(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】情報処理装置、隠れノードの設定方法及び情報処理装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G06N 3/04 20060101AFI20220222BHJP
G06N 3/063 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
G06N3/04 154
G06N3/063
(21)【出願番号】P 2021553286
(86)(22)【出願日】2021-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2021012533
【審査請求日】2021-09-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【氏名又は名称】荻野 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】寺▲崎▼ 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】中田 一紀
【審査官】金木 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-195011(JP,A)
【文献】特開2018-132830(JP,A)
【文献】島田研太(外1名),「ベクトル単位での重み共有化と符号化によるカプセルネットワーク軽量化の試み」,人工知能学会インタラクティブ情報アクセスと可視化マイニング研究会第24回研究会研究発表予稿集,日本,人工知能学会,2020年03月14日,Pages 20-24,[online], [retrieved on 2020.03.18], Retrieved from the Internet: <URL: https://must.c.u-tokyo.ac.jp/sigam/sigam24/sigam2404.pdf>.
【文献】中嶋浩平(外2名),「ダイナミクスによる情報処理 - レザバー計算の最近の発展」,日本物理学会誌,Vol.74, No.5,日本,2019年05月05日,Pages 306-313,[online], [retrieved on 2021.04.22], Retrieved from the Internet: <URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/butsuri/74/5/74_306/_article/-char/ja/>,ISSN: 2423-8872, <DOI: 10.11316/butsuri.74.5_306>
【文献】IWADE, Hisashi, et al.,"Use of recurrent infomax to improve the memory capability of input-driven recurrent neural networks,arXiv:1803.05383v1,version v1,[online], arXiv (Cornell University),2018年02月14日,Pages 1-8,[retrieved on 2021.04.22], Retrieved from the Internet: <URL: https://arxiv.org/abs/1803.05383v1>.
【文献】JIN, Yingyezhe, et al.,"SSO-LSM: A Sparse and Self-Organizing Architecture for Liquid State Machine based Neural Processors,Proceedings of the 2016 IEEE/ACM International Symposium on Nanoscale Architectures (NANOARCH),2016年07月20日,Pages 55-60,ISBN 978-1-4503-4330-5, <DOI: 10.1145/2950067.2950100>.
【文献】KAWAI, Yuji, et al.,"Echo in a Small-World Reservoir: Time-Series Prediction using an Economical Recurrent Neural Networ,Proceedings of the 2017 Joint IEEE International Conference on Development and Learning and Epigenet,2017年09月21日,Pages 126-131,ISBN: 978-1-5386-3715-9, <DOI: 10.1109/DEVLRN.2017.8329797>.
【文献】LI, Dingyuan, et al.,"Structure Optimization for Echo State Network Based on Contribution",TSINGHUA SCIENCE AND TECHNOLOGY,2019年02月,Vol.24, No.1,Pages 97-105,ISSN: 1007-0214, <DOI: 10.26599/TST.2018.9010049>.
【文献】SCARDAPANE, Simone, et al.,"Distributed Reservoir Computing with Sparse Readouts",IEEE Computational intelligence magazine,2016年10月12日,Vol.11, No.4,Pages 59-68 and 70,ISSN: 1556-603X, <DOI: 10.1109/MCI.2016.2601759>.
【文献】XUE, F., et al.,Reservoir Computing with Both Neuronal Intrinsic Plasticity and Multi-Clustered Structure,Cognitive Computation [online],2017年05月04日,Vol. 9,pp. 400-410,Retrieved from the Internet: <URL: https://link.springer.com/article/10.1007/s12559-017-9467-3> [Retrieved on 2021-10-19],DOI: 10.1007/s12559-017-9467-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 3/04
G06N 3/063
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レザバー層と、リードアウト層と、前記レザバー層と前記リードアウト層とを接続する接続部と、を備え、
