(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】光ファイバフェルール研磨用ホルダーおよび光ファイバフェルール研磨装置
(51)【国際特許分類】
B24B 41/06 20120101AFI20220222BHJP
G02B 6/25 20060101ALI20220222BHJP
G02B 6/36 20060101ALI20220222BHJP
B24B 7/16 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
B24B41/06 L
G02B6/25 301
G02B6/36
B24B7/16 Z
(21)【出願番号】P 2021095618
(22)【出願日】2021-06-08
【審査請求日】2021-08-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000147350
【氏名又は名称】株式会社精工技研
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【氏名又は名称】横井 俊之
(72)【発明者】
【氏名】古田 直人
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102017102887(DE,A1)
【文献】米国特許第05201148(US,A)
【文献】特開平04-130303(JP,A)
【文献】特開2018-010274(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0156208(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1122308(KR,B1)
【文献】特開2018-122424(JP,A)
【文献】米国特許第05018316(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0284998(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B1/00-1/04
B24B5/00-19/28
B24B41/00-51/00
G02B6/00-6/02
G02B6/24-6/255
G02B6/36-6/40
G02B6/46-6/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コネクタに組み込まれた光ファイバフェルールを保持するための光ファイバフェルール研磨用ホルダーであって、
プレート状に形成されたホルダー本体と、
前記ホルダー本体に固定されるとともに、前記コネクタを係止可能なアダプタとを有し、
前記ホルダー本体は、前記光ファイバフェルールを挿抜可能な挿入孔を有し、
前記光ファイバフェルール研磨用ホルダーは、複数の光ファイバフェルールが複数の位置で組み込まれている2芯もしくは3芯以上の多芯の前記コネクタに使用され、
前記コネクタを前記アダプタに係止したとき、前記複数の位置の前記挿入孔の周囲の位置において前記ホルダー本体の上面が、前記光ファイバフェルールを押圧することにより、前記複数の光ファイバフェルール毎に内蔵されているばねを収縮させ、
前記ホルダー本体の下面から前記ホルダー本体の前記上面までの前記ホルダー本体の厚さが前記複数の位置において同一であることを特徴とする光ファイバフェルール研磨用ホルダー。
【請求項2】
前記コネクタを前記アダプタに係止したとき、前記ホルダー本体の上面が
前記複数の位置の前記挿入孔の周囲の位置において、前記光ファイバフェルールの径方向外周に設けられた当接部に当接することにより、前記当接部を押圧し、前記コネクタに内蔵されている
前記ばねを収縮させることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバフェルール研磨用ホルダー。
【請求項3】
前記当接部は、前記光ファイバフェルールの径方向外周に設けられたフランジであることを特徴とする請求項2に記載の光ファイバフェルール研磨用ホルダー。
【請求項4】
前記ホルダー本体は、
前記複数の位置の前記挿入孔の前記周囲の位置において、前記ホルダー本体の上面から上方に突出する突出部を有し、前記突出部の上面が前記フェルールを押圧することにより前記コネクタに内蔵されている前記ばねを収縮させることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の光ファイバフェルール研磨用ホルダー。
【請求項5】
前記ホルダー本体の下面から
前記複数の位置の前記挿入孔の前記周囲の位置における前記ホルダー本体の前記上面までの前記ホルダー本体の厚さが3.8mm~4.4mmであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の光ファイバフェルール研磨用ホルダー。
