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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】水晶発振器
(51)【国際特許分類】
   H03B 5/32 20060101AFI20220222BHJP
【FI】
H03B5/32 J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017058646
(22)【出願日】2017-03-24
(65)【公開番号】P2018164125
(43)【公開日】2018-10-18
【審査請求日】2020-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093104
【弁理士】
【氏名又は名称】船津 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】坂元 克明
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-063446(JP,A)
【文献】特開2000-252749(JP,A)
【文献】特開2005-341473(JP,A)
【文献】特開2007-028504(JP,A)
【文献】特開2015-046779(JP,A)
【文献】特開2015-076670(JP,A)
【文献】特開2016-171479(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B5/30-H03B5/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶振動子と発振用トランジスタとを有するコルピッツ発振回路を備えた水晶発振器であって、
前記水晶振動子において、前記発振用トランジスタに接続する側とは反対側に接続するバッファアンプ部と、
前記バッファアンプ部を介して出力信号を出力する出力端子と、
前記水晶振動子と前記バッファアンプ部との間に接続された出力結合コンデンサと、
前記水晶振動子と前記出力結合コンデンサとの間に一端が接続し、他端がグランドレベルに接続された抵抗素子とを備え、
前記抵抗素子のインピーダンス値は、前記水晶振動子の等価直列抵抗値の3倍以上で2000ohm以下であり、
前記出力結合コンデンサのインピーダンス値は、前記抵抗素子のインピーダンス値よりも小さく、前記出力結合コンデンサの容量値は100pF以上であることを特徴とする水晶発振器。
【請求項2】
コルピッツ回路によって形成される発振ループの負荷に応じて、発振用トランジスタの負性抵抗を前記発振ループを発振可能とする値としたことを特徴とする請求項1記載の水晶発振器。
【請求項3】
抵抗素子に直列に、前記抵抗素子よりもインピーダンス値の小さい調整用抵抗素子を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の水晶発振器。
【請求項4】
抵抗素子の代わりに、発振周波数におけるインピーダンス値が水晶振動子の等価直列抵抗値の3倍以上で2000ohm以下となるコンデンサを備えたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の水晶発振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コルピッツ回路を備えた水晶発振器に係り、特にフロアノイズとキャリア近傍ノイズを同時に改善でき、良好な位相雑音特性を備えた水晶発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
[先行技術の説明:図9
従来の水晶発振器として、一般的なコルピッツ発振器の構成について図9を用いて説明する。図9は、一般的なコルピッツ発振器の構成例を示す回路図である。
図9に示すように、従来の水晶発振器は、水晶振動子Xと、水晶振動子Xの発振周波数信号を増幅する発振用トランジスタTrとを備えている。
トランジスタTrのコレクタは電源端子1に接続され、エミッタは抵抗R14を介して接地されている。
【0003】
