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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】超音波プローブ及び超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 17/00 20060101AFI20220222BHJP
   A61B 8/14 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
H04R17/00 332Y
A61B8/14
H04R17/00 330H
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018058104
(22)【出願日】2018-03-26
(65)【公開番号】P2019169920
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100155620
【弁理士】
【氏名又は名称】木曽 孝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 謙次
(72)【発明者】
【氏名】中山 雄太
【審査官】辻 勇貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-109448(JP,A)
【文献】特開昭60-260847(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0115656(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 17/00
A61B 8/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のpMUTが配列されたpMUTアレイを備える超音波プローブであって、
前記pMUTは、超音波送信用の第1のpMUTと、前記第1のpMUTと異なる構造を有する超音波受信用の第2のpMUTと、を有し、
前記第1のpMUTと前記第2のpMUTのセル領域は、超音波放射面内で分離しており、
前記第1のpMUTは、周波数帯域内に少なくとも一つの共振点を有し、
前記第2のpMUTは、周波数帯域内に共振点を有さないことを特徴とする超音波プローブ。
【請求項2】
前記第1のpMUTは、基板上に、第1の下部電極、第1の圧電体、第1の上部電極が順に積層された構造を有し、
前記第2のpMUTは、前記基板上に、第2の下部電極、第2の圧電体、第2の上部電極が順に積層された構造を有し、
前記第1の圧電体と前記第2の圧電体は、異なる材料で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の超音波プローブ。
【請求項3】
前記第1の圧電体は、無機圧電材料で形成されていることを特徴とする請求項2に記載の超音波プローブ。
【請求項4】
前記無機圧電材料は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)であることを特徴とする請求項3に記載の超音波プローブ。
【請求項5】
前記第2の圧電体は、有機圧電材料で形成されていることを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載の超音波プローブ。
【請求項6】
前記有機圧電材料は、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の超音波プローブ。
【請求項7】
前記第2の圧電体の厚さtは、用いられる超音波周波数帯域における最大周波数をFmax、前記第2の圧電体中の音速をVとしたとき、t≦V/4Fmaxであることを特徴とする請求項から6のいずれか一項に記載の超音波プローブ。
【請求項8】
前記第1のpMUTは、ダイアフラム構造を有し、撓み振動モードにより超音波を送信することを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の超音波プローブ。
【請求項9】
前記第2のpMUTは、非ダイアフラム構造を有し、厚み振動モードにより超音波を受信することを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の超音波プローブ。
【請求項10】
隣接する前記第1のpMUTと前記第2のpMUTのセル中心間距離Lは、用いられる超音波周波数帯域の中心周波数Fに対する生体(代表音速1530m/sec)中の波長をλcとしたとき、L≦λc/2であることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の超音波プローブ。