【請求項6】
前記挿入孔の上端は、0.05mm以上の面取りがされていることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の光ファイバフェルール研磨用ホルダー。
【請求項7】
前記突出部の前記上面の外形が円形を有する形状であり、
前記円形の外径が1.4mm~2.5mmであることを特徴とする請求項
4に記載の光ファイバフェルール研磨用ホルダー。
【請求項8】
前記突出部の前記上面の外形が円形を有する形状であり、
前記光ファイバフェルールの外径に対する前記円形の外径の比が1.12~2.00であることを特徴とする請求項
4に記載の光ファイバフェルール研磨用ホルダー。
【請求項9】
前記挿入孔が前記ホルダー本体上に円形状に複数配置されていることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の光ファイバフェルール研磨用ホルダー。
【請求項10】
前記挿入孔は、鉛直方向に対して所定角度傾斜しており、
前記挿入孔の前記周囲の位置における前記ホルダー本体の前記上面は、前記挿入孔の軸方向と直交していることを特徴とする請求項1~
9のいずれか1項に記載の光ファイバフェルール研磨用ホルダー。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか1項の光ファイバフェルール研磨用ホルダーを備えた光ファイバフェルール研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタに組み込まれた光ファイバフェルールを光ファイバフェルール研磨装置で研磨するときに光ファイバフェルールを保持するための光ファイバフェルール研磨用ホルダーおよび光ファイバフェルール研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コネクタに組み込まれた光ファイバフェルールを光ファイバフェルール研磨装置で研磨するときには、光ファイバフェルール研磨用ホルダーに固定された複数のアダプタにそれぞれコネクタを係止する。その状態で光ファイバフェルール研磨用ホルダーを光ファイバフェルール研磨装置に装着し、複数の光ファイバフェルールを同時に光ファイバフェルール研磨装置で研磨する。
【0003】
このとき、光ファイバフェルール研磨用ホルダーの下面からの光ファイバフェルールの先端の突出長に複数の光ファイバフェルールの間でばらつきがあると、曲率半径や軸ずれ、角度ずれ等の研磨性能への影響が出るため好ましくない。特許文献1では、光ファイバフェルール研磨用ホルダーにおいて、コネクタをホルダー本体に固定するためのアダプタにコイルばねでの付勢構造を設け、コイルばねによりコネクタを付勢することにより、光ファイバフェルール研磨用ホルダーの下面からの光ファイバフェルールの突出長のばらつきを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の光ファイバフェルール研磨用ホルダーは、コイルばねを用いてコネクタを付勢する構造であるため、アダプタ内でコネクタが移動可能な構造を有する。そのため、コネクタに接続されたケーブルに対して曲げ等の力が加わった場合に、アダプタ内でコネクタが傾くなど、ケーブルに対して加わる力の影響をコネクタが受けやすかった。コネクタに力が加わりコネクタが傾くことにより、光ファイバフェルール研磨用ホルダーの下面からの光ファイバフェルールの突出長及び角度が複数の光ファイバフェルールの間で一定とならないという課題があった。
【0006】
本発明は、アダプタにコイルばねを設けることなく、複数の光ファイバフェルールの光ファイバフェルール研磨用ホルダーからの突出長及び角度のばらつきを抑制するとともに、光ファイバフェルールに接続されたケーブルに対して力が加わった場合でもコネクタへの研磨性能への影響が小さい光ファイバフェルール研磨用ホルダーおよび当該ホルダーを使用した光ファイバフェルール研磨装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、コネクタに組み込まれた光ファイバフェルールを保持するための光ファイバフェルール研磨用ホルダーであって、プレート状に形成されたホルダー本体と、前記ホルダー本体に固定されるとともに、前記コネクタを係止可能なアダプタとを有し、前記ホルダー本体は、前記光ファイバフェルールを挿抜可能な挿入孔を有し、前記コネクタを前記アダプタに係止したとき、前記ホルダー本体の上面が前記挿入孔の周囲の位置において、前記光ファイバフェルールを押圧することにより、前記コネクタに内蔵されているばねを収縮させる構成としてある。
【0008】
前記構成において、前記コネクタを前記アダプタに係止したとき、前記ホルダー本体の上面が前記挿入孔の周囲の位置において、前記光ファイバフェルールの径方向外周に設けられた当接部に当接することにより、前記当接部を押圧し、前記コネクタに内蔵されているばねを収縮させる構成としてもよい。
