(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】高強度炭素繊維樹脂テープの製造方法及び高強度炭素繊維樹脂テープ
(51)【国際特許分類】
B32B 5/02 20060101AFI20220222BHJP
B29B 11/16 20060101ALI20220222BHJP
C09J 7/20 20180101ALI20220222BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20220222BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220222BHJP
B29K 707/04 20060101ALN20220222BHJP
【FI】
B32B5/02 B
B29B11/16
C09J7/20
B32B27/12
B32B27/30 102
B29K707:04
(21)【出願番号】P 2017150307
(22)【出願日】2017-08-02
【審査請求日】2020-07-28
(31)【優先権主張番号】P 2016165088
(32)【優先日】2016-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390015679
【氏名又は名称】ジャパンマテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【氏名又は名称】清原 義博
(74)【復代理人】
【識別番号】100208292
【氏名又は名称】清原 直己
(74)【復代理人】
【識別番号】100224775
【氏名又は名称】南 毅
(72)【発明者】
【氏名】塚本 勝朗
(72)【発明者】
【氏名】塚本 浩晃
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/068120(WO,A1)
【文献】特開2016-083875(JP,A)
【文献】特開2007-023152(JP,A)
【文献】特開昭61-113809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09J 7/00- 7/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系の炭素繊維間に、固化された接着剤
、金属酸化物ゾル
及び過硫酸カリウム
が含まれてなる本体部と、
当該本体部の一方の面に塗布された耐熱性、耐寒性又は高強度のうちの一種以上の物理的特性を有する
、前記接着剤(binder)とは異なる粘着剤と、
当該本体部の他方の面に塗布された紫外線防止塗料と
を備えている高強度炭素繊維樹脂テープ。
【請求項2】
前記金属酸化物ゾルが、アルミナ、酸化スズ、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、および酸化ジルコニウムからなる群から選択される一種以上の金属酸化物ゾルであることを特徴とする、請求項1に記載の高強度炭素繊維樹脂テープ。
【請求項3】
前記金属酸化物ゾルが、酸化スズの金属酸化物ゾルであることを特徴とする、請求項1に記載の高強度炭素繊維樹脂テープ。
【請求項4】
前記接着剤が、ポリビニルアルコール(PVA)であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の高強度炭素繊維樹脂テープ。
【請求項5】
(a)複数本の炭素繊維を有する炭素繊維束を負の酸化還元電位を有する還元水に浸漬して該炭素繊維束を平らに拡げ、開繊炭素繊維束を得る第一工程と、
(b)前記第一工程の後に、前記開繊炭素繊維束を、接着剤と金属酸化物ゾルと過硫酸カリウムとを含む接着剤溶液に浸漬する第二工程と、
(c)前記第二工程の後に、前記開繊炭素繊維束を乾燥させ、炭素繊維樹脂テープの本体部を得る第三工程と、
(d)前記第三工程で得られた前記炭素繊維樹脂テープの本体部の一方の面に耐熱性、耐寒性又は高強度のうちの一種以上の物理的特性を有する粘着剤を塗布し、他方の面に紫外線防止塗料を塗布する第四工程と
を含むことを特徴とする、高強度炭素繊維樹脂テープの製造方法。
【請求項6】
前記金属酸化物ゾルが、アルミナ、酸化スズ、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、および酸化ジルコニウムからなる群から選択される一種以上の金属酸化物ゾルであることを特徴とする、請求項5に記載の高強度炭素繊維樹脂テープの製造方法。
【請求項7】
前記金属酸化物ゾルが、酸化スズの金属酸化物ゾルであることを特徴とする、請求項5に記載の高強度炭素繊維樹脂テープの製造方法。
【請求項8】
前記接着剤が、ポリビニルアルコール(PVA)であることを特徴とする、請求項5乃至7のいずれか1項に記載の高強度炭素繊維樹脂テープの製造方法。
【請求項9】
前記還元水の酸化還元電位が-800mV以下であることを特徴とする、請求項5乃至8のいずれか1項に記載の高強度炭素繊維樹脂テープの製造方法。
【請求項10】
前記第二工程は、前記開繊炭素繊維束を、接着剤と金属酸化物ゾルと過硫酸カリウムとを含む接着剤溶液に浸漬する前に、前記開繊炭素繊維束を、コロナ放電を用いて表面処理することをさらに含むことを特徴とする、請求項5乃至9のいずれか1項に記載の高強度炭素繊維樹脂テープの製造方法。
【請求項11】
前記接着剤溶液において、接着剤の濃度は0.5~30wt%であり、金属酸化物ゾルの濃度は0.5~16.7wt%であり、過硫酸カリウムの濃度は0.5~10wt%であることを特徴とする、請求項5乃至10のいずれか1項に記載の高強度炭素繊維樹脂テープの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高強度炭素繊維樹脂テープの製造方法及び高強度炭素繊維樹脂テープに関する。炭素繊維樹脂にはアクリル系の炭素繊維樹脂とピッチ系の炭素繊維樹脂二種類の炭素繊維があるが、本発明の炭素繊維樹脂は、アクリル系の炭素繊維樹脂からなる炭素繊維樹脂テープの一方の面に耐熱性、耐寒性又は高強度のうちの一種以上の物理的特性を有する粘着剤が塗布され、他方の面に紫外線防止塗料が塗布された高強度炭素繊維樹脂テープの製造方法及び高強度炭素繊維樹脂テープに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素繊維樹脂テープを用いて三次元形状を形成することは、複数枚の炭素繊維樹脂テープを積層し、この積層体を加熱・加圧して炭素繊維に含浸した樹脂を硬化させることによって行われていた。このとき、三次元形状を有する型内で積層体を加熱・加圧することにより、所望の三次元形状に形成する(特許文献1参照)。
