(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】積層ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20220222BHJP
G11B 5/73 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
B32B27/36
G11B5/73
(21)【出願番号】P 2018092230
(22)【出願日】2018-05-11
【審査請求日】2021-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 周
(72)【発明者】
【氏名】飯田 真
(72)【発明者】
【氏名】小川 達也
(72)【発明者】
【氏名】東條 光峰
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-106623(JP,A)
【文献】特開2011-245641(JP,A)
【文献】特開2013-129079(JP,A)
【文献】特開2009-255475(JP,A)
【文献】特開平06-114927(JP,A)
【文献】特開2013-173870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏で粗さの異なる2層以上からなる積層フィルムであって、より平坦な一方の層の平均表面粗さRaが0.5以上4.0nm未満であり、
少なくとも1層が下記式(I)および(II)で示されるダイマー成分が、ポリエステルの繰り返し単位のモル数を基準として、0.3~5モル%未満の範囲で共重合された共重合ポリエステルから形成されており、
フィルムの長手方向のヤング率が1GPa以上6GPa以下、フィルムの厚みが1μm以上4.5μm以下、かつ長手方向のヤング率と厚みの積が5GPa・μm以上20GPa・μm以下であり、長手方向に2kg/mm
2の荷重をかけて5℃/分の速度で30℃から110℃まで加熱した時のフィルム長手方向の伸びが3%以下であ
り、
前記共重合ポリエステルは、ジカルボン酸成分とグリコール成分からなり、
前記ジカルボン酸成分は、2、6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル又はテレフタル酸ジメチルを含み、
前記ジオール成分は、エチレングリコールを含む、積層ポリエステルフィルム。
-C(O)-R
A-C(O)- (I)
-O-R
A-O- (II)
(上記構造式(I)~(II)中の、R
Aは、炭素数31~51のシクロ環および分岐鎖を含
むアルキレン基を示す。)
【請求項2】
前記共重合ポリエステルの層に、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンからなる群より選ばれる少なくとも1種を、前記共重合ポリエステルの質量を基準として、0.5~25重量%の範囲で含有する請求項1に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
DMAで測定したtanδピーク温度が、100℃以上の範囲にある請求項1、2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
フィルムの幅方向の温度膨張係数が-8~10ppm/℃、湿度膨張係数が1~8.5ppm/%RHの範囲にある請求項1~3のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項5】
磁気記録テープのベースフィルムに用いられる請求項1~4のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項6】
磁気記録テープの走行方向に加えるテンションを制御することによってトラック位置を調整する高密度磁気記録テープのベースフィルムに用いられる請求項5記載の積層ポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、10Tbを超えるような超高密度記録媒体に用いるベースフィルムなど、極めて高度な寸法安定性が要求される用途において、磁気記録再生装置における記録媒体への張力調整によりテープ幅を一定に調整することが容易であり、かつ磁気記録媒体への加工性に優れた積層ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピューターシステム等において取り扱いが必要なデータ量の増大に伴い、磁気記録媒体への記録容量の大幅な増大が求められてきている。従来、磁気記録媒体に用いられる基材の寸法安定性を向上させる取り組み(引用文献1)もなされてきたが、安価な素材での基材寸法安定性の改良は限界に到達しつつある。また、磁気記録媒体から保存データを再生するドライブ装置への工夫により、テープ張力を調整してデータ記録時とデータ再生時のテープ幅を合致させることで、記録時のトラック位置が再生ヘッドの範囲内となるような提案もなされてきている(引用文献2-4)。これらの技術は、テープの長手方向の張力を変えることによってテープの長手方向の寸法変化をさせ、同時に記録媒体のポアソン比に従ってテープの幅方向の寸法を所定の範囲に変形させて、記録時と再生時のテープ幅を許容範囲内に収束させることを狙ったものである。しかしながら、テープ張力によるテープ幅の調整範囲は、従来の高剛性の磁気記録媒体基材を使用すると、大きな張力変化を与える必要がある。近年、高密度記録用テープ再生装置の張力は、磁気記録媒体のクリープ変形による不可逆変化を可能な限り抑制するために極力小さくなるように設定されており、従来の高剛性の基材を使用すると、テープ幅の調整範囲がごくわずかな領域に限定されてしまい、トラック本数の増大によって記録密度を大幅に向上させることが難しくなるため、さらなる改良が望まれていた。一方で、低剛性の基材を使用すればテープ張力の調整によるテープ幅の調整は容易になるが、磁気記録媒体への加工工程では磁性材料を基材に塗布・乾燥する工程で高温度・高張力が負荷された際に基材自体が伸びを生じて座屈しやすくなってしまい、良好な磁気記録媒体を得ることができなくなってしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-31116号公報
【文献】特開2005-285196号公報
【文献】特開2005-285261号公報
