IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 味の素株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】接着肉の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/60 20160101AFI20220222BHJP
【FI】
A23L13/60 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018543933
(86)(22)【出願日】2017-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2017036095
(87)【国際公開番号】W WO2018066591
(87)【国際公開日】2018-04-12
【審査請求日】2020-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2016196579
(32)【優先日】2016-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(72)【発明者】
【氏名】上崎 浩克
(72)【発明者】
【氏名】勝田 雄己
(72)【発明者】
【氏名】石田 力也
(72)【発明者】
【氏名】影山 慎一
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-207887(JP,A)
【文献】国際公開第2002/080700(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/120798(WO,A1)
【文献】特開2000-050844(JP,A)
【文献】特開平10-070961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 13/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料肉に対し、
(A)プロテアーゼを作用させること、
(B)重合リン酸塩を添加すること、及び
(C)トランスグルタミナーゼを作用させて原料肉を接着させること
を含み、
前記(A)の実施後に前記(C)が実施される、接着肉の製造方法。
【請求項2】
前記(A)、(B)及び(C)が、当該順序で実施される、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の製造方法により得られる接着肉を原料として使用することを含む、食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着肉の製造方法に関し、より詳細には、肉同士が十分に接着され、かつ軟化された接着肉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数の肉片が接着されて製造される接着肉(成型肉又は成形肉等とも称される)が、食品素材として種々の食品の製造に利用されている。接着肉は、食品の製造時や喫食時に分離することがないよう、肉同士が十分に接着されていることが求められるが、近年、消費者の嗜好の高級化等により、接着肉に対して要求される品質も高まってきており、例えば、軟らかい好ましい食感を有すること等も求められるようになっている。
【0003】
食肉加工食品の軟化方法に関し、従来より種々の検討がなされており、例えば、タンパク質分解酵素で食品を処理する際に、架橋作用を有する酵素を同時に作用させて、食品を分解しつつ再架橋することにより、食品を軟らかくするとともに、食品の保形性及び保水性を維持できることが報告されている(特許文献1)。また、テンダライズによる物理的損傷と、減圧処理やタンブリング等の酵素浸漬技術とを併用して酵素反応を行うことにより、表面の過度の軟化や見割れなどによる形状崩壊を抑制し、見た目もおいしく、軟らかい軟化魚肉又は畜肉製品を提供できることが報告されている(特許文献2)。また、1種以上のプロテアーゼ及びトランスグルタミナーゼを含有する肉質改良剤によって、鳥獣肉の中で硬くてスジの多い品質部位の肉質を改良し、付加価値を向上できることが報告されている(特許文献3)。しかし、特許文献1~3には接着肉は記載されておらず、接着肉に特有の課題である肉同士が十分に接着されていること等の検討はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/051162号