レザバー層は、前記レザバー層に入力された入力信号の情報を含む特徴空間を生成する複数のノードを備え、
前記リードアウト層は、前記レザバー層から送られる信号のそれぞれに結合重みを印加する演算を行い、
前記レザバー層から前記リードアウト層へ送られる信号の数は、前記複数のノードの数より少なく、
前記接続部は、前記複数のノードのうちのいずれかと前記リードアウト層とを接続する複数の端子を備え、
前記複数の端子の数は、前記複数のノードの数より少なく、
前記接続部は、スイッチを備え、
前記スイッチは、前記複数のノードと前記複数の端子との電気的な接続を切り替える、情報処理装置。
【請求項2】
レザバー層と、リードアウト層と、前記レザバー層と前記リードアウト層とを接続する接続部と、を備え、
レザバー層は、前記レザバー層に入力された入力信号の情報を含む特徴空間を生成する複数のノードを備え、
前記リードアウト層は、前記レザバー層から送られる信号のそれぞれに結合重みを印加する演算を行い、
前記レザバー層から前記リードアウト層へ送られる信号の数は、前記複数のノードの数より少なく、
前記接続部は、前記複数のノードのうちのいずれかと前記リードアウト層とを接続する複数の端子を備え、
前記複数の端子の数は、前記複数のノードの数より少なく、
前記接続部は、前記レザバー層に積層され、
前記接続部は、複数の配線層を備える、情報処理装置。
【請求項3】
レザバー層と、リードアウト層と、前記レザバー層と前記リードアウト層とを接続する接続部と、を備え、
レザバー層は、前記レザバー層に入力された入力信号の情報を含む特徴空間を生成する複数のノードを備え、
前記リードアウト層は、前記レザバー層から送られる信号のそれぞれに結合重みを印加する演算を行い、
前記レザバー層から前記リードアウト層へ送られる信号の数は、前記複数のノードの数より少なく、
前記接続部は、前記複数のノードのうちのいずれかと前記リードアウト層とを接続する複数の端子を備え、
前記複数の端子の数は、前記複数のノードの数より少なく、
前記接続部は、前記レザバー層に積層され、
前記接続部は、積層方向から見て、前記レザバー層の一部を覆う、情報処理装置。
【請求項4】
レザバー層と、リードアウト層と、前記レザバー層と前記リードアウト層とを接続する接続部と、を備え、
レザバー層は、前記レザバー層に入力された入力信号の情報を含む特徴空間を生成する複数のノードを備え、
前記リードアウト層は、前記レザバー層から送られる信号のそれぞれに結合重みを印加する演算を行い、
前記レザバー層から前記リードアウト層へ送られる信号の数は、前記複数のノードの数より少なく、
前記接続部は、前記複数のノードのうちのいずれかと前記リードアウト層とを接続する複数の端子を備え、
前記複数の端子の数は、前記複数のノードの数より少なく、
前記レザバー層は、前記複数のノードのうちのいずれかに接続された第1パッドを備え、
前記接続部は、前記複数の端子のいずれかに接続された第2パッドを備え、
前記接続部は、前記第1パッド及び前記第2パッドを介して、前記レザバー層に貼合されている、情報処理装置。
【請求項5】
レザバー層と、リードアウト層と、を備え、
レザバー層は、前記レザバー層に入力された入力信号の情報を含む特徴空間を生成する複数のノードを備え、
前記リードアウト層は、前記レザバー層から送られる信号のそれぞれに結合重みを印加する演算を行い、
前記レザバー層から前記リードアウト層へ送られる信号の数は、前記複数のノードの数より少なく、
前記複数のノードは、前記リードアウト層に接続されていない隠れノードを含み、
前記隠れノードは、基準情報処理装置に含まれる複数のノードのそれぞれが、他のノードと結合する結合重みの統計量に基づいて決定されており、
前記基準情報処理装置は、前記レザバー層と同じ構成の基準レザバー層と、前記リードアウト層と同じ構成の基準リードアウト層と、を備え、
前記基準レザバー層は、前記基準レザバー層に入力された入力信号の情報を含む特徴空間を生成し、
前記基準リードアウト層は、前記基準レザバー層のそれぞれのノードから送られる信号に結合重みを印加する演算を行う、情報処理装置。
【請求項6】
前記レザバー層と前記リードアウト層とを接続する接続部をさらに備え、
前記接続部は、前記複数のノードのうちのいずれかと前記リードアウト層とを接続する複数の端子を備え、
前記複数の端子の数は、前記複数のノードの数より少ない、請求項5に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記接続部は、複数の配線を備え、
前記複数の配線のそれぞれは、前記複数のノードのうちのいずれかと前記複数の端子のいずれかとを接続する、請求項1~4、6のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記接続部は、スイッチを備え、
前記スイッチは、前記複数のノードと前記複数の端子との電気的な接続を切り替える、請求項2~4、6のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記接続部は、前記レザバー層に積層され、
前記接続部は、複数の配線層を備える、請求項1、3、4、6のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記接続部は、前記レザバー層に積層され、
前記接続部は、積層方向から見て、前記レザバー層の一部を覆う、請求項1、2、4、6のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項11】
前記レザバー層は、前記複数のノードのうちのいずれかに接続された第1パッドを備え、
前記接続部は、前記複数の端子のいずれかに接続された第2パッドを備え、
前記接続部は、前記第1パッド及び前記第2パッドを介して、前記レザバー層に貼合されている、請求項1~3、6のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項12】
前記複数のノードは、前記リードアウト層に接続されていない隠れノードを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項13】
前記隠れノードは、基準情報処理装置を用いた演算において、前記基準情報処理装置に含まれる複数のノードの変動量を統計的手法で解析した結果に基づいて決定されており、
前記基準情報処理装置は、前記レザバー層と同じ構成の基準レザバー層と、前記リードアウト層と同じ構成の基準リードアウト層と、を備え、
前記基準レザバー層は、前記基準レザバー層に入力された入力信号の情報を含む特徴空間を生成し、
前記基準リードアウト層は、前記基準レザバー層のそれぞれのノードから送られる信号に結合重みを印加する演算を行い、請求項12に記載の情報処理装置。
【請求項14】
前記隠れノードは、基準情報処理装置に含まれる複数のノードのそれぞれが、他のノードと結合する結合重みの統計量に基づいて決定されており、