炭素繊維樹脂テープの積層体を加熱・加圧するためには金型が必要であり、300℃以上の高温に加熱する必要があり、コストが高くなるという問題があった。
本発明者らはこの問題を、複数本の炭素繊維からなる炭素繊維束を負の酸化還元電位を有する還元水に浸漬して該炭素繊維束を平らに拡げる第一工程と、前記第一工程の後に、前記炭素繊維束を、接着剤とアルミナゾルと過硫酸カリウムとを含む接着剤溶液に浸漬する第二工程と、前記第二工程の後に、前記炭素繊維束を乾燥させる第三工程を含む製造方法によって解決できることを提案している(特許文献2参照)。
【0003】
本発明者らは、複数の炭素繊維と樹脂とを複合化してなる炭素繊維樹脂テープは、金属材料に匹敵する強度・弾性率を有しながら、金属材料よりも比重が小さいため、部材の軽量化を図ることができ、発錆の問題も起こりにくいことから、燃費の低減を目的とした航空機や自動車への採用が増加していることに鑑み、特許文献2の製造方法によって得られた炭素繊維樹脂テープをポリ塩化ビニルパイプ製のパイプ(塩ビパイプ)、ポリプロピレン製のパイプ(PPパイプ)の補強用、アルミニウム製や鉄製パイプの補強用、材木や丸若しくは角材の補強用、パラボラアンテナやパイプアンテナの補強、避雷針への応用、高強度ホース類の補強、スポーツ用品への補強、竹材への補強、自動車などの補強、各種プラント類の強度補強、修理、保全用に適用し得る更なる高強度化について鋭意検討した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-98127号公報
【文献】国際公開第2016/068210号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ポリ塩化ビニルパイプ製のパイプ(塩ビパイプ)、ポリプロピレン製のパイプ(PPパイプ)の補強用、アルミニウム製や鉄製パイプの補強用、材木や丸若しくは角材の補強用、パラボラアンテナやパイプアンテナの補強、避雷針への応用、高強度ホース類の補強、スポーツ用品への補強、竹材への補強、自動車などの補強、各種プラント類の強度補強、修理、保全用に、広く適用することができる高強度炭素繊維樹脂テープの製造方法及び高強度炭素繊維樹脂テープを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、接着剤と金属酸化物ゾルと過硫酸カリウムとがアクリル系の炭素繊維間に含まれている本体部と、
当該本体部の一方の面に塗布された耐熱性、耐寒性又は高強度のうちの一種以上の物理的特性を有する粘着剤と、
当該本体部の他方の面に塗布された紫外線防止塗料と
を備えている高強度炭素繊維樹脂テープに関する。
【0007】
請求項2に係る発明は、前記金属酸化物ゾルが、アルミナ、酸化スズ、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、および酸化ジルコニウムからなる群から選択される一種以上の金属酸化物ゾルであることを特徴とする、請求項1に記載の高強度炭素繊維樹脂テープに関する。
【0008】
請求項3に係る発明は、前記金属酸化物ゾルが、酸化スズの金属酸化物ゾルであることを特徴とする、請求項1に記載の高強度炭素繊維樹脂テープに関する。
【0009】
請求項4に係る発明は、前記接着剤が、ポリビニルアルコール(PVA)であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の高強度炭素繊維樹脂テープに関する。
【0010】
請求項5に係る発明は、(a)複数本の炭素繊維を有する炭素繊維束を負の酸化還元電位を有する還元水に浸漬して該炭素繊維束を平らに拡げ、開繊炭素繊維束を得る第一工程と、
(b)前記第一工程の後に、前記開繊炭素繊維束を、接着剤と金属酸化物ゾルと過硫酸カリウムとを含む接着剤溶液に浸漬する第二工程と、
(c)前記第二工程の後に、前記開繊炭素繊維束を乾燥させ、炭素繊維樹脂テープの本体部を得る第三工程と、
(d)前記第三工程で得られた前記炭素繊維樹脂テープの本体部の一方の面に耐熱性、耐寒性又は高強度のうちの一種以上の物理的特性を有する粘着剤を塗布し、他方の面に紫外線防止塗料を塗布する第四工程と
を含むことを特徴とする、高強度炭素繊維樹脂テープの製造方法に関する。
【0011】
請求項6に係る発明は、前記金属酸化物ゾルが、アルミナ、酸化スズ、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、および酸化ジルコニウムからなる群から選択される一種以上の金属酸化物ゾルであることを特徴とする、請求項5に記載の高強度炭素繊維樹脂テープの製造方法に関する。
【0012】
請求項7に係る発明は、前記金属酸化物ゾルが、酸化スズの金属酸化物ゾルであることを特徴とする、請求項5に記載の高強度炭素繊維樹脂テープの製造方法に関する。
【0013】
請求項8に係る発明は、前記接着剤が、ポリビニルアルコール(PVA)であることを特徴とする、請求項5乃至7のいずれか1項に記載の高強度炭素繊維樹脂テープの製造方法に関する。
【0014】
請求項9に係る発明は、前記還元水の酸化還元電位が-800mV以下であることを特徴とする、請求項5乃至8のいずれか1項に記載の高強度炭素繊維樹脂テープの製造方法に関する。
【0015】
請求項10に係る発明は、前記第二工程は、前記開繊炭素繊維束を、接着剤と金属酸化物ゾルと過硫酸カリウムとを含む接着剤溶液に浸漬する前に、前記開繊炭素繊維束を、コロナ放電を用いて表面処理することをさらに含むことを特徴とする、請求項5乃至9のいずれか1項に記載の高強度炭素繊維樹脂テープの製造方法に関する。
【0016】
