(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】二相ステンレス鋼焼結体を製造するためのステンレス鋼粉末
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20220222BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20220222BHJP
B22F 3/10 20060101ALI20220222BHJP
B22F 9/08 20060101ALI20220222BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20220222BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220222BHJP
B22F 10/20 20210101ALN20220222BHJP
B33Y 70/00 20200101ALN20220222BHJP
【FI】
B22F1/00 T
B22F3/02 P
B22F3/10 E
B22F9/08 A
C22C33/02 C
C22C38/00 304
B22F10/20
B33Y70/00
(21)【出願番号】P 2019530467
(86)(22)【出願日】2017-12-01
(86)【国際出願番号】 EP2017081234
(87)【国際公開番号】W WO2018104179
(87)【国際公開日】2018-06-14
【審査請求日】2020-11-30
(32)【優先日】2016-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509020295
【氏名又は名称】ホガナス アクチボラグ (パブル)
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バドウィ、スニル
【審査官】坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-507528(JP,A)
【文献】国際公開第2012/140057(WO,A1)
【文献】特開2010-196171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 9/30
C22C 38/00
C22C 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
最大で0.1%のC、
0.5~3%のSi、
最大で0.5%のMn、
20~27%のCr、
3~8%のNi、
1~6%のMo、
最大で3%のW、
最大で0.1%のN、
最大で4%のCu、
最大で0.04%のP、
最大で0.04%のS、
最大で0.8%の不可避の不純物、
任意成分として、最大で0.004%のB、最大で1%のNb、最大で0.5%のHf、最大で1%のTi、最大で1%のCoのうちの1つ以上、および
残部であるFe
を含むステンレス鋼粉末。
【請求項2】
最大で0.06%のC、
1~3%のSi、
最大で0.3%のMn、
23~27%のCr、
4~7%のNi、
1~3%のMo、
0.8~1.5%のW、
最大で0.07%のN、
1~3%のCu、
最大で0.04%のP、
最大で0.03%のS、
最大で0.8%の不可避の不純物、
任意成分として、最大で0.004%のB、最大で1%のNb、最大で0.5%のHf、最大で1%のTi、最大で1%のCoのうちの1つ以上、および
残部であるFe
を含む、請求項1に記載のステンレス鋼粉末。
【請求項3】
最大で0.03%のC、
1.5~2.5%のSi、
最大で0.3%のMn、
24~26%のCr、
5~7%のNi、
1~1.5%のMo、
1~1.5%のW、
最大で0.06%のN、
1~3%のCu、
最大で0.02%のP、
最大で0.015%のS、
最大で0.8%の不可避の不純物、
任意成分として、最大で0.004%のB、最大で1%のNb、最大で0.5%のHf、最大で1%のTi、最大で1%のCoのうちの1つ以上、および
残部であるFe
を含む、請求項1に記載のステンレス鋼粉末。
【請求項4】
前記ステンレス鋼粉末はフェライト系である、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のステンレス鋼粉末。
【請求項5】
前記ステンレス鋼粉末は水アトマイズによって製造されている、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のステンレス鋼粉末。
【請求項6】
前記ステンレス鋼粉末はガスアトマイズにより製造されている、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のステンレス鋼粉末。
【請求項7】
前記ステンレス鋼粉末の粒子の粒径
は、前記粒子の少なくとも80%が53μm未満であり、前記粒子の最大で20%が18μm未満である、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のステンレス鋼粉末。
【請求項8】
前記ステンレス鋼粉末の粒子の粒径