【文献】特開2006-099919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、超高密度磁気記録媒体に要求されるトラック密度の大幅向上を実現する手段としてのテープ張力調整によるトラック密度の向上に優れた積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決しようと鋭意研究した結果、特定のダイマー成分を共重合することで、テープ張力による幅制御の容易化と磁気記録媒体への加工時の適性とを高度に両立できることを見出し本発明に到達した。
【0006】
かくして本発明によれば、
表裏で粗さの異なる2層以上からなる積層フィルムであって、より平坦な一方の層の平均表面粗さRaが0.5以上4.0nm未満であり、
少なくとも1層が下記式(I)および(II)
-C(O)-RA-C(O)- (I)
-O-RA-O- (II)
(上記構造式(I)~(II)中の、RAは、炭素数31~51のシクロ環および分岐鎖を含んでも良いアルキレン基を示す。)で示されるダイマー成分が、ポリエステルの繰り返し単位のモル数を基準として、0.3~5モル%未満の範囲で共重合された共重合ポリエステルから形成されており、
フィルムの長手方向のヤング率が1GPa以上6GPa以下、フィルムの厚みが1μm以上4.5μm以下、かつ長手方向のヤング率と厚みの積が5GPa・μm以上20GPa・μm以下であり、長手方向に2kg/mm2の荷重をかけて5℃/分の速度で30℃から110℃まで加熱した時のフィルム長手方向の伸びが3%以下である積層ポリエステルフィルムが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリエステルフィルムは、10Tb以上の超高密度記録媒体に用いるベースフィルムなどにおいて、温度や湿度といった環境変化に対する寸法安定性を向上させながらも、テープ張力によるテープ幅の調整が容易で、しかも走行性に優れ、かつ、磁気記録媒体への加工時にシワ等の発生もよくせされており、優れたデータストレージテープを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明で用いる寸法測定装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<共重合ポリエステル>
本発明における共重合ポリエステルは、ジカルボン酸成分とグリコール成分とからなる。
まず、具体的な前述のジカルボン酸成分はフェニレン基またはナフタレンジイル基であるものであり、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分、2,6-ナフタレンジカルボン酸成分、2,7-ナフタレンジカルボン酸成分等が挙げられる。これらの中でも、本発明の効果の点からは、比較的機械強度などの物性を向上させやすいテレフタル酸成分および2,6-ナフタレンジカルボン酸成分が好ましく、特に2,6-ナフタレンジカルボン酸成分が好ましい。
【0010】
前述のグリコール成分としては、炭素数2~4のアルキレングリコールが主に挙げられ、具体的にはエチレングリコール成分、トリメチレングリコール成分、テトラメチレングリコール成分、などが挙げられる。これらの中でも、本発明の効果の点からは、比較的機械強度などの物性を向上させやすいエチレングリコール成分が好ましい。
【0011】
本発明の特徴は、前述の式(I)および(II)で示される炭素数31~50の脂肪族ダイマー成分、好ましくはダイマー酸もしくはダイマージオールを共重合していることにある。具体的なダイマー酸、ダイマージオールとしては、分岐鎖を含んでいることが好ましく、シクロヘキサン環構造などの脂環部分を有することが好ましく、特に分岐鎖とシクロヘキサン環の両方を有するものが好ましい。好ましいダイマー成分の炭素数は34~46の範囲である。本発明における効果の点からは、ダイマー成分としてはダイマー酸もダイマージオールも好ましく用いることができるが、重合時のハンドリングや樹脂中に存在する異物の少なさの点からはダイマージオールが好ましい。
【0012】
なお、本発明における共重合ポリエステルは、本発明の効果を損なわない範囲で、それ自体公知の共重合成分、例えば脂肪族ジカルボン酸成分、脂環族ジカルボン酸成分、前述のいずれにも該当しないアルキレングリコール成分、ヒドロキシカルボン酸成分、トリメリット酸などの3官能以上の官能基を有する酸成分やアルコール成分などを共重合してもよい。
【0013】
前記ダイマー成分は、各フィルム層を形成するポリエステルの繰り返し単位のモル数を基準として、0.3~5モル%未満である必要がある。ダイマー成分のモル分率が多すぎると、製膜性が著しく悪くなり、フィルムを安定して製膜することが困難になる。そのため、ダイマー酸、ダイマージオールのモル分率は4.5モル%以下が好ましく、4.0モル&以下がさらに好ましく、3.5モル%以下が特に好ましい。
【0014】
ところで、本発明の積層ポリエステルフィルムは、後述の通り、表面粗さの異なる少なくとも2つ以上の層が積層されたものであり、そのうちの一つの層が前述のダイマー成分を共重合した共重合ポリエステルから形成されていればよい。各フィルム層中のダイマー成分の割合は、前述の上限量を超えなければ特に制限されないが、各層のダイマー成分のモル分率の差はできる限り小さいほうが好ましい。両層でのモル分率差が大きすぎるとカールが生じてしまい、磁性層等の塗工工程で不具合を生じてしまう。そのような観点から、モル分率差は3モル%以下がより好ましく、2.5モル%以下がさらに好ましく、2.0モル%以下が特に好ましい。
【0015】
一方、積層することで樹脂の分子量の差や製膜条件等で、望ましくない方向にフィルムがカールしてしまう場合がある。その場合は、各層のダイマー成分のモル分率差を意図的に生じさせても良い。そのような観点から、モル分率差の下限0モル%以上が好ましく、0.05モル%以上がより好ましく、0.10モル%以上がさらに好ましく、0.15モル%以上が特に好ましい。
【0016】
このような特定量の特定のダイマー成分を共重合した共重合ポリエステルを用いることで、温度膨張係数と湿度膨張係数の両方をともに低い成形品、例えばフィルムなどを製造することができる。そのため、テープ幅を一定に調整するための張力制御がより、容易になる。
【0017】
なお、上記特定のダイマー成分の共重合量は、重合段階で所望の共重合量となるように原料の組成を調整するか、例えば、ダイマージオールを用いる場合はジオール成分として上記特定のダイマージオール成分のみを用いたホモポリマーもしくはその共重合量が多いポリマーと、共重合していないポリマーまたは共重合量の少ないポリマーとを用意し、所望の共重合量となるようにこれらを溶融混練によってエステル交換させることで調整できる。
【0018】
<共重合ポリエステル樹脂の製造方法>
