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特許7028682原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維及びその製造方法、並びに該繊維からなる難燃性紡績糸及び難燃性牽切紡績糸
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維及びその製造方法、並びに該繊維からなる難燃性紡績糸及び難燃性牽切紡績糸
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/90 20060101AFI20220222BHJP
   D02J 1/18 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
D01F6/90 331
D02J1/18 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018044223
(22)【出願日】2018-03-12
(65)【公開番号】P2018154954
(43)【公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2017052892
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】竹山 直彦
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-154945(JP,A)
【文献】特開2019-157290(JP,A)
【文献】特開2010-150681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00-6/96、9/00-9/04、
D02G1/00-3/48、D02J1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維中におけるリン原子含有量が0.2wt%以上となるように有機リン化合物が含有されたメタ型全芳香族ポリアミド繊維であって、該繊維には顔料が0.1~10.0wt%含有されており、該繊維の燃焼時限界酸素指数LOIが33以上、130℃で2時間湿熱処理した後の強度保持率が90%以上である原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項2】
該繊維に含まれる有機リン化合物の熱分解開始温度が300℃以上である請求項1記載の原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項3】
有機リン化合物が、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、又はジメチルアセトアミド(DMAc)に5%以上溶解し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、又はジメチルアセトアミド(DMAc)の60%水溶液には不溶である請求項1または2に記載の原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項4】
該繊維中におけるハロゲン含有量が0.2wt%以下である請求項1~3いずれかに記載の原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項5】
該繊維を180℃で30秒乾熱処理したときの、乾熱処理前後における色差ΔEが0.75以下である請求項1~4いずれかに記載の原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項6】
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、又はジメチルアセトアミド(DMAc)に5%以上溶解し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、又はジメチルアセトアミド(DMAc)の60%水溶液には不溶である有機リン化合物を、顔料を含む紡糸ドープに対しリン原子含有量が0.2~5.0wt%となるように添加した後、紡糸することを特徴とする原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維をその構成成分とすることを特徴とする難燃性紡績糸。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載の原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維をその構成成分とすることを特徴とする難燃性牽切紡績糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維に関するものであり、さらに詳しくは、得られた繊維の燃焼時限界酸素指数LOIが少なくとも33以上であり、かつ130℃で2時間湿熱処理した後の強度保持率が90%以上である、耐久性に優れた原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維及びその製造方法、並びに該繊維からなる難燃性紡績糸及び難燃性牽切紡績糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジハライドとから製造される全芳香族ポリアミドが耐熱性及び難燃性に優れていることは周知であり、また、これらの全芳香族ポリアミドはアミド系極性溶媒に可溶であり、全芳香族ポリアミドを該溶媒に溶解した重合体溶液から乾式紡糸、湿式紡糸、半乾半湿式紡糸等の方法により繊維となし得ることもよく知られている。これら全芳香族ポリアミドのうち、ポリメタフェニレンイソフタルアミドで代表されるメタ型全芳香族ポリアミド(「メタアラミド」と称されることもある)の繊維は、耐熱・難燃性繊維として特に有用なものであり、これらの特性を発揮する分野、例えば、フィルター、電子部品等の産業用途や、耐熱性、防炎性、耐炎性が重視される防護衣等の防災安全衣料用途等に用いられている。
【0003】
これらの分野においてメタ型全芳香族ポリアミド繊維の難燃性は、火災防止、人命保護の観点からもより高く安定したものが求められている。
【0004】
そこで、メタ型全芳香族ポリアミド繊維の難燃性を改善するため、ポリマーに有機リン化合物、含リンフェノール樹脂、ハロゲン化合物等を添加する方法が提案されており、ハロゲン原子含有の有機リン化合物を配合して難燃性を改善する方法が提案されている(下記特許文献1参照)。しかし、ここで使用される化合物は、安定した繊維成形加工を行う観点から、低分子量の有機化合物が使用されるため、繊維成形加工時にその一部が排出・脱落されてしまう傾向があり、さらにはハロゲン化合物の場合は環境問題を危惧した近年の脱ハロゲン化の動きに逆向している。
【0005】