は、前記粒子の少なくとも80%が26μm未満であり、前記粒子の最大で20重量%が5μm未満である、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のステンレス鋼粉末。
【請求項9】
前記ステンレス鋼粉末の粒子の粒径
は、前記粒子の少なくとも80%が150μm未満であり、前記粒子の最大で20%が26μm未満である、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のステンレス鋼粉末。
【請求項10】
前記ステンレス鋼粉末はプレアロイ粉末である、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のステンレス鋼粉末。
【請求項11】
水アトマイズによるステンレス鋼粉末の製造方法であって、
請求項1に記載のステンレス鋼粉末の化学組成に対応する化学組成を有する溶融金属を提供するステップと、
前記溶融金属の流れに水アトマイズを行なうステップと、
得られたステンレス鋼粉末を回収するステップと
を含む製造方法。
【請求項12】
請求項1から請求項
3ま
でのいずれか1項に記載の化学組成を有する二相ステンレス鋼焼結体であって、該二相ステンレス鋼焼結体のミクロ組織が、フェライト相中に析出したオーステナイト相によって特徴付けられる、二相ステンレス鋼焼結体。
【請求項13】
Ni当量(Ni
eq)が5<Ni
eq<11であり、Cr当量(Cr
eq)が27<Cr
eq<38であり、Cr
eqおよびNi
eqは、
Cr
eq=Cr+2Si+1.5Mo+0.75W
Ni
eq=Ni+0.5Mn+0.3Cu+25N+30C
の式によって計算され、
ここで、Cr、Niなどは、合金中の各元素の量を重量%で表したものである、請求項12に記載の二相ステンレス鋼焼結体。
【請求項14】
耐孔食指数(PREN)が28<PREN<33であり、PRENが
PREN=Cr+3.3Mo+16N
の式によって計算され、
ここで、Cr、MoおよびNは、合金中の各元素の量を重量%で表したものである、請求項12または請求項13に記載の二相ステンレス鋼焼結体。
【請求項15】
前記二相ステンレス鋼焼結体のミクロ組織は、30~70%のオーステナイトを含む、請求項12に記載
の二相ステンレス鋼
焼結体。
【請求項16】
前記ミクロ組織は、シグマ相および窒化物を含まないことによって特徴付けられる、請求項12から請求項15までのいずれか1項に記載
の二相ステンレス鋼
焼結体。
【請求項17】
二相ステンレス鋼焼結体の製造方法であって、
請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載のステンレス鋼粉末を提供するステップと、
任意選択で、前記ステンレス鋼粉末を潤滑剤および任意選択で他の添加剤と混合するステップと、
前記ステンレス鋼粉末または前記混合物を圧密化処理してグリーン体を形成するステップと、
前記圧縮されたグリーン体を不活性雰囲気若しくは還元雰囲気または真空中で1150℃~1450℃の温度
で5分~120分間焼結を行うステップと、
焼結体を周囲温度まで冷却するステップと
を含む製造方法。
【請求項18】
前記圧縮されたグリーン体を焼結する温度が1275℃~1400℃である、請求項17に記載の製造方法。
【請求項19】
前記圧密化処理は、
金型内で最大で900MPaの圧縮圧力で一軸圧縮を行ってグリーン体を形成するステップと、
前記得られた圧縮されたグリーン体を前記金型から取り出すステップと
を含む、請求項1
7又は請求項18に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の具体例によれば、二相ステンレス鋼焼結体(焼結二相ステンレス鋼)の製造に適した新しいステンレス鋼粉末を提供することができる。また、本発明の具体例は、ステンレス鋼粉末の製造方法、二相ステンレス鋼焼結体、および二相焼結ステンレス鋼の製造方法にも係るものである。
【背景技術】
【0002】
二相ステンレス鋼は、60年以上にわたって業界で知られている。二相ステンレス鋼は、高強度と高耐食性の組み合わせを必要とする多くの用途において、熱処理された鋳造材、展伸材、およびガスアトマイズ粉末の形態で広く使用されている。しかし、現状では、二相ステンレス鋼はプレスおよび焼結用途に使用するための水アトマイズ粉末形態では入手できない。
【0003】
二相ステンレス鋼の一般的な用途として、化学プロセスプラントのパイプライン、石油化学産業、発電所、および自動車がある。二相ステンレス鋼は、食品加工産業、製薬プロセス部品、製紙およびパルプ産業、脱塩プラント、ならびに鉱業においても使用されている。二相ステンレス鋼は、塩化物媒体中での粒間腐食(IGC)および応力腐食割れ(SCC)に対する耐食性に優れることで知られている。塩化物は鉄基合金にとって急速に腐食を起こす媒体であるので厳しい対象である。
【0004】
二相ステンレス鋼の有する高強度特性および高耐食特性は、フェライト相およびオーステナイト相が等量で存在するために得られると考えられている。この組織は、一般的に、オーステナイト安定化元素(例えば、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、炭素(C)、窒素(N)、銅(Cu)およびコバルト(Co))と、フェライト安定化元素(例えば、クロム(Cr)、シリコン(Si)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、チタン(Ti)およびニオブ(Nb))との均衡をとることにより達成される。