本発明の共重合ポリエステルの製造方法について、詳述する。
特定のダイマー酸成分としては、Croda社製のダイマー酸 “Priplast 1838”や“Pripol 1009”や“Pripol1004”等が挙げられる。
特定のダイマージオール成分としては、Croda社製のダイマージオール “Pripol 2033”やコグニス社製のダイマージオール“SOVERMOL 908”等が挙げられる。
【0019】
また、本発明における共重合ポリエステルは、ポリエステル前駆体を重縮合反応することで得ることができる。具体的には炭素数6以上の芳香族ジカルボン酸成分たとえば2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチルと特定のダイマー酸もしくはダイマージオールおよびエチレングリコールをエステル交換反応させて、ポリエステル前駆体を得ることができる。その後、このようにして得られたポリエステル前駆体を重合触媒の存在かで重合することで製造でき、必要に応じて固相重合などを施しても良い。このようにして得られる芳香族ポリエステルのP-クロロフェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(重量比40/60)の混合溶媒を用いて35℃で測定した固有粘度は、0.4~1.5dl/g、さらに0.5~1.2dl/g、特に0.55~0.8dl/gの範囲にあることが本発明の効果の点から好ましい。
【0020】
また、ポリエステルの前駆体を製造する際の反応温度としては、190℃~250℃の範囲で行なうことが好ましく、常圧下または加圧下で行なう。190℃よりも低いと反応が十分に進行しにくく、250℃よりも高いと副反応物であるジエチレングリコールなどが生成しやすい。
【0021】
なお、ポリエステルの前駆体を製造する反応工程では、公知のエステル化もしくはエステル交換反応触媒を用いてもよい。例えば酢酸マンガン、酢酸亜鉛、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、チタン化合物などが上げられる。フィルムにしたときの表面高突起を抑えることができるチタン化合物が好ましい。
【0022】
つぎに、重縮合反応について説明する。まず、重縮合温度は得られるポリマーの融点以上でかつ230~300℃以下、より好ましくは融点より5℃以上高い温度から融点より30℃高い温度の範囲である。重縮合反応では通常100Pa以下の減圧下で行なうのが好ましい。
【0023】
重縮合触媒としては、少なくとも一種の金属元素を含む金属化合物が挙げられる。なお、重縮合触媒はエステル化反応においても使用することができる。金属元素としては、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、スズ、コバルト、ロジウム、イリジウム、ジルコニウム、ハフニウム、リチウム、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられる。より好ましい金属としては、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウム、スズなどであり、前述したように、特にチタン化合物を使用するとフィルムとしたときに触媒で使用した残存金属の影響による表面の高突起物を抑えられるため、これを使用することが好ましい。
【0024】
これらの触媒は単独でも、あるいは併用してもよい。かかる触媒量は、共重合ポリエステルの繰り返し単位のモル数に対して、0.001~0.1モル%、さらには0.005~0.05モル%が好ましい。
【0025】
具体的なエステル化触媒、エステル交換触媒および重縮合触媒としてのチタン化合物としては、例えば、テトラ-n-プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート、テトライソブチルチタネート、テトラ-tert-ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート、蓚酸チタン酸リチウム、蓚酸チタン酸カリウム、蓚酸チタン酸アンモニウム、酸化チタン、チタンのオルトエステル又は縮合オルトエステル、チタンのオルトエステル又は縮合オルトエステルとヒドロキシカルボン酸からなる反応生成物、チタンのオルトエステル又は縮合オルトエステルとヒドロキシカルボン酸とリン化合物からなる反応生成物、チタンのオルトエステル又は縮合オルトエステルと少なくとも2個のヒドロキシル基を有する多価アルコール、2-ヒドロキシカルボン酸、又は塩基からなる反応生成物などが挙げられる。
【0026】
そして、本発明における共重合ポリエステルは、前述の通り、所望の共重合量の共重合ポリエステルとなるように重合してもよいし、溶融混練時にエステル交換反応が進むので、2種以上の共重合量の異なる芳香族ポリエステルを作成し、それらを溶融混練して所望の共重合量となるようにブレンドして作成してもよい。
【0027】
なお、本発明における前述のポリエステルは、本発明の効果を阻害しない範囲で、それ自体公知の添加剤や他の樹脂をブレンドして組成物としてもよい。添加剤としては、紫外線吸収剤等の安定剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、離型剤、顔料、核剤、充填剤あるいはガラス繊維、炭素繊維、層状ケイ酸塩などが挙げられ、用いられる用途の要求に応じて適宜選択すればよい。また、他の樹脂としては、脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ABS樹脂、液晶性樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルイミド、ポリイミドなどが挙げられる。
【0028】
ところで、本発明の積層ポリエステルフィルムは、前述の共重合ポリエステルの他に、さらにポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンからなる群より選ばれる少なくとも1種を、各フィルム層の質量を基準として、0.5~25重量%の範囲で含有させてポリエステル組成物としてもよい。このような樹脂を上記範囲で含有させることで、ポリエステル樹脂組成物としてのガラス転移温度を高くでき、結果として寸法安定性をより高めやすい。これらの中でもポリエーテルイミドはより均一に分散させやすく、かつガラス転移温度を高めやすいことから好ましい。含有量は少なすぎると耐熱性向上の効果は少なく、多すぎると相分離する。そのような観点から好ましい含有量は、各フィルム層の質量を基準として、2~20重量%、より好ましくは4~18重量%、さらに好ましくは5~15重量%である。なお、具体的なポリエーテルイミドとしては、特開2000-355631号公報などで開示したものを挙げられる。また、より環境変化に対する寸法安定性を向上させる観点から、国際公開2008/096612号パンフレットに記載された6,6’-(エチレンジオキシ)ジ-2-ナフトエ酸成分、6,6’-(トリメチレンジオキシ)ジ-2-ナフトエ酸成分および6,6’-(ブチレンジオキシ)ジ-2-ナフトエ酸成分などを共重合したものも好ましい。
