(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】キサンタンガム、およびそれを用いた食品
(51)【国際特許分類】
C08B 37/00 20060101AFI20220222BHJP
A23L 29/269 20160101ALI20220222BHJP
【FI】
C08B37/00 B
A23L29/269
(21)【出願番号】P 2021146085
(22)【出願日】2021-09-08
【審査請求日】2021-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2020201109
(32)【優先日】2020-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年9月9日に販売促進用パンフレット「イナゲル ウルトラキサンタンTOP」において発表
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000118615
【氏名又は名称】伊那食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】きさらぎ国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】柴 克宏
(72)【発明者】
【氏名】小島 正明
(72)【発明者】
【氏名】荻原 宏幸
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-139161(JP,A)
【文献】特開平05-271301(JP,A)
【文献】特開平09-025301(JP,A)
【文献】特開2020-059834(JP,A)
【文献】特開平10-158301(JP,A)
【文献】特開2000-007705(JP,A)
【文献】特開昭58-047449(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0021112(US,A1)
【文献】特開2019-172789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 37/00
A23L 29/269
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状または顆粒状の原料キサンタンガムに対し、
加熱処理された平均粒子径が25~150μmのキサンタンガムであって、0.4質量%の濃度で20℃のイオン交換水または3.0質量%の塩化ナトリウム水溶液に加えて分散させ、60分経過後
、B型粘度計を用いて回転数30rpmで測定した20℃での粘度(μ(w)およびμ(s))が、下記数式(1)および数式(2)を満たすことを特徴とするキサンタンガム。
μ(s)/μ(w)≧0.25 (1)
μ(w)≧
600mPa・s (2)
(ここで、μ(w)は、イオン交換水の場合の粘度であり、μ(s)は、3.0質量%の塩化ナトリウム水溶液の場合の粘度である。)
【請求項2】
請求項1に記載のキサンタンガムを含有することを特徴とする食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キサンタンガム、およびそれを用いた食品に関する。
【背景技術】
【0002】
キサンタンガムは、耐酸性や耐塩性、耐熱性、耐酵素性に優れた増粘多糖類である。このため、ドレッシングなどの低pH食品、レトルト食品、塩辛、佃煮など様々な食品の増粘剤として使用されている。食塩を含有する食品を製造する際には、キサンタンガムは常温の食塩水に加えられる場合がある。キサンタンガム粉末は、食塩水に直接投入して溶解させようとすると、溶解速度が著しく遅いことが知られている。
【0003】
従来から、水に溶解して高い粘性を付与できる高粘性キサンタンガムや塩溶解性キサンタンガムが提案されている(例えば、特許文献1~6参照)。しかしながら、従来の高粘性キサンタンガムは、常温の食塩水に粉末の状態で溶かそうとすると粘性が極めて低いものとなる。キサンタンガムを予め水に溶解後に食塩を溶解させる場合は問題ないが、食塩水中に粉末を直接溶解させる場合が問題となる。食塩水中にキサンタンガムを溶解させる場合には、投入後長時間撹拌して溶解させる工程、あるいは、加熱溶解する工程などを経る必要がある。
【0004】
このような工程は、水で希釈ができない製品、加熱工程や乳化工程(乳化機使用)を経ない製品の製造には使用できない。例えば塩辛、分離タイプのドレッシングなどである。工場での製造において、投入後長時間の放置は作業性の面や、微生物汚染の面からも好ましくはない。乳化機の使用は、製品が限定されたものになってしまうことや工程が増えるなどの問題がある。
一方、キサンタンガムの水溶液をホモジナイザー処理して製造された塩溶液易溶解性キサンタンガムも存在する。このキサンタンガムは、ホモジナイザー処理に起因して粘度が通常のキサンタンガムの場合より低く、分散安定能が劣るという問題がある。
【0005】
特許文献1には、粉末状態で加熱処理された高粘性キサンタンガムが記載されている。水溶液の粘性が高まることは記載されているが、食塩水中での溶解性についての記載はない。液性の改善は開示されていても、食塩を含む食品、食品以外への適応には言及されていない。通常、熱処理を経て作製された高粘性キサンタンガムは、食塩水への溶解性が悪く、また高粘性キサンタンガム溶液に食塩を加えると粘性が低下する。さらに、キサンタンガムの粒度に関する検討はされていない。
【0006】
特許文献2は、粉末状態で加熱処理された高粘性キサンタンガムが記載されている。特許文献1と同様に、ままこになりにくい高粘性キサンタンガムであるが、食塩水への溶解性に関する記載はない。さらに、キサンタンガムの粒度に関する検討はされていない。
【0007】
特許文献3には、アセチル基含量が1%以下のキサンタンガムを加熱処理した改質キサンタンガムが記載されている。ガラクトマンナンやグルコマンナンとの反応性が高まること、増粘性、乳化・分散安定性、保水性、および食感の改良については記載されているが、食塩水への溶解については記載されていない。さらに、キサンタンガムの粒度に関する検討はされていない。
【0008】
