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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】ジフルオロリン酸リチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/455 20060101AFI20220222BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20220222BHJP
【FI】
C01B25/455
H01M10/0567
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018032543
(22)【出願日】2018-02-26
(65)【公開番号】P2019147702
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2020-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】後藤 謙一
(72)【発明者】
【氏名】三尾 茂
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-053727(JP,A)
【文献】国際公開第2016/017389(WO,A1)
【文献】特表2014-528890(JP,A)
【文献】特表2015-533767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/455
H01M 10/0567
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ホウ素とヘキサフルオロリン酸リチウムとフッ化リチウムとを反応させることによりジフルオロリン酸リチウムを製造する工程を含むジフルオロリン酸リチウムの製造方法。
【請求項2】
前記酸化ホウ素と前記ヘキサフルオロリン酸リチウムと前記フッ化リチウムとの反応における反応温度が、20℃以上である請求項1に記載のジフルオロリン酸リチウムの製造方法。
【請求項3】
前記ジフルオロリン酸リチウムを製造する工程は、
前記酸化ホウ素と前記ヘキサフルオロリン酸リチウムと前記フッ化リチウムとを、有機溶媒の存在下で反応させることにより、ジフルオロリン酸リチウムを含む反応液を得る工程と、
前記反応液から前記ジフルオロリン酸リチウムを取り出す工程と、
を含む請求項1又は請求項2に記載のジフルオロリン酸リチウムの製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒が、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、ヘプチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン、メシチレン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、及びシクロノナンからなる群から選択される少なくとも1種である請求項3に記載のジフルオロリン酸リチウムの製造方法。
【請求項5】
前記有機溶媒が、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項3又は請求項4に記載のジフルオロリン酸リチウムの製造方法。
【請求項6】
前記有機溶媒の全量中に占める、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネートの合計の比率は、60質量%以上である、請求項5に記載のジフルオロリン酸リチウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ジフルオロリン酸リチウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液を用いた電池(例えばリチウム二次電池)の性能を改善するために、非水電解液に対し、種々の添加剤を含有させることが行われている。
例えば、電池の保存特性を改善できる電池用非水電解液として、モノフルオロリン酸リチウム及びジフルオロリン酸リチウムの少なくとも一方を添加剤として含有する電池用非水電解液が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ジフルオロリン酸リチウムの製造方法としては、例えば、
ヘキサフルオロリン酸リチウムとホウ酸塩とを非水溶媒中で反応させる方法(例えば、特許文献2参照)、
ヘキサフルオロリン酸リチウムと二酸化ケイ素とを非水溶媒中で反応させる方法(例えば、特許文献3参照)、
ヘキサフルオロリン酸リチウムとヘキサメチルジシロキサンのようなSi-O-Si結合を有する化合物とを反応させる方法(例えば、特許文献4参照)、並びに、
