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特許7028893低温超塑性変形のためのチタニウム合金ベースのシート材
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  • 特許-低温超塑性変形のためのチタニウム合金ベースのシート材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】低温超塑性変形のためのチタニウム合金ベースのシート材
(51)【国際特許分類】
   C22C 14/00 20060101AFI20220222BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220222BHJP
   C22F 1/18 20060101ALN20220222BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
C22F1/00 604
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 650A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 694B
C22F1/00 694Z
C22F1/18 H
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019558569
(86)(22)【出願日】2017-04-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 RU2017000266
(87)【国際公開番号】W WO2018199791
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2020-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】513073577
【氏名又は名称】パブリックストックカンパニー “ヴイエスエムピーオー アヴィスマ コーポレーション”
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】レダー, ミハイール オットーヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】プザコフ, イゴール ユリエヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】タレンコヴァ, ナタリア ユリエフナ
(72)【発明者】
【氏名】ベレストフ, アレキサンダー ウラジミロヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ミトロポルスカヤ, ナタリア ゲオルギエヴナ
(72)【発明者】
【氏名】ブリッグス, ロバート デーヴィッド
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-274238(JP,A)
【文献】国際公開第2017/156401(WO,A1)
【文献】特表2014-523483(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0007281(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107858558(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 14/00
C22F 1/00
C22F 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で以下の元素含有量:4.5-5.5のAl、4.5-5.5のV、0.1-1.0のMo、0.8-1.5のFe、0.1-0.5のCr、0.1-0.5のNi、0.16-0.25のOを有し、残りがチタニウム及び不可避的不純物であり、5を上回るモリブデン構造等価物([Mo]eqiv.)及び8を下回るアルミニウム構造等価物([Al]equiv.)を有し;前記等価物の値が以下の式:
[Mo]eqiv.=[Mo]+[V]/1.5+[Cr]×1.25+[Fe]×2.5+[Ni]/0.8
[Al]eqiv.=[Al]+[O]×10+[Zr]/6
から計算されるチタニウム合金から作製される、775±10℃の温度で0.9から1.1のα/β体積分率を呈する超塑性特性を呈する低温超塑性成形のためのシート材。
【請求項2】