特許文献4には、湿熱処理された高粘性キサンタンガムは耐塩性を有することを見出した旨が記載されている。実施例においては、キサンタンガムの分散溶液に塩化ナトリウム溶液を添加した際の粘性によって、キサンタンガムの耐塩性を評価している。つまり溶解したキサンタンガムに食塩水を添加して評価したものであり、キサンタンガム粉末を食塩水に直接添加して評価したものではない。さらに、キサンタンガムの粒度に関する検討はされていない。
【0009】
特許文献5には、加熱処理された高粘性キサンタンガムを含有する食品が記載されている。実施例によれば、食塩を含有する製品へ高粘性キサンタンガムを溶解させるためには、加熱処理やホモジナイザー処理が行われている。こうした処理を要する高粘性キサンタンガムは、加熱変性物質が含まれる食品には適用することができない。
【0010】
例えば、実施例1では180℃加熱処理して強制的にキサンタンガムを溶解している。実施例2では、ホモミキサー(乳化機)を使用してキサンタンガム分子を強制的に解いている。実施例3では80℃で10分間の加熱処理、実施例4では加熱とホモジナイズ、実施例5では120℃で25分間の加熱処理を行っている。実施例6は湯で解いており、実施例7~9では加熱処理している。また、参考例2に示された塩濃度における粘度試験は、予め1%濃度に溶解されたキサンタンガム水溶液を使用している。食塩を含有する製品に、粉末状態のキサンタンガムを常温で直接溶解させることは開示されていない。
【0011】
特許文献6には、変性キサンタンガムを用いた高塩食品およびその製造方法が記載されている。特許文献6においては、食塩水へのキサンタンガムの溶解性を高めるために、キサンタンガムの水溶液に物理的処理(圧力式ホモジナイザー)が施されている。物理的処理によりキサンタンガムの分子が変性して、水溶液(食塩0%)での粘度値が従来品より低い値になってしまう。
【0012】
特許文献7には、5重量%の食塩水溶液への親和性が向上された溶液親和性多糖類が記載されている。この溶液親和性多糖類は、20℃の5重量%の食塩水溶液に1.0%重量%溶解した際の10分後の粘度が、20℃の水に1.0重量%溶解した際の10分後の粘度の50%以上であることを特徴する溶液親和性多糖類(キサンタンガム)である。さらに、このキサンタンガムを加熱処理した高粘性キサンタンガムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平10-33125号公報
【文献】特開平11-116603号公報
【文献】特開2006-213867号公報
【文献】特許第4201391号公報
【文献】特開平11-308971号公報
【文献】特開昭58-47449号公報
【文献】特開2012-139161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで本発明は、水および食塩水に粉末状態で加えた場合であっても、高い粘性を付与できるキサンタンガム、およびそれを用いた食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、20℃のイオン交換水または3.0質量%の塩化ナトリウム水溶液に溶解させた際の粘度について所定の条件を備えたキサンタンガムが、水および食塩水に粉末状態で加えた際、高い粘性を付与できることを見出し、本発明に至った。
【0016】
すなわち、本発明に係るキサンタンガムは、粉末状または顆粒状の原料キサンタンガムに対し、加熱処理を施して得られた平均粒子径が25~150μmのキサンタンガムであって、0.4質量%の濃度で20℃のイオン交換水または3.0質量%の塩化ナトリウム水溶液に加えて分散させ、60分経過後の20℃での粘度(μ(w)およびμ(s))が、下記数式(1)および数式(2)を満たすことを特徴とする。
μ(s)/μ(w)≧0.25 (1)
μ(w)≧400mPa・s (2)
(ここで、μ(w)は、イオン交換水の場合の粘度であり、μ(s)は、3.0質量%の塩化ナトリウム水溶液の場合の粘度である。)
【0017】
また、本発明の食品は、前述のキサンタンガムを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、水および食塩水に粉末状態で加えた場合であっても、高い粘性を付与できるキサンタンガム、およびそれを用いた食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】キサンタンガムの貯蔵弾性率(G’)を示すグラフである。
【
図2】キサンタンガムの損失正接(tanδ)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のキサンタンガムは、粉末状または顆粒状の原料キサンタンガムに対し、加熱処理を施して得られた平均粒子径が25~150μmのキサンタンガムであって、0.4質量%の濃度で20℃のイオン交換水または3.0質量%の塩化ナトリウム水溶液に加えて分散させ、60分経過後の20℃での粘度(μ(w)およびμ(s))が、下記数式(1)および数式(2)を満たす。
μ(s)/μ(w)≧0.25 (1)
μ(w)≧400mPa・s (2)
(ここで、μ(w)は、イオン交換水の場合の粘度であり、μ(s)は、3.0質量%の塩化ナトリウム水溶液の場合の粘度である。)
【0021】
粘度μ(w)およびμ(s)は、具体的には次の手法により求められる。粘度μ(w)の場合は、20℃のイオン交換水に、0.4質量%の濃度となるようにキサンタンガムを撹拌しながら加え、10分撹拌する。撹拌には、ラボ用の撹拌機を使用することができる。300rpmで10分間撹拌し、49分間放置する。その後、同条件で1分間撹拌し、粘度を測定してμ(w)とする。また、イオン交換水を3.0質量%の塩化ナトリウム水溶液に変更する以外は同様の手法により粘度を測定して、粘度μ(s)とする。
【0022】
なお、本発明における撹拌は、手で撹拌したような弱い撹拌を意図している。撹拌機を使用する場合には、膨潤した粒子を壊すことのない程度の撹拌混合、所謂、低速撹拌が本発明における撹拌に該当する。塩難溶性のキサンタンガムは、こうした撹拌では粘性が発現しないため、分子を解すためにホモジナイザーや高速撹拌機などの溶解機が使用されていた。