一方、メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、その製造プロセスにアミド系有機溶媒を使用することが一般的であり、この場合、繊維中にアミド系溶媒が残留することが知られており、このことにより、本来メタ型全芳香族ポリアミドが有している難燃性が充分に発揮できず、難燃性に劣るものしか得られないという欠点を有している(下記特許文献2~10参照)。
【0006】
また、メタ型全芳香族ポリアミド繊維の難燃性能を向上させるには、この残留溶媒量を低減することが望ましいとの考えの下、メタ型全芳香族ポリアミド重量を基準にして0.1~10重量%の層状粘土鉱物を含有させ、この繊維中に残存する溶媒量を1.0%以下とし、本来メタ型全芳香族ポリアミドが有している難燃性を有効に発現させ、難燃剤を配合することなしに難燃効果の良好なメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得る方法が提案されている。(下記文献11)しかし、この方法での難燃性向上には限界があり、それ以上の性能を与えるには難燃剤の配合が必須となり、当初の課題が十分には解決されていなかったのが実情である。
【0007】
これらメタ型全芳香族ポリアミド繊維の用途の中でも、繊維に捲縮をかけた後に短くカットし、引き続き、打綿、梳綿、粗紡、巻返し工程を通して得られる紡績糸は、産業資材分野や衣料分野など、様々な分野において有用であり、例えば、消防服、耐熱性作業服などの防護衣料分野で好適に使用されている。
【0008】
ここで、メタ型全芳香族ポリアミドからなる紡績糸を作製する方法としては、通常の紡績方法による他、例えば、牽切紡績法によるものが挙げられる(特許文献12参照)。牽切紡績法によると、従来の紡績糸の製造方法において必要となるプロセスである、捲縮付与、カット、打綿、梳綿、練条、粗紡、巻返しなどの煩雑な工程を経る必要がない。また、この方法によれば、捲縮の影響や単糸繊維の配向の乱れが少ないため、従来の紡績糸と異なり、極めて低伸度、高強度、低捲縮度、高い耐クリープ性を有する耐熱性紡績糸を得ることができる。
【0009】
これら紡績糸の主な用途となる衣料分野においては、意匠性などの要求から、着色した繊維を用いるのが一般的である。そして、着色した繊維を得る方法としては、繊維化後、染料を用いて染色する後染色法、あるいは紡糸原液に顔料を添加して繊維化する原着法が知られている。
【0010】
例えば、特許文献13においては、易染性メタ型芳香族ポリアミド繊維において、非ハロゲン化芳香族縮合型リン酸エステルを含有させることでカチオン染料で容易に染色することができ、しかも、難燃性及びその洗濯耐久性に優れた染色繊維が得られることが開示されている。
【0011】
しかし、この方法での染料の染着率には限界がありそれ以上に効果的に染色を行い繊維内部まで十分に染料を吸塵させるためには、一般的にメタ型芳香族ポリアミド繊維の分子鎖を緩めるキャリア剤を用いた染色が用いられる。この場合、染色後に十分な難燃剤の残留が得られずその効果は不十分なものとなっていた。
【0012】
さらに、繊維中に添加が容易であり、安価な難燃剤の多くは、160℃~300℃で熱分解するために該繊維の製造段階で分解が始まり、リン酸成分が発生することが知られている。このため、湿熱状態においてメタ型全芳香族ポリアミド繊維のアミド結合部分を加水分解していき強度を低下させるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開昭53-122817号公報
【文献】特公昭35-14399号公報
【文献】特公昭47-10863号公報
【文献】特公昭48-17551号公報
【文献】特開昭50-52167号公報
【文献】特開昭56-31009号公報
【文献】特開平8-74121号公報
【文献】特開平10-88421号公報
【文献】特開2000-303365公報
【文献】特開2001-348726公報
【文献】特開2007-254915公報
【文献】特開平02-234932号公報
【文献】特開2004-52166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、かかる従来技術における問題点を解消し、より安全で環境に対応した高い難燃性を示すと共に、特に防護衣料において、より安全な難燃性能を長期にわたり提供することが可能な耐久性に優れた原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維及びその製造方法、並びに該繊維からなる難燃性紡績糸及び難燃性牽切紡績糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討をおこなった結果、メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造に用いる有機溶剤に対し、特定の溶解挙動を示す有機リン化合物からなる難燃剤を、メタ型全芳香族ポリアミド繊維中のリン原子含有量が0.2wt%以上となるように含有させるとき、高い難燃性能を持った原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維が得られることを究明し、本発明に到達した。
【0016】
即ち、本発明によれば、メタ型全芳香族ポリアミド繊維中におけるリン原糸含有量が0.2wt%以上となるように有機リン化合物が含有されたメタ型全芳香族ポリアミド繊維であって、該繊維には顔料が0.1~10.0wt%含有されており、該繊維の燃焼時限界酸素指数LOIが33以上、130℃で2時間湿熱処理した後の強度保持率が90%以上である原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維、及び、
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、又はジメチルアセトアミド(DMAc)に5%以上溶解し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、又はジメチルアセトアミド(DMAc)の60%水溶液には不溶である有機リン化合物を、顔料を含む紡糸ドープに対しリン原子含有量が0.2~5.0wt%となるように添加した後、紡糸することを特徴とする原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法、並びに、
上記の原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維をその構成成分とすることを特徴とする難燃性紡績糸、及び、
上記の原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維をその構成成分とすることを特徴とする難燃性牽切紡績糸、