ヘキサフルオロリン酸リチウムと、リチウムのリンオキソ酸塩及びリンのオキソ酸無水物と、を反応させる方法(例えば、特許文献5参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許3439085号公報
【文献】特許4483221号公報
【文献】特許4604505号公報
【文献】特許5768801号公報
【文献】特開2015-209341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者等の検討により、これら従来のジフルオロリン酸リチウムの製造方法では、反応主生成物であるジフルオロリン酸リチウムだけでなく、反応副生成物として、フッ化リチウム(LiF)、モノフルオロリン酸リチウム(LiPOF)等も生成されることが判明した。
従って、これら従来の製造方法に関し、製造されるジフルオロリン酸リチウムの純度を向上させる余地があることがわかった。
【0006】
本開示の課題は、高純度のジフルオロリン酸リチウムを製造できるジフルオロリン酸リチウムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 酸化ホウ素とヘキサフルオロリン酸リチウムとフッ化リチウムとを反応させることによりジフルオロリン酸リチウムを製造する工程を含むジフルオロリン酸リチウムの製造方法。
<2> 前記酸化ホウ素と前記ヘキサフルオロリン酸リチウムと前記フッ化リチウムとの反応における反応温度が、20℃以上である<1>に記載のジフルオロリン酸リチウムの製造方法。
<3> 前記ジフルオロリン酸リチウムを製造する工程は、
前記酸化ホウ素と前記ヘキサフルオロリン酸リチウムと前記フッ化リチウムとを、有機溶媒の存在下で反応させることにより、ジフルオロリン酸リチウムを含む反応液を得る工程と、
前記反応液から前記ジフルオロリン酸リチウムを取り出す工程と、
を含む<1>又は<2>に記載のジフルオロリン酸リチウムの製造方法。
<4> 前記有機溶媒が、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、ヘプチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン、メシチレン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、及びシクロノナンからなる群から選択される少なくとも1種である<3>に記載のジフルオロリン酸リチウムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、高純度のジフルオロリン酸リチウムを製造できるジフルオロリン酸リチウムの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本明細書において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0010】
本開示のジフルオロリン酸リチウムの製造方法(以下、「本開示の製造方法」ともいう)は、酸化ホウ素(B)とヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)とフッ化リチウム(LiF)とを反応させることによりジフルオロリン酸リチウム(LiPO)を製造する工程を含む。
上記反応の反応スキームは、以下のとおりと考えられる。
【0011】
【化1】
【0012】
上記反応では、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)からジフルオロリン酸リチウム(LiPO)への転化率が高められ、反応副生成物の生成(例えば、LiFの残存、LiPFからのLiFの生成、LiPOFの生成、等)が抑制される。
このため、本開示の製造方法によれば、高純度のジフルオロリン酸リチウム(LiPO)を製造することができる。
本明細書中、ジフルオロリン酸リチウムの純度とは、反応生成物中に占めるジフルオロリン酸リチウムの質量分率を意味する。
【0013】
ジフルオロリン酸リチウムを製造する工程において、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)の使用量は、酸化ホウ素(B)の使用量に対し、好ましくは100モル%~200モル%であり、より好ましくは120モル%~180モル%であり、更に好ましくは140モル%~160モル%であり、理想的には150モル%である。
ジフルオロリン酸リチウムを製造する工程において、フッ化リチウム(LiF)の使用量は、酸化ホウ素(B)の使用量に対し、好ましくは150モル%~250モル%であり、より好ましくは170モル%~230モル%であり、更に好ましくは、190モル%~210モル%であり、理想的には200モル%である。
