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特許7028232N-長鎖アシル酸性アミノ酸および/またはその塩を含む水溶液、並びにその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】N-長鎖アシル酸性アミノ酸および/またはその塩を含む水溶液、並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C11D 1/10 20060101AFI20220222BHJP
   C11D 1/04 20060101ALI20220222BHJP
   C11D 17/08 20060101ALI20220222BHJP
   C07C 231/22 20060101ALI20220222BHJP
   C07C 233/47 20060101ALI20220222BHJP
   C07C 231/02 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
C11D1/10
C11D1/04
C11D17/08
C07C231/22
C07C233/47
C07C231/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019202674
(22)【出願日】2019-11-07
(62)【分割の表示】P 2015545288の分割
【原出願日】2014-10-30
(65)【公開番号】P2020023576
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2019-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2013226965
(32)【優先日】2013-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(72)【発明者】
【氏名】服部 岳
(72)【発明者】
【氏名】石井 博治
(72)【発明者】
【氏名】伊能 正浩
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-286471(JP,A)
【文献】特開平05-112796(JP,A)
【文献】特開2005-325186(JP,A)
【文献】特開2013-082652(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D
C07C 231/02
C07C 231/22
C07C 233/47
A61K 8/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性アミノ酸および/またはその塩を含む水溶媒にC8-22脂肪酸クロライドを滴下して、酸性アミノ酸および/またはその塩とC8-22脂肪酸クロライドとを水溶媒中にて反応させて、N-C8-22アシル酸性アミノ酸および/またはその塩を形成する第1工程、および
第1工程後の水溶液のpHを8.4~9.5に調整する第2工程
を含む洗浄剤の製造方法であって、
第1工程のC8-22脂肪酸クロライドの滴下時、並びに酸性アミノ酸および/またはその塩とC8-22脂肪酸クロライドとの反応時の反応系のpHが10~12.0であり、
第1工程における反応系のpHを10~12.0に維持するために使用する塩基が水酸化ナトリウムであり、並びに
洗浄剤が、N-C8-22アシル酸性アミノ酸および/またはその塩10~30重量%、C8-22脂肪酸および/またはその塩1~10重量%、塩化ナトリウム1~10重量%、並びに水50~90重量%を含む製造方法。
【請求項2】
加圧ろ過を行う工程をさらに含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
水溶媒中の親水性有機溶媒の含有量が5重量%以下であるか、または水溶媒が親水性有機溶媒を含まない請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
洗浄剤中の塩化ナトリウムの濃度が、1~5重量%である請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
N-C8-22アシルグルタミン酸および/またはその塩10~30重量%、C8-22脂肪酸および/またはその塩1~10重量%、塩化ナトリウム1~10重量%、並びに水50~90重量%を含み、pHが8.4~9.5である洗浄剤。
【請求項6】
N-C8-22アシルグルタミン酸および/またはその塩以外の界面活性剤成分を含まない請求項5に記載の洗浄剤。
【請求項7】
塩化ナトリウムの濃度が、1~7重量%である請求項5または6に記載の洗浄剤。
【請求項8】
塩化ナトリウムの濃度が、1~5重量%である請求項5~7のいずれか一項に記載の洗浄剤。
【請求項9】
N-C8-22アシルグルタミン酸および/またはその塩を主成分として含む洗浄剤であって、N-C8-22アシルグルタミン酸および/またはその塩を超える量の、他の成分(但し、水を除く)を含まない請求項5~8のいずれか一項に記載の洗浄剤。
【請求項10】
8-22脂肪酸および/またはその塩の濃度が、4~10重量%である請求項5~9のいずれか一項に記載の洗浄剤。
【請求項11】
8-22脂肪酸および/またはその塩の濃度が、4~5重量%である請求項5~10のいずれか一項に記載の洗浄剤。
【請求項12】