本発明のキサンタンガムは、撹拌機を使用する場合に加え、低速撹拌、すなわち、スパーテル、マドラー、泡立て器等を使用して手で撹拌するレベルの撹拌、および手で撹拌する場合でも粘性を発現させることができ、顕著な効果を奏する。
【0023】
本発明者らは、上記式(1)で表される粘度比(μ(s)/μ(w))が、キサンタンガムの食塩水溶解性の指標となることを見出した。この粘度比が0.25以上であれば、食塩水溶解性は良好である。μ(s)/μ(w)は、0.30以上であることが好ましく、0.35以上であることがより好ましい。
また、粘度μ(w)が400mPa・s以上であることは、キサンタンガムの水への溶解性が良好であることを意味している。粘度μ(w)は、600mPa・s以上であることが好ましく、800mPa・s以上であることがより好ましい。粘度μ(s)は、220mPa・s以上であることが好ましく、400mPa・s以上であることがより好ましい。
【0024】
本発明のキサンタンガムは、粉末状や顆粒状の原料キサンタンガムに適度な加熱処理を行うことによって製造することができる。一般的には、ブドウ糖または澱粉を炭素源として、微生物キサントモナス・キャンペストリスを接種し、30℃程度で純粋培養すると多量の粘質物が生産される。次いで、アルコールを添加すると多糖類である粘質物が沈殿し、さらに、分離した多糖類を精製・乾燥・粉砕して、キサンタンガムを得る。こうして乾燥・粉砕を経たキサンタンガムが、本発明における原料キサンタンガムである。この原料キサンタンガムをさらに粉砕して粒子径を調整したり、造粒して顆粒にしたに過ぎないものも、物性に変化がないので、本発明における原料キサンタンガムに含まれる。
【0025】
この原料キサンタンガムを得る際の粉砕前の乾燥工程は、アルコールや水分を蒸発させるために行う加熱であり、加熱によって品温は上昇していない。品温が上昇したとしてもごく短時間であり、粘度に影響を与えるほどの加熱は行われない。この原料キサンタンガムを得る方法は、様々な文献に記載されており、公知であり、かつ通常の方法として行われている方法である。
【0026】
一方、この原料キサンタンガムを水に溶解や膨潤したのちに、特許文献7に記載されているような真空凍結乾燥や真空乾燥により再乾燥したものは、本発明における原料キサンタンガムには該当しない。水に溶解されたキサンタンガム分子を真空凍結乾燥や真空乾燥により乾燥させた場合、通常の乾燥方法とは異なりキサンタンガム分子は、広がった状態のまま乾燥される。このため、原料キサンタンガムに比べ分子間の距離が長く広がった分子となり、原料キサンタンガムと異なる分子構造となる。
【0027】
さらに、真空凍結乾燥法や真空乾燥法により乾燥されたキサンタンガムは、原料キサンタンガムに比べ水に溶解した時の粘度は低下し、加熱処理しても粘度が上がりにくい。一般的に多糖類は、粉末を溶解し再度粉末化する等の加工を行うと、多糖類分子が加熱や冷凍工程により低分子化して粘度が低下することが、その理由である。原料キサンタンガムを水に溶解した後、真空凍結乾燥等により再度粉末化が行われたことにより原料キサンタンガムが低分子化し、水に溶解した時の粘性が原料キサンタンガムに比べ低くなるためである。
【0028】
市販の粉末状キサンタンガムの平均粒子径は、通常160~200μm程度であるが、25~150μm程度に粉砕した後に加熱処理を施すことができる。あるいは、加熱処理したものを25~150μmに粉砕してもよい。粉末状や顆粒状のキサンタンガムをステンレス製等の耐熱容器に収容し、所定温度(例えば50~250℃)の送風乾燥機内で所定時間加熱することによって、加熱処理を行うことができる。顆粒状のキサンタンガムを使用する場合は、顆粒を構成する単一粒子の粒子径が25~150μmであることが好ましい。
【0029】
加熱温度は、50~250℃の範囲内で選択される。250℃を超える加熱は、粉末の褐変が激しくなるなどの弊害が生じるため行わない。加熱処理の程度は、主に加熱温度に依存するので、本発明における加熱処理の程度は、特許文献1~5に記載された高粘性キサンタンガムの場合より小さい。加熱時間は、1分~7日間の範囲内であり、加熱温度に応じて選択される。ただし、加熱温度が高いほど加熱時間を短くする必要がある。例えば、加熱温度が70℃以下の場合には、加熱時間は24時間以上とすることができる。一方、150℃程度の比較的高温で加熱する場合には、加熱時間は5分以内程度とする。
なお、上述した加熱条件は一例であり、使用する原料や容器、加熱装置により条件は異なる場合がある。
【0030】
加熱処理後の本発明のキサンタンガムの粒子径は、25~150μmの範囲内にあることが好ましい。なお、粒子径とは、粒度分布計を使用して求めた平均粒子径をさす。本発明者らは、キサンタンガムの粒子径を25~150μmに規定することで、水溶液の粘性を維持しつつ、食塩水への溶解性がより高くなることを見出した。キサンタンガムの粒子径は、35~120μmであることがより好ましく、45~100μmであることが最も好ましい。これは平均粒子径が小さすぎると単一粒子の2次凝集が激しくなり、見かけ上の溶解速度が遅くなったり、低分子化による粘度低下があるためである。また平均粒子径が大きすぎると食塩水への溶解が遅くなるためである。
【0031】
キサンタンガムは、粉砕して粒子径を調整することが好ましい。粉砕は、加熱処理前および加熱処理後のいずれに行ってもよい。粉砕機としては、ハンマーミル、ボールミル、ピンミル、気流式粉砕機、冷凍粉砕機、ローラーミル、石臼式粉砕機などが挙げられ、任意の種類の粉砕機を用いることができる。粉砕後の粉砕物は、顕微鏡法や粒度分布測定装置などを使用して平均粒子径を求める。
【0032】
加熱処理された高粘性キサンタンガムの食塩水への溶解性に粒子径が関連することは、本発明者らによって見いだされた。一般的な粒子は、粒子径を小さくすると比表面積が増えるため、溶解時の凝集(ままこ)がない限り溶解速度は速くなる。しかしながら、加熱処理された高粘性キサンタンガムの場合は、水に溶解して構造粘性を示してゲルに近い状態となる。微粉砕により物理的に構造が壊れて低分子化し、粘度は微粉砕前よりも低下する。微粉砕して溶解速度が速くなったところで、粘度が上がることはない。粘度を上げることが目的の従来の高粘性キサンタンガムにおいては、微粉砕するという発想は起こり得ないものであった。
【0033】