請求項11に係る発明は、前記接着剤溶液において、接着剤の濃度は0.5~30wt%であり、金属酸化物ゾルの濃度は0.5~16.7wt%であり、過硫酸カリウムの濃度は0.5~10wt%であることを特徴とする、請求項5乃至10のいずれか1項に記載の高強度炭素繊維樹脂テープの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によれば、高強度炭素繊維樹脂テープが、接着剤と金属酸化物ゾルと過硫酸カリウムとがアクリル系の炭素繊維間に含まれている本体部と、当該本体部の一方の面に塗布された耐熱性、耐寒性又は高強度のうちの一種以上の物理的特性を有する粘着剤と、当該本体部の他方の面に塗布された紫外線防止塗料とを備えているため、ポリ塩化ビニルパイプ製のパイプ(塩ビパイプ)、ポリプロピレン製のパイプ(PPパイプ)の補強用、アルミニウム製や鉄製パイプの補強用、材木や丸若しくは角材の補強用、パラボラアンテナやパイプアンテナの補強、避雷針への応用、高強度ホース類の補強、スポーツ用品への補強、竹材への補強、自動車などの補強、各種プラント類の強度補強、修理、保全用に、広く適用することができる高強度炭素繊維樹脂テープを実現することができる。とりわけ、直射日光に晒される屋外での高温や低温の過酷な環境下で使用され得る高強度炭素繊維樹脂テープを提供することができる。
【0018】
請求項2に係る発明によれば、前記金属酸化物ゾルが、アルミナ、酸化スズ、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、および酸化ジルコニウムからなる群から選択される一種以上の金属酸化物ゾルであるため、より優れたはく離強度及び高い機械的強度を備える高強度炭素繊維樹脂テープを提供することができる。
【0019】
請求項3に係る発明によれば、前記金属酸化物ゾルが、酸化スズの金属酸化物ゾルであり、酸化スズの金属酸化物ゾルがOH基を有する接着剤や過硫酸カリウムと相性が良いため、より優れたはく離強度及び高い機械的強度を備える高強度炭素繊維樹脂テープを提供することができる。
【0020】
請求項4に係る発明によれば、前記接着剤が、ポリビニルアルコール(PVA)であるため、容易且つ安定に炭素繊維間を接着することができ、本発明に係る高強度炭素繊維樹脂テープをより容易に提供することができる。
【0021】
請求項5に係る発明によれば、高強度炭素繊維樹脂テープの製造方法が、(a)複数本の炭素繊維を有する炭素繊維束を負の酸化還元電位を有する還元水に浸漬して該炭素繊維束を平らに拡げ、開繊炭素繊維束を得る第一工程と、(b)前記第一工程の後に、前記開繊炭素繊維束を、接着剤と金属酸化物ゾルと過硫酸カリウムとを含む接着剤溶液に浸漬する第二工程と、(c)前記第二工程の後に、前記開繊炭素繊維束を乾燥させ、炭素繊維樹脂テープの本体部を得る第三工程と、(d)前記第三工程で得られた前記炭素繊維樹脂テープの本体部の一方の面に耐熱性、耐寒性又は高強度のうちの一種以上の物理的特性を有する粘着剤を塗布し、他方の面に紫外線防止塗料を塗布する第四工程とを含むため、耐熱性、耐寒性並びに耐候性が一層改善された炭素繊維樹脂テープを提供することができる。
【0022】
請求項6に係る発明によれば、前記金属酸化物ゾルが、アルミナ、酸化スズ、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、および酸化ジルコニウムからなる群から選択される一種以上の金属酸化物ゾルであるため、より優れたはく離強度及び高い機械的強度を備える高強度炭素繊維樹脂テープを製造することができる。
【0023】
請求項7に係る発明によれば、前記金属酸化物ゾルが、酸化スズの金属酸化物ゾルであり、酸化スズの金属酸化物ゾルがOH基を有する接着剤や過硫酸カリウムと相性が良いため、より優れたはく離強度及び高い機械的強度を備える高強度炭素繊維樹脂テープを製造することができる。
【0024】
請求項8に係る発明によれば、前記接着剤が、ポリビニルアルコール(PVA)であるため、容易且つ安定に炭素繊維間を接着することができ、本発明に係る高強度炭素繊維樹脂テープをより容易に製造することができる。
【0025】
請求項9に係る発明によれば、前記還元水の酸化還元電位が-800mV以下であるため、第一工程において、前記炭素繊維束を容易に平らに拡げることができる。
【0026】
請求項10に係る発明によれば、前記第二工程は、前記開繊炭素繊維束を、接着剤と金属酸化物ゾルと過硫酸カリウムとを含む接着剤溶液に浸漬する前に、前記開繊炭素繊維束を、コロナ放電を用いて表面処理することをさらに含むため、開繊炭素繊維束の表面粗さを増加させ、より容易に触媒に含まれるOH基が開繊炭素繊維束に結合し易くなる。それゆえに、より容易に、炭素繊維樹脂テープの本体部の一方の面に耐熱性、耐寒性又は高強度のうちの一種以上の物理的特性を有する粘着剤を塗布し、他方の面に紫外線防止塗料を塗布することができる。
【0027】
請求項11に係る発明によれば、前記接着剤溶液において、接着剤の濃度は0.5~30wt%であり、金属酸化物ゾルの濃度は0.5~16.7wt%であり、過硫酸カリウムの濃度は0.5~10wt%であるため、より容易に、時間が経過しても元に戻ることがなく、しかも高い機械的強度を有する高強度炭素繊維樹脂テープを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明に係る高強度炭素繊維樹脂テープの製造方法に用いる高強度炭素繊維樹脂テープ製造装置の概略図である。
【
図2】開繊作用を補助するための構成の例を示す図である。
【
図3】本発明に係る製造方法における炭素繊維束の形態の遷移を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る高強度炭素繊維樹脂テープの構造の一例を示す断面説明図である。
【
図5】本発明に係る高強度炭素繊維樹脂テープの製造工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[実施形態1]
以下、本発明の一実施形態に係る高強度炭素繊維樹脂テープの製造方法の好適な実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。
