IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電産株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】モータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/32 20060101AFI20220222BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
H02K1/32 Z
H02K9/19 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018532959
(86)(22)【出願日】2017-08-01
(86)【国際出願番号】 JP2017027894
(87)【国際公開番号】W WO2018030219
(87)【国際公開日】2018-02-15
【審査請求日】2020-07-27
(31)【優先権主張番号】62/372411
(32)【優先日】2016-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/402027
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/439201
(32)【優先日】2016-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】P 2017073095
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石川 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】右田 貴之
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-296772(JP,A)
【文献】特開2010-239734(JP,A)
【文献】特開2010-142090(JP,A)
【文献】特開2005-006429(JP,A)
【文献】特開2009-027862(JP,A)
【文献】特開2010-172069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/32
H02K 9/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ軸を中心として回転するロータと、
前記ロータの径方向外側に位置するステータと、を備え、
前記ロータは、前記モータ軸に沿って延びるシャフトと、前記シャフトを径方向外側から囲むロータコアと、を有し、
前記シャフトには、軸方向に沿って延びる内周面を有し内側にオイルが供給される中空部と、径方向に延びて前記中空部と前記シャフトの外部とを連通させる連通孔と、が設けられ、
前記中空部の前記内周面には、周方向に沿って延びる凹溝が設けられ、
前記連通孔は、前記凹溝において前記中空部に開口し、
前記シャフトは、
前記ステータの径方向内側に位置し雌スプラインを有する第1シャフト部と、
前記第1シャフト部と同軸上に軸方向に並び、前記雌スプラインに接続される雄スプラインを有する第2シャフト部と、を有し、
前記中空部の前記内周面には、周方向に沿って並ぶ凸部および凹部が設けられ、前記凸部および前記凹部は前記雌スプラインであって、
前記雌スプラインは軸方向において前記凹溝に隣接する、モータ。
【請求項2】
前記シャフトは、
前記ステータの径方向内側に位置する第1シャフト部と、
前記第1シャフト部と同軸上で前記第1シャフト部に接続された第2シャフト部と、を有し、
前記中空部は、前記第1シャフト部の内部に位置する第1中空部を含み、
前記第1中空部は、
小径中空部と、
前記小径中空部より内径が大きく前記小径中空部より前記第2シャフト部側に位置する大径中空部と、
前記小径中空部と前記大径中空部との間に位置し前記第2シャフト部側を向く段差面と、を有し、
前記第2シャフト部は、前記大径中空部に挿入され、
前記凹溝は、前記第2シャフト部の前記第1シャフト部側を向く端面と、前記大径中空部の内周面と、前記段差面と、から構成される、
請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
前記中空部の前記内周面には、周方向に沿って並ぶ凸部および凹部が設けられる、
請求項1又は2に記載のモータ。
【請求項4】
前記ロータは、前記ロータコアの軸方向両端部に位置する板状の一対のエンドプレートを有し、
前記エンドプレートは、前記ロータコアの軸方向一方側と他方側とに配置され、
前記エンドプレートには、前記連通孔と連通して径方向に沿って延びて開口するオイル流路がそれぞれ設けられ、
前記シャフトには、一対の前記エンドプレートの前記オイル流路にそれぞれ繋がる一対の前記連通孔が設けられ、
前記中空部において前記オイルは、軸方向に沿って流れ、
一対の前記連通孔のうち、前記オイルの流動方向上流側に位置する前記連通孔が、前記凹溝において開口する、
請求項1~3の何れか一項に記載のモータ。
【請求項5】
前記ロータコアには、軸方向に沿って貫通するコア貫通孔が設けられ、
前記コア貫通孔は、一対の前記エンドプレートのそれぞれの前記オイル流路同士を繋ぎ、
前記エンドプレートには、軸方向に貫通し前記オイル流路の一部を構成するプレート貫通孔が設けられ、
前記コア貫通孔の開口の少なくとも一部は、前記プレート貫通孔より径方向外側に位置
する、
請求項4に記載のモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、中空のシャフトに径方向に延びる貫通孔を設け、冷却液をシャフト内部から貫通孔を介してロータコアの端面を通過する流路に供給する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5772544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のシャフトは、内部に設けられた流路からに貫通孔に冷却液が円滑に流入しない虞があった。
【0005】
本発明の一つの態様は、上記問題点に鑑みて、シャフトの内部から径方向外側に円滑にオイルを誘導できるモータの提供を目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のモータの一つの態様は、モータ軸を中心として回転するロータと、
前記ロータの径方向外側に位置するステータと、を備え、
前記ロータは、前記モータ軸に沿って延びるシャフトと、前記シャフトを径方向外側から囲むロータコアと、を有し、
前記シャフトには、軸方向に沿って延びる内周面を有し内側にオイルが供給される中空部と、径方向に延びて前記中空部と前記シャフトの外部とを連通させる連通孔と、が設けられ、
前記中空部の前記内周面には、周方向に沿って延びる凹溝が設けられ、
前記連通孔は、前記凹溝において前記中空部に開口し、
前記シャフトは、
前記ステータの径方向内側に位置し雌スプラインを有する第1シャフト部と、
前記第1シャフト部と同軸上に軸方向に並び、前記雌スプラインに接続される雄スプラインを有する第2シャフト部と、を有し、
前記中空部の前記内周面には、周方向に沿って並ぶ凸部および凹部が設けられ、前記凸部および前記凹部は前記雌スプラインであって、
前記雌スプラインは軸方向において前記凹溝に隣接する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一つの態様によれば、シャフトの内部から径方向外側に円滑にオイルを誘導できるモータが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一実施形態のモータユニットの概念図である。
図2図2は、一実施形態のモータユニットの斜視図である。
図3図3は、一実施形態のモータユニットの側面図である。
図4図4は、図3のIV-IV線に沿うモータユニットの断面図である。
図5図5は、一実施形態のロータの断面図である。
図6図6は、エンドプレートの平面図である。
図7図7は、図6のVII-VII線に沿うエンドプレートの断面図である。
図8図8は、第1の変形例のエンドプレートの断面図である。
図9図9は、第2の変形例のエンドプレートの平面図である。
図10図10は、一実施形態のモータユニットの断面図であり、第2の油路を示す図である。
図11図11は、ハウジングの一部を省略した一実施形態のモータユニットの斜視図である。
図12図12は、一実施形態の第2のリザーバの平面図である。
図13図13は、変形例の第2のリザーバの斜視図である。
図14図14は、一実施形態のモータユニットの断面図であり、副リザーバの概略を示す図である。
図15図15は、一実施形態の隔壁開口の正面図である。
図16図16は、一実施形態のモータユニットにおいてモータ室の下側に溜るオイルの液位の高さと、第1の領域の面積との関係を示すグラフである。
図17図17は、変形例の隔壁開口の正面図である。
図18図18は、変形例の隔壁開口が設けられたモータユニットにおいてモータ室の下側に溜るオイルの液位の高さと、第1の領域の面積との関係を示すグラフである。
図19図19は、一実施形態のモータユニットにおいてギヤ室の内部に位置する各ギヤの配置を示す側面図である。
図20図20は、一実施形態のモータユニットに採用可能なパーキング機構の平面図である。
図21図21は、変形例1のモータユニットの切り離し機構を示す部分断面図である。
図22図22は、切り離し機構によりモータと減速装置とを繋いだ状態を示す概念図である。
図23図23は、切り離し機構によりモータと減速装置とを切り離した状態を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係るモータについて説明する。なお、本発明の範囲は、以下の実施の形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等を異ならせる場合がある。
【0010】
以下の説明では、モータユニット1が水平な路面上に位置する車両に搭載された場合の位置関係を基に、重力方向を規定して説明する。また、図面においては、適宜3次元直交座標系としてXYZ座標系を示す。XYZ座標系において、Z軸方向は、鉛直方向(すなわち上下方向)を示し、+Z方向が上側(重力方向の反対側)であり、-Z方向が下側(重力方向)である。また、X軸方向は、Z軸方向と直交する方向であってモータユニット1が搭載される車両の前後方向を示し、+X方向が車両前方であり、-X方向が車両後方である。ただし、+X方向が車両後方であり、-X方向が車両前方となることもありうる。Y軸方向は、X軸方向とZ軸方向との両方と直交する方向であって、車両の幅方向(左右方向)である。
【0011】
以下の説明において特に断りのない限り、モータ2のモータ軸J2に平行な方向(Z軸方向)を単に「軸方向」と呼び、モータ軸J2を中心とする径方向を単に「径方向」と呼び、モータ軸J2を中心とする周方向、すなわち、モータ軸J2の軸周りを単に「周方向」と呼ぶ。さらに、以下の説明において、「平面視」とは、軸方向から見た状態を意味する。ただし、上記の「平行な方向」は、略平行な方向も含む。また、上記の「直交する方向」は略直交する方向も含む。
【0012】
以下、図面を基に本発明の例示的な一実施形態に係るモータユニット(電動駆動装置)1について説明する。
図1は、一実施形態のモータユニット1の概念図である。図2は、モータユニット1の斜視図である。図3は、モータユニット1の側面図である。図4は、図3のIV-IV線に沿うモータユニット1の断面図である。なお、図4において差動装置5の内部構造の一部は省略されている。
【0013】
モータユニット1は、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、電気自動車(EV)等、モータを動力源とする車両に搭載され、その動力源として使用される。
【0014】
図1に示すように、モータユニット1は、モータ(メインモータ)2と、減速装置4と、差動装置5と、ハウジング6と、オイルOと、オイルOをモータ2に供給する油路90と、を備える。また、モータユニット1は、図2に仮想線で示すように、パーキング機構7を有していてもよい。
【0015】
図1に示すように、モータ2は、水平方向に延びるモータ軸J2を中心として回転するロータ20と、ロータ20の径方向外側に位置するステータ30と、を備える。減速装置4は、モータ2のロータ20に接続される。差動装置5は、減速装置4を介しモータ2に接続される。ハウジング6の内部は、モータ2、減速装置4および差動装置5を収容する収容空間80が設けられる。オイルOは、減速装置4および差動装置5の潤滑用として使用されるとともに、モータ2の冷却用として使用される。オイルOは、収容空間80の鉛直方向下側の領域に溜る。オイルOは、潤滑油および冷却油の機能を奏するため、粘度の低いオートマチックトランスミッション用潤滑油(ATF:Automatic Transmission Fluid)と同等のものを用いることが好ましい。油路90は、収容空間80の下側の領域からオイルOをモータ2に供給するオイルOの経路である。油路90は、第1の油路91と第2の油路92とを有する。
【0016】
なお、本明細書において、「油路」とは、収容空間80を循環するオイルOの経路を意味する。したがって、「油路」とは、定常的に一方向に向かう定常的なオイルの流動を形成する「流路」のみならず、オイルを一時的に滞留させる経路(例えばリザーバ)およびオイルが滴り落ちる経路をも含む概念である。
【0017】
<ハウジング>
ハウジング6の内部に設けられた収容空間80には、モータ2、減速装置4および差動装置5が収容される。ハウジング6は、収容空間80においてモータ2、減速装置4および差動装置5を保持する。ハウジング6は、隔壁61cを有する。ハウジング6の収容空間80は、隔壁61cによってモータ室81とギヤ室82とに区画される。モータ室81には、モータ2が収容される。ギヤ室82には、減速装置4および差動装置5が収容される。
【0018】
収容空間80の下側の領域には、オイルOが溜るオイル溜りPが設けられる。本実施形態では、モータ室81の底部81aは、ギヤ室82の底部82aより上側に位置する。また、モータ室81とギヤ室82とを区画する隔壁61cの下側の領域には、隔壁開口68が設けられる。隔壁開口68は、モータ室81とギヤ室82とを連通させる。隔壁開口68は、モータ室81の下側の領域に溜ったオイルOをギヤ室82に移動させる。したがって、本実施形態においてオイル溜りPは、ギヤ室82の下側の領域に設けられる。
【0019】
オイル溜りPには、差動装置5の一部が浸かる。オイル溜りPに溜るオイルOは、差動装置5の動作によってかき上げられて、一部が第1の油路91に供給され、一部がギヤ室82内に拡散される。ギヤ室82に拡散されたオイルOは、ギヤ室82内の減速装置4および差動装置5の各ギヤに供給されてギヤの歯面にオイルOを行き渡らせる。減速装置4および差動装置5に使用されたオイルOは、滴下してギヤ室82の下側に位置するオイル溜りPに回収される。収容空間80のオイル溜りPの容量は、モータユニット1の停止時に、差動装置5の軸受の一部がオイルOに浸かる程度に設定される。
【0020】
ハウジング6は、例えばアルミダイカスト製である。ハウジング6は、モータユニット1の外枠を構成する。ハウジング6は、モータ収容部61と、ギヤ収容部62と、閉塞部63と、を有する。ギヤ収容部62は、モータ収容部61の左側に位置する。閉塞部63は、モータ収容部61の右側に位置する。
【0021】
モータ収容部61は、モータ2を径方向外側から囲む筒状の周壁部61aと、周壁部61aの軸方向一方側に位置する側板部61bと、を有する。周壁部61aの内側の空間がモータ室81を構成する。側板部61bは、隔壁61cと突出板部61dとを有する。隔壁61cは、周壁部61aの軸方向一方側の開口を覆う。隔壁61cには、上述の隔壁開口68に加えて、モータ2のシャフト21を挿通させる挿通孔61fが設けられる。側板部61bは、隔壁61cと、周壁部61aに対して径方向外側に突出する突出板部61dと、を有する。突出板部61dには、車輪を支持するドライブシャフト(図示略)が通過する第1の車軸通過孔61eが設けられる。
【0022】
閉塞部63は、モータ収容部61に固定される。閉塞部63は、周壁部61aの軸方向反対側の開口を塞ぐ。すなわち、閉塞部63は、筒状のモータ収容部61の開口を塞ぐ。閉塞部63は、閉塞部本体63aと、蓋部材63bと、を有する。閉塞部本体63aは、モータ収容部61の内側に位置する収容空間80に突出する筒状の突出部63dを有する。突出部63dは、周壁部61aの内周面に沿って延びる。また、閉塞部本体63aには、軸方向に貫通する窓部63cが設けられる。蓋部材63bは、収容空間80の外側から窓部63cを塞ぐ。
【0023】
ギヤ収容部62は、モータ収容部61の側板部61bに固定される。ギヤ収容部62は、側板部61b側に開口する凹形状を有する。ギヤ収容部62の開口は、側板部61bに覆われる。ギヤ収容部62と側板部61bの間の空間は、減速装置4および差動装置5を収容するギヤ室82を構成する。ギヤ収容部62には、第2の車軸通過孔62eが設けられる。第2の車軸通過孔62eは、軸方向から見て第1の車軸通過孔61eと重なる。
【0024】
図3に示すように、ギヤ収容部62は、第1のリザーバ(リザーバ)93と、シャフト供給流路94と、を有する。第1のリザーバ93は、ギヤ収容部62の軸方向のギヤ室82側を向く面に位置し、軸方向に沿って延びる。第1のリザーバ93は、差動装置5によってかき上げられたオイルOを受ける。シャフト供給流路94は、第1のリザーバ93の底部からモータ2のシャフト21に向かって延びる。シャフト供給流路94は、第1のリザーバ93で受けたオイルOをシャフト21の中空部22の内側に供給する流路である。
【0025】
<減速装置>
図4に示すように、減速装置4は、モータ2の回転速度を減じて、モータ2から出力されるトルクを減速比に応じて増大させる機能を有する。減速装置4は、モータ2から出力されるトルクを差動装置5へ伝達する。
