(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】ヘキサクロロジシランの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/107 20060101AFI20220222BHJP
【FI】
C01B33/107 B
(21)【出願番号】P 2017204848
(22)【出願日】2017-10-24
【審査請求日】2020-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺内 一利
(72)【発明者】
【氏名】湯舟 和之
(72)【発明者】
【氏名】小野 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山崎 正樹
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-064953(JP,A)
【文献】特表2010-540402(JP,A)
【文献】特開2016-064952(JP,A)
【文献】特開2016-064951(JP,A)
【文献】特表2016-516665(JP,A)
【文献】特表2016-530088(JP,A)
【文献】国際公開第02/012122(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
B01D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘキサクロロジシランおよび水素化クロロシラン化合物を含有する混合物から、ヘキサクロロジシランよりも高い沸点を有する水素化クロロシラン化合物を除去する第1工程と、
第1工程で得られた混合物から、ヘキサクロロジシランよりも低い沸点を有する水素化クロロシラン化合物を常圧下または正圧下の蒸留によって除去する第2工程と
、
前記第2工程で得られた混合物から、前記ヘキサクロロジシランよりも高い沸点を有する水素化クロロシラン化合物を常圧下または正圧下の蒸留によって除去する第3工程を有し、
前記第2工程において、前記第1工程で得られた混合物は、前記ヘキサクロロジシランよりも高い沸点を有する水素化クロロシラン化合物の含有率が1質量%以下であることを特徴とする純度99.8質量%以上のヘキサクロロジシランの製造方法。
【請求項2】
前記第1工程において、前記ヘキサクロロジシランよりも高い沸点を有する水素化クロロシラン化合物を常圧下または正圧下の蒸留によって除去することを特徴とする請求項1に記載のヘキサクロロジシランの製造方法。
【請求項3】
前記混合物が、テトラクロロシランと水素とを含む原料ガスを700~1400℃で反応させて反応生成ガスを得、得られた反応生成ガスを冷却することにより生じる凝縮液として得られるものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のヘキサクロロジシランの製造方法。
【請求項4】
純度99.9質量%以上のヘキサクロロジシランの製造方法である請求項1~
3のいずれか1項に記載のヘキサクロロジシランの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度のヘキサクロロジシランの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘキサクロロジシラン(Si2Cl6)は、半導体デバイスの保護膜であるシリコン窒化膜や酸化膜の製造に使用される。ヘキサクロロジシランは、モノシラン、ジクロロシランよりも、上記保護膜の製造を低温で行うことができるため、半導体デバイスに対して製造過程で与える影響が小さいという利点があり、近年、需要が増大している。
【0003】
半導体デバイスの保護膜をヘキサクロロジシランを用いて製造する場合、電気絶縁性を確保するため、高純度のヘキサクロロジシランが必要になる。特に、純度が99.8質量%以上の高純度のヘキサクロロジシランが求められている。
【0004】
