(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】押出発泡用スチレン系樹脂組成物、発泡シート、容器、および板状発泡体
(51)【国際特許分類】
C08J 9/12 20060101AFI20220222BHJP
B65D 1/00 20060101ALI20220222BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20220222BHJP
B29K 25/00 20060101ALN20220222BHJP
【FI】
C08J9/12 CET
B65D1/00 110
B29C44/00 E
B29K25:00
(21)【出願番号】P 2017166709
(22)【出願日】2017-08-31
【審査請求日】2020-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】399051593
【氏名又は名称】東洋スチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】山口 泰生
(72)【発明者】
【氏名】好岡 和広
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-033268(JP,A)
【文献】特開2009-029871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/12
B65D 1/00
B29C 44/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂(A)及び、下記の一般式(1)で表されるビスアミド化合物(B)を含むスチレン系樹脂組成物であって、スチレン系樹脂組成物100質量%に対して、ビスアミド化合物(B)を0.01~10質量%含
み、
前記スチレン系樹脂(A)のZ平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)が1.5~3.5である、
押出発泡用スチレン系樹脂組成物。
【化1】
[但し、式中R
1、R
2は、同一または異なって、それぞれ炭素数1~24のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ヒドロキシアルキル基であり、nは1~6の整数である。]
【請求項2】
前記ビスアミド化合物(B)の含有量が0.03~2.5質量%である、請求項1に記載の押出発泡用スチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記ビスアミド化合物(B)の含有量が0.04~0.6質量%である、請求項1又は請求項2に記載の押出発泡用スチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
スチレン系樹脂組成物100質量%に対して、脂肪酸金属塩(C)の含有量が0~0.1質量%である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の押出発泡用スチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
脂肪酸金属塩(C)の含有量/ビスアミド化合物(B)の質量比が0.6以下である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の押出発泡用スチレン系樹脂組成物。
【請求項6】
R
1、R
2は、それぞれ炭素数1~22である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の押出発泡用スチレン系樹脂組成物。
【請求項7】
R
1、R
2は、それぞれ炭素数6~22である、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の押出発泡用スチレン系樹脂組成物。
【請求項8】
スチレン系樹脂(A)のメタノール可溶分が0.2~3.0質量%である、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の押出発泡用スチレン系樹脂組成物。
【請求項9】
スチレン系樹脂(A)の重量平均分子量が10万~70万である、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の押出発泡用スチレン系樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~請求項
9のいずれか1項に記載の押出発泡用スチレン系樹脂組成物を成形してなる、発泡シート。
【請求項11】
請求項
10に記載の発泡シートを成形してなる容器。
【請求項12】
請求項1~請求項
9のいずれか1項に記載の押出発泡用スチレン系樹脂組成物を成形してなる、板状発泡体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高発泡倍率、且つ微細な気泡セルを有し、表面平滑性に優れた押出発泡シート、板状発泡体が得られる、スチレン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂の押出発泡シートは、軽量性、剛性、成形性に優れるため、食料品トレー、弁当箱、即席麺容器、納豆容器、カップ等の食品包装容器に広く使用されている。また、スチレン系樹脂の板状押出発泡体は、優れた断熱性及び機械的強度を有することから、一般建築物等の床材や壁材、天井材、畳の心材など様々な分野で使用されている。
【0003】
押出発泡シートや板状押出発泡体の外観や断熱性、強度を向上させる方法として、気泡セルの微細化が有効であり、一般的には、タルクや、炭酸カルシウム等の無機微粒子を発泡核剤として、気泡セルを調整することが多い。