【0026】
減速装置4は、第1のギヤ(中間ドライブギヤ)41と、第2のギヤ(中間ギヤ)42と、第3のギヤ(ファイルナルドライブギヤ)43と、中間シャフト45と、を有する。モータ2から出力されるトルクは、モータ2のシャフト21、第1のギヤ41、第2のギヤ42、中間シャフト45および第3のギヤ43を介して差動装置5のリングギヤ(ギヤ)51へ伝達される。各ギヤのギヤ比およびギヤの個数等は、必要とされる減速比に応じて種々変更可能である。減速装置4は、各ギヤの軸芯が平行に配置される平行軸歯車タイプの減速機である。
【0027】
第1のギヤ41は、モータ2のシャフト21の外周面に設けられる。第1のギヤ41は、シャフト21とともに、モータ軸J2を中心に回転する。
【0028】
中間シャフト45は、モータ軸J2と平行な中間軸J4に沿って延びる。中間シャフト45は、中間軸J4を中心とする円筒形状である。中間シャフト45は、中間軸J4を中心として回転する。中間シャフト45は、一対の中間シャフト保持ベアリング87によって回転自在に支持される。一対の中間シャフト保持ベアリング87のうち一方は、隔壁61cのギヤ室82側を向く面に保持される。一対の中間シャフト保持ベアリング87のうち他方は、ギヤ収容部62に保持される。
【0029】
第2のギヤ42および第3のギヤ43は、中間シャフト45の外周面に設けられる。第2のギヤ42と第3のギヤ43は、中間シャフト45を介して接続される。第2のギヤ42および第3のギヤ43は、中間軸J4を中心として回転する。第2のギヤ42は、第1のギヤ41に噛み合う。第3のギヤ43は、差動装置5のリングギヤ51と噛み合う。第3のギヤ43は、第2のギヤ42に対して隔壁61c側に位置する。本実施形態において、中間シャフト45と第3のギヤ43は、単一の部材である。
【0030】
<差動装置>
差動装置5は、モータ2から出力されるトルクを車両の車輪に伝達するための装置である。差動装置5は、車両の旋回時に、左右の車輪の速度差を吸収しつつ、左右両輪の車軸55に同トルクを伝える機能を有する。差動装置5は、リングギヤ51と、ギヤハウジング57と、一対のピニオンギヤ(不図示)と、ピニオンシャフト(不図示)と、一対のサイドギヤ(不図示)と、を有する。
【0031】
リングギヤ51は、モータ軸J2と平行な差動軸J5を中心として回転する。リングギヤ51には、モータ2から出力されるトルクが減速装置4を介して伝えられる。すなわち、リングギヤ51は、他のギヤを介してモータ2に接続される。リングギヤ51は、ギヤハウジング57の外周に固定される。
【0032】
ギヤハウジング57は、一対のピニオンギヤおよび一対のサイドギヤを収容する。ギヤハウジング57は、リングギヤ51にトルクが伝達されるとリングギヤ51とともに、差動軸J5周りを回転する。
一対のピニオンギヤは、互いに向かい合う傘歯車である。一対のピニオンギヤは、ピニオンシャフトに支持される。
一対のサイドギヤは、一対のピニオンギヤに直角に噛み合う傘歯車である。一対のサイドギヤは、それぞれ嵌合部を有する。嵌合部には、それぞれ車軸が嵌合される。互いに異なる嵌合部に嵌合された一対の車軸は、差動軸J5周りを同じトルクで回転する。
【0033】
<モータ>
図4に示すように、モータ2は、ステータ30と、ステータ30の内側に回転自在に配置されるロータ20と、を備えるインナーロータ型モータである。ロータ20は、図示略のバッテリからステータ30に電力が供給されることで回転する。モータ2のトルクは、減速装置4を介し差動装置5に伝達される。
【0034】
(ステータ)
ステータ30は、ステータコア32と、コイル31と、ステータコア32とコイル31との間に介在するインシュレータ(図示略)とを有する。ステータ30は、ハウジング6に保持される。
【0035】
ステータコア32は、円環状のヨークの内周面から径方向内方に複数の磁極歯(図示略)を有する。本実施形態のステータコア32は、磁極歯と磁極歯との間に形成されるスロット数は48である。磁極歯の間には、コイル線が掛けまわされることでコイル31が構成される。
【0036】
コイル31は、ステータコア32の軸方向端面から突出するコイルエンド31aを有する。すなわち、ステータ30は、コイルエンド31aを有する。コイルエンド31aは、ロータ20のロータコア24の端部よりも軸方向に突出する。コイルエンド31aは、ロータコア24に対し軸方向両側に突出する。
【0037】
(ロータ)
ロータ20は、シャフト(モータシャフト)21と、ロータコア24と、ロータマグネット(永久磁石)25と、一対の板状のエンドプレート26と、ナット29と、ワッシャ(蓋部)28と、を有する。
【0038】
(シャフト)
シャフト21は、水平方向かつ車両の幅方向(車両の進行方向と直交する方向)に延びるモータ軸J2を中心として延びる。シャフト21は、同軸上で互いに連結された第1シャフト部21Aおよび第2シャフト部21Bを有する。
【0039】
シャフト21は、内部にモータ軸J2に沿って延びる内周面を有する中空部22が設けられた中空シャフトである。中空部22は、第1シャフト部21Aの内部に位置する第1中空部22Aと、第2シャフト部21Bの内部に位置する第2中空部22Bとを含む。第1中空部22Aと第2中空部22Bは、軸方向に沿って並び、互いに連通する。
【0040】
第1シャフト部21Aは、収容空間80のモータ室81に配置される。第1シャフト部21Aは、ステータ30の径方向内側に位置し、モータ軸J2に沿ってロータコア24を貫通する。第1シャフト部21Aは、出力側(すなわち、減速装置4側)に位置する第1端部21eと、その反対側に位置する第2端部21fと、を有する。
【0041】
第1シャフト部21Aは、一対の第1のベアリング89によって回転自在に支持される。一対の第1のベアリング89は、第1シャフト部21Aの第1端部21eおよび第2端部21fを支持する。一対の第1のベアリング89のうち一方は、閉塞部63に保持される。一対の第1のベアリング89のうち他方は、隔壁61cのモータ室81側を向く面に保持される。
【0042】
図5は、ロータ20の断面図である。なお、図5において第2シャフト部21Bは、仮想線により図示されている。
第1シャフト部21Aには、一対の連通孔23が設けられる。連通孔23は、径方向に延びてシャフト21の外部と中空部22とを連通させる。すなわち、シャフト21には、一対の連通孔23が設けられる。一対の連通孔23は、軸方向に沿って並ぶ。なお、本明細書では、シャフト21の外周面から中空部を通過し外周面に至る孔を1つの連通孔23とする。
【0043】
第1シャフト部21Aの外周面には、軸方向に沿って並ぶ鍔部(蓋部)21cとネジ部21dとが設けられる。すなわち、シャフト21の外周面には、鍔部21cとネジ部21dとが設けられる。ロータコア24は、軸方向において鍔部21cとネジ部21dとの間に位置する。ネジ部21dには、ナット29が締結される。
【0044】
図4に示すように、第2シャフト部21Bは、第1シャフト部21Aと同軸上に位置する。第2シャフト部21bは、第1シャフト部21A側に位置する第3端部21gと、その反対側に位置する第4端部21hと、を有する。第2シャフト部21Bは、第3端部21gにおいて、第1シャフト部21Aの第1端部21eに接続される。
【0045】
第2シャフト部21Bは、収容空間80のギヤ室82に配置される。第2シャフト部21Bの第3端部21gは、隔壁61cに設けられた挿通孔61fを介してモータ室81側に突出し第1シャフト部21Aに接続される。第2シャフト部21Bの外周面には、第1のギヤ41が設けられる。第1のギヤ41は、減速装置4の一部である。第1のギヤ41は、第2のギヤ42とかみ合いシャフト21の出力を第2のギヤに伝達する。
【0046】
第2シャフト部21Bは、一対の第2のベアリング88によって回転自在に支持される。一対の第2のベアリング88のうち一方は、隔壁61cのギヤ室82側を向く面に保持される。一対の第2のベアリング88のうち他方は、ギヤ収容部62に保持される。
【0047】
中空部22は、第1シャフト部21Aの第2端部21fおよび第2シャフト部21Bの第4端部21hにおいて軸方向に開口する。中空部22には、第4端部21hの開口からオイルOが供給される。中空部22に供給されたオイルOは、第4端部21h側から第2端部21f側に向かって流れる。中空部22に供給されたオイルOは、連通孔23を介してシャフト21の外部に流出する。
なお、以下の説明において、第4端部21h側を中空部22の流動方向上流側と呼び、第2端部21f側を中空部22の流動方向下流側と呼ぶ場合がある。
【0048】
図5に示すように、第1中空部22Aは、内周面の直径が異なる第1領域22pと、第2領域(小径中空部)22qと、第3領域(大径中空部)22rと、を有する。第1領域22p、第2領域22qおよび第3領域22rは、この順で内周面の直径が大きくなる。すなわち、第2領域22qは、第1領域22pより内径が大きく、第3領域22rは、第1領域22pおよび第3領域22rより内径が大きい。第1領域22p、第2領域22qおよび第3領域22rは、流動方向下流側から上流側に向かってこの順で並んでいる。第1領域22pは、第2端部21f側に位置する。第2領域22qは、軸方向において第1領域22pと第3領域22rとの間に位置する。第3領域22rは、第1端部21e側に位置する。すなわち、第3領域22rは、第2領域22qより第2シャフト部21B側に位置する。
【0049】
第3領域22rには、一対の連通孔23のうち流動方向上流側の一方の連通孔23が開口する。また、第2領域22qには、一対の連通孔23のうち流動方向下流側の他方の連通孔23が開口する。
【0050】
また、第1中空部22Aの内周面は、第1領域22pと第2領域22qとの間に位置する第1段差面22sと、第2領域22qと第3領域22rとの間に位置する第2段差面(段差面)22tと、を有する。第1段差面22sおよび第2段差面22tは、第2シャフト部21B側を向く。また、第1段差面22sおよび第2段差面22tは、径方向外側に向かうに従い流動方向上流側に向かって傾斜する。
【0051】
第1シャフト部21Aの第3領域22rには、第2シャフト部21Bの第3端部21gが挿入される。第3領域22rには、雌スプライン22eが設けられる。一方で、第2シャフト部21Bの第3端部21gの外周面には、雄スプライン22gが設けられる。雌スプライン22eと雄スプライン22gは、互いに嵌合する。これにより、第1シャフト部21Aと第2シャフト部21Bとが接続される。
【0052】
第2シャフト部21Bの第1シャフト部21A側を向く端面(すなわち、第3端部21gの端面)と、第2段差面22tとの間には、隙間が設けられる。第3端部21gの端面と第2段差面22tとの間の隙間は、中空部22の内周面に凹溝22uを構成する。すなわち、中空部22の内周面には、周方向に沿って延びる凹溝22uが設けられており、凹溝22uは、第2シャフト部21Bの第3端部21gの端面と、第3領域22rの内周面と、第2段差面22tと、から構成される。
【0053】
一対の連通孔23のうち、オイルOの流動方向上流側に位置する一方の連通孔23は、凹溝22uにおいて中空部22に開口する。中空部22内に供給されたオイルOには、シャフト21の回転に伴い遠心力が付与される。中空部22の内周面には、凹溝22uが設けられるため、遠心力に伴いオイルOが凹溝22u内に溜る。本実施形態によれば、連通孔23が凹溝22uに開口するため、凹溝22u内に溜ったオイルOを連通孔23に効率よく誘導することができる。
【0054】
本実施形態によれば、第1シャフト部21Aと第2シャフト部21Bとの接続部分の隙間を凹溝22uとして利用してオイルOを溜めることができる。したがって、オイルOを溜める凹溝22uを設けるために特殊な加工を施す必要がない。
【0055】
軸方向に沿って並ぶ複数の連通孔23が設けられる場合、オイルOの流動方向下流側に位置する連通孔23にオイルOが流れやすく、オイルOの流動方向上流側の連通孔23に流入するオイルOが不足する場合がある。本実施形態によれば、流動方向上流側に位置する連通孔23が凹溝22uにおいて開口するため、オイルOを流動方向上流側に位置する連通孔23に十分に流入させることができる。
【0056】
本実施形態によれば、中空部22は、流動方向上流側から下流側に向かうに従い、直径が段階的に小さくなる。これにより、オイルOが中空部22の上流側から下流側に行き渡らせやすい。また、一対の連通孔23のうち上流側の一方が第3領域22rに開口し、下流側の他方が第2領域22qに開口する。すなわち、下流側の連通孔23の開口は、上流側の連通孔23の開口と比較して、中空部22の直径が小さい領域に設けられる。したがって、下流側に位置する連通孔23にもオイルOを十分に流入させることができる。
【0057】
第3端部21gの端面と第2段差面22tとの間の隙間には、雌スプライン22eの一部が位置する。したがって、中空部22の内周面には、雌スプライン22eに由来して周方向に沿って並ぶ凸部および凹部が設けられる。中空部の断面形状が、モータ軸を中心とする円形である場合には、シャフトが回転しても、中空部内のオイルOがシャフトに対し空転し、オイルOに遠心力が付与されない虞がある。これに対して、中空部22内に周方向に沿って並ぶ凸部および凹部を設けることで、シャフト21の回転に伴いオイルOを回転させることでき中空部22のオイルOに遠心力を付与することができる。これにより、オイルOを連通孔23に円滑に誘導できる。
【0058】
本実施形態によれば、第2シャフト部21Bの外周面および第3領域22rの内周面には、互いにスプライン嵌合するスプライン(雄スプライン22gおよび雌スプライン22e)が設けられる。また、第3領域22rのスプライン(雌スプライン22e)の一部は、凹溝22u内に位置する。したがって、嵌合に用いる雌スプライン22eを利用して、中空部22内のオイルOに遠心力を付与できる。すなわち、オイルOに遠心力を付与する為に中空部22の内周面に加工を施して凹凸形状を設ける必要がない。
【0059】
(ロータコア)
ロータコア24は、珪素鋼板を積層して構成される。ロータコア24は、軸方向に沿って延びる円柱体である。ロータコア24は、軸方向のそれぞれ反対側を向く一対の軸方向端面24aと、径方向外側を向く外周面24bと、を有する。
【0060】
ロータコア24は、一対のエンドプレート26とともに、ナット29と鍔部21cとの間に挟み込まれる。ナット29とエンドプレート26との間には、ワッシャ28が介在する。
【0061】
ロータコア24には、軸方向からみて中央に位置し軸方向に沿って貫通する1つの嵌合孔24c、複数のマグネット保持孔24dおよび複数のコア貫通孔24eが設けられる。嵌合孔24c、マグネット保持孔24dおよびコア貫通孔24eは、一対の軸方向端面24aに開口する。
【0062】
嵌合孔24cは、モータ軸J2を中心とする円形である。嵌合孔24cには、シャフト21が挿通し嵌合する。したがって、ロータコア24は、シャフト21を径方向外側から囲む。シャフト21と嵌合孔24cとの嵌合は、隙間嵌めである。したがって、シャフト21の嵌合によるロータコア24の変形が抑制される。嵌合孔24cの内周面には、径方向内側に突出する突起(図示略)が設けられる。この突起は、シャフト21の外周面に設けられたキー溝(図示略)に嵌る。これにより、ロータコア24とシャフト21との相対的な回転が抑止される。
【0063】
複数のコア貫通孔24eは、周方向に沿って並んで配置される。コア貫通孔24eは、マグネット保持孔24dより径方向内側に位置する。コア貫通孔24eは、一対の軸方向端面24a同士の間でオイルOを流動させる役割を果たす。
【0064】
複数のマグネット保持孔24dは、周方向に沿って並んで配置される。マグネット保持孔24dには、ロータマグネット25が挿入される。マグネット保持孔24dは、ロータマグネット25を保持する。すなわち、本実施形態のロータ20は、ロータコア24の内部にロータマグネット25が埋め込まれた埋込型(IPM(interior permanent magnet))である。
【0065】
ロータマグネット25は、永久磁石である。複数のロータマグネット25は、それぞれ周方向に並ぶ複数のマグネット保持孔24dに挿入されてロータコア24に固定される。複数のロータマグネット25は、周方向に沿って並ぶ。
【0066】
(エンドプレート)
図6は、エンドプレート26の平面図である。図7は、図6のVII-VII線に沿うエンドプレート26の断面図である。なお、図6および図7において、モータユニット1の他の部材を仮想線により示す。
【0067】
図6に示すように、エンドプレート26は、平面視円形である。エンドプレート26は、金属製の板である。エンドプレート26には、軸方向に沿って貫通する円形の中央孔26iが設けられる。中央孔26iの内周面には、キー部26qが設けられる。キー部26qは、シャフト21に設けられたキー溝21kに嵌る。エンドプレート26とシャフト21とは、キー部26qとキー溝21kとの嵌合により相対的な回転が抑止される。
【0068】
図5に示すように、エンドプレート26は、第1の面26aと、第2の面26bと、を有する。第1の面26aは、ロータコア24の軸方向端面24aと対向する。第2の面26bは、第1の面26aと反対側を向く。
【0069】
一対のエンドプレート26は、それぞれロータコア24の軸方向両側に位置する。一対のエンドプレート26は、ロータコア24の一対の軸方向端面24aにそれぞれ接触する。一対のエンドプレート26のうち一方(第1のエンドプレート26A)は、ロータコア24の一方の軸方向端面24aと鍔部21cとの間に位置する。一対のエンドプレート26のうち他方(第2のエンドプレート26B)は、ロータコア24の他方の軸方向端面24aとワッシャ28との間に位置する。エンドプレート26は、第1の面26aにおいて軸方向端面24aと接触する。また、エンドプレート26は、第2の面26bにおいて鍔部21c又はワッシャ28と接触する。
【0070】