高純度のヘキサクロロジシランを得る方法としては、一般に蒸留法が用いられている。例えば、特許文献1には、ヘキサクロロジシラン含有混合物の蒸留によって水の含有量を低減させたヘキサクロロジシランを製造する方法が開示されている。また、特許文献2には、蒸留操作によってテトラクロロジシランの含有率を低減させたヘキサクロロジシランの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2010-540402号公報
【文献】特開2006-169012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および特許文献2の製造方法はいずれも、低沸点化合物から順に蒸留分離していくものであり、ヘキサクロロジシランの純度を高めることには限界があり、純度が99.8質量%以上の高純度のヘキサクロロジシランを得ることが困難であった。
【0007】
また、特許文献1の製造方法では、真空下で蒸留を行うことによって比較的高純度のヘキサクロロジシランを得ている。減圧下で蒸留を行うと、加熱温度を下げることが可能となり、クロロシラン化合物の熱分解を抑制するのに有効である。しかし、減圧下で蒸留を行う方法では、蒸留塔の系内の圧力が低下するため、系内に外気の水分が侵入しやすくなる。ヘキサクロロジシランは水分と反応して容易に分解するため、減圧下で蒸留を行う方法では、ヘキサクロロジシランの純度を低下させる懸念がある。
【0008】
さらに、ヘキサクロロジシランは水分と反応すると、腐食性のHClガスを放出する。HClガスはヘキサクロロジシランのSi-Si結合を攻撃し、Si-H含有加水分解生成物を生じさせる。Si-H含有加水分解生成物は、蒸留塔の系内で固化し、配管の閉塞等の原因となる。また、Si-H含有加水分解生成物は、衝撃や水中で火花を発生しながら分解するおそれがある(特許第5253677号公報参照)。
【0009】
本発明は、以上のような点を鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、常圧下または正圧下で行うことが可能であり、純度99.8質量%以上の高純度ヘキサクロロジシランを得ることが可能なヘキサクロロジシランの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記した課題を解決するため、鋭意検討を重ねた。その結果、ヘキサクロロジシランよりも高い沸点を有する水素化クロロシラン化合物を除去した後に、ヘキサクロロジシランよりも低い沸点を有する水素化クロロシラン化合物を常圧下または正圧下の蒸留によって除去する工程を行うことが有効であることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の構成を有している。
(1)ヘキサクロロジシランおよび水素化クロロシラン化合物を含有する混合物から、ヘキサクロロジシランよりも高い沸点を有する水素化クロロシラン化合物を除去する第1工程と、第1工程で得られた混合物から、ヘキサクロロジシランよりも低い沸点を有する水素化クロロシラン化合物を常圧下または正圧下の蒸留によって除去する第2工程とを有する純度99.8質量%以上のヘキサクロロジシランの製造方法。
【0012】
(2)前記第1工程において、前記ヘキサクロロジシランよりも高い沸点を有する水素化クロロシラン化合物を常圧下または正圧下の蒸留によって除去することを特徴とする前記(1)に記載のヘキサクロロジシランの製造方法。
【0013】
(3)前記第2工程において、前記ヘキサクロロジシランおよび水素化クロロシラン化合物を含有する混合物は、前記ヘキサクロロジシランよりも高い沸点を有する水素化クロロシラン化合物の含有率が1質量%以下であることを特徴とする前記(1)または前記(2)に記載のヘキサクロロジシランの製造方法。
【0014】
(4)前記第2工程で得られた混合物から、前記ヘキサクロロジシランよりも高い沸点を有する水素化クロロシラン化合物を常圧下または正圧下の蒸留によって除去する第3工程を有することを特徴とする前記(1)~(3)のいずれか1項に記載のヘキサクロロジシランの製造方法。
【0015】
(5)純度99.9質量%以上のヘキサクロロジシランの製造方法である前記(1)~(4)のいずれか1項に記載のヘキサクロロジシランの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のヘキサクロロジシランの製造方法は、常圧下または正圧下で行うことが可能であり、純度99.8質量%以上の高純度ヘキサクロロジシランを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるわけではない。
