(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物
(51)【国際特許分類】
C01G 45/00 20060101AFI20220222BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220222BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220222BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20220222BHJP
【FI】
C01G45/00
H01M4/36 A
H01M4/505
H01M4/525
(21)【出願番号】P 2018079195
(22)【出願日】2018-04-17
(62)【分割の表示】P 2017562778の分割
【原出願日】2017-02-28
【審査請求日】2019-10-07
【審判番号】
【審判請求日】2020-08-27
(31)【優先権主張番号】P 2016038060
(32)【優先日】2016-02-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 恭平
(72)【発明者】
【氏名】光本 徹也
(72)【発明者】
【氏名】松嶋 英明
(72)【発明者】
【氏名】蔭井 慎也
【合議体】
【審判長】原 賢一
【審判官】伊藤 真明
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-216548(JP,A)
【文献】特開2015-140297(JP,A)
【文献】特開2015-140292(JP,A)
【文献】特開2014-139119(JP,A)
【文献】国際公開第2014/185548(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/012851(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
C01G45/00
C01G53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li、Mn及びOと、これら以外の2種以上の元素とを少なくとも含む、金属Li基準電位で4.5V以上の作動電位を有するスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物であって、
一般式[Li
x
(M1
y
M2
z
Mn
2-x-y-z
)O
4-δ
](式中、1.00≦x≦1.20、0.20≦y≦1.20、0<z≦0.5、0≦δ≦0.2、式中M1はNi、CoおよびFeからなる群から選択される一種または二種以上の元素であり、M2は、Na、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Ga、Y、Zr、Nb、Mo、In、Ta、W、Re及びCeからなる群から選ばれた1種であるか又は2種以上の元素の組み合わせである。)で示され、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布測定によるD50、モード径及びD10に関し、D50が0.5μm~9μmであり、D10が0.2~4.0μmであり、(|モード径-D50|/モード径)×100の値が0~25%であり、(|モード径-D10|/モード径)×100の値が20~58%であり、
走査型電子顕微鏡(SEM)により得られるSEM画像より算出した平均一次粒子径が0.3μm~6.0μmであり、前記平均一次粒子径と前記D50から算出される平均一次粒子径/D50が0.20~0.99であって、
結晶子サイズが80nm~490nmであり、当該結晶子サイズと前記一次粒子径から算出される結晶子サイズ/平均一次粒子径が0.01~0.32であ
り、
前記モード径が0.4μm~11μmであることを特徴とするスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物。
【請求項2】
Li、Mn及びOと、これら以外の2種以上の元素とを少なくとも含む、金属Li基準電位で4.5V以上の作動電位を有するスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物であって、
一般式[Li
x
(Ni
y
M
z
Mn
2-x-y-z
)O
4-δ
](式中、1.00≦x≦1.20、0.20≦y≦0.70、0<z≦0.5、0≦δ≦0.2、式中Mは、Na、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Co、Cu、Ga、Y、Zr、Nb、Mo、In、Ta、W、Re及びCeからなる群から選ばれた1種であるか又は2種以上の元素の組み合わせである。)で示され、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布測定によるD50、モード径及びD10に関し、D50が0.5μm~9μmであり、D10が0.2~4.0μmであり、(|モード径-D50|/モード径)×100の値が0~25%であり、(|モード径-D10|/モード径)×100の値が20~58%であり、
走査型電子顕微鏡(SEM)により得られるSEM画像より算出した平均一次粒子径が0.3μm~6.0μmであり、前記平均一次粒子径と前記D50から算出される平均一次粒子径/D50が0.20~0.99であって、
結晶子サイズが80nm~490nmであり、当該結晶子サイズと前記一次粒子径から算出される結晶子サイズ/平均一次粒子径が0.01~0.32であり、
前記モード径が0.4μm~11μmであることを特徴とするスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物。
【請求項3】
粉末X線回装置(XRD)により測定される線回折パターンにおいて、リートベルト解析より得られる歪みの数値が0.00~0.35であることを特徴とする請求項1
または請求項2に記載のスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物。
【請求項4】
金属Li基準電位において、4.5Vを超える領域の充電電圧で作動するリチウムマンガン複合酸化物粒子(「コア粒子」とも称する)の表面の一部に、少なくともチタン、またはアルミニウム、またはジルコニウムまたはこれらのうちの2種以上を含有する層(「A層」と称する)を備えた請求項1~
3の何れかに記載のスピネル型リチウムマンガン複合酸化物。
【請求項5】
前記A層は、さらにリン(P)を含有することを特徴とする請求項
4に記載のスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物。
【請求項6】
前記A層の厚さは0.01nm~200nmであることを特徴とする請求項
4又は
5に記載のスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物。
【請求項7】
粉末X線回折装置(XRD)により測定されるX線回折パターンにおいて、2θが14.0~16.5°の間にピークが存在することを特徴とする請求項1~
6の何れかに記載のスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物。
【請求項8】
粉末X線回折装置(XRD)により測定されるX線回折パターンにおいて、2θが18~19°の間に存在するピークのうち最も高いピークのピーク強度に対する、2θが14.0~16.5°の間に存在するピークのうち最も高いピークのピーク強度の比率が0.05%より大きいことを特徴とする、請求項1~
7の何れかに記載のスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物。
【請求項9】
請求項1~
8の何れかに記載されたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物を正極活物質として備えたリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池の正極活物質として用いることができるスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物、中でも、金属Li基準電位で4.5V以上の作動電位を有する5V級スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、エネルギー密度が大きく、寿命が長いなどの特徴を有している。そのため、リチウム二次電池は、ビデオカメラ等の家電製品や、ノート型パソコン、携帯電話機等の携帯型電子機器、パワーツールなどの電動工具などの電源として広く用いられており、最近では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)などに搭載される大型電池へも応用されている。
【0003】
リチウム二次電池は、充電時には正極からリチウムがイオンとして溶け出して負極へ移動して吸蔵され、放電時には逆に負極から正極へリチウムイオンが戻る構造の二次電池であり、その高いエネルギー密度は正極材料の電位に起因することが知られている。
【0004】
この種のリチウム二次電池の正極活物質としては、層構造をもつLiCoO2、LiNiO2、LiMnO2などのリチウム遷移金属酸化物のほか、LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4などのマンガン系のスピネル構造(Fd-3m)を有するスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物が知られている。
【0005】
この種のスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物は、原料価格が安く、毒性がなく安全であり、しかも過充電に強い性質を有することから、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)などの大型電池用の次世代正極活物質として着目されている。また、3次元的にLiイオンの挿入・脱離が可能なスピネル型リチウム遷移金属酸化物(LMO)は、層構造をもつLiCoO2などのリチウム遷移金属酸化物に比べて出力特性に優れているため、EV用電池、HEV用電池などのように優れた出力特性が要求される用途に利用が期待されている。
【0006】
中でも、LiMn2O4におけるMnサイトの一部を他の遷移金属(Cr、Co、Ni、Fe、Cu)で置換することで、5V付近に作動電位を持つことが知られるようになり、現在、金属Li基準電位で4.5V以上の作動電位を有する5V級スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物の開発が行われている。
【0007】
例えば特許文献1には、5V級の起電力を示すリチウム二次電池の正極活物質として、スピネル型リチウムマンガン複合酸化物にクロムを必須添加成分とし、さらにニッケルまたはコバルトを添加してなる高容量スピネル型リチウムマンガン複合酸化物正極活物質が開示されている。
【0008】
特許文献2には、Li金属に対して4.5V以上の電位で充放電を行うスピネル構造の結晶LiMn2-y-zNiyMzO4(但し、M:Fe,Co,Ti,V,Mg,Zn,Ga,Nb,Mo,Cuよりなる群から選ばれた少なくとも一種、0.25≦y≦0.6、0≦z≦0.1)が開示されている。
【0009】
特許文献3には、4.5V以上もの起電力を発生し、且つ放電容量を維持することができる正極活物質として、一般式:Lia(MxMn2-x-yAy)O4(式中、0.4<x、0<y、x+y<2、0<a<1.2である。Mは、Ni、Co、Fe、CrおよびCuよりなる群から選ばれ、少なくともNiを含む一種以上の金属元素を含む。Aは、Si、Tiから選ばれる少なくとも一種の金属元素を含む。但し、AがTiだけを含む場合には、Aの比率yの値は、0.1<yである。)で表されるスピネル型リチウムマンガン複合酸化物を含むことを特徴とする二次電池用正極活物質が開示されている。
【0010】
特許文献4には、金属Li基準電位で4.5V以上の作動電位を有するスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物において、LiMn2O4-δにおけるMnサイトの一部を、Liと、Niを含む金属元素M1(M1はNi、Co及びFeのうちの少なくとも一種を含む金属元素である)と、他の金属元素M2(M2はTiであるか、又は、TiとMg、Al、Ba、Cr及びNbのうちの少なくとも一種とを含む金属元素である)とで置換してなる結晶相を含有するスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物であって、Ni、Mn及びBを含む複合酸化物相を含有することを特徴とするスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物が開示されている。
【0011】
特許文献5には、Li[NiyMn2-(a+b)-y-zLiaTibMz]O4(式中、0≦z≦0.3、0.3≦y<0.6であって、M=Al、Mg、Fe及びCoからなる群のうちから少なくとも1つ以上選ばれる金属元素)で示されるマンガン系スピネル型リチウム遷移金属酸化物であって、前記式において、a>0であり、b>0であり、2-(a+b)-y-z<1.7であり、かつ3≦b/a≦8であることを特徴とするマンガン系スピネル型リチウム遷移金属酸化物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開平11―73962号公報
【文献】特開2000-235857号公報
【文献】特開2003-197194号公報
【文献】特開2014-130851号公報
【文献】特開2014-166951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
4.5V以上の作動電位を有するスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物(「5V級スピネル」とも称する)は、4V級スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物では殆ど生じない課題、すなわち、電解液との反応により発生するガスの発生量が多いという特徴的な課題を抱えている。
かかる課題を解決するため、すなわちガス発生量を抑制するため、5V級スピネルの一次粒子径を大きくして比表面積(SSA)を低下させることで、ガス発生量を抑制することが提案されていた。しかし、比表面積を低下させると、電解液との接触面積が小さくなるため、出力特性が低下するという問題が生じてしまう。
【0014】
そこで本発明は、5V級スピネルに関し、ガス発生を抑制しつつ、同時に出力特性を向上させることができ、さらには寿命特性を向上させることができる、新たなスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物を提供せんとするものである。かかる課題を、本発明の第1課題とする。
【0015】
本発明者はさらに、第1課題に併せて、より出力特性を維持もしくは向上しつつ、ガス発生および寿命特性の改善可能な正極活物質を探求したところ、5V級スピネルはサイクル特性向上のため、電解液とスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物との反応を抑制するために、該スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物の粒子表面を金属や金属酸化物で被覆することが提案されている。しかし、被覆により電池のレート特性が低下してしまうという新たな課題が生じる。
そこで、本発明は、第1課題に併せて、従来提案されている表面処理を実施した正極活物質に比べて、サイクル特性の向上とガス発生の抑制を維持しつつ、レート特性の向上を達成することができる、新たなスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物を提供せんとするものである。かかる課題を、本発明の第2課題とする。