本実施形態によれば、ロータコア24および一対のエンドプレート26は、鍔部21cと、ナット29との間に挟み込まれる。これにより、一対のエンドプレート26は、軸方向両側からロータコア24の軸方向端面24aに押し付けられる。エンドプレート26の第1の面26aとロータコア24の軸方向端面24aとの接触部には、摩擦力が生じ、これによりロータコア24とシャフト21との相対的な回転を抑止できる。
ロータコアとシャフトを圧入によって固定すると、ロータコアが変形してロータコア内を通過する磁路が変化し鉄損が大きくなる。特に本実施形態の様に車両駆動用のモータにおいては、駆動力が大きいため、圧入の締め代を大きく確保する必要があり、ロータコアの鉄損が大きくなりやすい。本実施形態によれば、ロータコア24は、エンドプレート26を介してシャフト21に固定される。このため、ロータコア24の嵌合孔24cとシャフト21との嵌合を隙間嵌めとすることができ、ロータコア24の変形を抑制でき、高効率のモータ2を提供できる。
【0071】
図7に示すように、第1の面26aには、凹部26fと、凹部26fを径方向外側から囲む傾斜面26eと、が設けられる。凹部26fは、平面視でモータ軸J2を中心とする円形である。凹部26fは、凹部底面26gと、凹部内周面26hと、を有する。凹部底面26gは、モータ軸J2に直交する平面である。凹部内周面26hは、凹部底面26gと傾斜面26eとの間に位置する。凹部内周面26hは、径方向内側から径方向外側に向かうに従い凹部26fを浅くする方向に傾斜する。凹部26fとロータコア24の軸方向端面24aとの間には、隙間が設けられる。この隙間には、オイルOが溜り、ロータコア24の軸方向端面24aを冷却する。
【0072】
傾斜面26eは、第1の面26aにおいて最も径方向外側に位置する領域に設けられ、周方向に沿って延びる。傾斜面26eは、径方向外側に向かうに従いロータコア24側に向かって傾斜角度θで傾斜する。なお、ここで傾斜角度θとは、モータ軸J2と直交する平面と傾斜面26eとのなす角度である。
【0073】
エンドプレート26は、第1の面26aの傾斜面26eにおいてロータコア24の軸方向端面24aと接触する。傾斜面26eは、径方向外側に向かうに従いロータコア24側に傾斜するため、傾斜面26eは、最も径方向外側の領域で、軸方向端面24aと接触する。これにより、傾斜面26eと軸方向端面24aとの接触により生じる摩擦力を、できるだけ径方向外側に生じさせることができる。また、傾斜面26eと軸方向端面24aとの垂直応力を、径方向外側に向かうに従い大きくすることができる。これにより、径方向外側に向かうに従い静止摩擦力の限界値を大きくすることができる。エンドプレート26とロータコア24との相対的な回転を抑止する保持トルクは、回転軸からの距離と摩擦力に比例する。したがって、本実施形態によればエンドプレート26とロータコア24との相対的な回転を抑止する保持トルクを大きくすることができ、エンドプレート26に対してロータコア24を強固に保持できる。このような効果を奏する為に、傾斜面26eの傾斜角度θは、0.1°以上5°以下とすることが好ましい。
【0074】
また、本実施形態のエンドプレート26は、傾斜面26eにおいてロータコア24の軸方向端面24aと接触する。このため、エンドプレート26とロータコア24との接触位置を安定させることができる。したがって、エンドプレート26とロータコア24との伝達トルクのばらつきを抑制することができ、シャフト21に対してロータコア24を確実に固定できる。
【0075】
また、本実施形態によれば、エンドプレート26に傾斜面26eが設けられることで、エンドプレート26およびロータコア24の軸方向端面24aの接触部の平坦度にバラツキがあっても、確実に接触させることができる。後段において説明するように、傾斜面26eの径方向内側には、オイル流路26t(図5参照)が設けられる。一般的に、オイルがロータコアとステータとの間に侵入すると、ロータコアの回転効率が低下する。傾斜面26eが、ロータコア24の軸方向端面24aと接触することでオイル流路26tのオイルOが、エンドプレート26とロータコア24の間からロータコア24の外周面24bとステータ30との隙間に浸入することを抑制できる。
なお、傾斜面26eは、径方向外側に向かうに従い傾斜角が変化する構成であってもよい。また、傾斜面26eは、径方向外側に向かうに従い傾斜角度が変化する湾曲面であってもよい。
【0076】
図5に示すように、傾斜面26eは、ロータコア24のマグネット保持孔24dの開口を塞ぐ。これにより、マグネット保持孔24dの内部に保持されるロータマグネット25が、マグネット保持孔24dの開口から飛び出ることが抑制される。これにより、収容凹部内の駆動部分にロータマグネット25の一部が侵入することが抑制される。
【0077】
図7に示すように、第2の面26bには、平面部26cと平面部26cの外縁に位置する面取り部26dとが設けられる。平面部26cは、モータ軸J2と直交する。面取り部26dは、径方向外側に向かうに従い第1の面26a側に傾斜する。
【0078】
図5に示すように、エンドプレート26には、プレート貫通孔26pと、第1の凹溝(第1の凹部)26jと、第2の凹溝(第2の凹部)26kと、が2組設けられる。以下、2組のプレート貫通孔26p、第1の凹溝26jおよび第2の凹溝26kのうち、一方の組について説明するが、他方の組も同様の構成を有する。
【0079】
プレート貫通孔26pは、軸方向に沿って延びる。第1の凹溝26jは、第1の面26aに位置する。第1の凹溝26jは、プレート貫通孔26pの開口から径方向内側に延びる。第1の凹溝26jは、中央孔26iの内周面において径方向内側に開口する。第2の凹溝26kは、第2の面26bに位置する。第2の凹溝26kは、プレート貫通孔26pの開口から径方向外側に延びる。第2の凹溝26kは、面取り部26dにおいて径方向外側に開口する。
【0080】
エンドプレート26の第1の凹溝26jの軸方向を向く開口は、ロータコア24の軸方向端面24aに覆われる。また、第1の凹溝26jの径方向の開口は、シャフト21の連通孔23と繋がる。
【0081】
シャフト21の中空部22の内部に供給されたオイルOは、連通孔23を介して径方向外側に流れる。また、オイルOは、連通孔23の径方向外側の開口から第1の凹溝26jに流入する。さらに、オイルOは、プレート貫通孔26pを通過して第1の面26aおよび第2の面26b側に流れ、第2の凹溝26kを介してロータ20の外側に放出される。図4に示すように、エンドプレート26の径方向外側には、ステータ30のコイルエンド31aが設けられる。ロータ20の外側に放出されたオイルOは、コイルエンド31aに供給されて、コイルエンド31aを冷却する。
【0082】
エンドプレート26の第1の凹溝26j、プレート貫通孔26pおよび第2の凹溝26kは、オイル流路26tとして機能する。すなわち、オイル流路26tは、第1の凹溝26j、プレート貫通孔26pおよび第2の凹溝26kから構成される。一対のエンドプレート26には、連通孔23と連通して径方向に沿って延びて開口するオイル流路26tがそれぞれ設けられる。
【0083】
本実施形態のエンドプレート26によれば、プレート貫通孔26pおよび第1の凹溝26jおよび第2の凹溝26kがオイル流路26tを構成する。したがって、本実施形態によれば、金型成型により製造した安価な部品(エンドプレート26)によって、オイル流路26tを構成させることができる。
【0084】
一対のエンドプレート26の第1の凹溝26jには、コア貫通孔24eが連通する。すなわち、コア貫通孔24eは、一対のエンドプレート26のそれぞれの第1の凹溝26j同士を繋ぐ。言い換えると、コア貫通孔24eは、一対のエンドプレート26のそれぞれのオイル流路26t同士を繋ぐ。また、コア貫通孔の開口の少なくとも一部は、プレート貫通孔26pより径方向外側に位置する。
【0085】
本実施形態によれば、コア貫通孔24eは、一対のエンドプレート26の第1の凹溝26j同士を繋ぐため、第1の凹溝26jを通過するオイルOの一部をコア貫通孔24eに流すことができる。これにより、コア貫通孔24eのオイルOによって、ロータコア24を内部から冷却することができる。また、ロータコア24に保持されたロータマグネット25を、ロータコア24を介して冷却することができる。
【0086】
本実施形態によれば、コア貫通孔24eの開口が、一対のエンドプレート26のプレート貫通孔26pより径方向外側に位置する。これにより、ロータ20の遠心力によってコア貫通孔24eの内部にオイルOを溜め、両側のエンドプレート26の第1の凹溝26jに、コア貫通孔24eからオイルOを供給できる。また、一対のエンドプレート26のうち、一方側の第1の凹溝26jにオイルOが不足する場合に、コア貫通孔24eを介し他方側からオイルOを供給できる。したがって、それぞれのエンドプレート26から略同量のオイルOをコイルエンド31aに放出することが可能となり、コイル31の安定的な冷却が可能となる。
【0087】
図5に示すように、一対のエンドプレート26のうち、鍔部21cとロータコア24との間に挟み込まれた一方を第1のエンドプレート26Aとし、ナット29とロータコア24との間に挟み込まれた他方を第2のエンドプレート26Bとする。
【0088】
第1のエンドプレート26Aにおいて、プレート貫通孔26pの径方向内側の一部は、鍔部21cに覆われる。また、第1のエンドプレート26Aにおいて、第2の凹溝26kの軸方向を向く開口は、その全体が軸方向外側を臨んでいる。換言すると、第1のエンドプレート26Aにおいて、第2の凹溝26kの軸方向を向く開口は、軸方向から見て、その全体が露出している。すなわち、第1のエンドプレート26Aの第2の凹溝26kは、軸方向を向く開口において外部と連通している。第1のエンドプレート26Aにおいて、第2の凹溝26kは、プレート貫通孔26pの一部と軸方向を向く開口の全体が、ワッシャ28から解放された第1の開放部26sとして機能する。第1のエンドプレート26Aにおいて、プレート貫通孔26pを通過したオイルOは、第1の開放部26sから放出される。
【0089】
第2のエンドプレート26Bとナット29との間には、ワッシャ28が介在する。第2のエンドプレート26Bにおいて、プレート貫通孔26pと第2の凹溝26kの軸方向を向く開口の径方向内側の一部は、ワッシャ28により覆われる。第2の凹溝26kの軸方向を向く開口のうち、ワッシャ28により覆われる部分を被覆部と呼び、ワッシャ28に覆われていない部分を開放部と呼ぶ。すなわち、第2のエンドプレート26Bにおいて、第2の凹溝26kの軸方向を向く開口は、ワッシャ28により覆われる被覆部と、ワッシャに覆われていない第2の開放部26rと、を有する。第2のエンドプレート26Bの第2の凹溝26kは、第2の凹溝26kの径方向外側の端部に位置する第2の開放部26rにおいて軸方向外側を臨む。換言すると、第2のエンドプレート26Bの第2の凹溝26kは、軸方向からみたとき第2の開放部26rにおいて露出している。すなわち、第2のエンドプレート26Bの第2の凹溝26kは、第2の開放部26rにおいて外部と連通している。第2の開放部26rは、第2の凹溝26kの径方向外側の端部に位置する。第2のエンドプレート26Bにおいて、プレート貫通孔26pを通過したオイルOは、第2の開放部26rから放出される。
【0090】
本実施形態の第1のエンドプレート26Aおよび第2のエンドプレート26Bによれば、第2の面26bに第2の凹溝26kが設けられることで、プレート貫通孔26pを介して第2の面26b側に流れるオイルOを、第2の凹溝26kに沿って径方向外側に移動させることができる。したがって、オイルOを第2の開放部26rまでオイルOを安定して流すことが可能となり、オイルOをステータ30のコイルエンド31aに安定的に供給できる。
【0091】
本実施形態によれば、第1のエンドプレート26Aおよび第2のエンドプレート26Bの第2の凹溝26kに対して、それぞれ鍔部21c又はワッシャ28が、軸方向の開口を覆う蓋部として機能する。すなわち、ロータ20は、エンドプレート26を介してロータコア24の軸方向端部に位置する一対の蓋部(鍔部21cおよびワッシャ28)を有する。蓋部(鍔部21cおよびワッシャ28)は、プレート貫通孔26pの軸方向を向く開口を外側から覆うことで、プレート貫通孔26pから第2の面26b側に流出するオイルOを第2の凹溝26kに沿って流れるように誘導する。本実施形態によれば、蓋部(鍔部21cおよびワッシャ28)によりオイルOの挙動を制御して、オイルOがロータコア24とステータ30との間に浸入することを抑制できる。
【0092】
本実施形態の第2のエンドプレート26Bによれば、第2の凹溝26kの軸方向を向く開口は、ワッシャ28により部分的に覆われ、第2の開放部26rにおいて軸方向外側を臨む。すなわち、第2の凹溝26kの第2の開放部26rに至る領域では、オイルOが軸方向に溢れ出ることがなく、オイルOを第2の開放部26rまで確実に移動させることができる。これにより、オイルOを第2の開放部26rから安定して放出することができ、オイルOをコイルエンド31aに安定して供給できる。
【0093】
本実施形態によれば、第2の凹溝26kは、径方向端部に位置する第2の開放部26rにおいて、軸方向に軸方向外側を臨む。したがって、第2の凹溝26kを通過したオイルOを、第2の開放部26rから軸方向に飛散させることができる。これによりオイルOを、ロータコア24の端部よりも軸方向に突出するコイルエンド31aにむけて飛散させることができ、コイルエンド31aのコイル31を効果的に冷却できる。
【0094】
なお、本実施形態の第1のエンドプレート26Aにおいて、プレート貫通孔26pの一部と軸方向を向く開口の全体に亘って第1の開放部26sが設けられる。しかしながら、図5に仮想線で示すように、鍔部21cが、第2の凹溝26kの軸方向を向く開口の一部を覆ってもよい。この場合には、第1のエンドプレート26Aの第1の開放部26sは、第2のエンドプレート26Bの第2の開放部26rと同様に、径方向外側の端部に位置し、第2の開放部26rと同様の効果を奏することができる。
【0095】
なお、本実施形態において、エンドプレート26には、溝状の第1の凹溝26jおよび第2の凹溝26kが設けられる。しかしながら、溝状でない凹部であっても上述の一定の効果を奏することができる。なお、径方向に沿って延びる第1の凹溝26jおよび第2の凹溝26kを設けることで、径方向に沿って円滑にオイルOを誘導できる。
【0096】
(エンドプレートの第1の変形例)
図8は、本実施形態に採用可能な第1の変形例のエンドプレート126の断面図である。なお、上述の実施形態と同一態様の構成要素については、同一符号を用いて説明する。
第1の変形例のエンドプレート126は、上述の実施形態と同様に、ロータコア24と対向する第1の面126aと、第1の面126aと反対側を向く第2の面126bと、を有する。また、エンドプレート126には、一対のプレート貫通孔126p、一対の第1の凹溝126jおよび一対の第2の凹溝126kが設けられる。プレート貫通孔126pは、軸方向に延びる。第1の凹溝126jは、第1の面126aに位置する。第1の凹溝126jは、プレート貫通孔126pから径方向内側に延びる。第2の凹溝126kは、第2の面126bに位置する。第2の凹溝126kは、プレート貫通孔126pから径方向外側に延びる。第2の凹溝126kの軸方向を向く開口は、蓋部128により部分的に覆われ開放部126rにおいて軸方向外側を臨む。なおここで、蓋部128は、ワッシャ28又は鍔部21cである(図5参照)。
【0097】
本変形例において、第2の凹溝126kの底部には、径方向外側に向かうに従い第2の凹溝126kの深さが浅くなる傾斜面126uが設けられる。傾斜面126uは、軸方向から見て開放部126rと重なる。本変形例によれば、第2の凹溝126kに傾斜面126uを設けることで、オイルOの流れに軸方向の成分を付与できる。オイルOを軸方向に飛散させて、ロータコア24の端部よりも軸方向に突出するコイルエンド31aにむけて、オイルOを効果的に飛散させることができる。
【0098】
(エンドプレートの第2の変形例)
図9は、本実施形態に採用可能な第2の変形例のエンドプレート226の平面図である。なお、上述の実施形態と同一態様の構成要素については、同一符号を用いて説明する。
第2の変形例のエンドプレート226は、上述の実施形態と同様に、第1の面226aと、第1の面226aと反対側を向く第2の面226bと、を有する。また、エンドプレート226には、一対のプレート貫通孔226p、一対の第1の凹溝226jおよび一対の第2の凹溝226kを有する。プレート貫通孔226pは、軸方向に延びる。第1の凹溝226jは、第1の面226aに位置する。第1の凹溝226jは、プレート貫通孔226pから径方向内側に延びる。第2の凹溝226kは、第2の面226bに位置する。第2の凹溝226kは、プレート貫通孔226pから径方向外側に延びる。第2の凹溝226kの軸方向を向く開口は、蓋部228により部分的に覆われ開放部226rにおいて軸方向外側を臨む。なおここで、蓋部228は、ワッシャ28又は鍔部21cである(図5参照)。
【0099】
第2の凹溝226kは、径方向に沿って延びる溝である。また、軸方向から見て、第2の凹溝226kの延びる方向は、径方向に対して傾斜する。また、第2の凹溝226kは、径方向外側に向かうに従い、径方向に対して傾斜角度を大きくするように湾曲する。本変形例によれば、第2の凹溝226kが、径方向に対して傾斜するため、第2の凹溝226kを通過するオイルOに、傾斜する第2の凹溝226kの壁面から遠心力を付与できる。これにより、開放部226rから飛散するオイルOの速度を高めることができ、コイルエンド31aまでの距離が遠い場合であっても、確実にオイルOをコイルエンド31aに当てることができる。
【0100】
本変形例の一対の第2の凹溝226kは、軸方向から見た形状が互いに異なる。一対の第2の凹溝226kのうち一方の第2の凹溝226kAは、他方の第2の凹溝226kBに対し、軸方向から見て小さく湾曲し、径方向に対する傾斜角度が小さい。すなわち本実施形態によれば、軸方向から見て複数の第2の凹溝226kA、226kBのそれぞれの溝の延びる方向は、径方向に対する角度が異なる。したがって、一対の第2の凹溝226kA、226kBがオイルOに付与する遠心力の大きさは、互いに異なる。一方の第2の凹溝226kAから飛散するオイルOに対し、他方の第2の凹溝226kBから飛散するオイルOは、より高速となり、より遠い範囲に飛散する。すなわち、本変形例によれば、複数の第2の凹溝226kA、226kBにおいて、互いに異なる領域にオイルOを飛散させることが可能となり、コイルエンド31aの幅広い範囲にオイルOを当てることができる。