【0009】
前記構成において、前記当接部は、前記光ファイバフェルールの径方向外周に設けられたフランジであってもよい。
【0010】
前記構成において、前記ホルダー本体は、前記挿入孔の前記周囲の位置において、前記ホルダー本体の上面から上方に突出する突出部を有し、前記突出部の上面が前記フェルールを押圧することにより前記コネクタに内蔵されている前記ばねを収縮させる構成としてもよい。
【0011】
前記構成において、前記ホルダー本体の下面から前記挿入孔の前記周囲の位置における前記ホルダー本体の前記上面までの前記ホルダー本体の厚さが3.8mm~4.4mmである構成としてもよい。
【0012】
前記構成において、前記挿入孔の上端は、0.05mm以上の面取りがされている構成としてもよい。
【0013】
前記構成において、前記突出部の前記上面の外形が円形を有する形状であり、前記円形の外径が1.4mm~2.5mmである構成としてもよい。
【0014】
前記構成において、前記突出部の前記上面の外形が円形を有する形状であり、前記光ファイバフェルールの外径に対する前記円形の外径の比が1.12~2.00である構成としてもよい。
【0015】
前記構成において、前記挿入孔が前記ホルダー本体上に円形状に複数配置されている構成としてもよい。
【0016】
前記構成において、前記光ファイバフェルール研磨用ホルダーは、2つもしくはそれ以上の光ファイバフェルールが2つもしくはそれ以上の位置で組み込まれている前記コネクタに使用され、前記コネクタを前記アダプタに係止したとき、前記2つもしくはそれ以上の位置の前記挿入孔の周囲の位置において前記ホルダー本体の上面が前記光ファイバフェルールを押圧することにより、前記2つもしくはそれ以上の光ファイバフェルール毎に内蔵されている前記ばねを収縮させ、前記ホルダー本体の下面から前記ホルダー本体の前記上面までの前記ホルダー本体の厚さが前記2つもしくはそれ以上の位置において同一である構成としてもよい。
【0017】
前記構成において、前記挿入孔は、鉛直方向に対して所定角度傾斜しており、前記挿入孔の前記周囲の位置における前記ホルダー本体の前記上面は、前記挿入孔の軸方向と直交している構成としてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の光ファイバフェルール研磨用ホルダーによれば、光ファイバフェルールに接続されたケーブルに対して力が加わった場合でもコネクタへの研磨性能への影響を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】光ファイバフェルール研磨装置10にコネクタ40を係止した状態の光ファイバフェルール研磨用ホルダー20を装着した状態の正面図である。
【
図2】光ファイバフェルール研磨用ホルダー20の平面図である。
【
図3】光ファイバフェルール研磨用ホルダー20の正面図である。
【
図4】アダプタ22を取り外した状態でアダプタ22を取り付ける部分を拡大して表示したホルダー本体21の平面図である。
【
図5】
図4のA-A線におけるホルダー本体21の断面図である。
【
図6】コネクタ40を係止した状態の光ファイバフェルール研磨用ホルダー20の断面図である。
【
図7】突出部27の上面27Uが光ファイバフェルール30を押し込む構造を模式的に示した断面図である。
【
図8】ホルダー本体21の挿入孔23周辺を拡大した断面図である。
【
図9】光ファイバフェルール研磨用ホルダー120の平面図である。
【
図10】アダプタ122を取り外した状態でアダプタ122を取り付ける部分を拡大して表示したホルダー本体121の平面図である。
【
図11】コネクタ140を光ファイバフェルール研磨用ホルダー120に係止した状態を
図10のB-B線の位置で切断した断面図である。
【
図12】光ファイバフェルール研磨用ホルダー220の平面図である。
【
図13】コネクタ240を光ファイバフェルール研磨用ホルダー220に係止した状態を
図12のC-C線の位置で切断した断面図である。
【
図14】従来技術の光ファイバフェルール研磨用ホルダー320において、コネクタ40をホルダーに係止した状態を示す断面図である。
【
図15】従来技術の光ファイバフェルール研磨用ホルダー420において、コネクタ40をホルダーに係止した状態を示す断面図である。
【
