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特許7028795グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 5/037 20060101AFI20220222BHJP
   C07K 1/14 20060101ALI20220222BHJP
   C07K 1/30 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
C07K5/037
C07K1/14
C07K1/30
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018558052
(86)(22)【出願日】2017-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2017045805
(87)【国際公開番号】W WO2018117186
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-09-18
(31)【優先権主張番号】P 2016246115
(32)【優先日】2016-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】308032666
【氏名又は名称】協和発酵バイオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 晃広
(72)【発明者】
【氏名】長野 宏
【審査官】田村 直寛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/132724(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/067708(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/159317(WO,A1)
【文献】Biochem. Biophys. Res. Commun., 1994, vol.202, no.3, pp.1380-1386
【文献】J. Chromatogr., 1971, vol.59, no.1, pp.181-184
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 5/037
C07K 1/14
C07K 1/30
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶。
【請求項2】
粉末X線回折において、回折角(2θ°)が、30.5±0.2°、17.7±0.2°、17.5±0.2°及び21.2±0.2°にピークを有する、請求項1に記載の結晶。
【請求項3】
粉末X線回折において、回折角(2θ°)が、さらに、25.3±0.2°、21.5±0.2°、21.8±0.2°及び19.0±0.2°にピークを有する、請求項2に記載の結晶。
【請求項4】
粉末X線回折において、回折角(2θ°)が、さらに、19.2±0.2°、12.1±0.2°、25.0±0.2°、及び20.3±0.2°にピークを有する、請求項3に記載の結晶。
【請求項5】
粉末X線回折において、回折角(2θ°)が、さらに、20.6±0.2°、29.7±0.2°、9.5±0.2°、及び14.4±0.2°にピークを有する、請求項4に記載の結晶。
【請求項6】
粉末X線回折において、回折角(2θ°)が、さらに、27.3±0.2°、19.5±0.2°、16.5±0.2°、及び25.8±0.2°にピークを有する、請求項5に記載の結晶。
【請求項7】
粉末X線回折において、回折角(2θ°)が、さらに、11.9±0.2°、23.2±0.2°、及び30.0±0.2°にピークを有する、請求項6に記載の結晶。
【請求項8】
単結晶X線構造解析において、-173℃で測定した場合、次の概略的単位胞パラメーター:a=5.3777Å;b=9.4390Å;c=14.7822Å;α=82.833°;β=89.101°;γ=89.392°;V=744.37Å;Z=1;を有し、かつ空間群がP1;である、請求項1~7のいずれか1項に記載の結晶。
【請求項9】
グルタチオントリスルフィドが溶解した水溶液にグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を析出させる工程、及び該析出したグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を採取する工程を含み、
該グルタチオントリスルフィドが溶解した水溶液にグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を析出させる工程の前に、酸化型グルタチオン及びチオ硫酸塩が溶解した水溶液を静置又は攪拌することにより、該グルタチオントリスルフィドが溶解した水溶液を調製する工程を含む、グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶の製造方法。
【請求項10】
グルタチオントリスルフィドが溶解した水溶液にグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を析出させる工程が、グルタチオントリスルフィドが溶解した水溶液を濃縮することによりグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を析出させる工程である、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶及びその製造方法に関する。また、本発明は、チオ硫酸塩を用いた水性溶媒中でのポリスルフィドの簡便な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリスルフィドの一種であるグルタチオントリスルフィドは、酸化型グルタチオンの類縁物質として知られている(非特許文献1)。グルタチオントリスルフィドは、生体内において、グルタチオン還元酵素によって還元され、その際に硫化水素を発生させる(非特許文献2)。そして、発生した硫化水素はγ-グルタミルシステイン合成酵素を活性化し、活性化したγ-グルタミルシステイン合成酵素は生体内のグルタチオンレベルを上昇させる(非特許文献3)。
【0003】
グルタチオンは抗酸化作用を有するため、生体内グルタチオンレベルが上昇すると、過酸化物や活性酸素種から効率的に細胞を保護することができる。以上の作用から、近年、グルタチオントリスルフィドは、抗酸化成分として期待が高まっている。
【0004】
グルタチオントリスルフィドの調製方法としては、塩基性条件下で酸化型グルタチオンに二硫化炭素を反応させる化学合成による方法(非特許文献2)が知られている。また、グルタチオントリスルフィドの精製方法としては、高速液体クロマトグラフィーなどの手法によってグルタチオントリスルフィド濃縮液を取得する方法(非特許文献2)や、イオン交換樹脂と合成吸着樹脂の混床により分離する方法(非特許文献4)が知られている。非特許文献2及び4に記載の方法においては、合成、精製されたグルタチオントリスルフィドは、凍結乾燥によって採取されていた。
【0005】
