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特許7028497堆肥製造方法、噴霧液の製造方法、及び、噴霧液
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  • 特許-堆肥製造方法、噴霧液の製造方法、及び、噴霧液 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】堆肥製造方法、噴霧液の製造方法、及び、噴霧液
(51)【国際特許分類】
   C05F 17/10 20200101AFI20220222BHJP
   C05F 3/00 20060101ALI20220222BHJP
   C05D 9/02 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
C05F17/10
C05F3/00
C05D9/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021178586
(22)【出願日】2021-11-01
【審査請求日】2021-11-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521478337
【氏名又は名称】一般社団法人日本SDGs農業協会
(74)【代理人】
【識別番号】100163533
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 義信
(74)【代理人】
【識別番号】100199842
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 祥平
(72)【発明者】
【氏名】照沼 勝浩
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-201470(JP,A)
【文献】特開2005-47742(JP,A)
【文献】特開昭55-100289(JP,A)
【文献】特開昭63-170293(JP,A)
【文献】特開2007-268511(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104692960(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102795913(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05B1/00-21/00
C05C1/00-13/00
C05D1/00-11/00
C05F1/00-17/993
C05G1/00-5/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を含む原料から堆肥を製造するための、堆肥製造方法であって、
塩化ナトリウムと水とを含む水溶液に、鉄源、及び、炭素材料を浸漬して静置し、液体部分を取得して噴霧液とする工程と、
有機物を含む原料を撹拌しながら、前記原料に前記噴霧液を噴霧する工程と、
前記噴霧済みの原料を堆積し、静置する工程と、
前記静置後の原料を撹拌しながら前記噴霧液を噴霧し、再度堆積し、静置して堆肥を得る工程と、含み、
前記堆肥中におけるアンモニア態窒素の含有量が、100mg/kg未満である、堆肥製造方法。
【請求項2】
前記炭素材料が、石炭、木炭、コークス、黒鉛、ばい塵、カーボンブラック、泥炭、及び、草炭からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の堆肥製造方法。
【請求項3】
前記噴霧液を希釈する工程を更に含む、請求項1又は2に記載の堆肥製造方法。
【請求項4】
前記噴霧液に、キレート剤を添加する工程を更に含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の堆肥製造方法。
【請求項5】
前記キレート剤が、木酢液、竹酢液、及び、もろみからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項4に記載の堆肥製造方法。
【請求項6】
前記噴霧液の調製が、密閉容器内で行われる請求項1~5のいずれか1項に記載の堆肥製造方法。
【請求項7】
前記有機物が、家畜の糞尿を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の堆肥製造方法。