【文献】特開2011-92216号公報
【文献】特開平7-23740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、肉同士が十分に接着され、かつ軟化された接着肉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、原料肉に対し、(A)プロテアーゼ処理、(B)キレート剤及び/又はタンパク質の添加、並びに(C)トランスグルタミナーゼ処理を、特定の順序で実施することにより、肉同士が十分に接着され、かつ軟化された接着肉が得られることを見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0007】
[1]原料肉に対し、
(A)プロテアーゼを作用させること、
(B)キレート剤及び/又はタンパク質を添加すること、及び
(C)トランスグルタミナーゼを作用させること
を含み、
前記(A)の実施後に前記(C)が実施される、接着肉の製造方法。
[2]前記(A)、(B)及び(C)が、当該順序で実施される、[1]記載の製造方法。
[3]キレート剤が、リン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩及びリンゴ酸塩からなる群より選択される1種又は2種以上である、[1]又は[2]記載の製造方法。
[4]タンパク質が、カゼイン及びその塩、乳タンパク質、大豆タンパク質、ゼラチン、卵タンパク質、肉タンパク質、乳清タンパク質、グルテン並びにコラーゲンからなる群より選択される1種又は2種以上である、[1]~[3]のいずれか一つに記載の製造方法。
[5][1]~[4]のいずれか一つに記載の製造方法により得られる接着肉を原料として使用することを含む、食品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、肉同士が十分に接着され、かつ軟化された接着肉を提供できる。
また本発明によれば、当該接着肉を原料として使用して製造される、軟らかい食感を有する食品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の接着肉の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」と称する場合がある)は、原料肉に対し、(A)プロテアーゼを作用させること(本明細書中、便宜上「プロテアーゼ処理」又は単に「(A)」と称する場合がある)、(B)キレート剤及び/又はタンパク質を添加すること(本明細書中、便宜上「キレート剤及び/又はタンパク質の添加」又は単に「(B)」と称する場合がある)、及び(C)トランスグルタミナーゼを作用させること(本明細書中、便宜上「トランスグルタミナーゼ処理」又は単に「(C)」と称する場合がある)を含むことを特徴の一つとする。
【0010】
本発明において「接着肉」とは、複数(例えば、2個以上)の肉片が接着されて製造される食品素材を意味する。当該食品素材は、成型肉や成形肉等と表示されて販売等される場合があるが、本発明においては、複数の肉片が接着されて製造されたものであれば「接着肉」に包含される。
また接着肉の製造に用いられる「肉片」とは、固有の形状を有する肉(例えば、枝肉又は部分肉等から切り出された肉、内臓肉等)を意味し、固有の形状を有しない肉(例えば、ミンチ状、ペースト状等の肉)は含まない概念である。従って、本発明における「接着肉」には、例えば、ミンチ状、ペースト状の肉(例、挽肉、すり身等)のみが混練されて製造される食品素材(例、ハンバーグの種、つくねの種等)等は含まれない。
本発明において「原料肉」とは、接着肉の原料として用いられる肉をいう。
【0011】