【0014】
上記反応は、有機溶媒の存在下で行うことができる。
上記反応を有機溶媒の存在下で行う具体的な態様としては特に限定はない。
具体的な態様としては、例えば、
ヘキサフルオロリン酸リチウムを有機溶媒に溶解させた溶液に対し酸化ホウ素及びフッ化リチウムを添加する態様(以下、「態様1」とする);
酸化ホウ素及びフッ化リチウムの粉体を有機溶媒に分散させた分散液(例えばスラリー)に対し、ヘキサフルオロリン酸リチウムを添加する態様(以下、「態様2」とする);
等が挙げられる。
上記反応を有機溶媒の存在下で行う態様としては、目的物であるジフルオロリン酸リチウムの生成率をより向上させる観点からは、態様2が好ましい。
【0015】
有機溶媒の種類には特に限定はない。
有機溶媒としては、1種の化合物からなる単独溶媒を用いてもよいし、2種以上の化合物からなる混合溶媒を用いてもよい。
有機溶媒として、好ましくは、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、ヘプチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン、メシチレン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、及びシクロノナンからなる群から選択される少なくとも1種である。
これらの各化合物において、異性体が存在する場合には、各化合物の概念には、全ての異性体が包含される。
例えば、キシレンの概念には、オルトキシレン、メタキシレン、及びパラキシレンが包含され、プロピルベンゼンの概念には、ノルマルプロピルベンゼン及びイソプロピルベンゼン(別名キュメン)が包含される。
【0016】
有機溶媒は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
この場合、有機溶媒の全量中に占める、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネートの合計の比率は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。
【0017】
上記反応は、常圧下又は減圧下で行うことができる。
上記反応は、ジフルオロリン酸リチウムの生成を阻害する成分(例えば水分)の混入を防ぐ観点から、不活性雰囲気下(例えば、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下、等)で行うことが好ましい。
【0018】
上記反応における反応温度は、20℃以上であることが好ましく、20℃~150℃であることが好ましく、20℃~120℃であることがより好ましく、20℃~100℃であることがさらに好ましい。
反応温度が20℃以上であると、ジフルオロリン酸リチウムの生成が促進されやすい。
反応温度が150℃以下であると、生成したジフルオロリン酸リチウムの分解がより抑制され、生成率が向上しやすい。
【0019】
上記反応における反応時間は、上記反応を効率よく進行させる観点から、30分~12時間であることが好ましく、1時間~8時間であることがより好ましい。
【0020】
ジフルオロリン酸リチウムを製造する工程は、酸化ホウ素とヘキサフルオロリン酸リチウムとフッ化リチウムとを、有機溶媒の存在下で反応させることにより、ジフルオロリン酸リチウムを含む反応液を得る工程と、上記反応液からジフルオロリン酸リチウムを取り出す工程と、を含んでもよい。
【0021】
反応液を得る工程の好ましい態様(好ましい有機溶媒、好ましい反応温度等の好ましい反応条件)については前述したとおりである。
【0022】
取り出す工程において、反応液からジフルオロリン酸リチウムを取り出す方法については特に制限はない。
例えば、反応液を得る工程により、ジフルオロリン酸リチウムが有機溶媒に分散されたスラリーが得られた場合には、スラリーから有機溶媒を分離し、残留物を乾燥させることにより、ジフルオロリン酸リチウムを取り出すことができる。
また、反応液を得る工程により、ジフルオロリン酸リチウムが有機溶媒に溶解された溶液が得られた場合には、加熱濃縮等によって溶液から有機溶媒を留去することによってジフルオロリン酸リチウムを取り出すことができる。
また、反応液を得る工程により、ジフルオロリン酸リチウムが有機溶媒に溶解された溶液が得られた場合には、溶液に対し、ジフルオロリン酸リチウムが溶解しない有機溶媒を加えることによってジフルオロリン酸リチウムを析出させ、次いで溶液から有機溶媒を分離し、残留物を乾燥させることにより、ジフルオロリン酸リチウムを取り出すこともできる。
【0023】
取り出されたジフルオロリン酸リチウムの乾燥方法としては、従来公知の方法を任意に選択し実施することができる。