本実施形態の高強度炭素繊維樹脂テープの製造方法は、複数本の炭素繊維を有する炭素繊維束を負の酸化還元電位を有する還元水に浸漬して該炭素繊維束を平らに拡げ、開繊炭素繊維束を得る第一工程と、前記第一工程の後に、前記開繊炭素繊維束を、接着剤と金属酸化物ゾルと過硫酸カリウムとを含む接着剤溶液に浸漬する第二工程と、前記第二工程の後に、前記開繊炭素繊維束を乾燥させ、炭素繊維樹脂テープの本体部を得る第三工程と、前記第三工程で得られた前記炭素繊維樹脂テープの本体部の一方の面に耐熱性、耐寒性又は高強度のうちの一種以上の物理的特性を有する粘着剤を塗布し、他方の面に紫外線防止塗料を塗布する第四工程とを備えている。
【0030】
図1に本発明の高強度炭素繊維樹脂テープの製造方法に用いる高強度炭素繊維樹脂テープ製造装置を示す。高強度炭素繊維樹脂テープ製造装置は、炭素繊維束(F1)を繰り出す給糸ローラ(1)と、形成された炭素繊維樹脂テープの本体部(F2)(単に炭素繊維樹脂テープとも称す)を巻き取る巻き取りローラ(8)とを備えている。
高強度炭素繊維樹脂テープ製造装置は、給糸ローラ(1)と巻き取りローラ(8)との間に炭素繊維束(F1)を順に浸漬させる第1槽(2)と第2槽(6)とを備え、第2槽(6)と巻き取りローラ(8)との間に炭素繊維束(F1)を乾燥させる乾燥装置(7)を備えている。また、高強度炭素繊維樹脂テープ製造装置は、給糸ローラ(1)と巻き取りローラ(8)との間に、炭素繊維束(F1)を送り出すローラを適宜備えている。
第1槽(2)には、負の酸化還元電位を有する還元水が貯留されている。第2槽(6)には、接着剤と金属酸化物ゾルと過硫酸カリウムとを含む接着剤溶液が貯留されている。
【0031】
以下に、本実施形態の炭素繊維樹脂テープ(F2)の製造方法の各工程について説明する。
<第一工程>
図1に示すように、炭素繊維束(F1)は、給糸ローラ(1)から連続的に繰り出されて、第1槽(2)内に貯留された水中に所定時間浸漬される。
炭素繊維束(F1)としては、無撚炭素繊維の3K(3000本束)、6K(6000本束)、12K(12000本束)等を例示することができる。
本実施形態では、アクリル系の炭素繊維に適用する。
【0032】
本発明において、第1槽(2)内に貯留された水は、負の酸化還元電位を有する還元水とされている。普通の水は正の酸化還元電位(水道水の場合:+400~+600mV程度)を有しているが、還元水は負の酸化還元電位を有しており、水分子クラスターが小さく、優れた浸透力を有している。炭素繊維束(F1)は、このような還元水中に浸漬されることによって、超音波等の物理的外力を作用させることなく自然に拡がる。
【0033】
本発明において用いられる還元水は、酸化還元電位が-800mV以下のものとすることが好ましい。このような酸化還元電位が低い還元水を用いることにより、炭素繊維束(F1)を構成する炭素繊維(F3)を短時間で確実に平らに拡げて帯状の平繊繊維束(H)を得ることが可能となる。また、得られた帯状の平繊繊維束(H)が元に戻りにくいものとなる。
【0034】
本発明において用いられる還元水の製法は特に限定されるものではないが、例えば以下の三つの方法を例示することができる。
<1.ガスバブリング法>
窒素ガス、アルゴンガス又は水素ガスのバブリングにより、水中の酸素濃度を低下させ、酸化還元電位を低下させる。
<2.ヒドラジンの添加による方法>
ヒドラジンを添加することにより、水中の酸素濃度を低下させ、酸化還元電位を低下させる。
<3.電気分解による方法>
(a)正負の波高値及び/又はデューティー比が非対称な高周波電圧を印加して水の電気分解を行い、酸化還元電位を低下させる。
(b)電極を1枚のグランド電極(カソード極)と、アノード極とカソード極が交互に変化する2枚のPtとTiからなる特殊形状電極(菱形網状電極又は六角形網状電極)から構成し、高周波電圧を印加して水の電気分解を行い、酸化還元電位を低下させる。
【0035】
本発明においては、上述の三つの方法のうち、特に「3(b)」の方法により得られた還元水を用いることが好ましい。
これは、「3(b)」の方法によれば、他の方法に比べて、より容易且つ確実に酸化還元電位が低く(-800mV以下)、負の酸化還元電位を長時間にわたって維持できる還元水が得られるためである。
尚、「3(b)」の方法を実施するための装置については、本出願人が特開2000-239456号公報において開示しており、この開示内容に基づいて実施することが可能である。
【0036】
本発明においては、炭素繊維束(F1)を、上記したような還元水中に浸漬させることによって物理的外力を作用させることなく自然に拡げる(開繊する)ことができるが、この開繊作用を補助するために、
図2に示すような構成を採用してもよい。
【0037】
図2(a)は、第1槽(2)中において炭素繊維束(F1)を支持して搬送させる2つの搬送ローラ(3)のうち、2番目のローラ(31)に開繊作用をもたせたものである。
具体的には、2番目のローラ(31)の断面(回転軸に沿った断面)形状を、図中に引き出された矢印の先に示しているように、両端から中央に向けて膨らんだ形状とすることにより、ローラ(31)の表面に沿って繊維が拡がり易くしたものである。
【0038】
図2(b)は、第1槽(2)中に搬送ローラ(3)を3つ以上(図では3つ)設けることにより、炭素繊維束(F1)を屈曲させながら搬送するように構成し、2番目以降のローラ(図では2番目のローラ(32)に開繊作用をもたせたものである。)
具体的には、ローラ(32)を
図2(a)の場合と同様の断面形状とすることにより、ローラ(32)の表面に沿って繊維が拡がり易くしたものである。
【0039】
図2(c)は、第1槽(2)中において炭素繊維束(F1)を支持して搬送させる搬送ローラ(3)の間に平板(4)を設け、炭素繊維束(F1)がこの平板(4)の表面に沿って搬送されることにより、繊維が平らに拡がり易くしたものである。
【0040】
図2(d)は、第1槽(2)中において炭素繊維束(F1)を支持して搬送させる搬送ローラ(3)に平ベルト(5)を巻回し、炭素繊維束(F1)がこの平ベルト(5)の表面に沿って搬送されることにより、繊維が平らに拡がり易くしたものである。
【0041】
<第二工程>