本発明において用いられる原料肉の種類は、接着肉の製造に通常用いられるものであれば特に制限されないが、例えば、鳥獣肉、魚介類の肉等が挙げられる。鳥獣肉としては、例えば、豚肉、牛肉、馬肉、めん羊肉、山羊肉、家兎肉等の家畜肉;鶏肉、鴨肉等の家禽肉等が挙げられ、魚介類の肉としては、例えば、魚(例、赤身魚、白身魚等)、海老、蟹、鯨等の肉が挙げられる。本発明において用いられる原料肉は、接着肉としての外観、食感、呈味等の嗜好性に関わる品質に優れることから、鳥獣肉が好ましい。これらの原料肉は、いずれか1種を単独で使用してよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0012】
原料肉は、複数(例えば、2個以上)の肉片が集合した状態であってよい。原料肉を複数(例えば、2個以上)の肉片が集合した状態とする方法は特に制限されないが、例えば、自体公知の方法又はそれに準ずる方法で、原料肉を所定のサイズに分断することや、食肉加工時に生じる肉片(例、屑肉、残肉等)を集めて用いること等によって、複数の肉片が集合した状態とすることができる。原料肉が元から所定のサイズである場合等は、必ずしも原料肉を切断等しなくてもよく、そのまま他の肉片と組み合わせて用いてよい。
原料肉を複数(例えば、2個以上)の肉片が集合した状態とする時期は、後述のトランスグルタミナーゼ処理(即ち(C))が実施される前が好ましい。原料肉は、後述のプロテアーゼ処理(即ち(A))が実施される前に、予め複数の肉片に分断等してそれらが集合した状態としてもよく、あるいは(A)の実施後等に、複数の肉片に分断等してそれらが集合した状態としてもよい。
【0013】
原料肉の肉片の1個当たりの重量は特に制限されないが、通常1~10000gであり、好ましくは1~3000gである。
【0014】
[(A)プロテアーゼ処理]
本発明の製造方法は、原料肉に対し、(A)プロテアーゼを作用させることを含む。原料肉に対し、プロテアーゼを作用させることによって、原料肉を改質し、軟化された接着肉を得ることができる。
【0015】
プロテアーゼは、タンパク質中のペプチド結合の加水分解を触媒する酵素であり、本発明は、当該活性を有し動物性タンパク質を分解し得るプロテアーゼであればいかなる基質特異性、いかなる反応特性を有するものでも使用できる。また、その起源も特に制限されず、植物由来のもの、哺乳動物由来のもの、魚類由来のもの、微生物由来のもの等、いかなる起源のものでも使用でき、組み換え酵素を使用してもよい。本発明に用いられるプロテアーゼの具体例としては、「食品用精製パパイン」(長瀬産業社製)、「プロテアーゼA」(天野エンザイム社製)、「プロチンFN」(大和化成社製)等が挙げられる。
【0016】
本発明においてプロテアーゼの活性単位は、カゼインを基質として、1分間にチロシン1μgに相当するフォリン試液呈色物質の増加をもたらす酵素量を1ユニット(1U)と定義する。
【0017】
原料肉に作用させるプロテアーゼの量は、接着肉をより効果的に軟化し得ることから、原料肉1g当たりの酵素活性が、好ましくは0.001U以上であり、より好ましくは0.01U以上であり、特に好ましくは0.1U以上であり、最も好ましくは1U以上である。また当該プロテアーゼの量は、接着肉がより好ましい食感となり得ることから、原料肉1g当たりの酵素活性が、好ましくは100000U以下であり、より好ましくは10000U以下であり、特に好ましくは1000U以下であり、最も好ましくは100U以下である。例えば、原料肉に作用させるプロテアーゼの量は、原料肉1g当たり、好ましくは0.001~100000Uであり、より好ましくは0.01~10000Uであり、特に好ましくは0.1~1000Uであり、最も好ましくは1~100Uである。
【0018】
原料肉にプロテアーゼを作用させる方法は特に制限されないが、例えば、プロテアーゼを含む液に原料肉を浸漬させること、プロテアーゼを含む液を原料肉に注入(インジェクション)すること、プロテアーゼを原料肉に直接添加すること、プロテアーゼを含む粉末を原料肉にまぶすこと等によってプロテアーゼ処理は実施できる。
プロテアーゼ処理を、プロテアーゼを含む液に原料肉を浸漬させること又はプロテアーゼを含む液を原料肉に注入することによって実施する場合、プロテアーゼを含む液は、プロテアーゼ以外の成分(例、調味料、タンパク質、澱粉、油脂、保存料、色素、増粘多糖類等)を含んでよい。プロテアーゼを含む液のpHは、通常4~10である。
