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特許7028643膜を破壊しないp53活性化ステープルペプチド
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】膜を破壊しないp53活性化ステープルペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/08 20060101AFI20220222BHJP
   C07K 7/54 20060101ALI20220222BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20220222BHJP
   A61K 38/12 20060101ALI20220222BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220222BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220222BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220222BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220222BHJP
【FI】
C07K7/08 ZNA
C07K7/54
A61K38/10
A61K38/12
A61P43/00 105
A61P35/00
A61P35/02
C12N15/12
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2017542470
(86)(22)【出願日】2016-02-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-03-22
(86)【国際出願番号】 SG2016050079
(87)【国際公開番号】W WO2016130092
(87)【国際公開日】2016-08-18
【審査請求日】2019-02-14
(31)【優先権主張番号】10201501119W
(32)【優先日】2015-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(73)【特許権者】
【識別番号】508305029
【氏名又は名称】エージェンシー フォー サイエンス, テクノロジー アンド リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145920
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】タン ヨー シン
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン クリストファー ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァーマ チャンドラ エス
(72)【発明者】
【氏名】フェレール ガゴ フェルナンド ホセ
(72)【発明者】
【氏名】レーン デイヴィッド ピー
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフ トーマス
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/055039(WO,A1)
【文献】PLOS One (2014) Vol.9, No.8, e104914, pp.1-8
【文献】PLOS One (2013) Vol.8, No.11, e81068, pp.1-16
【文献】ACS Chemical Biology (2013) Vol.8, pp.506-512
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00
CAplus/REGISTRY(STN)
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TSFXaa1EYWXaa3LLXaa2のアミノ酸配列を含むペプチドであって、
Xaa1が、(R)-2-(7’-オクテニル)アラニン、又は(R)-2-(4’-ペンテニル)アラニンであり、
Xaa3が、A又は(R)-2-(4’-ペンテニル)アラニンであり、
Xaa2が、S又はP又は(S)-2-(4’-ペンテニル)アラニンであり、
前記ペプチドが、C末端に結合したアミノ酸-ENXaa5を含む配列をさらに含み、その結果、
TSFXaa1EYWXaa3LLXaa2ENXaa5
が生じ、ここでXaa5が、F又はYであり、かつ、
第1のアミノ酸Xaa1を第2のアミノ酸Xaa2に連結するクロスリンカーを有する、クロスリンクしたペプチドであるか、又は
第1のアミノ酸Xaa1を第2のアミノ酸Xaa3に連結するクロスリンカーを有する、クロスリンクしたペプチドである、
前記ペプチド。
【請求項2】
ペプチドのN末端が、リンカーに結合し、その結果、細胞膜の完全性を乱さない分子が生じる、請求項1に記載のペプチドであって、
前記リンカーが、共有結合リンカーであり、
前記リンカーが、1~20アミノ酸長であり、
前記共有結合リンカーが、炭化水素リンカーであり、
前記炭化水素リンカーが、Ahx(アミノヘキサン酸)を含み、
配列Zが前記リンカーの未結合末端に結合しており、ここでnが1又は2又は3であり、Zがブチルアミン、アルギニン[R]、及びリシン[K]からなる群から選択される、
前記ペプチド。
【請求項3】
請求項2に記載のリンカー及び配列Zが、Ac-KK-Ahx(アセチル化-Lys-Lys-アミノヘキサン酸)又はAc-RRR-Ahx(アセチル化-Arg-Arg-Arg-アミノヘキサン酸)の配列を含む、請求項2に記載のペプチド。
【請求項4】
下式
【化1】

又は下式
【化2】

を含む、請求項1~3のいずれかに記載のペプチド
[式中、
が-C(OH)CH[T]であり、
が-CHOH[S]であり、
がベンジル[F]であり、
が-CH[(R)-2-(7’-オクテニル)アラニン又は(R)-2-(4’-ペンテニル)アラニン]であり、
が-(CHC(O)OH[E]であり、
が-CH-フェニル-OH[Y]であり、
がTrpの側鎖であり、TrpのCは水素若しくはハロゲンによって置換されており、及び/又はTrpは独立してL若しくはD光学異性体であり、
が-CH [A又は(R)-2-(4’-ペンテニル)アラニン]であり、
及びR10が-CHCH(CH[L]であり、
11が-CHOH[S]又は-(CH-[P]又は-CH[(S)-2-(4’-ペンテニル)アラニン]であり、
RがCアルケニル又はC11アルケニルであり、
12が-(CHC(O)OH[E]であり、
15が-CHC(O)NH[N]であり、
16がベンジル[F]又は-CH-フェニル-OH[Y]である]。
【請求項5】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、及び配列番号10からなる群から選択される配列を含む、請求項1~4のいずれかに記載のペプチド。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のペプチドを含む医薬組成物。
【請求項7】
さらなる治療化合物を含む、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
さらなる治療化合物がアポトーシス促進化合物である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
請求項1~5のいずれかに記載のペプチドを含む、がんの治療剤又は予防剤。
【請求項10】
1又は2以上のさらなる治療薬が併用される、請求項9に記載の治療剤又は予防剤であって、
前記併用が、前記治療剤又は予防剤との同時、連続又は別々投与である、前記治療剤又は予防剤。
【請求項11】
がんが、胃がん、結腸がん、肺がん、乳がん、膀胱がん、神経芽細胞腫、黒色腫及び白血病からなる群から選択される、請求項9又は10に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項12】
p53欠損腫瘍細胞を有する腫瘍、若しくはがんを引き起こす変異を含むp53遺伝子を有する腫瘍を含むがんに罹患又は罹患していることが疑われる患者に投与される、請求項9~11のいずれかに記載の治療剤又は予防剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、あらゆる目的のためにその内容を全体的に本明細書に参考として組み込んだ2015年2月13日に出願されたシンガポール特許仮出願第10201501119W号の優先権の利益を主張する。
【0002】
本発明は全般的に、タンパク質化学の分野に関する。具体的には、本発明は、ステープルペプチドの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
P53:Mdm2相互作用の阻害は治療上の標的である。この相互作用をブロックすることができる分子は、Mdm2の2つの阻害活性、すなわち、N末端p53トランス活性化ドメインの遮蔽及びユビキチン化及びプロテアソーム分解へのp53の標的化をブロックすることによって、p53応答を活性化することができる。このような分子は、p53野生型腫瘍細胞においてp53機能を再活性化するために使用することができた。
【0004】
p53とMdm2との間のこの相互作用を阻害する数種の分子が開発された(例えば、ヌトリン、MI-219)。これらの分子は、Mdm2のN末端p53結合ドメインとの相互作用に欠かせない、p53N末端の配列の1区画の保存された残基を模倣している。しかし、これらのペプチドは、p53ヌル細胞(p53-null cell)に対して標的外毒性を示す上、血清存在下では機能しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、p53:Mdm2相互作用を阻害することができる改善されたペプチドを提供する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、本発明は、TSFXaa1EYWXaa3LLXaa2のアミノ酸配列を含む、又は上記アミノ酸配列からなるペプチドに関し、Xaa1が(R)-2-(7’-オクテニル)アラニン若しくはその誘導体であるか、又は(R)-2-(4’-ペンテニル)アラニン若しくはその誘導体であり、Xaa2及びXaa3が独立して任意の種類のアミノ酸若しくは修飾アミノ酸である。別の態様では、本発明は、TSFXaa1EYWXaa3LLXaa2ENXaa5のアミノ酸配列を含む、又は上記アミノ酸配列からなるペプチドに関し、Xaa1及びXaa3が任意の種類のアミノ酸若しくは修飾アミノ酸であり、Xaa2がS又はP又は(S)-2-(4’-ペンテニル)アラニン若しくは(S)-2-(4’-ペンテニル)アラニンの誘導体であり、Xaa5がF又はYである。さらに別の態様では、本発明は、TSFXaa1EYWXaa3LLXaa2のアミノ酸配列を含む、又は上記アミノ酸配列からなるペプチドに関し、Xaa1、Xaa2及びXaa3が独立して任意の種類のアミノ酸若しくは修飾アミノ酸から選択され、ペプチドのN末端(すなわち、T)がリンカーに結合し、その結果、細胞膜の完全性を乱さない分子が生じる。
【0007】
別の態様では、本発明は、前述のいずれかのペプチドをコードする単離された核酸分子に関する。さらに別の態様では、本発明は、本明細書で記載した単離された核酸分子を含むベクターに関する。さらに別の態様では、本発明は、本明細書で記載した核酸分子又は本明細書で記載したベクターを含む宿主細胞に関する。
【0008】
他の態様では、本発明は、本明細書で記載したペプチド、本明細書で記載した単離された核酸分子又は本明細書で記載したベクターを含む医薬組成物に関する。一態様では、本発明は、がんを治療又は予防するための医薬品の製造における本明細書で記載したペプチドの使用に関する。別の態様では、本発明は、本明細書で記載したペプチド又は本明細書で記載した単離された核酸分子又は本明細書で記載したベクターの薬学的に有効な量を投与することを含む、患者におけるがんを治療又は予防する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本発明は、非限定的な例及び添付の図面を併用して考慮すれば、詳細な説明を参考にしてより理解されるだろう。
図1】Mdm2表面上で同定された補助的な結合部位(丸)を示す画像である。アポMdm2のリガンドマッピングシミュレーションから得られたベンゼン占有図(網掛け)を、a)p53ペプチド(PDB 1YCR)及びb)ヌトリン-2(PDB 1RV1)との複合体の結晶構造に重ね合わせた。
図2】伸長したステープルペプチドの設計を示した画像である。a)は、第2のヌトリン相互作用部位に結合したベンゼンと重なるように、p53ペプチド(PDB 1YCR)のC末端に付加しているフェニル(Phe)残基を示す。b)は、近位Pro27部位に結合したベンゼンと重なるように、SAH-p53-8(PDB 3V3B)のC末端に付加しているフェニル(Phe)残基を示す。c)は、分子動力学シミュレーションの50ナノ秒後のYS-01の立体構造を示す。d)は、分子動力学シミュレーションの50ナノ秒後のYS-03の立体構造を示す。
図3】10%ウシ胎児血清(FCS)のA)非存在下、及びB)存在下で実施されたYS-01~04ステープルペプチドのマウスT22p53レポータースクリーニングの結果を示した図である。T22細胞又はARN8細胞は、血清の非存在下(C、E)又は存在下(D、F)でペプチド50μM、25μM又は12.5μMのいずれかで処理し、2時間後に細胞培養液に放出された細胞質乳酸脱水素酵素(LDH)のレベルを測定した。培養液中への乳酸脱水素酵素(LDH)放出は、ペプチドによって細胞膜が不安定化し有害であることを示している。
図4】(A)では、ウシ胎児血清の存在が(+)又は(-)の場合に、YS-03 25μM及び50μMで18時間処理したT22細胞のウェスタンブロット分析の結果を示した図である。(B)ウシ胎児血清の非存在下及び存在下でのYS-03及びYS-04のIC50値を測定するために使用した滴定曲線。
図5】YS-01及びYS-02に結合したMdm2の結晶構造の画像を示した図である。(a)はYS-01に結合したMdm2を示し、(b)はYS-02に結合したMdm2を示す。(c)は、破線で表した水素結合によるYS-02のTyr30のMdm2の近位Pro27部位への結合を示す。
図6】YS-02とその他のペプチドとを比較するバーで表した図である。YS-02と(A)野生型(WT)p53(PDB 1YCR)及び(B)M06(PDB 4UMN)及びSAH-p53-8(PDB 3V3B)との比較。
図7】10%ウシ胎児血清(FCS)のA)存在下及びB)非存在下で実施したYS-07、YS-08、YS-09及びYS-10ステープルペプチドのマウスT22p53レポータースクリーニングのデータを示し、YS-01と02アナログペプチドとを比較した図である。T22細胞は、血清の非存在下(C)でペプチド50μM、25μM又は12.5μMのいずれかで処理し、2時間後に細胞培養液に放出された細胞質乳酸脱水素酵素(LDH)のレベルを測定した。ヒトARN8細胞も、血清の非存在下(D)でペプチド50μM、25μM又は12.5μMのいずれかで処理し、2時間後に細胞培養液に放出された細胞質乳酸脱水素酵素(LDH)のレベルも測定した。T22p53レポーター細胞株においてウシ胎児血清の非存在下及び存在下でのYS-07~YS-10のIC50値を測定するために使用した滴定曲線(折れ線グラフE及びF)。
図8】無血清条件下でARN8細胞に対して滴定したYS-07(A)及びYS-09(B)を示し、p53活性及び乳酸脱水素酵素(LDH)放出の対応するレベルを測定した図である。得られた曲線は重なった(淡色の曲線はp53活性を表し、濃色の曲線は乳酸脱水素酵素放出を表す)。T22及びARN8細胞は、血清の非存在下(C)又は存在下(D)でYS-07、sMTIDE-02及びヌトリン50μM、25μM又は12.5μMのいずれかで処理し、2時間後に細胞培養液に放出された細胞質乳酸脱水素酵素(LDH)のレベルを測定した。様々な血清条件下で、T22及びARN8レポーター細胞株においてYS-07がp53を活性化する活性を測定し、ヌトリン及びsMTIDE-02と比較した:(E)無血清条件下でのT22細胞、(F)10%血清でのT22細胞、(G)無血清条件下でのARN8細胞及び(H)10%血清でのARN8細胞。細胞は18時間処理した。
図9】50ナノ秒の分子動力学(MD)シミュレーション中におけるa)YS-01、b)YS-02、c)YS-03及びd)YS-04とMDM2との複合体の原子の位置のCα平均二乗偏差(RMSD)のデータを示した図である。各複合体について2つの異なる初期構造物を使用した。
図10】YS-01~06バリアントペプチドの円2色性スペクトルを示した図である。
図11】ステープルペプチドの2F-F電子密度マップを示した図である。このマップは、(A)YS-01及び(B)YS-02について示し、1.3σで輪郭を描いている。タンパク質A及びペプチドFを両図に示す。密度が少ないGlu28及びAsn29の側鎖以外は、両ステープルペプチドについて良好な密度が認められる。
図12】Mdm2/YS-01の構造の非対称単位のリボン図を示した図であり、A鎖とB鎖との間の鎖交換を強調している。この交換は、結晶接触のため、C鎖とD鎖との間では起こりえない。
図13】結晶構造における鎖交換二量体(灰色)を有するMdm2-YS-01複合体(白)の100ナノ秒の分子動力学(MD)シミュレーションの終了時のトラジェクトリー構造の比較の結果を示した図である。トラジェクトリー構造及び鎖交換相手両方のMdm2N末端のリッドは、Phe30(白いバー)の周りのクレードルで示している。
図14】10%ウシ胎児血清(FCS)のA)存在下、及びB)非存在下で実施されたP27S変異を有するステープルペプチドのマウスT22p53レポータースクリーニング(YS-05及び06)を示す図で、YS-01と02プロリンアナログペプチドとを比較する。T22細胞は、血清の非存在下(C)又は存在下(D)でペプチド50μM、25μM又は12.5μMのいずれかで処理し、2時間後に細胞培養液に放出された細胞質乳酸脱水素酵素のレベルを測定した。ヒトARN8細胞も、血清の存在下(E)又は非存在下(F)でペプチド50μM、25μM又は12.5μMのいずれかで処理し、2時間後に細胞培養液に放出された細胞質乳酸脱水素酵素(LDH)のレベルも測定した。