【0016】
本発明者はまた、第1課題に併せて、出力特性を維持もしくは向上しつつ、高電位容量域の拡大とガス発生の低減を両立可能にする正極活物質を探求した。
5V級スピネルは、4.5V付近のプラトー領域を拡大し、高電位容量域を拡張することができる一方、ガスの発生量が増加することが分かってきた。そのため、5V級スピネルに関しては、高電位容量域を拡張してエネルギー密度を高くすることと、ガスの発生量を抑えることを両立させることが困難であった。
そこで本発明は、第1課題に併せて、さらに高電位容量域の拡大とガス発生の抑制を両立させることができる、新たなスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物を提供せんとするものである。かかる課題を、本発明の第3課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、第1課題の解決手段として、Li、Mn及びOと、これら以外の2種以上の元素とを少なくとも含む、金属Li基準電位で4.5V以上の作動電位を有するスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物であって、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布測定によるD50、モード径及びD10(それぞれ「D50」「モード径」「D10」と称する)に関し、D50が0.5μm~9μmであり、(|モード径-D50|/モード径)×100の値が0~25%であり、(|モード径-D10|/モード径)×100の値が20~58%であり、
走査型電子顕微鏡(SEM)により得られるSEM画像(「SEM画像」と称する)より算出した平均一次粒子径と前記D50から算出される平均一次粒子径/D50が0.20~0.99であって、
一次粒子が多結晶であることを特徴とするスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物を提案する。
ここで、上記の|モード径-D50|とは、(モード径-D50)の絶対値を意味し、|モード径-D10|とは、(モード径-D10)の絶対値を意味する(後に登場する場合も同様である。)
【0018】
本発明はまた、第1課題の解決手段として、Li、Mn及びOと、これら以外の2種以上の元素とを少なくとも含む、金属Li基準電位で4.5V以上の作動電位を有するスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物であって、
D50、モード径及びD10に関し、D50が0.5μm~9μmであり、(|モード径-D50|/モード径)×100の値が0~25%であり、(|モード径-D10|/モード径)×100の値が20~58%であり、
SEM画像より算出した平均一次粒子径と前記D50から算出される平均一次粒子径/D50が0.20~0.99であって、
結晶子サイズが80nm~490nmであり、当該結晶子サイズと前記一次粒子径から算出される結晶子サイズ/平均一次粒子径が0.01~0.32であることを特徴とするスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物を提案する。
【0019】
本発明はまた、第2課題の解決手段として、Li、Mn及びOと、これら以外の2種以上の元素とを少なくとも含む、金属Li基準電位で4.5V以上の作動電位を有するスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物であって、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布測定によるD50、モード径及びD10(それぞれ「D50」「モード径」「D10」と称する)に関し、D50が0.5μm~9μmであり、{|モード径-D50|/モード径)×100の値が0~25%であり、{|モード径-D10|/モード径)×100の値が20~58%であり、
走査型電子顕微鏡(SEM)により得られるSEM画像(「SEM画像」と称する)より算出した平均一次粒子径と前記D50から算出される平均一次粒子径/D50が0.20~0.99であって、一次粒子が多結晶であって、
金属Li基準電位において、4.5Vを超える領域の充電電圧で作動するリチウムマンガン複合酸化物粒子(「コア粒子」とも称する)の表面の一部に、少なくともチタン、またはアルミニウム、またはジルコニウムまたはこれらのうちの2種以上を含有する層(「A層」と称する)を備えたことを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質を提案する。
【0020】
本発明はまた、第2課題の解決手段として、Li、Mn及びOと、これら以外の2種以上の元素とを少なくとも含む、金属Li基準電位で4.5V以上の作動電位を有するスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物であって、
D50、モード径及びD10に関し、D50が0.5μm~9μmであり、(|モード径-D50|/モード径)×100の値が0~25%であり、(|モード径-D10|/モード径)×100の値が20~58%であり、
SEM画像より算出した平均一次粒子径と前記D50から算出される平均一次粒子径/D50が0.20~0.99であって、
結晶子サイズが80nm~490nmであり、当該結晶子サイズと前記一次粒子径から算出される結晶子サイズ/平均一次粒子径が0.01~0.32であり、
金属Li基準電位において、4.5Vを超える領域の充電電圧で作動するリチウムマンガン複合酸化物粒子(「コア粒子」とも称する)の表面の一部に、少なくともチタン、またはアルミニウム、またはジルコニウムまたはこれらのうちの2種以上を含有する層(「A層」と称する)を備えたことを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質を提案する。
【0021】
本発明はまた、第3課題の解決手段として、Li、Mn及びOと、これら以外の2種以上の元素とを少なくとも含む、金属Li基準電位で4.5V以上の作動電位を有するスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物であって、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布測定によるD50、モード径及びD10(それぞれ「D50」「モード径」「D10」と称する)に関し、D50が0.5μm~9μmであり、{|モード径-D50|/モード径)×100の値が0~25%であり、{|モード径-D10|/モード径)×100の値が20~58%であり、
走査型電子顕微鏡(SEM)により得られるSEM画像(「SEM画像」と称する)より算出した平均一次粒子径と前記D50から算出される平均一次粒子径/D50が0.20~0.99であって、一次粒子が多結晶であって、
粉末X線回折装置(XRD)により測定されるX線回折パターンにおいて、2θが14.0~16.5°の間にピークが存在することを特徴とするスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物を提案する。
【0022】
本発明はまた、第3課題の解決手段として、Li、Mn及びOと、これら以外の2種以上の元素とを少なくとも含む、金属Li基準電位で4.5V以上の作動電位を有するスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物であって、
D50、モード径及びD10に関し、D50が0.5μm~9μmであり、(|モード径-D50|/モード径)×100の値が0~25%であり、(|モード径-D10|/モード径)×100の値が20~58%であり、
SEM画像より算出した平均一次粒子径と前記D50から算出される平均一次粒子径/D50が0.20~0.99であって、
結晶子サイズが80nm~490nmであり、当該結晶子サイズと前記一次粒子径から算出される結晶子サイズ/平均一次粒子径が0.01~0.32であり、
粉末X線回折装置(XRD)により測定されるX線回折パターンにおいて、2θが14.0~16.5°の間にピークが存在することを特徴とするスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物を提案する。
【発明の効果】
【0023】
本発明が提案するスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物は、金属Li基準電位で4.5V以上の作動電位を有し、それでいて、ガス発生を抑制しつつ、同時に出力特性さらには寿命特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例2で得られたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物のレーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られた体積粒度分布である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明を実施するための形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0026】
<本5V級スピネル>
本発明の実施形態の一例に係るスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物(「本5V級スピネル」と称する)は、空間群Fd-3m(Origin Choice2)の立方晶の結晶構造モデルとフィッティングし、観測強度と計算強度の一致の程度を表わすRwp、SがRwp<10、またはS<2.5であるリチウムマンガン含有複合酸化物であって、金属Li基準電位で4.5V以上の作動電位を有する5V級スピネルである。
【0027】
この際、「金属Li基準電位で4.5V以上の作動電位を有する」とは、プラトー領域として4.5V以上の作動電位のみを有している必要はなく、4.5V以上の作動電位を一部有している場合も包含する意である。
この観点から、プラトー領域として4.5V以上の作動電位を有する「5V級リチウムマンガン含有複合酸化物」のみからなるリチウムマンガン含有複合酸化物に限定するものではない。例えば、プラトー領域として4.5V未満の作動電位を有する「4V級リチウムマンガン含有複合酸化物」を含んでいてもよい。具体的には、当該5V級リチウムマンガン含有複合酸化物が30質量%以上を占めていればよく、好ましくは50質量%以上、その中でも特に好ましくは80質量%以上(100質量%含む)を占めるリチウムマンガン含有複合酸化物を許容するものである。
【0028】
本5V級スピネルは、Li、Mn及びOとこれら以外の2種以上の元素とを少なくとも含むスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物である。
【0029】
上記の「これら以外の2種以上の元素」のうちの少なくとも1元素は、Ni、Co及びFeからなる群から選択される元素M1であればよく、他の1元素は、Na、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Co、Cu、Ga、Y、Zr、Nb、Mo、In、Ta、W、Re及びCeからなる群から選択される元素M2であればよい。
本5V級スピネルの好ましい組成例として、LiMn2O4-δにおけるMnサイトの一部を、Liと、金属元素M1と、他の金属元素M2とで置換してなる結晶構造を有するスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物を含むものを挙げることができる。
【0030】
上記金属元素M1は、主に金属Li基準電位で4.5V以上の作動電位を発現させるのに寄与する置換元素であり、Ni、Co及びFeなどを挙げることができ、これらのうち少なくとも一種を含んでいればよく、M1として他の金属元素を含んでいてもよい。
【0031】
金属元素M2は、主に結晶構造を安定化させて特性を高めるのに寄与する置換元素であり、例えば容量維持率向上に寄与する置換元素として、例えばNa、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Co、Cu、Ga、Y、Zr、Nb、Mo、In、Ta、W、Re、Ceなどを挙げることができる。これらNa、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Co、Cu、Ga、Y、Zr、Nb、Mo、In、Ta、W、Re及びCeからなる群から選択されるうちの少なくとも一種を含んでいればよく、M2として他の金属元素を含んでいてもよい。
なお、構造中に含まれるM2金属元素はM1金属元素と異なる元素種である。
【0032】
本5V級スピネルの一例として、式(1):Lix(M1yM2zMn2-x-y-z)O4-δで示されるスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物を含むものを挙げることができる。式(1)におけるM1及びM2は上述のとおりである。
【0033】
上記式(1)において、「x」は、1.00~1.20であればよく、中でも1.01以上或いは1.10以下、その中でも1.02以上或いは1.08以下であるのがより一層好ましい。
M1の含有量を示す「y」は、0.20~1.20であればよく、中でも0.30以上或いは1.10以下、その中でも0.35以上或いは1.05以下であるのがより一層好ましい。
M2の含有量を示す「z」は、0.001~0.400であればよく、中でも0.002以上或いは0.400以下、その中でも0.005以上或いは0.30以下、さらにその中でも0.10以上であるのがより一層好ましい。特に0.10以上とすることでより効果的にガス発生量を抑えることができる。
【0034】
なお、上記各式における「4-δ」は、酸素欠損を含んでいてもよいことを示している。例えば、酸素の一部がフッ素又はその他の元素で置換されていてもよい。この際、δは0以上或いは0.2以下であるのが好ましく、その中でも0.1以下、その中でも0.05以下であるのがさらに好ましい。
【0035】
本5V級スピネルは、Li、Mn、M1、M2及びO以外の他の成分を含有してもよい。特にその他の元素をそれぞれ0.5重量%以下であれば含んでいてもよい。この程度の量であれば、本5V級スピネルの性能にほとんど影響しないと考えられるからである。
【0036】
本5V級スピネルの一例として、式(2):一般式[Lix(NiyMzMn3-x-y-z)O4-δ]で示されるスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物を挙げることができる。
【0037】
上記式(2)において、「x」は、1.00~1.20であればよく、中でも1.01以上或いは1.10以下、その中でも1.02以上或いは1.08以下であるのがより一層好ましい。
上記式(2)において、「y」は、0.20~0.70であるのが好ましく、中でも0.30以上或いは0.60以下、その中でも0.35以上或いは0.55以下であるのがより一層好ましい。
【0038】
上記式(2)において、Mは、Na、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Co、Cu、Ga、Y、Zr、Nb、Mo、In、Ta、W、Re及びCeからなる群から選ばれた1種であるか又は2種以上の元素の組み合わせであるのが好ましい。
また、上記式(2)において、Mのモル比を示す「z」は、0より大きく且つ0.5以下であるのが好ましく、中でも0.01より大きく或いは0.45以下、その中でも0.05以上或いは0.40以下、さらにその中でも0.1以上或いは0.35以下であるのがより一層好ましい。
【0039】