前記基準情報処理装置は、前記レザバー層と同じ構成の基準レザバー層と、前記リードアウト層と同じ構成の基準リードアウト層と、を備え、
前記基準レザバー層は、前記基準レザバー層に入力された入力信号の情報を含む特徴空間を生成し、
前記基準リードアウト層は、前記基準レザバー層のそれぞれのノードから送られる信号に結合重みを印加する演算を行う、請求項12に記載の情報処理装置。
【請求項15】
前記隠れノードは、基準情報処理装置に含まれる複数のノードのそれぞれが基準リードアウト層と結合する結合重みの絶対値によって決定されており、
前記基準情報処理装置は、前記レザバー層と同じ構成の基準レザバー層と、前記リードアウト層と同じ構成の基準リードアウト層と、を備え、
前記基準レザバー層は、前記基準レザバー層に入力された入力信号の情報を含む特徴空間を生成し、
前記基準リードアウト層は、前記基準レザバー層のそれぞれのノードから送られる信号に結合重みを印加する演算を行う、請求項12に記載の情報処理装置。
【請求項16】
前記基準レザバー層の複数のノードと基準リードアウト層との間の結合重みは、ノルム正則化を含む学習によって決定されている、請求項15に記載の情報処理装置。
【請求項17】
レザバー層と、リードアウト層と、前記レザバー層と前記リードアウト層とを接続する接続部と、を備え、
レザバー層は、前記レザバー層に入力された入力信号の情報を含む特徴空間を生成する複数のノードを備え、
前記リードアウト層は、前記レザバー層から送られる信号のそれぞれに結合重みを印加する演算を行い、
前記入力信号が入力される入力端子の数は、前記複数のノードの数より少なく、
前記接続部は、前記複数のノードのうちのいずれかと前記リードアウト層とを接続する複数の端子を備え、
前記複数の端子の数は、前記複数のノードの数より少なく、
前記接続部は、スイッチを備え、
前記スイッチは、前記複数のノードと前記複数の端子との電気的な接続を切り替える、情報処理装置。
【請求項18】
レザバー層と、リードアウト層と、前記レザバー層と前記リードアウト層とを接続する接続部と、を備え、
レザバー層は、前記レザバー層に入力された入力信号の情報を含む特徴空間を生成する複数のノードを備え、
前記リードアウト層は、前記レザバー層から送られる信号のそれぞれに結合重みを印加する演算を行い、
前記入力信号が入力される入力端子の数は、前記複数のノードの数より少なく、
前記接続部は、前記複数のノードのうちのいずれかと前記リードアウト層とを接続する複数の端子を備え、
前記複数の端子の数は、前記複数のノードの数より少なく、
前記接続部は、前記レザバー層に積層され、
前記接続部は、複数の配線層を備える、情報処理装置。
【請求項19】
レザバー層と、リードアウト層と、前記レザバー層と前記リードアウト層とを接続する接続部と、を備え、
レザバー層は、前記レザバー層に入力された入力信号の情報を含む特徴空間を生成する複数のノードを備え、
前記リードアウト層は、前記レザバー層から送られる信号のそれぞれに結合重みを印加する演算を行い、
前記入力信号が入力される入力端子の数は、前記複数のノードの数より少なく、
前記接続部は、前記複数のノードのうちのいずれかと前記リードアウト層とを接続する複数の端子を備え、
前記複数の端子の数は、前記複数のノードの数より少なく、
前記接続部は、前記レザバー層に積層され、
前記接続部は、積層方向から見て、前記レザバー層の一部を覆う、情報処理装置。
【請求項20】
レザバー層と、リードアウト層と、前記レザバー層と前記リードアウト層とを接続する接続部と、を備え、
レザバー層は、前記レザバー層に入力された入力信号の情報を含む特徴空間を生成する複数のノードを備え、
前記リードアウト層は、前記レザバー層から送られる信号のそれぞれに結合重みを印加する演算を行い、
前記入力信号が入力される入力端子の数は、前記複数のノードの数より少なく、
前記接続部は、前記複数のノードのうちのいずれかと前記リードアウト層とを接続する複数の端子を備え、
前記複数の端子の数は、前記複数のノードの数より少なく、
前記レザバー層は、前記複数のノードのうちのいずれかに接続された第1パッドを備え、
前記接続部は、前記複数の端子のいずれかに接続された第2パッドを備え、
前記接続部は、前記第1パッド及び前記第2パッドを介して、前記レザバー層に貼合されている、情報処理装置。
【請求項21】
レザバー層と、リードアウト層と、を備え、
レザバー層は、前記レザバー層に入力された入力信号の情報を含む特徴空間を生成する複数のノードを備え、
前記リードアウト層は、前記レザバー層から送られる信号のそれぞれに結合重みを印加する演算を行い、
前記入力信号が入力される入力端子の数は、前記複数のノードの数より少なく、
前記複数のノードは、前記リードアウト層に接続されていない隠れノードを含み、
前記隠れノードは、基準情報処理装置に含まれる複数のノードのそれぞれが、他のノードと結合する結合重みの統計量に基づいて決定されており、
前記基準情報処理装置は、前記レザバー層と同じ構成の基準レザバー層と、前記リードアウト層と同じ構成の基準リードアウト層と、を備え、
前記基準レザバー層は、前記基準レザバー層に入力された入力信号の情報を含む特徴空間を生成し、
前記基準リードアウト層は、前記基準レザバー層のそれぞれのノードから送られる信号に結合重みを印加する演算を行う、情報処理装置。
【請求項22】
事前検討を行う第1工程と、隠れノードを決定する第2工程と、を有し、
前記第1工程は、基準レザバー層と、基準リードアウト層と、を備える基準情報処理装置を用いて行われ、
前記基準情報処理装置は、前記基準レザバー層において入力信号の情報を含む特徴空間を生成し、前記基準レザバー層のそれぞれのノードから前記基準リードアウト層に送られる信号に結合重みを印加し、
演算結果と理想値との相互情報量を大きくする演算を行い、
前記演算結果は、前記基準レザバー層から前記基準リードアウト層へ送られた信号のそれぞれに結合重みが乗算された後に和算されたものを活性化関数に代入したものであり、
前記第2工程は、前記第1工程における演算後における前記基準レザバー層におけるそれぞれのノード間の結合重み、又は、前記基準レザバー層におけるそれぞれのノードと前記基準リードアウト層と間の結合重みに基づいて、前記基準レザバー層に含まれる複数のノードのうち何れを前記隠れノードとすることができるかを決定
でき、
前記隠れノードは、入力信号の情報を含む特徴空間を生成する複数のノードを含むレザバー層と、前記レザバー層から送られる信号のそれぞれに結合重みを印加する演算を行うリードアウト層と、を含む情報処理装置において、前記複数のノードのうち前記リードアウト層に接続されないノードである、隠れノードの設定方法。
【請求項23】
レザバー層と、前記レザバー層に接続できるリードアウト層とを設計する工程と、
前記レザバー層と同構成の基準レザバー層を用いて、請求項
22に係る隠れノードの設定方法を行い、前記レザバー層における隠れノードを設定する工程と、