【発明を実施するための形態】
【0010】
定義
本明細書では、「ペプチド」、「タンパク質」、「ポリペプチド」及び「アミノ酸配列」という用語は同義で、任意の長さのアミノ酸残基のポリマーを意味する。ポリマーは、直鎖状又は分岐状であってよく、修飾アミノ酸又はアミノ酸アナログを含んでいてもよく、アミノ酸以外の化学的部分が割り込んでいてもよい。この用語はまた、天然に、又は介入によって、例えば、ジスルフィド結合形成、糖鎖付加、脂質化、アセチル化、リン酸化又は標識成分若しくは生理活性成分との結合などの任意のその他の操作若しくは修飾によって修飾されたアミノ酸ポリマーを包含する。用語ペプチドは、共有結合(例えば、アミド結合)によって結合した2又は3以上の天然に生じるアミノ酸又は合成アミノ酸を包含する。
【0011】
本開示の場合、用語「アミノ酸」は、少なくとも1個の1級、2級、3級又は4級アミノ基及び少なくとも1個の酸基を有することが定義され、酸基はカルボン酸、スルホン酸若しくはリン酸又はそれらの混合物であってもよい。アミノ基は、酸基に関して「アルファ」、「ベータ」、「ガンマ」から「オメガ」であってもよい。適切なアミノ酸には、限定はしないが、ペプチド中に見いだされる天然に生じる20個の通常のアミノ酸のD及びL異性体の両方(例えば、A、R、N、C、D、Q、E、G、H、I、L、K、M、F、P、S、T、W、Y、V(1文字又は3文字の略語が知られている))並びに天然に生じる、及び有機合成又はその他の代謝経路によって調製された天然には生じないアミノ酸が含まれる。
【0012】
「アミノ酸」の主鎖は、ハロゲン、ヒドロキシ、グアニド及び複素環基から選択される1又は2以上の基で置換されていてもよい。したがって、用語「アミノ酸」はまた、その範囲内に、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン、リシン、アルギニン及びヒスチジン、タウリン、ベタイン、N-メチルアラニンなどを含む。アミノ酸の(L)及び(D)型も含まれる。
【0013】
用語「アミノ酸側鎖」とは、アミノ酸のα炭素に結合した部分を意味する。例えば、アラニンのアミノ酸側鎖は、メチルであり、フェニルアラニンのアミノ酸側鎖はフェニルメチルであり、システインのアミノ酸側鎖はチオメチルであり、アスパラギン酸のアミノ酸側鎖はカルボキシメチルであり、チロシンのアミノ酸側鎖は4-ヒドロキシフェニルメチルであるなどである。その他の非天然アミノ酸側鎖はまた、例えば、天然に生じるもの(例えば、アミノ酸代謝物)又は合成によって作製されたもの(例えば、アルファ2置換アミノ酸)も含む。
【0014】
本明細書では、用語「翻訳後修飾」とは、通常リボソームによる翻訳が完了した後に、一般的に酵素によって触媒されてタンパク質に生じる修飾を意味する。翻訳後修飾は一般的に、リン酸化及びNEDD化のようなタンパク質への共有結合による官能基の付加を意味するが、タンパク質が機能的に成熟するために必要なタンパク質分解プロセス及び折り畳みプロセスも意味する。タンパク質翻訳後修飾は、官能基若しくはタンパク質の共有結合的付加、調節サブユニットのタンパク質分解切断又は完全なタンパク質の分解によってプロテオームの機能多様性を増大させる。これらの修飾には、限定はしないが、リン酸化、糖鎖付加、ユビキチン化、ニトロシル化、メチル化、アセチル化、脂質化及びタンパク質分解が含まれ、正常な細胞生物学及び病理発生のほとんど全ての面に影響を及ぼす。翻訳後修飾は、タンパク質の「ライフサイクル」のいかなるステップにおいても生じ得る。例えば、多くのタンパク質は、タンパク質が適切に折り畳まれるか若しくは安定性化するため、又は新生タンパク質を別個の細胞内小器官(例えば、核若しくは細胞膜)に向かわせるために、翻訳完了後すぐに修飾される。折り畳み及び局在化が完了した後に生じるその他の修飾は、触媒活性を活性化又は不活性化するため、別の状況では、タンパク質の生物学的活性に影響を及ぼすために生じる。タンパク質は通常、タンパク質を分解するために標的となる分解用タグを共有結合させる。単一修飾の他に、タンパク質は、タンパク質成熟又は活性化のステップワイズ機構によって、翻訳後切断及び官能基の付加を組み合わせて修飾することが多い。タンパク質翻訳後修飾はまた、修飾の性質に応じて可逆的であることも可能である。例えば、キナーゼは、タンパク質を特定のアミノ酸側鎖でリン酸化し、これは触媒活性化又は不活性化の一般的な方法である。反対に、ホスファターゼはリン酸基を加水分解してタンパク質からリン酸基を除去し、それによって前記タンパク質の生物学的活性を逆転させることができる。ペプチド結合のタンパク質分解切断は、熱力学的に好ましい反応で、したがってペプチド配列又は調節ドメインを永久的に除去する。
【0015】
用語「クロスリンカー」又はその文法的変化形は、本明細書では、2つのペプチドドメイン(すなわち、例えば、ヘリックスペプチドの2つのループ)の分子内連結(「ステープル」とも称する)を意味する。ペプチドがヘリックス2次構造を有するとき、クロスリンカーは大環状環であり、外因性コアである(コアの一部ではない)か、又は固有の(クロスリンクしていない)ヘリックスペプチド構造である。大環状環には、全てが炭化水素である結合環を含めることができ、ペプチドの少なくとも2つのアミノ酸のα炭素に結合する側鎖が組み込まれている。大環状環の大きさは、環のヘリックスペプチドアミノ酸の数及びペプチドの少なくとも2つのアミノ酸のα炭素を連結する部分の炭素基の数によって決定される。クロスリンクしたペプチドは少なくとも1種のクロスリンカーを有する。様々な例では、クロスリンクしたペプチドは1、2若しくは3個又は少なくとも1、2若しくは3個のクロスリンカーを有する。一例では、本明細書で開示したようなペプチドはリンカーを1つだけ含む。
【0016】
クロスリンクしたペプチド(ステープルペプチド)は、選択された数の標準(天然)又は非標準(非天然若しくは天然には存在しない、若しくは合成)アミノ酸を含み、さらには、炭素-炭素結合形成を促進するために必要な反応を受けることができる少なくとも2個の部分を含むペプチドであって、少なくとも2個の部分の間で少なくとも1個のクロスリンクを生成するために試薬と接触させたペプチドである。少なくとも2個の部分の間のこのクロスリンクは、例えば、ペプチド安定性を調節することができる。
【0017】
当業界で公知のいかなるクロスリンカーも使用することができる。クロスリンカーの例には、限定はしないが、炭化水素結合、1又は2以上のエーテル、チオエーテル、エステル、アミン又はアミド部分を含めることができる。場合によっては、天然に生じるアミノ酸側鎖をクロスリンカーに組み込むことができる。例えば、クロスリンカーは、セリンのヒドロキシル、システインのチオール、リシンの1級アミン、アスパラギン酸若しくはグルタミン酸の酸、又はアスパラギン若しくはグルタミンのアミドなどの官能基と結合することができる。したがって、2個の非天然のアミノ酸を結合させることによって形成するクロスリンカーを使用するのではなく、天然に生じるアミノ酸を使用するクロスリンクを生成することも可能である。天然に生じるアミノ酸と一緒に1個の非天然のアミノ酸を使用することも可能である。
【0018】
このように、炭化水素結合の一例はオレフィンの使用である。本明細書では、用語「オレフィン」及びその文法的変化形(アルケン又はアルケニルとも称する群である)は、単一の水素原子を除去することによって少なくとも1個の炭素-炭素2重結合を有する直鎖状又は分岐状炭化水素部分から得られた1価の基を意味する。アルケニル部分は指定した数の炭素原子を含有する。例えば、C-C10は、基がその中に2~10(含める)個の炭素原子を有していてもよいことを示す。これは、C2、C、C、C、C、C、C、C又はC10アルケニルを有することを意味する。用語「低級アルケニル」は、C-Cアルケニル鎖を意味する。これは、C2、C、C、C、C、C又はC低級アルケニルを有することを意味する。いかなる数字の指定もない場合、「アルケニル」は、その中に2~20個(含める)の炭素原子を有する鎖(直鎖状又は分岐状)である。
【0019】
オレフィン基には、例えば、エテニル、プロペニル、ブテニル、1-メチル-2-ブテン-1-イルなどが含まれ、1又は2以上の置換基を有していてもよい。オレフィン基置換基には、限定はしないが、安定した部分の形成を生じる本明細書で記載した置換基のいずれかが含まれる。置換基の例には、限定はしないが、以下の基、脂肪族、アルキル、オレフィン、アルキニル、ヘテロ脂肪族、複素環、アリール、ヘテロアリール、アシル、オキソ、イミノ、チオオキソ、シアノ、イソシアノ、アミド、アジド、ニトロ、ヒドロキシル、チオール、ハロ、脂肪族アミノ、ヘテロ脂肪族アミノ、アルキルアミノ、ヘテロアルキルアミノ、アリールアミノ、ヘテロアリールアミノ、アルキルアリール、アリールアルキル、脂肪族オキシ、ヘテロ脂肪族オキシ、アルキルオキシ、ヘテロアルキルオキシ、アリールオキシ、ヘテロアリールオキシ、脂肪族チオキシ、ヘテロ脂肪族チオキシ、アルキルチオキシ、ヘテロアルキルチオキシ、アリールチオキシ、ヘテロアリールチオキシ、アシルオキシなどが含まれ、それぞれはさらに置換されていてもよく、又は置換されていなくてもよい。
【0020】
用語「アルキル基」には、その意味内に1~10個の炭素原子、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個の炭素原子を有する1価(「アルキル」)及び2価(「アルキレン」)の直鎖状又は分岐状の飽和脂肪族基を含む。例えば、用語アルキルには、限定はしないが、メチル、エチル、1-プロピル、イソプロピル、1-ブチル、2-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、アミル、1,2-ジメチルプロピル、1,1-ジメチルプロピル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、4-メチルペンチル、1-メチルペンチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、1,2-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、1,2,2-トリメチルプロピル、1,1,2-トリメチルプロピル、2-エチルペンチル、3-エチルペンチル、ヘプチル、1-メチルヘキシル、2,2-ジメチルペンチル、3,3-ジメチルペンチル、4,4-ジメチルペンチル、1,2-ジメチルペンチル、1,3-ジメチルペンチル、1,4-ジメチルペンチル、1,2,3-トリメチルブチル、1,1,2-トリメチルブチル、1,1,3-トリメチルブチル、5-メチルヘプチル、1-メチルヘプチル、オクチル、ノニル、デシルなどが含まれる。
【0021】
用語「アルケニル基」には、その意味内に2~10個の炭素原子、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個の炭素原子を有し、適切ならばアルキル鎖内のいずれかに、E、Z、シス若しくはトランス立体化学のいずれかの少なくとも1個の2重結合を有する1価(「アルキル」)及び2価(「アルケニレン」)の直鎖状又は分岐状の不飽和脂肪族炭化水素基が含まれる。アルケニル基の例には、限定はしないが、エテニル、ビニル、アリル、1-メチルビニル、1-プロペニル、2-プロペニル、2-メチル-1-プロペニル、2-メチル-1-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1,3-ブタジエニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、1,3-ペンタジエニル、2,4-ペンタジエニル、1,4-ペンタジエニル、3-メチル-2-ブテニル、1-ヘキセニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、1,3-ヘキサジエニル、1,4-ヘキサジエニル、2-メチルペンテニル、1-ヘプテニル、2-ヘプテニル、3-ヘプテニル、1-オクテニル、1-ノネニル、1-デセニルなどが含まれる。
【0022】
本明細書では、用語「アルキニル基」には、その意味内に2~10個(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個)の炭素原子を有し、炭素鎖内のいずれかに少なくとも1個の3重結合を有する1価(「アルキニル」)及び2価(「アルキニレン」)の直鎖状又は分岐状の不飽和脂肪族炭化水素基が含まれる。アルキニル基の例には、限定はしないが、エチニル、1-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、1-メチル-2-ブチニル、3-メチル-1-ブチニル、1-ペンチニル、1-ヘキシニル、メチルペンチニル、1-ヘプチニル、2-ヘプチニル、1-オクチニル、2-オクチニル、1-ノニル、1-デシニルなどが含まれる。
【0023】
本明細書では、用語「シクロアルキル基」とは、環式飽和脂肪族基を意味し、その意味内に3~10個の炭素原子、例えば、3、4、5、6、7、8、9又は10個の炭素原子を有する1価(「シクロアルキル」)及び2価(「シクロアルキレン」)の飽和単環式、2環式、多環式又は融合多環式炭化水素ラジカルを含む。シクロアルキル基の例には、限定はしないが、シクロプロピル、2-メチルシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、2-メチルシクロペンチル、3-メチルシクロペンチル、シクロヘキシルなどが含まれる。
【0024】
本明細書では、用語「ヘテロシクロアルキル」には、その意味内に、3~10個の環原子、例えば、3、4、5、6、7、8、9又は10個の環原子を有し、1~5個の環原子(例えば、1、2、3、4又は5個の環原子)がO、N、NH若しくはSから選択されるヘテロ原子である1価(「ヘテロシクロアルキル」)及び2価(「ヘテロシクロアルキレン」)の飽和単環式、2環式、多環式又は融合炭化水素ラジカルが含まれる。例には、ピロリジニル、ピペリジニル、キヌクリジニル、アゼチジニル、モルホリニル、テトラヒドロチオフェニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニルなどが含まれる。
【0025】
本明細書では、用語「ヘテロ芳香族基」及び「ヘテロアリール」又は「ヘテロアリーレン」などのバリアントには、その意味内に、6~20個の原子、例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20個の原子を有し、1~6個の原子(例えば、1、2、3、4、5又は6個の原子)がO、N、NH及びSから選択されるヘテロ原子である1価(「ヘテロアリール」)及び2価(「ヘテロアリーレン」)の単核、多核、複合及び融合芳香族ラジカルが含まれる。このような基の例には、ピリジル、2,2’-ビピリジル、フェナントロリニル、キノリニル、チオフェニルなどが含まれる。
【0026】
本明細書では、用語「ハロゲン」又は「ハライド」若しくは「ハロ」などのバリアントは、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素を意味する。
【0027】
本明細書では、用語「ヘテロ原子」又は「ヘテロ-」などのバリアントはO、N、NH及びSを意味する。
【0028】
本明細書では、用語「アルコキシ」とは、直鎖状又は分岐状アルキルオキシ基を意味する。例には、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、t-ブトキシなどが含まれる。
【0029】
本明細書では、用語「アミノ」とは、式-NR(R及びRは個々に、限定はしないが、水素、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいアルケニル、置換されていてもよいアルキニル及び置換されていてもよいアリール基を含む群から選択される)の基を意味する。
【0030】
本明細書では、用語「芳香族基」又は「アリール」若しくは「アリーレン」などのバリアントは、6~10個(例えば、6、7、8、9又は10個)の炭素原子を有する芳香族炭化水素の1価(「アリール」)及び2価(「アリーレン」)の単核、多核、複合及び融合残基を意味する。このような基の例には、フェニル、ビフェニル、ナフチル、フェナントレニルなどが含まれる。
【0031】
本明細書では、用語「アラルキル」には、その意味内に、2価の飽和した直鎖状及び分岐状アルキレンラジカルに結合した1価(「アリール」)及び2価(「アリーレン」)の単核、多核、複合及び融合芳香族炭化水素ラジカルが含まれる。
【0032】
本明細書では、用語「ヘテロアラルキル」には、その意味内に、2価の飽和した単鎖状及び分岐状アルキレンラジカルに結合した1価(「ヘテロアリール」)及び2価(「ヘテロアリーレン」)の単核、多核、複合及び融合芳香族炭化水素ラジカルが含まれる。
【0033】
本明細書では、用語「置換されていてもよい」とは、この用語が意味する基が置換されていなくてもよく、又は、限定はしないが、アルキル、アルケニル、アルキニル、チオアルキル、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、ハロ、カルボキシル、ハロアルキル、ハロアルキニル、ヒドロキシル、アルコキシ、チオアルコキシ、アルケニルオキシ、ハロアルコキシ、ハロアルケニルオキシ、ニトロ、アミノ、ニトロアルキル、ニトロアルケニル、ニトロアルキニル、ニトロヘテロシクリル、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルケニルアミン、アルキニルアミノ、アシル、アルケノイル、アルキノイル、アシルアミノ、ジアシルアミノ、アシルオキシ、アルキルスルホニルオキシ、ヘテロシクロキシ、ヘテロシクロアミノ、ハロヘテロシクロアルキル、アルキルスルフェニル、アルキルカルボニルオキシ、アルキルチオ、アシルチオ、ホスホノ及びホスフィニルなどのリン含有基、アリール、ヘテロアリール、アルキルアリール、アルキルヘテロアリール、シアノ、シアネート、イソシアネート、-C(O)NH(アルキル)及び-C(O)N(アルキル)から独立して選択される1又は2以上の基で置換されていてもよいことを意味する。
【0034】
本明細書には、ジアステレオマー異性体、ラセミ体及び鏡像異性体全てを含む本明細書で開示した化合物の異性体全てが含まれる。したがって、本明細書で開示したペプチドは、それぞれの場合で適切ならば、例えば、限定はしないが、化合物のE、Z、シス、トランス、(R)、(S)、(L)、(D)、(+)及び/又は(-)型を含むものと理解されたい。
