(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】気分、感情又は生理的状態に影響を与える揮発性有機化合物を使用する方法
(51)【国際特許分類】
A61M 21/02 20060101AFI20220222BHJP
A61B 5/16 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
A61M21/02 Z
A61B5/16 120
(21)【出願番号】P 2018523746
(86)(22)【出願日】2016-12-16
(86)【国際出願番号】 IB2016002004
(87)【国際公開番号】W WO2017103684
(87)【国際公開日】2017-06-22
【審査請求日】2019-12-16
(32)【優先日】2016-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518155409
【氏名又は名称】パフォーマンス ラブズ ピーティーイー,エルティーディー.
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】グブラー,ダニエル
【審査官】小野田 達志
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-106719(JP,A)
【文献】登録実用新案第3040891(JP,U)
【文献】実開昭56-176837(JP,U)
【文献】登録実用新案第3192474(JP,U)
【文献】特表昭62-501710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 21/02
A61B 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気分又は感情を調節するための方法であって、
1種以上の有機化合物を捕捉又は吸収可能な基質上で、特定の気分又は感情的状態にある被検体から1種以上の有機化合物を
捕捉する工程、
前記基質から、前記1種以上の有機化合物を芳香剤、油、クリーム、ローション又はシャンプーに放出させる工程、及び
前記1種以上の有機化合物を
前記被検体に曝露させることで、気分又は感情を調節する工程を含み、
前記基質は、活性炭素片、炭素含浸繊維又は固相マイクロ抽出繊維であり、さらに、前記1種以上の有機化合物は、少なくとも1時間皮膚に近接させた場所に前記基質を装着することによって、捕捉されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記1種以上の有機化合物を
捕捉する工程は更に、前記被検体から体温又はほぼ体温と同じ温度で放出される前記1種以上の有機化合物の捕捉として定義されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1種以上の有機化合物を
捕捉する工程は、前記被検体において特定の気分又は感情的状態であるときに行うものであり、前記気分又は感情的状態は、排卵、授乳、就労、スポーツ活動、性行為、結婚、洗礼、パーティー、出張、休暇、ロッククライミング、スカイダイビング、ジェットコースター、バンジージャンプ、又はクリフジャンプの少なくとも1つから選択される時間中に生じることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記1種以上の有機化合物は揮発性有機化合物であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記1種以上の有機化合物は少なくとも1種以上の性フェロモン、警報フェロモン、調節フェロモン、道しるべフェロモン又は識別臭から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記被検体はヒトであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記基質は再利用可能であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記基質は第1時点では、前記1種以上の有機化合物を捕捉するために十分な時間、前記基質から放出されると前記被検体に近い周囲において知覚できる十分な量で、皮膚上、又は皮膚付近に配置することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記方法で使用するための装置は更に、基質用の保管領域を含む筐体、電源、加熱もしくは冷却要素制御装置、噴霧器、アトマイザ、香水もしくはコロン、1種以上の芳香剤、油もしくは溶剤、推進器、気化器、又はファンを備えるものとして定義されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
2体以上の被検体由来の1種以上の有機化合物を同時に捕捉することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全体として、気分、感情又は生理的状態に効果のある組成物の分野に関し、より詳細には、気分、感情もしくは生理的状態を変え、又は影響を与える揮発性有機化合物を使用するための新規な装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の範囲を限定することなく、その背景を揮発性有機化合物に関して説明する。
【0003】
関連技術では、特定の化合物がヒトの行動に微妙な変化を引き起こすことは公知であることが分かっている。例えば、Miller及びManerは、非特許文献1の記事において、「排卵の合図は化学感覚的シグナル伝達を介して検出可能であり、更にこれらの合図は機能的に関連する男性の内分泌学的応答と関係している」特定の状態(排卵、非排卵及び制御)下でTシャツを使用することを教示している。
【0004】
Pretiらは、非特許文献2の記事において、ヒト腋下分泌物は、女性受容者に施用されたときに月経周期の期間及び時期を変えることを示している。
【0005】