【0005】
上記のように、二相ステンレス鋼の高強度および高耐食性は、ミクロ組織におけるフェライトとオーステナイトとの均衡に由来すると考えられている。ミクロ組織は化学的性質だけでなく、材料に施された熱処理にも依存する。Nは強力なオーステナイト安定化元素であるため、今日では全ての二相鋼組成物は化学組成にNを利用している。Nは、Crと共に合金中に存在すると窒化物を形成して強度および耐食性などの特性を劣化させるという問題がある。さらに、二相ステンレス鋼の溶接では、「シグマ相」として知られる金属間化合物相が、冷却速度が遅い熱影響部(HAZ)に形成される。このシグマ相は、CrおよびMoを含有する硬くて過飽和の金属間化合物相である。シグマ相の周りの領域は、CrおよびMoが欠乏して弱くなり、耐食性が低下する。多くの場合、二相ステンレス鋼は、このシグマ相を低減または除去するために焼鈍および急冷プロセスを必要とする。
【0006】
二相ステンレス鋼の展伸材または鋳造材では、鋼はフェライト鋼として凝固し、合金の冷却中にオーステナイト相がフェライトから析出する。冷却速度により、組織に析出するオーステナイトおよび何らかの金属間化合物相の割合が決定されるので、鋳造後または熱処理において冷却速度は重要である。
【0007】
二相ステンレス鋼展伸材(特に、二相ステンレス鋼「熱間圧延」材)は、1930年代から工業用途で一般的であったが、粉末冶金(PM)産業ではほとんど使用されていなかった。二相ステンレス鋼ガスアトマイズ粉末が熱間等方加圧成形(HIP)条件で使用されるいくつかの用途は存在する。ガスアトマイズによって製造された粉末は、球状の形態を有する。この粉末は、従来のプレスおよび焼結用途にはあまり適していない。球形のためにプレスおよび焼結グリーン体を取り扱うために必要とされるグリーン強度が不十分であるからである。水アトマイズで製造された粉末などの不規則な形状の粉末は、その不規則な形状が粉末粒子どうしを結合する傾向があるので、はるかに大きなグリーン強度を有する。現在、二相ステンレス鋼焼結体を製造するために利用可能な水アトマイズ・ステンレス鋼粉末は無い。ガスアトマイズ粉末および展伸鋼に現在使用されている化学組成は、オーステナイトとフェライトとのバランスを達成し、必要な機械的強度を達成するための主要な合金元素としてNを使用する。粉末にNを含有させると、粉末の硬さが増加し、従来のプレスおよび焼結用途での圧縮性が低下する。これによりグリーン密度が低下し、続いて焼結密度が低下する可能性がある。
【0008】
水アトマイズ粉末から製造された二相ステンレス鋼焼結体を開発するためのいくつかの試みがなされてきた。Lawleyら(非特許文献1)は、引張強さが578MPaの同等グレードのAISI 329およびAISI 2205の開発を試みた。Dobrzanskiら(非特許文献2)は、フェライト粉末とオーステナイト粉末を混合して、引張強度650MPaの二相組織を製造した。同グループは、電気化学的方法で二相ステンレス鋼の腐食特性をも研究し、二相ステンレス鋼がそれらのオーステナイト対応物よりも優れた耐食性を示すと結論付けた(非特許文献3)。合金含有量が高いために、これらの鋼は組成および加工パラメータに敏感である。これらの合金はシグマ、カイおよびガンマプライムとして知られる金属間相を形成する。これらの金属間相はMo、W、N、NiおよびCrに富み、機械的特性および腐食特性の両方を低下させる。シグマ相は700℃~1000℃の範囲の温度で形成されるのに対し、カイ相は300℃~450℃の範囲で形成される。ガンマ(オーステナイト)相は約600℃で形成し始める可能性がある。
【0009】
二相ステンレス鋼展伸材の典型的な組成は、例えば、SAF2205に対して、21~23重量%のCr、4.5~6.5重量%のNi、2.5~3.5重量%のMo、および0.08~0.2重量%のNを含むFeである。この組成に近い二相ステンレス鋼組成については多数の特許がある。ほとんどすべての二相ステンレス鋼は、耐食性および強度の向上のためにN成分に依存している。これまでのところ、焼結粉末冶金(PM)二相ステンレス鋼の商業的用途は、主にHIPプロセスに使用できるガスアトマイズ微粉末の使用に限定されている。従来のPM用途に低コストの水アトマイズ粉末を使用する際の主な障害は、Nの増加、および焼結中の冷却速度による金属間化合物および炭化物の析出の可能性である。また、従来の焼結では、自由エネルギーを増加させ、そしてフェライト・マトリックスでのオーステナイト相析出速度を促進するためにいくつかの湿潤剤または低温溶融成分を必要とする。
【0010】
特許文献には、二相ステンレス鋼焼結組織を開示するいくつかの文献がある。
【0011】
特許文献1(Erasteel)は、ガスアトマイズ粉末から製造され、最大で0.030重量%のC、4.5~6.5重量%のNi、0.21~0.29重量%のN、3.0~3.5重量%のMo、21~24重量%のCr、および任意成分として0~1.0重量%のCu、0~1.0重量%のW、0~2.0重量%のMn、0~1.0重量%のSiのうちの1つ以上を含み、Nは0.01×Cr重量%以上であり、残部元素はFeおよび不可避的不純物である化学組成を有する焼結二相ステンレス鋼を開示している。