グルタチオントリスルフィドのように、複数の硫黄原子が連なった構造を有する化合物のことを、ポリスルフィドという。ポリスルフィドの製造方法としては、これまでにアルキルポリスルフィドの製造方法が多く報告されている(非特許文献5)。アルキルポリスルフィドは、予備硫化剤、コークス精製抑制剤、及び潤滑油添加剤として広く利用されている。アルキルポリスルフィドは疎水性の化合物であり、水に対する溶解度が極めて低い。そのため、アルキルポリスルフィドの製造方法としては、溶媒として有機溶媒を使用するものが多かった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Biochem.Biophys.Res.Commun. 42, 730-738, 1971
【文献】Biochem. Biophys. Res. Commun., 202, 1380-1386, 1994
【文献】FASEB J., 18, 1165-1167, 2004
【文献】J.Chromatogr., 59, 181-184, 1971
【文献】David A. Atwood, M. Kamruz Zaman, “Sulfur: Organic Polysulfanes”, Encyclopedia of Inorganic Chemistry, John Wiley & Sons, Ltd., 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、非特許文献2及び4に記載の凍結乾燥で取得されるグルタチオントリスルフィドは非晶質であり、これまでグルタチオントリスルフィドの結晶及びその製造方法に関する報告はない。
【0008】
また、従来知られていたアルキルポリスルフィドの製造方法では、溶媒として有機溶媒を使用することが多く、有機溶媒への溶解度が低い親水性のポリスルフィドを効率的に製造することができなかった。そして、水性溶媒を用いたポリスルフィド製造方法においては、硫化水素や塩素などの有毒ガスを用いるか、又は有毒ガスが発生する危険性がある不安定な化合物を用いることが多かった。
【0009】
これより、有毒ガスを用いない、あるいは安定な化合物を用いた、水性溶媒中での簡便なポリスルフィドの製造方法が求められていた。
【0010】
したがって、本発明は、グルタチオントリスルフィドの結晶及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、チオ硫酸塩を用いた水性溶媒中での簡便なポリスルフィドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の(1)~(14)に関する。
(1)グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶。
(2)粉末X線回折において、回折角(2θ°)が、30.5±0.2°好ましくは±0.1°、17.7±0.2°好ましくは±0.1°、17.5±0.2°好ましくは±0.1°及び21.2±0.2°好ましくは±0.1°にピークを有する、上記(1)の結晶。
(3)粉末X線回折において、回折角(2θ°)が、さらに、25.3±0.2°好ましくは±0.1°、21.5±0.2°好ましくは±0.1°、21.8±0.2°好ましくは±0.1°及び19.0±0.2°好ましくは±0.1°にピークを有する、上記(2)の結晶。
(4)粉末X線回折において、回折角(2θ°)が、さらに、19.2±0.2°好ましくは±0.1°、12.1±0.2°好ましくは±0.1°、25.0±0.2°好ましくは±0.1°、及び20.3±0.2°好ましくは±0.1°にピークを有する、上記(3)の結晶。
(5)粉末X線回折において、回折角(2θ°)が、さらに、20.6±0.2°好ましくは±0.1°、29.7±0.2°好ましくは±0.1°、9.5±0.2°好ましくは±0.1°、及び14.4±0.2°好ましくは±0.1°にピークを有する、上記(4)の結晶。
(6)粉末X線回折において、回折角(2θ°)が、さらに、27.3±0.2°好ましくは±0.1°、19.5±0.2°好ましくは±0.1°、16.5±0.2°好ましくは±0.1°、及び25.8±0.2°好ましくは±0.1°にピークを有する、上記(5)の結晶。
(7)粉末X線回折において、回折角(2θ°)が、さらに、11.9±0.2°好ましくは±0.1°、23.2±0.2°好ましくは±0.1°、及び30.0±0.2°好ましくは±0.1°にピークを有する、上記(6)の結晶。
(8)単結晶X線構造解析において、-173℃で測定した場合、次の概略的単位胞パラメーター:a=5.3777Å;b=9.4390Å;c=14.7822Å;α=82.833°;β=89.101°;γ=89.392°;V=744.37Å;Z=1;を有し、かつ空間群がP1;である、上記(1)~(7)のいずれか1に記載の結晶。
(9)グルタチオントリスルフィドが溶解した水溶液にグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を析出させる工程、及び該析出したグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を採取する工程を含む、グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶の製造方法。
(10)グルタチオントリスルフィドが溶解した水溶液にグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を析出させる工程の前に、酸化型グルタチオン及びチオ硫酸塩が溶解した水溶液を静置又は攪拌することにより、グルタチオントリスルフィドが溶解した水溶液を調製する工程を含む、上記(9)に記載の製造方法。
(11)グルタチオントリスルフィドが溶解した水溶液にグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を析出させる工程が、グルタチオントリスルフィドが溶解した水溶液を濃縮することによりグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を析出させる工程である、上記(9)又は(10)に記載の製造方法。
(12)チオール基又はジスルフィド結合を有する化合物、及びチオ硫酸塩が溶解した水溶液を静置又は攪拌する工程を含む、以下の一般式(I)で表わされる、ポリスルフィドの製造方法。
式(I) R-S-R
(ここで、nは3以上の任意の自然数を、Rは、任意の化合物から水素原子を除いた組成を表わす)
(13)チオール基又はジスルフィド結合を有する化合物が還元型グルタチオン又は酸化型グルタチオンであり、ポリスルフィドがグルタチオントリスルフィド、グルタチオンテトラスルフィド、及びグルタチオンペンタスルフィドから選ばれる少なくとも1である、上記(12)に記載の製造方法。
(14)チオール基又はジスルフィド結合を有する化合物がN-アセチル-L-システイン又はN-アセチル-L-システインジスルフィドであり、ポリスルフィドがN-アセチル-L-システイントリスルフィド、N-アセチル-L-システインテトラスルフィド、N-アセチル-L-システインペンタスルフィド、及びN-アセチル-L-システインヘキサスルフィドから選ばれる少なくとも1である、上記(12)に記載の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例1で得られた、酸化型グルタチオン水溶液のpHとグルタチオントリスルフィドの生成効率の相関を表わす。縦軸はグルタチオントリスルフィド濃度(g/L)を、横軸は攪拌時間(時間)を表わす。
図2図2は、実施例2で得られた、グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶の粉末X線回折の結果を表わす。縦軸は強度(cps)を、横軸は回折角2θ(°)を表わす。