【0035】
用語「置換された」とは、「置換された」を使用した表現で示した基の1又は2以上(例えば、1、2、3、4又は5個、一部の実施形態では、1、2又は3個、その他の実施形態では1又は2個)の水素原子が、指定される有機若しくは無機基から選択したもの、又は当業者に公知の適切な有機若しくは無機基で置換されていることを示すものとするが、但し、指定される原子の通常の価を超過せず、置換によって安定した化合物が生じる。適切な指定される有機又は無機基には、例えば、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、ハロ、ハロアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロサイクル、シクロアルキル、アルカノイル、アルコキシカルボニル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、トリフルオロメチルチオ、ジフルオロメチル、アシルアミノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、カルボキシ、カルボキシアルキル、ケト、チオキソ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、アルキルスルホニル、アルキルシリル及びシアノが含まれる。さらに、適切な指定される基には、例えば、-X、-R、-O-、-OR、-SR、-S-、-NR、-NR、=NR、-CX、-CN、-OCN、-SCN、-N=C=O、-NCS、-NO、-NO、=N、-N、NC(=O)R、-C(=O)R、-C(=O)NRR、-S(=O)O-、-S(=O)OH、-S(=O)R、-OS(=O)OR、-S(=O)NR、-S(=O)R、-OP(=O)ORR、-P(=O)O、RR-P(=O)(O-)、-P(=O)(OH)、-C(=O)R、-C(=O)X、-C(S)R、-C(O)OR、-C(O)O-、-C(S)OR、-C(O)SR、-C(S)SR、-C(O)NRR、-C(S)NRR、-C(NR)NRRを含めることができ、各Xは独立して、ハロゲン(又は「ハロ」基):F、Cl、Br又はIであり、各Rは独立して、H、アルキル、アリール、ヘテロサイクル、保護基又はプロドラッグ部分である。当業者によって容易に理解されるように、置換基がケト(すなわち、=O)又はチオキソ(すなわち、=S)などの時、置換された原子上の2つの水素原子は置換されている。
【0036】
化合物は、1又は2以上の不斉中心を含有していてもよく、したがって、ラセミ体及びラセミ混合物、単一の鏡像異性体、個々のジアステレオマー及びジアステレオマー混合物が生じる。これらの化合物のこのような異性体全てが含まれることは明白である。化合物はまた、複数の互変異性体であってもよく、このような場合、本明細書で記載した化合物の互変異性体全てが含まれることは明白である(例えば、環系のアルキル化は複数の部位でアルキル化が生じていてもよく、このような反応生成物全てが含まれることは明白である)。このような化合物のこのような異性体型全てが含まれることは明白である。本明細書で記載した化合物の結晶型全てが含まれることは明白である。
【0037】
本明細書で開示したペプチドをコードする単離された核酸分子を提供する。さらに、本開示はまた、本明細書で開示したペプチドの鋳型として役立つペプチドをコードしている核酸分子を提供する。遺伝子コードの縮重によって、ある種のコドンを、同じアミノ酸を指定し、したがって同じタンパク質を生じるその他のコドンによって置換することが可能であるため、本開示は、特定の核酸分子に限定はしないが、ペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子全てを含む。核酸分子によってコードされるペプチドは、本明細書で記載したクロスリンクしたペプチドを得るために化学的又は酵素的に修飾することができる。
【0038】
本明細書で開示した核酸分子は、本明細書で開示したペプチドの鋳型として役立つペプチドをコードし、前記核酸分子を発現できるように調節配列に操作可能に連結された、ヌクレオチド配列を含んでいてもよい。DNAなどの核酸分子は、転写及び翻訳情報を含有する調節ヌクレオチド配列を含有し、このような配列がポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に「操作可能に連結」されている場合、「核酸分子若しくはコーディングヌクレオチド配列を発現することができる」、又は「ヌクレオチド配列を発現させることができる」と見なされる。操作可能な連結とは、調節DNA配列及び発現することが求められるDNA配列が遺伝子配列発現を可能にするようにつながれた連結である。遺伝子配列発現に必要な調節領域の正確な性質は、生物ごとに様々である可能性があるが、一般的に、原核生物では、プロモーターのみ、又はRNA転写の開始を導くプロモーター及びRNAに転写されたとき合成開始のシグナルを出すDNA配列の両方を含有するプロモーター領域が含まれる。このような領域は通常、発現するヌクレオチド配列の5’及び3’に位置し、TATAボックス、キャッピング配列及びCAAT配列などの転写及び翻訳の開始に関与する非コード領域を含む。これらの領域はまた、例えば、前述のペプチドを産生するために使用される宿主細胞の特定の区画に産生されたポリペプチドを標的化するために、エンハンサー配列又は翻訳されたシグナル及びリーダー配列を含有することができる。
【0039】
本明細書で開示したペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子は、ベクター、例えば、発現ベクターに含めることができる。このようなベクターは、前述の調節配列及び前述のペプチドをコードする核酸配列の他に、ペプチドをコードする核酸配列の5’及び/又は3’方向に隣接して、制限切断部位をコードする配列を含むことができる。このベクターはまた、発現するタンパク質又はタンパク質部分をコードする別の核酸配列の導入を可能にする。好ましくは、発現ベクターはまた、発現に使用される宿主に適合した種から得られた複製部位及び制御配列を含有する。発現ベクターは、pBR322、puC16、pBluescriptなどの当業者に周知のプラスミドをベースにすることができる。
【0040】
核酸分子を含有するベクターは、遺伝子を発現することができる宿主細胞に形質転換することができる。形質転換は、標準的技術に従って実施することができる。したがって、本開示はまた、上記で定義した核酸分子を含有する(組換体)宿主細胞を対象とする。この場合、形質転換された宿主細胞は、前述したようなペプチドをコードするヌクレオチド配列の発現に適した条件下で培養することができる。宿主細胞を確立し、適応させ、無血清条件下で、動物由来のいかなるタンパク質/ペプチドも含まない培地中であってもよいが、完全に培養することができる。RPMI-1640(Sigma社)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Sigma社)、基礎培地(MEM;Sigma社)、CHO-S-SFMII(Invitrogen社)、無血清CHO培地(Sigma社)及びタンパク質を含まないCHO培地(Sigma社)などの市販の培地は、模範的で適切な栄養溶液である。いかなる培地にも必要ならば様々な化合物を補給してもよく、その例は、ホルモン及び/又はその他の成長因子(インスリン、トランスフェリン、上皮成長因子、インスリン様成長因子など)、塩(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、リン酸など)、緩衝液(HEPESなど)、ヌクレオシド(アデノシン、チミジンなど)、グルタミン、グルコース又はその他の同等のエネルギー源、抗生物質、微量元素である。当業者に公知のいかなるその他の必要な補給物も適切な濃度で含めることができる。
【0041】
用語「薬学的に許容される塩」とは、前述のペプチドの生理学的及び薬学的に許容される塩、すなわち、ペプチドの望ましい生物学的活性を保持し、望ましくない毒物学的効果をもたらさない塩を意味する。このような薬学的に許容される塩の例には、限定はしないが、(a)ナトリウム、カリウム、アンモニア、マグネシウム、カルシウムなどのカチオン、スペルミン及びスペルミジンなどのポリアミンなどで形成した塩、(b)無機酸、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸などで形成した酸添加塩、(c)例えば、酢酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルコン酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、安息香酸、タンニン酸、パルミチン酸、アルギン酸、ポリグルタミン酸、ナフタレンスルホン酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、ポリガラクツロン酸などの有機酸で形成した塩、並びに(d)限定はしないが、塩素、臭素及びヨウ素などの元素の陰イオンで形成した塩が含まれる。
【0042】
本明細書で定義した「治療(therapeutic)」化合物とは、衰弱した、及び/又は不健康な状態の進行を防ぐために予防的に作用することができる、並びに/或いは疾患状態及び/又は疾患状態の症状、及び衰弱した、及び/又は不健康な状態を軽減又は排除するために十分な量のその複合体又は医薬組成物又はその医薬品を患者に提供することができる化合物(又は薬剤又は分子又は組成物)である。したがって、一例では、特許請求した化合物で対象を治療する方法は、前記化合物を治療有効量で投与することを含むことができる。
【0043】
用語「治療(treatment)」とは、疾患状態又は症状を治療し、疾患の確立を防ぎ、そうでなければ、疾患の進行又はその他の所望しない症状を何であれ予防、妨害、遅延又は回復させる、ありとあらゆる使用を意味する。
【0044】
本明細書では、用語「治療する(treat)」又は「治療すること(treating)」は、衰弱した、及び/又は不健康な状態の進行を防ぐために予防的に作用するために十分な薬学的に有効な量のペプチド又はそれらの医薬組成物又は医薬品それぞれを提供すること、並びに/或いは疾患状態及び/又は疾患状態の症状、及び衰弱した、及び/又は不健康な状態を軽減又は排除するために十分な量のその複合体又は医薬組成物又は医薬品を対象に提供することを意味するものとする。
【0045】
本発明の場合、用語「治療有効量」及び「診断有効量」には、その意味内に、所望する治療又は診断効果を提供するために十分であるが非毒性の、化合物又は組成物の量が含まれる。必要とされる正確な量は、治療する種、対象の年齢及び全身状態、治療する状態の重症度、投与する特定の薬剤、投与形式などの要素に応じて、対象ごとに変化する。したがって、正確な「有効量」を特定することはできない。しかし、所与のいかなる場合でも、適切な「有効量」は、通常の実験のみを使用して当業者の1人が決定することができる。
【0046】
本明細書では、用語「低発現」とは、疾患を有さない、又は健康である患者から単離された、又は培養された細胞において見いだされるレベル未満のp53を含む複合体におけるタンパク質の発現レベルを意味する。例えば、p53の阻害は、細胞が、同じ組織学的、形態学的、物理的及び生物学的特性を有する同じ群、例えば、限定はしないが、肝細胞、表皮細胞及び肺細胞に属する、患者の非がん細胞又は健康な患者から単離された細胞におけるp53の発現レベルと比較して、がん患者から単離されたがん細胞で見いだすことができる。
【0047】
本明細書では、用語「阻害」とは、疾患、病気、又はいかなる不具合も有さない健康な患者から単離された、又は培養された細胞で見いだされるレベル未満のp53を含む複合体におけるタンパク質の酵素的、生物学的、動力学的又はいかなる測定可能な活性のレベルを意味する。例えば、p53の阻害は、細胞が同じ組織学的、形態学的、物理的及び生物学的特性を有する同じ群に属する、患者の非がん細胞又は健康な患者から単離された細胞におけるp53タンパク質の活性レベルと比較して、がん患者から単離されたがん細胞で見いだすことができる。
【0048】
本開示の場合、用語「投与すること(administering)」及び「投与する(administer)」及び「投与(administration)」を含むこの用語の変化形は、化合物又は組成物を生物又は表面に任意の適切な手段によって接触、適用、送達又は提供することを含む。
【0049】
本発明の詳細な説明
P53:Mdm2相互作用の阻害は興味深い治療標的である。この相互作用をブロックすることができる分子は、Mdm2の2つの阻害活性、すなわち、N末端p53トランス活性化ドメインの遮蔽及びユビキチン化及びプロテアソーム分解のためのp53の標的化をブロックすることによって、p53応答を活性化することができる。このような分子は、p53野生型腫瘍細胞においてp53機能を再活性化するために使用することができる。腫瘍抑制タンパク質p53は、細胞周期停止、アポトーシス又は老化の誘導によって様々なストレスシグナルに対して細胞応答を調整するのに欠かせない役割を有する転写因子である。p53の活性は、E3-ユビキチンリガーゼMdm2によって調節される。Mdm2は、全般的な転写機構との相互作用を妨害し、ユビキチン媒介分解のためにp53を標的とすることによってp53を阻害する。Mdm2は、少なくとも2つの領域によってp53と相互作用し、p53のN末端はMdm2のN末端ドメインと相互作用し、p53のDNA-結合ドメインはMdm2の酸性ドメインと相互作用する。Mdm2は、多くのがんで過剰発現しており、p53野生型(WT)腫瘍におけるp53ネットワークの不活性化の主要な原因の1つと考えられる。
【0050】
ペプチド模倣薬はeIF4E:eIF4G相互作用を標的とする代替的な取り組みである。天然状態のタンパク質はヘリックス、シート及びターンなどの2次構造の領域に折り畳まれる。アルファヘリックスは、タンパク質に見いだされる最も一般的な構造モチーフの1つで、多くの生物学的に重要なタンパク質相互作用は1タンパク質のα-ヘリックス領域と別のタンパク質との相互作用によって媒介される。さらに、α-ヘリックスは、ランダムコイルをほどいたり、形成したりする傾向があり、ほとんどの場合、生物学的あまり活性はないか、又は全く活性がなく、標的に対する親和性は低く、細胞取込は少なく、タンパク質分解を非常に受けやすい。したがって、本明細書で記載したペプチドは、p53活性化及びタンパク質-タンパク質相互作用アッセイにおいて、p53野生型配列から得られた化合物よりも大きな効力を表す。例として、Mdm2/Mdm4に結合し、p53応答を活性化するためのペプチド及びクロスリンクしたペプチドの非限定的実施形態を本明細書に挙げる。
【0051】
したがって、P53:Mdm2相互作用の阻害は興味深い治療標的である。この相互作用のアンタゴニストは、Mdm2の2つのp53阻害活性、すなわち、N末端p53トランス活性化ドメインの遮蔽及びユビキチン化及びプロテアソーム分解のためのp53の標的化をブロックすることによって、p53応答を活性化することができる。この活性化は、次に、p53の転写活性を安定化して活性化し、細胞死又はG1/G2細胞周期停止を導くことが示された。p53:Mdm2相互作用アンタゴニストの第2の有望な治療適用は、サイクロセラピー(cyclotherapy)であり、正常な増殖細胞において可逆的な細胞周期停止を誘導する能力によって、これらの組織を細胞毒性のある化学療法及び電離放射線から選択的に保護することができ、こうして、副作用の少ないp53ヌル又はp53ミュータント腫瘍の治療を可能にする。したがって、一例では、本開示は本明細書で記載したようなペプチドの投与について記載し、前記ペプチドの投与によって非がん性増殖細胞における可逆的な細胞周期停止を誘導する。
【0052】
p53とMdm2のこの相互作用を阻害する数種の分子が開発された。これらの分子は、Mdm2のN末端p53結合ドメインとの相互作用に欠かせないp53N末端の配列の1区画の保存された残基を模倣している。この短い配列は結合するとα-ヘリックスを形成し、Mdm2結合モチーフ(FXXXWXXL)の3個の保存された残基がMdm2及び相同Mdm4タンパク質の表面に位置する疎水性結合溝に最適に埋め込まれるようにする。したがって、一例では、本開示は、少なくとも4アミノ酸長、少なくとも5アミノ酸長、少なくとも6又は7アミノ酸長以上、4~15アミノ酸長、5~10アミノ酸長、10~15アミノ酸長、約4アミノ酸長、約5アミノ酸長、約6アミノ酸長、約7アミノ酸長、約8アミノ酸長、約9アミノ酸長、約10アミノ酸長、約11アミノ酸長、約12アミノ酸長、約13アミノ酸長、約14アミノ酸長又は約15アミノ酸長のペプチドについて記載する。別の例では、ペプチドは任意のリンカーを有さず、任意のリンカーを含まないか、リンカーを含まないペプチドである。別の例では、ペプチドは1個の任意のリンカーを含む。一例では、ペプチド(任意のリンカーを含まない)は4~15アミノ酸長である。別の例では、リンカーを含まないペプチドは4~15アミノ酸長である。
【0053】