【請求項8】
前記堆肥中における硝酸態窒素の含有量が、1000mg/kg以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の堆肥製造方法。
【請求項9】
有機物を含む原料に噴霧して堆肥を製造するために用いられる噴霧液の製造方法であって、
塩化ナトリウムと水とを含む水溶液に、鉄源、及び、炭素材料を浸漬して静置し、液体部分を取得する工程と、
前記取得した液体にキレート剤を添加し、噴霧液を得る工程と、を含む、噴霧液の製造方法。
【請求項10】
鉄(II)イオンと、ナトリウムイオンと、キレート剤と、を含み、有機物を含む原料に噴霧して堆肥を製造するために用いられる、噴霧液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堆肥製造方法、噴霧液の製造方法、及び、噴霧液に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜の糞尿、生ごみ、及び、下水汚泥等の有機物を含む原料を発酵させ、堆肥を製造する、堆肥製造方法が知られている。従来、このような堆肥製造方法では、発酵中に生ずる悪臭が問題となることがあり、様々な悪臭防止対策が取られてきた。
【0003】
このような悪臭防止技術として、特許文献1には、「含有水分の多い豚、牛または鶏等の糞尿に、その含有水分に対し、硫酸第1鉄と生石灰を、それぞれ10~50重量%混合することを特徴とする肥料の製造方法」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭55-100289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、生の有機物を含む原料を用いて堆肥製造を行う場合、得られる堆肥中にアンモニア態窒素が残っている場合が多い。特許文献1に記載の技術によれば、アンモニアは、硫酸アンモニウムとして固定されているとされているが、結局、アンモニア態として存在していることに変わりはない。
【0006】
アンモニア態窒素は、即効性の肥料として用いられることもあるが、土壌中に必要以上に存在すると、植物に対して病害、及び、生育障害等を引き起こすことが知られている。従って、堆肥中にはアンモニア態窒素が含まれていないことが好ましい。
一方で、アンモニア態窒素を取り除いて堆肥を製造した場合、堆肥中に含まれる窒素分が不足し、肥料的価値の低い堆肥となりやすい。
【0007】
そこで、本発明は、アンモニア態窒素の含有量が低く、かつ、肥料的価値の高い堆肥を、有機物を含む原料から製造することができる、堆肥の製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、噴霧液の製造方法、及び、噴霧液を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0009】
[1] 有機物を含む原料から堆肥を製造するための、堆肥製造方法であって、塩化ナトリウムと水とを含む水溶液に、鉄源、及び、炭素材料を浸漬して静置し、液体部分を取得して噴霧液とする工程と、有機物を含む原料を撹拌しながら、上記原料に上記噴霧液を噴霧する工程と、上記噴霧済みの原料を堆積し、静置する工程と、上記静置後の原料を撹拌しながら上記噴霧液を噴霧し、再度堆積し、静置して堆肥を得る工程と、含み、上記堆肥中におけるアンモニア態窒素の含有量が、100mg/kg未満である、堆肥製造方法。
[2] 上記炭素材料が、石炭、木炭、コークス、黒鉛、ばい塵、カーボンブラック、泥炭、及び、草炭からなる群より選択される少なくとも1種である、[1]に記載の堆肥製造方法。
[3] 上記噴霧液を希釈する工程を更に含む、[1]又は[2]に記載の堆肥製造方法。
[4] 上記噴霧液に、キレート剤を添加する工程を更に含む、[1]~[3]のいずれかに記載の堆肥製造方法。
[5] 上記キレート剤が、木酢液、竹酢液、及び、もろみからなる群より選択される少なくとも1種である、[4]に記載の堆肥製造方法。
[6] 上記噴霧液の調製が、密閉容器内で行われる[1]~[5]のいずれかに記載の堆肥製造方法。
[7] 上記有機物が、家畜の糞尿を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の堆肥製造方法。
[8] 上記堆肥中における硝酸態窒素の含有量が、1000mg/kg以上である、[1]~[7]のいずれかに記載の堆肥製造方法。