トランジスタTrのベースと水晶振動子Xとの間の点に、コンデンサC11の一端が接続され、コンデンサC11の他端にコンデンサC12の一端が接続され、その他端が接地されている。
そして、トランジスタTrのエミッタは、出力端子2に接続されると共に、コンデンサC11とC12の間の点に接続されている。
【0004】
また、トランジスタTrのベースに接続する水晶振動子Xの一端は、電源端子1とアースとの間に直列に接続されたバイアス用の抵抗R11とR12の接続点に接続されている。
水晶振動子Xの他端は、コンデンサC14を介して接地されている。
【0005】
更に、トランジスタTrのコレクタと電源端子1との間の点に、コンデンサC13の一端が接続され、他端が接地されている。
つまり、従来の水晶発振器は、トランジスタTr側から出力を取り出す構成である。
【0006】
[フロアノイズとキャリア近傍ノイズ:図10
一般に、従来の水晶発振器では、水晶振動子のドライブ電流を大きくすることにより、C/Nを改善してホワイトノイズ(フロアノイズ)の低ノイズ化を実現していた。
しかし、ドライブ電流を大きくすると、非線形歪の影響も大きくなるため、キャリア近傍ノイズは劣化してしまう。
【0007】
ここで、図9に示した従来の水晶発振器におけるフロアノイズとキャリア近傍ノイズの関係について図10を用いて説明する。図10は、従来の水晶発振器におけるフロアノイズとキャリア近傍ノイズの関係を示す説明図である。
図10では、水晶振動子のドライブ電流を変えた場合の位相雑音特性を示している。
【0008】
図10に示すように、水晶振動子のドライブ電流が小さい場合には、オフセット周波数の小さい領域に相当するキャリア近傍ノイズは低減できるものの、オフセット周波数の大きい領域に相当するフロアノイズは低減できない。
反対に、水晶振動子のドライブ電流が大きい場合には、フロアノイズは低減できるが、キャリア近傍ノイズは低減できない。
このように、フロアノイズとキャリア近傍ノイズはトレードオフの関係にある。
【0009】
[別の従来の水晶発振器(1):図11
そこで、信号歪を低減し、位相雑音の低減を図るために、水晶振動子とグランド端子との間に直列にインピーダンス素子を設け、それらの間から信号電圧を取り出す水晶発振器(別の従来の水晶発振器)が考案されている(特許文献1)。ここで、出力端子は、水晶振動子において、発振用トランジスタに接続される側とは反対側に設けられている。
【0010】
別の従来の水晶発振器について図11を用いて説明する。図11は、別の従来の水晶発振器の構成例を示す回路図である。
図11に示すように、別の従来の水晶発振器は、基本的な構成は図9に示した従来の水晶発振器と同様であるが、出力端子2の位置が異なっている。図9と同様の構成部分には同一の符号を付しており、説明は省略する。
別の従来の水晶発振器では、出力端子2は、水晶振動子Xにおいて、トランジスタTrに接続される側とは反対側に、抵抗R15を介して接続されている。
【0011】
このような構成において、出力信号を大きくする(C/N(Carrier to Noise Ratio)を向上させる)ためには、インピーダンス素子のインピーダンス値を大きくする必要がある。
しかし、インピーダンス値を大きくすると、発振回路の負荷が大きくなって回路Qが低下し、発振が不安定になる。
【0012】
特許文献1では、出力インピーダンス抵抗R15のインピーダンス値を小さくしているが、C/Nの改善はできないため、ホワイトノイズ(フロアノイズ)による位相雑音特性を低減することは困難となる。
【0013】
[別の従来の水晶発振器(2)]
また、更に別の従来の水晶発振器としては、出力部にベース接地回路を設ける構成がある(特許文献2、FIG.2参照)。
出力部にベース接地回路を設ける構成とすることにより、出力インピーダンスを小さくしても大きな出力信号を取り出すことができるものである。
しかしながら、この構成では、発振回路にアクティブ素子が追加されることにより、位相雑音特性が劣化してしまう。
【0014】
[位相雑音のモデル]
一般的に、発振器の回路特性から位相雑音特性を評価する方法として、Leesonのモデルがよく用いられる(非特許文献1参照)。
Leesonのモデルでは、式に含まれる回路Q(負荷Q)が大きいほど位相雑音特性が良好となることが示されている。
【0015】
[負荷抵抗と位相雑音]