野生型p53配列から得られたステープルペプチドはMdm2及びMdm4に結合し、細胞中でp53応答を活性化することが報告された。しかし、野生型p53ペプチド(E1TFSDLWKLLP11E;配列番号26)はMdm2/Mdm4に低い親和性であることが報告されており(それぞれ452±11nM及び646±26nM)、多くのその他のタンパク質と相互作用することが知られているp53の領域に由来する。詳細な研究では、Mdm2に高い親和性で結合する直鎖状ペプチドを選択するためにファージディスプレイを使用した。しかし、P12位のプロリンは、Mdm2:ペプチド複合体の結晶構造の電子密度マップでは認められず、Mdm2への結合には不可欠ではない。このように、野生型p53ペプチドの修飾を実施する。したがって、一例では、本開示は、TSFXaa1EYWXaa3LLXaa2のアミノ酸配列を含む、又は上記アミノ酸配列からなるペプチドについて記載する。さらに別の例では、ペプチドは、TSFXaa1EYWXaa3LLXaa2のアミノ酸配列を含む、又は上記アミノ酸配列からなる。一例では、Xaa1は(R)-2-(7’-オクテニル)アラニン若しくはその誘導体であるか、又は(R)-2-(4’-ペンテニル)アラニン若しくはその誘導体である。別の例では、Xaa1は(R)-2-(7’-オクテニル)アラニン若しくはその誘導体であるか、又は(R)-2-(4’-ペンテニル)アラニン若しくはその誘導体であってもよく、Xaa2及びXaa3は独立して任意の種類のアミノ酸若しくは修飾アミノ酸であってもよい。一例では、Xaa3は、限定はしないが、A又は(R)-2-(4’-ペンテニル)アラニン若しくは(R)-2-(4’-ペンテニル)アラニンの誘導体であってもよい。別の例では、Xaa2は、限定はしないが、S又はP、又は(S)-2-(4’-ペンテニル)アラニン若しくは(S)-2-(4’-ペンテニル)アラニンの誘導体であってもよい。別の例では、Xaa3は、N又はA、又は(R)-2-(4’-ペンテニル)アラニン若しくは(R)-2-(4’-ペンテニル)アラニンの誘導体であってもよい。さらに別の例では、Xaa3は、限定はしないが、N又はA、又は(R)-2-(4’-ペンテニル)アラニン若しくは(R)-2-(4’-ペンテニル)アラニンの誘導体であってもよく、Xaa3がNの場合、Xaa1はAではなく、及び/又はXaa2はSではない。さらに別の例では、Xaa3は、A又は(R)-2-(4’-ペンテニル)アラニン若しくは(R)-2-(4’-ペンテニル)アラニンの誘導体であってもよい。別の例では、本明細書で開示したように、ペプチドはさらに、C末端(すなわち、例えば、Xaa2)に結合したアミノ酸-ENXaa5を含む配列を含み、TSFXaa1EYWXaa3LLXaa2ENXaa5を生じていてもよい。一例では、Xaa5はF又はYであってもよい。別の例では、Xaa5はFである。さらに別の例では、Xaa5はYである。別の例では、ペプチドは、TSFXaa1EYWXaa3LLXaa2のアミノ酸配列を含むか、又は上記アミノ酸配列からなっていてもよく、Xaa1、Xaa2及びXaa3は独立して任意の種類のアミノ酸若しくは修飾アミノ酸から選択され、ペプチドのN末端(例えば、T)はリンカーに結合し、その結果、細胞膜の完全性を乱さない分子が生じる。
【0054】
別の例では、ペプチドは、式I
【0055】
【化1】
【0056】
又は、式II
【0057】
【化2】
【0058】
による配列を含んでいてもよく、式中、置換基は以下に定義するとおりである。この定義は、本明細書で記載した置換基の組合せも含むものと理解される。一例では、Rは-C(OH)CH[T]である。別の例では、Rは-CHOH[S]である。さらに別の例では、Rはベンジル[F]である。別の例では、R及びR11は独立して、限定はしないが、H、又はC-C10アルキル、又はアルケニル、又はアルキニル、又はアリールアルキル、又はシクロアルキルアルキル、又はヘテロアリールアルキル、又はヘテロシクリルアルキルから選択される。別の例では、Rは-(CHC(O)OH[E]である。他の例では、Rは-CH-フェニル-OH[Y]である。さらに別の例では、RはTrp(トリプトファン)の側鎖である。別の例では、RはTrp(トリプトファン)の側鎖であり、Trp(トリプトファン)のCは水素又はハロゲンで置換されている。別の例では、Trpは独立してL又はD光学異性体であってもよい。さらに別の例では、Rは任意のアミノ酸の側鎖である。一例では、R及びR10は-CHCH(CH[L]である。別の例では、Rはアルキル、アルケニル、アルキニル;[R’-B-R”]であり、それぞれは0~6個のR12で置換されていてもよい。したがって、一例では、R’及びR”は独立して、限定はしないが、アルキレン、アルケニレン又はアルキニレンであってもよい。別の例では、各R12は独立して、限定はしないが、ハロ、アルキル、OR13、N(R13、SR13、SOR13、SO13、CO13、R13、蛍光部分又は放射性同位元素であってもよい。さらに別の例では、Bは独立して、限定はしないが、O、S、SO、SO、CO、CO又はCONR13から選択される。別の例では、各R13は独立して、H、アルキル又は治療薬であってもよい。さらに別の例では、nは1~4の整数(例えば、1、2、3又は4)である。別の例では、R及びR11は独立して、H又はC-Cアルキルである。別の例では、Rは直鎖状アルキル、アルケニル又はアルキニルであってもよい。さらに別の例では、RはCアルキル又はC11アルキルである。他の例では、Rはアルケニルである。他の例では、RはCアルケニル又はC11アルケニルである。さらに別の例では、R、R、R、R、R、R、R、R、R10は既に定義したとおりであり、R及びR11はHであり、RはC11アルケニルである。
【0059】
別の例では、本開示は、式III
【0060】
【化3】
【0061】
又は、式IV
【0062】
【化4】
【0063】
で示した配列を含むペプチドについて記載し、式中、置換基は以下に定義するとおりである。この定義は、記載した置換基の組合せも含むものと理解される。一例では、R~R11は本明細書で定義したとおりである。別の例では、各R13は独立して、限定はしないが、ハロ、アルキル、OR14、N(R14、SR14、SOR14、SO14、CO14、R14、蛍光部分又は放射性同位元素から選択される。別の例では、Bは独立して、限定はしないが、O、S、SO、SO、CO、CO又はCONR14から選択される。さらに別の例では、各R14は独立して、H、アルキル又は治療薬であってもよい。さらに別の例では、nは1~4の整数である。他の例では、R12は-(CHC(O)OH[E]である。さらに別の例では、R15は-CHC(O)NH[N]である。一例では、R16は独立してベンジル[F]又は-CH-フェニル-OH[Y]のいずれかである。別の例では、ペプチドは、限定はしないが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9及び配列番号10から選択される配列を含む。
【0064】
さらに別の例では、本開示は、式V
【0065】
【化5】
【0066】
又は、式VI
【0067】
【化6】
【0068】
の配列を含むペプチドについて記載し、式中、置換基は以下に定義するとおりである。この定義は、記載した置換基の組合せも含むものと理解され、置換基は本明細書で記載したとおりである。
【0069】
一例では、本明細書で開示したペプチドは少なくとも1個、少なくとも2個又はそれ以上のハロゲンを含んでいてもよい。別の例では、ペプチドは、約1、約2、約3、約4又は約5個のハロゲンを含む。一例では、本明細書で開示したペプチドのWは、限定はしないが、F又はCl又はBr又はIから独立して選択される1又は2以上のハロゲンを付加することによって修飾することができる。他の例では、ハロゲンはClである。別の例では、Wは本明細書で記載したようにペプチドの7位にある。別の例では、本明細書で記載したようなペプチドの7位にあるWは、例えば、ハロゲンを付加することによって修飾する。別の例では、本明細書で記載したようなペプチドの7位にあるWは、例えば、WのC位にハロゲンを付加することによって修飾する。別の例では、Wは独立してL又はD光学異性体であってもよい。
【0070】
本開示はまた、例えば、14アミノ酸長のペプチドについて記載する。一例では、ペプチドは、TSFXaa1EYWXaa3LLXaa2ENXaa5のアミノ酸配列を含むか、又は上記アミノ酸配列からなる。一例では、Xaa1及びXaa3は任意の種類のアミノ酸又は修飾アミノ酸である。別の例では、Xaa2は、限定はしないが、S又はP、又は(S)-2-(4’-ペンテニル)アラニン若しくは(S)-2-(4’-ペンテニル)アラニンの誘導体から選択される。さらに別の例では、Xaa5はF又はYであってもよい。他の例では、ペプチドはTSFXaa1EYWXaa3LLXaa2ENXaa5のアミノ酸配列を含む、又は上記アミノ酸配列からなり、Xaa1及びXaa3は任意の種類のアミノ酸若しくは修飾アミノ酸であり、Xaa2は、限定はしないが、S又はP又は(S)-2-(4’-ペンテニル)アラニン若しくは(S)-2-(4’-ペンテニル)アラニンの誘導体から選択され、Xaa5はF又はYである。一例では、Xaa3は、限定はしないが、N又はA、又は(R)-2-(4’-ペンテニル)アラニン若しくは(R)-2-(4’-ペンテニル)アラニンの誘導体から選択される。さらに別の例では、Xaa3がNの場合、Xaa1はAではなく、及び/又はXaa2はSではない。別の例では、Xaa3はN又はA、又は(R)-2-(4’-ペンテニル)アラニン若しくは(R)-2-(4’-ペンテニル)アラニンの誘導体であり、Xaa3がNの場合、Xaa1はAではなく、及び/又はXaa2はSではない。一例では、Xaa1は(R)-2-(7’-オクテニル)アラニン若しくはその誘導体であるか、又は(R)-2-(4’-ペンテニル)アラニン若しくはその誘導体である。別の例では、Xaa3は、A又は(R)-2-(4’-ペンテニル)アラニン若しくは(R)-2-(4’-ペンテニル)アラニンの誘導体である。
【0071】
Mdm2:p53相互作用の少なくとも4つの低分子アンタゴニストは、臨床試験の適用状態まで開発された:RG-7388、MI-888、AMG232及びSAR。これらの低分子アンタゴニストはそれぞれ、Mdm2のN末端p53結合ドメインとの相互作用に欠かせないp53N末端の領域の保存された残基を模倣している。このN末端領域は結合によってα-ヘリックスを形成し、Mdm2結合エピトープ(F19SDLW23KLL26;配列番号24)の3個の保存された残基によって、Mdm2及び相同Mdm4タンパク質に位置するコグネイト疎水性結合溝に最適に埋め込まれるようになる。
【0072】
タンパク質:タンパク質相互作用の低分子アンタゴニストを開発する代替的な取り組みは、受容体のコグネイト部位に競合的に結合することができる連続したエピトープに対応する短い直鎖状ペプチドを合成することである。このような短い直鎖状ペプチドはまた、親和性を実現するために標準化学によって容易に修飾することができる。これらは、例えば、標的の任意の1つのアミノ酸の変異が親和性に大きな影響を及ぼす可能性が低くなるような、標的に対する多数の接触、並びに構造及び立体構造のわずかな変化によってペプチドが結合部位の変異を打ち消すことができるようにする固有の柔軟性のおかげで、本質的に結合部位において耐性変異を生じにくくなり得るという証拠もある。
【0073】
しかし、低分子とは異なり、直鎖状ペプチドはタンパク質分解切断を受けやすく、標的に結合する前に明確な立体構造が欠如しており、細胞透過性が不十分である。ペプチドの生理活性構造がα-ヘリックスである場合、これらの欠点は、α-ヘリックスペプチドの特定の表面に曝露している残基の側鎖を、適切な共有結合を導入することによって連結する化学ステープリングとして知られている方法によって克服することができる。いくつかのステープルペプチドは、Mdm2と共結晶化されたことがあり、疎水性ステープルはまた標的の表面と相互作用し、Mdm2結合エピトープの3つの保存された残基によって媒介される相互作用を増大することが明らかになった。
【0074】
多くのタンパク質-タンパク質相互作用は、結合したとき界面のα-ヘリックスを形成するタンパク質の連続した区域に関与する。有利なことに、この立体構造はさらに、ヘリックスに隣接したターンに連結した、炭化水素のみの大環状架橋からなるステープリングとして知られている化学的方法によって安定化することができる。ステープリングペプチドは、結合のエントロピーコストを低下させることによって親和性を増加させ、タンパク質分解安定性を改善することによってインビボにおける半減期を延長させ、最も注目に値すべきことに、効果的な細胞取込及び細胞内活性を可能にすることができる。したがって、本開示が、例えば、ステープリングによって、前述のペプチドの安定性、タンパク質分解切断からの保護及び細胞取込をさらに改善するために、Mdm2/Mdm4に対する親和性が高い前述のペプチドを有利に選択する。
【0075】
したがって、一例では、本開示は、本明細書で記載したペプチドについて記載し、このペプチドは、第1のアミノ酸Xaa1を第2のアミノ酸Xaa2に連結するクロスリンカーを有するクロスリンクしたペプチドであるか、又はこのペプチドは第1のアミノ酸Xaa1を第2のアミノ酸Xaa3に連結するクロスリンカーを有するクロスリンクしたペプチドであってもよい。一例では、このペプチドは第1のアミノ酸Xaa1を第2のアミノ酸Xaa2に連結するクロスリンカーを有するクロスリンクしたペプチドである。別の例では、このペプチドは第1のアミノ酸Xaa1を第2のアミノ酸Xaa3に連結するクロスリンカーを有するクロスリンクしたペプチドである。
【0076】
構造研究によってまた、Mdm2のペプチド結合ポケットは立体構造的に可塑性が高いことが示された。その未結合形態では、Mdm2の結合ポケットは、ペプチド又は低分子アンタゴニストのいずれかと複合したときよりもずっと狭い。その結合形態では、短いペプチド又は低分子阻害剤のいずれかと複合体を形成したとき、Mdm2結合ポケットはリッドのヘリックス「ヒンジ」領域(残基20~24、残基番号1のメチオニンから数える)によって取り囲まれる。しかし、より大きくてより嵩張る分子が「ヒンジ」ヘリックスを立体的に遮蔽し、この立体構造が取れなくなる。これによって、Mdm2の表面上のペプチド結合溝の開放及び拡大が生じる。ステープルペプチド、例えば、M06、Mdm2の強力な細胞透過性阻害剤は、「ヒンジ」ヘリックスが押しのけられていないMdm2と複合体を形成する。対照的に、野生型(WT)p53ペプチドはより長いMdm2結合配列を有し、それによって結合型ペプチドのC末端は延長した鎖構造を形成する。こうして、ヒンジ領域によって結合ポケットが取り囲まれると、立体的に閉じられなくなる。
【0077】
コンピュータ技術を使用すると、2つの相互作用ポケットは結合型M06:Mdm2複合体のC末端近くに同定され、ヒンジヘリックスは結合ポケットを取り囲んでいなかった。次に、野生型p53ペプチド及びsMTide-02と呼ばれるM06ペプチドバリアントは、M06のMdm2への親和性を増加させるために、これらの推定ポケットを利用するように論理的に伸長させた。次に、これらの設計戦略は、コンピュータによるモデリング及びシミュレーションを検証するために生物物理学的及び構造的に特徴付けられた。さらに、sMTIDEと称する新たなペプチドバリアントの細胞活性を次に試験した。これは、ステープルペプチドのMdm2への結合の最適化が細胞内活性を改善するかどうかを評価するために行った。次にこれらのペプチドバリアントは、正に荷電したN末端を付加することによって物理化学的特性を乱し、血清の存在下又は非存在下で生理活性の改善及びいかなる毒性副作用も注意深く評価することによって、さらに改善した。
【0078】
本開示は、改善された薬理学的特性を有し、ファージディスプレイライブラリーによって同定されたペプチドをベースにしている。本明細書で開示したようなペプチドは、最初のペプチドとしてファージディスプレイライブラリーから得られ、これらのペプチドはp53野生型配列から得られた阻害剤などのその他の阻害剤と比較したとき、Mdm2/Mdm4に対して強力な結合剤であることが実験的に証明されたので有利である。本明細書で開示した所見は、例えば、がんの治療における治療的応用のために、新たなMdm2/Mdm4阻害剤を設計するのに有用である。
【0079】
ステープルペプチドはアミノ酸の短い直鎖状配列であり、その2次構造は、配列の2点間の共有結合によって安定化されている。本明細書で開示したように、細胞の膜完全性を乱すことなくp53をさらに強力に活性化するペプチドが設計された。これらのペプチドは、毒性がずっと少なく、したがって治療上の開発により適しているだろう。また、本明細書で開示したペプチドは、異なる濃度で様々な細胞株に使用したとき、乳酸脱水素酵素(LDH)の測定できるほどの放出を誘導せず、Mdm2媒介阻害によってp53を活性化する能力を維持している。乳酸脱水素酵素は通常、組織が損傷を受けている最中に放出されるため、乳酸脱水素酵素の欠如は細胞膜がインタクトなままで、損傷を受けていないことを意味する。
【0080】
したがって、一例では、ペプチドは本明細書で記載したとおりであり、ペプチドのN末端(例えば、T)又はC末端(例えば、Xaa2)はリンカーに結合し、その結果、細胞膜の完全性を乱さない分子が生じる。別の例では、ペプチドのN末端(例えば、T)又はC末端(例えば、Xaa5)はリンカーに結合し、その結果、細胞膜の完全性を乱さない分子が生じる。さらに別の例では、ペプチドのN末端(例えば、T)はリンカーに結合し、その結果、細胞膜の完全性を乱さない分子が生じる。他の例では、ペプチドのC末端(例えば、Xaa2)はリンカーに結合し、その結果、細胞膜の完全性を乱さない分子が生じる。さらに別の例では、ペプチドのC末端(例えば、Xaa5)はリンカーに結合し、その結果、細胞膜の完全性を乱さない分子が生じる。
【0081】
ペプチドクロスリンカーは、結合前の溶液中におけるペプチドのらせん度を主に増加させるが、ペプチド:タンパク質界面での相互作用が最適でないとこれは損なわれることがある。論理的に設計されたペプチドでは、界面での充填効果を最適化し、結合した複合体を安定化し、溶液中でのヘリックスをさらに安定化することによって、このような制限は克服されるか、又は少なくとも改善された。例えば、本明細書で開示したいくつかのペプチドでは、クロスリンカーはらせん度を45%だけ誘導することができた。しかし、これは、2つのアミノ酸の間の(水素)H結合の形成によって、及びペプチドの別のアミノ酸の最適な充填相互作用によって補うことができる。対照的に、別のペプチド例では、結合するとき2つのアミノ酸の間の水素結合が失われ得るが、溶液中のより高いらせん度(63%)及び別のアミノ酸によるらせん結合型の安定化によって補われる。これは、これらの2つのペプチドから得られる結合のエンタルピー及びエントロピー値に反映され、第1のペプチド例はより好ましいエンタルピー成分を有し、第2のペプチド例はより好ましいエントロピー成分を有する。したがって、一例では、リンカーは共有結合リンカーである。別の例では、共有結合リンカーは、限定はしないが、炭化水素リンカーを含んでいてもよい。別の例では、リンカーはhexionicリンカーである。別の例では、リンカーはアミノヘキサン酸リンカーである。別の例では、リンカーは疎水性である。さらに別の例では、炭化水素リンカーは疎水性である。他の例では、炭化水素リンカーはAhx(アミノヘキサン酸)を含む。さらに別の例では、炭化水素リンカーはAc-RRR-Ahx(アセチル化-Arg-Arg-Arg-アミノヘキサン酸)の配列を含む。
【0082】
