(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】ステータの検査システム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/52 20200101AFI20220222BHJP
G01R 31/72 20200101ALI20220222BHJP
G01R 31/34 20200101ALI20220222BHJP
G01R 31/00 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
G01R31/52
G01R31/72
G01R31/34 A
G01R31/34 B
G01R31/00
(21)【出願番号】P 2018222845
(22)【出願日】2018-11-28
【審査請求日】2021-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】特許業務法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】猪飼 健介
(72)【発明者】
【氏名】安谷屋 拓
(72)【発明者】
【氏名】平野 泰三
(72)【発明者】
【氏名】杉本 亘
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-202339(JP,A)
【文献】特開2009-53145(JP,A)
【文献】特開2012-73207(JP,A)
【文献】特開2004-347609(JP,A)
【文献】特開平5-49065(JP,A)
【文献】特開2002-161991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/50
G01R 31/34
G01R 31/00
G01N 27/20
H02K 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁被覆導線からなるコイルを有するステータの検査システムであって、
内部に密閉状態で前記ステータを収納可能であり、電気伝導性を有する検査液によって前記ステータを浸漬可能な検査室が形成された検査容器と、
前記ステータからの前記検査液を介した漏電を検査する検査装置と、
前記検査室と液体供給通路によって連通し、前記検査液を貯留する液体タンクとを備え、
前記検査容器は、開口を有して有底筒状をなし、内部に前記ステータが固定された電機室が形成され、前記電機室が前記検査室とされる電機ハウジングと、前記開口を閉塞するように前記電機ハウジングに設けられ、前記検査室を密閉可能な蓋体とを有し、
前記蓋体には、前記検査液を攪拌可能な攪拌機構と、前記液体供給通路とが設けられていることを特徴とするステータの検査システム。
【請求項2】
前記検査室と変圧通路によって連通し、前記検査室を変圧可能な変圧装置を備え、
前記蓋体には、前記変圧通路と、前記検査室内の圧力を検知可能な圧力センサとが設けられている請求項1記載のステータの検査システム。
【請求項3】
前記電機ハウジングは、重量計上に載置されている請求項1又は2記載のステータの検査システム。
【請求項4】
前記電機ハウジングには、外部と前記検査室とを連通する連通口が形成され、
前記連通口は、前記検査室内に前記検査液を貯留する際には閉塞され、前記検査室から前記検査液を排出する際には開放される請求項1乃至3のいずれか1項記載のステータの検査システム。
【請求項5】
前記ステータは環状であり、
前記攪拌機構は、前記蓋体に回転可能に支持される軸部と、前記軸部に一体回転可能に固定されつつ前記ステータの内部に位置するファンとを備え、
前記ファンは、磁性体からなるとともに、前記軸部から前記ステータに向けて突出しつつ前記ステータの内周面に沿って周方向に並ぶ複数の突部を有し、前記ステータへの通電によってリラクタンスモータとして回転する請求項1乃至4のいずれか1項記載のステータの検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はステータの検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
モータ等を構成するステータはコイルを有し、コイルは絶縁被覆導線からなっている。絶縁被覆導線の具体例は、導線としての銅線にエナメルからなる絶縁層が被覆されたエナメル線である。絶縁被覆導線の絶縁層にピンホール、傷等の目視不能な欠陥があると、電気伝導性のある雰囲気でコイルに短絡を生じ、モータ等の本来の機能が損なわれてしまう。
【0003】
