(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】スリーブ、区画貫通構造および区画貫通構造の施工方法
(51)【国際特許分類】
E04G 15/06 20060101AFI20220222BHJP
【FI】
E04G15/06 A
(21)【出願番号】P 2015555480
(86)(22)【出願日】2015-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2015079219
(87)【国際公開番号】W WO2016194251
(87)【国際公開日】2016-12-08
【審査請求日】2018-07-05
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】P 2015109574
(32)【優先日】2015-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2015138984
(32)【優先日】2015-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】趙 盈俊
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 秀康
(72)【発明者】
【氏名】島本 倫男
(72)【発明者】
【氏名】上田 明良
(72)【発明者】
【氏名】戸野 正樹
(72)【発明者】
【氏名】新田 勝三
【合議体】
【審判長】森次 顕
【審判官】土屋 真理子
【審判官】奈良田 新一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-274643(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第2171139(GB,A)
【文献】韓国登録特許第10-1247435(KR,B1)
【文献】特開2012-57320(JP,A)
【文献】特開2005-344382(JP,A)
【文献】特開2009-144465(JP,A)
【文献】特開2001-123563(JP,A)
【文献】特開2009-264516(JP,A)
【文献】実開平6-28462(JP,U)
【文献】特開2005-344382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G15/06,F16L15/04,A62C3/16,F16L5/00-5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートにおける区画貫通孔の形成用にコンクリート打設前に配置されるスリーブであって、
前記スリーブは、熱膨張性の耐火樹脂材料を含有する中空のスリーブ本体を備えた第1のスリーブと、非熱膨張性材料を含有する第2のスリーブとを備え、
前記第1のスリーブの軸方向に沿って、前記第1のスリーブの上側に前記第2のスリーブが積み重ねられており、
前記第1のスリーブの上側には凹部が形成され、
前記第1のスリーブの上側に凹部が形成された該凹部に第2のスリーブの端部が嵌合している、スリーブ。
【請求項2】
前記第1
のスリーブの下端部に、各々が孔を有する1つまたは複数の取付部が設けられている請求項1に記載のスリーブ。
【請求項3】
スリーブの開口部を覆うカバー材をさらに備える請求項1又は2に記載のスリーブ。
【請求項4】
スリーブの端部に取り付け可能な環状の蓋部材をさらに備える請求項1~3のいずれか一項に記載のスリーブ。
【請求項5】
前記第1のスリーブの軸方向に沿って、前記第1のスリーブの下側に非膨張性材料を含有するスリーブをさらに備える請求項
1に記載のスリーブ。
【請求項6】
区画貫通構造であって、
床下地と、
床下地に設置され、外側周囲にコンクリートが打設された請求項1~5のいずれか一項に記載のスリーブと、を備え、
前記スリーブと前記打設されたコンクリートとが、前記コンクリートの高さ全体にわたって接している、区画貫通構造。
【請求項7】
区画貫通構造であって、
床下地と、
床下地に設置され、外側周囲にコンクリートが打設されたスリーブと、
前記スリーブ内に配置された配管または配線
を備え、
前記スリーブと前記打設されたコンクリートとが、前記コンクリートの高さ全体にわたって接しており、
前記スリーブと前記配管又は配線とが、前記スリーブの全長にわたっ
て、接触していない、
区画貫通構造において、
前記スリーブは、コンクリートにおける区画貫通孔の形成用にコンクリート打設前に配置されるスリーブであって、
前記スリーブは、熱膨張性の耐火樹脂材料を含有する中空のスリーブ本体を備えた第1のスリーブと、非熱膨張性材料を含有する第2のスリーブとを備え、
前記第1のスリーブの軸方向に沿って、前記第1のスリーブの上側に前記第2のスリーブが積み重ねられており、
前記第1のスリーブの上側には凹部が形成され、
前記第1のスリーブの上側に凹部が形成された該凹部に第2のスリーブの端部が嵌合している、区画貫通構造。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載のスリーブを、コンクリート打設前に床下地に設置する工程と、
スリーブの外側周囲にコンクリートを打設する工程と、
からなる区画貫通構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連分野の相互参照)
本願は、2015年5月29日に出願した特願2015-109574号明細書および2015年7月10日に出願した特願2015-138984明細書(それらの全体が参照により本明細書中に援用される)の優先権の利益を主張するものである。
(技術分野)
本発明は、コンクリートにおける区画貫通孔の形成用にコンクリートの打設前に配置されるスリーブ、かかるスリーブを備えた区画貫通構造、およびかかるスリーブを用いた区画貫通構造の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の各階のコンクリート打設床において、配管または配線を階上から階下またはその逆に通すためには区画貫通構造を形成する必要がある。具体的には、配管または配線を通すための区画貫通孔にコンクリートを形成するが、従来、例えば特許文献1および2に記載されているように、コンクリート打設前にボイドまたはスリーブと呼ばれる管を床下地に設置垂直に立てて固定し、スリーブの周囲にコンクリートを流し込んでコンクリート床を造り、養生し、スリーブの内部に区画形成される開口部を区画貫通孔とし、配管または配線を通していた。そして、スリーブは通常、紙、樹脂または金属で出来ているため、通常は養生後に引き抜き作業が必要であった。このようにして形成された区画貫通構造に耐火性を与えるためには配管または配線後に耐火性の装置を別途設置する必要があり、施工が煩雑であった。また耐火性の装置に膨張材といった耐火材が設置されているかどうかの確認は、設置された後にはできない場合がほとんどだった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-257281
【文献】特開平9-125670
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
配線または配管後に耐火性の装置を別途設置しなくとも、コンクリートの打設後の区画貫通構造が耐火性を有していれば有益である。またスリーブそのものに耐火性があれば引き抜く必要もない。施工確認も容易にできる。
【0005】
本発明の目的は、耐火性に優れ、かつ区画貫通構造の施工とその確認とを容易にするスリーブ、区画貫通構造、および区画貫通構造の施工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく、スリーブを熱膨張性の耐火樹脂材料から形成すれば区画貫通孔の形成のための型として作用するのみならず区画貫通構造に耐火性を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
項1.コンクリートにおける区画貫通孔の形成用にコンクリートの打設前に配置されるスリーブであって、熱膨張性の耐火樹脂材料を含有する中空のスリーブ本体を備えたスリーブ。
項2.スリーブを床下地に固定するためのスリーブ固定部材を備える項1に記載のスリーブ。
項3.スリーブ本体の下端部に、各々が孔を有する1つまたは複数の取付部が設けられている項1または2に記載のスリーブ。
項4.スリーブの長手方向に沿ってスリーブの端から端まで延びる切れ目を有する項1~3のいずれか一項に記載のスリーブ。
項5.スリーブの開口部を覆うカバー材をさらに備える項1~4のいずれか一項に記載のスリーブ。