乾燥方法としては、例えば、棚段式乾燥機での静置乾燥法;コニカル乾燥機での流動乾燥法;ホットプレート、オーブン等の装置を用いて乾燥させる方法;ドライヤーなどの乾燥機で温風又は熱風を供給する方法;等が挙げられる。
【0024】
取り出されたジフルオロリン酸リチウムの乾燥は、常圧下又は減圧下で行うことができる。
乾燥を減圧下で行う場合の圧力は10kPa以下が好ましい。
取り出されたジフルオロリン酸リチウムを乾燥する際の乾燥温度は、20℃~150℃であることが好ましく、20℃~100℃であることがより好ましく、40℃~80℃であることが更に好ましく、50℃~70℃であることが更に好ましい。
乾燥温度が20℃以上であると乾燥効率に優れる。
乾燥温度が150℃以下であると、ジフルオロリン酸リチウムを安定して取り出しやすい。
【0025】
取り出されたジフルオロリン酸リチウムは、そのまま用いてもよいし、例えば、有機溶媒中に分散又は溶解させて用いてもよいし、他の固体物質と混合して用いてもよい。
【0026】
以上で説明した、本開示の製造方法は、特に、電池用非水電解液(好ましくはリチウム二次電池用非水電解液)に添加される添加剤としてのジフルオロリン酸リチウムの製造に好適である。
即ち、本開示の製造方法によれば、高純度のジフルオロリン酸リチウムを製造できるため、ジフルオロリン酸リチウムの生産性が向上する。
本開示の製造方法によって製造されたジフルオロリン酸リチウムは、電池用非水電解液(好ましくはリチウム二次電池用非水電解液)に添加した場合に、電池特性の向上に寄与することが期待される。
【実施例
【0027】
以下、本開示の実施例を示すが、本開示は以下の実施例には限定されない。
【0028】
〔実施例1〕
撹拌装置、温度計、ガス導入ライン、及び排気ラインを備えた100mLのフラスコを乾燥窒素ガスでパージした後、ここに、酸化ホウ素1.66g(0.024mol)とフッ化リチウム1.24g(0.048mol)とジメチルカーボネート(表1中では「DMC」と表記する。以下同じ。)23.50gとを入れ、室温(25℃。以下同じ。)で攪拌し、スラリーを得た。ここに、ヘキサフルオロリン酸リチウム5.45g(0.036mol)をジメチルカーボネート16.35gに溶解させた溶液を、1時間かけて滴下して加えることにより、すべての原料を含む混合液を得た。引き続き、この混合液を室温で12時間撹拌することにより反応を行い、反応液を得た。得られた反応液は、固体が析出したスラリーであった。この反応液(スラリー)を濾過することにより、濾物として、ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキをジメチルカーボネート20gで洗浄し、洗浄したウェットケーキを、10kPa以下の減圧下、60℃で乾燥させて固体生成物0.49gを得た。
【0029】
得られた固体生成物を分析し、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)の純度(即ち、固体生成物中におけるLiPOの質量分率(質量%))を求めた。
その結果、LiPOの純度は、100質量%であった(表1参照)。
ここで、LiPOの純度は、以下のようにして求めた。
【0030】
(LiPOの純度)
得られた固体生成物を重水溶媒に溶解し、得られた溶液について19F-NMR分析を行い、得られた19F-NMRスペクトルの積分値に基づき、質量基準の百分率法によりLiPOの純度を算出した。
19F-NMRスペクトルの帰属は以下の通りである。
LiPF:-71.4ppm、-73.3ppm(分子量:151.9、F数:6)
LiPOF:-75.0ppm、-77.5ppm(分子量:111.9、F数:1)
LiPO:-82.0ppm、-84.5ppm(分子量:107.9、F数:2)
LiF :-120.0ppm(分子量:25.9、F数:1)
LiBF:-153.0ppm(分子量:93.7、F数:4)
その他の成分:その他のピーク(分子量及びF数は、それぞれ、LiPFの分子量及びF数と同じと仮定)
【0031】
19F-NMR分析で得られた19F-NMRスペクトルから、固体生成物中における各化合物について、それぞれ、上記帰属並びに下記式(a)及び下記式(b)により、質量分率(質量%)を求めた。固体生成物中におけるLiPOの質量分率(質量%)を純度とした。
以下では、特定の1種の化合物を、「化合物X」とする。式(b)における「各化合物の質量部の総和」は、式(a)により各化合物の質量部を個別に求め、得られた各化合物の質量部を合計することによって求める。
(化合物Xに由来するピークの積分値/化合物XのF数)×(化合物Xの分子量)=(化合物Xの質量部) … 式(a)
((化合物Xの質量部)/(各化合物の質量部の総和))×100=化合物Xの質量分率(%) … 式(b)
【0032】
〔実施例2〕
