(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】第XI因子の活性部位に対するモノクローナル抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220222BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220222BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20220222BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220222BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220222BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220222BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220222BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220222BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220222BHJP
A61P 39/02 20060101ALI20220222BHJP
C07K 16/36 20060101ALI20220222BHJP
C07K 16/40 20060101ALI20220222BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220222BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220222BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220222BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220222BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220222BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20220222BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
A61K39/395 N
A61P7/02
A61P9/00
A61P9/10
A61P9/10 101
A61P11/00
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A61P39/02
C07K16/36
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C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2019501757
(86)(22)【出願日】2017-03-23
(86)【国際出願番号】 EP2017056924
(87)【国際公開番号】W WO2017162791
(87)【国際公開日】2017-09-28
【審査請求日】2020-03-18
(32)【優先日】2016-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】518336363
【氏名又は名称】プロティックス ビーヴイ
【氏名又は名称原語表記】PROTHIX BV
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ボロス, ペーテル
(72)【発明者】
【氏名】イルディズ, カフェル
(72)【発明者】
【氏名】ハック, コルネリス エリック
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-517305(JP,A)
【文献】国際公開第2009/154461(WO,A1)
【文献】Journal of Thrombosis and Haemostasis, 2013, Vol.11, p.2118-2127
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/13
A61K 39/395
A61P 7/02
A61P 9/00
A61P 9/10
A61P 11/00
A61P 13/12
A61P 19/02
A61P 29/00
A61P 39/02
C07K 16/36
C07K 16/40
C07K 16/46
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
C12P 21/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第XI因
子の軽鎖に結合し、L-ピログルタミル-L-プロリル-L-アルギニン-p-ニトロアニリンに対する活性化第XI因子の発色活性を減少させ、第XI因子への前記結合について、重鎖可変ドメインが配列番号1を含み、且つ軽鎖可変ドメインが配列番号2を含む抗体と交差競合するヒト化抗体又はその抗原結合性断片であって、
前記ヒト化抗体の前記重鎖可変ドメインが、配列番号13~16のうちの少なくとも1つと少なくとも95%の配列同一性があるアミノ酸配列を含み、
前記ヒト化抗体の前記軽鎖可変ドメインが、配列番号17~20のうちの少なくとも1つと少なくとも95%の配列同一性があるアミノ酸配列を含み、
前記ヒト化抗体が、超可変領域(HVR)である、配列番号3の配列を含むHVR-H1、配列番号4の配列を含むHVR-H2、配列番号5の配列を含むHVR-H3、配列番号6の配列を含むHVR-L1、配列番号7の配列を含むHVR-L2及び配列番号8の配列を含むHVR-L3を含む、ヒト化抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項2】
Fv、一本鎖Fv(scFv)、Fab、Fab’、(Fab’)
2及びナノボディから選択される、請求項1に記載の抗原結合性断片。
【請求項3】
前記ヒト化抗体の前記重鎖可変ドメインが配列番号16のアミノ酸配列を含み、前記ヒト化抗体の前記軽鎖可変ドメインが配列番号20のアミノ酸配列を含む、請求項1又は2に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項4】
前記ヒト化抗体が、ヒンジ領域に、前記重鎖の鎖内ジスルフィド架橋形成よりも鎖間ジスルフィド架橋に有利な突然変異を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項5】
前記突然変異が、S241Pである、請求項4に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項6】
前記ヒト化抗体が、IgG4領域である重鎖定常領域を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項7】
前記ヒト化抗体が、ヒトFXIaの軽鎖に結合する、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合性断片を含む医薬組成物。
【請求項9】
薬学的に許容可能な担体をさらに含む、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
医薬として使用するための、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合性断片、又は請求項8若しくは9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
i)FXI活性化が介在する疾患、障害又は状態;及びii)FXIの阻害が有益な効果を有する疾患、障害又は状態のうちの少なくとも1つの防止又は処置に使用するための、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合性断片、又は請求項8若しくは9に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記疾患、障害又は状態が、凝固が関係する疾患、障害又は状態である、請求項11に記載の抗体若しくはその抗原結合性断片又は医薬組成物。
【請求項13】
前記疾患が、FXIを介する凝固活性化を伴う血栓塞栓性疾患又は炎症性疾患である、請求項11又は12に記載の抗体若しくはその抗原結合性断片又は医薬組成物。
【請求項14】
使用が、病理学的血栓症を防止若しくは処置するため又は医療手順が原因で血栓症を発症するリスクが増大している対象において血栓症を防止するためのものである、請求項11~13のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合性断片又は医薬組成物。
【請求項15】
使用が、心筋梗塞、虚血性脳卒中、心房細動による心原性脳塞栓症、血管アクセス血栓症、深部静脈血栓症、動脈血栓、冠血栓症、アテローム性動脈硬化症、関節炎、脈管炎、呼吸障害症候群、虚血性心疾患、虚血性脳疾患、肺塞栓症、手術若しくは固定化に起因する静脈血栓塞栓症、人工血管移植、ステント、若しくは動静脈瘻の血栓症及び閉塞、人工心臓弁、汎発性血管内凝固(DIC)、血液透析、心房細動、敗血症、感染性ショック、臓器不全、腎不全、治療用タンパク質のin vivo投与によって誘導される毒性、多発性損傷、虚血-再灌流傷害、局所的な望ましくない線維素沈着並びに成人呼吸窮迫の間の肺胞における線維素沈着からなる群から選択される少なくとも1つの障害、疾患又は状態を防止又は処置するためのものである、請求項11~14のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合性断片、又は医薬組成物。
【請求項16】
前記抗体その抗原結合性断片又は組成物が、静脈内、動脈内、筋肉内又は皮下投与されるためのものである、請求項12~15のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合性断片、又は医薬組成物。
【請求項17】
前記抗体、その抗原結合性断片又は組成物が、ボーラス注入又は2時間未満~24時間にわたる持続注入として静脈内投与されるためのものである、請求項16に記載の抗体若しくはその抗原結合性断片、又は医薬組成物。
【請求項18】
前記抗体、その抗原結合性断片又は組成物が、定期的な透析を受けている腎臓患者における人工血管移植、ステント又は動静脈瘻の血栓症及び閉塞の防止、減少又は処置に使用するためのものであり、前記抗体、その抗原結合性断片又は組成物が、前記患者に戻される透析された体液中で前記患者に投与されるためのものである、請求項15に記載の抗体若しくはその抗原結合性断片、又は医薬組成物。
【請求項19】
前記抗体、その抗原結合性断片又は組成物が、心房細動、不安定狭心症、静脈血栓塞栓症、人工心臓弁、虚血性心疾患、虚血性脳疾患、人工血管、汎発性血管内凝固、敗血症の患者又は前立腺若しくは整形外科手術を受けている患者において血栓症を防止又は処置するのに使用するためのものであり、抗体、その抗原結合性断片又は組成物が、2週間に1回以下で投与されるためのものである、請求項15に記載の抗体若しくはその抗原結合性断片、又は医薬組成物。
【請求項20】
請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合性断片をコードしているヌクレオチド配列を含む核酸分子。
【請求項21】
前記核酸分子が、前記抗体の重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインのうちの少なくとも1つをコードしているヌクレオチド配列を含む、請求項20に記載の核酸分子。
【請求項22】
前記コーディングヌクレオチド配列が、宿主細胞において前記コーディングヌクレオチド配列を発現するために調節配列に作動可能に連結されている、請求項20又は21に記載の核酸分子。
【請求項23】
請求項20~22のいずれか一項に記載の核酸分子を含む宿主細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に医学及び薬学の分野、特に血液凝固に使用するためのバイオ医薬品の分野に関する。より具体的には、本発明は、活性化された第XI因子による第IX因子の活性化を阻害する第XI因子の活性部位に対する抗体に関する。第XI因子の活性部位に対する抗体は、病理学的血栓形成又は血栓塞栓症に関連する状態の防止及び処置に有用である。
【背景技術】
【0002】
凝固は、体液性及び細胞性反応からなり、止血の必須部分であり、損傷又は傷害によって血液が失われることを停止させる過程である。病理学的凝固又は血栓症とは、正常な止血性過程の部分でなく、疾患症状をもたらし得る凝血塊形成のことを指す。深部静脈血栓症、人工血管に対する血栓症、冠状動脈におけるアテローム硬化性プラークに対する血栓症、微小血管性血栓症及び敗血症における汎発性血管内凝固は、病理学的凝固の例である。加えて、病理学的血栓の部分が、遊離し、血流によって運ばれて肺又は脳など身体内の他の部分で血管を塞ぐ場合があり、その過程は塞栓形成と呼ばれる。塞栓形成を伴う又は伴わない血栓症が役割を果たす疾患は、血栓塞栓性疾患と呼ばれる。
【0003】
血栓塞栓性疾患の主要な処置は抗凝固薬の投与からなり、その薬物は凝固系を阻害する。この系は、不活性酵素及び補因子として循環し、カスケード様の様式で互いを活性化し得る一組の血漿タンパク質である。このカスケードにおける鍵酵素は、トロンビンであり、その酵素は、可溶性フィブリノーゲンを不溶性フィブリンに変換し、FXI、FVIII及びFVを含めた他のいくつかの凝固因子を活性種に活性化し、それにより活性化の増幅をもたらす(凝固因子は、FXI、FIX等と;活性化された凝固因子は、FXIa、FIXa、等と呼ばれる)。凝固の過剰な活性化は、アンチトロンビンなどの阻害剤を循環させることによって防止される。
【0004】
凝固カスケードの簡略化したスキームを、
図10に図示する。凝固は、主要又は基礎経路及び2つの増幅ループによって起こる。
【0005】
現在の抗凝固薬は、凝固の共通経路を阻害する:ヘパリン(アンチトロンビンによる)は、トロンビン、FXa及びFIXaをたたき、クマリンは、プロトロンビン、第VII、IX及びX因子の合成を阻害し、一方で低分子量ヘパリンは主にFXaを阻害する。これら薬物の治療濃度域は狭く、その使用は、1年間に患者の1~2%に重篤な出血有害事象をもたらす場合があり、一方で軽度の出血事例は、更に頻繁に起こる。例えば、静脈血栓症のため、抗凝固剤で処置される患者は、100人年当たり7.2事象の大量出血のリスクを有し、致命的出血のリスクは、100人年当たり1.31事象であり、大量出血の致死率は13.4%である(Linkins LA、Ann Intern Med 2003年;139:893~900頁)。従って、日常的な抗凝固剤の使用は、出血副作用のリスクが高く、患者の注意深い監視を必要とする。
【0006】
現在のところ、FXIを標的とする承認済みの抗凝固剤は存在しない。これは、止血におけるFXIの役割が限定されていると考えられていたので、FXIが、血栓塞栓性過程において、あるとしても、小さな役割しか果たさないと長らく考えられていたことを反映している。実際、FXI欠損は、血友病A及びBなど、関節並びに軟部組織における特発性出血事例を伴う重篤な出血傾向を生じず、むしろ傷害関連出血障害と関連している(Duga S、ら、Semin Thromb Hemost 2013年;39:621~31頁;F Peyvandiら、Haematologica 2002年;87:512~514頁)。FXI欠損の多くの人は、重篤な出血事例を決して経験しない(Castaman Gら、Haemophilia 2014年;20:106~13頁)。しかしながら、いくつかの研究が、in vivoでのFXI機能の阻害により、出血時間に影響を及ぼすことなく病理学的血栓症を防止できることを示し(Minnemaら、1998年、J Clin Invest.101:10~14頁;Gruber及びHanson、2003年、Blood 102:953~955頁;Tuckerら、2009年、Blood、113:936~44頁;Chengら、2010年、Blood 116:3981~9頁;Takahashiら、2010年、Thromb Res、125:464~70頁;van Montfoortら、2013年、Thromb Haemost 110:1065~73頁)、このことが、病理学的血栓形成におけるFXIの重要な役割を支持した。おそらく、正常な止血対病理学的血栓形成におけるFXIのこの差異的使用は、正常な止血が高い組織因子(TF)濃度によって主に起動され、従ってFXI増幅ループ(
図10を参照のこと)から独立しているが、病理学的血栓形成は低いTF濃度で開始されることを反映している。正常な止血対血栓塞栓性過程におけるこの差異的役割のため、FXIを血液凝固阻止戦略の魅力的な標的である(Lowenberg ECら、J Thromb Haemost 2010年;8:2349~57頁)。FXIを標的とする一手法は、肝臓におけるFXIの合成を低下させることを狙うアンチセンスオリゴヌクレオチドに基づく治療である。この手法は、動物モデル(Zhang Hら、Blood.2010年;116:4684~4692頁;Younis HSら、Blood 2012年;119:2401~08頁)及びヒト(Buller Hら、N Engl J Med 2015年;372:232~40頁)において有望な結果を示した。しかしながら、FXIの合成を低下させるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、FXIレベルを十分に下げるのに少なくとも1~2週間かかるので、急性血栓塞栓性状態に使用することができない(Younis HSら、Blood 2012年;119:2401~08頁)。更に、長期毒性については知られていない。それ故、血液凝固阻止戦略としてFXIを標的とするための異なる手法が必要である。別の一手法は、FXIの機能的活性を遮断するモノクローナル抗体(mAb)を適用することである。
