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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】発芽抑制方法、及び発芽抑制装置
(51)【国際特許分類】
   A01M 21/04 20060101AFI20220222BHJP
【FI】
A01M21/04 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2017209638
(22)【出願日】2017-10-30
(65)【公開番号】P2019080522
(43)【公開日】2019-05-30
【審査請求日】2020-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】591165447
【氏名又は名称】カナエ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100198856
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 聡
(72)【発明者】
【氏名】清 行雄
(72)【発明者】
【氏名】井田 公介
【審査官】磯田 真美
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-110516(JP,A)
【文献】特開昭64-080203(JP,A)
【文献】特開平06-054623(JP,A)
【文献】特開昭55-050840(JP,A)
【文献】特開2006-034202(JP,A)
【文献】特開平02-308748(JP,A)
【文献】特開平08-052200(JP,A)
【文献】中国実用新案第204107979(CN,U)
【文献】特開2009-052847(JP,A)
【文献】特開2019-047749(JP,A)
【文献】実開昭62-159522(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第1547905(CN,A)
【文献】特開2007-111003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 21/00 - 21/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌を加熱し、土壌内部の雑草の種子を死滅させ、前記種子からの発芽を抑制する発芽抑制方法であって、
前記土壌の土壌表面と当接、若しくは、前記土壌表面から所定の高さ離間した上方位置に、前記土壌を被覆するようにして加熱体を設置する加熱体設置工程と、
前記加熱体はジュール熱を発生可能なジュール加熱部と接続され、発生させた前記ジュール熱を前記ジュール加熱部から前記加熱体に伝達し、加熱する加熱制御工程と、
前記加熱体と当接した前記土壌表面を通じて前記土壌を直接的に加熱し、若しくは、前記加熱体及び前記土壌表面の間に形成された加熱空間を通じて前記土壌を間接的に加熱し、前記土壌表面から前記土壌内部に下方に向かう前記ジュール熱によって前記種子を加熱し、前記種子を死滅させ、発芽を抑制する発芽抑制工程と
前記土壌中の水分量を検出する水分量検出工程と
を具備し、
前記加熱制御工程は、
前記水分量検出工程によって検出された前記水分量に応じ、前記加熱体の加熱量を変化させ、前記加熱体を通じて加熱される前記土壌の加熱時間及び加熱温度を調整する発芽抑制方法。
【請求項2】
前記発芽抑制工程は、
前記ジュール熱による前記種子の加熱とともに、前記土壌表面から生育している前記雑草を加熱し、枯死させる除草工程を更に備える請求項1に記載の発芽抑制方法。
【請求項3】
前記発芽抑制工程を実施した実施済み土壌から、前記発芽抑制工程の未実施の未実施土壌に前記加熱体を移動させ、前記加熱体を再設置する加熱体再設置工程を更に具備し、
前記加熱制御工程及び前記発芽抑制工程は、
前記加熱体の再設置された前記未実施土壌で前記加熱体及び前記種子の加熱を繰り返し実施する請求項1または2に記載の発芽抑制方法。
【請求項4】
前記土壌に水分を供給する第一水分供給工程と、
前記加熱体を加熱し、前記水分の供給された前記土壌で前記種子の発芽に適する発芽環境を形成し、前記種子からの発芽を促す発芽促進工程と
を更に具備し、
前記発芽抑制工程は、
前記発芽促進工程によって、発芽が促進された発芽済み種子を加熱し、前記発芽済み種子を死滅させる発芽済み種子加熱工程を更に備える請求項1~3のいずれか一項に記載の発芽抑制方法。
【請求項5】
前記土壌に水分を供給する第二水分供給工程を更に具備し、
前記加熱制御工程は、
前記第二水分供給工程によって前記土壌へ前記水分を予め供給し、或いは前記水分の供給を断続的または継続しながら、 前記加熱体を加熱する請求項1~3のいずれか一項に記載の発芽抑制方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の発芽抑制方法に使用され、土壌を加熱し、土壌内部の雑草の種子を死滅させ、前記種子からの発芽を抑制するための発芽抑制装置であって、
前記土壌の土壌表面と当接、若しくは、前記土壌表面から所定の高さ離間した上方位置に、前記土壌を被覆するようにして設置される加熱体と、
前記加熱体と接続され、発生させたジュール熱を前記加熱体に伝達可能なジュール加熱部と、
前記ジュール加熱部による前記加熱体の加熱量を制御し、前記土壌の加熱時間及び加熱温度を制御する加熱制御部と、
前記土壌中の水分量を検出する水分量検出部と
を具備し、
前記加熱制御部は、
前記水分量検出部と電気的に接続され、前記水分量検出部によって検出された前記水分量に係る水分量データを取得し、前記水分量データに基づいて、前記加熱体の加熱量を変化させ、前記加熱体を通じて加熱される前記土壌の加熱時間及び加熱温度を調整する発芽抑制装置。
【請求項7】
前記ジュール加熱部によって発生した前記ジュール熱を前記土壌表面に向かって反射させる反射部を更に具備する請求項6に記載の発芽抑制装置。
【請求項8】
前記加熱体は、
端部の少なくとも一部が断面L字形状を呈する請求項6または7に記載の発芽抑制装置。
【請求項9】
前記加熱体及び前記ジュール加熱部の側方及び/または上方を囲むように配設され、前記ジュール加熱部によって発生した前記ジュール熱の側方または上方への放熱を防ぐ、断熱性素材で形成された断熱部と、
前記断熱部の外周面を被覆した外殻部と
を更に具備する請求項6~8のいずれか一項に記載の発芽抑制装置。
【請求項10】
前記加熱体は、
前記土壌表面を上方から被覆可能な平板状の加熱平板体と、
前記加熱平板体から突設され、前記加熱平板体を前記土壌表面に被覆した状態で前記土壌内部に少なくとも一部を差し込み可能な複数の加熱針状体と
を備える請求項~9のいずれか一項に記載の発芽抑制装置。
【請求項11】
前記加熱体及び前記ジュール加熱部の少なくとも一方の表面に形成され、加熱により遠赤外線を放射可能なコーティング層を更に具備する請求項~10のいずれか一項に記載の発芽抑制装置。
【請求項12】
前記コーティング層は、
チタン、クロム、アルミニウム、及び珪素の窒化物、炭化物、または酸化物によって形成されたセラミックス材料を原料に含むセラミックコーティング層、または、フッ素系化合物を原料に含むフッ素コーティング層のいずれか一方である請求項11に記載の発芽抑制装置。
【請求項13】
前記土壌に水分を供給する水分供給部を更に具備し、
前記加熱制御部は、
前記加熱体を加熱し、前記水分供給部によって前記水分が供給された前記土壌で前記種子の発芽に適する発芽環境を形成する発芽促進モード、及び、前記水分供給部によって前記水分を供給しながら前記種子を加熱する水分供給発芽抑制モードの少なくとも一方を備える請求項6~12のいずれか一項に記載の発芽抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発芽抑制方法、及び発芽抑制装置に関する。更に詳しくは、土壌に含まれる雑草の種子を加熱して死滅させ、当該種子からの発芽を抑制し、雑草の生育を防止するための発芽抑制方法、及び発芽抑制装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年において、地方自治体や民間業者等によって提供される貸し農園、或いは自宅の庭やベランダなどで、野菜や果物等の作物の栽培や各種花卉の栽培を楽しむ家庭菜園やガーデニングを趣味として行う人々が増えている。
【0003】
