(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】水系エポキシ樹脂用硬化剤、水系エポキシ樹脂組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/50 20060101AFI20220222BHJP
【FI】
C08G59/50
(21)【出願番号】P 2018552478
(86)(22)【出願日】2017-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2017038651
(87)【国際公開番号】W WO2018096868
(87)【国際公開日】2018-05-31
【審査請求日】2020-08-27
(31)【優先権主張番号】P 2016228364
(32)【優先日】2016-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 唯我
(72)【発明者】
【氏名】花岡 拓磨
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-511983(JP,A)
【文献】特開2007-197702(JP,A)
【文献】特開2007-197701(JP,A)
【文献】特表2008-503627(JP,A)
【文献】特開2008-280382(JP,A)
【文献】特開2002-161076(JP,A)
【文献】Gaskamine240技術資料,No.02061H Ver.2.0,三菱瓦斯化学株式会社,2003年02月,全文
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00- 59/72
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンと下記一般式(1)で示されるアミン化合物との反応物を含む反応組成物(A)を含有する水系エポキシ樹脂用硬化剤
と、水系エポキシ樹脂とを含有する水系エポキシ樹脂組成物。
H
2N-CH
2-A-CH
2-NH
2 (1)
(式(1)中、Aは1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、又は1,4-フェニレン基である。)
【請求項2】
前記反応組成物(A)が下記一般式(2)で示される化合物を10質量%以上含む、請求項1に記載の
水系エポキシ樹脂組成物。
【化1】
(式(2)中、Aは前記と同じである。)
【請求項3】
前記Aが1,3-フェニレン基である、請求項1又は2に記載の
水系エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記硬化剤中の前記反応組成物(A)の含有量が30質量%以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の
水系エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、
前記硬化剤が、分子中に少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物とポリアミン化合物との反応物を含む反応組成物を含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の
水系エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記反応組成物が、エピクロロヒドリンと前記一般式(1)で示されるアミン化合物との反応物を含む反応組成物(B)である、請求項5に記載の
水系エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
前記反応組成物(B)が下記一般式(3)で示される化合物を主成分として含む、請求項6に記載の
水系エポキシ樹脂組成物。
【化2】
(式(3)中、Aは前記と同じである。nは1~12の数である。)
【請求項8】
前記反応組成物が、分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有する化合物とポリアミン化合物との反応物を含む反応組成物(C)である、請求項5に記載の
水系エポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
前記水系エポキシ樹脂が、エポキシ樹脂、乳化剤、及び水を含有するエポキシ樹脂エマルジョンである、請求項
1~8のいずれか1項に記載の水系エポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
前記乳化剤のグリフィン法で定義されるHLBが8.0~20.0である、請求項
9に記載の水系エポキシ樹脂組成物。
【請求項11】
前記乳化剤がポリオキシアルキレンアリールエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルからなる群から選ばれる1種以上である、請求項
9又は
10に記載の水系エポキシ樹脂組成物。
【請求項12】
請求項
1~
11のいずれか1項に記載の水系エポキシ樹脂組成物の硬化物。
【請求項13】
スチレンと下記一般式(1)で示されるアミン化合物との反応物を含む反応組成物(A)と、分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有する化合物とポリアミン化合物との反応物を含む反応組成物(C)とを含有する、水系エポキシ樹脂用硬化剤。
H
2
N-CH
2
-A-CH
2
-NH
2
(1)
(式(1)中、Aは1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、又は1,4-フェニレン基である。)
【請求項14】
前記反応組成物(C)における、分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有する化合物が、分子中に芳香環又は脂環式構造を含む化合物である、請求項13に記載の水系エポキシ樹脂用硬化剤。
【請求項15】
請求項
13又は14に記載の硬化剤と、乳化剤とを含有する水系エポキシ樹脂用硬化剤混合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水系エポキシ樹脂用硬化剤、水系エポキシ樹脂組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミン、並びに、ポリアミンとアルケニル化合物やエポキシ化合物等との付加反応により得られる化合物は、エポキシ樹脂硬化剤として有用であることが知られている。これらのエポキシ樹脂硬化剤を利用したエポキシ樹脂組成物は、船舶・橋梁・陸海上鉄構築物用防食塗料等の塗料分野、コンクリート構造物のライニング・補強・クラック補修材・シーリング材・注入材・プライマー・スクリード・トップコート・FRP補強、建築物の床材、上下水道のライニング、舗装材、接着剤等の土木・建築分野、ダイアタッチ材、絶縁封止剤等の電気・電子分野、繊維強化プラスチック分野に広く利用されている。
【0003】
塗料分野においては近年、環境面、安全面から溶剤規制が強化されており、塗料の水系化の検討が進められている。エポキシ樹脂系塗料の水系化とは、例えばエポキシ樹脂に乳化剤と水を添加してエマルジョン化した水系エポキシ樹脂を主剤として使用するというものである。
【0004】
特許文献1には、実質的にメタキシリレンジアミンを含まないエピクロロヒドリン-メタキシリレンジアミン反応生成物と、可塑剤アルコール及び水性アルコール溶媒を含むグループから選択された少なくとも1つの液状水酸基-官能性融点降下剤(liquid hydroxyl-functional melting point depressant)とを含むエポキシ硬化試薬組成物、並びに、該エポキシ硬化試薬組成物をエポキシ樹脂水分散体と組み合わせて用いることが開示されている。
特許文献2には、少なくとも1つの熱硬化性自己乳化型エポキシ樹脂組成物、少なくとも1つの熱硬化性非自己乳化型エポキシ樹脂組成物、水、及び少なくとも1つの硬化剤を含んでなる水性プライマー組成物が開示され、該硬化剤として、少なくとも2つのアミン官能基を有する窒素含有化合物が開示されている。また、好ましい窒素含有化合物の1つとして、キシリレンジアミンとエピクロロヒドリンとの反応により得られる化合物などが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2001-502378号公報
【文献】特表2010-539314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2に開示されているように、通常、水系エポキシ樹脂と組み合わせて用いるエポキシ樹脂硬化剤としては親水性の高い硬化剤が使用されていた。しかしながら、水系エポキシ樹脂を主剤とし、エピクロロヒドリン-メタキシリレンジアミン反応生成物を硬化剤として使用した水系エポキシ樹脂組成物の硬化塗膜は、耐水性や硬度、外観等の塗膜性能が十分なものではなかった。
本発明が解決しようとする課題は、溶剤を含まず環境面や安全面においても好適であり、硬化性が良好で、耐水性や硬度、外観等の塗膜性能にも優れる水系エポキシ樹脂組成物及びその硬化物、並びに当該水系エポキシ樹脂組成物に用いる水系エポキシ樹脂用硬化剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は所定の構造を有する硬化剤成分を含有するエポキシ樹脂用硬化剤が上記課題を解決できることを見出した。
本発明は、下記[1]~[14]に関する。
[1]スチレンと下記一般式(1)で示されるアミン化合物との反応物を含む反応組成物(A)を含有する、水系エポキシ樹脂用硬化剤。
H
2N-CH
2-A-CH
2-NH
2 (1)
(式(1)中、Aは1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、又は1,4-フェニレン基である。)
[2]前記反応組成物(A)が下記一般式(2)で示される化合物を10質量%以上含む、上記[1]に記載の硬化剤。
【化1】
(式(2)中、Aは前記と同じである。)
[3]前記Aが1,3-フェニレン基である、上記[1]又は[2]に記載の硬化剤。