【請求項11】
前記複数のpMUTは、複数のチャンネルに分割され、
チャンネル内における前記第1のpMUTと前記第2のpMUTの数が異なることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の超音波プローブ。
【請求項12】
前記pMUTアレイは、
前記第1のpMUT及び前記第2のpMUTの圧電素子部の駆動制御を行う電子回路基板と、
同一基板上に、前記圧電素子部が形成された圧電素子基板と、
前記電子回路基板と前記圧電素子基板との間に介在する接続部と、を有し、
前記電子回路基板と前記圧電素子基板が、前記接続部によって物理的かつ電気的に接続されていることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の超音波プローブ。
【請求項13】
前記pMUTアレイは、
前記第1のpMUT及び前記第2のpMUTの圧電素子部の駆動制御を行う電子回路基板を有し、
前記電子回路基板上に、絶縁層を介して前記圧電素子部が形成され、
前記電子回路基板と前記圧電素子部が、前記絶縁層に設けられた貫通電極により電気的に接続されていることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の超音波プローブ。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の超音波プローブと、
前記超音波プローブが接続され、前記超音波プローブからの超音波信号に基づいて超音波画像を生成する超音波診断装置本体と、
を備えることを特徴とする超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断に用いる超音波プローブ及び超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の超音波振動子を配列して超音波放射面を形成した超音波プローブが知られている。近年では、超音波振動子として、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術により実現される圧電素子(いわゆるpMUT(Piezoelectric Micromachined Ultrasound Transducer))を適用した超音波プローブの開発が進められている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
pMUTを適用した超音波プローブは、例えば、圧電体を有するダイアフラムを太鼓のように振動(撓み振動)させることによって超音波の送受信を行うことができる。pMUTは、バルクPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)をダイシング等により分割した圧電素子に比較して、より微細化が可能であるため高周波化でき高解像度が望める、3次元画像を生成するための圧電素子の2次元アレイ化に適している、小型化及び薄型化が可能であるという利点を有する。しかし、従来のpMUTのように送信と受信に同一の撓み振動を用いた場合には、狭帯域となり、利用できる周波数が共振周波数近傍に限定されてしまうという課題がある。
【0004】
特許文献1には、共振周波数が異なる複数のpMUTを配列することにより広帯域化が図られたpMUTアレイが開示されている(特許文献1の図7B参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2015-517752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示のpMUTアレイを有する超音波プローブでは、共振ピーク間に深い谷(不感帯)が生じるため、超音波画像の画質が劣化する虞がある。また、複数の共振周波数が混在しているため、全体として超音波プローブの送受信感度が低下する虞がある。
【0007】
本発明の目的は、送受信感度が高く、かつ、周波数帯域が広い超音波プローブ及び超音波診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面を反映した超音波プローブは、
複数のpMUTが配列されたpMUTアレイを備える超音波プローブであって、
前記pMUTは、超音波送信用の第1のpMUTと、前記第1のpMUTと異なる構造を有する超音波受信用の第2のpMUTと、を有し、
前記第1のpMUTと前記第2のpMUTのセル領域は、超音波放射面内で分離しており、
前記第1のpMUTは、周波数帯域内に少なくとも一つの共振点を有し、
