(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】縮合及び/又は付加反応によって硬化可能なコーティング組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20220222BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220222BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20220222BHJP
C09D 201/06 20060101ALI20220222BHJP
C07C 251/24 20060101ALN20220222BHJP
C07C 265/14 20060101ALN20220222BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/63
C09D175/04
C09D201/06
C07C251/24
C07C265/14
(21)【出願番号】P 2019515847
(86)(22)【出願日】2017-09-13
(86)【国際出願番号】 EP2017072949
(87)【国際公開番号】W WO2018054725
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2019-05-30
(32)【優先日】2016-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ティール,フーベルト
(72)【発明者】
【氏名】プルツィビラ,ジルケ
(72)【発明者】
【氏名】シェムシャット,ダグマール
(72)【発明者】
【氏名】ディークマン,ヒルデグント
(72)【発明者】
【氏名】ゴイティンク,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ルンプ,イグナキア
(72)【発明者】
【氏名】ベンニンク,ディルク
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-502143(JP,A)
【文献】特開2010-180340(JP,A)
【文献】国際公開第2015/005121(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/055337(WO,A1)
【文献】特開2014-025050(JP,A)
【文献】特開昭53-075233(JP,A)
【文献】特表2002-541274(JP,A)
【文献】米国特許第06747102(US,B1)
【文献】特開2009-040943(JP,A)
【文献】特開2009-227816(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0070393(KR,A)
【文献】特表2015-536238(JP,A)
【文献】国際公開第2001/000702(WO,A1)
【文献】特開2015-151468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 7/63
C09D 175/04
C09D 201/06
C07C 251/24
C07C 265/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縮合及び/又は付加反応によって硬化可能であり、
(A)結合剤としての少なくとも1種のポリマー、
(B)成分(A)との縮合及び/又は付加反応によって反応することが可能な少なくとも1種の架橋剤、及び
(C)触媒としての式(I)の少なくとも1種の錯体
【化1】
(式中、
Mは、二価、三価又は四価の金属カチオンであり、
R
1は、1~10個の炭素原子を有する二価の脂肪族、芳香族又は芳香脂肪族炭化水素ラジカルであり、
R
2及びR
5は、互いに独立して、各々水素又は1~10個の炭素原子を有する一価の脂肪族、芳香族又は芳香脂肪族の有機ラジカルであり、及び
(i)R
3、R
4、R
6及びR
7は、互いに独立して、各々水素又は1~20個の炭素原子を有する一価の脂肪族、芳香族又は芳香脂肪族の有機ラジカルであり、
又は
(ii)R
3及びR
6は、互いに独立して、各々1~20個の炭素原子を有する二価の脂肪族、芳香族又は芳香脂肪族の有機ラジカルであり、R