[4]前記硬化剤中の前記反応組成物(A)の含有量が30質量%以上である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の硬化剤。
[5]さらに、分子中に少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物とポリアミン化合物との反応物を含む反応組成物を含有する、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の硬化剤。
[6]前記反応組成物が、エピクロロヒドリンと前記一般式(1)で示されるアミン化合物との反応物を含む反応組成物(B)である、上記[5]に記載の硬化剤。
[7]前記反応組成物(B)が下記一般式(3)で示される化合物を主成分として含む、上記[6]に記載の硬化剤。
【化2】
(式(3)中、Aは前記と同じである。nは1~12の数である。)
[8]前記反応組成物が、分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有する化合物とポリアミン化合物との反応物を含む反応組成物(C)である、上記[5]に記載の硬化剤。
[9]上記[1]~[8]のいずれか1項に記載の硬化剤と、水系エポキシ樹脂とを含有する水系エポキシ樹脂組成物。
[10]前記水系エポキシ樹脂が、エポキシ樹脂、乳化剤、及び水を含有するエポキシ樹脂エマルジョンである、上記[9]に記載の水系エポキシ樹脂組成物。
[11]前記乳化剤のグリフィン法で定義されるHLBが8.0~20.0である、上記[10]に記載の水系エポキシ樹脂組成物。
[12]前記乳化剤がポリオキシアルキレンアリールエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルからなる群から選ばれる1種以上である、上記[10]又は[11]に記載の水系エポキシ樹脂組成物。
[13]上記[9]~[12]のいずれか1項に記載の水系エポキシ樹脂組成物の硬化物。
[14]上記[1]~[8]のいずれか1項に記載の硬化剤と、乳化剤とを含有する水系エポキシ樹脂用硬化剤混合物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水系エポキシ樹脂用硬化剤を用いることにより、溶剤を含まず環境面や安全面においても好適であり、硬化性が良好で、耐水性や硬度、外観等の塗膜性能にも優れる水系エポキシ樹脂組成物を提供することができる。該水系エポキシ樹脂組成物は良好な硬化物物性を与え、コンクリート材への使用のほか、防食用塗料等の各種塗料、接着剤、床材、封止剤、ポリマーセメントモルタル、ガスバリアコーティング、プライマー、スクリード、トップコート、シーリング材、クラック補修材、道路の舗装材等にも好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[水系エポキシ樹脂用硬化剤]
本発明の硬化剤は水系エポキシ樹脂用硬化剤であり、スチレンと下記一般式(1)で示されるアミン化合物との反応物を含む反応組成物(A)(以下、単に「反応組成物(A)」ともいう)を含有することを特徴とする。
H2N-CH2-A-CH2-NH2 (1)
(式(1)中、Aは1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、又は1,4-フェニレン基である。)
本明細書において「水系エポキシ樹脂」とは、水溶性エポキシ樹脂、又は、水分散液(エマルジョン)の状態で用いられるエポキシ樹脂をいう。
水系エポキシ樹脂については後述するが、本発明に用いられる水系エポキシ樹脂としてはエポキシ樹脂エマルジョンが好ましい。
以下、本発明の硬化剤を構成する各成分について説明する。
【0010】
<反応組成物(A)>
本発明の硬化剤は、スチレンと前記一般式(1)で示されるアミン化合物との反応物を含む反応組成物(A)を含有する。当該反応組成物(A)を含有する硬化剤を用いた水系エポキシ樹脂組成物の硬化塗膜は耐水性、硬度及び外観が良好になる。
前記式(1)中、Aは1,3-フェニレン基又は1,4-フェニレン基であることが好ましく、1,3-フェニレン基であることがより好ましい。すなわち、前記一般式(1)で示されるアミン化合物は、o-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン(メタキシリレンジアミン;MXDA)、及びp-キシリレンジアミン(パラキシリレンジアミン;PXDA)からなる群から選ばれる1種以上のキシリレンジアミンであり、メタキシリレンジアミン及びパラキシリレンジアミンからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、メタキシリレンジアミンがより好ましい。
【0011】
得られる水系エポキシ樹脂組成物の硬化塗膜の耐水性、硬度及び外観を良好にする観点から、反応組成物(A)は、スチレンと前記一般式(1)で示されるアミン化合物との反応物を、好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上含む。上限は100質量%である。
中でも反応組成物(A)は、下記一般式(2)で示される化合物を10質量%以上含むことが好ましい。
【化3】
(式(2)中、Aは前記と同じである。)
上記一般式(2)で示される化合物は、スチレンと前記一般式(1)で示されるアミン化合物(以下「原料ジアミン」ともいう)との反応物のうち、スチレン1モルと原料ジアミン1モルとが付加した反応物(以下「1:1付加体」ともいう)である。
反応組成物(A)は、上記一般式(2)で示される化合物であるスチレンと原料ジアミンとの1:1付加体のほかに、スチレンと原料ジアミンとの2:1付加体、3:1付加体、4:1付加体などの多付加体を含有していてもよいが、上記付加体の中ではスチレンと原料ジアミンとの1:1付加体が最も活性水素当量が低い。活性水素当量(以下「AHEW」ともいう)とは、エポキシ樹脂組成物の主剤であるエポキシ樹脂と反応し得る活性水素1当量あたりの分子量である。そのため、上記一般式(2)で示される化合物を主成分として含む反応組成物(A)を用いた水系エポキシ樹脂用硬化剤は、水系エポキシ樹脂組成物への配合量が少なくても良好な硬化性能を発現できる。
【0012】
上記効果を得る観点から、反応組成物(A)中の上記一般式(2)で示される化合物の含有量は、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、よりさらに好ましくは45質量%以上である。また、上限は100質量%である。
反応組成物(A)中の上記一般式(2)で示される化合物の含有量は、ガスクロマトグラフィー(GC)分析により求めることができる。
【0013】
反応組成物(A)の活性水素当量(AHEW)は、好ましくは130以下であり、より好ましくは120以下、さらに好ましくは110以下である。反応組成物(A)のAHEWが130以下であると、水系エポキシ樹脂用硬化剤に使用した際に、水系エポキシ樹脂組成物への配合量が少なくても良好な硬化性能を発現する。反応組成物(A)のAHEWは、製造容易性などの観点から、好ましくは80以上であり、より好ましくは90以上である。
反応組成物(A)のAHEWは、例えば滴定法により求めることができる。
【0014】
また、反応組成物(A)中の前記一般式(1)で示されるアミン化合物の含有量は5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。反応組成物(A)中の前記一般式(1)で示されるアミン化合物(原料ジアミン)の含有量が少ない方が、当該反応組成物(A)を含有する硬化剤を用いて得られる水系エポキシ樹脂組成物の硬化塗膜の耐水性や外観性が良好になる。
【0015】
反応組成物(A)はスチレンと前記一般式(1)で示されるジアミンとを付加反応させることにより得られる。
スチレンと原料ジアミンとの付加反応は公知の方法で行うことができ、その方法は特に制限されないが、反応効率の観点から、塩基性触媒の存在下で行われることが好ましい。塩基性触媒としては、例えばアルカリ金属、アルカリ金属アミド(一般式MNRR’で表され、Mはアルカリ金属、Nは窒素、R及びR’はそれぞれ独立に水素又はアルキル基である。)、アルキル化アルカリ金属等が挙げられ、好ましくはアルカリ金属アミドである。中でも、塩基性触媒としてはリチウムアミド(LiNH2)が好ましい。
【0016】
スチレンと原料ジアミンとの付加反応において、塩基性触媒の使用量は、使用する原料ジアミンとスチレンとの合計量を100モル%とした場合、好ましくは0.1~20モル%、より好ましくは0.5~15モル%、さらに好ましくは1.0~12モル%、よりさらに好ましくは1.5~10モル%である。塩基性触媒の使用量が0.1モル%以上であれば付加反応速度が良好であり、20モル%以下であれば経済的に有利である。
【0017】
付加反応におけるスチレンと原料ジアミンの使用量は、前記一般式(2)で示される化合物を高選択率で得る観点から、原料ジアミン1モルに対するスチレンのモル比が、好ましくは0.1~5.0モル、より好ましくは0.4~3.0モル、さらに好ましくは0.5~1.5モル、よりさらに好ましくは0.8~1.2モルとなる範囲である。
【0018】
スチレンと原料ジアミンとの付加反応は、あらかじめ原料ジアミンと塩基性触媒とを接触させて予備反応を行ってから、スチレンを添加して反応させることが好ましい。予備反応を行うことにより、原料ジアミンの活性が高くなり、スチレンとの付加反応が効率よく進行する。原料ジアミンと塩基性触媒との予備反応は、例えば反応器内に原料ジアミンと塩基性触媒とを仕込み、窒素ガス等の不活性雰囲気下で、攪拌しながら加熱することにより行うことができる。
【0019】
原料ジアミンと塩基性触媒との予備反応時の温度は、好ましくは50~140℃であり、より好ましくは70~100℃である。予備反応時の温度が50℃以上であれば、原料ジアミンが十分に活性化され、その後の付加反応が効率よく進行する。また予備反応時温度が140℃以下であれば、原料ジアミンの熱劣化等を回避できる。
予備反応時間は、好ましくは20~360分、より好ましくは30~120分である。予備反応時間が20分以上であれば、原料ジアミンが十分に活性化され、その後の付加反応が効率よく進行する。また360分以下であれば、生産性の点で有利である。
