(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】電子線照射積層体および電子線照射積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20220222BHJP
B32B 27/16 20060101ALI20220222BHJP
B65D 30/02 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
B32B27/00 C
B32B27/16
B65D30/02
(21)【出願番号】P 2018050993
(22)【出願日】2018-03-19
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000206233
【氏名又は名称】大成ラミック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】特許業務法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 宏一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 重臣
【審査官】塩屋 雅弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-196114(JP,A)
【文献】特開2011-081100(JP,A)
【文献】特開平07-304137(JP,A)
【文献】特開2014-188677(JP,A)
【文献】特開2017-031233(JP,A)
【文献】国際公開第2016/047548(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D30/00-33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともベース基材、中間層およびシーラント層が順次に積層されてなる積層体において、
前記シーラント層を除く、前記ベース基材および前記中間層のうちの、少なくとも前記中間層に電子線が照射されて
なり、前記シーラント層は、接着手段を介して前記中間層上に積層され、該接着手段が、前記中間層の前記シーラント層側表面に設けた凹凸からなることを特徴とする電子線照射積層体。
【請求項2】
前記接着手段
としてさらに、前記中間層に設けた電子線の非照射部分であること
、および前記中間層と前記シーラント層との間に設けた接着層であること、のいずれか1以上の手段
が用いられていることを特徴とする請求項
1に記載の電子線照射積層体。
【請求項3】
少なくともベース基材、中間層およびシーラント層が順次に積層されてなる積層体の、該ベース基材および中間層のうちの、少なくとも前記中間層に電子線が照射されてなる電子線照射積層体の製造方法であって、
少なくとも前記中間層に対して電子線を照射
するとともに、
該中間層上に前記シーラント層を積層する
に先立ち、前記中間層の、前記シーラント層の積層側表面に凹凸を設けることを特徴とする電子線照射積層体の製造方法。
【請求項4】
前記中間層は、電子線の照射域を制御することによる非照射部分が設けられていることを特徴とする請求項
3に記載の電子線照射積層体の製造方法。
【請求項5】
前記電子線の非照射部分は、前記中間層に1または複数のパターンで設けられていることを特徴とする請求項
4に記載の電子線照射積層体の製造方法。
【請求項6】
前記シーラント層を、接着層を介して前記中間層上に積層したことを特徴とする請求項
3~5のいずれか1項に記載の電子線照射積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともベース基材、中間層およびシーラント層が順次に積層されるとともに、電子線が照射されてなる電子線照射積層体と、その製造方法に関し、とくにヒートシール部の美観を向上しながら、ヒートシール強度の低下を抑制することのできる電子線照射積層体と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルムからなる包装袋は、従来より様々な用途に利用され、固形物や粒状物、液状ないしは粘稠状などの被包装物を充填包装し、流通させる際に好適に利用されている。
【0003】
このようなポリエチレンやポリプロピレン等の高分子材料からなるプラスチックフィルムに対し、電子線を照射すると、高分子(ポリマー)同士の結合(架橋)が起こり、ポリマー構造が網目状となって物性が変化することが知られている。このプラスチックフィルムへの電子線の照射による作用を利用して、様々な提案がされており、例えば、特許文献1では、単層ポリエチレンフィルムの一方の面のみに電子線を照射して、表裏で物性の異なる単層ポリエチレンフィルムを提供すること、また特許文献2では、ポリエチレンからなる外層と、環状オレフィン系樹脂とポリエチレン樹脂の混合樹脂からなる中間層と、ポリエチレンからなる内層とからなる多層フィルムに電子線を照射し、易引裂性と衝撃強度に優れる多層フィルムを提供することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-188677号公報