Geltseinらは、非特許文献3の記事において、涙液又は生理食塩水の匂いを嗅いで刺激した男性の機能的磁気共鳴画像を用いた脳スキャンを見て分かるように、涙液には化学シグナルが含まれ、女性の涙液の匂いを嗅いだ男性は性的興奮が減少したことを示している。しかし、これらの著者らは同文献の230ページで、「涙液中の活性化合物(単数又は複数)の正体は何か?女性の涙中の化学シグナルが性的に無関係とは言えない何かを伝えるのだろうか?そしてこのシグナル伝達は感情的な涙液のみに限定しているのだろうか? 更に、涕泣者/実験者の感情又はホルモン状態(月経期/経口避妊薬)は結果に影響を及ぼし得るか?次に、男性の涙液・・・又は児童の涙液中にシグナルがあるのならばそのシグナルは何なのか?性別の枠内と言うよりもむしろ性別を超えたこれら全ての効果は何なのか?」という疑問を明確に残している。
【0006】
Kwakらは、非特許文献4の記事の要約において、「マウスは、主要組織適合複合体(MHC)であると確認された遺伝的差異のみに基づいて個々の化学シグナル間で区別できる」と教示している。しかし、これらの著者らは同文献の2425ページにおいて、「MHC関連臭気物質に焦点を合わせるために使用するアプローチがどのようなものであるかに関わらず、マウスらの構造的同定は依然として尿マトリクスからの単離が必要であり、これは上述しているように様々なエラーを招く」と結論づけている。
【0007】
Albrechtらは、非特許文献5の記事において、汗の寄与の研究中、「不安状態にあるヒトは、非不安状態の場合と比べて、自身の体臭により他人の不安レベルを上昇させ得る」ことを見出した。しかし、要約においてこれらの著者らは同文献の25~26ページにおいて、見出した効果の原因がどのような分泌物であるかは不明であり、脳機能への知見を深めるためには更なる研究が必要であることを述べている。
【0008】
腋臭を調べる更に別の研究では、Chen及びHaviland‐Jonesは非特許文献6において、様々な段階(思春期前、大学生、及び高齢者)の女性及び男性から腋臭を収集し、抑うつ気分における変化を判定した。同文献248ページにおいて、臭気は他人の気分を調節でき、高齢の女性や成人の臭気を嗅ぐと抑うつ気分の顕著な減少が観察されることが見出された。
【0009】
フェロモンに関する文献を参照している非特許文献7の記事において、Vaglioは、同文献の279ページで、「用語フェロモンがPeter Karlson及びMartin Lusherにより創出されてから50年後、これらのセミケミカルの調査は依然として化学生態学及びコミュニケーション研究にとって到達困難な目標である」と述べている。
【0010】
非特許文献8の記事において、Stern及びMcClintockは同文献178ページで、自身らの発見から「これらのデータは、ヒトがフェロモンでコミュニケーションをとる可能性があることを実証している」ことが示唆されたと述べている。
【0011】
Shirasu及びTouharaは、非特許文献9の記事において、疾患状態と呼吸から得られる蒸気、汗、皮膚及び体臭、ならびに疾患状態と感染症の両方を関連付けるように文献を参照している。同様に、Peledらは、非特許文献10の記事において、肺癌細胞の細胞膜から放出される揮発性有機化合物中のパターンを調査している。Kwakらは、非特許文献11の記事において、ヒト黒色腫細胞由来の揮発性バイオマーカを調査している。Hanaiらは、非特許文献12において、マウス尿中の揮発性有機化合物を調査している。最後に、Dummerらは、非特許文献13において、基礎となる疾患状態のための生物起源の揮発性有機化合物及びバイオマーカに関する文献を概説している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】Miller及びManer、「Scent of a Woman: Men’s Testosterone Responses to Olfactory Ovulation Cues」、Psychological Science 21(2)276~283
【文献】Pretiら、「Male Axillary Extracts Contain Pheromones that Affect Pulsatile Secretion of Luteinizing Hormone and Mood in Women Recipients」、Biology of Reproduction,Vol.68,No.6,2107~2113(2003年6月1日)
【文献】Geltseinら、「Human Tears Contain a Chemosignal」、Science,Vol.331,226~230(2011年1月14日)
【文献】Kwakら、「In search of the chemical basis for MHC odourtypes」、Proc.R.Soc.B 2010 277,2417~2425(2010年3月31日)
【文献】Albrechtら、「Smelling Chemosensory Signals of Males in Anxious Versus Nonanxious Condition Increases State Anxiety of Female Subjects」、Chem.Senses 36:19~27,2011年
【文献】Chen及びHaviland‐Jones、「Rapid Mood Change and Human Odors」、Physiology & Behavior 68(1999年)241~250
【文献】Vaglio、「Chemical communication and mother‐infant recognition」、Communicative & Integrative Biology 2:3、279~281;2009年5月/6月
【文献】Stern及びMcClintock、「Regulation of ovulation by human pheromones」、Nature,Vol.392,177~179,1998年3月12日
【文献】Shirasu及びTouhara、「The scent of disease: volatile organic compounds of the human body related to disease and disorder」、J.Biochem.2011年;150(3):257~266,2011年7月19日
【文献】Peledら、「Volatile fingerprints of cancer specific genetic mutations」、Nanomedicine: Nanotechnology,Biology,and Medicine 9(2013年)758~766
