IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ルクスブライト・アーベーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】電子誘導及び受取素子
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/08 20060101AFI20220222BHJP
   H01J 35/14 20060101ALI20220222BHJP
   H01J 35/06 20060101ALI20220222BHJP
   H01J 35/10 20060101ALI20220222BHJP
   H05G 1/00 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
H01J35/08 C
H01J35/14
H01J35/06 H
H01J35/06 B
H01J35/06 Z
H01J35/10 F
H01J35/10 G
H01J35/10 D
H01J35/10 C
H01J35/08 E
H05G1/00 E
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020132389
(22)【出願日】2020-08-04
(62)【分割の表示】P 2018528741の分割
【原出願日】2015-12-04
(65)【公開番号】P2020181832
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2020-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】516240466
【氏名又は名称】ルクスブライト・アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】チウ-ホン・フー
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】実開昭52-020171(JP,U)
【文献】特開2000-057981(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102427015(CN,A)
【文献】特開2009-099565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/00
H05G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線管用のアノードであって、前記アノードが、アンテナ素子(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)及びアンテナベース(0320、0345、0630、0730、1110、1115)を備える電子アンテナを備え、前記アンテナ素子(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)が前記アンテナベース(0320、0345、0630、0730、1110、1115)の上に位置し、前記電子アンテナ(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)が、通常の固定アノードX線管又は回転アノードX線管と同じカソードカップに対する空間的関係で構成されていて、前記アンテナ素子(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)の上部が前記アンテナベース(0320、0345、0630、0730、1110、1115)の前面に平行に突出してして、前記アンテナ素子(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)の突出及び前記アンテナ素子(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)のアスペクト比が、前記アンテナ素子(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)の上端に電場の局所的な増強を生じさせ、前記アンテナベース(0320、0345、0630、0730、1110、1115)からの前記アンテナ素子(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)の突出の高さhが1μm~5mmであり、前記アンテナ素子(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)の上面(0210)が5°~45°のアノード角度θを有し、前記電子アンテナが、ブレードの形状のアンテナ素子(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)を備え、前記ブレードの上面の形状が、線形セグメント(0460、0470、0480)、200μm以下の軌道長半径rを有する楕円ディスク(0430)、又は200μm以下の半径Rを有する円形ディスク(0420)であることを特徴とするアノード。
【請求項2】
前記電子アンテナが、単一又は複数のマイクロ焦点又はナノ焦点X線ビームを発生させるための真空管のアノードの代わりとして機能し、前記アンテナ素子(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)が金属性であり、W、Rh、Mo、Cu、Co、Fe、Cr及びScのうち一種以上の金属、又は、W‐Re、W‐Mo、Mo‐Fe、Cr‐Co、Fe‐Ag及びCo‐Cu‐Feのうち一種以上の合金を備える、請求項に記載のアノード。