【0004】
また、発泡剤として二酸化炭素や窒素を超臨界状態で熱可塑性樹脂に含浸させ、臨界圧力以上の圧力から大気圧に急減圧させることで気泡核を生成した後、冷却工程で気泡の成長を制御することによって、微細な気泡セルを得る方法が開示されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-175249号公報
【文献】米国特許4473665号公報
【文献】米国特許5158986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の従来技術では、押出発泡体の気泡セルを十分に微細化させることができなかった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、押出発泡体の気泡セルの微細化が可能な押出発泡用スチレン系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、下記(1)~(13)に示すところである。
(1)スチレン系樹脂(A)及び、下記の一般式(1)で表されるビスアミド化合物(B)を含むスチレン系樹脂組成物であって、スチレン系樹脂組成物100質量%に対して、ビスアミド化合物(B)を0.01~10質量%含む、押出発泡用スチレン系樹脂組成物。
【化1】
[但し、式中R
1、R
2は、同一または異なって、それぞれ炭素数1~24のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ヒドロキシアルキル基であり、nは1~6の整数である。]
【0008】
(2)前記ビスアミド化合物(B)の含有量が0.03~2.5質量%である、前記(1)に記載の押出発泡用スチレン系樹脂組成物。
(3)前記ビスアミド化合物(B)の含有量が0.04~0.6質量%である、前記(1)又は(2)に記載の押出発泡用スチレン系樹脂組成物。
(4)スチレン系樹脂組成物100質量%に対して、脂肪酸金属塩(C)の含有量が0~0.1質量%である、前記(1)~(3)のいずれか1項に記載の押出発泡用スチレン系樹脂組成物。
(5)脂肪酸金属塩(C)の含有量/ビスアミド化合物(B)の質量比が0.6以下である、前記(1)~(4)のいずれか1項に記載の押出発泡用スチレン系樹脂組成物。
(6)R1、R2は、それぞれ炭素数1~22である、前記(1)~(5)のいずれか1項に記載の押出発泡用スチレン系樹脂組成物。
(7)R1、R2は、それぞれ炭素数16~22である、前記(1)~(6)のいずれか1項に記載の押出発泡用スチレン系樹脂組成物。
(8)スチレン系樹脂(A)のメタノール可溶分が0.2~3.0質量%である、前記(1)~(7)のいずれか1項に記載の押出発泡用スチレン系樹脂組成物。
(9)スチレン系樹脂(A)の重量平均分子量が10万~70万である、前記(1)~(8)のいずれか1項に記載の押出発泡用スチレン系樹脂組成物。
(10)スチレン系樹脂(A)のZ平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)が1.5~3.5である、前記(1)~(9)のいずれか1項に記載の押出発泡用スチレン系樹脂組成物。
(11)前記(1)~(10)のいずれか1項に記載の押出発泡用スチレン系樹脂組成物を成形してなる、発泡シート。
(12)前記(11)に記載の発泡シートを成形してなる容器。
(13)前記(1)~(10)のいずれか1項に記載の押出発泡用スチレン系樹脂組成物を成形してなる、板状発泡体。
【発明の効果】
【0009】
本発明の押出発泡用スチレン系樹脂組成物を用いることで、押出発泡体の気泡セルを微細化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例5について得られた透過型電子顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
<スチレン系樹脂組成物>
本発明のスチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂(A)及びビスアミド化合物(B)を含み、脂肪酸金属塩(C)や無機微粒子(D)などの成分を含んでもよい。各成分の詳細は後述する。
【0013】
本発明のスチレン系樹脂組成物の200℃、49N荷重の条件にて測定したメルトマスフローレート(MFR)は、0.1~30g/10分が好ましく、0.5~25g/10分であることが更に好ましく、1~15g/10分であることが更に好ましい。メルトマスフローレート(MFR)が0.1g/10分未満では、押出発泡体の生産性が悪化し、30g/10分を超えると、発泡剤の量を増やした際に、ダイス内の圧力を高く維持することが難しくなり、発泡倍率が上がらない場合がある。
【0014】
本発明のスチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度は93~130℃が好ましく、更に好ましくは95~125℃であり、更に好ましくは100~110℃である。ビカット軟化温度が93℃未満の場合、押出発泡体の耐熱性が不十分となり、ビカット軟化温度が130℃を超える場合、押出発泡体の成形加工性が低下する。
【0015】
本発明のスチレン系樹脂組成物のシャルピー衝撃強度は、1.2kJ/m2以上が好ましく、更に好ましくは1.4kJ/m2以上であり、更に好ましくは1.6kJ/m2以上である。シャルピー衝撃強度が1.2kJ/m2未満の場合、押出発泡体の耐衝撃性が不十分となる。シャルピー衝撃強度の上限は、特に規定されないが、例えば、2.5kJ/m2である。
【0016】
<スチレン系樹脂(A)>
