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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】内燃機関の動弁装置
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/356 20060101AFI20220222BHJP
   F01L 1/04 20060101ALI20220222BHJP
   F01L 1/08 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
F01L1/356 E
F01L1/04 C
F01L1/08 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018056726
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019167895
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【弁理士】
【氏名又は名称】柱山 啓之
(72)【発明者】
【氏名】日比 大雅
【審査官】沼生 泰伸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/119019(WO,A1)
【文献】特開2008-133770(JP,A)
【文献】特開2008-180214(JP,A)
【文献】特開2010-19245(JP,A)
【文献】国際公開第2012/132002(WO,A1)
【文献】特開2012-52512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/00- 1/46
F01L 9/00- 9/40
F01L 13/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランクシャフトにより回転駆動されるカムシャフトであって、バルブスプリングの付勢力に抗じてエンジンバルブを開弁するカムを有するカムシャフトと、
クランク位相に対する前記エンジンバルブのバルブタイミングを可変にするように構成された第1可変機構と、
前記カムシャフトに設けられ、前記エンジンバルブの開閉により前記カムシャフトに発生する変動トルクを打ち消すようなキャンセルトルクを前記カムシャフトに発生させるキャンセルカムと、
クランク位相に対する前記キャンセルカムの位相を可変にするように構成された第2可変機構と、
を備えたことを特徴とする内燃機関の動弁装置。
【請求項2】
前記キャンセルカムが複数設けられる
請求項1に記載の内燃機関の動弁装置。
【請求項3】
前記カムシャフトは、外側カムシャフトと、前記外側カムシャフトに相対回転可能に且つ同軸に挿入された内側カムシャフトと、を有し、
前記外側カムシャフトおよび前記内側カムシャフトの一方に前記カムが固設され、他方に前記キャンセルカムが固設され、
前記第2可変機構は、前記外側カムシャフトおよび前記内側カムシャフトを含む
請求項1または2に記載の内燃機関の動弁装置。
【請求項4】
前記第1可変機構は、プロファイルの異なる複数の前記カムと、複数の前記カムのうちの一部を選択的に前記エンジンバルブに連結する切替可能なロッカーアームと、を含む
請求項1~3のいずれか一項に記載の内燃機関の動弁装置。
【請求項5】
前記第1可変機構および前記第2可変機構を制御するように構成され、前記エンジンバルブのバルブタイミングの変更に応じて前記キャンセルカムの位相を変更する制御ユニットをさらに備える
請求項1~4のいずれか一項に記載の内燃機関の動弁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は内燃機関の動弁装置に係り、特に、内燃機関の吸気弁または排気弁(これらを総称してエンジンバルブという)を開閉するための動弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる動弁装置においては、クランクシャフトによりカムシャフトが回転駆動され、カムシャフトに設けられたカムが、バルブスプリングの付勢力に抗じてエンジンバルブを開弁するようになっている。
【0003】
エンジンバルブの開閉時、カムシャフトには、バルブスプリングの付勢力により、カムシャフトを回転方向反対側すなわち逆転方向に押し戻そうとする開弁時トルク(これを正トルクとする)と、カムシャフトを回転方向すなわち正転方向に押し進めようとする閉弁時トルク(これを負トルクとする)とが交互に発生する。このトルク変動に起因して、カムシャフトの回転変動が生じ、この回転変動に起因して、例えばカムシャフトに設けられたギヤと、これに噛合されてクランクシャフトからの回転駆動力を伝達するギヤとの間でラトル音(歯打音)が発生するなどの問題がある。