【0101】
<油路>
図1に示すように、油路90は、ハウジング6の内部、すなわち収容空間80に位置する。油路90は、収容空間80のモータ室81とギヤ室82とに跨って構成される。油路90は、オイルOをオイル溜りP(すなわち、収容空間80の下側の領域)からモータ2を経て、再びオイル溜りPに導くオイルOの経路である。油路90は、モータ2の内部を通る第1の油路(油路)91と、モータ2の外部を通る第2の油路(油路)92と、を有する。オイルOは、第1の油路91および第2の油路92において、モータ2を内部および外部から冷却する。油路90は、油冷却機構を構成する。
【0102】
第1の油路91および第2の油路92は、ともにオイル溜りPからオイルOをモータ2に供給して、再びオイル溜りPに回収する経路である。第1の油路91および第2の油路92において、オイルOは、モータ2から滴下して、モータ室の下側の領域に溜る。モータ室81の下側の領域に溜ったオイルOは、隔壁開口68を介して、ギヤ室82の下側の領域(すなわち、オイル溜りP)に移動する。
【0103】
第1の油路91の経路中には、オイルOを冷却するクーラー97が設けられる。第1の油路91を通過しクーラー97により冷却されたオイルOは、オイル溜りPにおいて第2の油路92を通過したオイルOと合流する。オイル溜りPにおいて、第1の油路91および第2の油路92を通過したオイルOは、互いに混ざりあって熱交換が行われる。このため、第1の油路91の経路中に配置されてクーラー97の冷却の効果を第2の油路92を通過するオイルOにも及ぼすことができる。本実施形態によれば、第1の油路91および第2の油路92のうち一方の油路中に設けられた1つのクーラー97を用いて、両方の油路中のオイルOを冷却する。
【0104】
一般的にクーラーは、液体が定常的に流れる流路中に配置される。2つの油路を冷却させるために、2つの油路に含まれる流路中にそれぞれクーラーを配置する構成が考えられる。この場合は、2つのクーラーを用いる必要がありコストが高くなる。また、2つの油路を冷却するために、2つの油路を合流させた領域に流路を設け、この流路中にクーラーを設置する構成が考えられる。この場合は、交流した領域に流路を設ける必要があるため、油路中の流路の構成を複雑化する必要があり、結果としてコスト高となる。
本実施形態によれば、第1の油路91にのみクーラーを設け、第1の油路91および第2の油路92を通過するオイルOをオイル溜りPにおいて混合することで、第2の油路92を間接的に冷却できる。これにより、油路90中の流路の構成を複雑化することなく、1つのクーラー97により第1の油路91および第2の油路92のオイルOを冷却できる。
なお、このような効果は、第1の油路91および第2の油路92のうち何れか一方に、オイルOを冷却するクーラー97を有し、第1の油路91および第2の油路92を流れるオイルOがオイル溜りPで合流する場合に奏することができる効果である。
【0105】
オイルOの熱は、主としてクーラー97を通じて放熱される。また、オイルOの熱の一部は、オイルOがハウジング6の内面に接触するため、ハウジング6を通じても放熱される。なお、図1に示すように、ハウジング6の外側面には、凹凸状のヒートシンク部6bが設けられていてもよい。ヒートシンク部6bは、ハウジング6を介したモータ2の冷却を促進する。
【0106】
(第1の油路)
第1の油路91において、オイルOは、オイル溜りPから差動装置5によりかき上げられてロータ20の内部に導かれる。オイルOには、ロータ20の内部で、ロータ20の回転に伴う遠心力が付与される。これにより、オイルOは、ロータ20を径方向外側から囲むステータ30に向かって均等に拡散されステータ30を冷却する。
【0107】
第1の油路91は、かき上げ経路91aと、シャフト供給経路(オイル流路)91bと、シャフト内経路91cと、ロータ内経路91dと、を有する。また、第1の油路91の経路中には、第1のリザーバ93が設けられる。第1のリザーバ93は、収容空間80(特にギヤ室82)に設けられている。
【0108】
かき上げ経路91aは、差動装置5のリングギヤ51の回転によってオイル溜りPからオイルOをかき上げて、第1のリザーバ93(図3参照)でオイルOを受ける経路である。
【0109】
図3に示すように、第1のリザーバ93は、鉛直方向においてモータ軸J2、中間軸J4および差動軸J5の上側に位置する。第1のリザーバ93は、車両前後方向(水平方向、X軸方向)において中間軸J4と差動軸J5との間に位置する。第1のリザーバ93は、車両前後方向(水平方向、X軸方向)においてモータ軸J2と差動軸J5との間に位置する。第1のリザーバ93は、第1のギヤ41の側部に配置される。第1のリザーバ93は、上側に開口する。
【0110】
本明細書において、「リザーバ」とは、一方向に向かう定常的な液体の流動がない状態で、オイルを溜める機能を有する構造体を意味する。「リザーバ」は、定常的な液体の流動がないという点で、「流路」とは異なる。本実施形態のモータユニット1の収容空間80には、第1のリザーバ93、第2のリザーバ98および副リザーバ95が設けられる。
【0111】
本実施形態において、リングギヤ51の回転中心である差動軸J5は、減速装置4に対して車両後方側に配置される。差動装置5は、車両の前進時に減速装置4と逆側の領域で上側に向かって回転する。差動装置5のリングギヤ51によってかき上げられるオイルOは、減速装置4と反対側を回って第1のリザーバ93の上側に降り注ぎ第1のリザーバ93に溜る。すなわち、第1のリザーバ93は、リングギヤ51がかき上げたオイルOを受ける。また、モータ2の駆動直後などオイル溜りPの液面が高い場合、第2のギヤ42および第3のギヤ43は、オイル溜りPのオイルOに接触してオイルOをかき上げる。このような場合には、第1のリザーバ93は、リングギヤ51に加えて第2のギヤ42および第3のギヤ43によってかき上げられたオイルOも受ける。
【0112】
ハウジング6は、ギヤ室82の上側の壁を構成するギヤ室天井部(天井部)64を有する。ギヤ室天井部64は、減速装置4および差動装置5の上側に位置する。ここで、モータ軸J2の軸方向から見て、モータ軸J2と差動軸J5とを仮想的に結ぶ仮想線(後段に説明する第3の線分)L3を定義する。ギヤ室天井部64は、仮想線L3と略平行である。ギヤ室天井部64を仮想線L3と略平行とすることで、リングギヤ51でかき上げられて仮想線L3が延びる方向に飛散するオイルOが通過する領域を十分に確保して、オイルOを、モータ軸Jを中心に回転する第1のギヤ41に効率的に当てることができる。また、ギヤ室天井部64を仮想線L3と略平行とすることで、ハウジング6が鉛直方向に大型化することを抑制できる。
なお、ここでギヤ室天井部64と仮想線L3とが「略平行」とは、ギヤ室天井部64と仮想線L3とのなす角が10°以内であるとする。ギヤ室天井部64が湾曲する場合には、湾曲線の全ての点における接線と仮想線L3のなす角度が10°以内となる。
また、10°以内の範囲であれば、ギヤ室天井部64は、差動軸J5側かモータ軸J2側に向かうに従い仮想線L3に近づくことが好ましい。これにより、ハウジング6を小型化することができる。
【0113】
また、ギヤ室天井部64は、差動軸J5側からモータ軸J2側に向かうに従い、仮想線L3側に近づく方向にわずかに湾曲する曲面である。ギヤ室天井部64の湾曲形状は、リングギヤ51によってかき上げられるオイルOが描く放物線と略同じか、リングギヤ51から若干離れる曲面である。リングギヤ51でかき上げられたオイルOの一部は、第1のリザーバ93に直接到達する。また、リングギヤ51でかき上げられたオイルOの他の一部は、ハウジング6のギヤ室天井部64を伝って第1のリザーバ93に到達する。すなわち、ギヤ室天井部64は、第1のリザーバ93にオイルOを誘導する役割を担っている。
【0114】
ギヤ室天井部64は、下側に突出する凸部65を有する。凸部65は、第1のリザーバ93の上側に位置する。ギヤ室天井部64を伝うオイルOは、凸部65の下端において大きな液滴となり、下方に落下して第1のリザーバ93に溜る。すなわち、凸部65は、ギヤ室天井部64を伝うオイルOを第1のリザーバ93に誘導する。
本実施形態において、モータ収容部61とギヤ収容部62とは、ボルト67により互いに固定されている。凸部65は、ギヤ室天井部64において、ボルト67が挿入されるネジ穴周りの肉厚部分を利用して設けられている。なお、図3において、モータ収容部61とギヤ収容部62とを固定する他のボルトおよびネジ穴周りの他の肉厚部分の図示が省略されている。
【0115】
ギヤ室天井部64は、軸方向に沿って延びる板状の庇部66を有する。庇部66は下側に突出する。庇部66の下端は、第1のリザーバ93の上側に位置する。リングギヤ51によりかき上げられて飛散するオイルOの一部は、庇部66に当たって庇部66の表面を伝う。同様に、第2のギヤ42および第3のギヤによりかき上げられて飛散するオイルOは、庇部66に受け止められて庇部66の表面を伝う。オイルOは、庇部66の下端において大きな液滴となり下方に落下し第1のリザーバ93に溜る。すなわち、庇部66は、かき上げられたオイルOを第1のリザーバ93に誘導する。
庇部66は、上側から下側に向かうに従い差動軸J5側からモータ軸J2側に向かって傾斜する。リングギヤ51は、第2のギヤ42および第3のギヤ43と比較して大径であるため、飛散するオイルOの飛散角度が水平に近い。庇部66を上述の方向に傾斜させて配置することで、リングギヤ51から飛散するオイルOを庇部66の表面に円滑に付着させて下側に落下させることができる。
【0116】
第1のリザーバ93は、リングギヤ51、第2のギヤ42および第3のギヤ43の直上に位置する。第1のリザーバ93の開口は、鉛直方向から見てリングギヤ51、第2のギヤ42および第3のギヤ43と重なる。ギヤによってかき上げられるオイルの大部分は、かき上げるギヤの直上に飛散する。第1のリザーバ93をリングギヤ51、第2のギヤ42および第3のギヤ43の直上に配置することで、各ギヤでかき上げたオイルOを効率的に受けることができる。
【0117】
第1のリザーバ93は、底部93aと第1の側壁部93bと第2の側壁部93cとを有する。底部93a、第1の側壁部93bおよび第2の側壁部93cは、ギヤ収容部62およびモータ収容部の突出板部61dの壁面の間で、軸方向に沿って延びる。第1の側壁部93bおよび第2の側壁部93cは、底部93aから上側に延びる。第1の側壁部93bは、第1のリザーバ93の差動装置5側の壁面を構成する。第2の側壁部93cは、第1のリザーバ93の減速装置4側の壁面を構成する。すなわち、第1の側壁部93bは、底部93aの差動軸J5側の端部から上側に延び、第2の側壁部93cは、底部93aのモータ軸J2側の端部から上側に延びる。第1のリザーバ93は、底部93aと、第1の側壁部93bと、第2の側壁部93cと、ギヤ収容部62およびモータ収容部の突出板部61dの壁面と、に囲まれた領域において、オイルOを一時的に貯留する。
【0118】
第1の側壁部93b上端部の高さは、第2の側壁部93cの上端部より下側に位置する。オイルOは、差動装置5によりかき上げられて、減速装置4の反対側から第1のリザーバ93に向かって飛散する。第1の側壁部93bの上端部の高さを低くすることによって、差動装置5によりかき上げられたオイルOを効率的に第1のリザーバ93に貯留できる。また、リングギヤ51によってかき上げられて飛散するオイルOのうち第1の側壁部93bを超えたオイルOを第2の側壁部93cにあてて第1のリザーバ93に誘導できる。
【0119】
第2の側壁部93cは、第1のギヤ41の周方向に沿って斜め上方に向かって延びる。すなわち、第2の側壁部93cは、上側に向かうに従いモータ軸J2に向かって傾斜する。これにより、第2の側壁部93cは、差動装置5にかき上げられたオイルOを幅広い範囲で受けることができる。加えて、第2の側壁部93cは、収容空間80の天井を伝うオイルOの液滴を幅広い範囲で受けることができる。
【0120】
底部93aと第2の側壁部93cの境界部には、第1のリザーバ93の内部に向かってシャフト供給流路94が開口する。底部93aは、平面視においてモータ軸J2側に向かうに従い下方に向かって若干傾斜する。すなわち、底部93aは、第2の側壁部93c側下端となる様に若干傾斜する。したがって、シャフト供給流路94の開口を底部93aと第2の側壁部93cとの間に設けることで、第1のリザーバ93内のオイルOを効率的にシャフト供給流路94に供給できる。
【0121】
シャフト供給経路91bは、第1のリザーバ93からモータ2にオイルOを誘導する。シャフト供給経路91bは、シャフト供給流路94により構成される。シャフト供給流路94は、第1のリザーバ93からシャフト21端部に向かって延びる。シャフト供給流路94は、直線状に延びる。シャフト供給流路94は、第1のリザーバ93からシャフト21の端部に向かうに従い下側に向かって傾斜する。シャフト供給流路94は、ギヤ収容部62に収容空間80の内外に貫通する孔を加工することで形成される。加工された孔の外側の開口は、キャップ(図示略)により塞がれる。シャフト供給流路94は、第1のリザーバ93に溜ったオイルOをシャフト21の端部から中空部22に誘導する。
【0122】
図1に示すように、シャフト内経路91cは、シャフト21の中空部22内をオイルOが通過する経路である。また、ロータ内経路91dは、シャフト21の連通孔23からロータコア24の軸方向端面24aに位置するエンドプレート26の内部を通過して、ステータ30に飛散する経路である(図5参照)。すなわち、第1の油路91は、シャフト21の内部からロータコア24を通過する経路を有する。
【0123】
シャフト内経路91cにおいて、ロータ20の内部のオイルOには、ロータ20の回転に伴い遠心力が付与される。これにより、オイルOは、エンドプレート26から径方向外側に連続的に飛散する。また、オイルOの飛散に伴い、ロータ20内部の経路中が負圧となり、第1のリザーバ93に溜るオイルOが、ロータ20の内部に吸引され、ロータ20内部の経路にオイルOが満たされる。オイルOは、第1の油路91中における毛細管力によっても、ロータ20内部への移動が促進される。ステータ30に到達したオイルOは、ステータ30から熱を奪う。
【0124】
(第2の油路)
図1に示すように、第2の油路92においてオイルOは、オイル溜りPからモータ2の上側まで引き上げられてモータ2に供給される。モータ2に供給されたオイルOは、ステータ30の外周面を伝いながら、ステータ30から熱を奪い、モータ2を冷却する。ステータ30の外周面を伝ったオイルOは、下方に滴下してモータ室81の下側の領域に溜る。第2の油路92のオイルOは、第1の油路91のオイルOとモータ室81の下側の領域で合流する。モータ室81の下側の領域に溜ったオイルOは、隔壁開口68を介して、ギヤ室82の下側の領域(すなわち、オイル溜りP)に移動する。
【0125】
図10は、モータユニット1の断面図である。なお、図10の切断面は、各領域において軸方向にずらされる。
第2の油路92は、第1の流路92aと第2の流路92bと第3の流路92cとを有する。第2の油路92の経路中には、ポンプ96と、クーラー97と、第2のリザーバ98と、が設けられる。第2の油路92において、オイルOは、第1の流路92a、ポンプ96、第2の流路92b、クーラー97、第3の流路92c、第2のリザーバ98の順で各部を通過して、モータ2に供給される。
【0126】
ポンプ96は、電気により駆動する電動ポンプである。ポンプ96は、ハウジング6の外側面に設けられたポンプ取付凹部6cに取り付けられる。ポンプ96は、吸入口96aと吐出口96bとを有する。吸入口96aおよび吐出口96bは、ポンプ96の内部流路を介して繋がる。また、吸入口96aは、第1の流路92aに繋がる。吐出口96bは、第2の流路92bに繋がる。吐出口96bは、吸入口96aより上側に位置する。ポンプ96は、第1の流路92aを介してオイル溜りPからオイルOを吸い上げて、第2の流路92b、クーラー97、第3の流路92cおよび第2のリザーバ98を介してモータ2に供給する。
【0127】
ポンプ96によるモータ2へのオイルOの供給量は、モータ2の駆動状態に応じて適宜制御される。したがって、長時間の駆動や高い出力が必要な場合などモータ2の温度が高まることで、ポンプ96の駆動出力が高められてモータ2へのオイルOの供給量が増加される。
【0128】
クーラー97は、流入口97aと流出口97bとを有する。流入口97aと流出口97bは、クーラー97の内部流路を介して繋がる。また、流入口97aは、第2の流路92bに繋がる。流出口97bは、第3の流路92cに繋がる。流入口97aは、流出口97bと比較して、ポンプ96に近い側(すなわち、下側)に位置する。また、クーラー97の内部には、ラジエータから供給された冷却水が通過する冷却水用配管(図示略)が設けられる。クーラー97の内部を通過するオイルOは、冷却水との間で熱交換されて冷却される。
【0129】
ポンプ96およびクーラー97は、ハウジング6のモータ収容部61の外周面に固定される。モータ軸J2の軸方向から見て、ポンプ96およびクーラー97は、モータ軸J2を挟んで差動装置5と水平方向の反対側に位置する。また、ポンプ96およびクーラー97は、上下方向に並ぶ。クーラー97は、ポンプ96の上側に位置する。クーラー97は、鉛直方向から見てポンプ96と重なる。
【0130】
本実施形態によれば、ポンプ96およびクーラー97が、差動装置5とモータ軸J2を挟んで反対側に位置することで、モータ2の周りの空間を有効に利用できる。これにより、モータユニット1全体の水平方向に沿う寸法を小さくすることが可能となり、モータユニット1の小型化を図ることができる。
【0131】