μm未満のサイズを有する結晶粒からなる構造を有する、請求項1に記載の低温超塑性成形のためのシート材。
【請求項3】
SPF過程の間のα相とβ相の間で拡散する合金元素の量が最小で0.5%に等しく、前記量が以下の関係式:
から決定され、式中:
Qは、SPFの間の材料中で拡散する合金元素の量(重量%)であり、
nは、材料中の合金元素のであり、
|Δm|は、SPF過程の間の、β相及びα相における合金元素含有量の絶対変動値(重量%)であり、
|Δm|は、式:
|Δm|=(mβ1-mα1)-(mβ2-mα2)(重量%)
から計算され、
ここで:
mβ1は、SPFの前の、β相の合金元素の含有量(重量%)であり、
mβ2は、SPFの後の、β相の合金元素の含有量(重量%)であり、
mα1は、SPFの前の、α相の合金元素の含有量(重量%)であり、
mα2は、SPFの後の、α相の合金元素の含有量(重量%)である、
請求項1又は2に記載の低温超塑性成形のためのシート材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示されるのは、シート材及びシート状半製品といった材料及び製品であり、このような材料及び製品はチタニウム合金を含み、この材料は、775℃の温度での低温超塑性成形(SPF)を含む方法による製品加工に適している。材料及び製品は、Ti-6Al-4V合金から作製されたシート製品の経費効率的な選択肢として使用されうる。
【背景技術】
【0002】
用語「超塑性成形」は、全般に、材料(合金)が塑性ひずみの従来の限界を超えて(500%超)超塑性的に成形される過程に適用される。SPFは、温度及びひずみ速度の限定された範囲内で超塑性特性を呈する特定の材料に適用されうる。例えば、チタニウム合金シートは、通常、約3・10-4-1のひずみ速度で約900から1010℃の温度範囲内の超塑性成形(変形)を受けることができる。
【0003】
製造の面から、SPFで成形温度が低下する結果、有意な利点が得られる。例えば、SPF成形温度の低下により、ダイコストの削減、ダイの耐用年数の延長が実現され、安価なスチールダイの導入が可能になる。加えて、酸素リッチ層(アルファの場合)の形成及びスケールが軽減され、したがって製品収率が向上し、化学的エッチングの必要性が低減するか又は排除される。加えて、SPF作業完了後により微細な結晶粒の存在が保持されるという利点により、変形温度の低下がもたらされ、それにより結晶粒の成長が抑制されうる。
【0004】
現在、チタニウム合金からのシート材の超塑性成形能を向上させるために二つの既知のアプローチが存在する。第1のアプローチには、わずか2μmから1μm、及びそれより小さな細粒を製造し、それにより結晶粒堺すべりを強化する特殊用途用熱機械処理の開発が含まれる。特に、Ti-6Al-4V材料から形成される従来製品の温度より低い温度で変形用シートを製造する既知の方法が存在する(特許第2243833号、IPC B21B1/38、2005年1月10日公開)。
【0005】
第2のアプローチには、
- 二位相体積分率及び形態の強化、
- 速いディフューザとしての合金中の即ちFe及びNiの含有量により結晶粒堺すべりを速めるより速い拡散法、
- より低いベータトランザス温度(BTT)
により、より粗い材料粒度に超過塑性を呈するチタニウム合金シート材の新規の系を開発することが含まれる。
【0006】
したがって、合金の化学組成の効率的選択において、超微細結晶粒の形成に必要とされる特殊用途用処理技術をまったく使用せずに低温で満足のゆく超塑性成形(変形)特性を得ることが可能である。
【0007】
二相(α+β)チタニウム合金は、合金元素の付加レベルに応じて、2.5から10%に等しいモリブデン構造等価物([Mo]equiv.)を有する合金に分類される(Kolachev B.A., Polkin I. S., Talalayev V.D.Titanium alloys of various countries: Reference book.Moscow.VILS.2000.316 p. - p. 13-16)。このような合金は、通常、アルミニウム及びβ安定化元素を用いて合金化され、ベータ相を保持している。ベータ相の量は、この族に属するアニールされた状態の合金中で5%から50%まで変動しうる。したがって、機械特性は比較的広い範囲で変化する。これら合金は、ロシア及びそれ以外の国において広範に使用され、特に、合金元素の付加がうまくいったTi-6A1-4V合金が使用された。(Materials Properties Handbook: Titanium Alloys. R. Boyer, G. Welsch, E. Collings. ASM International, 1998. 1048 p. - p. 486-488)。この合金において、アルミニウムは強度的性質及び耐熱性を増す傾向があり、一方バナジウムは強度的性質を増すだけでなく塑性も向上させる数少ない元素の一つである。Ti-6A1-4V族に属する合金は、バー、チューブ、セクション、自由鍛造品及び閉塞型鍛造品、プレート、シート、ストリップ及びフォイルの生産に使用される。この合金は、空中ビークルの溶接構造及び組立構造、多数の航空及びロケットの構造的構成要素の製造と、外傷学、整形外科学及び歯科学に適用される医療用インプラントの製造とに使用される。
