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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】透明封止部材
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/48 20100101AFI20220222BHJP
   C03C 3/06 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
H01L33/48
C03C3/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019538830
(86)(22)【出願日】2017-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2017031212
(87)【国際公開番号】W WO2019043845
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2020-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】菊池 芳郎
(72)【発明者】
【氏名】柴田 宏之
【審査官】大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-143324(JP,A)
【文献】特開2017-108129(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0127576(US,A1)
【文献】特開2016-213213(JP,A)
【文献】特開平09-225319(JP,A)
【文献】特開平05-139778(JP,A)
【文献】特開2015-124098(JP,A)
【文献】特開2005-145792(JP,A)
【文献】特開平07-215735(JP,A)
【文献】特開2003-026440(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00 - 33/64
C03C 1/00 - 14/00
G02B 1/00 - 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの光学素子(12)と、前記光学素子(12)が実装された実装基板(14)とを有する光学部品(16)に用いられ、前記実装基板(14)と共に前記光学素子(12)を収容するパッケージ(18)を構成する石英ガラス製の透明封止部材(10)であって、
表面部(22)および内部(24)は共に石英ガラス中にアルミニウムを含有し、
前記表面部(22)のアルミニウムの濃度が、前記内部(24)のアルミニウムの濃度よりも高く、
前記表面部(22)は、表面(26)から深さ0.05~0.20μmの領域(Za)を示し、
前記内部(24)は、表面(26)から深さ1~5μmの領域(Zb)を示すことを特徴とする透明封止部材。
【請求項2】
請求項1記載の透明封止部材において、
前記表面部(22)のアルミニウムの濃度をA(ppm)、内部(24)のアルミニウムの濃度をB(ppm)としたとき、
10≦A/B≦200
であることを特徴とする透明封止部材。
【請求項3】
請求項1記載の透明封止部材において、
前記表面部(22)のアルミニウムの濃度をA(ppm)、内部(24)のアルミニウムの濃度をB(ppm)としたとき、
15≦A/B≦60
であることを特徴とする透明封止部材。
【請求項4】
請求項1記載の透明封止部材において、
前記表面部(22)のアルミニウムの濃度が500~2000ppmであり、
前記内部(24)のアルミニウムの濃度が10~100ppmであることを特徴とする透明封止部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばLED(発光ダイオード)、LD(半導体レーザー)等の光学部品に用いられる透明封止部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、殺菌や浄化用途に紫外線を出射する発光素子(紫外線LED)を用いる方式が普及しつつある。紫外線LEDデバイスには、発光素子を外気や水分から保護するために、透明封止部材が必要である。この透明封止部材には紫外線に対する透過性や耐久性の観点からガラスや石英ガラスが使用される。
【0003】
特許第6068411号公報及び特表2009-532200号公報には、紫外線LEDを用いた水浄化装置が開示されている。特許第5243806号公報には透光性の板材と半球状レンズが一体となった透明封止部材が開示されている。
【発明の概要】
【0004】
一般に、汚水等の液体浄化の用途においては、例えばタンパク質系や有機系の汚染物質が透明封止部材の表面に付着する場合がある。このような場合、光学素子から出射された例えば紫外線の光量が透明封止部材の表面で減少し、紫外線による殺菌効果が低下するという問題がある。
【0005】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、下記効果を奏する透明封止部材を提供することを目的とする。
(a) 酸素欠陥による透過率の低下を抑えることができる。
(b) タンパク質系や有機系等の汚染物質が付着し難く、汚染物質による殺菌効果の低下を抑制することができる。
【0006】
[1] 本発明に係る透明封止部材は、少なくとも1つの光学素子と、前記光学素子が実装された実装基板とを有する光学部品に用いられ、前記実装基板と共に前記光学素子を収容するパッケージを構成する石英ガラス製の透明封止部材であって、表面部のアルミニウムの濃度が、内部のアルミニウムの濃度よりも高いことを特徴とする。
【0007】