本開示はまた、本明細書で記載したように、任意のリンカーの一端又は両端のいずれかが修飾されていてもよいペプチドについて記載する。したがって、一例では、ペプチドは本明細書で記載したとおりで、配列Zが本明細書で定義したリンカーの未結合端に結合している。別の例では、Zのnは、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3若しくはそれ以上のアミノ酸長、又は1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8又は9又は10アミノ酸長であると定義される。一例では、Zは1又は2又は3である。別の例では、Zは1個の局在する正電荷を有する分子であってもよい。一例では、Zは、限定はしないが、ブチルアミン、アルギニン[R]又はリシン[K]であってもよい。一例では、Zはブチルアミンである。別の例では、Zはリシン[K]である。さらに別の例では、Zはアルギニン[R]である。
【0083】
本明細書で記載したリンカー配列及び本明細書で記載したようなZの配列は一緒になると、限定はしないが、Ac-KK-Ahx(アセチル化-Lys-Lys-アミノヘキサン酸)又はAc-RRR-Ahx(アセチル化-Arg-Arg-Arg-アミノヘキサン酸)の配列を含むことができる。一例では、リンカー及び配列Zは、Ac-KK-Ahx(アセチル化-Lys-Lys-アミノヘキサン酸)の配列を含むことができる。別の例では、リンカー及び配列Zは、Ac-RRR-Ahx(アセチル化-Arg-Arg-Arg-アミノヘキサン酸)の配列を含むことができる。
【0084】
ペプチドは、ペプチドのアルファヘリックス構造を著しく増強する2個の非天然(例えば、天然には存在しない、又は合成)のアミノ酸の間に少なくとも1個のペプチドクロスリンカー(ステープル又はテザーとも称する)を含んでいてもよい。全般的に、クロスリンカーは1個又は2個のヘリックスターン(約3.4又は約7アミノ酸)の長さまで伸長する。したがって、一例では、リンカーの長さは、限定はしないが、1~5、5~10、10~15、15~20、6~12、8~16、20~25、12~22、17~24、20~23、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも13、少なくとも15、少なくとも18又は少なくとも20アミノ酸長である。したがって、i及びi+3(すなわち、アミノ酸3個分離れている)並びにi及びi+4(すなわち、アミノ酸4個分離れている)又はi及びi+7(すなわち、アミノ酸7個分離れている)に位置するアミノ酸は、化学修飾及びクロスリンクの理想的な候補となり得る。
【0085】
タンパク質はまた、本明細書で記載したように、翻訳後修飾されてもよい。したがって、一例では、ペプチドは、翻訳後修飾、例えば、1又は2以上のホスホリル基の付加を受けた、本明細書で記載したとおりのものである。別の例では、ペプチドは、限定はしないが、ヒドロキシル、リン酸、アミン、アミド、硫酸、スルフィド、ビオチン部分、炭水化物部分、脂肪酸由来酸基、蛍光部分、発色団部分、放射性同位元素、ポリエチレングリコール(PEG)リンカー、親和性標識、標的化部分、抗体、細胞透過性ペプチド又は前述のリガンドの組合せから選択される1又は2以上のリガンドを含むように修飾されている。
【0086】
本明細書で記載したような上記のペプチド、単離された核酸分子又はベクターは、投与に適した組成物、例えば、医薬組成物に製剤化することができる。必要に応じて、ペプチドは薬学的に許容される担体と共に投与することができる。「担体」には、担体が製剤のその他の成分と適合することができ、患者に対して有害でない限り、任意の薬学的に許容される担体を含めることができる。したがって、使用するための医薬組成物は、活性化合物の薬学的に使用することができる調製物への加工を容易にする賦形剤及び医薬品添加物を含む1又は2以上の生理学的に許容される担体を使用して、従来の方法で製剤化することができる。適切な製剤は、選択した投与経路に左右される。したがって、一例では、本開示は、限定はしないが、本明細書で記載したペプチド、本明細書で記載した単離された核酸分子又は本明細書で記載したベクターを含む医薬組成物について記載する。別の例では、本開示は、本明細書で記載したペプチドをコードする単離された核酸分子について記載する。さらに別の例では、本開示は、本明細書で記載した単離された核酸分子を含むベクターについて記載する。一例では、医薬組成物は本明細書で記載したペプチドを含む。さらに別の例では、医薬組成物はさらに、1又は2以上の薬学的に許容される賦形剤、媒体又は担体を含む。
【0087】
前述のようなペプチド又はその医薬組成物若しくは医薬品は、局所又は全身投与が望まれるかどうか、及び治療する領域に応じていくつかの方法で投与することができる。例えば、ペプチド又はそのそれぞれの医薬組成物は、患者に経口的に、又は直腸に、又は経粘膜で、又は小腸内に、又は筋肉内に、又は皮下に、又は脊髄内に、又はクモ膜下腔内に、又は直接脳室内に、又は静脈内に、又は硝子体内に、又は腹腔内に、又は鼻腔内に、又は眼内に投与することができる。
【0088】
ペプチド自体は、多種多様な形態のいずれかの組成物中に存在していてもよい。例えば、2、3、4又はそれ以上のペプチドは、ただ一緒に混合してもよく、或いは複合体化、結晶化又はイオン若しくは共有結合によってより密接に結合させてもよい。ペプチドはまた、ヒトを含む動物に投与するとき、任意の薬学的に許容される塩、エステル若しくはこのようなエステルの塩、又は生物学的に活性のある代謝物又はその残基を提供することができる任意のその他の化合物を包含することができる。したがって、本明細書では、プロドラッグ及びこのようなプロドラッグの薬学的に許容される塩及びその他の生物学的同等物についても記載する。
【0089】
本開示はまた、併用治療及び組成物について記載し、すなわち、本明細書で記載したようなペプチドは、他の治療化合物と同時に、連続して、又は別々に投与してもよい。この治療化合物には、限定はしないが、低分子、生物製剤又はバイオテクノロジーから得られた生成物を含めることができる。一例では、他の治療化合物は、アポトーシス促進化合物である。このアポトーシス促進化合物には、限定はしないが、サイクリン依存キナーゼ(CDK)阻害剤、受容体チロシンキナーゼ(RTK)阻害剤、BCL(B細胞リンパ腫)ファミリーBH3(Bcl-2相同ドメイン3)模倣阻害剤及び血管拡張性失調症変異(ATM)阻害剤を含めることができる。一例では、アポトーシス促進化合物は、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)阻害剤である。さらに別の例では、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)阻害剤は、限定はしないが、2-(R)-(1-エチル-2-ヒドロキシエチルアミノ)-6-ベンジルアミノ-9-イソプロピルプリン(CYC202;ロスコビチン;セリシクリブ);4-[[5-アミノ-1-(2,6-ジフルオロベンゾイル)-1H-1,2,4-トリアゾール-3-イル]アミノ]ベンゼンスルホンアミド(JNJ-7706621);N-(4-ピペリジニル)-4-(2,6-ジクロロベンゾイルアミノ)-1H-ピラゾール-3-カルボキシアミド(AT-7519);N-(5-(((5-(1,1-ジメチルエチル)-2-オキサゾイル)メチル)チオ)-2-チアゾリル)-4-ピペリジンカルボキシアミド(SNS-032);8,12-エポキシ-1H,8H-2,7b,12a-トリアザジベンゾ(a,g)シクロノナ(cde)トリインデン-1-オン、2,3,9,10,11,12-ヘキサヒドロ-3-ヒドロキシ-9-メトキシ-8-メチル-10-(メチルアミノ)-(UCN-01;7-ヒドロキシスタウロスポリン;KRX-0601);N,1,4,4-テトラメチル-8-((4-(4-メチルピペラジン-1-イル)フェニル)アミノ)-4,5-ジヒドロ-1H-ピラゾロ[4,3-h]キナゾリン-3-カルボキシアミド(PHA-848125;ミルシクリブ);2-(2-クロロフェニル)-5,7-ジヒドロキシ-8-[(3S,4R)-3-ヒドロキシ-1-メチルピペリジン-4-イル]クロメン-4-オン塩酸塩(フラボピリドール;アルボシジブ);6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-((5-(ピペラジン-1-イル)ピリジン-2-イル)アミノ)ピリド[2,3-d]ピリミジン-7(8H)-オン塩酸塩(PD0332991);4-(1-イソプロピル-2-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)-N-(4-(メチルスルホニル)フェニル)ピリミジン-2-アミン(AZD5438);(S)-3-(((3-エチル-5-(2-(2-ヒドロキシエチル)ピペリジン-1-イル)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-7-イル)アミノ)メチル)ピリジン1-オキシド(ジナシクリブ;SCH727965);N-(4-ピペリジニル)-4-(2,6-ジクロロベンゾイルアミノ)-1H-ピラゾール-3-カルボキシアミド塩酸塩(AT-7519)及びそれらの薬学的に許容される塩であってもよい。
【0090】
さらに別の例では、アポトーシス促進化合物は、受容体チロシンキナーゼ(RTK)阻害剤である。さらに別の例では、受容体チロシンキナーゼ(RTK)阻害剤は、限定はしないが、N-[3-クロロ-4-[(3-フルオロフェニル)メトキシ]フェニル]-6-[5-[(2-メチルスルホニルエチルアミノ)メチル]-2-フリル]キナゾリン-4-アミン(ラパチニブ);N1’-[3-フルオロ-4-[[6-メトキシ-7-(3-モルホリノプロポキシ)-4-キノリニル]オキシ]フェニル]-N1-(4-フルオロフェニル)シクロプロパン-1,1-ジカルボキシアミド(フォレチニブ);N-(4-((6,7-ジメトキシキノリン-4-イル)オキシ)フェニル)-N-(4-フルオロフェニル)シクロプロパン-1,1-ジカルボキシアミド(カボザンチニブ(XL184));N-(4-((6,7-ジメトキシキノリン-4-イル)オキシ)フェニル)-N-(4-フルオロフェニル)シクロプロパン-1,1-ジカルボキシアミド(カボザンチニブ(XL184));3-[(1R)-1-(2,6-ジクロロ-3-フルオロフェニル)エトキシ]-5-(1-ピペリジン-4-イルピラゾール-4-イル)ピリジン-2-アミン(クリゾチニブ(ザーコリ));(3Z)-N-(3-クロロフェニル)-3-({3,5-ジメチル-4-[(4-メチルピペラジン-1-イル)カルボニル]-1H-ピロール-2-イル}メチレン)-N-メチル-2-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-インドール-5-スルホンアミド(SU11274);(3Z)-5-[[(2,6-ジクロロフェニル)メチル]スルホニル]-3-[[3,5-ジメチル-4-[[(2R)-2-(1-ピロリジニルメチル)-1-ピロリジニル]カルボニル]-1H-ピロール-2-イル]メチレン]-1,3-ジヒドロ-2H-インドール-2-オン水和物(PHA-665752);6-[[6-(1-メチルピラゾール-4-イル)-[1,2,4]トリアゾロ[4,3-b]ピリダジン-3-イル]スルファニル]キノリン(SGX-523);4-[1-(6-キノリニルメチル)-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピラジン-6-イル]-1H-ピラゾール-1-エタノールメタンスルホネート(1:1)(PF-04217903);2-フルオロ-N-メチル-4-[7-[(キノリン-6-イル)メチル]イミダゾ[1,2-b]-[1,2,4]トリアジン-2-イル]ベンズアミド(INCB28060);N-[4-[(3-クロロ-4-フルオロフェニル)アミノ]-7-[[(3S)-テトラヒドロ-3-フラニル]オキシ]-6-キナゾリニル]-4(ジメチルアミノ)-2-ブテンアミド(アファチニブ);3-(5,6-ジヒドロ-4H-ピロロ[3,2,1-ij]キノリン-1-イル)-4-(1H-インドール-3-イル)-ピロリジン-2,5-ジオン(ARQ-197(チバンチニブ));N-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメチル]-N-メチル-N’-[3-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-5-オキソ-5H-ベンゾ[4,5]シクロヘプタ[1,2-b]ピリジン-7-イル]硫酸ジアミド(MK-2461);N-[4-(3-アミノ-1H-インダゾール-4-イル)フェニル]-N’-(2-フルオロ-5-メチルフェニル)尿素(リニファニブ(ABT869));4-[[(3S)-3-ジメチルアミノピロリジン-1-イル]メチル]-N-[4-メチル-3-[(4-ピリミジン-5-イルピリミジン-2-イル)アミノ]フェニル]-3-(トリフルオロメチル)ベンズアミド(バフェチニブ(INNO-406))及びそれらの薬学的塩が含まれる。
【0091】
さらに別の例では、アポトーシス促進化合物は、BCL(B細胞リンパ腫)ファミリーBH3(Bcl-2相同ドメイン3)模倣阻害剤である。さらに別の例では、BCL(B細胞リンパ腫)ファミリーBH3(Bcl-2相同ドメイン3)模倣阻害剤は、限定はしないが、4-[4-[[2-(4-クロロフェニル)-5,5-ジメチル-1-シクロヘキセン-1-イル]メチル]-1-ピペラジニル]-N[[4-[[(1R)-3-(4-モルホリニル)-1-[(フェニルチオ)メチル]プロピル]アミノ]-3-[(トリフルオロメチル)スルホニル]フェニル]スルホニル]ベンズアミド(ABT263;ナビトクラックス);2-[2-[(3,5-ジメチル-1H-ピロール-2-イル)メチレン]-3-メトキシ-2H-ピロール-5-イル]-1H-インドールメタンスルホネート(メシル酸オバトクラックス(GX15-070));4-[4-[(4’-クロロ[1,1’-ビフェニル]-2-イル)メチル]-1-ピペラジンニル]-N-[[4-[[(1R)-3-(ジメチルアミノ)-1-[(フェニルチオ)メチル]プロピル]アミノ]-3-ニトロフェニル]スルホニル]-ベンズアミド(ABT-737)及びそれらの薬学的に許容される塩であってもよい。
【0092】
さらに別の例では、アポトーシス促進化合物は、血管拡張性失調症変異(ATM)阻害剤である。さらに別の例では、血管拡張性失調症変異(ATM)阻害剤は、限定はしないが、2-モルホリン-4-イル-6-チアントレン-1-イル-ピラン-4-オン(KU-55933);(2R,6S)-2,6-ジメチル-N-[5-[6-(4-モルホリニル)-4-オキソ-4H-ピラン-2-イル]-9H-チオキサンテン-2-イル]-4-モルホリンアセトアミド(KU-60019);1-(6,7-ジメトキシ-4-キナゾリニル)-3-(2-ピリジニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-5-アミン(CP466722);α-フェニル-N-[2,2,2-トリクロロ-1-[[[(4-フルオロ-3-ニトロフェニル)アミノ]チオキソメチル]アミノ]エチル]ベンゼンアセトアミド(CGK733)及びそれらの薬学的に許容される塩であってもよい。
【0093】
Mdm2は、多くのがんで過剰発現しており、p53野生型(WT)腫瘍におけるp53ネットワークの不活性化の主要な原因の1つと考えられる。したがって、P53:Mdm2相互作用の阻害は興味深い治療標的である。したがって、一例では、本開示は、がんを治療又は予防するための医薬品の製造における本明細書で記載したペプチドの使用について記載する。別の例では、本明細書で記載したペプチドは医薬品として使用することができる。さらに別の例では、本開示は、本明細書で記載したペプチド又は本明細書で記載した単離された核酸分子又は本明細書で記載したベクターの薬学的に有効な量を投与することを含む、患者におけるがんを治療又は予防する方法について記載する。一例では、がんにはミュータントではないp53配列を含む腫瘍が含まれる。別の例では、がんには、ミュータントp53配列を含む腫瘍が含まれる。さらに別の例では、がんは、限定はしないが、胃がん、結腸がん、肺がん、乳がん、膀胱がん、神経芽細胞腫、黒色腫及び白血病であってもよい。さらに別の例では、がんに罹患しているか、又は罹患していることが疑われる患者は、p53欠損腫瘍細胞又はがんを引き起こす変異を含むp53遺伝子を伴う腫瘍を含む。
【0094】
リガンドマッピング分子動力学(MD)シミュレーションを使用して、ペプチド結合間隙の近くに位置するMdm2表面の新たな結合部位をマッピングして、同定した。これらの隠れた部位は、ヌトリンの第2部位及びP27近位部位と呼ばれた。部位の1つは、生物物理アッセイ及びX線結晶解析によって論理的な結合部位として検証され、こうしてリガンドマッピング技術の予測能力が示された。ペプチドの2つのファミリーは、いずれかの部位と相互作用するように設計された。興味深いことに、ヌトリンの第2部位と相互作用するように設計されたファミリーは、結晶学的にP27近位部位と相互作用することが同定された。構造的証拠がないにも関わらず、i、i+7ステープルはまた、大環状結合によって幾何学的制限が生じるため、同じP27近位部を利用する可能性が極めて高い。この研究は、今まで知られていない結合部位を予測するために最初にリガンドマッピング法を使用し、後で実験的に確認する。
【0095】
生物物理学的アッセイによって、C末端伸長は、リガンドマッピングシミュレーションの結果に基づいて設計された最初のステープルペプチド(YS-01~04)のインビトロでの活性を本当に改善することが示される。i、i+7結合で修飾されたYS-03及びYS-04ペプチドは、細胞におけるp53活性の誘導においてi、i+4修飾ペプチドよりも有効であった。このことは、ステープルペプチドが細胞膜の表面と相互作用できることを示唆する。次に、P27S置換を導入することによって(YS-05及び06)、T22p53活性化アッセイにおいてi、i+4ステープルペプチド(YS-01及び02)を徐々に改善し、溶液中におけるステープルペプチドのらせん度を改善したが、Mdm2に対する結合親和性はあまり改善しなかった。らせん度を増加させて、ペプチドの親脂質性の高い残基(LX、WX、FX及びFX)をヘリックスの一面に向け、細胞膜との推定相互作用を増加させ、したがって細胞移入を助けることによって、抗力の増加を生じさせることができる。理論に結びつけることはしないが、この現象は、C末端フェニルアラニンを親脂質性の低いチロシンと交換すると、ステープルペプチドがp53を活性化する能力が妨害されることによって裏付けられる。これらの結果は、結合親和性を改善するためだけにステープルペプチドに設計変化を行うことは、生理活性分子の検索には十分ではないことを示している。