【0007】
本発明は、FXIを標的とし、出血のリスクが、あるとしても低い新規の抗凝固薬を開示する。従って、これら新規の抗凝固剤の臨床的使用は、患者の監視を必要としない。FXI/FXIaの活性部位を遮断する阻害剤は、FXIを標的とする好ましい手法となり得る。しかしながら、FXIは、セリンプロテアーゼであり、その活性部位は、他の多くのセリンプロテアーゼ、特にセリンプロテアーゼのトリプシンファミリーの活性部位と相同である。他の凝固因子、線維素溶解及び補体プロテアーゼは同じファミリーに属し、全てが、相同な活性部位を有する。それ故、FXIaの小分子阻害剤は、他のセリンプロテアーゼとの交差反応のため、それ特有の毒性のリスクを有する。FXI/FXIaの活性部位に結合し、FXIaによるタンパク質及びペプチド基質の変換を遮断するmAbは、治療適用に好ましい選択肢である。しかしながら、FXIaの活性部位に対するそのような阻害性mAbは、これまで記述されていない。
【0008】
Sinhaら(J Biol Chem 1985年;260:10714~9頁)は、FXIaの軽鎖に対して作られたと思われる5F4 mAbを開示しており、その抗体は、FXIa活性を100%阻害すると開示されている。しかしながら、Akiyamaら(J.Clin.Invest.1986年;78:1631~1637頁)は、5F4 mAbがFXIaの発色活性を阻害せず、従ってFXIaの活性部位に結合しないことをその後報告した。5F4 mAbは、おそらくFXIaの軽鎖上のエキソサイトに対して作られている(Sinhaら、Biochemistry 2007年;46:9830~9頁)。
【0009】
従って、第XI(a)因子のセリンプロテアーゼドメインに結合し、第XIa因子の小さい発色性基質の変換及び第XIa因子による第IXa因子への第IX因子の変換を阻害する抗体を提供することが本発明の目的である。本発明は、そのようなモノクローナル抗体(mAb)のヒト化バージョン、及び血栓塞栓性疾患を処置又は防止するための抗体の適用を更に提供する。
【発明の概要】
【0010】
第1の態様において、本発明は、第XI因子(第XI因子)の軽鎖に結合する抗体に関する。抗体は、活性化された第XI因子(第XIa因子)の発色活性を減少させることが好ましく、その際発色基質は、L-ピログルタミル-L-プロリル-L-アルギニン-p-ニトロアニリンであることが好ましい。抗体は、第XI因子への結合について、重鎖可変ドメインが配列番号1を含み、軽鎖可変ドメインが配列番号2を含む抗体と交差競合することが更に好ましい。
【0011】
本発明による好ましい抗体は、配列番号3の配列を含むHVR-H1、配列番号4の配列を含むHVR-H2、配列番号5の配列を含むHVR-H3、配列番号6の配列を含むHVR-L1、配列番号7の配列を含むHVR-L2及び配列番号8の配列を含むHVR-L3から選択される超可変領域(HVR)を少なくとも1つ含む。抗体は、配列番号3の配列を含むHVR-H1、配列番号4の配列を含むHVR-H2、配列番号5の配列を含むHVR-H3、配列番号6の配列を含むHVR-L1、配列番号7の配列を含むHVR-L2及び配列番号8の配列を含むHVR-L3から選択される超可変領域(HVR)を2、3、4、5又は6個含むことがより好ましい。
【0012】
本発明による抗体は、マウス、キメラ又はヒト化抗体であることが好ましい。別法として、抗体は、Fv、一本鎖Fv(scFv)、Fab、Fab’、(Fab’)2及びナノボディから選択される抗体断片であり得る。
【0013】
本発明による好ましい抗体又は抗体断片は、配列番号13~16のうちの少なくとも1つと少なくとも95%の配列同一性があるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、及び配列番号17~20のうちの少なくとも1つと少なくとも95%の配列同一性があるアミノ酸配列を含む抗体の軽鎖可変ドメインを含む。抗体又は抗体断片において、抗体の重鎖可変ドメインは配列番号16のアミノ酸配列を含み、抗体の軽鎖可変ドメインは配列番号20のアミノ酸配列を含むことがより好ましい。
【0014】
本発明による抗体は、ヒンジ領域に、重鎖の鎖内ジスルフィド架橋形成よりも鎖間ジスルフィド架橋に有利な突然変異を含むことが好ましい。突然変異はS241Pであることがより好ましい。
【0015】
本発明による好ましい抗体において、抗体は、IgG4領域、より好ましくはヒトIgG4領域である重鎖定常領域を含む。
【0016】
本発明による抗体は、ヒトFXIaの軽鎖に結合することが更に好ましい。
【0017】
第2の態様において、本発明は、本発明による抗体又は抗体断片及び任意選択で薬学的に許容可能な担体を含む医薬組成物に関する。
【0018】
第3の態様において、本発明は、医薬として使用するための、本発明による抗体、抗体断片又は医薬組成物に関する。
【0019】
第4の態様において、本発明は、i)FXI活性化が介在する疾患、障害又は状態;及びii)FXIの阻害が有益な効果を有する疾患、障害又は状態のうちの少なくとも1つの防止又は処置に使用するための本発明による抗体、抗体断片又は医薬組成物に関する。疾患、障害又は状態は、凝固が関係する疾患、障害又は状態であることが好ましい。疾患は、FXIを介する凝固活性化を伴う血栓塞栓性疾患又は炎症性疾患であることがより好ましい。別法として、抗体、抗体断片又は医薬組成物は、本発明による使用のためのものであり、その使用は、病理学的血栓症を防止若しくは処置するため又は医療手順が原因で血栓症を発症するリスクが増大している対象において血栓症を防止するためのものである。従って、本発明による使用は、心筋梗塞、虚血性脳卒中、心房細動による心原性脳塞栓症、血管アクセス血栓症、深部静脈血栓症、動脈血栓、冠血栓症、アテローム性動脈硬化症、関節炎、脈管炎、呼吸障害症候群、虚血性心疾患、虚血性脳疾患、肺塞栓症、手術若しくは固定化に起因する静脈血栓塞栓症、人工血管移植、ステント、若しくは動静脈瘻の血栓症及び閉塞、人工心臓弁、汎発性血管内凝固(DIC)、血液透析、心房細動、敗血症、感染性ショック、臓器不全、腎不全、治療用タンパク質のin vivo投与によって誘導される毒性、多発性損傷、虚血-再灌流傷害、局所的な望ましくない線維素沈着並びに成人呼吸窮迫の間の肺胞における線維素沈着からなる群から選択される少なくとも1つの障害、疾患又は状態を防止又は処置するための使用であり得る。
【0020】
抗体、抗体断片又は医薬組成物は、本発明による使用のためのものであることが好ましく、抗体は、静脈内、動脈内、筋肉内又は皮下投与される。静脈内投与は、ボーラス注入又は2時間未満~24時間にわたる持続注入であることが好ましい。
【0021】
抗体、抗体断片又は医薬組成物が、定期的な透析を受けている腎臓患者における人工血管移植、ステント又は動静脈瘻の血栓症(及び閉塞)の防止、減少又は処置に使用するためのものである場合、抗体、抗体断片又は組成物は、患者に戻される透析された体液中で患者に投与されることが好ましい。
【0022】
別法として、本発明による使用のための抗体、抗体断片又は医薬組成物は、心房細動、不安定狭心症、静脈血栓塞栓症、人工心臓弁、虚血性心疾患、虚血性脳疾患、人工血管、汎発性血管内凝固、敗血症の患者又は前立腺若しくは整形外科手術を受けている患者において血栓症を防止又は処置するのに使用するためのものであり、前記結合分子が、2週間に1回以上(頻繁に)投与されない。
【0023】
第5の態様において、本発明は、本発明による抗体又は抗体断片をコードしているヌクレオチド配列を含む核酸分子に関する。核酸分子は、抗体の重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインのうちの少なくとも1つをコードしているヌクレオチド配列を含むことが好ましい。核酸分子において、コーディングヌクレオチド配列は、宿主細胞においてコーディングヌクレオチド配列を発現するために調節配列に作動可能に連結されていることがより好ましい。
【0024】
第6の態様において、本発明は、第5の態様による核酸分子を含む宿主細胞に関する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1A】A)aPTT、B)PT又はC)ヒト血漿のFXI活性に対する精製マウス抗ヒトFXI mAbの効果を示す図である。MAb 0.2~0.9mg/mLを指示の通り希釈し、ヒト血漿と1:1で混合した。APTT(A)、PT(B)又は混合物のFXI活性C)を測定した。
【
図1B】A)aPTT、B)PT又はC)ヒト血漿のFXI活性に対する精製マウス抗ヒトFXI mAbの効果を示す図である。MAb 0.2~0.9mg/mLを指示の通り希釈し、ヒト血漿と1:1で混合した。APTT(A)、PT(B)又は混合物のFXI活性C)を測定した。
【
図1C】A)aPTT、B)PT又はC)ヒト血漿のFXI活性に対する精製マウス抗ヒトFXI mAbの効果を示す図である。MAb 0.2~0.9mg/mLを指示の通り希釈し、ヒト血漿と1:1で混合した。APTT(A)、PT(B)又は混合物のFXI活性C)を測定した。
【
図2A】MAb抗FXI 34.2が、FXIのセリンプロテアーゼドメイン内のエピトープ、及びmAb抗FXI 15F8.3が、アップル2ドメイン内のエピトープに結合することを示す図である。ELISAウェルを、tPA及びFXIの単一アップルドメインの融合タンパク質(図においてアップル1~4と示す)、又は精製血漿FXI(第XI因子)でコーティングした。抗FXI mAbの結合を、ペルオキシダーゼコンジュゲートした抗マウスIgG抗体で検出した。MAb抗FXI 34.2は、アップルドメインのいずれにも結合しないが、4つのアップルドメインに加えて、セリンプロテアーゼドメインも含む血漿第XI因子だけに結合する。
【
図2B】MAb抗FXI 34.2が、FXIのセリンプロテアーゼドメイン内のエピトープ、及びmAb抗FXI 15F8.3が、アップル2ドメイン内のエピトープに結合することを示す図である。ELISAウェルを、tPA及びFXIの単一アップルドメインの融合タンパク質(図においてアップル1~4と示す)、又は精製血漿FXI(第XI因子)でコーティングした。抗FXI mAbの結合を、ペルオキシダーゼコンジュゲートした抗マウスIgG抗体で検出した。MAb抗FXI 34.2は、アップルドメインのいずれにも結合しないが、4つのアップルドメインに加えて、セリンプロテアーゼドメインも含む血漿第XI因子だけに結合する。
【
図3A】血漿中のトロンビン生成に対するmAb抗FXI 34.2の効果が、A)aPTT試薬、B)低濃度TF(1pM)又はC)高濃度TF(5pM)によって誘導されたことを示す図である。mAbを、指示した終濃度になるようにプールされている正常なヒト血漿に添加した。aPTT試薬(A)、終濃度1pMでTF(B)又は終濃度5pMでTF(C)を添加し、トロンビンの生成を材料及び方法に記載の通りリアルタイムで測定した。X軸は、時間(分)を示し、Y軸は、指示時間での血漿中のトロンビン(FIIa)濃度(nM)である。
【
図3B】血漿中のトロンビン生成に対するmAb抗FXI 34.2の効果が、A)aPTT試薬、B)低濃度TF(1pM)又はC)高濃度TF(5pM)によって誘導されたことを示す図である。mAbを、指示した終濃度になるようにプールされている正常なヒト血漿に添加した。aPTT試薬(A)、終濃度1pMでTF(B)又は終濃度5pMでTF(C)を添加し、トロンビンの生成を材料及び方法に記載の通りリアルタイムで測定した。X軸は、時間(分)を示し、Y軸は、指示時間での血漿中のトロンビン(FIIa)濃度(nM)である。
【
図3C】血漿中のトロンビン生成に対するmAb抗FXI 34.2の効果が、A)aPTT試薬、B)低濃度TF(1pM)又はC)高濃度TF(5pM)によって誘導されたことを示す図である。mAbを、指示した終濃度になるようにプールされている正常なヒト血漿に添加した。aPTT試薬(A)、終濃度1pMでTF(B)又は終濃度5pMでTF(C)を添加し、トロンビンの生成を材料及び方法に記載の通りリアルタイムで測定した。X軸は、時間(分)を示し、Y軸は、指示時間での血漿中のトロンビン(FIIa)濃度(nM)である。
【
図4A】A)FXIaの発色活性及びFXIaによるFIXの変換B)に対する抗FXI mAb 34.2の効果を示す図である。A)MAb抗FXI 34.2は、FXIaの発色活性を阻害する。精製FXIa(およそ3nM)を、精製抗FXI mAb 34.2と25及び50nMで、並びに対照mAbとインキュベートした。FXIaの活性を、発色基質S2366で次いで評価した。B)MAb抗FXI 34.2は、FXIaによるFIXの変換を阻害する。精製FXIaを、精製抗FXI mAbとインキュベートした。活性を、精製FIXとのインキュベーションによって次いで評価した。FIXaの生成を、FXとのインキュベーションによって次いで監視した。その後、混合物中のFXaレベルを、発色基質S2222で測定した。mAbとインキュベートしていないFXIaを、100%に設定した。
【
図4B】A)FXIaの発色活性及びFXIaによるFIXの変換B)に対する抗FXI mAb 34.2の効果を示す図である。A)MAb抗FXI 34.2は、FXIaの発色活性を阻害する。精製FXIa(およそ3nM)を、精製抗FXI mAb 34.2と25及び50nMで、並びに対照mAbとインキュベートした。FXIaの活性を、発色基質S2366で次いで評価した。B)MAb抗FXI 34.2は、FXIaによるFIXの変換を阻害する。精製FXIaを、精製抗FXI mAbとインキュベートした。活性を、精製FIXとのインキュベーションによって次いで評価した。FIXaの生成を、FXとのインキュベーションによって次いで監視した。その後、混合物中のFXaレベルを、発色基質S2222で測定した。mAbとインキュベートしていないFXIaを、100%に設定した。
【
図5A】in vivoでのmAb抗FXI 34.2の効果を示す図である。A)マウスにおけるIVC血栓症に対するmAb抗FXI 34.2の効果。FXI-/-マウスにヒトFXIを与え、続いて生理食塩水又はmAb抗FXI 34.2(8mg/kg)を注射した。血栓症を、IVCに、10%FeCl3に浸漬した濾紙を3分間適用することにより次いで誘導した。静脈血流を、30分間測定した。データは、5匹の動物の平均及びSDを示す。B)マウスにおいて尾部出血時間を延長するエノキサパリンとは対照的に、MAb抗FXI 34.2は尾部出血時間に影響を及ぼさない。FXI-/-マウスにヒトFXIを与え、続いて生理食塩水(対照)、エノキサパリン(1mg/kg)又はmAb抗FXI 34.2(8mg/kg)のいずれかを単回投与した。その後、尾部出血を誘導し、出血停止までの時間を秒で記録した。各記号は、1匹の動物を示し、水平な線は中央値を示す。
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図5B】in vivoでのmAb抗FXI 34.2の効果を示す図である。A)マウスにおけるIVC血栓症に対するmAb抗FXI 34.2の効果。FXI-/-マウスにヒトFXIを与え、続いて生理食塩水又はmAb抗FXI 34.2(8mg/kg)を注射した。血栓症を、IVCに、10%FeCl3に浸漬した濾紙を3分間適用することにより次いで誘導した。静脈血流を、30分間測定した。データは、5匹の動物の平均及びSDを示す。B)マウスにおいて尾部出血時間を延長するエノキサパリンとは対照的に、MAb抗FXI 34.2は尾部出血時間に影響を及ぼさない。FXI-/-マウスにヒトFXIを与え、続いて生理食塩水(対照)、エノキサパリン(1mg/kg)又はmAb抗FXI 34.2(8mg/kg)のいずれかを単回投与した。その後、尾部出血を誘導し、出血停止までの時間を秒で記録した。各記号は、1匹の動物を示し、水平な線は中央値を示す。
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図6A】A)ヒト血漿のaPTTに対するA)キメラマウス-ヒト抗FXI 34.2又はB)精製したコンポジットヒト抗ヒトFXI mAbの効果を示す図である。A)キメラmAbを、指示濃度でヒト血漿に添加した。その後、混合物のaPTTを、決定した。B)元のマウスmAb抗FXI 34.2及びマウス-ヒトキメラ抗体の効果を、比較のために示す。NPP=正常なプールされた血漿(mAb含まず)。MAb抗C2-60は、対照mAbであり、mAb抗FXI-20D4及び抗FXI-100は、対照として含めた非阻害性抗FXI mAbである。
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図6B】A)ヒト血漿のaPTTに対するA)キメラマウス-ヒト抗FXI 34.2又はB)精製したコンポジットヒト抗ヒトFXI mAbの効果を示す図である。A)キメラmAbを、指示濃度でヒト血漿に添加した。その後、混合物のaPTTを、決定した。B)元のマウスmAb抗FXI 34.2及びマウス-ヒトキメラ抗体の効果を、比較のために示す。NPP=正常なプールされた血漿(mAb含まず)。MAb抗C2-60は、対照mAbであり、mAb抗FXI-20D4及び抗FXI-100は、対照として含めた非阻害性抗FXI mAbである。
【
図7A】A)A)mAb VH4Vκ4又はB)マウス-ヒトキメラmAb抗FXI 34.2とドナー20名からのPBMCとのインキュベーションに対して観察した5~8日目における増殖インデックスを示す図である。刺激指数≧2を陽性と考える。増殖境界線を、星印で示す。
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図7B】A)A)mAb VH4Vκ4又はB)マウス-ヒトキメラmAb抗FXI 34.2とドナー20名からのPBMCとのインキュベーションに対して観察した5~8日目における増殖インデックスを示す図である。刺激指数≧2を陽性と考える。増殖境界線を、星印で示す。
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図8A】A)aPTT試薬、B)5pM TF、C)1pM TF、又はD)0.25pM TFによって誘導した血漿中トロンビン生成に対するmAb VH4Vκ4の効果を示す図である。MAb VH4VΚ4を、指示した終濃度になるようにプールされている正常なヒト血漿に添加した。aPTT試薬(A)又は終濃度5pM TF(B)、1pM TF(C)若しくは0.25pM TF(D)を添加し、トロンビンの生成をリアルタイムで測定した。X軸は、時間(分)を示し、Y軸は、指示時間での血漿中のトロンビン濃度(nM)である。