【文献】特開2017-31233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、
図1(a)に示すように、ベース基材2、中間層3およびシーラント層4からなる積層体5に対し、シーラント層4側から電子線を照射すると、該積層体5全体が電子線に照射されて、各層の高分子材料が架橋し、耐熱性および強度が向上することになる。この積層体5を、シーラント層4が対向するように重ね合わせてヒートシールすると、各層の高温での流動性が低下しているため、ヒートシール部分が綺麗に仕上がり、美観が向上するという効果が期待できるが、その一方で、ヒートシールに寄与するシーラント層4の流動性が低下しているため、ヒートシール性能が低下し、十分なヒートシール強度を得ることができない、という問題点がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、プラスチックフィルム等からなる積層体の耐熱性およびヒートシール時の美観を向上させながら、ヒートシール強度の低下を抑制することのできる電子線照射積層体と、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために鋭意検討した結果、発明者らは、以下に述べる要旨構成に係る本発明に想到した。即ち、本発明は、少なくともベース基材、中間層およびシーラント層が順次に積層されてなる積層体において、前記シーラント層を除く、前記ベース基材および前記中間層のうちの、少なくとも前記中間層に電子線が照射されてなり、前記シーラント層は、接着手段を介して前記中間層上に積層され、該接着手段が、前記中間層の前記シーラント層側表面に設けた凹凸からなることを特徴とする電子線照射積層体を提案する。
【0008】
上記電子線照射積層体においては、前記接着手段としてさらに、前記中間層に設けた電子線の非照射部分であること、および前記中間層と前記シーラント層との間に設けた接着層であること、のいずれか1以上の手段が用いられていること、がより好ましい解決手段となる。
【0009】
また本発明は、少なくともベース基材、中間層およびシーラント層が順次に積層されてなる積層体の、該ベース基材および中間層のうちの、少なくとも前記中間層に電子線が照射されてなる電子線照射積層体の製造方法であって、
少なくとも前記中間層に対して電子線を照射するとともに、
該中間層上に前記シーラント層を積層するに先立ち、前記中間層の、前記シーラント層の積層側表面に凹凸を設けることを特徴とする電子線照射積層体の製造方法を提案する。
【0010】
上記電子線照射積層体の製造方法においては、
(1)前記中間層は、電子線の照射域を制御することによる非照射部分が設けられていること、
(2)前記電子線の非照射部分は、前記中間層に1または複数のパターンで設けられていること、
(3)前記シーラント層を、接着層を介して前記中間層上に積層したこと、
がより好ましい解決手段となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、少なくともベース基材、中間層およびシーラント層が順次に積層されてなるプラスチックフィルム等からなる積層体において、前記ベース基材および前記中間層の、少なくとも中間層に電子線が照射されているため、該積層体をヒートシールした際に、前記中間層の流動が抑制され、ヒートシール部が綺麗に仕上がり、美観を向上させることができる。
【0012】
しかも、本発明では、積層体を構成する複数層のうち、ヒートシールに寄与するシーラント層には、電子線が照射されていないため、流動性の低下によってヒートシール性能が低下するおそれがなく、高い強度でヒートシール部を形成することができ、例えば、ヒートシール手段を用いた製袋充填包装機に好適に利用することができる。
【0013】
また、本発明では、前記シーラント層を、前記中間層上に接着手段を介して積層させた場合には、該中間層の、電子線の照射(流動性の低下)によって低下した接着力を補うことができ、該シーラント層と中間層とを高い強度で接着させることができる。
前記接着手段が、電子線の照射域を制御することによって前記中間層に設けられた電子線の非照射部分(未架橋部分)からなる場合には、該非照射部分の高い流動性をもって、中間層とシーラント層との接着強度を高めることができる。
なお、電子線の照射域は、例えば、電子線照射装置に、各種の条件に合わせて適宜のパターン(縦縞状、横縞状、格子状または市松模様状等)に加工されたマスクを設けることで、簡単に制御を行うことができる。
【0014】
また、前記接着手段として、前記中間層の、前記シーラント層の積層側表面に凹凸を設けた場合には、該凹凸によって中間層の表面積(接着面積)が増加するため、シーラント層との接着強度を高めることができる。