プロテアーゼ処理を、プロテアーゼを含む液に原料肉を浸漬させること又はプロテアーゼを含む液を原料肉に注入することによって実施する場合、原料肉は更にタンブリング処理に供してよい。本発明において「タンブリング処理」とは、タンブラー(回転機構を備え、内部に羽がついたドラム)を使用して、酵素等を含む液を原料肉に機械的に浸透させる処理をいう。
【0019】
原料肉にプロテアーゼを作用させる時間は特に制限されないが、より効果的にプロテアーゼを作用させ得ることから、好ましくは10分間~7日間であり、より好ましくは0.5~72時間であり、特に好ましくは1~24時間である。
【0020】
本発明において、プロテアーゼ処理(即ち(A))は、後述のキレート剤及び/又はタンパク質の添加(即ち(B))並びにトランスグルタミナーゼ処理(即ち(C))の実施前に、実施されることが好ましい。
尚、本明細書中、「(B)の実施前」とは、実施の順序が(B)より前であることを意味し、必ずしも(B)の実施の直前でなくてもよい。同様に「(C)の実施前」とは、実施の順序が(C)より前であることを意味し、必ずしも(C)の実施の直前でなくてもよい。例えば、「(C)の実施前」に(A)が実施されるとは、(A)及び(C)の実施の順序が、当該順序であることを意味し、この場合(A)と(C)との間に他の工程(例えば、(B)等)が実施されてもよい。
【0021】
[(B)キレート剤及び/又はタンパク質の添加]
本発明の製造方法は、原料肉に対し、(B)キレート剤及び/又はタンパク質を添加することを含む。原料肉に対し、キレート剤を添加することにより、原料肉中においてタンパク質の溶解度を増加させ、タンパク質の溶出を促進し得る。原料肉から溶出したタンパク質及び原料肉に添加されたタンパク質は、後述のトランスグルタミナーゼ処理において基質となり得、トランスグルタミナーゼによる肉片の接着作用を向上させ得る。
【0022】
本発明において用いられるキレート剤は、タンパク質の溶解度を効果的に増加させ得ることから、弱アルカリ性乃至アルカリ性キレート剤が好ましい。本発明において用いられるキレート剤としては、例えば、リン酸塩(例えば、リン酸三ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三カリウム等の正リン酸塩;ピロリン酸四ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム等の重合リン酸塩)、クエン酸塩(例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム等)、酒石酸塩(例えば、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム等)、リンゴ酸塩(例えば、リンゴ酸ナトリウム、リンゴ酸カリウム等)等が挙げられ、食品へ使用し易いことから、好ましくは、リン酸塩及びクエン酸塩であり、より好ましくは、重合リン酸塩及びクエン酸ナトリウムであり、特に好ましくは、重合リン酸塩である。これらのキレート剤は、いずれか1種を単独で使用してよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
原料肉にキレート剤を添加する場合、その添加量は、原料肉に対し、通常0.01~5重量%であり、味、風味及び食感等に優れ得ることから、好ましくは0.05~3重量%であり、より好ましくは0.1~1重量%であり、特に好ましくは、0.3~1重量%である。
【0024】
本発明において用いられるタンパク質は、トランスグルタミナーゼの基質となり得るものであれば特に制限されないが、例えば、カゼイン及びその塩、大豆タンパク質、乳タンパク質、ゼラチン、卵タンパク質、肉タンパク質、乳清タンパク質、グルテン並びにコラーゲン等が挙げられ、接着力がより高いことから、好ましくは、カゼイン、カゼインの塩、大豆タンパク質、乳タンパク質である。これらのタンパク質は、いずれか1種を単独で使用してよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。本発明において用いられるカゼインの塩は、食品に使用できるものであれば特に制限されないが、例えば、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインカルシウム及びカゼインマグネシウム等が挙げられ、好ましくはカゼインナトリウムである。
【0025】