【0004】
そこで従来は、カムシャフトに、その変動トルクを打ち消すような逆位相のキャンセルトルクを発生させるためのキャンセルカムを設けている(例えば特許文献1-3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-84526号公報
【文献】特開平7-332026号公報
【文献】特開平6-42314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、エンジンバルブのバルブタイミングを可変にする可変機構が設けられた場合、カムシャフトに発生する変動トルクの位相が変化するため、キャンセルカムの位相を一定にした状態では、必ずしも満足なトルクキャンセル効果を得られない。
【0007】
そこで本開示は、上記事情に鑑みて創案され、その目的は、エンジンバルブのバルブタイミングを可変にする可変機構が設けられた場合でも十分なトルクキャンセル効果を得ることができる内燃機関の動弁装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一の態様によれば、
内燃機関のクランクシャフトにより回転駆動されるカムシャフトであって、バルブスプリングの付勢力に抗じてエンジンバルブを開弁するカムを有するカムシャフトと、
クランク位相に対する前記エンジンバルブのバルブタイミングを可変にするように構成された第1可変機構と、
前記カムシャフトに設けられ、前記エンジンバルブの開閉により前記カムシャフトに発生する変動トルクを打ち消すようなキャンセルトルクを前記カムシャフトに発生させるキャンセルカムと、
クランク位相に対する前記キャンセルカムの位相を可変にするように構成された第2可変機構と、
を備えたことを特徴とする内燃機関の動弁装置が提供される。
【0009】
好ましくは、前記キャンセルカムが複数設けられる。
【0010】
好ましくは、前記カムシャフトは、外側カムシャフトと、前記外側カムシャフトに相対回転可能に且つ同軸に挿入された内側カムシャフトと、を有し、
前記外側カムシャフトおよび前記内側カムシャフトの一方に前記カムが固設され、他方に前記キャンセルカムが固設され、
前記第2可変機構は、前記外側カムシャフトおよび前記内側カムシャフトを含む。
【0011】
好ましくは、前記第1可変機構は、プロファイルの異なる複数の前記カムと、複数の前記カムのうちの一部を選択的に前記エンジンバルブに連結する切替可能なロッカーアームと、を含む。
【0012】
好ましくは、前記動弁装置は、前記第1可変機構および前記第2可変機構を制御するように構成され、前記エンジンバルブのバルブタイミングの変更に応じて前記キャンセルカムの位相を変更する制御ユニットをさらに備える。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、エンジンバルブのバルブタイミングを可変にする可変機構が設けられた場合でも十分なトルクキャンセル効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】動弁装置の概略縦断面図である。
図2図1のII-II断面図である。
図3】動弁装置の概略平面図である。
図4】バルブタイミングの変化の様子を示すバルブリフト線図である。
図5】キャンセルカムのプロファイルを示す図である。
図6】キャンセルカムのカムリフト線図である。
図7】気筒毎の変動トルクとトータルトルクを示すグラフである。
図8】キャンセルカム毎のキャンセルトルクとトータルキャンセルトルクを示すグラフである。
図9】キャンセルカムが無い場合のトータルトルクと、キャンセルカムが有る場合の総合トルクとを示すグラフである。
図10】第1可変機構が第1状態のときの各気筒のカムリフト量と、トータルトルクとを示すグラフである。
図11】第1可変機構が第2状態のときの各気筒のカムリフト量と、トータルトルクとを示すグラフである。
図12】第1可変機構が第1状態のときと第2状態のときとでトータルトルクを比較したグラフである
図13】第1可変機構が第1状態のときのトータルトルクと、これを打ち消すのに最適な位相位置のトータルキャンセルトルクと、これらを足し合わせた総合トルクとを示すグラフである。
図14】第1状態に最適なトータルキャンセルトルクを第2状態のときに与えた場合の総合トルクを示すグラフである。