なお、上記式(2)における「4-δ」は、酸素欠損を含んでいてもよいことを示している。例えば、酸素の一部がフッ素又はその他の元素で置換されていてもよい。この際、δは0以上或いは0.2以下であるのが好ましく、その中でも0.1以下、その中でも0.05以下であるのがさらに好ましい。
【0040】
本5V級スピネルは、上記のLi、Mn、M、M1、M2及びO以外の他の成分を含有してもよい。特にその他の元素をそれぞれ0.5重量%以下であれば含んでいてもよい。この程度の量であれば、本5V級スピネルの性能にほとんど影響しないと考えられるからである。
【0041】
また、本5V級スピネルは、Bを含有してもよい。この際、Bの存在状態としては、スピネルの結晶相のほかに、Ni、Mn及びBを含む複合酸化物相を含有していてもよい。
Ni、Mn及びBを含む前記複合酸化物相としては、例えばNi5MnO4(BO3)2の結晶相を挙げることができる。
Ni5MnO4(BO3)2の結晶相を含有することは、X線回折(XRD)により得られた回折パターンを、PDF(Powder Diffraction File)番号「01-079-1029」と照合することにより確認することができる。
Ni、Mn及びBを含む前記複合酸化物は、本5V級スピネル粒子の表面や粒界に存在しているものと推察される。
【0042】
Ni、Mn及びBを含む前記複合酸化物相の含有量に関しては、本5V級スピネル中のB元素の含有量が0.02~0.80質量%となるように前記複合酸化物相を含有するのが好ましく、中でも0.05質量%以上或いは0.60質量%以下、その中でも0.30質量%以下、特に0.25質量%以下となるように前記複合酸化物相を含有するのがさらに好ましい。
B元素の含有量が0.02質量%以上であれば、高温(例えば45℃)での放電容量を維持することができ、B元素の含有量が0.80質量%以下であればレート特性を維持することができるから、好ましい。
【0043】
(多結晶体)
本5V級スピネルの一次粒子は、単結晶体ではなく、多結晶体であるのが好ましい。
この際、単結晶体とは、一次粒子が一つの結晶子で構成されている粒子を意味し、多結晶体とは一次粒子内に複数の結晶子が存在している粒子であることを意味する。
本5V級スピネルが多結晶体であるか否かは、一次粒子径に対する結晶サイズの比率(結晶子サイズ/平均一次粒子径)が0に近い、具体的には0より大きく、1より小さい範囲内であることを確認することでも、判断することができる。0に近いことで一次粒子内に結晶子が多く含まれることを示す。但し、この判断方法に限定するものではない。
【0044】
ここで、本発明において「一次粒子」とは、SEM(走査電子顕微鏡、例えば500~5000倍)で観察した際、粒界によって囲まれた最も小さな単位の粒子を意味する。
そして、一次粒子の平均径は、SEM(走査電子顕微鏡、例えば500~5000倍)で観察して、任意に30個の一次粒子を選択し、画像解析ソフトを用いて、選ばれた一次粒子の平均粒子径を算出し、30個の一次粒子径を平均して「一次粒子の平均径」を求めることができる。
他方、本発明において「二次粒子」とは、複数の一次粒子がそれぞれの外周(粒界)の一部を共有するようにして凝集し、他の粒子と孤立した粒子を意味するものである。
そして、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布によるD50は、これら一次粒子及び二次粒子を含めた粒子の平均径の代替値としての意味を有する。
また、「結晶子」とは、単結晶とみなせる最大の集まりを意味し、XRD測定し、リートベルト解析を行なうことにより求めることができる。
【0045】
(モード径)
本5V級スピネルのモード径、すなわちレーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布測定によるモード径は0.4μm~11μmであるのが好ましい。
本5V級スピネルに関しては、モード径を上記範囲内とすることで、二次粒子内にLiが拡散するときの抵抗を小さくすることができ、その結果、出力特性を向上させることができる。
かかる観点から、本5V級スピネルの上記モード径は0.4μm~11μmであるのが好ましく、中でも1μm以上或いは10μm以下、その中でも特に2μm以上或いは9μm以下、さらにその中でも8μm未満であるのが特に好ましい。
【0046】
(D50)
本5V級スピネルのD50、すなわちレーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布測定によるD50は0.5μm~9μmであるのが好ましい。
本5V級スピネルに関しては、D50を上記範囲とすることで、二次粒子内にLiが拡散するときの抵抗を小さくすることができ、その結果、出力特性を向上させることができる。
かかる観点から、本5V級スピネルのD50は、0.5μm~9μmであるのが好ましく、中でも0.6μm以上或いは8μm以下、その中でも、1μmより大きく、8μm未満、その中でも特に2μmより大きく或いは7μm未満であるのがさらに好ましい。
【0047】
(|モード径-D50|/モード径)
本5V級スピネルについては、(|モード径-D50|/モード径)×100の値が0~25%であるのが好ましい。
(|モード径-D50|/モード径)×100の値が25%以下であるということは、粒度分布が単峰型すなわち複数のピークを持たない分布であり、しかも、正規分布であるかそれに近い分布であることを示す。
かかる観点から、本5V級スピネルについては、(|モード径-D50|/モード径)×100の値が0~25%であるのが好ましく、0%より大きい或いは24%以下、その中でも23%以下、さらにその中でも1%より大きい或いは20%以下であるのが特に好ましい。
【0048】
(D10)
本5V級スピネルのD10、すなわちレーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布測定によるD10は0.2μm~4.0μmであるのが好ましい。
本5V級スピネルに関しては、D10を上記範囲に調整することにより、ガス発生を抑制することができる。
かかる観点から、本5V級スピネルのD10は、0.2μm~4.0μmであるのが好ましく、中でも0.25μm以上或いは4.0μm以下、その中でも特に0.3μm以上或いは4.0μm未満であるのが特に好ましい。
【0049】
(|モード径-D10|/モード径)
本5V級スピネルについては、(|モード径-D10|/モード径)×100の値が20~58%であるのが好ましい。
(|モード径-D10|/モード径)×100の値が20~58%であるということは、本5V級スピネルのモード径からD10までの分布の幅が狭いことを示す。
【0050】
また、上記(|モード径-D50|/モード径)×100を上記範囲に調整すること又は、(|モード径-D10|/モード径)×100の値を上記範囲にすることにより、粒度分布が正規分布且に近く、シャープな分布となる。つまり、一次粒子および二次粒子の大きさを均一化することができる。
これは、粒度分布全体における微粉領域の割合を小さくすることができることを示している。微粉はガス発生及び寿命特性に悪影響を及ぼすため、微粉の占める割合を小さくすることで、ガス発生および寿命特性を改善することができる。
かかる観点から、本5V級スピネルについては、(|モード径-D10|/モード径)×100の値が20~58%であるのが好ましく、中でも22%以上或いは57%以下、その中でも25%以上或いは56%以下、さらにその中でも30%以上或いは52%未満、その中でも特に35%以上或いは50%未満であるのが特に好ましい。
【0051】
(Dmin)
本5V級スピネルのDmin、すなわちレーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布測定によるDminは0.1μm~2.0μmであるのが好ましい。
本5V級スピネルに関しては、Dminが上記範囲であればガス発生を抑制することができる。
かかる観点から、本5V級スピネルのDminは0.1μm~2.0μmであるのが好ましく、中でも0.15μm以上或いは2.0μm以下、その中でも特に0.2μm以上或いは2.0μm未満、さらにその中でも0.6μmより大きいのが特に好ましい。
【0052】
本5V級スピネルの二次粒子の粒度分布を上記のように調整するには、例えば焼成して粉砕すると共に該粉砕後に熱処理をすればよい。但し、かかる方法に限定するものではない。
【0053】
(平均一次粒子径)
本5V級スピネルの平均一次粒子径、すなわちSEM画像より算出した平均一次粒子径は0.3~6.0μmであるのが好ましい。
本5V級スピネルに関しては、一次粒子サイズを上記範囲にすることで、ガス発生量の低減と出力特性の向上の両方を達成することができる。
かかる観点から、本5V級スピネルの一次粒子径は0.3μm~6.0μmであるのが好ましく、中でも0.7μm以上或いは5.5μm以下、その中でも特に1.0μm以上或いは5.0μm以下、さらにその中でも4.5μm未満であるのが特に好ましい。
【0054】
(平均一次粒子径/D50)
本5V級スピネルに関しては、上記D50に対する上記平均一次粒子径の比率(平均一次粒子径/D50)が0.20~0.99であるのが好ましい。
平均一次粒子径/D50を上記範囲に規定することにより、一次粒子の分散性を高めることができる。そのため、二次粒子が粒度分布の半分以上を占める場合に比べて、一次粒子1つ1つが十分に電解液と接触することができる。これにより、Liと粒子との反応面積が増加するとともに、二次粒子内の一次粒子同士の界面における抵抗を減少させることができ、出力特性改善に繋がる。
かかる観点から、本5V級スピネルに一次粒子径/D50は0.20~0.99であるのが好ましく、中でも0.21以上或いは0.98以下、その中でも特に0.22以上或いは0.97以下であるのがより一層好ましい。
【0055】
本5V級スピネルの平均一次粒子を上記のように調整するには、焼成温度を調整したり、ホウ素化合物やフッ素化合物のように、焼成時の反応性を高める物質を添加して焼成したりして本5V級スピネルを製造するのが好ましい。但し、この方法に限定するものではない。
【0056】
(結晶子サイズ)
本5V級スピネルに関しては、結晶子サイズが80nm~490nmであるのが好ましい。
結晶子サイズを上記範囲に規定することにより、結晶子内のイオン導電性を高めることができ、出力を高めることができる。また、出力向上により、サイクル時の分極を抑えることができ、高温時における充放電の繰り返しに伴って徐々に放電容量が低下するのを抑制することができる。
かかる観点から、本5V級スピネルの結晶子サイズは80nm~490nmであるのが好ましく、中でも81nm以上或いは350nm以下、その中でも特に82nm以上或いは250nm以下であるのがより一層好ましい。
【0057】
ここで、「結晶子」とは、単結晶とみなせる最大の集まりを意味し、XRD測定し、リートベルト解析を行うことにより求めることができる。
【0058】
(結晶子サイズ/平均一次粒子径)
本5V級スピネルにおいては、結晶子サイズに対する平均一次粒子径の比率結晶子サイズ/平均一次粒子径は、0.01~0.32であるのが好ましい。
上述のように、本5V級スピネルは多結晶体であるから、結晶子サイズ/平均一次粒子径は1未満の値となり、さらに上記の範囲であれば粉体中の一次粒子の分散性が良好となり、一次粒子と電解液との接触面積が増加するとともに、二次粒子内の一次粒子同士の界面における抵抗を減少させることができ、出力特性改善に繋がる。
かかる観点から、本5V級スピネルにおいて、結晶子サイズ/平均一次粒子径は0.01~0.32であるのが好ましく、その中でも0.011以上或いは0.22以下、その中でも特に0.012以上或いは0.11以下であるのが特に好ましい。
本5V級スピネルに関して、結晶子サイズを上記範囲に調整するには、焼成温度、焼成時間、反応性を高める助剤、焼成雰囲気、原料種などを調節するのが好ましい。但し、これらの方法に限定するものではない。
【0059】
(歪み)
本5V級スピネルにおいては、粉末X線回装置(XRD)により測定される線回折パターンにおいて、リートベルト解析より得られる歪みの数値が0.00~0.35であるのが好ましい。
この程度に歪みが少なければ、スピネル型リチウム遷移金属酸化物の骨格が充分に強固であり、リチウム二次電池の正極活物質として使用した場合に、出力特性及びサイクル寿命特性をさらに高めることができる。
かかる観点から、本5V級スピネルの歪みは0.00~0.35であるのが好ましく、中でも0.30以下、その中でも0.25以下、その中でもさらに0.20以下であるのがより一層好ましい。
【0060】
本5V級スピネルの歪みを上記範囲にするには、好ましい条件で熱処理すればよい。但し、これらの方法に限定するものではない。
【0061】
(比表面積)
本5V級スピネルの比表面積は、電解液との反応性の観点から、0.4~6.0m2/gであるのが好ましく、中でも0.5m2/g以上或いは5.0m2/g以下であるのがさらに好ましく、その中でも4.5m2/g以下、その中でもさらに4.0m2/g以下、その中でも特に2.0m2/g以下であるのがより一層好ましい。
【0062】
(X線回折ピーク)
本5V級スピネルは、CuKα1線を用いた粉末X線回折装置(XRD)により測定されるX線回折パターンにおいて、2θが14.0~16.5°の間にピークが存在することがさらに好ましい。
本発明者が多くの試験を行った結果、Li、Mn及びOとこれら以外の2種以上の元素とを含む5V級スピネルに関しては、X線回折パターンにおいて、2θが14.0~16.5°の間にピークが存在すると、存在しない場合と比較して、4V付近のショルダーが無くなり、4.5V付近のプラトー領域が拡大し、高電位容量域が拡張してエネルギー密度が高くなることが分かった。
【0063】
なお、2θが14.0~16.5°の間にピークが存在するか否かは、XRDパターンにおいて、14.0~14.5°および16.0~16.5°のcpsの平均値をバックグラウンド(BG)の強度Aとし、14.5°~16.0°のcpsの最大値をピーク強度Bとしたときに、その差(B-A)が25cps以上であれば、ピークが存在するものと判定することができる。この差が大きいほど、本発明における効果を享受できると考えられるため、好ましくは30cps以上、より好ましくは40cps以上、さらに好ましくは50cps以上が望ましい。
【0064】
本5V級スピネルはさらに、上記X線回折パターンにおいて、2θが18~19°の間に存在するピークのうち最も高いピークのピーク強度に対する、2θが14.0~16.5°の間に存在するピークのうち最も高いピークのピーク強度の比率(P14-P16°/P18-19°)が0.05%より大きいことが好ましく、中でも0.05%以上あるいは2.0%以下であるのがさらに好ましく、その中でも0.05%以上或いは1.5%以下であるのがより一層好ましい。
【0065】
本5V級スピネルにおいて、2θが14.0~16.5°の間にピークが存在するように製造するには、後述するように5V級スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物を被処理物として酸素含有加圧熱処理(粉砕後加圧熱処理)するのが好ましい。但し、かかる方法に限定するものではない。
【0066】
(A層)
本5V級スピネルは、本5V級スピネル粒子(一次粒子又は二次粒子)すなわちリチウムマンガン複合酸化物粒子(「コア粒子」とも称する)の表面の一部に、チタン(Ti)又はアルミニウム(Al)又はジルコニウム(Zr)又はこれらのうちの2種以上を含有する層(「A層」と称する)を備えていることがより好ましい。
このようなA層を備えることにより、本5V級スピネルのレート特性をさらに向上させることができる。A層を備えることで、活物質表面の活性点を抑えることができ、レート特性の向上、ガス発生の抑制ができる。
【0067】
A層は、さらにリン(P)を含有していてもよい。
リン(P)を含有したA層としては、例えばTi及びPを含有したA層、Al及びPを含有したA層、Zr及びPを含有したA層、Ti、Al及びPを含有したA層、Ti、Zr及びPを含有したA層、Al、Zr及びPを含有したA層、Ti、Al、Zr及びPを含有したA層などを挙げることができる。
なお、A層はTi、Al、Zr、P以外に他の元素を含有していてもよい。