特許文献1には、このようなステータの検査システムが開示されている。この検査システムは、検査容器と、検査装置とを備えている。検査容器は、内部に密閉状態でステータを収納可能であり、電気伝導性を有する検査液によってステータを浸漬可能な検査室が形成されている。検査容器としては、モータハウジングと圧縮ハウジングとからなるハウジングが採用されている。モータハウジングは、開口を有して有底筒状をなしている。モータハウジングの内部にはステータが固定されたモータ室が形成され、モータ室が検査室とされている。モータ室内にはステータとともにモータ機構を構成するロータも設けられている。圧縮ハウジングは、モータハウジングと接合されており、ロータによって駆動される圧縮機構を内蔵している。検査装置は、ステータのターミナルに接続された第1接続端子と、圧縮ハウジングに接続された第2接続端子と、第1接続端子及び第2接続端子に接続された電流計とからなる。この検査装置は、ステータからの検査液を介した漏電を検査する。
【0004】
また、特許文献2に開示された検査システムは、検査容器と、検査装置と、攪拌機構と、導電性計測装置とを備えている。検査容器は、特許文献1のようなハウジングではない。検査装置は、ステータのターミナルに接続された接続端子と、検査容器の検査液内に設けられた検査電極と、接続端子及び検査電極に接続された電流計とからなる。攪拌機構は、検査室内に設けられ、検査液を攪拌可能である。導電性計測装置は、検査容器の検査液内に設けられた一定の検査電極と、これらに接続された電流計とからなる。検査装置は、導電性計測装置が計測する検査液の導電性に基づき、ステータからの検査液を介した漏電を検査する。
【0005】
これらの検査システムによってステータの良否の検査を行なう場合、検査液を検査室内に供給し、検査液によってステータを浸漬する。そして、検査装置によってステータからの漏電を検査する。この際、ステータはモータハウジングに固定されて製品としてのモータを構成することから、特許文献1の検査システムのように、ステータがモータハウジングに固定された状態で良否の検査を行うことはモータの組付作業性の点で好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-73207号公報
【文献】特開2009-53145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1の検査システムでは、ハウジング内に圧縮機構が内蔵されているとともに、ステータ及びロータからなるモータ機構が検査液に浸漬されて内蔵されている。このため、特許文献2の検査システムのように、検査液を攪拌することができない。このため、検査液に淀みが生じ、検査精度が懸念される。
【0008】
また、特許文献1の検査システムでは、ステータばかりでなく、ロータも検査液に浸漬されている。このため、たとえステータの合格が確認されたとしても、ステータの他、ロータも乾燥しなければ製品を完成させることができない。このため、製品コストが上昇してしまう。
【0009】
さらに、特許文献1の検査システムでは、圧縮機構も組み付けられたハウジング内に検査液を供給しなければならず、圧縮ハウジングの取り外し等に手間を要する。しかも、その際、圧縮機構も検査液に接触するおそれがあり、その場合には、製品の完成のために圧縮機構も乾燥する必要が生じる。このため、やはり製品コストの高騰化を生じてしまう。
【0010】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、モータ等の組付作業性に優れるとともに、ステータの良否を高い検査精度で行なうことができ、かつ製品コストの低廉化を実現可能なステータの検査システムを提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のステータの検査システムは、絶縁被覆導線からなるコイルを有するステータの検査システムであって、
内部に密閉状態で前記ステータを収納可能であり、電気伝導性を有する検査液によって前記ステータを浸漬可能な検査室が形成された検査容器と、
前記ステータからの前記検査液を介した漏電を検査する検査装置と、
前記検査室と液体供給通路によって連通し、前記検査液を貯留する液体タンクとを備え、
前記検査容器は、開口を有して有底筒状をなし、内部に前記ステータが固定された電機室が形成され、前記電機室が前記検査室とされる電機ハウジングと、前記開口を閉塞するように前記電機ハウジングに設けられ、前記検査室を密閉可能な蓋体とを有し、
前記蓋体には、前記検査液を攪拌可能な攪拌機構と、前記液体供給通路とが設けられていることを特徴とする。
【0012】
本発明の検査システムでは、ステータが固定された電機ハウジングを検査容器として用いているため、検査後のモータ等の組付作業を迅速に行なうことができる。
【0013】