【0029】
前記のポリエーテルイミドを含有する積層ポリエステルフィルムの場合、ガラス転移温度が350℃以下、より好ましくは250℃以下のポリエーテルイミドが好ましく、2,2-ビス[4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物とm-フェニレンジアミンまたはp-フェニレンジアミンとの縮合物が、ポリエステルとの相溶性、コスト、溶融成形性等の観点から最も好ましい。このポリエーテルイミドは、SABIC社製の「Ultem(登録商標)1000または5000シリーズ」で知られているものである。
【0030】
<積層ポリエステルフィルム>
以下、本発明の積層ポリエステルフィルムについて、詳述する。なお、説明の便宜上、フィルムの製膜方向を、機械軸方向、縦方向、長手方向、MD方向と称することがあり、製膜方向と厚み方向とに直交する方向を、幅方向、横方向、TD方向と称することがある。
【0031】
本発明のポリエステルフィルムは、フィルムの長手方向のヤング率が1GPa以上、6GPa以下である。ヤング率が下限未満では薄手フィルムの取り扱いが非常に困難であり、また、上限を超えると、磁気記録媒体としたときに再生装置のテープ張力を調整して幅方向の寸法制御を行なう際、より大きな張力変化を与えなければならなくなる。長手方向のヤング率の好ましい下限は、1.5GPa以上、さらに2GPa以上、特に2.5GPa以上であり、好ましい上限は、5.5GPa以下、さらに5GPa以下、特に4.5GPa以下である。
【0032】
本発明の積層ポリエステルフィルムは良好な電磁変換特性とウェブハンドリング性を両立させるために表面粗さがフィルムの表裏で異なる積層ポリエステルフィルムが好ましい。一般的に平坦な面は磁性層、粗い面はバックコート層が塗布される。平坦な面の平均表面粗さRaは0.7~3.8nmが好ましく、0.9~3.6nmがさらに好ましく、1.1~3.4nmが特に好ましい。また、粗い面の平均表面粗さは4.0~8.0nmの範囲が好ましく、さらに4.3~7.5nmが好ましく、4.6~7.0nmがより好ましく、特に4.8~6.5nmが好ましい。
【0033】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、その厚みが1μm以上、4.5μm以下である。厚みが下限未満であるとその取扱いが非常に困難となり、また、フィルムを製膜する際に破断しやすくなるため適していない。厚みが上限を超えると、磁気記録媒体としたときに再生装置のテープ張力を調整して幅方向の寸法制御を行なう際、より大きな張力変化を与えなければならなくなる。より好ましい厚みの下限は1.5μm以上、さらに2μm以上で、好ましい上限は4μm以下、さらに3.5μm以下である。
【0034】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、長手方向のヤング率と厚みの積の値が、5GPa・μm以上20GPa・μm以下である。この値が下限未満であるとその取扱いが非常に困難であり、また、この値が上限を超えると、磁気記録媒体としたときに再生装置のテープ張力を調整して幅方向の寸法制御を行なう際、より大きな張力変化を与えなければならなくなる。より好ましい長手方向ヤング率と厚みの積の値の下限は、8GPa・μm以上、さらに10GPa・μm以上であり、好ましい上限は18GPa・μm以下、さらに16GPa・μm以下である。
【0035】
さらに、本発明の積層ポリエステルフィルムは、長手方向に2kg/mm2の荷重をかけて30℃から110℃に昇温した時のフィルム長手方向の伸びが3%以下である。長手方向の伸び量が上限を超えると、磁性塗料を塗布する際に長手方向に伸びやすく、座屈現象によりしわを発生させてしまう。より好ましい前記フィルム長手方向の伸びの上限は2.8%以下、2.6%以下、2.5%以下、2.4%以下、2.0%以下、1.5%以下であることが好ましい。
【0036】
後述の動的粘弾性測定装置(DMA)で測定することで得られるtanδの値は高いほうが好ましく、100℃以上であることが好ましい。tanδが高いほど、磁性層等の塗工工程でフィルムが長手方向に伸びにくくなり、切断や塗り斑等のトラブルが起きにくい。より好ましいtanδの下限は115℃以上、さらに好ましくは120℃以上、特に好ましくは125℃以上である。なお、前述の通り、tanδの値は高いほど好ましいことから、その上限は特に制限されない。
【0037】
また、本発明の積層ポリエステルフィルムは、優れた寸法安定性を発現する点から、フィルムの幅方向の温度膨張係数(αt)が-8.0~10ppm/℃、さらに-7.5~9ppm/℃、特に-7.0~8ppm/℃の範囲にあることが好ましい。
【0038】
また、本発明の積層ポリエステルフィルムは、優れた寸法安定性を発現する点から、フィルムの幅方向の湿度膨張係数(αh)は1~8.5ppm/%RH、さらに3~8.5ppm/%RH、特に4~7ppm/%RHの範囲にあることが好ましい。この範囲から外れると、湿度変化に対する寸法変化が大きくなる。このような温度膨張係数、湿度膨張係数は、前述のブレンドまたは共重合組成および後述の延伸によって調整できる。
【0039】
<積層ポリエステルフィルムの製造方法>
本発明の積層ポリエステルフィルムは、前述の通り、配向ポリエステルフィルムであることが好ましく、特に製膜方向と幅方向に延伸してそれぞれの方向の分子配向を高めたものであることが好ましい。このようなポリエステルフィルムは、例えば以下のような方法で製造することが製膜性を維持しつつ、任意のヤング率、温度膨張係数、湿度膨張係数等の物性を付与しやすいことから好ましい。
【0040】
まず、上述の共重合ポリエステルを少なくとも一つの層の原料とし、2種以上の溶融ポリエステルをダイ内で積層してからフィルム状に押出し、好ましくはそれぞれのポリエステルの融点(Tm:℃)ないし(Tm+70)℃の温度で押出すか、2種以上の溶融ポリエステルをダイから押出した後に積層し、急冷固化して積層未延伸フィルムとし、さらに該未延伸フィルムを二軸延伸する。
【0041】