【0068】
A層は、コア粒子表面に部分的に存在し、当該A層が存在しない部分があってもよい。
コア粒子の表面の一部に、このようなA層を設けることにより、コア粒子と電解液との副反応を抑制することができ、レート特性の向上及びガス発生抑制の両立ができる。
また、コア粒子表面とA層との間に、他の層が介在していてもよい。例えば、チタンの酸化物を含有する層が介在していてもよい。また、A層の表面側に他の層が存在していてもよい。
【0069】
A層の厚さは、レート特性の向上とガス発生抑制効果を高める観点から、0.01nm~200nmであるのが好ましく、中でも0.1nm以上或いは190nm以下、その中でも0.1nm以上或いは180nm以下であるのが好ましい。
【0070】
このようなA層は、例えばコア粒子を表面処理することによって形成することができる。例えば、チタン(Ti)又はアルミニウム(Al)又はジルコニウム(Zr)又はこれらのうちの2種類以上を含有するカップリング剤を用いて表面処理した後、300℃以上、好ましくは300℃より高くあるいは820℃以下、その中でも好ましくは500℃より高くあるいは800℃以下、その中でもさらに好ましくは600℃以上あるいは800℃未満で加熱処理することにより形成することができる。
【0071】
<本5V級スピネルの製造方法>
本5V級スピネルの製造方法の一例として、原料混合工程、湿式粉砕工程、造粒工程、焼成工程、熱処理工程、洗浄・乾燥工程及び粉砕工程を備えた製造方法を挙げることができる。
但し、かかる製造方法は好ましい一例であって、このような製造方法に限定するものではない。
【0072】
(原料)
ここでは、式(1):[Lix(M1yM2zMn2-x-y-z)O4-δ]又は式(2):[Lix(NiyMzMn2-x-y-z)O4-δ]で示されるスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物を含有するものを製造するための原料について説明する。但し、本発明の製造対象である本5V級スピネルは、上記式(1)(2)で示されるものに限定されるものではないから、原料は適宜変更可能である。
【0073】
式(1):[Lix(M1yM2zMn2-x-y-z)O4-δ]又は式(2):[Lix(NiyMzMn2-x-y-z)O4-δ]で示されるスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物を製造するための原料としては、リチウム原料、ニッケル原料、マンガン原料、M金属原料、その他例えばホウ素原料などを挙げることができる。
【0074】
リチウム原料としては、例えば水酸化リチウム(LiOH,LiOH・H2O)、炭酸リチウム(Li2CO3)、硝酸リチウム(LiNO3)、酸化リチウム(Li2O)、その他脂肪酸リチウムやリチウムハロゲン化物等を挙げることができる。
【0075】
マンガン原料としては、例えば炭酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、二酸化マンガン、三酸化二マンガン、四酸化三マンガン等を挙げることができ、中でも炭酸マンガン、二酸化マンガンが好ましい。その中でも、電解法によって得られる電解二酸化マンガンが特に好ましい。
M1金属原料、M2金属原料及びM金属原料としては、M金属の炭酸塩、硝酸塩、塩化物、オキシ水酸化塩、水酸化物、酸化物などを挙げることができる。
【0076】
また、原料中にホウ素化合物を配合することもできる。
ホウ素化合物としては、ホウ素(B元素)を含有する化合物であればよく、例えばホウ酸或いはホウ酸リチウムを使用するのが好ましい。ホウ酸リチウムとしては、例えばメタ硼酸リチウム(LiBO2)、四硼酸リチウム(Li2B4O7)、五硼酸リチウム(LiB5O8)及び過硼酸リチウム(Li2B2O5)等の各種形態のものを用いることが可能である。
このようなホウ素化合物を配合すると、本5V級スピネルの結晶相のほかに、Ni、Mn及びBを含む前記複合酸化物相、例えばNi5MnO4(BO3)2の結晶相が生じることがある。
【0077】
(原料混合工程)
原料の混合は、原料を均一に混合できれば、その方法を特に限定するものではない。例えばミキサー等の公知の混合機を用いて各原料を同時又は適当な順序で加えて湿式又は乾式で攪拌混合して原料混合粉とすればよい。置換しにくい元素、例えばアルミニウムなどを添加する場合には湿式混合を採用するのが好ましい。
乾式混合としては、例えば高速で該原料混合粉を回転させる精密混合機を使用した混合方法を例示することができる。
他方、湿式混合としては、水や分散剤などの液媒体に上記原料混合粉を加えて湿式混合してスラリー化させる方法を挙げることができる。
【0078】
(湿式粉砕工程)
湿式粉砕工程では、原料を水などの液媒体に投入して粉砕すればよい。原料を混合する前に湿式粉砕することもできるし、原料混合後に湿式粉砕することもできる。
原料混合後に湿式粉砕する場合は、上記のように、水や分散剤などの液媒体に上記原料混合粉を加えて湿式混合してスラリー化させた後、得られたスラリーを湿式粉砕機で粉砕すればよい。この際、特にサブミクロンオーダーまで粉砕するのが好ましい。サブミクロンオーダーまで粉砕した後、造粒及び焼成することにより、焼成反応前の各粒子の均一性を高めることができ、反応性を高めることができる。
他方、原料を混合する前に湿式粉砕する場合には、上記各原料をそれぞれ湿式粉砕し、混合した後、必要に応じてさらに湿式粉砕すればよい。
各原料をそれぞれ粉砕する場合には、原料混合時の均質性を高めるため、原料を混合する前に予め、Dmaxが大きい原料を先に粉砕しておくことが好ましい。例えばニッケル化合物のみ、または必要に応じてニッケル化合物とマンガン化合物を、粉砕及び分級して、ニッケル化合物やマンガン化合物の最大粒径(Dmax)が10μm以下、中でも5μm以下、その中でも4μm以下になるように調整するのが好ましい。
【0079】
(造粒工程)
上記の如く混合した原料は、必要に応じて所定の大きさに造粒した後、焼成するのが好ましい。但し、必ずしも造粒しなくてもよい。
造粒方法は、前工程で粉砕された各種原料が造粒粒子内で分散していれば、湿式でも乾式でもよく、押し出し造粒法、転動造粒法、流動造粒法、混合造粒法、噴霧乾燥造粒法、加圧成型造粒法、或いはロール等を用いたフレーク造粒法でもよい。但し、湿式造粒した場合には、焼成前に充分に乾燥させることが必要である。
【0080】
乾燥方法としては、噴霧熱乾燥法、熱風乾燥法、真空乾燥法、フリーズドライ法などの公知の乾燥方法によって乾燥させればよく、中でも噴霧熱乾燥法が好ましい。噴霧熱乾燥法は、熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー)を用いて行なうのが好ましい。熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー)を用いて造粒することにより、粒度分布をよりシャープにすることができるばかりか、丸く凝集してなる凝集粒子(二次粒子)を含むように二次粒子の形態を調製することができる。
【0081】
(焼成工程)
焼成は、焼成炉にて、大気雰囲気下、酸素分圧を調整した雰囲気下、或いは二酸化炭素ガス雰囲気下、或いはその他の雰囲気下において、750℃より高く1000℃以下の温度、中でも800~1000℃(:焼成炉内の焼成物に熱電対を接触させた場合の温度を意味する。)で0.5時間~300時間保持するように焼成するのが好ましい。この際、遷移金属が原子レベルで固溶し単一相を示す焼成条件を選択するのが好ましい。
【0082】
一次粒子が小さいと、ガス発生の原因となる微粒が発生しやすくなる可能性があるため、焼成温度は、750℃より高く、中でも800℃以上、その中でも840℃以上で焼成することが好ましい。
但し、焼成温度が高すぎると、酸素欠損が増大して熱処理によっても歪みを回復させることができなくなる可能性があるため、1000℃以下、中でも980℃以下で焼成するのが好ましい。
なお、この焼成温度とは、焼成炉内の焼成物に熱電対を接触させて測定される焼成物の品温を意味する。
焼成時間、すなわち上記焼成温度を保持する時間は、焼成温度にもよるが、0.5時間~100時間とすればよい。
【0083】
焼成炉の種類は特に限定するものではない。例えばロータリーキルン、静置炉、その他の焼成炉を用いて焼成することができる。
【0084】
なお、ホウ素化合物やフッ素化合物のように、焼成時の反応性を高める物質が共存する場合、低温でも比表面積を低下させることができる。そのような場合、焼成温度は750℃より高い温度で焼成することが好ましく、中でも800℃以上、その中でも特に820℃以上で焼成することがより好ましい。但し、焼成温度が高すぎると、酸素欠損が増大して熱処理によっても歪みを回復させることができなくなる可能性があるため、980℃以下で焼成するのが好ましく、中でも960℃以下で焼成するのがより好ましい。
【0085】
他方、上記のような焼成時に反応性を高める物質が共存しない場合は、800℃より高温で焼成することが好ましく、中でも820℃以上、その中でも特に840℃以上で焼成することがより好ましい。但し、焼成温度が高すぎると、酸素欠損が増大して熱処理によっても歪みを回復させることができなくなる可能性があるため、1000℃以下で焼成するのが好ましく、中でも980℃以下で焼成するのがより好ましい。
【0086】
上記焼成後、必要に応じて、解砕を行うのが好ましい。焼成後に焼結した塊などを解すことによって、後の熱処理工程において、粉体中に酸素を取り込ませやすくすることができ、酸素欠損の抑制および歪の低減が可能になる。なお、本工程において、解砕とは二次粒子を壊さないようにするのが好ましい。
【0087】
(熱処理工程)
熱処理は、大気雰囲気下、酸素分圧を調整した雰囲気下、又は、その他の雰囲気下において、500℃~800℃、好ましくは700℃以上或いは800℃以下の環境下に0.5~300時間置き、酸素を取り込みし易くするようにするのが好ましい。この際、700℃より低温であると、熱処理の効果が得られ難く、酸素を取り込めないおそれがある。その一方、800℃より高い温度で熱処理すると、酸素の脱離が始まり、本発明が目的とする効果を得られなくなってしまう。
【0088】
上記熱処理は、必要に応じて、熱処理雰囲気を、処理雰囲気の全体圧力が、大気圧(0.1MPa)よりも大きい圧力、例えば0.19MPaよりも大きく、中でも0.20MPa以上の雰囲気としてもよい。
但し、処理雰囲気の全体圧力が高すぎると、加圧炉の強度上の問題から製造が不安定となる可能性があるため、かかる観点からすると1.5MPa以下、中でも1.0MPa以下の雰囲気圧力で熱処理するのが好ましい。
このような加圧状態で熱処理することで、より一層酸素を取り込み易くなり、酸素欠損をより一層抑えることができる。
【0089】
(解砕・分級工程)
上記熱処理工程後、必要に応じて、解砕するのが好ましい。
この際、解砕の程度は二次粒子を壊さないようにするのが好ましい。
そして、解砕後は、分級するのが好ましい。
【0090】
(洗浄・乾燥工程)
洗浄工程では、被処理物(「処理粉末」とも称する)を、極性溶媒と接触させて、処理粉末中に含まれる不純物を離脱させるように洗浄するのが好ましい。
例えば、処理粉末を極性溶媒と混合し攪拌してスラリーとし、得られたスラリーをろ過などによって固液分離して不純物を除去するようにすればよい。この際、固液分離は後工程で行ってもよい。
なお、スラリーとは、極性溶媒中に処理粉末が分散した状態を意味する。
【0091】
洗浄に用いる極性溶媒としては、水を用いるのが好ましい。
水としては、市水でもよいが、フィルターまたは湿式磁選機を通過させたイオン交換水や純水を用いるのが好ましい。
水のpHは4~10であるのが好ましく、中でも5以上或いは9以下であるのがさらに好ましい。
【0092】
洗浄時の液温に関しては、洗浄時の液温が低ければ電池特性がより良好になることが確認されているため、かかる観点から、5~70℃であるのが好ましく、中でも60℃以下であるのがより一層好ましく、その中でも特に45℃以下であるのがより一層好ましい。特に40℃以下であるのがより一層好ましい。さらには特に30℃以下であるのがより一層好ましい。
洗浄時の液温が低ければ電池特性がより良好になる理由は、液温が高過ぎると、リチウムマンガン含有複合酸化物中のリチウムがイオン交換水のプロトンとイオン交換してリチウムが抜けて高温特性に影響するためであると推定できる。
【0093】
被処理物(処理粉末)と接触させる極性溶媒の量については、極性溶媒に対するリチウムマンガン含有複合酸化物の質量比(「スラリー濃度」とも称する)が10~70wt%となるように調整するのが好ましく、中でも20wt%以上或いは60wt%以下、その中でも30wt%以上或いは50wt%以下となるように調整するのがより一層好ましい。極性溶媒の量が10wt%以上であれば、SO4などの不純物を溶出させることが容易であり、逆に60wt%以下であれば、極性溶媒の量に見合った洗浄効果を得ることができる。
【0094】
被処理物を洗浄する際は、洗浄液に投入して撹拌後、静置して上澄み液を除去すればよい。例えば、スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物を洗浄液に投入して20分撹拌後、10分静置して上澄み液中に含まれるスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物を除去するのが好ましい。このように洗浄することで、スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物の不純物量、例えば硫黄含有量を低下させることができる。
【0095】
(粉砕工程)
粉砕工程では、気流式粉砕機や分級機構付衝突式粉砕機、例えばジェットミルや、分級ローター付カウンタージェットミルなどを用いて、粉砕するのが好ましい。ジェットミルによって粉砕すれば、一次粒子間の凝集や、焼結が弱かったりする部分を粉砕することができる。但し、ジェットミルに限定する訳ではなく、ピンミルや遊星ボールミルなどの粉砕機を用いることもできる。
【0096】
ジェットミルの一例として分級ローター付のカウンタージェットミルを挙げることができる。カウンタージェットミルは、圧縮ガス流の衝突を利用した粉砕機として知られている。原料ホッパーよりミルに送り込まれた原料は、ノズルからの噴射エアーによって流動化される。この際、噴射エアーが一点に収束するように設置されているため、ジェット中に加速された粒子が相互にぶつかることで粒子を小さく粉砕することができる。
カウンタージェットミルの分級機回転数は7000rpm以上、中でも8000rpm以上或いは18000rpm以下、その中でも特に9000rpm以上或いは18000rpm以下にするのがさらに好ましい。
【0097】
(粉砕後酸素含有雰囲気熱処理工程)
上記粉砕工程後、必要に応じて、酸素含有雰囲気において熱処理してもよい。
上記粉砕工程後に、酸素含有雰囲気において熱処理することによって、酸素を構造中に取り込ませることができ、さらに粉砕により生じた歪みを低減することができる。
【0098】
粉砕後酸素含有雰囲気熱処理工程では、処理雰囲気の全体圧力が大気圧もしくは大気圧よりも高い圧力であって、かつ、該雰囲気における酸素分圧が大気中の酸素分圧よりも高い処理雰囲気おいて、500℃より高く850℃より低い温度で熱処理するのが好ましい。
このように酸素含有雰囲気で熱処理することにより、本5Vスピネルの構造中に酸素が取り込まれ、酸素欠損が低減し構造が安定化するため、たとえ上述のように高温焼成した場合や粉砕後であっても、構造中の歪除去ができ、出力及びサイクル特性を改善することができる。
なお、大気圧よりも高い圧力雰囲気とは、密閉容器内を加熱して、一定容積内の気体を温度上昇させることで、圧力が上昇し、大気圧よりも高い圧力になる場合を含む。
【0099】