本発明のスチレン系樹脂(A)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)が10万~70万であることが好ましく、15万~60万であることが更に好ましい。Mwが10万未満では押出発泡体の強度が低下し、Mwが70万を超える場合には流動性が低下するため好ましくない。スチレン系樹脂(A)のMwは、重合工程の反応温度、滞留時間、重合開始剤の種類及び添加量、連鎖移動剤の種類及び添加量、重合時に使用する溶媒の種類及び量によって調整することができる。
【0017】
本発明のスチレン系樹脂(A)は、Z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)が1.5~3.5であることが好ましく、1.7~3.0であることが更に好ましい。Z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)が1.5未満では、発泡倍率が低下する場合があり、(Mz/Mw)が3.5を超える場合には、押出発泡体の成形加工性が悪化する。
【0018】
本発明のスチレン系樹脂(A)のメタノール可溶分は0.2~3.0質量%であることが好ましく、0.3~2.5質量%であることがより好ましく、0.4~2.0質量%であることが特に好ましい。メタノール可溶分が0.2質量%未満であると、押出発泡体の成形性が低下する場合がある。またメタノール可溶分が3.0質量%を超えると、発泡体の強度や耐熱性が低下する場合がある。ここでいうメタノール可溶分とは、スチレン系樹脂中のメタノールに可溶な成分を指し、例えばスチレン系樹脂の重合工程や脱揮工程で副生成するスチレンオリゴマー(スチレンダイマー、スチレントリマー)の他に、流動パラフィンやシリコンオイル等の各種添加剤や残存スチレンモノマー、及び重合溶媒等の低分子量成分が含まれる。メタノール可溶分を調整する方法としては、開始剤の種類や量によって重合工程で副生成するスチレンオリゴマー(スチレンダイマー、スチレントリマー)の発生量を調整する方法や、流動パラフィン、シリコンオイルの添加量によって調整する方法等が挙げられる。
【0019】
本発明のスチレン系樹脂(A)は原料としてスチレンモノマーを必須成分(必須の含有成分)とするが、スチレンの単独重合体の他に、スチレンと共重合可能なビニル系モノマーを50質量%以下の割合で含んでいても良い。ビニル系モノマーの例としてはαメチルスチレンやp-メチルスチレン等の置換スチレンやアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル等のアクリル系モノマー、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系モノマー、無水マレイン酸等が挙げられる。
【0020】
本発明のスチレン系樹脂(A)の重合方法としては塊状重合法、溶液重合、懸濁重合法等の公知のスチレン重合法が挙げられる。また、溶媒として例えばベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、及びキシレン等のアルキルベンゼン類やアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ヘキサンやシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素等が使用できる。反応器の様式としては、完全混合型反応器、プラグフロー反応器、ループ型反応器等を組み合わせた連続重合方式が好適に用いられる。
【0021】
本発明のスチレン系樹脂(A)を製造する際には、重合反応の制御の観点から、必要に応じて重合溶媒、有機過酸化物等の重合開始剤や脂肪族メルカプタン等の連鎖移動剤を使用することができる。
【0022】
重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が好ましく、公知慣用の例えば、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ジ(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1-ジ(t-アミルパーオキシ)シクロヘキサン等のパーオキシケタール類、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、t-ブチルパーオキシアセテート、t-アミルパーオキシイソノナノエート等のアルキルパーオキサイド類、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート等のパーオキシエステル類、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ポリエーテルテトラキス(t-ブチルパーオキシカーボネート)等のパーオキシカーボネート類、N,N'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、N,N'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、N,N'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、N,N'-アゾビス[2-(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]等が挙げられ、これらの1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
連鎖移動剤としては、例えば、脂肪族メルカプタン、芳香族メルカプタン、ペンタフェニルエタン、α-メチルスチレンダイマー及びテルピノーレン等の単官能連鎖移動剤や、エチレングリコール、テトラエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコール水酸基をチオグリコール酸、またはメルカプトプロピオン酸でエステル化した多官能メルカプタン類等の多官能連鎖移動剤が挙げられ、これらの1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