N-ココイルグルタミン酸および/またはその塩10~30重量%、ヤシ油脂肪酸および/またはその塩1~10重量%、塩化ナトリウム1~10重量%、並びに水50~90重量%を含む洗浄剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N-長鎖アシル酸性アミノ酸(詳しくはN-C8-22アシル酸性アミノ酸)および/またはその塩を含む水溶液、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
N-長鎖アシル酸性アミノ酸塩は、界面活性作用、殺菌作用、金属腐食抑制作用等を有するため、洗浄剤、分散剤、乳化剤、抗菌剤、防腐剤等の原料として有用である。特に、手肌にマイルドであるために、シャンプー、ボディシャンプー等の洗浄剤の原料として非常に有用である。
【0003】
N-長鎖アシル酸性アミノ酸(例えば、N-長鎖アシルグルタミン酸)またはその塩の合成法としては、酸性アミノ酸(例えば、グルタミン酸)またはその塩と長鎖脂肪酸クロライドとを水溶媒中、またはアセトン、t-ブタノール、プロピレングリコール等の親水性有機溶媒と水との混合溶媒中、塩基の存在下に縮合させる方法が知られている(ショッテン・バウマン反応、例えば特許文献1参照)。しかし特許文献1では、得られたN-長鎖アシル酸性アミノ酸を析出させて固体として回収しており、反応後の水溶液そのものの利用価値の評価を行っていない。
【0004】
また、N-長鎖アシル酸性アミノ酸ジペプチドは、N-長鎖アシル酸性アミノ酸を含有する洗浄剤において耐水性やきしみ感を改善する物質として知られている(特許文献2)。しかしN-長鎖アシル酸性アミノ酸ジペプチドは、酸性アミノ酸ジペプチドをショッテン・バウマン反応等でアシル化して得なければならず、高価で、入手困難な物質である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-81656号公報
【文献】特開平10-121091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酸性アミノ酸および/またはその塩と長鎖脂肪酸クロライドとのショッテン・バウマン反応後に得られるN-長鎖アシルアミノ酸および/またはその塩を含む反応水溶液をそのまま洗浄剤等またはその原料として利用することが可能となれば、N-長鎖アシルアミノ酸および/またはその塩の回収、洗浄、乾燥作業の省略による製造工程、設備の簡略化が可能となり、廃液を一切出さない低環境負荷型の製造プロセスが達成される。
【0007】
上述の反応水溶液をそのまま洗浄剤等またはその原料として取り扱うためには、反応水溶液の高温および低温安定性が求められる。また、反応水溶液中には未反応の酸性アミノ酸および/またはその塩(例えば、グルタミン酸、グルタミン酸塩)が存在するが、これは、高温条件下での分子内縮合反応によりラクタム(例えば、ピログルタミン酸、ピログルタミン酸塩)へと変化してしまう。また、ショッテン・バウマン反応により得られたN-長鎖アシルグルタミン酸および/またはその塩は、反応水溶液の低温保存時に溶解度が下がり、析出するという問題がある。
【0008】
本発明は上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、高温および低温安定性に優れたN-長鎖アシルアミノ酸および/またはその塩を含む水溶液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、酸性アミノ酸および/またはその塩とC8-22脂肪酸クロライドを水溶媒中pH10~13にて反応させた後、その反応水溶液のpHを一定の範囲に調整することによって、低温および高温安定性に優れたN-C8-22アシル酸性アミノ酸および/またはその塩を含む水溶液が得られることを見出した。この知見に基づく本発明は以下の通りである。
【0010】
[1] 酸性アミノ酸および/またはその塩とC8-22脂肪酸クロライドとを水溶媒中pH10~13にて反応させて、N-C8-22アシル酸性アミノ酸および/またはその塩を形成する第1工程、および
第1工程後の水溶液のpHを8.4~9.5に調整する第2工程
を含む、N-C8-22アシル酸性アミノ酸および/またはその塩を含み、pHが8.4~9.5である水溶液の製造方法。
[2] 第1工程後の水溶液のpHを8.6~9.2に調整する前記[1]に記載の製造方法。
【0011】
[3] 酸性アミノ酸および/またはその塩が、グルタミン酸、アスパラギン酸およびこれらの塩から選ばれる一つ以上である前記[1]または[2]に記載の製造方法。
[4] 酸性アミノ酸および/またはその塩が、グルタミン酸および/またはそのナトリウム塩である前記[1]または[2]に記載の製造方法。
【0012】
[5] C8-22脂肪酸クロライドが、オクタノイルクロライド、デカノイルクロライド、ラウロイルクロライド、ミリストイルクロライド、パルミトイルクロライド、およびヤシ油脂肪酸クロライドから選ばれる一つ以上である前記[1]~[4]のいずれか一つに記載の製造方法。
[6] C8-22脂肪酸クロライドが、ラウロイルクロライドおよび/またはヤシ油脂肪酸クロライドである前記[1]~[4]のいずれか一つに記載の製造方法。
[7] C8-22脂肪酸クロライドが、ヤシ油脂肪酸クロライドである前記[1]~[4]のいずれか一つに記載の製造方法。
【0013】
[8] 第1工程の反応を水酸化ナトリウムの存在下で行う前記[1]~[7]のいずれか一つに記載の製造方法。
[9] 加圧ろ過を行う工程をさらに含む前記[1]~[8]のいずれか一つに記載の製造方法。
[10] 水溶媒が、実質的に親水性有機溶媒を含まない前記[1]~[9]のいずれか一つに記載の製造方法。
【0014】
[11] 第2工程後の水溶液が、酸性アミノ酸および/またはその塩1.0~10.0重量%、並びにN-C8-22アシル酸性アミノ酸および/またはその塩10.0~30.0重量%を含む前記[1]~[10]のいずれか一つに記載の製造方法。