ここで、上述した大気圧よりも高い圧力の雰囲気は、雰囲気の全体圧力が、大気圧(0.1MPa)よりも大きい圧力、例えば0.19MPaよりも大きく、中でも0.20MPa以上の雰囲気の圧力であるのが特に好ましい。但し、処理雰囲気の全体圧力が高すぎると、加圧炉の強度上の問題から製造が不安定となる可能性があるため、かかる観点からすると1.5MPa以下、中でも1.0MPa以下の雰囲気圧力で熱処理するのが好ましい。このように、酸素含有雰囲気加圧状態で熱処理することで、より一層酸素を取り込み易くなり、酸素欠損をより一層抑えることができる。かかる観点から、酸素含有雰囲気加圧熱処理時の雰囲気の全体圧力は0.19MPaより大きく、1.5MPa以下に制御するのが好ましく、中でも0.20MPa以上或いは1.3MPa以下、その中でも1.0MPa以下に制御するのが好ましい。
【0100】
さらに、大気圧よりも高い圧力の雰囲気における雰囲気は、例えば0.19MPaより高い酸素分圧であるのが好ましく、中でも0.20MPa以上の酸素分圧であるのが特に好ましい。但し、該酸素分圧が高すぎると、加圧炉の強度上の問題から製造が不安定となる可能性があるため、かかる観点からすると1.5MPa以下、中でも1.0MPa以下の酸素分圧下で熱処理するのが好ましい。
かかる観点から、粉砕後酸素含有雰囲気熱処理工程における酸素分圧は0.19MPaより大きく、1.5MPaに制御するのが好ましく、中でも0.20MPa以上或いは1.3MPa以下、その中でも1.0MPa以下に制御するのが好ましい。
【0101】
粉砕後酸素含有雰囲気熱処理工程での熱処理温度、すなわち保持温度は500℃より高く850℃より低い温度に制御するのが好ましい。
本工程での熱処理温度が500℃より高ければ、酸素を強制的に供給しながら熱処理することにより、結晶構造中に酸素を取り込んで歪みを効果的に低減することができる。かかる観点から、熱処理温度は500℃より高温であることが好ましく、中でも600℃以上、その中でも700℃以上、その中でも700℃より高温であるのが特に好ましい。
他方、熱処理温度が高すぎると、酸素欠損が増大して熱処理によっても歪みを回復させることができなくなる可能性があるため、熱処理温度は850℃より低温であることが好ましく、中でも820℃以下、その中でも800℃以下であるのが特に好ましい。
なお、この熱処理温度とは、炉内の処理物に熱電対を接触させて測定される処理物の品温を意味する。
【0102】
粉砕後酸素含有雰囲気熱処理工程における好ましい条件の一例として、処理雰囲気の全体圧力が大気圧よりも高い圧力であって、且つ、0.19MPaより高い酸素分圧であり、500℃より高く850℃より低い温度、中でも600℃以上或いは850℃より低く、その中でも700℃より高く或いは800℃以下の温度で酸素含有雰囲気加圧熱処理する条件を挙げることができる。
【0103】
上記熱処理温度すなわち保持温度まで加熱する際の昇温速度は、0.1℃/min~20℃/minとするのが好ましく、中でも0.25℃/min以上或いは10℃/min以下、その中でも特に0.5℃/min以上或いは5℃/min以下とするのがさらに好ましい。
【0104】
粉砕後酸素含有雰囲気熱処理工程で、上記熱処理温度を保持する時間は、少なくとも1分間以上である必要がある。結晶構造内に酸素を十分に取り込ませるためには、少なくとも1分間は必要であると考えられる。かかる観点から、上記熱処理温度を保持する時間は、好ましくは5分以上、特に好ましくは10分以上である。また、熱処理により、結晶構造内に酸素を取りこませる効果は保持時間が200時間以下であれば十分効果があると考えられる。
【0105】
熱処理後の降温速度は、少なくとも500℃までは10℃/min以下の冷却速度でゆっくり冷却するのが好ましく、特に0.1℃/min~8℃/min、中でも特に0.2℃/min~5℃/minに制御するのがさらに好ましい。
500℃近辺で取り込んだ酸素が安定化すると考えられるため、少なくとも500℃まではゆっくり10℃/min以下の降温速度で冷却するのが好ましいと考えることができる。
【0106】
このような粉砕後酸素含有雰囲気熱処理工程での熱処理は、加圧炉(加圧可能圧力1.0MPa)のような装置を用いて加熱することにより、処理雰囲気の全体圧力が大気圧よりも高い圧力であって、かつ、該雰囲気における酸素分圧が大気中の酸素分圧よりも高い処理雰囲気において、加熱することができる。
【0107】
(解砕・分級工程)
上記熱処理工程後、必要に応じて、解砕してもよい。
この際、解砕の程度は一次粒子を崩壊させないようにするのが好ましい。
そして、解砕後は、分級するのが好ましい。
【0108】
(A層形成工程)
上記のようにして得た本5V級スピネル(粉末)に対して、チタンカップリング剤又はアルミカップリング剤又はジルコニウムカップリング剤又はチタン・アルミカップリング剤又はアルミ・ジルコニウムカップリング剤などの表面処理剤を、有機溶媒に混合して表面処理を行い、乾燥させて有機溶媒を揮発させ、その後300℃以上の加熱処理をすることで、上記A層を形成することができる。
なお、A層の形成は、熱処理後の解砕工程の後に行ってもよいし、粉砕工程の後に行ってもよいし、水洗工程の後に行ってもよい。
【0109】
前記のカップリング剤としては、有機官能基と加水分解性基を分子中に有する化合物であればよく、中でも側鎖にリン(P)を有するものが好ましい。側鎖にリン(P)を有するカップリング剤は、バインダーとのなじみがよりよいため、バインダーとの結着性に優れている。
【0110】
このようなカップリング剤を用いて表面処理を行う場合、有機溶媒を揮発させるために例えば40~120℃に加熱して乾燥させる必要がある。その後、300℃以上、好ましくは300℃より高くあるいは820℃以下、その中でも好ましくは500℃より高くあるいは800℃以下、その中でもさらに好ましくは600℃以上あるいは800℃未満で加熱するのが好ましい。
このように300℃以上で加熱することで、A層の炭素量を低減できると共にA層を酸化させることができ、カップリング剤の種類によっては、レート特性、寿命特性をさらに高めることができる場合がある。
【0111】
乾燥後の加熱処理は、酸素存在雰囲気中で行うのが好ましい。それは、乾燥後の加熱処理によって有機溶媒やカップリング剤の側鎖が除去されると同時に、活物質中の酸素も抜けてしまう可能性があるため、酸素存在雰囲気中で行うことによって当該酸素を補充するのが好ましいからである。かかる観点から、酸素存在雰囲気のなかでも、大気雰囲気、酸素雰囲気中で行うのが好ましい。
なお、酸素雰囲気とは、大気雰囲気よりも酸素存在量が多い雰囲気を示す。
【0112】
<本5V級スピネルの用途>
本5V級スピネルは、必要に応じて解砕・分級した後、各種リチウム電池の正極活物質として有効に利用することができる。
本5V級スピネルを各種リチウム電池の正極活物質として利用する場合、例えば、本5V級スピネルと、カーボンブラック等からなる導電材と、テフロン(登録商標)バインダー等からなる結着剤とを混合して正極合剤を製造することができる。そしてそのような正極合剤を正極に用い、負極にはリチウムまたはカーボン等のリチウムを吸蔵、脱蔵できる材料を用い、非水系電解質には六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等のリチウム塩をエチレンカーボネート-ジメチルカーボネート等の混合溶媒に溶解したものを用いてリチウム電池を構成することができる。
【0113】
このように構成したリチウム電池は、例えばノート型パソコン、携帯電話、コードレスフォン子機、ビデオムービー、液晶テレビ、電気シェーバー、携帯ラジオ、ヘッドホンステレオ、バックアップ電源、メモリーカード等の電子機器、ペースメーカー、補聴器等の医療機器、電気自動車搭載用の駆動電源に使用することができる。中でも、優れたサイクル特性が要求される携帯電話機、PDA(携帯情報端末)やノート型パソコンなどの各種携帯型コンピュータ、電気自動車(ハイブリッド自動車を含む)、電力貯蔵用電源などの駆動用電源として特に有効である。
【0114】
<語句の説明>
本明細書において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例】
【0115】
次に、実施例及び比較例に基づいて、本発明について更に説明する。但し、本発明が以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0116】
<実施例1>
平均粒径(D50)7μmの炭酸リチウムと、平均粒径(D50)23μmで比表面積が40m2/gの電解二酸化マンガンと、平均粒径(D50)22μmの水酸化ニッケルと、平均粒径(D50)2μmの酸化チタンと、平均粒径(D50)60μmの四ホウ酸リチウムをそれぞれ秤量した。
イオン交換水中へ、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩水溶液(サンノプコ(株)製 SNディスパーサント5468)を添加した。この際、分散剤の添加量は、前述のLi原料、Ni原料、Mn原料、Ti原料及びB原料の合計に対して、6wt%になるようにし、イオン交換水中へ十分に溶解混合させた。そして、秤量しておいたNi、Mn原料を、あらかじめ分散剤を溶解させた前記イオン交換水中へ加えて、混合撹拌して、続いて、湿式粉砕機で1300rpm、120分間粉砕して平均粒径(D50)を0.60μm以下の粉砕スラリーを得た。次いで、残りの原料を前記スラリー中に加えて、撹拌し、続いて1300rpm、120分間粉砕して平均粒径(D50)を0.60μm以下の粉砕スラリーを得た。この際の固形分濃度は40wt%とした。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製「RL-10」)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧にはツインジェットノズルを用い、噴霧圧を0.46MPa、スラリー供給量340ml/min、乾燥塔の入口温度200~280℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行なった。
【0117】
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気雰囲気において、880℃を37時間保持するように焼成した後、解砕機(オリエント堅型粉砕機、オリエント粉砕機株式会社製)で解砕した。
前記解砕後、静置式電気炉を用いて、大気雰囲気において、750℃を37時間保持するように熱処理(第1熱処理)し、解砕機(オリエント堅型粉砕機、オリエント粉砕機株式会社製)で解砕した。
前記解砕後、pH6~7、温度25℃のイオン交換水2000mLを入れたプラスチックビーカー(容量5000mL)の中に投入し、攪拌機(プロペラ面積33cm2)を用いて400~550rpmの回転で20分間撹拌した。撹拌後、撹拌を停止して攪拌機を水中から取り出し、10分間静置した。そして、デカンテーションにより上澄み液を除去し、残りについて吸引ろ過器(ろ紙No.131)を使用して沈降物を回収し、回収した沈降物を120℃環境下で12時間乾燥させた。その後、品温が500℃となるように加熱した状態で7時間乾燥させた。
【0118】
そして、乾燥後、カウンタージェットミル(粉砕分級装置、ホソカワミクロン株式会社製)で解砕した(解砕条件:分級機回転数11000rpm)。その後、目開き300μmの篩で分級し、スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0119】
スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)の化学分析を実施したところ、Li:3.9wt%、Ni:14.2wt%、Mn:42.6wt%、Ti:3.6wt%、B:0.1wt%であった。表1には、一般式[Lix(M1yM2zMn2-x-y-z)O4-δ]で示した際の組成を示しており、M1は本実施例ではNiであり、M2は置換元素種、本実施例ではTiである。(以下の実施例及び比較例も同様)。
なお、上記焼成時及び熱処理時の温度は、炉内の処理物に熱電対を接触させて測定した処理物の品温である。後述する実施例・比較例でも同じである。
【0120】
<実施例2>
上記実施例1において、カウンタージェットミルで解砕して分級して得られたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末を、管状型静置炉にて酸素供給量0.5L/minにて流入させながら、炉設定温度を725℃として、5時間保持するように熱処理(第2熱処理)を実施した。
第2熱処理後の粉体を目開き300μmの篩で分級し、篩下を回収してスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0121】
<実施例3>
上記実施例1において、カウンタージェットミルで解砕して分級して得られたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末に対して、次のように表面処理を実施した。すなわち、当該スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末100質量部と、表面処理剤としてジルコニウムカップリング剤(ケンリッチ・ペトロケミカルズ社製Ken-React(登録商標)NZ12)3.0質量部と、溶媒としてのイソプロピルアルコール7.6質量部とをカッターミル(岩谷産業株式会社製ミルサー720G)を用いて混合した。次いで、混合したスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末を真空雰囲気下で100℃、1時間の条件で乾燥機内に置いて乾燥を行い、スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末を得た。
このようにして得たスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末を、実施例2と同様に第2熱処理に供し、その後は実施例2と同様にしてスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0122】
このようにして得たスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末について、粒子表面付近の断面を透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JEM-ARM200F」)で観察したところ、スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物からなるコア部の表面に部分的に層(「A層」と称する)が存在していた。また、該A層をEDSで分析したところ、ジルコニウム(Zr)とリン(P)を含有することがわかった。また、該A層の厚さは場所によって異なっており、薄い部分は0.1nm、厚い部分は30nmであった。
【0123】
<実施例4>
原料組成を表1に示した組成に変更し、B原料を用いず、カウンタージェットミル分級機回転数を13000rpmに変更した以外、実施例3と同様にしてスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0124】
このようにして得たスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)について、粒子表面付近の断面を透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JEM-ARM200F」)で観察したところ、スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物からなるコア部の表面に部分的に層(「A層」と称する)が存在していた。また、該A層をEDSで分析したところ、ジルコニウム(Zr)とリン(P)を含有することがわかった。また、該A層の厚さは場所によって異なっており、薄い部分0.1nm、厚い部分は30nmであった。
【0125】
<実施例5>
上記実施例2における第2熱処理の代わりに、加圧炉(株式会社広築製)を使用して次のように酸素含有雰囲気加圧熱処理を実施した。