野菜や果物、及び花卉等(以下、「栽培物」と称す。)を栽培する場合、栽培者の意図にかかわらず、風等によって当該土壌に種子が運ばれた“雑草”が自然に繁殖することがある。雑草は、栽培物よりも強い生育耐性や繁殖性を有することが多く、栽培物に与えられた水分や養分を吸収し、栽培物の成長を阻害したり、収穫数を減少させたりすることがある。したがって、土壌における雑草の存在の有無が、栽培物の生育に直接的または間接的に影響を及ぼすことがあった。一方、ガーデニング等の場合、雑草の繁殖によって庭の景観が損なわれることがあった。そのため、土壌から当該雑草を速やかに除去し、栽培物に適した生育環境に整えたり、景観が損なわれたりしないようにするための対策が必要であった。更に、上記家庭菜園等以外でも、農業用の農地や高速道路脇等の場所に雑草が繁殖することがあり、かかる雑草を趣味以外の仕事や業務として除去することもあった。
【0004】
例えば、土壌に繁殖した雑草を直接手で引き抜く、所謂「草むしり」や、化学薬品(農薬)等を土壌に散布し、雑草のみを限定的に除去する等の除草作業が一般に行われている。しかしながら、所謂「草むしり」の作業は、作業者に腰を曲げた無理な姿勢を長時間に亘って強いる必要がある等、作業者への負担が大きかった。そのため、かかる作業を行うことが一般的に敬遠されることがあった。また、趣味として家庭菜園やガーデニングを行っている人々の中には、無農薬栽培や有機栽培に拘る傾向が高く、化学薬品の使用を極力避ける場合もあった。更に、小さな子供やペットのいる家庭では、庭等で子供達が遊ぶ可能性があり、安全性の問題から上記化学薬品の使用を躊躇することも多かった。農地や高速道路脇の場合、除去対象が広範にわたるため、手作業での雑草の除去は多くの時間がかかり、困難であった。
【0005】
そこで、作業者に過大な負担を強いることなく、かつ化学薬品の使用を避けた、雑草除去方法が数多く提案されている。例えば、土壌に高温の熱湯を散布したり、或いは高温の蒸気を噴霧したりすることで、土壌に繁殖した雑草を加熱し、当該熱によって枯死させる方法または装置等(例えば、特許文献1または2参照)が知られている。また、土壌表面に火炎を直接照射し、土壌中の種子や害虫の卵を死滅させ、土壌に繁殖した雑草を焼失させる可搬式火炎除草機等(例えば、特許文献3参照)、或いは、土壌内部に差し込まれた電極と、雑草の一端に接触させた高圧電極の間に高電圧を生じさせ、雑草を感電死させるもの(例えば、特許文献4参照)などが提案されている。
【0006】
これら以外にも、マイクロ波等の高周波を利用して雑草及び土壌を加熱するもの、或いは、火花やスパーク等の放電を利用して加熱を行い、雑草を死滅させるなど各種のエネルギーを用いた除去方法も提案されている。すなわち、熱湯や炎、高周波或いは放電現象等の何らかのエネルギーを用い、雑草を加熱することで当該雑草の除去及び種子の死滅を図るものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-111075号公報
【文献】特表2013-541964号公報
【文献】特開2007-020490号公報
【文献】特開2000-152742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した除去方法や装置等は、下記に掲げる問題点を有することがあった。すなわち、熱湯や蒸気を用いて雑草を加熱し、除去するものは、土壌表面に繁殖した雑草を処理することができるものの、土壌内部の種子や根までを完全に死滅させられなかった。種子が発芽し、土壌表面から確認できる程度に雑草が生えるためには、ある程度の期間が必要であり、この間にも栽培物に与えられた水分や養分を当該雑草の種子が吸収していることがある。そのため、土壌表面から雑草が確認できる前、すなわち、種子の段階で発芽を抑制することが求められていた。
【0009】
熱湯や蒸気は、散布や噴霧直後は高温(≒100℃)であるものの、係る温度を維持する機能はなく、直ぐに温度が低下する。そのため、土壌表面の雑草に対しては効果を有するものの、土壌内部まで十分に加熱することができず、種子や根を死滅させるまでには至らなかった。これにより、土壌表面に繁殖した雑草を枯死させ、一時的に土壌から雑草を除去できるものの、残存した種子等から再び雑草が生える可能性があった。そのため、雑草の除去作業を短い間隔で定期的に実施する必要があり、栽培者にとっては当該除草作業を煩雑に思うことがあった。更に、熱湯等を浴びせられた雑草は萎びた状態になり、これらを土壌から除去する作業が必要となった。
【0010】
これに対し、土壌表面に火炎を直接吹き付けるものは、上記熱湯等よりも更に高温に土壌表面及び土壌内部を加熱することが可能であった。そのため、土壌表面に繁殖した雑草とともに、土壌内部に含まれる種子や根、更には害虫の卵までを加熱によってほぼ確実に死滅させることができた。したがって、上記のように短い間隔で雑草が再び繁殖する可能性は低かった。
【0011】
しかしながら、土壌に対して火炎を直接吹き付けるため、上記特許文献3に示されるような、可搬式火炎除草機自体の装置構成が大掛かりなものとなった。そのため、主としてゴルフ場やその他の広大な土地(農地等)に生える雑草の除去を主たる対象とすることとなり、設備コストや作業コストが多大になる可能性があった。その結果、家庭菜園等の趣味の用途での使用に適するものではなかった。
【0012】
加えて、火炎を直接土壌に吹き付けるため、除草作業自体の危険性が高く、高齢者や子供等が簡単に実施できるものではなかった。また、自宅の庭等の狭い範囲や周囲に建造物がある場所へは、火災の可能性が高いため、その使用が敬遠される傾向にあった。そのため、使用に際して種々の制約が課せられることがあった。更に、業務として高速道路脇等の雑草を行う場合であっても、作業者の安全性を十分に確保する必要があり、容易に実施することができなかった。
【0013】
その他、高電圧、高周波、或いは放電原料を加熱源(エネルギー源)として用いる場合、設備や作業に関するコスト、及び安全性の確保等が問題となり、家庭菜園等で使用することは困難な場合が多かった。
【0014】
そこで、家庭菜園等の実施される自宅の庭等の比較的小規模なスペースの土壌に対し、複雑な操作を必要とすることなく、雑草を除去することが可能であり、かつ、高齢者や子供であっても安全に実施することのできる、簡易性及び安全性を備えた方法及び装置等の開発が期待されていた。更に、業務等の使用でも好適に使用できる方法及び装置が期待されていた。特に、土壌内部の種子を加熱によって死滅させ、種子からの発芽を抑制し、土壌表面から雑草が生えることを阻害することが可能なものが望まれていた。
【0015】
本願出願人は、鋭意研究を重ねた結果、上記課題を解決するものとして、雑草の種子を加熱するための加熱源として、ジュール熱(抵抗熱)を発生可能な電熱ヒーター等のジュール加熱部を用い、土壌表面から土壌内部に向かって下方向に土壌を加熱することで、種子の発芽の抑制及び雑草の除去が可能な方法及び装置を見出した。
【0016】
本発明は、上記実情に鑑み、ジュール熱による加熱で種子の発芽の抑制及び雑草の除去を可能とし、家庭菜園等での使用に適した発芽抑制方法、及び発芽抑制装置の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、上記課題を解決した発芽抑制方法、及び発芽抑制装置が提供される。
【0018】
[1] 土壌を加熱し、土壌内部の雑草の種子を死滅させ、前記種子からの発芽を抑制する発芽抑制方法であって、前記土壌の土壌表面と当接、若しくは、前記土壌表面から所定の高さ離間した上方位置に、前記土壌を被覆するようにして加熱体を設置する加熱体設置工程と、前記加熱体はジュール熱を発生可能なジュール加熱部と接続され、発生させた前記ジュール熱を前記ジュール加熱部から前記加熱体に伝達し、加熱する加熱制御工程と、前記加熱体と当接した前記土壌表面を通じて前記土壌を直接的に加熱し、若しくは、前記加熱体及び前記土壌表面の間に形成された加熱空間を通じて前記土壌を間接的に加熱し、前記土壌表面から前記土壌内部に下方に向かう前記ジュール熱によって前記種子を加熱し、前記種子を死滅させ、発芽を抑制する発芽抑制工程と前記土壌中の水分量を検出する水分量検出工程とを具備し、前記加熱制御工程は、前記水分量検出工程によって検出された前記水分量に応じ、前記加熱体の加熱量を変化させ、前記加熱体を通じて加熱される前記土壌の加熱時間及び加熱温度を調整する発芽抑制方法。
【0019】
[2] 前記発芽抑制工程は、前記ジュール熱による前記種子の加熱とともに、前記土壌表面から生育している前記雑草を加熱し、枯死させる除草工程を更に備える前記[1]に記載の発芽抑制方法。
【0020】
[3] 前記発芽抑制工程を実施した実施済み土壌から、前記発芽抑制工程の未実施の未実施土壌に前記加熱体を移動させ、前記加熱体を再設置する加熱体再設置工程を更に具備し、前記加熱制御工程及び前記発芽抑制工程は、前記加熱体の再設置された前記未実施土壌で前記加熱体及び前記種子の加熱を繰り返し実施する前記[1]または[2]に記載の発芽抑制方法。
【0021】