【請求項3】
前記アンテナベース(0320、0345、0630、0730、1110、1115)が、Cu及びMoのうち一種以上の導電性物質を備える、請求項1又は2に記載のアノード。
【請求項4】
前記アンテナベース(0320、0345、0630、0730、1110、1115)が電気絶縁性物質を備え、複数のアンテナ素子が前記アンテナベース(0320、0345、0630、0730、1110、1115)の上に位置している、請求項1からのいずれか一項に記載のアノード。
【請求項5】
前記電気絶縁性物質がBN及びAlのうち一種以上である、請求項に記載のアノード。
【請求項6】
請求項1からのいずれか一項に記載のアノードを備えるX線発生デバイス。
【請求項7】
ホットフィラメントカソード(0110)を用いた単一のホットカソードマイクロ焦点又はナノ焦点管である請求項に記載のX線発生デバイス。
【請求項8】
電界放出カソード(0810)を用いた単一の電界放出カソードマイクロ焦点又はナノ焦点管である請求項に記載のX線発生デバイス。
【請求項9】
電界放出カソード(0810)及びホットフィラメントカソード(0110)を保持するカソードアセンブリ(0910)を用いた二重カソードマイクロ焦点又はナノ焦点管である請求項に記載のX線発生デバイス。
【請求項10】
ゲート電極(1010)を備える電子エミッタを更に備えることによって、三極電界放出マイクロ焦点又はナノ焦点管となっている請求項に記載のX線発生デバイス。
【請求項11】
前記電界放出カソード(0810)が、ショットキー放出等の熱アシスト放出を可能にするように更に構成されている、請求項から10のいずれか一項に記載のX線発生デバイス。
【請求項12】
絶縁性アンテナベースを用いた複数のカソード及びアノードを備える複数の励起源を有するマイクロ焦点又はナノ焦点管である請求項に記載のX線発生デバイス。
【請求項13】
アノードを備えるX線発生デバイスであって、前記X線発生デバイスが回転アノードマイクロ焦点又はナノ焦点管であり、一つ以上のアンテナ素子(1105、1120、1130)が回転アンテナベースディスク(1110、1115)に同心円状に埋め込まれていて、前記アノードが、アンテナ素子(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)及びアンテナベース(0320、0345、0630、0730、1110、1115)を備える電子アンテナを備え、前記アンテナ素子(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)が前記アンテナベース(0320、0345、0630、0730、1110、1115)の上に位置し、前記電子アンテナ(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)が、通常の固定アノードX線管又は回転アノードX線管と同じカソードカップに対する空間的関係で構成されていて、前記アンテナ素子(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)の上部が前記アンテナベース(0320、0345、0630、0730、1110、1115)の前面に平行に突出してして、前記アンテナ素子(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)の突出及び前記アンテナ素子(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)のアスペクト比が、前記アンテナ素子(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)の上端に電場の局所的な増強を生じさせ、前記アンテナベース(0320、0345、0630、0730、1110、1115)からの前記アンテナ素子(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)の突出の高さhが1μm~5mmである、X線発生デバイス。
【請求項14】
アノードを備えるX線発生デバイスであって、前記X線発生デバイスが回転アノードマイクロ焦点又はナノ焦点管であり、複数のアンテナ素子(1105、1120、1130)が回転アンテナベースディスク(1110、1115)に半径方向に埋め込まれていて、前記アノードが、アンテナ素子(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)及びアンテナベース(0320、0345、0630、0730、1110、1115)を備える電子アンテナを備え、前記アンテナ素子(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)が前記アンテナベース(0320、0345、0630、0730、1110、1115)の上に位置し、前記電子アンテナ(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)が、通常の固定アノードX線管又は回転アノードX線管と同じカソードカップに対する空間的関係で構成されていて、前記アンテナ素子(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)の上部が前記アンテナベース(0320、0345、0630、0730、1110、1115)の前面に平行に突出してして、前記アンテナ素子(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)の突出及び前記アンテナ素子(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)のアスペクト比が、前記アンテナ素子(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)の上端に電場の局所的な増強を生じさせ、前記アンテナベース(0320、0345、0630、0730、1110、1115)からの前記アンテナ素子(0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130)の突出の高さhが1μm~5mmである、X線発生デバイス。