本実施形態によれば、ポンプ96およびクーラー97が、ハウジング6の外周面に固定される。このため、ポンプ96およびクーラー97が、ハウジング6の外部に設けられる場合と比較して、モータユニット1の小型化に寄与できる。加えて、ポンプ96およびクーラー97が、ハウジング6の外周面に固定されることで、ハウジング6の壁部6aの内部を通過する第1の流路92a、第2の流路92bおよび第3の流路92cにより、収容空間80とポンプ96およびクーラー97とを繋ぐ流路を構成することができる。
【0132】
本実施形態によれば、クーラー97がハウジング6の外周面に固定されるため、収容空間80とクーラー97との距離を近づけることができる。これにより、クーラー97と収容空間80とを繋ぐ第3の流路97cを短くすることができ、冷却したオイルOを温度が低い状態で収容空間80に供給できる。
【0133】
第1の流路92a、第2の流路92bおよび第3の流路92cは、収容空間80を囲むハウジング6の壁部6aの内部を通過する。第1の流路92aは、壁部6aに形成した孔として第1の流路92a、第2の流路92bおよび第3の流路92cを形成できる。したがって、別途管材を用意する必要がなく部品点数減少に寄与できる。
なお、第1の流路92aは、壁部6aのうちモータ2の下側に位置する部分の内部を通過する。第2の流路92bは、壁部6aのうちモータ2の水平方向側方に位置する部分の内部を通過する。また、第3の流路92cは、壁部6aのうちモータ2の上側に位置する部分の内部を通過する。
【0134】
第1の流路92aは、オイル溜りPとポンプ96とを繋ぐ。第1の流路92aは、第1の端部92aaと第2の端部92abとを有する。
第1の端部92aaは、第2の端部92abと比較して、第2の油路92の上流側に位置する。第1の端部92aaは、差動装置5の下側において収容空間80に開口する。第1の端部92aaは、鉛直方向から見て、モータ2と重なる。
第2の端部92abは、ポンプ取付凹部6c内に開口してポンプ96の吸入口96aに繋がる。
【0135】
上述したように、差動装置5とポンプ96とは、モータ軸J2を挟んで互いに水平方向反対側に位置する。第1の流路92aは、モータ2を挟んで水平方向反対側に架け渡すように延びる。また、第1の流路92aは、モータ2の下側を通過する。
【0136】
本実施形態によれば、第1の流路92aがモータ2の下側を通過するため、モータ2の下側の領域を有効利用して、モータユニット1の寸法を小さくすることができる。これにより、モータユニット1の小型化を図ることができる。
【0137】
第1の流路92aは、軸方向から見て少なくとも一部が、第2のギヤ42およびリングギヤ51と重なる。これにより、軸方向から見た場合の、モータユニット1の寸法を小さくすることができ、モータユニット1の小型化を図ることができる。
なお、本実施形態では、モータ2と差動装置5との間に接続される複数のギヤ(第1のギヤ41、第2のギヤ42、第3のギヤ43およびリングギヤ51)のうち、第2のギヤ42およびリングギヤ51が、軸方向から見て第1の流路92aと重なる場合について説明した。しかしながら、モータ2と差動装置5との間に接続される複数のギヤのうち、少なくとも1つが、軸方向から見て第1の流路92aと重なれば、上述の効果を奏することができる。
【0138】
第1の流路92aは、差動装置5の下側からポンプ96の吸入口96aまで延びる。第1の流路92aは、第1の端部92aaから第2の端部92abに向かうに従い上側に向かって傾斜しかつ、直線的に延びる。また、ポンプ96の吸入口96aは、差動装置5の下端より上側、かつモータ軸J2より下側に位置する。
【0139】
ポンプ96は、モータユニット1を車両に搭載した状態で、路面からの飛び石が衝突することを避けるために、路面から離れた位置に配置することが好ましい。一方で、ポンプ96の吸入口96aは、オイル溜りPの油面より下側に配置することで、空気の巻き込みを抑制することが可能となる。
【0140】
本実施形態の吸入口96aは、モータ軸J2より下側に位置する。これにより、吸入口96aをオイル溜りPの油面より下側に配置させやすい。また、本実施形態の吸入口96aは、差動装置5の下端より上側に位置する。これにより、ポンプ96を路面から離す構造が実現できる。また、吸入口96aをモータ軸J2より下側に配置することで、第1の流路92aを直線状に構成しやすくなる。したがって、第1の流路92aを、ハウジング6の壁部6aの内部を通過させる構造を採用した場合に、第1の流路92aの加工容易性を高めることができる。
【0141】
本実施形態の吸入口96aは、収容空間80のオイル溜りPの液面より下側に位置する。なお、オイル溜りPの液面の高さは、オイル溜りPから第1の油路91および第2の油路92にオイルOが供給されることで変動する。吸入口96aは、オイル溜りPの液面の高さが最も低い場合においても、液面より下側に位置する。
図1において、吸入口96aは、オイル溜りPの液面の上側に位置して描かれている。しかしながら、図1は、あくまで模式的な図であり、実際の吸入口96aは、オイル溜りPの液面より下側に位置する。
【0142】
第2の流路92bは、ポンプ96とクーラー97とを繋ぐ。第2の流路92bは、第1の端部92baと第2の端部92bbとを有する。第1の端部92baは、ポンプ取付凹部6c内に開口してポンプ96の吐出口96bに繋がる。第1の端部92baは、第2の端部92bbと比較して、第2の油路92の上流側に位置する。第2の端部92bbは、クーラー97の流入口97aに繋がる。第2の端部92bbは、第1の端部92baより上側に位置する。
【0143】
第2の流路92bは、第1路92bdおよび第2路92beを有する。第1路92bdは、ポンプ取付凹部6cから上側に延びる。第2路92beは、第1路92bdの上端から水平方向に延びる。第1路92bdおよび第2路92beは、それぞれハウジング6の壁部6aに別方向から延びて互いに交差する孔を加工することで形成される。
【0144】
第3の流路92cは、クーラー97と収容空間80とを繋ぐ。第3の流路92cは、水平方向に沿って直線状に延びる。第3の流路92cは、第1の端部92caと第2の端部92cbとを有する。第1の端部92caは、第2の端部92cbと比較して、第2の油路92の上流側に位置する。第1の端部92caは、クーラー97の流出口97bに繋がる。第2の端部92cbは、モータ2の上側で収容空間80に開口する。すなわち、第3の流路92cは、収容空間80においてモータ2の上側で開口する。第3の流路92cの第2の端部92cbは、収容空間80に位置する第2のリザーバ98にオイルOを供給する供給部99として機能する。すなわち、第2の油路92は、供給部99において第2のリザーバ98にオイルOを供給する。
【0145】
クーラー97の流出口97bは、モータ軸J2の軸方向においてモータ2と重なる。すなわち、クーラー97の流出口97bは、径方向から見てモータ2と重なって配置される。換言すると、クーラー97の流出口97bは、軸方向において、ステータ30の両端部の間に位置する。このため、クーラー97の流出口97bと収容空間80とを繋ぐ第3の流路92cを短くすることができ、冷却したオイルOを温度が低い状態で収容空間80に供給できる。また、第3の流路97cをモータ2と径方向に重ねて配置することで、モータユニット1の軸方向寸法を小さくすることができ、モータユニット1の小型化を図ることできる。
【0146】
(第2のリザーバ)
図11は、モータユニット1の斜視図である。また、図12は、第2のリザーバ98の平面図である。なお、図11において、ハウジング6のモータ収容部61および閉塞部63の図示を省略する。
【0147】
図11に示すように、第2のリザーバ(主リザーバ)98は、収容空間80のモータ室81に位置する。第2のリザーバ98は、モータの上側に位置する。第2のリザーバ98は、底部(第1の底部98cおよび第2の底部98g)と、底部から上側に延びる側壁部(第1の側壁部98d、第2の側壁部98e、第3の側壁部98f、第4の側壁部98h、第5の側壁部98i、第6の側壁部98jおよび第7の側壁部98n、)と、を有する。第2のリザーバ98は、第3の流路92cの供給部99を介してモータ室81に供給されたオイルOを底部および側壁部に囲まれる空間において貯留する。第2のリザーバ98は、複数の流出口(第1の流出口98r、第2の流出口98o、第3の流出口98x、第4の流出口98t、第5の流出口98uおよび第6の流出口98v)を有する。各流出口は、第2のリザーバ98内に溜ったオイルOをモータ2に供給する。すなわち、第2のリザーバ98は、流出口を介して貯留したオイルOをモータ2の各部に上側から供給する。
【0148】
本実施形態によれば、第2のリザーバ98が、モータ2の上側に位置し、貯留したオイルOを複数の流出口からモータ2の上側に供給する。オイルOは、上側から下側に向かってモータ2の外周面を伝って流れてモータ2の熱を奪うため、モータ2全体を冷却することができる。
【0149】
図12に示すように、第2のリザーバ98は、軸方向においてギヤ室82側に位置する第1の端部98pと、軸方向において第1の端部98pと反対側に位置する第2の端部98qと、を有する。また、第2のリザーバ98は、軸方向に沿って延びる樋状の第1の貯留部98Aと、第1の貯留部98Aに対して第2の端部98q側に位置する第2の貯留部98Bとを有する。
【0150】
第1の貯留部98Aは、第1の底部98cと、第1の側壁部98dと、第2の側壁部98eと、第3の側壁部98fと、を有する。また、第1の貯留部98Aには、第1の流出口98r、第2の流出口98oおよび第3の流出口98xが設けられる。
【0151】
第1の底部98cは、軸方向を長手方向とする矩形状である。第1の底部98cの軸方向の両端部は、ステータ30の両端部に設けられたコイルエンド31aの上側に位置する。第1の底部98cには、第1の流出口98rが設けられる。第1の流出口98rは、第1の底部98cの第1の端部98p側の領域に位置する。
【0152】
第1の側壁部98dおよび第2の側壁部98eは、軸方向に沿って延びる。また、第1と第2の側壁部98eとは、モータ軸J2の周方向において対向する。
第1の側壁部98dには、流入口98sが設けられる。流入口98sは、上側に開口するU字状の切欠である。流入口98sには、供給部99が接続される。流入口98sは、第1の側壁部98dの軸方向の中程に位置する。これにより、流入口98sは、第2のリザーバ98において第1の端部98pおよび第2の端部98q側にそれぞれオイルOを流すことができる。
【0153】
第2の側壁部98eには、第1の側壁部98d側に突出する凸部98wが設けられる。凸部98wは、流入口98sの正面に位置する。凸部98wは、中央から第1の端部98p側および第2の端部98q側に向かうに従い突出高さを低くする傾斜面を有する。凸部98wは、流入口98sから第2のリザーバ98に流れたオイルOを第1の端部98p側と第2の端部98q側とにスムーズに分流させる。
【0154】
第2の側壁部98eには、第2の流出口98oが設けられる。第2の流出口98oは、第2の側壁部98eの第1の端部98p側の領域に位置する。第2の流出口98oは、第1の流出口98rの近傍に位置する。
【0155】
図11に示すように、第3の側壁部98fは、第2のリザーバ98の第1の端部98p側に位置する。第3の側壁部98fは、ステータ30の一方のコイルエンド31aの上側に位置する。第3の側壁部98fの上端部の高さは、第1の側壁部98dおよび第2の側壁部98eの上端部の高さより低い。また、第3の側壁部98fの上端部の高さは、第2の流出口98oの開口下端の高さと略等しい。第2の側壁部98eの上側の空間は、第2のリザーバ98に溜るオイルOの液位が高くなった場合にオイルOが流出する第3の流出口98xとして機能する。
【0156】
第2の貯留部98Bは、ステータ30の周方向に沿って延びる。第2の貯留部98Bは、第2の底部98gと、第4の側壁部98hと、第5の側壁部98iと、第6の側壁部98jと、第7の側壁部98n、段差部98kと、を有する。
また、第2の貯留部98Bには、第4の流出口98t、第5の流出口98u、第6の流出口98vおよび溢出部98yが設けられる。
【0157】
第2の底部98gは、第1の底部98cに対し第2の端部98q側に位置する。第2の底部98gは、第1の底部98cより下側に位置する。第1の底部98cと第2の底部98gとの境界には、段差部98kが設けられる。第2の貯留部98Bは、第1の貯留部98Aより下側に位置する。第1の貯留部98Aにおいて第2の端部98q側に流れたオイルOは、第2の貯留部98Bに溜る。
【0158】
第2の底部98gは、ステータ30の一方のコイルエンド31aの上側に位置する。第2の底部98gは、モータ2の外周面に沿って湾曲する。これにより、モータユニット1の寸法を大きくすることなく、第2のリザーバ98に貯留するオイルOの容量を大きくすることができる。第2の底部98gは、上下方向から見てモータ軸J2と重なる部分から周方向両側に向かうに従って下側に傾斜する。第2の貯留部98Bは、上下方向から見てモータ軸J2を挟んで一方側において第1の貯留部98Aと接続される。
【0159】
図12に示すように、第2の貯留部98Bは、上下方向から見てモータ軸J2を挟んで一方側の領域であり第1の貯留部98Aと接続される領域を第1領域98gAと、モータ軸J2を挟んで他方側の領域を第2領域98gBと、に区画される。第1領域98gAと第2領域98gBとの境界線において、第2の底部98gは、最も高くなる。第1の貯留部98Aから第2の貯留部98Bに流れ込んだオイルOは、まず第1領域98gAに溜り、第1領域98gAに溜る液位が境界線の高さに達した時点で、オイルOが第2領域98gBに流れる。このように境界線は、第2の底部98gに設けられた堰98gCとして機能する。すなわち、第2の底部98gには、上側に突出して第2のリザーバ98の第2の貯留部98Bを第1領域98gAおよび第2領域98gBに区画する堰98gCが設けられる。オイルOは、一方の領域(第1領域98gA)に流入して液位が堰98gCを超えることで他方の領域(第2領域98gB)に流入する。
【0160】
後述するように、周方向に沿って延びる第6の側壁部98jには、周方向に沿って並ぶ第4の流出口98t、第5の流出口98u、第6の流出口98vが設けられる。また、第5の側壁部98iには、溢出部98yが設けられる。第4の流出口98tおよび第5の流出口98uは、第1領域98gAに開口し、第6の流出口98vおよび溢出部98yは、第2領域98gBに開口する。すなわち、第2のリザーバ98は、堰98gCに区画された複数の領域(第1領域98gAおよび第2領域98gB)に、それぞれ流出口が設けられる。このため、オイルOは、第1領域98gAの液位が堰98gCを超えるまでは、第4の流出口98tおよび第5の流出口98uのみから流出する。また、オイルOは、第1領域98gAの液位が堰98gCを超えた後には、第4の流出口98t、第5の流出口98u、第6の流出口98vおよび溢出部98yから流出する。したがって、本実施形態によれば、第2のリザーバ98は、オイルOの貯留量が多くなると流出させる流出口の数を増加させることができる。特に、モータ2の負荷が大きくなりモータ2が高温となると、ポンプ96により第2のリザーバ98に供給されるオイルOの供給量が多くなる。したがって、本実施形態によれば、モータ2が高温となった場合に、モータ2に対するオイルOの供給点を増加させて冷却範囲を広げるとともに、モータ2の供給するオイルOの供給量を増加させることができる。
【0161】
第4の側壁部98hおよび第5の側壁部98iは、第2の貯留部98Bの周方向の両端部に位置する。第4の側壁部98hと第5の側壁部98iは、周方向に対向する。第4の側壁部98hおよび第5の側壁部98iは、軸方向に沿って延びる。第4の側壁部98hは、第1の側壁部98dと連続して第2の端部98q側に延びる。
【0162】
第5の側壁部98iには、溢出部98yが設けられる。溢出部98yは、第5の側壁部98iの上端に設けられ局所的に高さが低い部分である。溢出部98yは、第2の貯留部98Bの第4の流出口98t、第5の流出口98uおよび第6の流出口98vの開口の下端より上側に位置する。したがって、オイルOは、第2の貯留部98Bにおける液位が第4の流出口98t、第5の流出口98uおよび第6の流出口98vより高くなった後に、溢出部98yから溢れ出る。溢出部の下側には、後述する副リザーバ95が設けられる。溢出部98yから溢れ出るオイルOは、副リザーバ95に貯留される。
なお、本明細書において、「溢れ出る」とは、リザーバ内の液体が一定の液位に達した場合に、リザーバから流出することを意味する。したがって、リザーバの底部から液体が流出する場合などは、「溢れ出る」には当たらない。
【0163】
第6の側壁部98jは、第2のリザーバ98の第2の端部98q側に位置する。第6の側壁部96jは、周方向に沿って延びる。第6の側壁部98jは、ステータ30の一方のコイルエンド31aの上側に位置する。第6の側壁部98jには、第4の流出口98t、第5の流出口98uおよび第6の流出口98vが設けられる。第4の流出口98t、第5の流出口98uおよび第6の流出口98vは、第6の側壁部98jに設けられ第2のリザーバ98の内外を貫通する孔である。第4の流出口98t、第5の流出口98uおよび第6の流出口98vは、周方向に沿って並んでいる。図11に示すように、第4の流出口98t、第5の流出口98uおよび第6の流出口98vは、それぞれ高さが異なる。したがって、本実施形態によれば、第2のリザーバ98内のオイルOの液位に応じて、オイルOを流出する流出口の数を増加させることができる。これにより、モータ2に対するオイルOの供給点を増加させて冷却範囲を広げるとともに、モータ2の供給するオイルOの供給量を増加させることができる。
なおこのような効果は、第2のリザーバ98に設けられた複数の流出口のうち、少なくとも2つの流出口が、高さが互いに異なれば、奏することができる効果である。
【0164】
第7の側壁部98nは、周方向に沿って延びる。第7の側壁部98nは、第6の側壁部98jと軸方向に対向する。第7の側壁部98nは、段差部98kに周方向に沿って連続する。第7の側壁部97nには、ステータコア32の固定ネジを収容する収容部98naが設けられる。