[12] 第2工程後の水溶液が、N-C8-22アシル酸性アミノ酸ジペプチドおよび/またはその塩をさらに含む前記[1]~[11]のいずれか一つに記載の製造方法。
[13] 水溶液中のN-C8-22アシル酸性アミノ酸ジペプチドおよび/またはその塩の含有量が、0.5~5.0重量%である前記[12]に記載の製造方法。
[14] 第2工程後の水溶液が、N-C8-22アシル酸性アミノ酸トリペプチドおよび/またはその塩をさらに含む前記[1]~[13]のいずれか一つに記載の製造方法。
[15] 第2工程後の水溶液が、C8-22脂肪酸および/またはその塩をさらに含む前記[1]~[14]のいずれか一つに記載の製造方法。
【0015】
[16] 第2工程後の水溶液を容器に詰める工程をさらに含む前記[1]~[15]のいずれか一つに記載の製造方法。
【0016】
[17] 酸性アミノ酸および/またはその塩1.0~10.0重量%、N-C8-22アシル酸性アミノ酸および/またはその塩10.0~30.0重量%、並びにN-C8-22アシル酸性アミノ酸ジペプチドおよび/またはその塩0.5~5.0重量%を含み、pHが8.4~9.5である水溶液。
[18] pHが8.6~9.2である前記[17]に記載の水溶液。
【0017】
[19] 酸性アミノ酸および/またはその塩が、グルタミン酸、アスパラギン酸およびこれらのナトリウム塩から選ばれる一つ以上である前記[17]または[18]に記載の水溶液。
[20] 酸性アミノ酸および/またはその塩が、グルタミン酸および/またはそのナトリウム塩である前記[17]または[18]に記載の水溶液。
【0018】
[21] N-C8-22アシル酸性アミノ酸および/またはその塩が、N-C8-22アシルグルタミン酸、N-C8-22アシルアスパラギン酸およびこれらのナトリウム塩から選ばれる一つ以上である前記[17]~[20]のいずれか一つに記載の水溶液。
[22] N-C8-22アシル酸性アミノ酸および/またはその塩が、N-C8-22アシルグルタミン酸および/またはそのナトリウム塩である前記[17]~[20]のいずれか一つに記載の水溶液。
[23] N-C8-22アシル酸性アミノ酸および/またはその塩が、N-ココイルグルタミン酸および/またはそのナトリウム塩である前記[17]~[20]のいずれか一つに記載の水溶液。
【0019】
[24] N-C8-22アシル酸性アミノ酸ジペプチドおよび/またはその塩が、N-C8-22アシルグルタミルグルタミン酸、N-C8-22アシルアスパルチルグルタミン酸、N-C8-22アシルグルタミルアスパラギン酸、N-C8-22アシルアスパルチルアスパラギン酸、およびこれらのナトリウム塩から選ばれる一つ以上である前記[17]~[23]のいずれか一つに記載の水溶液。
[25] N-C8-22アシル酸性アミノ酸ジペプチドおよび/またはその塩が、N-C8-22アシルグルタミルグルタミン酸および/またはそのナトリウム塩である前記[17]~[23]のいずれか一つに記載の水溶液。
[26] N-C8-22アシル酸性アミノ酸ジペプチドおよび/またはその塩が、N-ココイルグルタミルグルタミン酸および/またはそのナトリウム塩である前記[17]~[23]のいずれか一つに記載の水溶液。
【0020】
[27] N-C8-22アシル酸性アミノ酸トリペプチドおよび/またはその塩をさらに含む前記[17]~[26]のいずれか一つに記載の水溶液。
[28] N-C8-22アシル酸性アミノ酸トリペプチドおよび/またはその塩が、N-C8-22アシルグルタミルグルタミルグルタミン酸、N-C8-22アシルアスパルチルグルタミルグルタミン酸、N-C8-22アシルグルタミルアスパルチルグルタミン酸、N-C8-22アシルアスパルチルアスパルチルグルタミン酸、N-C8-22アシルアスパルチルアスパルチルアスパラギン酸、N-C8-22アシルグルタミルアスパルチルアスパラギン酸、N-C8-22アシルアスパルチルグルタミルアスパラギン酸、N-C8-22アシルグルタミルグルタミルアスパラギン酸、およびこれらのナトリウム塩から選ばれる一つ以上である前記[27]に記載の水溶液。
[29] N-C8-22アシル酸性アミノ酸トリペプチドおよび/またはその塩が、N-C8-22アシルグルタミルグルタミルグルタミン酸および/またはそのナトリウム塩である前記[27]に記載の水溶液。
[30] N-C8-22アシル酸性アミノ酸トリペプチドおよび/またはその塩が、N-ココイルグルタミルグルタミルグルタミン酸および/またはそのナトリウム塩である前記[27]に記載の水溶液。
【0021】
[31] C8-22脂肪酸および/またはその塩をさらに含む前記[17]~[30]のいずれか一つに記載の水溶液。
[32] C8-22脂肪酸および/またはその塩が、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ヤシ油脂肪酸、およびこれらのナトリウム塩から選ばれる一つ以上である前記[31]に記載の水溶液。
[33] C8-22脂肪酸および/またはその塩が、ラウリン酸、ヤシ油脂肪酸、およびこれらのナトリウム塩から選ばれる一つ以上である前記[31]に記載の水溶液。
[34] C8-22脂肪酸および/またはその塩が、ヤシ油脂肪酸および/またはそのナトリウム塩である前記[31]に記載の水溶液。
【0022】