すなわち、上記実施例1において、カウンタージェットミルで解砕して分級して得られたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末200gを磁製るつぼに充填し、この磁製るつぼを加圧炉内に設置した。その後、酸素ガス(酸素濃度99%)を加圧炉内に流入させて、酸素分圧0.20MPa、処理雰囲気の全体圧力を0.21MPaに調整して、1.7℃/minの昇温速度で730℃まで加熱して15時間保持し、その後、酸素流入を継続しながら、室温まで0.3℃/minの降温速度で冷却して粉体を得た。得られた粉体を目開き300μmの篩で分級し、篩下を回収してスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0126】
<実施例6>
上記実施例1において、カウンタージェットミルで解砕して分級して得られたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末に対して、次のように表面処理を実施した。
すなわち、当該スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末100質量部と、表面処理剤としてアルミカップリング剤(味のファインテクノ株式会社 プレンアクト(登録商標)AL-M)3.0質量部と、溶媒としてのイソプロピルアルコール7.6質量部とをカッターミル(岩谷産業株式会社製ミルサー720G)を用いて混合した。次いで、混合したスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末を真空雰囲気下で100℃、1時間の条件で乾燥機内に置いて乾燥を行い、次いで品温が500℃となる状態を5時間維持するように加熱して、スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末を得た。
このようにして得たスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末を、実施例5と同様に酸素含有雰囲気加圧熱処理に供し、得られた粉体を目開き300μmの篩で分級し、篩下を回収してスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0127】
このようにして得たスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)について、粒子表面付近の断面を透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JEM-ARM200F」)で観察したところ、スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物からなるコア部の表面に部分的に層(「A層」と称する)が存在していた。また、該A層をEDSで分析したところ、アルミニウム(Al)とリン(P)を含有することがわかった。また、該A層の厚さは場所によって異なっており、薄い部分は0.1nm、厚い部分は30nmであった。
【0128】
<実施例7>
平均粒径(D50)7μmの炭酸リチウムと、平均粒径(D50)22μmの水酸化ニッケルと、平均粒径(D50)23μmで比表面積が40m2/gの電解二酸化マンガンと、平均粒径(D50)2μmの酸化チタンと、平均粒径(D50)2μmの水酸化アルミニウムと、平均粒径(D50)12μmのオキシ水酸化コバルトと、平均粒径(D50)60μmの四ホウ酸リチウムをそれぞれ秤量した。
イオン交換水中へ、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩水溶液(サンノプコ(株)製 SNディスパーサント5468)を添加した。この際、分散剤の添加量は、前述のLi原料、Ni原料、Mn原料、Ti原料、Al原料、Co原料及びB原料の合計に対して、6wt%になるようにし、イオン交換水中へ十分に溶解混合させた。そして、秤量しておいた原料を、あらかじめ分散剤を溶解させた前記イオン交換水中へ加えて、混合撹拌して、固形分濃度40wt%のスラリーを調整した。続いて、湿式粉砕機で1300rpm、60分間粉砕して平均粒径(D50)を0.51μm以下の粉砕スラリーを得た。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製「RL-10」)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧にはツインジェットノズルを用い、噴霧圧を0.46MPa、スラリー供給量316ml/min、乾燥塔の出口温度100~110℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行なった。
【0129】
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気雰囲気において、880℃を37時間保持するように焼成した後、解砕機(オリエント堅型粉砕機、オリエント粉砕機株式会社製)で解砕した。
前記解砕後、静置式電気炉を用いて、大気雰囲気において、740℃を37時間保持するように熱処理(第1熱処理)し、解砕機(オリエント堅型粉砕機、オリエント粉砕機株式会社製)で解砕した。
前記解砕後、pH6~7、温度25℃のイオン交換水2000mLを入れたプラスチックビーカー(容量5000mL)の中に投入し、攪拌機(プロペラ面積33cm2)を用いて400~550rpmの回転で20分間撹拌した。撹拌後、撹拌を停止して攪拌機を水中から取り出し、10分間静置した。そして、デカンテーションにより上澄み液を除去し、残りについて吸引ろ過器(ろ紙No.131)を使用して沈降物を回収し、回収した沈降物を120℃環境下で12時間乾燥させた。その後、品温が500℃となるように加熱した状態で7時間乾燥させた。
【0130】
そして、乾燥後、カウンタージェットミル(粉砕分級装置、ホソカワミクロン株式会社製)で解砕した(解砕条件:分級機回転数14900rpm)。その後、得られたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末を、静置炉で酸素雰囲気にて730℃として、5時間保持するように熱処理(第2熱処理)を実施した。第2熱処理後の粉体を目開き300μmの篩で分級し、篩下を回収してスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
得られたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)の化学分析を実施したところ、Li:4.0wt%、Ni:14.3wt%、Mn:43.8wt%、Ti:2.5wt%、Al:0.7%、B:0.1wt%であった。表1には、一般式[Lix(M1yM2zMn2-x-y-z)O4-δ]で示した際の組成を示しており、M1は本実施例ではNiであり、M2は置換元素種、本実施例ではTi、Al及びCoである。
【0131】
<実施例8>
平均粒径(D50)7μmの炭酸リチウムと、平均粒径(D50)22μmの水酸化ニッケルと、平均粒径(D50)23μmで比表面積が40m2/gの電解二酸化マンガンと、平均粒径(D50)2μmの酸化チタンと、平均粒径(D50)2μmの水酸化アルミニウムと、平均粒径(D50)60μmの四ホウ酸リチウムをそれぞれ秤量した。
イオン交換水中へ、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩水溶液(サンノプコ(株)製 SNディスパーサント5468)を添加した。この際、分散剤の添加量は、前述のLi原料、Ni原料、Mn原料、Ti原料、Al原料及びB原料の合計に対して、6wt%になるようにし、イオン交換水中へ十分に溶解混合させた。そして、秤量しておいた原料を、あらかじめ分散剤を溶解させた前記イオン交換水中へ加えて、混合撹拌して、固形分濃度40wt%のスラリーを調整した。続いて、湿式粉砕機で1300rpm、60分間粉砕して平均粒径(D50)を0.53μm以下の粉砕スラリーを得た。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製「RL-10」)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧にはツインジェットノズルを用い、噴霧圧を0.44MPa、スラリー供給量320ml/min、乾燥塔の出口温度100~110℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行なった。
【0132】
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気雰囲気において、880℃を37時間保持するように焼成した後、解砕機(オリエント堅型粉砕機、オリエント粉砕機株式会社製)で解砕した。
前記解砕後、静置式電気炉を用いて、大気雰囲気において、740℃を37時間保持するように熱処理(第1熱処理)し、解砕機(オリエント堅型粉砕機、オリエント粉砕機株式会社製)で解砕した。
前記解砕後、pH6~7、温度25℃のイオン交換水2000mLを入れたプラスチックビーカー(容量5000mL)の中に投入し、攪拌機(プロペラ面積33cm2)を用いて400~550rpmの回転で20分間撹拌した。撹拌後、撹拌を停止して攪拌機を水中から取り出し、10分間静置した。そして、デカンテーションにより上澄み液を除去し、残りについて吸引ろ過器(ろ紙No.131)を使用して沈降物を回収し、回収した沈降物を120℃環境下で12時間乾燥させた。その後、品温が500℃となるように加熱した状態で7時間乾燥させた。
【0133】
そして、乾燥後、カウンタージェットミル(粉砕分級装置、ホソカワミクロン株式会社製)で解砕した(解砕条件:分級機回転数14900rpm)。その後、得られたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末を、静置炉で酸素雰囲気にて730℃として、5時間保持するように熱処理(第2熱処理)を実施した。第2熱処理後の粉体を目開き300μmの篩で分級し、篩下を回収してスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
得られたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)の化学分析を実施したところ、Li:4.1wt%、Ni:13.5wt%、Mn:44.9wt%、Ti:2.6wt%、Al:0.7wt%、B:0.1wt%であった。表1には、一般式[Lix(M1yM2zMn2-x-y-z)O4-δ]で示した際の組成を示しており、M1は本実施例ではNiであり、M2は置換元素種、本実施例ではTi及びAlである。
【0134】
<実施例9>
平均粒径(D50)7μmの炭酸リチウムと、平均粒径(D50)22μmの水酸化ニッケルと、平均粒径(D50)23μmで比表面積が40m2/gの電解二酸化マンガンと、平均粒径(D50)2μmの酸化チタンと、平均粒径(D50)60μmの四ホウ酸リチウムをそれぞれ秤量した。
イオン交換水中へ、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩水溶液(サンノプコ(株)製 SNディスパーサント5468)を添加した。この際、分散剤の添加量は、前述のLi原料、Ni原料、Mn原料、Ti原料及びB原料の合計に対して、6wt%になるようにし、イオン交換水中へ十分に溶解混合させた。そして、秤量しておいた原料を、あらかじめ分散剤を溶解させた前記イオン交換水中へ加えて、混合撹拌して、固形分濃度40wt%のスラリーを調整した。続いて、湿式粉砕機で1300rpm、60分間粉砕して平均粒径(D50)を0.53μm以下の粉砕スラリーを得た。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製「RL-10」)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧にはツインジェットノズルを用い、噴霧圧を0.45MPa、スラリー供給量310ml/min、乾燥塔の出口温度100~110℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行なった。
【0135】
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気雰囲気において、880℃を37時間保持するように焼成した後、解砕機(オリエント堅型粉砕機、オリエント粉砕機株式会社製)で解砕した。
前記解砕後、静置式電気炉を用いて、大気雰囲気において、740℃を37時間保持するように熱処理(第1熱処理)し、解砕機(オリエント堅型粉砕機、オリエント粉砕機株式会社製)で解砕した。
前記解砕後、pH6~7、温度25℃のイオン交換水2000mLを入れたプラスチックビーカー(容量5000mL)の中に投入し、攪拌機(プロペラ面積33cm2)を用いて400~550rpmの回転で20分間撹拌した。撹拌後、撹拌を停止して攪拌機を水中から取り出し、10分間静置した。そして、デカンテーションにより上澄み液を除去し、残りについて吸引ろ過器(ろ紙No.131)を使用して沈降物を回収し、回収した沈降物を120℃環境下で12時間乾燥させた。その後、品温が500℃となるように加熱した状態で7時間乾燥させた。
【0136】
そして、乾燥後、カウンタージェットミル(粉砕分級装置、ホソカワミクロン株式会社製)で解砕した(解砕条件:分級機回転数14900rpm)。その後、得られたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末を、静置炉で酸素雰囲気にて730℃として、5時間保持するように熱処理(第2熱処理)を実施した。第2熱処理後の粉体を目開き300μmの篩で分級し、篩下を回収してスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
得られたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)の化学分析を実施したところ、Li:4.0wt%、Ni:15.3wt%、Mn:42.3wt%、Ti:3.8wt%、B:0.1wt%であった。表1には、一般式[Lix(M1yM2zMn2-x-y-z)O4-δ]で示した際の組成を示しており、M1は本実施例ではNiであり、M2は置換元素種、本実施例ではTiである。
【0137】
<実施例10>
平均粒径(D50)7μmの炭酸リチウムと、平均粒径(D50)22μmの水酸化ニッケルと、平均粒径(D50)23μmで比表面積が40m2/gの電解二酸化マンガンと、平均粒径(D50)2μmの酸化チタンと、平均粒径(D50)2μmの水酸化アルミニウムをそれぞれ秤量した。
イオン交換水中へ、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩水溶液(サンノプコ(株)製 SNディスパーサント5468)を添加した。この際、分散剤の添加量は、前述のLi原料、Ni原料、Mn原料、Ti原料及びAl原料の合計に対して、6wt%になるようにし、イオン交換水中へ十分に溶解混合させた。秤量しておいた原料のうち、Ni原料とMn原料とAl原料だけを、あらかじめ分散剤を溶解させた前記イオン交換水中へ加えて、混合撹拌し、スラリーを得た。得られたスラリーを湿式粉砕機で1300rpm、120分間粉砕した。続いて、Li原料及びTi原料を添加し、混合撹拌し、固形分濃度40wt%のスラリーを調整した。続いてさらに、湿式粉砕機で1300rpm、120分間粉砕して平均粒径(D50)0.44μm以下の粉砕スラリーを得た。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製「RL-10」)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧にはツインジェットノズルを用い、噴霧圧を0.43MPa、スラリー供給量320ml/min、乾燥塔の出口温度100~110℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行なった。
【0138】