第1槽(2)を通って還元水に浸漬されることにより平らに拡げられた炭素繊維(平繊繊維束(H))は、第1槽(2)から取り出された後、コロナ放電を用いて表面処理(いわゆるコロナ処理)され、引き続いて第2槽(6)内に連続的に導入される。
このコロナ放電を用いる表面処理は、5W・min/m2~400W・min/m2で行うことが好ましく、50W・min/m2で行うことがより好ましい。
第2槽(6)内には、接着剤(S)と金属酸化物ゾル(M)と過硫酸カリウム(B)(又はベンゾイル)とを含む接着剤溶液が収容されており、還元水に浸漬されることにより得られた平繊繊維束(H)は、第2槽(6)内において接着剤溶液に浸漬される。
接着剤(S)としては親水基を有するものであり、洗濯糊のような水溶性の糊、PVA(ポリビニルアルコール)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)ディスパージョン、黒鉛ナノディスパージョン、グリコール、水溶性粘土ディスパージョン、でんぷん糊、OH基を有する有機又は無機材含有分散溶液が好適に用いられる。
接着剤(S)の濃度が所定の範囲より低いと、平らに広がった炭素繊維束(F1)が元に戻るおそれがある。また、接着剤(S)の濃度が所定の範囲より高いと、接着剤(S)が炭素繊維束(F1)の中に浸透し難くなるおそれがある。
接着剤(S)がPVAの場合の濃度は、0.5~30wt%が好ましい。
金属酸化物ゾル(M)の濃度は、0.5~16.7wt%が好ましい。金属酸化物ゾル(M)の濃度が前記下限より低いと、高強度炭素繊維樹脂テープの接着力が低くなるおそれがある。また、金属酸化物ゾル(M)の濃度が前記上限より高くても、高強度炭素繊維樹脂テープの接着力はそれ以上には増加しにくい。
また、PVAと金属酸化物ゾル(M)との濃度比は3:1が好ましい。また、過硫酸カリウム(B)の濃度は0.5~10wt%が好ましい。
【0042】
接着剤溶液に含まれる金属酸化物ゾル(M)は、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化スズ、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、および酸化ジルコニウムからなる群から選択される一種以上の金属酸化物ゾルである。
これらの金属酸化物ゾルはOH基を多数含有している。OH基を多数含有している金属酸化物ゾルを接着剤溶液に用いることにより、接着剤溶液に含まれるOH基の数が増加し、OH基による化学的な結合力(接着力)が増加するため、60℃乃至180℃の範囲でゴム製品、60℃乃至265℃の範囲で炭素繊維及びその他の有機物や無機物を容易に接着、接合することができる。加えて、炭素繊維樹脂テープに高い機械的強度及びはく離強度を付与することができる。
尚、接着剤溶液に用いる金属酸化物ゾル(M)はこれらに限定されず、例えば、酸化ランタン、酸化ネオジム、酸化セリウム等、OH基を多数含有している金属酸化物ゾルであれば、いかなるものでも用いることができる。
また、接着剤溶液に用いる金属酸化物ゾル(M)の粒径やpHは特に限定されず、接着剤溶液として用いることができる粒径やpHであればいかなるものであってもよい。
【0043】
アルミナゾルのアルミナ形状は、板状、柱状、繊維状、六角板状等のいずれでもよい。
また、アルミナゾルが繊維状の場合のアルミナファイバーは、アルミナの繊維状結晶であり、具体的には、アルミナの無水和物で形成されたアルミナファイバー、水和物を含むアルミナで形成されたアルミナ水和物ファイバー等が挙げられる。
【0044】
アルミナファイバーの結晶系には無定形、ベーマイト及び擬ベーマイト等があるが、いずれの結晶系でもよい。ここで、ベーマイトは組成式:Al2O3・nH2Oで表わされるアルミナ水和物の結晶である。アルミナファイバーの結晶系は、例えば、後述する加水分解性アルミニウム化合物の種類、その加水分解条件又は解膠条件によって、調整できる。アルミナファイバーの結晶系はX線回折装置(例えば、商品名「Mac.Sci.MXP-18」、マックサイエンス社製)を用いて確認できる。
【0045】
また、アルミナゾル以外の金属酸化物ゾルに含まれる金属酸化物の形状も特に限定されず、板状、柱状、繊維状、六角板状等、いかなる形状であってもよい。
また、アルミナゾル以外の金属酸化物ゾルが繊維状の場合、金属酸化物は、金属酸化物の繊維状結晶である。より具体的には、金属酸化物の無水和物で形成された金属酸化物ファイバー、水和物を含む金属酸化物で形成された金属酸化物水和物ファイバー等が挙げられる。
【0046】
接着剤溶液に用いる金属酸化物ゾル(M)(アルミナ、酸化スズ、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、あるいは酸化ジルコニウム等の金属酸化物ゾル)として、例えば、アルミナゾル-10A(Al2O3換算重量%:9.8~10.2、粒子の大きさnm:5-15、粘度25℃,mPa/s:<50、pH:3.4-4.2、川研ファインケミカル製)、アルミナゾル-A2(Al2O3換算重量%:9.8~10.2、粒子の大きさnm:10-20、粘度25℃,mPa/s:<200、pH:3.4-4.2、川研ファインケミカル製)、アルミナゾル-CSA-110AD(Al2O3換算重量%:6.0~6.4、粒子の大きさnm:5-15、粘度25℃,mPa/s:<50、pH:3.8-4.5、川研ファインケミカル製)、アルミナゾル-F1000(Al2O3換算重量%:4.8~5.2、粒子の大きさnm:1400、粘度25℃,mPa/s:<1000、pH:2.9-3.3、川研ファインケミカル製)、アルミナゾル-F3000(Al2O3換算重量%:4.8~5.2、粒子の大きさnm:2000-4500、粘度25℃,mPa/s:<1000、pH:2.7-3.3、川研ファインケミカル製)、タイノックA-6(TiO2重量%:6、平均粒子径:20nm、pH:12、多木化学製)、タイノックAM-15(TiO2重量%:15、平均粒子径:20nm、pH:4、多木化学製)、バイラールZr-C20(ZrO2重量%:20、平均粒子径:40nm、pH:8、多木化学製)、バイラールLa-C10(La2O3重量%:10、平均粒子径:40nm、pH:8、多木化学製)、バイラールNd-C10(Nd2O3重量%:10、平均粒子径:20nm、pH:9、多木化学製)、ニードラールB-10(CeO2重量%:10、平均粒子径:20nm、pH:8、多木化学製)、セラメースS-8(SnO2重量%:8、平均粒子径:8nm、pH:10、多木化学製)、バイラールNb-G6000(Nb2O3重量%:6、平均粒子径:15nm、pH:8、多木化学製)等が挙げられるが、これに限定されず、酸化スズ、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、あるいは酸化ジルコニウム等、OH基を多数含有している金属酸化物ゾルであり、当業者に自明のものであれば、いかなるものでも用いることができる。