原料肉にタンパク質を添加する場合、その添加量は、原料肉に対し、通常0.01~10重量%であり、接着強度がより高くなり得、また食感、味、風味、外観等に優れ得ることから、好ましくは0.03~5重量%であり、より好ましくは0.1~3重量%であり、特に好ましくは1~2.5重量%である。
【0026】
原料肉にキレート剤及び/又はタンパク質を添加する方法は特に制限されないが、例えば、キレート剤及び/又はタンパク質を含む液に原料肉を浸漬させること、キレート剤及び/又はタンパク質を含む液を原料肉に注入(インジェクション)すること、キレート剤及び/又はタンパク質を原料肉に直接添加すること、キレート剤及び/又はタンパク質を含む粉末を原料肉にまぶすこと等によってトランスグルタミナーゼ処理は実施できる。
キレート剤及び/又はタンパク質の添加を、キレート剤及び/又はタンパク質を含む液に原料肉を浸漬させること、あるいは、キレート剤及び/又はタンパク質を含む液を原料肉に注入することによって実施する場合、キレート剤及び/又はタンパク質を含む液は、キレート剤及びタンパク質以外の成分(例、調味料、タンパク質、澱粉、油脂、保存料、色素、増粘多糖類等)を含んでよい。キレート剤及び/又はタンパク質を含む液のpHは、通常4~10である。
キレート剤及び/又はタンパク質の添加を、キレート剤及び/又はタンパク質を含む液に原料肉を浸漬させること、あるいは、キレート剤及び/又はタンパク質を含む液を原料肉に注入することによって実施する場合、原料肉は更にタンブリング処理に供してよい。
【0027】
本発明において、キレート剤及び/又はタンパク質の添加(即ち(B))は、プロテアーゼ処理(即ち(A))の実施後に、実施されることが好ましい。キレート剤及び/又はタンパク質の添加を、プロテアーゼ処理の実施後に実施することにより、後述のトランスグルタミナーゼ処理による肉片の接着作用を効果的に向上させ得る。具体的には、(B)は、(A)の実施開始から、0.5時間以上(より好ましくは2時間以上、特に好ましくは24時間以上)経過した後に、実施されることが好ましい。また(B)は、(A)の実施開始から、7日間(より好ましくは72時間、特に好ましくは36時間)経過する前には、実施されることが好ましい。
尚、本明細書中、「(A)の実施後」とは、実施の順序が(A)より後であることを意味し、必ずしも(A)の実施の直後でなくてもよい。例えば、「(A)の実施後」に(C)が実施されるとは、(A)及び(C)の実施の順序が、当該順序であることを意味し、この場合(A)と(C)との間に他の工程(例えば、(B)等)が実施されてもよい。
【0028】
本発明において、キレート剤及び/又はタンパク質の添加(即ち(B))は、後述のトランスグルタミナーゼ処理(即ち(C))の実施前に、実施されることが好ましい。
【0029】
[(C)トランスグルタミナーゼ処理]
本発明の製造方法は、原料肉に対し、(C)トランスグルタミナーゼを作用させることを含む。原料肉(又は、原料肉及びタンパク質)に対し、トランスグルタミナーゼを作用させることによって、複数の原料肉の肉片を接着することができる。
【0030】
トランスグルタミナーゼは、タンパク質やペプチド中のグルタミン残基を供与体とし、リジン残基を受容体とするアシル転移反応を触媒する活性を有する酵素であり、例えば、哺乳動物由来のもの、魚類由来のもの、微生物由来のもの等、種々の起源のものが知られている。本発明において用いられるトランスグルタミナーゼは、上述の活性を有すればその起源は特に制限されず、いかなる起源のトランスグルタミナーゼであっても使用でき、また組み換え酵素を使用してもよい。本発明において用いられるトランスグルタミナーゼは市販品であってもよく、具体例としては、味の素株式会社より「アクティバ」TGという商品名で市販されている微生物由来のトランスグルタミナーゼ等が挙げられる。
【0031】
本発明においてトランスグルタミナーゼの活性単位は、次のように測定され、かつ、定義される。
すなわち、温度37℃、pH6.0のトリス緩衝液中、ベンジルオキシカルボニル-L-グルタミルグリシン及びヒドロキシルアミンを基質とする反応系で、トランスグルタミナーゼを作用せしめ、生成したヒドロキサム酸をトリクロロ酢酸存在下で鉄錯体を形成させた後、525nmにおける吸光度を測定し、ヒドロキサム酸量を検量線により求め、1分間に1μモルのヒドロキサム酸を生成せしめる酵素量を1ユニット(1U)とする(特開昭64-27471号公報参照)。