前記第2のpMUTは、周波数帯域内に共振点を有さないことを特徴とする。
【0009】
本発明の一側面を反映した超音波診断装置は、
上記の超音波プローブと、
前記超音波プローブが接続され、前記超音波プローブからの超音波信号に基づいて超音波画像を生成する超音波診断装置本体と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、送受信感度が高く、かつ、周波数帯域が広い超音波プローブ及び超音波診断装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施の形態に係る超音波診断装置の外観を示す図である。
図2図2は、超音波診断装置の制御系の主要部を示すブロック図である。
図3図3は、超音波プローブの構成を示す図である。
図4図4A図4Bは、pMUTの配列を示す平面図である。
図5図5は、第1の実施の形態に係るpMUTアレイの構成を示す断面図である。
図6図6は、第2の実施の形態に係るpMUTアレイの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の一実施の形態に係る超音波診断装置1の外観を示す図である。図2は、超音波診断装置1の制御系の主要部を示すブロック図である。
【0014】
図1に示すように、超音波診断装置1は、超音波診断装置本体10及び超音波プローブ20を備える。超音波診断装置本体10と超音波プローブ20は、ケーブル30を介して接続される。
【0015】
超音波診断装置1は、被検体内の形状、性状又は動態を超音波画像として可視化し、画像診断するために用いられる。なお、超音波診断装置1は、Bモード画像、カラードプラ画像、三次元超音波画像、又はMモード画像等の任意の超音波画像を生成するものであってよい。同様に、超音波プローブ20には、コンベックスプローブ、リニアプローブ、セクタプローブ、又は三次元プローブ等の任意のものを適用することができる。
【0016】
超音波プローブ20は、被検体に対して超音波を送信するとともに、被検体で反射された超音波(エコー)を受信し、受信信号に変換して診断装置本体10に送信する。超音波プローブ20の詳細については後述する。
【0017】
超音波診断装置本体10は、超音波プローブ20からの受信信号を用いて、被検体の内部状態を超音波画像として可視化する。具体的には、図2に示すように、超音波診断装置本体10は、操作入力部11、送信部12、受信部13、画像処理部14及び表示部15等を備える。
【0018】
操作入力部11は、例えば、診断開始等を指示するコマンド又は被検体に関する情報の入力を受け付ける。操作入力部11は、例えば、複数の入力スイッチを有する操作パネル、キーボード、及びマウス等を有する。
【0019】
送信部12は、制御部16の指示に従って、送信信号(駆動信号)を生成して、超音波プローブ20に送信する。
【0020】
受信部13は、超音波プローブ20からの受信信号を受信し、画像処理部14へ出力する。
【0021】
画像処理部14は、制御部16の指示に従って、受信部13からの受信信号に対して所定の信号処理(例えば、対数圧縮処理、検波処理、及びFFT解析処理等)を施し、被検体の内部状態を示す超音波画像(例えば、Bモード画像、カラードプラ-画像、三次元超音波画像)を生成する。なお、超音波画像を生成する処理の内容は公知であるため、ここでの説明は省略する。
【0022】
表示部15は、例えば、液晶ディスプレイ等で構成され、画像処理部14において生成された超音波画像を表示する。
【0023】
制御部16は、操作入力部11、送信部12、受信部13、画像処理部14及び表示部15を、それぞれの機能に応じて制御することによって、超音波診断装置1の全体制御を行う。
【0024】
図3は、超音波プローブ20の構成を示す図である。図3に示すように、超音波プローブ20は、超音波放射側から順に、保護層21、pMUTアレイ22、信号処理回路23、バッキング材24を備える。保護層21は、音響レンズ、整合層を含んでもよい。
【0025】
保護層21は、pMUTアレイ22の表面(超音波放射面)を保護する。保護層21は、人体に接触させる際に不快感を与えることがなく、音響インピーダンスが比較的人体に近い材料(例えば、シリコーンゴム等)で形成される。
【0026】
信号処理回路23は、超音波送信用の送信信号の生成や受信信号(超音波信号)の処理を行う回路である。本実施の形態では、信号処理回路23は、ケーブル30を介して超音波診断装置本体10に接続されている。または、信号処理回路23は、無線通信機能を有し、ケーブル30なしで超音波診断装置本体10に情報通信可能に接続されてもよい。