また、この検査システムでは、電機ハウジングに設けられる蓋体に攪拌機構が設けられており、攪拌機構が電機ハウジング内の検査液を攪拌することができる。このため、検査液に淀みが生じ難い。攪拌機構としては、検査液に向かって延びる軸部と、軸部に設けられ、検査液内で回転駆動されるファンとを採用することができる。
【0014】
さらに、この検査システムでは、電機ハウジングに設けられる蓋体に液体供給通路が設けられており、液体タンク内の検査液を容易に検査室に供給することができる。
【0015】
また、この検査システムでは、電機ハウジング内に従来の圧縮機構やロータが設けられていない。このため、圧縮機構やロータを検査液で濡らすことはなく、検査後に製品を完成させるために圧縮機構やロータを乾燥する必要がない。
【0016】
したがって、本発明のステータの検査システムによれば、モータ等の組付作業性に優れるとともに、ステータの良否を高い検査精度で行なうことができ、かつ製品コストの低廉化を実現することができる。
【0017】
本発明の検査システムは、検査室と変圧通路によって連通し、検査室を変圧可能な変圧装置を備えることが好ましい。そして、蓋体には、変圧通路と、検査室内の圧力を検知可能な圧力センサとが設けられていることが好ましい。変圧装置が減圧装置である場合には、検査室内を減圧し、コイル周辺を含む検査液が含む空気を排出することができる。変圧装置が加圧装置である場合には、検査室内を加圧し、コイルの内部に検査液を浸透させることができる。こうして、より高い検査精度を実現できる。また、蓋体に設けられた圧力センサが検査室内の圧力を検知するため、別途の圧力センサを検査容器に設ける必要がなく、検査作業を迅速に行なうことができる。
【0018】
また、電機ハウジングは、重量計上に載置されていることが好ましい。この場合、ステータが浸漬するように検査室内に供給する検査液の量を重量計で計測できるため、検査室内の検査液の液位を別途のセンサで検知する必要はなく、検査作業を迅速に行なうことができる。
【0019】
電機ハウジングには、外部と検査室とを連通する連通口が形成され得る。連通口は、検査室内に検査液を貯留する際には閉塞され、検査室から検査液を排出する際には開放されることが好ましい。ステータが電動圧縮機を構成する場合、電機室であるモータ室に形成される吸入口が連通口となる。この場合、電機ハウジングに形成される連通口を有効に活用することができる。
【0020】
ステータは環状であり得る。攪拌機構は、蓋体に回転可能に支持される軸部と、軸部に一体回転可能に固定されつつステータの内部に位置するファンとを備え得る。ファンは、磁性体からなるとともに、軸部からステータに向けて突出しつつステータの内周面に沿って周方向に並ぶ複数の突部を有し、ステータへの通電によってリラクタンスモータとして回転することが好ましい。この場合、攪拌のための駆動源を別途に容易する必要がなくなり、検査コストを低廉化することができる。また、リラクタンスモータの突極として機能する複数の突部は、軸部からステータに向けて突出しているため、検査液を攪拌するのに適している。
【発明の効果】
【0021】
本発明のステータの検査システムによれば、モータ等の組付作業性に優れるとともに、ステータの良否を高い検査精度で行なうことができ、かつ製品コストの低廉化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、実施例1の検査システムの模式断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1の検査システムに係り、コネクタ等の一部拡大断面図である。
【
図3】
図3は、実施例1の検査システムに係り、モータハウジング等の断面図である。
【
図4】
図4は、実施例2の検査システムに係り、コネクタ等の一部拡大断面図である。
【
図5】
図5は、実施例2の検査システムに係り、ステータ、ファン等の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した実施例1、2を図面を参照しつつ説明する。実施例1、2では、車両用電動圧縮機のモータ部に採用されるステータ1(
図1、3参照)の良否を検査する。
【0024】
(実施例1)
実施例1の検査システムは、
図1に示すように、検査容器3と、検査装置15と、液体タンク7とを備えている。
【0025】
検査容器3は、
図3に示すように、モータハウジング3aと、蓋体3bとからなる。モータハウジング3aは車両用電動圧縮機の外郭の一部をなすものである。このモータハウジング3aは、上方に開口3dを有して有底筒状をなしている。モータハウジング3aのモータ室3c内には、ステータ1が焼き嵌めによって固定されている。モータハウジング3aの側壁の下端には外部とモータ室3cとを連通する吸入口3eが形成されている。モータハウジング3aが本発明の電機ハウジングに相当し、モータ室3cが本発明の電機室に相当する。モータ室3cが本発明の検査室とされる。吸入口3eが本発明の連通口に相当する。