<ビスアミド化合物(B)>
本発明のビスアミド化合物(B)は、下記の一般式(1)で表される。
【化1】
【0025】
但し、式中R1、R2は、同一または異なって、それぞれ炭素数1~24のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ヒドロキシアルキル基であり、nは1~6の整数である。
【0026】
nは1~5の整数であることが好ましく、1~4の整数であることがさらに好ましく、1~3の整数であることがさらに好ましく、2であることがさらに好ましい。
【0027】
R1、R2の炭素数は、1~22であることが好ましく、6~22であることがさらに好ましく、10~22であることがさらに好ましく、13~19であることがさらに好ましく、16~18であることがさらに好ましい。
【0028】
上記一般式(1)のビスアミド化合物(B)の具体例としては、メチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスべヘン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスべヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド等の脂肪酸ビスアミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスアジピン酸アミド等の不飽和脂肪酸アミドが挙げられ、これらの1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。また、N,N´―ジステアリルアジピン酸アミド、N,N´―ジステアリルセバシン酸アミド、N,N´―ジオレイルアジピン酸アミド、N,N´―ジオレイルセバシン酸アミド等の別のビスアミド化合物を併用することもできる。
【0029】
ビスアミド化合物(B)は、スチレン系樹脂組成物100質量%に対して、0.01~10質量%であり、0.02~8質量%であることが好ましく、0.03~6質量%であることが更に好ましく、0.03~2.5質量%であることが更に好ましく、0.04~0.6質量%であることが更に好ましく、0.05~0.5質量%であることが更に好ましい。ビスアミド化合物(B)が0.01質量%未満の場合、発泡体の気泡セルの微細化効果が得られない。また、ビスアミド化合物(B)が10質量%を超える場合、強度や発泡体の発泡倍率、耐熱性が低下するため、好ましくない。
【0030】
本発明の効果を得るためには、スチレン系樹脂組成物中に、ビスアミド化合物(B)が粒子状に分散していることが好ましい。ビスアミド化合物(B)の分散粒子は、例えば、透過型電子顕微鏡により観察することができ、分散粒子の重量平均円相当粒子径は、好ましくは1~1000nmである。ビスアミド化合物(B)の分散粒子は、発泡体の気泡形成における造核剤として作用していると考えられ、分散粒子の重量平均円相当粒子径が1~1000nmである場合に、発泡体の気泡セルの微細化効果が特に効果的に発揮される。ビスアミド化合物(B)の分散粒子の重量平均円相当粒子径を調整する方法としては、ビスアミド化合物(B)を含むスチレン系樹脂組成物を、ビスアミド化合物(B)の融点以上で溶融し、室温まで冷却する過程において、冷却速度により調整する方法が有効である。冷却速度を上げれば、分散粒子の粗大化を抑えることができるため、分散粒子は小さくなり、逆に、冷却速度を下げれば、分散粒子を大きくすることができる。
【0031】
<脂肪酸金属塩(C)>
本発明の脂肪酸金属塩(C)は、化学式R3-COOH(式中のR3は炭素数7~21のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ヒドロキシアルキル基)で表される高級脂肪酸の金属塩を指し、具体的には、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、オレイン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウム、ヒドロキシステアリン酸亜鉛、ヒドロキシステアリン酸アルミニウム、べヘン酸亜鉛、べヘン酸カルシウム、モンタン酸カルシウム等が挙げられる。
【0032】
本発明のスチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂組成物100質量%に対して、脂肪酸金属塩(C)の含有量が0~0.1質量%であることが好ましい。脂肪酸金属塩(C)の含有量は、0~0.05質量%であることが好ましく、脂肪酸金属塩(C)を含まないことがより好ましい。脂肪酸金属塩(C)の含有量が0.1質量%を超える場合、発泡体のセル径の微細化効果が劣る場合がある。脂肪酸金属塩(C)により、ビスアミド化合物(B)の微粒子形成が抑制されるためと考えられる。別の表現では、脂肪酸金属塩(C)の含有量/ビスアミド化合物(B)の質量比が0.6以下であることが好ましく、0.5以下であることがさらに好ましく、0.4以下であることがさらに好ましく、0.3以下であることがさらに好ましい。ビスアミド化合物(B)の含有量が比較的多い場合は、脂肪酸金属塩(C)の含有量が0.1質量%を超えても微細化効果が発揮される場合があるが、その場合、上記質量比を0.6以下にすることによって微細化効果がより効果的に発揮される。脂肪酸金属塩(C)の含有量が0~0.1質量%であり、且つ、脂肪酸金属塩(C)の含有量/ビスアミド化合物(B)の質量比が0.6以下であることがさらに好ましい。