図3図3は、実施例2で得られた、グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶の赤外分光(IR)分析の結果を表わす。縦軸は光の透過率(%T)を、横軸は波数(1/cm)を表わす。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.本発明の結晶
本発明の結晶は、グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶である。
【0014】
結晶がグルタチオントリスルフィドの結晶であることは、例えば、HPLCを用いた分析により確認することができる。
【0015】
HPLCを用いた分析における分析条件としては、例えば、以下の条件を挙げることができる。
カラム:Inertsil ODS-3 φ3.0×150mm 3μm(ジーエルサイエンス社製)
カラム温度:35℃
流速:0.5mL/min
溶離液:0.2%の1-ヘプタンスルホン酸ナトリウム及び6.8%のリン酸二水素カリウムを含む、3%メタノール溶液(リン酸でpH3.0に調整)
検出器:UV検出器(波長210nm)
【0016】
結晶がグルタチオントリスルフィドの結晶であることは、粉末X線回折による分析によっても確認することができる。
【0017】
粉末X線回折による分析は、例えば、粉末X線回折装置(XRD)Ultima IV(リガク社製)を使用し、X線源としてCuKαを用い、付属の使用説明書に従って行うことができる。
【0018】
グルタチオントリスルフィドの結晶が2水和物の結晶であることは、カールフィッシャー法又は熱重量示差熱分析により、該結晶中の水分含量が、通常5.3±1.0重量%、好ましくは5.3±0.5重量%、より好ましくは5.3±0.3重量%であることにより確認することができる。
【0019】
熱重量示差分析は、例えば、EXSTAR6000(セイコーインスツル社製)を使用し、付属の使用説明書に従って、30℃から200℃(温度変化速度:10℃/min)における重量変化及び示差熱を測定することにより行うことができる。
【0020】
本発明の結晶としては、X線源としてCuKαを用いた粉末X線回折において、下記(i)に記載の回折角(2θ°)にピークを有する結晶を挙げることができ、下記(i)及び(ii)に記載の回折角(2θ°)にピークを有する結晶が好ましく、下記(i)~(iii)に記載の回折角(2θ°)にピークを有する結晶がより好ましく、下記(i)~(iv)に記載の回折角(2θ°)にピークを有する結晶がさらに好ましく、下記(i)、~(v)に記載の回折角(2θ°)にピークを有する結晶が特に好ましく、下記(i)~(vi)に記載の回折角(2θ°)にピークを有する結晶が最も好ましい。
【0021】
(i)30.5±0.2°好ましくは±0.1°、17.7±0.2°好ましくは±0.1°、17.5±0.2°好ましくは±0.1°及び21.2±0.2°好ましくは±0.1°
(ii)25.3±0.2°好ましくは±0.1°、21.5±0.2°好ましくは±0.1°、21.8±0.2°好ましくは±0.1°及び19.0±0.2°好ましくは±0.1°
(iii)19.2±0.2°好ましくは±0.1°、12.1±0.2°好ましくは±0.1°、25.0±0.2°好ましくは±0.1°、及び20.3±0.2°好ましくは±0.1°
(iv)20.6±0.2°好ましくは±0.1°、29.7±0.2°好ましくは±0.1°、9.5±0.2°好ましくは±0.1°、及び14.4±0.2°好ましくは±0.1°
(v)27.3±0.2°好ましくは±0.1°、19.5±0.2°好ましくは±0.1°、16.5±0.2°好ましくは±0.1°、及び25.8±0.2°好ましくは±0.1°
(vi)11.9±0.2°好ましくは±0.1°、23.2±0.2°好ましくは±0.1°、及び30.0±0.2°好ましくは±0.1°
【0022】
本発明の結晶として具体的には、X線源としてCuKαを用いた粉末X線回折パターンが、図2に示すパターン及び表2に示す回折角の値で規定されるグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶、並びに、X線源としてCuKαを用いた粉末X線回折パターンが、表3に示す回折角の値で規定されるグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を挙げることができる。
【0023】
また、赤外分光(IR)分析に供した場合、図3に示す赤外吸収スペクトルを示すグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶も、本発明の結晶の具体例として挙げることができる。
【0024】
赤外分光(IR)分析は、例えば、FTIR-8400型(島津製作所製)を使用し、付属の使用説明書に従って行うことができる。
【0025】
また、例えば、単結晶X線構造解析において、およそ-173℃で測定した場合、単位格子寸法:a=5.3777Å;b=9.4390Å;c=14.7822Å;α=82.833°;β=89.101°;γ=89.392°;V=744.37Å;Z=1;を有し、かつ空間群がP1;であるグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶も、本発明の結晶の例として挙げることができる。
【0026】
より具体的には、単結晶X線構造解析を行ったときに表6に示す各種の結果を示すグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を挙げることができる。
【0027】
単結晶X線構造解析は、例えば、R-AXIS RAPD-F(リガク社製)を用い、使用説明書に従って行うことができる。
【0028】
具体的には、例えば、グルタチオントリスルフィド・2水和物の単結晶を回折計に取り付け、室温の大気中または所定の温度の不活性ガス気流中で、所定の波長のX線を用いて、回折画像を測定する。回折画像から算出された面指数と回折強度の組から、直接法による構造決定と最小二乗法による構造精密化を行い、単結晶構造を得る。
【0029】
2.本発明の結晶の製造方法
本発明の結晶の製造方法は、グルタチオントリスルフィドが溶解した水溶液にグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を析出させる工程、及び該析出したグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を採取する工程を含む、グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶の製造方法である。
【0030】
グルタチオントリスルフィドが溶解した水溶液に含有されるグルタチオントリスルフィドは、酸化型グルタチオン及びチオ硫酸塩を水溶液中で反応させる方法その他の化学合成法、発酵法、酵素法、天然物からの抽出法等のいずれの製造方法によって製造されたものであってもよい。
【0031】
グルタチオントリスルフィドが溶解した水溶液に、結晶化の障害となる固形物が含まれている場合には、遠心分離、濾過又はセラミックフィルタ等を用いて固形物を除去することができる。
【0032】
また、グルタチオントリスルフィドが溶解した水溶液に、結晶化の障害となる水溶性の不純物や塩が含まれている場合には、イオン交換樹脂等を充填したカラムに通塔する等により、水溶性の不純物や塩を除去することができる。
【0033】
また、グルタチオントリスルフィドが溶解した水溶液に、結晶化の障害となる疎水性の不純物が含まれる場合には、合成吸着樹脂や活性炭等を充填したカラムに通塔する等により、疎水性の不純物を除去することができる。