前記レザバー層に含まれる複数のノードのうち前記隠れノード以外のノードを前記リードアウト層と接続する工程と、を有する、情報処理装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、隠れノードの設定方法及び情報処理装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニューロモーフィックデバイスは、ニューラルネットワークにより人間の脳を模倣した素子である。ニューロモーフィックデバイスは、人間の脳におけるニューロンとシナプスとの関係を人工的に模倣している。
【0003】
ニューロモーフィックデバイスは、例えば、階層状に配置されたノード(脳におけるニューロン)と、これらの間を繋ぐ伝達手段(脳におけるシナプス)と、を有する。ニューロモーフィックデバイスは、伝達手段(シナプス)が学習することで、問題の正答率を高める。学習は将来使えそうな知識を情報から見つけることであり、ニューロモーフィックデバイスでは入力されたデータに重み付けをする。
【0004】
ニューラルネットワークの一つとして、リカレントニューラルネットワークが知られている。リカレントニューラルネットワークは、再帰的結合を内部に含むことで、時系列のデータを扱うことができる。時系列のデータは、時間の経過とともに値が変化するデータであり、株価等はその一例である。リカレントニューラルネットワークは、内部に非線形な活性化部を持つことも可能であり、その場合、活性化部での処理は数学的には非線形多次元空間への射影とみなすことができる。これによって時系列信号が持つ複雑な信号変化の特徴を抽出することができる。再帰的な構造は、後段の階層のニューロンでの処理結果を前段の階層のニューロンに戻すことで実現でき、これによって時系列のデータを処理することができる。
【0005】
レザバーコンピューティングは、再帰的結合と非線形活性化関数を含むリカレントニューラルネットワークの一種である。レザバーコンピューティングは、リキッドステートマシンの実装手法として発展したニューラルネットワークである。
【0006】
レザバーコンピューティングは、大きく分けると、レザバー層とリードアウト層から構成される。ここでいう「層」とは概念的な層であり、物理構造物として層が形成されている必要はない。レザバー層は多数の非線形ノードとノード間の再帰的結合を含むグラフ構造をなす。リードアウト層は多くの場合、単層からなるパーセプトロンで構成される。レザバーコンピューティングは、人間の脳のニューロン結合をレザバー層が模倣し、干渉状態の遷移として状態を表現する。
【0007】
レザバーコンピューティングの特徴として、レザバー層は学習対象でなく、リードアウト層のみで学習することがあげられる。レザバーコンピューティングは、学習に必要な計算機資源が少ないことでハードウェア資源に制約がある、IoT(Internet of Things)やエッジでの時系列信号を取り扱うシステムとして注目されている。
【0008】
近年、このレザバーコンピューティングを物理的なデバイスに落とし込む研究がされている。非特許文献1には、物理的なデバイス研究例として、スピン波を利用したリザボア素子が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Ryosho Nakane, Gouhei Tanaka, and Akira Hirose, IEEE Access Vol.6 2018 pp.4462-4469.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
レザバーコンピューティングの表現力は、レザバー層に含まれるノードの数が多いほど高まると言われている。一方で、レザバー層に含まれるノードのそれぞれからリードアウト層に信号が送られると、信号の通信負荷、計算負荷が高まる。また物理素子の場合、信号通信のための電気的な接続を担う端子、配線の数が膨大になってしまう。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、実用化に適した情報処理装置、隠れノードの設定方法及び情報処理装置の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)第1の態様にかかる情報処理装置は、レザバー層と、リードアウト層と、を備え、レザバー層は、前記レザバー層に入力された入力信号の情報を含む特徴空間を生成する複数のノードを備え、前記リードアウト層は、前記レザバー層から送られる信号のそれぞれに結合重みを印加する演算を行い、前記レザバー層から前記リードアウト層へ送られる信号の数は、前記複数のノードの数より少ない。
【0013】
(2)上記態様にかかる情報処理装置は、前記レザバー層と前記リードアウト層とを接続する接続部をさらに備えてもよい。前記接続部は、前記複数のノードのうちのいずれかと前記リードアウト層とを接続する複数の端子を備え、前記複数の端子の数は、前記複数のノードの数より少ない。
【0014】
(3)上記態様にかかる情報処理装置において、前記接続部は、複数の配線を備えてもよい。前記複数の配線のそれぞれは、前記複数のノードのうちのいずれかと前記複数の端子のいずれかとを接続する。
【0015】
(4)上記態様にかかる情報処理装置において、前記接続部は、スイッチを備えてもよい。前記スイッチは、前記複数のノードと前記複数の端子との電気的な接続を切り替える。
【0016】
(5)上記態様にかかる情報処理装置において、前記接続部は、前記レザバー層に積層されていてもよい。前記接続部は、複数の配線層を備える。
【0017】
(6)上記態様にかかる情報処理装置において、前記接続部は、前記レザバー層に積層され、前記接続部は、積層方向から見て、前記レザバー層の一部を覆ってもよい。
【0018】
(7)上記態様にかかる情報処理装置において、前記レザバー層は、前記複数のノードのうちのいずれかに接続された第1パッドを備え、前記接続部は、前記複数の端子のいずれかに接続された第2パッドを備え、前記接続部は、前記第1パッド及び前記第2パッドを介して、前記レザバー層に貼合されていてもよい。
【0019】
(8)上記態様にかかる情報処理装置において、前記複数のノードは、前記リードアウト層に接続されていない隠れノードを含んでもよい。
【0020】
(9)上記態様にかかる情報処理装置において、前記隠れノードは、基準情報処理装置を用いた演算において、前記基準情報処理装置に含まれる複数のノードの変動量を統計的手法で解析した結果に基づいて決定されていてもよい。前記基準情報処理装置は、前記レザバー層と同じ構成の基準レザバー層と、前記リードアウト層と同じ構成の基準リードアウト層と、を備え、前記基準レザバー層は、前記基準レザバー層に入力された入力信号の情報を含む特徴空間を生成し、前記基準リードアウト層は、前記基準レザバー層のそれぞれのノードから送られる信号に結合重みを印加する演算を行う。
【0021】
(10)上記態様にかかる情報処理装置において、前記隠れノードは、基準情報処理装置に含まれる複数のノードのそれぞれが、他のノードと結合する結合重みの統計量に基づいて決定されていてもよい。
【0022】