[4] 前記土壌に水分を供給する第一水分供給工程と、前記加熱体を加熱し、前記水分の供給された前記土壌で前記種子の発芽に適する発芽環境を形成し、前記種子からの発芽を促す発芽促進工程とを更に具備し、前記発芽抑制工程は、前記発芽促進工程によって、発芽が促進された発芽済み種子を加熱し、前記発芽済み種子を死滅させる発芽済み種子加熱工程を更に備える前記[1]~[3]のいずれかに記載の発芽抑制方法。
【0022】
[5] 前記土壌に水分を供給する第二水分供給工程を更に具備し、前記加熱制御工程は、前記第二水分供給工程によって前記土壌へ前記水分を予め供給し、或いは前記水分の供給を断続的または継続しながら、前記加熱体を加熱する前記[1]~[4]のいずれかに記載の発芽抑制方法。
【0024】
] 前記[1]~[]のいずれかに記載の発芽抑制方法に使用され、土壌を加熱し、土壌内部の雑草の種子を死滅させ、前記種子からの発芽を抑制するための発芽抑制装置であって、前記土壌の土壌表面と当接、若しくは、前記土壌表面から所定の高さ離間した上方位置に、前記土壌を被覆するようにして設置される加熱体と、前記加熱体と接続され、発生させたジュール熱を前記加熱体に伝達可能なジュール加熱部と、前記ジュール加熱部による前記加熱体の加熱量を制御し、前記土壌の加熱時間及び加熱温度を制御する加熱制御部と、前記土壌中の水分量を検出する水分量検出部とを具備し、前記加熱制御部は、前記水分量検出部と電気的に接続され、前記水分量検出部によって検出された前記水分量に係る水分量データを取得し、前記水分量データに基づいて、前記加熱体の加熱量を変化させ、前記加熱体を通じて加熱される前記土壌の加熱時間及び加熱温度を調整する発芽抑制装置。
【0025】
] 前記ジュール加熱部及び前記断熱部の間に介設され、前記ジュール加熱部によって発生した前記ジュール熱を前記土壌表面に向かって反射させる反射部を更に具備する前記[]に記載の発芽抑制装置。
【0026】
] 前記加熱体は、端部の少なくとも一部が断面L字形状を呈する前記[]または[]に記載の発芽抑制装置。
【0027】
] 前記加熱体及び前記ジュール加熱部の側方及び/または上方を囲むように配設され、前記ジュール加熱部によって発生した前記ジュール熱の側方または上方への放熱を防ぐ、断熱性素材で形成された断熱部と、前記断熱部の外周面を被覆した外殻部とを更に具備する前記[]~[]のいずれかに記載の発芽抑制装置。
【0028】
10] 前記加熱体は、前記土壌表面を上方から被覆可能な平板状の加熱平板体と、前記加熱平板体から突設され、前記加熱平板体を前記土壌表面に被覆した状態で前記土壌内部に少なくとも一部を差し込み可能な複数の加熱針状体とを備える前記[]~[]のいずれかに記載の発芽抑制装置。
【0029】
[1] 前記加熱体及び前記ジュール加熱部の少なくとも一方の表面に形成され、加熱により遠赤外線を放射可能なコーティング層を更に具備する前記[]~[1]のいずれかに記載の発芽抑制装置。
【0030】
[1] 前記コーティング層は、チタン、クロム、アルミニウム、及び珪素の窒化物、炭化物、または酸化物によって形成されたセラミックス材料を原料に含むセラミックコーティング層、または、フッ素系化合物を原料に含むフッ素コーティング層のいずれか一方である前記[1]に記載の発芽抑制装置。
【0031】
[1] 前記土壌に水分を供給する水分供給部を更に具備し、前記加熱制御部は、前記加熱体を加熱し、前記水分供給部によって前記水分が供給された前記土壌で前記種子の発芽に適する発芽環境を形成する発芽促進モード、及び、前記水分供給部によって前記水分を供給しながら前記種子を加熱する水分供給発芽抑制モードの少なくとも一方を備える前記[]~[1]のいずれかに記載の発芽抑制装置。
【発明の効果】
【0033】
本発明の発芽抑制方法、及び発芽抑制装置によれば、発生させたジュール熱によって土壌を加熱し、土壌中の種子を死滅させることで発芽を抑制することができる。これにより、種子の段階で雑草の生育を抑えることができる。また、既に土壌表面から生育している雑草に対しては、ジュール熱によって雑草から水分を奪い、更に炭化させることができる。そのため、炭化後の雑草をそのまま放置すれば速やかに土に戻すことができる。したがって、従来の熱湯等を浴びせることによって萎びた状態の雑草を土壌から片付ける等の作業を必要とすることがない。これにより、作業者に煩雑な作業を強いることがない。特に、ジュール熱を発生させる電熱ヒーター等のジュール加熱部を用いることにより、使用に際しての十分な安全性を確保し、かつ簡易な操作で高齢者や子供等であっても容易に取り扱うことができる。また、発芽抑制装置自体をコンパクト、かつ低コストで形成することができるため、家庭菜園等の小規模なスペースでの使用に特に適している。更に、高速道路脇等に生える雑草等を除去する業務用の除去装置及び除去方法としても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本実施形態の発芽抑制装置の概略構成を模式的に示す説明図である。
図2】本実施形態の発芽抑制装置の機能的構成を模式的に示す説明図である。
図3】本実施形態の発芽抑制方法の流れの一例を示すフローチャートである。
図4】断面L字形状の加熱体を有する、別例の発芽抑制装置の概略構成を模式的に示す説明図である。
図5】複数の加熱針状体を備えた加熱体を有する、別例の発芽抑制装置の概略構成を模式的に示す説明図である。
図6】温度測定ポイントの位置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照しつつ、本発明の発芽抑制方法、及び発芽抑制装置の実施の形態について詳述する。なお、本実施形態の発芽抑制方法、及び発芽抑制装置は、以下の実施の形態に特に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、種々の設計の変更、修正、及び改良等を加え得るものである。
【0036】
1.発芽抑制方法
本発明の一実施形態の発芽抑制方法1は、土壌Sを加熱することで当該土壌Sの温度を上昇させ、土壌Sに含まれる雑草Wの種子Dを高温状態にすることで死滅させ、種子Dからの発芽を抑制するものである。発芽抑制方法1は、例えば、図1及び図2に示す、発芽抑制装置10(詳細な構成及び機能については後述する)を用いて実施することができる。なお、図1は、説明を簡略化するため、発芽抑制装置10の概略構成の側方視断面を模式的に示したものである。また、図1及び図2において、一部構成(水分供給部80等)について、簡略化のため図示を省略している(以下、図4図5、及び図6についても同様)。ここで、土壌Sに含まれる種子Dとは、土壌表面SFから所定の深さの土壌内部SIに位置する種子D以外に、土壌表面SFの上に位置する、或いは、土壌表面SFに一部を露出した種子Dを当然含むものと、本明細書において定義する。
【0037】
本実施形態の発芽抑制方法1は、土壌Sを上方から被覆するようにして、加熱体20(発芽抑制装置10の一構成)を設置する加熱体設置工程S1と、設置された加熱体20を加熱温度、加熱時間、及び昇温速度等(加熱量)を制御しながら加熱する加熱制御工程S9と、加熱体20を通じて種子Dを含んだ土壌Sを直接的または間接的に加熱するものであり、土壌表面SFから土壌内部SIに沿って下方に向かってジュール熱H(図2における矢印参照)を土壌Sに伝達することで、種子Dを高温状態になるまで加熱し、死滅させる発芽抑制工程S10とを主に具備している。
【0038】
更に、本実施形態の発芽抑制方法1は、発芽抑制工程S10において、土壌内部SIの種子Dの加熱による死滅に加え、土壌表面SFから生育している雑草Wをジュール熱Hに加熱し、枯死させる除草工程S11、発芽抑制工程S10を行った土壌(実施済み土壌)から未実施の土壌(未実施土壌)に加熱体20を移動させて再設置する加熱体再設置工程S15、土壌Sに所定の間隔或いは継続的に水分Aを供給する第一水分供給工程S3及び/または第二水分供給工程S8、及び、水分A及び加熱体20による加熱によって土壌Sを種子Dの発芽に適する発芽環境に形成し、当該種子Dからの発芽を促す発芽促進工程S4の種々の工程を備えるものであっても構わない。
【0039】
以下、それぞれの工程について詳述する。なお、下記の説明において、本発明の一実施形態の発芽抑制装置10の構成及び機能的構成の一部について、併せて説明を行うこともある。
【0040】
本実施形態の発芽抑制方法1における加熱体設置工程S1は、略平板状の金属製部材で構成された加熱体20の一方の面である加熱体裏面21と土壌表面SFとを互いに対向させ、当該加熱体裏面21と土壌表面SFとが直に接した状態(当接状態)(図示しない)、または、土壌表面SFから所定の高さ離間させた上方位置に、当該加熱体20を配した状態に設置する(図1参照)ものである。ここで、加熱体20を構成する素材は、特に限定されないが、後述するジュール加熱部30からのジュール熱Hを効率的に伝達可能な熱伝導性に優れた金属製部材(ステンレス、アルミニウム、鉄等)を主として用いることができる。なお、熱伝導性に優れた部材であれば、上記金属製部材以外にセラミックスや樹脂等の非金属製部材を使用するものであっても構わない。