[35] 容器に詰められた状態である前記[17]~[34]のいずれか一つに記載の水溶液。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、低温および高温安定性に優れたN-C8-22アシル酸性アミノ酸および/またはその塩を含む水溶液が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の製造方法は、酸性アミノ酸および/またはその塩とC8-22脂肪酸クロライドとを水溶媒中pH10~13にて反応させて、N-C8-22アシル酸性アミノ酸塩を形成する第1工程を含む。第1工程における反応物を含む水溶媒(即ち、反応系)のpHは、好ましくは10.5~12.5であり、より好ましくは11.0~12.0である。
【0025】
第1工程で使用する酸性アミノ酸とは、2以上のカルボキシ基を有するアミノ酸を意味する。酸性アミノ酸は、光学活性体でも、ラセミ体でもよい。酸性アミノ酸は、好ましくはモノアミノジカルボン酸であり、より好ましくはグルタミン酸および/またはアスパラギン酸であり、さらに好ましくはグルタミン酸である。グルタミン酸およびアスパラギン酸はいずれもL体でもD体でもよく、好ましくはL体である。酸性アミノ酸の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩;アンモニウム塩;コリン塩;およびリジン塩、オルニチン塩、アルギニン塩等の塩基性のアミノ酸との塩;が挙げられる。この塩は、好ましくはアルカリ金属塩、より好ましくはナトリウム塩である。酸性アミノ酸は2以上のカルボキシ基を有するため、その塩では、全てのカルボキシ基が塩の形態(-COOM、Mはカウンターカチオン)であってもよく、一部のカルボキシ基のみが塩の形態であってもよい。
【0026】
第1工程で使用する「酸性アミノ酸および/またはその塩」は、好ましくはグルタミン酸、アスパラギン酸およびこれらの塩から選ばれる一つ以上であり、より好ましくはグルタミン酸、アスパラギン酸、これらのナトリウム塩、およびこれらのカリウム塩から選ばれる一つ以上(即ち、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸モノナトリウム、グルタミン酸モノカリウム、アスパラギン酸モノナトリウム、アスパラギン酸モノカリウム、グルタミン酸ジナトリウム、グルタミン酸ジカリウム、アスパラギン酸ジナトリウムおよびアスパラギン酸ジカリウムから選ばれる一つ以上)であり、さらに好ましくはグルタミン酸、そのナトリウム塩、およびそのカリウム塩から選ばれる一つ以上(即ち、グルタミン酸、グルタミン酸モノナトリウム、グルタミン酸モノカリウム、グルタミン酸ジナトリウムおよびグルタミン酸ジカリウムから選ばれる一つ以上)であり、さらにより好ましくはグルタミン酸および/またはそのナトリウム塩(即ち、グルタミン酸、グルタミン酸モノナトリウムおよびグルタミン酸ジナトリウムから選ばれる一つ以上)であり、特に好ましくはグルタミン酸モノナトリウムおよびグルタミン酸ジナトリウムから選ばれる一つ以上であり、最も好ましくはグルタミン酸モノナトリウムである。これらは水和物の形態であってもよい。
【0027】
第1工程で使用するC8-22脂肪酸クロライドとは、炭素数が8~22である脂肪酸クロライドを意味する。C8-22脂肪酸クロライドは、飽和でも、不飽和でもよい。C8-22脂肪酸クロライドとしては、単一組成の脂肪酸クロライド、例えば、オクタノイルクロライド、ノナノイルクロライド、デカノイルクロライド、ウンデカノイルクロライド、ラウロイルクロライド、トリデカノイルクロライド、ミリストイルクロライド、ステアロイルクロライド、パルミトイルクロライド、ベヘノイルクロライド、イソステアロイルクロライド、オレオイルクロライド等;並びにこれらを含む混合脂肪酸クロライド、例えば、ヤシ油脂肪酸クロライド、牛脂脂肪酸クロライド、硬化牛脂脂肪酸クロライド、大豆油脂肪酸クロライド、綿実油脂肪酸クロライド、ヒマシ油脂肪酸クロライド、オリーブ油脂肪酸クロライド、パーム油脂肪酸クロライド、パーム核油脂肪酸クロライド等;が挙げられる。C8-22脂肪酸クロライドは、好ましくはオクタノイルクロライド、デカノイルクロライド、ラウロイルクロライド、ミリストイルクロライド、パルミトイルクロライド、ヤシ油脂肪酸クロライドであり、より好ましくはラウロイルクロライド、ヤシ油脂肪酸クロライドであり、最も好ましくはヤシ油脂肪酸クロライドである。
【0028】
第1工程における反応系のpHを10~13に維持するために使用する塩基に特に制限はなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等が挙げられる。これらの中で水酸化ナトリウムが好ましい。
【0029】
第1工程で形成されるN-C8-22アシル酸性アミノ酸とは、アミノ基の水素原子が炭素数8~22のアシル基で置換された酸性アミノ酸誘導体を意味する。C8-22アシル基は、具体的には第1工程で使用するC8-22脂肪酸クロライドのクロライドを除いた部分に該当するアシル基である。C8-22アシル基としては、単一組成のアシル基、例えば、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ラウロイル基、トリデカノイル基、ミリストイル基、ステアロイル基、パルミトイル基、ベヘノイル基、イソステアロイル基、オレオイル基等;並びにこれらを含む混合脂肪酸アシル基、例えば、ヤシ油脂肪酸アシル基(ココイル基ともいう)、牛脂脂肪酸アシル基、硬化牛脂脂肪酸アシル基、大豆油脂肪酸アシル基、綿実油脂肪酸アシル基、ヒマシ油脂肪酸アシル基、オリーブ油脂肪酸アシル基、パーム油脂肪酸アシル基、パーム核油脂肪酸アシル基等;が挙げられる。C8-22アシル基は、好ましくはオクタノイル基、デカノイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ココイル基であり、より好ましくはラウロイル基、ココイル基である。