【0012】
特許文献2(Sumitomo)は、マトリックス相と分散相とを含む焼結ステンレス鋼および製造方法を開示している。分散相はオーステナイト冶金組織であり、マトリックス相全体に分散している。マトリックス相は、分散相とは異なる鋼組成を有するオーステナイト冶金組織またはフェライト-オーステナイト二相ステンレス鋼からなる。
【0013】
特許文献3(Sumitomo)は、マトリックス相と分散相とを含む焼結ステンレス鋼の製造を開示している。この方法は、フェライト系ステンレス鋼粉末を、オーステナイト系ステンレス鋼粉末、オーステナイト-フェライト系二相ステンレス鋼粉末、オーステナイト-マルテンサイト系二相ステンレス鋼粉末、およびオーステナイト-フェライト-マルテンサイト系三相ステンレス鋼粉末から選択される粉末と混合する工程を含む。粉末混合物は、圧縮して焼結される。
【0014】
特許文献4(Sumitomo)は、0.10~0.35重量%のN含有量を有し、ステンレス鋼焼結体と同じ化学組成を有するガスアトマイズ鋼粉末から製造されたステンレス鋼焼結体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】スウェーデン特許第538577号明細書
【文献】欧州特許出願公開第0167822号明細書
【文献】特開平5-263199号公報
【文献】欧州特許第0534864号明細書
【非特許文献】
【0016】
【文献】A. Lawley, E. Wagner, C.T. Schade, Advances in Powder Metallurgy and Particulate Materials(粉末冶金および粒状材料の進歩)、2005年、第7部、第78頁~89頁
【文献】L.A. Dobrzanski, Z. Brytan, M. Actis Grande, M. Rosso, Archives of Materials Science and Engineering(材料科学と工学のアーカイブ), 第28巻、 第4号、2007年4月、第217頁~223頁
【文献】L.A. Dobrzanski, Z. Brytan, M. Actis Grande, M. Rosso, Journal of Achievements in Materials and Manufacturing Engineering(材料および製造工学における業績のジャーナル), 第17巻、第1-2号、第317頁~320頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
入手可能なほとんどすべての二相グレードは、組織のオーステナイト-フェライトバランスの均衡を保ち強度を高めるために、0.18~0.40重量%のNを含有する。N含有量は上記特性を助長するが、多くの用途における二相ステンレス鋼の使用を制限する窒化クロムを形成することにより、熱処理および溶接作業などの後処理において障害となる可能性がある。粉末形態では、Nは粉末の硬さを増加させるので、プレスおよび焼結用途にはあまり適さない。
【0018】
本発明の具体例によれば、化学組成におけるNの使用を回避することによって窒化物に関する問題を克服し、代替元素によって相平衡および強度を達成する。例えば、その組成は、0.10重量%未満のN、または0.07重量%未満のN、または0.06重量%未満のN、または0.05重量%未満のN、または0.04重量%未満のN、または0.03重量%未満のNを有する。本発明の具体例によれば、従来のプレスおよび焼結用途に使用可能な適度な圧縮性を有する水アトマイズ粉末の製造が可能になる。この組成物の具体例は、主にMo含有量が少ないため、焼結中または焼鈍中の冷却速度に関係なく、有害な「シグマ」相の析出を減少させることができる。したがって、「シグマ」相を排除するために必要な焼結後熱処理を最小限に抑え、溶接中のシグマ相析出を最小限に抑える。
【0019】
この組成物の具体例は、ガスアトマイズによって形成された場合に同様の利点を提供することができる。
【0020】
従来のPM以外に、組成物の具体例は、鋳造、直接金属堆積、および付加製造技術で加工されたときに同様の特性をもたらす。
【0021】
本発明の特定の具体例の1つの目的は、焼結サイクル中に二相組織を生成する従来のPM用の合金粉末を提供することである。
【0022】
本発明の特定の具体例の他の目的は、二相焼結ステンレス鋼を提供することである。
【0023】
本発明の特定の具体例の他の目的は、430Lなどのフェライト鋼よりも少なくとも35%高い引張強度を得ること、および316Lなどのオーステナイト鋼と比較して2倍の耐食性を得ることである。
【0024】
本発明の特定の具体例のさらに他の目的は、焼結後熱処理を必要とせずに二相焼結ステンレス鋼を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記の目的は、以下の観点および具体例によって達成することができる。
【0026】
本発明の第1の観点によれば、重量%で、
最大で0.1%のC、
0.5~3%のSi、
最大で0.5%のMn、
20~27%のCr、
3~8%のNi、
1~6%のMo、
最大で3%のW、
最大で0.1%のN、
最大で4%のCu、