4及びR
7は共有結合であり、R
3及びR
6はこれらの共有結合を介して、式(I)の酸素原子に対してアルファ位にある炭素原子に結合し、
又は
(iii)前記ラジカルR
3及びR
4が(i)の定義を満たし、前記ラジカルR
6及びR
7が(ii)の定義を満たす)
を含
み、
前記成分(A)が、(メタ)アクリレート(コ)ポリマー、ポリエステル、アルキド、ポリウレタン、ポリラクトン、ポリカーボネート、ポリエーテル、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂-アミン付加物、ポリウレア、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル-ポリウレタン、ポリエーテル-ポリウレタン及び/又はポリエステル-ポリエーテル-ポリウレタンを含む、コーティング組成物。
【請求項2】
コーティング組成物の総量に対する成分(C)の量が、0.01~3.00質量%である、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
成分(A)がヒドロキシル基及び/又はカルボニル基を含む、請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
使用する架橋剤が、遊離又はブロックポリイソシアネート又はアミノプラスト樹脂を含む、請求項1から3
のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
使用する成分(A)が少なくとも1種のヒドロキシル基含有ポリマーを含み、使用する成分(B)が少なくとも1種のブロックイソシアネートを含む、請求項1から4
のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
使用する金属カチオン(M)が、V(III)、V(IV)、Cr(III)、Mn(III)、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Co(III)、Ni(II)、Cu(II)、Bi(III)及び/又はZn(II)を含む、請求項1から5
のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
全てのラジカルR
1からR
7が水素及び任意に炭素からなる、請求項1から6
のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
前記ラジカルR
1が、2から4個の炭素原子を有する非環式ラジカルである、請求項1から7
のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
前記ラジカルR
2及びR
5が、水素又は1から2個の炭素原子を有する一価の脂肪族炭化水素ラジカルで
ある、請求項1から8
のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項10】
類型(ii)をラジカルR
3、R
4、R
6及びR
7に適用する、請求項1から9
のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項11】
前記ラジカルR
3及びR
6がフェニル環を生成するように構成され、そのフェニル環はさらなる置換を有し得、その場合、式(I)に表すC-C二重結合が共役π系の一部である、請求項10に記載のコーティング組成物。
【請求項12】
前記触媒が、二重に脱プロトン化されたビス(サリチリデン)エチレンジアミンと金属カチオンとの錯体である、請求項1から11
のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項13】
請求項1から12
のいずれか1項に記載のコーティング組成物を基材に塗布し、続いて熱硬化させることによる、コーティングを製造する方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法によって製造されたコーティング。
【請求項15】
式(I)
【化2】
(式中、
Mは、二価、三価又は四価の金属カチオンであり、
R
1は、1~10個の炭素原子を有する二価の脂肪族、芳香族又は芳香脂肪族炭化水素ラジカルであり、
R
2及びR
5は、互いに独立して、各々水素又は1~10個の炭素原子を有する一価の脂肪族、芳香族又は芳香脂肪族の有機ラジカルであり、及び