【0165】
本実施形態によれば、第2の油路92は、第2のリザーバ98において貯留したオイルOを複数の流出口からモータ2に供給する。それぞれの流出口は、オイルOを一定流量でモータ2に供給するため、オイルOによるモータ2の冷却効率を高めることができる。
【0166】
本実施形態によれば、第2のリザーバ98は、複数の流出口(第1の流出口98r、第2の流出口98o、第3の流出口98x、第4の流出口98t、第5の流出口98uおよび第6の流出口98v)を有する。したがって、第2のリザーバ98は、同時に複数か所からモータ2にオイルOを供給することができ、モータ2の各部を同時に冷却できる。
【0167】
本実施形態によれば、第2のリザーバ98は、軸方向に沿って延びる。また、第2のリザーバ98には、軸方向の両端部にそれぞれ流出口が設けられる。また、第2のリザーバ98の軸方向両端部に位置する流出口は、コイルエンド31aの上側に位置する。これにより、ステータ30の軸方向両端に位置するコイルエンド31aにオイルOをかけてコイル31を直接的に冷却できる。より具体的には、コイル31にかけられたオイルOは、コイル31を構成する導線同士の隙間から浸み込む。コイル31に浸みこんだオイルOは、導線管に作用する毛細管力および重力によってコイル31の全体に浸透しながらコイルから熱を奪う。さらに、オイルOは、ステータコア32の内周面の最下部に溜り、コイル31の軸方向両端より滴り落ちる。
なお、コイルエンド31aに直接的にオイルOを供給することでオイルOを直接的に冷却するという効果は、複数の流出口のうち少なくとも2つの流出口が、第2のリザーバ98の軸方向の両端部に位置することで奏することができる効果である。
【0168】
本実施形態によれば、第2のリザーバ98にオイルOを供給する供給部99は、軸方向において第2のリザーバ98の両端部にそれぞれ位置する流出口の間に位置する。このため、供給部99から供給されるオイルOは、両端部にそれぞれ位置する流出口からそれぞれオイルOを流出させることができる。
【0169】
(第2のリザーバの変形例)
図13は、本実施形態に採用可能な変形例の第2のリザーバ198の斜視図である。なお、上述の実施形態と同一態様の構成要素については、同一符号を用いて説明する。
変形例の第2のリザーバ198は、上側が開口する矩形の浅い箱型である。第2のリザーバ198は、中央貯油部198aと、中央貯油部198aの周囲に位置する4つの油供給部198bと、を有する。中央貯油部198aおよび4つの油供給部198bは、互いに仕切られる。
【0170】
中央貯油部198aは、供給部99から流入するオイルOを溜める。中央貯油部198aは、円形の底面198abと、底面198abから上側に延びる円筒壁198aaによって油供給部198bと仕切られる。
【0171】
4つの油供給部198bは、中央貯油部198aを囲んで配置される。油供給部198bは、略矩形状を有する。油供給部198bの互いに異なる方向に延びる2つの外壁198ba同士の角部近傍には、油供給部198bの内外と連通させる流出口198cが設けられる。2つの流出口198cのうち一方は、モータ2の軸方向に開口し、他方は、周方向に開口する。4つの油供給部198bがそれぞれ2つの流出口198cを有するため、第2のリザーバ198は合計で8つの流出口198cを有する。
【0172】
第2のリザーバ198は、ステータ30の上側に底面が水平となる様に設置される。供給部99から供給されたオイルOは、中央貯油部198aを満たすと円筒壁198aaから溢れ出て4つの油供給部198bに流入する。第2のリザーバ198は、水平に設置されており、かつ円筒壁198aaが全周ともに同一高さであるため、オイルOは4つの油供給部198bに均等に流入する。オイルOは、4つの油供給部198bに溜るとともに、流出口198cから外部へ流出する。
【0173】
第2のリザーバ198の軸方向に沿う長さは、ステータコア32の軸方向に沿う長さよりも長い。オイルOは、1つの油供給部198bから、軸方向および周方向を向く2つの流出口198cを介してモータ2に供給される。本変形例によれば、第2のリザーバ198は、複数の流出口から複数方向に向かってモータ2にオイルOを供給できる。
【0174】
(副リザーバ)
図14は、副リザーバ95の概略を示すモータユニット1の断面図である。なお、図14において、ハウジング6の閉塞部63に設けられた突出部63dを仮想線により示す。また、図14において、副リザーバ95に貯留されるオイルOをドット模様で強調して示す。
副リザーバ95は、第2の油路92において、第2のリザーバ98から溢れ出たオイルOを受ける。すなわち、第2の油路92の経路中には、オイルOを貯留する副リザーバ95が設けられる。第2のリザーバ98は、副リザーバ95に対して主リザーバとして機能する。第2のリザーバ98は、副リザーバ95に対して第2の油路92の上流側に位置する。
【0175】
副リザーバ95は、溢出部98yの直下に位置する。すなわち、副リザーバ95と溢出部98yとは、鉛直方向から見て重なる。これにより、第2のリザーバ98から溢れ出たオイルOを副リザーバ95によって受けることができる。
【0176】
副リザーバ95は、第2のリザーバ98に対して周方向一方側に位置する第1部分95Aと、周方向他方側に位置する第2部分95Bと、を有する。第1部分95Aと第2部分95Bとは、互いに繋がる。副リザーバ95は、第1部分95Aおよび第2部分95Bにおいて、2つずつ合計4つの流出口61kを有する。4つの流出口61kは、モータ2の周方向に沿って並ぶ。また、複数の流出口61kは、互いに高さが異なる。
【0177】
副リザーバ95は、モータ収容部61の内側面61gと、閉塞部63の突出部63dとの内壁面と、から構成される。モータ収容部61の内側面61gは、径方向内側を向く内周面61iと、軸方向において閉塞部63側を向く対向面61hと、を有する。対向面61hは、突出部63dの軸方向を向く面と接触する。突出部63dと対向面61hとの接触部からはオイルOが流出しない。本実施形態によれば、副リザーバ95が他の部材間の隙間として構成されるため、他の部材を用いる必要がなく、部品点数の増加を抑制できる。
【0178】
対向面61hには、周方向に沿って並び軸方向に凹む凹部61jが設けられる。凹部61jは、モータ収容部61の内側面61gと突出部63dの内壁面との隙間を大きくする方向に凹む。オイルOは、凹部61jから下側に流出する。すなわち、凹部61jは、流出口61kを構成する。流出口61kは、ステータ30のコイルエンド31aの上側に位置する。したがって、流出口61kから流出するオイルOは、コイルエンド31aのコイル31を冷却する。
なお、本実施形態では、モータ収容部61の内側面61gと突出部63dの内壁面との接触部分において、内側面61gに凹部61jが設けられている場合を例示した。しかしながら、突出部63dの内壁面に凹部が設けられていてもよい。
【0179】
本実施形態によれば、第2のリザーバ98に加えて副リザーバ95が設けられることで、第2のリザーバ98の流出口に加え、副リザーバ95の流出口61kからもオイルOを流出することができ、モータ2の広範囲を冷却できる。また、副リザーバ95の複数の流出口61kが、周方向に沿って並んで配置される。これによりステータ30のコイルエンド31aを幅広い範囲で冷却することができる。さらに、複数の流出口61kは、互いに高さが異なるため、副リザーバ95に溜るオイルOの液位に応じて、流出させるタイミングを異ならせることができる。
【0180】
本実施形態によれば、第2のリザーバ98から溢れ出たオイルOが副リザーバ95に貯留される。ポンプ96は、モータ2が高負荷となり温度が高まった場合に、第2のリザーバ98に供給するオイルOの供給量を増加させる。したがって、モータ2が高負荷となった場合に、第2のリザーバ98からオイルOが溢れ出て、副リザーバ95の流出口61kにおいてもオイルOをモータ2に供給できる。本実施形態によれば、モータ2が高負荷となった場合に、モータ2の広い範囲をオイルOにおいて冷却できる。すなわち、副リザーバ95を設けることによって、モータ2の動作が定常状態から高負荷状態に変化した場合に、モータ2に供給するオイルOの供給範囲を自動的に広げることができる。
【0181】
また、本実施形態の副リザーバ95の下端は、モータ軸J2より上側に位置する。したがって、副リザーバ95の流出口61kは、モータ軸J2より上側に位置する。モータ2は、略円柱形状である。副リザーバ95の下端をモータ軸J2より上側とすることで、流出口61kから流出したオイルOを、モータ2の表面を伝わせてモータ2を冷却できる。また、モータ2は、モータ軸J2を通過する水平方向断面において最も幅広となる。副リザーバ95の下端がモータ軸J2より上側に位置することで、モータ2の表面を伝うオイルOが、モータ水平方向寸法が最も幅広な領域を通過する。これにより、モータ2を効率的に冷却できる。
【0182】
(第1の油路と第2の油路の共通部分)
図1に示すように、モータ2の駆動状態において、オイルOは、第1の油路91および第2の油路92を介してモータ2に供給される。モータ2に供給されたオイルOは、モータ2を冷却しながら下側に滴下され、モータ室81の下側の領域に溜る。モータ室81の下側の領域に溜ったオイルOは、隔壁61cに設けられた隔壁開口68を介してギヤ室82に移動する。
【0183】
図15は、モータ室81側から見たハウジング6の隔壁61cの正面図である。
隔壁開口68は、シャフト21を挿通する挿通孔61fより下側に位置する。隔壁開口68は、第1の開口部68aと、第1の開口部68aより上側に位置する第2の開口部68bとを有する。第1の開口部68aおよび第2の開口部68bは、それぞれモータ室81とギヤ室82とを連通させる。
【0184】
図19に示すように、隔壁開口68の下端(すなわち、第1の開口部68aの下端)は、モータ2の静止状態におけるギヤ室82のオイルOの液面の下限高さLminより上側に位置する。したがって、隔壁開口68は、モータ2の駆動が停止する停止状態で、極力多くのオイルOをオイル溜りPに移動させることができる。
【0185】
図15に示すように、第1の開口部68aは、平面視円形である。第1の開口部68aの下端は、ステータ30の下端より下側に位置する。第1の開口部68aは、モータ室81の底部81aの近傍に位置する。したがって、第1の開口部68aは、モータ室81の下側の領域に溜るオイルOが略枯渇するまで、ギヤ室82にオイルOを移動させる。
【0186】
第1の開口部68aは、上下方向から見てモータ軸J2と重なる。また、第1の開口部68aは、周壁部61aの内周面に設けられた凹部61qに位置する。ここで、周壁部61aおよび凹部61qについて説明する。ハウジング6のモータ収容部61は、ステータ30の外周面に沿う円筒形状を有する周壁部61aを有する。周壁部61aの内周面には、径方向外側に向かって凹む凹部61qが設けられる。凹部61qは、軸方向に沿って延びる。凹部61qは、モータ軸J2の直下に位置する。すなわち、凹部61qは、上下方向から見て、モータ軸J2と重なる。周壁部61aは、円筒形状を有するため、モータ室81内のオイルOは、周壁部61aの内周面を伝って凹部61qの内部に集まる。第1の開口部68aは、凹部61qに位置するため、凹部61q内部に集めたモータ室81内のオイルOを効率的にギヤ室82に移動させることができる。
【0187】
第2の開口部68bは、第1の開口部68aより上側に位置する。第2の開口部68bは、平面視で水平方向を長手方向とする矩形である。第2の開口部68bは、第1の開口部68aより開口面積が大きい。また、第2の開口部68bは、第1の開口部68aと比較して水平方向に沿う幅が大きい。第2の開口部68bは、水平方向に沿って延びる下端68cを有する。
【0188】
モータ2が駆動することで、油路90(すなわち、第1の油路91および第2の油路92)からモータ2に供給されるオイルOの単位時間当たりの供給量が増加する。これにより、モータ室81の下側の領域に溜るオイルOの液位が上昇する。隔壁開口68において、モータ室81の下側の領域に溜るオイルOの液面より下側に位置する領域を第1の領域Sと呼び、液面より上側に位置する領域を第2の領域Rと呼ぶ。隔壁開口68は、第1の領域SにおいてオイルOをギヤ室82に移動させる。ギヤ室82の下側の領域に溜ったオイルOの液面が上昇した際に、第1の領域Sの面積が大きくなり、第2の領域Rの面積が小さくなる。第1の領域Sの面積が大きくなると、隔壁開口68を介してモータ室81からギヤ室82へのオイルOの移動量が多くなる。
【0189】
本実施形態の隔壁開口68は、モータ室81のオイルOの液面が高くなった際、隔壁開口68を介してモータ室81からギヤ室82へのオイルOの移動量が多くなるように配置される。このため、モータ室81内のオイルOの液位が高くなり過ぎることが抑制される。すなわち、モータ室81内のロータ20が、オイルOに浸かったり過剰にオイルOをかき上げたりすることを抑制できる。したがって、モータ2の回転効率が、オイルOの流動抵抗により低下することを抑制できる。
加えて、本実施形態によれば、モータ室81のオイルOの液面の高さに応じて、モータ室81内のオイルOをギヤ室82側に移動させることで、モータユニット1内のオイルOを有効利用することができる。これにより、オイルOの使用量を抑制して、モータユニット1を軽量化できるのみならず、オイルOの冷却に要するエネルギー効率を高めることができる。
【0190】
図19に示すように、第2の開口部68bの下端は、モータ2の静止および駆動に関わらず、ギヤ室82のオイルOの液面の高さ(上限高さLminおよび下限高さLmin)より上側に位置する。したがって、第2の開口部68bが、ギヤ室82側で液没することがない。第2の開口部68bは、ギヤ室82の液位に関わらずオイルOをギヤ室82に移動でき、ロータ20がオイルOに浸かることを抑制できる。
【0191】
モータ室81の下側に溜るオイルOの液面の上昇に伴い隔壁開口68を介して移動するオイルOの移動量の変化についてより具体的に説明する。ここで、モータ室81の下側に溜るオイルOの液位であって、第2の開口部68bの下端68cに達する液位を第1の液位OLとする。すなわち、第2の開口部68bの下端は、第1の液位OLに位置する。第1の液位OLは、ステータ30の下端より上側かつロータ20の下端より下側に位置する。
【0192】
図16は、モータ室81の下側に溜るオイルOの液位の高さと、第1の領域Sの面積との関係を示すグラフである。第1の領域Sの面積は、隔壁開口68から流出するオイルOの流量と相関関係(略比例の関係)がある。
【0193】
オイルOは、モータ2の駆動とともにモータ2に供給され、モータ室81の下側の領域に溜り始める。モータ室81の下側の領域に溜ったオイルOは、第1の開口部68aを介して、モータ室81からギヤ室82にオイルOが移動する。モータ2に供給される単位時間当たりのオイルOの供給量が、第1の開口部68aを介してモータ室81からギヤ室82に移動するオイルOの流量を超えると、モータ室81の下側の領域に溜るオイルOの液位が上昇する。液位が、第1の液位OLに達すると、オイルOは、第1の開口部68aに加えて、第2の開口部68bからも流出する。第2の開口部68bは、第1の開口部68aと比較して、水平方向に沿う幅が大きいため、液位が第1の液位OLに達する前後で第1の領域Sの面積が急増する。これに伴い、隔壁開口68を介してモータ室81からギヤ室82に流入するオイルOの流量が急増する。上述したように、第1の液位OLは、ロータ20の下端より下側に設定される。したがって、本実施形態によれば、モータ室81内のロータ20の回転効率が、オイルOの流動抵抗により低下することを抑制できる。
【0194】
第2の開口部68bの水平方向の幅は、液位が第1の液位OLより上側に達した際に隔壁開口68から流出するオイルOの流量が、油路90においてモータ2に供給されるオイルOより多くなる幅とすることが好ましい。これにより、モータ室81の下側の領域に溜るオイルOの液位が、第1の液位OLに対して大幅に超えることを抑制し、ロータ20がオイルOに浸かることを抑制できる。
【0195】
図1に示すように、第1の油路91は、かき上げ経路91aとロータ内経路91dとを含む。かき上げ経路91aは、差動装置5によるオイル)のかき上げによってギヤ室82からモータ室81へオイルOを移動させる。差動装置5によってかき上げられるオイルOの量は、差動装置5の回転数に依存する。このため、かき上げ経路91aは、車速に依ってモータ室81へのオイルOの移動量を増減させる。また、ロータ内経路91dは、ロータ20の遠心力によってオイルOをギヤ室82側からモータ室81側にオイルOを吸い込む。遠心力は、ロータ20の回転数に依存する。したがって、ロータ内経路91dは、車速に依ってモータ室81へのオイルOの移動量を増減させる。すなわち、第1の油路91は、車速に依ってモータ室81へのオイルOの移動量が増減する。
【0196】
一方で、第2の油路92は、ポンプ(電動ポンプ)96によってギヤ室82からモータ室81にオイルOを移動させる。ポンプ96にオイルOの供給量は、例えばモータ2の温度測定結果に基づいて制御される。したがって、第2の油路92は、車速に依らないでモータ室81へのオイルOの移動量が増減する。
【0197】
第2の油路92は、モータ2が静止時において、モータ2へのオイルOの供給を停止する。また、第2の油路92は、モータ2の起動時にモータ室81へのオイルOの移動を開始させる。このため停止時において、ギヤ室82のオイル溜りPの液面を高めることができる。結果として、起動直後のモータ2の回転によって、第2のギヤ42、第3のギヤ43およびリングギヤ51をオイル溜りP内で回転させて、歯面にオイルOを行き渡らせることができる。
【0198】
本実施形態によれば、第2の油路92は、車両の速度と無関係にオイル溜りPからオイルOを引き上げる。このため、第2の油路92は、車両が低速走行する場合であっても、オイル溜りPの油面の高さを下降させることができる。これによって、低速走行時において、ギヤ室82内のギヤの回転効率がオイル溜りPのオイルOによって低下させられることを抑制できる。
【0199】
(隔壁開口の変形例)