[9] 有機物を含む原料に噴霧して堆肥を製造するために用いられる噴霧液の製造方法であって、塩化ナトリウムと水とを含む水溶液に、鉄源、及び、炭素材料を浸漬して静置し、液体部分を取得する工程と、上記取得した液体にキレート剤を添加し、噴霧液を得る工程と、を含む、噴霧液の製造方法。
[10] 鉄(II)イオンと、ナトリウムイオンと、キレート剤と、を含み、有機物を含む原料に噴霧して堆肥を製造するために用いられる、噴霧液。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アンモニア態窒素の含有量が低く、かつ、肥料的価値の高い堆肥を、有機物を含む原料から製造することができる、堆肥の製造方法が提供できる。また、本発明によれば、噴霧液の製造方法、及び、噴霧液も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の堆肥の製造方法の実施形態のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
[堆肥の製造方法]
本発明の堆肥の製造方法の実施形態について、図面を用いて説明する。図1は、本発明の堆肥の製造方法の実施形態のフロー図である。
【0014】
まず、ステップS10において、塩化ナトリウム(NaCl)と水とを含む水溶液に、鉄源、及び、炭素材料を浸漬して静置し、液体部分を取得して噴霧液とする。
【0015】
上記の噴霧液を原料に噴霧して堆積することにより本発明の効果が得られる機序は必ずしも明らかではないが、本発明者は以下のとおり推測している。なお、以下の機序は推測であるため、本発明を以下の機序により効果が得られるものに限定するものではない。
【0016】
まず、塩化ナトリウムを含む水溶液(以下、単に「水溶液」という)に鉄源と炭素材料とを浸漬して静置すると、液体部分が徐々に淡緑色に着色してくる。このことから、液体部分には、鉄(II)イオンが溶出するものと推測される。
自然界において、鉄(II)イオンは土壌・水中の有機酸成分である「フルボ酸」とキレート化合物「フルボ酸鉄」を形成して存在していると考えられている。フルボ酸鉄は植物に取り込まれやすく、植物の成長に必要な成分の一つと考えられてきた。
【0017】
一方、堆肥の製造過程における鉄(II)イオンの利用としては、従来、特許文献1に記載された技術のように、堆肥の製造において問題となる悪臭を予防するために硫酸鉄(II)等として用いられることがあった。
しかし、本発明者は、脱臭剤として硫酸鉄(II)を用いて堆肥を製造すると、得られる堆肥中における硫黄原子(S)含有化合物の含有量が必要以上に多くなる場合があることを知見している。このような堆肥を施用すると、植物体に「根やけ」と呼ばれる根の生育障害を引き起こす場合が多い。
【0018】
そこで本発明者は、鉄(II)イオンの有用性に鑑み、硫酸鉄(II)を介さずに鉄(II)イオンを利用する方法を鋭意検討してきた。その結果、上記噴霧液によれば、得られる堆肥中における硫黄原子(S)含有化合物の含有量を増加させることなく鉄(II)イオンを利用できることを着想し、実証実験を行った。
【0019】
その結果、驚くべきことに、上記噴霧液を用いることにより、得られる堆肥中におけるアンモニア態窒素の含有量が激減することがわかった。当初、アンモニア態窒素の含有量が減少するのは、噴霧液によってアンモニアが流出するためであると考えられた。しかし、後述する実施例に記載されたとおり、得られた堆肥の成分を分析したところ、堆肥中には、アンモニア態窒素に代えて、十分な量の硝酸態窒素が含まれていることがわかったのである。
【0020】
土壌中に、保肥力に見合わない量のアンモニア態窒素が存在すると、植物体への他の陽イオン(ミネラル成分)吸収が妨げられ、病害、生理障害の原因となることがある。一方で、硝酸態窒素は植物の成長に必要な成分の一つであり、アンモニア態窒素の含有量が低減される一方で、硝酸態窒素を十分に含む堆肥は、肥料的価値が高く、優れた堆肥となる。
【0021】
上述のとおり、堆肥中のアンモニア態窒素の含有量が減少し、一方で硝酸態窒素の含有量が増加したことに加え、堆肥の製造のために必要な期間も短縮されたことから、本発明者は、上記噴霧液の利用により、堆肥の製造に寄与する微生物群(硝酸化成菌、糸状菌、酵母菌、乳酸菌、及び、放線菌等)が活性化し、発酵が迅速に進むとともに、アンモニア態窒素は、硝酸態窒素へと変換されたものと推測した。