【文献】Kwakら、「Volatile biomarkers from human melanoma cells」、Journal of Chromatography B,931(2013年)90~96
【文献】Hanaiら、「Analysis of volatile organic compounds released from human lung cancer cells and from the urine of tumor-bearing mice」、Cancer Cell International 2012年,12:7
【文献】Dummerら、「Analysis of biogenic volatile organic compounds in human health and disease」、Trends in Analytical Chemistry,Vol.30,No.7,2011年11月7日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
これら全ての進歩にもかかわらず、ヒトの状態に利益をもたらすフェロモンに関連する多様な観察を利用する簡単かつ迅速な方法が依然として必要である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
1実施形態では、本発明は、気分、感情又は生理的状態を改善するための装置を包含し、当該装置には、第1時点で第1の生理的又は感情的状態にある被検体から1種以上の有機化合物を捕捉又は吸収可能な基質;及び、第1時点での1種以上の有機化合物の捕捉、及び第2時点での基質からの1種以上の有機化合物の放出を制御することが可能な要素、が備えられ、有効量の当該有機化合物に曝露されると、被検体の気分、感情、又は生理的状態が変化する。1態様では、上記要素は、第1時点での1種以上の有機化合物の捕捉、又は第2時点での基質からの1種以上の有機化合物の放出を制御することが可能な溶媒、又は加熱もしくは冷却要素である。1態様では、第1の生理的又は感情的状態にある被検体由来の1種以上の有機化合物は被検体から、体温又はほぼ体温と同じ温度で放出される。別の態様では、生理的又は感情的状態は排卵、授乳、就労、スポーツ活動、性行為、結婚、洗礼、パーティー、出張、休暇、ロッククライミング、スカイダイビング、ジェットコースター、バンジージャンプ、又はクリフジャンプの少なくとも1つから選択される。別の態様では、上記1種以上の有機化合物は揮発性有機化合物である。別の態様では、上記1種以上の有機化合物は、少なくとも1種以上の性フェロモン、警報フェロモン、調節フェロモン、道しるべフェロモン又は識別臭から選択される。別の態様では、被検体はヒトである。別の態様では、基質は再利用可能である。別の態様では、当該基質は第1時点では、1種以上の有機化合物を捕捉するために十分な時間、基質から放出されると被検体に近い周囲において知覚できる十分な量で、皮膚上、又は皮膚付近に配置する。別の態様では、基質は炭素片、天然繊維、合成繊維、セルロース、ポリマー、炭素含浸繊維、メッシュ、フィルタ、固相マイクロ抽出繊維、乾燥した葉もしくは地衣、又は綿ガーゼから選択される。別の態様では、装置には更に、基質用の保管領域を含む筐体、電源、加熱もしくは冷却要素制御装置、噴霧器、アトマイザ、香水もしくはコロン、1種以上の芳香剤、油もしくは溶剤、推進器、気化器、又はファンが備えられる。別の態様では、当該1種以上の有機化合物は芳香剤、油、クリーム、ローション、シャンプーもしくは溶剤により、又はこれらと共に基質から放出される。別の態様では、様々な気分、感情又は生理的状態から得られる有機化合物を含む2種以上の基質を放出前に組み合せる。別の態様では、同一の気分、感情又は生理的状態から得られる有機化合物を含む2種以上の基質を放出前に組み合わせる。
【0015】
本発明の別の実施形態は、気分、感情又は生理的状態を改善するための方法を包含し、当該方法には、第1時点で、1種以上の有機化合物を捕捉又は吸収可能な基質上で、第1の生理的又は感情的状態にある被検体から1種以上の有機化合物を捕捉する工程;及び、第2時点で、気分、感情又は生理的状態に関連する1種以上の有機化合物を嗅ぐことにより、気分、感情又は生理的状態の改善が必要な被検体の位置で、又は被検体の付近で基質から1種以上の有機化合物を放出させる工程が含まれる。1態様では、捕捉工程は更に、被検体から体温又はほぼ体温と同じ温度で放出される1種以上の有機化合物の捕捉として定義される。別の態様では、捕捉工程は、被検体において特定の生理的又は感情的状態であるときに行うものであり、当該生理的又は感情的状態は、排卵、授乳、就労、スポーツ活動、性行為、結婚、洗礼、パーティー、出張、休暇、ロッククライミング、スカイダイビング、ジェットコースター、バンジージャンプ、又はクリフジャンプの少なくとも1つから選択される。別の態様では、当該1種以上の有機化合物は揮発性有機化合物である。別の態様では、当該1種以上の有機化合物は少なくとも1種以上の性フェロモン、警報フェロモン、調節フェロモン、道しるべフェロモン又は識別臭から選択される。別の態様では、被検体はヒトである。別の態様では、基質は再利用可能である。別の態様では、当該基質は第1時点では、1種以上の有機化合物を捕捉するために十分な時間、基質から放出されると被検体に近い周囲において知覚できる十分な量で、皮膚上、又は皮膚付近に配置する。別の態様では、基質は、炭素片、天然繊維、合成繊維、セルロース、ポリマー、炭素含浸繊維、メッシュ、フィルタ、固相マイクロ抽出繊維、乾燥した葉もしくは地衣、又は綿ガーゼから選択される。別の態様では、当該方法で使用するための装置は更に、基質用の保管領域を含む筐体、電源、加熱もしくは冷却要素制御装置、噴霧器、アトマイザ、香水もしくはコロン、1種以上の芳香剤、油もしくは溶剤、推進器、気化器、又はファンを備えるものとして定義される。別の態様では、当該1種以上の有機化合物は、芳香剤、油、クリーム、ローション、シャンプー又は溶剤により、又はこれらと共に放出される。別の態様では、2体以上の被検体由来の1種以上の有機化合物を同時に捕捉する。
【0016】