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気雰囲気において、880℃を37時間保持するように焼成した後、解砕機(オリエント堅型粉砕機、オリエント粉砕機株式会社製)で解砕した。
前記解砕後、静置式電気炉を用いて、大気雰囲気において、740℃を37時間保持するように熱処理(第1熱処理)し、解砕機(オリエント堅型粉砕機、オリエント粉砕機株式会社製)で解砕した。
前記解砕後、pH6~7、温度25℃のイオン交換水2000mLを入れたプラスチックビーカー(容量5000mL)の中に投入し、攪拌機(プロペラ面積33cm2)を用いて400~550rpmの回転で20分間撹拌した。撹拌後、撹拌を停止して攪拌機を水中から取り出し、10分間静置した。そして、デカンテーションにより上澄み液を除去し、残りについて吸引ろ過器(ろ紙No.131)を使用して沈降物を回収し、回収した沈降物を120℃環境下で12時間乾燥させた。その後、品温が500℃となるように加熱した状態で7時間乾燥させた。
【0139】
そして、乾燥後、カウンタージェットミル(粉砕分級装置、ホソカワミクロン株式会社製)で解砕した(解砕条件:分級機回転数14900rpm)。その後、得られたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末を、静置炉で酸素雰囲気にて730℃として、5時間保持するように熱処理(第2熱処理)を実施した。第2熱処理後の粉体を目開き300μmの篩で分級し、篩下を回収してスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
得られたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)の化学分析を実施したところ、Li:4.0wt%、Ni:14.7wt%、Mn:42.5wt%、Ti:3.5wt%、Al:1.0wt%であった。表1には、一般式[Lix(M1yM2zMn2-x-y-z)O4-δ]で示した際の組成を示しており、M1は本実施例ではNiであり、M2は置換元素種、本実施例ではTi及びAlである。
【0140】
<実施例11>
平均粒径(D50)7μmの炭酸リチウムと、平均粒径(D50)22μmの水酸化ニッケルと、平均粒径(D50)23μmで比表面積が40m2/gの電解二酸化マンガンと、平均粒径(D50)2μmの酸化チタンと、平均粒径(D50)2μmの水酸化アルミニウムをそれぞれ秤量した。
イオン交換水中へ、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩水溶液(サンノプコ(株)製 SNディスパーサント5468)を添加した。この際、分散剤の添加量は、前述のLi原料、Ni原料、Mn原料、Ti原料及びAl原料の合計に対して、6wt%になるようにし、イオン交換水中へ十分に溶解混合させた。秤量しておいた原料のうち、Ni原料とMn原料とAl原料だけを、あらかじめ分散剤を溶解させた前記イオン交換水中へ加えて、混合撹拌し、スラリーを得た。得られたスラリーを湿式粉砕機で1300rpm、120分間粉砕した。続いて、Li原料及びTi原料を添加し、混合撹拌し、固形分濃度40wt%のスラリーを調整した。続いてさらに、湿式粉砕機で1300rpm、120分間粉砕して平均粒径(D50)0.44μm以下の粉砕スラリーを得た。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製「RL-10」)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧にはツインジェットノズルを用い、噴霧圧を0.46MPa、スラリー供給量310ml/min、乾燥塔の出口温度100~110℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行なった。
【0141】
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気雰囲気において、880℃を37時間保持するように焼成した後、解砕機(オリエント堅型粉砕機、オリエント粉砕機株式会社製)で解砕した。
前記解砕後、静置式電気炉を用いて、大気雰囲気において、740℃を37時間保持するように熱処理(第1熱処理)し、解砕機(オリエント堅型粉砕機、オリエント粉砕機株式会社製)で解砕した。
前記解砕後、pH6~7、温度25℃のイオン交換水2000mLを入れたプラスチックビーカー(容量5000mL)の中に投入し、攪拌機(プロペラ面積33cm2)を用いて400~550rpmの回転で20分間撹拌した。撹拌後、撹拌を停止して攪拌機を水中から取り出し、10分間静置した。そして、デカンテーションにより上澄み液を除去し、残りについて吸引ろ過器(ろ紙No.131)を使用して沈降物を回収し、回収した沈降物を120℃環境下で12時間乾燥させた。その後、品温が500℃となるように加熱した状態で7時間乾燥させた。
【0142】
そして、乾燥後、カウンタージェットミル(粉砕分級装置、ホソカワミクロン株式会社製)で解砕した(解砕条件:分級機回転数14900rpm)。その後、得られたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末を、静置炉で酸素雰囲気にて720℃として、5時間保持するように熱処理(第2熱処理)を実施した。第2熱処理後の粉体を目開き300μmの篩で分級し、篩下を回収してスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
得られたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)の化学分析を実施したところ、Li:4.1wt%、Ni:14.7wt%、Mn:42.2wt%、Ti:3.1wt%、Al:1.3wt%であった。表1には、一般式[Lix(M1yM2zMn2-x-y-z)O4-δ]で示した際の組成を示しており、M1は本実施例ではNiであり、M2は置換元素種、本実施例ではTi及びAlである。
【0143】
<実施例12>
平均粒径(D50)7μmの炭酸リチウムと、平均粒径(D50)22μmの水酸化ニッケルと、平均粒径(D50)23μmで比表面積が40m2/gの電解二酸化マンガンと、平均粒径(D50)2μmの酸化チタンと、平均粒径(D50)2μmの水酸化アルミニウムをそれぞれ秤量した。
イオン交換水中へ、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩水溶液(サンノプコ(株)製 SNディスパーサント5468)を添加した。この際、分散剤の添加量は、前述のLi原料、Ni原料、Mn原料、Ti原料及びAl原料の合計に対して、6wt%になるようにし、イオン交換水中へ十分に溶解混合させた。秤量しておいた原料のうち、Ni原料とMn原料とAl原料だけを、あらかじめ分散剤を溶解させた前記イオン交換水中へ加えて、混合撹拌し、スラリーを得た。得られたスラリーを湿式粉砕機で1300rpm、120分間粉砕した。続いて、Li原料及びTi原料を添加し、混合撹拌し、固形分濃度40wt%のスラリーを調整した。続いてさらに、湿式粉砕機で1300rpm、120分間粉砕して平均粒径(D50)0.43μm以下の粉砕スラリーを得た。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製「RL-10」)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧にはツインジェットノズルを用い、噴霧圧を0.45MPa、スラリー供給量320ml/min、乾燥塔の出口温度100~110℃となるように温度を調節して造粒乾燥を行なった。
【0144】
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気雰囲気において、870℃を37時間保持するように焼成した後、解砕機(オリエント堅型粉砕機、オリエント粉砕機株式会社製)で解砕した。
前記解砕後、静置式電気炉を用いて、大気雰囲気において、740℃を37時間保持するように熱処理(第1熱処理)し、解砕機(オリエント堅型粉砕機、オリエント粉砕機株式会社製)で解砕した。
前記解砕後、pH6~7、温度25℃のイオン交換水2000mLを入れたプラスチックビーカー(容量5000mL)の中に投入し、攪拌機(プロペラ面積33cm2)を用いて400~550rpmの回転で20分間撹拌した。撹拌後、撹拌を停止して攪拌機を水中から取り出し、10分間静置した。そして、デカンテーションにより上澄み液を除去し、残りについて吸引ろ過器(ろ紙No.131)を使用して沈降物を回収し、回収した沈降物を120℃環境下で12時間乾燥させた。その後、品温が500℃となるように加熱した状態で7時間乾燥させた。
【0145】
そして、乾燥後、カウンタージェットミル(粉砕分級装置、ホソカワミクロン株式会社製)で解砕した(解砕条件:分級機回転数14900rpm)。その後、得られたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末を、静置炉で酸素雰囲気にて730℃として、5時間保持するように熱処理(第2熱処理)を実施した。第2熱処理後の粉体を目開き300μmの篩で分級し、篩下を回収してスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
得られたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)の化学分析を実施したところ、Li:4.1wt%、Ni:14.7wt%、Mn:42.1wt%、Ti:2.8wt%、Al:1.4wt%であった。表1には、一般式[Lix(M1yM2zMn2-x-y-z)O4-δ]で示した際の組成を示しており、M1は本実施例ではNiであり、M2は置換元素種、本実施例ではTi及びAlである。
【0146】
<比較例1>
実施例1において、熱処理(第1熱処理)して解砕した後、さらにピンミル(イクシードミル、槇野産業株式会社製)を用いて粉砕し、得られた粉体を、pH6~7、温度25℃のイオン交換水2000mLを入れたプラスチックビーカー(容量5000mL)の中に投入し、攪拌機(プロペラ面積33cm2)を用いて400~550rpmの回転で20分間撹拌した。撹拌後、撹拌を停止して攪拌機を水中から取り出し、10分間静置した。そして、デカンテーションにより上澄み液を除去し、残りについて吸引ろ過器(ろ紙No.131)を使用して沈降物を回収し、回収した沈降物を120℃環境下で12時間乾燥させた。その後、品温が500℃となるように加熱した状態で7時間乾燥させた。乾燥後、目開き53μmの篩で分級し、スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0147】
<比較例2>
実施例1において、B原料を用いず、焼成温度を740℃に変更して焼成した後、解砕機(オリエント堅型粉砕機、オリエント粉砕機株式会社製)で解砕し、目開き53μmの篩で分級し、スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0148】
<各種物性値の測定方法>
実施例及び比較例で得られたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)の各種物性値を次のように測定した。
【0149】
(化学分析)
実施例及び比較例で得られたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)について、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により、各元素の含有量を測定した。硫黄量についても同様に測定した。
【0150】
(モード径、D50、D10、Dmin)
実施例及び比較例で得られたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)について、レーザー回折粒子径分布測定装置用自動試料供給機(日機装株式会社製「Microtorac SDC」)を用い、サンプル(粉体)を水溶性溶媒に投入し、40%の流速中、40Wの超音波を360秒間複数回照射した後、日機装株式会社製レーザー回折粒度分布測定機「MT3000II」を用いて粒度分布を測定し、得られた体積基準粒度分布のチャートからモード径、D50、D10及びDminを測定した。
超音波の照射回数は、超音波照射前後におけるD50の変化率が8%以下となるまでの回数とした。
なお、測定の際の水溶性溶媒は60μmのフィルターを通し、溶媒屈折率を1.33、粒子透過性条件を透過、粒子屈折率2.46、形状を非球形とし、測定レンジを0.133~704.0μm、測定時間を30秒とし、2回測定した平均値をそれぞれの値とした。
【0151】
(一次粒子径)
実施例及び比較例で得られたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)の一次粒子径を、次のように測定した。
SEM(走査電子顕微鏡)を用いて、サンプル(粉体)を1000倍で観察し、D50に相当する大きさの粒子を選択した。次に、D50に応じて、2000~10000倍に倍率を変更して撮影した。撮影倍率を例示すると、D50が7μm程度の場合は10000倍、15μm程度の場合は5000倍、22μm程度の場合は2000倍にすると後述する画像解析ソフトでの一次粒子径を求めるのに適した画像を撮影できる。
【0152】
撮影した画像を画像解析ソフト(株式会社マウンテック社製MAC-VIEWver.4)を用いて、選択した粒子の一次粒子径を求めた。なお、この一次粒子径は、体積分布での累積50%粒径(Heywood径:円相当径)のことである。
また、一次粒子径を算出するためには、一次粒子を30個以上測定するのが好ましい。測定個数が足りない場合は、D50に相当する大きさの粒子を追加選択して撮影し、合計して一次粒子が30個以上になるように測定を行った。
【0153】
(結晶構造の同定および格子定数)
XRD測定は、装置名「UltimaIV、(株)リガク製」を用い、下記測定条件1で測定を行って、XRDパターンを得た。統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL((株)リガク製)を用いて、得られたXRDパターンについて結晶相情報を決定し、WPPF(Whole powder pattern fitting)法で精密化を行い、格子定数を求めた。
【0154】
ここで、結晶相情報としては、空間群Fd-3m(Origin Choice2)の立方晶に帰属され、8aサイトにLi、16dサイトにMn、M1元素、M2元素、そして過剰なLi分a、32eサイトにOが占有されていると仮定し、各サイトの席占有率及び原子変位パラメータBを1とし、観測強度と計算強度の一致の程度を表わすRwp、Sが収束するまで繰り返し計算を行った。
観測強度と計算強度が十分に一致しているということは、得られたサンプルが空間群に限定されず、スピネル型の結晶構造である信頼性が高いことを意味している。
【0155】
=XRD測定条件1=
線源:CuKα(線焦点)、波長:1.541836Å
操作軸:2θ/θ、測定方法:連続、計数単位:cps
開始角度:15.0°、終了角度:120.0°、積算回数:1回
サンプリング幅:0.01°、スキャンスピード:1.0°/min
電圧:40kV、電流:40mA
発散スリット:0.2mm、発散縦制限スリット:2mm
散乱スリット:2°、受光スリット:0.15mm
オフセット角度:0°
ゴニオメーター半径:285mm、光学系:集中法
アタッチメント:ASC-48
スリット:D/teX Ultra用スリット
検出器:D/teX Ultra
インシデントモノクロ:CBO
Ni-Kβフィルター:無
回転速度:50rpm
【0156】
(2θが14.0~16.5°のピーク有無確認)
XRD測定は、装置名「UltimaIV、(株)リガク製」を用い、下記測定条件2で測定を行って、XRDパターンを得た。
【0157】
=XRD測定条件2=
線源:CuKα(線焦点)、波長:1.541836Å
操作軸:2θ/θ、測定方法:連続、計数単位:cps
開始角度:14.0°、終了角度:16.5°、積算回数:15回