【0096】
活性の強いi、i+7ステープルペプチド(i、i+7)をベースにして、多価N末端の付加によって物理化学的特性を乱し、伸長したhexionic acidリンカーを使用して結合親和性の減衰を回避することによって、より強力なペプチドを設計した。これらの効果は、細胞に対して非毒性で、作用様式が本当に狙いどおりであるペプチドを開発するために、注意深くモニターしなければならない。ステープルペプチドが細胞膜を不安定にし、YSファミリーのペプチドに関して乳酸脱水素酵素漏出を誘導させる因子は、N末端正電荷の性質、C末端残基の親脂質性及び使用した炭化水素ステープリング結合の種類である。ほとんどの場合、これらの因子は、ペプチドがどのように細胞膜と相互作用するかに影響を及ぼし、さらなる詳細な研究の課題である。例えば、より極性があるYXXとは対照的に、C末端の親脂質性FXXは、より短い(X5、X5)i、i+4ステープルとではなく、(X5、S8)i、i+7ステープル(例えば、YS03)と併用して、T22細胞からの少量の乳酸脱水素酵素漏出を促進し、これはARN8細胞ではより顕著である。これはN末端ポリアルギニン対ジリシン修飾(YS-07対YS-09)の効果にも適用され、アルギニンの2座水素結合形成側鎖がリシンよりも脂質二重層とより効率よく相互作用することがよく知られている。この結果によって、p53活性化ステープルペプチドは細胞膜と相互作用するが、p53が細胞膜の破壊を誘導し、乳酸脱水素酵素漏出を誘導する濃度より高い濃度でのみ相互作用することが示される。また、ステープルペプチドが細胞膜を破壊する能力は、血清内に存在する因子によって調節され、これらは溶液中における遊離ステープルペプチドの量に影響を及ぼし得る。
【0097】
コンピュータ技術を使用して、p53活性化ペプチドの代替ファミリーが開発され、その後その生物学的活性は、乳酸脱水素酵素漏出による細胞毒性を評価しp53の活性化を標的とするアッセイを使用して、さらに化学合成を行うことによって変化させた。YSペプチド化合物の親脂質性及び正電荷特性を調節することによって、親ペプチドsMTIDE-02(配列番号22)よりも改善された効力を有し、血清が存在しないと細胞膜を破壊する能力がごくわずかであるYS-07などを開発した。
【0098】
本明細書で例示的に記載した本発明は、本明細書に具体的に開示されていないいかなる要素若しくは要素類、制限若しくは制限類もなく、適切に実行することができる。したがって、例えば、用語「含む(comprising)」、「含む(including)」、「含有する(containing)」などは、制限なく拡張して読み取られるべきである。さらに、本明細書で使用した用語及び表現は、制限ではなく説明の用語として使用されており、示され、記載された特徴のいかなる同等物又はその一部も排除するような用語及び表現の使用する意図はないが、請求した本発明の範囲内で様々な改変が可能であることが認識される。したがって、本発明は、好ましい実施形態及び任意の特徴によって具体的に開示されているが、本明細書中で開示された具体的な本発明の改変及び変更は当業者によって行われてもよく、このような改変及び変更は本発明の範囲にあると見なされることを理解されたい。
【0099】
本発明は、本明細書中に概括的及び総括的に記載した。包括的開示の範囲内にあるより狭い種、及び亜属の群のそれぞれも、本発明の一部を構成する。このことは、除外される材料が本明細書中に具体的に列挙されているかどうかにかかわらず、任意の目的物を属から除去する条件又は消極的な制限によって、本発明の総括的な記載を含んでいる。
【0100】
その他の実施形態は、以下の特許請求の範囲及び非限定的な実施例の範囲内に含まれる。さらに、本発明の特徴又は態様がマーカッシュ群で記載されている場合は、それにより、本発明は、マーカッシュ群の任意の個々のメンバー又はメンバーのサブグループに関しても記載していることを当業者は認識されたい。
【0101】
[実施例]
リガンドマッピング分子動力学(MD)シミュレーションを使用した結合部位検出
リガンドマッピングは、タンパク質表面上のリガンド結合部位を検出するために、水性溶媒中において、ベンゼン及びクロロベンゼン分子などの疎水性プローブを利用する分子動力学(MD)をベースにした技術である。立体構造的に感受性のある(隠れた)リガンド結合部位を明らかにするために特に有用であることが示され、公知の隠れたポケットを選択的に標的とするリガンドの設計に以前に使用され成功を収めた。この方法を、Mdm2への阻害剤ペプチドの結合を促進するために、その他の公知のリガンドによってまだ利用されたことがない、タンパク質表面上の新規の補助的ポケットを同定するためにMdm2に適用した。しかし、このような補助的ポケットを同定するために当業界で公知のその他の方法を代わりに使用してもよい。
【0102】
野生型p53トランス活性化ドメインペプチド(p53WT-1:16QETFSDLWKLLPEN29;配列番号13)との複合体におけるヒトMdm2の結晶構造(PDB:1YCR)をリガンドマッピングシミュレーション用の初期構造として使用した。隠れた結合部位は天然では疎水性の傾向があるので、ベンゼンをマッピングリガンドとして選択した。アポMdm2(接頭辞「アポ」は結合していない状態のMdm2を意味している)を、複合体構造からペプチドを除去することによって生成し、様々な開始ベンゼン分布の10個の独立した5-ナノ秒リガンドマッピングシミュレーションの初期設定で使用した。リガンド競合飽和(SILCS)法による関連部位同定において不自然なリガンド間反発力の導入は、比較的低いベンゼン濃度(0.2M)を使用することよって回避された。これはまた、変性の原因となり得るタンパク質上の相分離及びリガンド凝集を防ぐのに役立った。リガンドマッピングシミュレーションの第2のセットはまた、p53結合間隙とは別個の結合部位がペプチド存在下で再現できるかどうかを決定するために、p53結合Mdm2(ホロ、Mdm2の結合型である)上で実施した。同定した結合部位のこの一部は次に、p53野生型ペプチド(配列番号12)の構造をベースにして新たな阻害剤ペプチド及びペプチド模倣物を設計するために使用した。
【0103】
次に、アポ(結合していない)又はホロ(結合した)シミュレーションのいずれかから単離された結合部位のいずれかが、以前報告された阻害剤研究で使用されたかどうかを同定するために、タンパク質構造データバンク(PDB)におけるその他の公開されたMdm2:リガンド構造との定量的比較を実施した。比較によって、2つの新たな、以前に同定されていない結合部位が明らかになった(図1)。第1の結合部位は、1RV1結晶構造中のヌトリン-2の2番目に認められた相互作用部位に相当する。第1のヌトリン-2結合部位は、p53ペプチド結合溝にあり、保存された相互作用モチーフを模倣しており、一方、第2の結合部位はTyr100とTyr104との間にある。ここで、ヌトリン-2分子は、p53野生型ペプチドにおける保存されたトリプトファン残基の相互作用を置換する同じブロモフェニル部分を介して狭い空洞をやはり利用する。両ヌトリン-2結合部位は、アポ及びホロリガンドマッピングシミュレーションにおいてベンゼンプローブによってマッピングされ、第2の部位はペプチドリガンドの反復薬剤設計にさらに利用することができることが示された。競合滴定実験によって、ヌトリン-3によるMdm2からのp53ペプチドの押しのけが、Y104G変異によって損なわれることが示され、結晶構造及びリガンドマッピングシミュレーションで認められた第2のヌトリン相互作用部位は、結合において機能的役割を有し得ることが示唆された。第2の有望な結合部位は、アポリガンドマッピングシミュレーションにおいてPro27結合部位に隣接して同定された。これは、近位Pro27部位(図1b)と呼ばれ、結合したペプチドが遮蔽するので、ホロシミュレーションでは確認されなかった。伸長した炭化水素ステープルペプチドの2つのファミリーは、これら2つの部位を標的とするために設計された。
【0104】
Mdm2上で新たに同定された隠れた結合部位を利用するためのステープルペプチドの設計
推定結合部位はいずれも、Mdm2が結合した結晶構造があるペプチドのC末端の簡単なフェニルアラニン伸長によって容易に接近することができる。フェニルアラニン側鎖は、第2のヌトリン-2結合部位(図2a)に結合するためにp53野生型ペプチド(ETFSDLWKLLPEN;配列番号12)のC末端伸長鎖に付加するか、又はC末端がらせん構造内で安定化し、近位Pro27部位と相互作用するステープルペプチドSAH-p53-8(QTFX8NLWRLLS5QN;配列番号11;YS-11)に付加することができる(図2b)。これら2つの概念は、Mdm2の新たな、新規ペプチド阻害剤を論理的に設計するために使用した。
【0105】
第2ヌトリン結合部位に対応する隠れたポケットを利用するように設計されたペプチド第1のファミリー(YS-01及びYS-02)は、p53野生型ペプチド構造をベースにした。同定した隠れたポケットが存在する適切なトラジェクトリー構造は、2つのセットのリガンドマッピングシミュレーション(アポ及びホロ)から選択した。p53ペプチドは、1YCR結晶構造から抽出することによって選択した結合していないMdm2構造にモデル化され、その後2つのタンパク質構造を重ね合わせた。次に、第2のヌトリン相互作用部位でのベンゼン密度でフェニル基が最適に重ね合わさるように、フェニルアラニン又はチロシン残基のいずれかをPyMOLを使用してペプチドのC末端に付加させた。C末端フェニルアラニン/チロシンはまた、選択されたp53結合Mdm2構造におけるペプチドと同じ方法で付加した。
【0106】
伸長したp53ペプチド(ETFSDLWKLLPENF/Y;配列番号15/16)はその後、sMTIDE-02配列(TSFSEYWKLLPENF/Y;配列番号17/18)の公知の特性を組み込むために修飾した。次に、ペプチド配列の21位及び25位の2(R)-2-(4’-ペンテニル)アラニン残基の配置から形成されるi、i+4ステープルをsMTIDE-02修飾配列にモデル化した。これらの特性を使用して、sMTIDE-02で報告された所望する生物学的特性を保持させようとした。i、i+4(X5、X5)ステープルは、グリシンシェルフによって構成されたステープルとMdm2の表面との間の適合の相補性を最大限にするために、より一般的なi、i+4(S5、S5)ステープルの代わりに使用した。さらに、C末端伸長鎖構造が代わりにヘリックスターンを取るのを防ぐために、長いi、i+7ステープルの代わりにより短いi、i+4ステープルを使用した。これらの新規ペプチドは、それぞれYS-01(TSFX5EYWX5LLPENF;配列番号01)及びYS-02(TSFX5EYWX5LLPENF;配列番号02)と称した。
【0107】
ペプチドYS-03(配列番号03)及びYS-04(配列番号04))の第2のファミリーは、近位Pro27の隠れた部位を利用するために設計した。近位Pro27部位の形成に関与する残基はまたペプチド:タンパク質界面の一部を構成し、その結果近位の隠れた部位はリガンドマッピングシミュレーションでは認められないので、これらのペプチドのモデルを作製するためにアポリガンドマッピングシミュレーションのトラジェクトリー構造のみを使用した。フェニルアラニン又はチロシン側鎖を有する近位Pro27部位を標的とするために、ペプチドがMdm2:p53野生型ペプチド結晶構造をとる伸長鎖の代わりに、p53野生型ペプチドの末端にヘリックスターンが必要である。p53野生型ペプチドのC末端でのヘリックスターンの形成を実現するために、より短いi、i+4ステープルの代わりにi、i+7炭化水素ステープルを使用した。i、i+7ステープルを形成するために、残基2(R)-2-(4’-オクテニル)アラニン及び2(S)-2-(4’-ペンテニル)アラニンをp53野生型配列の20位及び27位に導入した。このステープルは、以前公開されたステープルペプチド:SAH-p53-8(配列番号11)及びsMTIDE-02(配列番号23)で使用した炭化水素拘束と同一である。
【0108】
ステープルペプチドSAH-p53-8(配列番号11)は、SAH-p53-8(PDB3V3B)に結合したMdm2の結晶構造を抽出することによってモデル化し、その後、結合構造とトラジェクトリーの枠とを重ね合わせた。次に、sMTIDE-02分子の骨格を生成するために残基を変異させた。次に、近位Pro27部位でのベンゼン密度と最適に重なるように、YS-03(TSFX8EYWALLS5ENF;配列番号03)及びYS-04(TSFX8EYWALLS5ENY;配列番号04)ペプチドそれぞれを生成するために、フェニルアラニン又はチロシンをステープルペプチドのC末端にPyMOLを用いて結合させた。
【0109】
Mdm2とYS-01/04ペプチド(配列番号1及び4)並びにsMTide-02(配列番号24)と野生型p53(配列番号12)の複合体の分子動力学(MD)シミュレーションを50ナノ秒で実施してそれらの安定性を評価した。設計した4つのステープルペプチドの構造は、最初の最小限の構造からあまり逸脱しておらず、平均2重偏差(RMSD)値は1.5Å未満と低かった(図9)。Phe及びTyr伸長は、シミュレーション全ての終了時に標的結合部位に結合したままで、予測した結合様式の安定性が示された。
【0110】
様々なMdm2-ペプチド複合体の結合自由エネルギーは、シミュレーションによって生成した構造から得られ、一般化ボルン表面積(MM/GBSA)法による分子機構を使用して計算した。sMTide-02ペプチドは、Mdm2に対して野生型p53ペプチドよりも高い結合親和性を有することが予測され、以前の実験結果と合致した。特に、この計算によって、伸長したステープルペプチドは全て、sMTide-02よりもMdm2の強力な結合剤であることが示唆された。これらのペプチドの結合特性を調べるために、その後、生物物理学的、生物学的及びX線結晶学的実験で特徴付けた。
【0111】
C末端伸長sMTIDE-02バリアントペプチド(YS-01/04)の生物物理学的特徴
ステープルペプチドのYS-01/04ファミリー及び拘束されていない野生型p53ペプチドを最初に、競合をベースにした蛍光異方性アッセイを使用して特徴付けた(表1)。このアッセイでは、配列RFMDYWEGL(配列番号22)のN末端FAM標識ペプチドを、新たなsMTide由来バリアントペプチド又は野生型p5ペプチドのいずれか1つで滴定することによって、Mdm2のN末端ドメインから押しのけた。Mdm2に対する解離定数(K)値は、YS-01では9.9nM及びYS-02では7.4nMであった。ステープルペプチド(YS-02)のC末端にフェニルアラニン(YS-01)の代わりにチロシンを組み込むと、Mdm2のN末端ドメインに対するペプチド間の結合親和性の差がごくわずかになった。しかし、元のsMTIDE-02(参考)と比較すると、K値は約3倍強くなった(表1)。ペプチド配列の4位及び10位で代替的(X5、S8)I、I+7結合を使用してステープルしたペプチドYS-03及びYS-04もアッセイした。YS-03及びYS-04ペプチドもそれぞれ、最後の残基、フェニルアラニンがチロシンに置換していることだけが異なっていた。両ペプチドのMdm2に対する親和性の違いは、YS-01/02の場合のようにごくわずかであった。しかし、両ペプチドのK値は、いずれも同じ配列(YS-01及びYS-02)の(X5、X5)i、i+4アナログペプチドで測定されたK値よりも約2倍弱く、sMTIDE-02よりもわずかに強かった(表1)。これら2つのペプチドはさらに、らせん度比較を測定するために円2色性(CD)スペクトルを使用してさらに特徴付けた。YS-03及び04はいずれも、溶液中における特性がYS-01及びYS-02よりもらせん性が著しかった。このことは、(X5、S8)i、i+7大環状結合は、ペプチドが溶液中で結合していないとき、より短い(Y5、X5)i、i+4ステープルよりも強力ならせん誘導因子であることを示している(図9)。
【0112】
【表1】
【0113】
YS-01/04ステープルペプチドアナログの細胞内活性の生物学的特徴付け
YS-01/04ペプチドがインタクトな細胞においてp53転写活性を誘導する能力を評価するために、ウシ胎児血清の存在又は非存在下で、マウスT22由来p53レポーターアッセイにおいてスクリーニングした(表1及び図3)。血清の非存在下でp53活性を誘導する能力と比較したとき、血清の存在下では、4つのペプチドは全てp53レポーターアッセイにおいて有意な活性減少を示した(図3a及び3b)。両方の設定条件において、YS-03及びYS-04は、YS-01及びYS-02よりもT22アッセイにおいて高い効力を示し、(X5、S8)i、i+7ステープルは(X5、X5)i、i+4ステープルよりも細胞内部により効果的に進入することができることを示唆している。次に、p53転写活性アッセイにおいて、YS-03及びYS-04について完全な滴定を実施し、血清非存在下でのそれぞれのIC50値が4.57μM及び9.73μMであることを測定した(図4)。これらのペプチドがMdm2に対して類似の親和性を有することを考慮すると、IC50値の差は細胞に進入する能力の変化を反映しているに違いない。この差は、両設定のペプチド(YS-01及びYS-02、YS-03及びYS-04、図3)について認められ、C末端Y30のヒドロキシル基は細胞内取込の効率低下に関与していることを意味している。次に、p53及びMdm2タンパク質レベルはウェスタンブロット分析を使用して直接調べた。T22細胞を、ウシ胎児血清の存在下又は非存在下でYS-03 25μM及び50μMで処理した(図4)。YS-03で処理した後のT22細胞におけるp53及びMdm2タンパク質レベルの誘導は、血清の存在下又は非存在下でのレポーターアッセイで測定されたβ-ガラクトシダーゼレベルと直接相関した。
【0114】