さらに、他の接着手段として、例えばアンカーコート剤や接着剤、接着性樹脂などの接着層を設けた場合には、該接着層の接着力をもって、中間層とシーラント層とを強固に接着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(a)従来の電子線照射積層体の製造方法と、(b)本発明の電子線照射積層体の製造方法の一実施形態とを比較して示す図である。
【
図2】本発明の電子線照射積層体の製造方法の、より具体的な一実施形態を示す図である。
【
図3】本発明の電子線照射積層体の製造方法の、さらに他の具体的な一実施形態を示す図である。
【
図4】本発明の電子線照射積層体の製造方法の、さらに他の具体的な一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、(a)従来の電子線照射積層体1’の製造方法と、(b)本発明の電子線照射積層体の製造方法の一実施形態とを比較して示すものであり、いずれの電子線照射積層体1、1’も、ベース基材2、中間層3およびシーラント層4が順次に積層されてなる積層体5からなる。
【0017】
ベース基材2は、単層体または積層体からなり、例えば、一軸もしくは二軸延伸のエチレンビニルアルコール共重合体、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、塩化ビニリデン等のプラスチックフィルムからなる単層体または積層体の他、前記プラスチックフィルムと紙や不織布などとの積層体を用いることができる。さらに、上記樹脂フィルムに、必要に応じてアルミニウム箔や合金箔、エチレンビニルアルコール共重合体、塩化ビニリデンコーティング層、酸化アルミニウムコーティング層などの各種コーティング層、Al蒸着層やSiO2蒸着層などの蒸着層あるいはSiO2やAl、Al2O3などのスパッタリング層を積層させてもよく、この場合には、水蒸気不透過性やガスバリア性、腰度などを向上させることができる。
なお、ベース基材2の厚みは、好ましくは6~100μm、より好ましくは9~60μmであり、この範囲とすることで包装体等として必要とされる強度を付与することができる。
【0018】
中間層3は、ベース基材2とシーラント層4とを接着するための土台としての役割と、電子線照射積層体1、1’の腰度(コシ)を調整する役割とを有し、シーラント層4は、電子線照射積層体1、1’を用いて袋状等に成形する際に加熱によって溶融し、接合(ヒートシール)する役割を有している。
【0019】
中間層3およびシーラント層4は、同じ高分子材料によって構成することが好ましく、この場合には、アンカーコート剤を使用することなく押出ラミネート法によって圧着することで両者を高い強度で接着させることができる。
中間層3およびシーラント層4は、例えば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等)やポリアミド、ポリエステル、エチレンエチルアクリレート共重合体、エチレンアクリル酸共重合体、エチレンメタクリル酸共重合体、エチレンメチルメタクリル酸共重合体、アイオノマーなどを用いることができ、とくにポリオレフィンやアイオノマーが好適である。なお、中間層3およびシーラント層4の厚みはそれぞれ2~100μmであることが好ましく、より好ましくは5~50μmである。
【0020】
図1(a)に示すように、従来の電子線照射積層体1’は、ベース基材2、中間層3およびシーラント層4を、例えば、押出ラミネート法によって順次に積層して積層体5を製造した後、この積層体5に対し、シーラント層4側から電子線を照射することにより形成される。なお、ベース基材2と中間層3とは、ドライラミネート法や押出ラミネート法により、アンカーコート剤や接着剤、接着性樹脂等を介して積層される。
【0021】
ベース基材2、中間層3およびシーラント層4を構成する高分子材料はそれぞれ、電子線の照射によってポリマー同士が架橋し、流動性が低下するため、積層体5をシーラント層4どうしが対面するように重ねてヒートシールすると、各層2、3、4の流動が抑えられて、ヒートシール部分が綺麗に仕上がり、美観を向上させることができる。しかしながら、この方法では、シーラント層4の流動性の低下に伴い、ヒートシール時のシーラント層4同士の接合力が弱くなり、十分なヒートシール強度が得られないおそれがある。
【0022】
これに対し、
図1(b)に示す本発明の一実施形態の電子線照射積層体1は、ベース基材2と中間層3とをドライラミネート法や押出ラミネート法により、アンカーコート剤や接着剤、接着性樹脂等を介して積層して積層体6を形成した後、該積層体6に対し、中間層3側から電子線を照射して、中間層3およびベース基材2を電子線照射した後、さらに中間層3上に例えば押出しラミネート法よってシーラント層4を積層することで形成される。なお、本実施形態では、中間層3およびベース基材2に対して、中間層3側から電子線を照射しているが、本発明では、少なくとも中間層3が電子線照射されていればよく、電子線の照射方向(中間層3側あるいはベース基材2側等)や電子線の加速電圧を調整することによって積層体6への電子線の浸透深さを適宜調整することが好ましい。