項6.スリーブ本体12の内周面に沿って設けられた紙製の芯をさらに備える項1~5のいずれか一項に記載のスリーブ。
項7.スリーブの端部に取り付け可能な環状の蓋部材をさらに備える項1~6のいずれか一項に記載のスリーブ。
項8.蓋部材は可塑剤を含むかまたは含まない塩化ビニル樹脂、またはゴムから形成される項7に記載のスリーブ。
項9.蓋部材が、蓋部材を分断する切れ目を有する項7または8に記載のスリーブ。
項10.蓋部材とスリーブが一体化されている項7~9のいずれか一項に記載のスリーブ。
項11.蓋部材が着色されている項7~10のいずれか一項に記載のスリーブ。
項12.スリーブに対し、スリーブの軸方向に沿って、非熱膨張性材料を含有するスリーブが積み重ねられている項1~11のいずれか一項に記載のスリーブ。
【0008】
項13.前記熱膨張性の耐火樹脂材料を含有する中空のスリーブ本体を備えたスリーブの上側に非熱膨張性材料を含有するスリーブが積み重ねられ、非熱膨張性材料を含有するスリーブの上端部の開口部に環状補強具79が装着され、前記熱膨張性の耐火樹脂材料を含有する中空のスリーブ本体を備えたスリーブの下端部に硬質樹脂から形成された固定具が装着されている項12に記載のスリーブ。
項14.スリーブの外側に樹脂からなる外筒が設けられ、スリーブの内側に樹脂からなる内筒が設けられている項1~13のいずれか一項に記載のスリーブ。
項15.スリーブ本体の側面に、スリーブ本体から突出して延びるリブをさらに備えた項1に記載のスリーブ。
項16.スリーブ本体の端部に、スリーブ本体の厚みより大きな幅でスリーブの軸方向外方に延びるフランジ部をさらに備えた項1に記載のスリーブ。
項17.上下対称である項1~16のいずれか一項に記載のスリーブ。
項18.分解可能な複数の部品から構成されている項1~16のいずれか一項に記載のスリーブ。
項19.スリーブの軸方向に沿って伸縮可能な蛇腹部分を備えている項1~16のいずれか一項に記載のスリーブ。
項20.区画貫通構造であって、
床下地または壁下地と、
床下地または壁下地に設置され、外側周囲にコンクリートが打設された項1~19のいずれか一項に記載のスリーブと、
を備えた区画貫通構造。
項21.前記スリーブ内に配置された配管または配線をさらに備える項20に記載の区画貫通構造。
項22.前記配管または配線と前記スリーブとの間に配置され、配管または配線とスリーブとに接触する支持部材をさらに備える項21に記載の区画貫通構造。
項23.項1~19のいずれか一項に記載のスリーブを床下地または壁下地に設置する工程と、
スリーブの外側周囲にコンクリートを打設する工程と、
からなる区画貫通構造の施工方法。
項24.コンクリートの打設後に、前記スリーブ内に配管または配線を配置する工程をさらに含む項23に記載の施工方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スリーブを設置すると同時に区画貫通構造に耐火性を付与することができ、区画貫通構造の施工を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第一実施形態のスリーブ、配管、床下地の略斜視図である。
【
図2】
図1のスリーブを底面から見た略斜視図である。
【
図3】(a)~(d)
図1のスリーブを用いた本発明の区画貫通構造の施工方法の略断面図である。
【
図4】(a)本発明の第二実施形態のスリーブの略斜視図である。(b)スリーブの切れ目の別例を示す略斜視図である。
【
図5】(a)~(d)
図4(a)のスリーブを用いた本発明の区画貫通構造の施工方法の略断面図である。
【
図6】(a)蓋部材の例の略斜視図である。(b)
図6(a)の正面図である。
【
図7】
図6(a)の蓋部材をスリーブの上に配置した状態の略斜視図である。
【
図8】(a)内方に突出する位置決め部が設けられたスリーブの別例の部分拡大断面図、(b)
図8(a)のスリーブの端面図、(c)
図8(a)のスリーブの別例の部分拡大断面図である。
【
図9】(a)~(c)蓋部材の別例の略斜視図である。
【
図10】配管または配線とスリーブとの間に支持部材が配置された状態を示す部分拡大断面図である。
【
図11】(a)スリーブ固定部が一体形成された別例のスリーブの正面図である。(b)スリーブの取付状態を示す
図11(a)の斜視図である。
【
図12】スリーブとは別体として形成されたスリーブ固定部の斜視図である。
【
図13】(a)~(d)非熱膨張性材料を含有するスリーブが熱膨張性材料を含有するスリーブに対し積み重ねられているスリーブのスタック構造を示す略斜視図。
【
図19】(a)~(d)スリーブの別例を示す略斜視図。
【
図20】スリーブのスタック構造の別例を示す略斜視図。
【
図21】(a)スリーブのスタック構造の別例を示す略斜視図、(b)
図21(a)の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第一実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1には、コンクリートにおける区画貫通孔の形成用にコンクリートの打設前に配置される、本発明の第一実施形態のスリーブ10が示されている。スリーブ10はボイドとも称される。スリーブ10は中空略円筒形のスリーブ本体12を備えている。スリーブ本体12の内周面により開口部19が形成され、区画貫通孔16(
図3(b)参照)として作用する。開口部19の大きさ(スリーブ本体12の内径)は配管または配線5の外径よりも大きく、配管または配線5を挿通できる寸法である。スリーブ10の材料については後述する。
【0013】
スリーブ本体12の下端13bには、1つまたは複数(図では4つ)の取付部24が設けられている。取付部24はスリーブ本体12と一体成形されている。取付部24は、
図1ではそれぞれスリーブ10の軸Aに関して約90°離間した4つの取付部で示され、各取付部24は、床下地1に対してスリーブ10を固定するための孔26を有する。通常有底矩形の型枠2は、コンクリート3(
図3(b)参照)を収容するためのものであり、型枠2内にはコンクリート3の補強用の鉄筋Rが収容される。コンクリート3および鉄筋Rは床下地1を構成する。
【0014】
孔26にはスリーブ10を型枠2、鉄筋R、またはコンクリート3等に固定するために針金等の金属線、ボルト、ビス、釘等の固定用部材が通され得るが、本実施形態では、スリーブ10は、金属線等を取付部24の孔26に通し、該金属線の両端を鉄筋R(
図1参照)に結び付けることにより、鉄筋Rに対して固定される 。なお、任意選択で、固定用部材をスリーブ10から取り外せるように、孔26に固定用部材を外しやすくするためのグリースを付けておいたり、取付部24に作業者が手で力を加えると取付部24の部分が折れて取り外せるようになっていてもよい 。
【0015】
またスリーブ10は、スリーブ本体12の外側面に、スリーブ本体12から突出して延びるリブを 備えており、リブは、スリーブ10の軸Aに対して略平行に延びる複数の(
図1では3つ)リブ12aと、スリーブ10の軸Aに対して略垂直な方向に環状(円周上)に延びる複数(
図1では3つ)のリブ12bとを備えている。リブ12a,12bはスリーブ本体12と一体成形されている。リブ12a,12bは、スリーブ10の周囲にコンクリートを流し込んだときにコンクリートから受ける力に対してスリーブ10が耐えられるようスリーブ10を補強する役割を果たす。
【0016】
図2を参照すると、本実施形態では、複数のリブ12bのうち、最下部のリブ12bは、スリーブ本体12の下端13bよりもわずかに高い位置(例えば3mm~20mm)に設けられており、最下部のリブ12bの下面よりも下方のスリーブ本体12の部分と、最下部のリブ12bと、(さらにはスリーブ本体12の下端13bから突出する取付部24と)の間には空間12cが形成される。
【0017】
図1を戻って参照すると、スリーブ10には、内部に開口部31を有する環状の蓋部材30が 取り付けられる。蓋部材30は金属から形成されてもよいし、非耐火性または耐火性の樹脂組成物の成形体であってもよい。例えば、蓋部材30は可塑剤を含むかまたは含まない塩化ビニル樹脂か、またはゴム等の樹脂組成物から形成され得る。また 、美観を与えるように蓋部材30にはコーティング等の仕上層がさらに施されてもよい。例えば蓋部材30は、スリーブ10を構成する耐火性樹脂組成物と同一のまたは異なる、弾性を有するブチルゴム等の樹脂成分を含む耐火性樹脂組成物から形成される。特定 の実施形態では、蓋部材30はスリーブ10とは異なる組成の樹脂組成物の成形体であり、スリーブ10とは視覚的に区別できるよう(例えば赤、黄、橙、青、緑などの色の着色等により)構成される。また、夜間でも視覚的に区別できるように蛍光色であってもよい。蓋部材30は蓋本体32と、本体32よりも径が小さい脚部34とを有する。