また、N-C8-22アシル酸性アミノ酸は、好ましくはN-C8-22アシルグルタミン酸および/またはN-C8-22アシルアスパラギン酸である。
【0030】
N-C8-22アシル酸性アミノ酸の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩;アンモニウム塩;コリン塩;およびリジン塩、オルニチン塩、アルギニン塩等の塩基性のアミノ酸との塩;が挙げられる。この塩は、好ましくはアルカリ金属塩、より好ましくはナトリウム塩である。
【0031】
第1工程において、酸性アミノ酸および/またはその塩の使用量は、C8-22脂肪酸クロライド1モルに対して、例えば、0.8~1.5モルである。後述するN-C8-22アシル酸性アミノ酸ジペプチドおよびN-C8-22アシル酸性アミノ酸トリペプチドを形成するためには、前記使用量は、C8-22脂肪酸クロライド1モルに対して、好ましくは0.9~1.4モル、より好ましくは1.0~1.3モルである。なお、C8-22脂肪酸クロライドとして、ヤシ油脂肪酸クロライド等の混合脂肪酸クロライドを使用する場合、その分子量は、ヤシ油脂肪酸クロライドを構成する、オクタノイルクロライド、デカノイルクロライド、ラウロイルクロライド、ミリストイルクロライド、パルミトイルクロライドの重量比によって算出することができる。
【0032】
第1工程において、反応系中の酸性アミノ酸および/またはその塩の初期濃度は、酸クロライドとの効率よい反応を行うために、好ましくは20~50重量%、より好ましくは25~40重量%である。
【0033】
第1工程では、酸性アミノ酸および/またはその塩を含む水溶媒を撹拌しながら、そこにC8-22脂肪酸クロライドを滴下して反応させることが好ましい。C8-22脂肪酸クロライド全量の滴下時間は、酸性アミノ酸および/またはその塩との効率良い反応を行うために、好ましくは30~600分、より好ましくは60~450分であり、その際の反応系の温度は、好ましくは0~50℃、より好ましくは5~40℃である。
【0034】
反応系に全てのC8-22脂肪酸クロライドを添加した後の第1工程の反応温度は、脂肪酸クロライドと酸性アミノ酸およびその塩との反応を完結させるために、好ましくは10~50℃、より好ましくは20~40℃であり、第1工程の反応時間は、好ましくは10~600分、より好ましくは30~480分である。
【0035】
第1工程で使用する水溶媒は実質的に親水性有機溶媒(例えば、アセトン、t-ブタノール、プロピレングリコール等)を含まないことが好ましい。水溶媒が実質的に親水性有機溶媒を含まないとは、水溶媒中の親水性有機溶媒の含有量が5重量%以下であるか、または水溶媒が親水性有機溶媒を含まないことを意味する。水溶媒中の親水性有機溶媒の含有量は4重量%以下がより好ましく、3重量%以下がさらに好ましく、2重量%以下が特に好ましい。
【0036】
水溶媒が実質的に親水性有機溶媒を含まないことによって、本発明の製造方法で得られる水溶液中の酸性アミノ酸および/またはその塩、N-C8-22アシル酸性アミノ酸および/またはその塩、N-C8-22アシル酸性アミノ酸ジペプチドおよび/またはその塩、N-C8-22アシル酸性アミノ酸トリペプチドおよび/またはその塩の含有量が増大し、水溶液の泡立ちおよび使用感が向上するという効果が得られる。なお、N-C8-22アシル酸性アミノ酸ジペプチド等については後述する。また、水溶媒が実質的に親水性有機溶媒を含まないことによって、作業環境への影響や消防法の対策等を考慮しなくてよいという利点が得られる。
【0037】
本発明の製造方法は、第1工程後の水溶液のpHを8.4~9.5に調整する第2工程を含む。該pHは、好ましくは8.6~9.2である。
【0038】
第2工程で水溶液のpHを調整するために使用する酸としては、特に限定は無く、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸等の無機酸;カルボン酸(例えば、酢酸、クエン酸)、スルホン酸等の有機酸;を使用することができる。これらの中で、無機酸が好ましく、塩酸がより好ましい。
【0039】
第2工程で水溶液に酸を添加する際は、安全のため、水溶液の温度を0~50℃に調整することが好ましい。この温度調整は、例えば、公知の冷却器を使用することによって行ってもよく、水溶液に、常温の水または冷却水を添加することによって行ってもよい。
【0040】
本発明の製造方法は、加圧ろ過を行う工程(以下「加圧ろ過工程」と略称する)をさらに含むことが好ましい。加圧ろ過工程は、第1工程後または第2工程後のいずれで行ってもよく、第1工程後および第2工程後の両方で行ってもよい。最終的に得られる水溶液中の不純物を除去するために、第2工程後に加圧ろ過工程を行うことが好ましい。
【0041】
ろ過する際の水溶液の温度は、加圧ろ過の作業効率を上げるために、好ましくは20~90℃、より好ましくは40~80℃である。
【0042】
加圧ろ過工程ではろ過助剤を用いることが好ましい。ろ過助剤としては、例えば、セライト(登録商標)等が挙げられる。水溶液100gあたりのろ過助剤の使用量は、加圧ろ過の作業効率を向上させるために、好ましくは0.05~10g、より好ましくは0.1~5gである。
【0043】
ろ過助剤を添加した後、不純物をろ過助剤に充分に吸着させるため、ろ過助剤を含む水溶液を一定時間撹拌することが好ましい。撹拌時間は、好ましくは5~300分、より好ましくは10~200分であり、その際の水溶液の温度は、好ましくは20~90℃、より好ましくは40~80℃である。
【0044】