本発明のキサンタンガムは、食塩水溶解性、耐熱性、耐酸性、耐酵素性に優れているため、従来の用途に用いて特性を高めることができる。120℃以上の加熱処理を要する食品のほか、加熱や乳化の工程を経ずに製造される食品にも好適である。例えば、たれ類、ドレッシング、ソース類、漬物類、佃煮類、即席食品、レトルト食品、飲料、デザート類、小麦粉製品および介護食などに本発明のキサンタンガムを用いて、増粘、分散安定性向上、食味改良、艶出し、乳化といった効果を得ることができる。
【0034】
油脂と調味液がわかれた固形分を含む分離タイプのドレッシングなどには、2質量%以上の塩分が含まれることがある。そのような食品に、加熱やホモジナイズの工程を経ず直接溶解させる場合には、本発明のキサンタンガムの効果が特に発揮され、固形分の沈殿を防止し、油分の分離を遅くするという効果が得られる。また、介護食の場合には、乳成分、カルシウム、ミネラルを多く含むものがあり、更に水や乳を加えて用事調整するタイプもある。このような介護食においても、本発明のキサンタンガムは用時調整時に速やかに溶解して粘性を発現し、適切なとろみを付与することができる。
【0035】
本発明のキサンタンガムの添加量は、食品に応じて適宜選択することができる。例えばデザート類の場合には、0.03質量%以上であれば十分な効果を得ることができる。所望の効果が十分に得られる添加量は、たれ類、佃煮類、レトルト食品および小麦粉製品の場合には0.1質量%以上であり、残りの食品の場合には0.05質量%以上である。本発明のキサンタンガムは、対象となる食品に添加後、速やかに粘性を付与することができる。温められる食品の場合には、仮に冷めても粘度変化が少ない。
【0036】
本発明のキサンタンガムは、上述したような食品用途のみならず、医薬品、医薬部外品、化粧品、化成品、さらには石油掘削などの土木などにも使用することができる。本発明のキサンタンガムは、加熱処理と粉砕とを経て製造され、化学処理が施されていないことから安全性が高い。このため、列挙された分野に限らず様々な分野においても効果を発揮することが期待される。
【0037】
なお、キサンタンガムの加熱に関しては、過度の加熱で水に不溶性となり高吸水性ポリマーになることが知られている(特開2003-192703号公報)。見かけ上架橋構造をとることが、その理由であるとされている。見かけ上架橋構造をとって高分子化し、キサンタンガム粒子が完全に溶解する直前の状態程度に膨潤する。その結果として、粘性が高まるのである。特許文献1~5,7に示された高粘性キサンタンガムも、同様な理由により粘性が高まる。澱粉などと同様、完全に溶解して分子が解けた状態よりも溶解直前の膨潤粒子の集合体のほうが、隣接する粒子間の摩擦によって高い粘性が生じる。
【0038】
しかしながら食塩水中では、キサンタンガム中のマイナス電荷をもつイオン基がイオン化することができない。粒子内での反発が抑制されて膨潤が進行しないため、架橋構造をとる粒子では特に粘性が発現しないのである。食塩水中で粘性を発現させるためには、所定の処理を施してキサンタンガム粒子を溶解させる必要がある。例えば、熱エネルギーで架橋構造を解すための食塩分散液の加熱処理、キサンタンガム粒子を解すための食塩分散液のホモジナイザー処理などが行われる。
【0039】
そのような処理を行ったところで、本来架橋構造のキサンタンガムを用いて食塩水中では充分な粘度を出すことは困難であった。また、水に溶解した加熱処理キサンタンガム溶液でも、食塩を加えた場合にはマイナス電荷をもつイオン基のイオン化が弱まってしまう。その結果、キサンタンガム粒子内での反発が抑制されて膨潤が不十分となり、粘性は低下する傾向となる。
【0040】
適切な条件で加熱処理することによって、キサンタンガムの架橋構造を弱めることができる。本発明は、そうした架橋構造の弱められたキサンタンガムを見出し、その物性で特定したものである。本発明のキサンタンガムは、水中で粒子が充分に膨潤して粘性を発現する。本発明のキサンタンガムは架橋が弱いため、食塩水中でマイナスイオン基のイオン化の程度が少なくてもマイナスイオン基の反発により十分に膨潤できる。こうして、十分な粘度が発現するのである。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
<原料キサンタンガムの準備>
キサンタンガム1-1(イナゲルV-10、伊那食品工業(株)製)を気流式粉砕機により粉砕して、所定の平均粒子径の粉砕サンプル(1-2~1-8)を作製した。さらに、キサンタンガム2-1(イナゲルV-10T、伊那食品工業(株)製)も同様に粉砕して、所定の平均粒子径の粉砕サンプル(2-2~2-8)を作製した。粒子径は、粉砕回数や空気圧力を変えることにより調整した。
【0042】
粉砕サンプルおよび未粉砕のサンプルを、原料キサンタンガムとする。原料キサンタンガムの平均粒子径(体積平均粒子径)を、粒度分布計(Microtrac MT3000 日機装社(株)製)を使用して測定した。その結果を以下にまとめる。
原料キサンタンガム1-1:平均粒子径180μm
原料キサンタンガム1-2:平均粒子径145μm
原料キサンタンガム1-3:平均粒子径117μm
原料キサンタンガム1-4:平均粒子径96μm
原料キサンタンガム1-5:平均粒子径65μm
原料キサンタンガム1-6:平均粒子径49μm
原料キサンタンガム1-7:平均粒子径36μm
原料キサンタンガム1-8:平均粒子径25μm
原料キサンタンガム2-1:平均粒子径196μm
原料キサンタンガム2-2:平均粒子径149μm
原料キサンタンガム2-3:平均粒子径115μm
原料キサンタンガム2-4:平均粒子径99μm
原料キサンタンガム2-5:平均粒子径75μm
原料キサンタンガム2-6:平均粒子径46μm
原料キサンタンガム2-7:平均粒子径36μm
原料キサンタンガム2-8:平均粒子径28μm
【0043】
原料キサンタンガムを種々の条件で加熱処理し、処理後のキサンタンガムについて、以下の粘度(μ(w)、μ(s))を測定する。μ(w)および粘度比(μ(s)/μ(w))によって食塩水への溶解性を評価する。
μ(w):キサンタンガムを0.4重量%の濃度で20℃のイオン交換水に加えて分散させ、60分間経過後の20℃での粘度