(i)R
3、R
4、R
6及びR
7は、互いに独立して、各々水素又は1~20個の炭素原子を有する一価の脂肪族、芳香族又は芳香脂肪族の有機ラジカルであり、
又は
(ii)R
3及びR
6は、互いに独立して、各々1~20個の炭素原子を有する二価の脂肪族、芳香族又は芳香脂肪族の有機ラジカルであり、R
4及びR
7は共有結合であり、R
3及びR
6はこれらの共有結合を介して、式(I)の酸素原子に対してアルファ位にある前記炭素原子に結合し、
又は
(iii)前記ラジカルR
3及びR
4が(i)の定義を満たし、前記ラジカルR
6及びR
7が(ii)の定義を満たす)
の錯体
を、請求項1から12のいずれか1項に記載の、(A)結合剤としての少なくとも1種のポリマーと、(B)成分(A)との縮合及び/又は付加反応によって反応することが可能な少なくとも1種の架橋剤との、縮合及び/又は付加反応による硬化を触媒するため
に使用
する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縮合及び/又は付加反応によって硬化可能であり、結合剤としての少なくとも1種のポリマー、成分(A)との縮合及び/又は付加反応によって反応することが可能な少なくとも1種の架橋剤、及び(C)少なくとも1種の特定の触媒を含む、コーティング組成物に関する。本発明はまた、縮合及び/又は付加反応によって硬化可能なコーティング組成物の硬化を触媒するための特定の触媒の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
縮合及び/又は付加反応によって硬化可能であり、結合剤としてのポリマー及び架橋剤を含むコーティング組成物は既知である。これら組成物を硬化させるために、コーティング基材への塗布後に、例えば、様々な異なる触媒が使用される。この目的のために一般的に役目を果たすものは、金属イオンのカルボン酸塩、又はジブチルスズジラウレートなどの有機金属化合物である。
【0003】
新規及び/又は代替の触媒の入手可能性は制限されており、既に同定されている種類の化合物の単純な類型しか役目を果たさないことがよくある。例えば、液体の供給形態を可能にするために、化合物にはより過剰な酸が与えられることがよくある。場合によっては、これらの酸は環境上及び/又は健康上の理由から好ましくない(例えばエチルヘキサン酸)。記載の有機金属化合物は、(生殖)毒性も有することが多い。それぞれのコーティング組成物中の部分的に制限された溶解性及び/又は相溶性のために、触媒の使用分野にも制限がある。例えば、それ自体既知であるビスマスカルボキシレートは、水への酸化ビスマス及び水酸化ビスマスの溶解性が非常に低いので、水系では非常に限られた程度でしか使用することができない。
【0004】
従って全体として、縮合及び/又は付加反応によって硬化可能なコーティング組成物の硬化のための代替触媒が、その触媒により異なるコーティング系の塗布の選択肢及び個別の適応性を改善させるため、必要とされている。
【0005】
US4861904は、シッフ塩基をベースとする金属錯体化合物を含み、高い酸素吸収速度及び脱着速度をもたらす超薄有機金属膜を記述している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
課題と技術的な解決策
本発明が取り組む課題は、既に既知である触媒系と比較して代替である触媒を含む、縮合及び/又は付加反応によって硬化可能な新規コーティング組成物を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
見出されたのは、縮合及び/又は付加反応によって硬化可能であり、
(A)結合剤としての少なくとも1種のポリマー、
(B)成分(A)との縮合及び/又は付加反応によって反応することが可能な少なくとも1種の架橋剤、及び
-(C)触媒としての式(I)の少なくとも1種の錯体
【化1】
(式中、
Mは、二価、三価又は四価の金属カチオンであり、
R
1は、1~10個の炭素原子を有する二価の脂肪族、芳香族又は芳香脂肪族炭化水素ラジカルであり、
R
2及びR
5は、互いに独立して、各々水素又は1~10個の炭素原子を有する一価の脂肪族、芳香族又は芳香脂肪族の有機ラジカルであり、及び
(i)R
3、R
4、R
6及びR
7は、互いに独立して、各々水素又は1~20個の炭素原子を有する一価の脂肪族、芳香族又は芳香脂肪族の有機ラジカルであり、