図15】第2状態のときのトータルトルクと、第2状態のときに本実施形態により発生される最適なトータルキャンセルトルクと、これらを足し合わせた総合トルクとを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を説明する。
【0016】
図1図3に本実施形態の動弁装置を示す。図1は動弁装置の概略縦断面図、図2図1のII-II断面図、図3は動弁装置の概略平面図である。
【0017】
本実施形態の内燃機関(エンジン)は、トラック、バス等の大型車両に搭載される多気筒ディーゼルエンジンであり、具体的には直列6気筒ディーゼルエンジンである。但し車両およびエンジンの用途、種類等は限定されず任意である。
【0018】
クランクシャフト(図示せず)からの回転駆動力が、ギヤ機構からなる動力伝達機構(図示せず)を通じてカムシャフト1に伝達される。本実施形態のエンジンはDOHC(Double OverHead Camshaft)エンジンであり、カムシャフト1は、吸気弁を開閉駆動するための吸気カムシャフトである。但し付加的または代替的に、本開示を、排気弁(図示せず)を駆動するための排気カムシャフトに適用してもよい。吸気弁および排気弁を総称してエンジンバルブという。
【0019】
便宜上、カムシャフト1の中心軸C1の方向(軸方向)における一端側(図1の左側)を前、他端側(図1の右側)を後とする。これら前後方向は、エンジンおよび車両の前後方向と一致する(エンジンは縦置きされる)。但し必ずしも一致しなくてもよい。
【0020】
動弁装置は、バルブスプリング2の付勢力に抗じて吸気弁3を開弁するカム4A,4B,4Cを有するカムシャフト1と、クランク位相に対する吸気弁3のバルブタイミングを可変にするように構成された第1可変機構5と、カムシャフト1に設けられ、吸気弁3の開閉によりカムシャフト1に発生する変動トルクを打ち消すようなキャンセルトルクをカムシャフト1に発生させるキャンセルカム6A,6Bと、クランク位相に対するキャンセルカム6A,6Bの位相を可変にするように構成された第2可変機構7とを備える。
【0021】
吸気弁3は1気筒当たりに二つ設けられ、これら二つの吸気弁3がバルブブリッジ8により同時に開閉されるようになっている。吸気弁3の開弁時には、三つのカム4A,4B,4Cの一部およびロッカーアーム9により、バルブブリッジ8が、バルブスプリング2の付勢力に抗じて下方(図3の紙面厚さ方向裏側に向かう方向)に押し下げられる。他方、吸気弁3の閉弁時には逆に、バルブスプリング2の付勢力によってバルブブリッジ8が上方(図3の紙面厚さ方向表側に向かう方向)に押し上げられる。
【0022】
カムシャフト1は、中空管状の外側カムシャフト10と、外側カムシャフト10に相対回転可能にかつ同軸に挿入された内側カムシャフト11とを有する。内側カムシャフト11は中実であるが、中空であってもよい。カムシャフト1は、下側のカムキャリア12と、上側のシリンダヘッド13との間に挟まれてラジアル方向に回転可能に支持される。外側カムシャフト10には、これらカムキャリア12およびシリンダヘッド13を軸方向に挟んでカムシャフト1をスラスト方向に位置決めするフランジ14,15が設けられる。
【0023】
カムキャリア12およびシリンダヘッド13の後方に位置するカムシャフト1の後端部において、外側カムシャフト10には、前述の動力伝達機構の最終ギヤ16が噛合される入力ギヤ17が設けられる。外側カムシャフト10は、この入力ギヤ16を通じて、クランクシャフトからの回転駆動力を受ける。
【0024】
本実施形態において、吸気弁3を開弁するカムは、1気筒当たりに三つのカムすなわち第1カム4A、第2カム4Bおよび第3カム4Cを含む。これら三つのカム4A,4B,4Cは第1可変機構5を構成し、吸気弁3のバルブタイミングおよび作用角の両方を三段階に切り替えるようになっている。カム4A,4B,4Cは外側カムシャフト10に固設される。
【0025】
また第1可変機構5は、ロッカーアーム9を含み、ロッカーアーム9は、三つのカム4A,4B,4Cにそれぞれ対応した1気筒当たりに三つのロッカーアームすなわち第1ロッカーアーム9A、第2ロッカーアーム9Bおよび第3ロッカーアーム9Cを含む。これらロッカーアーム9A,9B,9Cは前後方向に互いに隣接され、共通のロッカーシャフト18に回動可能に支持される。C2はロッカーシャフト18の中心軸を示す。これらカムおよびロッカーアームの軸方向の配列順序は任意であるが、本実施形態では後方から順に第2、第1、第3とされる。
【0026】