負荷抵抗を水晶振動子に直列に追加すると、水晶振動子の負荷Qが劣化することは知られている。
しかしながら、このような追加抵抗を設けたとしても、発振ループとしての回路Qが劣化するとは限らない。
【0016】
つまり、インピーダンス素子は、発振ループ回路のQの定義として一般的に用いられる、周波数-位相傾斜の値には直接関係しない。このことは、大きなインピーダンス値を持つインピーダンス素子を回路ループに挿入しても、位相雑音の劣化には直接影響しないことを意味している(非特許文献2参照)。
【0017】
[関連技術]
尚、水晶発振器の位相雑音に関する従来技術として、実開昭58-173915号公報(キンセキ株式会社、特許文献1)、米国特許第4283691号明細書(特許文献2)、D.B.Leeson: “A simple model of feedback oscillator noise spectrum”,Proc.IEEE,Vol.54,pp.329-330(1966)(非特許文献1)、坂元他「複数の水晶振動子を用いた発振回路におけるキャリア近傍位相雑音の検討」,電気学会論文誌C,Vol.135,No.1,pp.12-17(2014)(非特許文献2)がある。
【0018】
非特許文献1には、増幅回路と共振器による閉ループ回路の位相雑音解析モデルが記載されている。
非特許文献2には、位相雑音特性の良し悪しを決定する回路Q(負荷Q)を、周波数-位相傾斜の値で決まる式で定式化することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】実開昭58-173915号公報
【文献】米国特許第4283691号明細書
【非特許文献】
【0020】
【文献】D.B.Leeson: “A simple model of feedback oscillator noise spectrum”,Proc.IEEE,Vol.54,pp.329-330(1966)
【文献】坂元他「複数の水晶振動子を用いた発振回路におけるキャリア近傍位相雑音の検討」,電気学会論文誌C,Vol.135,No.1,pp.12-17(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上述したように、従来の水晶発振器では、キャリア近傍ノイズとフロアノイズとがトレードオフの関係にあるため、両者を共に低減することはできず、位相雑音特性の良好な水晶発振器を実現することが困難であるという問題点があった。
【0022】
本発明は上記実状に鑑みて為されたもので、キャリア近傍ノイズとフロアノイズとを同時に低減し、位相雑音特性の良好な水晶発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、上記従来例の問題点を解決するための本発明は、水晶振動子と発振用トランジスタとを有するコルピッツ発振回路を備えた水晶発振器であって、水晶振動子において、発振用トランジスタに接続する側とは反対側に接続するバッファアンプ部と、バッファアンプ部を介して出力信号を出力する出力端子と、水晶振動子とバッファアンプ部との間に接続された出力結合コンデンサと、水晶振動子と出力結合コンデンサとの間に一端が接続し、他端がグランドレベルに接続された抵抗素子とを備え、抵抗素子のインピーダンス値は、水晶振動子の等価直列抵抗値の3倍以上で2000ohm以下であり、出力結合コンデンサのインピーダンス値は、抵抗素子のインピーダンス値よりも小さく、出力結合コンデンサの容量値は100pF以上であることを特徴としている。
【0025】
また、本発明は、上記水晶発振器において、コルピッツ回路によって形成される発振ループの負荷に応じて、発振用トランジスタの負性抵抗を発振ループを発振可能とする値としたことを特徴としている。
【0026】
また、本発明は、上記水晶発振器において、抵抗素子に直列に、前記抵抗素子よりもインピーダンス値の小さい調整用抵抗素子を備えたことを特徴としている。
【0027】