本発明の更に別の実施形態は、気分、感情又は生理的状態を改善する1種以上の有機化合物の性能を判定する方法を包含し、当該方法には:a)第1時点で、正常な生理的状態にある被検体から得た有機化合物の一部又は全体のレベルを測定する工程;b)第2時点で、異なる生理的状態にある被検体から、基質上で有機化合物の一部又は全体を捕捉する工程;c)第1時点で正常な生理的状態にある被検体から得た有機化合物の一部又は全体に対して、被検体の第1亜集団を曝露し、また第2時点で異なる生理的状態にある被検体から得た基質上の有機化合物の一部又は全体に対して、被検体の第2亜集団を曝露させる工程;及びd)第2時点で異なる生理的状態にある被検体から得た基質上の有機化合物の一部又は全体が、第1時点で正常な生理的状態にある被検体から得た有機化合物の一部又は全体に曝露させた被検体のものと比較して統計的に有意な気分、感情又は生理的状態に変化を示すか否かを判定する工程が含まれる。1態様では、第2時点で異なる生理的状態にある被検体から基質上で有機化合物の一部又は全体を捕捉する工程は、特定の生理的又は感情的状態にあるときに行い、この工程では、生理的又は感情的状態は排卵、授乳、就労、スポーツ活動、性行為、結婚、洗礼、パーティー、出張、休暇、ロッククライミング、スカイダイビング、ジェットコースター、バンジージャンプ、又はクリフジャンプの少なくとも1つから選択される。別の態様では、上記1種以上の有機化合物は揮発性有機化合物である。別の態様では、上記1種以上の有機化合物は、少なくとも1種以上の性フェロモン、警報フェロモン、調節フェロモン、道しるべフェロモン又は識別臭から選択される。別の態様では、被検体はヒトである。別の態様では、当該基質は第1時点で、1種以上の有機化合物を捕捉するために十分な時間、基質から放出されると被検体に近い周囲において知覚できる十分な量で、皮膚上、又は皮膚付近に配置される。別の態様では、基質は、炭素片、天然繊維、合成繊維、セルロース、ポリマー、炭素含浸繊維、メッシュ、フィルタ、固相マイクロ抽出繊維、乾燥した葉もしくは地衣、又は綿ガーゼから選択される。別の態様では、当該方法で使用するための装置は更に、基質用の保管領域を含む筐体、電源、加熱もしくは冷却要素制御装置、噴霧器、アトマイザ、香水もしくはコロン、1種以上の芳香剤、油もしくは溶剤、推進器、気化器、又はファンを備えるものとして定義される。別の態様では、当該1種以上の有機化合物は、芳香剤、油、クリーム又は溶剤により、又はこれらと共に放出される。別の態様では、2体以上の被検体由来の1種以上の有機化合物を同時に捕捉する。
【0017】
本発明の更に別の実施形態は、第1時点で第1の生理的又は感情的状態にある被検体由来であり、体温又はほぼ体温と同じ温度である1種以上の有機化合物を捕捉又は吸収するように適合した基質を包含し、当該基質は炭素片、天然繊維、合成繊維、セルロース、ポリマー、炭素含浸繊維、メッシュ、フィルタ、固相マイクロ抽出繊維、乾燥した葉もしくは地衣、又は綿ガーゼから選択され、当該1種以上の有機化合物は少なくとも1種以上の性フェロモン、警報フェロモン、調節フェロモン、道しるべフェロモン又は識別臭から選択される。1態様では、基質は再利用可能である。別の態様では、1種以上の有機化合物は芳香剤、油、クリーム又は溶剤により基質から放出される。
【0018】
本発明の特徴及び利点をより完全に理解するために、ここで添付図面と共に本発明の詳細な説明を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】排卵期の女性が着用しているシャツから発散した揮発性有機化合物(VOC)のガスクロマトグラフィー‐質量分析(GC‐MS)スペクトルを示し、排卵期の女性のシャツから多量のVOCが発散していることを示している。
【
図2】参加者において恐怖を誘導する前の中立状態(下段スペクトル)、及び恐怖を誘導した後の状態(上段スペクトル)の被験体が着用したシャツから発散しているVOCのGC‐MSスペクトルを示す。恐怖状態(上段スペクトル)対中立状態(下段スペクトル)のスペクトル上における、24~28分範囲でのVOCの存在に注目されたい。
【
図3】互いに重ねた2つの異なるGC‐MSトレースであり、刺激のない状態(赤色)及び悲嘆状態(黒色)にあるヒト涙液の化学組成の違いを実証している。最大の変化はスペクトルの18~24分範囲に見られる。
【
図4】身体からVOCを吸収するためにも使用できる固相マイクロ抽出(SPME)繊維のための装置を示す。
【
図5】
図5は、注射針から出てくる白いSPME繊維の拡大図を示す。
【
図6】身体由来のVOCが活性炭素片に吸収されると、VOCを小型アトマイザ(活性炭素片を既に収容している下記のものなど)に入れ、少量の好みの香水/コロンを添加することを示す。
【
図7】活性炭素片及びアトマイザが一緒に収容された、外袖を備えるアトマイザを示す。
【
図8】この商業的用途において使用され得る様々なアトマイザを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の多様な実施形態の作成及び使用を以下に詳細に述べるが、本発明は多種多様な特定の状況において具体化され得る多くの適用可能な発明概念を提供するものであることは理解される必要がある。本明細書において述べる特定の実施形態は、本発明を作成及び使用する特定の方法を単に説明するものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0021】
本発明を容易に理解するために、いくつかの用語を以下に定義する。本明細書で定義した用語は、本発明に関連する当業者に一般的に理解されている意味合いを有する。「a」、「an」及び「the」などの用語は、単一の実体のみを指すことを意図するものではなく、一般的なクラスを包含しており、この特定の例は説明のために使用しても構わない。本明細書での技術は本発明の特定の実施形態を説明するために使用しているが、特許請求の範囲に概説されている以外は、その使用は本発明を限定するものではない。
【0022】
本発明は、異なる生理的又は感情的状態にあるヒトが放出した揮発性有機化合物(VOC)を捕捉し、保管し、使用するための装置及び方法を包含する。VOCは様々な吸収媒体により捕捉し、VOCの周囲にいる者から感情、気分又は生理的応答を誘引又は発動させるために使用することが可能である。医学的診断の急成長分野に関する更なる応用が議論されている。本明細書に開示された当該装置及び方法には、人類の生活の質を著しく向上させる可能性を持つ多くの様々な応用がある。