【0008】
Ti-6Al-4V合金のアナログであるVT5合金からの低温超塑性成形に適したチタニウム合金のシート状半製品の既知の製造方法が存在する(特許第2224047号、IPC C22F1/18、B21B3/00、2004年2月20日公開)。この方法は、低温超塑性成形に適した均一なサブ微結晶質構造(結晶粒サイズが1μm未満)を有するチタニウム合金のシート状半製品の製造を可能にする。この方法は、高価で効率が低く、特殊用途用の装備の利用を必要とする。
【0009】
Ti-6A1-4V合金は、総合的な鍛造技術を用いて強ひずみ加工(SPD)により生成されて、超塑性特性を呈するサブ微結晶質構造を有することが知られている。合金の微細構造は、平均サイズ0.4μmのα及びβ相結晶粒と副結晶粒、不均一な回折コントラストを証拠とする高レベルの結晶格子内部応力と弾性歪み、並びに電子顕微鏡によって得られる構造画像における高密度の転位によって定義される。(S. Zherebtsov, G. Salishchev, R. Galeyev, К. Maekawa, Mechanical properties of Ti-6Al-4V titanium alloy with submicrocrystalline structure produced by severe plastic deformation. // Materials Transactions. 2005; V. 46(9): 2020-2025)。このような合金からシート状半製品を製造するために、最終製品の価値を有意に増大させる、総合的鍛造技術を使用した非集中的で低コストのSPD作業が必要とされている。
【0010】
二位相のチタニウム合金から薄手シートを製造し、前記シートから製品を製造するための既知の方法が存在する。この方法は、重量%で以下の元素含有量:3.5-6.5のAl、4.0-5.5のV、0.05-1.0のMo、0.5-1.5のFe、0.10-0.2のO、0.01-0.03のC、0.005-0.07のCr、0.01-0.5のZr、0.001-0.02のNを含み、残部がチタニウムである合金からのシート状半製品の製造を含む;この場合の化学組成は、アルミニウム[Al]強度等価物=6.0-11.55及びモリブデン[Mo]強度等価物=3.5-5.6の強度等価物の値で調節される(特許第2555267号、IPC C22F1/18B21B3/00、2015年10月7日公開)-プロトタイプ。
【0011】
前記特許の範囲内で製造された厚さ<3mmのシート状半製品は、SPFに必要とされる特性の安定性が低いことに起因して、工業生産に適していない場合がある。理由は、合金の化学組成のアジャスタとして強度等価物を使用しても、必要とされる調節、合金中の合金元素間の適切な関係、及びシート状半製品でのSPF作業の性能に必要とされる合金の構造特性が可能にならないためである。さらには、合金中のSi及びZrの存在により、結晶粒表面上にケイ化物が形成され、それにより結晶粒間のすべりが妨げられ、過程不安定性が生じうる。
【発明の概要】
【0012】
本明細書に開示されるのは、2μmを上回る結晶粒サイズでの、より低温の超塑性成形能を有する(α+β)チタニウム合金のシート材の製造である。このシート材は、安定な特性を呈し、実施例において、より微細な結晶粒を有するTi-6Al-4V合金から作製されるシート状半製品のコスト効率のよい選択肢である。
【0013】
本明細書に開示されるのは、低温超塑性成形特性を呈する最終製品のための既知の一般的な製造技術に基づく製造性と効率的にバランスの取れた化学組成を有するチタニウム合金からの、シートの製造である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】初期状態にある合金構造を示している。
図2】初期状態にある合金構造を示している。
図3】SPFの間に得られる荷重曲線である。
図4】SPFの間に得られる荷重曲線である。