又は
(ii)R
3及びR
6は、互いに独立して、各々1~20個の炭素原子を有する二価の脂肪族、芳香族又は芳香脂肪族の有機ラジカルであり、R
4及びR
7は共有結合であり、R
3及びR
6はこれらの共有結合を介して、式(I)の酸素原子に対してアルファ位にある炭素原子に結合し、
又は
(iii)ラジカルR
3及びR
4が(i)の定義を満たし、ラジカルR
6及びR
7が(ii)の定義を満たす)
を含む、コーティング組成物である。
【0009】
新規のコーティング組成物は、本発明のコーティング組成物とも呼ばれ、本発明の主題である。好ましい実施形態は、以下の記述及び従属請求項から明白である。
【0010】
本発明の別の主題は、縮合及び/又は付加反応によって硬化可能なコーティング組成物の硬化を触媒するための触媒(C)の使用方法、及び組成物を基材に塗布し、続いて硬化させることによって製造されるコーティングでもある。
【0011】
本発明のコーティング組成物は、先行技術と比較して代替であるが、それにもかかわらず要求を満たす手段で硬化させることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な記述
本発明のコーティング組成物は、結合剤としての少なくとも1種のポリマー(A)、及び成分(A)との縮合及び/又は付加反応によって反応することが可能な架橋剤(B)とを含む。
【0013】
結合剤としてのポリマー(A)は、例えば、適切に無作為に、交互に及び/又はブロック状に構成された直鎖状及び/又は分岐状及び/又は櫛状(combwisely)に構成されたエチレン性不飽和モノマーの(コ)ポリマー、又は重付加樹脂及び/又は重縮合樹脂である。これらの用語に関して、更なる詳細は、Roempp Lexikon Lacke und Druckfarben,Georg Thieme Verlag,Stuttgart、ニューヨーク、1998年、第457頁、「Polyaddition」及び「Polyaddition resins(polyadducts)」、及び第463頁及び第464頁、「Polycondensates」、「Polycondensation」、及び「Polycondensation resins」、及び第73頁及び74頁、「Binders」を参照のこと。
【0014】
適した(コ)ポリマーの例は、(メタ)アクリレート(コ)ポリマー又は部分加水分解ポリビニルエステル、特に(メタ)アクリレートコポリマーである。適した重付加樹脂及び/又は重縮合樹脂の例は、ポリエステル、アルキド、ポリウレタン、ポリラクトン、ポリカーボネート、ポリエーテル、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂-アミン付加物、ポリウレア、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル-ポリウレタン、ポリエーテル-ポリウレタン又はポリエステル-ポリエーテル-ポリウレタンである。
【0015】
結合剤としてのポリマー(A)は、例えばチオ、ヒドロキシル、アミノ、N-メチロールアミノ-N-アルコキシメチルアミノ、イミノ、カルバメート、アロファネート及び/又はカルボキシル基、好ましくはヒドロキシル、第一級及び第二級アミノ及び/又はカルボキシル基、より具体的にはヒドロキシル基を含む。次いでこれらの官能基を介して、縮合及び/又は付加反応を介して、以下に後述する架橋剤(B)(更なる官能基、例えば、無水物、カルボキシル、エポキシ、遊離又はブロックイソシアネート、ウレタン、メチロール、メチロールエーテル、シロキサン、カーボネート、アミノ、ヒドロキシル及び/又はベータ-ヒドロキシアルキルアミド基などを含む)との架橋が起こることが可能となる。従ってこのようにして、2つの成分は縮合及び/又は付加反応を介して反応する。
【0016】
特に好ましくは、コーティング組成物は結合剤として、ヒドロキシル基及び/又は第一級及び/又は第二級アミノ基を含むポリマー(A)を含む。従ってコーティング組成物はいずれにせよ、必ずしも排他的ではないが、結合剤としてこの種のポリマーを含むのが事実である。
【0017】
本発明のコーティング組成物は、少なくとも1種の架橋剤(B)を含む。架橋剤及びコーティング組成物におけるその使用は、当業者に既知である。それら架橋剤は原則として、例えば結合剤として使用されるポリマー、より具体的にはポリマー(A)の反応性官能基に相補的であり、よって化学的に架橋することができる反応性官能基を有する成分である。