【0034】
本発明の結晶の製造方法に用いるグルタチオントリスルフィドが溶解した水溶液は、グルタチオントリスルフィドの濃度が通常0.1g/L以上、好ましくは0.5g/L以上となるように調整して用いることが好ましい。
【0035】
前記水溶液中にグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を析出させる工程は、例えば、該水溶液を濃縮、該水溶液を冷却、又は該水溶液中へアルコール溶液を添加若しくは滴下すること等により、行うことができる。
【0036】
また、例えば、前記水溶液の濃縮、該水溶液の冷却、該水溶液中へのアルコール溶液の添加又は滴下等は、1以上を組み合わせて行うこともできる。
【0037】
前記水溶液を濃縮する場合、例えば、加熱濃縮法又は減圧濃縮法などの一般的な濃縮方法を用いることができる。
【0038】
前記水溶液を加熱濃縮する場合における、該水溶液の温度としては、通常40~80℃、好ましくは40~70℃、最も好ましくは40~60℃を挙げることができる。
【0039】
前記水溶液を加熱濃縮する場合における、濃縮に要する時間は、該水溶液のグルタチオントリスルフィドの濃度や該水溶液の温度によって変わってくるが、該水溶液中にグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶が析出する時間であればよく、当業者であれば、例えば、通常2~100時間、好ましくは3~70時間、最も好ましくは5~50時間の範囲で適宜適切に設定することができる。
【0040】
前記水溶液を減圧濃縮する場合における、該水溶液の温度としては、通常10~60℃、好ましくは20~55℃、最も好ましくは30~50℃を挙げることができる。
【0041】
前記水溶液を減圧濃縮する場合における、濃縮に要する時間は、該水溶液のグルタチオントリスルフィドの濃度や該水溶液の温度によって変わってくるが、該水溶液中にグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶が析出する時間であればよい。具体的には、例えば、通常2~100時間、好ましくは3~70時間、最も好ましくは5~50時間の範囲が好ましい。
【0042】
具体的には、例えば、後述の実施例2に記載のとおり、0.56g/Lの濃度のグルタチオントリスルフィドが溶解した水溶液を減圧濃縮する場合、好ましくは40~50℃にて、好ましくは10時間減圧濃縮することにより、本発明の結晶を析出させることができる。
【0043】
前記水溶液を冷却する場合における、該水溶液の温度及び該水溶液の冷却に要する時間は、該水溶液のグルタチオントリスルフィドの濃度によって変わってくるが、該水溶液中にグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶が析出する条件であればよい。具体的には、例えば、該水溶液の温度は、通常0~15℃、好ましくは0~10℃、最も好ましくは0~5℃の範囲が好ましい。また、例えば、冷却に要する時間は、通常6時間~8日間、好ましくは12時間~7日間、最も好ましくは24時間~6日間の範囲が好ましい。
【0044】
前記水溶液中にアルコール溶液を添加又は滴下する場合における、アルコール溶液は、複数種のアルコールの混合物、又はアルコールと他の有機溶媒若しくは水の混合物であってもよい。
【0045】
アルコール溶液がアルコールと水の混合物(以下、アルコール水溶液ともいう。)である場合は、アルコールとしては、好ましくはC1~C6のアルコール類を、より好ましくはC1~C3のアルコール類を、さらに好ましくはメタノール、エタノール、n-プロパノール及びイソプロピルアルコールからなる群より選ばれるアルコール類を、よりさらに好ましくはメタノール又はエタノールを、最も好ましくはメタノールを挙げることができる。
【0046】
また、アルコール溶液がアルコール水溶液である場合、含水量としては、通常40重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下、最も好ましくは5重量%以下を挙げることができる。
【0047】
前記水溶液中にアルコール溶液を添加又は滴下する場合における、該水溶液の温度、滴下又は添加するアルコール溶液の液量、及びアルコール溶液の添加又は滴下に要する時間は、該水溶液のグルタチオントリスルフィドの濃度によって変わってくるが、該水溶液中にグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶が析出する条件であればよい。具体的には、例えば、該水溶液の温度は、通常0~40℃、好ましくは0~35℃、最も好ましくは5~30℃の範囲が好ましい。また、例えば、添加又は滴下するアルコール溶液の液量は、該水溶液の通常0.1~100倍等量、好ましくは0.1~10倍等量、最も好ましくは0.1~3倍等量の範囲が好ましい。また、例えば、アルコール溶液の添加又は滴下に要する時間は、通常1分間~24時間、好ましくは1分間~10時間、最も好ましくは1~7時間の範囲が好ましい。
【0048】
本発明の結晶の製造方法においては、該水溶液中にグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を析出させる工程を開始する直前に、又は該水溶液中にグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を析出させる工程においてグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶が析出する前に、種晶を添加してもよい。
【0049】
種晶としては、例えば、本発明の結晶の製造方法により取得したグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を用いることができる。
【0050】
種晶は、該水溶液中の濃度が通常0.001~50g/L、好ましくは0.01~5g/Lとなるように添加する。
【0051】
前記水溶液中にアルコール溶液を添加又は滴下することによりグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を析出させる場合において、種晶を添加する時間は、例えば、アルコール溶液の添加又は滴下を開始してから通常0~12時間後、好ましくは0~8時間後、最も好ましくは0~4時間後の範囲で設定することができる。
【0052】
上記の方法によりグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を析出させた後、析出した結晶を通常1~48時間、好ましくは1~24時間、最も好ましくは1~12時間熟成させることができる。
【0053】
結晶を熟成させるとは、グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を析出させる工程を停止して、結晶を成長させることをいう。
結晶を成長させるとは、析出した結晶を元にして、結晶を増大させることをいう。
結晶の熟成は、結晶を成長させることを主な目的として行うが、結晶の成長と同時に、新たな結晶の析出が起こっていてもよい。
【0054】
グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を析出させる工程を停止するとは、例えば、該水溶液中にアルコール溶液を添加又は滴下することによりグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を析出させる場合においては、アルコール溶液の添加又は滴下を中断することをいう。