また、本発明は、上記水晶発振器において、抵抗素子の代わりに、発振周波数におけるインピーダンス値が水晶振動子の等価直列抵抗値の3倍以上で2000ohm以下となるコンデンサを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、水晶振動子と発振用トランジスタとを有するコルピッツ発振回路を備えた水晶発振器であって、水晶振動子において、発振用トランジスタに接続する側とは反対側に接続するバッファアンプ部と、バッファアンプ部を介して出力信号を出力する出力端子と、水晶振動子とバッファアンプ部との間に接続された出力結合コンデンサと、水晶振動子と出力結合コンデンサとの間に一端が接続し、他端がグランドレベルに接続された抵抗素子とを備え、抵抗素子のインピーダンス値は、水晶振動子の等価直列抵抗値の3倍以上で2000ohm以下であり、出力結合コンデンサのインピーダンス値は、抵抗素子のインピーダンス値よりも小さく、出力結合コンデンサの容量値は100pF以上である水晶発振器としているので、インピーダンス素子と出力結合コンデンサの作用により出力レベルを増大させてフロアノイズを低減すると共に、インピーダンス素子によって水晶ドライブ電流を抑えて非線形歪を抑制して、キャリア近傍ノイズを抑制でき、良好な位相雑音特性を得ることができる効果がある。
【0029】
また、本発明によれば、コルピッツ回路によって形成される発振ループの負荷に応じて、発振用トランジスタの負性抵抗を前記発振ループを発振可能とする値とした上記水晶発振器としているので、安定した発振動作を行うことができる効果がある。
【0030】
また、本発明によれば、抵抗素子に直列に、前記抵抗素子よりもインピーダンス値の小さい調整用抵抗素子を備えた上記水晶発振器としているので、出力インピーダンス値を適切に微調整することができ、最適な位相雑音特性とすることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本水晶発振器の構成を示す回路図である。
図2】本水晶発振器の水晶振動子のドライブ電流特性を示す説明図である。
図3】本水晶発振器のキャリア近傍ノイズ特性を示す説明図である。
図4】本水晶発振器の出力レベルの特性を示す説明図である。
図5】本水晶発振器のフロアノイズ特性を示す説明図である。
図6】出力結合コンデンサC4の容量値に対する本水晶振動子の出力特性を示す説明図である。
図7】出力結合コンデンサC4の容量値に対するフロアノイズ特性を示す説明図である。
図8】本水晶発振器において、調整用インピーダンス素子を設けた構成例を示す部分回路図である。
図9】一般的なコルピッツ発振器の構成例を示す回路図である。
図10】フロアノイズとキャリア近傍ノイズの関係を示す説明図である。
図11】別の従来の水晶発振器の構成例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[実施の形態の概要]
本発明の実施の形態に係る水晶発振器(本水晶発振器)は、コルピッツ発振回路を備え、水晶振動子の一端が発振用トランジスタに接続され、他端が出力結合コンデンサを介してバッファアンプ部に接続され、水晶振動子の他端と出力結合コンデンサとの間の点に出力インピーダンス素子の一端が接続され、他端が接地され、バッファアンプ部を介して出力信号を得る構成であり、出力インピーダンス素子のインピーダンス値は、水晶振動子の等価直列抵抗の3倍以上とすると共に、出力結合コンデンサのインピーダンス値は、出力インピーダンス素子のインピーダンス値よりも小さいものとしており、出力インピーダンス素子のインピーダンス値を十分大きくし、且つ出力結合コンデンサのインピーダンス値を小さくすることにより、出力レベルを増大させてフロアノイズを低減すると共に、水晶ドライブ電流を抑えて、キャリア近傍ノイズを抑制できるものである。
【0033】
[本水晶発振器の構成:図1
本水晶発振器の構成について図1を用いて説明する。図1は、本水晶発振器の構成を示す回路図である。
図1に示すように、本水晶発振器は、コルピッツ発振器であり、水晶振動子Xと、発振用トランジスタTr1と、増幅用トランジスタTr2とを備えている。増幅用トランジスタTr2は請求項におけるバッファアンプ部に相当している。
【0034】
発振用トランジスタTr1のコレクタは、抵抗R3を介して電源端子1に接続され、エミッタは、抵抗R4を介して接地されている。
また、直列接続の抵抗R1とR2が発振用トランジスタTr1に並列に設けられ、発振用トランジスタTr1のベースが、抵抗R1とR2の間の点に接続され、更に水晶振動子Xの一端に接続されている。