ロッカーアーム9A,9B,9Cにはロッカーローラ19が回転可能に設けられ、ロッカーローラ19はカム4A,4B,4Cに常時当接される。また、第1ロッカーアーム9Aのみに、バルブブリッジ8の上面部に係合される延在部20が設けられる。第1ロッカーアーム9Aに対する第2および第3ロッカーアーム9B,9Cの連結状態を切り替えることにより、バルブタイミング等を三段階に切り替えるようになっている。
【0027】
ロッカーアーム9A,9B,9Cの内部には、これらの連結状態を切り替えるための四つのピン21Aa,21Ab,21B,21Cが軸方向移動可能に設けられている。また第2ロッカーアーム9Bの内部には、四つのピン21Aa,21Ab,21B,21Cを纏めて前方に付勢可能なバネ22が設けられている。ピン21Aa,21Ab,21B,21Cの位置は、第1および第3ロッカーアーム9A,9Cの内部にそれぞれ設けられた第1および第3油圧通路23A,23Cに油圧が給排されることにより、制御される。
【0028】
第1可変機構5は、吸気弁3のバルブタイミングおよび作用角の両方を、図4に示すような三つの状態、すなわち第1状態S1、第2状態S2および第3状態S3の何れかに段階的に切り替えるように構成されている。ここでバルブタイミングには、エンジンバルブが開弁を開始する開タイミングと、エンジンバルブが閉弁を終了する閉タイミングとの両方が含まれる。また作用角とは、エンジンバルブが開弁している(すなわちバルブリフト量VLがゼロより大きくなっている)クランク位相期間またはカム位相期間をいう。
【0029】
本実施形態では、第1状態S1から第3状態S3に向かうにつれ、最大バルブリフト期間(バルブリフト量VLが最大バルブリフト量VLmaxとなっている期間)が遅角側に次第に延長されるように、第1~第3状態S1~S2が設定されている。開タイミングα1から最大バルブリフト量開始タイミングα2までのバルブリフトカーブは、何れの状態でも同じである。最大バルブリフト量開始タイミングα2以降、第1状態S1では即座に閉弁が開始され、第2状態S2では最大バルブリフト量VLmaxが第2所定期間Δα2だけ維持された後に閉弁が開始され、第3状態S3では最大バルブリフト量VLmaxがさらに長い第3所定期間Δα3だけ維持された後に閉弁が開始される。そして第1状態S1の閉タイミングはα3、第2状態S2の閉タイミングはより遅いα4、第3状態S3の閉タイミングはさらに遅いα5とされる。第1状態S1の作用角はα1~α3までの期間、第2状態S2の作用角はより長いα1~α4までの期間、第3状態S3の作用角はさらに長いα1~α5までの期間である。従って本実施形態では、開タイミングが一定とされる一方で、閉タイミングと作用角が三段階に変化させられる。
【0030】
第1~第3ロッカーアーム9A,9B,9Cの外形状は同じである。これに対し、第1~第3カム4A,4B,4Cのカムプロファイルは、それぞれ第1~第3状態S1,S2,S3に対応した異なるカムプロファイルに設定されている。
【0031】
第1状態S1で吸気弁2を駆動する場合、第1油圧通路23Aに油圧が供給され、第3油圧通路23Cから油圧が排出される。すると、ピン21Aa,21Abが互いに離反するように前後方向に移動され、ピン21Bがバネ22の付勢力に抗じて後方に押し付けられ、ピン21Cが前方に押し付けられる。すると、ピン21Aaの後端面とピン21Abの前端面とが、第1ロッカーアーム9Aの後端面と前端面に面一に配置され、ピン21Bの前端面が第2ロッカーアーム9Bの前端面に面一に配置され、ピン21Cの後端面が第3ロッカーアーム9Cの後端面に面一に配置される。これにより第1ロッカーアーム9Aは、第2ロッカーアーム9Bおよび第3ロッカーアーム9Cと非連結の状態となり、第1カム4Aの動作のみが第1ロッカーアーム9Aを通じて吸気弁2に伝達される。そして他の第2および第3ロッカーアーム9B,9Cは単に第2および第3カム4B,4Cの動作に追従して空振り動作(ロストモーション)するだけとなる。
【0032】
次に、第2状態S2で吸気弁2を駆動する場合、第1油圧通路23Aおよび第3油圧通路23Cから油圧が排出される。すると、ピン21Bがバネ22により前方に押されて第1ロッカーアーム9A内に挿入され、第2ロッカーアーム9Bが第1ロッカーアーム9Aに連結される(図3の状態)。他方、残りのピン21Aa,21Ab,21Cはピン21Bにより前方に押し出され、ピン21Abとピン21Cは第1状態S1のときと同じ位置に位置される。これにより、第1ロッカーアーム9Aと第3ロッカーアーム9Cは非連結の状態となる。従って吸気弁2は、一体となった第1および第2ロッカーアーム9A,9Bを介して、実質的に第2カム4Bによって開閉駆動される。
【0033】