【0018】
「結合剤」及び「架橋剤」という用語は、本発明において、より明確にするため、又はより区別しやすくするために使用する。2つの用語は当業者に既知であり、よって明確化する特徴を有する。原則として、コーティング組成物の外部架橋熱硬化の場合、架橋は結合剤ポリマーの官能基と、その結果としての架橋剤の相補的官能基との間で起こる。結合剤としてのポリマーと架橋剤との典型的な組み合わせは、例えばヒドロキシ-及び/又はカルボキシ-官能性ポリマー(結合剤として)および、遊離又はブロックポリイソシアネート及び/又はアミノプラスト樹脂、より具体的にはメラミン樹脂及びベンゾグアナミン樹脂、換言すればメチロール及び/又はメチロールエーテル基を含有する付加物、又はポリカルボジイミド(架橋剤として)である。
【0019】
本発明における使用に好ましいのは、遊離又はブロックポリイソシアネート、アミノプラスト樹脂、より具体的にはメラミン樹脂及びベンゾグアナミン樹脂、及びポリカルボジイミドからなる群から選択される架橋剤である。特に好ましいのは、遊離又はブロックポリイソシアネート、より具体的にはブロックポリイソシアネートである。
【0020】
従って上記は、本発明のコーティング組成物が熱的に硬化可能であることを意味する―換言すれば、架橋(コーティング膜の形成)は、上述のように反応性官能基の化学反応によって起こり得、この化学反応のエネルギー活性化は、熱エネルギーを介して、以下に後述する触媒(C)などの触媒の触媒作用下で可能となる。
【0021】
他の硬化機構、例えば比例的な物理硬化(すなわち、ポリマー分子のループ(looping)を介してコーティング内で起こる結合を伴うコーティング組成物からの溶媒の損失による膜化によるコーティング組成物の層の硬化)は、無論除外しない。物理的硬化は特に、常に比例的に起こる。
【0022】
結合剤としてのポリマー(A)の量は、本発明のコーティング組成物の総量に対して、例えば5~50質量%である。
【0023】
ポリマー(A)の、又は特定のポリマー(A)の画分の決定は、次のようにして行う:コーティング組成物に添加するポリマー(A)の結合剤分散体の固形分量を確認する。コーティング組成物に使用する結合剤分散体の固形分量及び分散体量を考慮すると、組成物全体内のポリマー(A)の画分を決定及び/又は特定することが可能である。この方法は、これに関連して、使用する様々な異なる成分に対して基本的に用いられる。
【0024】
本発明における固形分は、特に明記しない限り、DIN EN ISO 3251に従い、初期質量1.0gの試料、例えば1.0gの本発明のコーティング材料を用いて、例えば、125°Cの温度で60分の試験期間で、決定する。
【0025】
架橋剤(B)の量は、各場合とも本発明のコーティング組成物の総量に対して、例えば0.5~30質量%である。
【0026】
本発明に従って使用するコーティング組成物は、触媒(C)として少なくとも1種の特定の錯体を含む。
【0027】
触媒は、以下の式(I)
【化2】
(式中、
Mは、二価、三価又は四価の金属カチオンであり、
R
1は、1~10個の炭素原子を有する二価の脂肪族、芳香族又は芳香脂肪族炭化水素ラジカルであり、
R
2及びR
5は、互いに独立して、各々水素又は1~10個の炭素原子を有する一価の脂肪族、芳香族又は芳香脂肪族の有機ラジカルであり、及び
(i)R
3、R
4、R
6及びR
7は、互いに独立して、各々水素又は1~20個の炭素原子を有する一価の脂肪族、芳香族又は芳香脂肪族の有機ラジカルであり、
又は
(ii)R
3及びR
6は、互いに独立して、各々1~20個の炭素原子を有する二価の脂肪族、芳香族又は芳香脂肪族の有機ラジカルであり、R
4及びR
7は共有結合であり、R
3及びR
6はこれらの共有結合を介して、式(I)の酸素原子に対してアルファ位にある炭素原子に結合し、
又は
(iii)ラジカルR
3及びR
4が(i)の定義を満たし、ラジカルR
6及びR
7が(ii)の定義を満たす)
による構造を有する。
【0028】
触媒は錯体である。よって、式(I)に示される金属カチオンと電子供与体(酸素、窒素)との間の結合は、従来の共有結合ではないが、実際には金属カチオンと配位子との間の複雑な結合である。
【0029】