図17は、本実施形態に採用可能な変形例の隔壁開口168の正面図である。なお、上述の実施形態と同一態様の構成要素については、同一符号を用いて説明する。
変形例の隔壁開口168は、上下方向に沿って延びる長孔部168aと、長孔部168aの上側において長孔部168aと繋がる幅広の拡張部168bと、を有する。長孔部168aの下端は、モータ室81の底部81aの近傍に位置する。長孔部168aは、上下方向から見てモータ軸J2と重なる。拡張部168bは、長孔部168aに対して水平方向に沿って幅広である。拡張部168bは、平面視で水平方向を長手方向とする矩形である。拡張部168bは、水平方向に沿って延びる下端168cを有する。下端168cは、上述の第1の液位OLに位置する。
隔壁開口168において、オイルOの液面より下側に位置する領域を第1の領域Sと液面より上側に位置する領域を第2の領域Rと呼ぶ。
【0200】
図18は、本変形例においてモータ室81の下側に溜るオイルOの液位の高さと、第1の領域Sの面積との関係を示すグラフである。
本変形例において液位が、第1の液位OLに達すると、オイルOは、長孔部168aに加えて拡張部168bからも流出し、第1の領域Sの面積が急増する。これに伴い、隔壁開口168を介してモータ室81からギヤ室82に流入するオイルOの流量が急増する。第1の液位OLは、ロータ20の下端より下側に設定されるためロータ20の回転効率が、オイルOの流動抵抗により低下することを抑制できる。
【0201】
(オイル溜りの液面高さ)
図1に示すように、第1の油路91は、モータ2の駆動状態において、ポンプ96が駆動してオイル溜りPからモータ2にオイルOを供給する。また、第1の油路91は、モータ2の駆動状態において、差動装置5のかき上げによってオイル溜りPからオイルOを第1のリザーバ93に移動させ、モータ2の内部にオイルOを供給する。すなわち、第1の油路91および第2の油路92は、ともにモータ2の駆動状態において、オイル溜りPからモータ2にオイルOを供給する。したがって、モータ2の駆動状態において、ギヤ室82の下側の領域に位置するオイル溜りPの液面は下降する。また、モータ2に供給されたオイルOは、モータ室81の下側の空間に溜るため、モータ2の駆動状態において、モータ室81の下側の領域に溜るオイルOの液面は、上昇する。
【0202】
一方で、モータ2の停止状態においては、第1の油路91および第2の油路92は、モータ2へのオイルOの供給を停止する。これによって、モータ2の下方に滴下したオイルOは、一旦モータ室81の下側の領域に溜り、隔壁開口68を介して、ギヤ室82の下側の領域のオイル溜りPに移動する。したがって、モータ2の停止状態において、モータ室の下側の領域に溜るオイルOの液面は下降し、ギヤ室82の下側の領域に位置するオイル溜りPの液面は上昇する。
【0203】
図19は、ギヤ室82の内部に位置する各ギヤの配置を示す側面図である。なお、図19において、ハウジング6のギヤ収容部62および各軸を支持するベアリングは、省略されている。
図19に示すように、本実施形態によれば、オイル溜りPに溜るオイルOの液面の高さは、オイルOが油路90(第1の油路91および第2の油路92)に供給されることで上限高さLmaxと下限高さLminの間で変動する。図1に示すように、第1の油路91には、第1のリザーバ93が設けられる。また、第2の油路92には、第2のリザーバ98および副リザーバ95(図1において省略、図14参照)が設けられる。さらに、第1の油路91と第2の油路92が合流するモータ室81の下側の領域には、オイルOが溜る。このように、第1の油路91および第2の油路92の経路中には、オイルOが溜る箇所が数カ所設けられる。これにより、モータ2にオイルOを供給することでオイル溜りPに溜るオイルOが、上述の経路中のリザーバ等に移動し、オイル溜りPの液面が下降する。結果として、ギヤ室82内のギヤを、オイル溜りPのオイルOから露出させて、ギヤの回転効率を高めることができる。
【0204】
図19に示すように、中間軸J4を中心として回転する一対のギヤ(第2のギヤ42および第3のギヤ43)のうち大径でありモータ2に接続される第2のギヤ42の下端は、液面の上限高さLmaxより下側に位置する。また、第2のギヤ42の下端は、液面の下限高さLminより上側に位置する。
同様に、中間軸J4を中心として回転する一対のギヤ(第2のギヤ42および第3のギヤ43)のうち小径であり差動装置5に接続される第3のギヤ43の下端は、液面の上限高さLmaxより下側に位置する。また、第3のギヤ43の下端は、液面の下限高さLminより上側に位置する。
【0205】
オイル溜りPの液面が上限高さLmaxとなるのは、モータ2が停止しオイル溜りPからモータ2へのオイルOの供給が停止した状態である。本実施形態によれば、モータ2の停止状態において、第2のギヤ42および第3のギヤ43の一部が、オイル溜りPのオイルOに浸かった状態とすることができる。これにより、モータ2を駆動させた際に、第2のギヤ42および第3のギヤ43の歯面にオイルOを即座に行き渡らせることができ、ギヤ間の伝達効率を高めることができる。
【0206】
オイル溜りPの液面が下限高さLminとなるのは、モータ2が高負荷で駆動しオイル溜りPからモータ2へのオイルOの供給が最も促進された状態である。本実施形態によれば、モータ2の駆動状態において、第2のギヤ42および第3のギヤ43が、オイル溜りPの液面より上側に位置するため、オイルOの流動抵抗に起因する第2のギヤ42および第3のギヤ43の回転効率の低下を抑制できる。これにより、モータユニット1の駆動効率を高めることできる。
【0207】
差動装置5に設けられ減速装置4に接続され差動軸J5を中心として回転するリングギヤ51は、液面の上限高さLmaxおよび下限高さLminにおいて、下端が液面より下側に位置する。
本実施形態によれば、オイル溜りPの液面の変動に関わらず、リングギヤ51の少なくとも一部は、オイル溜りPのオイルOの液面より下側に位置する。したがって、モータ2が駆動してオイル溜りPの液位が低くなった場合であっても、リングギヤ51がオイル溜りPからオイルOをかき上げることができ、オイルOをギヤ室82内の各ギヤの歯面にオイルOを供給し、各ギヤ間のトルクの伝達効率を高めることができる。
【0208】
(油路の総括)
図1を参照して、モータユニット1の駆動に伴う油路90中のオイルOの流れについて説明する。
モータユニット1は、ハイブリッド自動車又はプラグインハイブリッド自動車に搭載される場合、エンジンのみで駆動するエンジンモード、モータ2のみで駆動するモータモードおよびエンジンとモータの両方で駆動するハイブリッドモードのうち何れか1つのモードで走行する。
【0209】
エンジンモードにおいて、モータ2は停止するが、差動装置5はエンジンによって駆動されるため、オイル溜りPからオイルOがかき上げられる。かき上げられたオイルOは、第1のリザーバ93に溜るが、ロータ20が回転しないためステータ30に向かって飛散されない。また、エンジンモードにおいては、ポンプ96は駆動せず、第2の油路92にオイルOは供給されない。
【0210】
モータモードおよびハイブリッドモードにおいて、車両が坂道を登るような場合、モータ2の出力が増加し、モータ2の発熱量が多くなる。このような場合は、ポンプ96の吐出量を増やして、ステータ30へより多くのオイルOを供給することで、冷却を加速させる。一方で、車両が坂道を下る場合(すなわち、モータ2に負荷がかからない場合)、または車両の始動時や寒冷地での使用時のようにモータ2が高温状態に達していない場合には、ポンプ96の吐出量が減らされる。
【0211】
第2の油路92は、モータ2の温度、車両の駆動モード等に応じてポンプ96によるモータ2への供給量を調整できる。本実施形態によれば、モータ2の冷却に要するエネルギーを効率化できる。このような効果は、ポンプ96が電気駆動式のポンプである場合に奏することができる。
ポンプ96の吐出量の管理は、モータ2に設けた温度センサーが検出した温度データに基づいて行うことができる。また、車両の運行履歴、運転状態、車両の姿勢、外気温度、乗員及び荷物の重量等の各データを交えると、モータ2の温度変化を予測することができる。この温度変化の予測値に基づき、モータ2が高温状態にならないように管理してもよい。
【0212】
本実施形態によれば、油路90は、オイルOを複数か所からステータ30に供給するため、ステータ30全体を効率的に冷却できる。また、本実施形態によれば、オイルOは、冷却油および潤滑油として機能する。したがって、冷却油としての経路と潤滑油としての経路を別途設ける必要がなく、低コスト化を図ることができる。
【0213】
(油路中のコンタミ対策)
モータユニット1の冷却に使用するオイルOは、差動装置5および減速装置4の潤滑に使用される。したがって、オイルOには、機械接触によって発生する金属粉等のコンタミが混入する虞がある。コンタミは、第1の油路91および第2の油路92においてオイルOの流動性を悪化させる虞がある。コンタミは、オイルOの定期的な交換によって除去される。また、第1の油路91および第2の油路92の何れか一方又は両方に、コンタミを捕捉する手段を設けてもよい。一例として、図9に示すように、第2のリザーバ98に、永久磁石98mを設置してコンタミを磁気的に捕捉してコンタミの拡散を抑制してもよい。この場合、オイルOの流動性の悪化を抑制できる。
【0214】
(各軸の配置)
モータ軸J2、中間軸J4および差動軸J5は、水平方向に沿って互いに平行に延びる。モータ軸J2に対し中間軸J4および差動軸J5は、下側に位置する。したがって、減速装置4および差動装置5は、モータ2より下側に位置する。
【0215】
モータ軸J2の軸方向から見て、モータ軸J2と中間軸J4とを仮想的に結ぶ線分を第1の線分L1とし、中間軸J4と差動軸J5とを仮想的に結ぶ線分を第2の線分L2とし、モータ軸J2と差動軸J5とを仮想的に結ぶ線分を第3の線分L3とする。
【0216】
本実施形態によれば、第2の線分L2は、略水平方向に沿って延びる。すなわち、中間軸J4と差動軸J5は、略水平方向に並んでいる。したがって減速装置4と差動装置5とを水平方向に沿って並べることができ、モータユニット1の上下方向の寸法を小さくすることができる。また、差動装置5によりかき上げられたオイルOを、効率的に減速装置4に当てることができる。これにより、減速装置4を構成するギヤの歯面にオイルOを供給して、ギヤの伝達効率を高めることができる。なお、中間軸J4を中心として回転するギヤ(第2のギヤ42および第3のギヤ43)の直径は、差動軸J5を中心として回転するリングギヤ51の直径より小さい。本実施形態によれば、第2の線分L2が略水平方向に沿て延びるため、中間軸J4と差動軸J5とが略水平方向に沿って配置される。したがって、オイル溜りPの液面の高さによっては、リングギヤ51のみがオイル溜りPに浸かり、第2のギヤ42および第3のギヤ43がオイル溜りPに浸らない状態となる。したがって、リングギヤ51によりオイル溜りPのオイルOをかき上げつつ、第2のギヤ42および第3のギヤ43の回転効率の低下を抑制することができる。
なお、本実施形態において、第2の線分L2が略水平方向とは、水平方向に対して±10°以内の方向である。
【0217】
本実施形態によれば、第2の線分L2と第3の線分L3とのなす角αは、30°±5°である。これにより、差動装置5によりかき上げたオイルOを第1のギヤ41と第2のギヤ42との伝達効率を高めることができるとともに、所望のギヤ比を実現できる。
角αが、35°を超えると、差動装置によりかき上げられたオイルを、モータ軸を中心として回転するギヤ(第1のギヤ)に供給し難くなる。これにより、第1のギヤと第2のギヤとの間の伝達効率が低下する虞がある。一方で、角αを25°未満とすると、伝達過程における出力側のギヤを十分に大きくすることができず、3軸(モータ軸、中間軸および差動軸)において所望のギヤ比を達成することが困難となる。
【0218】
本実施形態によれば、第1の線分L1は、略鉛直方向に沿って延びる。すなわち、モータ軸J2と中間軸J4は、略鉛直方向に沿って並んでいる。したがって、モータ2と減速装置4とを鉛直方向に沿って並べることができ、モータユニット1の水平方向の寸法を小さくすることができる。また、第1の線分L1を略鉛直方向とすることで、差動軸J5に対しモータ軸J2を近づけて配置することができ、モータ軸J2を中心として回転する第1のギヤ41に、差動装置5でかき上げたオイルOを供給できる。これにより、第1のギヤ41と第2のギヤ42との伝達効率を高めることができる。
なお、本実施形態において、第1の線分L1が略鉛直方向とは、鉛直方向に対して±10°以内の方向である。
【0219】
第1の線分の長さL1と、第2の線分の長さL2と、第3の線分の長さL3は、以下の関係を満たす。
L1:L2:L3=1:1.4~1.7:1.8~2.0
また、モータ2から差動装置5に至る減速機構における減速比が8以上11以下である。
本実施形態によれば、上述したようなモータ軸J2、中間軸J4および差動軸J5の位置関係を維持しながら、所望のギヤ比(8以上11以下)を実現できる。
【0220】
<パーキング機構>
図20は、本実施形態のモータユニット1に採用可能なパーキング機構7を示す図である。
パーキング機構7は、モータユニット1が電気自動車(EV)に使用される場合に有効である。
エンジンで駆動するマニュアルトランスミッション車では、サイドブレーキを作動させる以外に、トランスミッションをニュートラル以外のポジションに設定することで、エンジンに負荷を加えてブレーキの作用をもたらすことができる。オートマチックトランスミッション車では、サイドブレーキを作動させる以外に、シフトレバーをパーキングポジションに設定することで、トランスミッションをロックさせることができる。
一方で、電気自動車では、サイドブレーキ以外に車両にブレーキをかける制動機構が無いため、モータユニット1にパーキング機構7が必要となる。
【0221】
パーキング機構7は、リング状のパーキングギヤ71と、パーキングポール72と、パーキングロッド73、パーキングレバー74とからなる。パーキングギヤ71は、第2のギヤ(中間ギヤ)42および第3のギヤ43と中間ギヤと同軸に配置される。パーキングギヤ71は、中間シャフト45に固定される。パーキングポール72は、パーキングギヤ71の溝に噛み込んでパーキングギヤ71の回転を阻止する突起部72aを有する。パーキングロッド73は、パーキングポール72に接続され、突起部72aをパーキングギヤの径方向に沿って移動させる。パーキングレバー74は、パーキングロッド73に接続されパーキングロッド73を駆動する。
【0222】
モータ2の動作時において、パーキングポール72は、パーキングギヤ71から退避する。一方、シフトレバーがパーキングの位置にある時は、パーキングポール72がパーキングギヤ71に噛み込んで、パーキングギヤ71の回転を阻止する。
【0223】
パーキングポール72の制御は、パーキングレバーに接続されるパーキング用モータ(図示略)によって行われる。パーキング用モータを用いると、パーキング機構7を電動化できるため、パーキング機構7を駆動するための構成部材を簡略化できる。また、パーキング用モータを用いると、プッシュボタンやパドルレバー等によってパーキングポール72を駆動させることができるため、運転者の操作性が向上する。このような機構を、シフトバイワイヤシステムという。
なお、パーキング機構7は、シフトバイワイヤシステムを用いた電動式に変えて、手動式としてもよい。すなわち、運転者が、パーキングレバーに接続されたワイヤーを機械的に引っ張ることによって、パーキングポールを駆動させてもよい。
【0224】
本実施形態によれば、パーキング機構7が、中間シャフト45に設けられる。これにより、モータ2から車軸55に至るトルクの伝達過程において、中間シャフトより後段のギヤにパーキング機構7を設ける場合と比較して、パーキングギヤ71の回転を阻止するための制動トルクを小さくできる。これにより、パーキング機構の構造を小型化および軽量化を図ることができる。また、パーキング機構7を電動式とする場合には、パーキング用モータとして小型のものを採用できる。さらに、パーキング機構を手動式とする場合は、運転手の操作の負担を軽減できる。
【0225】
また、本実施形態によれば、パーキング機構7は、減速装置4の下側に位置する。したがって、パーキングポール72は、オイル溜りPのオイルOに浸かった状態となり、パーキングギヤ71とパーキングポール72の突起部72aとの間にオイルOを介在させて、突起部72aの着脱を円滑に行うことができる。
なお、本実施形態のパーキング機構7は、一例であり従来公知の他の構造を採用してもよい。また、パーキング機構7は、モータ2に接続されたシャフト21又はリングギヤ51に制動力を作用させるように配置されていてもよい。
【0226】
<変形例1>
<切り離し機構>
図21は、変形例1のモータユニット101の切り離し機構107を示す部分断面図である。
変形例1として、モータ2から車軸55に至るトルクの伝達経路中に切り離し機構107を備えた変形例のモータユニット101について説明する。本変形例のモータユニット101は、モータ2のシャフト121に切り離し機構107が設けられる点が主に異なる。なお、上述の実施形態と同一態様の構成要素については、同一符号を用いて説明する。
【0227】
切り離し機構107は、モータユニット101が、ハイブリッド自動車(HEV)およびプラグインハイブリッド自動車(PHV)に搭載される場合に設けられる。ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車では、エンジンのみで駆動するエンジンモード、モータ2のみで駆動するモータモードおよびエンジンとモータの両方で駆動するハイブリッドモードのうち何れか1つのモードで走行する。切り離し機構107は、エンジンモードで走行する自動車において、停止中のモータ2が負荷とならないように、モータユニット101の動力伝達機構(モータ2のロータ20、減速装置4、差動装置5)を車軸55から切り離す。
【0228】