【0023】
過去50年間にわたり、生命体は表面から発散する揮発性有機化合物(VOC)のカクテルを放出するという研究が報告されてきたが、この情報の使用は非常に限られていた。これらの化合物は高い蒸気圧を有し、200amu未満の分子量を有し、体温(37℃)で生体の表面から蒸発し、空気中に容易に分散する。特定の単一のVOC、及びVOCの集合体にフェロモンという用語が命名されている。
【0024】
本明細書で使用されているように、用語「フェロモン」は、ある生体から分泌又は排出され、拡散により空気を透過するVOC又はVOCカクテルを指し、同種の別の構成員における標的受容体に結合し、通常シグナル形質導入カスケードを経て生化学的/物理的応答を生じさせる。
【0025】
本明細書で使用されているように、用語「基質」は、所定の期間中にヒトが放出した1種以上の揮発性有機化合物を捕捉し、その後に溶剤、加熱又は冷却により当該基質から放出可能である固体、ゲル又は液体を指す。基質の非限定的な例としては、炭素片、天然繊維、合成繊維、セルロース、ポリマー、炭素含浸繊維、メッシュ、フィルタ、固相マイクロ抽出繊維、乾燥した葉もしくは地衣、綿ガーゼ、ローション、油、ゲルが挙げられる。
【0026】
本明細書で使用されているように、用語「要素」は、溶剤、加熱、冷却、液体、ローション、ゲル、又は基質に対する他の物理的変化(例えば、機械的、電気機械的、磁気的、高周波、超音波、赤外線、放射線、イオン化、及び/又は電気的エネルギー)を指し、例えばアトマイザ、噴霧器、気化器、ファン等を用いて、その後の送達用の媒体に、捕捉した揮発性有機化合物の放出を発動する。
【0027】
フェロモンには他のクラスがいくつか存在する ―そのいくつかは定義されており、特定の例が与えられている:性フェロモン ―排卵期の生体(通常は女性)から分泌され、最大受精能期を伝え、同種の雄を引き付けるVOC又はVOCカクテル。単離され、特徴付けられた最初の性フェロモンはボンビコール(1959年)であり、これは雄を引き付けるために雌カイコガにより放出される。雄の蛾はこの化合物を5マイル離れた場所から検出し、その発生源に遡れると推測されている。
【0028】
警報フェロモン ―同種の構成員において闘争又は逃避反応のいずれかを誘発する恐怖/苦痛時に生体が発する化学物質。カリバチの種の大部分は肌を介してVOCカクテルを分泌し、これは巣の構成員に受け取られ、構成員はVOCシグナルを辿り、発生源に到達する。
【0029】
調節フェロモン ―同種の他の構成員における生理的プロセスの時期を変えることが可能なVOC。家畜類のいくつかの種は、雌の群れの間で発情周期の同期化を誘導する化合物を分泌する。
【0030】
道しるべフェロモン ―1生体が分泌し、地面に配置し、同種の他の構成員が辿ることが可能な揮発性化合物。アリの大多数の種は巣に戻る経路に揮発性化合物を配置し、発見した食料を持っていることを提示する。巣の中のアリはこの道を辿った後、この食料に達する。実際、全ての食料を持ち去った後、帰路に別の化合物 ―もう道しるべを辿るなというシグナル― を付着させるアリの種もある。
【0031】
識別臭 ―曝露を反復すると同種の他の構成員が即時に認識できる、ある種の特定の構成員に固有のVOCカクテル。この現象の例をいくつか以下に述べる。
【0032】
実際のヒトフェロモンは科学文献では特定されていないが、1個人における化学臭の識別子が他人の生理的応答を生じさせることの十分な根拠を提供する刊行物は多数ある。例えば、研究者らは近年、排卵期の女性が着用したシャツを嗅ぐと、排卵期ではない女性のシャツと比較して男性被検体のテストステロンレベルが急上昇することを示している。排卵期ではない女性のシャツを嗅ぐと男性のテストステロンレベルは減少することも示されている。
【0033】
「サイエンス」に掲載された論文では、悲嘆している女性の涙液は化学シグナルを含み、fMRI研究で示されているように、男性の性衝動や性欲を低下させることが実証されている。タンパク質の主要組織適合性(MHC)複合体クラスに関するいくつかの論文では、男性が着用したシャツは、異なるMHCプロファイルを有する女性にとって心地良い臭気であるが、男性と類似したMHCプロファイルを有する女性にとっては不快であることが示されている。恐怖の臭気に関する研究がいくつか発表されており、恐怖を誘導された人々が装着した綿パッドと、対照の綿パッド又は幸福感を誘導した状態の個人が装着した綿パッドとを被検体が区別できることを示している。長年のパートナーは自身の恋人の化学識別子を検出及び感知し、 ―ひいては鎮静効果を放出することが可能である。この研究は、男性を椅子に座らせ、目隠しをし、生理用品をフックに掛けて行った。その後、様々な人々を静かに部屋に入れ、目隠しされた被験体のすぐ近くに配置した。被検体の恋人を入れると、鎮静及び弛緩の顕著な生理学的測定値が見られた。
【0034】
被検体の抑うつ気分状態は、幸福状態の被験体由来のVOCを含む綿パッドを嗅ぐことにより改善した。McClintockらは、女性の腋から得るVOCを嗅ぐと、綿パッドを嗅いでいる参加者の月経周期と、パッドを装着した被検体の月経周期が同期したことを示した。この現象は、同居する複数の女性の間ではよく知られている。幼児は母親の化学識別子を認識し、母親の母乳パッドと別の授乳中の女性を容易に区別できる。
【0035】
有機化合物を検出するための分析装置はガスクロマトグラフ‐質量分析計である。
【0036】
本発明者らは、VOCを捕捉する基質を使用するための方法を開発し、次いで当該基質は感情、気分又は生理的状態の様々な条件に関連するVOCを放出するために使用する。本発明者らはヒトVOCを検討し、異なる生理的及び感情的状態下では異なるVOCプロファイルがヒト皮膚から放出されることを本明細書において実証する。
【0037】
図1は排卵期の女性が着用したシャツから発散するVOCのGC‐MSスペクトルを示し、排卵期の女性のシャツから多量のVOCが発散していることを示している。このスペクトルの個々のピークはそれぞれ異なるVOCを表す。シャツを収容した清潔で蓋つきの滅菌ジャー内で活性炭素片を8時間インキュベートすることによりVOCを採取した。活性炭素片を有機溶媒で慎重にすすぎ、すぐにGC‐MSに注入した。20~30分範囲のピークは全て、排卵期ではない女性が着用した同じシャツのスペクトルには存在していない。