【0047】
接着剤溶液には、接着成分(接着剤)として熱可塑性樹脂であるポリビニルアルコール(PVA)樹脂(単にPVAともいう)を用いることが望ましい。
PVA樹脂は以下に示す構造式を有しており、多くのOH基を含有している。それゆえに、親水性が非常に強く、温水に可溶であるという特徴を備えているため、60℃乃至180℃の温度範囲でゴム製品を接着・接合することができ、60℃乃至265℃の温度範囲で炭素繊維樹脂等を接着・接合することができる。
また、PVA樹脂は熱可塑性樹脂であるため、一度炭素繊維等を接着・接合した後、接着・接合した炭素繊維樹脂等を再度加熱あるいは湯せんすることにより、PVA樹脂が軟化し、接着・接合した炭素繊維樹脂等を容易に剥離することができる。
加えて、PVA樹脂は、接着剤溶液に配合された後でも安定に接着剤中に存在し、接着・接合力が低下する虞が少ない。そのため、PVA樹脂を含む接着剤溶液は長期間に亘って安定に使用することができる。
接着剤溶液に熱可塑性樹脂でありOH基を含有するPVA樹脂を用いることにより、従来のように接着・接合時に高温で加熱する必要が無く、ゴム製品、炭素繊維、及びその他の有機物や無機物を容易に接着・接合することができ、且つ物理的な接着・接合でない(即ち、被着する側及び被着される側の構造や形状によるはめあいや熱応力等の接着・接合でない)ため、一度接着した物を容易に剥離することもできる。
【0048】
【0049】
このように、平繊繊維束(H)が接着剤(S)と金属酸化物ゾル(M)と過硫酸カリウム(B)とを含む液内に浸漬されることにより、拡がった繊維と繊維の間に接着剤(S)と金属酸化物ゾル(M)と過硫酸カリウム(B)とを含む接着剤溶液が浸透する。
図3は、これまでの工程を模式的に示す図であり、複数本の炭素繊維(F3)からなる炭素繊維束(F1)は、還元水に浸漬されることによって炭素繊維(F3)が平らに拡がった平繊繊維束(H)となり、この平繊繊維束(H)が接着剤(S)と金属酸化物ゾル(M)と過硫酸カリウム(B)とを含む液内に浸漬されることにより炭素繊維(F3)の間に接着剤(S)と金属酸化物ゾル(M)と過硫酸カリウム(B)とが浸透する。
【0050】
本発明においては、接着剤を溶かす溶媒として上述した還元水を用いてもよく、このようにすると、接着剤の浸透力を高めることができる。
また、本発明においては、第2槽(6)を設けずに、還元水に浸漬されることにより平らに拡げられた炭素繊維(平繊繊維束(H))に対して、接着剤(S)と金属酸化物ゾル(M)と過硫酸カリウム(B)とを含む液を霧状にして吹き付ける方法を採用してもよい。
【0051】
<第三工程>
接着剤(S)と金属酸化物ゾル(M)と過硫酸カリウム(B)とを含む接着剤溶液内に浸漬された後の拡がった平繊繊維束(H)は、第2槽(6)から取り出された後、乾燥装置(7)に供給されて乾燥処理が施され、炭素繊維樹脂テープの本体部(F2)(単に、炭素繊維樹脂テープともいう)を得られる。
乾燥装置(7)の種類は特に限定されず、ヒーター加熱装置でもよいし、温風加熱装置でもよいし、遠赤外線を利用した加熱装置でもよい。但し、本発明に係る方法においては、必ずしも乾燥装置(7)を設ける必要はなく、自然乾燥を行ってもよい。
なお、この第三工程の後に、炭素繊維樹脂テープの本体部(F2)をさらに水洗して余分な接着剤を除去し、乾燥させてもよい。余分な不純物が除去され、必要なOH基を残すことによりはく離強度が向上する。
【0052】
接着剤(S)と金属酸化物ゾル(M)と過硫酸カリウム(B)とを含む接着剤溶液内に浸漬された後の平繊繊維束(H)が乾燥することによって、拡がった繊維と繊維の間に浸透した接着剤(S)と金属酸化物ゾル(M)と過硫酸カリウム(B)とが固化する。
このように、繊維が平らに拡がった状態で接着剤(S)により固められることにより、時間が経過しても元に戻ることがなく、しかも高い機械的強度を有する炭素繊維樹脂テープの本体部(F2)が得られる。
【0053】
乾燥装置(7)を通過して接着剤(S)と金属酸化物ゾル(M)と過硫酸カリウム(B)とが固化された後の炭素繊維樹脂テープの本体部(F2)は、巻き取りローラ(8)に巻き取られる。
尚、本明細書において、後述する粘着剤(A)及び紫外線防止塗料(P)が塗布されていない、第三工程で得られた炭素繊維樹脂テープ(F2)は、本発明における炭素繊維樹脂テープの本体部(F2)を意味する。
【0054】
<第四工程>
前述の第三工程で得られた炭素繊維樹脂テープの本体部(F2)の一方の面に耐熱性、耐寒性又は高強度のうちの一種以上の物理的特性を有する粘着剤(A)を塗布する。耐熱性、耐寒性又は高強度のうちの一種以上の物理的特性を有する粘着剤(A)として、例えば、ポリウレタン系接着剤、エポキシ樹脂接着剤、シリコーンゴム系接着剤、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)接着剤などが使用され得る。次いで他方の面に紫外線防止塗料(P)を塗布し、乾燥の後、ローラに巻き取って高強度炭素繊維樹脂テープ(F4)の製造が完了する。紫外線防止塗料(P)として、例えば、シリコーン樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、ウレタン樹脂系塗料、フッ素樹脂系塗料などが使用され得る。高強度炭素繊維樹脂テープ(F4)の構成は、
図4に示されるとおりである。
【0055】
図5は、本発明に係る高強度炭素繊維樹脂テープ(F4)の製造工程を示す説明図である。