【0023】
ベース基材2および中間層3を構成する高分子材料はそれぞれ、電子線の照射によって架橋されるため、耐熱性や強度が向上する一方、高温に対する流動性が低下するが、シーラント層4は高い流動性を保持したままであるため、ヒートシールに際し、該シーラント層4どうしの融着によって高いシール強度をもって接合することができる。しかも、ヒートシールに際し、シーラント層4は流動するものの、土台となる中間層3は、流動が抑制されるため、ヒートシール部分の高分子材料の流動による美観の悪化を抑えることができるという効果が期待できる。
【0024】
なお、電子線の照射方法としては、公知の各種方法を採用することができ、例えば、エレクトロカーテン方式やスキャンビーム方式が好適である。電子線の線量および加速電圧は、ベース基材2や中間層3、シーラント層4の構成や材質、厚み、電子線照射積層体1の用途等によって決定され、電子線の線量は、10~1000kGyの範囲が好ましく、より好ましくは20~500kGyであり、電子線の加速電圧は20~750kVの範囲が好ましく、より好ましくは40~300kVである。
【0025】
図1(b)に示す本発明の実施形態の電子線照射積層体1においては、積層体6への電子線の照射によって中間層3の流動性が低下するため、中間層3とシーラント層4との接着力が弱くなり、剥離等の不具合が発生する場合がある。そのため、積層体6へのシーラント層4の積層に際し、積層体6(中間層3)とシーラント層4との間に接着手段を設けて、両者の接着力を補強することが好ましい。
【0026】
本発明の、より具体的な一実施形態では、接着手段として、
図2に示すように、ベース基材2と中間層3との積層体6に対し、例えば、中間層3表面にマスク材7を設ける等して、電子線の積層体6への照射を部分的に遮断し、積層体6に電子線の非照射部8を設ける。この接着手段によれば、非照射部8における中間層3の高い流動性によって、該中間層3とシーラント層4とを高い強度で接着させることができる。
【0027】
なお、非照射部8の形成領域は、マスク材7のパターンを適宜変更する他、電子線照射装置からの照射パターン等を制御すること等によってコントロールすることが可能であり、該非照射部8が中間層3の表面積の5~95%、より好ましくは20~80%となるように設けることで、電子線照射積層体1の耐熱性と美観を向上させると共に、中間層3とシーラント層4とを高い強度で接着することができる。
【0028】
また、非照射部8は、中間層3表面に縦縞状、横縞状、格子状または市松模様状等の1つのパターンもしくは複数のパターンを組み合わせて形成することが好ましく、この場合には、照射部と非照射部とが交互に存在することになるため、非照射部の流動を、照射部の低い流動性をもって堰き止めることができる。
【0029】
本発明の他の具体的な一実施形態では、接着手段として、
図3に示すように、ベース基材2と中間層3とからなる積層体6に対し、中間層3のシーラント層4側表面に凹凸9を設け、該中間層3の増大した接着面積(表面積)をもって、シーラント層4との接着力を増加させている。凹凸9は、ベース基材2と中間層3とを押出ラミネート法等により圧着して積層体6を形成する際の、クーリングロール表面に凹凸を設け、該凹凸を中間層3表面に転写することや、サンドブラスト、コロナ処理、プラズマ処理、コーティング、火炎処理等により形成することができる。なお、電子線の積層体6への照射は、中間層3表面への凹凸9の形成前であっても、形成後であってもよい。
【0030】
凹凸9は、中間層3の表面積が、凹凸9形成前の表面積の1.0倍超、2.0倍以下となるように形成することで、電子線の照射によって流動性の低下した中間層3とシーラント層4とを、中間層3に電子線を照射しない場合と同程度の高い強度で接着することができる。
【0031】
本発明のさらに他の具体的な一実施形態では、接着手段として
図4に示すように、ベース基材2と中間層3とからなる積層体6に対し、中間層3のシーラント層4側表面に接着層10を設け、該接着層10の高い接着力をもって中間層3とシーラント層4とを強固に接着させている。なお、接着層10は、アンカーコート剤や接着剤、接着性樹脂などからなり、アンカーコート剤は、例えばウレタン系樹脂や有機チタン系樹脂等を、一般に利用されているコーティング方法により塗布して形成することができる。また、接着剤としては、例えば、ウレタン系樹脂やポリエーテル系樹脂、エステル系樹脂、エポキシ系樹脂などを用いることができ、接着性樹脂としては、例えば、変性ポリオレフィン系樹脂、エチレン系共重合体樹脂等を用いることができる。
【符号の説明】
【0032】
1、1’ 電子線照射積層体
2 ベース基材
3 中間層
4 シーラント層
5 積層体
6 積層体
7 マスク
8 非照射部
9 凹凸
10 接着層