【0035】
また、抵抗R2に並列に、直列接続のコンデンサC1とC2が接続され、発振用トランジスタTr1のエミッタが、直列接続のコンデンサC3及びコイルL1を介して、コンデンサC1とC2の間の点に接続されている。
【0036】
本水晶発振器の特徴として、水晶振動子Xの他端とグランドレベルとの間に、出力インピーダンス素子R10が直列に接続されている。
後述するように、出力インピーダンス素子R10のインピーダンス値は、水晶振動子の等価抵抗の3倍以上としている点が特徴となっている。
そして、水晶振動子Xの他端と出力インピーダンス素子R10の間の点が、出力結合コンデンサC4を介して増幅用トランジスタTr2のベースに接続されている。
【0037】
増幅用トランジスタTr2のコレクタには電源端子1が接続され、コレクタと電源端子1との間に、トランス10とコンデンサC5の並列回路が接続されている。トランス10の出力側には出力端子2が設けられている。
増幅用トランジスタTr2のエミッタは、抵抗R7を介して接地されている。
更に、抵抗R5とR6の直列回路が増幅用トランジスタTr2に並列に接続され、抵抗R5とR6の間の点が、増幅用トランジスタTr2のベースに接続されている。
【0038】
つまり、本水晶発振器は、水晶振動子Xの、発振用トランジスタTr1に接続されていない側とグランド端子との間に、大きなインピーダンス値を持つ出力インピーダンス素子R10を設け、水晶振動子Xと出力インピーダンス素子R10との間から、出力結合コンデンサC4及びバッファアンプ部である増幅用トランジスタTr2を介して出力信号を取り出す構成である。
【0039】
[出力インピーダンス素子]
出力インピーダンス素子R10は、発振ループの中に含まれるため、出力信号電圧を生み出すインピーダンスとしてだけではなく、発振ループの負荷と見ることもできる。
一般的には、発振ループの負荷が大きくなると、位相雑音特性に悪影響を及ぼすことが知られているが、上述したように、インピーダンス素子は発振ループ回路のQを直接劣化させるものではない。
【0040】
そこで、本水晶発振器では、出力インピーダンス素子R10のインピーダンス値を、水晶振動子の等価直列抵抗の3倍以上となるよう十分大きい値として、大きな出力信号電圧を得られるようにしている。
出力信号電圧を増大させることにより、C/Nを向上させ、フロアノイズを改善させることができるものである。
【0041】
更に、出力インピーダンス素子R10は、発振ループの負荷としての機能により、水晶振動子Xのドライブ電流を低減して、水晶電流過多による水晶振動子Xの非線形歪を抑制することができる。
【0042】
つまり、本水晶発振器では、出力インピーダンス素子R10を、単なる出力インピーダンスとしてだけでなく、非線形歪抑制素子としても利用して、水晶振動子Xのドライブ電流(水晶電流)を低減させ、非線形歪みを抑制することにより、キャリア近傍ノイズの改善を図るものである。
【0043】
また、出力インピーダンス素子R10の代わりに、コンデンサ等のリアクタンス素子を用いることも可能であるが、発振周波数でのインピーダンス値が、水晶振動子Xの等価直列抵抗値の3倍以上のものを用いる必要がある。
【0044】
[出力結合コンデンサ]
出力結合コンデンサC4は、発振回路部とバッファアンプ部(増幅用トランジスタTr2)との電気的結合の強さを調整する素子である。
一般的には、出力結合コンデンサのインピーダンスを小さくすると(容量値を大きくすると)、発振部とバッファアンプ部との結合が強くなる。
これによって出力レベルが大きくなるものである。
【0045】
つまり、本水晶発振器では、出力インピーダンス素子R10に加えて、出力結合コンデンサC4の作用によっても出力レベルの増大を図り、フロアノイズを低減するものである。
本水晶発振器では、出力結合コンデンサC4として、出力インピーダンス素子R10のインピーダンス値よりも小さいインピーダンス値となるものを用いている。これは、増幅用トランジスタTr2を適正に動作させるためである。
【0046】
[出力インピーダンス素子による本水晶発振器の特性:図2図5
本水晶発振器において、出力インピーダンス素子R10の抵抗値を可変した場合の各種特性について説明する。
[水晶電流特性:図2