従って、金属カチオンMとしての適合性は、二価、三価又は四価の金属カチオンが持つ。この点に関して利用可能である全ての主族及び遷移族金属カチオン、好ましくは3d金属カチオンが、原則として考慮し得る。例としては、V(III)、V(IV)、Cr(III)、Mn(III)、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Co(III)、Ni(II)、Cu(II)、Bi(III)及びZn(II)である。金属カチオンが二価ではない場合、式(I)による構造は、1個又は2個の正電荷を帯びる。この少なくとも1個の電荷は、例えば、無機アニオン、例えば塩化物、硝酸塩、テトラフェニルボレート又は水酸化物などによって簡単に補償されなければならない。
【0030】
ラジカルR1~R7のより正確な記述に先立ち、いくつかの用語を最初に説明する。
【0031】
脂肪族化合物は、芳香族ではなく、芳香脂肪族でもない飽和又は不飽和有機化合物(すなわち、炭素及び水素を含有する化合物)である。脂肪族化合物は、例えば、排他的に炭素及び水素(脂肪族炭化水素)からなり得、又は炭素及び水素だけでなく、以下で同定する架橋又は末端官能基及び/又は分子部分の形態で、ヘテロ原子を含有し得る。さらに、従って、「脂肪族化合物」という用語は、環式及び非環式脂肪族化合物の両方を包含し、本発明において対応する一般用語としても理解される。
【0032】
非環式脂肪族化合物は、直鎖(straight-chain)(直鎖(linear))又は分岐であり得る。この関連における直鎖とは、問題の化合物が炭素鎖に関連して分岐を有さず、その代わりに炭素原子が1つの鎖中に排他的に直鎖状配列で配置されていることを意味する。従って、本発明における分岐又は非直鎖は、それぞれの化合物が炭素鎖中に分岐を示すことを意味する。換言すれば、その場合、直鎖化合物とは対照的に、問題の化合物中の少なくとも1個の炭素原子は、三級又は四級炭素原子である。環式脂肪族化合物又は環式脂肪族化合物は、分子中に存在する炭素原子の少なくともいくつかが、1つ以上の環を形成するように結合している化合物である。無論、1つ以上の環に加えて、さらなる非環式直鎖又は分岐脂肪族基及び/又は分子部分が、環式脂肪族化合物中に存在し得る。
【0033】
本発明における官能基又は分子部分は、ヘテロ原子、例えば、酸素及び/又は硫黄などを含む、又はそれらからなる基についての呼称である。官能基は架橋し得、換言すれば、例えば、エーテル、エステル、ケト又はスルホニル基を表し得、又は例えば、ヒドロキシル基、スルホン基又はカルボキシル基の場合のように末端であり得る。架橋及び末端官能基が、脂肪族化合物中に同時に存在することも可能である。
【0034】
よって脂肪族ラジカルは、脂肪族化合物について上に記載した条件を満たすラジカルであるが、分子の一部にすぎない。
【0035】
芳香族化合物は、既知であるように、少なくとも1つの芳香族系を有する環状で平面的な有機化合物であり、従って、Hueckelの芳香族性基準に従って、完全共役π系を有する少なくとも1つの環系を含有する。それは、例えば純粋な炭化水素化合物(例えばベンゼン)であり得る。或る特定のヘテロ原子が環構造に組み込まれることも可能である(ピリジンが一例である)。1つ以上の芳香環系だけでなく、芳香族化合物は、芳香族化合物の一部として、さらなる直鎖及び/又は分岐炭化水素基、並びに架橋及び/又は末端官能基も(それらが共役π系の一部を形成するという条件で)含有し得る。例えば、ケト基又はエーテル基によって結合された2つのフェニル環は、同様に芳香族化合物である。
【0036】
よって本発明において、芳香族ラジカルは、芳香族化合物についての上記の規定を満たすラジカルであるが、分子の一部にすぎない。
【0037】
芳香脂肪族化合物は、芳香族及び脂肪族分子部分を含む有機化合物である。よってこの種の混合芳香族-脂肪族化合物は、芳香族基と脂肪族基の両方を含有しなければならない。
【0038】
よって本発明における芳香脂肪族基は、芳香脂肪族化合物に関する上記の規定を満たす基であるが、分子の一部にすぎない。
【0039】
一価ラジカルは、明らかに1つの共有結合を介して分子の残りに結合しているラジカルである。よって二価ラジカルは、分子の残りに2つの共有結合を介して結合しているラジカルである。
【0040】
