IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カンタム・ケミカル・テクノロジーズ(シンガポール)ピーティーイー・リミテッドの特許一覧 ▶ シンガポール・アサヒ・ケミカル・アンド・ソルダー・インダストリーズ・ピーティーイー・リミテッドの特許一覧 ▶ エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチの特許一覧

<>
  • 特許-ナノ構造体の精製方法 図1
  • 特許-ナノ構造体の精製方法 図2
  • 特許-ナノ構造体の精製方法 図3
  • 特許-ナノ構造体の精製方法 図4
  • 特許-ナノ構造体の精製方法 図5
  • 特許-ナノ構造体の精製方法 図6
  • 特許-ナノ構造体の精製方法 図7
  • 特許-ナノ構造体の精製方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】ナノ構造体の精製方法
(51)【国際特許分類】
   B82B 3/00 20060101AFI20220222BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20220222BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20220222BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220222BHJP
   B22F 9/24 20060101ALI20220222BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220222BHJP
   B01D 29/62 20060101ALI20220222BHJP
   B01D 37/00 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
B82B3/00
B82Y40/00
B82Y30/00
B22F1/00 K
B22F9/24 E
B22F9/24 B
B22F9/24 C
B22F1/00 L
B22F1/00 M
B22F1/00 S
H01B13/00 Z
B01D29/38 580C
B01D37/00
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2018526185
(86)(22)【出願日】2016-11-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-13
(86)【国際出願番号】 GB2016053738
(87)【国際公開番号】W WO2017098207
(87)【国際公開日】2017-06-15
【審査請求日】2019-08-29
(31)【優先権主張番号】1521581.7
(32)【優先日】2015-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518169624
【氏名又は名称】カンタム・ケミカル・テクノロジーズ(シンガポール)ピーティーイー・リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】596174101
【氏名又は名称】シンガポール・アサヒ・ケミカル・アンド・ソルダー・インダストリーズ・ピーティーイー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Singapore Asahi Chemical & Solder Industires Pte.Ltd.
(73)【特許権者】
【識別番号】503231882
【氏名又は名称】エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(72)【発明者】
【氏名】チュウ、カイ ファ
(72)【発明者】
【氏名】リン、モウ キョン
(72)【発明者】
【氏名】ウー、ヨン リン
(72)【発明者】
【氏名】ホワン、ホイ
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0039806(US,A1)
【文献】特開2013-008512(JP,A)
【文献】特開2016-055283(JP,A)
【文献】特表平01-501534(JP,A)
【文献】KEN C PRADEL; ET AL,CROSS-FLOW PURIFICATION OF NANOWIRES,ANGEWANDTE CHEMIE (INTERNATIONAL ED. IN ENGLISH), 20110404 NOT VERLAG CHEMIE,VERLAG CHEMIE,2011年04月04日,VOL:123, NR:15,PAGE(S):3474 - 3478,http://dx.doi.org/10.1002/ange.201100087