上記の効果は、これまで単に脱臭剤として知られてきた鉄化合物では得られなかったものであり、本発明者の長年の検討により初めて明らかにされたものである。
【0022】
次に、噴霧液の製造のための各成分について詳述する。
【0023】
鉄(Fe)源は、金属鉄、及び、鉄酸化物からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。鉄源の形状は特に制限されないが、塊状(板状、及び、棒状等)であってもよいし、粒状、粉状であってもよい。
【0024】
水溶液中で、鉄源と後述する炭素材料とが接触した状態となると、鉄源から淡緑色の鉄(II)イオンが溶出するものと推測される。
この観点では、鉄源と炭素材料とが水溶液中で接触した状態を保つことが好ましく、鉄源の形状は、炭素材料の形状に応じて選択されることが好ましい。例えば、炭素材料が塊状であれば、鉄源も塊とし、両者を接触させた状態で固定する(例えば、紐で束ねるなどして)ことが好ましい。
【0025】
また、炭素材料が粉状、粒状であれば、鉄源を粉状、粒状とし、両者を水溶性バインダー(例えば、デンプン糊等)により固化、造粒して用いることもできる。
【0026】
水溶液中における鉄源の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果が得られやすい点で、水の1000Lに対して、1~50kgが好ましく、10~15kgがより好ましい。
【0027】
炭素材料は、イオン化傾向の違いによって鉄(II)イオンを溶出させる機能を有する炭素(C)を含む材料である。このような炭素材料としては特に制限されないが、例えば、石炭、木炭、コークス、黒鉛、ばい塵、カーボンブラック、泥炭、及び、草炭等が挙げられる。
【0028】
炭素材料の形状は特に制限されないが、塊状、粒状、及び、粉状のいずれであってもよい。既に説明したとおり、鉄源の形状に応じて適宜選択されればよい。
【0029】
水溶液中における炭素材料の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果が得られやすい点で、水の1000Lに対して、1~100kgが好ましく、15~30kgがより好ましい。
【0030】
水溶液は、塩化ナトリウム(NaCl)を含むが、塩化ナトリウム以外の電解質成分を含んでもよい。このような成分としては、例えば、塩化マグネシウム、及び、塩化カルシウム等が挙げられる。
【0031】
水溶液を調製する方法としては特に制限されないが、所定量の水に、塩化ナトリウムを添加すればよい。例えば、水に海塩を添加することにより、塩化ナトリウム等を含ませることができる。
【0032】
水溶液中における塩化ナトリウムの含有量としては特に制限されないが、例えば、水の1000Lに対して、1~30kgが好ましく、10~20kgがより好ましい。なお、塩化ナトリウムは、噴霧液中においてナトリウムイオン(Na)として存在していてもよい。
【0033】
水溶液に鉄源、及び、炭素材料を浸漬させる方法としては特に制限されないが、具体的な一形態としては、容器に、塩化ナトリウムを含む水溶液を収容し、そこに、鉄源、及び、炭素材料を浸漬させればよい。
【0034】
鉄源と炭素材料とを水溶液に浸漬させる場合、鉄源と炭素材料とを接触させておくことにより、より効率よく鉄(II)イオンを溶出させることができるものと推測される。この観点では、板状の鉄源と板状の炭素材料とを束ねたり、粉状の鉄源と粉状の炭素材料とを水溶性バインダーによってまとめて固化、造粒したりしたうえで浸漬する方法が好ましい。
【0035】
噴霧液を調製するために使用される容器の形状、及び、材質は特に制限されないが、生成した鉄(II)イオンの酸化をより抑制できる観点で、密閉容器であることが好ましい。なお、密閉容器の具体的としては、開口を有する本体と、開口を密閉するための蓋体とを有するものが挙げられる。なお、この場合、本体、及び、蓋体の材質は異なっていてもよい。例えば、FRP(Fiber Reinforced Plastics)製の本体と、上記本体の開口を塞ぐ、プラスチックシートからなる蓋体とを有する容器であってもよい。
【0036】
密閉容器が、開口を有する容器と、上記開口を密閉するための可撓性を有するシートからなる蓋体とを有する場合、シートを水溶液の液面に接触させることによって、水溶液と酸素との接触をより抑制できる点で好ましい。
