通する油量が制限される。第2流入口182dから分岐油路182hに排出された作動油は、オリフィス182iにより絞られながら、分岐油路182hを流通し、供給油路182fに流入する。
【0113】
また、供給油路182fには、油圧ポンプPから供給される作動油が流入する。これにより、分岐油路182hから供給油路182fに流入した作動油は、供給油路182fを流通する作動油と合流する。そして、供給油路182fで合流した作動油は、第1流入口182cを介して、第1貯油室182mに流入する。
【0114】
このように、プランジャ182bは、図9(b)に示す状態から図9(a)に示す状態に移行する際、第2貯油室182nに貯留された作動油を、分岐油路182hに設けられるオリフィス182iを介して第1貯油室182mに供給させる。
【0115】
これにより、第2流入口182dから排出される作動油は、オリフィス182iを通過する際に油量が絞られる。オリフィス182iを通過する際に油量が絞られると、第2貯油室182nに貯留される作動油が排出し難くなる。第2貯油室182nに貯留される作動油が排出し難くなると、プランジャ182bは、排出口182eから離間する方向に移動し難くなる。
【0116】
プランジャ182bが移動し難くなると、第1流入口182cから第1貯油室182mに流入する作動油の流入量も制限される。その結果、供給油路182fの流量変動が緩やかになり、供給圧が負圧になり難く、キャビテーションの発生を抑制することができる。
【0117】
このように、本実施形態では、プランジャ182bの引き出し時に、プランジャ182bが移動し難くなる。これにより、プランジャ182bの引き出し時間は、プランジャ182bの押し込み時間よりも長くなる。
【0118】
具体的に、プランジャ182bは、最小突出位置(図9(b)に示す位置)から最大突出位置(図9(a)に示す位置)に移動する時間が、最大突出位置から最小突出位置に移動する時間よりも長くなる。したがって、本実施形態のプランジャポンプ182は、クランク角が角aの範囲において、作動油を第1油圧室168aに供給し、クランク角が角bよりも大きな範囲において、作動油を第1貯油室182mに吸入する。
【0119】
このように、本実施形態のプランジャポンプ182は、第1貯油室182mに作動油を供給する時間を長くすることで、供給油路182fの流量変動を緩やかにする。これにより、供給油路182fは、供給圧が負圧になり難く、キャビテーションの発生を抑制することができる。
【0120】
以上説明したように、本実施形態のプランジャポンプ182は、第1貯油室182mおよび第2貯油室182nに貯留される油量の調整と、付勢部182qの復元力により、プランジャ182bを往復運動させる複動型のプランジャポンプにより構成される。
【0121】
本実施形態の圧縮比可変機構Vによれば、第1流入口182cと第2流入口182dを連通する連通路(分岐油路182h)にオリフィス182iを設けている。
【0122】
そのため、第2貯油室182nに貯留された作動油は、連通路を介して第1貯油室182mに向かう際に、オリフィス182iにより流量が制限される。これにより、プランジャ182bが排出口182eから離間する方向に移動する速度を低下させることができる。その結果、供給油路182fの流量変動を抑制し、キャビテーションの発生を抑制することができる。
【0123】
(変形例)
図10は、変形例のプランジャポンプ282の構成を説明するための説明図である。なお、本変形例において、上記実施形態と実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一符号を付することにより重複説明を省略する。図10では、プランジャ182bの中心軸を含む面による断面を示す。ポンプシリンダ282aには、第1流入口182cと、排出口182eが設けられている。
【0124】
第1流入口182cは、供給油路182fと接続される。供給油路182fには、油圧ポンプPが接続される。油圧ポンプPと第1流入口182cとの間に逆止弁182gが設けられている。第1流入口182cは、ポンプシリンダ282a内の第1貯油室182mと連通する。
【0125】