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B82B 3/00
B82Y 40/00
B82Y 30/00
B22F 1/00
B22F 9/24
H01B 13/00
B01D 29/62
B01D 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ構造体の精製方法であって、溶液中の複数のナノ構造体を提供し、且つ、クロスフローろ過法によって前記溶液中のナノ構造体をろ過することからなり、前記溶液中のナノ構造体のクロスフローろ過法によるろ過ステップは、クロスフローフィルターにナノ構造体を含む溶液を通過させることからなり、前記ナノ構造体を含む溶液のクロスフローフィルター通過ステップは、平均メッシュサイズが20~40μmのクロスフローフィルターに溶液を通過させる、ナノ構造体の精製方法。
【請求項2】
前記ナノ構造体はナノワイヤーであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ナノワイヤーは金属もしくは半導体であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ナノワイヤーは金属であり、Ag、Au、Pt、Cu、Co、Feおよび/またはNiを含むことを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記ナノワイヤーは銀ナノワイヤーであることを特徴とする請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ナノワイヤーの長辺(最長寸法)は30μm~90μmであることを特徴とする請求項2~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ナノワイヤーの短辺(最短寸法)は80nm~150nmであることを特徴とする請
求項2~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ナノワイヤーのアスペクト比(長辺を短辺で割った比率)は200~900であることを特徴とする請求項2~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記溶液中の複数のナノ構造体を提供するステップは、ナノ構造体を形成することを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ナノ構造体の形成は、ポリオール法によってナノ構造体を形成することを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ナノ構造体は、銀ナノワイヤーであり、前記ポリオール法は以下の反応により進行することを特徴とする請求項10に記載の方法。
【数1】
【数2】
【請求項12】
前記ナノ構造体の形成ステップは1バッチ1リットル以上で生じることを特徴とする請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ナノ構造体を含む溶液のクロスフローフィルター通過ステップは、平均メッシュサイズが30μmプラスマイナス10%であるクロスフローフィルターを通過させることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記クロスフローろ過法による溶液中のナノ構造体ろ過ステップは、400ml/分~2l/分の割合で前記ナノ構造体を含む溶液をクロスフローフィルターに通過させることを特徴とする請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記クロスフローろ過法による溶液中のナノ構造体ろ過ステップは、500ml/分~1l/分の割合で前記ナノ構造体を含む溶液をクロスフローフィルターに通過させることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記クロスフローろ過法による溶液中のナノ構造体のろ過方法は、前記ナノ構造体を含む溶液をクロスフローフィルターに通過させ、さらに前記クロスフローフィルターは、メッシュを振動させて膜の詰まりを軽減した振動システムであることを特徴とする請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載の方法で精製されたナノ構造体の形成方法であって、ナノ構造体の形成方法が、1バッチ1リットル以上で生じることを特徴とするナノ構造体の形成方法。
【請求項18】
前記ナノ構造体は銀ナノワイヤーであることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ナノ構造体の形成は、ポリオール法による前記ナノ構造体の形成であることを特徴とする請求項17又は請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ナノ構造体は銀ナノワイヤーであり、前記ポリオール法は以下の反応により進行することを特徴とする請求項19に記載の方法。