が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、有機リン化合物からなる難燃剤が均一に混合されるので、繊維成形加工において糸切れなどの生産性低下が少ない上、難燃剤が繊維中に効率よく残留することから、少ない添加量で難燃効果を得ることができ、また、凝固液の再利用に際し、装置の腐食などの影響を与えることの無い、原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることができる。
【0018】
さらに熱分解開始温度が300℃以上である該有機リン化合物を使用することで繊維中にリン酸などの成分の発生が抑えられるので、130℃で2時間湿熱処理した後の強度保持率が90%以上である、耐久性に優れた原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることができる。
【0019】
また、上記の原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維をその構成成分とする紡績糸や牽切紡績糸を製造すれば、難燃性に優れ、湿熱強度劣化が防止された紡績糸や牽切紡績糸を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細を説明する。
【0021】
本発明におけるメタ型全芳香族ポリアミドは、メタ型芳香族ジアミンとメタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとを原料として、例えば溶液重合や界面重合させることにより製造されるポリアミドであるが、本発明の目的を阻害しない範囲内で、例えばパラ型等の他の共重合成分を共重合したものであってもよい。
【0022】
上記メタ型芳香族ジアミンとしては、メタフェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン等及びこれらの芳香環にハロゲン、炭素数1~3のアルキル基等の置換基を有する誘導体、例えば2,4-トルイレンジアミン、2,6-トルイレンジアミン、2,4-ジアミノクロルベンゼン、2,6-ジアミノクロルベンゼン等を使用することができる。なかでも、メタフェニレンジアミン又はメタフェニレンジアミンを70モル%以上含有する上記の混合ジアミンが好ましい。
【0023】
また、上記メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、イソフタル酸クロライド、イソフタル酸ブロマイド等のイソフタル酸ハライド、及びこれらの芳香環にハロゲン、炭素数1~3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体、例えば3-クロルイソフタル酸クロライド、3-メトキシイソフタル酸クロライドを使用することができる。なかでも、イソフタル酸クロライド又はイソフタル酸クロライドを70モル%以上含有する上記の混合カルボン酸ハライドが好ましい。
【0024】
上記のジアミンとジカルボン酸ハライド以外で使用し得る共重合成分としては、芳香族ジアミンとして、パラフェニレンジアミン、2,5-ジアミノクロルベンゼン、2,5-ジアミノブロムベンゼン、アミノアニシジン等のベンゼン誘導体、1,5-ナフチレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルケトン、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン等が挙げられ、一方、芳香族ジカルボン酸ハライドとして、テレフタル酸クロライド、1,4-ナフタレンジカルボン酸クロライド、2,6-ナフタレンジカルボン酸クロライド、4,4’-ビフェニルジカルボン酸クロライド、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸クロライド等が挙げられる。
【0025】
これらの共重合成分の共重合比は、あまりに多くなりすぎるとメタ型全芳香族ポリアミドの特性が低下しやすいので、ポリアミドの全酸成分を基準として20モル%以下が好ましい。特に、好適なメタ型全芳香族ポリアミドは、全繰返し単位の80モル%以上がメタフェニレンイソフタルアミド単位からなるポリアミドであり、なかでもポリメタフェニレンイソフタルアミドが好ましい。
かようなメタ型全芳香族ポリアミドの重合度は、30℃において97%濃硫酸を溶媒として測定した固有粘度(IV)が1.3~3.0の範囲が適当である。
【0026】
次にここで得られたメタ型全芳香族ポリアミドを溶解する溶媒に溶解して紡糸ドープを調整するが、重合後メタ型全芳香族ポリアミドを単離せずそのまま紡糸ドープとすることも可能である。ここで用いる溶媒としてアミド系溶媒を一般的に用いることができ、主なアミド系溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等を例示することができる。これらのなかでは溶解性と取り扱い安全性の観点から、NMPまたはDMAcを用いることが好ましい。
【0027】
溶液濃度としては、次工程である紡糸・凝固工程での凝固速度および重合体の溶解性の観点から、適当な濃度を適宜選択すればよく、例えば、ポリマーがポリメタフェニレンイソフタルアミドで溶媒がNMPの場合には、通常は10~30質量%の範囲とすることが好ましい。
【0028】
本発明においては、この紡糸ドープに有機リン化合物からなる難燃剤をメタ型全芳香族ポリアミド繊維中のリン原子含有量が0.2wt%以上となるように添加し、さらに、市場が要求する色相の原着繊維得るために、この紡糸ドープに、顔料をポリマー成分あたり0.1~10.0wt%となるよう添加する。ここで用いられる顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、ペリノン系、ペリレン系、アンスラキノン系等の有機顔料、あるいは、カーボンブラック、群青、ベンガラ、酸化チタン、酸化鉄等の無機顔料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
本発明においては、この紡糸ドープに有機リン化合物からなる難燃剤を添加するが、特にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、又はジメチルアセトアミド(DMAc)に5%以上溶解し、さらにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、又はジメチルアセトアミド(DMAc)の60%水溶液には溶解しない特性を持ったものを選定して添加することで、紡糸ドープ中に溶解させ均一に混ぜ合わすことが可能となり、繊維成形加工後の繊維中への残留率も高く効率の良い加工となる。
【0030】