【0055】
結晶を熟成させた後は、グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を析出させる工程を再開してもよい。
【0056】
グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を採取する工程においては、例えば、濾取、加圧濾過、吸引濾過、遠心分離等を行うことができる。さらに結晶への母液の付着を低減し、結晶の品質を向上させるために、結晶を採取した後、適宜、結晶を洗浄することができる。
【0057】
結晶洗浄に用いる溶液としては、例えば、水、メタノール、エタノール、アセトン、n-プロパノール、及びイソプロピルアルコールからなる群より選ばれる1種類又は複数種類を任意の割合で混合した溶液を用いることができる。
【0058】
このようにして得られた湿晶を乾燥させることにより、本発明の結晶を取得することができる。
乾燥条件としては、グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶の形態を保持できるならば特に制限はなく、例えば、減圧乾燥、真空乾燥、流動層乾燥、通風乾燥等を適用することができる。
【0059】
乾燥温度としては、付着水分又は溶液を除去できる範囲であればいずれでもよいが、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、最も好ましくは60℃以下を挙げることができる。
乾燥時間としては、好ましくは1~60時間、より好ましくは1~48時間を挙げることができる。
【0060】
本発明の結晶の製造方法では、グルタチオントリスルフィドが溶解した水溶液にグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を析出させる工程の前に、酸化型グルタチオン及びチオ硫酸塩が溶解した水溶液を静置又は攪拌することにより、グルタチオントリスルフィドが溶解した水溶液を調製する工程を含んでいてもよい。
【0061】
酸化型グルタチオン及びチオ硫酸塩が溶解した水溶液を静置又は攪拌することにより、酸化型グルタチオン及びチオ硫酸塩を反応させてグルタチオントリスルフィドを生成することができる。
【0062】
前記工程で使用する酸化型グルタチオンは、非結晶性アモルファスであっても結晶であってもよいし、結晶の場合、無水物であっても水和水を有していてもよい。
【0063】
前記工程に使用するチオ硫酸塩としては、特に限定されないが、例えば、チオ硫酸ナトリウム及びチオ硫酸アンモニウムを、好ましくはチオ硫酸ナトリウムを挙げることができる。
【0064】
前記工程に使用するチオ硫酸塩は、無水物であってもよいし、水和水を有していてもよい。
【0065】
前記工程における、該水溶液中の酸化型グルタチオンの濃度としては、通常1g/L以上、好ましくは5g/L以上、より好ましくは10g/L以上を挙げることができる。
【0066】
前記工程における、該水溶液中のチオ硫酸塩の濃度としては、通常0.1g/L以上、好ましくは0.5g/L以上、より好ましくは1g/L以上を挙げることができる。
【0067】
前記工程における、該水溶液の温度としては、通常5~40℃、好ましくは10~30℃を挙げることができる。
【0068】
前記工程における、該水溶液のpHとしては、通常pH2~4を挙げることができる。
【0069】
前記工程における、酸化型グルタチオン及びチオ硫酸塩が溶解した水溶液を静置又は攪拌する時間としては、通常2~48時間、好ましくは5~36時間、より好ましくは8~24時間を挙げることができる。
【0070】
前記工程により調製したグルタチオントリスルフィドが溶解した水溶液に、結晶化の障害となる固形物が含まれている場合、結晶化の障害となる水溶性の不純物や塩が含まれている場合、結晶化の障害となる疎水性の不純物が含まれる場合は、前述したとおり、不純物を除去することができる。
【0071】
具体的には、例えば、後述の実施例2に記載のとおり、上記の方法で調製したグルタチオントリスルフィドが溶解した水溶液を濾過して硫黄などの固形物を除去した後、濾液を合成吸着樹脂を充填したカラムに通塔することにより、高純度のグルタチオントリスルフィドが溶解した水溶液を調製することができる。
【0072】
上記の方法によって、高純度のグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を取得することができる。
【0073】
グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶の純度としては、通常93%以上、好ましくは94%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは96%以上を挙げることができる。
【0074】
グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶の純度は、例えば、上記1と同様のHPLCを用いた分析により確認することができる。
【0075】
上記の製造方法によって製造することができるグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶としては、具体的には、X線源としてCuKαを用いた粉末X線回折パターンが、図2に示すパターン及び表2に示す回折角の値で規定されるグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶、並びに、X線源としてCuKαを用いた粉末X線回折パターンが、表3に示す回折角の値で規定されるグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を挙げることができる。
【0076】
また、赤外分光(IR)分析に供した場合、図3に示す赤外吸収スペクトルを示すグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶も、上記の製造方法によって製造することができるグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶の具体例として挙げることができる。
【0077】
また、単結晶X線構造解析により表6に示す各種の結果を示すグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶も、上記の製造方法によって製造することができるグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶の具体例として挙げることができる。
【0078】
3.本発明のポリスルフィドの製造方法
また、本発明は、チオール基又はジスルフィド結合を有する化合物、及びチオ硫酸塩が溶解した水溶液を静置又は攪拌する工程を含む、ポリスルフィドの製造方法に関する。
【0079】
ポリスルフィドとは、以下の一般式(I)で表わされる、多数の連続した硫黄原子を含む化合物のことをいう。
式(I) R-S-R
(ここで、nは3以上の任意の自然数を表わし、好ましくは3~10の任意の自然数を、より好ましくは3~6の任意の自然数を、最も好ましくは3又は4を表わす。また、Rは、任意の化合物から水素原子を除いた組成を表わす。そして、Rにおいて、硫黄原子が結合しているのは、Rの炭素原子である。)
【0080】
Rとしては、具体的には、例えば、還元型グルタチオンの有するチオール基から水素原子を除いた組成(C1016)、N-アセチル-L-システインの有するチオール基から水素原子を除いた組成(CNO)、及びL-システインの有するチオール基から水素原子を除いた組成(CNO)を挙げることができる。