【0018】
本実施形態のヘキサクロロジシランの製造方法に使用されるヘキサクロロジシランおよび水素化クロロシラン化合物を含有する混合物、すなわち、第1工程に投入される混合物(以下、「原料混合物」と記載する。)は、いくつかの方法で得ることができる。
【0019】
原料混合物は、例えば、テトラクロロシランと水素とを含む原料ガスを高温で反応させて反応生成ガスを得、得られた反応生成ガスを冷却することにより生じる凝縮液として得ることができる(特開2016-64953号参照)。
【0020】
また、原料混合物は、クロロシリコンの熱分解または水素還元によって多結晶シリコンを析出させるプロセスにおいて、排ガスを冷却して凝縮液として得ることができる(特許第4465961号参照)。また、原料混合物は、HClとケイ化カルシウムとの反応や塩素とケイ素との反応から得ることができる。
【0021】
原料混合物は、ヘキサクロロジシランおよび水素化クロロシラン化合物を含有している。水素化クロロシラン化合物は、ヘキサクロロジシランの沸点(144℃)よりも高い沸点を有する水素化クロロシラン化合物(以下、適宜「高沸点化合物」と記載する。)と、ヘキサクロロジシランの沸点よりも低い沸点を有する水素化クロロシラン化合物(以下、適宜「低沸点化合物」と記載する。)とに分けることができる。
【0022】
高沸点化合物は、例えば、構造式SivClxHyOz(v≧3、x≧1、y≧0、x+y=2+2v、z≧0)で示される水素化クロロシラン化合物である。具体的には、へプタクロロトリシラン(Si3HCl7、沸点約200℃)、ヘキサクロロトリシラン(Si3H2Cl6)、オクタクロロトリシラン(Si3Cl8)、シロキサン類、ノナクロロテトラシラン(Si4HCl9)、オクタクロロテトラシラン(Si4H2Cl8)、等を挙げることができる。
【0023】
一方、低沸点化合物としては、テトラクロロシラン(SiCl4)、ペンタクロロジシラン(Si2HCl5、沸点132℃)、テトラクロロジシラン(Si2H2Cl4)、トリクロロジシラン(Si2H3Cl3)等を挙げることができる。
【0024】
へプタクロロトリシラン(Si3HCl7)、ヘキサクロロトリシラン(Si3H2Cl6)のようなSiを3つ有する水素化クロロシラン化合物は、加熱によって下記式(1)、式(2)のように熱分解する。
Si3HCl7 → SiCl2: + Si2HCl5 ・・・(1)
Si3H2Cl6 → SiCl2: + Si2H2Cl4 ・・・(2)
熱分解の結果、式(1)、式(2)のように、シリレン(SiCl2:)と、Siを2つ有する水素化クロロシラン化合物(Si2HClX)とが生成する。
【0025】
へプタクロロトリシラン、ヘキサクロロトリシランのように、Siを3つ以上有する水素化クロロシラン化合物は、ヘキサクロロジシランより分子量が大きく、ヘキサクロロジシランより高沸点である。しかし、熱分解後のSiを2つ有する水素化クロロシラン化合物(Si2HClX)は、ヘキサクロロジシランより分子量が小さく、ヘキサクロロジシランより低沸点である。
【0026】
上記のように、原料混合物中のヘキサクロロジシラン以外の不純物の沸点は様々である。そのため、ヘキサクロロジシランを精製するためには、精製操作を2回に分けて行い、ヘキサクロロジシランより沸点の低い化合物を除去する工程と、ヘキサクロロジシランより沸点の高い化合物を除去する工程の2つの工程を行うことが必要となる。
【0027】
ここで、原料混合物を蒸留してヘキサクロロジシランを精製するために、低沸点化合物を除く蒸留(脱低沸塔による蒸留)を実施した後に、高沸点化合物を除く蒸留(脱高沸塔による蒸留)を実施した場合を考える。
【0028】
この場合、最初の脱低沸塔による蒸留の際に、低沸点化合物が除かれた高沸点化合物の一部が蒸留時の加熱によって熱分解して、低沸点化合物が生成してしまう。この後に、脱高沸塔による蒸留を実施すると、生成した低沸点化合物は、ヘキサクロロジシランと共に低沸留分として気化してしまう。そのため、低沸点化合物をヘキサクロロジシランから分離することができず、純度を十分に上げることができない。