【数3】
【数4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ構造体の精製方法に関する。より詳しくは、銀ナノワイヤーの精製方法に関する。また、前記方法で精製されたナノ構造体およびナノワイヤーにも関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電体とは、高透過率表面もしくは基板にコーティングされた導電性薄膜を指す。透明導電体は、合理的な光透過性を維持しながら表面導電性を有するよう製造される。表面伝導性を有す透明導電体は、平面液晶ディスプレイ、タッチパネル、エレクトロルミネセント素子、および薄膜太陽電池などの透明電極として、また帯電防止層および電磁波シールド層などとして幅広く用いられている。
【0003】
ITO(酸化インジウムスズ)などの真空蒸着金属酸化物は、多くの場合、ガラスや高分子フィルムなどの誘電体表面に用いられ光透過性と導電率を提供している。一例として、平面液晶ディスプレイに用いられるITOは、通常90%以上の透過率と約10Ω/□のシート抵抗を提供する。金属酸化物膜は壊れやすく曲げ加工時に損傷を受けやすい。また高い導電率レベルを達成するには、比較的高い蒸着温度あるいはアニール温度を要する。ポリーカーボネイトのような水分を吸収する基板は、金属酸化物膜の粘着率が低下する。したがって、金属酸化物膜は、特にフレキシブル基板表面では十分うまく機能しない。さらに、真空蒸着法は比較的高価で専門設備を必要とする。
【0004】
銀ナノワイヤーなどの金属ナノ構造体は、ITOに代わる透明導電体として産業界が求める、ウェアラブル技術、プリント照明、太陽電池、有機発光ダイオードやその他多くの光電子デバイス用アプリケーションのための、柔軟かつ屈曲可能な基板材料である。加えて、銀ナノワイヤーなどの金属ナノ構造体は、現在ITOフィルムの代替として、平面パネルディスプレイに用いられている。
【0005】
透明導電体に用いられる銀ナノワイヤーは、たいてい多様な長さのナノワイヤーを含み、ナノワイヤーの強い導電ネットワーク形成を可能にする。
【0006】
銀ナノワイヤーは、Y.Sun、B.Gates、B.Mayers、Y.Xia著「ソフト溶液プロセスによる結晶銀ナノワイヤー」(「ナノレターズ」2002年2月号、165~168ページ)掲載の「ポリオール法」、すなわちポリビニルピロリドン(PVP)存在下溶解した硝酸銀を還元することによって合成できる。ポリオール法はPVP存在下、ポリオール(例えば、エチレングリコール)によって金属ナノ構造体の前駆体(例えば、金属塩)を還元する。通常還元は200℃未満で行う。エチレングリコールは、溶剤および還元剤の2重の機能を果たす。通常、形成されたナノ構造体の形状および大きさは、PVPと金属塩の相対量、反応時間、反応温度を含むパラメーターの影響を受ける。この化学反応によって形成される銀ナノワイヤーは、以下の反応によって形成されると考えられる。
【0007】
【数1】
【数2】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ナノワイヤー形成には、ポリオール法によってナノ構造体(たとえば銀ナノワイヤー)を沈殿および/または「デッドエンド」ろ過する形成方法が知られているが、1バッチを約1リットル以上に拡張することはできない。沈殿および/または「デッドエンド」ろ過は比較的小スケールで動作するが、特に純粋ナノワイヤーを好み通りの長さや長さ範囲に産生することはできない。
【0009】
ナノ構造体(たとえば銀ナノワイヤー)精製および形成方法を拡張する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一態様は、ナノ構造体の精製方法を提供することであって、溶液中の複数のナノ構造体の提供、および溶液中のナノ構造体のクロスフローろ過法によるろ過を提供する。
【0011】
好ましくは、前記ナノ構造体はナノワイヤーである。
【0012】
より好ましくは、前記ナノワイヤーは金属もしくは半導体である。
【0013】
有利には、前記ナノワイヤーは金属であり、Ag、Au、Pt、Cu、Co、Feおよび/またはNiを含む。
【0014】
好ましくは、前記ナノワイヤーは銀ナノワイヤーである。
【0015】
より好ましくは、前記ナノワイヤーの長辺(最長寸法)は30μm~90μmである。
【0016】
有利には、前記ナノワイヤーの短辺(最短寸法)は80nm~150nmである。
【0017】
好ましくは、前記ナノワイヤーのアスペクト比(長辺を短辺で割った比率)は200~900である。
【0018】
より好ましくは、溶液中の複数のナノ構造体の提供ステップは、ナノ構造体を形成する。