最大で0.04%のP、
最大で0.04%のS、
最大で0.8%の不可避の不純物、
任意成分として最大で0.004%のB、最大で1%のNb、最大で0.5%のHf、最大で1%のTi、最大で1%のCoのうちの1つ以上、および
残部であるFeを
含むか、またはそれらからなるステンレス鋼粉末が提供される。
【0027】
不可避不純物は、列挙された元素、すなわちC、Si、Mn、Cr、Ni、Mo,W、N、Cu、P、S、B、Nb、Hf、TiまたはCoは含まない。不可避の不純物は、鋼の製造中に管理できないか又は管理が困難な不純物を含むことができる。不可避不純物は、使用原材料からも、工程からも混入する可能性がある。不可避不純物には、Al、O、Mg、Ca、Ta、V、TeまたはSnが含まれる。不可避不純物は、最大で0.8%、最大で0.6%、最大0.3%含有できる。不可避不純物は、Oの場合もある。Oは、最大で0.6%、最大で0.4%または最大0.3%含有できる。他の不可避不純物は、最大で0.2%含有できるSnである。本明細書では、0.2%超のSn含有量は、不可避の不純物ではなく、意図的に添加されたものとして見なされる。
【0028】
第1の観点の好ましい一具体例によれば、重量%で、
最大で0.06%のC、
1~3%のSi、
最大で0.3%のMn、
23~27%のCr、
4~7%のNi、
1~3%のMo、
0.8~1.5%のW、
最大で0.07%のN、
1~3%のCu、
最大で0.04%のP、
最大で0.03%のS、
最大で0.8%の不可避の不純物、
任意成分として最大で0.004%のB、最大で1%のNb、最大で0.5%のHf、最大で1%のTi、最大で1%のCoのうちの1つ以上、
残部であるFe
からなるステンレス鋼粉末が提供される。
【0029】
第1の観点の他の好ましい一具体例によれば、重量%で、
最大で0.03%のC、
1.5~2.5%のSi、
最大で0.3%のMn、
24~26%のCr、
5~7%のNi、
1~1.5%のMo、
1~1.5%のW、
最大で0.06%のN、
1~3%のCu、
最大で0.02%のP、
最大で0.015%のS、
最大で0.8%の不可避の不純物、
任意成分として最大で0.004%のB、最大で1%のNb、最大で0.5%のHf、最大で1%のTi、最大で1%のCoのうちの1つ以上、および
残部であるFe
を含むステンレス鋼粉末が提供される。
【0030】
第1の観点の具体例によれば、粉末はフェライト系である。例えば、99.5%のフェライト系である。(例えば、最大で0.5%の)わずかな量のオーステナイトは、許容可能である。
【0031】
第1の観点に係る具体例では、粉末は水アトマイズによって製造される。
【0032】
第1の観点の具体例によれば、粉末はガスアトマイズによって製造される。
【0033】
第1の観点の具体例によれば、粉末の粒径は53μm~18μmである。すなわち、粒子の少なくとも80重量%が53μm未満であり、粒子の最大で20重量%が18ミμm未満である。
【0034】
第1の観点の具体例によれば、粉末の粒径は26μm~5μmである。すなわち、粒子の少なくとも80重量%が26μm未満であり、粒子の最大で20重量%が5μm未満である。
【0035】
第1の観点の具体例によれば、粉末の粒径は150μm~26μmである。すなわち、粒子の少なくとも80重量%が150μm未満であり、粒子の最大で20重量%が26μm未満である。
【0036】
本発明の第2の観点によれば、第1の観点に係るステンレス鋼粉末を製造する方法が提供される。この方法は、
第1の観点に係るステンレス鋼粉末の化学組成に対応する化学組成を有する溶融金属を提供するステップと、
溶融金属の流れに水アトマイズを施すステップと、
得られたステンレス鋼粉末を回収するステップとを含む。
【0037】
本発明の第3の観点によれば、第1の観点およびその具体例に係る化学組成を有する二相ステンレス鋼焼結体が提供される。
【0038】
第3の観点の具体例によれば、Ni当量(Nieq)は5<Nieq<11であり、Cr当量(Creq)は27<Creq<38である。
【0039】
第3の観点の具体例によれば、耐孔食指数(PREN)は28<PREN<33である。
【0040】
第3の観点の具体例によれば、二相ステンレス鋼焼結体のミクロ組織は、フェライト相内に析出したオーステナイト相によって特徴付けられる。
【0041】
第3の観点の具体例によれば、二相ステンレス鋼焼結体のミクロ組織は、30~70%のオーステナイトと、30~70%のフェライトとを含む。第3の観点の具体例によれば、二相ステンレス鋼焼結体のミクロ組織は、少なくとも99.5%のオーステナイトと、フェライト(例えば、少なくとも99.8%のオーステナイトとフェライト)を含む。オーステナイトおよびフェライトの百分率は、ASTM E 562-11およびASTM E 1245?03によって決定することができる。
【0042】
第3の観点の具体例によれば、二相ステンレス鋼焼結体のミクロ組織は、シグマ相および窒化物を含まないこと(例えば、1%未満のシグマ相および窒化物を有すること)によって特徴付けられる。
【0043】
本発明の第4の観点によれば、焼結ステンレス鋼を製造する方法が提供される。この方法は、
第1の観点に係るステンレス鋼粉末を提供するステップと、