なお、本発明で規定するαt、αh、さらにヤング率などを達成するためには、その後の延伸を進行させやすくすることが必要であり、本発明のポリエステル組成物は結晶化速度が速い傾向にあり、そのような観点から冷却ドラムによる冷却は非常に速やかに行なうことが好ましい。そのような観点から、20~60℃という低温で行なうことが好ましい。このような低温で行なうことで、未延伸フィルムの状態での結晶化が抑制され、その後の延伸をよりスムーズに行なうことが可能となる。
【0042】
二軸延伸としては、それ自体公知のものを採用でき、逐次二軸延伸でも同時二軸延伸でもよい。
【0043】
ここでは、縦延伸、横延伸および熱処理をこの順で行なう逐次二軸延伸の製造方法を一例として挙げて説明する。まず、最初の縦延伸は共重合ポリエステルのガラス転移温度(Tg:℃)ないし(Tg+40)℃の温度で、3~8倍に延伸し、次いで横方向に先の縦延伸よりも高温で(Tg+10)~(Tg+50)℃の温度で3~8倍に延伸し、さらに熱処理として共重合ポリエステルの融点以下の温度でかつ(Tg+50)~(Tg+150)℃の温度で1~20秒、さらに1~15秒熱固定処理するのが好ましい。
【0044】
前述の説明は逐次二軸延伸について説明したが、本発明のポリエステルフィルムは縦延伸と横延伸とを同時に行なう同時二軸延伸でも製造でき、例えば先で説明した延伸倍率や延伸温度などを参考にすればよい。
【0045】
本発明によれば、本発明の上記ポリエステルフィルムをベースフィルムとし、その一方の面に非磁性層および磁性層をこの順で形成し、他方の面にバックコート層を形成することなどでデータストレージなどの磁気記録テープとすることができる。
【0046】
ところで、本発明の積層ポリエステルフィルムは、前述の通り平坦性と巻取性とを両立しやすい。例えば、表面粗さの小さい平坦な表面に磁気層、表面粗さの大きい粗い表面にバックコート層を塗布することで、要求される平坦性と搬送性とをより高度に両立できる。この際、樹脂に添加させる不活性粒子の種類は球状シリカ、ケイ酸アルミニウム、二酸化チタン、炭酸カルシウムなどの無機粒子、またその他有機系高分子粒子としては、架橋ポリスチレン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋スチレン-アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル粒子、ポリイミド粒子、メラミン樹脂粒子等が好ましい。これらの1種もしくは2種以上を選択して用いることもできる。
【0047】
不活性粒子の大きさは、0.01μm以上1μm以下が好ましく、さらに好ましくは0.05μm以上0.7μm以下、特に好ましくは0.1μm以上0.5μm以下である。
【0048】
樹脂への不活性粒子の添加方法については、樹脂を構成する成分の一部に粒子を添加してスラリー状としてそのまま重合を行なう場合と、樹脂の重合後に二軸押出機を用いて添加するなど複数の方法がある。好ましい不活性粒子の添加量は、全フィルム重量に対して、0.001%以上2%以下、より好ましくは0.01%以上1%以下、特に好ましくは0.1%以上0.8%以下である。
【0049】
本発明の磁気記録テープは、上述の樹脂フィルムに磁性層を形成することで製造できる。なお、本発明の樹脂フィルムの表面には、滑り性の付与や磁性層などとの接着性を向上させるために、本発明の効果を損なわない範囲で、それ自体公知の易滑機能や易接着機能を有する塗膜層などを形成しても良い。
【0050】
本発明における磁気記録テープを形成する磁性層は、特に制限されないが、鉄または鉄を主成分とする針状微細磁性粉やバリウムフェライトをポリ塩化ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体等のバインダーに均一分散し、その塗液を塗布して形成したものであり、前述のとおり、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを使用することで、寸法安定性と電磁変換特性やエラーレート性能に選りすぐれた磁気記録テープとすることができる。
【0051】
ところで、前述の通り記録密度を高めていくには磁性体を微細化していくことが必要で、そのため塗液から溶剤などの除去が難しくなり、加工性を維持しようとすると、乾燥などをより高温で行う必要がでてきた。そして、極めて平坦な表面を有するフィルムを高温で加工しようとすると、シワなどの問題があることを新たに見出し、本発明に到達した。
【0052】
なお、磁性層は、その厚みが1μm以下、さらに0.1~1μmとなるように塗布するのが、特に短波長領域での出力、S/N、C/N等の電磁変換特性に優れ、ドロップアウト、エラーレートの少ない高密度記録用塗布型磁気記録テープとする観点から好ましい。また、必要に応じて、塗布型磁性層の下地層として、微細な酸化チタン粒子等を含有する非磁性層を磁性層と同様の有機バインダー中に分散し、塗設することも好ましい。
【0053】
また、磁性層の表面には、目的、用途、必要に応じてダイアモンドライクカーボン(DLC)等の保護層、含フッ素カルボン酸系潤滑層を順次設け、さらに他方の表面に、公知のバックコート層を設けてもよい。
【0054】
このようにして得られる塗布型磁気記録テープは、LTO、エンタープライズ等のデータ用途の磁気テープとして極めて有用である。特に本発明に寄れば、テープテンションの調整により正確なトラッキングが可能となることからリニアテープにおけるトラック密度を飛躍的に向上させることが可能になる。
【実施例】
【0055】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明では、以下の方法により、その特性を測定および評価した。
【0056】
(1)ヤング率
得られたフィルムを試料巾10mm、長さ15cmで切り取り、チャック間100mm、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分の条件で万能引張試験装置(東洋ボールドウィン製、商品名:テンシロン)にて引っ張る。得られた荷重―伸び曲線の立ち上がり部の接線よりヤング率を計算する。
【0057】
(2)フィルムの厚み
ゴミが入らないようにフィルムを10枚重ね、打点式電子マイクロメータにて厚みを測定し、1枚当たりのフィルム厚みを計算する。
【0058】
(3)各層の厚み
未延伸フィルムの場合は、その製膜方向に直行する方向の断面をミクロトーム(ULTRACUT-S)で切り出した後、光学顕微鏡を用いて、各層のそれぞれの厚みと占める割合を算出した。各層の割合と(2)で求めたフィルムの厚みを掛けることで各層の厚みを算出した。
延伸フィルムの場合は、同様にして切り出した後、透過型電子顕微鏡を用いてそれぞれの層の厚みを算出した。