【0029】
これに加えて、高沸点化合物の熱分解によって低沸点化合物と共に生成した、2個の価電子を持つシリレンは、一般には不安定な中間体であり、容易に周囲の化合物と反応して別の化合物を生成する。このような反応性化合物を蒸留精製によって除去することは一般に困難である。
【0030】
そこで、まず第1工程で、高沸点化合物を除く蒸留(脱高沸塔による蒸留)を行う。すなわち、ヘキサクロロジシランを気化させて、高沸点化合物等を除去する。次に第2工程で、低沸点化合物を除く蒸留(脱低沸塔による蒸留)を行う。すなわち、低沸点化合物等を気化させて、ヘキサクロロジシランから分離し、除去する。このようにすることにより、たとえ、第1工程で、高沸点化合物の一部が蒸留時の加熱によって熱分解して低沸点化合物が生成したとしても、次の第2工程で、他の低沸点化合物とともに除去される。また、第1工程で高沸点化合物が除去されているため、第2工程を高温、高圧条件で実施しても、高沸点化合物の熱分解によって低沸点化合物等が生成することがない。そのため、ヘキサクロロジシランの純度を低下させることがない。
【0031】
すなわち、本実施形態のヘキサクロロジシランの製造方法は、ヘキサクロロジシランおよび水素化クロロシラン化合物を含有する混合物から、高沸点化合物を蒸留によって除去する第1工程と、第1工程で得られた混合物から、低沸点化合物を蒸留によって除去する第2工程とを有している。
【0032】
第1工程および第2工程における蒸留は、常圧下または正圧下で行う。正圧とは、常圧(大気圧、101kPa)より高い圧力であることを意味する。蒸留は、101~151kPaで行うことが好ましい。蒸留は、連続的にまたは不連続的に行うことができる。
【0033】
蒸留塔(蒸留装置)は、特に限定はなく、公知のものを用いることができる。蒸留する際の熱源としては、スチーム、熱オイル、電気ヒーターのいずれを採用してもよい。ただし、ヘキサクロロジシランの沸点を考慮すると、熱オイルや電気ヒーターが熱源として適している。蒸留に使用する蒸留塔充填物はこれまでに公知のものを使用することができる。蒸留塔は、塔頭より低沸点成分を回収・除去することができ、塔底より高沸点成分を回収・除去することができる。
【0034】
第1工程の蒸留塔の塔底から高沸成分が除去され、塔頭からヘキサクロロジシランを含む低沸成分が抜き出される。当該ヘキサクロロジシランを含む低沸成分が、次の第2工程の蒸留塔に送られる。第2工程の蒸留塔の塔頭から低沸成分が除去され、塔底から高沸成分を少量含むヘキサクロロジシランが抜き出される。
【0035】
上記の実施形態では、第1工程の高沸点化合物を除去する方法として、蒸留法を用いたが、蒸留法以外の方法を用いることもできる。例えば、高沸点化合物のみを選択的に吸着する吸着剤を用いた吸着法や、アミン系の触媒を用いて高沸点化合物のみを分解する反応法を用いてもよい。吸着剤には公知のものを使用することができるが、特に、ヘキサクロロジシランと反応しないゼオライト、活性炭、シリカゲル等が好ましい。
【0036】
次に、上記の実施形態のヘキサクロロジシランの製造方法の改良された実施形態について説明する。
改良された実施形態は、上記の実施形態の第1工程と第2工程に加えて、第2工程で得られた混合物から、高沸点化合物を常圧下または正圧下の蒸留によって除去する第3工程を有している。
【0037】
第3工程で再度、脱高沸塔による蒸留を行い、ヘキサクロロジシランを気化して回収し、高沸点化合物等の除去を行う。こうすることによって、第1工程の脱高沸塔によって除去し切れず残留していた高沸点化合物を除去することができ、ヘキサクロロジシランの純度をさらに高めることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例に基づいて、より詳細に説明する。
実施例に用いた原料混合物、蒸留装置、蒸留条件は以下のとおりである。
(1)原料混合物の製造条件
本発明では、ヘキサクロロジシランの原料混合物を以下のように得た。
気化させたテトラクロロシラン(SiCl4)と水素(H2)とを約700~1400℃の反応炉内で接触させると、平衡反応によりトリクロロシラン(SiHCl3)が生成し、さらにシリレン(SiCl2:)、モノクロロシラン(SiH3Cl)、ジクロロシラン(SiH2Cl2)等が副生する。