【0041】
発芽抑制の処理を行う範囲の土壌Sは、土や石等が混在し、土壌表面SFの凹凸が激しい箇所が一般に多く存在している。そのため、土壌表面SFに加熱体20の加熱体裏面21を当接させた状態にしても、一部に空隙が形成され、土壌表面SF及び加熱体20を完全に密着させられなかった。或いは、土壌表面SFの凹凸によって、加熱体20が斜めに傾いた状態で設置されることがあった。そのため、土壌表面SFから所定の高さ離間した土壌Sの上方位置に加熱体20を配し、土壌表面SF及び加熱体20(加熱体裏面21)の間に加熱空間22(図1参照)を設ける加熱体20の設置が特に好適と思われる。
【0042】
なお、土壌表面SFと加熱体20とを当接状態にする場合は、例えば、当接前に土壌表面SFを予め平坦に均す平坦化処理を行うもの、或いは、土壌表面SFの上に加熱体20を載せて当接させた後、加熱体20の上方(加熱体表面23側)から加熱体20に荷重を加え、土壌表面SFの凹凸を加熱体20によって押し潰すようにして、土壌表面SF及び加熱体20との密着性を図るものであっても構わない。
【0043】
一方、加熱制御工程S9は、加熱体20と電気的に接続され、ジュール熱Hを発生可能なジュール加熱部30を利用し、加熱体20の加熱時間、加熱温度、昇温速度等の加熱量を制御するものである。すなわち、加熱体20の加熱条件を決定し、制御するものである。なお、ジュール加熱部30は、ジュール熱Hを発生可能な従来から周知の電熱(電気)ヒーターを用いることが可能であり、石英管(赤外線)ヒーター、ハロゲンヒーター、カーボンヒーター、グラファイトヒーター、シーズ線ヒーター、フッ素樹脂ヒーター、カートリッジヒーター、セラミック(遠赤外線)ヒーター、マイクロヒーター、シリコンヒーター、ラバーヒーター、ポリイミドヒーター、及びマイカヒーター等から少なくとも一つを選択したものを使用することができる。もちろん、ジュール加熱部30は上記電熱ヒーターに限定されるものではない。
【0044】
電熱ヒーター等として構成されるジュール加熱部30には、例えば、予め設定した加熱温度に加熱体20を加熱するための温度設定スイッチや、設定した加熱温度に加熱体20のON/OFFの繰り返しを維持するためのサーモスタット、或いは、加熱時間を設定するためのタイマー等の従来から周知の機能を備えることができる。ここで、サーモスタットやタイマー等の加熱を制御する構成が本発明における加熱制御部40に相当する。これらの機能(加熱制御部40)を用いることで、加熱体20の加熱温度及び加熱時間等の加熱量を安定して制御することができる。加熱制御部40の構成は一例であり、これに限定されるものではない。また、図1等において、加熱制御部40を加熱体20等と一体的に構成したものを示したが、これに限定されるものではない。すなわち、土壌Sを直接加熱する加熱体20等と加熱制御部40とを別体構成として、加熱体20による発熱の影響を加熱制御部40が直接受けないようにしたものであってもよい。
【0045】
なお、ジュール加熱部30による加熱体20の加熱温度は、特に限定されないが、例えば、加熱体20の加熱温度を最大で200℃以上にすることもできる。これにより、加熱体20を通じて、種子Dが死滅するまでの温度に土壌Sを加熱することが可能となる。なお、上記加熱制御部40によって発芽抑制モードM1、除草モードM2、発芽促進モードM3、及び水分供給発芽抑制モードM4等(各モードについての詳細は後述する)の各種モードによる加熱体20の加熱量を制御することができる。
【0046】
一方、発芽抑制工程S10は、上述した加熱制御工程S9によって加熱された加熱体20を介して、土壌Sを直接的または上記加熱空間22を通じて間接的に加熱し、加熱体20によって発生したジュール熱Hを用いて雑草Wの種子Dを加熱し、死滅させるものである(発芽抑制モードM1)。
【0047】
このとき、ジュール熱Hは、加熱体20から土壌表面SFを経て、更にその下方の土壌内部SIに向かって伝わる。すなわち、ジュール熱Hは、上方から下方に向かって熱の移動が行われる。そのため、加熱体20による加熱開始直後は、土壌表面SFの温度上昇が大きく、速やかに高温となる。そして、加熱体20による加熱を継続することで、土壌表面SFから徐々に土壌内部SIに向かって下方にジュール熱Hが伝搬し、土壌内部SIの温度が高温となる。
【0048】
なお、加熱体20によって直接的または間接的に加熱される土壌Sの加熱温度及び加熱時間は、発芽抑制の対象となる雑草Wの種類によって大きく異なる。例えば、上記したように、ジュール加熱部30によって加熱体20を200℃近くまで加熱した場合、土壌Sの土壌内部SIの温度を50℃以上にすることが可能となる。特に、発芽抑制装置10のジュール加熱部30は、土壌内部SIの温度を50℃以上に保ち、かつ、当該温度を1~3hr程度維持する機能を備えることができる。これにより、土壌内部SIに含まれる種子Dを所定の温度で長時間に亘って加熱することで、当該種子Dから発芽をしないように変形することができる。更に、種子Dを死滅させるものではなく、土壌表面SFの雑草Wを除去する場合は、加熱時間を短くすることができ、例えば、15分~60分の間に設定することができる。更に、使用する加熱体の形状や構成によっても加熱温度及び加熱時間を変化させることができる。
【0049】
なお、本願出願人による実験に基づく知見によって、土壌表面SFから5cm以上の深さに位置する種子Dは、一般に発芽率が低いとの見解がある。そこで、本実施形態の発芽抑制方法1では、土壌表面SFから5cm程度の深さまでの土壌内部SIに位置する種子Dを発芽抑制対象として想定している。5cm程度までの深さであれば、土壌内部SIの温度を少なくとも50℃以上に保持し、加熱することができる。
【0050】
その結果、土壌Sに含まれる、発芽によって雑草Wが生える可能性の高い種子Dをほぼ確実に死滅させることができる。これにより、本実施形態の発芽抑制方法1は十分な実用性を備えていると言える。なお、ジュール加熱部30の加熱量を上げることにより、土壌表面SFから5cm以上の深さに位置する種子Dを確実に死滅させることが可能となる。
【0051】
本実施形態の発芽抑制方法1によれば、上記加熱体設置工程S1、加熱制御工程S9、及び発芽抑制工程S10の基本的な構成を備えることにより、土壌Sに含まれる種子Dを加熱し、死滅させることができる。これにより、種子Dからの発芽を抑制し、土壌表面SFから雑草Wが生えることを防止できる。特に、電熱ヒーター等の比較的簡易、かつ安全な構成のジュール加熱部30を用いることで、土壌内部SIの温度を速やかに50℃以上に設定することができ、種子Dを確実に死滅させることができる。特に、従来の熱湯や蒸気を用いた除草方法では、困難であった、土壌内部SIの温度を長時間に亘って高温に維持することが本実施形態の発芽抑制方法1では可能となる。
【0052】
また、火炎を直接照射するタイプと異なり、装置自体をコンパクト、かつ低コストで製作することができる。また、火を使わないため作業の安全性を保つことができ、加熱体20を設置後は、特に操作を行う必要がなく、発芽抑制の処理が完了する。そのため、小さな子供のいる家庭等であっても、特別な操作を行うことなく発芽の抑制ができる。したがって、趣味で行われる家庭菜園やガーデニング等での使用が特に好適である。
【0053】
一方、除草工程S11は、土壌表面SFから既に生育している雑草Wに対してジュール熱Hを与え、当該雑草Wを枯死させるものである。すなわち、本実施形態の発芽抑制方法1は、上述した加熱による種子Dの発芽抑制とともに、既に土壌表面SFから生えている雑草Wを除去することができる(除草モードM2)。
【0054】
ここで、土壌表面SFから生えた雑草Wは、加熱体20と直に接している、或いは、加熱体20に近接した位置に多く存在している。そのため、当該加熱体20から伝わるジュール熱Hの影響を特に受けやすい。これにより、加熱体20の加熱開始直後から高温に晒される可能性が高くなり、種子Dに対する発芽抑制よりも短い時間で雑草Wの除去が可能となる。
【0055】
すなわち、土壌表面SFから生えた雑草Wのみを除去しようとする場合は、加熱制御部40を、発芽抑制モードM1よりは、低温若しくは短時間の加熱を行う除草モードM2に設定し、加熱制御を行うことができる。これにより、種子Dの発芽抑制及び除草のみの処理を使い分けることができる。なお、加熱制御部40によって、発芽抑制モードM1が実施される場合、除草モードM2よりも高温で加熱体20が加熱されるため、種子Dの発芽抑制の処理に加え、土壌表面SFから生育した雑草Wの除去(除草モードM2)も併せて実施されることになる。更に、熱湯等と異なり、土壌表面SFの雑草Wの大部分は炭化され、速やかに土に戻る。そのため、土壌表面SFから処理後の炭化した雑草Wを除去する作業が必要とならない。