【0027】
バッキング材24は、pMUTアレイ22で発生する不要振動を減衰する。
【0028】
pMUTアレイ22は、図4A図4Bに示すように、二次元配列された複数のpMUT100、200を有する。図4Aは、pMUTアレイ22におけるpMUT100、200の配列を示す平面図であり、図4Bは、図4Aにおける太線で囲まれた領域Aの拡大図である。複数のpMUT100、200は、走査方向において複数のチャンネルCHに分割されており、チャンネルCHごとに駆動される。
【0029】
本実施の形態において、pMUT100は、超音波送信用の第1のpMUTである(以下、「第1のpMUT100」と称する)。pMUT200は、超音波受信用の第2のpMUTである(以下、「第2のpMUT200」と称する)。第1のpMUT100と第2のpMUT200は、異なる構造を有している。また、第1のpMUT100と第2のpMUT200は、互いのセル領域が、超音波放射面内で分離する(重ならない)ように形成されている。pMUTアレイ22に対して、pMUTアレイ22を構成する個々のpMUT100、200は「pMUTセル」と称される。
【0030】
本実施の形態では、第1のpMUT100と第2のpMUT200は、それぞれ直交格子状に配置されている。MEMS技術を利用することにより、異なる構造を有する第1のpMUT100と第2のpMUT200を別々に形成することができる。
【0031】
セル領域とは、超音波の送信又は受信が行われる有効領域であり、圧電体と圧電体を挟持する2枚の電極を有する積層構造において、すべてが重なっている領域である(図5参照)。すなわち、セル領域は、圧電体と電極のうち、最も小さいものの平面形状及び大きさで規定される。図4Bは、第1のpMUT100と第2のpMUT200のセル領域が、超音波放射面内で重なっていないことを示している。
【0032】
pMUTアレイ22において、隣接する第1のpMUT100と第2のpMUTのセル中心間距離Lは、超音波診断装置1で用いられる超音波周波数帯域の中心周波数Fに対する生体(代表音速1530m/sec)中の波長をλcとしたとき、L≦λc/2であることが好ましい。これにより、第1のpMUT100と第2のpMUTを同一音源としてみなすことができ、送信超音波ビームと受信超音波ビームの経路を一致させることができる。
【0033】
なお、第1のpMUT100と第2のpMUT200の配置態様は、図4A図4Bに示すものに限定されず、例えば、それぞれが三角格子状又は籠目状に配置されてもよいし、ランダムに配置されてもよい。
【0034】
また、チャンネル内における第1のpMUT100と第2のpMUTのセル数は、異なっていてもよい。例えば、低周波数領域において、少ないセル数で送信音圧強度を確保できる場合、第1のpMUT100の数を減らし、第2のpMUT200の数を増加させるのがよい。
【0035】
図5は、第1の実施の形態に係るpMUTアレイ22の構成を示す断面図である。
以下において、第1の実施の形態に係る超音波プローブ20を「超音波プローブ20-1」、pMUTアレイ22を「pMUTアレイ22-1」、第1のpMUT100を「第1のpMUT100-1」、第2のpMUT200を「第2のpMUT200-1」と称する。
【0036】
図5に示すように、第1の実施の形態に係るpMUTアレイ22-1は、電子回路基板22A、圧電素子基板22B、及び接続部22Cを有している。
【0037】
電子回路基板22Aは、第1のpMUT100-1及び第2のpMUT200-1の圧電素子部P1、P2の駆動制御および受信制御を行う。電子回路基板22Aは、例えば、基板111上に、送信用回路112、受信用回路113及び配線層114が形成されたCMOS基板である。
【0038】
送信用回路112は、第1のpMUT100-1の駆動を制御する。受信用回路113は、第2のpMUT200からの信号を検出する。配線層114は、送信用回路112及び受信用回路113と圧電素子部P1、P2を電気的に接続する。
【0039】
圧電素子基板22Bは、第1の圧電素子部P1、第2の圧電素子部P2及び基板101を有する。
【0040】
第1の圧電素子部P1は、基板101上に順に積層された、第1の下部電極102、第1の圧電体103、第1の上部電極104を有する。第1の圧電素子部P1は、第1の圧電体103が下部電極102と上部電極104で挟持されたユニモルフ構造を有する。
【0041】
下部電極102は、基板101に設けられた貫通電極105を介して基板101の裏面に設けられた接続電極(バンプ)107に引き出される。接続電極107は、接続部22C及び電子回路基板22Aの配線層114を介して、送信用回路112と電気的に接続される。