次に、第3状態S3で吸気弁2を駆動する場合、第3油圧通路23Cに油圧が供給され、第1油圧通路23Aから油圧が排出される。すると、ピン21Cが油圧により後方に押されて第1ロッカーアーム9A内に挿入され、第3ロッカーアーム9Cが第1ロッカーアーム9Aに連結される。他方、残りのピン21Aa,21Ab,21Bは、バネ22の付勢力に抗じてピン21Cにより後方に押し出され、ピン21Aaとピン21Bは第1状態S1のときと同じ位置に位置される。これにより、第1ロッカーアーム9Aと第2ロッカーアーム9Bは非連結の状態となる。従って吸気弁2は、一体となった第1および第3ロッカーアーム9A,9Cを介して、実質的に第3カム4Cによって開閉駆動される。
【0034】
本実施形態において、キャンセルカムは複数設けられ、具体的には二つのキャンセルカム、すなわち後側の第1キャンセルカム6Aと前側の第2キャンセルカム6Bとが設けられる。これら第1および第2キャンセルカム6A,6Bは、外側カムシャフト10の外周部に相対回転可能に嵌合されると共に、圧入ピン24によって内側カムシャフト11に固設されている。なお外側カムシャフト10における圧入ピン24の貫通部は周方向に延びた長穴とされる。
【0035】
これらキャンセルカム6A,6Bも、カム4A,4B,4Cと同様、カムシャフト1(具体的には内側カムシャフト11)の回転時に、それぞれキャンセル用であるロッカーアーム25A,25Bおよびバルブブリッジ26A,26Bを介してスプリング27A,27Bを押し下げることにより、カムシャフト1に対するキャンセルトルクを発生させる。かかるトルクキャンセル機構は、前述の吸気弁駆動機構とほぼ同様に構成され、違いは吸気弁2が無いことだけである。従って吸気弁駆動機構の部品を流用してトルクキャンセル機構を安価に製造できる。
【0036】
キャンセル用第1および第2ロッカーアーム25A,25Bは、前述の第1ロッカーアーム9Aと同様に構成され、ロッカーローラ19および延在部20を有し、共通のロッカーシャフト18に回動可能に支持される。これらロッカーアーム25A,25Bは互いに連結されず、個別に動作する。各キャンセルカム6A,6Bに対して二つずつ、キャンセル用第1および第2スプリング27A,27Bがそれぞれ設けられる。これらスプリング27A,27Bは、キャンセル用第1および第2バルブブリッジ26A,26Bと、カムキャリア12の上面部との間に挟まれて設置される。スプリング27A,27Bの外寸はバルブスプリング2の外寸とほぼ同様であり、バルブブリッジ26A,26Bは前述のバルブブリッジ8と同じである。従って部品共通化によるコスト低減が可能である。キャンセルカム6A,6Bがスプリング27A,27Bを圧縮し、スプリング27A,27Bによって押し戻されるときにカムシャフト1に正トルクが付与され、キャンセルカム6A,6Bがスプリング27A,27Bを伸長させ、スプリング27A,27Bにより押し進められるときにカムシャフト1に負トルクが付与される。
【0037】
本実施形態の場合、前方から順に#1気筒~#6気筒が配置され、各気筒の吸気弁2の開閉に対応してカムシャフト1には、1エンジンサイクル(=720°クランク位相)当たりに6回(=N回、Nは気筒数)の周期的な変動トルクが発生する。この変動トルクを打ち消す逆位相のキャンセルトルクも6回発生させればよいため、原理的には、6個(N個)のカムロブ部を有する一つのキャンセルカムをカムシャフト1に設ければよい。
【0038】
但しこうすると、キャンセルカムの短い全周に6個という多くのカムロブ部を加工しなければならないため、カムロブ部の加工が困難か実質的に不可能となる問題がある。そこで本実施形態では、1本のカムシャフト1に対しキャンセルカムを複数、具体的には二つ(n=2)設け、各キャンセルカムに3回(=N/n回)ずつキャンセルトルクを発生させるようにしている。これにより、一つのキャンセルカムに加工するカムロブ部の数を半分(3個=N/n個)に減少させ、カムロブ部の加工を容易にすることができる。
【0039】
図5には、第1キャンセルカム6Aのカムプロファイルを示す。また図6には、第1キャンセルカム6Aのカムリフト線図を示す。第1キャンセルカム6Aは、ベース円28から半径方向外側に突出された、周方向等間隔(120°=360/(N/2)°のカム位相間隔)で同形状の三つのカムロブ部29を有する。第1キャンセルカム6Aは、これらカムロブ部29でスプリング27Aを押し下げる度に正のキャンセルトルクを発生させる。第2キャンセルカム6Bも第1キャンセルカム6Aと同じカムプロファイルを有する。第1キャンセルカム6Aと第2キャンセルカム6Bは、互いに60°(=360/(N/2)/2°)カム位相だけずれた状態で、内側カムシャフト11に固設されており、両者で60°カム位相間隔、すなわち120°クランク位相間隔のキャンセルトルクを発生させる。