【0032】
原料肉に作用させるトランスグルタミナーゼの量は、接着作用がより高くなり得ることから、原料肉1g当たりの酵素活性が、好ましくは0.001U以上であり、より好ましくは0.01U以上であり、特に好ましくは0.1U以上であり、最も好ましくは0.5U以上である。また当該トランスグルタミナーゼの量は、接着作用がより高くなり得、また食感に優れ得ることから、原料肉1g当たりの酵素活性が、好ましくは100000U以下であり、より好ましくは10000U以下であり、特に好ましくは1000U以下であり、最も好ましくは100U以下である。例えば、原料肉に作用させるトランスグルタミナーゼの量は、原料肉1g当たり、好ましくは0.001~100000Uであり、より好ましくは0.01~10000Uであり、特に好ましくは0.1~1000Uであり、最も好ましくは0.5~100Uである。
【0033】
原料肉にトランスグルタミナーゼを作用させる方法は特に制限されないが、例えば、トランスグルタミナーゼを含む液に原料肉を浸漬させること、トランスグルタミナーゼを含む液を原料肉に注入(インジェクション)すること、トランスグルタミナーゼを原料肉に直接添加すること、トランスグルタミナーゼを含む粉末を原料肉にまぶすこと等によってトランスグルタミナーゼ処理は実施できる。
トランスグルタミナーゼ処理を、トランスグルタミナーゼを含む液に原料肉を浸漬させること又はトランスグルタミナーゼを含む液を原料肉に注入することによって実施する場合、トランスグルタミナーゼを含む液は、トランスグルタミナーゼ以外の成分(例、調味料、タンパク質、澱粉、油脂、保存料、色素、増粘多糖類等)を含んでよい。トランスグルタミナーゼを含む液のpHは、通常4~10である。
トランスグルタミナーゼ処理を、トランスグルタミナーゼを含む液に原料肉を浸漬させること又はトランスグルタミナーゼを含む液を原料肉に注入することによって実施する場合、原料肉は更にタンブリング処理に供してよい。
【0034】
原料肉にトランスグルタミナーゼを作用させる時間は特に制限されないが、接着作用がより高くなり得ることから、好ましくは10分間~24時間であり、より好ましくは0.5~6時間であり、特に好ましくは2~4時間である。
【0035】
本発明において、トランスグルタミナーゼ処理(即ち(C))は、プロテアーゼ処理(即ち(A))の実施後に、実施されることが好ましい。トランスグルタミナーゼ処理とプロテアーゼ処理とが並行して実施された場合、肉同士が十分に接着されない傾向がある。具体的には、(C)は、(A)の実施開始から、1時間以上(より好ましくは3時間以上、特に好ましくは30時間以上)経過した後に、実施されることが好ましい。また(C)は、(A)の実施開始から、10日間(より好ましくは96時間、特に好ましくは40時間)経過する前には、実施されることが好ましい。
尚、本明細書中、「(A)の実施後」とは、上述の通り、実施の順序が(A)より後であることを意味し、必ずしも(A)の実施の直後でなくてもよい。例えば、「(A)の実施後」に(C)が実施されるとは、(A)及び(C)の実施の順序が、当該順序であることを意味し、この場合(A)と(C)との間に他の工程(例えば、(B)等)が実施されてもよい。
【0036】
本発明において、トランスグルタミナーゼ処理(即ち(C))は、キレート剤及び/又はタンパク質の添加(即ち(B))の実施後に、実施されることが好ましい。トランスグルタミナーゼ処理を、キレート剤及び/又はタンパク質の添加の実施後に実施することにより、肉片の接着作用を効果的に向上させ得る。具体的には、(C)は、(B)の実施開始から、0.5時間以上(より好ましくは2時間以上、特に好ましくは24時間以上)経過後に、実施されることが好ましい。また(C)は、(B)の実施開始から、7日間(より好ましくは72時間、特に好ましくは36時間)経過する前には、実施されることが好ましい。
尚、本明細書中、「(B)の実施後」とは、実施の順序が(B)より後であることを意味し、必ずしも(B)の実施の直後でなくてもよい。
【0037】