【0038】
図2は参加者において恐怖を誘導する前の中立状態(下段スペクトル)、及び恐怖を誘導した後の状態(上段スペクトル)で、被験体が着用したシャツから発散しているVOCのGC‐MSスペクトルを示す。恐怖状態(上段スペクトル)対中立状態(下段スペクトル)のスペクトル上における、24~28分範囲でのVOCの存在に注目されたい。
【0039】
図3は互いに重ねた2つの異なるGC‐MSトレースを示し、刺激のない状態(赤色)及び悲嘆状態(黒色)にあるヒト涙液の化学組成の違いを実証している。最大の変化はスペクトルの18~24分範囲に見られる。
【0040】
本発明のコンセプトを検証し、応用するために使用する異なる材料及び器具類を以下の図に示す。一般的に法医学的な放火分析に使用する活性炭素片はヒト皮膚から発散するVOCを吸収する能力を有する。活性炭のVOC吸収能は材料の非常に広い領域から生じる。本発明者らは、ヒトVOCの吸収において平衡が確立されるために必要な通常の時間は約4時間であることを見出した。活性炭素片は(Albrayco Technologies社のような)法医学用具提供業者から市販されており、滅菌性及び純度を確保するために不活性ガス(アルゴン)下で洗浄及び密封した100カウントジャーに入れる。
【0041】
図4は身体からVOCを吸収するためにも使用できる固相マイクロ抽出(SPME)繊維のための筐体を示す。SPME繊維は数種の異なる有機ポリマーから成り、VOCの吸収に非常に優れている。ヒトVOCの吸収において平衡が確立されるために必要な時間は約1時間である。
図5は、注射針から出てくる白いSPME繊維の拡大図を示す。
【0042】
綿ガーゼパッドにはヒト由来のVOCを吸収する能力もある。地衣類は、 ―VOCを容易に吸収することから、本出願に使用可能な媒体でもある。要するに、ヒトがVOCを吸収する能力を扱った本発明において言及された材料は、活性炭素片、SPME繊維、綿ガーゼパッド及び地衣類である。
【0043】
ガスクロマトグラフィ‐質量分析(GC‐MS)装置は、上記の様々なタイプの物質に吸収されたVOCを同定及び定量するために使用する選択肢の分析装置である。SPME繊維はGC‐MSの注入ポートに直接挿入する。活性炭素片を使用する場合、少量の有機溶剤(ジクロロメタンのような)を使用してVOCを炭素片から溶出し、次いでGC‐MSに注入する。地衣の用途では、粉砕し乾燥させた地衣を少量の有機溶剤で数回すすぎ、次いでGC‐MSに注入する。綿ガーゼパッドを使用する用途では、パッドを最小量の有機溶媒で溶出し、次いでGC‐MSにより分析する。
【0044】
科学文献はヒトVOCを認識しているが、本発明は新たな材料科学とこのVOC化学との新規な組み合わせに基づき、新規な方法ならびに商業的に実行可能な応用を利用する新規な装置を創り出す。
【0045】
簡単に説明すると、本発明の1例は以下のように動作する:女性は不活性条件下で保管されていた活性炭素片をとり、皮膚に近接させた場所(ブラストラップのような)でそれを約8時間装着する。これを行う都合の良い時間の非限定的な1例としては夜間の就寝前が挙げられる。活性炭素片は、使用者から活性炭素片中に、又はその上に発散するVOCと接触させて吸収させる軟質かつ一般的には非吸収性材料、ポーチ、鞘、又は他の保持具もしくは容器内に提供するか、又は挿入する。炭素片は活性炭のみで形成できるが、活性炭が付着、粘着、被覆、接着、封入されたか、そうでなければ保持された材料又は基質上に、又はその中に、又はそれの近傍にある活性炭コーティングとすることも可能である。朝起床すると、女性は活性炭素片をとり、そしてVOCの捕捉が最大限になるように選択された彼女の好みの香水(
図6~9)又は他の溶剤と共に、小型の芳香剤アトマイザに直接、炭素片を入れる。
【0046】
炭素片は1分、2分、3分、4分、5分、6分、7分、8分、9分又は10分間アトマイザに放置し浸漬し、アトマイザから取り出し、廃棄する。活性炭素片を香水中に長時間放置すれば、炭素片は香水中のVOCを吸収し始める。アトマイザから活性炭素片を取り出し、廃棄する。一般的に、この技術ではこれらの炭素片は再利用しない。
【0047】
香水又は溶剤は通常どおりに施用するが、―但し、ここでは好みの香水は、例えば排卵期に生成されるVOC化学識別子を含む。従って、使用者は通常どおりに生成されたVOCに、保存していたVOCを補填又は添加し、そうすることでこのシグナルを増強又は増幅させることが可能である。本発明を使用し、男性のテストステロンレベルを高めることにより女性の魅力を増強することが可能である(
図1参照)。安定性試験によれば、香水中のVOCは、有効量では一般的に約3~4週間保持可能であるが、経時的に分解可能であり、―この場合、別の新たな活性炭素片を使用し、当該プロセスを繰り返す。
【0048】
図6は、身体由来のVOCが活性炭素片に吸収されると、VOCを小型アトマイザに入れ、少量の好みの香水/コロンを添加することを示す。香水/コロン中の有機溶剤はVOCを活性炭素片から液体香水/コロン中に移し、次いでこれを保存し、後に、任意で他の芳香剤と共に皮膚に塗布することが可能である。従って、使用者は、自身の化学識別子を香水/コロンに保存して増幅し、後に使用者の皮膚上にそれを付着させることが可能である。本方法は、使用者の皮膚に、特定の生理的状態(例えば排卵、授乳、就労、スポーツ活動、性行為、結婚、洗礼、パーティー、出張、休暇、ロッククライミング、スカイダイビング、ジェットコースター、バンジージャンプ、又はクリフジャンプ)中に捕捉された使用者の天然VOCプロファイルを補填し、発したVOCシグナルを増強する(例えば排卵期の場合、恋人を引き付ける可能性を高める)ことが可能である。同様に、使用者は、VOCの捕捉に適した時間及び場所を選択することにより、他者の注目を避けることも可能である。
【0049】
図7は、外袖が備えられたアトマイザの図である。このアトマイザは、活性炭素片及びアトマイザを一緒に販売する商業用途として、見栄え良く容易に設計できる。
図8は、本発明と組み合わせて、本例では特定の商業用途と組み合わせて使用可能な多数の様々なアトマイザのうちの数個の追加例を示す。
【0050】