【0040】
ところで本実施形態では、クランク位相に対するキャンセルカム6A,6Bの位相を可変にするための第2可変機構7が設けられている。以下、この第2可変機構7の構成について説明する。
【0041】
図1および図2に示すように、第2可変機構7は、外側カムシャフト10の後端部に形成されたハウジング30と、内側カムシャフト11の後端部に形成されハウジング30内に相対回転可能に収容されたロータ31とを有する。
【0042】
図2に示すように、ハウジング30には半径方向内側に突出する複数(4つ)のハウジングベーン32が周方向等間隔で形成され、これらハウジングベーン32の間に油圧室33が形成される。他方、ロータ31には半径方向外側に突出する複数(4つ)のロータベーン34が周方向等間隔で形成され、これらロータベーン34は各油圧室33を、カムシャフト回転方向Rの前後に仕切る。仕切られた油圧室33のうち、回転方向後方に位置するのは進角室35であり、回転方向前方に位置するのは遅角室36である。
【0043】
進角室35の油圧が遅角室36の油圧より高くなると、ロータ31がハウジング30に対し進角動作され、クランク位相に対するキャンセルカム6A,6Bの位相は進角される。他方、遅角室36の油圧が進角室35の油圧より高くなると、ロータ31がハウジング30に対し遅角動作され、クランク位相に対するキャンセルカム6A,6Bの位相は遅角される。
【0044】
進角室35の油圧と遅角室36の油圧が等しく保持されると、ロータ31はハウジング30に対し相対回転せず一定位置に保持される。従って、クランク位相に対するキャンセルカム6A,6Bの位相も一定に保持される。
【0045】
内側カムシャフト11の内部には、進角室35に連通された進角用オイル通路37と、遅角室36に連通された遅角用オイル通路38とが形成される。シリンダヘッド13の内部には、進角用オイル通路37をオイルギャラリ41に連通させるための進角用オイル供給穴39が形成される。カムキャリア12の内部には、遅角用オイル通路38をオイルギャラリ41に連通させるための遅角用オイル供給穴40が形成される。オイルギャラリ41は、シリンダブロックの内部に形成され高圧オイルを貯留する空間である。
【0046】
進角用オイル供給穴39および遅角用オイル供給穴40には、オイルギャラリ41内の高圧オイルが、オイルコントロールバルブ(OCVという)42を介して選択的に供給される。OCV42は、制御ユニット、回路要素(circuitry)もしくはコントローラとしての電子制御ユニット(ECUという)100により制御される。ECU100はエンジンの制御を司るもので、CPU、ROM、RAM、入出力ポートおよび記憶装置等を含む。
【0047】
キャンセルカム6A,6Bの位相進角時、ECU100は、進角用オイル供給穴39に油圧を供給し、遅角用オイル供給穴40から油圧を排出するよう、OCV42を制御する。他方、キャンセルカム6A,6Bの位相遅角時、ECU100は、遅角用オイル供給穴40に油圧を供給し、進角用オイル供給穴39から油圧を排出するよう、OCV42を制御する。
【0048】
キャンセルカム6A,6Bの位相を一定に保持する時、ECU100は、進角用オイル供給穴39と遅角用オイル供給穴40の両方に油圧を供給するよう、OCV42を制御する。
【0049】
なお前述の第1~第3状態S1,S2,S3の切り替えに際して、第1油圧通路23Aおよび第3油圧通路23Cへの油圧給排を切り替えることも、ECU100が図示しない切替弁を制御することで行う。
【0050】
次に、本実施形態の作動を説明する。
【0051】
#1気筒から#6気筒までの各気筒の吸気弁開閉毎に、カムシャフト1(外側カムシャフト10)に発生させられる変動トルクは、図7に線aで示す通りとなる。各変動トルクに関して、吸気弁3の開弁時に、カム4Aがバルブスプリング2の付勢力に抗じて吸気弁3を押し下げると、カムシャフト1(外側カムシャフト10)には、これを押し戻そうとする、回転方向Rと反対方向の正のトルクが発生させられる。また吸気弁3の閉弁時には、逆にバルブスプリング2が、カム4Aおよびカムシャフト1(外側カムシャフト10)を回転方向Rに押し進めようとするため、カムシャフト1には回転方向Rと同一方向の負のトルクが発生させられる。
【0052】
これら気筒毎の変動トルクを足し合わせると、図7に線bで示すようなトータルトルクとなる。なおここでは前提として、第1可変機構5は第1状態S1に設定されているものとする。
【0053】