【請求項15】
X線セキュリティスキャン装置における、コンピュータトモグラフィスキャン装置における、Cアーム型スキャン装置における、小型Cアーム型スキャン装置における、地質調査装置における、X線回折装置における、X線蛍光発光分光法における、X線非破壊検査装置における、位相コントラストイメージングにおける、又はカラーコンピュータトモグラフィスキャナにおける請求項から14のいずれか一項に記載のX線発生デバイスの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の例示的実施形態は、電子誘導及び受取素子、又は、アンテナ素子及びアンテナベースを備える電子アンテナを対象とし、電子を通信用の信号としてではなくて、電磁放射用の刺激として受けるように構成されている。更に、例示的実施形態は、上記電子アンテナを備えるX線管並びに他の波長の応用を対象とする。
【背景技術】
【0002】
現代社会で用いられている大抵のデバイスや機器は、本質的には、電子を或る箇所から他の箇所へ移動させる結果としてのものである。その運動の形態は、並進移動、振動、一定、加速/減速であり、運動の論理的制御が、デバイスや機器の機能や種類を定める。運動に対する基本的な制約は、電荷の保存、連続性、中性の法則である。固体デバイスでは、電源で確立された電位が、デバイスの活性部品を通過してデバイスの機能を達成するように電子を駆動して、電源に戻す。真空デバイスでは、電子は電子エミッタ又はカソードから真空(真空中では、電子を、静的な又は振動する電磁場を印加することによって操作することができる)中に放出されて、電子受取素子又はアノードによって収集される。その受取プロセスは、入射電子のエネルギー及び運動量をアノード物質の電子及び核に伝達し、その結果として電磁放射を発生させることを特徴とする。光子のエネルギー及び運動量は放射の粒子的側面を象徴するものであり、波長及び周波数は放射の波動的側面を象徴するものである。入射電子の運動エネルギーが、有用又は有害となり得る放射の最小波長を決定し、X線の場合、波長のスパンは10nmから0.01nmまで又はそれ以下である。X線源はそのような波長を利用するデバイスである。
【0003】
X線源又はX線管は、電子エミッタ又はカソードと、電子レシーバ又はアノードとを備える。アノードはX線エミッタである。カソード及びアノードは特定の構成で配置され、真空筐体内に封止される。X線発生器は、X線源(管)及びその電力装置を備えるデバイスである。X線機器又はシステムは以下の構成要素を備える:1)X線源、2)コンピュータ化された操作及び取扱デバイス、3)一つ以上の検出器、及び、4)一つ以上の電力装置。
【0004】
X線は、特に医療イメージング、セキュリティ検査、産業用非破壊検査において応用される。コンピュータ技術が現在社会におけるX線の使用に革命をもたらしており、例えば、X線CT(computed tomography,コンピュータトモグラフィ)スキャナが挙げられる。検出器技術における進展が、エネルギー及び空間分解能の向上、デジタルイメージ、連続的に増加しているスキャン領域を可能にしてきた。しかしながら、X線を発生させるための技術は、略100年前にウィリアム D.クーリッジがガス充填管をホットタングステンフィラメントを収容する真空管に置き換えて熱電子放出を利用するようにすることによってX線を発生させる方法に革命をもたらしたクーリッジ管の誕生以来、実質的には同じである(特許文献1)。そのX線を発生させるための同じ物理が今日でも使用されている。クーリッジ管の二つの重要な構成要素は、タングステン(W)の螺旋フィラメントのカソードと、銅(Cu)シリンダに埋め込まれたWディスクのアノードとであるが、今日のX線管でも同じに見えて、同じように機能し、はっきり言えば、特許文献2及び特許文献3の固定アノードX線管である。
【0005】
過去二十年程において、新たな分類のナノ物質の出現が、電界放出カソードの基礎研究及び応用の発展を加速させてきた。従来技術のX線デバイスに開示されているようなCNTに基づいた電界放出カソードについては、その電子ビームの全電流が、所定の応用ではホットカソードに対抗するには低過ぎることが多い。このことは、原理的にはカソードの面積を増大させることによって改善可能である。しかしながら、より大きなカソード面積は、当然に集束スポット(焦点)サイズの増大と、イメージの空間分解能の劣化、つまり望ましくない結果をもたらす。集束スポットサイズが小さくなるほど、イメージの空間分解能が高くなることは周知である。同様に、ホットカソードX線管については、集束スポットサイズを所謂微小焦点(マイクロ焦点)範囲に減少させるために、強力な磁気レンズを用いて、カソードとアノードとの間の空間中を伝播する電子ビームを集束させる。結果として、集束スポット下のアノードの領域が、固体であることを維持するには高過ぎる熱負荷に晒され得る。アノードの溶融は管の死である。より小さな集束スポットに対する要求と、結果としての集束スポットに対するより高いパワー負荷との間のトレードオフに折り合いをつけるための多数の解決策が存在している。電磁レンズを用いるものの他に、他の種類の解決策が特許文献4に開示されていて、液体金属ジェットアノードを用いている。ジェット中の液体金属の循環が、電子ビームが発生させた熱を熱浴に運ぶ。しかしながら、このような源の高真空条件は、真空システムを連続的にポンピングすること、つまり「オープンチューブ」によって維持されるので、小型であること及び移動性に対する要求が支配的である多くの産業及び医療応用に適合するには、デバイス全体が嵩張り過ぎ、また複雑過ぎる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第1203495号明細書(1913年5月9日出願、「Vacuum‐tube」)