図5に示す通り、炭素繊維樹脂テープの本体部(F2)の一方の面に耐熱性、耐寒性又は高強度のうちの一種以上の物理的特性を有する粘着剤(A)が塗布され、他方の面に紫外線防止塗料(P)が塗布されながら、図中の矢印方向に炭素繊維樹脂テープの本体部(F2)が巻き取られることによって、本発明に係る高強度炭素繊維樹脂テープ(F4)が製造される。尚、
図5に示す製造方法は一例であって、本発明に係る高強度炭素繊維樹脂テープ(F4)の製造方法はこれに限定されない。
尚、粘着剤(A)は、作業性及び取扱い性の観点から、特に両面粘着テープを使用することが望ましい。粘着剤(A)を両面粘着テープとすることで、利便性が一層向上する。用いる両面粘着テープは特に限定されないが、積水化学株式会社製のアクリル系両面テープ、日東電工株式会社製のシリコーンゴム接着用両面テープNo.5302A等が挙げられる。
図4に示す如く、粘着剤(A)に両面粘着テープを用いる場合は、両面粘着テープの外側の面に剥離紙テープ(T)等を設けても良い。
【0056】
以上説明したように、本発明に係る方法によれば、物理的外力を作用させることなく、繊維を平らに拡げて帯状の高強度炭素繊維樹脂テープ(F4)を製造することができる。但し、本発明においては、物理的外力を作用させることを完全に排除するものではなく、本発明に係る方法と従来の物理的外力を作用させる方法を組み合わせてもよい。
例えば、上記した第1槽(2)中に超音波発生装置を設置し、還元水中に浸漬された炭素繊維束(F1)に対して超音波を当てる方法を採用することも可能である。この場合、還元水の開繊作用によって、超音波の出力を弱くしても充分な開繊が得られるため、繊維の損傷を確実に防ぎつつ、充分に拡がった帯状の平繊繊維束(H)を効率良く製造することができるという効果が奏される。
【0057】
[実施形態2]
本発明の他の実施形態に係る高強度炭素繊維樹脂テープ(F4)について、添付図面を参照して以下に詳述する。
本実施形態の高強度炭素繊維樹脂テープ(F4)は、
図4に示されるように、接着剤(S)と金属酸化物ゾル(M)と過硫酸カリウム(B)とがアクリル系の炭素繊維(F3)間に含まれている炭素繊維樹脂テープの本体部(F2)と、当該本体部(F2)の一方の面に塗布(貼付)された耐熱性、耐寒性又は高強度のうちの一種以上の物理的特性を有する粘着剤(A)と、当該本体部の他方の面に塗布された紫外線防止塗料(P)とを備えている。
【0058】
紫外線防止塗料(P)は、JIS(日本工業規格)のA6909の1種、2種又は3種に相当するものが好ましい。具体的には、例えば、株式会社スリーボンド製の商品番号_特殊塗料No.82、No.86、株式会社アサヒペン製のシリコン系塗料などが好適に採用され得る。
実施形態1によって製造された高強度炭素繊維樹脂テープ(F4)は、接着剤によって他の物に強固に接着することができ、また、複数の高強度炭素繊維樹脂テープ(F4)を、接着剤を介して積層し、又は、接着剤を介さずに積層し、三次元形状に形成することもできる。このように接着、又は積層するときに高い圧力で加圧する必要がなく、加熱する場合も100℃以下の加熱で高い接着力が得られる。
この高強度炭素繊維樹脂テープ(F4)の高い接着力には、炭素繊維(F3)間に接着された接着剤(S)と金属酸化物ゾル(M)と過硫酸カリウム(B)のOH基が寄与しているためである。
【0059】
本実施形態によれば、高強度炭素繊維樹脂テープ(F4)は、アクリル系の炭素繊維樹脂からなる炭素繊維樹脂テープの本体部(F2)の一方の面に耐熱性、耐寒性又は高強度のうちの一種以上の物理的特性を有する粘着剤(A)が塗布され、該炭素繊維樹脂テープの本体部(F2)の他方の面に紫外線防止塗料(P)が塗布されてなる構成を具備しているので、ポリ塩化ビニルパイプ製のパイプ(塩ビパイプ)、ポリプロピレン製のパイプ(PPパイプ)の補強用、アルミニウム製や鉄製パイプの補強用、材木や丸若しくは角材の補強用、パラボラアンテナやパイプアンテナの補強、避雷針への応用、高強度ホース類の補強、スポーツ用品への補強、竹材への補強、自動車などの補強、各種プラント類の強度補強、修理、保全用に、広く適用することができる高強度炭素繊維樹脂テープを実現することができる。とりわけ、直射日光に晒される屋外での高温や低温の過酷な環境下で使用され得る高強度炭素繊維樹脂テープを提供することができる。
本実施形態の高強度炭素繊維樹脂テープ(F4)は、
図5に示されるように炭素繊維樹脂テープの本体(F2)が紫外線防止塗料(P)の層と耐熱性、耐寒性又は高強度のうちの一種以上の物理的特性を有する粘着剤(A)の層の間に挟持されたサンドイッチ構造となっているが、本実施形態の変形例として、紫外線防止塗料(P)の層を、炭素繊維樹脂テープの本体(F2)と耐熱性、耐寒性又は高強度のうちの一種以上の物理的特性を有する粘着剤(A)との層の間に挟持したものも本発明に含まれる。
【実施例】
【0060】
本発明に係る高強度炭素繊維樹脂テープのはく離強度試験を実施した。
はく離強度試験に使用した実施例1~6の高強度炭素繊維樹脂テープは、上記第一工程~第四工程により製造したものであり、150mm×20mmにカットしたものを用いた。
尚、上記第2工程におけるコロナ処理は、50W・min/m2で行った。
下記の通り、接着剤溶液に用いる金属酸化物ゾルの種類を変更し、夫々実施例1~6とした。
【0061】
実施例1~6で用いた接着剤の各成分の濃度は以下の通りである。
PVA:5wt%
金属酸化物ゾル:1wt%
過硫酸カリウム:1wt%
水:93wt%
【0062】
<実施例1>
金属酸化物ゾル:アルミナ(アルミナゾル-10A(Al2O3換算重量%:9.8~10.2、粒子の大きさnm:5-15、粘度25℃,mPa/s:<50、pH:3.4-4.2、川研ファインケミカル製))
<実施例2>
金属酸化物ゾル:酸化スズ(セラメースS-8(SnO2重量%:8、平均粒子径:8nm、pH:10、多木化学製))
<実施例3>
金属酸化物ゾル:酸化ジルコニウム(バイラールZr-C20(ZrO2重量%:20、平均粒子径:40nm、pH:8、多木化学製))
<実施例4>
金属酸化物ゾル:酸化チタン(タイノックA-6(TiO2重量%:6、平均粒子径:20nm、pH:12、多木化学製))
<実施例5>