表面部のアルミニウム濃度を、内部のアルミニウム濃度よりも高くすることで、酸素欠陥による透過率の低下を抑えることができると共に、透明封止部材の表面への有機物や微粒子の付着を抑制することができる。
【0008】
[2] 本発明において、前記表面部のアルミニウムの濃度をA(ppm)、内部のアルミニウムの濃度をB(ppm)としたとき、10≦A/B≦200であることが好ましい。
【0009】
[3] 本発明において、前記表面部のアルミニウムの濃度をA(ppm)、内部のアルミニウムの濃度をB(ppm)としたとき、15≦A/B≦60であることが好ましい。
【0010】
[4] 本発明において、前記表面部のアルミニウムの濃度が500~2000ppmであり、前記内部のアルミニウムの濃度が10~100ppmであることが好ましい。
【0011】
[5] 本発明において、前記表面部は、表面から深さ0.05~0.20μmの領域であり、前記内部は、表面から深さ1~5μmの領域である。
【0012】
以上説明したように、本発明に係る透明封止部材によれば、下記効果を奏する。
(a) 酸素欠陥による透過率の低下を抑えることができる。
(b) タンパク質系や有機系等の汚染物質が付着し難く、汚染物質による殺菌効果の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1Aは本実施の形態に係る透明封止部材を示す縦断面図であり、図1Bは透明封止部材が封止されて構成された光学部品の一例を示す縦断面図である。
図2】透明封止部材の表面部及び内部を示す説明図である。
図3】レンズ形状を有する透明封止部材が封止されて構成された光学部品の一例を示す縦断面図である。
図4】実施例1、2及び3並びに比較例1、2及び3における製法、Al濃度(表面部及び内部)、初期全光線透過率及び浸漬後の全光線透過率を示す表1である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る透明封止部材の実施の形態例を図1A図4を参照しながら説明する。
【0015】
本実施の形態に係る透明封止部材10は、図1Aに示すように、例えば平板状に形成されている。透明封止部材10の外形形状は、例えば円筒状、四角形状、多角筒状等である。透明封止部材10は例えば石英ガラスにて構成される。
【0016】
この透明封止部材10は、図1Bに示すように、例えば紫外光を出射する少なくとも1つの光学素子12と、光学素子12が実装された実装基板14とを有する光学部品16に用いられ、実装基板14と共に光学素子12を収容するパッケージ18を構成する。
【0017】
実装基板14は、上面開口の凹部20を有し、凹部20の底部に光学素子12が実装される。透明封止部材10は、実装基板14の凹部20の上面開口を閉塞するように、実装基板14に封止される。実装基板14は例えばAlN(窒化アルミニウム)にて構成される。
【0018】
光学素子12は、図示しないが、例えばサファイヤ基板上に、量子井戸構造を具備したGaN系結晶層が積層されて構成されている。光学素子12の実装方法としては、例えば光出射面12aを透明封止部材10に対面させて実装する、いわゆるフェイスアップ実装を採用することができる。すなわち、光学素子12から導出された端子(図示せず)と、実装基板14上に形成された回路配線(図示せず)とを例えばボンディングワイヤ(図示せず)にて電気的に接続される。もちろん、光出射面12aを実装基板14に対面させて実装する、いわゆるフリップチップ実装も好ましく採用することができる。
【0019】
透明封止部材10の製法としては、粉末焼結法を好ましく採用することができる。例えば成形型にシリカ粉体と有機化合物とを含む成形スラリーを鋳込み、有機化合物相互の化学反応、例えば分散媒と硬化剤若しくは硬化剤相互の化学反応により固化させた後、成形型から離型する。その後、焼成することによって、透明封止部材10を作製することができる。
【0020】
透明封止部材10の寸法としては、高さが0.1~10mm、外が3.0~10mmである。なお、光学素子12の寸法としては、厚みが0.005~0.5mm、図示しないが、上面から見た縦の寸法が0.5~2.0mm、横の寸法が0.5~2.0mmである。
【0021】
そして、透明封止部材10は、図2に示すように、表面部22のアルミニウムの濃度(以下、Al濃度と記す)が、内部24のAl濃度よりも高い。ここで、透明封止部材10の表面部22は、表面26から深さ0.05~0.20μmの領域Zaを示し、内部24は、表面26から深さ1~5μmの領域Zbを示す。
【0022】
表面部22のAl濃度は500~2000ppmであり、内部24のAl濃度は10~100ppmである。また、表面部22のAl濃度をA(ppm)、内部24のAl濃度をB(ppm)としたとき、10≦A/B≦200であることが好ましく、さらに好ましくは、15≦A/B≦60である。
【0023】
このように、透明封止部材10は、表面部22のAl濃度を、内部24のAl濃度よりも高くしたので、以下に示す効果を奏する。
【0024】
すなわち、透明封止部材10の内部24のAl濃度が高い場合、酸素欠陥が増加することとなる。酸素欠陥は、紫外線を吸収することから、酸素欠陥による透過率の低下を抑えるためにも、透明封止部材10の内部24は、Al濃度が低い方がよい。
【0025】
一般に、汚水等の液体浄化の用途においては、例えばタンパク質系や有機系の汚染物質や微粒子が透明封止部材10の表面26に付着する場合がある。このような場合、光学素子12から出射された例えば紫外線の光量が透明封止部材10の表面26で減少し、紫外線による殺菌効果が低下するという問題がある。特に、透明封止部材10がレンズ形状等の複雑形状を有している場合には、液体が滞留しやすい部分があるため、上述した問題が顕著となる。
【0026】