図21に示すように、本変形例において、シャフト121は、同軸上に並ぶ第1シャフト部121A、接続シャフト部121Cおよび第2シャフト部121Bと、接続シャフト部121Cと第2シャフト部121Bとの間に位置する切り離し機構107と、を有する。第1シャフト部121A、接続シャフト部121Cおよび第2シャフト部121Bは、軸方向に沿ってこの順で並ぶ。すなわち、接続シャフト部121Cは、第1シャフト部121Aと第2シャフト部121Bとの間に位置する。
【0229】
シャフト121は、内部にモータ軸J2に沿って延びる内周面を有する中空部122が設けられた中空シャフトである。中空部122は、第1シャフト部121Aの内部に位置する第1中空部122Aと、第2シャフト部121Bの内部に位置する第2中空部122Bと、接続シャフト部121Cの内部に位置する第3中空部122Cと、を含む。第1中空部122A、第2中空部122Bおよび第3中空部122Cは、軸方向に沿って並び、互いに連通する。
【0230】
第1シャフト部121Aは、収容空間80のモータ室81に配置される。第1シャフト部121Aは、ステータ30の径方向内側に位置し、モータ軸J2に沿ってロータコア24を貫通する。
第1シャフト部121Aは、出力側(すなわち、減速装置4側)に位置する第1端部121eを有する。
【0231】
第1端部121eは、モータ室81側から隔壁61cに設けられた挿通孔61fを通過する。第1端部121eの軸方向を向く面には、第1中空部(第2凹部)122Aが開口する。第1端部121eは、隔壁61cのモータ室81側を向く面に接触して保持される第1のベアリング89によって回転自在に支持される。
第1のベアリング89を隔壁61cのモータ室81側を向く面に接触して保持することにより、第1シャフト部121Aの軸合わせをハウジング6のモータ室81側の部位において行うことができる。これにより、ステータ30に対して第1シャフト部121Aの軸合わせを高精度で行うことができる。
【0232】
接続シャフト部121Cは、挿通孔61fの内側に配置される。接続シャフト部121Cは、隔壁61cのギヤ室82側を向く面に接触して保持される第2のベアリング188Aによって回転自在に支持される。第2のベアリング188Aはボールベアリングである。接続シャフト部121Cには、隔壁61c側を向く段差面121qが設けられる。段差面121qは、第2のベアリング188Aの内輪と接触する。
【0233】
本変形例によれば、第2のベアリング188Aが隔壁61cのギヤ室82側を向く面に保持される。このため、第1シャフト部121Aの軸合わせを行った後に第1シャフト部121Aに対して接続シャフト部121Cを組み付けることができる。したがって、接続シャフト部121Cの組み付け工程を簡素化できる。
【0234】
第2のベアリング188Aの外径は、第1のベアリング89の外径より大きい。切り離し機構107の動作時に、第2のベアリング188Aには軸方向および周方向に多大な負荷が加わる。本変形例の第2のベアリング188Aによれば、第1のベアリング89と比較して大径とすることで、切り離し機構107の動作時の負荷に対して、十分な強度を確保することができる。
【0235】
接続シャフト部121Cは第2端部121fと、第3端部121gと、接続フランジ部121hと、を有する。
【0236】
第2端部121fは、モータ室81側に突出する。第2端部121fは、第1シャフト部121A側に位置し第1シャフト部121Aの第1端部121eに連結される。第2端部121fは、第1端部121eに開口する第1中空部122Aに収容される。第2端部121fの外周面は、第1中空部122Aの内周面に嵌合する。第2端部121fが、第1中空部122Aに嵌合することで、第1端部121eと第2端部121fの連結部を径方向に小型化できる。これにより、第1端部121eの径方向外側に第1のベアリング89を配置するスペースを確保できる。
【0237】
第3端部121gは、ギヤ室82側に突出する。第3端部121gは、第2端部121fの反対側であって第2シャフト部121B側に位置する。第3端部121gの軸方向を向く端部には、第1凹部121pが設けられる。
接続フランジ部121hは、第3端部121gの径方向外側に延びる。接続フランジ部121hの直径は、挿通孔61fの最も直径が小さい部分より大きい。
【0238】
本変形例によれば、接続シャフト部121Cは、第1シャフト部121Aと別部材である。したがって、モータ2の組立工程の後に、接続シャフト部121Cを第1シャフト部121Aに組み付けることで、切り離し機構107がない場合の組み立て順序と同じ順序で組み立てを行うことができる。それに伴い、シャフト121以外の部品の形状を、切り離し機構107がない場合と同じとすることができる。すなち、本変形例によれば、切り離し機構107を備えるモータユニット101と切り離し機構107を備えないモータユニット1との間で、部品の共通化を図ることができる。また、切り離し機構107の有無に関わらず、組み立て順序を同じとすることができるため、部品形状の複雑化や部品点数の増加を抑制することができる。したがって、本変形例によれば、汎用性の高く低コストなモータユニット101を提供できる。
【0239】
第2シャフト部121Bは、収容空間80のギヤ室82に配置される。
第2シャフト部121Bは、第4端部121iと、第5端部121jと、を有する。
【0240】
第4端部121iは、接続シャフト部121Cの第3端部121g側に位置する。第4端部121iと接続シャフト部121Cの接続フランジ部121hとは、切り離し機構107により動力の伝達が選択的に切り離される。
【0241】
第4端部121iは、第3端部121gに設けられた第1凹部121pに収容される。第3端部121gおよび第4端部121iの径方向の隙間には、ニードルベアリング(ベアリング)121nが設けられる。すなわち、本変形例によれば、第2シャフト部121Bは、第4端部121iにおいて、接続シャフト部121Cに回転自在に支持される。したがって、本変形例によれば、切り離し機構107により、第2シャフト部121Bおよび接続シャフト部121Cが切り離されている場合において、相対的な回転を阻害することなく安定的な保持を実現できる。なお、このような効果は、第3端部121gおよび第4端部121iのうち何れか一方に、ニードルベアリング121nを介して他方を収容する第1凹部が設けられる場合に奏することができる効果である。
【0242】
本変形例においてニードルベアリング121nは、円柱状の部材が環状に複数配置されてなるが、ニードルベアリング121nに代えてボールベアリング等の他の軸受機構であってもよい。しかしながら、ニードルベアリングを採用することで、第3端部121gおよび第4端部121iの径方向寸法を小さくして、モータユニット101の小型化を図ることができる。
【0243】
上述したように、第1シャフト部121A、接続シャフト部121Cおよび第2シャフト部121Bには、それぞれ軸方向に延びて互いに連通する中空部122が設けられる。上述の実施形態と同様に、中空部122には、第2シャフト部121B側から第1シャフト部121A側に向かってモータの内部を冷却するオイルOが供給される。
本変形例によれば、接続シャフト部121Cと第2シャフト部121Bとがニードルベアリング121nを介して繋がる。したがって、接続シャフト部121Cの第3中空部122Cと第2シャフト部121Bの第2中空部122Bを互いに接続させることができる。これにより、中空部122にオイルOを供給してオイル流路として使用することができる。
【0244】
第5端部121jは、第4端部121iの反対側に位置する。第5端部は、ハウジングに保持される第3のベアリング188Bによって回転自在に支持される。すなわち、第2シャフト部121Bは、第5端部121jにおいて、第3のベアリング188Bにより支持される。
本変形例によれば、第2シャフト部121Bは、軸方向に並ぶ2つのベアリング(ニードルベアリング121nおよび第3のベアリング188B)により支持される。同様に、接続シャフト部121Cは、軸方向に並ぶ2つのベアリング(第2のベアリング188Aおよびニードルベアリング121n)により支持される。第2シャフト部121Bおよび接続シャフト部121Cは、軸方向に並ぶ2点で回転自在に支持されることで軸ブレを生じることなく安定的に回転できる。
【0245】
第2シャフト部121Bの外周面には、第1のギヤ41が設けられる。第1のギヤ41は、第4端部121iと第5端部121jとの間に位置する。第1のギヤ41は、減速装置4の第2のギヤ42に動力を伝達する。本変形例によれば、第1のギヤ41が、第2のベアリング188Aと第3のベアリング188Bとの間に位置する。したがって、第1のギヤ41は、モータ軸J2に対し安定して回転することが可能となり、モータ2で発生したトルクを安定的に第2のギヤ42に伝達できる。
【0246】
切り離し機構107は、接続シャフト部121Cの接続フランジ部121hと、第2シャフト部121Bの第4端部121iとを径方向外側から囲む。切り離し機構107は、接続フランジ部121hと第4端部121iとが、機械的に連結されない状態と、両者が連結される状態とを駆動部175を用いて切り替える。
【0247】
切り離し機構107は、軸方向において、モータ2の軸方向端面と第1のギヤ41との間に位置する。モータユニット101は、モータ軸J2、中間軸J4および差動軸J5の3軸構造が採用されている。また、軸方向において、モータ2の軸方向端面と第1のギヤ41との間には、第3のギヤ43が位置する。なお、第2のギヤ42は、第1のギヤ41と接続される第2のギヤ42と同期回転する。モータ2の軸方向端面と第1のギヤ41との間に、第3のギヤ43の厚さより大きな隙間が設けられる。本変形例によれば、切り離し機構107をモータ2の軸方向端面と第1のギヤ41との間に配置する。すなわち、第3のギヤ43と切り離し機構107とは、軸方向に重なる位置に配置される。これにより、ギヤ室82の内部空間を有効利用して、モータユニット101の小型化を図ることができる。
【0248】
本変形例によれば、切り離し機構は、モータ2のシャフト121に設けられる。すなわち、モータ2から車軸55に至る動力の伝達経路中において、最もトルクが小さい部分に切り離し機構107が設けられる。本変形例によれば、切り離し機構107を介して伝達するトルクが小さいため、切り離し機構を小型化できる。
【0249】
本変形例の切り離し機構107は、回転同期装置またはシンクロメッシュ機構と称される。なお、本変形例において、切り離し機構107は一例である。切り離し機構としては、例えば、ドッグクラッチ機構又は多段クラッチ機構を採用してもよい。
【0250】
切り離し機構107は、スリーブ171と、クラッチハブ172と、シンクロナイザーリング173と、キー174と、駆動部(図示略)と、を有する。
【0251】
クラッチハブ172は、第2シャフト部121Bの外周面に固定される。クラッチハブ172は、第2シャフト部121Bとともにモータ軸J2を中心として回転する。クラッチハブ172の外周には、外歯スプラインが設けられる。
【0252】
スリーブ171は、軸方向に沿って移動可能である。スリーブ171は、クラッチハブ172の外歯スプラインと噛み合っており、スリーブ171とともに一体的に回転する。また、スリーブ171の内周面には、スプラインが設けられる。スリーブ171のスプラインは、クラッチハブ172と接続フランジ部121hとが同期回転した後に、接続フランジ部121hの外周面に設けられたスプラインに嵌る。これにより、第2シャフト部121Bと接続シャフト部121Cとを連結させる。
【0253】
キー174は、スリーブ171に保持される。キー174は、スリーブ171とともに軸方向に移動する。キー174は、スリーブ171および接続フランジ部121hにそれぞれ設けられたスプラインの位相を一致させる。
【0254】
シンクロナイザーリング173は、スリーブ171とともに軸方向に移動する。シンクロナイザーリング173は、接続フランジ部121h側に近づくに従い内径を大きくするテーパ面を有する。一方で、接続フランジ部121hには、軸方向に沿ってシンクロナイザーリング173側に突出するボス部が設けられる。ボス部は、シンクロナイザーリング173と対向するテーパ面が設けられる。シンクロナイザーリング173と接続フランジ部121hは、互いのテーパ面同士を接触させることで同期回転する。
【0255】
図示略の駆動部は、スリーブ171に接続される。駆動部は、スリーブ171を軸方向に移動させる。
【0256】
図22は、切り離し機構107により、モータ2と減速装置4とを繋いだ状態を示す概念図であり、図23は、切り離し機構107により、モータ2と減速装置4とを切り離した状態を示す概念図である。
上述したように、切り離し機構107を備えたモータユニット101は、ハイブリッド自動車又はプラグインハイブリッド自動車に搭載される。このような車両において、エンジンの動力のみで走行するモードとモータ2の動力を使用して走行するモードとで切り替えられると、駆動部175が動作して、接続シャフト部121Cと第2シャフト部121Bとの接続および切り離しが切り替えられる。
【0257】
切り離し機構107に関する制御について説明する。切り離し機構107が、切り離し状態から接続状態に切り替える際に、まず、車軸55の回転数から第2シャフト部121Bの回転数が算出される。次に、モータ2の回転数が、算出された第2シャフト部121Bの回転数まで上昇される。モータ2の回転数が上昇中に、駆動部175によってスリーブが移動し、第2シャフト部121Bと接続シャフト部121Cとの接続が実現する。その後、駆動部175の累積回転数から、第2シャフト部121Bと接続シャフト部121Cとの接続が完了する位置が算出される。最後に、モータ2の回転数と、車軸55の回転数から算出される第2シャフト部121Bの回転数とが、同じであることを検出して、接合状態が完了していることが最終判断される。
【0258】
<制御>
モータユニット1のモータ2、ポンプ96、切り離し機構107の駆動部175およびパーキング機構7のパーキング用モータ等の各要素は、マイクロコントロールユニット(MCU)によって一元的に制御される。マイクロコントロールユニットは、モータユニット1と一体的に設けても外部に設けてもよい。
【0259】
<車両への搭載性>
モータユニット1は、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、電気自動車(EV)の何れにも適用できる。またモータユニット1は、乗用車に限らず、貨物自動車(トラック)等にも適用できる。モータユニット1は、車両のフロント側およびリア側のうち何れに搭載してもよいが、リア側に搭載するのが好ましい。本実施形態のモータユニット1は、上下方向の寸法が小さいため、荷室と最低地上高との制約から設置スペースに制限のあるリア側であってもコンパクトに設置できる。
【0260】
以上に、本発明の実施形態および変形例を説明したが、実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはない。
【符号の説明】
【0261】
1,101…モータユニット(電動駆動装置)、2…モータ、4…減速装置、5…差動装置、6…ハウジング、6a…壁部、20…ロータ、21,121…シャフト、21A,121A…第1シャフト部、21B,121B…第2シャフト部、21c…鍔部、21c…鍔部(蓋部)、21d…ネジ部、21e,121e…第1端部、21f,121f…第2端部、21g,121g…第3端部、21h,121i…第4端部、22,122…中空部、22A,122A…第1中空部、22q…第2領域(小径中空部)、22r…第3領域(大径中空部)、22t…第2段差面(段差面)、22u…凹溝、23…連通孔、24…ロータコア、24a…軸方向端面、24b…外周面、24d…マグネット保持孔、24e…コア貫通孔、25…ロータマグネット、26,126,226…エンドプレート、26a,126a,226a…第1の面、26b,126b,226b…第2の面、26e,126u…傾斜面、26f,61j,61q…凹部、26j,126j,226j…第1の凹溝(第1の凹部)、26k,126k,226k,226kA,226kB…第2の凹溝(第2の凹部)、26p,126p,226p…プレート貫通孔、26r…第2の開放部(開放部)、26s…第1の開放部(開放部)、26t…オイル流路、28…ワッシャ(蓋部)、29…ナット、30…ステータ、31…コイル、31a…コイルエンド、32…ステータコア、41…第1のギヤ、42…第2のギヤ(中間ギヤ)、43…第3のギヤ、51…リングギヤ、61…モータ収容部、61c…隔壁、61f…挿通孔、61k,97b,98r,98o,98x,98t,98u,98v,198c…流出口、63…閉塞部、63d…突出部、64…ギヤ室天井部(天井部)、65…凸部、66…庇部、68,168…隔壁開口、68a…第1の開口部、68b…第2の開口部、80…収容空間、81…モータ室、82…ギヤ室、88,188A…第2のベアリング、89…第1のベアリング、90…油路、91…第1の油路(油路)、91a…かき上げ経路、91b…シャフト供給経路(オイル流路)、92…第2の油路(油路)、92a…第1の流路、92b…第2の流路、92c、92aa,92ba,92ca…第1の端部、92ab,92bb,92cb…第2の端部,97c…第3の流路、93…第1のリザーバ(リザーバ)、95…副リザーバ、96…ポンプ(電動ポンプ)、96a…吸入口、97…クーラー、98,198…第2のリザーバ(主リザーバ)、98y…溢出部、99…供給部、107…切り離し機構、121C…接続シャフト部、121h…接続フランジ部、121j…第5端部、121n…ニードルベアリング(ベアリング)、121p…第1凹部、121q…段差面、126r,226r…開放部、128,228…蓋部、168a…長孔部、168b…拡張部、98gC…堰、J2…モータ軸、J4…中間軸、J5…差動軸、L1…第1の線分、L2…第2の線分、L3…第3の線分(仮想線)、Lmax…上限高さ、Lmin…下限高さ、O…オイル、OL…第1の液位、P…オイル溜り、S…第1の領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23