【0056】
更に、加熱体再設置工程S15は、発芽抑制工程S10及び除草工程S11を実施する発芽抑制(または除草)を行う土壌Sに設置される加熱体20の位置を変更するものである。一度の加熱で発芽抑制または除草の可能な範囲は、加熱体20のサイズ(具体的には、加熱体裏面21の表面積)と略一致する。しかしながら、加熱体20のサイズが大きくなると、製作コストが高くなる問題がある。加えて、発芽抑制装置10の大型化に伴って、搬送性が乏しくなったり、未使用時の保管場所が制限されたりする可能性がある。そのため、家庭菜園等の個人の趣味での使用を主たる目的とする本実施形態の発芽抑制方法1の場合、加熱体20の大きさも必然的に制限される。
【0057】
一例を示すと、加熱体20のサイズは、加熱体裏面21の表面積を900mm×450mm程度にするものが、特に好適である。もちろん、加熱体裏面21の表面積は、上記数値に限定されるものではない。また、加熱体裏面21の形状も一般的な矩形状(長方形状)に限定されるものではなく、その他多角形状、或いは、円形状または楕円形状等のものであっても構わない。なお、高速道路脇等に繁殖した雑草を除去する等の業務として実施する場合には、上記サイズに限定されるものではない。
【0058】
加熱体再設置工程S15によって、発芽抑制等の処理を行った範囲の土壌S(実施済み土壌)から、一回の発芽抑制(または除草)の処理では実施できなかった範囲の土壌S(未実施土壌)に加熱体20を移動させ、再設置後に再び加熱制御工程S9及び発芽抑制工程S10(または除草工程S11)を繰り返し実施することで、発芽抑制等の対象となる全範囲の土壌Sに対する発芽抑制等の処理を行うことができる。
【0059】
なお、加熱体20の設置された土壌Sでの発芽抑制等の処理が完了した際、或いは、完了前に、音声又は光等の報知手段によって処理完了または処理完了の予定等を報知するものであっても構わない。更に、無線通信機能を有する発芽抑制装置(図示しない)を構成し、スマートフォンや携帯電話等に報知したり、発芽抑制装置のLED表示部(図示しない)に報知したりするものであってもよい。これにより、発芽抑制等の完了から加熱体20の再設置までをロスなく行うことができ、広範囲の土壌Sに対する効率的な発芽抑制等を行うことができる。なお、加熱体20の再設置は、特に限定されるものではなく、例えば、上記報知手段によって処理完了を認識した作業者が、手動で加熱体20を未実施土壌に移動させてもよい。
【0060】
更に、本実施形態の発芽抑制方法1は、土壌Sに水分Aを供給する第一水分供給工程S3と、加熱体20を加熱し、水分Aの供給された土壌Sを種子Dの発芽に適する発芽環境に形成し、種子Dからの発芽を促進する発芽促進工程S4(発芽促進モードM3)とを具備している。そして、発芽環境によって種子Dから発芽した発芽済み種子(図示しない)を発芽抑制工程S10によって加熱し、当該発芽済み種子を高温により死滅させる発芽済み種子加熱工程(図示しない)を更に備えている。ここで、発芽済み種子加熱工程は、通常の発芽抑制工程と同一の処理のため、図示を省略する。
【0061】
すなわち、発芽前の種子Dの中には、硬い外皮等によって内部が守られ、高温や低湿度などの環境であっても死滅することのない、強い生育耐性を有するものがある。そのため、通常の加熱(発芽抑制モードM1)では種子Dを完全に死滅させることが困難な場合がある。そこで、土壌Sに水分Aを供給し、更に加熱体20による加熱を行うことで、土壌Sを温める。この場合、加熱体20による加熱は、種子Dを死滅させるような高温にするものではなく、種子Dからの発芽を促進する温度(例えば、20℃~30℃前後)に設定される。
【0062】
これにより、供給された水分Aによって発芽に適する湿度、及び、加熱体20の加熱によって発芽に適する温度に保たれた発芽環境が形成され(発芽促進モードM3)、当該発芽環境に調整された土壌Sに含まれる種子Dは、良好な発芽環境によって数十分から数時間程度で発芽する。この場合、種子Dからの発芽が開始された状態であり、土壌表面SFから当該種子Dが生えるものではない。発芽促進モードからの経過時間、或いは、発芽状態を目視等によって確認した後、加熱体20の高温による加熱を開始する(発芽済み種子加熱工程(=発芽抑制工程S10))。すなわち、通常の発芽抑制工程S10と同様に、種子Dが死滅する温度(例えば、50℃以上)までの加熱が実施される。
【0063】
発芽抑制モードM1と同様に、土壌Sの加熱を一定時間(例えば、1hr~3hr程度)継続することで、発芽状態の種子Dが死滅する。すなわち、硬い外皮で守られた種子Dに比べ、発芽直後の発芽済み種子は、ジュール熱Hに対する熱抵抗性が低くなる。これにより、通常の発芽抑制モードM1では死滅させられなかった種子Dを、一時的に発芽状態にした後、加熱することで確実に死滅させることができる。これにより、一度の発芽抑制処理で種子Dを死滅させることができ、土壌表面SFから雑草Wが生える可能性を更に低くすることができる。このとき、土壌Sの水分量を検出し、得られた水分量の値に基づいて加熱量を変化させることもできる。
【0064】
加えて、本実施形態の発芽抑制方法1は、土壌Sに水分を供給する第二水分供給工程S8を更に具備している。なお、第二水分供給工程S8の機能的構成は、上述の第一水分供給工程S3と略同一である。一方、加熱制御工程S9は、第二水分供給工程S8による土壌Sへの水分Aを断続的に供給し、または継続した状態で、ジュール加熱部30を制御し、加熱体20の加熱を行うものである(水分供給発芽抑制モードM4)。これにより、ある程度の湿度を保った状態で土壌Sを加熱することができ、土壌内部SIへのジュール熱Hの伝達が速やかとなり、土壌内部SIの温度を短時間で上昇させることができる。更に、土壌Sがある程度湿っていることにより、種子Dへのジュール熱Hの伝達が良好になる。その結果、発芽抑制等の処理に要する時間の短縮化を図ることができる。このとき、水分供給発芽抑制モードM4は、併せて除草モードM2の実施が行われる。なお、第二水分供給工程S8は、加熱制御工程S9による土壌Sの加熱前に、予め当該土壌Sに対して水分Aを供給しておくものであってもよい。
【0065】
加えて、本実施形態の発芽抑制方法1は、土壌Sの水分量を検出する水分量検出工程S6を更に具備し、加熱制御工程S9は、水分量検出工程S6によって検出された水分量に係る水分量データADに応じて、加熱体20の加熱量を変化させ、土壌Sの加熱時間及び加熱温度等の加熱量を調整するものであっても構わない。
【0066】
前述したように、土壌Sの水分量は、加熱体20の加熱による土壌Sの温度上昇や温度保持に対する影響が大きい。そこで、土壌S中の水分量を検出し、得られた水分量データADに基づいて、ジュール加熱部30の加熱量を調整するように制御する。その結果、土壌Sの加熱時間、加熱温度、及び昇温速度、更には土壌Sの水分率等を安定させることができる。その結果、発芽抑制等の処理の安定化が図られる。
【0067】
ここで、水分量検出工程S6において、土壌Sの水分量を検出するための水分量検出部90としては、従来から周知の構成が知られている。例えば、測定対象の電気抵抗値から水分量を換算する電気抵抗式のもの、測定対象に交流の電気を流し、電気容量の変化(キャパシタンス)を水分量に換算する電気容量式のもの、或いは、近赤外線等の光の反射率等を水分量に換算するもの等が利用可能であり、これによって水分量データADを得ることができる。
【0068】
2.発芽抑制装置
上記した本実施形態の発芽抑制方法1に使用される、本実施形態の発芽抑制装置10は、図1及び図2に模式的に示されるように、土壌Sの土壌表面SFと当接、若しくは、土壌表面SFから所定の高さ離間した上方位置に、当該土壌Sを被覆するようにして設置される略平板状の加熱体20と、加熱体20と電気的に接続され、ジュール熱Hを発生可能なジュール加熱部30と、ジュール加熱部30による加熱体20の加熱時間、加熱温度、及び昇温速度等の加熱量を発芽抑制モードM1、除草モードM2、発芽促進モードM3、及び水分供給発芽抑制モードM4等の各種制御モードによって制御する加熱制御部40とを主に具備している。ここで、加熱体20、ジュール加熱部30、及び加熱制御部40の構成、具体例、及び各種モードについては、既に説明したため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0069】
更に、本実施形態の発芽抑制装置10は、ジュール加熱部30の上方位置に配置され、ジュール加熱部30によって発生し、土壌表面SFに相対する方向(例えば、上方)に向かおうとするジュール熱H(図2における二点鎖線矢印参照)を土壌表面SFに向かって反射させるための反射部50を備えている。ここで、反射部50は、例えば、加熱体20の加熱体表面23に相対するように配置された略平板状の部材を用いることができ、その表面は、ジュール熱Hを反射可能な反射材料で形成されたものである。