ここで、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、又はジメチルアセトアミド(DMAc)に5%未満しか溶解しない有機リン化合物を使用した場合、紡糸ドープに必要な量の難燃剤を溶解することが困難となる。さらに、この場合、紡糸ドープに添加するには均一に分散させることが必要となるが、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、又はジメチルアセトアミド(DMAc)に5%未満しか溶解しない場合は非常に難しい工程となる。また均一に分散できたとしても粒子または、粒子の凝集物が存在すると繊維成形加工時に単糸が切断するなどの不具合が多く発生する上、繊維化できたとしても該繊維の強度が低下する。
【0031】
また、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、又はジメチルアセトアミド(DMAc)に5%以上溶解し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、又はジメチルアセトアミド(DMAc)の60%水溶液にも十分溶解するものは、繊維成形加工時にこの溶媒と一緒に難燃剤も抜け落ちてしまいあらかじめ多くの剤を添加しておかなければその性能を発現することが出来ず、効率が悪く不適切な加工となる。
【0032】
該有機リン化合物の熱分解開始温度は、300℃以上であることが好ましく、さらに330℃以上であることがより好ましい。この熱分解開始温度が高いと有機リン酸化合物による難燃性能が高くなるだけでなく、メタ型全芳香族ポリアミドの繊維成形加工時に実施する熱処理加工時に分解が抑えられ、130℃で2時間湿熱処理した後の強度保持率が90%以上である、耐久性に優れた原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることができる。
さらに該有機リン化合物にハロゲンが含まれていないものを選択することで、環境問題への対応も可能となる。
【0033】
ここで用いる有機リン化合物からなる難燃剤としては、芳香族リン酸エステル類、芳香族縮合リン酸エステル類、含ハロゲンリン酸エステル類、含ハロゲン縮合リン酸エステル類の中から上記特徴にあったものを選定することができる。特に紡糸ドープの溶媒に5%以上溶解し、さらにこの溶媒の60%水溶液には溶解しない特性を持ったものに該当するのは、芳香族縮合リン酸エステル類に多く、主に、レゾルシノールビス-ジフェニルホスフェート(RDP)レゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェート(RDX)などを使用することができる。
【0034】
ただし、下記構造を有する芳香族縮合リン酸エステルの多くは、常温で液体状であるものが多くN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、又はジメチルアセトアミド(DMAc)の60%水溶液になじみやすく5%以上溶解することがあり使用することが一般的に好ましくない。
【0035】
【化1】
式中、Rは非ハロゲン化フェニル基、XはビスフェノールA残基、nは1~3の整数を表す。
一方、下記構造式であらわされる芳香族縮合リン酸エステルは、常温で固体であり、本願の難燃剤として好ましい。
【0036】
【化2】
式中、Rは非ハロゲン化フェニル基、Xは芳香環を有する構造で主に下記のものが好ましい。
【0037】
【化3】
【0038】
該有機リン化合物は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、又はジメチルアセトアミド(DMAc)に5%以上溶解するため、紡糸ドープへの添加が容易であり、該有機リン化合物とメタ型全芳香族ポリアミドがともに溶解状態で均一に混合されることから繊維成形加工時に単糸切れなどの不具合が起こりにくくなり安定した繊維の製造が可能となる。
【0039】
また該有機リン化合物は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、又はジメチルアセトアミド(DMAc)の60%水溶液において不溶となる特性を持っていることから、繊維成形加工時においてその凝固液となる該有機溶剤水溶液中への溶出がなく、繊維中に効率よく残留するため難燃性能発現への寄与率が高くなる。
【0040】
さらに、該有機リン化合物の熱分解開始温度が300℃以上である場合、繊維成形加工時に実施される熱処理による分解は、ほとんど起こらず、変色や強度低下の小さい繊維を得ることが可能となる。さらに該有機リン化合物にハロゲンが含まれていないものを選択することにより環境問題への対応も可能となる。
【0041】
次に、上記のとおり調製された紡糸ドープを凝固液中へ紡出し凝固させる。紡糸装置としては特に限定されるものではなく、従来公知の湿式紡糸装置を使用することができる。また、安定して湿式紡糸できるものであれば、紡糸口金の紡糸孔数、配列状態、孔形状等は特に制限する必要はなく、例えば、孔数が500~30000個、紡糸孔径が0.05~0.2mmのスフ用の多ホール紡糸口金等を用いてもよい。
また、紡糸口金から紡出する際の紡糸ドープの温度は、10~90℃の範囲が適当である。
【0042】
本発明に用いられる繊維を得るために用いる凝固浴の例としては、無機塩を含まないアミド系溶媒濃度45~60質量%の水溶液を、浴液の温度10~35℃の範囲で用いる。
アミド系溶媒濃度が45質量%未満ではスキンが厚い構造となってしまい、洗浄工程における洗浄効率が低下し、最終繊維に溶媒が残存することとなる。また、アミド系溶媒濃度が60質量%を超える場合には、繊維内部に至るまで均一な凝固を行うことができず、このため、繊維成形加工時に単糸が切断するなどの不具合が多く発生する。なお、凝固浴中への繊維の浸漬時間は、0.1~30秒の範囲が適当である。
【0043】
次に凝固浴にて凝固して得られた繊維が可塑状態にあるうちに、可塑延伸浴中にて繊維を延伸処理する。可塑延伸浴液としては特に限定されるものではなく、従来公知の浴液を採用することができる。
【0044】
本発明の繊維を得るためには、可塑延伸浴中の延伸倍率を、3.5~5.0倍の範囲とする必要があり、さらに好ましくは3.7~4.5倍の範囲とする。本発明の繊維の製造においては、可塑延伸浴中にて特定倍率の範囲で可塑延伸することにより、凝固糸中からの脱溶剤を促進することができる。
【0045】
可塑延伸浴中での延伸倍率が3.5倍未満である場合には、凝固糸中からの脱溶剤が不十分となる。また、破断強度が不十分となり、紡績工程等の加工工程における取り扱いが困難となる。一方で、延伸倍率が5.0倍を超える場合には、単糸切れが発生するため、工程安定性が悪くなる。
可塑延伸浴の温度は、10~90℃の範囲が好ましい。好ましくは温度20~90℃の範囲にあると、工程安定性がよい。
【0046】
次に、繊維中に残留している溶剤を洗浄する。この工程においては、可塑延伸浴にて延伸された繊維を、十分に洗浄する。洗浄は、得られる繊維の品質面に影響を及ぼすことから、多段で行うことが好ましい。特に、洗浄工程における洗浄浴の温度および洗浄浴液中のアミド系溶媒の濃度は、繊維からのアミド系溶媒の抽出状態および洗浄浴からの水の繊維中への浸入状態に影響を与える。このため、これらを最適な状態とする目的においても、洗浄工程を多段とし、温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件を制御することが好ましい。