【0020】
原料ジアミンと塩基性触媒との予備反応を行った後、ここにスチレンを添加して原料ジアミンとの付加反応を行う。スチレンの添加方法には特に制限はないが、スチレンの重合物の生成を抑制する観点からは分割添加することが好ましい。分割添加方法としては、例えば、反応器内に滴下漏斗や送液ポンプを使用してスチレンを添加する方法等が挙げられる。
スチレンの添加時、及び付加反応時の温度は、好ましくは50~120℃、より好ましくは70~100℃である。反応温度が50℃以上であれば、スチレンと原料ジアミンとの付加反応が効率よく進行する。また120℃以下であれば、副生成物であるスチレンの重合物の生成を抑制することができる。
また、付加反応時間には特に制限はなく、使用する触媒の種類や反応条件等に応じて適宜選択できる。例えば、付加反応中に反応液のサンプリングを行い、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等で未反応スチレンの定量を行い、未反応スチレンが1質量%以下になるまでの時間とすることができる。付加反応時間は、通常、スチレンの添加が終了してから、好ましくは10~180分、より好ましくは20~120分である。上記付加反応時間が10分以上であれば未反応原料の残存が少なく、180分以下であれば生産性の点で有利である。
【0021】
得られた反応液中には、スチレンと原料ジアミンとの反応物と塩基性触媒が含まれる。また、未反応の原料ジアミン、未反応スチレンがさらに含まれることがある。
塩基性触媒は、その種類に応じて、濾過、水洗、吸着等により除去することができる。例えば塩基性触媒がアルカリ金属アミドである場合は、塩酸、塩化水素ガス、酢酸などの酸、メタノール、エタノール等のアルコール、あるいは水等を加えてアルカリ金属アミドを除去容易な塩等に変えてから濾過することが可能である。例えば水を用いた場合には、アルカリ金属アミドが水酸化物となり、濾過が容易になる。
【0022】
上記のようにして反応液から塩基性触媒を除去した後、未反応の原料ジアミン及び未反応スチレンを蒸留により除去して、反応組成物(A)が得られる。この操作により、反応組成物(A)中の前記一般式(1)で示されるアミン化合物(原料ジアミン)の含有量を好ましくは1質量%以下とすることができる。
【0023】
本発明の硬化剤中の反応組成物(A)の含有量には特に制限はないが、本発明の効果を得る観点からは、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、よりさらに好ましくは85質量%以上である。また、上限は100質量%である。本発明の硬化剤中の反応組成物(A)の含有量が30質量%以上であると、当該硬化剤を用いた水系エポキシ樹脂組成物の硬化塗膜の耐水性、外観性、及び硬度が良好になる。
【0024】
<反応組成物(A)以外の他の硬化剤成分>
本発明の硬化剤は、さらに、上記反応組成物(A)以外の他の硬化剤成分を含有してもよい。当該「他の硬化剤成分」としては、ポリアミン化合物の変性体や、前記一般式(1)で示されるアミン化合物(原料ジアミン)以外のポリアミン化合物が好ましい成分として挙げられる。ポリアミン化合物とは、分子中に少なくとも2つのアミノ基を有する化合物をいう。
耐水性や硬度、外観等の塗膜性能に優れる水系エポキシ樹脂組成物を得る観点からは、当該「他の硬化剤成分」はポリアミン化合物の変性体又は当該変性体を含む反応組成物であることが好ましい。例えば、分子中に少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物とポリアミン化合物との反応物を含む反応組成物が挙げられる。中でも、エピクロロヒドリンと前記一般式(1)で示されるアミン化合物との反応物を含む反応組成物(B)(以下、単に「反応組成物(B)」ともいう)や、分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有する化合物とポリアミン化合物との反応物を含む反応組成物(C)(以下、単に「反応組成物(C)」ともいう)が好ましい。
【0025】
(反応組成物(B))
本発明の硬化剤は、前記反応組成物(A)以外の他の硬化剤成分として、さらに、エピクロロヒドリンと前記一般式(1)で示されるアミン化合物との反応物を含む反応組成物(B)を含有してもよい。当該反応組成物(B)をさらに含有する硬化剤を水系エポキシ樹脂用の硬化剤として用いると、水系エポキシ樹脂組成物の塗膜の指触乾燥速度や硬化速度が向上する。
反応組成物(B)における前記一般式(1)で示されるアミン化合物、及びその好ましい態様は前記反応組成物(A)に記載のものと同じである。
【0026】
反応組成物(B)は、下記一般式(3)で示される化合物を主成分として含むことが好ましい。ここでいう「主成分」とは、反応組成物(B)中の全構成成分を100質量%とした場合、その含有量が50質量%以上である成分をいう。
【化4】
(式(3)中、Aは前記と同じである。nは1~12の数である。)
反応組成物(B)中の上記一般式(3)で示される化合物の含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上、よりさらに好ましくは85質量%以上である。また、上限は100質量%である。
また、硬化剤としての良好な硬化性能を得る観点からは、上記一般式(3)で示される化合物の中でも、n=1の化合物が占める割合が高いことが好ましい。反応組成物(B)中の、上記一般式(3)で示されるn=1の化合物の含有量としては、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上である。
反応組成物(B)中の上記一般式(3)で示される化合物の含有量、及び上記一般式(3)で示される化合物の組成は、GC分析及びゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)分析により求めることができる。
【0027】
反応組成物(B)の活性水素当量(AHEW)は、好ましくは100以下であり、より好ましくは90以下、さらに好ましくは80以下である。反応組成物(B)のAHEWが100以下であると、水系エポキシ樹脂組成物への配合量が少なくても高い硬化性を発現する。反応組成物(B)のAHEWは、製造容易性などの観点から、好ましくは45以上であり、より好ましくは50以上、さらに好ましくは60以上である。反応組成物(B)のAHEWは前記と同様の方法で求められる。
【0028】
また、反応組成物(B)中の前記一般式(1)で示されるアミン化合物の含有量は35質量%以下であることが好ましく、28質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることがよりさらに好ましい。反応組成物(B)中の前記一般式(1)で示されるアミン化合物(原料ジアミン)の含有量が少ない方が、当該反応組成物(B)を含有する硬化剤を用いて得られる水系エポキシ樹脂組成物の硬化塗膜の耐水性や外観が良好になる。
【0029】
反応組成物(B)はエピクロロヒドリンと前記一般式(1)で示されるジアミン(原料ジアミン)とを付加反応させることにより得られる。
エピクロロヒドリンと原料ジアミンとの付加反応は公知の方法で行うことができ、その方法は特に制限されないが、反応効率の観点から、塩基性触媒の存在下で行われることが好ましい。塩基性触媒としてはアルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化カリウム及び水酸化ナトリウムからなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、水酸化ナトリウムがさらに好ましい。アルカリ金属水酸化物は固体状態で用いても、水溶液の状態で用いてもよいが、水溶液の状態で用いることがより好ましい。アルカリ金属水酸化物水溶液の濃度は、好ましくは30~55質量%の範囲である。
【0030】
エピクロロヒドリンと原料ジアミンとの付加反応において、塩基性触媒の使用量はエピクロロヒドリンと等モル程度であることが好ましく、使用するエピクロロヒドリン1モルに対し好ましくは0.7~2.0モル、より好ましくは0.8~1.5モル、さらに好ましくは0.9~1.2モルである。
【0031】
付加反応におけるエピクロロヒドリンと原料ジアミンの使用量は、前記一般式(3)で示される化合物のうちn=1の化合物を高選択率で得る観点から、エピクロロヒドリン1モルに対する原料ジアミンのモル比が、好ましくは1.5~12モル、より好ましくは1.5~6.0モル、さらに好ましくは1.8~3.0モルとなる範囲である。
【0032】
エピクロロヒドリンと原料ジアミンとの付加反応は、あらかじめ原料ジアミンと塩基性触媒とを混合し、次いでエピクロロヒドリンを添加して反応させることが好ましい。例えば反応器内に原料ジアミンと塩基性触媒とを仕込み、窒素ガス等の不活性雰囲気下で攪拌しながら加熱して、ここにエピクロロヒドリンを添加して反応させる。エピクロロヒドリンの添加方法には特に制限はないが、例えば、反応器内に滴下漏斗や送液ポンプを使用してエピクロロヒドリンを添加する方法等が挙げられる。
エピクロロヒドリンの添加時の温度は、好ましくは40~100℃、より好ましくは50~80℃である。エピクロロヒドリンの添加終了後、反応効率向上のために反応温度を上げてもよく、付加反応時の温度は、好ましくは55~120℃である。反応温度が55℃以上であれば、エピクロロヒドリンと原料ジアミンとの付加反応が効率よく進行する。
付加反応時間には特に制限はなく、通常、エピクロロヒドリンの添加が終了してから、好ましくは10分~6時間、より好ましくは20分~4時間である。上記付加反応時間が10分以上であれば未反応原料の残存が少なく、6時間以下であれば生産性の点で有利である。
【0033】
反応終了後、得られた反応液中には、エピクロロヒドリンと原料ジアミンとの反応物、未反応の原料ジアミン、塩基性触媒、並びに、上記付加反応により生成した水と塩とが含まれる。当該塩は、例えば塩基性触媒としてアルカリ金属水酸化物を用いた場合にはアルカリ金属塩化物が生成する。