他方、第1および第2キャンセルカム6A,6Bによりそれぞれカムシャフト1(内側カムシャフト11)に発生させられる変動トルクすなわちキャンセルトルクは、図8に線c、dで示す通りとなる。キャンセルトルクの正負については前述した通りである。またこれらキャンセルトルクc、dを足し合わせると、図8に線eで示すようなトータルキャンセルトルクとなる。
【0054】
図7および図8を見比べると分かるように、トータルキャンセルトルクeはトータルトルクbよりクランク位相が60°ずれており、逆位相である。従ってトータルキャンセルトルクeによりトータルトルクbを打ち消すことができ、吸気弁3の開閉に起因するカムシャフト1のトルク変動を抑制することができる。
【0055】
図9に、キャンセルカム6A,6Bが無い場合のトータルトルクbを示す。また図9に、キャンセルカム6A,6Bが有る場合のトータルトルク、すなわちトータルトルクbとトータルキャンセルトルクeとを足し合わせた結果としての総合トルクfを示す。この図から分かるように、カムシャフト1のトルク変動を大幅に抑制することができる。
【0056】
このようにカムシャフト1のトルク変動を抑制することで、カムシャフト1の回転変動を抑制することができる。そしてカムシャフト1に設けられた入力ギヤ17と、これに噛合される最終ギヤ16との間で発生するラトル音(歯打音)を低減することができる。一般的に、このラトル音低減のためシザースギヤを設けることがあるが、本実施形態ではこのシザースギヤも省略できるため、製造コストを低減できる。
【0057】
ところで、第1可変機構5の状態が変化すると、バルブタイミングおよび作用角が変化し、変動トルクの位相位置が変化する。従って、キャンセルカム6A,6Bの位相位置を一定位置に固定した状態では、第1可変機構5の全ての状態で、必ずしも満足なトルクキャンセル効果を得ることができない。
【0058】
そこで本実施形態では、第2可変機構7を設け、これによりキャンセルカム6A,6Bの位相位置を変化させられるようにした。これにより、第1可変機構5の状態変化に追従してキャンセルカム6A,6Bの位相位置を変化させ、十分なトルクキャンセル効果を得ることが可能となる。
【0059】
以下、この点について詳述する。図10は、第1可変機構5が第1状態S1のときの各気筒(#1~#6気筒)のカムリフト量gと、吸気弁開閉のみに起因するカムシャフト1のトータルトルクhとを示す。ここでトータルトルクhにはキャンセルトルクが含まれない。
【0060】
図11も同様に、第1可変機構5が第2状態S2のときの各気筒(#1~#6気筒)のカムリフト量iと、吸気弁開閉のみに起因するカムシャフト1のトータルトルクjとを示す。
【0061】
前者のトータルトルクhと後者のトータルトルクjとを一図に纏めると、図12に示す如くなる。図から、第2状態S2のときのトータルトルクjは、第1状態S1のときのトータルトルクhより若干進角側にずれているのが分かる。
【0062】
図13は、図10に示した第1状態S1のときのトータルトルクhと、これを打ち消すのに最適な位相位置のトータルキャンセルトルクkと、これらを足し合わせた総合トルクlとを示す。見られるように、トータルトルクhは総合トルクlに変化し、トルク変動は大幅に抑制されている。この場合、図示するような位相位置のトータルキャンセルトルクkが得られるように、第2可変機構7がECU100により制御される。
【0063】
しかし仮に、第1状態S1に最適なトータルキャンセルトルクkを第2状態S2のときに与えてしまうと、図14に示すように、トルク変動が悪化してしまうことがある。図14には、当該トータルキャンセルトルクkと、図11に示した第2状態S2のときのトータルトルクjと、これらを足し合わせた総合トルクmとを示す。見られるように、トータルトルクjは総合トルクmに変化し、トルク変動は大幅に増大していることが分かる。
【0064】
そこで本実施形態では、第2状態S2のときにはこれに最適なトータルキャンセルトルクが発生するよう、第2可変機構7がECU100により制御される。
【0065】
図15には、第2状態S2のときのトータルトルクjと、第2状態S2のときに本実施形態により発生されるトータルキャンセルトルクnと、これらを足し合わせた総合トルクoとを示す。見られるように、トータルトルクjから60°クランク位相だけずれた逆位相のトータルキャンセルトルクnが発生されている。そしてトータルトルクjは総合トルクoに変化し、トルク変動は大幅に抑制されている。この場合、図示するような位相位置のトータルキャンセルトルクnが得られるように、第2可変機構7がECU100により制御される。
【0066】
このように本実施形態によれば、吸気弁3のバルブタイミングを可変にする第1可変機構5が設けられた場合でも十分なトルクキャンセル効果を得ることができる。
【0067】