加圧ろ過の圧力は、好ましくは0.2~10MPa、より好ましくは0.3~5MPaであり、その際の水溶液の温度は、好ましくは20~90℃、より好ましくは40~80℃である。この加圧ろ過は、タンク付ステンレスホルダー等の公知の装置を用いて行うことができる。
【0045】
本発明の製造方法では、驚くべきことに、N-C8-22アシル酸性アミノ酸および/またはその塩だけでなく、通常は酸性アミノ酸ジペプチドおよび/またはその塩をアシル化することによって合成されるN-C8-22アシル酸性アミノ酸ジペプチドおよび/またはその塩が形成される。本発明の製造方法では、さらに、N-C8-22アシル酸性アミノ酸トリペプチドおよび/またはその塩も形成される。ここで、N-C8-22アシル酸性アミノ酸ジペプチドとは、酸性アミノ酸から形成されたジペプチドの誘導体であって、アミノ基の水素原子が炭素数8~22のアシル基で置換されたものを意味する。また、N-C8-22アシル酸性アミノ酸トリペプチドとは、酸性アミノ酸から形成されたトリペプチドの誘導体であって、アミノ基の水素原子が炭素数8~22のアシル基で置換されたものを意味する。
【0046】
N-C8-22アシル酸性アミノ酸ジペプチドは、好ましくはN-C8-22アシル-Glu-Glu、N-C8-22アシル-Asp-Glu、N-C8-22アシル-Glu-AspおよびN-C8-22アシル-Asp-Aspから選ばれる一つ以上であり、より好ましくは、N-C8-22アシル-Glu-GluおよびN-C8-22アシル-Asp-Aspから選ばれる一つ以上であり、さらに好ましくはN-C8-22アシル-Glu-Gluである。なお、本明細書においてペプチドを略号で表示する場合、各表示は、ペプチド分野における慣用の略号に基づくものである。例えば「N-C8-22アシル-Glu-Glu」は「N-C8-22アシルグルタミルグルタミン酸」を表し、「N-C8-22アシル-Asp-Asp」は「N-C8-22アシルアスパルチルアスパラギン酸」を表す。
【0047】
8-22アシル基としては、単一組成のアシル基、例えば、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ラウロイル基、トリデカノイル基、ミリストイル基、ステアロイル基、パルミトイル基、ベヘノイル基、イソステアロイル基、オレオイル基等;並びにこれらを含む混合脂肪酸アシル基、例えば、ヤシ油脂肪酸アシル基(ココイル基ともいう)、牛脂脂肪酸アシル基、硬化牛脂脂肪酸アシル基、大豆油脂肪酸アシル基、綿実油脂肪酸アシル基、ヒマシ油脂肪酸アシル基、オリーブ油脂肪酸アシル基、パーム油脂肪酸アシル基、パーム核油脂肪酸アシル基等;が挙げられる。C8-22アシル基は、好ましくはオクタノイル基、デカノイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ココイル基であり、より好ましくはラウロイル基、ココイル基である。
【0048】
N-C8-22アシル酸性アミノ酸ジペプチドの塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩;アンモニウム塩;コリン塩;およびリジン塩、オルニチン塩、アルギニン塩等の塩基性のアミノ酸との塩;が挙げられる。この塩は、好ましくはアルカリ金属塩、より好ましくはナトリウム塩である。
【0049】
N-C8-22アシル酸性アミノ酸トリペプチドは、好ましくはN-C8-22アシル-Glu-Glu-Glu、N-C8-22アシル-Asp-Glu-Glu、N-C8-22アシル-Glu-Asp-Glu、N-C8-22アシル-Asp-Asp-Glu、N-C8-22アシル-Asp-Asp-Asp、N-C8-22アシル-Glu-Asp-Asp、N-C8-22アシル-Asp-Glu-AspおよびN-C8-22アシル-Glu-Glu-Aspから選ばれる一つ以上であり、より好ましくは、N-C8-22アシル-Glu-Glu-GluおよびN-C8-22アシル-Asp-Asp-Aspから選ばれる一つ以上であり、さらに好ましくはN-C8-22アシル-Glu-Glu-Gluである。
8-22アシル基としては、単一組成のアシル基、例えば、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ラウロイル基、トリデカノイル基、ミリストイル基、ステアロイル基、パルミトイル基、ベヘノイル基、イソステアロイル基、オレオイル基等;並びにこれらを含む混合脂肪酸アシル基、例えば、ヤシ油脂肪酸アシル基(ココイル基ともいう)、牛脂脂肪酸アシル基、硬化牛脂脂肪酸アシル基、大豆油脂肪酸アシル基、綿実油脂肪酸アシル基、ヒマシ油脂肪酸アシル基、オリーブ油脂肪酸アシル基、パーム油脂肪酸アシル基、パーム核油脂肪酸アシル基等;が挙げられる。C8-22アシル基は、好ましくはオクタノイル基、デカノイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ココイル基であり、より好ましくはラウロイル基、ココイル基である。
【0050】
N-C8-22アシル酸性アミノ酸トリペプチドの塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩;アンモニウム塩;コリン塩;およびリジン塩、オルニチン塩、アルギニン塩等の塩基性のアミノ酸との塩;が挙げられる。この塩は、好ましくはアルカリ金属塩、より好ましくはナトリウム塩である。
【0051】
本発明の製造方法によって得られる水溶液は、第1工程のショッテン・バウマン反応で形成されるN-C8-22アシル酸性アミノ酸および/またはその塩だけでなく、その未反応原料である酸性アミノ酸および/またはその塩を含むことが好ましい。酸性アミノ酸および/またはその塩の存在により、泡立ちおよび使用感が向上するという効果が得られる。水溶液に含まれる酸性アミノ酸および/またはその塩は、上記で説明したものと同義である。