【0018】
蓋部材30はスリーブ10の一端部に取り付けられ、蓋部材30の内径は配管または配線5の外径よりも大きく、蓋部材30の開口部31に配管または配線5が収容される。蓋本体32の外径はスリーブ10(およびスリーブ本体12)の外径よりも大きく、脚部34の外径はスリーブ10(およびスリーブ本体12)の内径よりも小さい。このため、蓋本体12がスリーブ10の上端13aの上に配置され、脚部34がスリーブ10と配管または配線5の間に挟まれるように配置される。また、蓋部材30は本体32と小さい脚部34とを通る蓋部材30を分断する切れ目33を有するため、切れ目33の位置で蓋部材30の両端部を把持して蓋部材30を拡径し、配管または配線5の周囲に巻き付けることにより、配管または配線5を区画貫通孔16に通して設置した後でも蓋部材30をスリーブ10と配管または配線5の間に配置することができる。 本実施形態では、切れ目33が折れ曲り、切れ目33の互いに対向する接触面が湾曲しているため、切れ目33を合わせたときの係合力が強化され、蓋部材30をスリーブ10に装着した後で、外力により蓋部材30がスリーブ10から外れるのを防ぐことができる。
【0019】
スリーブ10は熱膨張性の耐火樹脂材料から形成されている。耐火樹脂材料は、樹脂成分に熱膨張性層状無機物と無機充填材とを含む樹脂組成物である。スリーブ10は、樹脂組成物の各成分を単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、混練ロール、ライカイ機、遊星式撹拌機等公知の装置を用いて混練し、公知の成形方法で成形することにより得ることができる。
【0020】
第一実施形態では、スリーブ10のスリーブ本体12、リブ12a,12b、ならびに取付部24が同じ熱膨張性の耐火樹脂材料から一体成形されている。
【0021】
樹脂成分としては、公知の樹脂成分を広く使用でき、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム物質、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0022】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ(1-)ブテン樹脂、ポリペンテン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ノボラック樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソブチレン等の合成樹脂が挙げられる。
【0023】
熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリウレタン、ポリイソシアネート、ポリイソシアヌレート、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド等の合成樹脂が挙げられる。
【0024】
ゴム物質としては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2-ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、エチレン-プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多加硫ゴム、非加硫ゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等のゴム物質等が挙げられる。
【0025】
これらの合成樹脂および/またはゴム物質は、一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0026】
これらの合成樹脂および/またはゴム物質の中でも、柔軟でゴム的性質を有しているものが好ましい。この様な性質を有する樹脂成分は無機充填材を高充填することが可能であり、得られる樹脂組成物が柔軟で扱い易いものとなる。より柔軟で扱い易い樹脂組成物を得るためには、ブチル等の非加硫ゴムおよびポリエチレン系樹脂が好適に用いられる。代わりに、樹脂自体の難燃性を上げて防火性能を向上させるという観点からは、エポキシ樹脂が好ましい。
【0027】
熱膨張性層状無機物は加熱時に膨張するものである。かかる熱膨張性層状無機物に特に限定はなく、例えば、バーミキュライト、カオリン、マイカ、熱膨張性黒鉛等を挙げることができる。熱膨張性黒鉛とは、従来公知の物質であり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とで処理してグラファイト層間化合物を生成させたものであり、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物の一種である。
【0028】
上記のように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛は、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等でさらに中和してもよい。熱膨張性黒鉛の粒度は、20~200メッシュが好ましい。粒度が200メッシュより数値が大きいと、黒鉛の膨張度が膨張断熱層が得るのに十分であり、また粒度が20メッシュより小さいと、樹脂に配合する際の分散性が良く、物性が良好である。熱膨張性黒鉛の市販品としては、例えば、東ソー社製「GREP-EG」、GRAFTECH社製「GRAFGUARD」等が挙げられる。
【0029】
無機充填剤は、膨張断熱層が形成される際、熱容量を増大させ伝熱を抑制するとともに、骨材的に働いて膨張断熱層の強度を向上させる。無機充填剤としては特に限定されず、例えば、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト等の金属酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の含水無機物;塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の金属炭酸塩等が挙げられる。
【0030】
また、無機充填剤としては、これらの他に、硫酸カルシウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム等のカルシウム塩;シリカ、珪藻土、ドーソナイト、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥等が挙げられる。これらの無機充填剤は単独で用いることができるし、2種以上を併用することもできる。
【0031】
無機充填剤の粒径としては、0.5~100μmが好ましく、より好ましくは1~50μmである。無機充填剤は、添加量が少ないときは、分散性が性能を大きく左右するため、粒径の小さいものが好ましいが、0.5μm以上であると、分散性が良好である。添加量が多いときは、高充填が進むにつれて、樹脂組成物の粘度が高くなり成形性が低下するが、粒径を大きくすることで樹脂組成物の粘度を低下させることができる点から、粒径の大きいものが好ましいが、100μm以下の粒径が成形体の表面性、樹脂組成物の力学的物性の点で望ましい。
【0032】
無機充填剤のうち、水酸化アルミニウムの具体例としては、粒径18μmの「ハイジライトH-31」(昭和電工社製)、粒径25μmの「B325」(ALCOA社製)、炭酸カルシウムでは、粒径1.8μmの「ホワイトンSB赤」(備北粉化工業社製)、粒径8μmの「BF300」(備北粉化工業社製)等が挙げられる。
【0033】
さらに、熱膨張性耐火材を構成する樹脂組成物は、膨張断熱層の強度を増加させ防火性能を向上させるために、前記の各成分に加えて、さらにリン化合物を含んでもよい。リン化合物としては、特に限定されず、例えば、赤リン;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム等のリン酸金属塩;ポリリン酸アンモニウム;下記化学式(1)で表される化合物等が挙げられる。これらのうち、防火性能の観点から、赤リン、ポリリン酸アンモニウム、および、下記化学式(1)で表される化合物が好ましく、性能、安全性、コスト等の点においてポリリン酸アンモニウムがより好ましい。
【0034】
【0035】
化学式(1)中、R1およびR3は、水素、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、または、炭素数6~16のアリール基を表す。R2は、水酸基、炭素数1~16の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシル基、炭素数6~16のアリール基、または、炭素数6~16のアリールオキシ基を表す。