【0059】
(4)高温高張力下でのフィルム伸び
フィルムを長手方向30mm、幅方向4mmに切り出し、チャック間が20mmmとなるようにセイコーインスツルメント社製熱機械特性測定試験機EXSTR-6000にセットする。フィルム長手方向に2kg/mm2の荷重をかけた状態で30℃から170℃まで5℃/分の昇温速度で昇温し、サンプルの長手方向の30℃での長さ(L1)と110℃での長さ(L2)から、下記式に従って伸び(%)を算出する。
110℃伸び(%)=(L2-L1)/L1×100
【0060】
(5)動的粘弾性
パーキンエルマー社製粘弾性測定装置DMA-8000に、長手30mm幅方向5mmに切断したサンプルをチャック間11mm振幅0.1mmにセットし、30℃から材料の融点―20℃まで、2℃/分の昇温速度で昇温する。周波数1Hzでのtanδのピーク温度を求める。
【0061】
(6)温度膨張係数(αt)
得られたフィルムを、フィルムの製膜方向および幅方向がそれぞれ測定方向となるように長さ15mm、幅5mmに切り出し、真空理工製TMA3000にセットし、窒素雰囲気下(0%RH)、60℃で30分間前処理し、その後室温まで降温させる。その後25℃から70℃まで2℃/minで昇温して、各温度でのサンプル長を測定し、次式より温度膨張係数(αt)を算出する。なお、測定方向が切り出した試料の長手方向であり、5回測定し、その平均値を用いた。
αt={(L60-L40)}/(L40×△T)}+0.5
ここで、上記式中のL40は40℃のときのサンプル長(mm)、L60は60℃のときのサンプル長(mm)、△Tは20(=60-40)℃、0.5は石英ガラスの温度膨張係数(×10-6/℃)である。
【0062】
(7)湿度膨張係数(αh)
得られたフィルムを、フィルムの製膜方向および幅方向がそれぞれ測定方向となるように長さ15mm、幅5mmに切り出し、真空理工製TMA3000にセットし、30℃の窒素雰囲気下で、湿度30%RHと湿度70%RHにおけるそれぞれのサンプルの長さを測定し、次式にて湿度膨張係数を算出する。なお、測定方向が切り出した試料の長手方向であり、5回測定し、その平均値をαhとした。
αh=(L70-L30)/(L30×△H)
ここで、上記式中のL30は30%RHのときのサンプル長(mm)、L70は70%RHのときのサンプル長(mm)、△H:40(=70-30)%RHである。
【0063】
(8)ダイマー成分(ダイマー酸、ダイマージオール)の特定
試料20mgを重トリフルオロ酢酸:重クロロホルム=1:1(容積比)の混合溶媒0.6mLに室温で溶解し、500MHzで1H-NMRでポリマーチップおよびフィルム中のダイマー酸およびダイマージオールの量を算出した。
【0064】
(9)固有粘度(IV)
得られたポリエステルおよびフィルムの固有粘度は、P-クロロフェノール/テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒を用いてポリマーを溶解して35℃で測定して求めた。
【0065】
(10)ガラス転移点(Tg)および融点(Tm)
ガラス転移点(補外開始点)、融点はDSC(TAインスツルメンツ株式会社製、商品名:Thermal Analyst2100)により、試料量10mgで昇温速度20℃/minで測定した。
【0066】
(11)DMA tanδ
フィルムサンプルを幅5mm、長さ35mmに切り、(株)パーキンエルマー製の動的粘弾性測定装置(DMA8000)を用い、周波数1Hzで室温から240℃まで2℃/分で昇温して測定した。得られたチャートよりtanδを求めた。
【0067】
(12)磁気記録テープの作成
1m幅にスリットしたフィルムを、張力2kg/mm2で搬送させ、支持体の一方の表面に以下の記載に従って磁性塗料および非磁性塗料を塗布し12.65mm幅にスリットし、パンケーキを作成する。次いで、このパンケーキから長さ200m分をカセットに組み込んで、磁気テープとした。
【0068】
(以下、「部」とあるのは「質量部」を意味する。)
<磁性層形成用塗布液>
バリウムフェライト磁性粉末 100部
(板径:20.5nm、板厚:7.6nm、板状比:2.7、Hc:191kA/m(≒2400Oe)
飽和磁化:44Am2/kg、BET比表面積:60m2/g)
ポリウレタン樹脂 12部
質量平均分子量 10,000
スルホン酸官能基 0.5meq/g
α-アルミナ HIT60(住友化学社製) 8部
カーボンブラック #55(旭カーボン社製)
粒子サイズ0.015μm 0.5部
ステアリン酸 0.5部
ブチルステアレート 2部
メチルエチルケトン 180部
シクロヘキサノン 100部
【0069】
<非磁性層形成用塗布液>
非磁性粉体 α酸化鉄 85部
平均長軸長0.09μm、BET法による比表面積 50m2/g
pH 7
DBP吸油量 27~38ml/100g
表面処理層Al2O3 8質量%
カーボンブラック 15部
“コンダクテックス”(登録商標)SC-U(コロンビアンカーボン社製)
ポリウレタン樹脂 UR8200(東洋紡社製) 22部
フェニルホスホン酸 3部
シクロヘキサノン 140部
メチルエチルケトン 170部
ブチルステアレート 1部
ステアリン酸 2部
メチルエチルケトン 205部
シクロヘキサノン 135部
【0070】
上記の塗布液(磁性層形成用塗布液、非磁性層形成用塗布液)のそれぞれについて、各成分をニーダで混練した。1.0mmφのジルコニアビーズを分散部の容積に対し65体積%充填する量を入れた横型サンドミルに、塗布液をポンプで通液し、2,000rpmで120分間(実質的に分散部に滞留した時間)、分散させた。得られた分散液にポリイソシアネートを非磁性層の塗料には5.0部、磁性層の塗料には2.5部を加え、さらにメチルエチルケトン3部を加え、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、非磁性層形成用および磁性層形成用の塗布液をそれぞれ調製した。
【0071】
得られた非磁性層形成用塗布液を、フィルム上に乾燥後の厚さが0.8μmになるように塗布乾燥させた後、磁性層形成用塗布液を乾燥後の磁性層の厚さが0.07μmになるように塗布を行い、磁性層がまだ湿潤状態にあるうちに6,000G(600mT)の磁力を持つコバルト磁石と6,000G(600mT)の磁力を持つソレノイドにより配向させ乾燥させた。その後、カレンダー後の厚みが0.5μmとなるようにバックコート層(カーボンブラック 平均粒子サイズ:17nm 100部、炭酸カルシウム平均粒子サイズ:40nm 80部、αアルミナ 平均粒子サイズ:200nm 5部をポリウレタン樹脂、ポリイソシアネートに分散)を塗布した。次いでカレンダーで温度90℃、線圧300kg/cm(294kN/m)にてカレンダー処理を行った後、70℃で、48時間キュアリングした。さらに、スリット品の送り出し、巻き取り装置を持った装置に不織布とカミソリブレードが磁性面に押し当たるように取り付け、テープクリーニング装置で磁性層の表面のクリーニングを行い、磁気テープを得た。