【0047】
温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件については、最終的に得られる繊維の品質を満足できるものであれば、特に限定されるものではない。ただし、最初の洗浄浴を60℃以上の高温とすると、水の繊維中への浸入が一気に起こるため、繊維中に巨大なボイドが生成し、品質の劣化を招く。このため、最初の洗浄浴は、30℃以下の低温とすることが好ましい。
【0048】
繊維中に溶媒が残っている場合、該繊維の難燃性を低下させる上に、該繊維を用いた製品の加工、および当該繊維を用いて形成された製品の使用における環境安全性においても好ましくない。このため、本発明に用いられる繊維に含まれる溶媒量は、0.2%以下であり、より好ましくは0.15%以下であり、0.1%以下であることが特に好ましい。
【0049】
次に、乾熱処理工程においては、洗浄工程を経た繊維を、乾燥・熱処理する。乾熱処理の方法としては特に限定されるものではないが、例えば、熱ローラー、熱板等を用いる方法を挙げることができる。乾熱処理を経ることにより、最終的に、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることができる。
【0050】
本発明に用いられる繊維を得るためには、乾熱処理工程における熱処理温度を、260~350℃の範囲とする必要があり、270~340℃の範囲とすることがさらに好ましい。熱処理温度が260℃未満の場合には、繊維の結晶化が不十分となり、繊維の収縮性が高くなる。一方で、350℃を越える場合には、繊維の結晶化が大きくなりすぎるため、破断伸度が著しく低下する。また、乾熱処理温度を270~340℃の範囲とすることは、得られる繊維の破断強度の向上に寄与する。
【0051】
乾熱処理が施されたメタ型全芳香族ポリアミド繊維には、必要に応じて、さらに捲縮加工を施してもよい。さらに、捲縮加工後は、適当な繊維長に切断し、次工程に提供してもよい。また、場合によっては、マルチフィラメントヤーンとして巻き取ってもよい。
【0052】
上記メタ型全芳香族ポリアミド繊維を構成成分とする紡績糸を製造する場合は、乾熱処理が施されたメタ型全芳香族ポリアミド繊維に捲縮を施す。捲縮を施す方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法を採用することができる。付与される捲縮数としては、例えば5~20T/in、捲縮度としては、例えば5~20(%)を例示することができるが、特に限定されるものではない。
【0053】
引き続き、捲縮処理が施された繊維をカットすることにより、紡績工程に付すための短繊維を得る。カットする方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を採用することができる。例えば、ギロチンカッターを用いて、長繊維を所定の繊維長にカットする方法が挙げられる。また、カット長も特に限定されるものではなく、例えば、10~500mm程度が挙げられる。
【0054】
次に、打綿、梳綿、練条、粗紡、精紡、仕上などを行い、紡績糸を得ることができる。これら工程は特に限定されるものではなく、公知の方法を採用することができる。
【0055】
また、上記メタ型全芳香族ポリアミド繊維を構成成分とする牽切紡績糸を製造する場合は、押込み捲縮などによる捲縮付与を行わず、捲縮を有しない連続糸条(トウ)を牽切する。トウに捲縮を有する場合には、牽切されても捲縮の一部が残りやすく、得られる牽切紡績糸の伸度を低くするうえでの障害となる。
トウの牽切に際しては、一対の供給ローラーと牽切ローラーと間で、一段で牽切することも、複数回に分けて、多段で牽切することもできる。
【0056】
さらに、本発明の牽切紡績糸を得るためには、牽切糸条に抱合性を付与する。抱合にあたっては、牽切した後に、引き続いて連続的に抱合する必要があり、抱合性を付与する手段としては、例えば、インターレース処理、旋回流による毛羽捲付け処理、撚糸、などの方法が、単独または複合的に利用できる。抱合性を付与する際のオーバーフィード率としては、4%以下として緊張状態を維持することが好ましく、より好ましくは3%以下である。4%を超えて抱合性を付与すると、得られる牽切紡績糸の伸度が高くなりすぎて、クリープ変形が大きくなるため好ましくない。
【0057】
また、本発明の牽切紡績糸の製造においては、巻き取った後に熱処理してもよいし、抱合性を付与したあとに、加熱ローラーに複数のターンをさせる方法、熱プレート上を走行させる等の方法などによって、連続的に熱処理を施してもよい。
【実施例
【0058】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
なお、実施例中の「部」および「%」は特に断らない限りすべて質量基準に基づくものであり、量比は特に断らない限り質量比を示す。実施例および比較例における各物性値は下記の方法で測定した。
【0059】
<固有粘度(I.V.)>
ポリマーを97%濃硫酸に溶解し、オストワルド粘度計を用い30℃で測定した。
<溶解度評価>
溶解度評価は、2種の評価液で実施した。
(i)メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造に用いる有機溶剤100%、
(ii)該有機溶剤60%水溶液(有機溶剤60/水40)
測定は以下の手順で実施した。
(1)評価液100gをあらかじめ計量したフラスコに測定対象の化合物5gを加え20℃で2時間攪拌した後、全て溶解した場合、溶解度:>5%とする。
(2)溶け残りが確認された場合、20℃で12時間以上静置した後、溶け残りが全て溶解していた場合も、溶解度:>5%とする。
(3)この段階で溶け残りが確認された場合、上澄み液を50g秤量瓶に取り出し、絶乾法で溶解濃度を重量%で求める。
【0060】
<繊度>
JIS L1015に基づき、正量繊度のA法に準拠した測定を実施し、見掛繊度にて表記した。
<破断強度、破断伸度>
JIS L1015に基づき、インストロン社製 型番5565を用いて、以下の条件で測定した。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g)/dtex
引張速度 :20mm/分
<難燃性LOI値>
JIS K7201のLOI測定法に準拠して、LOI値を求めた。
<熱分解開始温度>
Pyris1 TGA(PerkinElmer製)にて熱重量測定を10℃/minの速度で昇温して実施、サンプル重量が5%減少した温度を熱分解開始温度とした。
【0061】
[実施例1~2]
(ポリマーの製造)