具体的には、キサンタンガム2.0gを20℃のイオン交換水498.0gに撹拌しながら加え、10分間撹拌した。撹拌には、ラボ用の撹拌機(品名:トルネード,型番:SM-103,撹拌翼:プロペラ型3枚羽φ50mm,メーカー:アズワン製)を使用し、300rpmにて10分間撹拌した。その後、49分間放置し、粘度の均一化のために同条件で1分間撹拌した後、粘度を測定してμ(w)とした。
μ(s):キサンタンガムを0.4重量%の濃度で20℃の3.0%重量の塩化ナトリウム水溶液に加えて分散させ、60分間経過後の20℃での粘度
具体的には、キサンタンガム2.0gを20℃の3.0重量%の塩化ナトリウム水溶液498.0gに撹拌しながら加え、10分間撹拌した。撹拌にはラボ用の撹拌機(品名:トルネード,型番:SM-103,撹拌翼:プロペラ型3枚羽φ50mm,メーカー:アズワン製)を使用し、300rpmにて10分間撹拌した。その後、49分間放置し、粘度の均一化のために同条件で1分間撹拌した後、粘度を測定してμ(s)とした。
本実施例での溶解条件は低速撹拌の一例であり、この条件に限定するものではない。
【0044】
下記数式(1)および数式(2)の両方を満たす場合、水および食塩水への溶解性が優れているとする。食塩水易溶解性であるので、実施例とする。数式(1)および数式(2)のいずれか一方でも満たさないものを比較例とする。
μ(s)/μ(w)≧0.25 (1)
μ(w)≧400mPa・s (2)
【0045】
粘度の測定に用いる装置および条件は、以下のとおりである。
・B型粘度計 BROOKFIELD(LVDV-1 PRIME)
測定温度:20℃
ローター:適宜粘性に合わせて最適なローター(No.1~3)を使い分けた。
ローター:回転数 30rpm 、1分後の粘度を測定
【0046】
<予備試験>
本発明のキサンタンガムは、粉末状または顆粒状の原料キサンタンガムに加熱処理を施すという特定の方法により得られたものである。特許文献7記載の方法(乾燥のみ)で製造されたキサンタンガム(以下、「FDキサンタンガム」という)、さらに引き続き加熱処理を行い高粘性化したキサンタンガム(以下、「FD高粘性キサンタンガム」という)との効果の違いを説明するために、本発明のキサンタンガム、FDキサンタンガム、およびFD高粘性キサンタンガムについて粘度を測定して、物性の違いを調べた。
【0047】
本発明のキサンタンガムは、次の方法により作製した。具体的には、キサンタンガム(イナゲルV-10、伊那食品工業製)2kgを、気流粉砕機にて粉砕して平均粒子径94μmの原料キサンタンガムを作製した。このサンプル1000gをステンレス容器に収容し、送風乾燥機にて100℃、1時間の加熱処理を行って、本発明のキサンタンガム(発明品)を得た。
【0048】
FDキサンタンガムは、特許文献7に記載の方法にしたがって作製した。具体的には、キサンタンガム(イナゲルV-10、伊那食品工業製)30gを精製水1000gに溶解した。これを、真空凍結乾燥機(TAKARA FREEZE-DRYER(型式:TF10-85ATNNN、宝エーテーエム社))にて乾燥(60℃)し、水分値9.5%のFDキサンタンガムを作製した。
【0049】
さらに、FDキサンタンガムの一部に対し、それぞれ所定の加熱処理を引き続き行った後、テーブル粉砕機により平均粒子径95μmに粉砕して、FD高粘性キサンタンガム(i)~(vii)を得た。所定の加熱処理(i)~(vii)を、以下に示す。
(i)65℃にて72時間
(ii)85℃にて72時間
(iii)100℃にて1時間
(iv)120℃にて3時間
(v)80℃にて6時間
(vi)90℃にて2時間
(vii)110℃にて30分
ただし、(iii)、(iv)、(vii)については、真空凍結乾燥器の加熱範囲を超えていたため、真空凍結乾燥機から取り出して送風乾燥機(Hot air rapid drying oven,soyokaz:ISUZU社製)で加熱処理を行った。
【0050】
得られたキサンタンガムについて、上記の粘度(μ(w)、μ(s))を測定した。さらにμ(w)および粘度比(μ(s)/μ(w))によって食塩水への溶解性を評価した。
その結果を、下記表にまとめる。
【0051】
【0052】
上記表1より、本発明のキサンタンガムは、上記の(1)及び(2)の条件を満たしていたが、特許文献7に記載の方法で製造されたFDキサンタンガムおよびFD高粘性キサンタンガムは、μ(w)の値が(2)の条件を満たしておらず、粘度が低かった。
【0053】
FDキサンタンガムおよびFD高粘性キサンタンガムは、特許文献7に記載のとおり、原料キサンタンガムを水に溶解した後、真空凍結乾燥により再度粉末化が行われたものである。一般的に多糖類は、粉末を溶解し再度粉末化する等の加工を行うと、多糖類分子が加熱や冷凍工程により低分子化して粘度が低下する。よって、水に溶解した時の粘性が原料キサンタンガムに比べ低くなる。
【0054】
また、特許文献7の段落0016に記載されているように、FDキサンタンガム粉末は、原料キサンタンガムに比べ単一粒子粉末の密度が低い。このため、加熱処理した際、見かけ上の架橋構造をとりにくくなる。一方、本発明のキサンタンガムは、FDキサンタンガムより単一粒子粉末の密度が高いため、適切な条件で加熱処理を行うことによって適切に弱められた架橋構造となり、本発明の効果を発揮するのである。
【0055】
本発明のキサンタンガムや特許文献7の実験例4(段落0042)に示された高粘性キサンタンガムは、溶解濃度による粘度値の差が、通常のキサンタンガムより大きくなる。具体的には、異なる濃度(0.4%と1.0%)でイオン交換水に溶解して粘度を比較した場合、通常のキサンタンガムは0.4%と1.0%の粘度の値の差が少ないのに対し、高粘性キサンタンガムの場合は差が大きくなる。下記表にイオン交換水に溶解した時の0.4%の粘度と1.0%の粘度を示した(溶解後60経過後に粘度測定、20℃測定)。
【0056】
【0057】
特許文献7の実験例4(段落0042)に示された高粘性キサンタンガムは、水に溶解した場合完全に溶解する溶解直前の膨潤粒子の集合体となる。要するに、特許文献7における高い粘性は、隣接する粒子間の摩擦に起因するものである。1.0%濃度という高濃度域では高粘性を示していても、低濃度域では隣接する粒子が減少する。その結果、粒子間の摩擦が生じず粘度が極端に低下してしまう。特許文献7の高粘性キサンタンガムは1.0%濃度の粘度に比べ、0.4%濃度の粘度は極端に低下することがわかる。