塩基性触媒は、その種類に応じて、濾過、水洗、吸着等により除去することができる。上記付加反応により生成した水の除去は、例えば100℃以下の温度において減圧条件下で行うことができる。また、上記付加反応により生成した塩は濾過等により除去することができる。
【0034】
上記のようにして反応液から塩基性触媒、水及び塩を除去し、反応組成物(B)が得られる。さらに、必要に応じ未反応の原料ジアミンを除去する操作を行ってもよい。この操作により、反応組成物(B)中の前記一般式(1)で示されるアミン化合物(原料ジアミン)の含有量を低減することができる。
【0035】
本発明の硬化剤が反応組成物(B)を含有する場合、その含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、よりさらに好ましくは15質量%以上である。上記含有量範囲であれば、反応組成物(B)の添加効果を得ることができる。また、水系エポキシ樹脂組成物の硬化塗膜の耐水性及び硬度を得る観点、及び低粘度化の観点から、本発明の硬化剤中の反応組成物(B)の含有量は好ましくは70質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0036】
(反応組成物(C))
本発明の硬化剤は、前記反応組成物(A)以外の他の硬化剤成分として、さらに、分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有する化合物とポリアミン化合物との反応物を含む反応組成物(C)を含有してもよい。当該反応組成物(C)をさらに含有する硬化剤を水系エポキシ樹脂用の硬化剤として用いると、水系エポキシ樹脂組成物の塗膜の指触乾燥速度や耐水性が良好になる。
【0037】
分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有する化合物(以下「原料エポキシ化合物」ともいう)の具体例としては、ブチルジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,3-プロパンジオールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ビフェノールジグリシジルエーテル、ジヒドロキシナフタレンジグリシジルエーテル、ジヒドロキシアントラセンジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルグリコールウリル、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、パラアミノフェノールから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、パラアミノフェノールから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、フェノールノボラックから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、及びレゾルシノールから誘導されたグリシジルオキシ基を2つ以上有する多官能エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお「多官能エポキシ樹脂」とは、分子中にエポキシ基を2つ以上有するエポキシ樹脂をいう。
得られる水系エポキシ樹脂組成物の塗膜の指触乾燥速度や耐水性の点からは、原料エポキシ化合物としては分子中に芳香環又は脂環式構造を含む化合物がより好ましく、分子中に芳香環を含む化合物がさらに好ましく、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂がよりさらに好ましい。
【0038】
反応組成物(C)の製造に用いるポリアミン化合物としては、分子中に少なくとも2つのアミノ基を有する化合物であれば特に制限されない。例えば、1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、o-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン(MXDA)、p-キシリレンジアミン(PXDA)、メンセンジアミン、イソホロンジアミン(IPDA)、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、N-アミノメチルピペラジン、ノルボルナンジアミン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ポリオキシアルキレンジアミン、ポリオキシアルキレントリアミン等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記の中でも、水系エポキシ樹脂組成物の塗膜の指触乾燥速度や耐水性を向上させる観点から、反応組成物(C)の製造に用いるポリアミン化合物としては1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、o-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン(MXDA)、p-キシリレンジアミン(PXDA)、メンセンジアミン、及びイソホロンジアミン(IPDA)からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、イソホロンジアミンがより好ましい。
【0039】
水系エポキシ樹脂組成物の塗膜の指触乾燥速度や耐水性を向上させる観点から、反応組成物(C)は、分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有する化合物とポリアミン化合物との反応物を、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは45質量%以上含む。上限は100質量%である。反応組成物(C)には、当該反応物以外に原料エポキシ化合物や未反応のポリアミン化合物が含まれていてもよい。
【0040】
反応組成物(C)の活性水素当量(AHEW)は、好ましくは200以下であり、より好ましくは125以下、さらに好ましくは115以下である。反応組成物(C)のAHEWが200以下であると、水系エポキシ樹脂組成物への配合量が少なくても高い硬化性を発現する。反応組成物(C)のAHEWは、製造容易性などの観点から、好ましくは30以上であり、より好ましくは60以上である。反応組成物(C)のAHEWは前記と同様の方法で求められる。
【0041】
反応組成物(C)は分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有する化合物(原料エポキシ化合物)とポリアミン化合物とを付加反応させることにより得られる。当該付加反応は公知の方法で行うことができ、その方法は特に制限されないが、例えば、反応器内にポリアミン化合物を仕込み、ここに、原料エポキシ化合物を一括添加、又は滴下等により分割添加して加熱し、反応させる方法が挙げられる。該付加反応は窒素ガス等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0042】
反応組成物(C)がエポキシ樹脂用硬化剤としての作用を発現する観点から、当該付加反応においては、原料エポキシ化合物のエポキシ当量に対して過剰量のポリアミン化合物を用いることが好ましい。具体的には、[D]/[G]=50~4、より好ましくは[D]/[G]=20~8(ここで、[D]はポリアミン化合物の活性水素数を表し、[G]は原料エポキシ化合物のエポキシ基数を表す)となるように原料エポキシ化合物とポリアミン化合物とを使用する。上記範囲であれば、反応組成物(C)の粘度が高くなりすぎずハンドリング性に優れ、かつ、得られる水系エポキシ樹脂組成物の硬化性及び硬化塗膜の性能も良好になる。
【0043】
付加反応時の温度及び反応時間は、使用する原料エポキシ化合物及びポリアミン化合物の種類等に応じて適宜選択することができる。反応速度及び生産性、並びに原料の分解等を防止する観点からは、付加反応時の温度は好ましくは50~150℃、より好ましくは70~120℃である。また反応時間は、原料エポキシ化合物の添加が終了してから、好ましくは0.5~12時間、より好ましくは1~6時間である。
【0044】
本発明の硬化剤が反応組成物(C)を含有する場合、その含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、よりさらに好ましくは20質量%以上である。上記含有量範囲であれば、反応組成物(C)の添加効果を得ることができる。また、硬化剤及び水系エポキシ樹脂組成物の低粘度化の観点から、本発明の硬化剤中の反応組成物(C)の含有量は好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。
【0045】
本発明の硬化剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに公知の硬化促進剤、非反応性希釈剤、メルカプタン系硬化剤等を配合してもよい。硬化促進剤としては、例えばトリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルアルコール、サリチル酸、亜リン酸トリフェニル、スチレン化フェノール、ビスフェノールA、N,N’-ビス(3-(ジメチルアミノ)プロピル)ウレア、及び、「チオコールLP-3」(東レ・ファインケミカル(株)製)等のメルカプタン末端ポリサルファイド化合物が挙げられる。
但し、本発明の硬化剤中の硬化剤成分(反応組成物(A)、及び、反応組成物(B)、(C)等の他の硬化剤成分)の合計含有量は、本発明の効果を得る観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。また、上限は100質量%である。
また、水系エポキシ樹脂組成物の硬化塗膜の耐水性や外観を良好にする観点から、本発明の硬化剤中の前記一般式(1)で示されるジアミンの含有量は少ない方が好ましい。当該含有量は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。
【0046】