図5】SPFの間に得られる荷重曲線である。
図6】0.2及び1.1のひずみ度(縦断方向に)における[Mo]等価物に応じた真応力対ひずみ曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
低温超塑性成形のためのシート材の例は、重量%で以下の元素含有量:4.5-5.5のAl、4.5-5.5のV、0.1-1.0のMo、0.8-1.5のFe、0.1-0.5のCr、0.1-0.5のNi、0.16-0.25のOを有し、残りはチタニウムと残留元素であり、5を上回るモリブデン構造等価物([Mo]eqiv.)及び8を下回るアルミニウム構造等価物([Al]equiv.)を有し;前記等価物の値が以下の数式:
[Mo]eqiv.=[Mo]+[V]/1.5+[Cr]×1.25+[Fe]×2.5+[Ni]/0.8
[Al]eqiv.=[Al]+[O]×10+[Zr]/6
から計算されるチタニウム合金から作製することができる。
【0016】
低温超塑性成形のためのシート材は、8μm未満のサイズを有する結晶粒からなる構造を有する。
【0017】
低温超塑性成形のためのシート材は、775±10℃の温度で超塑性特性を呈することができる。
【0018】
775±10℃の温度での低温超塑性成形のためのシート材は、0.9から1.1のα/β相比を呈する。
【0019】
低温超塑性成形のためのシート材であって、SPF過程の間にα相とβ相の間で拡散する合金元素の量は最小で0.5%に等しく、これは関係式:
に基づいて決定され、式中:
Q - SPFの間の材料中で拡散する合金元素の量(重量%)であり、
n - 材料中の合金元素の量であり、
|Δm| - SPF過程の間の、α及びβ相の合金元素含有量の絶対変動値(重量%)である。
|Δm|は、式:
|Δm|=(mβ1-mα1)-(mβ2-mα2),(重量%)
から計算され、
式中:
mβ1 - SPFの前の、β相の合金元素の含有量(重量%)であり、
mβ2 - SPFの後の、β相の合金元素の含有量(重量%)であり、
mα1 - SPFの前の、α相の合金元素の含有量(重量%)であり、
mα2 - SPFの後の、α相の合金元素の含有量(重量%)である。
【0020】
提供されるシート材は、本明細書の実施例において、一組の高加工特性及び構造特性を呈する。これは、合金元素の効率的選択と、材料合金中におけるそれらの比によって達成される。
【0021】
αの群-安定化元素
【0022】
実質的にすべての商用合金に使用されるアルミニウムは、最も効率的な強化剤であり、チタニウムの強度的性質及び耐熱性を向上させる。酸素は、チタニウム同素変態の温度を上昇させる。0.16%から0.25%の範囲内の酸素の存在は、合金の強度を上昇させ、可塑性に対して有意な悪影響を有さない。
【0023】
βの群-安定化元素(V、Mo、Cr、Fe、Ni)は、商用合金に広く使用される。
【0024】
4.5%から5.5%の量のバナジウム、0.8%から1.5%の量の鉄、及び0.1%から0.5%の量のクロムは、合金強度を上昇させ、可塑性に対して比較的小さな影響を有するか又はまったく影響を有さない。
【0025】
0.1%から1.0%の範囲のモリブデンの導入により、α相においてそのほぼ完全な又は完全な拡散が保証され、したがって必要とされる強度的性質が、実施例において、塑性特性に対してほとんど又はまったく悪影響を与えずに達成されうる。
【0026】
提供される合金は、0.8%から1.5の量又は1.0%から1.5%の量の鉄と、0.1%から0.5%の量のニッケルとを含む。これら元素は、SPFにおいて結晶粒間すべりにプラスの影響を有する最も拡散性の高いβ安定化元素である。
【0027】
SPF効率に影響を有する構造要因の中で、第1に際立っているのは、提供される材料について8μm(実験データ)を超えない結晶粒のサイズである。
【0028】
SPF温度におけるα/β相の比が1に近い場合、二位相チタニウム合金における相変態に起因して材料の超塑性流動が起こりうることが既知である(Kaibyshev O. Superplastic properties of commercial alloys. Moscow. Metallurgy. 1984. p. 179-218.)。これは、結晶粒間すべりに寄与する等軸構造の形成を促す。構造球状化の駆動力は、表面エネルギーの低下の傾向である。β相の増加に起因する結晶粒界境界の成長は、結晶粒界境界における表面エネルギーレベルの変化をもたらし、次いで球状化を活性化させる。1に近いα/β比においてSPF過程の間にベータ相の必要量を有するために、モリブデン構造等価物([Mo]equiv.)の値は5より大きくなければならず、アルミニウム構造等価物([Al]equiv.)の値は8を超えてはならない。加えて、上記を超えるアルミニウム等価物の値は、BTTの上昇と、その結果SPF温度の上昇とをもたらす。