【0058】
FD乾燥や真空乾燥においては、キサンタンガムを水に溶解後に真空にして乾燥が行われる。こうした乾燥方法は送風乾燥ではないため、乾燥効率が悪い。特に、水溶液のような水分を多量に含むものを乾燥させる場合には、乾燥完了までに要する時間が非常に長くなって現実性に劣る。高粘性のものは乾燥が困難となる。このため製品化されたとしても非常に高価なものとなり、産業上の利点がない。
【0059】
以上のとおり、粉末状または顆粒状の原料キサンタンガムに加熱処理を施すという特定の方法により得られ本発明のキサンタンガムは、特許文献7に記載されたキサンタンガムに対し、優れた効果を有するものである。すなわち、特許文献7に記載されているキサンタンガムは、原料キサンタンガムを水に溶解後に真空乾燥又は真空凍結乾燥により乾燥させて得られた溶液親和性多糖類である。よって本発明の、粉末状または顆粒状の原料キサンタンガムではなく、また本発明の原料キサンタンガムに加熱処理を施して得られたものではなく、本発明の作用効果を得ることがでない。
【0060】
本発明のキサンタンガムと特許文献1~5,7に示された高粘性キサンタンガムは、溶媒に溶解した後の経過時間による粘度値が異なる。具体的には、本発明のキサンタンガムは継子(ダマ)ができない限り短時間溶解して粘度値が安定するのに対し、特許文献で示された高粘性キサンタンガムは、溶解に時間がかかり粘度が安定するまでに時間を要する。こうした違いは、架橋構造の違いに起因する。すなわち、本発明のキサンタンガムは、架橋構造が弱いため膨潤が早く短時間で粘度が安定する。一方、特許文献の高粘性キサンタンガムは、架橋構造が強いため膨潤に時間がかかって粘度が安定するまでに長時間を要するのである。下記表には、本発明のキサンタンガムと特許文献のキサンタンガムについて経過時間ごとの粘度値を示した。
【0061】
【0062】
本発明のキサンタンガムは、特許文献7のキサンタンガムに比べ粘度の発現が早く、用時調製の製品にも問題なく使用できる。また最終製品(24時間後の粘度)に対しても高い粘度が示された。
特許文献7のキサンタンガムは、分子間の距離が長く接点の数が減るため、加熱による架橋が起こりにくい。しかしながら本発明とは異なって、架橋自体が弱められているわけではなく、一つ一つの架橋は強い状態になっている。よって、食塩水中の粘度は、本発明のキサンタンガムには及ばない。
【0063】
<実験例1:キサンタンガムの作製>
各原料キサンタンガム(1000g)を、80℃で6時間加熱処理した。具体的には、各原料キサンタンガムを容器に収容し、送風乾燥機内に設置して加熱処理を行った。以降の加熱処理においても、温度や時間を変更した以外は同様に行った。処理後のキサンタンガムについて粘度μ(w)、μ(s)を測定し、粘度比(μ(s)/μ(w))を求めた。得られた結果を、下記表にまとめる。
【0064】
【0065】
80℃で6時間の加熱処理を行って得られたキサンタンガムは、下記数式(1)および数式(2)を満たしており、水および食塩水への溶解性に優れていることがわかる。
μ(s)/μ(w)≧0.25 (1)
μ(w)≧400mPa・s (2)
【0066】
各原料キサンタンガム(1000g)を、90℃で2時間加熱処理した。処理後のキサンタンガムについて粘度μ(w)、μ(s)を測定し、粘度比(μ(s)/μ(w))を求めた。得られた結果を、下記表にまとめる。
【0067】
【0068】
90℃で2時間の加熱処理を行って得られたキサンタンガムは、下記数式(1)および数式(2)を満たしており、水および食塩水への溶解性に優れていることがわかる。
μ(s)/μ(w)≧0.25 (1)
μ(w)≧400mPa・s (2)
【0069】
各原料キサンタンガム(1000g)を、110℃で30分間加熱処理した。処理後のキサンタンガムについて粘度μ(w)、μ(s)を測定し、粘度比(μ(s)/μ(w))を求めた。得られた結果を、下記表にまとめる。
【0070】
【0071】
110℃で30分間の加熱処理を行って得られたキサンタンガムは、下記数式(1)および数式(2)を満たしており、水および食塩水への溶解性に優れていることがわかる。
μ(s)/μ(w)≧0.25 (1)
μ(w)≧400mPa・s (2)
【0072】
各原料キサンタンガム(1000g)を、80℃で20時間加熱処理した。処理後のキサンタンガムについて粘度μ(w)、μ(s)を測定し、粘度比(μ(s)/μ(w))を求めた。得られた結果を、下記表にまとめる。
【0073】
【0074】
80℃で20時間の加熱処理を行って得られたキサンタンガムは、下記数式(1)満たしておらず、食塩水への溶解性が劣ること示された。
μ(s)/μ(w)≧0.25 (1)
【0075】
各原料キサンタンガム(1000g)を、120℃で2時間加熱処理した。処理後のキサンタンガムについて粘度μ(w)、μ(s)を測定し、粘度比(μ(s)/μ(w))を求めた。得られた結果を、下記表にまとめる。
【0076】
【0077】
120℃で2時間の加熱処理を行って得られたキサンタンガムは、下記数式(1)満たしておらず、食塩水への溶解性が劣ること示された。
μ(s)/μ(w)≧0.25 (1)
【0078】
食塩水溶解性の優れたキサンタンガムを得るための加熱処理の温度と時間には、適切な組み合わせが存在することが確認された(実施例1~48)。温度が低い場合には長時間の加熱が必要とされ、加熱温度が高くなると短時間で十分である。例えば、80℃の場合には4~8時間程度が好ましく、90℃の場合には1.5~4時間程度が好ましい。さらに高温の110℃以上の場合には、40分以内が好ましい。
平均粒子径を25~150μmに調整したキサンタンガムは、粘度(μ(w))および粘度比(μ(s)/μ(w))がより大きくなり、食塩水への溶解性がさらに良好となることが確認された。
【0079】
本発明のキサンタンガムの粘性は、動的粘弾性装置を使用して確認することもできる。