(11)上記態様にかかる情報処理装置において、前記隠れノードは、基準情報処理装置に含まれる複数のノードのそれぞれが基準リードアウト層と結合する結合重みの絶対値によって決定されていてもよい。
【0023】
(12)上記態様にかかる情報処理装置において、前記基準レザバー層の複数のノードと基準リードアウト層との間の結合重みは、ノルム最小化法を含む学習によって決定されていてもよい。
【0024】
(13)第2の態様にかかる情報処理装置は、レザバー層と、リードアウト層と、を備え、レザバー層は、前記レザバー層に入力された入力信号の情報を含む特徴空間を生成する複数のノードを備え、前記リードアウト層は、前記レザバー層から送られる信号のそれぞれに結合重みを印加する演算を行い、前記入力信号が入力される入力端子の数は、前記複数のノードの数より少ない。
【0025】
(14)第3の態様にかかる隠れノードの設定方法は、事前検討を行う第1工程と、隠れノードを決定する第2工程と、を有し、前記第1工程は、基準レザバー層と、基準リードアウト層と、を備える基準情報処理装置を用いて行われ、前記基準情報処理装置は、前記基準レザバー層において入力信号の情報を含む特徴空間を生成し、前記基準レザバー層のそれぞれのノードから前記基準リードアウト層に送られる信号に結合重みを印加し、入力値と理想値との相互情報量を大きくする演算を行い、前記第2工程は、前記第1工程における演算後における前記基準レザバー層におけるそれぞれのノード間の結合重み、又は、前記基準レザバー層におけるそれぞれのノードと前記基準リードアウト層との結合重みに基づいて、前記基準レザバー層に含まれる複数のノードのうち何れを前記隠れノードとすることができるかを決定する。
【0026】
(15)第4の態様にかかる情報処理装置の製造方法は、レザバー層と、前記レザバー層に接続できるリードアウト層とを設計する工程と、前記レザバー層と同構成の基準レザバー層を用いて、上記態様にかかる隠れノードの設定方法を行い、前記レザバー層における隠れノードを設定する工程と、前記レザバー層に含まれる複数のノードのうち前記隠れノード以外のノードを前記リードアウト層と接続する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0027】
上記態様にかかる情報処理装置、隠れノードの設定方法及び情報処理装置の製造方法は、実用化に適している。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】第1実施形態にかかる情報処理装置の概念図である。
【
図2】第1実施形態にかかる情報処理装置の一部の断面図である。
【
図3】第1実施形態にかかる基準情報処理装置の概念図である。
【
図4】基準情報処理装置におけるそれぞれのノードとリードアウト層との間の結合重みの分布を示す。
【
図5】第1実施形態にかかる情報処理装置におけるそれぞれのノードとリードアウト層との間の結合重みの分布を示す。
【
図6】時系列信号の予測タスクにおいて、全てのノードとリードアウト層とを接続した場合の推論結果と、一部のノードとリードアウト層とを接続した場合の推論結果と、の出力値の差分を示す。
【
図7】基準情報処理装置におけるそれぞれのノードとリードアウト層との間の結合重みの別の例の分布を示す。
【
図8】第1実施形態にかかる情報処理装置におけるそれぞれのノードとリードアウト層との間の結合重みの別の例の分布を示す。
【
図9】時系列信号の予測タスクにおいて、全てのノードとリードアウト層とを接続した場合の推論結果と、一部のノードとリードアウト層とを接続した場合の推論結果と、の出力値の差分を示す。
【
図10】第1変形例にかかる情報処理装置の一部の断面図である。
【
図11】第2変形例にかかる情報処理装置の一部の断面図である。
【
図12】第3変形例にかかる情報処理装置の一部の断面図である。
【
図13】第4変形例にかかる情報処理装置の一部の断面図である。
【
図14】第5変形例にかかる情報処理装置の一部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0030】
図1は、第1実施形態にかかる情報処理装置100の概念図である。情報処理装置100は、例えば、レザバー層10とリードアウト層20と接続部30とを備える。本明細書において、「層」は物理構造体としての「層」を表す場合と概念としての「層」を表す場合がある。例えば、
図1、後述する
図3の概念図では、「層」は概念的な層を意味し、後述する
図2、
図10~
図14では、「層」は構造物としての層を意味する。
【0031】
レザバー層10は、複数のノード11を備える。ノード11の数は、特に問わない。ノード11の数が多いほど、レザバー層10の表現力は高まる。例えば、ノード11の数をi個とする。iは任意の自然数である。
【0032】
ノード11のそれぞれは、例えば、物理的なデバイスに置き換えられる。物理デバイスは、例えば、入力された信号を振動、電磁場、磁場、スピン波等に変換できるデバイスである。ノード11は、例えば、MEMSマイクロフォンである。MEMSマイクロフォンは、振動膜の振動を電気信号に変換することができる。ノード11は、例えば、スピントルクオシレータ(STO)でもよい。スピントルクオシレータは、電気信号を高周波信号に変換することができる。
【0033】
それぞれのノード11は、周囲のノード11と相互作用している。それぞれのノード11の間には、例えば、結合重みvxが規定されている。規定される結合重みvxの数は、ノード11間の接続の組み合わせの数だけある。xは、例えば、任意の自然数である。ノード11の間の結合重みvxのそれぞれは、原則、規定されており、学習により変動するものではない。ノード11の間の結合重みvxのそれぞれは、任意であり、互いに一致していても、異なっていてもよい。複数のノード11の間の結合重みvxの一部は、学習により変動してもよい。
【0034】
レザバー層10には、信号Sinが入力される。信号Sinは、例えば、外部に設けられたセンサから入力される。信号Sinは、レザバー層10内で複数のノード11間を伝搬しながら、相互作用する。信号Sinが相互作用するとは、あるノード11に伝搬した信号が他のノード11を伝搬する信号に影響を及ぼすことをいう。例えば、信号Sinは、ノード11間を伝搬する際に結合重みvxが印加され、変化していく。レザバー層10は、入力された信号Sinを多次元の非線形空間に射影する。
【0035】
信号Sinが複数のノード11間を伝搬することで、複数のノード11は、レザバー層10に入力された信号Sinの情報を含む特徴空間を生成する。レザバー層10内おいて、入力された信号Sinは、別の信号に置き換わり、入力された信号Sinに含まれる情報の少なくとも一部は形を変えて保有される。例えば、入力された信号Sinは、レザバー層10内において非線形に変化する。当該変換の一例として、直交座標系(x,y,z)から球面座標系(r,θ,φ)への置き換えが挙げられる。入力された信号Sinがレザバー層10内で相互作用することで、レザバー層10の系の状態は、時間の経過とともに変化する。