【0036】
赤リンとしては、市販の赤リンを用いることができるが、耐湿性、混練時に自然発火しない等の安全性の点から、赤リン粒子の表面を樹脂でコーティングしたもの等が好適に用いられる。ポリリン酸アンモニウムとしては特に限定されず、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム等が挙げられるが、取り扱い性等の点からポリリン酸アンモニウムが好適に用いられる。市販品としては、例えば、クラリアント社製「AP422」、「AP462」、Budenheim Iberica社製「FR CROS 484」、「FR CROS 487」等が挙げられる。
【0037】
化学式(1)で表される化合物としては特に限定されず、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、n-プロピルホスホン酸、n-ブチルホスホン酸、2-メチルプロピルホスホン酸、t-ブチルホスホン酸、2,3-ジメチル-ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4-メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。中でも、t-ブチルホスホン酸は、高価ではあるが、高難燃性の点において好ましい。前記のリン化合物は、単独で用いることもできるし、2種以上を併用することもできる。
【0038】
前記樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂成分100重量部に対し、前記熱膨張性層状無機物を10~350重量部および前記無機充填材を30~400重量部の範囲で含むものが好ましい。
【0039】
また、前記熱膨張性層状無機物および前記無機充填材の合計は、樹脂成分100重量部に対し、50~600重量部の範囲が好ましい。
【0040】
かかる樹脂組成物は加熱によって膨張し耐火断熱層を形成する。この配合によれば、前記熱膨張性耐火材は火災等の加熱によって膨張し、必要な体積膨張率を得ることができ、膨張後は所定の断熱性能を有すると共に所定の強度を有する残渣を形成することもでき、安定した防火性能を達成することができる。
【0041】
前記樹脂組成物における熱膨張性層状無機物および無機充填材の合計量は、50重量部以上では燃焼後の残渣量を満足して十分な耐火性能が得られ、600重量部以下であると機械的物性が維持される。
【0042】
さらに本発明に使用する前記樹脂組成物は、それぞれ本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、フェノール系、アミン系、イオウ系等の酸化防止剤の他、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、軟化剤、顔料、粘着付与樹脂、成型補助材等の添加剤、ポリブテン、石油樹脂等の粘着付与剤を含むことができる。
【0043】
熱膨張性耐火材は市販品として入手可能であり、例えば、住友スリーエム社製のファイアバリア(クロロプレンゴムとバーミキュライトとを含有する樹脂組成物からなる熱膨張性耐火材、膨張率:3倍、熱伝導率:0.20kcal/m・h・℃)、三井金属塗料社のメジヒカット(ポリウレタン樹脂と熱膨張性黒鉛とを含有する樹脂組成物からなる熱膨張性耐火材、膨張率:4倍、熱伝導率:0.21kcal/m・h・℃)、積水化学工業社製フィブロック等の熱膨張性耐火材等も挙げられる。
【0044】
前記熱膨張性耐火材は、火災時などの高温にさらされた際にその膨張層により断熱し、かつその膨張層の強度があるものであれば特に限定されない。50kW/m2の加熱条件下で30分間加熱した後の体積膨張率が3~50倍のものであれば好ましい。前記体積膨張率が3倍以上であると、膨張体積が前記樹脂成分の焼失部分を十分に埋めることができ、また50倍以下であると、膨張層の強度が維持され、火炎の貫通を防止する効果が保たれる。
【0045】
次に、
図3(a)~(d)を参照しながら、スリーブ10を用いた区画貫通構造の施工方法について説明する。
【0046】
図3(a)に示すように、スリーブ10を床下地1に固定する。スリーブ10の床下地1への固定は、例えばボルト28をスリーブ10の下端13bの取付部24の孔26を通って床下地1の中までねじ込むことによりなされる。型枠2の底部のスリーブ10に対応する位置には、配管または配線5(
図3(c)参照)を挿通するための穴を空けておく。
【0047】
次に、
図3(b)に示すように、コンクリート3を床下地1へ流し込む。この図ではコンクリート3の厚みすなわち高さHは、スリーブ本体12の下端13bからスリーブ本体の上端13aまでの距離に等しい。このようにして、スリーブ10の内側の開口部19を残し、スリーブ10の外側周囲にコンクリート3が打設され、区画貫通構造100が完成する。スリーブ10の内側の開口部19は区画貫通孔16として作用する。ここで、スリーブ本体12に設けられた最下部のリブ12bは、スリーブ本体12の下端13bよりもわずかに高い位置に設けられているため、スリーブ10の周囲にコンクリート3を打設した時、最下部のリブ12bの下面よりも下方のスリーブ本体12の部分と、最下部のリブ12bと、(さらにはスリーブ本体12の下端13bから突出する取付部24と)により形成された空間12c(
図2参照)にコンクリート3が進入し、スリーブ10はコンクリート3中に、より堅固に固定される。
【0048】
次に、
図3(c)に示すように、コンクリート3を貫通するように、区画貫通孔16を通って1または複数の配管または配線5を施す。配管には、水道管、冷媒管、熱媒管、ガス管、吸排気管等の各種配管が含まれる。配線には、電力用ケーブル、通信用ケーブル等の各種ケーブルが含まれる。さらに、スリーブ本体の上端13aに、複数の配管または配線5の周囲を多い、かつ区画貫通孔16を塞ぐように、蓋部材30を装着する。
【0049】
例えば
図3(c)において、区画貫通構造100の階下において矢印の方向から火災が発生した場合、
図3(d)に示すように、スリーブ10が火災の熱により膨張し、スリーブ10と配管または配線5との間の隙間を埋め、火の進路を塞ぐ。このようにして、スリーブ10は、コンクリート3の打設を容易にするのみならず、耐火性を発揮し、区画貫通構造100に耐火性を付与する。このように、スリーブ10はコンクリートの養生後に引き抜く必要もなく、スリーブ10の設置と同時に耐火材が設置されていることを確認できる。
【0050】
この実施形態では蓋部材30が、配管または配線5の外周面に接し、かつスリーブ10と配管または配線5との間の隙間の間を閉塞しているため、区画貫通構造100に耐火性をさらに付与している。また、
図3(c),(d)の区画貫通構造100を上から見たときに、蓋部材30がスリーブ10の上をカバーして配管または配線5の周囲でスリーブ10と配管または配線5との間の隙間を塞いでいるため、目隠しの役割を果たし、区画貫通孔16の中が見えず、視覚的にも美観が保たれる。また、蓋部材30でスリーブ10と配管または配線5との間の隙間を閉塞すれば、床下からの音を低減することも可能である 。
【0051】
ここまで、本発明を第一実施形態を例にとって説明してきたが、本発明はこれに限られず、以下のような種々の変形が可能である。
【0052】
・リブ12aおよびリブ12bの一方または両方が省略されてもよい。
【0053】
・スリーブ本体12から突出して延びるリブは、リブ12aまたはリブ12bの配置に限定されない。リブは、スリーブ10の軸Aに水平な方向、垂直な方向以外に、スリーブ本体12の側面を斜めに延びるものであってもよいし、スリーブ本体12の側面をらせん形状に延びるものであってもよい。またリブは、スリーブ本体12の外側面(外周面)に設けられる以外に、内側面(内周面)に設けら れてもよい 。これらのリブはスリーブ本体の側面から延びるスリーブの範囲に含まれる。
【0054】
・リブ12a,12bはスリーブ本体12とは別の部材から構成されていてもよい。例えば、スリーブ本体12の側面周囲に金属製、樹脂製等の補強材を設け、補強材から突出して延びるリブを設けてもよい。
【0055】
・スリーブ本体12から突出して延びるリブを設ける代わりに、スリーブ本体12の材料に補強材料を混ぜた部分や厚みを増した部分等を設けてスリーブ10を補強してもよい。
【0056】
・取付部24の数は4つに限定されず、スリーブ10を床下地1へ固定させるのに十分な任意の数であってもよい。
【0057】
・取付部24を省略してもよい。
【0058】
本発明の第二実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0059】