本変形例では、供給油路182fは、油圧ポンプPと逆止弁182gとの間に、オリフィス290およびアキュムレータ292が設けられている。アキュムレータ292は、オリフィス290と逆止弁182gとの間の供給油路182fに接続される。オリフィス290は、供給油路182fのうち、アキュムレータ292との接続点と油圧ポンプPとの間に設けられる。
【0126】
アキュムレータ292は、内部にゴム膜等に封入した蓄圧気体が充填されている。油圧ポンプPから作動油が送出されると、アキュムレータ292内の蓄圧気体が圧縮され、アキュムレータ292は、加圧された作動油を蓄積する。
【0127】
作動油の蓄積は、供給油路182f内の圧力が低下したときから、次に供給油路182f内の圧力が低下するときまでの期間に行われる。例えば、作動油の蓄積は、第1流入口182cから第1貯油室182mに作動油が供給される時から、次に第1流入口182cから第1貯油室182mに作動油が供給される時までの期間に行われる。このとき、アキュムレータ292には、第1貯油室182mの最大容積以上の作動油が蓄積される。
【0128】
このように、アキュムレータ292は、つぎのプランジャ182bの押し込みまでの時間を利用して、つぎのプランジャ182bの押し込み時に必要な油量を時間をかけて蓄える。
【0129】
一方、第1流入口182cから第1貯油室182mに作動油が供給されるとき、供給油路182f内の圧力が低下する。供給油路182f内の圧力が低下すると、蓄圧気体が膨張し、アキュムレータ292は、蓄積した作動油を瞬間的に押し出して放出する。
【0130】
したがって、アキュムレータ292を備えた供給油路182fは、ピストン112が下死点近傍(角b)を移動する僅かな時間で、プランジャポンプ282の第1貯油室182mに必要な作動油を瞬間的に供給することができる。つまり、アキュムレータ292は、ピストン112が下死点近傍(角b)を移動する僅かな時間において、油圧ポンプPが供給油路182fを介して供給可能な作動油(油量)より多くの作動油(油量)を供給することができる。
【0131】
また、アキュムレータ292と油圧ポンプPとの間にオリフィス290を設けることで、油圧ポンプPから第1流入口182cに向かって流れる作動油の流量が制限される。これにより、第1流入口182cから第1貯油室182mに作動油が供給されるとき、オリフィス290と油圧ポンプPとの間の供給油路182fは、流量変動が抑制され、供給圧が負圧になり難く、キャビテーションの発生を抑制することができる。
【0132】
以上説明したように、本変形例のポンプシリンダ282aには、上記実施形態と異なり、第2流入口182dが設けられていない。また、第1流入口182cと第2流入口182dを連通する連通路(分岐油路182h)も設けられていない。本変形例のプランジャポンプ282は、第1貯油室182mに貯留される油量の調整と、付勢部182qの復元力により、プランジャ182bを往復運動させる単動型のプランジャポンプにより構成される。
【0133】
本変形例の圧縮比可変機構Vによれば、供給油路182fは、オリフィス290およびアキュムレータ292を備えている。そのため、供給油路182fは、第1流入口182cから第1貯油室182mに作動油を瞬間的に供給することができる。また、オリフィス290は、供給油路182f内の流量変動を抑制することができる。したがって、本変形例の圧縮比可変機構Vは、プランジャポンプ282が単動型のプランジャポンプにより構成されている場合においても、供給圧が負圧となり難く、キャビテーションの発生を抑制することができる。
【0134】
以上、添付図面を参照しながら本開示の実施形態について説明したが、本開示はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0135】
上述した実施形態では、第1貯油室182mと第2貯油室182nを連通する連通路(分岐油路182h)にオリフィス182iを設ける構成について説明した。しかし、これに限定されず、第1貯油室182mは、第1連通路(供給油路182f)と連通し、第2貯油室182nは、第1連通路とは異なる第2連通路(すなわち、第1連通路とは独立した第2連通路)に連通されてもよい。つまり、第2貯油室182nは、第1貯油室182mと連通していなくともよい。その場合、第2連通路にオリフィス182iを設け、第2貯油室182nは、第2連通路からオリフィス182iを介して作動油を排出してもよい。また、第2連通路にオリフィス182iが設けられる場合、第2貯油室182nは、第1連通路および第2連通路とは異なる第3連通路(すなわち、第1連通路および第2連通路とは独立した第3連通路)と連通し、第3連通路から作動油が供給されてもよい。このとき、第3連通路には、第2貯油室182nから作動油が逆流しないように逆止弁が設けられていてもよい。