【0042】
上部電極104は、基板101に設けられた貫通電極106を介して基板101の裏面に設けられた接続電極108に引き出される。接続電極108は、接続部22C及び電子回路基板22Aの配線層114を介して、共通電極(GND)116に接続される。
【0043】
下部電極102、上部電極104及び接続電極107、108は、例えば、Pt、Au、Ti等の金属材料又は導電性酸化物で形成される。貫通電極105、106は、例えば、Cu,W、Al等の金属材料で形成されてもよいし、基板101にB(ホウ素)等の不純物をドープして導電性を持たせることにより形成されてもよい。
【0044】
第1の圧電体103は、超音波の送信性能(送信感度及び周波数帯域)に優れる圧電材料で形成される。第1の圧電体103は、電圧を印加することにより大きく変形する、すなわち逆圧電定数が大きな材料が望ましい。本実施の形態では、第1の圧電体103は、PZTで形成されている。
【0045】
なお、第1の圧電体103は、PZT以外の無機圧電材料(例えば、PMN-PT(マグネシウムニオブ酸チタン酸鉛)、PMN-PZT(マグネシウムニオブ酸ジルコンチタン酸鉛)など)で形成されてもよい。
【0046】
第2の圧電素子部P2は、基板101上に順に積層された、第2の下部電極202、第2の圧電体203、第2の上部電極204を有する。第2の圧電素子部P2は、第1の圧電素子部P2と同様に、第2の圧電体203が下部電極202と上部電極204で挟持されたユニモルフ構造を有する。
【0047】
下部電極202は、基板101に設けられた貫通電極205を介して基板101の裏面に設けられた接続電極207に引き出される。接続電極207は、接続部22C及び電子回路基板22Aの配線層114を介して、受信用回路113と電気的に接続される。
【0048】
上部電極204は、基板101に設けられた貫通電極206を介して基板101の裏面に設けられた接続電極208に引き出される。接続電極208は、接続部22C及び電子回路基板22Aの配線層114を介して、共通電極(GND)118に接続される。
【0049】
下部電極202、上部電極204及び接続電極207、208は、例えば、Pt、Au、Ti等の金属材料又は導電性酸化物で形成される。貫通電極205、206は、例えば、Cu,W、Al等の金属材料で形成されてもよいし、基板101に不純物をドープして形成されてもよい。
【0050】
第2の圧電体203は、超音波の受信性能(受信感度及び周波数帯域)に優れる圧電材料で形成される。第2の圧電体203は、超音波を受信することにより電圧を発生する。本実施の形態では、第2の圧電体203は、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)樹脂で形成されている。PVDFは、PZTに比較して、超音波の送信性能は劣るが、誘電率が小さいため電圧受信性能は格段に高い。例えば、PVDFを適用したpMUTは、PZTを適用したpMUTの約10倍の電圧受信感度を有する。
【0051】
ここで、第2の圧電体203の厚さtは、超音波診断装置1で用いられる超音波周波数帯域の最大周波数Fmaxに対する圧電体203中の波長λの1/4以下であることが好ましい。第2の圧電体203は片面が固定端となっているので、t≦λ/4とすることで、厚さ方向における共振が生じるのを防止することができ、広い帯域幅を確保することができる。
【0052】
超音波診断装置1で用いられる超音波周波数帯域の中心周波数をFとすると、最大周波数Fmax=2Fなので、第2の圧電体203が帯域内において共振しない条件は、t≦λp/4=V/4Fmax=V/8Fとなる。一般に、医療用の超音波診断装置1で用いられる超音波の中心周波数Fは、最大で20MHz程度であるので、PVDF内の音速Vを2560m/secとすると、t≦2560/(8×20)=16[μm]となる。すなわち、超音波プローブ20-1においては、第2の圧電体203の厚さを16μm以下とすることで、厚さ方向における共振が生じるのを防止することができる。
【0053】
なお、第2の圧電体203は、PVDF以外の有機圧電材料(例えば、ウレア樹脂など)で形成されてもよい。また、第2の圧電体203は、圧電材料のみからなる単層構造を有していてもよいし、圧電材料の複数回の塗布により厚膜化する場合、圧電材料で金属又は非金属の薄膜層を挟んだ積層構造を有していてもよい。
【0054】
基板101は、例えば、Si基板である。基板101は、第1の圧電素子部P1に対応する部分に、薄膜部101aを有する。基板101の裏面側(第1の圧電素子部P1が形成される側と反対側)において、第1の圧電素子部P1に対応する領域が凹状にエッチングされることにより、薄膜部101aが形成される。一方、基板101の第2の圧電素子部P2に対応する部分はエッチングされておらず、薄膜部101aよりも厚くなっている(厚膜部101b)。