ステープルYS-01/04ペプチドはまた、T22及びARN8細胞の細胞膜壁を乱し、細胞質乳酸脱水素酵素(LDH)を放出させる能力についてスクリーニングした。このような望ましくないと見なされる効果は、このペプチドが様々な細胞型に対して非特異的な毒性を有することを示し得る。細胞膜の穿孔は細胞プログラム死ではよりゆっくり生じると考えられるので、このアッセイには短い2時間の処理期間を使用する。ペプチドYS-01、YS-02及びYS-04は、T22又はARN8細胞で測定した濃度で、極めてわずかの乳酸脱水素酵素放出を引き起こした(図3)。しかし、T22アッセイにおけるp53活性の最強の誘導因子であるYS-03は、ARN8及びT22細胞の両方において、無血清条件下で、様々な範囲の乳酸脱水素酵素漏出を引き起こした(図3C及び3E)。測定した乳酸脱水素酵素漏出は、T22細胞よりもARN8細胞でずっと多く、異なる細胞ではYS-03の膜破壊特性に対する感受性が変動することを示している。これらの結果は、より親脂質性のC末端フェニルアラニンがより長くより疎水性の(X5、S8)i、i+7ステープルと直列で存在すると、ペプチドは高い処理濃度で細胞の脂質二重層の完全性を妨害することができることを示している。T22細胞を低濃度のYS-03(<25μM)で処理したときに、血清が存在しない条件下でごくわずかの量の乳酸脱水素酵素が放出されるが、p53活性化のかなりのレベルが依然として測定されることを強調しなければならない。しかし、血清が存在すると、試験した濃度では膜の破壊は認められないが、YS-03によってp53が依然として誘導される。このことは、YS-04のデータによっても裏付けられるが、p53活性化は、膜破壊がないと生じ、観察された生物学的活性は細胞毒性の直接的結果ではないことを意味している。
【0115】
YS-01及びYS-02ステープルペプチドの構造的特徴付け
YS-01及びYS-02を含む複合体におけるMdm2結晶構造を、結合様式を確認するために解明した。2つのペプチドは同じ方法で結合しているが、いくつかの溶媒曝露残基にごくわずかな変動を有する(図5及び10)。ステープルペプチドは、典型的なポケットにPhe19、Trp23及びLeu26が結合したα-ヘリックス構造を取る。炭化水素ステープルは、SAH-p53-8及びM06のより長いi、i+7ステープルとほぼ類似の方法でヘリックスα3のいわゆるグリシンシェルフに充填される。ペプチドのC末端は、ヘリックスα3とα5との間の間隙に充填され(図5c)、ヒンジヘリックスを押しのける。結晶構造の鎖AとBとの間の鎖交換によって、隣接分子のN末端のα5への充填が引き起こされるが(図11)、これは生物学的な意義はないようである。
【0116】
驚くべきことに、YS-01/2の残基19~30は、野生型(WT)p53ペプチドの残基19~26と比較してヘリックスである(図6a)。YS-01/2の非ステープル型の構造が存在しない場合、予想したらせん度より大きいのがi、i+4ステープル及び/又は修飾されたC末端によるものであるかどうかを決定することは困難である。Pro27は野生型p53においてヘリックス分裂因子として作用する一方、この残基は内部の水素結合ネットワークを維持することはできないが、YS-01/2のヘリックスに組み込まれる。Pro27、このネットワークを維持することができる残基で置換することによって高い親和性ペプチドが生じることは論理的であると考えられる。実際に、研究によって、P27S変異を含有するp53ペプチドは約20倍の強さで結合することが示された。しかし、このような修飾は、Pro27が第2のステープル点によって置換されるので、YS-03/4では起こりえない。
【0117】
YS-01/2のペプチド主鎖のより小型の配置は、YS-01/2で予測された第2のヌトリン結合部位ではなく、YS-03/4ペプチドで同定された近位Pro27ポケットにおけるPhe/Tyr30結合を引き起こす。近位Pro27ポケットにはMet50、Leu54、Tyr100及びTyr104が並び、このポケットに並ぶために、野生型p53構造よりも両チロシン残基がペプチドに向かって回転している(図5c)。Tyr104のこの回転によって、Tyr30のヒドロキシルと水素結合が形成され、第2のヌトリン結合部位の遮蔽が引き起こされる。Tyr100は、Phe/Tyr30とのface-edge相互作用及びLeu26の主鎖カルボニルとの水素結合を形成する。Tyr100が取る立体構造は、「閉じた」立体構造として知られており、高い親和性リガンドの構造において認められたことがある。YS-01/2のN末端(残基17~23)の結合は、SAH-p53-8及びM06の結合と類似している(図6b)。しかし、異なるステープリング戦略によって、異なる方法で結合する残基24~28が生じる。YS-01/2の残基24への第2ステープリングポイントの導入は、Leu25及びLeu26がらせん軸に沿ってさらに押しのけられる原因となる。これは、Leu26のCα位が1.7Å押しのけられたより伸長したヘリックス構造を生じる(SAH-p53-8と比較して)。これによってLeu26は、SAH-p53-8/M06と野生型p53の中間の位置及び立体構造になる。しかし、残基27~29は次に、SAH-p53-8よりも密なヘリックス構造を取り、SAH-p53のAsn29及びYS-01/2のGln29がより密接になる(Cα位で0.6Å)。これは、SAH-p53-8構造でモデル化したTyr/Phe30の位置(図2b及び2d)が、近位Pro27部位の残基の実際の位置に非常に類似していることを意味する。
【0118】
実験結果とコンピュータ予測との比較
鎖交換構造の生物学的重要性及びペプチド結合におけるPhe/Tyr30の役割を理解するための手がかりを得るために、Mdm2-YS-01複合体の結晶構造において鎖交換モノマーの分子動力学シミュレーションを実施した(様々な初期条件での3つのシミュレーション)。3つの100ナノ秒の長さのシミュレーション全てにおいて、Mdm2N末端リッド(残基12~25)は、ドメインコアに向いた第2のヌトリン相互作用部位上に折り畳まれ、Phe30上にクレードルを形成する(図12)。これは、結晶構造で認められた鎖Aのα4に対する鎖BのN末端リッドの充填と類似している。本発明の結晶構造で認められたモノマー間のN末端リッドの交換によって形成されたMdm2二量体は、結晶学的な人工産物で、生物学的意義はない。しかし、シミュレーションによって、近位Pro27部位は、Mdm2N末端コアドメイン及びN末端リッドの残基によって同定される機能的で適正なリガンド結合部位であることが示される。したがって、YSペプチドのsMTide-02よりも改善された結合親和性は、Phe/Tyr30と近位Pro27部位との相互作用に起因し得る。この相互作用はまた、M06(Phe19~S527)における9個の残基からYS-01及びYS-02における12個の残基(Phe19~Phe/Tyr30)へのペプチドα-ヘリックスの伸長に関与する。
【0119】
YS-01及びYS-02のヘリックス結合構造をさらに安定化するためのP27からS27への変異
p53野生型ペプチド複合体構造で認められたように結合ヘリックスを破壊する代わりに、P27はMdm2結合の時にYS-01及びYS-02のヘリックスに組み込まれたことが構造研究によって明らかになった後、相互作用の親和性を改善し、細胞取込を促進するためにプロリン残基をセリンで置換した。得られたアナログは、YS-05及びYS-06と称した。それぞれのMdm2に対する解離定数(K)値は、それぞれ11.61nM及び8.8nMであることが測定され(表1)、2つのプロリンアナログペプチド(YS-01及びYS-02)を上回る著しい改善又は減衰は示されなかった。さらに、YS-05及びYS-06の円2色性(CD)スペクトルは、溶液中で結合していないとき、ヘリックス構造がより顕著であった(図9)。両ペプチドのらせん度の増加は、YS-01及びYS-02ペプチドと比較して、p53を活性化する両ペプチドの改善とよく相関した(図13)。しかし、らせん度が高くても、蛍光異方性完了(completion)アッセイによって測定したとき、低い解離定数(K)値を導かなかった。また、YS-05及びYS-06は、T22及びARN8細胞に対する乳酸脱水素酵素放出アッセイにおいてごくわずかの活性を示し、YS-03の膜破壊能力はより長い炭化水素ステープル及びc末端フェニルアラニンの存在の関数で、乳酸脱水素酵素放出はT22アッセイにおいてp53活性とは相関しないことがさらに示された。YS-05及びYS-06の結果はさらに、ハイブリッドsMTIDE02配列の場合(X5、X5)i、i+4ステープルは、(X5、S8)i、i+7ステープル配列(YS-03及びYS-04)と比較して、まだ細胞活性が不十分であることを示す。
【0120】
膜破壊及び細胞質乳酸脱水素酵素の放出が存在しない場合のp53の有効な活性化
YS-03及びYS-04ペプチドは、T22p53レポーターアッセイにおいて最も強い活性を示したので、さらに改善するために選択した。Mdm2との相互作用の親和性の増加に関して、ペプチドの配列にさらに変異を増やして変化させる代わりに、N末端に正荷電を付加することによって生物学的特性を乱すことに決定した。この戦略を実施することによって、血清の存在下でのこれらのペプチドの活性の弱さに対応し、血清の非存在下での乳酸脱水素酵素放出アッセイによって示されたように、YS-05が細胞膜を乱す能力を改善した。Mdm2への親和性のいかなる減衰も回避するために、アミノヘキサン酸リンカーを介して、YS-05及びYS-06に付加するための2つのタグを選択した。これらは、ジリシンタグ(KK)又は短いポリアルギニンタグ(RRR)のいずれかであった。得られたペプチドはYS-07、YS-08、YS-09及びYS-10(表1)と呼ばれ、それぞれの解離定数(K)をMdm2に対して測定した(1~125)。4つのアナログは全てMdm2に対して低いナノモルの解離定数(K)を保持した。しかし、これらの解離定数は、親ペプチド(YS-5及びYS-06、表1)よりもわずかに減衰していた。
【0121】
次に、血清の存在下又は非存在下でのT22遺伝子レポーターアッセイにおいて、新たなアナログがp53活性を誘導する能力をスクリーニングした(図7)。4つのペプチドは全て、両条件下でp53を活性化する能力の劇的な改善を示した。各ペプチドのIC50値それぞれを測定するためにさらに滴定を実施し(表1)、YS-07(KK-Ahx-TSFX8EYWALLX5ENF;配列番号07)が血清の存在下及び非存在下で最も強力で、IC50値はそれぞれ9.95μM及び約0.78μMであることが明らかになった。対照的に、対応するジリシンタグチロシン誘導体YS-08(配列番号08)は4つのペプチドの中で最も効力が少なかった。次に、短い処理期間後に細胞質乳酸脱水素酵素の細胞培養液への放出を誘導するかどうかを評価することによって(2時間、図7)、ペプチドが細胞膜を乱す能力を試験した。乳酸脱水素酵素放出アッセイは、T22及びARN8細胞に対して実施し、ポリアルギニンタグペプチド(YS-09及びYS-10)が、YS-05で示したように、血清非存在下で細胞膜の完全性に著しい影響を及ぼし、これらの効果はARN8細胞においてもっと大きいことが明らかになった(図7)。興味深いことに、いずれもジリシンで標識したYS-07もYS-08も、両条件下で測定した細胞型のいずれにおいても乳酸脱水素酵素漏出を誘導しなかった。これらの結果は、p53活性は乳酸脱水素酵素漏出がなくても強力に誘導され得ることをさらに裏付け、当業界で公知のその他の報告とは対照的である。
【0122】
次に、ARN8細胞においてステープルペプチドYS-07及びYS-09を滴定し、p53を活性化する能力を測定した(図8a及び8b)。ARN8細胞は、T22細胞に安定してトランスフェクトされたp53プロモーターの制御下に同じβガラクトシダーゼ遺伝子を含有する。血清非存在下では、YS-07は、T22細胞で測定されたよりもIC50値は低いが、ARN8細胞においてβ-ガラクトシダーゼ活性を効率よく誘導した。しかし、対照的に、YS-09は3.125μMでp53転写活性の急激な増加を誘導し、その後高濃度で急激に減少した。YS-07及びYS-09滴定を再度繰り返し、ARN8細胞からの乳酸脱水素酵素漏出を代わりに測定した(図8c及び8d)。既に示されたように、YS-07はごくわずかの乳酸脱水素酵素漏出を引き起こし、YS-09はp53活性が減少する濃度で大量の乳酸脱水素酵素漏出の誘導を開始した。血清条件下では、いずれのペプチドについても乳酸脱水素酵素漏出は認められず、YS-09はYS-07よりもわずかに活性が高かった。しかし、YS-09については50μMを上回る濃度でp53活性が減少し、これはYS-07では認められなかった。これらの結果は、ペプチドがMdm2を阻害し、p53を活性化する能力は膜を破壊する特性とは切り離されていることを示している。
【0123】
次に、T22及びARN8細胞におけるsMTIDE-02及びヌトリンの乳酸脱水素酵素漏出を誘導しp53を活性化する能力について、YS-07と比較した。試験した全ての条件において、ヌトリンはp53活性化の類似のベル型プロファイルを生じ(図8e~8g)、高濃度ではp53レベルは著しく減少し、細胞死を示した。血清の存在下又は非存在下のいずれかでT22細胞で滴定したとき、sMTIDE-02は最大p53活性を誘導するYS-07と類似のS字曲線を生じ、処理濃度範囲の限界でプラトーに達する。0%血清条件下で、sMTIDE-02はYS-07とは異なりT22細胞において著しい量の乳酸脱水素酵素漏出を誘導し、YS-03よりもずっと大量であった(図8c)。しかし、p53活性化の程度は、乳酸脱水素酵素漏出は測定されない、血清又は無血清条件下でYS-07が誘導するp53の活性化と比較して変化はなかった。これから、膜破壊による細胞死は生じていないことが示される(図8E及び8F)。ARN8細胞において滴定したとき、sMTIDE-02はまた血清条件下でYS-07と類似のp53活性化特性を誘導したが、この変化は血清が存在しないと劇的に変化し、sMTIDE-02のp53活性誘導は不十分で、ヌトリン及びYS-07による滴定で測定された最大活性の20%が達成されただけである(図8D及び8E)。しかし、YS-07及びヌトリンとは対照的に、sMTIDE-02は、p53活性を誘導するのに必要な範囲と重なる濃度範囲で、大量の乳酸脱水素酵素漏出を引き起こす。これらの結果は、sMTIDE02はARN8細胞に対して毒性があり、このことは細胞膜の攪乱と関連することを示している。興味深いことに、低濃度での「急増」の後、p53活性の劇的な減少が認められるARN8細胞でのYS-09とは異なり、sMTIDE-02はp53活性を少量誘導するだけである。これは、YS-09滴定は、sMTIDE-02とは異なり、これらの条件下ではウインドウが小さいことを意味し、ARN8細胞の細胞膜が損なわれる前にp53活性を誘導することができることを意味する。
【0124】
構造の調製
p53トランス活性化ドメインペプチド(PDB 1YCR)に結合したヒトMdm2の結晶構造は、分子動力学(MD)シミュレーション用の初期構造として使用した。結晶構造中でMdm2に結合したp53ペプチドは、その主鎖を固定することによってsMTide-02(Ac-TSFX8EYWALLS-NH;配列番号22)と称するステープルペプチドに変異させ、AMBER11(分子動力学力場及びソフトウェアパッケージ)のtleapモジュールを使用して、変異した残基の側鎖を付加し、X8とS5残基との間にトランス2重結合を形成させた。X8は(R)-2-(7’-オクテニル)アラニン残基を表し、一方、S5は(S)-2-(4’-ペンテニル)アラニン残基を表す。アセチル及びN-メチル基は、Mdm2のそれぞれN末端及びC末端をキャップするために使用し、一方ペプチドはアセチル及びアミド基によってキャップした。PDB2PQRは、残基のプロトン化状態を測定し、失われた水素原子を付加するために使用した。次に、AMBER11パッケージのLEaPプログラムを使用して、その壁がタンパク質から少なくとも9Å離れており、ナトリウム又は塩素イオンのいずれかで電荷が中和されるように、周期的切頂八面体ボックスにおいてTIP3P水分子で各系を溶媒和した。
【0125】
分子動力学(MD)シミュレーション
2つの独立した明示的に溶媒を取り扱った(explicit-solvent)分子動力学(MD)シミュレーションをそれぞれ、様々な初期原子速度及び擬似乱数生成器用の乱数種を使用してMdm2/p53及びMdm2/sMTide-02複合体について実施した。エネルギー最小化及び分子動力学(MD)シミュレーションは、AMBER11のsander及びPMEMDモジュールで、ff99SB-ILDN力場を使用して実施した。X8及びS5残基は、ff99SB-ILDN及び汎用AMBER力場(GAFF)の両方によって描いた。X8及びS5残基の原子電荷(表2及び3)は、R.E.D.サーバーを使用して、拘束された静電ポテンシャル(RESP)電荷をGaussian 09プログラムによって、理論値のHF/6-31Gレベルで計算した分子静電ポテンシャル(MEP)に当てはめることによって得られた。水素原子に関与する結合は全て、SHAKEアルゴリズムによって拘束し、2fsの時間ステップを可能にした。結合していない相互作用は、9Åで切断され、粒子メッシュエワルド法を使用して、周期的境界条件下での長い範囲の静電相互作用を明らかにした。
【0126】
最小化及び最初の平衡化ステップの最中に、力定数2.0kcal mol-1-2の弱い調和位置拘束をタンパク質の非水素原子に行った。500ステップのために最急下降アルゴリズムを使用してエネルギー最小化を実施し、次いで別の500ステップのために共役勾配法を使用した。次に、系を徐々に50ピコ秒かけて一定量で300Kまで加熱し、その後さらに50ピコ秒間1atm(101325Pa)の一定圧力で平衡化した。最後の平衡化(2ナノ秒)及び生成(50ナノ秒)は、原子を拘束せずに1atm(101325Pa)及び300Kで実施した。Langevinサーモスタットを使用して衝突頻度は2ps-1で温度を一定に維持し、圧力はBerendsen調圧器によって圧開放時間2ピコ秒で維持した。
【0127】
リガンドマッピング分子動力学(MD)シミュレーション
リガンドマッピング分子動力学(MD)シミュレーションは、結合していないMdm2及びp53結合Mdm2の両方について実施した。シミュレーションの各セットについて、タンパク質周囲のベンゼンの10個の様々な分布をPackmolソフトウェアを使用して作成した。次に、AMBER11パッケージのLEaPプログラムを使用して、その壁がタンパク質から少なくとも9Å離れており、ナトリウム又は塩素イオンのいずれかで電荷が中和されるように、周期的切頂八面体ボックスにおいてTIP3P水分子で各系を溶媒和し、最終ベンゼン濃度約0.2Mを生じた。最小化、平衡化及び生成(5ナノ秒)分子動力学(MD)シミュレーションを前述のようにMdm2/p53複合体について実施し、累積サンプリング時間は50ナノ秒であった。GAFFを使用してシミュレーション中のベンゼンを描いた。ベンゼンの原子電荷(表4)は、R.E.D.Serverを使用して、X8(表2)及びS5(表3)残基で記載したのと同じ設定で得られた。
【0128】
【表2】
【0129】
【表3】
【0130】
【表4】
【0131】
トラジェクトリー分析