本発明の硬化剤の活性水素当量(AHEW)は、好ましくは130以下であり、より好ましくは120以下、さらに好ましくは110以下である。当該硬化剤のAHEWが130以下であると、エポキシ樹脂組成物への配合量が少なくても高い硬化性を発現する。一方で優れた耐水性や硬度、外観等の塗膜性能を得る観点から、当該硬化剤のAHEWは、好ましくは65以上であり、より好ましくは70以上である。
【0047】
本発明の硬化剤の25℃における粘度は、ハンドリング性の観点から低い方が好ましく、好ましくは2,500mPa・s以下、より好ましくは1,000mPa・s以下、さらに好ましくは500mPa・s以下、よりさらに好ましくは300mPa・s以下である。粘度の下限値には特に制限はないが、エポキシ樹脂との混和性の観点から、25℃における粘度として、好ましくは10mPa・s以上である。硬化剤の粘度はE型粘度計により測定することができ、具体的には実施例の方法により測定できる。
【0048】
[水系エポキシ樹脂組成物]
本発明の水系エポキシ樹脂組成物は、前述した本発明の水系エポキシ樹脂用硬化剤と、水系エポキシ樹脂とを含有するものである。前述したように、水系エポキシ樹脂としてはエポキシ樹脂エマルジョンを用いることが好ましい。
エポキシ樹脂エマルジョンは、例えば、エポキシ樹脂を水中に乳化分散したものが挙げられる。当該エポキシ樹脂としては、自己乳化型エポキシ樹脂、非自己乳化型エポキシ樹脂のいずれも用いることができる。
非自己乳化型エポキシ樹脂を用いる場合は、例えば、非自己乳化型エポキシ樹脂を乳化剤の存在下で水中に分散させてエポキシ樹脂エマルジョンを調製することができる。
【0049】
本発明に用いる水系エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂、乳化剤、及び水を含有するエポキシ樹脂エマルジョンであることがより好ましい。
エポキシ樹脂エマルジョンに用いられるエポキシ樹脂は、本発明の硬化剤の活性水素と反応するグリシジル基を有し、かつ水中に乳化分散することが可能なエポキシ樹脂であればいずれも使用することができる。水系エポキシ樹脂組成物の硬化塗膜の耐水性や硬度の観点からは、分子内に芳香環又は脂環式構造を含むエポキシ樹脂であることが好ましい。
エポキシ樹脂エマルジョンに用いられるエポキシ樹脂の具体例としては、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、パラアミノフェノールから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、パラアミノフェノールから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラックから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、及びレゾルシノールから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂からなる群から選ばれる1種以上の樹脂が挙げられる。
【0050】
この中でも、水系エポキシ樹脂組成物の硬化塗膜の耐水性や硬度の観点から、エポキシ樹脂エマルジョンに用いられるエポキシ樹脂は、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、及びビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂からなる群から選ばれる1種以上を主成分とするものがより好ましく、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂及びビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂からなる群から選ばれる1種以上を主成分とするものがさらに好ましく、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂を主成分とするものがよりさらに好ましい。ここでいう「主成分」とは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で他の成分を含みうることを意味し、好ましくは全体の50~100質量%、より好ましくは70~100質量%、さらに好ましくは90~100質量%を意味する。
【0051】
エポキシ樹脂エマルジョンに用いるエポキシ樹脂は、固体エポキシ樹脂、液状エポキシ樹脂のいずれでもよい。本発明において「固体エポキシ樹脂」とは、室温(25℃)で固体のエポキシ樹脂を意味し、「液状エポキシ樹脂」とは、室温(25℃)で液状のエポキシ樹脂を意味する。
【0052】
エポキシ樹脂エマルジョンに用いるエポキシ樹脂のエポキシ当量は、得られる水系エポキシ樹脂組成物の塗膜性能の観点から、好ましくは150g/当量以上であり、水系エポキシ樹脂組成物の低粘度性や硬化性の観点から、好ましくは1000g/当量以下、より好ましくは800g/当量以下である。
エポキシ樹脂を乳化剤の存在下で水中に分散させたエポキシ樹脂エマルジョンの場合、当該エマルジョンから分散媒を除いた成分(固形分)のエポキシ当量も上記範囲であることが好ましい。
エポキシ樹脂エマルジョンに用いるエポキシ樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0053】
また、エポキシ樹脂エマルジョン状態でのエポキシ当量は、得られる水系エポキシ樹脂組成物の塗膜性能の観点から、好ましくは150g/当量以上、より好ましくは200g/当量以上、さらに好ましくは300g/当量以上、よりさらに好ましくは500g/当量以上であり、水系エポキシ樹脂組成物の低粘度性や硬化性の観点から、好ましくは1500g/当量以下である。
【0054】
エポキシ樹脂エマルジョンにおけるエポキシ樹脂の濃度は特に制限されないが、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上であり、通常、80質量%以下である。
【0055】
エポキシ樹脂エマルジョンに用いられる乳化剤は、グリフィン法で定義されるHLBが、好ましくは8.0~20.0、より好ましくは10.0~20.0、さらに好ましくは12.0~20.0である。乳化剤のHLBが上記範囲であると、水中でエポキシ樹脂をエマルジョン化しやすく、かつ、得られる水系エポキシ樹脂組成物の硬化塗膜が耐水性や硬度、外観等の塗膜性能に優れるものとなる。
ここでHLB(親水性親油性バランス;Hydrophile-Lypophile Balance)は、乳化剤の水及び油への親和性を示す値であり、グリフィン法により次式から求めることができる。
HLB=20×[(乳化剤中に含まれる親水基の分子量)/(乳化剤の分子量)]
【0056】
エポキシ樹脂エマルジョンに用いられる乳化剤は、ノニオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、両性乳化剤、及び反応性基を有する反応性基含有乳化剤のいずれも用いることができる。硬化剤の選択幅が広いという点からはノニオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、及び反応性基含有乳化剤からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、ノニオン性乳化剤がより好ましい。
ノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリエーテル系化合物、エステル系化合物、アルカノールアミド系化合物等を挙げることができる。これらの中でもポリエーテル系化合物が好ましく、ポリオキシアルキレン構造を有するノニオン性化合物がより好ましい。
ポリオキシアルキレン構造を有するノニオン性化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール又はポリアルキレングリコール共重合体;ポリオキシエチレンミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンナフチルエーテル、ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル、ポリオキシエチレンビスフェノールFエーテル等のポリオキシアルキレンアリールエーテル;ポリオキシエチレンベンジルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル;等が挙げられる。
上記の中でも、水中でエポキシ樹脂をエマルジョン化しやすく、かつ、得られる水系エポキシ樹脂組成物の硬化塗膜の耐水性や硬度、外観等の塗膜性能を良好にする観点から、ポリオキシアルキレンアリールエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、ポリオキシエチレンアリールエーテル及びポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルからなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、ポリオキシエチレンアリールエーテルがさらに好ましく、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルがよりさらに好ましい。
【0057】
エポキシ樹脂エマルジョンに用いることができる好ましいノニオン性乳化剤として、第一工業製薬(株)製のノイゲンシリーズ、エパンシリーズ、青木油脂工業(株)製のBLAUNONシリーズ等の市販品を挙げることができる。
【0058】
アニオン性乳化剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;アルキルベンゼンスルホン酸塩等のアルキルアリールスルホン酸塩;アルカンスルホン酸塩;ラウリン酸ナトリウム等の脂肪酸塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩等のポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等のスルホコハク酸塩;等が挙げられる。