サンプリング幅:0.01°、スキャンスピード:0.1°/min
電圧:40kV、電流:40mA
発散スリット:0.2mm、発散縦制限スリット:2mm
散乱スリット:2°、受光スリット:0.15mm
オフセット角度:0°
ゴニオメーター半径:285mm、光学系:集中法
アタッチメント:ASC-48
スリット:D/teX Ultra用スリット
検出器:D/teX Ultra
インシデントモノクロ:CBO
Ni-Kβフィルター:無
回転速度:50rpm
【0158】
ピークの有無は次のとおり判定を行った。
先ず、得られたXRDパターンにおいて、2θが14.0~14.5°および16.0°~16.5°のcpsの平均値をバックグラウンド(BG)の強度Aとした。
次に、14.5~16.0°のcpsの最大値をピーク強度Bとしたときに、ピーク強度Bとバックグラウンド(BG)の強度Aとの差が25cps以上であれば、ピークが存在していると判定した。
そして、14.0~16.5°の間にピークが存在していた場合は、表中に「有」と示し、存在しなかった場合「無」と示した。
【0159】
また、XRD測定条件の1で得られたパターンの2θが18~19°の間に存在するピークのうち最も高いピークのピーク強度に対する、XRD測定条件の2で得られたパターンの2θが14.0~16.5°の間に存在するピークのうち最も高いピークのピーク強度の比率を「P14.0-16.5°/P18-19°」として示した。
【0160】
(結晶子サイズ及び歪み)
結晶子サイズを求めるためのX線回折パターンの測定は、Cu‐Kα線を用いたX線回折装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製D8 ADVANCE)を使用し、下記測定条件3で測定を行った。
回折角2θ=10~120°の範囲より得られたX線回折パターンのピークについて解析用ソフトウエア(製品名「Topas Version3」)を用いて解析することにより、結晶子サイズ及び歪みを求めた。
【0161】
なお、結晶構造は空間群Fd-3m(Origin Choice2)の立方晶に帰属され、その8aサイトにLiが存在し、16dサイトにMn、M1元素、M2元素、過剰なLi分aが存在し、32eサイトをOが占有していると仮定し、パラメータBeq.を1と固定し、32eサイトのOの分率座標と席占有率を変数として、観測強度と計算強度の一致の程度を表す指標Rwp<10.0、GOF<2.2を目安に収束するまで繰り返し計算を行った。なお、結晶子サイズ及び歪みはガウス関数を用いて解析を行い、結晶子サイズ及び歪みを求めた。
【0162】
=XRD測定条件3=
線源:CuKα、操作軸:2θ/θ、測定方法:連続、計数単位:cps
開始角度:10°、終了角度:120°
Detector:PSD
Detector Type:VANTEC-1
High Voltage:5585V
Discr. Lower Level:0.25V
Discr. Window Width:0.15V
Grid Lower Level:0.075V
Grid Window Width:0.524V
Flood Field Correction:Disabled
Primary radius:250mm
Secondary radius:250mm
Receiving slit width:0.1436626mm
Divergence slit:0.5°
Filament Length:12mm
Sample Length:25mm
Recieving Slit Length:12mm
Primary Sollers:2.623°
Secondary Sollers:2.623°
Lorentzian,1/Cos:0.004933548Th
電圧:40kV、電流:35mA
【0163】
(比表面積)
実施例及び比較例で得られたスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)の比表面積(SSA)を、次のように測定した。
先ず、サンプル(粉体)2.0gを全自動比表面積測定装置Macsorb(株式会社マウンテック製)用のガラスセル(標準セル)に秤量し、オートサンプラーにセットした。窒素ガスでガラスセル内を置換した後、前記窒素ガス雰囲気中で250℃15分間、熱処理した。その後、窒素・ヘリウム混合ガスを流しながら、4分間冷却を行った。冷却後、サンプル(粉体)をBET一点法にて測定した。
なお、冷却時及び測定時の吸着ガスは、窒素30%:ヘリウム70%の混合ガスを用いた。
【0164】
<電池評価>
実施例及び比較例で作製したスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を正極活物質として用いて、2032型コイン電池およびラミネート型電池を作製し、これを用いて以下に示す電池性能評価試験、サイクル特性評価試験およびガス発生評価試験を行った。
【0165】
(コイン電池の作製)
正極活物質として実施例及び比較例で作製したスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を89質量部と、アセチレンブラック5質量部と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)6質量部とを秤量して混合し、これに1-メチル-2-ピロリドン(NMP)100質量部を加えて正極合剤スラリー(固形分濃度50質量%)を調製した。このとき、予めPVDFをNMPに溶解させておき、正極活物質及びアセチレンブラックを加えて固練りして、正極合剤スラリー(固形分濃度50質量%)を調製した。
この正極合剤スラリーを、集電体であるアルミ箔上に、塗工機を用いて搬送速度20cm/minにて塗工した後、該塗工機を使用して70℃を2分間保持するように加熱した後、120℃を2分間保持するように乾燥させて、正極合剤層を形成して正極合剤層付きアルミ箔を得た。次に、この正極合剤層付きアルミ箔を、50mm×100mmのサイズに電極を打ち抜いてからロールプレス機を使用してプレス線圧3t/cmでプレス厚密した後、13mmφに打ち抜いた。次に、真空状態において、室温から200℃まで加熱し、200℃で6時間保持するように加熱乾燥し、正極とした。
負極はφ14mm×厚み0.6mmの金属Liとし、カーボネート系の混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lになるように溶解させた電解液を含浸させたセパレータ(多孔性ポリエチレンフィルム製)を置き、2032型コイン電池を作製した。
【0166】
(電池性能評価試験:高電位領域容量)
上記のようにして準備した2032型コイン電池を用いて次に記述する方法で初期活性を行った。25℃にて0.1Cで4.999Vまで定電流定電位充電した後、0.1Cで3.0Vまで定電流放電した。これを3サイクル繰り返した。なお、実際に設定した電流値は正極中の正極活物質の含有量から算出した。
上記評価にて、4.999―4.5Vまでの放電容量をA、4.999-3.0Vまでの放電容量をBとし、A/Bを求めた。A/Bが大きくなるほど、高電位容量域が拡大していると考えることができる。表1には、各実施例の高電位容量域の値を、実施例1の高電位容量域の値を100とした場合の相対値として示した。
【0167】
(ラミネート型電池の作製)
正極活物質として実施例及び比較例で作製したスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)を89質量部と、アセチレンブラック5質量部と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)6質量部とを秤量して混合し、これに1-メチル-2-ピロリドン(NMP)100質量部を加えて正極合剤スラリー(固形分濃度50質量%)を調製した。このとき、予めPVDFをNMPに溶解させておき、正極活物質及びアセチレンブラックを加えて固練りして、正極合剤スラリー(固形分濃度50質量%)を調製した。
この正極合剤スラリーを、集電体であるアルミ箔上に、塗工機を用いて搬送速度20cm/minにて塗工した後、該塗工機を使用して70℃を2分間保持するように加熱した後、120℃を2分間保持するように乾燥させて、正極合剤層を形成して正極合剤層付きアルミ箔を得た。次に、この正極合剤層付きアルミ箔を、50mm×100mmのサイズに電極を打ち抜いてからロールプレス機を使用してプレス線圧3t/cmでプレス厚密した後、40mm×29mm角に打ち抜いた。次に、真空状態において、室温から200℃まで加熱し、200℃で6時間保持するように加熱乾燥し、正極とした。
【0168】
上記で得られた正極シートと天然球状グラファイトを塗布した負極電極シート(パイオトレック株式会社 電極容量1.6mAh/cm2)をを3.1cm×4.2cmの大きさに切り出して負極とし、正極と負極の間に、カーボネート系の混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lになるように溶解させた電解液を含浸させたセパレータ(多孔性ポリエチレンフィルム)を置き、ラミネート型電池を作製した。
【0169】
(45℃サイクル特性評価:容量維持率)
上記のようにして準備したラミネート型電池を用いて次に記述する方法で初期活性を行った。作製後12時間放置した後、25℃にて0.1Cで4.9Vまで定電流定電位充電した後、0.1Cで2.9Vまで定電流放電した。これを充電と放電を3サイクル繰り返した。なお、実際に設定した電流値は正極中の正極活物質の含有量から算出した。
【0170】
上記のようにして初期活性を行った後のラミネート型電池を用いて下記に記述する方法で充放電試験し、高温サイクル寿命特性を評価した。電池を充放電する環境温度を45℃となるようにセットした環境試験機内にセルを入れ、充放電できるように準備し、セル温度が環境温度になるように4時間静置後、充放電範囲を4.9V~2.9Vとし、充電は0.1C定電流定電位、放電は0.1C定電流で1サイクル充放電行った後に、1Cにて充放電サイクルを199回行った。Cレートは初期活性時の25℃、3サイクル目の放電容量を元に計算した。
199サイクル目の放電容量を2サイクル目の放電容量で割り算して求めた数値の百分率(%)を高温サイクル寿命特性値として求めた。
表1には、各実施例及び比較例の高温サイクル寿命特性値(「容量維持率」)を、比較例1の高温サイクル寿命特性値を100とした場合の相対値として示した。
【0171】
(出力特性評価試験)
上記した方法で作製したラミネート型電池を12時間放置した後、25℃にて0.05Cで4.9Vまで定電流定電位充電した後、2.9Vまで定電流放電した。その後、放電容量を100%とした場合の、60%に相当する容量を充電し、10分間開回路にした。(以下SOC60%と称する)SOC60%に充電したラミネート型電池を電気化学測定装置(北斗電工株式会社製、HZ-7000:HAG1232m)を用いて、初回放電容量より算出した3C相当の電流値で10秒間放電し、75秒間開回路とした。
【0172】
出力評価の指標として、W=1/(W1-W2)×100の値を用いた。各数値は下記の通りある。
W1=V1×I、W2=V2×I
3C相当の電流値をI、測定開始直前の自然電位をV1、3C電流を10秒間印加した時の電位をV2とそれぞれしており、W1は測定開始直前の出力値、W2は測定後の出力値として表わすことができる。そのため、(W1-W2)は出力の低下分を示し、その逆数が大きくなることは出力の低下分が少ない。つまりは、出力特性の向上を示す。
なお、表1には、比較例1を100としての相対値を示した。
【0173】
(ガス発生評価試験)
上記した方法で作製したラミネート型電池を12時間放置した後、25℃にて0.05Cで4.9Vまで定電流定電位充電した後、2.9Vまで定電流放電した。その後、測定環境温度を45℃にして4時間放置し、0.05Cにて4.9Vになるまで充電を行い、その電圧を7日間維持した後、2.9Vまで放電を行った。ここまでに発生するガス発生量(mL)は、浸漬容積法(アルキメデスの原理に基づく溶媒置換法)により計測した。得られたガス発生量と正極シート中の正極活物質量から、正極活物質量当たりのガス発生量(mL/g)を算出した。なお、表には比較例1の数値を100として指数で記載を行った。
【0174】
(レート特性評価試験)
上記した方法で作製した2032型コイン電池を用いて次に記述する方法でレート特性評価を行った。
初期活性後の電池を、0.1C相当の電流値で充電し、次いで0.2Cで放電した。この操作の放電レートをそれぞれ0.33、0.5、1、3、5C相当に変更し、電流充放電した。5C相当の電流値における放電容量を0.1C時の放電容量で除した値をレート特性の指標とした。この値が大きいほど、レート特性が優れる。なお、表には比較例1の数値を100として指数で記載を行った。
【0175】
下記表1中の置換元素種とは、Li、Mn、Ni及びO以外のスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物の構成元素の意味である。
【0176】
【0177】
(考察)
実施例1~12のいずれにおいても、XRD測定結果から、空間群Fd-3m(Origin Choice2)の立方晶の結晶構造モデルとフィッティングし、観測強度と計算強度の一致の程度を表わすRwp、SがRwp<10、またはS<2.5である5V級スピネルである解析結果が得られた。また、電池性能評価試験の結果において、金属Li基準電位で4.5V以上の作動電位を有するものであることが確認された。
また、結晶子サイズ/一次粒子径が1未満であることから、実施例1~12及び比較例1~2のスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物粉末(サンプル)はいずれも、一次粒子が多結晶体であることが確認された。
【0178】
上記実施例の結果とこれまで行ってきた試験結果から、5V級スピネルの一次粒子を多結晶体とすると共に、体積粒度分布測定におけるD50が0.5~9μmであり、モード径、D50及びD10の関係を特定し、且つ、一次粒子径とD50と関係を特定することにより、一次粒子の分散性を高め、さらには、粒度分布を正規分布に近く尚かつシャープに近づけることができ、その結果、ガス発生を抑制しつつ、同時に出力特性及び寿命特性を向上させることができ、第1課題の解決ができることが分かった。
かかる観点から、少なくとも、Li、Mn及びOと、これら以外の2種以上の元素とを少なくとも含む、金属Li基準電位で4.5V以上の作動電位を有するスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物に関しては、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布測定によるD50が0.5~9μmであって、モード径、D50及びD10より算出される(|モード径-D50|/モード径)×100の値が0~25%であり、(|モード径-D10|/モード径)×100の値が20~58%であるのが好ましいことがわかった。
また、SEM画像より算出した一次粒子径と前記D50から算出される一次粒子径/D50は0.20~0.99であるのが好ましいことがわかった。
【0179】
また、上記実施例の結果とこれまで行ってきた試験結果から、Li、Mn及びOとこれら以外の2種以上の元素とを含む5V級スピネルに関しては、少なくともチタン、またはアルミニウム、またはジルコニウムまたはこれらのうちの2種以上を含有する層(「A層」と称する)が存在すると(実施例3, 4, 6)、存在しない場合に比べて、レート特性がより一層優れることが分かった。これより、第2課題が解決できることが分かった。
【0180】
また、上記実施例の結果とこれまで行ってきた試験結果から、Li、Mn及びOとこれら以外の2種以上の元素とを含む5V級スピネルに関しては、X線回折パターンにおいて、2θが14.0~16.5°の間にピークが存在すると(実施例5,6)、存在しない場合と比較して、4V付近のショルダーが無くなり、4.5V付近のプラトー領域が拡大し、高電位容量域が拡張してエネルギー密度が高くなることが分かった。これより、第3課題を解決できることが分かった。