【0036】
複数のノード11のうちの一部は、接続部30を介してリードアウト層20に接続されている。例えば、i個のノード11のうちj個(jはiより小さい任意の自然数)のノード11がリードアウト層20と接続されている。残りのi-j個のノード11は、レザバー層10内における信号の相互作用には寄与するが、リードアウト層20には接続されていない。以下、リードアウト層20に接続されていないノード11を隠れノードと称する。
【0037】
接続部30は、例えば、レザバー層10とリードアウト層20との間にある。
図2は、第1実施形態に係るレザバー層10及び接続部30の断面図である。以下、各層の積層方向をz方向、z方向と直交する一方向をx方向、z方向及びx方向と直交する方向をy方向と称する。
【0038】
レザバー層10は、複数のノード11と絶縁層12と複数の端子13とを備える。端子13のそれぞれは、ノード11のそれぞれに接続されている。端子13は、外部のセンサに接続されており、センサからの信号Sinが入力される。別の実施形態として、ノード11自体が外部の環境によって状態が変化するセンサとして機能してもよい。例えば、圧電素子をアレイ状に配したデバイスは、それ自体が触覚センサと機能すると同時に、相互作用する。すなわち、ノード11がセンサとしての機能とレザバーコンピューティングにおけるノードとしての機能とを両立する。
【0039】
接続部30は、レザバー層10とリードアウト層20とを接続する。接続部30は、例えば、レザバー層10上に積層されている。接続部30は、例えば、z方向から見てレザバー層10を覆う。接続部30は、例えば、複数の配線31と絶縁層32と複数の端子34とを有する。リードアウト層20は、複数の端子34のそれぞれと接続されている。
【0040】
複数の配線31は、絶縁層32内に形成されている。配線31は、導電性を有し、例えば、Al、Ag、Cu等である。絶縁層32は、層間絶縁層であり、例えば、酸化シリコン(SiOx)、窒化シリコン(SiNx)、炭化シリコン(SiC)、窒化クロム、炭窒化シリコン(SiCN)、酸窒化シリコン(SiON)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ジルコニウム(ZrOx)等である。
【0041】
配線31のそれぞれは、ノード11のうちのいずれかと端子34のいずれかとを接続する。配線31の第1端は、ノード11のいずれかに接続されている。配線31の第2端は、端子34のいずれかに接続されている。
【0042】
端子34の数は、例えば、j個である。端子34のそれぞれは、リードアウト層20に接続されている。端子34の数は、リードアウト層20へ送られる信号の数と一致する。端子34の数(j個)は、ノード11の数(i個)より少ない。ノード11のうち端子34と接続されていないノード11が隠れノード11Aである。
【0043】
リードアウト層20には、レザバー層10から信号が送られる。レザバー層10からリードアウト層20へ送られる信号の数(j個)は、レザバー層10におけるノード11の数(i個)より少ない。
【0044】
リードアウト層20は、例えば、積和演算回路と、活性化関数回路と、比較回路と、出力回路と、を有する。
【0045】
積和演算回路は、レザバー層10からリードアウト層20へ送られるそれぞれの信号に結合重みwjを乗算し、乗算した結果を和算する。端子34のそれぞれとリードアウト層20との間には結合重みwjが規定されている。結合重みwjは、学習により変動する。
【0046】
活性化関数回路は、積和演算結果を活性化関数f(x)に代入して演算する。活性化関数は、用いなくてもよい。
【0047】
比較回路は、演算結果を教師データtと比較する。比較回路は、例えば、演算結果と教師データtとの相互情報量の差を比較する。相互情報量は、2つの確率変数の相互依存の尺度を表す量である。比較回路は、相互情報量が大きくなる(最大化する)ように、データDfを積和演算回路にフィードバックする。端子34のそれぞれとリードアウト層20との間の結合重みwjは、フィードバックされたデータDfに基づいて変化する。端子34のそれぞれとリードアウト層20との間の結合重みwjは、演算結果と教師データtとの相互情報量が大きくなる(最大化する)ように、調整される。なお、あらかじめ上述の計算を実施し、その結果得られた重みをリードアウト層とレザバー層との間の結合重みに反映させておき、情報処理装置100を推論専用で使用する場合においては、比較器はなくてもよい。
【0048】
出力回路は、演算結果を外部に信号S
outとして出力する。なお、
図1では出力回路は1つの出力信号線で表示されているが、この場合に限られない。例えば、一般的な機械学習の応用である多クラス分類問題等に対応することも可能である。その場合は、出力回路は、各クラスに対応する複数の出力信号線を有する。
【0049】
次いで、情報処理装置100の製造方法について説明する。まず、レザバー層10と、リードアウト層20とを設計する。レザバー層10及びリードアウト層20は、それぞれ公知のものを用いることができる。ノード11を構成する物理デバイスは特に問わない。レザバー層10及びリードアウト層20は、情報処理装置100に与えられるタスクに応じて設計できる。
【0050】
次いで、レザバー層10とリードアウト層20との接続仕方を決定し、接続部30を形成する。具体的には、レザバー層10のうちのいずれのノード11をリードアウト層20に接続するかを決定する。換言すると、ノード11のうち何れを隠れノード11Aとするかを決定する。レザバー層10とリードアウト層20との接続は、情報処理装置100に与えられるタスクによって異なる。情報処理装置100に与えられるタスクを決めた上で、無数にあるレザバー層10とリードアウト層20との接続状態のうちから一つの状態を決定する。
【0051】
隠れノード11Aの設定方法は、事前検討を行う第1工程と、隠れノードを決定する第2工程とを有する。第1工程は、基準情報処理装置110を用いて行う。
図3は、第1実施形態にかかる基準情報処理装置110の概念図である。
【0052】
基準情報処理装置110は、基準レザバー層50と基準リードアウト層60と接続部70とを備える。基準情報処理装置110は、接続部70が基準レザバー層50のノード51の全てに接続され、その情報の全てを基準リードアウト層60に伝えている点が、上述の情報処理装置100と異なる。
【0053】
基準レザバー層50は、複数のノード51を有する。ノード51のそれぞれは、ノード11のそれぞれと同様の構成である。
【0054】
ノード51の数はノード11の数と同じである。ノード51は、例えば、i個ある。i個のノード51は、接続部70を介して、いずれも基準リードアウト層60に接続されている。基準レザバー層50から基準リードアウト層60へ送られる信号の数(i個)は、基準レザバー層50におけるノード51の数(i個)と一致する。
【0055】
基準リードアウト層60は、リードアウト層20と同じ構成である。