図16】本発明の効果を確認するための実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、一例として示す図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。本実施形態では、2芯のMDCコネクタを円形状に複数配置する光ファイバフェルール研磨用ホルダーを例に説明をするが、コネクタの種類や配置はこれに限られない。コネクタの種類は、MDCコネクタに限られず、LCコネクタ等の他種類のコネクタにも適用可能である。なお2芯とは、1つのコネクタに2つの光ファイバフェルールが2つの位置で組み込まれていることを意味する。1つのコネクタに1つの光ファイバフェルールが組み込まれている単芯コネクタや、1つのコネクタに3以上の複数の光ファイバフェルールが3以上の複数の位置で組み込まれている多芯コネクタに対しても、本発明は同様に適用可能である。光ファイバフェルール研磨用ホルダーに対する複数のコネクタの配置も、円形状に限られない。複数のコネクタが直線状やランダムに配置される光ファイバフェルール研磨用ホルダーに対しても、本発明は同様に適用可能である。
【0021】
図1は、光ファイバフェルール研磨装置10(以下、研磨装置10)に光ファイバフェルール研磨用ホルダー20(以下、ホルダー20)を装着した状態の正面図である。研磨装置10の上面には研磨パッド11が配置され、研磨パッド11の上面に研磨フィルム12が配置される。光ファイバフェルール30(以下、フェルール30、
図6参照)は、コネクタ40に組み込まれている。ホルダー20に複数のコネクタ40を装着することで、ホルダー20は複数のフェルール30を保持することができる。複数のコネクタ40をホルダー20に装着した状態で研磨装置10を動作させる。研磨装置10の上面(研磨フィルム12)をフェルール30の先端に押し当てて、フェルール30に対して相対的に移動させることにより、研磨フィルム12の表面でフェルール30の先端面を研磨する。ホルダー20に複数のコネクタ40を装着することで、複数のフェルール30を同時に研磨することができる。
【0022】
研磨装置10の上部の四隅には、ホルダー20を保持するための保持台13がそれぞれ設けられている。各保持台13にはクランプレバー14が設けられている。ホルダー20を保持台13に載せてクランプレバー14を水平方向に回転させることにより、ホルダー20を研磨装置10に固定することができる。なお、研磨装置10は既存の構造を有するものであるため、研磨装置10の詳細な説明は省略する。
【0023】
図2はホルダー20の平面図、
図3はホルダー20の正面図である。ホルダー20は、ホルダー本体21と、複数のアダプタ22とにより構成されている。ホルダー本体21は、外形が平面視で略矩形状であり、所定の厚さを有するプレート状に形成されている。ホルダー本体21の四隅には、研磨装置10に設置したときにクランプレバー14の軸に抵触しないように円弧状の切り欠きが設けられている。ホルダー本体21には、フェルール30を挿抜可能な複数の挿入孔23が形成されている。各挿入孔23は、平面視でフェルール30の外径よりも若干大きな外径を有する円形状に形成され、ホルダー本体21を板厚方向に貫通する。各挿入孔23の断面形状は略矩形状である。挿入孔23は、ホルダー本体21の略中央を中心として円形状に均一な間隔でホルダー本体21上に複数配置されている。なお、本実施例は2芯コネクタを係止するホルダー20であるため、円形の円周方向の各位置において、挿入孔23が2つずつ円形の径方向に所定の間隔を隔てて配置されている。
【0024】
径方向に並んで配置された2つの挿入孔23を上方から覆うように、円形の円周方向の各位置においてアダプタ22がホルダー本体21の上方に配置される。各アダプタ22は、アダプタ22の平面視で長手方向を円形の径方向に向けて配置される。各アダプタ22は、長手方向の両端付近においてねじ24でホルダー本体21に固定されている。各アダプタ22の中央部は上方に突出しており、平面視矩形の筒状に形成されている。この筒状部に上方からコネクタ40を挿入することができるようになっている。アダプタ22の筒状部には、係止孔25が形成されており、後述するようにコネクタ40のラッチ42が係止孔25に係止されることにより、コネクタ40はアダプタ22に係止される。
【0025】
図4は、アダプタ22を取り外した状態でアダプタ22を取り付ける部分を拡大して表示したホルダー本体21の平面図である。
図5は、
図4のA-A線におけるホルダー本体21の断面図である。
図4および
図5に示すように、ホルダー本体21は、円形の径方向に並んだ2つの挿入孔23の周囲に、他の部分より厚みが薄い凹部26を有する。そして、凹部26の中央付近には、上方に突出する突出部27が形成される。突出部27は、ホルダー本体21の上面21U(凹部26の上面)から上方に突出する突出部であると言うことができる。突出部27は、全体としては、2つの円弧の間を2つの直線で結んだ平面形状を有する。突出部27の上面27Uの外形は、
図4に示すように、挿入孔23の外径よりも若干大きな外径を有する円形状に形成されている。また、ホルダー本体21には、凹部26の長手方向の両端よりも外側の位置において、2つのねじ穴21Hが設けられている。ねじ穴21Hには、後述するようにアダプタ22をホルダー本体21に固定するためのねじ24が挿入される。