乾燥窒素雰囲気下の反応容器に、水分率が100ppm以下のN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)721.5質量部を秤量し、このDMAc中にメタフェニレンジアミン97.2質量部(50.18モル%)を溶解させ、0℃に冷却した。この冷却したDMAc溶液に、さらにイソフタル酸クロライド(以下IPCと略す)181.3質量部(49.82モル%)を徐々に攪拌しながら添加し、重合反応を行った。
次に、平均粒径が10μm以下の水酸化カルシウム粉末を66.6質量部秤量し、重合反応が完了したポリマー溶液に対してゆっくり加え、中和反応を実施した。水酸化カルシウムの投入が完了した後、さらに40分間攪拌して、透明なポリマー溶液を得た。
得られたポリマー溶液からポリメタフェニレンイソフタルアミドを単離してIVを測定したところ、1.65であった。また、ポリマー溶液中のポリマー濃度は、17%であった。
【0062】
(紡糸ドープの製造)
得られたポリマー溶液に、Pigment Blue15の粉末をポリマー成分に対して2.0wt%となるよう添加し、均一に分散させた。芳香族縮合リン酸エステルであるレゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェートのDMAcへの溶解度を測定したところ溶解度:>5%、DMAc60%水溶液には、溶解度:0%で不溶であった。またこの化合物の熱分解開始温度は、320℃であった。
この化合物を難燃剤として該ポリマー溶液に、繊維中のリン含有量としてそれぞれ0.25wt%、0.50wt%となるよう添加し、減圧脱泡して紡糸ドープとした。
【0063】
(紡糸)
上記紡糸ドープを、孔径0.07mm、孔数500の紡糸口金から、浴温度30℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。凝固液の組成は、水/DMAc=45/55(質量部)であり、凝固浴中に糸速7m/分で吐出して紡糸した。
引き続き、温度40℃の水/DMAc=45/55の組成の可塑延伸浴中にて、3.7倍の延伸倍率で延伸を行った。
延伸後、20℃の水/DMAc=70/30の浴(浸漬長1.8m)、続いて20℃の水浴(浸漬長3.6m)で洗浄し、さらに60℃の温水浴(浸漬長5.4m)に通して十分に洗浄を行った。
洗浄後の繊維について、表面温度300℃の熱ローラーにて乾熱処理を施し、メタ型全芳香族ポリアミド繊維をトウの状態でサンプリングし破断強度、破断伸度の測定を行った。
【0064】
さらに得られたトウ状態の繊維を束ねてクリンパーを通し、捲縮を付与した後、カッターでカットして51mmの短繊維とすることにより、原着原綿を得た。得られた原綿を用いて難燃性LOI値を測定した。さらに130℃にて2時間飽和蒸気下で湿熱処理を実施しその前後の破断強度保持率を求めた。これらの結果を表1に示す。
【0065】
[比較例1]
実施例2で製造した紡糸ドープに、耐光安定剤としてベンゾトリアゾール紫外線吸収剤であるチヌビン234をポリマー成分に対して3.0wt%となるようさらに添加し、減圧脱泡して紡糸ドープとした以外は実施例2と同様に実施した。
【0066】
[実施例3]
比較例1において、芳香族縮合リン酸エステルであるレゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェートを、繊維中のリン含有量が0.75wt%、なるよう添加し、減圧脱泡して紡糸ドープとした以外は比較例1と同様に実施した。
【0067】
[比較例2]
上記ポリマー溶液に、Pigment Blue15の粉末をポリマー成分に対して2.0wt%となるよう添加し、均一に分散させた後、減圧脱泡して紡糸ドープとした以外は実施例1と同様に実施した。
【0068】
[比較例3]
上記ポリマー溶液よりポリメタフェニレンイソフタルアミドを単離したのち、アミド系溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)にポリマー濃度18%となるよう溶解し、得られたポリマー溶液にPigment Blue15の粉末をポリマー成分に対して2.0wt%となるよう添加し、均一に分散させた後、減圧脱泡して紡糸ドープとした以外は実施例1と同様に実施した。
【0069】
[比較例4]
比較例3で製造した紡糸ドープに、耐光安定剤としてベンゾトリアゾール紫外線吸収剤であるチヌビン234をポリマー成分に対して3.0wt%となるようさらに添加し、減圧脱泡して紡糸ドープとした以外は比較例3と同様に実施した。
【0070】
[比較例5~8]
比較例3で得られたポリマー溶液に、有機リン化合物のNMPへの溶解度が5%以上ではあるが、DMAc60%水溶液にもよく溶解するトリス(クロロプロピル)ホスフェート(熱分解開始温度:160℃)をポリマー成分に対しリン含有量で0.39wt%、0.47wt%、0.59wt%、0.68wt%となるよう添加し、減圧脱泡して紡糸ドープとした以外は比較例3と同様に実施した。これらのドープにおけるポリマー成分に対する塩素含有量は、2.13%、2.53%、2.79%、3.15%であった。
【0071】
洗浄後の繊維について、表面温度300℃の熱ローラーにて乾熱処理を施し、メタ型全芳香族ポリアミド繊維をトウの状態でサンプリングし破断強度、破断伸度の測定を行った。
【0072】
さらに得られたトウ状態の繊維を束ねてクリンパーを通し、捲縮を付与した後、カッターでカットして51mmの短繊維とすることにより、原着原綿を得た。得られた原綿を用いて難燃性LOI値を測定した。さらに130℃にて2時間飽和蒸気下で湿熱処理を実施しその前後の破断強度保持率を求めた。これらの結果を併せて表1に示す。
【0073】
比較例2と3で得られる原着繊維は、顔料添加によりLOI値が29、26と低いものしか得られなかった。また比較例3に耐光安定剤を追加した比較例4においては、LOI値が24と更に低くなった。
【0074】
比較例4を改善するため比較例5~8において含ハロゲンリン酸エステル類であるトリス(クロロプロピル)ホスフェートを添加した。添加量の増加とともにLOI値の向上がみられたが、130℃で2時間湿熱処理後の強度保持率の低下がみられ、比較例6においては、LOI値が33であるが、強度保持率が90%以下と耐久性の低い原着繊維となった。
【0075】
これに対し、実施例1および2では、熱分解開始温度が320℃である芳香族縮合リン酸エステルであるレゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェートを用いLOI値33以上、湿熱処理後の強度保持率95%以上と耐久性の高い原着繊維を得ることができた。
【0076】
実施例2に耐光安定剤を用いた比較例1においては、LOI値の低下がみられたが、実施例3のとおり芳香族縮合リン酸エステルの添加量を増やすことで耐光性を有しながらLOI値を改善することができた。またこのときの湿熱処理後の強度保持率93%と耐久性を維持した原着繊維を得ることができた。
【0077】