【0037】
上述の所定量の材料を混合して、10~50℃で、10日~3か月静置し、この液体部分を噴霧液とすることができる。
調製後の噴霧液は、密閉容器から取り出すと、直ちに酸化が進む。上述のとおり、鉄(II)イオンは迅速な堆肥化を促進すると推測されるため、鉄(II)イオンが酸化しにくいよう、噴霧液は調製後に直ちに使用することが好ましい。
【0038】
なお、噴霧液は、本発明の効果を奏する範囲内において、他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、キレート剤が挙げられる。キレート剤としては特に制限されず、公知のキレート剤を使用することができる。
【0039】
なかでも、キレート剤は、アミノ基、及び、カルボキシル基を有する化合物が好ましい。自然界において鉄(II)イオンがフルボ酸鉄となって安定化しているように、鉄(II)イオンをキレート化して安定化させることができる。
噴霧液がキレート剤を含む場合、より酸化しにくくなり、噴霧液の管理がより容易になる。
【0040】
キレート剤としては特に制限されないが、堆肥として使用する場合に植物体への悪影響がより少ない観点で、木酢液、竹酢液、及び、もろみからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0041】
噴霧液中におけるキレート剤の含有量としては特に制限されないが、水1000Lに対して、キレート剤の0.1~10kgが好ましい。
【0042】
図1に戻り、次に、ステップS11として、有機物を含む原料を撹拌しながら、原料に噴霧液を噴霧する。
【0043】
有機物としては特に制限されないが、具体的には、食品残渣、農産加工残渣、家畜の糞尿、及び、下水汚泥等の有機性廃棄物を含むことが好ましい。なかでも、有機物が家畜の糞尿を含む場合、得られる堆肥の肥料的価値が高くなりやすく、かつ、資源循環型農業を実現しやすい点で好ましい。
【0044】
原料に対して噴霧液を噴霧する方法としては特に制限されないが、マニアスプレッダに噴霧装置を備えた装置によって、原料に噴霧液を噴霧しながら撹拌噴射することが好ましい。
【0045】
噴霧液は調製したものをそのまま用いてもよいが、希釈して用いることが好ましい。希釈倍率としては特に制限されないが、噴霧液中における塩化ナトリウムの濃度が、水の1000Lに対して1~30kgである場合、これを50~100倍希釈することが好ましい。
【0046】
噴霧液の製造において、水に含まれる塩化ナトリウムの含有量が1kg/1000L以上であると、噴霧液の製造にかかる時間がより短縮できる一方、そのまま原料に噴霧した場合、得られる堆肥中における塩分濃度が高くなり塩害が生ずる場合がある。
このような観点で、噴霧液の製造の際と、噴霧液の使用(噴霧)の際とには、濃度において、50~100倍の差をつけることによって、製造効率をより高められ、かつ、得られる堆肥の品質がより向上しやすい。
【0047】
次に、ステップS12において、噴霧液を噴霧済みの原料を堆積し、静置する。堆積方法としては特に制限されないが、幅1~3m、高さ1~2mの畝(うね)状に堆積することが好ましい。
【0048】
静置する期間は特に制限されないが、一形態として、20~40日程度が好ましい。また、静置する際の温度としても特に制限されず、一形態として、5~35℃が好ましい。
【0049】
次にステップS12において、静置後の原料を撹拌しながら噴霧液を噴霧し、これを再度堆積して静置する。
静置後の原料を撹拌して、再度堆積する工程は、一般に「切り返し」と呼ばれる。切り返しは、原料を撹拌して酸素を含ませ、微生物の活性を促す作用が期待される。
さらに、本製造方法においては、切り返しの際にも噴霧液を噴霧することにより、微生物叢の構成がより堆肥製造に適したものになり易いものと推測される。
【0050】
本工程を実施する時期は特に制限されず、堆積を始めたときから起算して20~40日経過後としてもよい。また、堆積された原料が予め定められた所定の状態になっていることを確認したうえで実施してもよい。
【0051】
所定の状態としては特に制限されないが、例えば、堆積された原料の断面を観察し、表面から中心部へと向かって略同心円状に縞模様が観察される状態が挙げられる。
【0052】