【0026】
図6は、コネクタ40を係止した状態のホルダー20の断面図である。フェルール30は予めコネクタ40に組み込まれており、コネクタ40の下端に位置する。各フェルール30の径方向外周にはフランジ31が設けられている。フランジ31がフェルール30に嵌合されて固定されている。フランジ31の上方には、ばね41が配置されている。ばね41は予め圧縮方向に付勢された状態でコネクタ40に収容されており、ばね41の付勢力によりフランジ31を介してフェルール30は下方(先端側)に付勢されている。
【0027】
アダプタ22は、ホルダー本体21の凹部26に収容され、ねじ24によりホルダー本体21に固定されている。アダプタ22とねじ24との間には、断面L字形状を有する固定部材28と座金29とが挿入されている。アダプタ22の上に固定部材28と座金29を配置し、固定部材28に設けられた穴と座金29に設けられた穴にねじ24を挿通した状態でねじ24がホルダー本体21のねじ穴21Hに螺合されている。これにより、固定部材28の下面がアダプタ22を下方に押し付け、アダプタ22はホルダー本体21に固定されている。
【0028】
コネクタ40を上方からアダプタ22の筒状部に挿入すると、コネクタ40のラッチ42が弾性変形し、アダプタ22に設けられた係止孔25に係止する。これによりコネクタ40がアダプタ22に係止される。このとき、コネクタ40の先端に位置するフェルール30は、ホルダー本体21の挿入孔23に挿入され、フェルール30の先端はホルダー本体21の下面21Bから下方に所定の突出長だけ突出する。複数のフェルール30を均一に研磨するためには、この下面21Bからのフェルール30の突出長を複数のフェルール30の間で一定にすることが重要である。本発明は、ホルダー本体21に対してフェルール30の上下位置がずれたり、挿入孔23の軸に対してフェルール30の軸が傾いたりすることを抑制する構造を提供する。本発明のホルダー20においては、コネクタ40をアダプタ22に係止するとき、ラッチ42が係止孔25に係止する前にホルダー本体21の突出部27の上面27Uがフェルール30のフランジ31の下面31Bに当接するように、ホルダー本体21の厚さやアダプタ22の係止孔25の位置が定められている。これにより、ラッチ42が係止孔25に係止されたときに、突出部27の上面27Uがフランジ31を介してフェルール30を上方に押圧することにより、コネクタ40に内蔵されているばね41を収縮させる。
【0029】
図7は、突出部27の上面27Uがフェルール30を押し込む構造を模式的に示した断面図である。
図7では、説明の簡素化のために、フェルール30、フランジ31、ばね41以外のコネクタ40に付随する部材を省略して表示している。
図7を使用してばね41を収縮させる構造の説明をする。
図7Aに示すように、コネクタ40をアダプタ22に挿入すると、コネクタ40の先端に位置するフェルール30は挿入孔23に挿入される。
図7Bに示すように、コネクタ40をさらに下方に挿入すると、ホルダー本体21の突出部27の上面27Uが挿入孔23の周囲の位置において(フェルール30の)フランジ31の下面31Bに当接する。この時点でラッチ42は係止孔25に係止されていない。この状態からさらにコネクタ40を下方に押し込むと、
図7Cに示すように、突出部27の上面27Uがフランジ31を介してフェルール30を上方に押圧する。これにより、コネクタ40に内蔵されているばね41は初期長さL1よりも収縮した長さL2(L1>L2)に収縮され、ばね41が収縮された状態でラッチ42が係止孔25に係止される。言い換えると、コネクタ40をアダプタ22に係止したとき、突出部27の上面27U(ホルダー本体21の上面)が挿入孔23の周囲の位置において、光ファイバフェルール30を押圧することにより、コネクタ40に内蔵されているばね41を収縮させている。本実施例は2芯コネクタであるため、2つのフェルール30の間隔に合わせて挿入孔23がホルダー本体21の2つの位置に形成され、2つの位置の挿入孔の周囲の位置においてそれぞれ突出部27の上面27Uがフェルール30を押圧し、2つのフェルール30毎に内蔵されているばね41を収縮させている。3芯以上の多芯コネクタの場合は、挿入孔23がホルダー本体21の複数の位置に形成され、複数の位置の挿入孔の周囲の位置においてそれぞれ突出部27の上面27Uがフェルール30を押圧し、複数のフェルール30毎に内蔵されているばね41を収縮させる。なお、このときのばね41の縮みの長さ(L1-L2)は0.1~0.3mm以内とすることが好ましい。
【0030】
上述のように、突出部27の上面27Uがフェルール30を押圧することにより、ばね41は初期状態よりもさらに圧縮され、ばね41はフェルール30に対して下方への付勢力を与える。フランジ31の下面31Bが突出部27の上面27Uに当接しているため、ばね41の付勢力によりフェルール30を突出部27の上面27Uに向けて押し付ける。これにより、フェルール30をホルダー本体21に対して隙間なく強固に固定することができる。なお、本実施例においては、フランジ31がフェルールの径方向外周に設けられた当接部に該当する。