図4(a)には、コンクリートにおける区画貫通孔の形成用にコンクリートの打設前に配置される、本発明の第二実施形態のスリーブ10が示されている。スリーブ10は中空略円筒形のスリーブ本体12と、スリーブ本体12の一端部に設けられた環状のフランジ部14と を備えている。スリーブ本体12は一枚の矩形のシート状部材から形成され、フランジ部14も一枚の環状のシート状部材から形成されている。フランジ部14は、スリーブ本体12からスリーブ10の軸方向Aの外方へ延びている。
図5(a)に示すように、フランジ部14の幅Wはスリーブ本体12の厚みTよりも大きい。
【0060】
図4(a)に戻り、スリーブ本体12の下端部には、スリーブ本体12を床下地1(
図5(a)参照)に固定するためのスリーブ固定部材としての環状の固定具20が装着される。固定具20は、スリーブ本体12の外径に適合した内径を有する金属製のリング22と、リング22上に離間配置された複数の(
図4(a)では4つ)取付部24を有する。各取付部24はボルト28(
図5(a)参照)を通すための孔26を有する。
【0061】
本実施形態では、スリーブ本体12およびフランジ部14は同じ熱膨張性の耐火樹脂材料から一体成形されている。耐火樹脂材料は、樹脂成分に熱膨張性層状無機物と無機充填材とを含む樹脂組成物である。この樹脂組成物の組成については第一実施形態で説明した通りである。
【0062】
次に、
図5(a)~(d)を参照しながら、スリーブ10を用いた区画貫通構造の施工方法について説明する。
【0063】
図5(a)に示すように、スリーブ10の下端部に固定具20を装着し、スリーブ10を床下地1に固定する。スリーブ10の床下地1への固定は、例えばボルト28を固定具20の取付部24の孔26を通って床下地1の中までねじ込むことによりなされる。
【0064】
次に、
図5(b)に示すように、コンクリートを床下地1へ流し込む。この図ではコンクリートの厚みすなわち高さHは、スリーブ本体12の下端13bからフランジ部14の下面15までの距離に等しい。このようにして、スリーブ10の内側の開口部19を残し、スリーブ10の外側周囲にコンクリート3が打設され、区画貫通構造100が完成する。スリーブ10の内側の開口部は区画貫通孔16として作用する。
【0065】
次に、
図5(c)に示すように、コンクリート3を貫通するように、区画貫通孔16を通って1または複数の配管または配線5が施される。配管には、水道管、冷媒管、熱媒管、ガス管、吸排気管等の各種配管が含まれる。配線には、電力用ケーブル、通信用ケーブル等の各種ケーブルが含まれる。
【0066】
例えば
図5(c)において、区画貫通構造100の階下において矢印の方向から火災が発生した場合、
図5(d)に示すように、スリーブ10のスリーブ本体12およびフランジ部14が火災の熱により膨張し、スリーブ10と配管または配線5との間の隙間を埋め、火の進路を塞ぐ。このようにして、スリーブ10は、コンクリート3の打設を容易にするのみならず、耐火性を発揮し、区画貫通構造100に耐火性を付与する。このように、スリーブ10はコンクリートの養生後に引き抜く必要もなく、スリーブ10の設置と同時に耐火材が設置されていることを確認できる。
【0067】
本発明の区画貫通構造100は、
図6(a),(b)に示すような、内部に開口部31を有する環状の蓋部材30をさらに備えていてもよい 。蓋部材30は金属から形成されてもよいし、耐火性樹脂組成物の成形体であってもよい。また、美観を与えるように蓋部材30にはコーティング等の仕上層がさらに施されてもよい。例えば蓋部材30は、スリーブ10を構成する耐火性樹脂組成物と同一のまたは異なる、弾性を有するブチルゴム等の樹脂成分を含む耐火性樹脂組成物から形成される。
図6(b)に示すように、蓋部材30は蓋本体32と、本体32よりも径が小さい脚部34とを有する。
【0068】
図7に示すように、蓋部材30はスリーブ10の一端部に取り付けられ、蓋部材30の開口部31に配管または配線5が収容され、蓋本体32がフランジ部14の上に配置され、脚部34がスリーブ10と配管または配線5の間に挟まれるように配置される。また、
図6(a)に示すように、蓋部材30は本体32と小さい脚部34とを通る切れ目33を有するため、切れ目33の位置で蓋部材30の両端部を把持して蓋部材30を拡径し、配管または配線5の周囲に巻き付けることにより、配管または配線5を区画貫通孔16に通して設置した後でもスリーブ10と配管または配線5の間に配置することができる。
【0069】
この実施形態では蓋部材30は、配管または配線5の外周面に接し、かつスリーブ10と配管または配線5との間の隙間の間を閉塞しているため、区画貫通構造100に耐火性をさらに付与している。また、
図7の区画貫通構造100を上から見たときに、蓋部材30がフランジ部14の上をカバーして配管または配線5の周囲でスリーブ10と配管または配線5との間の隙間を塞いでいるため、フランジ部14および区画貫通孔16の中が見えず、視覚的にも美観が保たれる。
【0070】
ここまで、本発明を第二実施形態を例にとって説明してきたが、本発明はこれに限られず、以下のような種々の変形が可能である。
【0071】
・スリーブ本体12とフランジ部14には、
図4(a)においてスリーブ10の長手方向に沿ってスリーブ10の上端から下端までを通る連続する切れ目17が設けられていてもよい。スリーブ10をブチルゴム等の弾性を有する樹脂成分を含む耐火性樹脂組成物から形成し、スリーブ10の長手方向に沿ってスリーブ10の端から端まで延びる切れ目17を設ければ、スリーブ10のコンクリート2からの着脱や、スリーブ10の配管または配線5からの着脱が容易となる 。例えば 、配管または配線5を先に施工し、その後でスリーブ10を配管または配線5の周囲に施すことが可能となる。また、
図4(a)の切れ目17はスリーブ12の軸方向に沿った直線状態の切れ目が示されているが、
図4(b)に示すようにスリーブ12を斜めに走る切れ目(例えばスパイラル状)であってもよい。
【0072】
・スリーブ本体12とフランジ部14は、異なる熱膨張性の耐火樹脂材料から形成されてもよいし、またはスリーブ本体12が熱膨張性の耐火樹脂材料から形成され、フランジ部は金属から形成されてもよい。このような場合でも、火災時には少なくともスリーブ本体12が膨張し、スリーブ10を通じた火の延焼は防止される。
【0073】
・フランジ部14を省略してもよく、この場合に、
図6(a)の蓋部材30をスリーブ本体12の上に取り付けてもよい。
【0074】
・固定具20の取付部24の数は4つに限定されず、スリーブ10を床下地1へ固定させるのに十分な任意の数であってもよい。
【0075】
・固定具20は、金属以外の材料から構成されてもよい。例えば、固定部20は可燃性の樹脂材料から形成されてもよい。別の好ましい実施形態では、固定具20は硬質塩化ビニルを初めとする硬質樹脂から形成される。固定部20を硬質樹脂から構成すると、スリーブ固定部20が装着されたスリーブ10の下端部には強度が付与され、コンクリート3の打設時の流し込まれたコンクリート3の圧力によるスリーブ10の変形を防止または抑制することができる。
【0076】
・固定具20を省略してもよい。
【0077】
・第二実施形態のスリーブ10に第一実施形態のリブ12aおよび/または12b等のスリーブ10の強度を補強するリブを設けてもよい。
【0078】
また、上記の第一および第二実施形態は、以下のような種々の変形が可能である。
【0079】
・
図8(a)に示すように、スリーブ10に、スリーブ本体12の内周面から内方に突出する1つまたは複数の位置決め部10aが設けられてもよい 。この図では位置決め部10aはスリーブ10の長手方向に沿って、スリーブ10の長手方向中心の上下の2か所、具体的にはスリーブ10の上端と下端付近の2か所に設けられている。
図8(b)に示すように端面図で見た場合、位置決め部10a(図では4つ)が等間隔に離間した状態で配置されている。位置決め部10aと配管または配線5との間には隙間が存在する。このような構成とすることで、
図5(c)に示されるようにスリーブ10内に配管または配線5を配置する場合に、位置決め部10aがスリーブ10内における少ないズレでの配管または配線5の位置決めを支援する。位置決め部10aの内方への突出が長いと、配管または配線5はほぼズレたり傾いたりすることなくスリーブ10内の軸中心位置に配置(センタリング)される。
【0080】
・
図8(a),(b)の位置決め部10aは、