この縞模様が出現する機序は必ずしも明らかではないが、堆肥の発酵に寄与する糸状菌、酵母菌、乳酸菌、及び、放線菌等の寄与によるものであると本発明者は推測している。すなわち、堆積された原料の表面から中心部へと向かう方向に沿って酸素濃度が異なるため、微生物叢の異なる層(レイヤー)が同士円状に形成されることにより縞模様が形成されるものと推測している。
【0053】
このような状態になると、表面と中心部とを撹拌して全体を均一とすることによって再度堆積することが好ましい。このようにすることで、微生物叢が均一化され、発酵がより進みやすくなる。更に、本製造方法では、この際に再度、噴霧液を噴霧することで、更に発酵が促進されることが期待される。
【0054】
なお、図1のフローでは、ステップS13の切り返しを1回のみで堆肥を完成しているが、切り返しは、3~4回繰り返されることが好ましい。すなわち、有機物を含む原料を撹拌しながら、噴霧液を噴霧し、再度堆積する工程を3~4回繰り返し、最終的に堆肥を得ることが好ましい。
【0055】
本製造方法によれば、有機物として家畜の糞尿を含むようなアンモニア態窒素の含有量が多い原料であっても、従来と比較にならないほどにアンモニア態窒素の含有量の低い堆肥を製造できる。
得られる堆肥中におけるアンモニア態窒素の含有量は、イオンクロマトグラフ法で測定したとき、100mg/kg未満であり、50mg/kg未満がより好ましく、20mg/kg未満が更に好ましく、5mg/kg未満であることが特に好ましい。
【0056】
また、本製造方法により製造される堆肥には、硝酸態窒素が含まれていることが好ましい。堆肥中における硝酸態窒素の含有量としては特に制限されないが、1000mg/kg以上が好ましく、2000mg/kg以上がより好ましく、5000mg/kg以上が更に好ましく、10000mg/kg以上が特に好ましい。
【実施例
【0057】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
まず、開口を有するFRP製の容器に水の1000Lに海塩の15kgを加えて撹拌し、電解質水溶液を調製した。次に、ここに鉄を15kg、及び、炭を20kg添加した。開口をポリシートで密閉し、室温で1か月静置し、噴霧液を調製した。
【0059】
次に、調製した噴霧液を100倍に希釈し、鶏糞を撹拌しながら噴霧した。噴霧は、噴霧装置を備えたマニアスプレッダにより実施した。噴霧後の原料を幅3m、高さ1~2mの畝状に積み上げ、表面をポリシートで覆って室温で1か月静置した。
【0060】
1か月静置した後、断面が層状(3~4層)となっていることを確認し、再度マニアスプレッダにより撹拌しながら噴霧液を噴霧し、上記と同様に積み上げ、1か月静置した。これを3回繰り返し、最終的に堆肥を得た。
【0061】
得られた堆肥を純水で抽出し、抽出水について、イオンクロマトグラフ法により含まれるイオンの組成を測定した。
なお、比較のために、生ごみを原料として製造された市販の堆肥(参考例1)、及び、バーク堆肥(2種類)についても同様の方法により測定した。表1はその結果である。
【0062】
【表1】
【0063】
表1の結果から、実施例の鶏糞堆肥は、アンモニア態窒素(NH )の含有量が定量下限である5mg/kg未満であり、一方で、硝酸態窒素(NO )は、14000mg/kg含まれており、肥料的価値が高いことが分かった。
一方で、参考例1の生ごみ堆肥では、アンモニア態窒素の含有量が3500mg/kgと高い一方で、硝酸態窒素の含有量は、240mg/kgと低かった。
また、参考例2、及び、参考例3のバーク堆肥では、アンモニア態窒素の含有量はいずれも低い(28mg/kg、定量下限未満)ものの、硝酸態窒素の含有量も低く、肥料的価値が低かった。
【0064】
上記結果から、本発明の堆肥製造方法によれば、肥料的価値が高く、かつ、アンモニア態窒素の含有量が低減された堆肥を短期間で製造できることが分かった。
【要約】
【課題】 アンモニア態窒素の含有量が低く、かつ、肥料的価値の高い堆肥を、有機物を含む原料から製造することができる、堆肥の製造方法の提供。
【解決手段】 有機物を含む原料から堆肥を製造するための、堆肥製造方法であって、塩化ナトリウムと水とを含む水溶液に、鉄源、及び、炭素材料を浸漬して静置し、液体部分を取得して噴霧液とする工程と、有機物を含む原料を撹拌しながら、原料に噴霧液を噴霧する工程と、噴霧済みの原料を堆積し、静置する工程と、静置後の原料を撹拌しながら噴霧液を噴霧し、再度堆積し、静置して堆肥を得る工程と、含み、堆肥中におけるアンモニア態窒素の含有量が、100mg/kg未満である、堆肥製造方法。
【選択図】 図1
図1