撹拌装置、温度計、ガス導入ライン、及び排気ラインを備えた100mLのフラスコを乾燥窒素ガスでパージした後、ここに、酸化ホウ素1.66g(0.024mol)とフッ化リチウム1.24g(0.048mol)とジメチルカーボネート23.50gとを入れ、40℃に加熱しながら攪拌し、スラリーを得た。ここに、ヘキサフルオロリン酸リチウム5.45g(0.036mol)をジメチルカーボネート16.35gに溶解させた溶液を1時間かけて滴下して加えることにより、すべての原料を含む混合液を得た。引き続きこの混合液を40℃で6時間撹拌することにより反応を行い、反応液を得た。得られた反応液は、固体が析出したスラリーであった。この反応液(スラリー)を室温まで冷却した後、濾過することにより、濾物として、ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキをジメチルカーボネート20gで洗浄し、洗浄したウェットケーキを、10kPa以下の減圧下、60℃で乾燥させることにより、固体生成物0.44gを得た。
【0033】
得られた固体生成物について、実施例1と同様にして、ジフルオロリン酸リチウムの純度を求めた。その結果、ジフルオロリン酸リチウムの純度は100質量%であった(表1参照)。
【0034】
〔実施例3〕
撹拌装置、温度計、ガス導入ライン、及び排気ラインを備えた100mLのフラスコを乾燥窒素ガスでパージした後、ここに、酸化ホウ素1.66g(0.024mol)とフッ化リチウム1.24g(0.048mol)とジメチルカーボネート23.50gとを入れ、90℃(88℃還流状態)に加熱しながら攪拌し、スラリーを得た。ここに、ヘキサフルオロリン酸リチウム5.45g(0.036mol)をジメチルカーボネート16.35gに溶解させた溶液を、1時間かけて滴下して加えることにより、すべての原料を含む混合液を得た。引き続きこの混合液を90℃(88℃還流状態)で1時間撹拌することにより反応を行い、反応液を得た。得られた反応液は、固体が析出したスラリーであった。この反応液(スラリー)を室温まで冷却した後、濾過することにより、濾物として、ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキをジメチルカーボネート20gで洗浄し、洗浄したウェットケーキを、10kPa以下の減圧下、60℃で乾燥させることにより、固体生成物0.43gを得た。
【0035】
得られた固体生成物について、実施例1と同様にして、ジフルオロリン酸リチウムの純度を求めた。その結果、ジフルオロリン酸リチウムの純度は100質量%であった(表1参照)。
【0036】
〔実施例4〕
撹拌装置、温度計、ガス導入ライン、及び排気ラインを備えた100mLのフラスコを乾燥窒素ガスでパージした後、ここに、酸化ホウ素1.66g(0.024mol)とジメチルカーボネート23.50gとを入れ、90℃(88℃還流状態)に加熱しながら攪拌し、スラリーを得た。ここに、ヘキサフルオロリン酸リチウム5.45g(0.036mol)をジメチルカーボネート16.35gに溶解させた溶液を、1時間かけて滴下して加えた。上記溶液が全て滴下された直後のスラリーは、酸化ホウ素が溶解した均一溶液に変化していた。続いてここに、フッ化リチウム1.24g(0.048mol)を速やかに加えることにより、すべての原料を含む混合液を得た。引き続きこの混合液を90℃(88℃還流状態)で1時間撹拌することにより反応を行い、反応液を得た。得られた反応液は、固体が析出したスラリーであった。この反応液(スラリー)を室温まで冷却した後、濾過することにより、濾物として、ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキをジメチルカーボネート20gで洗浄し、洗浄したウェットケーキを、10kPa以下の減圧下、60℃で乾燥させることにより、固体生成物0.44gを得た。
【0037】
得られた固体生成物について、実施例1と同様にして、ジフルオロリン酸リチウムの純度を求めた。その結果、ジフルオロリン酸リチウムの純度は100質量%であった(表1参照)。
【0038】
〔比較例1〕
撹拌装置、温度計、ガス導入ライン、及び排気ラインを備えた100mLのフラスコを乾燥窒素ガスでパージした後、ここに、酸化ホウ素1.66g(0.024mol)とジメチルカーボネート23.50gとを入れ、90℃(88℃還流状態)に加熱しながら攪拌し、スラリーを得た。ここに、ヘキサフルオロリン酸リチウム5.45g(0.036mol)をジメチルカーボネート16.35gに溶解させた溶液を、1時間かけて滴下して加えた。上記溶液が全て滴下された直後のスラリーは、均一溶液に変化していた。この溶液を室温まで冷却して保持したが、固体生成物の析出は認められず、ジフルオロリン酸リチウムは得られなかった。
【0039】
室温で保持した溶液を一部取り、10kPa以下の減圧下、60℃に加温して溶液から溶媒を留去し、次いで残留物を乾燥させることにより、固体を取り出した。