【0029】
提供される材料の超塑性特性に影響を与えるための最適な温度は、775±10℃に等しい。
【0030】
α相とβ相との間で拡散する合金元素の量は、0.5%以上でなければならない。これは、結晶粒界拡散の活性化エネルギーが体積拡散の活性化エネルギー未満であり、原子の拡散輸送が結晶粒界で行なわれているという事実に起因する。結晶粒界のそのようなエリアは、通常の引張応力の影響を受けて、空孔の集中増加を呈する。圧縮応力の影響を受けているそれらエリアは、それよりも少ない空孔の集中を呈する:集中に差異が生じ、空孔の直接的拡散を引き起こす。空孔の移動には原子の交換が伴い、後者は反対方向に動くので、結晶粒間すべりの強化が引き起こされる。
【実施例
【0031】
調査を目的として、2mmの厚さを有するシート状半製品を使用した。シート材を製造するために、表1に示す種々の化学組成の六つの実験用合金を融解した。
【0032】
2mm厚のシート材を、既知の製造方法と対比させ、超塑性成形を目的として製造した。超塑性特性について試験する前に、材料を、30分間720℃の温度でのアニーリングに供し、その後空冷した。処理工程の完了後、試料をシートから縦断方向及び横断方向に取って室温及び高温での引張強度試験を行い、次いで室温で、強度、弾性及び塑性特性を決定するための試料の一般的試験を行った。
【0033】
【0034】
初期状態における材料構造の評価(図1及び図2)は、構造が、等軸構造に類似しており、主として、より暗い(α)又はより明るい(β)の元素のように見える、α相とβ相の交互の結晶粒からなる。合金中の[Mo]equivの増加に伴い、β相結晶粒の体積分率が、合金2に予想されるα/β比2/1から合金3及び合金4中の1/1に近い値まで上昇することに注目されたい。切断法により微細構造写真上で測定された相結晶粒の平均サイズは、[Mo]equiv.の増加に伴っていくらか増大する傾向にあり、2.8から3.8μmの範囲内である(最小結晶粒サイズは合金2に対して決定されている)。初期状態にある材料1の結晶粒構造の均一度が他の実験用合金と比べて低いことに注目されたい。等軸の結晶粒に加えて、材料1は、十分な嵩を有する細長い結晶粒からなるエリアを示す。また、β相の形態が合金によっていくらか変化することも注目されたい。合金2は、最小量の合金元素を有し、β相は主にα相粒子間に個別の群として位置する;しかし合金5から開始して、β相は明確なコヒーレンシーを有し、結晶粒のテクスチャに加えて、α相結晶粒間の比較的薄い層として成形される。[Mo]equiv.の増加に伴い、これら層は厚みを増す傾向にある。
【0035】
比較実施例
SPF(775℃の温度及び3×10-4-1のひずみ速度、シートの長さ方向での)後の鍛造(縮小部)状態及び未鍛造(ヘッド部エリア)状態における材料構造の比較分析により、縮小部における変形が、ほぼ鍛造されていない上部と比較していくらかの結晶粒成長と、より複雑な形状のα及びβ相の結晶粒からの集塊の発生とを誘導したことが示された。
【0036】
結晶粒サイズの評価は、合金元素の付加が、最大のβ安定化元素の付加を有する合金中の位相結晶粒のサイズに有意に影響しないこと、及びその範囲が3.5±0.5μm(非鍛造部)と4±0.5μm(鍛造部)の間であることを示した。同時に、合金元素を最小含有量で含む合金2の場合、縮小部の結晶粒のサイズは、5μmまで初期状態と比較してほぼ二倍以上に増大する。
【0037】
電顕分析(EMPA)の方法により、初期状態にある調査対象材料中において、超塑性特性の試験後に、α相とβ相の間での合金元素の分布を試験した;試験は、縦の試験片の鍛造縮小部とヘッド部に実施し、結果を表2、3及び4に示す。
【0038】
【0039】
【0040】
SPFの間の材料中で拡散する合金元素の量は、式:
から決定され、式中:
Q - SPFの間の材料中で拡散する合金元素の量(重量%)であり、
n - 材料中の合金元素の量であり、
|Δm| - SPF過程の間の、α-及びβ相の合金元素含有量の絶対変動値(重量%)である。
|Δm|は、式:
|Δm|=(mβ1-mα1)-(mβ2-mα2),(重量%)
から計算され、
式中:
mβ1 - SPFの前の、β相の合金元素の含有量(重量%)であり、
mβ2 - SPFの後の、β相の合金元素の含有量(重量%)であり、
mα1 - SPFの前の、α相の合金元素の含有量(重量%)であり、