【0052】
本発明の製造方法によって得られる水溶液は、C8-22脂肪酸および/またはその塩を含むことが好ましい。C8-22脂肪酸および/またはその塩によって、泡立ちおよび使用感が向上するという効果が得られる。C8-22脂肪酸は、第1工程で使用するC8-22脂肪酸クロライドに由来するものであり、単一組成の脂肪酸、例えば、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、イソステアリン酸、オレイン酸等;並びにこれらを含む混合脂肪酸、例えば、ヤシ油脂肪酸、牛脂脂肪酸、硬化牛脂脂肪酸、大豆油脂肪酸、綿実油脂肪酸、ヒマシ油脂肪酸、オリーブ油脂肪酸、パーム油脂肪酸、パーム核油脂肪酸等;が挙げられる。C8-22脂肪酸は、好ましくはオクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ヤシ油脂肪酸であり、より好ましくはラウリン酸、ヤシ油脂肪酸であり、最も好ましくはヤシ油脂肪酸である。
8-22脂肪酸の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩;アンモニウム塩;コリン塩;およびリジン塩、オルニチン塩、アルギニン塩等の塩基性のアミノ酸との塩;が挙げられる。この塩は、好ましくはアルカリ金属塩、より好ましくはナトリウム塩である。
【0053】
本発明の製造方法で得られる水溶液中において、酸性アミノ酸および/またはその塩の含有量は、好ましくは1.0~10.0重量%、より好ましくは2.0~8.0質量%であり、N-C8-22アシル酸性アミノ酸および/またはその塩の含有量は、好ましくは10.0~30.0重量%、より好ましくは15.0~25.0質量%であり、N-C8-22アシル酸性アミノ酸ジペプチドおよび/またはその塩の含有量は、好ましくは0.5~5.0重量%、より好ましくは1.0~4.0質量%である。各成分の含有量が上述の好ましい範囲内であれば、得られる水溶液の泡立ちおよび使用感が向上する。なお、前記含有量は、酸性アミノ酸およびその塩の両方が存在する場合は、その合計量である。他の含有量も同様である。
【0054】
本発明の製造方法は、第2工程後の水溶液を容器に詰める工程をさらに含むことが好ましい。容器に特に限定は無く、例えば、瓶、缶、袋等のいずれでもよい。また、容器の素材にも特に限定は無く、ガラス、プラスチック、金属、またはこれらの複合材料のいずれでもよい。
【0055】
本発明は、上述の方法によって得られる、酸性アミノ酸および/またはその塩1.0~10.0重量%、N-C8-22アシル酸性アミノ酸および/またはその塩10.0~30.0重量%、並びにN-C8-22アシル酸性アミノ酸ジペプチドおよび/またはその塩0.5~5.0重量%を含み、pHが8.4~9.5である水溶液を提供する。本発明の水溶液は、N-C8-22アシル酸性アミノ酸トリペプチドおよび/またはその塩をさらに含んでもよい。また、本発明の水溶液は、C8-22脂肪酸および/またはその塩をさらに含んでもよい。本発明の水溶液中に含まれる成分の説明(好ましい具体例、含有量等)、および本発明の水溶液を詰める容器の説明は、上述した通りである。
【0056】
本発明の水溶液は、低温および高温安定性に優れ、且つ泡立ちおよび使用感も良好であり、洗浄剤、分散剤、乳化剤、抗菌剤、防腐剤等またはその原料として有用である。
【実施例
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
なお、以下の実施例における「%」は、特段の記載が無い限り「重量%」を意味する。
【0058】
実施例1(N-ココイルグルタミン酸のナトリウム塩を含む水溶液の製造)
L-グルタミン酸モノナトリウム一水和物187g(1.00モル)を水300mLに懸濁させ、これに48%水酸化ナトリウム水溶液78gを添加して、pH12.0の水溶液を調製し、15℃に冷却した。これにヤシ油脂肪酸クロライド200g(成分の重量比から算出した分子量219、0.91モル)と48%水酸化ナトリウム水溶液98gを同時に、反応系のpHを12.0および温度を15℃に維持しながら、1時間かけて滴下した。滴下終了後、反応系の温度を30℃に昇温し、さらに3時間撹拌を続け、反応を完結させた。この反応水溶液に、常温の水320mLと35%塩酸25gを加え、そのpHを9.0に調整した。この水溶液にセライト(登録商標)(Product type: 577LC)6.0gを加え、70℃に加熱した後、この温度で1時間撹拌を行った。アドバンテック社製タンク付ステンレスホルダーを用いて70℃および0.4MPaで、セライトを含む水溶液を加圧ろ過し、N-ココイルグルタミン酸のナトリウム塩を含む水溶液1180gを得た。得られた水溶液の組成を以下の条件のHPLCおよびイオンクロマトグラフィーによって調べた。その結果を表1に示す。
【0059】
(HPLC分析条件)
(1)N-ココイルグルタミン酸のナトリウム塩、ヤシ油脂肪酸のナトリウム塩、N-ココイルグルタミルグルタミン酸のナトリウム塩、N-ココイルグルタミルグルタミルグルタミン酸のナトリウム塩の分析
使用機器:島津製作所製CLASS-LC20シリーズ
検出UV:210nm
カラム:(株)ワイエムシィ製YMC-Pack ODS-A 150×6.0mmI.D.、S-5μm、12nm(品番:AA12S05-1506WT)
カラム温度:40℃
溶離液:MeOH/リン酸緩衝液=71.5/28.5(体積比)
(リン酸緩衝液:0.03mol/LのNaHPO水溶液にHPOを加えてpH3.0に調整したもの)
流量:1.2mL/min
測定時間:90min
注入量:10μL
【0060】