【表1】
【0078】
[実施例4]
(ポリマーの製造)
乾燥窒素雰囲気下の反応容器に、水分率が100ppm以下のN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)721.5質量部を秤量し、このDMAc中にメタフェニレンジアミン97.2質量部(50.18モル%)を溶解させ、0℃に冷却した。この冷却したDMAc溶液に、さらにイソフタル酸クロライド(以下IPCと略す)181.3質量部(49.82モル%)を徐々に攪拌しながら添加し、重合反応を行った。
次に、平均粒径が10μm以下の水酸化カルシウム粉末を66.6質量部秤量し、重合反応が完了したポリマー溶液に対してゆっくり加え、中和反応を実施した。水酸化カルシウムの投入が完了した後、さらに40分間攪拌して、透明なポリマー溶液を得た。
得られたポリマー溶液からポリメタフェニレンイソフタルアミドを単離してIVを測定したところ、1.65であった。また、ポリマー溶液中のポリマー濃度は、17%であった。
【0079】
(紡糸ドープの製造)
得られたポリマー溶液に、Pigment Blue15の粉末をポリマー成分に対して2.0wt%となるよう添加し、均一に分散させた。芳香族縮合リン酸エステルであるレゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェートのDMAcへの溶解度を測定したところ溶解度:>5%、DMAc60%水溶液には、溶解度:0%で不溶であった。またこの化合物の熱分解開始温度は、320℃であった。
この化合物を難燃剤として該ポリマー溶液に、ポリマー成分に対してリン含有量として0.50wt%となるよう添加し、減圧脱泡して紡糸ドープとした。
【0080】
(紡糸)
上記紡糸ドープを、孔径0.07mm、孔数500の紡糸口金から、浴温度30℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。凝固液の組成は、水/DMAc=45/55(質量部)であり、凝固浴中に糸速7m/分で吐出して紡糸した。
引き続き、温度40℃の水/DMAc=45/55の組成の可塑延伸浴中にて、3.7倍の延伸倍率で延伸を行った。
延伸後、20℃の水/DMAc=70/30の浴(浸漬長1.8m)、続いて20℃の水浴(浸漬長3.6m)で洗浄し、さらに60℃の温水浴(浸漬長5.4m)に通して十分に洗浄を行った。
洗浄後、表面温度300℃の熱ローラーにて乾熱処理を施し、繊維を束ねてクリンパーを通し、捲縮を付与した後、カッターでカットして51mmの短繊維とすることにより、原着原綿を得た。得られた原綿を用いて難燃性LOI値を測定し、36と高い難燃性を示した。さらに130℃にて2時間飽和蒸気下で湿熱処理を実施しその前後の破断強度保持率を求めたところ、96%と強度の低下がみられなかった。これらの結果を表2に示す。
【0081】
(紡績糸作製)
また得られた原着原綿を通常の紡績工程を通して20番手の紡績糸を作製した。該紡績糸においても130℃にて2時間飽和蒸気下で湿熱処理を実施しその前後の破断強度保持率を求めたところ、94%と原綿同様に高温飽和蒸気下の過酷な環境でも強度が維持されており、消防服や耐熱作業服などの防護衣料が使用される可能性のある高温多湿な過酷な環境下において耐久性がみられた。これらの結果を表2に示す。
【0082】
[実施例5]
実施例4で製造した紡糸ドープに、耐光安定剤としてベンゾトリアゾール紫外線吸収剤であるチヌビン234をポリマー成分に対して3.0wt%となるようさらに添加し、さらに、芳香族縮合リン酸エステルであるレゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェートをポリマー成分に対してリン含有量が0.75wt%となるよう添加し、減圧脱泡して紡糸ドープとした以外は実施例4と同様に実施した。原綿のLOI値は、紫外線吸収剤の添加により低下傾向ではあるが、本発明の難燃剤を添加していることから33と高い値を維持していた。また、この原綿と紡績糸における130℃・2時間飽和蒸気下での湿熱処理における破断強度保持率を求めたところ、それぞれ93%と91%であり、強度の低下がみられず、消防服や耐熱作業服などの防護衣料に求められる耐久性を有していた。これらの結果を表2に示す。
【0083】
[比較例9]
実施例4記載のポリマーの製造に従って得られたポリマー溶液よりポリメタフェニレンイソフタルアミドを単離したのち、アミド系溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)にポリマー濃度18%となるよう溶解し、得られたポリマー溶液にPigment Blue15の粉末をポリマー成分に対して2.0wt%となるよう添加し、さらに耐光安定剤としてベンゾトリアゾール紫外線吸収剤であるチヌビン234をポリマー成分に対して3.0wt%となるよう添加し、均一に分散させた後、減圧脱泡して紡糸ドープとした。また、凝固液の組成を、水/NMP=70/30(質量部)とした以外は実施例4と同様に実施した。この原綿と紡績糸における130℃・2時間飽和蒸気下での湿熱処理における破断強度保持率を求めたところ、それぞれ97%と95%であり、強度の低下がみられず、消防服や耐熱作業服などの防護衣料に求められる耐久性を有していたが、原綿のLOI値は、紫外線吸収剤と有機顔料の添加により24と低い値となり、消防服や耐熱作業服などの防護衣料として人体を保護する目的に対して不十分なものとなった。これらの結果を表2に示す。
【0084】
[比較例10、11]
比較例9で得られたポリマー溶液に、有機リン化合物のNMPへの溶解度が5%以上ではあるが、NMP60%水溶液にもよく溶解するトリス(クロロプロピル)ホスフェート(熱分解開始温度:160℃)をポリマー成分に対しリン含有量として、0.47wt%、0.68%となるよう添加し、減圧脱泡して紡糸ドープとした以外は比較例9と同様に実施した。それぞれの紡糸ドープにおいてポリマー成分に対する塩素含有量は、2.53%、3.15%であった。これら原綿のLOI値は、難燃剤の添加により比較例1より改善ざれ33、37と高い難燃性が示されたが、この原綿と紡績糸における130℃・2時間飽和蒸気下での湿熱処理における破断強度保持率を求めたところ、原綿で89%、79%となり紡績糸で87%、76%となり、強度の低下がみられ、消防服や耐熱作業服などの防護衣料が使用される可能性のある高温多湿な過酷な環境下において耐久性が弱いものとなった。これらの結果を表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
[実施例6]
(ポリマーの製造)
乾燥窒素雰囲気下の反応容器に、水分率が100ppm以下のN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)721.5質量部を秤量し、このDMAc中にメタフェニレンジアミン97.2質量部(50.18モル%)を溶解させ、0℃に冷却した。この冷却したDMAc溶液に、さらにイソフタル酸クロライド(以下IPCと略す)181.3質量部(49.82モル%)を徐々に攪拌しながら添加し、重合反応を行った。