mα2 - SPFの後の、α相の合金元素の含有量(重量%)である。
【0041】
表4に含まれるのは、SPF過程の間の拡散する合金元素の量に関連する計算データである。
【0042】
調査対象の鍛造シート材中のα及びβ相における変化の分析により、試験片の縮小部におけるα相及びβ相間の金元素含有量の差異が、塑性変形を受けていない試験片のヘッド部における同差異と比較して大きいことが示された(表2、3及び4)。
【0043】
得られたEMPAの結果は、775℃の温度での超塑性特性試験の対象である材料における位相体積分率の評価にも使用され、表5に示される。
【0044】
【0045】
【0046】
試験の間に得られた荷重曲線を図3、4及び5に示す。
【0047】
超塑性試験での合金の特性を表6に示す。
【0048】
0.2及び1.1のひずみ速度(縦断方向)における[Mo]等価物に応じた真応力対ひずみ曲線を図6に示す。
【0049】
【0050】
最小含有量の合金元素を含む材料1(図3)は、775℃の温度で最も不安定なSPF過程を有しており、これは浮遊ネックの形成により引き起こされる応力-ひずみ曲線の典型的なうねりによって表されている。SPFにおけるこのような材料挙動は、SPFで高い成長率を有する(5μm以下)比較的嵩の大きな初期結晶粒(2.5μm)に起因しており、この場合α/β位相比(2/1)は効率的でなく、効率のよい結晶粒間スリップの代わりにSPFにとって好ましくない結晶粒内すべりの活性化をもたらす。
【0051】
材料2(図3)にはβ安定化元素がさらに付加されており、したがって、応力-ひずみ曲線のうねりの形のSPF過程の不安定性が、構造中のβ相体積分率の低下に起因して、合金1と比較して低減した。ここで、ひずみ度が0.6から0.8の範囲である場合、不完全に処理された構造のエリア内における動的な再結晶化の進行に起因して(長形の結晶粒の存在)有意な硬化は確認されなかった。これは、調査対象の他のすべての合金には典型的でない。
【0052】
モリブデン(合金5)、クロム(合金6)を除いて、最大含有量のβ安定化元素を含む材料3、5及び6(図4、5)は、コヒーレンスの増大及び結晶粒間スリップの容易化を伴う合金構造中のβ相の増加に起因して、材料1及び2と比較して小さなうねりを有する応力-ひずみ曲線で表される;また、硬化が、真ひずみの度合いの上昇に伴ってより顕著になる(表3、図6)。この場合、具体的には横断方向の試験において、うねりは0.6以下のひずみ度合いに保持され、これはシートの初期テクスチャと効率が十分でないα/β相の比(3から2に近い3)に帰することができる。材料6中のクロムの非存在は、材料3と比較して、材料5中のモリブデンの非存在より小さい度合いで応力-ひずみ曲線に影響する。原因の一つは、SPF過程の安定性に対するモリブデン付加の影響が、クロムの付加と比較して(2から2.5分の1でありうる)強い結果にありうる。
【0053】
材料4は、最大量のβ安定化元素を含み、0.3%のニッケルでさらに合金化されている;これは、横断方向及び縦断方向の両方において775℃の温度でより安定な超塑性挙動を、流れの開始において最小応力を、顕著な曲線のうねりの非存在とひずみ度合いの増大に伴う単調な硬化とを呈した。これは、変形温度におけるほぼ効率的なα/β位相比(1/1)と、調査対象の全合金と比較して最大含有量の拡散するβ安定化元素(ニッケル、鉄)に起因しており、したがって結晶粒間スリップでの質量移行過程を促す(SPF過程の間のα相とβ相との合金元素含有量の変化の合計差は1.9重量%を超える)。
【0054】
調査された合金の中で、材料4は、材料要件に完全に準拠して最良の結果を示した(表7)。一定のひずみ速度及び(775±7)℃の温度における引張試験(3×10-4インチ/インチ/秒のひずみ)を下の表7に示す。
【0055】
【0056】
アニーリングされた状態のシートの機械特性の比較を表8に示す。
【0057】
【0058】
表7及び8に示されるデータは、例示的な一実施態様の結果として、2μmを上回る結晶粒サイズを有し、航空宇宙材料に適用される要件に準拠した半完成品の既知の一般的製造技術に基づいて、シート材が、製造性と効率的にバランスのとれた化学組成を有するチタニウム合金から製造されたことを示している。
【0059】
本明細書にしたがって製造される製品が様々な設計を有しうることに注目されたい。本明細書に提供された設計は、例示的なものであって限定的なものではなく、本発明の限定は特許請求の範囲によって行われるものである。
図1
図2
図3
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図5
図6