【0031】
図8は、ホルダー本体21の挿入孔23周辺を拡大した断面図である。
図8を使用して、ホルダー本体21の形状について詳しく説明をする。ホルダー本体21の下面21Bから突出部27の上面27U(挿入孔23の周囲の位置におけるホルダー本体21の上面)までのホルダー本体21の厚さは、所定の厚さTとしている。所定の厚さTは、3.8mm~4.4mmの範囲とすることが好ましい。所定の厚さTを上記のように設定することにより、ラッチ42が係止孔25に係止する前にホルダー本体21の突出部27の上面27Uが(フェルール30の)フランジ31の下面31Bに当接する構造を実現している。本実施例は2芯コネクタであるため、2つのフェルール30の間隔に合わせて挿入孔23がホルダー本体21の2つの位置に形成され、所定の厚さTは2つの位置において同一である。3芯以上の多芯コネクタの場合は、挿入孔23がホルダー本体21の複数の位置に形成され、所定の厚さTは複数の位置において同一である。上記の構成により、2芯コネクタや3芯以上の多芯コネクタにおいて複数の位置に挿入孔23が形成されている場合であっても、ホルダー本体21の下面21Bからのフェルール30の突出長を一定にすることができる。
【0032】
挿入孔23の上端は、0.05mm以上の面取りCが施されている。これにより、突出部27の上面27Uの面積を最適化し、挿入孔23の周囲の位置において突出部27の上面27Uからフランジ31の下面31Bに対して上方への力が伝わりやすい構造を実現している。突出部27の上面27Uの外形は、所定の外径D1を有する円形状に形成されている。所定の外径D1は、1.4mm~2.5mmの範囲とすることが好ましい。所定の外径D1を上記のように設定することにより、挿入孔23の周囲の位置において突出部27の上面27Uからフランジ31の下面31Bに対して上方への力が伝わりやすい構造を実現している。なお、本実施例においてフェルール30の外径D2は一般的に1.25mmであるので、フェルール30の外径D2に対する円形の外径D1の比(D1/D2)が1.12~2.00の範囲であると言うこともできる。上記の比(D1/D2)は、他の外径を有するフェルールを使用する際にも有効であると考えられる。
【0033】
以上説明したように、本発明のホルダー20では、コネクタ40をアダプタ22に装着したときに、ホルダー20の突出部27の上面27Uが(フェルール30の)フランジ31の下面31Bに当接するように構成されている。これにより、突出部27の上面27Uがフェルール30のフランジ31の下面31Bを上方に押圧し、コネクタ40に内蔵されているばね41を収縮させる。その結果、ばね41の付勢力によりフェルール30をホルダー本体21に向けて押し付けることで、ホルダー本体21に対してフェルール30の上下位置がずれること、挿入孔23の軸に対してフェルール30の軸が傾くことを抑制することができる。これにより、ホルダー本体21の下面21Bからのフェルール30の突出長及び角度のばらつきを抑制することができる。ばね41の付勢力によりフェルール30をホルダー本体21に向けて押し付けているので、フェルール30に接続されたケーブルに対して力が加わった場合でも、フェルール30がずれることを抑制することができる。2芯コネクタや3芯以上の多芯コネクタでは、コネクタ40がホルダー20に対して平行な状態から少しでも傾くと、1つのコネクタに内蔵された複数のフェルール30の間で突出長や角度のずれが起こりやすいため、本発明の効果は特に顕著である。また、複数のコネクタ40をホルダー20上に円形に配置する場合、フェルール30の角度のずれによる研磨のばらつきが生じにくいため、本発明の効果は特に顕著である。本発明は、予めコネクタ40に収容されているばね41の付勢力を利用するため、アダプタ22に複雑な構造を採用することなく、上述の効果を得ることができる。
【0034】
図9は、別の実施例として光ファイバフェルール研磨用ホルダー120(以下、ホルダー120)の平面図である。
図10は、アダプタ122を取り外した状態でアダプタ122を取り付ける部分を拡大して表示したホルダー本体121の平面図である。
図11は、コネクタ140をホルダー120に係止した状態を