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図8B】A)aPTT試薬、B)5pM TF、C)1pM TF、又はD)0.25pM TFによって誘導した血漿中トロンビン生成に対するmAb VH4Vκ4の効果を示す図である。MAb VH4VΚ4を、指示した終濃度になるようにプールされている正常なヒト血漿に添加した。aPTT試薬(A)又は終濃度5pM TF(B)、1pM TF(C)若しくは0.25pM TF(D)を添加し、トロンビンの生成をリアルタイムで測定した。X軸は、時間(分)を示し、Y軸は、指示時間での血漿中のトロンビン濃度(nM)である。
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図8C】A)aPTT試薬、B)5pM TF、C)1pM TF、又はD)0.25pM TFによって誘導した血漿中トロンビン生成に対するmAb VH4Vκ4の効果を示す図である。MAb VH4VΚ4を、指示した終濃度になるようにプールされている正常なヒト血漿に添加した。aPTT試薬(A)又は終濃度5pM TF(B)、1pM TF(C)若しくは0.25pM TF(D)を添加し、トロンビンの生成をリアルタイムで測定した。X軸は、時間(分)を示し、Y軸は、指示時間での血漿中のトロンビン濃度(nM)である。
【
図9】マウスにおける実験的IVC血栓症に対するmAb VH4VΚ4の効果を示す図である。FXI-/-マウスにヒトFXIを与え、続いて生理食塩水又はmAb VH4VΚ4(8mg/kg)を単回投与した。血栓症を、下大静脈(IVC)に、10%FeCl3に浸漬した濾紙を3分間適用することにより次いで誘導した。静脈血流を、30分間測定した。データは、6匹の動物の平均及びSEMを示す。生理食塩水対照は、
図5Aの場合と同じである。
【
図10】凝固の簡略化したスキームである。明確にするためにリン脂質膜などの重要な成分、アンチトロンビン及びTFPIなどの調節タンパク質並びにプロテインC系は、図示しない。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[発明の説明]
定義
用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、例えば抗体又はその断片、ユニボディ、ダイアボディ、トリアボディ、特にFXI/FXIaに結合し、FXI/FXIaの機能的活性を阻害する四価若しくは他の多価抗体を特に包含する。用語「抗体」とは、ポリクローナル抗体、ポリエピトープ特異性を持つ抗FXI/FXIa抗体組成物、ファージライブラリに由来する全長又は無傷なモノクローナル抗体を含めたモノクローナル抗体(mAb)、ヒト化抗体、ヒト抗体、合成抗体、キメラ抗体、単一ドメイン抗原結合タンパク質並びにFab、Fab’、F(ab’)2及びFv断片を含めた抗FXI/FXIa抗体の断片(下記参照)、ダイアボディ、単一ドメイン抗体(sdAb)、一本鎖Fvのことを指す。ラクダ科動物抗体又はその断片(「ナノボディ」)など他の動物種において作製される抗体も、この適用の範囲に該当する。更に、設計反復タンパク質様DARPins(設計アンキリン反復タンパク質)などの抗体様の結合特性を持つ分子は、この適用の範囲内である。これら抗体形態の全ては、所望の生物学的及び/又は免疫学的活性を呈する限り、本発明の範囲内である。用語「免疫グロブリン」(Ig)は、本明細書における抗体と交換可能で使用される。抗体は、ヒト及び/又はヒト化であり得る。
【0027】
用語「抗FXI/FXIa抗体」又は「FXI/FXIaに結合する抗体」とは、抗体が、FXI/FXIaを標的とし、阻害する診断及び/又は治療的薬剤として有用であるような充分な親和性でFXI/FXIaに結合する能力がある抗体のことを指す。天然のFXIに対する結合親和性は、FXIaに対する結合親和性と類似であり得、又はFXIaに対して天然のFXIより高くなり得、又はFXIaと比較してFXIに対してより高くなり得る。本文において、抗体は、他の場所において抗FXIa抗体又は抗FXI抗体として示されるが、抗FXI mAbの3つの型の全てが、この発明の範囲にあると考えられる。無関係な、非FXIタンパク質への抗FXI/FXIa抗体の結合の程度は、例えば、放射免疫アッセイ(RIA)又はELISAによって測定されるFXI/FXIaへの抗体結合の約10%未満であることが好ましい。ある特定の実施形態において、FXI/FXIaに結合する抗体は、≦1mM、≦100nM、≦50nM、≦10nM、≦5nM、≦1nM又は≦0.1nMの解離定数(KD)を有する。ある特定の実施形態において、抗FXIa抗体は、異なる種由来のFXIaに共通して保存されているFXIaのエピトープに結合する。
【0028】
「単離された抗体」は、その天然の環境の成分から同定され、分離及び/又は回収された抗体である。その天然の環境の汚染物質成分は、抗体の治療上の使用と干渉することになる材料であり、酵素、ホルモン及び他のタンパク質性又は非タンパク質性溶質を含み得る。好ましい実施形態において、抗体は(1)ローリー法で決定される抗体の95重量%を超える、最も好ましくは99重量%より多く、(2)スピニングカップ配列決定装置の使用によって少なくともN末端又は内部アミノ酸配列の残基を得るのに十分な程度、又は(3)クマシーブルー又は好ましくは銀染色を使用する還元若しくは非還元状態下のSDS-PAGEによって均一に精製されることになる。抗体の天然の環境の少なくとも1つの成分が存在しなくなるので、単離された抗体は、in situで組換え細胞中に抗体を含む。しかしながら、通常、単離した抗体は、少なくとも1つの精製ステップによって調製されることになる。
【0029】
基本的な4鎖抗体単位は、2つの同一の軽鎖(L)及び2つの同一の重鎖(H)で構成されるヘテロ四量体の糖タンパク質である(IgM抗体は、J鎖と呼ばれる追加のポリペプチドとともに5つの基本的なヘテロ四量体単位からなり、従って10個の抗原結合部位を含有し、一方で分泌型IgA抗体は重合して、J鎖とともに基本的な4鎖単位を2~5個含む多価集合を形成できる)。IgGの場合、4鎖単位は、一般に約150000ダルトンである。各L鎖は、1つの共有結合性ジスルフィド結合によってH鎖に連結され、一方で2つのH鎖は、H鎖アイソタイプに応じて1つ以上のジスルフィド結合によって互いに連結される。IgG4サブクラスは、非共有結合性の方法で連結され得る2つのH鎖からなる。各H及びL鎖は、規則正しく間隔をあけた鎖内ジスルフィド架橋も有する。各H鎖は、N末端に可変ドメイン(VH)、それに続きα及びγ鎖のそれぞれに対して3つの定常ドメイン(CH)並びにμ及びεアイソタイプに対して4つのCHドメインを有する。各L鎖は、N末端に可変ドメイン(VL)、それに続き他方の末端に定常ドメイン(CL)を有する。VLは、VHと整列され、CLは、重鎖の第1定常ドメイン(CH1)と整列される。特定のアミノ酸残基は、軽鎖と重鎖可変ドメインの間に界面を形成すると考えられている。VHとVLの対合が、単一の抗原結合部位を共に形成する。異なるクラスの抗体の構造及び特性については、例えばBasic and Clinical Immunology、第8版、Daniel P.Stites、Abba I.Terr及びTristram G.Parslow(編)、Appleton & Lange、Norwalk、CT、1994年、71頁及び第6章を参照のこと。
【0030】
あらゆる脊椎動物種由来のL鎖が、定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ及びラムダと呼ばれる明らかに異なる2つの型のうちの1つに割り当てられ得る。その重鎖の定常ドメイン(CH)のアミノ酸配列に従って、免疫グロブリンを異なるクラス又はアイソタイプに割り当てられ得る。5つのクラスの免疫グロブリン:それぞれα、δ、ε、γ及びμと称される、重鎖を有するIgA、IgD、IgE、IgG及びIgMが存在する。γ及びαクラスは、CH配列における比較的小さい差異及び機能に基づいてサブクラスに更に分けられ、例えば、ヒトは、サブクラス:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgAl及びIgA2を発現する。
【0031】
抗体の「可変領域」又は「可変ドメイン」とは、抗体の重鎖若しくは軽鎖のアミノ末端ドメインのことを指す。重鎖の可変ドメインは、「VH」と称し得る。軽鎖の可変ドメインは、「VL」と称し得る。これらのドメインは一般に、抗体の最も可変的な部分であり、抗原結合部位を含有する。
【0032】
用語「可変」とは、可変ドメインの特定のセグメントが、抗体間の配列において大きく異なることを指す。Vドメインは、抗原結合を仲介し、特定の抗原に対する特定の抗体の特異性を定義する。しかしながら、可変性は、可変ドメインの110アミノ酸幅の全体にわたって均一に分布していない。その代わりに、V領域は、各9~12アミノ酸長の「相補性決定領域」(CDR)又は「超可変領域」(HVR)と呼ばれる極度の可変性のより短い領域によって隔てられている15~30アミノ酸のフレームワーク領域(FR)と呼ばれる比較的一様な区間からなる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、主にβ-シート配置の形をとり、3つの超可変領域によって接続されているFRをそれぞれ4つ含み、超可変領域は、β-シート構造を接続するループを形成し、時には部分を形成する。各鎖の超可変領域はFRによって近接近にまとめられ、他の鎖の超可変領域と共に抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、公衆衛生局、米国国立衛生研究所、Bethesda、MD、[1991年]を参照のこと)。定常ドメインは、抗原に抗体を結合させることに直接関係しないが、抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)における抗体の関与など様々なエフェクター機能を呈する。
【0033】
「無傷な」抗体は、抗原結合部位並びにCL及び少なくとも重鎖定常ドメイン、CH1、CH2及びCH3を含むものである。定常ドメインは、天然配列定常ドメイン(例えばヒトの天然配列定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列バリアントであり得る。無傷な抗体は、1つ以上のエフェクター機能を有することが好ましい。
【0034】
本明細書の目的の場合「裸の抗体」とは、細胞傷害性部分にコンジュゲートされていない又は放射性標識がない抗体である。
【0035】
「抗体断片」は、無傷な抗体の一部、好ましくは無傷な抗体の抗原結合又は可変領域を含む。抗体断片の例には、Fab、Fab’、F(ab’)2及びFv断片;ダイアボディ;直鎖状抗体(米国特許第5,641,870号[実施例2];Zapataら、Protein Eng.8(10):1057~1062頁[1995年]を参照のこと);一本鎖抗体分子;並びに抗体断片から形成される多重特異性抗体がある。一実施形態において、抗体断片は、無傷な抗体の抗原結合部位を含み、従って抗原に結合する能力を保持する。
【0036】
抗体のパパイン消化は、「Fab」断片と呼ばれる同一の抗原結合性断片を2つ、及び命名が容易に結晶化する能力を反映している残りの「Fc」断片を産生する。Fab断片は、完全なL鎖並びにH鎖の可変領域ドメイン(VH)及び1つの重鎖の第1定常ドメイン(CH1)からなる。各Fab断片は、抗原結合に関して一価である、即ち、単一の抗原結合部位を有する。抗体のペプシン処理は、二価の抗原結合活性を有するジスルフィド結合された2つのFab断片におおよそ対応し、抗原を架橋する能力がなおある1つの大きいF(ab’)2断片を産する。Fab’断片は、抗体ヒンジ領域からの1つ以上のシステインを含めCH1ドメインのカルボキシ末端に追加の数残基を有することによりFab断片と異なる。Fab’-SHは、定常ドメインのシステイン残基(複数可)が遊離チオール基を持つFab’に対する本明細書における命名である。F(ab’)2抗体断片は、Fab’断片の対として最初産生され、対間にヒンジシステインを有する。抗体断片の他の化学結合も、公知である。
【0037】
Fc断片は、ジスルフィドによってまとめられた両方のH鎖のカルボキシ末端部分を含む。抗体のエフェクター機能は、Fc領域の配列によって決定され、その領域は、特定の型の細胞に見られるFc受容体(FcR)によって認識される部分でもある。
【0038】
「Fv」は、完全な抗原認識及び結合部位を含有する最小の抗体断片である。この断片は、堅く、非共有結合性会合している1つの重鎖及び1つの軽鎖可変領域ドメインの二量体からなる。一本鎖Fv(scFv)種において、軽及び重鎖が、2本鎖Fv種の構造に類似の「二量体」構造で会合できるように、1つの重鎖及び1つの軽鎖可変ドメインは、柔軟なペプチドリンカーによって共有結合され得る。これら2つのドメインの折りたたみにより、抗原結合のためのアミノ酸残基に寄与し、抗体に抗原結合特異性を付与する6つの超可変ループ(それぞれH及びL鎖からの3つのループ)が生じる。しかしながら、単一可変ドメイン(又は抗原特異的なCDRを3つしか含まない、Fvの半分)さえ、抗原を認識し、結合する能力を有する。但し完全な結合部位より低い親和性である。
【0039】
「sFv」又は「scFv」と略記される「一本鎖Fv」も、単一ポリペプチド鎖に接続されたVH及びVL抗体ドメインを含む抗体断片である。sFvポリペプチドは、VHとVLドメインの間にポリペプチドリンカーを更に含むことが好ましく、そのリンカーは、sFvが望ましい構造を形成して抗原結合することを可能にする。sFvの総説については、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies、第113巻、Rosenburg and Moore編、Springer-Verlag、New York、269~315頁(1994年)を参照のこと。
【0040】
本明細書では用語「モノクローナル抗体」とは、実質的に同種の抗体の集団から得られる抗体のことを指し、即ち、集団を構成する個々の抗体は、少量で存在し得る天然に発生する可能性がある突然変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原部位に対して作られている。更にまた、異なる決定基(エピトープ)に対して作られている異なる抗体を含むポリクローナル抗体標本に対し、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して作られている。特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の抗体による汚染を含まずに合成できるという点で有利である。修飾子「モノクローナル」は、何らかの特定の方法による抗体の産生を必要とするものと解釈されるべきでない。例えば、本発明において有用なモノクローナル抗体は、Kohlerら、Nature、256:495頁(1975年)によって最初に記述されたハイブリドーマ法によって調製することができ、又は細菌、真核生物動物若しくは植物細胞における組換えDNA法(例えば米国特許第4,816,567号を参照のこと)を使用して作製できる。「モノクローナル抗体」は、例えば、Clacksonら、Nature、352:624~628頁(1991年)及びMarksら、J.Mol.Biol.、222:581~597頁(1991年)に記述される技術を使用してファージ抗体ライブラリから単離することもできる。
【0041】
本明細書におけるモノクローナル抗体は、重鎖及び/又は軽鎖の一部が、特定の種に由来する又は特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一若しくは相同であり、一方で鎖(複数可)の残りは、別の種に由来する又は別の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一若しくは相同である「キメラ」抗体、並びにそれらが望ましい生物活性を呈する限り、そのような抗体の断片を含む(米国特許第4,816,567号;及びMorrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81:6851~6855頁[1984年]を参照のこと)。本明細書における対象のキメラ抗体は、非ヒト霊長類(例えば旧世界ザル、サル等)に由来する可変ドメイン抗原結合配列及びヒト定常領域配列を含む「霊長類化」抗体を含む。
【0042】
非ヒト(例えば、齧歯目)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト抗体に由来する配列を最小限含有するキメラ抗体である。大部分の場合、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域の残基が、マウス、ラット、ウサギ又は所望の抗体特異性、親和性及び能力を有する非ヒト霊長類など非ヒト種の超可変領域(ドナー抗体)の残基によって置き換えられるヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。一部の例において、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置き換えられる。更に、ヒト化抗体は、レシピエント抗体又はドナー抗体に見られない残基を含み得る。これらの修飾は、抗体性能を更に洗練するために作製される。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、及び一般に2つの可変ドメインの実質的に全てを含むことになり、超可変ループの全て又は実質的に全ては、非ヒト免疫グロブリンの超可変ループに対応し、FRの全て又は実質的に全ては、ヒト免疫グロブリン配列のFRである。ヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域(Fc)、一般にヒト免疫グロブリンの定常領域、の少なくとも一部も任意選択で含むことになる。更なる詳細については、Jonesら、Nature 321:522~525頁(1986年);Riechmannら、Nature 332:323~329頁(1988年);及びPresta、Curr.Op.Struct.Biol.2:593~596頁(1992年)を参照のこと。以下の総説論文及びその中の引用文献も参照のこと:Vaswani及びHamilton、Ann.Allergy、Asthma and Immunol.(1):105~115頁(1998年);Harris、Biochem.Soc.Transactions、23:1035~1038頁(1995年);Hurle及びGross、Curr.Op.Biotech.5:428~433頁(1994年)。