従って、ラジカルR3及びR6、及びR4及びR7の定義(ii)における記載、特にラジカルR4及びR7が共有結合を表すという記載は、問題なく理解される。この場合のラジカルR4及びR7は、R4とR7との間及び酸素原子に対してアルファ位に位置する炭素原子間の共有結合を置換し、これらの結合は、式(I)に描かれ、最終的に環構造をもたらす。例えば、ラジカルR6は、フェニル環をもたらすような立体配置を有し得、これは無論さらなる置換も有し得る。この好ましい場合には、式(I)に示されるC-C二重結合は、無論共役π系の一部である。しかしながら、式(I)中のC-C二重結合の図は、いずれにせよ1つの可能性のある制限的な構造にすぎない。当業者に既知であるように、メソメリー制限構造は、原則として式(I)による構造において実現可能である。
【0041】
第一の好ましい実施形態におけるラジカルR1は、1~10個、好ましくは2~10個、より好ましくは2~6個、非常に好ましくは2~4個の炭素原子を有する非環式脂肪族炭化水素ラジカルである。
【0042】
他の好ましい実施形態では、ラジカルR1は、6~10個、より好ましくは6個の炭素原子を有する芳香族炭化水素ラジカルである。
【0043】
ラジカルR2及びR5は、好ましくは水素又は1~10個の炭素原子を有する一価の脂肪族炭化水素ラジカル、より好ましくは水素又は1~2個の炭素原子を有する一価の脂肪族炭化水素ラジカル、非常に好ましくは水素である。
【0044】
類型(i)によるラジカルR3、R4、R6及びR7は、好ましくは水素又は1~10個の炭素原子を有する一価の脂肪族炭化水素ラジカル、より好ましくは水素又は1~2個の炭素原子を有する一価の脂肪族炭化水素ラジカルである。非常に好ましくは、R3及びR6は水素であり、R4及びR7はメチルラジカルである。
【0045】
ラジカルR3、R4、R6、及びR7については、上で定義した類型(ii)が好ましい。その場合、ラジカルR3及びR6がベンゼン環を生成するように構成されることが好ましく、そのベンゼン環は無論さらなる置換を有し得、その場合、式(I)に描かれたC-C二重結合は、共役π系の一部である。
【0046】
好ましくは、ラジカルR1~R7のいずれもヘテロ原子を含有せず、代わりに水素のみ及び任意に炭素のみを含有する。
【0047】
特に好ましい錯体において、配位子はビス(サリチリデン)エチレンジアミンをベースとしている。これは、触媒が二重に脱プロトン化されたビス(サリチリデン)エチレンジアミンと金属カチオンとの錯体であることを意味する。
【0048】
触媒(C)の量は、各場合とも本発明のコーティング組成物の総量に対して、好ましくは0.01~3.00質量%である。
【0049】
所望の用途に応じて、本発明に従って使用されるコーティング組成物は、1種以上の慣用的に使用される顔料、充填剤及び水又は有機溶媒などの溶媒を含み得る。上述の成分(A)~(C)とは異なる添加剤が、成分(D)として存在することも可能である。これらの添加剤(D)は、好ましくは、ワックス、酸化防止剤、帯電防止剤、湿潤分散剤、乳化剤、流動制御助剤、可溶化剤、消泡剤、湿潤剤、安定剤、好ましくは熱安定剤、処理安定剤及びUV及び/又は光安定剤、光保護剤、脱気剤、抑制剤、触媒、軟化剤、難燃剤、有機溶剤、例えばブチルグリコール及び/又はブチルグリコールアセテート、例えば反応性希釈剤、疎水化剤、親水化剤、増粘剤、チキソトロープ剤、耐衝撃性改良剤、発泡剤、処理助剤、可塑剤、繊維状固体、及び前述の添加剤の混合物からなる群から選択される。本発明のコーティング組成物中の添加剤(G)の添加剤含量は、意図される用途に従って非常に広範囲に変化し得る。
【0050】
本発明のコーティング組成物は、好ましくは10~85質量%の固形分を有する。
【0051】
固形分(不揮発性画分)とは、特定の条件下で蒸発時に残渣として残る質量画分を意味する。本特許出願では、他に明示的に示されていない限り、固形分は、DIN EN ISO 3251(60分、130℃)に従って決定される。
【0052】
本発明のコーティング組成物は、上述したコーティング組成物の各成分を、高速攪拌機、攪拌槽、振とう機、溶解機、混練機又はインライン溶解基(inline dissolvers)によって、混合分散及び/又は溶解に供することにより製造することが可能である。
【0053】
本発明はまた、縮合及び/又は付加反応によって硬化可能なコーティング組成物の硬化を触媒するための特定の触媒の使用方法に関する。
【0054】