任意選択で、ステンレス鋼粉末を潤滑剤および任意選択で他の添加剤と混合するステップと、
ステンレス鋼粉末または混合物を圧密化処理してグリーン体を形成するステップと、
圧縮されたグリーン体を不活性雰囲気または還元雰囲気中または真空中で1150℃~1450℃の温度(好ましくは、1275℃~1400℃の温度)で5分~120分間焼結を行うステップと、
焼結体を周囲温度まで冷却するステップとを含む。
【0044】
不活性雰囲気の例には、窒素、アルゴン、およびアルゴンを充填した真空が含まれる。
【0045】
還元雰囲気の例は、水素雰囲気、水素と窒素の混合物の雰囲気、または解離したアンモニアの雰囲気である。限定的な例では、二酸化炭素または一酸化炭素雰囲気を使用することができる。
【0046】
第4の観点の具体例によれば、上記圧密化処理は、
金型内で最大で900MPaの圧縮圧力で一軸圧縮を行い、グリーン体を形成するステップと、
得られた圧縮されたグリーン体を金型から取り出すステップとを含む。
【0047】
第4の観点の具体例によれば、上記圧密化処理は、
金属射出成形(MIM)、熱間等方加圧成形(HIP)、またはバインダ噴射などの付加製造技術のうちの1つを含む。
【0048】
第4の観点に係る方法は、レーザ粉末床溶融(L?PBF)、直接金属レーザ焼結(DMLS)、または直接金属堆積(DMD)のうちの1つを含むことができる。
【0049】
第4の観点の具体例によれば、強制冷却または急冷は、冷却ステップから除外される。
【0050】
合金元素の影響
ステンレス鋼の一般的な合金元素の効果は周知である。Crはステンレス鋼の主要元素である。Crは表面にCr2O3層を形成し、酸素がCr2O3層を通過することを防ぎ、それにより耐食性を向上させる。Niはステンレス鋼の特性に影響を与える他の主要元素である。Niは鋼の強度と靭性を向上させ、またCrと共に存在すると耐食性を高める。MoおよびWは両方とも、Niと共に存在すると強度および靱性を付与する。Moは、CrおよびNiと共に耐食性も向上させる。Siは、脱酸剤として作用し、溶融中に鋼中でOとの結合を防止する。Siは、強力なフェライト形成元素でもある。Cuはオーステナイト安定化元素である。Cuは、ステンレス鋼の耐食性も向上させる。特に従来のPMでは、Cuは液相焼結を促進することによって焼結を助ける。
【0051】
本発明の具体例によれば、ステンレス鋼体だけでなく、二相ステンレス鋼焼結体の製造に適した粉末が提供される。粉末およびステンレス鋼焼結体は、低いか又は無視できる程度のN含有量を有する。これにより、ステンレス鋼焼結体の製造中に有害な窒化物が形成されるという問題が解消される。N含有量が低いことにより妥当な圧縮性を有する水アトマイズ粉末を製造することが可能になるので、ステンレス鋼焼結体は、水アトマイズ粉末を圧縮および焼結することにより製造されることが好ましい。
【0052】
Moは通常、ステンレス鋼に含有され、均一腐食および局部腐食の両方に対する耐食性を強く促進する。Moはフェライト組織を強く安定化させる。同時に、Moは、フェライト-オーステナイト粒界にMoに富む「シグマ」相および「カイ」相を析出させる傾向がある。これらは有害な相であり、強度と耐食性に悪影響を及ぼす。しかし、本発明の粉末の具体例ではMo含有量が低いために、どの冷却速度においてもシグマ相を形成する可能性が減少し、焼鈍の後処理熱処理の必要性が排除または低減される。これは、二相ステンレス鋼の一般的な製造方法である溶接作業中にシグマ相が形成されない傾向があることをも意味する。
【0053】
Crは、ステンレス鋼に基本的な耐食性を付与し、耐高温腐食性を向上させる。
【0054】
Niは、オーステナイト組織を促進し、一般的に延性および靭性を高める。Niはまた、ステンレス鋼の腐食速度を低下させる有利な作用を有する。
【0055】
Cuは、オーステナイト組織を促進する。本発明の粉末がCuの存在は、液相焼結を可能にすることによって焼結プロセスを容易にする。
【0056】
Wは、耐孔食性を向上させると予想される。
【0057】
Siは強度を増加させ、フェライト組織を促進する。それは、高温および低温での強酸化性溶液中での耐酸化性も高める。
【0058】
本発明の特定の具体例に係る粉末に含有されるとき、B、Nb、Hf、Ti、Coは特性を向上させることができる。少量のB添加は液相焼結を助長する可能性がある。しかし、過剰のBは、ホウ化物を形成する可能性があり、機械的特性および腐食特性の両方に有害である。NbおよびHfが存在する場合、炭素と優先的に結合して微細炭化物を形成して、耐食性のためにCrを自由にさせ、ミクロ組織を安定化することができる。ステンレス鋼中のTiは、引張強度および靭性を増大させることができる。Coは、高温での機械的特性を高める。
【0059】
C、Mn、SおよびPなどの元素は、粉末の圧縮性および/または焼結部材の機械的特性および腐食防止特性に様々な程度に悪影響を及ぼす可能性があるので、本発明の具体例の粉末においては、できるだけ低いレベルに保たれるべきである。
【0060】
ここで不可避不純物として指定される他の元素は、本発明に係る粉末の0.8重量%の含有量まで許容できる。
【0061】
本発明の具体例に係る粉末の組成は、製造された粉末が粉末形態で完全に(例えば、少なくとも99.5%)フェライト組織を有し、焼結サイクル中にオーステナイト相が析出するように設計されている。これは、焼結パラメータを調整することによってフェライトとオーステナイトとの比率を制御することが可能になるだろう。