【0033】
<無機微粒子(D)>
本発明の無機微粒子(D)は、無機化合物の微粒子であり、タルク、炭酸カルシウム、クレー等が例示される。スチレン系樹脂組成物が無機微粒子(D)を含むと、無機微粒子(D)が造核剤として機能してセル径の微細化効果が特に高くなる。
【0034】
無機微粒子(D)の平均粒子径は、例えば、0.1~100μmであり、0.5~30μmが好ましく、1~20μmがさらに好ましく、5~15μmがさらに好ましい。無機微粒子(D)の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
【0035】
スチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂組成物100質量%に対して、無機微粒子(D)の含有量は、0.01~10質量%であることが好ましく、0.02~5質量%がさらに好ましく、0.05~1質量%がさらに好ましく、0.1~0.5質量%がさらに好ましい。
<その他添加剤>
本発明のスチレン系樹脂組成物には、添加剤として、リン系、フェノール系、アミン系等の酸化防止剤、流動パラフィン、シリコーンオイル、ポリエチレンワックス等の可塑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、着色剤、顔料、消臭剤、防曇剤等を必要に応じて添加する事ができる。
【0036】
<スチレン系樹脂組成物の製造方法>
本発明のスチレン系樹脂組成物の製造方法については、特に制限されるものではなく、公知のブレンド方法を用いることができる。例えば、タンブラーやヘンシェルミキサー、ホッパーブレンダ―等でドライブレンドし、単軸スクリュー押出機、2軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、バンバリーミキサー、ニーダー等で溶融コンパウンドする方法が挙げられ、ビスアミド化合物(B)を所定の配合量より多く調整したマスターバッチをあらかじめ作成しておき、発泡体の製造時にスチレン系樹脂(A)とブレンドする方法や、ビスアミド化合物(B)をスチレン系樹脂(A)のペレット表面に付着させ添加する方法も採用することもできる。
【0037】
本発明のスチレン系樹脂組成物には、耐熱性や強度、耐油性を上げる目的で、別の熱可塑性樹脂やゴム補強材を本発明の効果を損なわない範囲で配合する事ができる。
【0038】
熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリL-乳酸、ポリD-乳酸、ポリD、L-乳酸等の脂肪族ポリエステル系樹脂等が挙げられ、これら1種若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
ゴム補強材の具体例としては、天然ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリクロロプレン、ポリスルフィドゴム、チオコールゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、エピクロロヒドリンゴム、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、水素添加スチレン-ブタジエンブロック共重合体、水素添加スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、水素添加スチレン-イソプレンブロック共重合体、水素添加スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体などのスチレン系ゴム、さらにはエチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、直鎖状低密度ポリエチレン系エラストマー等のオレフィン系ゴム、あるいはブタジエン-アクリロニトリル-スチレン-コアシェルゴム、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン-コアシェルゴム、メチルメタクリレート-ブチルアクリレート-スチレン-コアシェルゴム、オクチルアクリレート-ブタジエン-スチレン-コアシェルゴム、アルキルアクリレート-ブタジエン-アクリロニトリル-スチレン-コアシェルゴム、ハイインパクトポリスチレンが挙げられ、これら1種若しくは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
<発泡シート、容器の製造方法>
本発明のスチレン系樹脂組成物は、公知の押出発泡シート製造方法を用いて、発泡シートに加工することができる。具体的には、単軸押出機や二軸押出機を2基直列に配置し、1基目の押出機で発泡剤とともに溶融混錬し、2基目の押出機で冷却により樹脂温度を120℃~180℃に調整した後、サーキュラーダイスにより大気に放出し減圧発泡する方法が挙げられる。
【0041】
発泡剤としては、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロブタン、シクロペンタン等の環式脂肪族炭化水素、トリクロロフロロメタン、ジクロロジフロロメタン、1,1-ジフルオロエタン、1,1-ジフルオロ-クロライド、メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素等の物理発泡剤を用いることができる。また、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、アゾビスイソブチロニトリル、重炭酸ナトリウム、クエン酸等の分解型発泡剤、二酸化炭素、窒素等の無機ガスや水を使用することもできる。これら発泡剤を適宜混合して使用できるが、工業的にはブタンが使用されることが多く、発泡押出性や発泡シートの二次成形性、発泡性の観点から、イソブタンとノルマルブタンからなる混合ブタンを使用することが好ましい。ブタンはポリスチレン系樹脂に対する透過速度が遅いため、発泡押出直後は発泡シート中に通常0.5~3質量%程度残存する。この残存量は二次成形における二次発泡厚や熱成形性に影響するため、一定の熟成期間を設けることで適宜調整する。