【0070】
例えば、アルミニウムやステンレス等の金属材料を用いることができる。反射部50によって、ジュール加熱部30によって発生させたジュール熱Hを土壌表面SFに向かって反射させることができ、ジュール熱Hを効率的に土壌Sを加熱するために使用することができる。図2において、反射部50を一体的な構成として示したが、これに限定されるものではなく、ジュール熱Hを反射可能なように、複数の反射部50を設けたものであっても構わない。これにより、発生させたジュール熱Hを無駄なく土壌Sの加熱に使用することができる。
【0071】
また、本実施形態の発芽抑制装置10は、加熱体20及びジュール加熱部30の周囲、特に、側方及び上方を取り囲むように配設され、ジュール加熱部30によって発生したジュール熱Hが外部に向かって放出されること(放熱)を防ぐための断熱部60及び断熱部60の外周面に沿って形成された外殻部61を具備している。ここで、断熱部60は、例えば、建築材料のロックウール、断熱塗料、及びエポキシガラスを用いて構成されたもの、或いはウレタン樹脂や多孔質セラミックス材料等の熱伝導率の低い断熱性素材で形成されたものであり、加熱体20、ジュール加熱部30、及び、上記の反射部50の少なくとも一部を取り囲んだものである。断熱部60は、低い熱伝導率のため、それ自体の温度上昇が緩やかとなり、温かくなりにくい。そのため、発芽抑制装置10の外部への放熱を防ぐことができる。本実施形態の発芽抑制装置10は、上記のように熱伝導率の低い断熱性素材を用いて断熱部60を形成しているが、例えば、加熱体20等と外殻部61との間に空気層(図示しない)を設け、当該空気層を断熱部としてもよい。
【0072】
一方、外殻部61は、断熱部60が直接露出することを防ぎ、更に発芽抑制装置10をある程度の強度に保つためのものであり、断熱部60の外周面を被覆するようにして形成されている。そのため、ステンレス等の金属材料を所望の形状に型抜き加工等することによって形成することができる。或いは、耐熱性を有する樹脂製材料を用いてもよい。なお、加熱体20の設置や発芽抑制装置10の移動を容易にするために、外殻部61の一部に把持部62を設けたものであっても構わない。これにより、発芽抑制装置10の移動及び加熱体20の設置が容易となる。断熱部60及び外殻部61の構成を備える発芽抑制装置10によって、発芽抑制装置10の内部(加熱空間22等)で発生したジュール熱Hが外部に放出されるのを防ぐことができる。すなわち、発生させたジュール熱Hを効率的に土壌Sの加熱に使用することが可能となる。
【0073】
本実施形態の発芽抑制装置10は、更に、図2に示されるように、加熱体20の表面(加熱体裏面21及び加熱体表面23)及びジュール加熱部30の表面の少なくとも一部に、温度上昇に伴って遠赤外線を放射可能なコーティング層70を設けたものであっても構わない。
【0074】
更に、コーティング層70は、例えば、チタン、クロム、アルミニウム、及び珪素の窒化物、炭化物、または酸化物によって形成されたセラミックス材料を原料に含むセラミックコーティング層、または、フッ素系化合物を原料に含むフッ素コーティング層等を用いることができる。具体的に説明すると、窒化物系のコーティング層として、窒化チタン(TiN)、炭窒化チタン(TiCN)、窒化チタンアルミ(TiAN)、及び窒化クロム(CrN)、炭化物系のコーティング層として、炭化チタン(TiC)、及び炭化珪素(SiC)、酸化物系のコーティング層として、酸化アルミ(Al)、酸化珪素(SiO)、酸化チタン(TiO)、及び酸化イットリウム(Y)等が列挙される。また、フッ素系化合物のコーティング層として、フッ素樹脂塗料系のポリテトラフルオロエチレン(四フッ化エチレン)(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、及びクロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体等が列挙される。更に、上述したフッ素樹脂塗料系の化合物と耐熱性樹脂とを混合した変性フッ素系樹脂塗料系をコーティング層に用いるものであっても構わない。上記セラミックス材料やフッ素系化合物は、特に遠赤外線を放射する効果を有する材料であることが一般に知られている。これらのコーティング層70を備えることで、ジュール加熱部30による加熱体20の加熱時に、遠赤外線(図示しない)を放射することができる。これにより、遠赤外線効果によって土壌Sを更に効率的に加熱することができる。
【0075】
更に、本実施形態の発芽抑制装置10は、図2に示すように、土壌Sに水分Aを供給する水分供給部80を備えるものであっても構わない。ここで、水分供給部80は、前述した加熱制御部40による発芽促進モードM3及び水分供給発芽抑制モードM4の際に、土壌Sに水分Aを供給し、適度な湿度と温度(加熱体20による加熱)によって、種子Dからの発芽を促進する発芽環境を形成するために使用され、或いは、土壌Sに水分Aを断続的または継続して供給しながら発芽抑制工程S10を実施する水分供給発芽抑制モードM4を実施する際に使用することができる。
【0076】
なお、水分供給部80の詳細な構成は特に図示しないが、水分A(水)を貯留する貯留タンク、当該貯留タンクと接続し、一端が加熱空間22から突き出した供給ノズル81、及び、供給ノズル81から水分Aを噴霧または散水し、土壌Sに水分Aを供給するための高圧ポンプ等の構成からなるものが例示される。これにより、一定の水分Aを安定的に土壌Sに供給することができる。
【0077】
発芽抑制装置10は、土壌Sの水分量を検出し、水分量データADを取得するための水分量検出部90を備えるものであっても構わない。水分量検出部90についての詳細は、既に説明を行ったため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0078】
更に、本発明の別例構成の発芽抑制装置10aとして、土壌Sに当接若しくは所定の高さ離間して設置される加熱体20aは、少なくとも一方の端部が断面L字形状を呈するものであっても構わない。すなわち、土壌表面SFと相対する略平板状の加熱平板体24と、加熱平板体24の端部から垂設された垂設体25とを備えてもよい(図4参照)。
【0079】
アスファルト舗装された道路と当該道路に敷設されたコンクリートブロックBや縁石等の境界のコーナー部分に雑草Wが生えることが多い。別例構成の発芽抑制装置10aによれば、道路とコンクリートブロックBの境界のコーナー部分に断面L字形状の加熱体20aを押し当て、密着させることができる。これにより、当該部分に生育した雑草Wを加熱により除去することが特に好適となる。なお、図4において、本実施形態の発芽抑制装置10と同一構成については同一番号を付し、詳細な説明を省略する。上記に説明した加熱体20aを有する発芽抑制装置10aは、図4に示した態様のものに限定されるものではない。例えば、断面L字形状の加熱体20aと土壌S及びコンクリートブロックBとの間に空隙を有するように設置するもの、或いは加熱平板体24を通常よりも分厚く形成し、加熱平板体24の側面部をコンクリートブロックBに当接させて加熱するものであっても構わない。上記構成等を採用することで、従来は困難であったコンクリートブロックBや縁石等の境界付近の雑草Wを確実に死滅させることができる。
【0080】
本発明の別例構成の発芽抑制装置10bにおいて、土壌Sに対して設置される加熱体20bは、土壌表面SFを上方から被覆可能な略平板状の加熱平板体24と、加熱平板体24の加熱体裏面21から突設され、加熱平板体24を土壌表面SFに被覆した状態で、土壌内部SIに少なくとも一部を差し込み可能な複数の加熱針状体26とを備えてもよい(図5参照)。
【0081】
加熱体20bの一部(加熱針状体26)を土壌内部SIにスパイクのように直接差し込むことができるため、ジュール加熱部30によって加熱された加熱体20bは、複数の加熱針状体26を通じて土壌内部SIまで速やかにジュール熱Hを伝達することができる。これにより、土壌Sを効率的に加熱することができ、種子Dを死滅させるための温度に土壌Sを上昇させるための時間を短くすることができる。これにより、発芽抑制等の処理に要する時間を短縮化することができる。その結果、加熱体20bの再設置を複数回実施する必要のある広範な土壌Sの全体に対し、発芽抑制等の処理に要する時間を著しく減少させることができる。なお、図5において、本実施形態の発芽抑制装置10と同一構成については同一番号を付し、詳細な説明を省略する。なお、上記に説明した加熱針状体26を備える加熱体20bを有する発芽抑制装置10bは、図5に示した態様のものに限定されるものではない。例えば、円板状の加熱平板体の周縁から複数の加熱針状体を突設したものや、加熱平板体と土壌Sとを当接させたもの、或いは、複数の加熱針状体のみから構成されたものであっても構わない。なお、複数の加熱針状体のみからなるものは、それぞれの加熱針状体の内部にジュール加熱部が埋設され、ジュール加熱部と電気コード等によって電気的に接続された加熱制御部によって、それぞれの加熱針状体を独立して加熱制御するものであっても構わない。