図8(c)におけるようにさらに変更してもよい。具体的には、スリーブ10(スリーブ本体12)の長手方向に沿って、位置決め部10aよりも中心側に位置決め部10bを設け、位置決め部10bよりも中心側に位置決め部10cを設け、位置決め部10bの突出する長さは位置決め部10aよりも大きく、位置決め部10cの突出する長さは位置決め部10bよりも大きくする。ただし、配管または配線5が位置決め部10cと接触して損傷しないよう、配管または配線5をスリーブ10内に配置したときに、位置決め部10cと配管または配線5の間には隙間が存在することが好ましい。このような構成とすることで、スリーブ10内に配管または配線5を配置する場合に、上から配置した場合でも下から配置した場合でも、配管または配線5はスリーブ10内の軸中心位置に配置されるよう誘導される。位置決め部10a,10bおよび10cのスリーブ10の径方向における位置は整列させることが好ましいが、位置決め部10a,10bおよび10cのスリーブ10の長手方向および径方向における数は限定されない。さらには、位置決め部10a,10bおよび10cのいずれか一つが省略されてもよい。
【0081】
・
図1または
図6(a)の蓋部材30とスリーブ10とを一体化してもよい。このような構成にすることで、蓋部材30とスリーブ10の間の隙間が無くなり、コンクリート3がスリーブ10の開口部19へ漏れ出るのを防止でき、配管5周囲の耐火性も増大する 。
【0082】
・
図1または
図6(a)の蓋部材30を省略してもよい。
【0083】
・
図1または
図6(a)の蓋部材30の切れ目33を省略してもよい。切れ目33を省略しても、配管または配線5を区画貫通孔16に通す前に蓋部材30をスリーブ10の一端部に取り付けることはでき、また、配管または配線5を区画貫通孔16を通して配置した後でも、配管または配線5の端部を蓋部材30の開口部31に通し、配管または配線5に沿って蓋部材30をスリーブ10の位置まで移動させても取り付けることができる。
【0084】
・
図1または
図6(b)の脚部34は省略してもよい。
【0085】
・
図1または
図6(a)の蓋部材30の代わりに、
図9(a)に示すように、蓋部材35が、一対の蓋部品36と、一対の蓋部品36を第一端部で接続する軸部材37とを有し、軸部材37を中心に一対の蓋部品36が開閉し、一対の蓋部品36が支持部材37とは反対側の第二端部で一対の嵌合部38を介して接続して閉じたときに配管または配線5が一対の蓋部品36により区画形成された開口部39に収容される構成となっていてもよい。
【0086】
・
図1または
図6(a)の蓋部材30の代わりに、
図9(b)に示すように、蓋部材40が、一対の蓋部品41および42を有し、蓋部品41および42の各々の両端部には互いに嵌合するための嵌合部43および44が設けられ、嵌合部43および44を介して蓋部品41および42が接続して閉じたときに配管または配線5が蓋部材4の蓋部品43および44により区画形成された開口部45に収容される構成となっていてもよい。
【0087】
・
図9(c)に示すように、
図1または
図6(a)の蓋部材30が脚部34の外周面にねじ部46を備え、スリーブ10のスリーブ本体12の蓋部材30と重なり合う上端部の内周面にねじ部47を備えてもよい。このような構成にすれば、蓋部材30をスリーブ10の上に取り付けるときに、蓋部材30をスリーブ10に対して回転させて螺合させることにより、蓋部材30とスリーブ10をより強固に接続することができる 。
【0088】
・
図10に示すように、配管または配線5とスリーブ10との間にスリーブ10内に進入する配管または配線5をスリーブ10に対し支持するための支持部材50が配置されてもよい 。支持部材50は金属、樹脂、木、およびそれらの複合材料を初めとする任意の材料から構成されてもよく、例えばスリーブ10と同じかまたは異なる熱膨張性の耐火樹脂材料から構成されてもよい。この場合、支持部材50はある程度の弾性を有するように、ゴム物質の樹脂成分、熱膨張性層状無機物、および無機充填材を含むことが好ましい。支持部材50は先細りする先端52を有し、この実施形態では支持部材50はくさび形をしている。支持部材50はスリーブ10すなわち区画貫通孔16内における配管または配線5の位置を固定するよう作用する。すなわち、
図3(c)または
図5(c)のようにスリーブ10内に配管または配線5を配置した状態で、支持部材50を先端52からスリーブ10内に挿入し、スリーブ10と配管または配線5の両方に接触した状態で固定すると、配管または配線5はスリーブ10の中で一定位置に固定される。配管または配線5に建物に金具等に取り付けなくとも、配管または配線5は区画貫通孔16内で支持および固定される。なお、
図10では1つの支持部材50を示したが、複数の支持部材50を用いてもよい。また、スリーブ10の端部11の形状を、支持部材50のスリーブ10内への挿入を促し、かつ支持部材50との接触面積を増大させるために、支持部材50の形状と適合させて傾斜させてもよい。
【0089】
・
図11(a)および(b)に示すように、スリーブ10は、第一実施形態における取付部24または第二実施形態における固定具20の代わりにまたはそれに加えて、コンクリート打設時に床下地(鉄筋コンクリートからなる建物の梁または壁)にスリーブ10を固定するための、スリーブ本体12に一体形成されたスリーブ固定部60をさらに備えていてもよい。スリーブ固定部材としてのスリーブ固定部60はスリーブホルダとも称される 。
【0090】
スリーブ固定部60は合成樹脂からなり、射出成形によってスリーブ本体12と一体に形成されている。好ましい一つの実施形態では、スリーブ固定部60は例えばポリプロピレンをはじめとする熱可塑性樹脂からなり、適度な柔軟性を有する。別の好ましい実施形態では、スリーブ固定部60はスリーブ本体12と同じ熱膨張性の耐火樹脂材料から形成される。この態様によると製造コストを抑制できる。別の好ましい実施形態では、スリーブ固定部60はスリーブ本体12から熱膨張性黒鉛を除いた同じ耐火樹脂材料から形成され、2色形成によりスリーブ本体12と一体的に形成される。この態様によるとスリーブ固定部60の部分の外観が良くなり、強度も向上する。
【0091】
別の好ましい実施形態では、
図12に示すように、スリーブ固定部60はスリーブ本体12とは別体で形成される。スリーブ固定部60は、スリーブ10の外側に装着される寸法の環状(図では円環状)の部材64を備えている。この態様によるとスリーブ本体12が筒状でよいため、スリーブ本体12を押出成形により製造することができ製造が容易となる。 好ましい一つの実施形態では、スリーブ固定部60は可燃性の樹脂材料からなり、火災等の熱により燃焼する。このため、スリーブ固定部60はコンクリートの敷設後もスリーブ10に装着したままでよい。別の好ましい実施形態では、スリーブ固定部60は硬質塩化ビニルを初めとする硬質樹脂から形成される。スリーブ固定部60を硬質樹脂から構成すると、スリーブ固定部60が装着されたスリーブ10の下端部には強度が付与され、コンクリート3の打設時の流し込まれたコンクリート3の圧力によるスリーブ10の変形を防止または抑制することができる。
【0092】
図11(a)および(b)ならびに
図12に示した実施形態において、このスリーブ固定部60の一端には、鉄筋Rが嵌め込まれるように形成されたクリップ部61が設けられている。クリップ部61は、略円筒の周面の一部を開口した略C字状の断面を有し、その内径が、嵌め込まれる鉄筋Rの外径よりもやや小さくなるように形成されている。なお、この実施形態ではクリップ部61の軸線C
1はスリーブ10(スリーブ本体12)の軸線C
2に対して垂直であるが、クリップ部61の軸線C
1はスリーブ10(スリーブ本体12)の軸線C
2に対して鋭角(例えば45°)をなしてもよい。クリップ部61の相対する開口端縁部には、鉄筋Rの嵌め込みを容易にするため、互いに拡幅方向に折り返された一対のガイドリップ部62が形成されている。クリップ部61にはアーム部63が連続して形成され、クリップ部61の側方に張り出している。アーム部63の断面は略十字状に形成されて、クリップ部61の剛性を強化する。アーム部63の先端は、スリーブ本体12と接続している。
【0093】
スリーブ固定部60のスリーブ10の長手方向に沿った位置は特に限定されないが、スリーブ固定部60をクリップ部61を介して鉄筋Rの任意の位置に装着することができる位置とする。スリーブ10の管長が長くなる場合には、スリーブ10の管長方向に離間して取り付けた2個以上のスリーブ固定部60によってスリーブ10を保持することも可能である。追加的にまたは代わりに、スリーブ10の周方向に2個以上のスリーブ固定部60が配置されていてもよい。本発明のスリーブ固定部60は、水平に配筋される鉄筋Rにも、垂直に配筋される鉄筋R(例えば梁のスターラップ)にも装着することができ、また不要な場合にはスリーブ固定部60をスリーブ本体12から切断することもできる。
【0094】