【0055】
すなわち、第1のpMUT100-1は、第1の圧電素子部P1と薄膜部101aからなるダイアフラム構造を有している。第1のpMUT100-1は、電圧を印加することにより撓み振動モードで振動し、超音波を放射する。ここで、ダイアフラムとは、端部を保持された振動板の撓みモード共振を、送受信感度特性の周波数帯域(-40dB帯域幅)内に誘起する構造体を意味する。振動板の撓みとは、圧電体(ここでは、第1のpMUT100-1)が振動板(ここでは、薄膜部101a)の長さ方向に伸縮することによって生じる振動板の垂直方向(厚み方向)の変位である。
【0056】
第1のpMUT100-1は、周波数帯域内に1つ以上の共振点を有することが好ましい。これにより、共振点近傍において大きな送信感度を得ることができる。さらに、送信感度特性は、超音波強度(音圧強度)であり、振動子変位と周波数の積に比例するため、共振周波数より高周波側でも急峻には減衰せず、たとえ共振点を有しても帯域幅を広くすることができる。
【0057】
なお、第1のpMUT100-1におけるダイアフラム構造は、実効的な音響インピーダンスが、生体の音響インピーダンスに整合するように設計される。これにより、超音波を生体内で効率よく伝播させることができる。具体的には、ダイアフラム構造の剛性が最適化されればよい。さらに好適には、共振周波数、送信性能(送信感度、周波数帯域)等に応じて、基板101の材料及び薄膜部101aの厚さ、第1の圧電体103の厚さ、第1のpMUT100-1のセル領域等が適宜最適化される。
【0058】
一方、第2のpMUT200-1は、第2の圧電素子部P2と厚膜部101bからなる非ダイアフラム構造を有している。第2のpMUT200-1は、超音波を受信して厚み方向に変形することにより、電圧を発生する。
【0059】
第2のpMUT200-1は、非ダイアフラム構造であり、基板101に凹部を形成する必要がないので、第1のpMUT100-1の密度を低下させることなく、同一放射面内に形成することができる。
【0060】
また、第2のpMUT200-1は、周波数帯域内に共振点がないことが好ましい。これにより、広い受信帯域幅を得ることができる。なぜなら、受信感度特性は電圧信号であり、振動子変位に比例し、共振点を持つ場合、共振周波数より高周波側で急激に減衰して狭帯域となってしまうためである。
【0061】
なお、第2のpMUT200-1は、有機圧電膜であるPVDF自身が生体の音響インピーダンスに近いためダイアフラム構造とする必要はないが、撓みモード共振周波数が帯域内に存在しない程度に厚膜部101bを浅くエッチングしてもよい。
【0062】
接続部22Cは、電子回路基板22Aと圧電素子基板22Bとの間に介在し、両者を物理的かつ電気的に接続する。これにより、電子回路基板22Aと圧電素子基板22Bを、それぞれに適した製造方法により独立して製造することができる。
【0063】
接続部22Cは、例えば、異方性導電フィルム(ACF:Anisotropic Conductive Film)を適用して形成するのが好ましい。すなわち、電子回路基板22Aと圧電素子基板22Bとの間に、フィルム状の絶縁樹脂材料に微細な導電性粒子を分散させたACFを挟み、加熱及び加圧することにより、両者を接着することができる。これにより、電子回路基板22Aと圧電素子基板22Bの接続電極(バンプ)を導電性粒子により導通させることができるとともに、導通部分同士を絶縁樹脂材料により確実に絶縁することができる。また、電子回路基板22Aと圧電素子基板22Bを貼り合わせることによる性能劣化も抑えることができる。
【0064】
なお、電子回路基板22Aと圧電素子基板22Bは、その他の方法により接合されてもよい。例えば、導電性接着剤と金属被覆ガラス球を利用した接着、拡散接合(熱圧着)、共晶接合、又は溶接を適用することができる。
【0065】
このように、第1の実施の形態に係る超音波プローブ20-1は、複数のpMUT100-1、200-1が配列されたpMUTアレイ22-1を備える超音波プローブであって、pMUT100-1、200-1は、超音波送信用の第1のpMUT100-1と、第1のpMUT100-1と異なる構造を有する超音波受信用の第2のpMUT200-1と、を有する。第1のpMUT100-1と第2のpMUT200-1のセル領域は、超音波放射面内で分離している。
【0066】