【0082】
3.発芽抑制装置の使用方法(発芽抑制方法)
次に、図3に基づいて、本実施形態の発芽抑制装置10(図1及び図2参照)の使用方法の具体例、換言すれば、本実施形態の発芽抑制方法1の処理の流れについて説明する。なお、図3は発芽抑制方法1の処理の一例であり、これに限定されるものではない。
【0083】
始めに、本実施形態の発芽抑制装置10の加熱体20を、発芽抑制の処理対象となる土壌S(未実施土壌)の上に設置する(加熱体設置工程S1)。このとき、図1に示すように、土壌表面SFとの間に所定の高さの加熱空間22が形成されるように加熱体20を設置する。ここで、本実施形態の発芽抑制装置10は、加熱体20及び加熱制御部40が一体的に構成されたものを示しているが、これに限定されるものではなく、加熱制御部40を別体形成したものであっても構わない。
【0084】
次に、種子Dの発芽促進を実施するか否かを確認する(第一確認ステップS2)。発芽促進モードM3による種子Dの発芽促進を実施する場合(第一確認ステップS2においてYES)、水分供給部80の供給ノズル81から土壌Sに水分Aを供給し(第一水分供給工程S3)、更に加熱制御部40によって加熱体20を発芽促進モードM3で加熱し、種子Dの発芽に適した発芽環境を形成する(発芽促進工程S4)。形成された発芽環境を数日または数週間継続し、種子Dからの発芽の有無を確認する(第二確認ステップS5)。
【0085】
一方、種子Dの発芽促進を実施しない場合(第一確認ステップS2においてNO)、上述の第一水分供給工程S3及び発芽促進工程S4、及び第二確認ステップS5の処理をキャンセルし、土壌中の水分量を検出する処理に移る(水分量検出工程S6)。
【0086】
発芽促進モードM3を実施した後、種子Dからの発芽が目視等によって確認される場合(第二確認ステップS5においてYES)、土壌S中の水分量を検出する処理に移る(水分量検出工程)。一方、発芽が確認されない場合(第二確認ステップS5においてNO)、種子Dからの発芽があるまで発芽促進モードM3の処理を継続する。
【0087】
発芽促進を実施しない(第一確認ステップS2においてNO)、または、種子Dからの発芽が確認される(第二確認ステップS5においてYES)場合、水分量検出部90による土壌Sの水分量を検出する(水分量検出工程S6)。検出された水分量に係る水分量データADは、加熱制御部40に送出され、土壌Sを加熱する際の加熱量等の決定に使用される。なお、水分量検出部90を備えず、水分量検出工程S6を実施しないものであっても構わない。
【0088】
次に、発芽抑制を実施する際に、土壌Sに水分Aを供給するか否かを確認する(第三確認ステップS7)。土壌Sに水分Aを供給する場合(第三確認ステップS7においてYES)、水分供給部80を稼働させ、土壌Sに水分Aを継続的に供給する(第二水分供給工程S8)。一方、土壌Sに水分Aを供給しない場合(第三確認ステップS7においてNO)、第二水分供給工程S8の処理をキャンセルする。
【0089】
その後、加熱制御部40によってジュール加熱部30による加熱体20の加熱を開始する(加熱制御工程S9)。これにより、ジュール加熱部30によって発生させたジュール熱Hが加熱体20に伝達され、加熱空間22が温められる。更に、加熱空間22と接した土壌表面SFから土壌内部SIへ下方に向かうジュール熱Hが伝達が行われ、土壌内部SIが種子Dを死滅させる温度まで加熱される(発芽抑制工程S10)。
【0090】
ここで、上記第三確認ステップS7において水分Aの供給が継続される場合は、水分供給発芽抑制モードM4による制御が加熱制御部40によって実施され、一方、水分Aの供給がない場合は、通常の発芽抑制モードM1による制御が加熱制御部40によって実施される。なお、加熱制御部40による加熱体20の加熱量を調整することで、種子Dを死滅させるに至る温度まで土壌Sを加熱するものではなく、土壌表面SFの雑草Wのみを枯死させる除草モードM2とすることもできる(除草工程S11)。
【0091】
加熱体20による土壌Sの加熱を継続し、所定時間(例えば、1hr~3hr程度)を経過した後、ジュール加熱部30による加熱体20の加熱を停止する(加熱停止工程S12)。なお、係る加熱停止工程S12は、周知のタイマー機構により自動的に加熱を停止するようにセットするものであってもよい。これにより、土壌Sに対する加熱が停止される。
【0092】
次に、発芽抑制対象の範囲で未実施土壌の有無を確認する(第四確認ステップS13)。未実施土壌がない場合(第四確認ステップS13においてYES)、発芽抑制装置10による発芽抑制及び除草処理を完了する(完了工程S14)。一方、未実施土壌がある場合(第四確認ステップS13においてNO)、当該未実施土壌に加熱体20を再設置する(加熱体再設置工程S15)。なお、加熱体20の再設置は、加熱停止工程S12によって加熱体20の加熱を停止し、当該加熱体20が室温程度まで冷えた状態で行ってもよい。
【0093】
加熱体再設置工程S15によって未実施土壌に加熱体20が再設置すると、第一確認ステップS2の処理の戻り、発芽促進モードM3の実施有無を確認し、再び、土壌Sに対する発芽抑制及び除草処理を繰り返し実施する。係る処理を未実施土壌がなくなるまで継続する。そして、最終的に完了工程S14に至る。
【0094】
上記したように、本実施形態の発芽抑制方法1は、土壌Sに対する発芽抑制等の処理を比較的コンパクトに形成された発芽抑制装置10を用い、発生させたジュール熱Hによって土壌Sを加熱することで種子Dの死滅または雑草Wの除去を行うことができる。更に、発芽抑制装置10による加熱の際に、土壌Sに水分Aを加えて発芽を促進したり、或いは水分Aを供給しながら加熱するなど、土壌Sの水分A等の状態を変化させ、種子Dの死滅に適した状態を形成した後、加熱を行うことができる。これにより、種子Dの段階でほぼ確実に発芽を抑制することができる。
【0095】
更に、発芽抑制等の対象となる土壌Sの広さに対し、一回の発芽抑制等の処理を実施可能な範囲は限定されるため、加熱体20を移動させ、再設置することで発芽抑制等の処理を繰り返し実施することができる。これにより、広範囲の土壌Sであっても一台の発芽抑制装置10によって発芽抑制及び除草処理を完了させることができる。
【0096】
以下、本発明の発芽抑制方法1及び発芽抑制装置10の実施例について説明するが、本発明の発芽抑制方法及び発芽抑制装置は、これらの実施の形態に特に限定されるものではない。
【実施例
【0097】
1.加熱温度及び加熱時間の違いによる種子の発芽率
本願発明の発芽抑制方法及び発芽抑制装置の効果を確認するために、加熱温度及び加熱時間の違いによる種子の発芽率の関係について確認を行った。発芽率を確認するために使用される種子として、“二十日大根”の種子を準備した。この二十日大根の種子を規定の温度に設定可能な恒温槽内に投入し、予め規定した時間内の間、種子の投入(加熱)状態を保持した。例えば、具体的には、40℃~70℃の範囲で5℃毎に加熱温度を調整可能に設定した。そして、それぞれの加熱温度及び加熱時間の条件で保持した後の種子からの発芽の有無を確認した。ここで、それぞれの加熱温度及び加熱時間に保持された種子(表1参照)の総数に対する、発芽した種子の数の比率(=発芽率)を算出した。その結果を下記表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
上記表1に示されるように、例えば、種子の加熱温度が50℃、加熱時間が3hrの場合、種子の発芽率は5%となり、著しく低くなることが確認された。一方、加熱温度が55℃、加熱時間が1hrの場合、種子の発芽率は35%となり、種子の加熱によって発芽率を通常よりも低く(約1/3程度)抑えることができることが示された。なお、加熱温度が45℃や40℃であっても、加熱時間が24hrであれば、発芽率を0%或いは35%に抑えることができる。したがって、種子を50℃前後の温度で3hr程度加熱を行ったり、加熱温度を低く抑え(40℃~45℃)、かつ加熱時間を1日程度確保すれば、土壌中の種子をほぼ死滅させることが確認された。また、加熱温度を60℃以上にすることで、加熱時間が1hrであっても発芽率を0%にすることができる。
【0100】
2.発芽抑制装置の加熱による土壌等の温度測定