本発明において、プロテアーゼ処理(即ち(A))、キレート剤及び/又はタンパク質の添加(即ち(B))並びにトランスグルタミナーゼ処理(即ち(C))は、当該順序で実施されることが好ましい。
【0038】
本発明の製造方法は、上述の(A)~(C)に加え、接着肉の製造において慣用の処理工程を適宜含んでよい。例えば、(C)の実施後に、接着された肉片を、所定の容器に充填すること等により、所定の形状に成形すること等を行い得る。
【0039】
本発明の製造方法によって得られる接着肉は、所望の流通形態等に応じて、更に加熱処理、冷凍処理等に供してもよい。従って、本発明の製造方法によって得られる接着肉は、未加熱であっても又は加熱されていてもよく、あるいは、それらの冷凍品(冷凍食品)等であってもよい。
【0040】
本発明の製造方法によって得られる接着肉を加熱する場合、加熱方法は特に制限されず、自体公知の方法(例えば、焼成、油ちょう、ボイル、蒸し、過熱水蒸気加熱等)又はこれに準ずる方法で加熱できる。加熱温度及び加熱時間等の各条件は、原料肉の種類、加熱方法等に応じて適宜調整し得るが、加熱温度は通常50~300℃であり、加熱時間は通常30秒間~3時間である。
【0041】
本発明の製造方法によって得られる接着肉を冷凍する場合、冷凍条件(例えば、冷凍温度等)は、適宜調整すればよいが、冷凍温度は通常-10℃以下であり、好ましくは-15℃以下である。冷凍処理に供される接着肉は、加熱されたものであっても、未加熱のものであってもよい。冷凍処理によって得られる冷凍品(冷凍食品)の解凍方法は特に制限されず、冷凍食品分野における公知の解凍方法(例えば、電子レンジ加熱、オーブン加熱、過熱水蒸気加熱、自然解凍等)又はこれに準ずる方法を適宜用い得る。
【0042】
本発明の製造方法によれば、肉同士が十分に接着され、かつ軟化された接着肉を製造できる。
接着肉における肉同士の接着の程度は、例えば、後述の実施例に示されるように、テクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems社製「TA-XT plus」)による引張強度試験よって評価し得る。具体的には、針のついたアダプターに試料(縦9mm×横25mmの短冊状の接着肉)を装着し、引張速度1mm/s及び引張距離30mmで上下に引っ張った時の応力(引張強度)を測定すること等によって評価し得る。当該引張強度は、30g/cm以上であることが好ましく、40g/cm以上であることがより好ましく、70g/cm以上であることが特に好ましい。
接着肉の軟化の程度は、例えば、後述の実施例に示されるように、専門パネルによる官能試験によって評価し得る。
【0043】
本発明の製造方法によって得られる接着肉は、食品の原料として使用され得る。従って、本発明は、本発明の製造方法により得られる接着肉を、原料として使用することを含む、食品の製造方法も提供する。当該食品の製造方法は、本発明の製造方法により得られる接着肉を、原料として使用すること以外は特に制限されず、製造される食品の種類等に応じて、自体公知の方法又はそれに準ずる方法を適宜用いることができる。本発明の製造方法により得られる接着肉を使用して食品を製造する際、接着肉は、ミンチ状、ペースト状等になるよう加工して使用してもよい。
【0044】
本発明の製造方法によって得られる接着肉を原料として製造される食品の具体例としては、ステーキ、ハンバーグ、唐揚げ、焼き鳥、ローストビーフ、とんかつ、ハム、ソーセージ、イカフライ、フィッシュフライ、魚肉練り製品等が挙げられるが、これらに制限されない。
【0045】
本発明は、原料肉に対し、(A)プロテアーゼを作用させること、(B)キレート剤及び/又はタンパク質を添加すること、及び(C)トランスグルタミナーゼを作用させることを含み、前記(A)の実施後に前記(C)が実施される、接着肉の軟化方法も提供する。本発明の接着肉の軟化方法は、本発明の方法と同様に実施し得、好ましい態様も同様である。
【0046】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例
【0047】
(実施例1)