【0043】
本明細書において使用される場合、用語「超可変領域」、「HVR」とは、配列内で超可変であり、及び/又は抗原結合に関与する構造的に定義されたループを形成する抗体可変ドメインの領域を指す。一般に、抗体は6つの超可変領域;VH中に3つ(H1、H2、H3)及びVL中に3つ(L1、L2、L3)を含む。いくつかの超可変領域描写が使用されており、本明細書に包含される。超可変領域は、「相補性決定領域」若しくは「CDR」のアミノ酸残基(例えば、Kabat付番方式;Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、公衆衛生局、米国国立衛生研究所、Bethesda、Md.[1991年]に従って付番した場合、VLにおいて残基約24~34[L1]、50~56[L2]及び89~97[L3]前後、並びにVHにおいて約31~35[H1]、50~65[H2]及び95~102[H3]前後);及び/又は「超可変ループ」のアミノ酸残基(例えば、Chothia付番方式;Chothia及びLesk、J.Mol.Biol.196:901~917頁[1987年]に従って付番した場合、VLにおいて残基24~34[L1]、50~56[L2]及び89~97[L3]、並びにVHにおいて26~32[H1]、52~56[H2]及び95~101[H3]);及び/又は「超可変ループ」/CDRのアミノ酸残基(例えば、IMGT付番方式;Lefranc,M.P.ら、Nucl.Acids Res.27:209~212頁[1999年]、Ruiz,M.ら、Nucl.Acids Res.28:219~221頁[2000年]に従って付番した場合、VLにおいて残基27~38[L1]、56~65[L2]及び105~120[L3]、並びにVHにおいて27~38[H1]、56~65[H2]及び105~120[H3])を一般に含む。任意選択で、抗体は、Honneger,A.及びPlunkthun,A.、(J.mol.Biol.309:657~670頁[2001年])に従って付番した場合、VLにおいて28、36(L1)、63、74~75(L2)及び123(L3)、並びにVHにおいて28、36(H1)、63、74~75(H2)及び123(H3)の点の1つ以上で対称性の挿入を有する。本発明の抗体の超可変領域/CDRは、Kabat付番方式に従って好ましくは定義され、付番される。
【0044】
「フレームワーク」又は「FR」残基は、本明細書に定義される超可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。
【0045】
「ブロッキング」抗体又は「アンタゴニスト」抗体は、それが結合する抗原の生物活性を阻害又は減少させる抗体である。好ましいブロッキング抗体又はアンタゴニスト抗体は、抗原の生物活性を実質的に又は完全に阻害する。
【0046】
本明細書では「アゴニスト抗体」は、対象のポリペプチドの機能的活性の少なくとも1つを模倣する抗体である。
【0047】
「種依存的抗体」、例えば、哺乳動物の抗ヒトIgE抗体は、第2の哺乳動物種からの、第1の哺乳動物種抗原の相同物に対してより第1の哺乳動物種からの抗原に強い結合親和性を有する抗体である。通常、種依存的抗体は、ヒト抗原に「特異的に結合する」(即ち、約1×10-7Mを超えない、好ましくは約1×10-8Mを超えない、最も好ましくは約1×10-9Mを超えない結合親和性[KD]値を有する)が、第2の非ヒト哺乳動物種からの抗原の相同物に対して、ヒト抗原に対する結合親和性より少なくとも約50倍、又は少なくとも約500倍、又は少なくとも約1000倍弱い結合親和性を有する。種依存的抗体は、上で定義した抗体の様々な型のいずれであることもできるが、好ましくはヒト化又はヒト抗体である。
【0048】
「結合親和性」とは、分子(例えば、抗体)の単一の結合部位とその結合パートナー(例えば、抗原)との非共有結合性相互作用の総計の強さのことを一般に指す。特に明記しない限り、本明細書では、「結合親和性」とは、結合対のメンバー(例えば、抗体と抗原)間の1:1の相互作用を反映する内的結合親和性のことを指す。分子Xの、そのパートナーYに対する親和性は、親和定数(KD)によって一般に示し得る。親和性は、本明細書に記述される方法を含め、当技術分野において公知の一般的な方法によって測定できる。低親和性抗体は、一般にゆっくり抗原に結合し、容易に解離する傾向があるのに対し、高親和性抗体は、一般に速く抗原に結合し、より長く結合し続ける傾向がある。結合親和性を測定する様々な方法が、当技術分野において公知であり、そのいずれも、本発明の目的に使用できる。特定の例示的な実施形態を、以下に記述する。
【0049】
「KD」又は「KD値」は、およそ10~50反応単位(RU)で抗原を固定化したCM5チップを用いて25℃でビアコア(BIAcore)(商標)-2000又はビアコア(商標)-3000(BIAcore、Inc.Piscataway、NJ)を使用する表面プラズモン共鳴アッセイを使用することによって測定できる。簡潔には、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5、BIAcore Inc.)を、供給元の説明書に従ってN-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸(EDC)及びN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性化する。抗原を、流速5μL/分で注射する前に、10mM酢酸ナトリウム、pH4.8で5μg/mL(およそ0.2μM)に希釈して、およそ10反応単位(RU)の結合タンパク質を達成する。抗原の注射後に、1Mエタノールアミンを注射して、反応していない基をブロッキングする。動態測定の場合、抗体又はFabの2倍系列希釈(0.78nM~500nM)が、流速およそ25μL/分で、25℃で0.05%トゥイーン20を含むPBS(PBST)に注射される。会合速度(kon又はka)及び解離速度(koff又はkd)は、会合及び解離センサグラムを同時に当てはめることによって、単純な1対1のラングミュア結合モデル(BIAcore Evaluation Software版3.2)を使用して算出される。平衡解離定数(KD)は、koff/kon比として算出される。例えば、Chen,Y.ら、(1999年)J.Mol Biol 293:865~881頁を参照のこと。onーrateが、上記の表面プラズモン共鳴アッセイにより106M-1S-1を上回る場合、次いでonーrateは、ストップフローを備えた分光光度計(Aviv Instruments)又は撹拌赤色キュベットを含む8000-シリーズSLM-Amico分光光度計(ThermoSpectronic)などの分光計において測定される通り、抗原の濃度増大の存在下で、PBS、pH7.2中の20nM抗抗原抗体(Fab形態)の25℃での蛍光放射強度(励起=295nm;発光=340nm、16nm帯域)の増減を測定する蛍光消光技術を使用することによって決定できる。
【0050】
この発明による「on-rate」又は「会合の速度」又は「会合速度」又は「kon」は、上記のビアコア(商標)-2000又はビアコア(商標)-3000(BIAcore、Inc.Piscataway、NJ)を使用する上述の同じ表面プラズモン共鳴技術で決定できる。
【0051】
対象の抗原、即ちFXIの活性中心に「結合する」抗体は、抗体が、FXIの機能的活性を阻害する治療的薬剤として有用であるような充分な親和性で抗原に結合するものであり、他のタンパク質と有意に交差反応しない。そのような実施形態において、「非標的」タンパク質に対する抗体の結合の程度は、蛍光活性化細胞選別(FACS)分析又は放射性免疫沈降法(RIA)で決定した特定の標的タンパク質への抗体の結合の約10%未満になる。標的分子に対する抗体の結合に関連して、用語「特異的結合」又は特定のポリペプチド若しくは特定のポリペプチド標的上のエピトープ「に特異的に結合する」又は「に対して特異的である」は、非特異的相互作用と測定可能な程に異なる結合を意味する。特異的結合は、例えば一般に、結合活性がない類似構造の分子である対照分子の結合と比較して分子の結合を決定することによって測定され得る。例えば、特異的結合は、標的と類似している対照分子、例えば、過剰の非標識標的との競合によって決定され得る。この場合、プローブへの標識標的の結合が、過剰な非標識標的によって競合的に阻害されるならば、特異的結合が示される。本明細書では用語「特異的結合」又は特定のポリペプチド若しくは特定のポリペプチド標的上のエピトープ「に特異的に結合する」又は「に対して特異的である」は、例えば、少なくとも約10-4M、別法として少なくとも約10-5M、別法として少なくとも約10-6M、別法として少なくとも約10-7M、別法として少なくとも約10-8M、別法として少なくとも約10-9M、別法として少なくとも約10-10M、別法として少なくとも約10-11M、別法として少なくとも約10-12M、又はより大きい標的に対するKD(上記の通り決定できる)を有する分子によって呈され得る。一実施形態において、用語「特異的結合」とは、分子が、特定のポリペプチド又は特定のポリペプチド上のエピトープに結合し、他の任意のポリペプチド又はポリペプチドエピトープに実質的に結合しない結合のことを指す。
【0052】
用語「エピトープ」は、抗原結合タンパク質、例えば抗体が結合する分子の部分である。用語は、抗体又はT細胞受容体など抗原結合タンパク質に特異的に結合する能力がある任意の決定基を含む。エピトープは、隣接することも又は隣接しないこともできる(例えば、ポリペプチドにおいて、ポリペプチド配列中では互いに隣接していないが、分子中において抗原結合タンパク質が結合するアミノ酸残基)。ある特定の実施形態において、エピトープは、抗原結合タンパク質を生成するために使用されるエピトープと類似の3次元構造を含み、更に抗原結合タンパク質を生成するために使用されるエピトープに見られるアミノ酸残基を全く又は少ししか含まないという点で模倣体であり得る。ほとんどの場合、エピトープはタンパク質に存在するが、一部の例において核酸など他の種類の分子にも存在し得る。エピトープ決定基は、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル、スルホニル若しくは硫酸基など分子の化学的に活性な表面基を含み得、特定の3次元構造特性及び/又は特定の電荷特性を有し得る。一般に、特定の標的抗原に特異的な抗体は、タンパク質及び/又は巨大分子の複雑な混合物中で標的抗原上のエピトープを優先的に認識することになる。
【0053】
「配列同一性」及び「配列類似性」は、2つの配列の長さに応じてグローバル若しくはローカル整列化アルゴリズムを使用して2つのアミノ酸配列又は2つのヌクレオチド配列の整列化によって決定され得る。類似の長さの配列は、完全長にわたって配列を最適に整列させるグローバル整列化アルゴリズム(例えばNeedleman Wunsch)を使用して好ましくは整列され、実質的に異なる長さの配列は、ローカル整列化アルゴリズム(例えばSmith Waterman)を使用して好ましくは整列される。配列は、少なくとも特定の最小のパーセンテージの配列同一性(以下で定義する)を共有する場合(初期値パラメータを使用して例えばプログラムGAP又はBESTFITにより最適に整列させた場合)、それ故「実質的に同一」又は「本質的に類似している」と呼び得る。GAPは、Needleman及びWunschグローバル整列化アルゴリズムを使用して、2つの配列をその完全長(全長)にわたって整列させ、一致の数を最大化し、ギャップの数を最小化する。2つの配列が類似の長さを有する場合、グローバル整列化を適切に使用して、配列同一性を決定する。一般に、GAP初期値パラメータは、ギャップ作成ペナルティ=50(ヌクレオチド)/8(タンパク質)及びギャップ伸長ペナルティ=3(ヌクレオチド)/2(タンパク質)で使用される。ヌクレオチドの場合、使用される初期値スコア行列は、nwsgapdnaであり、タンパク質の場合、初期値スコア行列は、Blosum62(Henikoff及びHenikoff、1992年、PNAS 89、915~919頁)である。パーセンテージ配列同一性のための配列整列化及びスコアは、Accelrys Inc.、9685 Scranton Road、San Diego、CA 92121-3752 USAから利用可能なGCG Wisconsin Package、バージョン10.3などのコンピュータプログラムを使用して、又はEmbossWINバージョン2.10.0中にあるプログラム「needle」(グローバルNeedleman Wunschアルゴリズムを使用する)若しくは「water」(ローカルSmith Watermanアルゴリズムを使用する)などのオープンソースソフトウェアを使用して、上記のGAPの場合と同じパラメータを使用して、若しくは初期値設定を使用して決定され得る(「needle」及び「water」の両方について、並びにタンパク質及びDNA整列化両方について、初期値Gap開始ペナルティは10.0であり、初期値ギャップ伸長ペナルティは0.5であり;初期値スコアマトリックスはタンパク質に対してBlossum62及びDNAに対してDNAFullである)。配列が、実質的に異なる全体長を有する場合、Smith Watermanアルゴリズムを使用する整列化などローカル整列化が好ましい。別法として、パーセンテージ類似性又は同一性は、FASTA、BLAST、等などのアルゴリズムを使用する公開データベースに対する検索によって決定できる。
【0054】
2つのアミノ酸配列が、上記の整列化プログラムのいずれかを使用して整列されたら、所与のアミノ酸配列Bへの、それとの、又はそれに対する所与のアミノ酸配列Aの%アミノ酸配列同一性(別法としてそれは、所与のアミノ酸配列Bへ、それと、若しくはそれに対して特定の%アミノ酸配列同一性を有する又は含む所与のアミノ酸配列Aと、言い表せる)が、以下の通りに算出される:分数X/Yを100倍する、ここで、Xは、A及びBの配列整列化プログラムの整列化においてそのプログラムによって同一の一致とスコアされるアミノ酸残基の数であり、Yは、Bにおけるアミノ酸残基の合計数である。アミノ酸配列Aの長さが、アミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、Bに対するAの%アミノ酸配列同一性が、Aに対するBの%アミノ酸配列同一性と等しくならないことは理解されよう。
【0055】
「核酸構築物」又は「核酸ベクター」は、組換えDNA技術の使用により得られる人工核酸分子を意味すると本明細書において理解される。従って、用語「核酸構築物」は、天然に存在する核酸分子を含まない、但し核酸構築物は、天然に存在する核酸分子(の部分)を含み得る。用語「発現ベクター」又は「発現構築物」とは、そのような配列と適合性がある宿主細胞又は宿主生物において遺伝子の発現を生じさせる能力があるヌクレオチド配列のことを指す。これらの発現ベクターは、少なくとも適切な転写調節配列及び任意選択で、3’転写終結シグナルを一般に含む。発現エンハンサーエレメントなど、発現を生じさせるのに必要な又は有益な追加の因子も存在し得る。発現ベクターは、適切な宿主細胞に導入され、宿主細胞のin vitro細胞培養においてコード配列の発現を生じさせ得ることになる。発現ベクターは、本発明の宿主細胞又は生物中での複製に適切であることになる。
【0056】
本明細書では、用語「プロモーター」又は「転写調節配列」とは、1つ以上のコード配列の転写を制御するために機能し、コード配列の転写開始部位の転写方向に対して上流に位置し、DNA依存RNAポリメラーゼの結合部位、転写開始部位、及び転写因子結合部位、リプレッサー及び活性化タンパク質結合部位を含むがそれに限らない他の任意のDNA配列、並びにプロモーターからの転写量を調節するために直接又は間接的に作用する当業者に公知のヌクレオチドの他の任意の配列の存在によって構造的に同定される核酸断片のことを指す。「構成的」プロモーターは、大部分の生理的及び発達条件下で大部分の組織において活性であるプロモーターである。「誘導可能な」プロモーターは、例えば化学誘導物質の適用により、生理的に又は発達上調節されるプロモーターである。
【0057】
本明細書では、用語「作動可能に連結される」とは、機能的関係にあるポリヌクレオチドエレメントの連結のことを指す。核酸は、別の核酸配列と機能的関係に配置される場合、「作動可能に連結されている」。例えば、転写調節配列が、コード配列の転写に影響を及ぼす場合、転写調節配列は、コード配列に作動可能に連結されている。作動可能に連結されているとは、連結されているDNA配列が、一般に隣接しており、2つのタンパク質コード領域を接続するために必要な場合、隣接し且つ読み枠が合っていることを意味する。
【0058】
発明の詳細な説明
本発明の抗FXI抗体
本発明は、FXIを標的とする抗凝固療法の手段及び方法に関する。FXIは、正常な止血において果たす役割が小さいので、FXI阻害剤は、出血副作用のリスクがより少ない。実際、動物においてFXI欠損又はFXI阻害は、出血時間に対する効果がなく、出血時間を著しく延長し、診療における重篤な出血副作用と関連する高用量ヘパリンと対照的である。従って、病的血栓症におけるその活性な役割、及びあるとしても、正常な止血における小さい役割のため、FXIは、抗凝固療法に対する魅力的な標的である。本発明者らは、ヒトにおいてFXI活性を阻害するための固有の抗体を開発した。
【0059】