【0072】
(13)磁気記録テープにテンションをかけた時の幅方向寸法変化
温度23℃、湿度50%の雰囲気下において、上記(12)で作成した幅12.65mm(1/2インチ)にスリットした磁気テープ(長さ30cm)を
図1に示す装置で測定した。具体的には、
図1中の符号は、1…発信部、1a…発信部の発光部、2…レーザー光、3…磁気テープ、4…受信部、4b…受信部の受光部、5…架台、6…寸法測定機、7…円筒面の載置面を示し、
図1に示すように磁気テープを載置面に配置した。
【0073】
この状態で磁気テープの片側(もう一方は固定)に0.2Nの重りをつけ、そのときの磁気テープの幅(T1)をキーエンス製レーザー外径測定器(LS-9030N)にて測定する。
【0074】
その後、重り1.2Nに付け替え、そのときの磁気テープの幅の幅(T2)をキーエンス製レーザー外径測定器(LS-9030N)にて測定する。
1Nあたりの幅寸法変化量は次式から算出した。
幅寸法変化量(ppm)=(T1-T2)/T1×1000,000
更にこの測定を3回繰り返し、平均値を1Nあたりの幅方向寸法変化量とした。
【0075】
(14)加工適性
上記(12)磁気記録テープの作成における磁性塗料を塗布乾燥する工程で、乾燥後のウェブの状況を観察し、以下の基準で判定した。
◎:乾燥後のしわが0本/1m幅
○:乾燥後のしわが1本/1m幅
×:乾燥後のしわが2本以上/1m幅
【0076】
(15)テンション制御のしやすさ
上記(13)と同様の方法で、磁気テープの長手方向に重り0.55Nの加重を加えた。下記の保管環境条件の変化によって、生じる1/2インチ磁気テープの幅方向の寸法変化を計測し、幅方向の寸法変化が0となるように加重を増減させ、必要な加重の変化量を求めた環境変化Aおよび環境変化Bでそれぞれ必要な加重変化量の和の合計を求め、テープのテンション制御のしやすさを評価した。より小さな加重変化量であるほど、テンション制御しやすいテープであることを表す。
<環境変化A:温度=15℃、湿度=15%RH→温度=25℃、湿度=75%RH>
<環境変化B:温度=15℃、湿度=75%RH→温度=40℃、湿度=15%RH>
【0077】
(16)電磁変換特性
電磁変換特性測定には、ヘッドを固定した1/2インチリニアシステムを用いた。記録は、電磁誘導型ヘッド(トラック幅25μm、ギャップ0.1μm)を用い、再生はMRヘッド(8μm)を用いた。ヘッド/テープの相対速度は10m/秒とし、記録波長0.2μmの信号を記録し、再生信号をスペクトラムアナライザーで周波数分析し、キャリア信号(波長0.2μm)の出力Cと、スペクトル全域の積分ノイズNの比をC/N比とし、上記11の方法で作成した比較例2を0dBとした相対値を求め、以下の基準で、評価した。
◎:+1dB以上
○:-1dB以上、+1dB未満
×:-1dB未満
【0078】
(17)エラーレート
上記(12)で作製したテープ原反を12.65mm(1/2インチ)幅にスリットし、それをLTO用のケースに組み込み、磁気記録テープの長さが850mのデータストレージカートリッジを作成した。このデータストレージを、IBM社製LTO5ドライブを用いて23℃50%RHの環境で記録し(記録波長0.55μm)、次に、カートリッジを50℃、80%RH環境下に7日間保存した。カートリッジを1日常温に保存した後、全長の再生を行い、再生時の信号のエラーレートを測定した。エラーレートはドライブから出力されるエラー情報(エラービット数)から次式にて算出する。次の基準で寸法安定性を評価する。
エラーレート=(エラービット数)/(書き込みビット数)
◎:エラーレートが1.0×10-6未満
○:エラーレートが1.0×10-6以上、1.0×10-4未満
×:エラーレートが1.0×10-4以上
【0079】
(18)ドロップアウト
上記(17)でエラーレートを測定したデータストレージカートリッジを、IBM社製LTO5ドライブに装填してデータ信号を14GB記録し、それを再生した。平均信号振幅に対して50%以下の振幅(P-P値)の信号をミッシングパルスとし、4個以上連続したミッシングパルスをドロップアウトとして検出した。なお、ドロップアウトは850m長1巻を評価し、1m当たりの個数に換算して、下記の基準で判定する。
◎:ドロップアウト 3個/m未満
○:ドロップアウト 3個/m以上、9個/m未満
×:ドロップアウト 9個/m以上
【0080】
<ポリエチレンナフタレートペレットA1の調製>
ジカルボン酸成分として2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル、ジオール成分としてエチレングリコールをチタンテトラブトキシドの存在下でエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、ポリエチレンナフタレートペレットA1を用意した(IV=0.58dl/g、Tg=115℃、Tm=263℃)。
【0081】
<ポリエチレンテレフタレートペレットA2の調製>
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸ジメチル、ジオール成分としてエチレングリコールをチタンテトラブトキシドの存在下でエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、ポリエチレンテレフタレートペレットA2を用意した(IV=0.58dl/g、Tg=76℃、Tm=254℃)。
【0082】
<ダイマー酸共重合ポリエチレンナフタレートペレットB1の調製>
ジカルボン酸成分として2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル、Priplast 1838、ジオール成分としてエチレングリコールをチタンテトラブトキシドの存在下でエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、ダイマー酸を共重合せしめた共重合ポリエチレンナフタレートペレットB1を用意した(IV=0.60dl/g、Tg=58℃、Tm=232℃)。なお、ジカルボン酸成分としてのダイマー酸の含有量はNMRによる解析によって10.6モル%であることが分かった。
【0083】