【0062】
Ni当量およびCr当量は、以下の実験式に基づいて計算される。
Creq=Cr+2Si+1.5Mo+0.75W
Nieq=Ni+0.5Mn+0.3Cu+25N+30C
ここで、Cr、Niなどは、重量%で表した合金中の各元素のレベルである。
【0063】
さらに、耐孔食指数は、次のように計算される。
PREN=Cr+3.3Mo+16N
ここで、Cr、Mo、およびNは、重量%で表した合金中の各元素のレベルである。
【0064】
組成は、5<Nieq<11および27<Creq<38となるように目標とされる。これにより、合金はシェフラー図のフェライトと二相領域との境界に存在する。この時点で、合金はほぼ完全にフェライト系(例えば、少なくとも99.5%)である。Mo、W、およびSiのような元素は、フェライト・マトリックス中で過飽和になっている。
【0065】
本発明の具体例による粉末は、従来の粉末製造方法によって製造することができる。そのような方法は、原料の溶解および後続の水アトマイズまたはガスアトマイズを包含し、すべての元素が鉄マトリックスに均一に分布している、いわゆるプレアロイ粉末を形成することができる。2種以上の粉末が混合されているプレミックス粉末とは対照的に、プレアロイ粉末を用いる主な利点は、偏析が回避されることである。偏析は、機械的特性、耐食特性などのばらつきを引き起こす虞がある。
【0066】
焼結体の製造に使用される場合、本発明の具体例による粉末は、従来の一軸圧縮装置内で最大で900MPaの圧縮圧力で圧縮することができる。
【0067】
従来の一軸圧縮で使用されるステンレス鋼粉末の適切な粒径分布は、粉末の粒径が53~18μm、すなわち粒子の少なくとも80重量%が53μm未満であり、最大で20重量%の粒子が18μm未満である。本発明の具体例による粉末は、圧縮前に、最大で1重量%の含有量で、アクラワックス、ステアリン酸リチウム、イントラルブなどの従来の潤滑剤(これらに限定されない)と混合することができる。他の添加剤としては、最大で0.5重量%で混合されるCaF2、白雲母、ベントナイトまたはMnSなどの被削性向上剤がある。
【0068】
金属射出成形(MIM)、熱間等方加圧成形(HIP)、押出し加工、または付加製造技術(例えば、バインダ噴射、レーザ粉末床溶融(L-PBF)、直接金属レーザ焼結(DMLS)、または直接金属蒸着(DMD))などの他の圧密化技術の方法を利用してもよい。
【0069】
MIMプロセスでは、使用されるステンレス鋼粉末の適切な粒径分布は、粉末の粒径が26μm~5μm、すなわち粒子の少なくとも80重量%が26μm未満であり、粒子の最大で20重量%が5μm未満である。
【0070】
HIPまたは押出しプロセスに使用されるステンレス鋼粉末の適切な粒径分布は、粉末の粒径が150μm~26μm、すなわち粒子の少なくとも80重量%が150μm未満であり、粒子の最大で20重量%が26μm未満である。
【0071】
粒径分布は、ISO 4497:1983に従う従来の篩分け操作またはISO 13320:1999に従うレーザ回折(Sympatec)によって測定することができる。
【0072】
圧縮または圧密化の後、圧縮または圧密化された物体を1150℃~1450℃の範囲の十分に高い温度(好ましくは、1275℃~1400℃の範囲の十分に高い温度)で5分~120分間焼結を行う。焼結される部材の形状およびサイズに応じて、10分~90分または15分~60分などの他の焼結時間を用いてもよい。焼結雰囲気は、真空、不活性、または還元性(例えば、水素雰囲気、水素と窒素の混合雰囲気、または解離したアンモニア)とすることができる。焼結プロセス中に、フェライト・マトリックス中の過飽和元素がオーステナイト相として析出する。オーステナイトは、粒界で析出し始め、さらに焼結すると成長し、粒内に析出する。
【0073】
他の既知の二相ステンレス鋼材料とは対照的に、本発明の具体例の組成物は、高温からの冷却の間に、冷却速度にかかわらず、シグマ相または他の硬くて有害な相(例えば、カイ相および窒化物)を形成するべきではない。例えば、シグマ相または他の硬くて有害な相の量は0.5%未満である。したがって、強制冷却または急冷を施す必要がない。これに関連して、強制冷却は、焼結体が大気圧よりも高い圧力で冷却ガスに曝されることを意味する。急冷とは、焼結体を液体冷却媒体に浸すことを意味する。
【0074】
図1に示すようなミクロ組織は、典型的にはフェライトとオーステナイトを含有して形成されるであろう。両方の相が存在すると、機械的特性および腐食特性が向上する。現在知られている二相ステンレス鋼にとって当然であるシグマおよびカイなどの有害な相は、冷却中に形成されないか、または著しく制限された量で形成される。別の結果として、この特性は、熱影響部(HAZ)が様々な冷却速度を経験する溶接中のそのような相の形成を低減または排除するであろう。別の結果として、この組成物は、鋳造、押出し、MIM、HIP、および付加製造などのプロセス中のそのような相の析出を制限するであろう。
【0075】
本発明の合金の具体例は、既知の二相ステンレス鋼合金を用いて製造された鍛造およびPM製品に匹敵するかそれを超える機械的特性及び腐食特性を示している。