カチオン性乳化剤としては、例えば、アルキルアミン塩、アルキル第4級アンモニウム塩等が挙げられる。また、両性乳化剤としては、例えば、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、脂肪酸アミドプロピルベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン等のアルキルベタイン系化合物等が挙げられる。
【0059】
反応性基含有乳化剤における反応性基としては、例えば、エポキシ基、ビニル基等が挙げられる。得られる水系エポキシ樹脂組成物の硬化塗膜の耐水性や硬度、外観等の塗膜性能を良好にする観点からは、本発明に用いる反応性基含有乳化剤としてはエポキシ基含有乳化剤が好ましい。
エポキシ基含有乳化剤としては、例えば、エポキシ基を有するアクリル系ポリマー、エポキシ基を有するアクリル-スチレン系ポリマー等のエポキシ基含有ポリマーが好ましいものとして挙げられる。
エポキシ基含有乳化剤のエポキシ当量は、好ましくは150~4,000g/当量、より好ましくは300~2,000g/当量、さらに好ましくは300~1,500g/当量である。
エポキシ樹脂エマルジョンに用いることができる好ましいエポキシ基含有乳化剤として、日油(株)製のマープルーフシリーズ、アルファ化研(株)製のアルファレジンシリーズ「W-10」、「W-12」等の市販品を挙げることができる。
乳化剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
以上の乳化剤の中でも、グリフィン法で定義されるHLBが12.0~20.0のポリオキシアルキレンアリールエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、HLBが12.0~20.0のポリオキシエチレンアリールエーテル及びポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルからなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、HLBが12.0~20.0のポリオキシエチレンアリールエーテルがさらに好ましく、HLBが12.0~20.0のポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルがよりさらに好ましい。
【0060】
エポキシ樹脂エマルジョン中の乳化剤の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対し、好ましくは0.1~40質量部、より好ましくは0.5~30質量部、さらに好ましくは1~20質量部である。エポキシ樹脂100質量部に対し、乳化剤が0.1質量部以上であればエポキシ樹脂の乳化安定性が良好であり、40質量部以下であれば、得られる水系エポキシ樹脂組成物の硬化塗膜の耐水性や硬度、外観等を良好に維持することができる。
【0061】
水系エポキシ樹脂であるエポキシ樹脂エマルジョンはエポキシ樹脂、乳化剤、及び水以外の成分を含有していてもよいが、エポキシ樹脂、乳化剤、及び水の合計含有量が好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、上限は100質量%である。
【0062】
水系エポキシ樹脂として用いることができる市販のエポキシ樹脂エマルジョンとして、三菱化学(株)製のjERシリーズ「W2801」、「W2821R70」、「W3435R67」、「W8735R70」、「W1155R55」、「W5654R45」、(株)ADEKA製の「EM-101-50」、DIC(株)製の「EPICLON EXA-8610」、Huntsman Advanced Materials製のAralditeシリーズ「PZ 3901」「PZ 3921」「PZ 3961-1」、Olin製の「DER 915」、「DER917」、Hexion製のEPIREZシリーズ「Resin 3520-WY-55」「Resin 6520-WH-53」等の市販品を挙げることができる。
【0063】
本発明の水系エポキシ樹脂組成物中の硬化剤の含有量は、該硬化剤中の活性水素数と、水系エポキシ樹脂中のエポキシ基の数との比率が、好ましくは1/0.8~1/1.2、より好ましくは1/0.9~1/1.1、さらに好ましくは1/1となる量である。
【0064】
本発明の水系エポキシ樹脂組成物には、さらに、充填材、可塑剤などの改質成分、揺変剤などの流動調整成分、顔料、レベリング剤、粘着付与剤などのその他の成分を用途に応じて含有させてもよい。
本発明の水系エポキシ樹脂組成物の製造方法には特に制限はなく、前記硬化剤、水系エポキシ樹脂、及び必要に応じ他の成分を公知の方法及び装置を用いて混合し、製造することができる。
水系エポキシ樹脂としてエポキシ樹脂、乳化剤、及び水を含有するエポキシ樹脂エマルジョンを用いる場合、まず、エポキシ樹脂エマルジョンの原料となるエポキシ樹脂及び乳化剤と前記硬化剤とを配合して混合し、次いで、水を分割添加して混合することにより水系エポキシ樹脂組成物を調製してもよい。この操作により、エポキシ樹脂を水中に乳化分散するのと同時に水系エポキシ樹脂組成物を調製することができ、エポキシ樹脂の分散状態が良好な組成物を得ることができる。
【0065】
本発明の水系エポキシ樹脂組成物中の水の含有量は10質量%以上、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。水の含有量の上限値は水系エポキシ樹脂組成物の濃度により適宜調整できるが、通常は80質量%以下であり、好ましくは60質量%以下である。
また、本発明の水系エポキシ樹脂組成物は有機溶剤を含まないことが好ましく、その含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。
【0066】
[水系エポキシ樹脂用硬化剤混合物]
本発明の水系エポキシ樹脂用硬化剤混合物(以下、単に「硬化剤混合物」ともいう)は、前述した本発明の水系エポキシ樹脂用硬化剤と、乳化剤とを含有するものである。当該硬化剤混合物と、エポキシ樹脂と、水とを配合して混合することにより、水中に乳化分散されたエポキシ樹脂と、水系エポキシ樹脂用硬化剤とを含有する水系エポキシ樹脂組成物を容易に調製することができる。
硬化剤混合物に用いる乳化剤としては、使用するエポキシ樹脂を水中に乳化分散できるものであれば特に制限なく用いられ、前述したエポキシ樹脂エマルジョンに用いられる乳化剤と同様のものを用いることができる。
硬化剤混合物中の水系エポキシ樹脂用硬化剤と乳化剤との質量比も特に制限されず、硬化剤のAHEW、乳化剤の種類等に応じて選択できるが、通常は水系エポキシ樹脂用硬化剤と乳化剤との質量比が5/95~99.9/0.1、好ましくは10/90~99/1の範囲である。
硬化剤混合物は本発明の水系エポキシ樹脂用硬化剤及び乳化剤以外の成分を含有していてもよいが、硬化剤及び乳化剤の合計含有量が好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、上限は100質量%である。
【0067】
<用途>
本発明の水系エポキシ樹脂組成物は優れた耐水性や硬度、外観等の塗膜性能を発現しうることから、コンクリート材への使用のほか、防食用塗料等の各種塗料、接着剤、床材、封止剤、ポリマーセメントモルタル、ガスバリアコーティング、プライマー、スクリード、トップコート、シーリング材、クラック補修材、道路の舗装材等に好適に用いられる。
【0068】
[硬化物]
本発明の水系エポキシ樹脂組成物の硬化物(以下、単に「本発明の硬化物」ともいう)は、上述した本発明の水系エポキシ樹脂組成物を公知の方法で硬化させたものである。水系エポキシ樹脂組成物の硬化条件は用途、形態に応じて適宜選択され、特に限定されない。
本発明の硬化物の形態も特に限定されず、用途に応じて選択することができる。例えば水系エポキシ樹脂組成物がコンクリート材のトップコートやプライマー、又は各種塗料用途である場合、当該水系エポキシ樹脂組成物の硬化物は通常、膜状の硬化物である。本発明の硬化物が膜状の硬化物であると、優れた塗膜性能を発揮できる点で好ましい。
【実施例】
【0069】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、水系エポキシ樹脂用硬化剤及び水系エポキシ樹脂組成物の評価は以下の方法により行った。
【0070】
(活性水素当量(AHEW)の算出)
各例の水系エポキシ樹脂用硬化剤のうち、2種の硬化剤成分(反応組成物)からなる硬化剤の活性水素当量(AHEW)は、以下に記載する計算式により算出した。
AHEWがXである反応組成物と、AHEWがYである反応組成物を質量比A:Bで混合して得られる硬化剤のAHEWをZとすると、
Z=[(A+B)XY]/(AY+BX)である。
【0071】
(メタキシリレンジアミン含有量)
水系エポキシ樹脂用硬化剤(又は硬化剤溶液)及びその構成成分中のメタキシリレンジアミン含有量は、ガスクロマトグラフィーにより測定した。
【0072】
(粘度測定)
水系エポキシ樹脂用硬化剤(又は硬化剤溶液)の25℃における粘度は、E型粘度計「TVE-22H型粘度計 コーンプレートタイプ」(東機産業(株)製)を用いて測定した。
【0073】
(硬化速度)
ガラス板(太佑機材(株)製 25×348×2.0mm)上に、23℃、50%R.H.条件下、各例の水系エポキシ樹脂組成物を76μmのアプリケーターを用いて塗布し、塗膜を形成した。塗膜を形成したガラス板を塗料乾燥時間測定器(太佑機材(株)製)にセットし、測定器の針が塗膜表面を引っかいた際の条痕を観察して、各乾燥段階(Set to Touch、Dust Free、Dry Through)への到達時間を以下の基準で測定した。時間が短い方が、硬化速度が速いことを示す。
Set to Touch:ガラス板状に針の跡が残り始める時間
Dust Free:針が塗膜の中から塗膜表面上に浮き出てくる時間
Dry Through:塗膜上の針の跡が残らなくなる時間
【0074】
(指触乾燥)
下記の試験条件1及び2に従い、基材上に各例の水系エポキシ樹脂組成物をアプリケーターを用いて塗布して塗膜を形成した。この塗膜を23℃、50%R.H.条件下で保存し、1、2、7日経過後に指触により以下の基準で評価した。
Ex:優秀(50Nの力で親指を押し付けた際も塗膜のべたつきがなく、指紋の残存もなし)
G:良好(50Nの力で親指を押し付けた際に塗膜のべたつきはないが、指触後の指紋の残存あり)