【0081】
本発明において、ポリスルフィドとしては特に制限されないが、親水性のポリスルフィドであることが好ましい。
【0082】
本明細書において、「親水性のポリスルフィド」とは、該ポリスルフィドを水に溶解させたときの該ポリスルフィドの濃度が、0.1g/L以上となり得るポリスルフィドのことをいう。
【0083】
親水性のポリスルフィドとしては、具体的には、例えば、グルタチオントリスルフィド(C1016-S-C1016)、グルタチオンテトラスルフィド(C1016-S-C1016)、グルタチオンペンタスルフィド(C1016-S-C1016)、N-アセチル-L-システイントリスルフィド(CNO-S-CNO)、N-アセチル-L-システインテトラスルフィド(CNO-S-CNO)、N-アセチル-L-システインペンタスルフィド(CNO-S-CNO)及びN-アセチル-L-システインヘキサスルフィド(CNO-S-CNO)を、好ましくはグルタチオントリスルフィド、N-アセチル-L-システイントリスルフィド、及びN-アセチル-L-システインテトラスルフィドを挙げることができる。
【0084】
チオ硫酸塩としては、特に限定されないが、例えば、チオ硫酸ナトリウム及びチオ硫酸アンモニウムを、好ましくはチオ硫酸ナトリウムを挙げることができる。チオ硫酸塩は、無水物であってもよいし、水和水を有していてもよい。
【0085】
チオール基を有する化合物とは、以下の一般式(II)で表わされる化合物をいう。
式(II) R-S-H
(ここで、Rは、任意の化合物から水素原子を除いた組成を表わす。また、Rにおいて、硫黄原子が結合しているのは、Rの炭素原子である。)
【0086】
ジスルフィド結合を有する化合物とは、以下の一般式(III)で表わされる化合物をいう。
式(III) R-S-S-R
(ここで、Rは、任意の化合物から水素原子を除いた組成を表わす。また、Rにおいて、硫黄原子が結合しているのは、Rの炭素原子である。)
【0087】
チオール基又はジスルフィド結合を有する化合物の具体例としては、例えば、ポリスルフィドとしてグルタチオンポリスルフィド、より具体的にはグルタチオントリスルフィド、グルタチオンテトラスルフィド、及びグルタチオンペンタスルフィドから選ばれる少なくとも1を製造する場合、好ましくは酸化型グルタチオン及び還元型グルタチオンを、より好ましくは酸化型グルタチオンを挙げることができる。チオール基又はジスルフィド結合を有する化合物として酸化型グルタチオンを用いる場合の酸化型グルタチオンは、非結晶性アモルファスであっても結晶であってもよいし、結晶の場合、無水物であっても水和水を有していてもよい。
【0088】
また、例えば、ポリスルフィドとしてN-アセチル-L-システインポリスルフィド、より具体的にはN-アセチル-L-システイントリスルフィド、N-アセチル-L-システインテトラスルフィド、N-アセチル-L-システインペンタスルフィド、及びN-アセチル-L-システインヘキサスルフィドから選ばれる少なくとも1を製造する場合、好ましくはN-アセチル-L-システインジスルフィド及びN-アセチル-N-システインを、より好ましくはN-アセチル-L-システインジスルフィドを挙げることができる。
【0089】
本発明の方法でポリスルフィドを製造する場合の反応水溶液中のチオール基又はジスルフィド結合を有する化合物の濃度、チオ硫酸塩の濃度、及び反応水溶液のpHは、当業者であれば、使用するチオール基又はジスルフィド結合を有する化合物によって、適宜設定することができる。
【0090】
チオール基又はジスルフィド結合を有する化合物として酸化型グルタチオンを用いる場合の、チオール基又はジスルフィド結合を有する化合物、及びチオ硫酸塩が溶解した水溶液中の酸化型グルタチオンの濃度としては、通常1g/L以上、好ましくは5g/L以上、より好ましくは10g/L以上を挙げることができる。
【0091】
チオール基又はジスルフィド結合を有する化合物として酸化型グルタチオンを用いる場合の該水溶液中のチオ硫酸塩の濃度としては、通常0.1g/L以上、好ましくは0.5g/L以上、より好ましくは1g/L以上を挙げることができる。
【0092】
チオール基又はジスルフィド結合を有する化合物として酸化型グルタチオンを用いる場合の該水溶液のpHとしては、通常pH2~4を挙げることができる。
【0093】
チオール基又はジスルフィド結合を有する化合物としてN-アセチル-N-システインジスルフィドを用いる場合の、チオール基又はジスルフィド結合を有する化合物、及びチオ硫酸塩が溶解した水溶液中のN-アセチル-N-システインジスルフィドの濃度としては、通常10g/L以上、好ましくは30g/L以上、より好ましくは50g/L以上を挙げることができる。
【0094】
チオール基又はジスルフィド結合を有する化合物としてN-アセチル-N-システインジスルフィドを用いる場合の該水溶液中のチオ硫酸塩の濃度としては、通常1g/L以上、好ましくは5g/L以上、より好ましくは10g/L以上を挙げることができる。
【0095】
チオール基又はジスルフィド結合を有する化合物としてN-アセチル-N-システインジスルフィドを用いる場合の該水溶液のpHとしては、通常pH1.5~4を挙げることができる。
【0096】
チオール基又はジスルフィド結合を有する化合物、及びチオ硫酸塩が溶解した水溶液を静置又は攪拌する際の温度としては、通常5~40℃、好ましくは10~30℃を挙げることができる。
【0097】
チオール基又はジスルフィド結合を有する化合物、及びチオ硫酸塩が溶解した水溶液を静置又は攪拌する時間としては、通常2~48時間、好ましくは5~36時間、より好ましくは8~24時間を挙げることができる。
【0098】
以上の工程により、硫化水素を用いることなく、水性溶媒中で簡便にポリスルフィドを製造することができる。
【0099】
前記工程により調製したポリスルフィドが溶解した水溶液に固形物が含まれている場合及び目的とするポリスルフィド以外の不純物が含まれる場合は、濾過、遠心分離、合成吸着樹脂やイオン交換樹脂を用いたクロマトグラフィーなどにより、目的とするポリスルフィドを単離、精製することができる。
【実施例
【0100】
以下に実施例を示すが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0101】
[実施例1]
グルタチオンポリスルフィドの製造
種々の含硫化合物と酸化型グルタチオンを用いて、グルタチオンポリスルフィドの生成検討を行った。
【0102】
酸化型グルタチオン(協和発酵バイオ社製)を水に溶解させて100g/Lに調製し、そこへ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸、又は亜硫酸を酸化型グルタチオンと等モル濃度となるよう添加し、室温にて約40時間撹拌した。攪拌開始0時間、16時間、及び41時間後の該溶液中のグルタチオントリスルフィド濃度を測定した。それぞれの化合物を添加した場合の経過時間ごとのグルタチオントリスルフィド濃度(g/L)を表1に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
表1に示すように、チオ硫酸ナトリウムを添加した場合にのみグルタチオントリスルフィドが著量生成し、それ以外の場合はグルタチオントリスルフィドが生成されなかった。また、3200QTRAP(エービーサイエックス社製)を用いた液体クロマトグラフィー質量分析測定の結果、該溶液中には、グルタチオントリスルフィドの他、グルタチオンテトラスルフィド及びグルタチオンペンタスルフィドが生成していることが確認された。