<ダイマー酸共重合ポリエチレンナフタレートペレットB2の調製>
ジカルボン酸成分として2,6-ナフタレンジカルボン酸、Pripol1004、ジオール成分としてエチレングリコールをチタンテトラブトキシドの存在下でエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、ダイマー酸を共重合せしめた共重合ポリエチレンナフタレートペレットB2を用意した(IV=0.58dl/g)。なお、酸成分としてのダイマー酸の含有量は10.6mol%となるように調製した。
【0084】
<ダイマー酸共重合ポリエチレンテレフタレートペレットB3の調製>
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸ジメチル、Priplast1838、ジオール成分としてエチレングリコールをチタンテトラブトキシドの存在下でエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、ダイマー酸を共重合せしめた共重合ポリエチレンテレフタレートペレットB3を用意した(IV=0.58dl/g、Tg=47℃、Tm=244℃)。なお、ジカルボン酸成分としてのダイマー酸の含有量は10.6モル%となるように調製した。
【0085】
<ダイマージオール共重合ポリエチレンナフタレートペレットC1の調製>
ジカルボン酸成分として2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル、ジオール成分としてエチレングリコール、Pripol2033をチタンテトラブトキシドの存在下でエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、ダイマージオールを共重合せしめた共重合ポリエチレンナフタレートペレットC1を用意した(IV=0.57dl/g、Tg=77℃、Tm=250℃)。なお、ジオール成分としてのダイマージオールの含有量はNMRによる解析によって10.3モル%であることが分かった。
【0086】
<ダイマージオール共重合ポリエチレンテレフタレートペレットC2の調製>
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸ジメチル、ジオール成分としてPripol2033、エチレングリコールをチタンテトラブトキシドの存在下でエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、ダイマージオールを共重合せしめた共重合ポリエチレンテレフタレートペレットC2を用意した(IV=0.56dl/g、Tg=50℃、Tm=249℃)。なお、ジオール成分としてのダイマージオールの含有量は10.3モル%となるように調製した。
【0087】
[実施例1]
フィルム層Aとして、ペレットA1を300℃で押出した。フィルム層Bとして、ペレットA1およびB1をそれぞれ質量比で75:25の割合でブレンドし、280℃で押出した。フィルム層Bのダイマー酸のモル分率は2.3モル%である。その後、300でフィードブロックを用いて、フィルム層Aとフィルム層Bの厚みを表1に示すとおりになるように2層にせしめ、回転中の温度60℃の冷却ドラム状に押出し、未延伸フィルムとした。
【0088】
なお、フィルム層Aには平均粒径0.1μmの真球状シリカ粒子を、フィルム層Aの質量を基準としたとき、0.1質量%となるように含有させ、フィルム層Bには、平均粒径0.2μmの真球状シリカ粒子を、フィルム層Bの質量を基準としたとき、0.1質量%となるように含有させた。
【0089】
そして、未延伸フィルムを、製膜方向に沿って回転速度の異なる2組のローラー間で、情報よりIRヒーターにてフィルム表面温度が130℃となるように加熱して、縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率4.5倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、130℃で横方向(幅方向)に延伸倍率5.0倍で延伸し、その後210℃で3秒間熱固定処理を行い、厚さ5.0μmの二軸配向積層ポリエステルフィルムを得た。
得られた二軸配向積層ポリエステルフィルムの結果を表2に示す。
【0090】
[実施例2~15、17~20、比較例1~5]
表1に示した通り、組成および成膜条件を変更したほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた二軸配向積層ポリエステルフィルムの結果を表2に示す。
【0091】
[実施例16、21]
表1に示した通り、組成および成膜条件を変更し、縦延伸後の一軸延伸フィルムに滑り性付与のため、フィルム層Aの露出面に塗布層A、フィルム層Bの露出面に塗布層Bをそれぞれ乾燥後に得られる被膜層の厚みが8nmとなるように設けたほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた二軸配向積層ポリエステルフィルムの結果を表2に示す。なお、塗布層Aおよび塗布層Bの形成に用いた水溶性塗液中の固形分組成を以下に示す。
【0092】
<塗布層Aの形成に用いた水溶性塗液:固形分濃度1.0質量%>
固形分組成
・バインダー樹脂 アクリル変性ポリエステル 67質量%
・不活性粒子 架橋アクリル樹脂粒子(平均粒径15nm) 6質量%
・界面活性剤 日本油脂株式会社 ノニオンNS-208.5 1質量%
・界面活性剤 日本油脂株式会社 ノニオンNS-240 26質量%
【0093】
<塗布層Bの形成に用いた水溶性塗液:固形分濃度1.9質量%>
固形分組成
・バインダー樹脂 アクリル変性ポリエステル 58質量%
・バインダー樹脂 メチルセルロース 20質量%
・バインダー樹脂 シロキサン共重合アクリル樹脂 3質量%
・不活性粒子 架橋アクリル粒子(平均粒径40nm) 9質量%
・界面活性剤 三洋化成株式会社 ナロアクティーN85 10質量%
この塗布層が設けられた一軸延伸フィルムをステンターに導き、表2に記載の条件で横延伸、熱固定を行い、二軸配向積層ポリエステルフィルムを得た。
得られた二軸配向積層ポリエステルフィルムの結果を表1に示す。
【0094】
【0095】
表1中のPEIは、ポリエーテルイミド(SABIC イノベーティブプラスチック社製の商品名”Ultem 1010”)を意味し、ブレンド成分比率はフィルム層の重量を基準とした割合である。
【0096】
【符号の説明】
【0097】
1…発信部
1a…発信部の発光部
2…レーザー光
3…磁気テープ
4…受信部
4b…受信部の受光部
5…架台
6…寸法測定機
7…円筒面の載置面