F:可(50Nの力で親指を押し付けた際に塗膜のべたつきあり)
P:不良(5Nの力で親指を押し付けた際に塗膜のべたつきあり)
[試験条件1]
基材:リン酸亜鉛処理鉄板(パルテック(株)製;SPCC-SD PB-N144 0.8×70×150mm)
塗布直後の塗膜厚み:200μm
[試験条件2]
基材:繊維強化セメント板(JIS A5430:2013)
塗布直後の塗膜厚み:100μm
なお、試験条件1は試験条件2よりも厳しい評価条件である。試験条件2は、試験条件1と比較して塗膜厚みが薄くかつ基材の水はけがよいので、塗膜中の水が揮発しやすいためである。
【0075】
(耐水スポット試験)
前記試験条件1及び2に従い、基材上に各例の水系エポキシ樹脂組成物をアプリケーターを用いて塗布して塗膜を形成した。この塗膜を23℃、50%R.H.条件下で保存し、1、2、7日経過後に塗膜表面にスポイトで純水を2~3滴滴下し、その箇所を50mLスクリュー管瓶で蓋をした。24時間経過後に水を拭き取り、外観を目視観察して、以下の基準で評価した。
Ex:優秀(全く変化なし)
G:良好(わずかに変化はあるが、使用上問題なし)
F:可(やや白化あり)
P:不良(白化)
【0076】
(鉛筆硬度)
前記試験条件1及び2に従い、基材上に各例の水系エポキシ樹脂組成物をアプリケーターを用いて塗布して塗膜を形成した。この塗膜を23℃、50%R.H.条件下で保存し、1、2、7日経過後にJIS K5600-5-4:1999に準拠して鉛筆硬度を測定した。
【0077】
(塗膜外観)
前記試験条件1に従い、23℃、50%R.H.条件下、各例の水系エポキシ樹脂組成物をアプリケーターを用いて塗布し、塗膜を形成した。塗装1週間後に得られた塗膜の外観を目視観察して、光沢性、透明性、及び平滑性を以下の基準で評価した。
<光沢性>
Ex:優秀(光沢あり)
G:良好(やや光沢が劣るが、使用上問題なし)
F:可(光沢が少ない)
P:不良(光沢なし)
<透明性>
Ex:優秀(濁りなし)
G:良好(わずかに濁りがあるが、使用上問題なし)
F:可(やや白濁あり)
P:不良(白濁)
<平滑性>
Ex:優秀(凹凸がない)
G:良好(わずかに凹凸があるが、使用上問題なし)
F:可(一部に凹凸がある)
P:不良(ハジキがある、又は全面に凹凸がある)
【0078】
製造例1(ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能液状エポキシ樹脂とイソホロンジアミンとの反応物を含む反応組成物溶液(C-1)の製造)
攪拌装置、温度計、窒素導入管、滴下漏斗及び冷却管を備えた内容積2リットルのセパラブルフラスコに、イソホロンジアミン(IPDA)1022g(6.0モル)を仕込み、窒素気流下、攪拌しながら80℃に昇温した。80℃に保ちながら、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能液状エポキシ樹脂(「jER828」、三菱化学(株)製)372g(1.0モル)を2時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃に昇温して2時間反応を行い、前記エポキシ樹脂とイソホロンジアミンとの反応物を含む反応組成物を得た。この反応組成物に、当該反応組成物の濃度が56質量%となるようにベンジルアルコールを添加して希釈し、反応組成物溶液(C-1)を得た。反応組成物溶液(C-1)のAHEWは113であった。
【0079】
実施例1(水系エポキシ樹脂組成物の製造)
ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する液状エポキシ樹脂の水系エマルジョン(三菱化学(株)製「W2821R70」、エマルジョン状態でのエポキシ当量:334g/当量、エポキシ樹脂濃度:60質量%、水含有量:30質量%、その他の成分(乳化剤等)の含有量:10質量%、粘度(25℃):700mPa・s)を主剤として使用し、水系エポキシ樹脂用硬化剤としてスチレンとメタキシリレンジアミン(MXDA)との反応物を含む反応組成物である(A-1)Gaskamine 240(三菱瓦斯化学(株)製、AHEW:103)を使用した。主剤100質量部に対し、上記硬化剤を、該硬化剤中の活性水素数と、水系エポキシ樹脂中のエポキシ基の数が等モルとなるよう表1に示す割合で配合し、攪拌して、水系エポキシ樹脂組成物を得た。
得られた水系エポキシ樹脂組成物を用いて、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
実施例2
(A-1)Gaskamine 240と、エピクロロヒドリンとMXDAとの反応物を含む反応組成物である(B-1)Gaskamine 328(三菱瓦斯化学(株)製、AHEW:55)とを質量比80:20の割合で混合して水系エポキシ樹脂用硬化剤を調製した。この硬化剤を用いて実施例1と同様の方法で水系エポキシ樹脂組成物を調製し、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
実施例3
実施例2において、(B-1)に代えてエピクロロヒドリンとMXDAとの反応物を含む反応組成物である(B-2)Gaskamine 328S(三菱瓦斯化学(株)製、AHEW:70)を用いたこと以外は、実施例2と同様の方法で水系エポキシ樹脂用硬化剤及び水系エポキシ樹脂組成物を調製し、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
実施例4
(A-1)Gaskamine 240と、製造例1で得られた反応組成物溶液(C-1)とを質量比50:50((A-1)と、製造例1で得られた反応組成物((C)成分)との質量比は64:36)の割合で混合して水系エポキシ樹脂用硬化剤を調製した。この硬化剤を用いて、実施例1と同様の方法で水系エポキシ樹脂組成物を調製し、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
実施例5
実施例2において、水系エポキシ樹脂用硬化剤中の(A-1)と(B-1)との質量比を50:50に変更したこと以外は、実施例2と同様の方法で水系エポキシ樹脂用硬化剤及び水系エポキシ樹脂組成物を調製し、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
実施例6
実施例3において、水系エポキシ樹脂用硬化剤中の(A-1)と(B-2)との質量比を50:50に変更したこと以外は、実施例3と同様の方法で水系エポキシ樹脂用硬化剤及び水系エポキシ樹脂組成物を調製し、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
比較例1
実施例1において、水系エポキシ樹脂用硬化剤として(A-1)に代えて(B-1)の80質量%水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で水系エポキシ樹脂組成物を調製し、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
比較例2
実施例1において、水系エポキシ樹脂用硬化剤として(A-1)に代えて(B-2)の80質量%水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で水系エポキシ樹脂組成物を調製し、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
比較例3
実施例1において、水系エポキシ樹脂用硬化剤として(A-1)に代えて市販のポリアミドアミン系水系エポキシ樹脂用硬化剤(三菱化学(株)製「WD11M60」、固形分濃度:60質量%(ブチルセロソルブ溶液)、AHEW:732)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で水系エポキシ樹脂組成物を調製し、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
【0089】
表1に示すように、硬化性が良好で、耐水性や硬度、外観等の塗膜性能に優れる実施例1~6の水系エポキシ樹脂組成物と比較して、比較例1、2の水系エポキシ樹脂組成物は試験条件1,2のいずれにおいても指触乾燥、耐水スポット性、鉛筆硬度、塗膜外観に劣る結果となった。また比較例1の水系エポキシ樹脂組成物では、硬化速度の評価中に塗膜表面に炭酸塩が析出した。これは硬化剤中のMXDA含有量が多いため、MXDAの炭酸塩が生成したものである。
比較例3の水系エポキシ樹脂用硬化剤を含有する水系エポキシ樹脂組成物では硬化速度、指触乾燥、耐水スポット性、塗膜外観は良好であるが、塗膜の鉛筆硬度が低下した。また、比較例3の硬化剤は有機溶剤を含有するため、環境への影響や安全性が懸念されることがある。
【0090】
実施例7
実施例1において、主剤として、W2821R70に代えてビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する固体エポキシ樹脂の水系エマルジョン(三菱化学(株)製「W1155R55」、エマルジョン状態でのエポキシ当量:1020g/当量、エポキシ樹脂濃度:50質量%、水含有量:45質量%、その他の成分(乳化剤等)の含有量:5質量%、粘度(25℃):500mPa・s)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で水系エポキシ樹脂組成物を調製し、前記評価を行った。結果を表2に示す。
【0091】
実施例8
(A-1)Gaskamine 240と、エピクロロヒドリンとMXDAとの反応物を含む反応組成物である(B-1)Gaskamine 328(三菱瓦斯化学(株)製)とを質量比80:20の割合で混合して水系エポキシ樹脂用硬化剤を調製した。この硬化剤を用いて実施例7と同様の方法で水系エポキシ樹脂組成物を調製し、前記評価を行った。結果を表2に示す。
【0092】
実施例9
実施例8において、(B-1)に代えてエピクロロヒドリンとMXDAとの反応物を含む反応組成物である(B-2)Gaskamine 328S(三菱瓦斯化学(株)製)を用いたこと以外は、実施例8と同様の方法で水系エポキシ樹脂用硬化剤及び水系エポキシ樹脂組成物を調製し、前記評価を行った。結果を表2に示す。
【0093】
実施例10