【0105】
さらに、グルタチオントリスルフィドの製造時における、反応溶液のpHと反応効率の検討を行った。酸化型グルタチオン(協和発酵バイオ社製)10gを、30℃の水75mLに溶解させ、酸化型グルタチオン水溶液を調製した。その後、2Nの水酸化ナトリウム(和光純薬社製)を用いて、酸化型グルタチオン水溶液のpHを、それぞれ3、4、5、6又は7に調整し、水を加えて100mLまでメスアップした。
【0106】
続いて、各酸化型グルタチオン水溶液に、チオ硫酸ナトリウム(和光純薬社製)1.3gを添加し、攪拌を開始した。攪拌中、24時間ごとに、各水溶液中のグルタチオントリスルフィド濃度を測定した。結果を図1に示す。
【0107】
図1に示すように、反応溶液のpHが低い方が、各時間におけるグルタチオントリスルフィド濃度が高く、グルタチオントリスルフィドの生成効率が高いことがわかった。
【0108】
[実施例2]
グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶の取得-1
酸化型グルタチオン(協和発酵バイオ社製)65gを水に溶解して調製した酸化型グルタチオン水溶液1Lに、チオ硫酸ナトリウム(和光純薬社製)17gを加え、室温下で12時間攪拌し、15.9g/Lのグルタチオントリスルフィド水溶液(純度34%)を調製した。
【0109】
前記水溶液を濾過して硫黄などの沈殿物を濾別し、得られた濾液を合成吸着樹脂SP207(三菱化学社製)500mLを充填したカラムに通塔した。続いて、水30Lを用いて溶出を実施し、0.56g/Lのグルタチオントリスルフィド水溶液25L(純度98%)を取得した。
【0110】
取得したグルタチオントリスルフィド水溶液25Lを、40~50℃にて10時間減圧濃縮を行い、500mLまで濃縮すると、結晶が析出した。析出した結晶を濾過によって水溶液から分離して採取し、室温下で減圧乾燥を行い、9.1gの結晶を取得した。
【0111】
HPLCを用いた分析により、得られた結晶はグルタチオントリスルフィドの結晶であることが確認された。
また、熱重量示差熱分析より、取得したグルタチオントリスルフィドの結晶は、温度上昇(30℃~200℃)に伴って徐々に脱水され、61℃で無水物に至ること、また、減少した水分重量から2水和物であることが分かった(理論値:5.3重量%、実測値:5.3重量%)。
【0112】
また、HPLCによる純度測定により、得られた結晶は96%(面積%)以上のグルタチオントリスルフィド純度であることを確認した。
【0113】
得られた結晶の粉末X線回折の結果より、相対強度比(I/I)が30以上であったピークの回折角を表2に示す。表中、「2θ」は回折角(2θ°)を、「相対強度」は、相対強度比を示す。また、得られた結晶のX線源としてCuKαを用いた粉末X線回折の結果を図2に、赤外分光(IR)分析の結果を図3に示す。
【0114】
【表2】
【0115】
[実施例3]
グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶の取得-2
酸化型グルタチオン(協和発酵バイオ社製)30gとチオ硫酸ナトリウム(和光純薬社製)4gを水3Lに溶解させ、該水溶液を25℃にて20時間撹拌したところ、結晶が析出した。該水溶液を濾過し、析出した結晶を含む沈殿物10gを回収した。
【0116】
続いて、回収した沈殿物10gを60℃の水3Lに溶解させ、該水溶液を0.45μmのメンブレンフィルター(ミリポア社製)で濾過した後、得られた濾液を50℃にて5時間減圧濃縮を行い、500mLまで濃縮したところ、結晶が析出した。
【0117】
析出した結晶を濾過によって水溶液から分離して採取し、室温下で減圧乾燥を行い、6.5gの結晶を取得した。
【0118】
得られた結晶の粉末X線回折の結果より、相対強度比(I/I)が30以上であったピークの回折角を表3に示す。表中、「2θ」は回折角(2θ°)を、「相対強度」は、相対強度比を示す。
【表3】
【0119】
また、当該結晶を赤外分光(IR)分析及び熱重量示唆分析に供した。当該結晶の粉末X線結晶回折パターン、赤外吸収スペクトル、熱重量示差熱分析の結果は実施例2で取得した結晶と同一であったことから、当該結晶は、グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶であることがわかった。
【0120】
[実施例4]
グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶の保存安定性
実施例2で製造したグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶1gを水に溶解し、100mLとした。該水溶液を0.45μmのフィルターで濾過した後凍結乾燥することで、白色を帯びた透明の粉末を得た。当該粉末の粉末X線回折を測定したところ、X線回折ピークが確認されなかったことから、当該粉末はグルタチオントリスルフィドの非結晶性アモルファスであることがわかった。
【0121】
続いて、取得したグルタチオントリスルフィドの非結晶性アモルファスと、実施例2で製造したグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶の吸湿性を比較した。
【0122】
各サンプル約100mgを精密天秤で秤量後、ガラス容器に充填し、40℃、相対湿度75%の条件下でTHE051FA(アドバンテック東洋社製)に保管後、再度サンプルを秤量することで重量変化率を算出した。なお、試験開始時のそれぞれの重量を100%として各経過時間後のサンプルの重量を測定した。
【0123】
結果を表4に示す。
【0124】
【表4】
【0125】
表4に示すように、非結晶性アモルファスが時間の経過に伴って重量が増加したのに対し、グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶は重量がほとんど変わらなかった。このことから、非結晶性アモルファスと比較して、グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶は吸湿性が低く、保存安定性に優れていることがわかった。
【0126】
[実施例5]
グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶の不純物淘汰性
実施例2で製造したグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶3gと、還元型グルタチオン(協和発酵バイオ社製)0.3g及び酸化型グルタチオン(協和発酵バイオ社製)0.3gを水に溶解し、100mLとした。該水溶液を0.45μmのフィルターで濾過した後凍結乾燥することで、白色を帯びた透明の粉末を得た。当該粉末の粉末X線回折を測定したところ、X線回折ピークが確認されなかったことから、当該粉末は非結晶性アモルファスであることがわかった。
【0127】
また、実施例2で製造したグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶3gと、還元型グルタチオン(協和発酵バイオ社製)0.3g及び酸化型グルタチオン(協和発酵バイオ社製)0.3gを水に溶解し、100mLとした。該水溶液を50℃にし、減圧することで100mLまで濃縮し、グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を含むスラリーを得た。このスラリーを濾過することでグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶を回収した。