第1の態様において、本発明は、FXI又はFXIaの活性中心に特異的に結合し、FXIaの機能的活性を阻害するモノクローナル抗体(mAb)に関する。本明細書においてFXIは、哺乳動物の血漿凝固第XI因子と理解される。本発明の抗体は、ヒト第XI因子のセリンプロテアーゼドメインに特異的に結合し、FXIaによる基質の変換を阻害することが好ましい。
【0060】
発色アッセイにおいて決定されるFXIaの発色活性に対する(部分的)阻害効果によって同定されるように、本発明の抗体はFXIaの触媒中心を阻害する。発色性基質は、p-ニトロアニリド(pNA)に結合した小さいペプチドからなる。基質の加水分解は、分光光度計で測定できるpNAを遊離する。特定のプロテアーゼに対する基質の特異性は、pNAに連結されるペプチドの正確な配列によって決まる。FXIaの場合、基質S2366(L-ピログルタミル-L-プロリル-L-アルギニン-p-ニトロアニリン;Chromogenix、Molndal、Sweden)が、適当である。この基質によるFXIa活性の測定は、Minnema MCらによって記述されている方法を使用して行い得る(Blood 1998年;92:3294~3301頁)。
【0061】
本発明の抗体は、FXI及びFXIaの少なくとも一方に好ましくは結合し、FXIaの酵素活性を阻害する。FXIaのこれら阻害される活性には、FIXaへのFIXの変換、FXIaへのFXIの変換(FXIの自己活性化の間)、及び発色性基質の変換のうちの1つ以上が好ましくはある。本発明の抗体は、FXIがどのように活性化されているかとは無関係にFXI/FXIaの活性を阻害することがより好ましい。
【0062】
抗体は、分子のセリンプロテアーゼドメインに位置する活性部位に結合又は接近することよってFXI/FXIaの活性を阻害することが好ましく、FXIaの基質であるFIXとの相互作用に関係するセリンプロテアーゼドメイン中の部位に結合又は接近することによることがより好ましい。
【0063】
抗体は、FXIの天然の形態及び活性化形態であるFXIaに結合し、FXIaの基質であるFIXとの相互作用に関係する部位に結合又は接近することによってFXIaの活性を阻害することが好ましい。
【0064】
従って、本発明の抗体は、FXI/FXIaの活性部位ドメインに結合し、FXIaの酵素活性を阻害し、FIXの活性化を阻害する能力によって特徴付けられる。前記抗体は、本明細書の実施例に記載のアッセイにおいてその効果を評価することにより選択できる。特に、抗FXI抗体は、ヒト血漿において活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)によって決定される、凝固系の凝固活性に対する効果を評価することによって選択できる。本発明のFXI抗体の機能特性は、新鮮なヒト血漿にこれらを添加し、その後標準の凝固アッセイにおいてAPTTを測定することによって試験できる。FXI/FXIaの活性を阻害する抗体の場合、APTTの延長が観察される。対照として正常な血漿(正常なAPTT)及びFXI欠損した血漿(延長されるAPTT)が、試験される。これらの凝固アッセイは、当技術分野において周知である(本明細書の実施例も参照のこと)。
【0065】
本発明の好ましい抗体は、a)活性化第XI因子の軽鎖に結合し、b)L-ピログルタミル-L-プロリル-L-アルギニン-p-ニトロアニリンに対する第XIa因子の発色活性を減少させ、c)第XI因子への結合について、重鎖可変ドメインが配列番号1を含み、軽鎖可変ドメインが配列番号2を含む抗体と交差競合する抗体である。
【0066】
本発明の抗体は、本明細書において上で定義した活性化第XI因子の軽鎖に特異的に結合することが好ましい。従って、抗体は、抗体が、上記の発色アッセイにおいてFXIの機能的活性を阻害する治療的薬剤として有用であるような充分な親和性でFXIの活性中心に結合することが好ましい。抗体は、他のタンパク質と有意に交差反応しないことが好ましい。本発明の抗体は、100、50、10又は5nM未満、より好ましくは1nM未満の親和性でFXIに結合することになることが好ましい。FXIに対する抗体の特異性は、表面プラズモン共鳴及び/又は酵素免疫測定法などの結合アッセイを含めた当技術分野においてそれ自体公知の任意の適切な様式で決定され得る。
【0067】
本発明の抗体は、発色基質であるL-ピログルタミル-L-プロリル-L-アルギニン-p-ニトロアニリン(S2366)に対する第XIa因子の発色活性を減少させることが好ましい。抗体は、S2366基質に対する第XIa因子の発色活性を少なくとも2、5、10、20又は50%減少させることが好ましい。
【0068】
本発明の抗体は、第XIa因子への結合について、重鎖可変ドメインが配列番号1を含み、軽鎖可変ドメインが配列番号2を含む抗体と交差競合することが好ましい。2つ以上の抗体の文脈において本明細書で使用される場合、用語「と競合する」又は「と交差競合する」は、2つ以上の抗体が、FXIへの結合について競合すること、例えば、本明細書の実施例1.4に記述されるELISAにおいてFXI結合について競合することを示す。一部の抗体の対の場合、実施例1.4のアッセイにおける競合は、一方の抗体がプレート上にコーティングされ、他方が競合に使用される場合にだけ観察され、その逆はない。用語「と競合する」は、本明細書において使用される場合、そのような組合せ抗体を包含することも意図される。第XIa因子への結合について配列番号1及び2の可変ドメインによって定義された抗体と交差競合する本発明の抗体は、FXIaへの定義した抗体の結合を、ELISAにおいて少なくとも2、5、10、20又は50%減少させることが好ましい。
【0069】
一実施形態において、本発明の抗体は、FXI/FXIaの機能的活性を阻害し、APTTアッセイにおいて約25~100nMの濃度でFXI活性の少なくとも10、20、50又は90%阻害をもたらす分子であることが好ましい。分子は、APTTアッセイにおいて約25~100nMの濃度でFXI活性の少なくとも95%阻害をもたらすことがより好ましい。
【0070】
本発明の抗体は、配列番号3の配列を含むHVR-H1、配列番号4の配列を含むHVR-H2、配列番号5の配列を含むHVR-H3、配列番号6の配列を含むHVR-L1、配列番号7の配列を含むHVR-L2及び配列番号8の配列を含むHVR-L3から選択される超可変領域(HVR)を少なくとも1つ含むことが好ましい。抗体は、配列番号3の配列を含むHVR-H1、配列番号4の配列を含むHVR-H2、配列番号5の配列を含むHVR-H3、配列番号6の配列を含むHVR-L1、配列番号7の配列を含むHVR-L2及び配列番号8の配列を含むHVR-L3から選択される超可変領域(HVR)を2、3、4、5又は6個含むことがより好ましい。
【0071】
本発明の抗体は、マウス、キメラ又はヒト化抗体であることが好ましく、又は抗体は、Fv、一本鎖Fv(scFv)、Fab、Fab’、(Fab’)2及びナノボディから選択される抗体断片である。
【0072】
本発明による好ましい抗体又は抗体断片は、配列番号13~16のうちの少なくとも1つと少なくとも80、85、90、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性があるアミノ酸配列を含み、抗体の軽鎖可変ドメインは、配列番号17~20のうちの少なくとも1つと少なくとも80、85、90、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性があるアミノ酸配列を含む。抗体の重鎖可変ドメインは配列番号16のアミノ酸配列を含み、抗体の軽鎖可変ドメインは配列番号20のアミノ酸配列を含むことがより好ましい。
【0073】
本発明は、例の抗体の重鎖可変ドメイン、軽鎖可変ドメイン又は1つ以上のHVRの機能的バリアントを含む抗体も提供する。抗FXI抗体の文脈において使用される重鎖可変ドメイン、軽鎖可変ドメイン又は1つ以上のHVRの機能的バリアントは、抗体が、親抗体の親和性/結合力及び/又は特異性/選択性の少なくとも実質的な割合(少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%又はより多く)を保持することがなお可能であり、いくつかの場合において、そのような抗FXI抗体は、親抗体より大きな親和性、選択性及び/又は特異性と関連する場合がある。本明細書に記載の通り上で決定され得たように、そのような機能的バリアントは、親抗体に対して有意なアミノ酸配列同一性を一般に保持する。
【0074】
HVRバリアントの配列は、主に保存的置換によって親抗体配列のHVRの配列と異なり得る;例えば、バリアント内の置換の少なくとも約35、50、60、70、75、80、85、90、95、96、97、98又は99%は、保存的アミノ酸残基置きかえである。HVRバリアントの配列は、主に保存的置換によって親抗体配列のHVRの配列と異なり得る;例えば、バリアント内の置換の少なくとも10、9、8、7、6、5、4、3、2又は1個は、保存的アミノ酸残基置きかえである。本発明の文脈において、保存的置換は、以下の3つの表の1つ以上に反映されているアミノ酸クラス内の置換によって定義され得る:
【0075】
【0076】
より保存的な置換群には、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン及びアスパラギン-グルタミンがある。アミノ酸の更なる群は、例えば、Creighton(1984年)Proteins:Structure and Molecular Properties(第2版1993年)、W.H.Freeman and Companyに記述される原理を使用して定めることもできる。
【0077】
本発明の一実施形態において、保存も、ヒドロパシー/親水性特性及び残基重量/サイズの点で、例の抗体のHVRと比較してバリアントHVRにおいて実質的に保持される(例えば、重量クラス、ヒドロパシースコア、又は配列の両方が、少なくとも50、60、70、75、80、85、90、95、96、97、98又は99%保持される)。例えば、保存的残基置換はまた、又は別法として、強弱に基づく、重量に基づく保存群の置きかえに基づくことができ、このことは当技術分野において公知である。
【0078】
類似残基の保持は、BLASTプログラム(例えば、標準的な設定BLOSUM62、開始ギャップ=11及び伸張ギャップ=1を使用するNCBIを通して利用可能なBLAST2.2.8)の使用により決定される、類似性スコアによっても又は別法として測定され得る。適切なバリアントは、親ペプチドに対して少なくとも約45、55、65、75、85、90、95又は99%類似性を一般に呈する。
【0079】
本発明の一実施形態において、抗体は、ヒンジ領域に、重鎖の鎖内ジスルフィド架橋形成よりも鎖間ジスルフィド架橋に有利な突然変異を含む。Angelら(1993年、Mol Immunol 30:105~8頁)に記述されるように、突然変異はS241Pであることが好ましい。
【0080】
本発明の別の実施形態において、抗体は、IgG4領域、好ましくはヒト又はヒト化IgG4領域、マウスIgG1領域、IgG1領域、好ましくはヒト又はヒト化IgG1領域、より好ましくは補体活性化又はFc受容体相互作用を減少させる若しくは防止するために定常領域において突然変異されているIgG1領域である重鎖定常領域を含む。別法として、抗体は、単量体IgM抗体サブユニット又は単量体IgA抗体サブユニット、好ましくは単量体ヒト(化)IgM抗体サブユニット又は単量体ヒト(化)IgA抗体サブユニット)である。
【0081】
本発明の抗体を生成する
本発明のMAbは、ヒトFXI/FXIa又はこれら分子の部分で免疫した動物から免疫細胞を単離することにより、及び免疫細胞を不死化してハイブリドーマなどの抗体分泌細胞株を得ることによって得られる。様々な精製方法によって単離された、ヒトFXI、FXIa、FXIの単離されたセリンプロテアーゼドメインなどその断片、及び/又はFXIアミノ酸配列を含む合成ペプチドを使用して、適当な宿主動物を免疫できる。所望の抗体を産生する細胞株は、抗体活性の存在について培養上清をスクリーニングし、FXIの機能的活性に対して選択した抗体の効果を確立することによって同定され得る。
【0082】
MAbは、当業者によってよく理解されている様々な技術で産生され得る。この適用の範囲は、抗体若しくはその断片がどのように作製又は製造されるかとは無関係に、FXI/FXIaのセリンプロテアーゼドメインの活性部位に結合し、FXIaによる基質の変換を遮断することによってヒトFXI/FXIaの活性を遮断する任意の抗体又はその断片を目的とする。活性部位におけるmAbに対するエピトープの局在化は、mAbが、FXIaの発色活性を(部分的に)阻害することを実証することによって確認される。
【0083】
様々な動物におけるin vivo及びヒト若しくはマウス又は他の動物のリンパ球によるin vitro両方での様々な免疫化プロトコールを利用することができ、当業技術者に周知である。ヒトFXIに対する抗体を持つ患者、例えば投与された外来性FXIに対する抗体応答を起こした(Salomon Oら、Blood 2003年;101:4783~8頁)又は他の理由からFXI欠損を獲得したFXI欠損の人、由来のヒトリンパ球を使用してmAbを生成することもできる。
【0084】
FXI、FXIa、その部分又はFXIペプチドで免疫したマウスのリンパ球と適当な融合パートナーとの融合によって得られるハイブリドーマの培養上清の初期のスクリーニングステップは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって、行われることが好ましい。このアッセイは、当業技術者に公知である。その後、FXI(a)の活性に対する抗体の効果が、試験される。簡便なアッセイは、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)に対する効果を試験することである。FXI/FXIaの活性を遮断する抗体が、ヒト血漿に添加された場合、APTTを延長することになる。mAb又はその断片に対するエピトープの局在化は、FXIaの発色活性に対するmAbの効果を評価することによって検出され得る。
【0085】
本発明の抗体を含む組成物
第2の態様において、本発明は、本明細書において上で定義した抗体又は抗体断片を含む医薬組成物に関係する。医薬組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体を更に含むことが好ましい。アジュバント又は媒体などの薬学的に許容可能な担体は、対象に抗体又は抗体断片を投与するためのものある。前記医薬組成物は、それを必要とする対象に組成物の有効量を投与することにより本明細書において以下に記述される処置の方法に使用され得る。本明細書では用語「対象」とは、哺乳動物に分類され、霊長類及びヒトを含むがそれに制限されない全ての動物のことを指す。対象は、あらゆる年齢又は人種の男性若しくは女性であることが好ましい。
【0086】
本明細書では用語「薬学的に許容可能な担体」は、医薬投与に適合するすべての溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌及び抗真菌剤、等張及び吸収遅延剤、などを含むことを意図する(例えば「Handbook of Pharmaceutical Excipients」、Roweら編、第7版、2012年、www.pharmpress.comを参照のこと)。薬学的に活性な物質としてのそのような培地及び薬剤の使用は、当技術分野において周知である。任意の通常媒体又は薬剤が、活性化合物と適合しない場合以外、組成物におけるその使用が検討される。許容可能な担体、賦形剤又は安定剤は、利用される投薬量及び濃度においてレシピエントに対して無毒性であり、リン酸、クエン酸及び他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸及びメチオニンを含めた酸化防止剤;保存剤(オクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾールなど);低分子量ポリペプチド(約10残基未満);血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース又はデキストリンを含めた単糖類、二糖類及び他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属複合体(例えばZn-タンパク質複合体);及び/又はトゥイーン(TWEEN)(商標)、プルロニクス(PLURONICS)(商標)若しくはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含む。
【0087】
本発明の抗体は、同じ処方で又は異なる処方で投与され得る。投与は、併用又は連続であることができ、いずれの順序においても有効であり得る。
【0088】
更なる実施形態において、本発明の抗体は、所望のin vivo血清半減期を達成するために修飾される。この目的のために、ポリアルキレングリコール基(例えばポリエチレングリコール[PEG]基、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール)又は例えば血清アルブミン若しくはトランスフェリンなどの血清タンパク質が、抗体に連結又はコンジュゲートされ得、及び/又は抗体のアミノ酸配列が、修飾され得る。特に、抗体である抗体の定常ドメインのアミノ酸配列が、修飾され得る(例えば、アミノ酸置換、削除及び/又は挿入を導入する)。従って、これら修飾のいずれかを使用して、抗体のin vivo血清半減期を1、2、5、10又は20日間を超えて増大させることができる。当業者には当然のことながら、半減期を増大させるための本発明の抗体の修飾は、抗体が、低用量で及び/又は繰り返し投与の場合頻度を減少させて投与されることを可能にする。
【0089】
医薬組成物は、静脈若しくは皮下注射又は注入を含めた任意の適切な経路及び様式によって投与され得る。当業者に認識されるであろうように、投与の経路及び/又は方法は、所望の結果に応じて変わることになる。非経口投与の場合、mAbは、薬学的に許容される非経口媒体と組み合わせた注射可能な形態に処方されることになる。そのような媒体は当技術分野において周知であり、例には、生理食塩水、デキストロース溶液、リンガー溶液及びヒト血清アルブミンを少量含有する溶液がある。一般に、mAb又はその断片は、1mL当たり約20mg~約100mgの濃度でそのような媒体中に処方されることになる。この発明の一実施形態において、抗体は、静脈注射によって投与される。