金属酸化物ゾル:酸化チタン(タイノックAM-15(TiO2重量%:15、平均粒子径:20nm、pH:4、多木化学製))
<実施例6>
金属酸化物ゾル:酸化ニオブ(バイラールNb-G6000(Nb2O3重量%:6、平均粒子径:15nm、pH:8、多木化学製))
【0063】
<比較例1>
上記第二工程(開繊炭素繊維束を接着剤溶液に浸漬する工程)及びコロナ処理を行わず、上記第一工程及び第三~第四工程により製造した炭素繊維樹脂テープを比較例1とした。はく離試験では、150mm×20mmにカットした比較例1を用いた。
【0064】
上記手順により製造した実施例1~6及び比較例1に、アセトンを用いて5wt%になるように希釈した接着剤(コニシ株式会社製、ウルトラ多用途(登録商標))を塗布し、ステンレス板(SUS板)と張り合わせ、60℃の乾燥炉で4時間かけて完全硬化させた。
サンプルは、各実施例及び比較例で3つずつ(N=1~3)用意した。
JIS K 6854-1(ISO 8510-1)に準拠し、90°はく離試験を実施した。
はく離試験において、ピーク点試験力、最大点試験力、及び平均試験力を夫々確認した。
試験結果を下記表1~3に示す。
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
表1のピーク点試験力において、実施例1、実施例3、及び実施例6は、はく離強度の値は低いが、各サンプル(N=1~3)の数値のばらつきが小さく、安定したはく離強度を有していることがわかった。
また、実施例2、実施例4、及び実施例5は、各サンプル(N=1~3)の数値のばらつきが大きいが、平均して高いはく離強度を有していることがわかった。
【0069】
表2の最大点試験力において、実施例2は、各サンプル(N=1~3)の数値のばらつきが小さく、且つ高い値を有していた。
また、実施例6は、値は低いが、各サンプル(N=1~3)の数値のばらつきが小さく、安定していた。
【0070】
表3の平均試験力において、実施例2は、各サンプル(N=1~3)の数値のばらつきが小さく、且つ高い値を有していた。
【0071】
上記表1~3に示すはく離強度試験の結果より、接着剤溶液に用いる金属酸化物ゾルの種類を変更することで、炭素繊維樹脂テープのはく離強度が変化することがわかった。
金属酸化物ゾルとして酸化スズを使用した場合、アルミナ、酸化ジルコニウム及び酸化ニオブを金属酸化物ゾルとして使用した場合よりも、2~3倍程度の試験力を得られることがわかった。
加えて、実施例1~6は、全ての試験(ピーク点試験力、最大点試験力及び平均試験力)において、比較例1よりも優れたはく離強度を有していることがわかった。
それゆえに、開繊炭素繊維を接着剤に浸漬する第二工程及びコロナ処理は、優れたはく離強度を炭素繊維樹脂テープに付与することがわかった。
【0072】
実施例1~6の中でも、実施例2は全ての試験力において高い数値を有していた。一般に、試験力が高いことは接着性が向上していることを示すので、接着性の観点からは、実施例2が最も優れていることがわかった。
これらの結果より、本発明に係る高強度炭素繊維樹脂テープは、優れたはく離強度を有していることがわかった。
【0073】
<参考例1>
炭素繊維樹脂テープの本体部の一方の面に米国3M社(スリーエムジャパン株式会社)のテープ(商品名_9495B及び4597)を貼付し、他方の面に米国3M社(スリーエムジャパン株式会社)のテープ(商品名_Y4924)を貼付して高強度炭素繊維樹脂テープを得た。
このテープの日光に暴露するテストを継続中であるが、当業者としての知見から、長期(約1年間)に亘って高強度炭素繊維樹脂テープを日光に暴露しても高強度炭素繊維樹脂テープ自体の耐屈曲性能に変化はないものと思料する。
【0074】
<比較例2>
炭素繊維樹脂テープの本体の両面に参考例1のテープを貼付しないもので、日光に暴露するテストを継続中であるが、当業者としての知見から、長期(約1年間)に亘って高強度炭素繊維樹脂テープを日光に暴露すると耐屈曲性能が劣化するものと思料する。
【産業上の利用可能性】
【0075】
請求項1に係る高強度炭素繊維樹脂テープによれば、高強度炭素繊維樹脂テープが、接着剤と金属酸化物ゾルと過硫酸カリウムとがアクリル系の炭素繊維間に含まれている本体部と、当該本体部の一方の面に塗布された耐熱性、耐寒性又は高強度のうちの一種以上の物理的特性を有する粘着剤と、当該本体部の他方の面に塗布された紫外線防止塗料とを備えているため、ポリ塩化ビニルパイプ製のパイプ(塩ビパイプ)、ポリプロピレン製のパイプ(PPパイプ)の補強用、アルミニウム製や鉄製パイプの補強用、材木や丸若しくは角材の補強用、パラボラアンテナやパイプアンテナの補強、避雷針への応用、高強度ホース類の補強、スポーツ用品への補強、竹材への補強、自動車などの補強、各種プラント類の強度補強、修理、保全用に、広く適用することができる高強度炭素繊維樹脂テープを実現することができる。とりわけ、直射日光に晒される屋外での高温や低温の過酷な環境下で使用され得る高強度炭素繊維樹脂テープを提供することができる。
【0076】
請求項4に係る高強度炭素繊維樹脂テープの製造方法によれば、高強度炭素繊維樹脂テープの製造方法が、(a)複数本の炭素繊維を有する炭素繊維束を負の酸化還元電位を有する還元水に浸漬して該炭素繊維束を平らに拡げ、開繊炭素繊維束を得る第一工程と、(b)前記第一工程の後に、前記開繊炭素繊維束を、接着剤と金属酸化物ゾルと過硫酸カリウムとを含む接着剤溶液に浸漬する第二工程と、(c)前記第二工程の後に、前記開繊炭素繊維束を乾燥させ、炭素繊維樹脂テープの本体部を得る第三工程と、(d)前記第三工程で得られた前記炭素繊維樹脂テープの本体部の一方の面に耐熱性、耐寒性又は高強度のうちの一種以上の物理的特性を有する粘着剤(両面粘着テープを有効に使用することによって、より一層利便性が向上する)を塗布し、他方の面に紫外線防止塗料を塗布する第四工程とを含むため、耐熱性、耐寒性並びに耐候性が一層改善された炭素繊維樹脂テープを提供することができる。
【符号の説明】
【0077】
F1 炭素繊維束
F2 炭素繊維樹脂テープ(炭素繊維樹脂テープの本体部)
F4 高強度炭素繊維樹脂テープ
A 粘着剤
B 過硫酸カリウム
M 金属酸化物ゾル
S 接着剤
P 紫外線防止塗料
T 剥離紙テープ