図2は、本水晶発振器の水晶振動子のドライブ電流特性を示す説明図である。
図2に示すように、出力インピーダンス値の増加に伴い、水晶振動子のドライブ電流は低減している。
【0047】
[キャリア近傍ノイズ特性:図3
図3は、本水晶発振器のキャリア近傍ノイズ特性を示す説明図である。
図3に示すように、出力インピーダンス値が増加すると、図2に示した水晶電流の低減に伴って、キャリア近傍ノイズが大幅に低減することがわかる。
【0048】
[出力特性:図4
図4は、本水晶発振器の出力レベルの特性を示す説明図である。
図4に示すように、出力インピーダンス値が増加すると、出力レベルが増大している。
【0049】
[フロアノイズ特性:図5
図5は、本水晶発振器のフロアノイズ特性を示す説明図である。
図5に示すように、出力インピーダンス値が増加すると、図4に示した出力レベルの増大に伴って、フロアノイズが低減している。
【0050】
つまり、図3及び図5に示したように、本水晶発振器では、出力インピーダンス値が大きい(例えば1500ohm以上の)領域において、キャリア近傍ノイズとフロアノイズの両方が十分に低減されていることがわかる。
【0051】
このように、キャリア近傍ノイズとフロアノイズを同時に改善する特性は、従来の回路構成では見られなかった特性であり、本水晶発振器の位相雑音特性が極めて良好となることを示している。
尚、図2図5で示したように、小さなインピーダンス値の出力インピーダンス素子を設けた場合には、キャリア近傍ノイズ及びフロアノイズを改善する効果は十分ではない。
【0052】
[出力結合コンデンサによる本水晶発振器の特性:図6図7
出力結合コンデンサC4の容量値(インピーダンス値)を変えた場合の各種特性について説明する。
[出力特性:図6
図6は、出力結合コンデンサC4の容量値に対する本水晶振動子の出力特性を示す説明図である。
図6に示すように、出力結合コンデンサC4の容量値が増大すると(インピーダンス値が小さくなると)、出力レベルが増大する。尚、容量値が100pFを超えると、出力レベルはほぼ横ばいとなる。
【0053】
[フロアノイズ特性:図7
図7は、出力結合コンデンサC4の容量値に対するフロアノイズ特性を示す説明図である。図では、オフセット周波数10kHzにおける位相雑音を示している。
一般的には、フロアノイズは出力結合コンデンサの値に大きく依存しないものとされているが、本水晶発振器においては、図7に示すように、出力結合コンデンサC4の容量値が増大すると(インピーダンス値が小さくなると)フロアノイズが低減している。
【0054】
本水晶発振器では、バッファアンプ部となる増幅用トランジスタTr2も発振ループの一部として機能しており、出力結合コンデンサC4は発振回路部とバッファアンプ部との結合の強さを調整するだけでなく、発振ループ内のインピーダンス特性にも影響を与えているためであると考えられる。
【0055】
つまり、本水晶発振器では、図2~5に示した出力インピーダンス素子R10の作用に加えて、出力結合コンデンサC4による出力レベル増大の作用によって、フロアノイズを大幅に低減することができるものである。
【0056】
そして、図2図7に示した特性を考慮すると、本水晶発振器においては、出力インピーダンス素子R10のインピーダンス値を大きくすると共に、出力結合コンデンサC4のインピーダンス値を小さくすれば、位相雑音特性を効果的に改善することができることがわかる。
【0057】
本水晶発振器では、出力結合コンデンサC4のインピーダンス値は、出力インピーダンス素子R10のインピーダンス値(水晶振動子Xの等価直列抵抗値の3倍以上)よりも小さくしており、特に、容量値を100pF以上とすることが望ましい。
【0058】
更に、上述した出力インピーダンス素子R10の水晶ドライブ電流低減の作用によってキャリア近傍ノイズを抑制することができるため、本水晶発振器では、フロアノイズとキャリアキャリア近傍ノイズを共に改善して、良好な位相雑音特性とすることができるものである。
【0059】
[発振条件]
本水晶発振器では、水晶振動子Xの等価直列抵抗値の3倍以上のインピーダンス値を備えた出力インピーダンス素子R10を発振ループ内に設けているため、発振ループが余裕を持って発振条件を満たすようにするためには、それに見合う負性抵抗を備えなければならない。