【0090】
本発明の抗体の使用
第3の態様において、本発明は、医薬として使用するための、本明細書において上で定義した抗体若しくは抗体断片、又は前記抗体若しくは抗体断片を含む医薬組成物に関する。
【0091】
第4の態様において、本発明は、FXI活性化が介在する並びに/又はFXIの阻害が有益な効果を有する疾患、障害及び/若しくは状態を防止若しくは処置する方法に関係する。本方法は、対象に本明細書において上で開示した抗体若しくは抗体断片を、疾患、障害及び/若しくは状態を処置又は防止するのに有効な量で投与するステップを含むことが好ましい。従ってこの態様において、本発明は、i)FXI活性化が介在する疾患、障害又は状態;及びii)FXIの阻害が有益な効果を有する疾患、障害又は状態のうちの少なくとも1つの防止又は処置に使用するための本明細書において上で定義した抗体若しくは抗体断片又は前記抗体若しくは抗体断片を含む医薬組成物に関する。疾患、障害及び/若しくは状態を防止又は処置することが、疾患、障害及び/若しくは状態又は疾患、障害及び/若しくは状態に関連する症状が起こるリスクを減少させることを意味することは、本明細書において理解される。この態様において、疾患、障害又は状態は、凝固が関係する疾患、障害又は状態であることが好ましい。疾患は、FXIを介する凝固活性化が介在する血栓塞栓性疾患又は炎症性疾患であることがより好ましい。従ってこれらの実施形態において、本発明の抗体は、病理学的血栓症を防止若しくは処置するため又は医療手順が原因で血栓症を発症するリスクが増大している対象における血栓症の防止に使用される。これらの実施形態において、使用は、心筋梗塞、虚血性脳卒中、心房細動による心原性脳塞栓症、血管アクセス血栓症、深部静脈血栓症、動脈血栓、冠血栓症、アテローム性動脈硬化症、関節炎、脈管炎、呼吸障害症候群、虚血性心疾患、虚血性脳疾患、肺塞栓症、手術若しくは固定化に起因する静脈血栓塞栓症、人工血管移植、ステント、若しくは動静脈瘻の血栓症及び閉塞、人工心臓弁、汎発性血管内凝固(DIC)、血液透析、心房細動、敗血症、感染性ショック、臓器不全、腎不全、治療用タンパク質のin vivo投与によって誘導される毒性、多発性損傷、虚血-再灌流傷害、局所的な望ましくない線維素沈着並びに成人呼吸窮迫の間の肺胞における線維素沈着からなる群から選択される少なくとも1つの障害、疾患又は状態を防止又は処置するためであることが好ましい。
【0092】
別の実施形態によると、本発明の抗体を使用して、様々なヒト疾患において凝固を阻害できる。その結果、本発明の阻害剤を使用して、in vivoで凝固を阻害することにより血栓塞栓障害を減弱するための医薬を調製できる。抗体は、単独で又は他の薬物と組み合わせて使用することができる。
【0093】
更なる実施形態において、本発明の抗体を単独又は任意の適切な割合で他の薬物と組み合わせて使用して医薬を調製し、それによって疾患又は病的血栓症及び若しくは塞栓に起因する疾患症状を患っている、或いはそのような疾患に対するリスクがある対象を処置することができる。
【0094】
従って、本発明において、凝固が介在する損傷を含めた疾患を患っている患者は、FXIの活性化が阻害されるように、本発明の抗FXI抗体の有効量を投与され得る。「有効量」により、トロンビン生成及びフィブリンの形成を阻害できる抗体の濃度が意味される。
【0095】
処置(予防的又は治療的)は、本発明の抗体、例えば抗体又はその断片を含む組成物を、非経口的、好ましくは静脈内、動脈内、筋肉内又は皮下投与するステップから一般になることになる。Gruber及びHanson(Gruber及びHanson、2003年、Blood 102:953~955頁)は、ヒヒにおいて16~50mg/kgの用量でヤギ抗FXI抗体を投与して、FXIの充分な阻害を達成した。それに対して、本発明の抗体の用量及び投与レジメンは、kg体重当たり1週間につきIgG 0.5~10mgの投薬量に等しい投薬量の範囲であることが好ましい。本発明の抗体は、1週間につきkg体重当たりIgG 18、16、14、12、10、8、6又は4mg未満の投薬量に等しい投薬量及び/又は1週間につきkg体重当たりIgG少なくとも0.6、0.8、1.0、1.2、1.5、2又は4mgの投薬量に等しい投薬量で投与されることがより好ましい。例えば抗体断片の場合、使用される投薬量は、指示したkg体重当たりのIgG分子mg量に対応するモル当量になるものと理解される。
【0096】
本発明の抗体に対する投薬量レジメンが、約7日間のヒト抗体の平均血清半減期に基づくことは更に理解される。当業者は、7日間より短い又は長い半減期を持つ抗体の投薬量レジメンを調整する方法を知ることになる。
【0097】
更なる実施形態において、本発明の抗体は、静脈注入によってヒト患者に投与される場合、好ましくは10又は5mg/kg体重未満の投薬量で少なくとも50、60、70、80若しくは90%のFXIの阻害をもたらす。別法として、本発明の抗体は、静脈注入によってヒト患者に投与される場合、好ましくは10又は5mg/kg体重未満の投薬量で少なくとも係数1.1、1.2、1.25、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、2.0、2.2、2.5、3若しくは4にaPTTの延長をもたらす。
【0098】
更なる実施形態において、本発明の抗体は、静脈注入によってヒト患者に投与される場合、10又は5mg/kg体重未満の投薬量で治療的有用性を提供する。
【0099】
一実施形態において、本発明による抗体の、上に示した週投薬量の当量が、注入によって投与され得る。そのような投与は、望まれるなら何度も繰り返され得る。投与は、ボーラス注射若しくは注入、又は2~12時間など2時間未満~24時間の期間にわたる持続注入によって実行され得る。別の実施形態において、本発明の抗体は、24時間を超えてなど長時間にわたるゆっくりした持続注入によって投与され得る。そのようなレジメンは、継続する、又は必要に応じて、例えば6ヵ月若しくは12ヵ月後に1回以上繰り返し得る。投薬量は、本発明のmAbを標的とする抗イディオタイプ抗体を使用することにより生体サンプル中の投与に応じて循環している抗FXI抗体の量を測定することによって決定又は調整され得る。更に別の実施形態において、抗体は、例えば、6ヵ月又はより長期にわたって1、2、3、4又は6週間当たり1回などの維持療法によって投与され得る。
【0100】
一実施形態において、本発明の抗体は、例えば定期的な透析を受けている患者における人工血管移植、ステント又は動静脈瘻の血栓症(及び閉塞)の防止又は減少に使用される。好ましくは患者が透析を受けている場合、これら患者において抗体は、少なくとも毎週又は週当たり数回(例えば2、3又は4回)投与され得る。好ましい実施形態において、抗体は、透析装置によって、例えば患者に戻される透析された体液中で患者に投与される。
【0101】
別の実施形態において、本発明の抗体は、例えば心房細動、不安定狭心症、深部静脈血栓症、汎発性血管内凝固、前立腺手術、整形外科、特に股関節又は膝及び他の血栓塞栓障害がある患者においてなど、持続的な抗凝固療法を必要とするにもかかわらず、定期的な非経口接近がない患者に投与される。これらの患者において、時間当たり一定回数の抗体の投与、例えば2、3、4又は6週間当たり1回、が適用されることが好ましい。
【0102】
共通の全般的な知見に基づいて、当技術に熟達した者は、本発明の抗体を投与する適切な方法を選択して、循環中又は局所的いずれかにおいて十分高いレベルの抗体を得、それにより(a)FXI活性の実質的な遮断、及び(b)FXI活性化が介在する並びに/又はFXIの阻害が有益な効果を有するあらゆる所与の疾患、障害及び/若しくは状態に必要とされる所望の予防若しくは治療効果のためのトロンビン生成の実質的な遮断のうちの少なくとも1つとして少なくとも1つを達成できることになる。
【0103】
本発明の抗体の産生及び精製
本発明の抗FXI抗体は、多くの従来通りの技術のいずれかにより調製され得る。抗FXI抗体は、当技術分野において公知の任意の技術を使用して、組換え発現系で通常産生されることになる。例えばShukla及びThommes(2010年、「Recent advances in large-scale production of monoclonal antibodies and related protein」、Trends in Biotechnol.28[5]:253~261頁)、Harlow及びLane(1988年)「Antibodies:A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY、並びにSambrook及びRussell(2001年)「Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第3版)、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、NYを参照のこと。当技術分野において公知の任意の発現系を使用して、本発明の組換えポリペプチドを作ることができる。一般に、宿主細胞は、所望のポリペプチドをコードしているDNAを含む組換え発現ベクターで形質転換される。
【0104】
一態様において、従って、本発明は、本発明の抗FXI抗体をコードしているヌクレオチド配列を含む核酸分子に関する。1つのヌクレオチド配列は、本発明の抗FXI抗体の軽鎖の可変ドメインを少なくとも含むポリペプチドをコードし、別のヌクレオチド配列は、本発明の抗FXI抗体の重鎖の可変ドメインを少なくとも含むポリペプチドをコードする。好ましい核酸分子は、発現ベクターであり、本発明の抗体ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列は、例えばプロモーター及びシグナル配列などの発現調節配列に作動可能に連結されている。
【0105】
別の態様において、本発明は、本節において上で定義した核酸分子を含む細胞に関係する。細胞は、単離された細胞又は培養細胞であることが好ましい。宿主細胞のうち利用できるのは、原核生物、酵母又は高等真核細胞である。原核生物には、グラム陰性又はグラム陽性生物、例えば大腸菌(E.coli)又はバチルスがある。高等真核細胞には、昆虫細胞及び哺乳動物起源の樹立細胞株がある。適切な哺乳動物宿主細胞株の例には、サル腎培養細胞のCOS-7系(Gluzmanら、1981年、Cell 23:175頁)、L細胞、293細胞、C127細胞、3T3細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、BHK細胞株及びMcMahanら、1991年、EMBO J.10:2821頁に記述されるアフリカミドリザル腎培養細胞株CVIに由来するCVI/EBNA細胞株がある。細菌、真菌、酵母並びに哺乳動物細胞宿主での使用に適当なクローニング及び発現ベクターは、Pouwelsらによって記述されている(Cloning Vectors:A Laboratory Manual、Elsevier、New York、1985年)。
【0106】
形質転換細胞は、ポリペプチドの発現を促進する条件下で培養され得る。従って一態様において、本発明は、本発明の抗FXI抗体を産生する方法に関し、方法は、本明細書において定義される少なくとも1つの発現ベクターを含む細胞をポリペプチドの発現を促す条件下で培養するステップと、任意選択でポリペプチドを回収するステップとを含む。
【0107】
本発明の抗FXI抗体は、例えばプロテインA-セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析又は例えばキャプチャーセレクト(CaptureSelect)(商標)リガンドを使用する親和性クロマトグラフィーが、ラクダ科動物由来の単一ドメイン(VHH)抗体断片に基づく固有の親和性精製溶液を提供する(例えばEiflerら、2014年、Biotechnology Progress DOI:10.1002/btpr.1958を参照のこと)ことを含めた親和性クロマトグラフィー(例えばLowら、2007年、J.Chromatography B、848:48~63頁;Shuklaら、2007年、J.Chromatography B、848:28~39頁を参照のこと)を含めた従来通りのタンパク質精製手順によって回収され得る。本明細書における使用を検討するポリペプチドは、内在性汚染材料を実質的に含まない実質的に均一な組換え抗FXI抗体ポリペプチドを含む。
【0108】
この文書及びその請求項において、動詞「含む」及びその活用型は、その単語に続く項目を含むが、特別に言及されていない項目を除外しないことを意味するために非限定的な意義で使用される。加えて、不定冠詞「a」又は「an」による要素への参照は、その文脈が、1つ及び1つだけの要素があるということを明確に必要としない限り、1つより多い要素が存在するという可能性を除外しない。従って、不定冠詞「a」又は「an」は通常「少なくとも1つ」を意味する。
【0109】
本明細書において引用される特許及び文献参照の全ては、その全体を参照により本明細書に組み込む。
【0110】
以下の例は、例示的な目的のためだけ提供され、本発明の範囲を限定することを意図するものでは決してない。
【実施例】
【0111】
1.材料及び方法
1.1材料
ヒト凝固因子FXI、FX及びFIXを、Haematologic Technologies、 Inc.(Essex Junction、VT、USA)から購入した。血漿FXIも、LFB(Hemoleven;LFB、Les Ulis、France)から入手した。加えて、FXIの供給源は、下で開示する実験の成果とは無関係なので、他の供給源からのFXI(血漿から精製されたFXI又はProf JC Meijers、Amsterdamから入手した組換えヒトFXI)を使用した。プレカリクレイン(PK)を、Merck Millipore、Darmstadt、 Germanyから入手した。Pathromtin SL又はカオリン(Kaolin)STA(Stago)(aPTT試薬)、組換えイノビン(Innovin)及びFXI欠損血漿を、Siemens Healthcare Diagnostics(Marburg、Germany)から入手した。トロンビンキャリブレーター及びFluCaキットを、Thrombinoscope BV、Maastricht、Netherlandsから入手した。蛍光発生基質Z-Gly-Gly-Arg-AMCを、Bachem、Bubendorf、Switzerlandから購入した。リン脂質(PC/PS/PE、40/40/20)を、Avanti Polar Lipids、Alabaster、Alabamaから入手した。発色性基質S2366及びS2222を、Chromogenix(Milano、Italy)から入手した。tPA及びFXIの個々のアップルドメインの組換え融合タンパク質を、記述されている通り(van Montfoort MLら、Thromb Haemost 2013年;110:1065~73頁)調製した。エノキサパリン(クレキサン[Clexane])を、Sanofi-Aventis(Paris、France)から入手した。
【0112】
1.2 ヒトFXIに対するマウスmAbの生成
FXIに対するMAbを、精製ヒト血漿ヒトFXIによるマウスの注射後に従来の方法によって生成した。簡潔には、0日目に、BALB/cマウス(雌、6~8週齢;Charles River Laboratories)を、完全フロイントアジュバント中の精製FXI(各マウスとも、完全フロイントアジュバント[Sigma]250μLと混合した、リン酸緩衝食塩水、pH7.4[PBS]250μL中のFXI 25μg)で皮下注射した。マウスにおける抗体応答を、21日目及び42日目における不完全フロイントアジュバント中の精製FXI(各マウスとも、不完全フロイントアジュバント[Sigma]250μLと混合したPBS 250μL中のFXI 25μg)の皮下注射、並びに63日目及び64日目におけるアジュバントを含まないFXI(各マウスとも、PBS 250μL中のFXI 25μg)の腹腔内注射により次いで追加免疫した。
【0113】
67日目に、免疫したマウスからの脾細胞を、Kohler及びMilstein(1975年、Nature;256:495~7頁)によって最初に記述された標準的なハイブリドーマ技術を使用してSP2/0-Ag14骨髄腫細胞と融合した。簡潔には、免疫したマウスを屠殺した。脾細胞を脾臓から剥ぎ取り、グルタマックス(GlutaMax)(Invitrogen/Life Technologies Corp)を含む無血清opti-MEM(登録商標)I培地中で洗浄した。対数的に成長するSP2/0-Ag14骨髄腫細胞を、無血清培地で洗浄し、脾細胞対骨髄腫細胞の比5:1で脾細胞に添加した。細胞を次いでペレット化し、上清を除去した。次いでポリエチレングリコール4000(Merck)の37%(w/v)溶液1mLを、60秒間にわたり滴下し、その後細胞を、37℃で更に60秒間インキュベートした。無血清培地8mL、その後グルタマックス/10%(v/v)ウシ胎仔血清(FCS;Bodinco)を含むopti-MEM I培地5mLを、穏やかに撹拌しながら次いでゆっくりと添加した。室温(RT)で30分間後、細胞をペレット化し、グルタマックス/10% FCSを含むopti-MEM Iで洗浄して、残りのポリエチレングリコールを除去し、アミノプテリン選択培地、即ち50×ハイブリマックス(Hybri-Max)(商標)アミノプテリン(de novo DNA合成阻害剤;Sigma)で補充したグルタマックス/10%FCSを含むopti-MEM I培地中にウェル当たり105個細胞/200μLの濃度で最終的に播種した。融合実験の7日目から、アミノプテリン選択培地を2~3日毎に継ぎ足し、13日目にアミノプテリン選択培地をグルタマックス/10%FCSを含むopti-MEM Iによって置き換えた。
【0114】