【0128】
上記で得られた非結晶性アモルファス及びグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶をそれぞれ100mLメスフラスコに200mgずつ評量した後、水を加えて100mLとした。続いて、HPLCを用いた分析により該水溶液に含まれる還元型グルタチオンと酸化型グルタチオンを定量し、該水溶液に含まれるグルタチオントリスルフィドの重量に対する還元型グルタチオン及び酸化型グルタチオンの重量(重量%)を算出した。
結果を表5に示す。
【0129】
【表5】
【0130】
表5に示すように、グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶に含まれる還元型グルタチオン及び酸化型グルタチオンは、非結晶性アモルファスと比べて少なかった。このことから、2水和物の結晶へと結晶化することにより、グルタチオントリスルフィドから不純物を効率的に除去できることがわかった。
【0131】
[実施例6]
グルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶の単結晶X線構造解析
結晶の構造を決定するために、実施例2で取得したグルタチオントリスルフィド・2水和物の結晶に対し、測定装置(アジレント・テクノロジー社製単結晶X線構造解析装置SuperNova)を用いて、-173℃において単結晶X線回折(SXRD)を実施した。
【0132】
まず、グルタチオントリスルフィド・2水和物の単結晶を回折計に取り付け、室温の大気中あるいは所定の温度の不活性ガス気流中で、所定の波長のX線を用いて、回折画像を測定した。次に、回折画像から算出された面指数と回折強度の組から、直接法による構造決定と最小二乗法による構造精密化[Acta Cryst.A64,112(2008)]を行い、単結晶構造を得た。その結果を表6にまとめた。
【0133】
【表6】
【0134】
単結晶X線構造解析の結果、当該結晶が確かにグルタチオントリスルフィドの結晶であり、単位格子内に水分子を有する2水和物であることが確認された。また、フラック パラメーター(Flack parameter)[Acta Cryst.A39,876.(1983)]は0.15(4)とほぼ0となることから、解析結果の絶対構造に矛盾がないことを確認した。
【0135】
[実施例7]
N-アセチル-L-システインポリスルフィドの製造-1
N-アセチル-L-システイン(協和発酵バイオ社製)202gを水に溶解して調製したN-アセチル-L-システイン水溶液2Lに、2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(和光純薬社製)を加えてpH7.5に調整したのち、過酸化水素水(和光純薬社製)63mLを加え、室温下にて24時間反応させることで、N-アセチル-L-システインをN-アセチル-L-システインジスルフィドに酸化した。
【0136】
続いて、該水溶液を、H型の強カチオン交換樹脂UBK16(三菱ケミカル社製)160mLを充填したカラムに通塔し、65g/LのN-アセチル-N-システインジスルフィド水溶液3100mLを取得した。取得したN-アセチル-L-システインジスルフィド水溶液にチオ硫酸ナトリウム(和光純薬社製)48gを加え、室温下にて12時間攪拌した。
【0137】
3200QTRAP(エービーサイエックス社製)を用いた液体クロマトグラフィー質量分析測定の結果、攪拌後の水溶液中にはN-アセチル-L-システイントリスルフィド、N-アセチル-L-システインテトラスルフィド、N-アセチル-L-システインペンタスルフィド、及びN-アセチル-L-システインヘキサスルフィドが生成していることが確認された。
【0138】
該水溶液を濾過して硫黄などの沈殿物を濾別し、得られた濾液を合成吸着樹脂SP207(三菱ケミカル社製)160mLを充填したカラムに通塔した。続いて、水240mL、5%メタノール水溶液(関東化学社製)700mLの順でカラムを洗浄したのち、10%メタノール水溶液(関東化学社製)を用いて溶出を実施し、N-アセチル-L-システイントリスルフィドを含む水溶液2500mLを取得した。
【0139】
取得したN-アセチル-L-システイントリスルフィド水溶液2500mLを、40~50℃で3時間減圧濃縮を行うことで液体成分をすべて蒸発させ、アセチル-L-システイントリスルフィドを含む固体0.2gを取得した。
【0140】
HPLCによる純度測定の結果、得られた固体は75%(面積%)以上のアセチル-L-システイントリスルフィド純度であることが確認された。
【0141】
[実施例8]
N-アセチル-L-システインポリスルフィドの製造-2
N-アセチル-L-システイン(協和発酵バイオ社製)202gを水に溶解して調製したN-アセチル-L-システイン水溶液2Lに、2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(和光純薬社製)を加えてpH7.5に調整したのち、過酸化水素水(和光純薬社製)63mLを加え、室温下にて24時間反応させることで、N-アセチル-L-システインをN-アセチル-L-システインジスルフィドに酸化した。
【0142】
続いて、該水溶液を、H型の強カチオン交換樹脂UBK16(三菱ケミカル社製)160mLを充填したカラムに通塔し、65g/LのN-アセチル-N-システインジスルフィド水溶液3100mLを取得した。取得したN-アセチル-L-システインジスルフィド水溶液にチオ硫酸ナトリウム(和光純薬社製)48gを加え、室温下にて12時間攪拌した。
【0143】
3200QTRAP(エービーサイエックス社製)を用いた液体クロマトグラフィー質量分析測定の結果、攪拌後の水溶液中にはN-アセチル-L-システイントリスルフィド、N-アセチル-L-システインテトラスルフィド、N-アセチル-L-システインペンタスルフィド、及びN-アセチル-L-システインヘキサスルフィドが生成していることが確認された。
【0144】
該水溶液を濾過して硫黄などの沈殿物を濾別し、得られた濾液を合成吸着樹脂SP207(三菱ケミカル社製)160mLを充填したカラムに通塔した。続いて、水240mL、5%メタノール水溶液(関東化学社製)700mL、10%メタノール水溶液(関東化学社製)2500mLの順でカラムを洗浄したのち、30%メタノール水溶液(関東化学社製)を用いて溶出を実施し、N-アセチル-L-システインテトラスルフィドを含む水溶液550mLを取得した。
【0145】
取得したN-アセチル-L-システインテトラスルフィド水溶液550mLを、40~50℃で3時間減圧濃縮を行うことで液体成分をすべて蒸発させ、N-アセチル-L-システインテトラスルフィドを含む固体0.2gを取得した。
【0146】
HPLCによる純度測定の結果、得られた固体は73%(面積%)以上のN-アセチル-L-システインテトラスルフィド純度であることが確認された。
【0147】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2016年12月20日付けで出願された日本特許出願(特願2016-246115)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明により、抗酸化成分として有用であるグルタチオントリスルフィドの結晶及びその製造方法が提供される。
【0149】
また、本発明により、硫化水素を用いない、チオ硫酸塩を用いた水性溶媒中でのポリスルフィドの簡便な製造方法が提供される。
図1
図2
図3