透明封止部材10の表面部22のAl濃度が高い場合、シリカ(SiO)を構成するSiの一部がAlに置換される。Si(+4価)がAl(+3価)に置換されると、Alの周りは-1価となる。つまり、Al置換サイトは負に帯電する。つまり、透明封止部材10の表面26は負に帯電することとなる。上述した有機物や微粒子は、通常、水中では負に帯電しているため、負に帯電している透明封止部材10の表面26には有機物や微粒子が付着しにくくなる。
【0027】
従って、例えば図3に示すように、透明封止部材10がレンズ形状等の複雑形状を有し、部分的に液体が滞留しやすい部分があっても、透明封止部材10の表面26への有機物や微粒子の付着を抑制することができる。なお、図3に示す透明封止部材10は、実装基板14上に実装された光学素子12を周りから囲うように配置された環状の台座30と、台座30上に一体に形成されたレンズ体32とを有する。透明封止部材10の台座30には、下面開口の凹部34(収容空間)が形成されている。この凹部34に少なくとも光学素子12が収容される。
【0028】
このように、表面部22のAl濃度を、内部24のAl濃度よりも高くすることで、酸素欠陥による透過率の低下を抑えることができると共に、透明封止部材10の表面26への有機物や微粒子の付着を抑制することができる。
【0029】
[実施例]
次に、実施例1~3、比較例1~3について、透明封止部材10の表面部22及び内部24のAl濃度による影響を確認した。
【0030】
[実施例1]
実施例1に係る透明封止部材10は、図1Aに示す透明封止部材10と同様の構成を有する。
【0031】
(透明封止部材の作製)
実施例1に係る透明封止部材10の製造方法は以下の通りである。すなわち、原料粉末として平均粒径0.5μmのシリカ粉末100質量部、分散剤としてカルボン酸共重合体2質量部、分散媒としてマロン酸ジメチル49質量部、エチレングリコール4質量部、硬化剤として4’4-ジフェニルメタンジイソシアネート4質量部、及び触媒としてトリエチルアミン0.4質量部を混合したスラリーを調製した。シリカ粉末のAl濃度は70ppmであった。
【0032】
このスラリーを金属製の金型内に室温で流し込み、室温で一定時間放置した。次いで、金型から成形体を離型した。さらに、室温、次いで、90℃のそれぞれの温度にて一定時間放置して、シリカ粉末乾燥体を得た。なお、原料粉末の平均粒径は、堀場製作所製レーザー回折散乱式粒度分布測定装置LA-750を用いて測定した。
【0033】
作製したシリカ粉末乾燥体を、大気中500℃で仮焼した後、5~10L/minの水素ガスを導入しながら1600~1700℃で焼成し、緻密化及び透明化させて透明封止部材10を作製した。透明封止部材10の外は3.5mm角であり、高さは0.5mmである。
【0034】
[実施例2]
水素ガス量を実施例1よりも70%減らした点以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る透明封止部材10を作製した。
【0035】
[実施例3]
シリカ粉末のAl濃度が50ppmであったことと、水素ガス量を実施例1よりも50%減らした点以外は、実施例1と同様にして実施例3に係る透明封止部材10を作製した。
【0036】
[比較例1]
実施例1と同様にして透明封止部材10を作製した後、研磨加工によって表面部22を除去して比較例1に係る透明封止部材10を作製した。
【0037】
[比較例2]
溶融石英ガラスを研磨加工して、比較例2に係る透明封止部材10を作製した。
【0038】
[比較例3]
シリカ粉末のAl濃度が1300ppmになるようにアルミニウムエチレートを添加し、実施例3と同様にして透明封止部材10を作製した後、研磨加工によって表面から深さ1μmの領域を除去して比較例3に係る透明封止部材10を作製した。
【0039】
<評価方法>
(表面部及び内部のAl濃度)
実施例1~3、比較例1~3について、表面部22及び内部24のAl濃度を測定した。Al濃度の測定は、透明封止部材10の表面26からSIMS(二次イオン質量分析法)にて行った。
【0040】
(全光線透過率及び浸漬試験)
実施例1~3、比較例1~3について、浸漬試験を実施する前の全光線透過率を初期全光線透過率とした。波長280nmの紫外光を照射して、実施例1~3、比較例1~3の初期全光線透過率を測定した。全光線透過率の測定は、日本分光製の分光光度計を用いた。
【0041】
その後、浄水場から取得した原水が流通する系内に実施例1~3、比較例1~3を浸漬保持し、1ヶ月後に上記系から取り出して、上述と同様にして、実施例1~3、比較例1~3の全光線透過率を測定した。これを浸漬後の全光線透過率とした。
【0042】
(評価結果)
実施例1~3、比較例1~3における表面部22及び内部24のAl濃度、初期全光線透過率並びに浸漬後の全光線透過率を図4の表1に示す。
【0043】
(考察)
先ず、実施例1~3は、初期全光線透過率がいずれも91%と高かった。内部24のAl濃度が低かったことから、酸素欠陥による透過率の低下が抑えられたものと考えられる。
【0044】
また、実施例1~3は、浸漬後の全光線透過率がいずれも72%以上と高かった。表面部22のAl濃度が高かったことから、透明封止部材10の表面26への有機物や微粒子の付着が抑制されたものと考えられる。
【0045】
一方、比較例1及び2は、初期全光線透過率が高かったが、浸漬後の全光線透過率が低かった。これは、表面部22のAl濃度が低かったことから、透明封止部材10の表面26への有機物や微粒子の付着によって浸漬後の全光線透過率が低下したものと考えられる。
【0046】
比較例3は、浸漬後の全光線透過率が高かったが、初期全光線透過率が低かった。これは、内部24のAl濃度が高かったことから、透明封止部材10の酸素欠陥による透過率の低下が原因と考えられる。
【0047】
なお、本発明に係る透明封止部材は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
図1
図2
図3
図4