この新規なアプローチは、現在市販されている市販のフェロモン製品に比べていくつかの利点を有し、その理由は以下にある:(1)俗説に反して、実際のヒトフェロモンは科学文献で発見/報告されていない;(2)今日市販されているフェロモン製品には、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)及び他のステロイドのような化合物が大量に含まれており、これらの化合物がブタの性フェロモンであるという証拠はあるが、ヒト被検体では立証されていない;(3)フェロモンは通常、単一のVOCではなく、VOCカクテルである;(4)この用途はこの生理的状態下にある女性から発した完全な一式のVOCを捕捉し、全VOCプロファイルを香水に付着させる。
【0051】
Anti-Love Potion ♯9用途。この用途のアイデアは、女性が排卵期ではないときに活性炭素片を装着する以外はLove Potion ♯9用途と同様であり、この炭素片を香水アトマイザ内に付着させ、必要に応じて使用する。このアイデアは、避妊保護の追加的な領域として必要に応じて利用可能であり、どこでも女性に施用可能である。
【0052】
更に、活性炭素片は、排卵期ではないときに、悲嘆/涕泣時に装着し、同一の一般的クラスの化学メッセンジャー(例えばVOC)を提供することが可能である。使用者は特定の感情的又は生理的状態で生成された自身のVOC識別子を身につける。
【0053】
男性の主要組織適合性(MHC)タンパク質の用途。当然ながら、本発明は女性に限定されず、むしろ他人を引き付けるために使用可能である。MHCタンパク質の研究に基づいて男性は本発明を使用し、様々なMHCプロファイルにより相手を見つけるチャンスを増やす。男性は、好ましくは運動時に炭素片を装着し、好みのコロンを収容する芳香剤用アトマイザ内に炭素片を約5分間付着させ、その後取り出して廃棄する。当該用途は、芳香剤を身に着けている個人のVOCプロファイルを増幅又は強調する点で、上記2つの女性用用途に類似している。これはLove Potion#9の男性バージョンである。
【0054】
鎮静/癒し用途。この用途は、恋人に近接させて放出し、(恐らく空気中でのVOCの透過を介して)鎮静させる効果を奏するVOCの利点を利用する。この用途では、ある人物は自分の恋人が装着した活性炭素片を自分の芳香剤に混入させることが可能であり、―これにより彼らが離れているとき(例えば出張、その他の長期間の別離)に恋人の鎮静VOCを提供できる。1態様では、両使用者がVOCを同時に捕捉し、同時に相手のVOCを捕捉することが可能である。従って、使用者は後で共通のVOCを再作成できる。
【0055】
一般的な感情状態用途(例えば、幸福感、自信等)。この用途では、VOCは何らかの感情状態にある人物から発しているときに捕捉する。いくつかの他の用途(任意の手段によるもので、完全なリストではない)には以下が挙げられる:(1)多幸感を感じるときに炭素片を装着し、それを自分の芳香剤に施用する。元気付けたいときや、又は恐らく抑うつ状態を改善する場合に使用できる。(2)自信は心理学の文献で研究される興味深い気分状態であり、これらの感情があるときに炭素片を装着し、それを自身の芳香剤に施用することにより活かすことが可能である。これを就職面接、仕事上の大規模なプレゼンテーション、一般的なビジネス会議等を行うときに身に着ける。(3)何か冒険的なこと(ロッククライミング、スカイダイビング、ジェットコースター、バンジージャンプ等)を行うときにVOCを採取し、芳香剤に混入し、必要に応じて身に着ける。(4)怒りは明確なVOCプロファイルを形成することで知られている。怒りのための有用な用途を見つけることは恐らく可能である。
【0056】
精油用途。本発明は、芳香剤アトマイザ中に活性炭素片を入れ、これを皮膚に塗布することに限定するものではない。あるいは、活性炭素片を精油中に浸し、その後、散布器に入れて使用することが可能である。アトマイザ/香水送達経路の代替的送達経路は精油/散布器塗布である。ヒトVOCを担持した活性炭素片は精油が入った散布器に入れることが可能である。精油中の有機化合物は炭素片から油中にVOCを溶出させる。その後、散布器はこれらVOCを空気中に再揮発させる。この送達経路の用途は、恋人の装着した活性炭素片をパートナーのために散布器に入れ、鎮静させる抗不安効果を有するVOCを放出することである。母親は、彼女の臭気の活性炭素片を(ラベンダーのような精油と併用して)子供部屋に設置した散布器に入れ、睡眠中に子供を鎮静させることが可能になる。活性炭素片により捕捉された感情的又は生理的状態に応じて、精油散布器と併用可能な他の用途も多く存在する。
【0057】
カスタマイズしたスキンケア製品用途。活性炭素片のような材料に吸収されたヒトVOCは、芳香剤アトマイザ又は精油散布器内に入れる以外に、他の用途に導入することも可能である。個人から得たVOCを使用して、個人に合わせたパーソナルケア商品を作成することが可能である。個人は特定の状態(例えば排卵期の女性)下で装着した活性炭素片を移送することも可能であり、これはその後、パーソナルケア製品中で使用される少量の有機溶剤で抽出する。その後、VOCエキスは個々で明確に異なる様々なパーソナルケア製品に組み入れることが可能である。
【0058】
医療診断用途。本発明を利用すれば、使用者は非侵襲的な医療診断の領域に施用可能なヒトVOCを捕捉できる。特定のVOCは、糖尿病、高コレステロール、癌、肝臓病、アルツハイマー病、統合失調症及び数種の他の疾患を含む異なる疾患状態下で身体から放出されるものもある。これらの医学的状態等のためのバイオマーカ化合物が数百種類、科学文献で知られている。医学診断の分野における技術水準は、外科手術を実施する必要なく診断するために十分早期に病態を検出することが可能である。
【0059】
医療用途では、使用者に活性炭素片を装着させ、次いでカスタマイズした方法を利用して炭素片をGC‐MSに供する。当該方法は文献では、疾患状態の指標となる全VOCを検出するようにプログラムしている。これらの化合物の1種を検出する場合、アラートを設定し、特定のVOCがGC‐MSに検出されると、そのVOCに関連する病態が検出されることになる。この方法の結果により、その後に、確認目的の更なる試験、及び/又は治療の初期の指示もしくは治療の変更を開始する。この技術の1態様は、病気の状態を非常に早期に特定し、人命を救うのに役立ち得る非侵襲的な早期検出医療診断用途である点である。疾患状態が形成中であると個人のVOCプロファイルは全く変わり、これは、細胞形態が依然として明らかになっていないために通常の細胞培養アッセイでは見抜けないものである。