【0019】
好ましくは、前記ナノ構造体の形成は、ポリオール法によってナノ構造体を形成する。
【0020】
好ましくは、前記ナノ構造体は銀ナノワイヤーであって、前記ポリオール法は以下の反応により進行する。
【0021】
【数3】
【数4】
【0022】
より好ましくは、前記ナノ構造体の形成ステップは1バッチ1リットル以上で生じる。
【0023】
好ましくは、前記ナノ構造体を含む溶液のクロスフローろ過ステップでは、溶液中のナノ構造体をクロスフローフィルターに通過させる。
【0024】
好ましくは、前記ナノ構造体を含む溶液のクロスフローフィルターろ過ステップでは、平均メッシュサイズが20~40μmのクロスフローフィルターに溶液を通過させる。
【0025】
より好ましくは、ナノ構造体を含む溶液のクロスフローフィルター通過ステップでは、平均メッシュサイズが30μmプラスマイナス10%のクロスフィルターに溶液を通過させる。
【0026】
好ましくは、クロスフローろ過による溶液中のナノ構造体ろ過ステップでは、前記ナノ構造体を含む溶液を、平均通過量400ml/分~2l/分でクロスフローフィルターに通過させる。
【0027】
好ましくは、クロスフローろ過による溶液中のナノ構造体ろ過ステップでは、前記ナノ構造体を含む溶液を、平均通過量500ml/分~1l/分でクロスフローフィルターに通過させる。
【0028】
より好ましくは、クロスフローフィルターによる溶液中のナノ構造体ろ過ステップでは、メッシュを振動させて膜の詰まりを軽減する振動システムを有するクロスフローフィルターに、前記ナノ構造体を含む溶液を通過させる。
【0029】
本発明の他の態様は、透明導電体の形成方法を提供することであって、上記方法によるナノ構造体の精製、および前記ナノ構造体を組み入れた透明導電体の製造からなる。
【0030】
本発明の他の態様は、上記方法で得られうるナノ構造体を提供する。
【0031】
本発明の他の態様は、上記方法で得られるナノ構造体を提供する。
【0032】
本発明の他の態様は、上記方法で得られうる透明導電体を提供する。
【0033】
本発明の他の態様は、上記方法で得られる透明導電体を提供する。
【0034】
本発明の他の態様は、ナノ構造体を含む溶液をろ過するためにクロスフローフィルターを用いる。
【0035】
好ましくは、前記クロスフローフィルターの平均メッシュサイズは20μm~40μmである。
【0036】
より好ましくは、前記クロスフローフィルターの平均メッシュサイズは、30μmプラスマイナス10%である。
【0037】
好ましくは、前記方法は1バッチ1リットル量以上で生じる。
【0038】
好ましくは、前記ナノ構造体は銀ナノワイヤーである。
【0039】
より好ましくは、前記ナノ構造体の形成は、ポリオール法によるナノ構造体の形成を含む。
【0040】
好ましくは、前記ナノ構造体は銀ナノワイヤーであり、前記ポリオール法は以下の反応により進行する。
【0041】
【数5】
【数6】
【発明の効果】
【0042】
本発明は、他の金属、金属合金および半導体などの比較的純粋なナノ構造体の生成にも同様に適用することができる。本発明に沿ったナノ構造体の精製および形成は、有益な結果をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本発明の方法の態様を示す模式図である。
図2】ポリオール法で形成された銀ナノワイヤーの、ろ過前の顕微鏡写真である。
図3】本発明の態様による銀ナノワイヤーろ過ステップを1回行なった後の、銀ナノワイヤーの顕微鏡写真である。
図4】本発明の態様による銀ナノワイヤーろ過ステップを複数回行なった後の、銀ナノワイヤーの顕微鏡写真である。
図5】本発明の態様によるろ過後、収集された廃棄物の顕微鏡写真である。
図6図4に示した銀ナノワイヤーの走査電子顕微鏡写真である。
図7】本発明の態様によるろ過を行う前の、図2で示したナノワイヤーの長さ別分布図である。
図8】本発明の態様によるろ過を行なった後の、図4で示したナノワイヤーの長さ別分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の実施形態を添付の図に基づいて、以下に説明する。
【0045】
本発明の説明に用いる、いくつかの用語を以下に示す。
【0046】
「クロスフローろ過」とは、供給物の注入口、残留物の放出口、透過物通過用フィルターを有する、ろ過を意味する。特定の構成要素は透過物として通過する一方、他の構成要素は残留物として残る。クロスフローろ過は「デッドエンド」ろ過と異なり、ろ過ケーキがろ過プロセス中に実質的に洗い流されるため、フィルターをブロックしない。そのため、ろ過可能時間が増加し継続的なクロスフローろ過が可能となる。
【0047】