スリーブ固定部60を使用した貫通孔の施工方法は、以下の通りである。まず、梁または壁の型枠内に鉄筋を組み上げ、少なくとも一つの鉄筋Rにこのスリーブ固定具60のクリップ部61を装着し、スリーブ10の位置決めを行う。次いで、この型枠内にコンクリートを打設して、スリーブ固定部60を備えたままスリーブ10をコンクリート内に埋設固定する。コンクリートの硬化を待って脱型すれば、スリーブ10内に貫通孔が形成される。このようにスリーブ固定部60を利用することにより、特に工具を使用する必要もなく、簡単かつ精度良くスリーブ10を位置決めすることができる。
【0095】
・
図13(a)~(d)に示すように、熱膨張性の耐火樹脂材料を含有するスリーブ本体12を備えた スリーブ10に対し、スリーブ10の軸方向に沿って、非熱膨張性材料を含有するスリーブ70がさらに積み重ねられていてもよい。スリーブ70はスリーブ10の上、下、または上下両方のいずれに配置されてもよい。スリーブ70はスリーブ10と同様の構成をとり得るが、スリーブ10のスリーブ本体12が熱膨張性の耐火樹脂材料から形成されているのに対し、スリーブ70の中空のスリーブ本体72はスリーブ本体12とは異種材料の硬質塩化ビニル、金属を初めとする非熱膨張性材料から形成されている。好ましくは、スリーブ70は硬質塩化ビニル等の非熱膨張性の耐火樹脂材料から形成される。
【0096】
このタワー型の構成によれば、コンクリートの床の厚みが大きくなった場合でも、スリーブ10で足りない厚みの分をスリーブ70の積み重ねで調節することができる。硬質塩化ビニルから形成されたスリーブ70は熱膨張性材料から形成されたスリーブ10よりも安価であるため、一種類のスリーブ10を用いてスリーブ70で厚みを調節することによりスリーブ構造全体の厚みを調節し、コストを抑制しつつ、150mm,180mm, 210mmのように異なる厚みのコンクリートの打設にスリーブを適用することができる。
【0097】
図13(a)はスリーブ10の下にスリーブ70を積み重ねたスリーブ構造の実施形態である。下半分が非熱膨張性の耐火樹脂材料を含有するスリーブ70であることにより、スリーブ本体12の下側の開口部の強度を高めることができる。スリーブ70は環状の固定具20を備えていてもよい。
【0098】
図13(b)はスリーブ10の上にスリーブ70を積み重ねたスリーブ構造の実施形態である。上半分が非熱膨張性の耐火樹脂材料を含有するスリーブ70であることにより、スリーブ本体12の上側の開口部の強度を高めることができる。任意選択で、スリーブ10とスリーブ70との間にはスリーブ10およびスリーブ70を固定するための金属などから形成された1または複数の接続具73が架設されていてもよい。非熱膨張性の耐火樹脂材料を含有するスリーブ70の開口部には、開口部の形状を円形に保つ環状補強具79が装着されていてもよい。この実施形態では、環状補強具79はスリーブ10の内周面に嵌合する寸法を有する環状本体79aと、環状本体79aの内部に、環状本体79aの中心を通って径方向外側に延びる4つの部分からなる補強部材79bとを備えている。
【0099】
なお、環状補強具79は
図13(a)のように下半分にあるスリーブ70の開口部が設けられてもよく、この場合は、環状補強具79に取付部24が設けられていてもよい。環状補強具79はスリーブ10に設けてもよい。スリーブ10および/またはスリーブ70の上側の開口部または下側の開口部に環状補強具79を形成することで、開口部の強度を高め、搬送時や施工時の損傷または変形を防ぐことができる。開口部が円形の場合、環状補強具によって開口部が楕円形に変形することを防止できる。 さらに、
図13(b)に示すように、スリーブ10の下端部には熱膨張性または非熱膨張性の耐火樹脂材料から形成された固定具20が外挿、装着される。固定具20は
図1で説明したのと同様の1または複数(図では4つ)の取付部24を有し、各取付部24にはスリーブ10を型枠2、鉄筋R、またはコンクリート3等に固定するために針金等の金属線、ボルト、ビス、釘等の固定用部材を通すための孔26が設けられている。好ましくは、固定具20全体を硬質塩化ビニル等の硬質樹脂から形成すると、搬送時やコンクリート打設時のスリーブ10の損傷または変形を防ぐことができる。さらには、固定具20を火災による熱により燃焼させることもできる。
【0100】
接続具73の代わりに、
図13(c)に示すように、上側のスリーブ10は、下側のスリーブ70に嵌合するための縮径された嵌挿部74を備えていてもよい。スリーブ10の嵌挿部74の外径は、スリーブ70の本体の内径よりも小さいかまたはほぼ同一である。
図13(c)において、スリーブ10とスリーブ70は上下が逆の配置でもよい。代わりに、
図13(d)に示すように、下側のスリーブ
10は、上側のスリーブ
70に嵌合するための縮径された嵌挿部75を備えていてもよい。スリーブ
10の嵌挿部75の外径は、スリーブ
70の本体の内径よりも小さいかまたはほぼ同一である。
図13(d)において、スリーブ10とスリーブ70は上下が逆の配置でもよい。
【0101】
・
図14に示すように、スリーブ10は軸方向において上下対称であってもよい。つまり、スリーブは上端と下端の同じ位置に同じ数の取付部24を備えている。このような構成にすれば、作業者がスリーブ10の上下を誤って使用することが防止でき、スリーブ10を効率良く施工できる 。
【0102】
・
図15に示すように、スリーブ10の本体12には目盛り76が設けられていてもよい。目盛は1mm間隔、1cm間隔等、任意の間隔で付けられていてもよい。目盛り76は本体12に設けられた刻み目、凹み、凸部、マーカー、シール等の任意の表示であってよい。目盛り76の横にはさらに数値が付されていてもよい。また、本体12の代わりに、スリーブ10の縦方向に延びるリブ12aに目盛り76が設けられていてもよい。目盛り76を設けることで、コンクリート3を流し込む高さを確認、調整することができる 。
【0103】
・
図15に示すように、コンクリート3の打設作業前、最中、または後に、スリーブ10の開口部19にゴミ等が入るのを防ぐために、開口部19を覆う紙製等のカバー材77を被せてもよい 。カバー材77を紙で製造すれば、燃やして破棄することができる。カバー材77は、本実施形態では、スリーブ10の開口部に適合する略円形の形をしているが、矩形、不定形等の任意の形状であってもよい。
【0104】
・第1実施形態および第2実施形態のスリーブ10の複数の取付部24の代わりに、
図16に示すように、固定具として、スリーブ10の一端に設けられた矩形の取付部24としてもよい。このような構成とすることで、作業者には視覚的に取付部24および孔26の確認が容易となり、固定箇所の位置合わせが容易となる 。
【0105】
・
図17に示すように、スリーブ10の開口部19に、スリーブ本体12の内周面に沿って紙製の芯78をさらに設けてもよい。
このように環状、具体的には実施形態では中空円筒形の紙製の芯78を設けることで、コンクリート3の打設時のスリーブ10(特にはスリーブ本体12)の変形を防止することができる。芯78はコンクリート3の打設後に回収してもよいし、そのまま設置しておいて燃焼時に燃やして処分してもよい。また、芯78の高さをスリーブ10の高さよりも大きくすれば、芯78が設置されているかどうかを作業者が確認することができる 。
【0106】
・
図18に示すように、スリーブ10(スリーブ本体12)は、分解可能な複数の部品110a~dから構成されていてもよい。
図18に示された実施形態では部品110a~dは同じ形状の4つの部品であり、各部材には接続部材のうちの突出部110eとスロット110fとが設けられ、使用時には、隣り合う部品110a~dの突出部110eとスロット110fとが嵌合することにより組み立てられる。このような構成とすることで、スリーブ10の運搬または保管中には、スリーブ10は分解した状態で複数の部品10a~dにコンパクトに収納できるので場所をとらず、運搬や保管の効率が増大する 。
【0107】
・
図13に示すタワー型のスリーブ10の代わりに、床の高さの変更に対応するために、
図19(a)~(b)に示すように、スリーブ10がスリーブの軸方向に沿って伸縮可能な蛇腹部分82を備えた構成としてもよい。この例では、スリーブ10のスリーブ本体12が非伸縮性の端部80と、それに隣接する蛇腹部分82とを備え、
図19(a)の状態からスリーブ10の端部80に図面左方向に力を加えることで、蛇腹部分82が拡張し、
図19(b)の状態へスリーブ10を伸長させることができる。端部80を図面右方向に押し戻せばスリーブ10を収縮することができ、スリーブ10の全長を所望の床の厚みに応じて変更することができる。さらには、
図19(c)に示すように蛇腹部分82の一部または全部の周囲に、蛇腹部分82の外形に適合するねじ部83を備えた、樹脂等から形成された成形体84を設ければ、成形体84の周囲にコンクリート3が打設された後でも、成形体84に周囲を覆われた蛇腹部分4は