実施例5のキサンタンガムを、20℃の塩化ナトリウム水溶液(3.0質量%)に0.3質量%の濃度で溶解し、動的粘弾性および歪依存性を調べた。貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G”)を求め、損失正接(tanδ(G”/G’))を算出した。動的粘弾性の測定には、粘弾性測定装置(Discovery HR-3 ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株))を用いた。原料キサンタンガム(従来品(比較例1))、および特開平11-116603号公報に記載されているキサンタンガム(比較例7)についても同様に、貯蔵弾性率(G’)および損失正接(tanδ(G”/G’))を求めた。
【0080】
図1に各キサンタンガムの貯蔵弾性率(G’)を示し、
図2には各キサンタンガムの損失正接(tanδ(G”/G’))を示す。固体の指標(高粘性)であるG’は、
図1に示されるように、実施例5>従来品(比較例1)>比較例7となっている。液体の指標(低粘性)であるtanδは、比較例7>比較例1>実施例5であることが、
図2に示されている。実施例のキサンタンガムは、貯蔵弾性率(G’)が最も大きく、損失正接(tanδ)が最も小さいことから、比較例や従来品のキサンタンガムよりも高い粘性を食塩水に付与できることがわかる。
【0081】
<実験例2:処理工程の順番の影響>
実施例1のキサンタンガム(平均粒子径180μm)を、気流式粉砕機を用いて平均粒子径が65μmになるように調整し、実施例49とした。実施例49のキサンタンガムは、平均粒子径を調整するための粉砕と加熱処理の順番を入れ替えた以外は、実施例5と同様にして作製されたものである。
実施例49のキサンタンガムについて、同様に粘度μ(w)、μ(s)を測定し、粘度比(μ(s)/μ(w))を求めた。その結果を、実施例5の結果とともに下記表にまとめる。
【0082】
【0083】
実施例49のキサンタンガムは、実施例5と同等の特性が得られている。こうした結果から、平均粒子径を調整するための粉砕と加熱処理の順番は、得られるキサンタンガムの特性に影響を及ぼさないことが確認された。
【0084】
<実験例3:塩溶解性キサンタンガムとの比較>
原料キサンタンガム1-3の3%溶液を調製し(10kg)、圧力式ホモジナイザー(ゴーリン,APV社製)によりホモジナイザー処理を施した。さらに、40℃でフリーズドライを行って粉末化した。得られたキサンタンガムの平均粒子径は120μmであった(ホモジナイザー処理品1)。このキサンタンガムについて、80℃で6時間の加熱処理を行ったものも作製した。(ホモジナイザー処理品2)。これらについて、前述と同様に粘度μ(w)、μ(s)を測定し、粘度比(μ(s)/μ(w))を求めた。その結果を、実施例3の結果とともに下記表にまとめる。
【0085】
【0086】
キサンタンガム溶液をホモジナイザー処理した後に粉末化した場合、水に溶解した時の粘度(μ(w))は210mPa・s(<400mPa・s)であり、食塩水に溶解した時の粘度(μ(s))は180mPa・sである(比較例35)。これに起因して、粘度比(μ(s)/μ(w))は0.59以上の大きな値となっている。比較例35のキサンタンガムは、加熱処理してもμ(w)が220mPa・sに留まっており粘度の上昇はなかった(比較例36)。
こうした結果から、キサンタンガム溶液をホモジナイザー処理した場合には、本発明のキサンタンガムは得られないことがわかる。
【0087】
<実験例4:加熱時間の影響>
原料キサンタンガム1-5を各1000gづつ使用し、90℃の処理を異なる時間行ってキサンタンガムを作製した。得られたキサンタンガムについて、同様に粘度μ(w)、μ(s)を測定し、粘度比(μ(s)/μ(w))を求めた。未処理のキサンタンガム(原料キサンタンガム1-5、比較例37)についても、同様に粘度を測定した。その結果を、下記表にまとめる。
【0088】
【0089】
加熱温度が90℃の場合には、90~240分間の処理を行って得られたキサンタンガムは、下記数式(1)および数式(2)を満たしており、水および食塩水への溶解性に優れていることがわかる(実施例50~54)。
μ(s)/μ(w)≧0.25 (1)
μ(w)≧400mPa・s (2)
【0090】
<実験例5:食塩濃度の変更>
実施例45で得られたキサンタンガムを、濃度の異なる食塩水に溶解した。前述の粘度(μ(w))とともに以下で表される粘度(μ(s))を測定し、粘度比(μ(s)/μ(w))を求めた。その結果を、下記表にまとめる。
μ(s):キサンタンガムを0.4重量%の濃度で20℃の各濃度の塩化ナトリウム水溶液に加えて分散させ、60分間経過後の20℃での粘度
【0091】
【0092】
いずれの場合も、下記数式(1)および数式(2)が満たされている。
μ(s)/μ(w)≧0.25 (1)
μ(w)≧400mPa・s (2)
本発明のキサンタンガムは、食塩濃度が1~5質量%の食塩水に対して、良好に溶解して粘性を付与できることが確認された。食塩を含有する一般的な食品においては、食塩濃度は通常0.3~5質量%程度であるので、本発明のキサンタンガムを適用した際に所望の効果を得ることができる。
【0093】
<実験例6:加熱を行わないドレッシング>
下記表11に示した配合(質量部)で成分を処方して、ドレッシングを製造した(各300g)。得られたドレッシングについて、20℃における粘度を測定した。ドレッシングの粘度は、通常70mPa・s以上であることが求められる。
さらに、各ドレッシングを瓶に詰め、瓶を手動で30秒間振って撹拌した。1か月間静置した後の油の分離状況を目視により確認し、以下の基準で評価した。その結果を、下記表にまとめる。
◎:分離なし
〇:わずかにあるが問題ない程度
△:分離がある
×:分離が激しい
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
実施例のキサンタンガムを使用したドレッシングは、20℃における粘度が120mPa・s以上と十分な粘性を有しており、撹拌後に1カ月放置しても分離が起こらない。これに対して、比較例のキサンタンガムを使用した場合には、20℃における粘度は最大でも60mPa・sであり、撹拌後に1カ月放置すると確実に分離している。
実施例のキサンタンガムは、加熱なしで製造されるドレッシングのような食品に安定した高い粘性を付与できることが示された。
【0098】
<実験例7:塩辛>