【0042】
本発明の発泡シートの厚さは0.5~4.0mmが好ましく、1.0~3.0mmがより好ましい。発泡シートの厚さが0.5mm未満では、2次成形後の容器の強度や断熱性が低下する。発泡シートの厚さが4.0mmを超える場合、2次成形時にシートの温度ムラが発生しやすく、成形性が悪化する。
【0043】
本発明の発泡シートの密度は30~500kg/m3であることが好ましく、50~300kg/m3であることがより好ましい。押出発泡シートの密度が30kg/m3未満では、強度が低下し、500kg/m3を超える場合、断熱性が不十分となる。
【0044】
本発明の発泡シートの厚み方向の平均セル径X、押出方向の平均セル径Y、幅方向の平均セル径Zは、それぞれ0.01~500μmであることが好ましく、それぞれ0.1~300μmであることがより好ましい。平均セル径が0.01μm未満であると押出発泡シートの密度が大きくなるため、断熱性の面で、好ましくない。平均セル径が500μmを超える場合、発泡シートの強度と断熱性、平面平滑性が低下する。
【0045】
また、本発明の発泡シートには、厚み方向の中央部に比べて密度が大きい、いわゆるスキン層と呼ばれる表面層をシートの表裏面に設けることができる。スキン層を設けることで、シートの強度を上げることができ、外観も美麗に仕上がる。スキン層はサーキュラーダイスを出た直後の発泡シート表面を風冷することによって調整できる。
【0046】
本発明の発泡シートは、その片面もしくは両面に熱可塑性樹脂シート又はフィルムを積層することにより、成形性、強度、剛性を改良することができる。上記、シートやフィルムを構成する熱可塑性樹脂としてはポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン等のポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられるが、接着層を用いなくても積層可能でリサイクル性も良好なポリスチレン系樹脂が好ましい。
【0047】
前記で積層される熱可塑性樹脂シート又はフィルムの厚みに特に制限はないが、10~300μmが好ましく、50~250μmがより好ましく、70~200μmが特に好ましい。シート又はフィルムの厚みが厚い方が深絞り成形には有利であるが、厚すぎると容器重量が増えるため望ましくない。
【0048】
本発明の発泡シートは、真空成形や圧空成形などの熱成形することで、トレー、即席麺容器、納豆容器、カップ等の容器に二次成形することができる。
【0049】
<板状発泡体の製造方法>
本発明のスチレン系樹脂組成物は、上記の押出発泡シートの製造方法において、サーキュラーダイスに変えて、長方形断面のスリットを有するダイを使用することで、板状発泡体に加工することができる。
【0050】
また、板状発泡体を製造する際には、公知の難燃剤を使用することができ、例えば、ヘキサブロモシクロドデカン、ジブロモネオペンチルグリコール、デカブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモフタル酸ジオール、テトラブロモフェノール、ポリペンタブロモベンジルアクリレート等の臭素系難燃剤、リン酸グアニール尿素、ポリフォスファゼン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、赤リン等のリン系難燃剤が挙げられる。
【0051】
本発明の板状発泡体の密度は5~100kg/m3であることが好ましく、10~50kg/m3であることがより好ましい。板状発泡体の密度が5kg/m3未満では、強度が低下し、100kg/m3を超える場合、断熱性が不十分となる。
【0052】
本発明の板状発泡体は、強度と断熱性に優れるため、一般建築物等の床材や壁材、天井材、畳の心材に好適に使用することができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0054】
<スチレン系樹脂A-1~A-4の製造>
(1)スチレン系樹脂A-1の製造
下記第1~第3反応器を直列に接続して重合工程を構成した。
【0055】
第1反応器:容積39Lの攪拌翼付完全混合型反応器
第2反応器:容積39Lの攪拌翼付完全混合型反応器
第3反応器:容積16Lのスタティックミキサー付プラグフロー反応器
【0056】
各反応器の条件は以下の通りとした。
【0057】
第1反応器:[反応温度] 117℃
第2反応器:[反応温度] 125℃
第3反応器:[反応温度] 流れ方向に130~140℃の温度勾配がつくように調整
【0058】
原料液としては、以下のものを用いた。
【0059】
スチレン90質量部、エチルベンゼン10質量部に対して、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.02質量部を混合した原料液
【0060】
原料液を13.5kg/hrの供給速度で117℃に設定した第1反応器に連続的に供給し重合した後、次いで125℃に設定した第2反応器に連続的に装入し重合した。第2反応器出口での重合転化率は55%であった。更に130~140℃の温度勾配がつくように調整した第3反応器にて重合転化率が70%になるまで重合を進行させた。