「ナノ構造体」とは、少なくとも一次元のサイズが1μm~90μmの構造物のことであるが、任意で20nm~300nmの場合や、1nm~100nmの場合もある。ナノ構造体の例には、ナノワイヤー(たとえば銀ナノワイヤー)、ナノチューブ(たとえばカーボンナノチューブ)、バックミンスターフラーレン、ナノ粒子、ナノ粉末、ナノベルトおよびナノ結晶があるが、これに限定されるものではない。サイズの大きい物質と比較して、ナノ構造体は体積に対する表面積の割合が高い。この結果、ナノ構造体はサイズの大きな物質とは異なる特性を有する。
【0048】
「ナノワイヤー」とは、長辺(最長寸法)が20nm~300μmのナノ構造体のことで、長辺は任意で20nm~90μm、1μm~15μm、もしくは30μm~90μm、20μm~80μmの場合もある。また短辺(最短寸法)は1nm~300nmとされるが、任意で1nm~150nm、100nm、50nm、もしくは10nmの場合や任意で80nm~150nmの場合もある。アスペクト比(長辺を短辺で割った比率)は、20~300,000とされるが、任意で20~90,000、または200~900の場合や、20~50、もしくは、任意で40または30の場合もある。一般的に、ナノワイヤーは円筒状が好まれるが長方形などの異なる幾何学的形状もある。ナノワイヤーが円筒状でない場合、アスペクト比は長辺をナノワイヤー断面の最大径で割って算出する。
【0049】
ナノワイヤーは、金属(たとえば、Ag、Au、Pt、Cu、Co、Fe、Ni)もしくは半導体(たとえば、Si、SnO、WO、ZnO、TiO、InP、CuO、CuO、NiO、MnO、V、GaN)であるが、絶縁性ではない。
【0050】
「ナノ粒子」とは、少なくとも一つの寸法が1nm~100nmの粒子のことであるが、任意で1nm~10nmとする場合もある。アスペクト比(長辺を短辺で割った比率)は1~4で、好ましくは1~2である。ナノ粒子は、金属(たとえばAu、Pt、Ag、Fe、Pd、Rh、ZnS、CdSe)もしくは半導体(たとえばSi、SnO、WO、ZnO、TiO、InP、CuO、CuO、NiO、MnO、V、GaN)であり、絶縁性ではない。
【0051】
銀ナノワイヤーの準備
【0052】
金属ナノワイヤーは、ポリオールおよびPVPの存在下、金属塩を液相還元することで調製できる。この化学反応は「ポリオール法」と呼ばれる。銀ナノワイヤーを形成するポリオール法の一例としては、エチレングリコールおよびPVP存在下、硝酸銀を液相還元する方法が挙げられる。
【0053】
銀ナノワイヤーの合成を、以下一般的手順により説明できる。
1. 清浄な反応槽に以下を入れる:硝酸銀溶液(たとえば英国Sigma AldrichTM社販売の濃度99.0%以上の溶液)、エチレルグリコール(たとえば英国Sigma AldrichTM社販売、99.8%の無水タイプ)、およびPVP(たとえば英国Sigma AldrichTM社販売の粉末、また任意で平均分子量が55,000のものを選択)。実施形態では、エチレングリコール中の硝酸銀とPVPの相対モル量は、1:12.5プラスマイナス10%。この相対モル比範囲内で、エチレングリコール中のPVP量は0.0015Mプラスマイナス10%とする。
2. 必要に応じ、たとえばNaClなどのハロゲン化物イオン源、あるいはCu、Fe、Ptなどから選択した1つまたはそれ以上の金属イオン源を含む。また、一実施形態では、Cu、Feおよび(または)Ptの塩化化合物もしくは硝酸塩から、金属イオンを溶液中に提供する。これらの構成要素はドーパントとして任意で前記溶液に添加する。
3. 前記反応混合物を120℃~140℃、好ましくは130℃で、40分~60分、好ましくは50分間、撹拌する。銀ナノワイヤーが形成されると、溶液の色はグレーから透明な黄色へと変化する。
【0054】
上記一般的プロトコルに沿ったその結果、銀ナノワイヤーを含む反応生成混合物が形成される。銀ナノワイヤーは、ポリオールおよびPVPを含む溶液中に存在するが、そこには不要な小さなナノ構造体を含む不要な反応生成物も形成される。
【0055】
従来の銀ナノワイヤー洗浄方法として、IPA(イソプロパノール、英国Sigma AldrichTM社販売、HOを70%含有品)で反応生成混合物を希釈する方法がある。ワイヤー長さが長いほど短いワイヤーと比べて深く沈みやすいことを利用した銀ナノワイヤーの沈殿方法である。短く小さいワイヤーは、長く重いワイヤーに比べて浮きやすく、新たにIPAを一括量加えることで移し替えることができる。大抵はこのような方法を7回以上行うことで、IPA中に比較的きれいなナノワイヤーが得られる。ただし、それぞれの沈殿ステップに時間がかかるため、この沈殿方法は時間を要し、完了までに約一週間を要する。
【0056】
ナノワイヤーの長さが長ければ長いほど、ナノワイヤーから形成された導電性薄膜は品質が良くなる。ITOに代わる透明導電体としての銀ナノワイヤー分野では、銀ナノワイヤーの長さは20μmから200μm以下(200μmを含む)の範囲のものが用いられる。通常、20μmよりも短い銀ナノワイヤーでは有用な導電性薄膜を形成することができない。また長さ200μm以上の銀ナノワイヤーをコンスタントに形成することは難しい。