次に、平均粒径が10μm以下の水酸化カルシウム粉末を66.6質量部秤量し、重合反応が完了したポリマー溶液に対してゆっくり加え、中和反応を実施した。水酸化カルシウムの投入が完了した後、さらに40分間攪拌して、透明なポリマー溶液を得た。
得られたポリマー溶液からポリメタフェニレンイソフタルアミドを単離してIVを測定したところ、1.65であった。また、ポリマー溶液中のポリマー濃度は、17%であった。
【0087】
(紡糸ドープの製造)
得られたポリマー溶液に、Pigment Blue15の粉末をポリマー成分に対して2.0wt%となるよう添加し、均一に分散させた。芳香族縮合リン酸エステルであるレゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェートのDMAcへの溶解度を測定したところ溶解度:>5%、DMAc60%水溶液には、溶解度:0%で不溶であった。またこの化合物の熱分解開始温度は、320℃であった。
この化合物を難燃剤として該ポリマー溶液に、ポリマー成分に対してリン含有量として0.50wt%となるよう添加し、減圧脱泡して紡糸ドープとした。
【0088】
(紡糸)
上記紡糸ドープを、孔径0.07mm、孔数500の紡糸口金から、浴温度30℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。凝固液の組成は、水/DMAc=45/55(質量部)であり、凝固浴中に糸速7m/分で吐出して紡糸した。
引き続き、温度40℃の水/DMAc=45/55の組成の可塑延伸浴中にて、3.7倍の延伸倍率で延伸を行った。
延伸後、20℃の水/DMAc=70/30の浴(浸漬長1.8m)、続いて20℃の水浴(浸漬長3.6m)で洗浄し、さらに60℃の温水浴(浸漬長5.4m)に通して十分に洗浄を行った。
洗浄後、表面温度300℃の熱ローラーにて乾熱処理を施し、押込み捲縮などによる捲縮付与を行わず、捲縮を有しない連続糸条(トウ)を得た。得られた捲縮を有しない連続糸条(トウ)を用いて難燃性LOI値を測定し、36と高い難燃性を示した。さらに130℃にて2時間飽和蒸気下で湿熱処理を実施しその前後の破断強度保持率を求めたところ、96%と強度の低下がみられなかった。これらの結果を表3に示す。
【0089】
(牽切紡績糸作製)
得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維のトウを、600mm間隔の一対のローラー間で、牽切比21倍で牽切し、引き続き、下記条件にて連続的に抱合性を付与することにより、牽切紡績糸を得た。該牽切紡績糸においても130℃にて2時間飽和蒸気下で湿熱処理を実施しその前後の破断強度保持率を求めたところ、92%と牽切加工前の捲縮を有しない連続糸条(トウ)と同様に高温飽和蒸気下の過酷な環境でも強度が維持されており、消防服や耐熱作業服などの防護衣料が使用される可能性のある高温多湿な過酷な環境下において耐久性がみられた。これらの結果を表3に示す。
【0090】
[実施例7]
実施例6で製造した紡糸ドープに、耐光安定剤としてベンゾトリアゾール紫外線吸収剤であるチヌビン234をポリマー成分に対して3.0wt%となるようさらに添加し、さらに、芳香族縮合リン酸エステルであるレゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェートをポリマー成分に対してリン含有量が0.75wt%となるよう添加し、減圧脱泡して紡糸ドープとした以外は実施例6と同様に実施した。牽切加工前の捲縮を有しない連続糸条(トウ)のLOI値は、紫外線吸収剤の添加により低下傾向ではあるが、本発明の難燃剤を添加していることから33と高い値を維持していた。また、このトウと牽切紡績糸における130℃・2時間飽和蒸気下での湿熱処理における破断強度保持率を求めたところ、それぞれ93%と91%であり、強度の低下がみられず、消防服や耐熱作業服などの防護衣料に求められる耐久性を有していた。これらの結果を表3に示す。
【0091】
[比較例12]
実施例6記載のポリマーの製造に従って得られたポリマー溶液よりポリメタフェニレンイソフタルアミドを単離したのち、アミド系溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)にポリマー濃度18%となるよう溶解し、得られたポリマー溶液にPigment Blue15の粉末をポリマー成分に対して2.0wt%となるよう添加し、さらに耐光安定剤としてベンゾトリアゾール紫外線吸収剤であるチヌビン234をポリマー成分に対して3.0wt%となるよう添加し、均一に分散させた後、減圧脱泡して紡糸ドープとした。また、凝固液の組成を、水/NMP=70/30(質量部)とした以外は実施例6と同様に実施した。この牽切加工前の捲縮を有しない連続糸条(トウ)と牽切紡績糸における130℃・2時間飽和蒸気下での湿熱処理における破断強度保持率を求めたところ、それぞれ97%と93%であり、強度の低下がみられず、消防服や耐熱作業服などの防護衣料に求められる耐久性を有していたが、トウのLOI値は、紫外線吸収剤と有機顔料の添加により24と低い値となり、消防服や耐熱作業服などの防護衣料として人体を保護する目的に対して不十分なものとなった。これらの結果を表3に示す。
【0092】
[比較例13、14]
比較例12で得られたポリマー溶液に、有機リン化合物のNMPへの溶解度が5%以上ではあるが、NMP60%水溶液にもよく溶解するトリス(クロロプロピル)ホスフェート(熱分解開始温度:160℃)をポリマー成分に対しリン含有量として、0.47wt%、0.68%となるよう添加し、減圧脱泡して紡糸ドープとした以外は比較例12と同様に実施した。それぞれの紡糸ドープにおいてポリマー成分に対する塩素含有量は、2.53%、3.15%であった。これら牽切加工前の捲縮を有しない連続糸条(トウ)のLOI値は、難燃剤の添加により比較例1より改善され33、37と高い難燃性が示されたが、このトウと牽切紡績糸における130℃・2時間飽和蒸気下での湿熱処理における破断強度保持率を求めたところ、トウで89%、79%となり牽切紡績糸で86%、74%となり、強度の低下がみられ、消防服や耐熱作業服などの防護衣料が使用される可能性のある高温多湿な過酷な環境下において耐久性が弱いものとなった。これらの結果を表3に示す。
【0093】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明によって、防護衣料に用いられる原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維において耐光性を有した高い耐久性を付与することができ、防護衣料を長期間着用しても変色、劣化の進行の少ない製品となる繊維素材を提供することができる。