ベンゼン占有グリッドは、ベンゼンの炭素原子を1Å×1Å×1Åグリッドセルに入れるために、AMBER 11のptrajモジュールを使用して生成した。ベンゼン占有を視覚化するために使用した等高線(isocontour)カットオフ値は、バルク閾値の3倍で、ベンゼンがバルク溶媒中で検出される最高の等値面として定義される。これは、擬似結合部位のほとんどを除去するために役立つ任意の基準で、正当なものが残される。
【0132】
ペプチド設計
第2ヌトリン相互作用部位がベンゼン分子に結合した適切なトラジェクトリー構造は、結合していないMdm2及びp53結合Mdm2で実施した2つのセットのリガンドマッピングシミュレーションのそれぞれから選択した。ベンゼンが最も深く埋め込まれた構造を選択し、これはポケットの基部を形成する、集団のベンゼン中心とLeu107のCγ原子との間の距離を測定することによって決定した。選択した構造のTyr100の側鎖ねじれ角χ1はまた、ペプチド主鎖との立体的衝突を回避するために-170°未満でなければならない。
【0133】
p53ペプチド(ETFSDLWKLLPEN;配列番号12)は、1YCR結晶構造から抽出することによって選択した結合していないMdm2構造にモデル化し、次に2つのタンパク質構造を重ね合わせた。第2のヌトリン相互作用部位でのベンゼン密度でフェニル基が最適に重ね合わさるように、PyMOLを使用してフェニルアラニン残基をペプチドのC末端に付加させた。C末端フェニルアラニンは、選択されたp53結合Mdm2構造においてペプチドと同じ方法で付加した。これらの伸長したp53ペプチド(ETFSDLWKLLPENF;配列番号15)はその後、その主鎖を固定することによってステープルしたファージディスプレイ由来ペプチド(YS-01、TSFX5EYWX5LLSPENF;配列番号1)に変異させ、AMBER11のtleapモジュールを使用して変異した残基の側鎖を付加し、2つのX5残基の間にシス2重結合を形成させた。X5は(R)-2-(4’-ペンテニル)アラニン残基を表す。C末端にフェニルアラニンの代わりにチロシンを有するアナログステープルペプチド(YS-02、TSFX5EYWX5LLSPENY;配列番号02)は、tleapモジュールを使用してモデル化した。
【0134】
2つのその他の結合していないMdm2トラジェクトリー構造をペプチド設計のために選択し、一方は閉じた立体構造にTyr100を有し、他方は開いた立体構造にTyr100を有する。これらの構造は、Met50に最も近いベンゼンに結合しており、近位Pro27結合部位の基部を形成する。ステープルペプチドSAH-p53-8は、SAH-p53-8(PDB3V3B)に結合したMdm2の結晶構造から抽出することによって構造上にモデル化し、次にタンパク質構造を重ね合わせた。近位Pro27部位でのベンゼン密度と最適に重なるように、YS-03ペプチド(TSFX8EYWALLS5ENF;配列番号3)を生成するためにPyMOLを用いてフェニルアラニンをステープルペプチドのC末端に同様に結合させた。アナログYS-04ペプチド(TSFX8EYWALLS5ENY;配列番号4)のC末端チロシン残基は、tleapモジュールを使用してYS-03からモデル化した。
【0135】
8個のモデル化したステープルペプチド複合体(結合していないMdm2から6個、p53結合Mdm2から2個)はそれぞれ明示的に溶媒を取り扱った分子動力学(MD)シミュレーションを50ns行った。ff99SB-ILDN及びGAFF(汎用AMBER力場)力場は、シミュレーション中のX5残基を描くために使用した。X5の原子電荷(表5)は、R.E.D.Serverを使用して、X8及びS5残基で前に描いたように得られた。全ペプチドはアセチル及びアミド基でキャップした。
【0136】
【表5】
【0137】
分子機構/一般化ボルン表面積(MM/GBSA)
野生型(WT)p53ペプチド及び2つの設計されたステープルペプチドを有するMdm2複合体の結合自由エネルギーは、分子機構/一般化ボルン表面積(MM/GBSA)法を使用して計算し、複合体(Gcom)、受容体(Grec)及びリガンド(Glig)の自由エネルギーは個々に計算し、得られた結合の自由エネルギー(ΔGbind)は以下のとおりである:
ΔGbind=Gcom-Grec-Glig
=ΔEMM+ΔGsol-TΔS (式1)
【0138】
ΔGbindは、分子機構エネルギー(ΔEMM)の変化の合計として評価され、ファンデルワールス力、静電及び内部エネルギー、極性及び非極性の寄与を含む溶媒和自由エネルギー(ΔGsol)並びにエントロピー(-TΔS)を含む。
ΔEMM=ΔEvdw+ΔEele+ΔEint(式2)
ΔGsol=ΔGGB+ΔGnp (式3)
Gnp=γ×SASA+β (式4)
【0139】
MM/GBSA計算で使用したプログラムは全てAMBER11のものである。200個の一定幅のスナップショット構造は、系の平衡が生じるときに応じて(RMSDプロットのプラトーによって示される)トラジェクトリーのそれぞれの最後の20~40ナノ秒から抽出し、分子機構エネルギーはsanderモジュールで計算した。溶媒和自由エネルギー(ΔGGB)に対する極性の寄与は、pbsaプログラムによって、Onufriev等によって記載された一般化ボルン(GB)改変モデルを使用して計算し、一方非極性の寄与(ΔGnp)は溶媒接触可能表面積(SASA)からmolsurfプログラムを使用してγ=0.0072kcalÅ-2で、βをゼロに設定して推定した。エントロピーは、正常モードの分析によって、nmodeプログラムを使用して推定した。計算量の関係で、トラジェクトリーの平衡な部分から50個の一定幅のスナップショットのみを分析に使用した。
【0140】
YS-01に結合したMdm2の分子動力学(MD)シミュレーション
YS-01に結合した結晶構造Mdm2の鎖A及びFは、シミュレーションを開始するために使用した。選択した鎖の4Å内の結晶水は全て保持されており、2つのMdm2変異E69A及びK70Aは野生型の状態に戻った。アセチル及びN-メチル基はそれぞれMdm2のN及びC末端をキャップするために使用した。Mdm2/YS-01複合体の3つの独立した100ナノ秒分子動力学(MD)シミュレーションは、その他のMdm2複合体について以前に記載したのと同じ設定及びプロトコルを使用して実施した。
【0141】
T22p53β-ガラクトシダーゼをベースにしたレポーターアッセイ
p53応答性β-ガラクトシダーゼレポーターで安定してトランスフェクトされたT22細胞を96ウェルプレートにウェル当たり8000個の細胞の細胞密度で播種した。細胞はまた、10%ウシ胎児血清(FBS)及びペニシリン/ストレプトマイシンを含むダルベッコ最小イーグル培地(DMEM)で維持した。細胞は、24時間インキュベートし、次いで10%FBSを含むDMEM中で化合物/ペプチドで18時間処理した。β-ガラクトシダーゼ活性は、FluoReporter LacZ/ガラクトシダーゼ定量キットを使用して、製造者の指示に従って検出した。測定は、Safire IIマルチプレートリーダーを使用して実施した。実験は独立して2回実施した。
【0142】
ARN8β-ガラクトシダーゼをベースにしたレポーターアッセイ
p53応答性β-ガラクトシダーゼレポーターで安定してトランスフェクトされたARN8細胞を96ウェルプレートにウェル当たり8000個の細胞の細胞密度で播種した。細胞はまた、ウシ胎児血清(FBS)10%及びペニシリン/ストレプトマイシンを含むダルベッコ最小イーグル培地(DMEM)で維持した。細胞は、24時間インキュベートし、次いで10%FBSを含むDMEM中で化合物/ペプチドで18時間処理した。β-ガラクトシダーゼ活性は、FluoReporter LacZ/ガラクトシダーゼ定量キットを使用して、製造者の指示に従って検出した。測定は、Safire IIマルチプレートリーダーを使用して実施した。実験は独立して2回実施した。
【0143】
乳酸脱水素酵素放出アッセイ
いずれもp53応答性β-ガラクトシダーゼレポーターで安定してトランスフェクトされるT22細胞又はARN8細胞を96ウェルプレートにウェル当たり5000個の細胞の細胞密度で播種した。細胞はまた、ウシ胎児血清(FBS)10%及びペニシリン/ストレプトマイシンを含むダルベッコ最小イーグル培地(DMEM)で維持した。細胞は、24時間インキュベートし、次いで10%FBSを含む、又は含まないDMEM中で化合物/ペプチドで2時間処理した。細胞質乳酸脱水素酵素放出は、非放射活性細胞毒性アッセイキット(Promega社)を使用して製造者の指示に従って検出した。測定は、Envisionマルチプレートリーダーを使用して実施した。
【0144】
T22ウェスタンブロット分析
T22マウス細胞を12ウェルプレートにウェル当たり150000個の細胞の細胞密度で播種し、一晩インキュベートした。細胞はまた、10%ウシ胎児血清(FBS)及びペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM培地で維持した。細胞は10%FBSを含む、又は含まないDMEM培地中で、指定した時点及び濃度で様々な化合物/媒体対照で処理した。細胞をPBSで濯ぎ、次に1×NuPAGE LDS試料緩衝液(NP0008)50μl中に採取した。次に試料を超音波処理し、90℃で5分間加熱し、10秒間2回超音波処理し、13000rpmで5分間遠心分離した。タンパク質濃度はBCAアッセイによって測定した。次に、添加対照としてアクチンに対する抗体(AC-15)、p21(F-5マウス、モノクローナル)、Mdm2(2A10マウスモノクローナル)及びp53(1C12マウスモノクローナル)に対する抗体を使用してウェスタンブロットを実施した。
【0145】
蛍光偏光競合実験のためのMdm2タンパク質の精製
Mdm2(1~125)は、BAMH1及びNDE1による2重の消化によってGST融合発現ベクターpGEX-6P-1に連結した。次に、BL21DE3コンピテント細菌をGSTタグ(1~125)Mdm2コンストラクトで形質転換した。Mdm2GST融合コンストラクトを発現する細胞をLB培地中で37℃でOD600が約0.6になるまで増殖させ、誘導はイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)1mMで室温で実施した。細胞は、遠心分離によって採取し、細胞ペレットはTris 50mM pH8.0、10%スクロースに再懸濁し、次いで超音波処理した。超音波処理した試料を4℃で17000gで60分間遠心分離した。上清を、ジチオスレイトール(DTT)1mMを含む洗浄緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水、KCl2.7mM及びNaCl137mM、pH7.4)で予め平衡化した5mlのFFGSTカラムに添加した。その後、カラムをさらに洗浄緩衝液6体積で洗浄した。その後、Mdm2はPreScissionプロテアーゼで切断することによってカラムから精製した。DTT緩衝液1mMを含むPBS1カラム体積に溶かしたPreScissionプロテアーゼ10単位をカラムに注入した。切断反応は、4℃で一晩進行させた。その後、切断したタンパク質を洗浄緩衝液でカラムから溶出させた。タンパク質画分をSDS-PAGEで分析し、Centricon(分子量カットオフ(MWCO)3.5kDa)濃縮器を使用して濃縮した。その後、Mdm2タンパク質試料は、DTT1mMを含み、Bis-Tris20mM、pH6.5、NaCl0.05Mを含有する緩衝溶液中で透析し、緩衝液A(Bis-Tris20mM、pH6.5、DTT1mM)で予め平衡化したmonoSカラムに添加した。次に、カラムを6カラム体積の緩衝液Aで洗浄し、結合したタンパク質をNaCl1Mの直線勾配で25カラム体積で溶出させた。タンパク質画分をドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で分析し、Centricon(分子量カットオフ(MWCO)3.5kDa)濃縮器を使用して濃縮した。切断したMdm2(1~125)を純度約90%まで精製した。タンパク質濃度は、A280を使用してMdm2(1~125)の吸光係数10430M-1cm-1を用いて決定した。
【0146】
蛍光異方性アッセイ及び解離定数(K)の決定
精製したMdm2(1~125)をカルボキシ蛍光(FAM)標識12-1ペプチド(FAM-RFMDYWEGL-NH2)50nMに対して滴定した。FAM標識12-1ペプチドに対するMdm2及びMdm4の滴定の解離定数は、実験データを以下に示した1:1結合モデル式に当てはめることによって決定した。
【0147】
【数1】
【0148】
[P]はタンパク質濃度(Mdm2/Mdm4)であり、[L]は標識ペプチド濃度であり、rは測定した異方性であり、rは遊離ペプチドの異方性であり、rはMdm2/4-FAM-標識ペプチド複合体の異方性であり、Kは解離定数であり、[L]は全FAM標識ペプチド濃度であり、[P]は全Mdm2/4濃度である。測定された見かけ上のK値(以下の表に示す)は、Mdm4及びMdm2がいずれもそれぞれの競合リガンドに対するその後の競合アッセイにおける、見かけ上のK値の測定で使用された。
【0149】
【表6】
【0150】
見かけ上の解離定数(K)値は、競合蛍光異方性実験によって様々な分子について測定した。滴定は、Mdm2及びMdm4の濃度をそれぞれ250nM及び75nMで一定に維持し、標識ペプチド50nMで実施した。次に、競合する分子を、FAM標識ペプチド及びタンパク質の複合体に対して滴定した。見かけ上の解離定数(K)値は、実験データを以下に示した式に当てはめることによって決定した:
【0151】
【数2】
【0152】
【数3】
【0153】
[L]st及び[L]はそれぞれ、標識したリガンド及び全非標識リガンド投入濃度を意味する。Kd2は、非標識リガンドとタンパク質との間の相互作用の解離定数である。競合型の実験全てにおいて、[P]>[L]stであると考えられ、そうでなければ遊離の標識リガンドのかなりの量が常に存在し、測定を妨害するだろう。Kd1は、それぞれの実験で使用した標識ペプチドの見かけ上のKで、以前の段落で記載したように実験的に決定された。FAM標識ペプチドを1mMでジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、実験緩衝液で希釈した。読み取りはEnvision Multilabelリーダーで実施した。実験は、PBS(KCl2.7mM、NaCl137mM、NaHPO10mM及びKHPO2mM(pH7.4))及び0.1%Tween20緩衝液中で実施した。滴定は全て3連で実施した。カーブフィティングは、Prism4.0(GraphPad社)を使用して実施した。
【0154】
1:1結合モデルのフィティングを検証するために、Mdm2/Mdm4とFAM標識ペプチドとの直接滴定開始時の異方性値が遊離蛍光標識ペプチドで認められた異方性値とあまり異ならなかったことを注意深く分析した。研究中のリガンドの陰性対照滴定も蛍光標識ペプチド(Mdm2/4非存在下)で実施して、リガンドとFAM標識ペプチドとの間で相互作用が生じていないことを確認した。さらに、競合滴定の最終的基準値は、遊離蛍光標識ペプチドの異方性値を下回らないことが確認され、下回っていたならば、リガンドとMdm2/4結合部位から押しのけられるFAM標識ペプチドとの間の意図しない相互作用が示されていただろう。
【0155】
タンパク質精製及び結晶化
Mdm2 17~125 E69AK70Aは、N末端グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)融合を有し、BL21(DE3)pLysS大腸菌(Escherichia coli)において発現するpGEX6P-1プラスミドにクローニングした。細胞は、600nm(OD600)0.6の最適密度になるまでルリアベルターニ(LB)培地中で37℃で増殖させ、イソプロピル-ベータ-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)0.2mMで誘導し、20℃で一晩インキュベートした。細胞ペレットを、リゾチーム250μg/ml、RNアーゼA50μg/ml、DNアーゼI10μg/ml及びMgCl5mMを補給した緩衝液A(HEPES 20mM、pH7.4、NaCl100mM、ジチオスレイトール(DTT)5mM)に再懸濁した。細胞は超音波処理によって溶解し、溶解物を遠心分離(50000×g、4℃、1時間)によって清澄にした。上清をグルタチオンビーズと共に一晩インキュベートし、その後緩衝液Aで洗浄し、グルタチオン20mMを補給した緩衝液Aによって溶出した。GST融合物は、PreScission 3Cプロテアーゼで除去し、次に試料を緩衝液Aで平衡化したSuperdex75 26/60ゲル濾過カラムに添加した。精製したMdm2 17~125 E69AK70Aは、0.5mg/mlまで希釈し、YS01又はYS02と共に1:1.1モル比で一晩4℃でインキュベートした。両複合体は、結晶化のために5mg/mlまで濃縮した。
【0156】
YS-01との複合体中のMdm2の結晶は、クエン酸ナトリウム0.1M、pH4.2、NaCl0.2M及び20% PEG8000の条件で成長した。これらの結晶は、データ収集及びMdm2-YS-02トレイへの接種のために使用した。種は、Seed Beadを使用して製造者の指示に従って生成し、次に、Mdm2-YS-02及びクエン酸ナトリウム0.1M、pH4.0の沈殿物及び15% PEG8000と1:3:2の比で一緒にした。YS-01及びYS-02結晶の両方は20%ポリエチレングリコール400(PEG400)を補給した貯蔵溶液中で凍結保護し、液体窒素で急速冷却した。Diamond Light Sourceにおいて、100KでビームラインI04(YS-01)又はビームラインI04-1(YS-02)で、単結晶について回折データを収集した。データをxia2で処理し、次にAimless and PointlessでCCP4iで再処理した。分子置換は、Phaserで実施し、モデルは、Refmacの精密化サイクルで精密化し、Cootでマニュアル修正した。最終モデルはMolProbityで検証した。データ修正及び精密化の統計値を表6に示す。座標は、タンパク質データバンク(PDB)に蓄積した。
【0157】
【表7】
【0158】
【表8】
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図8-4】
図9-1】
図9-2】
図10
図11
図12
図13
図14-1】
図14-2】
図14-3】
【配列表】
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