この重合液を直列に2段より構成される予熱器付き真空脱揮槽に導入し、未反応スチレン及びエチルベンゼンを分離した後、ストランド状に押し出して冷却した後切断してペレット化した。なお、1段目の予熱器の温度は200℃に設定し、真空脱揮槽の圧力は66.7kPaとし、2段目の予熱器の温度は240℃に設定し、真空脱揮槽の圧力は0.9kPaとした。得られたスチレン系樹脂A-1の特性を表1に示す。
【0061】
(2)スチレン系樹脂A-2の製造
以下の原料液を用い第1~3反応器の温度条件を以下のように変更し、原料液の供給速度を16.5kg/hrとした以外はA-1の製造と同様にした。その特性を表1に示す。
【0062】
<原料液>
スチレン92質量部、エチルベンゼン8質量部に対して、2,2-ビス(4,4-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン0.020質量部を混合した原料液
【0063】
<条件>
第1反応器:[反応温度] 113℃
第2反応器:[反応温度] 119℃
第3反応器:[反応温度] 流れ方向に170~180℃の温度勾配がつくように調整
【0064】
(3)スチレン系樹脂A-3の製造
以下の原料液を用い第1~3反応器の温度条件を以下のように変更し、原料液の供給速度を17.6kg/hrとした以外はA-1の製造と同様にした。その特性を表1に示す。
【0065】
<原料液>
スチレン90質量部、エチルベンゼン10質量部を混合した原料液
【0066】
<条件>
第1反応器:[反応温度] 150℃
第2反応器:[反応温度] 156℃
第3反応器:[反応温度] 流れ方向に170~180℃の温度勾配がつくように調整
【0067】
(4)スチレン系樹脂A-4の製造
以下の原料液を用い第1~3反応器の温度条件を以下のように変更し、原料液の供給速度を16.5kg/hrとし、第3反応器出口で流動パラフィンを樹脂100質量%に対し、0.8質量%添加した以外はA-1の製造と同様にした。その特性を表1に示す。
【0068】
<原料液>
スチレン90質量部、エチルベンゼン10質量部を混合した原料液
【0069】
<条件>
第1反応器:[反応温度] 130℃
第2反応器:[反応温度] 150℃
第3反応器:[反応温度] 流れ方向に140~150℃の温度勾配がつくように調整
【0070】
【0071】
<実施例1~12、比較例1~4>
上記の方法で製造したスチレン系樹脂(A-1~A-4)とビスアミド化合物(B-1~B-3)、脂肪酸金属塩(C-1)、及びモノアミド化合物(E)を、表2に示す質量%比率にてヘンシェルミキサーで混合し、150~210℃に設定した二軸押出機(神戸製鋼所製、KTX30α)にて溶融コンパウンドした。このときのダイス樹脂温度は220℃であった。樹脂特性を表2に示す。
【0072】
なお、ビスアミド化合物(B)、脂肪酸金属塩(C)、モノアミド化合物(E)は以下のものを用いた。
<ビスアミド化合物(B)>
B-1:エチレンビスステアリン酸アミド(花王社製 カオ―ワックスEBFF)
B-2:エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド(日本化成社製 スリパックスB)
B-3:エチレンビスオレイン酸アミド(日油社製 アルフローAD281F)
<脂肪酸金属塩(C)>
C-1:ステアリン酸亜鉛(日油社製 ジンクステアレートGP)
<モノアミド化合物(E)>
E-1:ステアリン酸アミド(日油社製 アルフローF10)
【0073】
次にスクリュー径40mmφと50mmφのタンデム式押出機にて押出発泡シートを製造した。まず、前記の溶融コンパウンドした樹脂100質量部に対し、ポリスチレン60質量%とタルク(平均粒子径9μm)40質量%からなるタルクマスターバッチ0.5質量部を均一に混合し、スクリュー径40mmφの押出機に供給した。更に、発泡剤としてブタンガスを押出機先端より樹脂100質量部に対して2.0質量部の割合で圧入し溶融混合した。このときのシリンダー温度180~210℃、樹脂温度200~210℃、圧力12~18MPaであった。
その後、210℃に設定した連結管を介してスクリュー径50mmφの押出機に移送し、シリンダー温度150~180℃、出口の樹脂温度を160℃、樹脂圧力を15MPaに調整し、リップ開度0.6mm、口径40mmのサーキュラーダイスより吐出量10kg/hrで押出し直径152mmの冷却マンドレルに添わせて引取り、円周の下部1点でカッターにより切開して押出発泡シートを得た。その特性を表2に示す。
【0074】
<実施例13>
上記、実施例において、溶融コンパウンドした樹脂100質量部に対して、ヘキサブロモシクロドデカンを4質量部、ポリスチレン60質量%とタルク(平均粒子径9μm)40質量%からなるタルクマスターバッチ0.5質量部をブレンド後、スクリュー径40mmφの押出機に供給し、ブタンガスを5.0質量部圧入し、スクリュー径50mmφの押出機の出口の樹脂温度を140℃、樹脂圧力を10MPaに調整し、サーキュラーダイスに変えて、厚さ4mm、幅方向40mmの長方形断面のスリットを有するダイを使用し、板状押出発泡体を得た。その特性を表2に示す。
【0075】
【0076】
実施例のスチレン系樹脂組成物を用いることで、低い発泡体密度を維持しつつ、気泡セル径を微細化でき、得られた発泡体は表面平滑性に優れている。
【0077】
なお、表1~表2中での各種物性、性能評価は以下の方法で行った。
【0078】
(1)分子量
数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、次の条件で測定した。
GPC機種:昭和電工株式会社製Shodex GPC-101
カラム:ポリマーラボラトリーズ社製 PLgel 10μm MIXED-B
移動相:テトラヒドロフラン
試料濃度:0.2質量%
温度:オーブン40℃、注入口35℃、検出器35℃
検出器:示差屈折計
本発明の分子量の測定は、単分散ポリスチレンの溶出曲線より各溶出時間における分子量を算出し、ポリスチレン換算の分子量として算出した。