また、第1のpMUT100-1は、基板101上に、第1の下部電極102、第1の圧電体103、第1の上部電極104が順に積層された構造を有し、第2のpMUT200-1は、基板101上に、第2の下部電極202、第2の圧電体203、第2の上部電極204が順に積層された構造を有する。第1の圧電体103と第2の圧電体203は、異なる材料で形成されている。
【0067】
具体的には、第1の圧電体103は、超音波送信に適した性能を有する無機圧電材料(例えば、PZT)で形成され、第2の圧電体203は、超音波受信に適した性能を有する
有機圧電材料(例えば、PVDF)で形成されている。
【0068】
超音波プローブ20-1によれば、MEMS技術を利用することにより、超音波送信用の第1のpMUT100-1と超音波受信用の第2のpMUT200-1が超音波放射面に別々に配列されているので、送受信感度が高く、かつ、周波数帯域が広い超音波プローブが実現される。また、超音波プローブ20-1を備える超音波診断装置1によれば、高画質の超音波画像を得ることができる。
【0069】
[第2の実施の形態]
図6は、第2の実施の形態に係るpMUTアレイ22の構成を示す断面図である。
以下において、第2の実施の形態に係る超音波プローブ20を「超音波プローブ20-2」、pMUTアレイ22を「pMUTアレイ22-2」、第1のpMUT100を「第1のpMUT100-2」、第2のpMUT200を「第2のpMUT200-2」と称する。また、第1の実施の形態と実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付し、重複説明を省略する。
【0070】
図6に示すように、第2の実施の形態に係るpMUTアレイ22-2は、電子回路基板22Aを有し、電子回路基板22A上に、絶縁層120を介して第1の圧電素子部P1及び第2の圧電素子部P2が形成されている。
【0071】
電子回路基板22Aは、第1のpMUT100-2及び第2のpMUT200-2の圧電素子部P1、P2の制御および受信制御を行う。電子回路基板22Aは、例えば、基板111上に、送信用回路112、受信用回路113及び配線層114が形成されたCMOS基板である。
【0072】
第1の圧電素子部P1は、絶縁層120上に順に積層された、第1の下部電極102、第1の圧電体103、第1の上部電極104を有する。第1の圧電素子部P1は、第1の圧電体103が下部電極102と上部電極104で挟持されたユニモルフ構造を有する。
【0073】
下部電極102は、絶縁層120に設けられた貫通電極105を介して電子回路基板22Aの接続電極115と電気的に接続され、さらに、配線層114を介して送信用回路112と電気的に接続される。
【0074】
上部電極104は、絶縁層120に設けられた貫通電極106を介して電子回路基板22Aの共通電極(GND)116に接続される。
【0075】
第2の圧電素子部P2は、絶縁層基板120上に順に積層された、第2の下部電極202、第2の圧電体203、第2の上部電極204を有する。第2の圧電素子部P2は、第1の圧電素子部P2と同様に、第2の圧電体203が下部電極202と上部電極204で挟持されたユニモルフ構造を有する。
【0076】
下部電極202は、絶縁層120に設けられた貫通電極205を介して電子回路基板22Aの接続電極117と電気的に接続され、さらに、配線層114を介して受信用回路113と電気的に接続される。
【0077】
上部電極204は、絶縁層120に設けられた貫通電極206を介して電子回路基板22Aの共通電極(GND)118に接続される。
【0078】
電子回路基板22Aの基板111は、例えば、Si基板である。基板111は、第1の圧電素子部P1に対応する部分に、薄膜部111aを有する。基板111の裏面側(第1の圧電素子部P1が形成される側と反対側)において、第1の圧電素子部P1に対応する領域が凹状にエッチングされることにより、薄膜部111aが形成される。一方、基板111の第2の圧電素子部P2に対応する部分はエッチングされておらず、薄膜部111aよりも厚くなっている(厚膜部111b)。
【0079】
すなわち、第1のpMUT100-2は、第1の圧電素子部P1と薄膜部111aからなるダイアフラム構造を有している。第1のpMUT100-2は、電圧を印加することにより撓み振動モードで振動し、超音波を放射する。なお、電子回路基板22Aにおいて、基板111上に形成される配線層14等は、基板111に比較すると極めて薄い。つまり、電子回路基板22Aの厚さは、基板111の厚さに依存する。したがって、薄膜部111aが形成されている第1のpMUT100-2は、ダイアフラム構造とみなすことができる。
【0080】
一方、第2のpMUT200-2は、第2の圧電素子部P2と厚膜部111bからなる非ダイアフラム構造を有している。第2のpMUT200-1は、超音波を受信して厚み方向に変形することにより、電圧を発生する。