融合後13日目から、ハイブリドーマの上清を、96ウェルプレートにコーティングされている精製血漿FXIによるELISAを使用して抗FXI抗体産生についてスクリーニングした。スクリーニングELISAを、以下の通りに実行した。ヒトFXIを使用して、コーティングした(PBS中に1μg/mL;100μL/ウェル)。PBS/0.05%、w/v、トゥイーン20による多量の洗浄後に、プレートを、PBS/0.05%トゥイーン20/1%、w/v、ウシ血清アルブミン(BSA;Roche)で、RTで1時間ブロッキングした。その後、プレートを、無希釈のハイブリドーマ上清100μL/ウェルとRTで1時間インキュベートした。PBS/0.05%トゥイーン20中での多量の洗浄後、抗体の結合を、1:5000希釈したホースラディッシュペルオキシダーゼコンジュゲートしたヤギ抗マウスFcγ-特異抗体(Jackson ImmunoResearch)とRTで1時間、続いて比色検出用のTMB基質の既製溶液(Invitrogen)で決定した。1M H2SO4を添加した後、光学密度を、マイクロプレートリーダー(BioRad)を使用して波長450nm(参照波長655nm)で測定した。このELISAにおけるハイブリドーマ陽性を展開し、冷凍保存した。
【0115】
aPTTを延長したmAbを産生するハイブリドーマを、更に培養した。マウスIgGを、製造業者の説明書に従って充填済みのカラム(Pharmacia Healthcare)を使用するプロテインGクロマトグラフィーによりこの上清から精製した。
【0116】
抗FXI mAbとプレカリクレイン(PK)との交差反応性を、FXIの代わりに精製PKをウェル当たり100ngで使用してコーティングし、BSAによるブロッキングステップを省略し、ヤギ抗マウスFcγ-特異抗体(Santa Cruz)を1/1000希釈で使用して結合しているmAbを検出したことを除いて、上記のELISAと同等のELISAで試験した。BSAでコーティングしたウェルを、対照として含めた。
【0117】
1.3 表面プラズモン共鳴
表面プラズモン共鳴を、研究品質のcm5センサーチップを装着したビアコア2000(GE Healthcare)でFXIに対するmAbの親和定数を評価した。第XI因子を、アミンカップリング化学反応を使用して固定化した。表面を、0.1M N-ヒドロキシスクシンイミド及び0.1M 3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピル-N-エチルカルボジイミドの1:1混合物で、流速10μL/分で7分間活性化した。10mM酢酸ナトリウム、pH5.5中で濃度10μg/mLのリガンドを、密度1000ruで固定化した。無処理のフローセルを、参照表面として使用した。全ての表面を、1Mエタノールアミン、pH8.0の7分間の導入によりブロッキングした。以下のプロトコールを使用して、FXIへのmAbの動力学的結合を評価した。分析物を、10mM HEPES、150mM NaCl、0.01%トゥイーン20、pH7.4中に濃度6.25~100nMの範囲で、流速60μL/分、温度20℃で2つのフローセルに導入した。複合体を、それぞれ360及び600秒間結合及び解離させた。表面を、50mM NaOHの10秒間の導入により再生させた。各サンプル及び緩衝液ブランクの3つ組の導入(ランダムな順序)を、2つの表面に流した。データを、1Hzの率で収集した。データを、BiaEvaluation 4.1ソフトウェア内で利用可能なグローバルデータ分析オプションを使用して単純な1:1相互作用モデルに当てはめた。
【0118】
1.4 FXIドメインに対する阻害性mAbのエピトープの局在化
FXIの個々のアップルドメインを、記述されているように(Meijers JCら、Biochemistry 1992年;31:4680~4頁)tPAとの融合タンパク質として発現させた。これら融合タンパク質に対するmAbの結合を、4つの融合タンパク質及び精製血漿FXIを1μg/mLでELISAプレートにコーティングし、その後異なるmAb(van Montfoortら、Thromb Haemost 2013年;110:1065~73頁)とインキュベートするELISAを使用して評価した。次いで融合タンパク質へのmAbの結合を、ペルオキシダーゼコンジュゲートした抗マウスIgGで測定し、プレートに結合している抗体を、オルト-フェニレンジアミン-二塩酸(OPD)とのインキュベーションによって検出した。結果を490nmでのODとして表示した。
【0119】
1.5 凝固アッセイ
プロトロンビン時間(PT)及び活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)を、製造業者(Siemens Healthcare Diagnostics)の試薬及びプロトコールを用いて自動凝固分析器(Behring Coagulation System)で測定した。
【0120】
mAbの効果を試験するために、ハイブリドーマ上清を、等容積の新鮮なヒト血漿と混合した。FXIの活性に対するハイブリドーマ上清の効果を、精製FXIの希釈物(25nM及びそれ以下)と1:1混合したFXI欠損血漿との比較によって定量化した。結果を、FXIを添加していないFXI欠損血漿を100%阻害と設定し、25nM FXIと混合した血漿を含むそれを0%阻害と設定したFXIの%阻害で表示した。
【0121】
aPTTを延長したMAb並びにいくつかの対照mAbを精製し、血漿に添加し、aPTT、PT及びFXI活性に対する効果を試験した。
【0122】
1.6 血漿におけるトロンビン生成
リアルタイムでの血漿におけるトロンビン生成を、Hemkerら(Pathophysiol Haemost Thromb 2002年;32:249~53頁)によって記述される通り、及び製造業者(Thrombinoscope、Maastricht、Netherlands)によって提供されるマニュアルにおいて測定した。簡潔には、凝固を、組換えヒト組織因子(イノビン、Siemens Healthcare Diagnostics)1若しくは5pM又はaPTT試薬(8倍希釈した;Pathromtin SL、Siemens Healthcare Diagnostics)のいずれか、4μMリン脂質及び417μM蛍光発生基質z-Gly-Gly-Arg-AMC(Bachem、Bubendorf、Switzerland)の存在下で血漿のカルシウム再沈着によって引き起こした。蛍光を、Fluoroskan Ascent Fluorometer(Thermolabsystems、Helsinki、Finland)を使用して監視し、内因性トロンビン産生能(ETP)、ピーク、ピークに至るまでの時間、遅延時間及び速度指数をトロンビノスコープ(Thrombinoscope)(登録商標)ソフトウェアを使用して算出した。
【0123】
1.7 FXIの活性化に対するmAbの効果を評価するためのアッセイ
発色アッセイを、25mM Hepes、pH7.4、137mM NaCl、3.5mM KCl、3mM CaCl2及び0.1mg/mLウシ血清アルブミン(BSA)中で実行した。
【0124】
FXIIaによるFXIの活性化に対する抗FXI mAbの効果を評価するために、100nM精製FXIを、1~10倍モル過剰のmAbと室温(RT)で30分間インキュベートした。次に、5mM FXIIaを添加し、サンプルを、RTで2時間インキュベートした。混合物中のFXIaレベルを、発色基質S2366(0.5mM)で次いで測定した。このアッセイを、50nM高分子量キニノゲン(HK)のあり及びなしで実行した。
【0125】
同等の実験において、トロンビン(FIIa)によるFXIの活性化に対する抗FXI mAbの効果を評価した。FXI(50nM)を、10倍過剰のmAbとRTで30分間インキュベートした。次いで、10nMトロンビンを添加し、混合物を終夜インキュベートした。混合物中の生成したFXIaの量を、1Uヒルジン(トロンビンを遮断するため)及び発色基質S2366(0.5mM)を添加することにより、次いで測定した。
【0126】
1.8 FXIaの活性に対するmAbの効果を評価するためのアッセイ
FXIaの酵素活性に対する精製抗FXI mAbの効果を評価するために、FXIa及び精製mAbを、発色アッセイ緩衝液中にそれぞれ終濃度50nM及び500nMで、37℃で30分間インキュベートした。次いで、発色基質S2366を、終濃度0.5mMで添加し、基質の変換を405nmで測定した。FXIaの発色活性に対するmAb 抗FXI 34.2の効果を確認するいくつかの実験において、少し異なる条件、即ち2.5nM FXIa及び25nM抗FXI mAbを使用した。
【0127】
FXIaによるFIXの活性化に対する抗FXI mAbの効果を評価するために、10nM FXIaを、7mM CaCl2を含む発色基質緩衝液中で抗FXI mAbと37℃で30分間インキュベートし、次いで、100nM FIXを添加し、混合物を、37℃で10分間インキュベートした。混合物中のFIXaを評価するために、精製FX(100nM)及び発色基質S2222(0.5mM)を添加した。発色基質の変換を、405nmで次いで測定した。
【0128】
1.9 マウスにおける実験的血栓症モデル
動物の手順を、アカデミックメディカルセンター(Amsterdam、Netherlands)で実行し、機関の動物実験委員会によって承認された。
【0129】
C57BL/6バックグラウンドの8週齢雄及び雌第XI因子ノックアウトマウス(FXI-/-マウス)を、本研究に含めた(Rosen EDら、Thromb Haemost 2002年;87:774~6頁)。マウスを、マイクロアイソレータケージ中で一定の明暗サイクルで飼育し、食物及び水へ不断に接近可能にした。
【0130】
血栓症を誘導する外科的手順の前に、動物に、5Uヒト血漿第XI因子濃縮物を補充した(1単位は、プールした正常ヒト血漿1mL中に存在するFXIの量である)。その後、マウスを、mAb(8mg/kg)又は生理食塩水で静脈内注射した。エノキサパリン(LMWH;1mg/kg)を、手順の6時間前に皮下注射した。
【0131】
確立されているマウス血栓症モデル、塩化鉄(FeCl3)誘導下大静脈(IVC)血栓症を使用して、mAbの有効性を評価した。簡潔には、FXI-/-マウスを、2.5%吸入用イソフルラン及びケタミン/キシラジン(2:1)の混合物で麻酔した。次いで、正中切開を行い、IVCを鈍的切開によって露出させた。その後、10%FeCl3溶液に浸漬した濾紙を、IVC上の腎静脈の下に3分間置いた。紙を除去し、静脈流を、組織灌流モニター(BLF22型;Transonic Systems Inc.Ithaca、NY、USA)を使用して30~45分間測定した。FeCl3投与前の流れを、100%と設定し、参照として使用した。投与後の流速を、投与前フローの%として算出した。6匹のマウスの群を、処置当たり研究した。
【0132】
1.10 出血アッセイ
マウス尾部出血アッセイを、記述されている通り使用した(Wang Xら、J Thromb Haemost 2006年;4:1982~8頁)。簡潔には、マウスを麻酔し、37℃電気パッド上に置いた。尾部直径約1mm(先端から2~4mm)で尾部を切断し、満たした生理食塩水中に37℃で置いた。出血が停止するまでの時間を記録した。30分後、動物が、まだ出血していても実験を停止し、動物を屠殺した。失血を、出血尾部から血液を採集するために使用した生理食塩水の575nmのODを測定することによって評価した。
【0133】
1.11 mAb抗FXI 34.2のcDNAのクローニング
ハイブリドーマ細胞をPBSで洗浄し、分注し、ペレットとして-80℃で保存した。RNAを、RNeasyミニアイソレーションキット(RNeasy Mini Isolation Kit)(QIAGEN)を使用することによりこれらペレットから単離した。RNA濃度を、分光光度計(A260nm)で決定した。逆転写酵素によって、cDNAを、リバートエイドHマイナスファーストストランドcDNA合成キット(RevertAid H Minus First Strand cDNA Synthesis Kit)(商標)(Fermentas)を使用してRNA 2μgから合成し、更なる使用まで-20℃で保存した。アイソタイプ特異的プライマー(センス及びアンチセンス)を設計して、マウスmAb抗FXI 34.2のV領域を増幅した(表4)。
【0134】
【0135】
mAb抗FXI 34.2のV領域の配列を確認するために、定常マウスκ及びCHドメインがヒトドメインに交換されているmAb抗FXI 34.2のキメラヒトIgG4形式を作製した。重鎖間ジスルフィド架橋を確実にするために、ヒンジ領域内の突然変異を配列に導入した(S241P;Angal Sら、Mol Immunol 1992年;30:105~8頁)。この目的のために、キメラヒトIgG4重鎖及びキメラヒトκ軽鎖をコードしているCHO細胞に最適化されたcDNA配列を、Geneart(Regensburg、Germany)から購入し、それらcDNA配列は、マウスシグナルペプチドの後ろに、ヒトIgG4定常領域に連結されているマウス重鎖可変又はヒトカッパ定常領域に連結されているマウス軽鎖可変のいずれかをそれぞれコードした。抗体を、フリースタイル(FreeStyle)(商標)MAX CHO(CHO-S細胞)発現システム(Invitrogen)を使用してCHO細胞において発現させ、プロテインA親和性クロマトグラフィー(GE Healthcare)で精製し、ヒトFXIをコーティングとして使用したELISAによってヒトFXIに対する結合、及びヒト血漿にプロテインG精製標本を添加し、aPTTを測定することによって機能的活性について試験した。
【0136】
1.12 マウスmAb抗FXI 34.2のヒト及び脱免疫化バリアント
マウスmAb抗FXI 34.2の配列を、コンポジットヒト抗体(Composite Human Antibody)技術(www.antitope.co.uk)を使用してヒト化し、脱免疫化した。コンポジットヒト抗体は、無関係なヒト抗体のV領域に由来する複数の配列セグメント(「コンポジット」)を含む。ヒトV領域データベースから得られた選択した配列セグメントの全てを、潜在的なT細胞エピトープの存在についてin silicoでフィルタリングした。
【0137】
この目的のために、開始抗体の抗原結合に重要であると考えられたアミノ酸を、第一に決定した。次いで、mAb抗FXI 34.2のVH及びVκドメインの配列を使用して、無関係なヒトV領域データベースから得られる相同な配列セグメントを選択した。異なる4つのVH及び異なる4つのVκ配列を設計して、16個の異なる抗体を得た。V領域遺伝子を、選択したヒト配列セグメントの組合せをコードしている合成オリゴヌクレオチドを使用して次いで生成した。これらを、ヒンジ安定化突然変異S241P(Angal Sら、Mol Immunol 1992年;30:105~8頁)を含有するヒトIgG4重鎖及びカッパ軽鎖を含有するベクターに次いでクローニングした。キメラ抗体遺伝子及び選択した抗FXI 34.2 IgG4(S241P)の組合せの全てを、エレクトロポレーションによってNS0細胞に安定にトランスフェクトした。各細胞株の同一性を、ゲノムDNAの可変ドメインのDNA配列決定によって確認した。最も良く発現している株を選択し、使用して、17個のmAb(16個のコンポジットヒト抗体(商標)バリアント、及びマウス-ヒトキメラmAb抗FXI 34.2)を発現させた。組換え抗体を、プロテインAセファロースカラム(GE Healthcare)で細胞培養上清から精製した。
【0138】
ヒトFXIへの結合について様々なmAbを試験するために、ヒトFXIをコーティングに使用し、ビオチン化マウスmAb抗FXI 34.2を参照抗体として使用する競合ELISAを最初に使用した。この目的のために、精製マウスmAb抗FXI 34.2抗体の希釈系列を、キメラ抗体及び濃度16.66μg/mL~0.023μg/mLのmAb抗FXI 34.2の16個のコンポジットバリアントのそれぞれと一緒に一定濃度のビオチン化マウスmAb抗FXI 34.2(終濃度0.12μg/mL)と前もって混合し、その後1×PBS pH7.4に希釈した0.5μg/mL第XI因子でプレコートしたNunc Immuno MaxiSorp 96ウェル平底マイクロタイタープレート上で、室温で1時間インキュベートした。ビオチン化抗体の結合を、ストレプトアビジン-HRP(Sigma)及びOPD基質(Sigma)で検出した。反応を3M HClで停止させ、吸光度を、Dynex Technologies MRX TC IIプレートリーダーで、490nmで読み取り、結合曲線をプロットした。
【0139】
1.13 ヒト化mAb 34.2の免疫原性を評価するためのin vitroモデル
リード、完全なヒトコンポジットリード抗FXI mAbの免疫原性潜在性を、HLAタイピング済みドナーの末梢血単核細胞を使用してin vitroで評価した(エピスクリーン[EpiScreen][商標]技術;Antitope、Cambridge、UK)。簡潔には、末梢血単核細胞(PBMC)を、リンフォプレップ(Lymphoprep)(Axis-shield、Dundee、UK)密度遠心分離を使用して健康な群集ドナーの白血球層から単離し、続いてT細胞を除去した(CD8+ロゼットセップ[RosetteSep][商標];StemCell Technologies Inc、London、UK)。ドナーを、HLA SSP-PCRに基づく組織タイピングキット(Biotest、Solihull、UK)を使用してHLA-DRハプロタイプについてタイピングした。世界及びヨーロッパ/北アメリカ集団において発現されているHLA-DRアロタイプの数及び頻度を示す20名のドナーからPBMCを選択し、サンプル当たり50μg/mLの終濃度で精製コンポジット抗体とインキュベートした。各ドナーに対して、再現性対照(100μg/mLキーホールリンペットヘモシアニン[KLH]、Pierce[Perbio]、Cramlington、UK KLHとインキュベートした細胞)、臨床対照(50μg/mLヒト化A33抗体)、培養培地のみの対照及びキメラマウス-ヒトmAb抗FXI 34.2の対照も含めた。培養を、合計8日間インキュベートした。5、6、7及び8日目に、0.75μCi[3H]チミジン(Perkin ElmerR、Beaconsfield、UK)を含む丸底96ウェルプレートにアリコート3×100μLをパルスすることによって細胞の増殖を更に18時間測定した。次いで細胞を、フィルターマット(Perkin ElmerR)に採取し、各サンプルに対する1分間当たりのカウント(cpm)を、メルチレックス(Meltilex)(商標)(Perkin ElmerR)シンチレーション計数によって決定した。刺激指数(SI)を、試験サンプルとインキュベートしたPBMCの増殖(cpm)、対、培地だけとインキュベートしたPBMCの増殖の比を評価することによって次いで決定した。刺激指数≧2を、有意な反応を示すと考えた。