【0026】
蓋体3bは樹脂製である。蓋体3bは、モータハウジング3aの開口3dに上方から嵌合されて開口3dを閉塞し、モータ室3cを密閉可能である。モータ室3cは、
図1に示す検査液17が液体タンク7から供給されることにより、ステータ1を浸漬可能になっている。検査液17としては、一定の電気伝導率に調整された水、フッ素系不活性液体と導電性液体との混合液、食塩水等を採用することができる。
【0027】
ステータ1は、
図2及び
図3に示すように、コイル1a、コア1b、コネクタ1c、チューブ1d、ターミナル1e及び封止部材1f、1gを有している。
【0028】
コイル1aは銅線にエナメルからなる絶縁層が被覆されたエナメル線からなっている。コア1bは複数のスロットを有し、各スロットにコイル1aが設けられている。コネクタ1cは、モータハウジング3aに保持されている。コネクタ1cは樹脂製であり、内部に3本の通路を有している。
【0029】
図2に示すように、コイル1aから延出されたエナメル線からなる2本ずつ3組のリード1iは、コネクタ1cの手前で樹脂製のチューブ1d内にそれぞれ挿通されている。各チューブ1dはコネクタ1cの各通路内でそれぞれターミナル1eに保持され、各チューブ1d内のリード1iの銅線はターミナル1eに電気的に接続されている。
【0030】
各ターミナル1eには通電ピン29が挿通されている。各通電ピン29は、モータハウジング3aの外側において、電動圧縮機が内蔵するインバータと接続されるためのものである。
【0031】
封止部材1fは、コネクタ1cに嵌合されてチューブ1dをリード1iとともに変形している。封止部材1fとコネクタ1cとの間は樹脂製のシール剤によって封止されている。こうして、このステータ1では、チェーブ1dとリード1iとの間隙のみが均圧通路となっている。封止部材1gは、3本の通電ピン29を挿通させるモータハウジング3aの通孔3fに嵌合され、各通電ピン29を封止できるようになっている。
【0032】
図1に示すように、液体タンク7と検査容器3とは液体供給通路8によって連通している。検査容器3は、モータハウジング3aの吸入口3eに連通する第1回収路10aによってろ過装置12に連通されている。ろ過装置12は第2回収路10bによって液体タンク7に連通している。第1回収路10a及び第2回収路10bには、図示しない液送ポンプが設けられている。
【0033】
液体タンク7は、検査容器3のモータ室3cから回収した検査液17を真空状態で貯留している。液体供給通路8は、
図3に示すように、検査容器3の蓋体3bを挿通し、液体タンク7の底部とモータ室3cとを連通している。液体供給通路8には電磁開閉弁16が設けられている。
【0034】
第1回収路10aには、吸入口3eを開いてモータ室3cと第1回収路10a内とを連通できるとともに、吸入口3eを閉じてモータ室3cを密閉できる電磁開閉装置14が設けられている。
【0035】
実施例1の検査システムは、
図1に示すように、各検査容器3に接続された真空ポンプ5も備えている。減圧通路19は、
図3に示すように、検査容器3の蓋体3bを挿通し、真空ポンプ5とモータ室3cとを連通している。減圧通路19には、
図1に示すように、電磁開閉弁9が設けられている。真空ポンプ5は変圧装置としての減圧装置に相当し、減圧通路19は変圧通路に相当する。真空ポンプ5は電磁開閉弁9が開いておれば、モータ室3cを所定の真空度以上に減圧可能である。
【0036】
図3に示すように、検査容器3の蓋体3bの上面にはモータ35aが設けられている。モータ35の回転軸は、蓋体3b内を挿通してステータ1のコア1b内まで下方向に延びる軸部35bと接続されている。軸部35bの下端にはファン35cが固定されている。これらモ-タ35a、軸部35b及びファン35cが攪拌機構35を構成している。
【0037】
図1及び
図3に示すように、検査装置15は、モータハウジング3aの底壁に設けられた接続端子27と、1本の通電ピン29と接続された接続端子31と電気的に接続されている。検査装置15は、接続端子27と接続端子31との間の絶縁抵抗値を検出し、ステータ1からの検査液17を介した漏電を検査する。
【0038】
この検査システムは、