市販の塩辛に、実施例5、比較例1、比較例7、比較例35のキサンタンガムをそれぞれ添加して、粘度を比較した。キサンタンガムの添加量は、いずれも0.1質量%とした。固形分を取り除いた液体部分の20℃における粘度を測定した。その結果を、下記表にまとめる。70mPa・s以上であれば、粘性が付与されたとみなすことができる。
【0099】
【0100】
本発明のキサンタンガムは食塩水易溶解性であるので、少量の添加でも塩辛に粘性を付与することができた。
【0101】
<実験例8:醤油の増粘>
市販の醤油だし(塩分濃度5%)に、実施例14、比較例2、比較例16、比較例35のキサンタンガムをそれぞれ添加して、粘度を比較した。キサンタンガムの添加量は、いずれも0.2質量%とした。20℃における粘度を測定し、その結果を下記表にまとめる。60mPa・s以上であれば、粘性が付与されたとみなすことができる。
【0102】
【0103】
本発明のキサンタンガムは食塩水易溶解性であるので、少量の添加でも醤油だしに粘性を付与することができた。
【0104】
<実験例9:塩類補給飲料(塩分濃度0.3%)>
市販のアイソトニック飲料(塩分濃度0.3%)に、実施例2、比較例1、比較例20、比較例35のキサンタンガムをそれぞれ添加して、嚥下障がい者用のとろみ飲料を製造した。キサンタンガムの添加量は、いずれも0.2質量%とした。10℃における粘度を測定し、その結果を下記表にまとめる。300mPa・s以上であれば、嚥下障がい者用の飲料として適切な粘性が付与されたとみなすことができる。
【0105】
【0106】
本発明のキサンタンガムは食塩水易溶解性であるので、少量の添加でもアイソトニック飲料に嚥下障がい者用として適切な粘性を付与することができた。
【0107】
<実験例10:用事調整ビタミン含有アイソトニック飲料(最終塩分濃度0.3%)>
市販のビタミン含有アイソトニック飲料用粉末(最終塩分濃度0.3%)に、実施例2、比較例1、比較例20、比較例35のキサンタンガムをそれぞれ添加して、嚥下障がい者用のとろみ飲料用粉末を調製した。キサンタンガムの添加量は、いずれも0.2質量%(水添加時)とした。これに、規定量の水(10℃)を加えて溶解し、飲料を製造した。10分後における粘度を測定し、その結果を下記表にまとめる。300mPa・s以上であれば、嚥下障がい者用の飲料として適切な粘性が付与されたとみなすことができる。
【0108】
【0109】
本発明のキサンタンガムは食塩水易溶解性であるので、少量の添加でも用事調整ビタミン含有アイソトニック飲料に嚥下障がい者用として適切な粘性を付与することができた。
【0110】
<実験例11>
10℃の牛乳に、実施例16、比較例2、比較例34、比較例35のキサンタンガムを、それぞれ0.2質量%の濃度で添加して溶解した。10分後における粘度を測定し、その結果を下記表にまとめる。100mPa・s以上であれば、嚥下障がい者の飲用に適切な粘性が付与されたとみなすことができる。
【0111】
【0112】
本発明のキサンタンガムは、少量の添加でも牛乳の粘度を高めたことから、乳成分を多く含む介護食でも、嚥下障がい者の飲用のために適切なとろみをつけることができる。本発明のキサンタンガムは、牛乳のようなカルシウムを多く含む食品にも所望の粘性を付与できることが示された。この結果から、本発明のキサンタンガムは、嚥下障がい者用の用時調整タイプのカルシウム補強、ミネラルやビタミン補強等のための食品にも同様に粘性を付与できることが推測される。
【0113】
<実験例12:マッサージジェル>
本発明のキサンタンガムを塩に加えて、肌の引き締めに用いるマッサージジェルを製造した。塩500gに実施例24、比較例1、比較例10、比較例35のキサンタンガムを各5g加えて混ぜ合わせた。これに水を100g加えて撹拌練合した。得られた練合物のまとまり状態を目視にて観察し、その結果を下記表にまとめる。
【0114】
【0115】
本発明のキサンタンガムを使用したマッサージジェルは、まとまりが良く使用しやすいものであった。本発明のキサンタンガムは、0.3~5質量%程度の食塩水のみならず、より多量に塩が存在する場合も十分な粘性を付与して保形できることが示された。
【0116】
<実験例13:レトルト食品を想定>
レトルトパウチに食品を充填するためには、調味液が粘性を有して具材が沈降しない状態を維持することが必要とされる。加えて、レトルトパウチに充填される食品は、カレー、中華丼、親子丼、牛丼など塩分を含むものがほとんどである。
【0117】
レトルト食品を想定した具材液に実施例または比較例のキサンタンガムを加えて、具材の沈降具合を調べた。具材を想定して、適切な大きさ(約1cm角)の馬鈴薯およびニンジンの切片を用意し、調味液を想定した食塩水(濃度:3質量%)に加えて具材液を調製した。これに実施例22、比較例1、比較例8、比較例35のキサンタンガムを0.5質量%の濃度でそれぞれ添加して載置した。3時間経過後、具材の沈降具合を目視により観察した。液中の具材が浮遊して沈まない状態、あるいはほとんど沈まない状態であれば、「沈降無し」とし、それ以外の場合には「沈降有り」とした。その結果を、下記表にまとめる。
【0118】
【0119】
本発明のキサンタンガムを使用したレトルト食品を想定した具材液は、具材が沈降することなく安定であった。本発明のキサンタンガムは、塩分が存在する場合でも十分な粘性を付与できる。パウチ等の容器内に具材を均一に充填することができるため、レトルト食品の製造の際に好適に用いられることが確認された。
【要約】
【課題】水および食塩水に粉末状態で加えた場合であっても、高い粘性を付与できるキサンタンガム、およびそれを用いた食品を提供する。
【解決手段】本発明に係るキサンタンガムは、粉末状または顆粒状の原料キサンタンガムに対し、加熱処理を施して得られた平均粒子径が25~150μmのキサンタンガムであって、0.4質量%の濃度で20℃のイオン交換水または3.0質量%の塩化ナトリウム水溶液に加えて分散させ、60分経過後の20℃での粘度(μ(w)およびμ(s))が、下記数式(1)および数式(2)を満たすことを特徴とする。
μ(s)/μ(w)≧0.25 (1)
μ(w)≧400mPa・s (2)
(ここで、μ(w)は、イオン交換水の場合の粘度であり、μ(s)は、3.0質量%の塩化ナトリウム水溶液の場合の粘度である。)
【選択図】なし