なお、ここでは第1状態S1と第2状態S2の場合のみを説明したが、第3状態S3の場合でも同様である。
【0068】
ところで、吸気弁開閉に基づくトルク変動がカムシャフト1(外側カムシャフト10)に生じると、これに起因して進角室35の油圧が変動し、トルク変動と同位相の油圧脈動が、オイルギャラリ41からOCV42側の通路に発生する。そしてこの油圧脈動が、オイルギャラリ41を経て、これに繋がる別のオイル供給部43(図1参照)にも伝達され、そのオイル供給部43に影響を及ぼす可能性がある。
【0069】
しかし、本実施形態によれば、第1可変機構5が何れの状態でも、吸気弁開閉に基づくトルク変動を抑制できるため、かかる油圧脈動を抑制し、別のオイル供給部43への影響を低減することが可能である。
【0070】
以上の説明から理解されるように、第2可変機構7は外側カムシャフト10および内側カムシャフト11を含む。第1可変機構5は、外側カムシャフト10に固設されプロファイルの異なる複数のカム4A,4B,4Cと、複数のカム4A,4B,4Cのうちの一部を選択的に吸気弁3に連結する切替可能なロッカーアーム9とを含む。ECU100は、第1可変機構5および第2可変機構7を制御するように構成され、吸気弁3のバルブタイミングの変更に応じてキャンセルカム6A,6Bの位相を変更する。
【0071】
以上、本開示の実施形態を詳細に述べたが、本開示は他の実施形態や変形例によっても実施可能である。
【0072】
(1)上記実施形態では、第1可変機構5を三段階に切替可能なものとしたが、二段階、四段階以上または無段階に切替可能なものとしてもよい。また第1可変機構5の構成は任意に変更可能であり、電磁駆動式や空圧式のものであってもよい。
【0073】
(2)上記実施形態では、最も後方に位置する#6気筒のカム4A,4B,4Cの直前、あるいは#5気筒と#6気筒のカム4A,4B,4Cの間に、二つのキャンセルカム6A,6Bを設けた。しかしながら、キャンセルカムの数は任意であり、問題なくカムロブが加工できる等、制約がなければキャンセルカムを一つとしてもよい。逆に、キャンセルカムを三つ以上としてもよい。またキャンセルカムは、これが設けられるカムシャフトの気筒数と等しい合計数のカムロブを有するのがよく、例えばV型DOHC6気筒エンジンなら一本のカムシャフト当たりに3個(=N/2個)のカムロブを有するのがよい。キャンセルカムの設置位置も任意である。
【0074】
(3)上記実施形態では、キャンセルカム6A,6Bによるキャンセルトルクを発生させるために、ロッカーアーム25A,25B、バルブブリッジ26A,26Bおよびスプリング27A,27Bを備えたトルクキャンセル機構を用いた。しかしながら、当該機構は適宜変更可能である。
【0075】
(4)上記実施形態では、第1可変機構5の切り替えとは別個独立に無段階に切替可能な第2可変機構7を設けた。しかしながら、第2可変機構は第1可変機構の切り替えと連動して切替可能であってもよく、第1可変機構と共通化されてもよい。また第2可変機構は段階的に切替可能であってもよい。
【0076】
(5)上記実施形態では、エンジンバルブ(吸気弁3)の閉タイミングを可変としたが、開タイミングを可変としたり、開タイミングと閉タイミングの両方を可変としたりすることが可能である。この際、作用角は可変であっても一定であってもよい。
【0077】
(6)外側および内側カムシャフト10,11と、カム4A,4B,4Cおよびキャンセルカム6A,6Bとの関係を逆にしてもよい。すなわち、内側カムシャフト11にカム4A,4B,4Cを固設し、外側カムシャフト10にキャンセルカム6A,6Bを固設してもよい。この場合、入力ギヤ16を内側カムシャフト11に設けてもよい。
【0078】
本開示の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本開示の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本開示に含まれる。従って本開示は、限定的に解釈されるべきではなく、本開示の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 カムシャフト
2 バルブスプリング
3 吸気弁
4A,4B,4C カム
5 第1可変機構
6A,6B キャンセルカム
7 第2可変機構
9 ロッカーアーム
10 外側カムシャフト
11 内側カムシャフト
100 電子制御ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
図11
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