取り出した固体を重水溶媒に溶解し19F-NMR分析を行った。得られたスペクトルのケミカルシフト〔ppm〕と(積分値(比))は以下の通りであった。
19F-NMR:-83.0ppm(1F)、-85.5ppm(1F)、-146.5ppm(3F)。
この結果から、得られた固体は下記構造の化合物であることが示唆された。
【0040】
【化2】
【0041】
〔比較例2〕
撹拌装置、温度計、ガス導入ライン、及び排気ラインを備えた100mLのフラスコを乾燥窒素ガスでパージした後、ここに、ヘキサメチルジシロキサン[(CHSi-O-Si(CH;表1中では「HMDO」と表記する]10.72g(0.066mol)とジメチルカーボネート50gとを入れ、室温で攪拌して混合させた。得られた溶液中に、ヘキサフルオロリン酸リチウム5.00g(0.033mol)を加えた。得られた液体を加熱し、60℃に到達してから1時間撹拌することにより、ヘキサメチルジシロキサンとヘキサフルオロリン酸リチウムとの反応を行った。
上記1時間の攪拌によって得られた反応液は、固体が析出したスラリーであった。この反応液を室温まで冷却した後、濾過することにより、濾物として、ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを、10kPa以下の減圧下、60℃で乾燥させることにより、固体生成物3.29gを得た。
【0042】
得られた固体生成物について、実施例1と同様にして、ジフルオロリン酸リチウムの純度及び収率を求めた。
その結果、ジフルオロリン酸リチウム(反応主生成物)の純度は96.1質量%であり、固体生成物には、反応副生成物として、LiFが3.9質量%含まれていた(以上、表1参照)。
【0043】
〔比較例3〕
温度計、圧力計、ガスの導入ライン、及び排気ラインを備えた200mLのハステロイC製密閉反応容器(以下、単に「反応容器」ともいう)を、乾燥窒素ガスでパージされたグローブボックス内に入れた。グローブボックス内において、反応容器中に、ヘキサフルオロリン酸リチウム5.0g(0.033mol)、五酸化二リン(P)3.1g(0.022mol)、及びリン酸トリリチウム(LiPO)2.5g(0.022mol)の各粉体を、マグネチックスターラーの攪拌子と共に入れ、反応容器に蓋をして密閉した。次に、この反応容器をグローブボックスから取り出し、マグネチックスターラーにより、300rpmの回転毎分にて1時間撹拌混合を行った。
上記1時間撹拌混合後の反応容器を加熱し、200℃で8時間反応させることにより、LiPOを含む粗生成物を得た。
【0044】
上記8時間の反応後の反応容器を室温まで冷却し、次いで反応容器の内部を窒素ガスでパージした。窒素ガスでパージされた反応容器を、乾燥窒素ガスでパージされたグローブボックス内に入れ、反応容器の蓋を開けた。
次に、反応容器内に酢酸エチル150gを入れ、反応容器に蓋をしてグローブボックスから取り出し、60℃に加熱しながら、マグネチックスターラーで300rpmの回転毎分にて1時間撹拌を行うことにより、上記粗生成物が溶解した溶液を得た。
【0045】
その後、直ちに反応容器の蓋を開け、反応容器内の溶液(即ち、粗生成物が溶解した溶液)を、フィルターを備えた濾過器に注ぎ、減圧濾過により溶媒不溶の固形分(不純物)を濾別し、溶液(濾液)を回収した。回収した溶液を、エバポレーターで溶媒留去することにより、LiPOを含むウェットケーキを得た。このウェットケーキを、60℃、10kPa以下にて減圧乾燥することにより、乾燥後質量で8.60gの固体生成物を得た。
【0046】
得られた固体生成物について、実施例1と同様にして、ジフルオロリン酸リチウムの純度及び収率を求めた。その結果、ジフルオロリン酸リチウムの純度は95.2質量%であり、反応副生成物として、モノフルオロリン酸リチウム(LiPOF)(3.5質量%)、LiF(0.6質量%)、及びその他の生成物(0.7質量%)が含まれていた(以上、表1参照)。
【0047】
下記表1に、以上の実施例及び比較例の結果をまとめた。
【0048】
【表1】
【0049】
表1中、「HMDO」はヘキサメチルジシロキサンを意味し、「DMC」は、ジメチルカーボネートを意味する。
【0050】
表1に示すように、酸化ホウ素(B)とヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)とフッ化リチウム(LiF)とを反応させた実施例1~4では、高純度のジフルオロリン酸リチウム(LiPO)が得られた。
これに対し、比較例1の方法(BとLiPFとを反応させる方法)ではジフルオロリン酸リチウム(LiPO)は得られなかった。
また、実施例の製造方法は比較例2及び3の製造方法と比較しても、目的物であるジフルオロリン酸リチウム(LiPO)が高純度で得られた。