【0060】
この技術の別の用途は、ポータルを備え、ポータルに取り付けたGC‐MS装置と個人が繋がることである。このような装置の設計は、Smiths Detection社等が設計した爆発物探知ポータルに類似している。VOC検出ポータル(ポータル粒子分析器など)は、早期疾患検出のための診療所及び病院における早期スクリーニングツールとして使用可能である。この装置は、疾患においてVOCを検出することが可能な動物、又は現在利用可能な他の技術に多大な利益をもたらす。
【0061】
従って、本発明はVOCを吸収する数種の異なる媒体を使用することが可能であり、この媒体はその後、感情的/生理学的状態を利用する特定の時間及び場所、ならびに医療診断において使用者によって配置できる。
【0062】
本明細書で述べた実施形態はどのようなものでも、本発明の任意の方法、キット、試薬又は組成物で実施でき、またその逆も可能であると考えられる。更に、本発明の組成物を使用して本発明の方法を達成することが可能である。
【0063】
本明細書に記載の特定の実施形態は例示として示され、本発明の限定として示されるものではないことは理解されているものとする。本発明の主な特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な実施形態において採用できる。当業者は、日常的な実験を更に行うことなく、本明細書に記載の特定の手順に対する多数の等価物を認識するか、又は確認することが可能である。そのような等価物は、本発明の範囲内にあると考えられ、特許請求の範囲に包含される。
【0064】
本明細書で言及された全ての刊行物及び特許出願は、本発明が関係する当業者の技術水準の指標となる。個々の刊行物又は特許出願それぞれが具体的かつ個別に参照により援用されると示されている範囲と同等の範囲で、全ての刊行物及び特許出願は参照により本明細書に援用される。
【0065】
特許請求の範囲及び/又は明細書中の用語「含む」と併せて使用される場合の用語「a」又は「an」の使用は、「1つ」を意味し得るが、「1つ以上」、「少なくとも1つ」、及び「1つ又は2つ以上」の意味と同じでもある。特許請求の範囲における用語「又は」の使用は、代替物のみを指すように明確な指示がなければ、あるいは代替物が相互排他的でなければ、「及び/又は」を意味するために使用するが、本開示は代替物のみも「及び/又は」も意味する定義を支持している。本出願全体を通じて、用語「約」は、値が、値を決定するために採用される装置や方法の誤差の変動量、又は被検体間に存在する変動量を包含していることを示すために使用する。
【0066】
本明細書及び特許請求の範囲(単数又は複数)で使用されているように、用語「含む(comprising)」(ならびに「含む(comprise)」及び「含む(comprises)」などの任意の「含む」形態)、「有する(having)」(ならびに「有する(have)」及び「有する(has)」などの任意の「有する」形態)、「含む(including)」(ならびに「含む(includes)」及び「含む(include)」などの任意の「含む」形態)、又は「含有する(containing)」(ならびに「含有する(contains)」及び「含有する(contain)」などの任意の「含有する」形態)は包括的又は無制限であり、追加的な非記載要素又は方法工程を除外するものではない。本明細書で提供した組成物及び方法のいずれかの実施形態では、「含む」は「基本的に~から成る」又は「~から成る」と置き換えてもよい。本明細書で使用されているように、フレーズ「基本的に~から成る」は、特定の整数(単数又は複数)又は工程、ならびに請求した本発明の特徴又は機能に実質的に影響を及ぼさないものを必要とする。本明細書で使用されているように、用語「から成る」は、記載された整数(例えば、特質、要素、特徴、特性、方法/プロセス工程又は制限)又は整数群(例えば、特質(単数又は複数)、要素(単数又は複数)、特徴(単数又は複数)、特性(単数又は複数)、方法/プロセス工程又は制限(単数又は複数))のみの存在を示すために使用する。
【0067】
本明細書で使用する用語「又はこれらの組み合わせ」は、この用語に先行する列挙された項目の置き換え及び組み合わせ全てを指す。例えば、「A、B、C又はこれらの組み合わせ」は:A、B、C、AB、AC、BC又はABCの少なくとも1つを含むことを意図しており、もし順序が特定の文脈において重要であれば、BA、CA、CB、CBA、BCA、ACB、BAC、又はCABも含まれる。この例を続けて説明するなら、BB、AAA、AB、BBC、AAABCCCC、CBBAAA、CABABB等の1つ以上の項目又は用語の反復を含む組み合わせが含まれることは明白である。文脈から特段に明示していない限り、任意の組み合わせの項目又は用語の数に通常制限はないことを当業者は理解しているものとする。
【0068】
本明細書中で使用されているように、「約」、「実質的な」又は「実質的に」などの制限のない近似表現の用語は、このように修飾されたときに必ずしも絶対又は完全ではないことが理解される条件を指すが、しかし条件の存在が指定されていることを当業者が是認するにはほぼ十分に近似しているものと考えられる。記述を変更し得る範囲は、大幅な変更をどのように設けるかに依存しており、更に、修飾した特質は必要とする特徴及び非修飾の特質の可能性であると当業者が認識するようにできるものである。概して、前述で取り上げてはいるが、「約」などの近似表現の用語により修飾された本明細書の数値は、記述した数値から少なくとも±1、2、3、4、5、6、7、10、12又は15%異なる範囲である。
【0069】
本明細書において開示及び請求した組成物及び/又は方法全ては、本開示を鑑みて過度の実験を行うことなく作成及び実施することが可能である。本発明の組成物及び方法は好ましい実施形態について記載してきたが、本発明の概念、精神及び範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の方法の工程又は一連の工程において変形例が当該組成物及び/又は方法に施用できることは当業者に自明であることとする。当業者に自明なこのような類似の代替及び修飾は全て、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の精神、範囲及び概念の範囲内であると見なす。