図1に示すように、制御装置13も備えている。制御装置13は、真空ポンプ5及び検査装置15と電気的に接続されている。また、モータハウジング3aは重量計33上に載置されている。蓋体3bには、モータ室3cの圧力を検知可能な圧力センサ25が設けられている。制御装置13はこれら重量計33及び圧力センサ25とも電気的に接続されている。また、電磁開閉弁9、16、電磁開閉装置14及び攪拌機構35のモータ35aも制御装置13と電気的に接続されている。制御装置13はこれらを制御する。
【0039】
この検査システムによってステータ1の良否の検査を行なう。
図1及び
図3に示すように、検査しようとするステータ1はモータハウジング3aのモータ室3c内に既に固定されている。
図2に示すように、コネクタ1cに設けられた3本の通電ピン29は、モータハウジング3aに形成された通孔3f及び封止部材1gからモータハウジング3a外に突出されている。3本の通電ピン29の1本に接続端子31を接続する。
【0040】
この後、
図1及び
図3に示すように、蓋体3bを閉じる。この際、制御装置13は、モータ室3c内に検査液17がない状態で、電磁開閉弁9及び電磁開閉弁16を閉じている。また、制御装置13は、電磁開閉装置14を作動させ、吸入口3eを閉じている。
【0041】
次いで、制御装置13は、真空ポンプ5を作動するとともに、電磁開閉弁9を開く。このため、モータ室3cには液体タンク7から検査液17が供給されず、モータ室3cは真空ポンプ5によって減圧される。このため、検査液17の成分が真空ポンプ5によって揮発することはない。また、検査液17を減圧しないことから、従来よりも短時間かつ安定した時間で所定の真空度を実現できる。
【0042】
制御装置13は、圧力センサ25からの信号によってモータ室3cが所定の真空度になったか否かを判断し、モータ室3cが所定の真空度になれば、制御装置13は、電磁開閉弁9を閉じるとともに真空ポンプ5の作動を停止する。このため、モータ室3cは所定の真空度に維持される。
【0043】
この後、制御装置13は電磁開閉弁16を開く。このため、モータ室3cに液体タンク7から検査液17が自重によって供給される。このため、検査液17がステータ1を浸漬し始める。この際、モータハウジング3aに設けられる蓋体3bに液体供給通路8が設けられているため、液体タンク7内の検査液17を容易にモータ室3cに供給することができる。
【0044】
次いで、制御装置13は、重量計33からの信号によって検査液17がステータ1を浸漬したか否かを判断し、検査液17がステータ1を浸漬する量だけ供給されれば、電磁開閉弁16を閉じる。このため、モータ室3cへの検査液17の供給が停止される。
【0045】
また、制御装置13は、攪拌機構35のモータ35aを作動させ、軸部35bとともにファン35cを検査液17内で回転させる。こうして、モータハウジング3a内の検査液17を攪拌する。このため、検査液17に淀みが生じ難い。一定時間の経過を待って、制御装置13は、モータ35aの作動を停止する。この後、検査装置15を作動させ、ステータ1からの検査液17を介した漏電を検査する。
【0046】
検査容器3内のステータ1の検査が終了すれば、制御装置13は、電磁開閉装置14を作動させ、吸入口3eを開く。このため、モータ室3c内の検査液17が自重によってろ過装置12に供給される。ろ過装置12では、検査中に混入した異物を検査液17から排除する。ろ過装置12を経た検査液17は第2回収路10bを経て液体タンク7に回収される。この後、電磁開閉装置14を作動させて吸入口3eを閉じた後、検査容器3の蓋体3bを開放させる。
【0047】
この間、この検査システムでは、モータハウジング3a内に従来の圧縮機構やロータが設けられていない。このため、圧縮機構やロータを検査液で濡らすことはなく、検査後に製品を完成させるために圧縮機構やロータを乾燥する必要がない。
【0048】
また、この検査システムでは、ステータ1が固定されたモータハウジング3aを検査容器3として用いているため、検査後の電動圧縮機の組付作業を迅速に行なうことができる。
【0049】
また、この検査システムでは、検査室3c内を減圧し、コイル1a周辺を含む検査液17が含む空気を排出し、より高い検査精度を実現できる。
【0050】
したがって、この検査システムによれば、電動圧縮機の組付作業性に優れるとともに、ステータ1の良否を高い検査精度で行なうことができ、かつ製品コストの低廉化を実現することができる。
【0051】
特に、この検査システムでは、蓋体3bに設けられた圧力センサ25がモータ室3c内の圧力を検知するため、別途の圧力センサを検査容器3に設ける必要がなく、検査作業を迅速に行なうことができる。また、モータハウジング3aが重量計33上に載置されているため、モータ室3c内の検査液17の液位を別途のセンサで検知する必要はなく、検査作業を迅速に行なうことができる。さらに、この検査システムでは、モータハウジング3aの吸入口3eから検査液17を排出しており、吸入口3eを有効に活用している。