【0081】
第2のpMUT200-2は、非ダイアフラム構造であり、基板101に凹部を形成する必要がないので、第1のpMUT100-2の密度を低下させることなく、同一放射面内に形成することができる。
【0082】
絶縁層120は、例えば、SiOや多孔質シリコン等で形成される。絶縁層120は、単層構造でもよいし、多層構造であってもよい。絶縁層120の厚さは、例えば、3μm以上である。
【0083】
電子回路基板22A上に、絶縁層120を介して第1の圧電素子部P1及び第2の圧電素子部P2を形成することにより、貫通電極105、106、205、206同士の絶縁性を確保できるとともに、電子回路基板22Aの寄生容量をキャンセルすることができる。
【0084】
pMUTアレイ22-2の製造方法は、電子回路基板22A上に絶縁層120を形成する第1工程と、MEMS技術を利用して、第1の圧電素子部P1及び第2の圧電素子部P2を形成する第2工程と、を含む。第2工程において、電子回路基板22Aは、第1の圧電素子部P1及び第2の圧電素子部P2を成膜する際の熱により劣化する虞があるが、絶縁層120が断熱層として機能するので、電子回路基板22Aの劣化を防止することができる。
【0085】
このように、第2の実施の形態に係る超音波プローブ20-2は、複数のpMUT100-2、200-2が配列されたpMUTアレイ22-2を備える超音波プローブであって、pMUT100-2、200-2は、超音波送信用の第1のpMUT100-2と、第1のpMUT100-2と異なる構造を有する超音波受信用の第2のpMUT200-2と、を有する。第1のpMUT100-2と第2のpMUT200-2のセル領域は、超音波放射面内で分離している。
【0086】
また、第1のpMUT100-2は、電子回路基板22A上に、第1の下部電極102、第1の圧電体103、第1の上部電極104が順に積層された構造を有し、第2のpMUT200-2は、電子回路基板22A上に、第2の下部電極202、第2の圧電体203、第2の上部電極204が順に積層された構造を有する。第1の圧電体103と第2の圧電体203は、異なる材料で形成されている。
【0087】
具体的には、第1の圧電体103は、超音波送信に適した性能を有する無機圧電材料(例えば、PZT)で形成され、第2の圧電体203は、超音波受信に適した性能を有する
有機圧電材料(例えば、PVDF)で形成されている。
【0088】
超音波プローブ20-2によれば、MEMS技術を利用することにより、超音波送信用の第1のpMUT100-2と超音波受信用の第2のpMUT200-2が超音波放射面に別々に配列されているので、送受信感度が高く、かつ、周波数帯域が広い超音波プローブが実現される。また、超音波プローブ20-2を備える超音波診断装置1によれば、高画質の超音波画像を得ることができる。
【0089】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0090】
例えば、第1のpMUT100と第2のpMUT200は、セル領域が超音波放射面内で分離していればよく、第2の圧電体203や第2の上部電極204が、第1の圧電素子部P1の上方(超音波放射側)に延在していてもよい。例えば、第1の上部電極104と第2の上部電極204は、第1のpMUT100と第2のpMUT200の全面を覆うように、共通部材として設けられてもよい。
【0091】
また例えば、上部電極104、204は、音響送受信時には共通電位、多くはGNDとして動作するが、圧電体103、203の分極処理用電極としてGNDと分離独立していることが好ましい。分極処理前は分割した状態で分極用電極として使用し、分極処理後は、電気的にGNDと接続してプローブとして使用する。また、プログラマブルに接続、分離できるようにしておくことで製品化後の分極制御が可能になる。
【0092】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0093】
1 超音波診断装置
10 超音波診断装置本体
20 超音波プローブ
22、22-1、22-2 pMUTアレイ
22A 電子回路基板
22B 圧電素子基板
22C 接続部
100、100-1、100-2 第1のpMUT
101 基板
102 第1の下部電極
103 第1の圧電体
104 第1の上部電極
120 絶縁層
200、200-1、200-2 第2のpMUT
202 第2の下部電極
203 第2の圧電体
204 第2の上部電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6