この反応生成ガスを、テトラクロロシランを含有するクロロシラン液で600℃以下にまで急冷すると、シリレンが次式のようにテトラクロロシランと反応し、ヘキサクロロジシラン(Si2Cl6)が生成する。
SiCl2:+SiCl4→Si2Cl6・・・(3)
このヘキサクロロジシランを含む反応生成ガスを30℃~60℃の温度範囲に冷却し、冷却凝縮液からヘキサクロロジシランの原料混合物を得た。
(2)蒸留装置
第1工程の蒸留装置は、塔径が200mmφで理論段数が20段の蒸留塔を、第2工程の蒸留装置は塔径が200mmφで理論段数が100段の蒸留塔を、第3工程の蒸留装置は塔径が130mmφで理論段数が20段の蒸留塔を使用した。
(3)蒸留装置の操作条件
実施例1の第1工程は、蒸留塔内の圧力が111kPa、塔頂部温度が144℃~145℃の条件で実施した。第2工程は、蒸留塔内の圧力が111kPa、塔底部温度が147℃~148℃の条件で実施した。第3工程は、蒸留塔内の圧力が111kPa、塔頂部温度が147℃~148℃の条件で実施した。
実施例2~6および比較例1については、後述する表1および表2のように条件を変更して、実施例1と同様に行った。
(4)ヘキサジクロロシランの純度の測定方法
ガスクロマトグラフ(アジレントテクノロジー社製、品番7820A)を用いた。予め検量線を作成して、定量化した。
(5)原料混合物中の高沸点化合物の定量方法
ガスクロマトグラフ(アジレントテクノロジー社製、品番7820A)を用いた。予め検量線を作成して、定量化した。
【0039】
(実施例1~3,比較例1)
第2工程に投入される混合物の高沸点化合物(ヘキサクロロジシランよりも高い沸点を有する水素化クロロシラン化合物)の濃度(含有率)を変更して精製する実験を行った。第2工程に投入される混合物の高沸点化合物の含有率と精製後(第3工程の脱高沸等による蒸留後)のヘキサクロロジシラン純度との関係を表1に示した。表1には、合わせて第1工程~第3工程の蒸留塔内の圧力および蒸留塔の温度を示している。
【0040】
【0041】
表1の結果から、第2工程に投入される混合物の高沸点化合物の含有率の減少と共に、第3工程後のヘキサクロロジシランの純度が向上することが分かった。第1工程の塔頂部温度を低くすることで、第2工程に投入される混合物の高沸点化合物の含有率が1質量%以下になれば、99.8質量%以上という良好な純度のヘキサクロロジシランを得ることができた。原料混合物中の高沸点化合物の含有率が0.2質量%以下であれば、半導体の保護膜製造に適した99.9質量%以上の純度が得られ、0.1質量%以下であれば、さらに優れた純度のヘキサクロロジシランを得ることができた。第2工程に投入される混合物の高沸点化合物の含有率を予め1質量%以下に低減させておくことが有効であることが明らかとなった。
【0042】
(実施例4~6)
第2工程に投入される混合物の高沸点化合物の含有率を0.1質量%に保ったまま、第2工程における蒸留塔内の圧力および塔底部温度、並びに、第3工程における蒸留塔内の圧力および塔頂部温度を変更する実験を行った。第2工程における蒸留塔内の圧力および塔底部温度、並びに、第3工程における蒸留塔内の圧力および塔頂部温度と精製後のヘキサクロロジシラン純度との関係を表2に示した。
【0043】
【0044】
蒸留塔内の圧力、第2工程における塔底部温度、および第3工程における塔頂部温度の上昇にも関わらず、ヘキサクロロジシラン純度は変化しないことが明らかとなった。圧力を上げ、温度を上げたときであっても、高沸点の水素化クロロシラン化合物の熱分解がヘキサクロロジシラン純度の低下を引き起こしていないことが分かる。第1工程における高沸点の水素化クロロシラン化合物の除去が、ヘキサクロロジシランの純度を向上させていることが明らかとなった。
【0045】
以上のように、本発明のヘキサクロロジシランの製造方法では、純度99.8質量%以上のヘキサクロロジシラン、さらには純度99.9質量%以上の高純度のヘキサクロロジシランを製造することが可能である。また、本発明のヘキサクロロジシランの製造方法は、常圧下または正圧下で行うことが可能であり、従来よりも高純度のヘキサクロロジシランを安定して製造することが可能である。