図10のB-B線の位置で切断した断面図である。コネクタ140は、2芯のLCコネクタである。ホルダー120の基本的な構造はホルダー20と同様であるが、挿入孔123が2つずつ円周の周方向に所定の間隔を隔てて配置されている点や、アダプタ122の形状およびアダプタ122のホルダー本体121への取付構造等がホルダー20と異なる。コネクタ140を上方からアダプタ122に挿入することにより、コネクタ140がアダプタ122に係止される。このとき、コネクタ140の先端に位置するフェルール130は、ホルダー本体121の挿入孔123に挿入され、フェルール130の先端はホルダー本体121の下面121Bから下方に所定の突出長だけ突出する。コネクタ140をアダプタ122に係止すると、ホルダー本体121の突出部127の上面127Uがフェルール130のフランジ131の下面131Bに当接する。これにより、コネクタ140がアダプタ122に係止されたときに、突出部127の上面127Uがフランジ131を介してフェルール130を上方に押圧することにより、コネクタ140に内蔵されているばね141を収縮させる。
【0035】
図12は、別の実施例として光ファイバフェルール研磨用ホルダー220(以下、ホルダー220)の平面図である。
図13は、コネクタ240をホルダー220に係止した状態を
図12のC-C線の位置で切断した断面図である。コネクタ240は、光ファイバフェルール230(以下、フェルール230)の端面を斜めに研磨するAPC(Angled Physical Contact)研磨に使用されるコネクタである。ホルダー220の基本的な構造はホルダー20と同様であるが、複数のアダプタ222を取り付けるコネクタ240の向きが同一方向に向けて配置されている点、挿入孔223の中心線が鉛直方向VD(研磨面と直交する方向)に対して所定角度θ傾斜している点がホルダー20と異なる。所定角度θは、約8°としている。また、ホルダー本体221の突出部227の上面227Uは、挿入孔223の軸方向と直交している。つまり、ホルダー本体221は、挿入孔223の周囲の位置において挿入孔223の軸方向と直交している。突出部227の上面227U(ホルダー本体221の上面)が研磨面に対して所定角度θ傾斜していると言うこともできる。上記のような構成とすることにより、APC研磨の場合であっても、突出部227の上面227U(ホルダー本体221の上面)がフランジ231の下面231Bに当接する。そして、突出部227の上面227U(ホルダー本体221の上面)がフェルール230を軸方向に沿って押圧し、ばね241を収縮させることができる。APC研磨においては、ホルダー220の下面221Bからのフェルール230の突出長及び角度のばらつきが研磨性能により大きな影響を与えるため、本発明のホルダー220の構造を使用することによる効果はAPC研磨においてより顕著である。
【0036】
図14は、比較例1として、従来技術の光ファイバフェルール研磨用ホルダー320(以下、ホルダー320)において、コネクタ40をホルダー320に係止した状態を示す断面図である。なお
図14は断面図であるが、ハッチングは省略している。
図14に示すように、従来技術のホルダー320では、ラッチ42がアダプタ22の係止孔325に係止した状態で、ホルダー本体321の突出部327の上面327Uが挿入孔323の周囲の位置においてフェルール30のフランジ31に当接していない。ホルダー本体321の突出部327の上面327Uとフランジ31との間に隙間C1が形成されている。この隙間C1が存在することによってフェルール30がホルダー320に対して相対的に移動する可能性がある。また、ホルダー本体321の上面327Uはフェルール30を上方に押圧しておらず、ホルダー本体321の上面327Uがコネクタ40に内蔵されているばね41を収縮させていない。
【0037】
図15は、比較例2として、従来技術の光ファイバフェルール研磨用ホルダー420(以下、ホルダー420)において、コネクタ40をホルダー420に係止した状態を示す断面図である。なお
図15は断面図であるが、ハッチングは省略している。ホルダー420は、独立荷重方式と呼ばれ、ホルダー420の内部にばね428を設けられた構造を有する。ホルダー本体421の下面421Bからのフェルール30の突出長が一定でない場合であっても、フェルール30が研磨面に押圧されたときに、ばね428の働きによって突出長のばらつきを抑制している。ホルダー320と同様に、ホルダー420では、ラッチ42がアダプタ22の係止孔425に係止した状態で、ホルダー本体421の突出部427の上面427Uが挿入孔423の周囲の位置においてフェルール30のフランジ31に当接していない。ホルダー本体421の突出部427の上面427Uとフランジ31との間に隙間C2が形成されている。この隙間C2が存在することによってフェルール30がホルダー420に対して相対的に移動する可能性がある。また、ホルダー本体421の上面427Uはフェルール30を上方に押圧しておらず、ホルダー本体421の上面427Uがコネクタ40に内蔵されているばね41を収縮させていない。
【0038】
図16は、本発明の効果を確認するための実験結果を示すグラフである。本発明のホルダー20と、比較例に係るホルダー320、420を用いて、コネクタ40を各ホルダーに装着し研磨したときの研磨後のフェルール30の端面の曲率半径と光ファイバの中心に対する曲率半径の中心の軸ずれを比較した。研磨方式はPC(Physical Contact)研磨とし、各ホルダーとも12ずつのフェルール30をサンプルとして比較した。