【0057】
従来の銀ナノワイヤーの洗浄またはろ過方法に代わる方法として「デッドエンド」ろ過によるろ過方法がある。「デッドエンド」ろ過では、望ましい銀ナノワイヤーがかなりの割合でろ過ケーキ中に取り込まれてしまい、ろ過する銀ナノワイヤーの長さの調整はほとんどできない。
【0058】
ナノ構造体、特に銀ナノワイヤーの生産規模を拡大しようとする場合、沈殿処理または「デッドエンド」ろ過は、一バッチを約1リットル以上にすることはほぼ不可能である。
【0059】
本発明において、銀ナノワイヤーを含む反応生成混合物を、クロスフローろ過法によりろ過する。この方法を実施するための装置を図1に概略的に示す。
【0060】
前記反応生成混合物は最初にIPA(イソプロパノール、英国Sigma AldrichTM社販売のHO70%含有品など)で希釈し、粘度を下げてろ過システム1を通過できるようにする。希釈反応生成混合物は、図1では反応生成混合物10である。実施形態の希釈した反応生成物は、反応生成物濃度が純粋IPA濃度の10%以内(たとえば786kg/mの10%以内)となるようにIPAで希釈する。
【0061】
希釈した反応生成混合物10を供給タンク20に投入する。1分当たり7~9リットルの処理が可能な蠕動ポンプ40の動力によって、希釈した反応生成混合物10は前置フィルター30を通過する。前置フィルター30は細孔径約120μmのワイヤーメッシュフィルターを備える。前置フィルター30はあらゆる大きな微粒子を取り除く役割を果たす。
【0062】
蠕動ポンプ40の次にバルブ2および3のバルブが2つある。第一のバルブ2は任意で混合物を供給タンク20に戻すことができ、第二のバルブ3は混合物をクロスフローフィルター70へ流入させる。通常順序における工程では、バルブ2は閉じかつバルブ3は開放する。これにより混合物のクロスフローフィルター70への流入が可能となる。
【0063】
ラングタンク50は事実上圧力弁として機能し、必要に応じてろ過システム1の圧力を解放する。圧力センサー60はろ過システム1の圧力を監視するため、ろ過システム1内の圧力を測定する。
【0064】
クロスフローフィルター70は膜を備える。本実施例ではフィルターのメッシュ部分は金属製で、任意でステンレス鋼を用いる場合もある。メッシュの間隔は30μmである。他実施形態でナノワイヤーの長さもしくはナノ構造体の次元を変える場合、メッシュの間隔もそれに応じて変更する。この実施形態ではクロスフローフィルター70への供給物流入量は750ml/分である。他実施形態では、クロスフローフィルター70への供給物流入量は400ml/分~2l/分の範囲にすることも可能である。また別の実施形態では、クロスフローフィルター70にメッシュを振動させ膜の詰まりを軽減する振動システムを組み込む(図示なし)ことも可能である。
【0065】
比較的小さい粒子は、クロスフローフィルター70のメッシュを通過し、流量計80の手前バルブ4を経て透過物タンク90に入る。バルブ4は透過物タンク90への流入を止めるオプションである。流量計80は透過物タンク90への流量情報を提供する。
【0066】
比較的大きなナノワイヤーは、クロスフローフィルター70を通り残留物として出口に移動する。圧力センサー100は圧力を測定し、ろ過システム1内の圧力を監視できる。残留物はバルブ5を経て流量計110に達する。バルブ5は、残留物の流入を止めるオプションを提供する。流量計110は残留物の流量情報を提供する。
【0067】
残留物は、その後任意で供給タンク20のクロスフローろ過の開始地点へと戻る。残留物は、不純物がクロスフローフィルターから透過物として取り除かれるため、概してきれいな銀ナノワイヤーを含む。本方法においては、クロスフローろ過ステップが1回のみ、また複数回行われる場合があり、回数は2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、またはそれ以上も可能である。図中の120では洗浄および(または)ろ過した溶液の一部を残留物として分取する。その分取分を用いて、銀ナノワイヤーの純度をテストする。
【0068】
実施形態において、たとえば実質的にきれいな銀ナノワイヤーがシステムから取り除かれるため、必要に応じてさらに希釈した反応生成混合物10を、ろ過システム1に入れる。また他実施形態では、透過物の継続的ロスが透過物タンク90に入るため、追加で希釈した反応生成混合物10を、ろ過システム1に継続的に投入する。
【0069】
以上の実施例で述べた方法を行うことで、銀ナノワイヤーが形成され、典型的な長さ30μm~90μm、幅80nm~150nm、またアスペクト比200~900、収率40%以上を得た。形成された銀ナノワイヤーは、透明導電膜もしくは基板が製造できると判明した。それは前記導電膜もしくは基板が、有用な曇り(3%以下)と送信測定値(85%以上)、および有益なシート抵抗を有するためである。