除脂された牛肉2000gに、プロテアーゼ(商品名:「食品用精製パパイン」、長瀬産業社製)水溶液を300g(プロテアーゼの添加量は、原料肉100g当たり300U)注入した後、手作業にて、複数の肉片(2cm角サイズ、1個当たり2~5g)に切断した。得られた複数の肉片を、600gに小分けして真空袋に収容し、真空タンブラー(株式会社トーニチ社製、3連ロータリー)を用いて、2時間連続してタンブリング処理(15rpm、5℃)を行った後、当該真空袋に重合リン酸塩(商品名:「ポリゴンM」、千代田商工株式会社製)を3.0g添加し、手撹拌を5分間行った。次いで、肉片にトランスグルタミナーゼ(商品名:「アクティバ」TG、味の素株式会社製、100U/g)を6g添加して(トランスグルタミナーゼの添加量は、原料肉100g当たり100U)、複数の肉片を接着させた後、ボール内(5℃)に30分間静置した。接着された肉片を、ビニールケーシングに充填した後(300g/本)、5℃で90分間静置し、次いで-30℃で急速凍結して、実施例1の接着肉を調製した。
【0048】
(実施例2)
重合リン酸塩を添加することに代えて、4.5gのカゼインナトリウムを添加したこと以外は、実施例1と同様の手順で、実施例2の接着肉を調製した。
【0049】
(実施例3)
重合リン酸塩を添加することに代えて、9.0gのカゼインナトリウムを添加したこと以外は、実施例1と同様の手順で、実施例3の接着肉を調製した。
【0050】
(比較例1)
プロテアーゼ水溶液を注入しなかったこと及び重合リン酸塩を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の手順で、比較例1の接着肉を調製した。
【0051】
(比較例2)
重合リン酸塩を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の手順で、比較例2の接着肉を調製した。
【0052】
(試験試料の調製)
解凍した実施例1~3及び比較例1、2の接着肉を、それぞれ厚さ9mmにスライスした後、縦9mm×横25mmの短冊状に切断し、下記の引張強度試験及び官能試験の試料を調製した。
【0053】
(引張強度試験)
テクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems社製「TA-XT plus」)を用いて、針のついたアダプターに試料(短冊状の接着肉)を装着し、引張速度1mm/s、引張距離30mmで上下に引っ張った時の応力を測定した。
【0054】
(官能試験)
実施例1~3及び比較例1、2の接着肉から調製した各試料を、スチームコンベクションオーブンを用いて、250℃で5分間加熱して焼成した。3名の専門パネルが焼成した試料を食して、下記の評価基準に基づいて評点付けし、その平均点を算出した。
【0055】
[評価基準]
5点:スジもなく、容易に噛み切れる。
4点:スジを感じるが、噛むと容易に噛み切れる。
3点:スジを感じるが、噛み切れる。
2点:噛み切れるが、スジが残りやや硬い。
1点:歯が入らない。スジが噛み切れない。
【0056】
(焼成歩留りの算出)
実施例1~3及び比較例1、2の接着肉から調製した各試料の焼成歩留りを、それぞれ下記式より算出した。
焼成歩留り(%)=[焼成後の試料の重量]÷[焼成前の試料の重量]×100
【0057】
結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示される結果から明らかなように、実施例1~3の本発明の接着肉は、いずれも引張強度が30g/cm以上であり、肉同士が接着されていることが確認された。また実施例1~3の本発明の接着肉は、いずれも焼成後に容易に噛み切ることができ、軟化されていることが確認された。接着肉の接着強度は、重合リン酸塩又はカゼイン塩の濃度依存的に増強する傾向が確認された。
一方、比較例1の接着肉は、焼成後の食感がやや硬く、軟化されていなかった。また比較例2の接着肉は、引張強度が30g/cm未満であり、肉同士が全く接着されていなかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、肉同士が十分に接着され、かつ軟化された接着肉を提供できる。
また本発明によれば、当該接着肉を原料として使用して製造される、軟らかい食感を有する食品を提供できる。
【0061】
本出願は、日本で出願された特願2016-196579(出願日:2016年10月4日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。