【0056】
第1工程では、基準情報処理装置110を用いた演算を行う。基準情報処理装置110は、入力値と理想値との相互情報量が大きくなる(最大化する)ように演算を行い、基準レザバー層50におけるそれぞれのノード51と基準リードアウト層60との間の結合重みwiを決定する。
【0057】
第1工程の演算は、シミュレーションで行ってもよいし、実際に物理デバイスを作製して行ってもよい。
【0058】
まず基準レザバー層50に信号Sinを入力する。入力された信号Sinは、基準レザバー層50内を伝搬し、基準レザバー層50は、入力された信号Sinの情報を含む特徴空間を生成する。そして基準レザバー層50のそれぞれのノード51から接続部70を介して基準リードアウト層60に信号が送られる。
【0059】
基準レザバー層50から基準リードアウト層60へ送られた信号のそれぞれは、積和演算回路で、結合重みwiが乗算された後に和算される。そして積和演算結果は、活性化関数f(x)に代入される。
【0060】
そして、基準リードアウト層60の比較回路は、演算結果を教師データtと比較する。比較回路は、演算結果と教師データとの相互情報量が大きくなる(最大化する)ように、データDfを積和演算回路にフィードバックする。そして、結合重みwiが設定される。
【0061】
結合重みwiは、ノルム正則化を含む学習によって決定されることが好ましい。例えば、ノルム最小化法又はGroup Lasso等の正則化技法を用いることができる。正則化項を導入した学習アルゴリズムは、重みの分布をスパースにする効果があり、特にGroup Lassoを用いた学習は、グループ内の重みが共通にゼロになるような効果が知られている。その結果、隠れノードを設定する際において、隠れノードと隠れノード以外のノードとの境界となる明確な基準を提示しやすくなる。
【0062】
次いで、第1工程の後に、第2工程を行う。第2工程では、基準情報処理装置110の演算において出力される信号Soutに大きな影響を及ぼすノード51と出力される信号Soutに与える影響が小さいノード51とを分類する。
【0063】
第1の方法では、基準情報処理装置110を用いた演算において、複数のノード51の変動量を統計的手法で解析した結果に基づいて、ノード51を分類する。
【0064】
統計的手法とは、例えば、フーリエ解析、主成分分析の寄与率、非線形性能分析、スペクトル半径等である。例えば、入力された信号Sinを非線形に変換する性能の高いノード51は、基準情報処理装置110の演算において出力される信号Soutに与える影響が大きいノード51であるとして分類され、その他のノード51は出力される信号Soutに与える影響が小さいノード51であるとして分類される。また例えば、入力信号に対する各ノード51の状態の周波数特性から、リードアウト層に接続するノードを決定してもよい。
【0065】
第2の方法では、基準情報処理装置110に含まれる複数のノード51のそれぞれが、他のノード51と結合する結合重みvxの統計量に基づいて、ノード51を分類する。
【0066】
結合重みvxの統計量は、例えば、基準とするノード51と基準とするノード51に結合された他のノード51との間の結合重みvxの総和、基準とするノード51と基準とするノード51を中心に所定の半径内に含まれるノード51との間の結合重みvxの総和等である。また例えば、レザバー層内の全ノードのスペクトル半径が0.5以上1.0以下になるように調整することで、ノード51を分類してもよい。
【0067】
例えば、結合重みvxの統計量が所定値以上のノード51を出力される信号Soutに与える影響が大きいノード51として分類し、所定値以下のノード51を出力される信号Soutに与える影響が小さいノード51として分類する。
【0068】
第3の方法では、基準情報処理装置110に含まれる複数のノード51のそれぞれが、基準リードアウト層60と結合する結合重みwiの絶対値に基づいて、ノード51を分類する。
【0069】
例えば、結合重みwiの絶対値が所定値以上のノード51を出力される信号Soutに与える影響が大きいノード51として分類し、所定値以下のノード51を出力される信号Soutに与える影響が小さいノード51として分類する。
【0070】
分類の閾値は、例えば、特定値を事前に設定しておいてもよい。また、全体のノード51のうち所定の割合のノード51を削減するように設定した場合に、所定の割合に至った時点における統計量又は絶対値を分類の閾値としてもよい。
【0071】
第2工程で分類されたノード51のうち出力される信号Soutに与える影響が小さいノード51は、隠れノードとすることができるノードとみなすことができる。
【0072】
次いで、上記の結果を踏まえて、レザバー層10とリードアウト層20とを接続する。レザバー層10において隠れノードとすることができるとされたノード51と同じ位置関係にあるノード11をリードアウト層20に接続せず、それ以外のノード11をリードアウト層20に接続する。リードアウト層20に接続されなかったノード11が隠れノード11Aとなる。
【0073】
上記の手順でレザバー層10とリードアウト層20とが接続されることで、情報処理装置100が作製される。
【0074】
第1実施形態に係る情報処理装置100は、レザバー層10のノード11の全てがリードアウト層20に接続されておらず、リードアウト層20へ伝搬する信号数が少ない。したがって、情報処理装置100は、演算負荷を低減できる。
【0075】
またリードアウト層20へ伝搬する信号数が少ないと、物理デバイスに落とし込んだ際の端子34の数を減らすことができる。端子34の数を現実的な数にすることで、レザバー層コンピューティングの物理デバイスへの適用が容易になる。
【0076】
また情報処理装置100は、リードアウト層20にレザバー層10内に生成された特徴空間のうちの部分空間の情報のみが伝搬しているにも関わらず、レザバー層10のノード11の全てがリードアウト層20と接続された場合と出力される信号Soutとの誤差が小さい。
【0077】
例えば、ノードを500個持つレザバー層を作成し、リードアウト層との結合重みを学習した。
【0078】
図4は、それぞれのノードとリードアウト層との間の結合重みw
iの分布を示す。横軸は、それぞれのノードとリードアウト層との間の結合重みw
iであり、縦軸は所定の結合重みw
iが設定された配線の数である。
図4は、全てのノードとリードアウト層とを接続した場合の結合重みw
iの分布である。
図4は、基準情報処理装置110を用いた演算結果にも対応する。
【0079】
図5は、それぞれのノードとリードアウト層との間の結合重みw
jの分布を示す。横軸は、それぞれのノードとリードアウト層との間の結合重みw
jであり、縦軸は所定の結合重みw
jが設定された配線の数である。
図5は、500個のノードのうちの168個(約33%)のノードを接続しなかった場合の結合重みw
jの分布である。基準情報処理装置110を用いた演算を事前検討とし、結合重みw