本発明の発芽抑制装置を土壌に設置し、加熱体による加熱を行った場合の6箇所の温度測定ポイント(図6参照)の温度及び温度変化について測定を行った。なお、発芽抑制装置の基本的な構成は既に説明したため、ここでは詳細な説明は省略する。ここでは、加熱制御部によってジュール加熱部を制御し、加熱体を230℃に加熱する際の土壌等の各温度測定ポイントにおける温度を加熱開始から測定した。ここで、温度測定ポイントについて詳述すると、(1)加熱体の表面P1、(2)土壌表面P2、(3)土壌内部P3(土壌表面から1cm深さの位置)、(4)土壌内部P4(土壌表面から5cm深さの位置)、(5)水槽側部P5、及び、(6)水中P6である。ここで、発芽抑制装置の設置された土壌の一部には、水WTを貯留可能な水槽Tが埋設されており、上記水槽側部P5は水槽Tの側部の位置の温度を測定するためのものであり、水中P6は水槽Tに貯留された水WTの温度(水温)を測定するためのものである。
【0101】
加熱制御部による加熱体の加熱開始からの経過時間と、それぞれの温度測定ポイントにおける温度の測定結果をまとめたものを下記表2に示す。併せて、加熱開始からの経過時間が20分から3時間の間の平均温度についても示す。なお、各温度測定ポイントの温度の測定は、周知の熱電対を利用したものである。また、図6は、それぞれの温度測定ポイントの位置を明確に示すための図であり、発芽抑制装置の一部の構成等については、符号の付与を省略している。更に、発芽抑制装置の一部構成等(水分供給部等)についての図示を省略している。
【0102】
【表2】
【0103】
上記表2に、加熱体による加熱開始前は、それぞれの温度測定ポイントは、ほぼ室温程度(22℃~25℃前後)であったのに対し、加熱開始から10分を経過した段階では、ジュール加熱部と当接した加熱体の表面P1は約200℃に到達する。すなわち、熱伝導性の高いアルミニウム製の加熱体が使用されるため、発生したジュール熱が速やかに加熱体に伝達されていることが確認される。更に、加熱開始から10分の段階で、既に土壌表面P2は100℃を超え、土壌表面に近接する土壌内部P3も50℃以上となっている。
【0104】
これに対し、土壌内部P4や水槽側部P5、及び水中P6は、加熱開始から10分の段階では僅かに温度上昇が認められるものの、50℃前後に到達しない。その後、加熱時間の経過とともに各温度測定ポイントの温度も徐々に上昇し、加熱開始から1hrを経過すると、土壌表面から5cm深さの土壌内部P4の温度が50℃前後の温度(≒46.8℃)になる。前述した実験の結果から、種子を加熱することで死滅させ、発芽率を低下させるためには、少なくとも50℃前後の温度(±5℃以内)の温度で種子を加熱し、死滅させる必要がある。その結果、ほぼ50℃に近い土壌内部P4では、加熱開始から1hr程度で種子を死滅可能な状態にすることができる。
【0105】
ここで、加熱開始から50分を経過すると、加熱体の温度は当初の設定温度(=220℃)にほぼ到達し、以降はサーモスタット等によって過熱を防ぎながら、220℃~230℃程度の範囲の温度をキープする。このとき、土壌表面P2は加熱体の表面P1の温度に対し、約10℃から20℃前後低い温度を保っている。更に、加熱開始から20分経過後から3時間までの平均温度の値は、それぞれの温度測定ポイントにおいて、少なくとも50℃前後以上(土壌内部P4は47℃)を安定してキープしている。
【0106】
上記説明した通り、発芽抑制装置によってジュール熱を発生させ、種子を死滅可能な温度まで土壌を加熱することが確認された。これにより、本発明の発芽抑制方法及び発芽抑制装置の使用によって、発芽抑制及び除草の十分な効果を奏することが期待される。
【0107】
また、土壌に埋設された水槽Tの水槽側部P5及び水中P6の温度測定の結果から、土壌内部P4よりもこれらの温度測定ポイントの方が昇温速度が高くなることが示された。すなわち、乾燥した土壌よりもある程度の水WTを含んだ土壌の方が加熱が効率的に行われ、短い時間で種子を死滅可能な温度まで到達する可能性が高いことが示された。これにより、本発明における第二水分供給工程または水分供給部による水分供給が、土壌の加熱効率の向上につながると考えられる。なお、表2において、水中P6の加熱開始から2hr経過後の温度は、水の沸点よりも高い100℃以上が測定されている。これは、水槽T中の水分が完全に蒸発し、水槽Tの内部空間の温度を示しているためと予想される。
【0108】
3.コーティング層の効果
次に、アルミニウム製の加熱体の表面にコーティング層を設けた場合の効果(遠赤外線効果)について確認した。加熱体表面にセラミックス材料(二酸化珪素)をコーティングしたSiOコーティング層を有する加熱体(実施例1)、フッ素系化合物(PTFE:ポリテトラフルオロエチレン)をコーティングしたPTFEコーティング層を有する加熱体(実施例2)、及びコーティング層なし(実施例3)について、上記表6において示した各温度測定ポイントにおける温度を測定した。ここで、20分から3時間までの平均温度についてまとめたものを下記表3に示す。なお、加熱体表面に各種コーティング層を設けるコーティング方法及びコーティング装置は従来から周知の手法を使用することができる。例えば、コーティング層の主成分となる原料を含む液体状のコーティング原料に加熱体を浸ける含浸コーティング(ディッピング)や、コーティング原料をスプレー状に吐出し、加熱体表面に吹き付けるスプレーコーティング、或いはスロットダイコーター、リップコーター、或いはグラビアコーター等の各種コーティング装置を用いて塗工するものであっても構わない。更に、加熱体表面にコーティング原料を塗工した後の乾燥・熱処理も従来から周知の手法を使用することができ、例えば、熱風乾燥、UV乾燥、或いは減圧乾燥等を用いることができる。これらは、加熱体表面に形成する各種コーティング層の層厚(膜厚)や使用するコーティング原料の粘度、コーティング原料の溶剤成分等によって適宜変更することができる。
【0109】
【表3】
【0110】
表3に示されるように、アルミニウム製の加熱体の表面にコーティング層を有しない実施例3に対し、コーティング層を設けた実施例1及び実施例2は、いずれも各温度測定ポイントにおける平均温度が高くなることが確認された。すなわち、加熱体が加熱されることにより、コーティング層から遠赤外線が放射され、当該遠赤外線によって土壌を加熱する効果が高められる。したがって、加熱体にコーティング層を設けることで、土壌の加熱効率を高めることが確認され、発芽抑制装置において効率的な加熱が可能となることが示された。なお、コーティング層を有しない実施例3であっても、土壌内部の温度や水槽内の水の温度を上昇させることが可能であり、本発明における発芽抑制等の効果を奏することができる。
【0111】
上記示したように、本発明の発芽抑制方法及び発芽抑制装置によれば、土壌内部を種子が示する温度まで加熱することが可能であり、当該温度を一定時間安定してキープすることができる。これにより、種子の発芽抑制及び雑草の除去を確実に行うことができる。更に、土壌に水分を供給する効果及びセラミックス材料等のコーティング層による遠赤外線効果も確認され、効率的な土壌の加熱を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の発芽抑制方法及び発芽抑制装置は、特に、家庭菜園やガーデニング等の趣味で栽培対象物を栽培する土壌に特に好適に使用することができる。更に、一般の農地や高速道路脇に繁殖した雑草等を業務として除去する際にも好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0113】
1:発芽抑制方法、10,10a,10b:発芽抑制装置、20,20a,20b:加熱体、21:加熱体裏面、22:加熱空間、23:加熱体表面、24:加熱平板体、25:垂設体、26:加熱針状体、30:ジュール加熱部、40:加熱制御部、50:反射部、60:断熱部、61:外殻部、62:把持部、70:コーティング層、80:水分供給部、81:供給ノズル、90:水分量検出部、A:水分、AD:水分量データ、B:コンクリートブロック、D:種子、H:ジュール熱、M1:発芽抑制モード、M2:除草モード、M3:発芽促進モード、M4:水分供給発芽抑制モード、S:土壌、SF:土壌表面、SI:土壌内部、T:水槽、W:雑草、WT:水、S1:加熱体設置工程、S2:第一確認ステップ、S3:第一水分供給工程、S4:発芽促進工程、S5:第二確認ステップ、S6:水分量検出工程、S7:第三確認ステップ、S8:第二水分供給工程、S9:加熱制御工程、S10:発芽抑制工程(発芽済み種子加熱工程)、S11:除草工程、S12:加熱停止工程、S13:第四確認ステップ、S14:完了工程、S15:加熱体再設置工程、P1:加熱体の表面(温度測定ポイント)、P2:土壌表面(温度測定ポイント)、P3,P4:土壌内部(温度測定ポイント)、P5:水槽側部(温度測定ポイント)、P6:水中(温度測定ポイント)。

図1
図2
図3
図4
図5
図6