(A-1)Gaskamine 240と、製造例1で得られた反応組成物溶液(C-1)とを質量比50:50((A-1)と、製造例1で得られた反応組成物((C)成分)との質量比は64:36)の割合で混合して水系エポキシ樹脂用硬化剤を調製した。この硬化剤を用いて、実施例7と同様の方法で水系エポキシ樹脂組成物を調製し、前記評価を行った。結果を表2に示す。
【0094】
比較例4
実施例7において、水系エポキシ樹脂用硬化剤として(A-1)に代えて(B-1)の80質量%水溶液を用いたこと以外は実施例7と同様の方法で水系エポキシ樹脂組成物を調製し、前記評価を行った。結果を表2に示す。
【0095】
比較例5
実施例7において、水系エポキシ樹脂用硬化剤として(A-1)に代えて(B-2)の80質量%水溶液を用いたこと以外は実施例7と同様の方法で水系エポキシ樹脂組成物を調製し、前記評価を行った。結果を表2に示す。
【0096】
比較例6
実施例7において、水系エポキシ樹脂用硬化剤として(A-1)に代えて市販のポリアミドアミン系水系エポキシ樹脂用硬化剤(三菱化学(株)製「WD11M60」、固形分濃度:60質量%(ブチルセロソルブ溶液)、AHEW:732)を用いたこと以外は実施例7と同様の方法で水系エポキシ樹脂組成物を調製し、前記評価を行った。結果を表2に示す。
【0097】
【0098】
表2に示すように、硬化性が良好で、耐水性や硬度、外観等の塗膜性能に優れる実施例7~10の水系エポキシ樹脂組成物と比較して、比較例4,5の水系エポキシ樹脂組成物は試験条件1,2のいずれにおいても塗膜の耐水スポット性、塗膜外観が低下した。比較例6の水系エポキシ樹脂用硬化剤を含有する水系エポキシ樹脂組成物では試験条件1,2のいずれにおいても塗膜の鉛筆硬度が低下し、特に試験条件1における鉛筆硬度が低下した。
【0099】
表1及び表2において使用した成分を以下に示す。
<水系エポキシ樹脂>
W2821R70:
ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する液状エポキシ樹脂の水系エマルジョン(三菱化学(株)製、エマルジョン状態でのエポキシ当量:334g/当量、エポキシ樹脂濃度:60質量%、水含有量:30質量%、その他の成分(乳化剤等)の含有量:10質量%、粘度(25℃):700mPa・s)
W1155R55:
ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する固体エポキシ樹脂の水系エマルジョン(三菱化学(株)製、エマルジョン状態でのエポキシ当量:1020g/当量、エポキシ樹脂濃度:50質量%、水含有量:45質量%、その他の成分(乳化剤等)の含有量:5質量%、粘度(25℃):500mPa・s)
【0100】
<水系エポキシ樹脂用硬化剤成分>
(A-1):
Gaskamine 240(スチレンとMXDAとの反応物を含む反応組成物、三菱瓦斯化学(株)製、スチレンとMXDAとの反応物含有量:>99質量%、MXDA含有量:<1質量%、下記式(2-1)で示される化合物の含有量:49質量%、AHEW:103)
【化5】
【0101】
(B-1):
Gaskamine 328(エピクロロヒドリンとMXDAとの反応物を含む反応組成物、三菱瓦斯化学(株)製、MXDA含有量:26.7質量%、下記式(3-1)で示される化合物の含有量:73.3質量%(nは1~12の数であり、n=1の化合物の含有量は(B-1)中の20.9質量%である)、AHEW:55)
【化6】
【0102】
(B-2):
Gaskamine 328S(エピクロロヒドリンとMXDAとの反応物を含む反応組成物、三菱瓦斯化学(株)製、MXDA含有量:0.9質量%、前記式(3-1)で示される化合物の含有量:99.1質量%(nは1~12の数であり、n=1の化合物の含有量は(B-2)中の29.3質量%である)、AHEW:70)
【0103】
(C-1):
製造例1で得られた、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂とイソホロンジアミンとの反応物を含む反応組成物溶液(反応組成物濃度:56質量%、ベンジルアルコール溶液、反応組成物溶液のAHEW:113)
【0104】
WD11M60:
ポリアミドアミン系水系エポキシ樹脂用硬化剤(三菱化学(株)製、固形分濃度:60質量%(ブチルセロソルブ溶液)、AHEW:732)
【0105】
実施例11(水系エポキシ樹脂組成物の製造)
エポキシ樹脂として、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能液状エポキシ樹脂「jER828」(三菱化学(株)製、エポキシ当量:186g/当量)、乳化剤としてポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル「ノイゲン EA-207D」(第一工業製薬(株)製、HLB:12.7)、及び、水系エポキシ樹脂用硬化剤として、スチレンとメタキシリレンジアミン(MXDA)との反応物を含む反応組成物である(A-1)Gaskamine 240(三菱瓦斯化学(株)製、AHEW:103)を使用した。
エポキシ樹脂jER828 28g、上記乳化剤2.8g、及び水系エポキシ樹脂用硬化剤(A-1)15.5gを配合し、ディスパー(プライミクス(株)製、ホモディスパー2.5型)で回転速度500rpmにて1分間攪拌した。ここに純水2gを添加してディスパーで回転速度500rpmにて1分間攪拌する操作を10回行い、純水を合計20g添加して、水系エポキシ樹脂組成物を得た。この水系エポキシ樹脂組成物を用いて、前記試験条件1における評価を行った。結果を表3に示す。
【0106】
実施例12
実施例11において、乳化剤として「ノイゲン EA-207D」に代えてポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル「BLAUNON KTSP-16」(青木油脂工業(株)製、HLB:18.7)を用いたこと以外は、実施例11と同様の方法で水系エポキシ樹脂組成物を調製し、前記試験条件1における評価を行った。結果を表3に示す。
【0107】
実施例13
実施例11において、乳化剤として「ノイゲン EA-207D」に代えてエポキシ基及び親水性基を含有するポリマー乳化剤「マープルーフGP-013023(日油(株)製、エポキシ当量:535g/当量、HLB:10.9)を用いた。エポキシ樹脂jER828 28g、乳化剤2.8g、及び水系エポキシ樹脂用硬化剤(A-1)16.0gを配合し、ディスパーで回転速度500rpmにて1分間攪拌した。ここに純水2gを添加してディスパーで回転速度500rpmにて1分間攪拌する操作を10回行い、純水を合計20g添加して、水系エポキシ樹脂組成物を得た。この水系エポキシ樹脂組成物を用いて、前記試験条件1における評価を行った。結果を表3に示す。
【0108】
実施例14
(水系エポキシ樹脂用硬化剤混合物の製造)
乳化剤としてポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル「ノイゲン EA-207D」(第一工業製薬(株)製、HLB:12.7)、水系エポキシ樹脂用硬化剤として、スチレンとメタキシリレンジアミン(MXDA)との反応物を含む反応組成物である(A-1)Gaskamine 240(三菱瓦斯化学(株)製、AHEW:103)を使用した。
上記乳化剤2.8g、及び水系エポキシ樹脂用硬化剤(A-1)15.5gを配合し、ディスパーで回転速度500rpmにて1分間攪拌して、水系エポキシ樹脂用硬化剤混合物を得た。
【0109】
(水系エポキシ樹脂組成物の製造)
上記水系エポキシ樹脂用硬化剤混合物に対し、エポキシ樹脂「jER828」(液状エポキシ樹脂、三菱化学(株)製)28gを配合し、ディスパー(プライミクス(株)製、ホモディスパー2.5型)で回転速度500rpmにて1分間攪拌した。ここに純水2gを添加してディスパーで回転速度500rpmにて1分間攪拌する操作を10回行い、純水を合計20g添加して、水系エポキシ樹脂組成物を得た。この水系エポキシ樹脂組成物を用いて、前記試験条件1における評価を行った。結果を表3に示す。
【0110】
【0111】
表3において使用した成分を以下に示す。
<水系エポキシ樹脂成分>
〔エポキシ樹脂〕
jER828:
ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能液状エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、エポキシ当量:186g/当量)
〔乳化剤〕
ノイゲン EA-207D:
ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル(第一工業製薬(株)製、HLB:18.7)
BLAUNON KTSP-16:
ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル(青木油脂工業(株)製、HLB:12.7)
マープルーフGP-013023:
エポキシ基及び親水性基を含有するポリマー乳化剤(日油(株)製、エポキシ当量:535g/当量、HLB:10.9)
<水系エポキシ樹脂用硬化剤成分>
(A-1):
Gaskamine 240(スチレンとMXDAとの反応物を含む反応組成物、三菱瓦斯化学(株)製、スチレンとMXDAとの反応物含有量:>99質量%、MXDA含有量:<1質量%、前記式(2-1)で示される化合物の含有量:49質量%、AHEW:103)
【0112】
表3に示すように、実施例11~14の水系エポキシ樹脂組成物も硬化性が良好であり、耐水性や硬度、外観等の塗膜性能に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の水系エポキシ樹脂用硬化剤を用いることにより、溶剤を含まず環境面や安全面においても好適であり、硬化性が良好で、耐水性や硬度、外観等の塗膜性能にも優れる水系エポキシ樹脂組成物を提供することができる。該水系エポキシ樹脂組成物は良好な硬化物物性を与え、コンクリート材への使用のほか、防食用塗料等の各種塗料、接着剤、床材、封止剤、ポリマーセメントモルタル、ガスバリアコーティング、プライマー、スクリード、トップコート、シーリング材、クラック補修材、道路の舗装材等にも好適に用いられる。