【0076】
要約すると、本発明の具体例の特定の利点には、機械的特性および腐食特性に影響を及ぼす有害なシグマ相およびカイ相を析出させる傾向が少ないことである。これは溶接において特に興味深い。二相ステンレス鋼部品のほとんどは、形成後に溶接される。溶接においては、HAZごとに冷却速度が異なる。現在知られている合金中に存在する窒素では、このような冷却速度により、窒化物と共にシグマ相およびカイ相が析出する傾向がある。これらの相が存在しないと、通常1200℃を超える温度での焼鈍とそれに続く急冷を含む後熱処理を省略することができる。このために、部品を大きな構造物に溶接することはほとんどの場合困難になり、二相ステンレス鋼の使用が制限される。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【
図1】本発明のステンレス鋼焼結体のミクロ組織。オーステナイト相およびフェライト相が焼結条件で等しい割合で存在しており、黒い斑点は気孔である。
【
図2】300合金および400合金(SAEグレード)と比較した本発明のステンレス鋼焼結体の引張強度(UTS)および腐食特性の比較。
【
図3】異なる焼結条件における本発明のステンレス鋼焼結体の機械的性質の比較。
【発明を実施するための形態】
【0078】
実施例1
325メッシュ未満、すなわち95重量%の粒子が45μmの篩を通過した粒径を有するステンレス鋼粉末を、潤滑剤としての0.75重量%のアクラワックス(Acrawax)と混合した。ステンレス鋼粉末の化学分析は、0.01重量%のC、1.52重量%のSi、0.2重量%のMn、0.013重量%のP、0.008重量%のS、24.9重量%のCr、2.0重量%のCu、1.3重量%のMo、1.0重量%のW、0.05重量%のN、残部がFeであった。
【0079】
得られた粉末混合物を一軸プレスで圧縮し、750MPaの圧縮圧力でASTM B528?16に従って横方向破断強度(TRS)バーに圧縮した。次いで、プレスしたTRSバーを100%水素雰囲気中で1343℃で7℃/分のランプ速度で45分間焼結し、続いて5℃/分の速度で炉冷した。次に試料を取り付け、ミクロ組織観察のために研磨した。次いで、研磨した試料を、33%NaOHを用いて3Vで15秒間電気エッチングした。NaOHを用いた電気エッチングにより、フェライト・マトリックスの粒界で、フェライト相が黄褐色、オーステナイトが白色(影響なし)、シグマ相が濃いオレンジ色に見える。観察されたミクロ組織は、
図1に示す通りである。ミクロ組織は、約50/50のフェライト(黄褐色)とオーステナイト(白色)の混合物を示す。ミクロ組織にシグマ相(濃いオレンジ色)の兆候は見られない。黒い斑点は試料中の気孔である。
【0080】
実施例2
比較試料として、本発明の具体例に係る様々なステンレス鋼粉末を水アトマイズによって製造した。ステンレス鋼粉末の化学組成を表1に示す。各種化学組成を有するステンレス鋼溶湯を誘導炉で溶解し、その溶融金属を水流に通して鋼粉末を得た。次いで、得られた粉末を乾燥し、-325メッシュに篩い分けした。篩にかけた粉末は45μm以下、すなわち粉末粒子の95重量%は45μm未満であった。次に粉末を0.75重量%の潤滑剤アクラワックスと混合した。
【0081】
機械的特性(すなわち、引張強さ(UTS)、降伏強さ(YS)および伸び)を試験するために、ASTM B925-15によるTS試料(ドッグボーン)を750MPaの圧縮圧力でプレスした。次いで、バーを実施例1に記載したように焼結した。次いで焼結したバーをASTM E8/E8M-16aに従って機械的特性を試験した。焼結試料中のオーステナイトとフェライトとの比率を調べるために、金属組織学的観察も行った。試験結果を、鍛造(DSS329鍛造)、およびガスアトマイズとヒップ条件(DSS329PM GA)での既知の二相ステンレス鋼の試料の公表データと比較して表2に示す。
【0082】
表2は、本発明に係るステンレス鋼粉末が、所望の機械的特性を有する焼結二相ステンレス鋼を製造するために使用できることを示している。
【表1】
【表2】
【0083】
実施例1の組成を有する本発明の粉末の一具体例は、機械的特性に対する効果を示すために、以下の様々な温度および雰囲気で焼結した。そのデータを
図3にプロットする。
A.水素ガス中で45分間、1371℃(2500°F)
B.水素ガス中で45分間、1343℃(2450°F)
C.水素ガス中で60分間、1343℃(2450°F)
D.水素ガス中で60分間、1260℃(2300°F)
E.水素ガス中で60分間、1232℃(2250°F)
F.解離したアンモニア中で60分間、1232℃(2250°F)
【0084】
実施例3
腐食試験を実施するために、オーステナイトおよびフェライトグレードの代表として、実施例1のようなTRSバーを316Lおよび434L用のバーと共に製造した。次いで、試料をASTM B895-16に従って室温で5%NaCl溶液中での腐食について試験した。腐食は、試料表面の腐食の発生までにかかる時間によって比較した。比較データは、これらの試料のUTSとYSと共に
図2にプロットする。
図3の円の直径は、その試料の腐食開始に要した時間を表す。本発明の粉末の腐食試験は、腐食の兆候がなく、316L試料の腐食開始時間の3倍を超えたので3700時間で中止した。