【0140】
2. 結果
2.1 ヒトFXIに対する阻害抗体の生成
ELISAにおいてヒトFXIに結合するmAbを産生する32個のハイブリドーマを生成した。これらのハイブリドーマの上清を、ヒト血漿に添加し、aPTTにおける阻害活性について試験した。このaPTTにおいて、様々な量のFXIで補充したFXI欠損血漿を、参照として使用した。2つのハイブリドーマ上清、抗FXI mAb 34.2及び抗FXI mAb 15F8.3は、90%より高くFXIを阻害した。これらmAbを、限界希釈によってサブクローニングし、プロテインG親和性クロマトグラフィーによってハイブリドーマ上清から精製した。精製mAbを、ヒト血漿に添加し、aPTT及びPT凝固活性に対する効果を試験した(
図1A及び1B)。MAb 34.2及び15F8.3は、aPTTを用量依存的に延長したが、PTに影響を及ぼさなかった。更に、対照(非阻害性抗FXI)mAbは、aPTT試験において効果が全くなかった。
【0141】
最後に、精製mAbとヒト血漿の混合物を、FXI凝固アッセイにおいて試験した(
図1C)。結果を、100%FXIを含有すると言われるヒト血漿プールの希釈を参照することにより%FXI活性として表示した。aPTTを延長した2つのmAbは、ヒト血漿においてFXI活性を>90%減少させたが、他の抗体は効果が全くなかった(
図1C)。表面プラズモン共鳴(ビアコア)を使用して、ヒトFXIに対するmAb 34.2のK
Dが、0.2nMであると判明したが、mAb 15F8.3のK
Dは0.15nMであった。
【0142】
2.2 エピトープマッピング
FXIのドメイン上のエピトープをマップするために、mAbを、単一アップルドメインのtPAとの組換え融合タンパク質、又は血漿FXIでコーティングしたELISAウェル中でインキュベートした。ELISAプレートへのmAbの結合を、ペルオキシダーゼコンジュゲートした抗マウスIgGで評価した。この系を使用して、mAb抗FXI 15F8.3に対するエピトープが、アップル2ドメインに位置することが判明したが、mAb抗FXI 34.2が、アップルドメインのいずれにも結合せず、血漿FXIだけに結合したことは、そのエピトープがFXIのセリンプロテアーゼドメインに位置することを示唆した(
図2)。
【0143】
2.3 血漿中でのトロンビン生成に対する阻害性抗FXI mAbの効果
FXI活性に対する抗FXI mAbの効果を更に評価するために、トロンビンを、抗FXI mAbの有り無しで、様々な刺激、即ち高組織因子(TF;5pM)、低TF(1pM)又はaPTT試薬によってヒト血漿中に生成させ、リアルタイムで測定した。mAb抗FXI 34.2(
図3A)及び抗FXI 15F8.3(データ不掲載)は、aPTT試薬によって誘導されたトロンビン生成を用量依存的に減少させ、このことは、それらmAbをヒト血漿に添加した場合にその両方がaPTTを延長するので予想される(
図1Aを参照のこと)。低TF濃度によって誘導される血漿中でのトロンビン生成は、FXIに一部依存していることが公知である。トロンビン生成が、血漿中で低TFによって誘導された場合、mAb抗FXI 34.2だけが、30~40%以下までトロンビンを用量依存的に減少させた(
図3B)。それに対しmAb 15F8.3は、低TFによってトロンビン生成を減少させなかった(データ不掲載)。mAb抗FXI 34.2(
図3C)とmAb抗FXI 15F8.3(データ不掲載)のどちらも、高TFによるトロンビン生成に効果がなかった。
【0144】
これらの実験から、mAb抗FXI 34.2は、活性化の機序とは無関係にFXIを阻害するが、mAb抗FXI 15F8.3は、FXIIaによって活性化される場合にだけFXIを阻害すると結論される。従って、mAb抗FXI 34.2を、更なる特徴付け及びヒト化のために選択した。
【0145】
2.4 モノクローナル抗体抗FXI 34.2は、FXIの活性部位に結合することによってFXI活性を阻害し、FXI活性化を防止する。
【0146】
FXI/FXIaの活性部位に対するmAbは、発色基質などの小さい基質の変換を含めたFXIaの基質の変換を一般に阻害する。FIXなどの大きな基質も、エキソサイトとして公知の、活性部位の外側にあるFXIa上の部位と相互作用するが、小さい基質は、もっぱら活性部位だけと相互作用する。従って、mAbによるFXIaの発色活性の阻害により、そのmAbに対するエピトープが活性部位と(少なくとも部分的に)重なっていることが明らかになる。エキソサイトに対する抗体は、FXIaによる大きな基質の変換を阻害するが、FXIaの発色活性に対する効果がないことによって特徴付けられる。MAb抗FXI 34.2は、セリンプロテアーゼドメインに結合し(
図2)、血漿中でFXIの機能的活性を阻害する(
図1C)。次に、このmAbを、FXIaによる小さい基質の変換に対する効果について試験した。精製第XIa因子を、mAb抗FXI 34.2及び対照mAbとインキュベートした。残存しているFXIa活性を、発色基質S2366で次いで測定した。
【0147】
MAb抗FXI-34.2は、小さな阻害効果を有したが、他のいずれのmAbも、FXIa発色活性を阻害しなかった(
図4A)。mAb抗FXI 34.2のこの小さな効果は、実験の全体を通じて一貫して観察され、抗FXI 34.2の組換えキメラヒト-マウスmAb形式による別の実験においても観察された。発色基質S2366は、p-ニトロアニリンに連結された小さなトリペプチドからなる(L-ピログルタミル-L-プロリル-L-アルギニン-p-ニトロアニリン)ので、mAb抗FXI 34.2の阻害効果により、そのmAbが、FXIaの活性部位に(少なくとも部分的に)重なるエピトープに結合することが明らかになる。mAb抗FXI 34.2は、非活性化FXIに対して高い親和性を有し(表面プラズモン共鳴による見かけのK
D 0.2nM;結果の節2.1を参照のこと)、従ってmAb抗FXI 34.2のエピトープが、FXI及びFXIa上で発現している点に注意すべきである。
【0148】
発色性基質は比較的小さいが、FXIaの天然の基質である凝固第IX因子(FIX)は、比較的大きな基質である。別の組の実験において、FXIaの活性を、FIXaへのFIXの変換を監視することによって測定した。FIXa活性をFXaに変換される基質としてFXで測定し、FXaを発色基質S2222で次いで測定する。MAb抗FXI 34.2は、FXIaによるFIXaへのFIXの変換を阻害するが、対照mAbは効果がなかった(
図4B)。
【0149】
従って、この実施例において示される実験は、mAb FXI 34.2が、活性部位に(少なくとも部分的に)位置するエピトープに結合することによってFXIaの基質の変換を阻害することによりFXI活性を阻害することを示す。mAb抗FXI 34.2のこの作用機序は固有であり、ヒトFXIに対する抗体について以前に記述されていない。
【0150】
2.5 実験的血栓症マウスモデルにおけるmAb抗FXI 34.2の効果
ヒトFXI(van Montfoort Mら、Thromb Haemost 2013年;110:1065~73頁)で補充したFXI-ノックアウトマウス(Wang Xら、J Thromb Haemost 2006年;4:1982~8頁)における下大静脈(IVC)血栓症マウスモデルを使用して、mAb抗FXI 34.2の効果を評価した。外来性FXIなしでは、FXI-/--マウスにおけるaPTTは、野生型マウスにおける25~34秒に対して>150秒である。IVC血栓症を、IVCへの10%FeCl3の適用によって誘導した。IVCを通る血流の急速な低下が、10%FeCl3適用後1分以内に観察された(
図5Aにおける生理食塩水群)。マウスのエノキサパリン処置は、45分間の観察時間の間にこのFeCl3誘導血流機能障害を完全に防止した(van Montfoort Mら、Thromb Haemost 2013年;110:1065~73頁;本論文の
図7を参照のこと)。塩化鉄による血栓症誘導前のmAb抗FXI 34.2の投与は、全観察時間の全体を通じて血流機能障害を防止した(
図5A)。
【0151】
正常な止血に対するmAb抗FXI 34.2の影響を評価するために、尾部出血アッセイ(Wang Xら、J Thromb Haemost 2006年;4:1982~8頁)を使用した。尾部出血の時間を著しく延長したエノキサパリンとは対照的に、MAb抗FXI 34.2は、尾部出血時間に対する効果がなかった(
図5B)。それに対し、エノキサパリン処置した動物は、観察時間(30分間)の最後まで出血した。
【0152】
従って、この実施例に記述される実験は、mAb抗FXI 34.2が、血栓症を防止するのにエノキサパリンと同程度に有効であるが、エノキサパリンとは対照的に、mAb抗FXI 34.2は、出血時間に影響を及ぼさないことを実証する。
【0153】
2.6 mAb抗FXI 34.2のcDNA配列
mAb抗FXI 34.2のVH及びVκ領域を、上記方法の節に記載の通りクローニングした。mAb抗FXI 34.2のVH及びVκドメインのアミノ酸配列を、それぞれ配列番号1及び2として配列表に示す。これらの配列を使用して、ヒトIgG4のCHドメイン及びヒトCκドメインに連結されたマウスVH及びVκ可変ドメインを持つキメラmAbを構築した。
【0154】
マウス-ヒトキメラmAb抗FXI 34.2を、CHO細胞において発現させ、精製し、正常な血漿と混合し、混合物のaPTTを測定することによって阻害活性について試験した(
図6A)。
図6Aに示すように、mAb抗FXI 34.2及びマウス-ヒトキメラmAb抗FXI 34.2は、aPTT(複数可)を用量依存的に減少させた。
【0155】
2.7. mAb抗FXI 34.2のヒト化
mAbの配列に基づいて、あるとしても、最小の免疫原性である抗FXIコンポジットヒト抗FXI mAbを、コンポジットヒト抗体基盤(Antitope、Cambridge、UK)を使用して設計した。
【0156】
mAb抗FXI 34.2のVH及びVκ配列は、表5に示す通り、典型的なフレームワーク残基並びにCDR 1、2及び3モチーフからなることが判明した。
【0157】
【0158】
上記の分析から、mAb抗FXI 34.2のコンポジットヒト配列は、CDRの外側の多くの別の残基、及びCDR配列内のほんの少数の可能な残基だけで創出され得ると考えられた。予備分析は、いくつかのヒト抗体由来の対応する配列セグメントを組み合わせて、マウス配列のCDRと類似又は同一のCDRを創出できることを示した。CDRの外側及び隣接する領域の場合、ヒト配列セグメントの広い選択肢が、新規のコンポジットヒト抗FXI抗体V領域の可能な成分として同定された。
【0159】
構造分析に基づいて、ヒト化mAb抗FXI 34.2を創出するために使用し得る配列セグメントの予備組を多数選択し、公知の抗体配列関連T細胞エピトープの存在についてin silicoで分析した。ヒトにおいて潜在的に免疫原性であると同定された配列セグメントを廃棄した。これにより、セグメントの組を減少させた。これらの組合せを、潜在的免疫原性について再び分析して、セグメント間の接合部が、潜在的T細胞エピトープを含有しないことを確実にした。選択した配列セグメントを、有意なT細胞エピトープを欠いている完全なV領域配列に組立てた。好ましい4つの重鎖(VH1~4)及び4つの軽鎖(Vκ1~4)配列を、次いで選択した。表6は、好ましい4つの重鎖(VH1~4)及び4つの軽鎖(Vκ1~4)配列のアミノ酸配列を示す配列番号の概要を提供する。
【0160】
【0161】
mAb抗FXI 34.2の全てのバリアントコンポジットヒト抗体(商標)VH及びVκ領域遺伝子を合成し、カッパ軽鎖及びIgG4(S241P、ヒンジ変異体;Angal sら、Mol Immunol 1992年;30:105~8頁)重鎖と共に発現させた。構築物を、配列決定によって確認した。元のマウスmAb抗FXI 34.2抗体のVH及びVκ配列も、発現させた。キメラ抗体遺伝子並びにコンポジットmAb抗FXI 34.2 IgG4(S241P)VH及びVκ鎖の可能な全ての組合せ、即ち合計16個の対、Vκ1、Vκ2、Vκ3又はVκ4と組み合わせたVH1;Vκ1、Vκ2、Vκ3又はVκ4とVH2;など、をエレクトロポレーションによってNS0細胞に安定にトランスフェクトした。mAb抗FXI 34.2の様々なコンポジットヒトバリアントを、それらの鎖組成物、即ちVH1Vκ1、VH2Vκ4など、によって更に示す。最も良く発現している系を使用して、17個のmAb(16個のコンポジットヒト抗体(商標)バリアント、及びマウス-ヒトキメラmAb抗FXI 34.2)を発現させた。組換え抗体を、プロテインAセファロースカラム(GE Healthcare)で細胞培養上清から精製し、方法の節に記載の通り、競合ELISAにおいてヒトFXIに対する結合について試験した。結果から、mAb抗FXI 34.2の全てのコンポジットバリアントが、マウス-ヒトキメラmAb抗FXI 34.2と同様にヒトFXIに良く結合することが明らかになった(データ不掲載)。
【0162】
次いでデータを使用して、各抗体に対するIC50値を算出し、これをキメラマウス-ヒトmAb抗FXI 34.2抗体のIC50に対して標準化した(表7)。試験したバリアント全ての標準化したIC50データは、0.69~1.13の範囲であり、このことは、全てのコンポジット抗FXI mAbの結合効率が、キメラ34.2のそれと同程度であったことを示す。更に、大部分のバリアントは、それぞれのNS0細胞株によって、キメラ抗体より良く発現された。
【0163】
【0164】
コンポジットヒト抗FXI mAbの親和性を確認するために、それらmAbを、ビアコア系を使用する表面プラズモン共鳴によりFXIへの結合について試験した。マウスmAb抗FXI 34.2は、FXIへの結合についてKD 0.2nMを有する。結果を、上記表7に要約する。
【0165】
コンポジットヒトmAbで測定した親和性は0.071~1.14nMの範囲であり(表7)、このことは、KD 0.2nMを有するマウスmAb抗FXI 34.2と比較して、いくつかの抗FXIコンポジットmAbで少し低い親和性及び他の抗FXIコンポジットmAbで少し高い親和性を示した。
【0166】
コンポジットmAbの阻害活性を、正常なヒト血漿と精製mAbを混合し、血漿混合物のaPTTを測定することにより評価した。結果は、全てのコンポジットヒト抗FXI mAbが、同程度の範囲にaPTTを延長することを示した(
図6B;表7を参照のこと)。
【0167】
これらの実験から、マウスmAbより少し高いKDを有するコンポジットmAb VH2Vκ3及びVH4Vκ1を考え得る例外として、全てのコンポジットヒト抗FXI抗体が、KD 0.2nMを有する元のマウスmAb抗FXI 34.2の範囲内の親和性を有することが明らかになった。aPTTにおいて測定した機能的活性に関しても、全てのコンポジットmAbが、マウスmAb抗FXI 34.2と同程度の阻害活性を有した。最後に、全てのmAbは、NS0細胞において妥当な発現レベルを有した。コンポジットmAb VH4Vκ4は、最低の免疫原性潜在性を有すると予測され、このmAbは、親和性、機能的活性及び発現に関して他の大部分のmAbと同程度だったので、このコンポジットmAb VH4Vκ4を、更なる分析のために選択した。特に、この抗体の形式は、in vivo使用に関してヒトIgG4であり、補体又はFcγ-受容体と相互作用することを意図しない。ヒンジ領域(S241P)における突然変異は、IgG4重鎖の鎖内ジスルフィド架橋ではなく鎖間ジスルフィド架橋形成に有利に働くので、この突然変異をIgG4重鎖に導入した。
【0168】
2.8 mAb VH4VΚ4の免疫原性潜在性
mAb VH4Vκ4の免疫原性潜在性を、20名の健康なドナーのパネル由来PBMCとのインキュベーションによって試験し、細胞の増殖を時間内測定した。この試験において、mAb VH4Vκ4を、50μg/mLの終濃度で試験する。更にアッセイを改善するために、T細胞活性化の尺度として増殖の毎日の測定を4回、5~8日目に評価した。6名のドナー由来の細胞及び培養7日後のPBMCのトリパンブルー色素排除によって決定した通り、MAb VH4Vκ4は、PBMC生存率に影響を及ぼさなかった(
図7A)。加えて、
図7Bは、マウス-ヒトキメラmAb抗FXI 34.2で観察された増殖結果を与える。示す通り、4名のドナー由来のPBMCで有意な増殖が観察され、別のドナー由来のPBMCで、境界線上の増殖が起こった。
【0169】
一般に、mAb VH4Vκ4で観察される刺激指数は、キメラmAb抗FXI 34.2で観察される刺激指数より低く、わずか1つの場合に2をわずかに上回るSIが観察された。これらのデータは、mAb VH4Vκ4とのインキュベーションに対して、キメラmAbとよりも少ないCD4 T細胞の増殖を示す。従って、これらの結果は、マウス-ヒトキメラmAb抗FXI 34.2と比較して、より低い免疫原性潜在性mAb VH4Vκ4を支持した。
【0170】
2.9 mAb VH4Vκ4のin vitro試験
ヒト血漿への精製mAb VH4Vκ4の添加は、aPTT試薬によって誘導されるトロンビン生成を事実上無効にした(
図8A)が、TFによるトロンビン生成に対する効果は、血漿中でトロンビンを生成するために使用されたTFの用量に依存的であった(
図8B~D)。従って、MAb VH4Vκ4は、これらの実験においてFXI阻害剤の典型的な挙動を示し、その挙動は、aPTT試薬によって誘導されるトロンビン生成の完全阻害、低TF濃度によるトロンビン生成の部分的な阻害及び高TF濃度におけるトロンビン生成の阻害なしである。
【0171】
2.10 血栓症マウスモデルにおけるmAb VH4VΚ4のin vivo試験
MAb VH4VΚ4を、節2.5に記載の通り血栓症マウスモデルにおいてin vivoで試験した。FeCl3により血栓症を誘導する前のヒト化mAb VH4VΚ4の投与は、全観察の間血流機能障害を防止し、このことはMAB VH4VΚ4が、血栓症の形成を効果的に防止したことを示す(
図9)。
【配列表】