【0070】
銀ナノワイヤーは形成された後、酸化を防ぐために乾燥し真空下で充填する、あるいは、前記銀ナノワイヤーを高純度精製アルコール溶液に分散させる。
【0071】
典型的な実施形態は以下の通りである。
1. 46gのPVPを溶かした500mLのエチレングリコールを、0.1MのCuClを含む1.0mLのエチレングリコール、および0.2MのCuNOを含む1.75mLのエチレングリコールと共に反応器中で撹拌する。
2. 反応器を150℃で一時間加熱する。
3. 一時間後、2mのAgNOを含むエチレングリコール、2.95mLを反応混合物に添加し、30分間撹拌する。
4. さらに2MのAgNOを含むエチレングリコール、35mLを反応混合物に添加し、40分間撹拌する。
5. 前記反応混合物のサンプルを採取し、形成された銀ナノワイヤーの長さを顕微鏡で確認する。
6. 反応の完了後、溶液を室温(20℃)まで冷却する。
7. 溶液をIPAで希釈し、反応生成物濃度を純粋IPAの10%以内にする。
8. 希釈した反応生成物をろ過システム1で3回循環させ、ほぼ純粋な銀ナノワイヤーを生産する。銀ナノワイヤーの収率は40%とする。
【0072】
図2は希釈した反応生成物にろ過ステップを行う前、すなわち本願実施形態のステップ7で得られたナノワイヤーの顕微鏡写真である。銀ナノワイヤーの長さは様々で概して不規則である。図2の画像は倍率50Xの光学顕微鏡を用いて得られた。画像はオリンパスの顕微鏡BX60MおよびオリンパスのカメラSC30を用いて撮影した。
【0073】
図3は本願実施形態のステップ8に沿ってろ過ステップを1回だけ行った後の、(たとえば図1の残留物からの)銀ナノワイヤーの顕微鏡写真である。これらの銀ナノワイヤーは図2に示した、洗浄前のナノワイヤーよりもより均質で純度が増している。図3の画像は倍率50Xの光学顕微鏡を用いて得られた。画像は顕微鏡BX60MおよびオリンパスのカメラSC30を用いた。
【0074】
図4は本願実施形態のステップ8に沿ったろ過ステップを3回行った後の、(たとえば図1の残留物からの)銀ナノワイヤーの顕微鏡写真である。その銀ナノワイヤーは、図3に示した洗浄前のナノワイヤーよりも全て長さがほぼ同じで純度が増している。図4の画像は倍率50Xの光学顕微鏡を用いて得られた。画像はオリンパスの顕微鏡BX60MおよびオリンパスのカメラSC30を用いた。
【0075】
図5は、本願実施形態のステップ8に沿った(たとえば図1で形成された透過物など)ろ過ステップの3循環の間に回収した廃棄物の顕微鏡写真である。廃棄物は、概して短いナノワイヤーで、銀ナノワイヤーを汚しうる小さなナノ構造体および無駄な反応物である。図5の画像は倍率50Xの光学顕微鏡を用いて得られた。画像はオリンパスの顕微鏡BX60MおよびオリンパスのカメラSC30を用いた。
【0076】
図6は、図4の銀ナノワイヤーの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。この画像では、ナノワイヤーは概して均一でほとんど不純物が含まれていない。図6の画像は倍率50KのSEMを用いて得られた。画像の撮影に使用したSEMはカール・ツァイスのウルトラプルスFESEMである。
【0077】
図7は本発明に沿ったろ過ステップ実施前の、図2で示したナノワイヤーの長さ別分布図である。ナノワイヤーの長さが広範囲にわたることが示している。ナノワイヤーの長さは目盛り付定規と併せて倍率50Xの光学顕微鏡を用いて測定した。
【0078】
図8は本発明に沿ったろ過ステップ実施後の、図4に示したナノワイヤーの長さ別分布図である。本発明の方法により比較的長いナノワイヤーが取り除かれ、残されたナノワイヤーの長さは、大半が20~80μmの範囲内である。銀ナノワイヤーの収率は40%かそれ以上である。
【0079】
本明細書および特許請求の範囲において用いられる、「構成(する)」及びその派生語は特定の特徴、段階または完全体を含むことを意味する。前記の語は、その他の特徴、段階または構成要素の存在を除外するとは解釈されない。
【0080】
本明細書、請求の範囲、もしくは添付の図面にて開示され、開示された結果を達成するために開示された機能、方法もしくはプロセスを行うための特定の形式もしくは手段として表現された特徴は、必要に応じてその特徴を個別に、もしくは任意に組み合わせて、多様な形式で本発明を実施するために利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
上述の議論は、銀ナノワイヤー生成の具体例に関する。本発明は、他の金属、金属合金および半導体などの比較的純粋なナノ構造体の生成にも同様に適用することができる。先の結果から分かるように、本発明に沿ったナノ構造体の精製および形成は有益な結果をもたらす。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8