【0136】
このような構成においても、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。ただし、第2貯油室182nに第2連通路および第3連通路を設けるよりも、上述した実施形態の方が構成を簡素化できるため好ましい。
【0137】
また、上述した変形例では、供給油路182fにオリフィス290およびアキュムレータ292を設ける例について説明した。しかし、これに限定されず、供給油路182fにオリフィス290を設けず、アキュムレータ292のみ設ける構成としてもよい。アキュムレータ292を設けることで、供給油路182fは、第1流入口182cから第1貯油室182mに作動油を瞬間的に供給することができる。したがって、プランジャポンプ282が単動型のプランジャポンプにより構成されている場合においても、供給圧が負圧となり難く、キャビテーションの発生を抑制することができる。ただし、供給油路182fにオリフィス290を設けた方が、供給油路182f内の流量変動をより抑制することができるため好ましい。
【0138】
また、上述した実施形態および変形例では、供給油路182fに作動油を供給する油圧供給源として油圧ポンプPを適用する例を説明した。しかし、これに限定されず、供給油路182fに作動油を供給する油圧供給源として、複数のプランジャポンプ182を適用してもよいし、アキュムレータ292を適用してもよい。
【0139】
また、上述した実施形態では、第1カム板188と第1アクチュエータ192によって、ポンプシリンダ182aに対するプランジャ182bの最大押し込み量が調整可能である。したがって、作動油の圧入量を調整して、圧縮比の微調整が容易に可能となっている。例えば、1ストロークで第1貯油室182mの最大容積分の作動油を、第1油圧室168aに圧入してもよいし、第1カム板188の相対位置を調整して、1ストロークで第1貯油室182mの最大容積の半分の量の作動油を、第1油圧室168aに圧入するとしてもよい。このように、1ストロークで第1油圧室168aに圧入する作動油の量を、第1貯油室182mの最大容積の範囲内で任意に設定することが可能となる。ただし、ポンプシリンダ182aに対するプランジャ182bの最大押し込み量を調整しなくともよい。
【0140】
また、第2カム板190と第2アクチュエータ194によって、スピル弁184の本体184aに対するロッド184cの最大押し込み量が調整可能であることから、1ストローク当たりの作動油の排出量を調整して、圧縮比の微調整が容易に可能となっている。ただし、スピル弁184の本体184aに対するロッド184cの最大押し込み量を調整しなくともよい。
【0141】
上述した実施形態では、ピストンロッド112aの段差面と、クロスヘッドピン114aの段差面との間に油圧室を形成する場合について説明した。しかし、油圧室は、ピストン112を構成するどの部材の間に形成されてもよい。例えば、ピストン112を2分割し、2分割されたピストン112の間に油圧室を形成してもよい。同様に、ピストンロッド112aを2分割し、2分割されたピストンロッド112aの間に油圧室を形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本開示は、圧縮比可変機構に利用することができる。
【符号の説明】
【0143】
P 油圧ポンプ(油圧供給源)
V 圧縮比可変機構
168a 第1油圧室
170a 第1油路(排出油路)
182a ポンプシリンダ
182b プランジャ
182f 供給油路
182h 分岐油路
182i オリフィス
182j バイパス油路
182k チェック弁
182m 第1貯油室
182n 第2貯油室
282a ポンプシリンダ
290 オリフィス
292 アキュムレータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10