【0052】
(実施例2)
実施例2の検査システムは、攪拌機構35がモータ35aを有していない。また、ファン35cとして、ステータ1への通電によってリラクタンスモータを構成するため、強磁性材料であるSUS430を採用している。ファン35cは、軸部35bからステータ1bに向けて突出しつつステータ1bの内周面に沿って周方向に並ぶ複数の突部40を有している。なお、ファン35cとして、他の強磁性材料を採用することも可能である。
【0053】
また、
図4に示すように、モータハウジング3aから突出した3本の通電ピン29に接続端子31u、31v、31wがそれぞれ接続されている。接続端子31u、31v、31wはリード線によってリレー回路37に接続されている。リレー回路37では、接続端子31uに繋がる入力接点37aが第1出力接点37d又は第2出力接点37eに選択的に接続されるようになっている。接続端子31vに繋がる入力接点37bは出力接点37fに接続又は非接続とされ、接続端子31wに繋がる入力接点37cは出力接点37gに接続又は非接続とされている。なお、接続端子31v又は接続端子31wが第1出力接点37d又は第2出力接点37eに選択的に接続されてもよい。
【0054】
第1出力接点37dは検査装置15に接続されている。第2出力接点37e、出力接点37f及び出力接点37gはインバータを内蔵するステータ駆動回路39に接続されている。他の構成は実施例1と同様である。
【0055】
この検査システムでは、モータ室3c内で検査液17によってステータ1を浸漬後、まずはリレー回路37によって入力接点37aを第2出力接点37eに接続するとともに、入力接点37bを出力接点37fに接続し、かつ入力接点37cを出力接点37gに接続する。そして、ステータ駆動回路39によってステータ1に三相電流を通電する。これによってステータ1bの内部に位置するファン35cは、ステータ1との間でリラクタンストルクを生じ、ステータ1が発生させる回転磁界に同期して検査液17内で回転する。こうして、モータハウジング3a内の検査液17を攪拌する。
【0056】
この際、攪拌のためにモータ35a等の駆動源を別途に容易する必要がなくなり、検査コストを低廉化することができる。また、リラクタンスモータの突極として機能する複数の突部40は、軸部35bからステータ1bに向けて突出しつつステータ1bの内周面に沿って周方向に並んでいるため、検査液17を攪拌するのに適している。
【0057】
一定時間の経過後、リレー回路37によって入力接点37aを第1出力接点37dに接続するとともに、入力接点37bを出力接点37fと非接続とし、かつ入力接点37cを出力接点37gと非接続とする。これによってファン35cの回転が停止する。この後、検査装置15を作動させ、ステータ1からの検査液17を介した漏電を検査する。
【0058】
この検査システムでは、実施例1のモータ35a等、検査液17を攪拌するための駆動源を別途に容易する必要がなくなり、検査コストを低廉化することができる。また、この検査システムでは、ステンレス製のファン35cを採用しているため、ファン35cの腐食の懸念もない。他の作用効果は実施例1と同様である。
【0059】
以上において、本発明を実施例1、2に即して説明したが、本発明は上記実施例1、2に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0060】
例えば、実施例1、2では、車両用電動圧縮機のモータ部に使用されるステータ1の良否を検査したが、本発明では、他のモータに使用されるステータやオルタネータ等に使用されるステータの良否を検査することも可能である。
【0061】
実施例1、2では、リード1iとチューブ1dとの間を均圧通路としたが、コネクタ1cに直接均圧通路が形成されていてもよい。またチューブ1dを設けずに、コネクタ1cに直接リード1iを通すための挿通孔を均圧通路としてもよい。
【0062】
また、検査装置15は、検査電極27と検査ピン29との間の漏れ電流量を検出してステータ1の良否を検査することも可能である。変圧装置としては、加圧装置を採用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明はモータ等の生産設備に利用可能である。
【符号の説明】
【0064】
1a…コイル
1…ステータ
17…検査液
3c…検査室、電気室(モータ室)
3…検査容器
15…検査装置
8…液体供給通路
7…液体タンク
3d…開口
3a…電機ハウジング(モータハウジング)
3b…蓋体
35…攪拌機構
19…変圧通路(減圧通路)
5…変圧装置(真空ポンプ)
25…圧力センサ
33…重量計
3e…連通口(吸入口)
35b…軸部
35c…ファン
40…突部