【0079】
(2)メタノール可溶分
メタノール可溶分は、次の条件で測定した。スチレン系樹脂1.00gを精秤し(P)、メチルエチルケトン40ミリリットルを加えて溶解し、メタノール400ミリリットルを急激に加えて、メタノール不溶分(樹脂成分)を析出、沈殿させる。約10分間静置した後、ガラスフィルターで徐々にろ過してメタノール可溶分を分離し、真空乾燥機にて120℃で2時間減圧乾燥した後、デシケータ内で25分間放冷し、乾燥したメタノール不溶分の質量Nを測定して、次のように求める。
メタノール可溶分(質量%)=(P-N)/P×100
【0080】
樹脂特性は以下の方法により評価した。
【0081】
(3)ビスアミド化合物(B)の含有量
樹脂組成物中のビスアミド化合物(B)の含有量は、次の条件で測定した。まず、スチレン系樹脂組成物を凍結粉砕し、0.05g精秤後、25mLのクロロホルムに溶解・定容した。次に、得られた溶液をクロロホルムで希釈し、希釈液を調整後、PTFEディスクフィルタ(0.45μm)でろ過し、LC/MS/MS分析により、以下の条件で測定した。
LC:LC20A(島津製作所)
MS:API4000(AB/MDS Sciex)
カラム:Cadenza CD-C18 2.0×150mm 3μm
カラム温度:45℃
移動相:A=0.1vol%ギ酸、水/メタノール=1/9溶液
B=クロロホルム
流量:0.3mL/min
注入量:3μL
イオン化:ESI法
MS検出:正イオン抽出(SRM法)
【0082】
なお、市販されているビスアミド化合物は、通常、鎖長の異なるビスアミドの混合物である(例えば、エチレンビスステアリン酸アミドの場合、C16-C16、C16-C18、C18-C18の混合物)。よって、予めGC等で求めた鎖長毎の成分比から、鎖長の異なる各成分の検量線を作成し、各成分の定量値を個別に算出後、それらの総量をビスアミド化合物の量とする。
【0083】
(4)脂肪酸金属塩(C)の含有量 樹脂組成物中の脂肪酸金属塩(C)の含有量は、堀場製作所製蛍光X線元素分析装置(MESA-500W)を用い、金属元素の量を定量することで求めた。
【0084】
(5)分散粒子の重量平均円相当粒子径Dv
スチレン系樹脂組成物を、熱プレス機(東洋精機製作所製MP-2F)にて、温度250℃で3分間予熱を行い、圧力15MPaで2分間成形後、急冷して得られた成形品(30mm×30mm×3mmt)について、断面をミクロトームで切り出し、RuO4で染色後、断面中央部を透過型電子顕微鏡(日立製作所製H-7500)を用いて観察した。黒く染色されている部分がビスアミド化合物(B)に相当する。
【0085】
透過型電子顕微鏡で得られた写真を
図1に示す。
図1に示す写真から、旭化成エンジニアリング社製画像解析ソフト「A像くん」を用いて、2値化処理を行い、ビスアミド化合物(B)の面積を測定した。ビスアミド化合物(B)の分散粒子の形状は不定形であるので、ビスアミド化合物(B)と同じ面積となる円の直径(円相当粒子径:Di)を求め、下記式から重量平均円相当粒子径(Dv)を求めた。
【0086】
【0087】
(6)メルトマスフローレイト
JIS K7210に基づき200℃、49N荷重の条件により求めた。
【0088】
(7)ビカット軟化温度
射出成型機を用いて試験片を作成し、JIS K7206に基づき50N荷重の条件により求めた。
【0089】
(8)シャルピー衝撃強さ
射出成型機を用いて試験片を作成し、JIS K7111により求めた。
【0090】
発泡体特性は以下の方法により評価した。
(9)厚み
押出発泡体の両端5mmを除き、幅10mm間隔の位置を測定点とした。この測定点をダイヤルシックネスゲージ ピーコック型式G(尾崎製作所社製)を使用し、試験片が変形しないように注意しながら、厚みを最小単位0.01mmまで測定し、この平均値を押出発泡体の厚み(mm)とした。
【0091】
(10)密度
押出発泡体から縦10cm×横10cmの試験片を材料のセル構造が壊れないように注意深く切り出し、試験片の重量及び厚みから以下の式により算出した。
密度(kg/m3)=試験片の重量(g)/試験片の厚み(mm)×100
【0092】
(11)発泡倍率
押出発泡体の発泡倍率は、基材ポリスチレン樹脂の密度(1,050kg/m3)を、上記で得られた押出発泡体の密度で除した値とした。
【0093】
(12)平均セル径
発泡発泡体の厚み方向の平均セル径X、押出方向の平均セル径Y、幅方向の平均セル径ZはASTM D2842-06の試験法により測定された平均弦長に基づいて算出した。
厚み方向の平均セル径Xは、走査型電子顕微鏡で観察した押出方向の垂直断面において、発泡体の全厚みにわたって垂直な直線を引き、該直線の長さと該直線と交差するセル数より平均弦長X1を求め、X1/0.616より算出した。
押出方向の平均セル径Yは、走査型電子顕微鏡で観察した押出方向の垂直断面を厚み方向に4等分し、表層付近、厚み方向中央部、裏面付近の計3本の線分の各々において、該直線の長さと該直線と交差するセル数より平均弦長Y1を求め、Y1/0.616より各々の線分の平均セル径を算出し、これらの算術平均値をもって押出方向の平均セル径Yとした。
幅方向の平均セル径Zは、走査型電子顕微鏡で観察した幅方向の垂直断面を厚み方向に4等分し、表層付近、厚み方向中央部、裏面付近の計3本の線分の各々において、該直線の長さと該直線と交差するセル数より平均弦長Z1を求め、Z1/0.616より各々の線分の平均セル径を算出し、これらの算術平均値をもって幅方向の平均セル径Zとした。
【0094】
(13)光沢
JIS K7105に基づき、入射角60度の条件により、上下面(発泡シートの場合、冷却マンドレルの接触面、及び非接触面)の測定を行い、その平均値を光沢度とした。光沢度が大きい程、表面の平滑性が良いことを表す。