(2)グルタミン酸のナトリウム塩の分析
使用機器:島津製作所製CLASS-LC20シリーズ
検出UV:210nm
カラム:(株)ワイエムシィ製YMC-Pack ODS-A 150×6.0mmI.D.、S-5μm、12nm(品番:AA12S05-1506WT)
カラム温度:40℃
溶離液:MeOH/リン酸緩衝液=5/95(体積比)
(リン酸緩衝液:0.05mol/LのNaHPO水溶液にHPOを加えてpH2.5に調整した後、オクタンスルホン酸を0.005mol/Lとなるように添加したもの)
流量:1.0mL/min
測定時間:60min
注入量:20μL
【0061】
(イオンクロマトグラフィーの分析条件)
塩化ナトリウムの分析
使用機器:DIO NEX社製DX-100
検出:電気伝導度検出
カラム:DIO NEX社製IonPac AS11-HC 2mm(10-32)
カラム温度:40℃
溶離液:0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液
流量:1.0mL/min
測定時間:60min
注入量:20μL
【0062】
【表1】
【0063】
(1)低温保存試験(水溶液の外観)
実施例1で製造した水溶液に48%水酸化ナトリウム水溶液または35%塩酸を添加して、pHが7.5~10.5の水溶液を製造した。pHが異なる各水溶液を50mLサンプル管に移し入れ、-5℃の保存庫中で14日間保存した。保存後に保存庫から各水溶液を取り出し、目視でその外観を経時的に観察し、以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
(評価基準)
◎:澄明
○:薄く白濁、室温に昇温後に澄明
△:強く白濁、室温に昇温後に澄明
×:強く白濁、室温に昇温後も白濁
【0064】
(2)高温保存試験1(グルタミン酸のナトリウム塩の含有量変化)
実施例1で製造した水溶液に48%水酸化ナトリウム水溶液または35%塩酸を添加して、pHが7.5~10.5の水溶液を製造した。高温で保存する前のpHが異なる各水溶液中のグルタミン酸のナトリウム塩の含有量(G)を以下の条件のHPLCで測定した。
【0065】
(HPLCの測定条件)
使用機器:島津製作所製CLASS-LC20シリーズ
検出:UV-210nm
カラム:(株)ワイエムシィ製YMC-PackODS-A150×6.0mmI.D.、S-5μm、12nm(品番:AA12S05-1506WT)
カラム温度40℃
溶離液:MeOH/リン酸緩衝液=5/95
(リン酸緩衝液:0.05mol/LのNaHPO水溶液にHPOを加えてpH2.5に調整した後、オクタンスルホン酸を0.005mol/Lとなるように添加したもの)
流量:1.0mL/min
測定時間:60min
注入量:20μL
【0066】
次に各水溶液を50mLサンプル管に移し入れ、70℃の保存庫中で14日間保存した。保存後に保存庫から各水溶液を取り出し、上記と同じ条件のHPLCにより、そのグルタミン酸のナトリウム塩の含有量(G)を測定し、以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
(評価基準)
◎:G/Gが0.7以上
○:G/Gが0.5以上0.7未満
△:G/Gが0.3以上0.5未満
×:G/Gが0.3未満
【0067】
(3)高温保存試験2(水溶液の透過率)
実施例1で製造した水溶液に48%水酸化ナトリウム水溶液または35%塩酸を添加して、pHが7.5~10.5の水溶液を製造した。pHが異なる各水溶液を50mLサンプル管に移し入れ、70℃の保存庫中で14日間保存した。保存後に保存庫から各水溶液を取り出し、日本分光社製の紫外可視分光光度計(N-570)を用いて水溶液の透過率を測定し、以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
(評価基準)
◎:透過率97%以上
○:透過率95%以上97%未満
△:透過率93%以上95%未満
×:透過率93%未満
【0068】
【表2】
【0069】
表2に示す結果から、N-ココイルグルタミン酸のナトリウム塩を含み、pHが8.4~9.5(特にpHが8.6~9.2)である水溶液は、低温および高温安定性に優れることが分かる。
【0070】
(4)泡立ち試験
実施例1で製造した水溶液2.0gを水道水で100gに希釈(活性剤濃度0.5%)し、35℃の水浴に5分間浸したのち、ハンドミキサー(貝印社製)を用いて10秒間溶液を泡立て、直後および2分後の泡量を測定した。また、泡のきめ細かさについて目視で判定し、以下の基準で評価した。結果を表3に示す。
(泡質の評価基準)
◎:泡が非常にきめ細かい
○:泡がきめ細かい
△:泡が荒い
×:泡が非常に荒い
【0071】
比較例として、特許文献1記載の手法により調製したN-ココイルグルタミン酸を一ナトリウム塩換算として0.5重量%となるよう水に懸濁させ、次いで48%水酸化ナトリウム水溶液でpH9.0に調整した水溶液を用いて、同様に泡立ち試験を実施した。結果を表3に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
表3に示す結果から、実施例1で製造した水溶液は、洗浄剤としての泡立ちおよび使用感が優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、低温および高温安定性に優れたN-C8-22アシル酸性アミノ酸および/またはその塩を含む水溶液が得られる。該水溶液は、洗浄剤、分散剤、乳化剤、抗菌剤、防腐剤等またはその原料として有用である。
【0075】
本願は、日本で出願された特願2013-226965号を基礎としており、その内容は本願明細書に全て包含される。