図16において、本発明のホルダー20の測定結果をひし形、比較例1に係るホルダー320の測定結果を正方形、比較例2に係るホルダー420の測定結果を三角形で示す。
図16に示すように、本発明のホルダー20を使用することで曲率半径、軸ずれともに規格内となり、比較例に係るホルダー320、420と比較してばらつきが小さいことが分かった。つまり、本発明のホルダー20は、フェルール30を均一に研磨することができる効果が顕著であることが確認された。
【0039】
前記実施例において、突出部27の上面27Uがフランジ31の下面31Bに当接してフェルール30を上方へ押圧する構造を説明したが、本発明のホルダー20の構造はこれに限られない。ホルダー本体21の上面が挿入孔23の周囲の位置においてフェルール30を押圧する構造である限り、様々な構造を採用可能である。例えば、ホルダー本体21が凹部26や突出部27を有しておらず上面が平坦な構造であっても、ホルダー本体21の上面の挿入孔23の周囲の位置でフェルール30を押圧する構造とすることで本発明を適用可能である。なお、挿入孔23の周囲の位置とは、挿入孔23の外周から外側に向かってある程度の面積を有した部分のことを指す。
【0040】
前記実施例において、突出部27の上面27Uが当接する部分である当接部としてフランジ31を例に説明したが、当接部はフランジ31に限られない。当接部は、フェルール30に固定されておりフェルール30と連動して上下動することができる部材である限りどのような部材であってもよい。また、フェルール30を上方に押圧(押上)できる構造である限り、それを実現する手段は必ずしも当接部でなくてもよい。当接部以外の構造によりフェルール30を上方に押圧するものも本発明に含まれる。
【0041】
前記実施例において、突出部27の上面27Uの外形は、2つの円形を有する形状であるが、この円形の数は1つのコネクタ40に組み込まれるフェルール30の数により変更することが好ましい。例えば単芯コネクタの場合であれば、突出部27の上面27Uは1つの円形を有し、3芯以上の多芯コネクタの場合であれば、突出部27の上面27Uは3以上の円形を有することが好ましい。なお、ここで円形とは、上面27Uの外形が厳密に円形であることを意味しない。円弧の一部に凹み、膨らみ、直線部等がある場合であっても全体として外形が略円形であれば、本願では外形が円形であると言う。また、フェルール30を押圧できる構造である限り、上面27Uの外形を円形以外の形状とすることも可能である。
【0042】
なお、本発明は前記実施例に限られるものでないことは言うまでもない。当業者であれば言うまでもないことであるが、
・前記実施例の中で開示した相互に置換可能な部材および構成等を適宜その組み合わせを変更して適用すること
・前記実施例の中で開示されていないが、公知技術であって前記実施例の中で開示した部材および構成等と相互に置換可能な部材および構成等を適宜置換し、またその組み合わせを変更して適用すること
・前記実施例の中で開示されていないが、公知技術等に基づいて当業者が前記実施例の中で開示した部材および構成等の代用として想定し得る部材および構成等と適宜置換し、またその組み合わせを変更して適用すること
は本発明の一実施例として開示されるものである。
【符号の説明】
【0043】
10…光ファイバフェルール研磨装置、11…研磨パッド、12…研磨フィルム、13…保持台、14…クランプレバー、20、120、220…光ファイバフェルール研磨用ホルダー、21、121、221…ホルダー本体、22、122、222…アダプタ、23、123、223…挿入孔、24…ねじ、25…係止孔、26…凹部、27、127、227…突出部、28…固定部材、29…座金、30、130、230…光ファイバフェルール、31、131、231…フランジ、40、140、240…コネクタ、41、141、241…ばね、42…ラッチ。
【要約】
【課題】 複数の光ファイバフェルールの光ファイバフェルール研磨用ホルダーからの突出長及び角度のばらつきを抑制するとともに、光ファイバフェルールに接続されたケーブルに対して力が加わった場合でもコネクタへの研磨性能への影響が小さい光ファイバフェルール研磨用ホルダーを提供する。
【解決手段】コネクタに組み込まれた光ファイバフェルールを保持するための光ファイバフェルール研磨用ホルダーであって、プレート状に形成されたホルダー本体と、前記ホルダー本体に固定されるとともに前記コネクタを係止可能なアダプタとを有し、前記ホルダー本体は、前記光ファイバフェルールを挿抜可能な挿入孔を有し、前記コネクタを前記アダプタに係止したとき、前記ホルダー本体の上面が前記挿入孔の周囲の位置において、前記光ファイバフェルールを押圧することにより、前記コネクタに内蔵されているばねを収縮させる構成を有する。
【選択図】
図6