具体的には、十分な負性抵抗が得られるように発振用トランジスタTr1を選択する必要があるが、その一方で、アクティブ素子であるトランジスタからはノイズが発生して位相雑音特性が劣化する。
【0060】
そこで、出力インピーダンス素子R10による水晶電流低減の効果と、発振用トランジスタTr1によるノイズ発生とを勘案して、発振用トランジスタTr1を適切に選択すると共に、出力インピーダンス素子R10のインピーダンス値を適切に調整する。
【0061】
これにより、本水晶発振器は、安定した発振動作を行うと共に、アクティブ素子からのノイズをできるだけ抑制しつつ、十分に水晶電流を低減して、位相雑音特性を最適化することができるものとしている。
【0062】
[調整用インピーダンス素子:図8
出力インピーダンスのインピーダンス値を調整するための構成について図8を用いて説明する。図8は、本水晶発振器において、調整用インピーダンス素子を設けた構成例を示す部分回路図である。
図8では、図1に示した本水晶発振器において、出力インピーダンス素子R10に直列に、調整用インピーダンス素子R20を設けた構成を示している。調整用インピーダンス素子R20以外の構成部分は図1と同様であり、ここでは図示を省略している。
【0063】
出力インピーダンス素子R10は、基準となるインピーダンス値(水晶振動子Xの等価直列抵抗値の3倍以上)を備えたものであり、調整用インピーダンス素子R20は、それよりも小さなインピーダンス値を備えたインピーダンス素子である。
調整用インピーダンス素子R20として、可変抵抗器などの可変インピーダンス素子を配置することにより、出力インピーダンス値の微調整が可能となるものである。
【0064】
[実施の形態の効果]
本発明の実施の形態に係る水晶発振器によれば、コルピッツ発振回路を備え、水晶振動子Xの一端が発振用トランジスタTr1のベースに接続され、他端が出力インピーダンス素子R10を介して接地され、水晶振動子Xの他端と出力インピーダンス素子R10との間に、出力結合コンデンサC4を介してバッファアンプ部となる増幅用トランジスタTr2が接続され、増幅用トランジスタTr2を介して出力信号を得る構成であり、出力インピーダンス素子R10のインピーダンス値は、水晶振動子Xの等価直列抵抗の3倍以上とすると共に、出力結合コンデンサC4のインピーダンス値を出力インピーダンス素子R10のインピーダンス値よりも小さいものとしており、出力インピーダンス素子R10のインピーダンス値を十分大きくし、出力結合コンデンサC4のインピーダンス値を十分小さくすることにより、出力レベルを増大させてフロアノイズを低減すると共に、発振ループ内の負荷とすることで水晶ドライブ電流を抑えて、キャリア近傍ノイズを抑制でき、フロアノイズとキャリア近傍ノイズを同時に改善して、良好な位相雑音特性とすることができる効果がある。
【0065】
また、本水晶発振器によれば、発振ループ内の負荷となる出力インピーダンス素子R10のインピーダンス値に応じて、十分な負性抵抗を備える発振用トランジスタTr1を設けているので、発振ループを安定して発振させることができる効果がある。
【0066】
また、本水晶発振器によれば、出力インピーダンス素子R10に直列に、インピーダンス値が小さい調整用インピーダンス素子R20を設けているので、出力インピーダンス値を適切に微調整することができ、最適な位相雑音特性とすることができる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、特にフロアノイズとキャリア近傍ノイズを同時に改善でき、良好な位相雑音特性を備えた水晶発振器に適している。
【符号の説明】
【0068】
1…電源端子、 2…出力端子、 10…トランス、 X…水晶振動子、 Tr,Tr1…発振用トランジスタ、 Tr2…増幅用トランジスタ、 R10…出力インピーダンス素子、 R20…調整用インピーダンス素子、 R1,R2,R3,R4,R5,R6,R7,R11,R12,R14,R15…抵抗、 C4…出力結合コンデンサ、 C1,C2,C3,C5,C11,C12,C13,C14…コンデンサ、 L1…コイル
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