図19(d)に示される状態へとなお伸長可能であり、コンクリート3の打設後でもスリーブ10を伸縮させて、スリーブ10の全長を所望の床の厚みに応じて変更することができる 。
【0108】
・スリーブ10の少なくともスリーブ本体12の外周に、補強用の金属板等をさらに施してもよい。このようにすることで、コンクリート3の打設時のスリーブ10(特にはスリーブ本体12)の変形を防いだり、火災時にスリーブ10が熱膨張してもスリーブ10の強度を補強することができる。
【0109】
・スリーブ10および蓋部材30以外にも、耐火性を向上させるために、本発明の区画貫通構造には、任意の公知の耐火性充填材、耐火性樹脂組成物、耐火性シート、または耐火性金属板等をさらに用いてもよい。
【0110】
・スリーブ10と梁または壁の型枠との密着性を高めるために、スリーブ10の下端部を柔軟性のある材料より構成してもよい。または、スリーブ10と梁または壁の型枠との間に接着剤を用いてもよい 。また、同様の理由からスリーブ10の上端部を柔軟性のある材料より構成してもよい。
【0111】
・スリーブ10の外面を摩耗またはアルカリ溶液等の薬剤から保護するために、オレフィン樹脂または塩ビ樹脂等の樹脂、もしくは塗料等のコーティング材でコーティングしてもよい 。また、スリーブ10の内面を配管または配線5との接触による破損から保護するために、オレフィン樹脂または塩ビ樹脂等の樹脂、もしくは塗料等のコーティング材でコーティングしてもよい 。
【0112】
・
図20に示すように、スリーブ10を補強するためにスリーブ10の外側に、オレフィン樹脂または塩ビ樹脂等の可燃性の樹脂からなる外筒85を設けてもよい 。また、スリーブ10を補強するためにスリーブ10の内側に、オレフィン樹脂または塩ビ樹脂等の樹脂からなる内筒86を設けてもよい 。外筒85および内筒86は一体成型によりスリーブ10に設けてもよいし、別途作成した後、スリーブ10に差し込んでもよい。なお、外筒85および内筒86の両方が設けられていてもよいし、いずれか一方のみ設けられていてもよい。外筒85および内筒86の長さ(高さ)は特に限定されなれず、スリーブ10の長さの一部であってもよいし、スリーブ10と同じ長さであってもよい。なお、 外筒85および内筒86を構成する素材は非膨張性かつ可燃性の樹脂であることが好ましい。より好ましくは、外筒85および内筒86を構成する素材は硬質塩化ビニルなどの硬質樹脂である。外筒85および内筒86の少なくとも一方を設けることで、スリーブ10の強度が増大し、スリーブ10の搬送時またはコンクリート3の打設時のスリーブ10の変形を防止または抑制することができる。また、外筒85および内筒86を火災等の熱により燃焼する樹脂で構成することにより、火災等の熱により外筒85および/または内筒86は燃焼するためスリーブ10の膨張を妨げない点でも有利である。
【0113】
図21(a),(b)に示すように、熱膨張性の耐火樹脂材料から形成されたスリーブ10の上下に、オレフィン樹脂または塩ビ樹脂等の樹脂からなるスリーブ87およびスリーブ88を取り付けてもよい。スリーブ87および88を構成する素材は硬質塩化ビニルなどの硬質樹脂が好ましい。スリーブ10は区画貫通孔16を通じた火の延焼を防ぐために区画貫通孔16(
図3(b)参照)に配置される。スリーブ10は区画貫通孔16の長手方向の少なくとも一部に延びていればよい。スリーブ88の長さは床の厚さに応じて調節できる。スリーブ87および88の形状および寸法は同一であっても異なっていてもよいが、同一とするとスリーブ87および88の製造コストが低減されると共に、スリーブ10ならびにスリーブ87およびスリーブ88からなるスタック構造の製造が容易である。
【0114】
図21(b)に示すように、スリーブ87の下端部がスリーブ10の上端部に設けられた凹部に嵌合し、スリーブ88の上端部がスリーブ10の下端部に設けられた凹部に嵌合することによりスリーブ87および88がスリーブ10に対して取り付けられているが、代わりに、スリーブ87および88がスリーブ10に対して接着剤などの他の取付手段により取り付けられてもよい。配管または配線5をスタック構造に通す前に、スリーブ87の上端にはスリーブ87の上端の開口部を覆うように紙製のカバー材77を被せてもよい。上側のスリーブ87を設けることにより、搬送時や施工時のスリーブ10の変形を防ぐことができる。また、紙製のカバー材77により、スリーブ87内へ埃または塵等の侵入を防ぐと共に、スリーブ87の上端の開口部の変形を防ぐことができる。配管または配線5をスタック構造に通すときには紙製のカバー材77を外し、配管または配線5のスタック構造への挿通後、蓋部材30,35および40等の本発明の蓋部材を上側のスリーブ87の開口部に装着することができる。
【0115】
また、スリーブ87をスリーブ10とは視覚的に区別できるよう(例えば赤、黄、橙、青、緑などの色または蛍光等により)に構成すれば、防火区画処理を施してあることが確認できる。
【0116】
・第1および第2実施形態では、
図3(b)および
図5(b)でコンクリート3を打設する時にスリーブ10(スリーブ本体12)の高さと同程度までコンクリート3を流し込んでいるが、スリーブ10(スリーブ本体12)の上端部が視認できるように、コンクリート3をスリーブ10(スリーブ本体12)の高さよりも低い高さに敷設してもよい 。
【0117】
・第1および第2実施形態では、区画貫通孔16の断面が円形である場合を想定し、スリーブ10ならびに蓋部材30,35および40が断面円形である環状部材である実施形態を示しているが、区画貫通孔16の形状に適合させればよく、スリーブ10および蓋部材30,35および40は、断面略楕円形の環状部材としてもよいし、断面矩形の環状部材となるよう形成してもよい。
【0118】
・蓋部材は蓋部材30,35,40以外に、公知の市販の蓋部材、カバー部材、またはキャップを用いてもよい 。
【0119】
・蓋部材には、蓋部材を正面から見た場合、位置決め部(図示しないが蓋部材の開口部の中心に目印の交点が交わるように上下左右に4つの目印を設ける)が配置されていてもよい。このような構成とすることで、
図3(c)に示されるようにスリーブ10内に配管または配線5を配置する場合に、位置決め部がスリーブ10内における少ないズレでの配管または配線5の位置決めを支援する。これにより、配管または配線5はほぼズレたり傾いたりすることなくスリーブ10内の軸中心位置に配置(センタリング)される。
【0120】
・蓋部材を、非耐火性または耐火性の充填パテから形成してもよい。充填パテは変形可能であるため、配管または配線5の周囲に隙間がないように蓋部材を施すことができ、区画貫通孔16に複数の配線または配管5が挿通されている場合にも各配線または配管5の周囲を充填しつつ、配管または配線5の周囲でスリーブ10と配管または配線5との間の隙間を塞ぐことができる。また、充填パテは、施工のやり直しをすることができる点でも有利である 。
【0121】
・蓋部材30,35,40は、蓋部材を形成する樹脂に含まれる可塑剤が外に移行するのを防止したり、蓋部材30,35,40自体を破損から保護するために、オレフィン樹脂または塩ビ樹脂等の樹脂、もしくは塗料等のコーティング材でコーティングしてもよい 。また、蓋部材30,35,40と配管または配線5の接触による摩擦を低減させるために蓋部材30,35,40の内周面に丸みを持たせるか、潤滑性コーティングを施した滑り面としてもよい 。
【0122】
・
図10の支持部材50の代わりに、配管または配線5とスリーブ10との間を発泡性不燃ウレタン樹脂で埋めてもよい 。
【0123】
・スリーブ10および/または蓋部材30,35,40を構成する材料には、防カビ性、防虫性、断熱性、耐湿性等をさらに付与するために、公知の防カビ剤、防虫剤、断熱剤、耐湿剤等を配合してもよい 。
【0124】
・上記実施形態では、スリーブ10を床上から施工する例を説明したが、本発明のスリーブ10は床下から施工することも可能である 。
【0125】
・本発明のスリーブは、床下地(相対的にコンクリート打設の床材となる階下の床のみならず、天井床も含む)のみならず、側壁などの壁下地にも適用可能である。
【符号の説明】
【0126】
1・・・床下地、3…コンクリート、5…配管または配線、10…スリーブ、10a,10b,10c…位置決め部、12…スリーブ本体、12a,12b…リブ、14…フランジ部、16…区画貫通孔、17…スリーブの切れ目、20,60…スリーブ固定部材、24…取付部、26…孔、30,35,40…蓋部材、33…蓋部材の切れ目、50…支持部材、60…スリーブ固定部、70…非熱膨張性材料を含有するスリーブ、77…カバー材、78…紙製の芯、82…蛇腹部分、100…区画貫通構造、110a~d…スリーブの複数の部品。