本発明はさらに、本発明のコーティング組成物を基材上に塗布し硬化させることによって製造されるコーティングに関する。本発明は同じように、コーティング組成物を基材上に塗布し、続いて熱硬化することによってこのコーティングを製造する方法にも関する。
【0055】
最終的に考えられる基材は、これに関連して当業者に既知である全ての基材、例えば金属基材又はプラスチック基材などである。これらの基材は任意の所望の形状を有し得る。
【0056】
本発明のコーティング組成物は、当業者によく知られた様態で塗布され、その塗布は、例えば、ロール塗り、浸し塗り、へら塗りコーティング、スプレー塗りによって、例えば圧縮空気スプレー、エアレススプレー、高速回転、静電スプレー塗布(ESTA)、任意に、例えば熱気スプレーなどの熱スプレー塗布と組み合わせて行い得る。ロール塗り技術が好ましい。
【0057】
塗布後、塗布したコーティング組成物を熱硬化に供する。硬化、より具体的には完全な硬化は、当業者によく知られている意味内容を有する。よって、コーティング膜の硬化、より具体的には完全な硬化は、そのような膜の実用状態への変換、換言すれば、問題のコーティング膜を施した基材を輸送、保管、及び意図された様式で使用することが可能な状態への変換を指す。従って、硬化コーティング膜は特に、もはや柔らかくなく粘着性もなく、代わりに硬質なコーティング膜の状態にある。硬度、基材接着性又は耐摩耗性などのその特性は、以下に後述するように、硬化条件にさらに暴露しても、もはや改善されない。従って、この状態では、以下に後述するように、硬化条件にさらに暴露することによってコーティング膜の架橋構造を増加させることは、もはや不可能である。成分中になお存在する反応性の相補的官能基、例えば結合剤としてのポリマー及び架橋剤などは、コーティングの固体性に起因して、もはや移動性がなく、よってさらなる硬化反応にはもはや利用できない。それどころか、実際に、以下に後述するように、硬化条件にさらに暴露すると、ネットワーク構造が崩壊することさえあり、よって事実としてコーティングの本質的に有利な品質を再び損なうことさえあり得る。
【0058】
完全な熱硬化は、好ましくは40~220℃の間の温度で、5~180分間の期間で起こり得る。
【0059】
しかしながら、使用する成分(A)及び(B)によれば、完全な熱硬化を室温(15~25℃)で1~72時間の期間で行うことも、同様に可能である。
【0060】
記載した温度は、各場合ともオーブン温度として、換言すればコーティングされた基材を硬化させる区画の周囲温度として理解される。
【0061】
本発明のコーティング組成物を用いて製造されたコーティングは、例えば、5~500マイクロメートルの乾燥膜厚を有する。
【実施例】
【0062】
本発明で使用する触媒の触媒活性を決定するために、ゾル-ゲル実験を行った。使用した配位子形成剤は、ビス(サリチリデン)エチレンジアミン(サレン)で、異なる三価及び二価金属カチオンと混ぜ合わせた(これに関連して、J.Molecular Catalysis A:Chemical,2004,224,207-212を参照のこと)。
【0063】
比較系として、既知の架橋触媒(ジブチルスズジラウレート(DBTL)及びビスマス(III)(2-エチルヘキサノエート)(Biカルボキシレート))及び触媒を含まない系を用いた。
【0064】
コーティング組成物の成分(A)及び成分(B)として、それぞれ市販のヒドロキシル官能性ポリマー(ビスフェノールA系ポリエーテルアミン)及び市販のブロックポリイソシアネート(アルコールブロックオリゴマーメチレンジフェニルイソシアネート)を用いた。
【0065】
2つの成分(A)及び(B)を互いに混合し(質量で25:15)、イソプロパノール又はテトラヒドロフランなどの適切な溶媒中に、成分(A)及び(B)の不揮発性画分100g当たり6mmolの量のそれぞれの触媒を用いて溶解し、次いで混合物として180℃の温度に20分の期間暴露した。
【0066】
その後、ゲル画分(架橋画分)を確認した。上記反応混合物をTHF中に24時間置いた後、次いで濾過し、フィルター残渣を75℃で4時間乾燥し、秤量した。ゲル画分が大きいほど、明らかに、成分(A)及び(B)の互いに架橋した画分が大きい。従って、高いゲル画分は明らかに、使用した触媒の部分に対する高い触媒活性と同等とみなすことが可能である。
【0067】
表1は結果を示す。
【0068】
【0069】
結果は、本発明で使用する触媒が、既知の触媒系に対する適切な代替物を表すことを示している。