jが小さいものから順に33%のノードをリードアウト層と接続しなかった。
【0080】
図6は、時系列信号の予測タスクにおいて、全てのノードとリードアウト層とを接続した場合の推論結果と、一部のノードとリードアウト層とを接続した場合の推論結果と、の出力値の差分を示す。
図6は、ノードとリードアウト層との間の結合重みw
iの分布を
図4とした場合の演算結果と、ノードとリードアウト層との間の結合重みw
jの分布を
図5とした場合の演算結果と、の差分信号である。
図6に示すように、二つの演算結果の誤差はおおよそ5%以下であった。すなわち、情報処理装置100は、実デバイスとしても十分利用可能な性能を有すると言える。
【0081】
また同様の処理を別の例で行った。別の例では、結合重みwiを決定する際の演算において、ノルム最小化による正則化を行った。ノルム最小化は、L2ノルムが最小化するようにした。その他の条件は、上記の演算と同様にした。
【0082】
図7は、それぞれのノードとリードアウト層との間の結合重みw
iの分布を示す。横軸は、それぞれのノードとリードアウト層との間の結合重みw
iであり、縦軸は所定の結合重みw
iが設定された配線の数である。
図7は、全てのノードとリードアウト層とを接続した場合の結合重みw
iの分布である。
図7は、基準情報処理装置110を用いた演算結果にも対応する。結合重みw
iを設定する学習演算に、ノルム最小化による正則化を用いたため、結合重みw
iの分布がスパース化し、ゼロとなる配線の数が、
図4の場合より多くなった。
【0083】
図8は、それぞれのノードとリードアウト層との間の結合重みw
jの分布を示す。横軸は、それぞれのノードとリードアウト層との間の結合重みw
jであり、縦軸は所定の結合重みw
jが設定された配線の数である。
図8は、500個のノードのうちの136個(約27%)のノードを接続しなかった場合の結合重みw
jの分布である。基準情報処理装置110を用いた演算を事前検討とし、結合重みw
jが小さいものから順に27%のノードをリードアウト層と接続しなかった。
【0084】
図9は、時系列信号の予測タスクにおいて、全てのノードとリードアウト層とを接続した場合の推論結果と、一部のノードとリードアウト層とを接続した場合の推論結果と、の出力値の差分を示す。
図9は、ノードとリードアウト層との間の結合重みw
iの分布を
図7とした場合の演算結果と、ノードとリードアウト層との間の結合重みw
jの分布を
図8とした場合の演算結果と、の差分信号である。
図9に示すように、二つの演算結果の誤差はおおよそ1%以下であった。すなわち、情報処理装置100は、実デバイスとしても十分利用可能な性能を有すると言える。
【0085】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【0086】
例えば、
図10に示す情報処理装置のように、接続部30は、z方向から見て、レザバー層10の全てを覆わずに、一部を覆う構成でもよい。隠れノード11Aは、リードアウト層20と接続する必要がないため、隠れノード11A上に接続部30はなくてもよい。
【0087】
また例えば、
図11に示す情報処理装置のように、接続部30は、複数の配線層30A、30B、30Cを有してもよい。配線層30Aは、複数の配線31Aと絶縁層32Aとを有する。配線層30Bは、複数の配線31Bと絶縁層32Bとを有する。配線層30Cは、複数の配線31Cと絶縁層32Cとを有する。接続部30が複数の配線層30A、30B、30Cからなることで、より複雑な配線の接続やプロセス制約を満たした配線を実現できる。
【0088】
また例えば、
図12に示す情報処理装置のように、接続部30は、スイッチを有してもよい。スイッチは、例えば、トランジスタ35である。トランジスタ35の間には、素子分離領域36(STI:Shallow Trench Isolation)がある。それぞれのトランジスタ35のソースは、ノード11のそれぞれに接続されている。それぞれのトランジスタ35のドレインは、それぞれの端子34に接続されている。
【0089】
図12に示す情報処理装置において、端子34の数は、ノード11の数と同じでもよいし、ノード11より少なくてもよい。ノード11のそれぞれには、端子13から信号S
inが入力される。OFFとなったトランジスタ35に接続されるノード11が隠れノードとなる。
図12に示す情報処理装置は、トランジスタ35のON、OFFを切り替えることで、タスクに合わせて隠れノードを切り替えることができる。各トランジスタの接続情報は、別に作製される不揮発メモリ(図示せず)に格納することも可能である。
【0090】
また例えば、
図13に示す情報処理装置のように、接続部30は、レザバー層10に貼り合わされていてもよい。レザバー層10は、ノード11のうちのいずれかに接続された第1パッド14を備える。接続部30は、端子34と電気的に接続された第2パッド37を備える。第1パッド14と第2パッド37とが合うように、接続部30とレザバー層10とが貼り合わされている。レザバー層10と接続部30とは、異なる基板40、41上に形成され、それぞれ作製後に貼り合わされている。
【0091】
また例えば、
図14に示す情報処理装置のように、接続部30が信号S
inの入力側にあってもよい。接続部30の端子38から入力された信号S
inは、ノード11のいずれかに送られる。端子38のそれぞれは、例えば、外部のセンサに接続されている。接続部30は、センサからの信号の一部をレザバー層10へ伝える。
【0092】
端子38は、ノード11の数より少ない。ノード11に対して端子38の数が少ないことで、レザバー層コンピューティングの物理デバイスへの適用が容易になる。
【0093】
また
図14に示す情報処理装置は、センサで検知した情報のうちの一部のみをレザバー層10における特徴空間の生成に利用した場合でも、実デバイスとしても十分利用可能な性能を示す。
【0094】
リードアウト層の出力回路は、同じ構成の別の情報処理装置のリードアウト層に接続することで、オートエンコーダとすることも可能である。その場合、情報処理装置は、次元圧縮器や認証器としても利用可能である。
【符号の説明】
【0095】
10…レザバー層、11,51…ノード、11A…隠れノード、12,32,32A,32B,32C…絶縁層、13,34,38…端子、14…第1パッド、20…リードアウト層、30,70…接続部、30A,30B,30C…配線層、31,31A,31B,31C…配線、35…トランジスタ、36…素子分離領域、37…第2パッド、40,41…基板、50…基準レザバー層、60…基準リードアウト層、100…情報処理装置、110…基準情報処理装置
【要約】
この情報処理装置は、レザバー層と、リードアウト層と、を備え、レザバー層は、前記レザバー層に入力された入力信号の情報を含む特徴空間を生成する複数のノードを備え、前記リードアウト層は、前記レザバー層から送られる信号のそれぞれに結合重みを印加する演算を行い、前記レザバー層から前記リードアウト層へ送られる信号の数は、前記複数のノードの数より少ない。