【文献】米国特許第1326029号明細書(1917年12月4日出願、「Incandescent cathode device」)
【文献】米国特許第1162339号明細書(1912年8月21日出願、「Method of making composite metal bodies」)
【文献】米国特許出願公開第2002/0015473号明細書
【文献】国際公開第2015/118178号
【文献】国際公開第2015/118177号
【非特許文献】
【0007】
【文献】IEEE Standard definitions of Terms for Antennas: IEEE Standard 145‐1993, IEEE, 28 pp., 1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本出願人の以前の特許出願である特許文献5及び特許文献6では、革新的なタイプのCNTに基づかない電子エミッタが、X線発生用の熱電子放出以外の放出機構を可能にすることが開示され、そして革新的なX線デバイスが開示されていて、そのような源の新規で有利な特徴をX線イメージングにもたらしている。
【0009】
本願では、根本的に新規な概念の電子アンテナが提案され、電磁放射を発生させるための真空デバイスのアノードの観念を覆す。本願は、X線発生用のアノードの代わりとして電子アンテナを提供し、また、上記電子アンテナを備えるマイクロ焦点又はナノ焦点X線管を提供する。
【0010】
カソードの対向電極であるアノードは、X線管の重要な構成要素の一つであり、その機能は、カソードから放出された電子を受けて、X線を放出することであり、それと同時に、熱(X線発生プロセスの副産物)を周囲環境に伝えることができる。電子ビームがアノードに当たる領域は集束スポット(焦点)と呼ばれる。固定アノード管では、アノードは、小型タングステンディスクがより大きな銅シリンダに埋め込まれたもので作製され、それらの前面は同一平面上にあり、その構造及び作製方法は、1912年にウィリアム D.クーリッジによって発明されたものであり、特許文献3に開示されている。このような従来技術のX線管では、集束スポットの形状は、ディスクの表面、好ましくは中心に対するカソードの投影像であり、集束スポットのサイズ及び位置は、カソードとアノードとの間の空間中の電磁場によって、電磁レンズを用いて又は用いずに決定される。アノードは、カソードから放出された数の電子を忠実に受けるが、電子をステアリングしたり分布させたりするために何かを行うことは全くできない。つまり、アノードは集束スポットサイズの決定に関して何も行わない。
【0011】
本開示の実施形態はこれを変える。電子アンテナの概念をX線管の再設計に適用することによって、アノードを集束スポットサイズを決定する立場に置く。また、電子アンテナの概念を用いて、マイクロ焦点又はナノ焦点紫外線ビーム又は可視光ビームを生成することもできる。従って、本概念は、電子アンテナの物質及び/又は構造に応じて、多様な波長のマイクロ焦点又はナノ焦点放射ビームを生成するように働く。いくつかの例示的な実施形態を以下で説明する。
【0012】
アンテナは、「電磁波を放射又は受けるように設計された送受信システムの一部」として定義される(より完全には非特許文献1を参照)。一般的に、受信アンテナは、アンテナ素子とアンテナベースとを備える。前者は、信号を最も効率的に受信するように構造化及び構成され、後者は、前者の支持体として機能し、また、信号を更に送信する。電子アンテナは、その名の通り、電子を最も効率的に受けるためのものである。正確に言うと、アンテナ素子は、それに向かってくる全ての電子を受けて所定の領域内に閉じ込めるように構造化及び構成され、アンテナベースは電気及び熱を伝えるように構造化及び構成される。自明だとは思うが、以下の点を指摘しておく:1)電子アンテナが受ける物理的対象は電磁放射ではなくて、電子のビームであること;2)受け取られた電子は通信用の信号として用いられるのではなく、電磁放射用の刺激として用いられる。従って、アンテナという概念に、上記二つの拡張を介した新たな意味合いが与えられる。
【0013】
X線管の再設計において、電子アンテナの概念は、例示的な一実施形態では、アノードとして機能するCuシリンダと同一平面上のWディスクを、アンテナ素子として機能するCuシリンダから突出する薄い金属ブレードに置換することによって実施される。アンテナ素子の突出及び高アスペクト比が、アンテナ素子の上端において電場の局所的な増強を生じさせ、電気力線を上端に集中させる。従って、アンテナ素子は、全ての電子をそれに向けて引き寄せる又は誘導することができ、アンテナベースに電子が入射しないようにすることができる。結果として、X線は、アンテナ素子の上面の領域内のみにおいて発生可能であり、つまり、集束スポットの幾何学的特徴がアンテナ素子によって決定される。以上のように、X線発生に関する従来技術のディスクアノードと電子アンテナとの基本的な相違点は、ディスクアノードはカソードからの数の電子を受動的に受けるが、集束スポットサイズを決定せず、一方、電子アンテナは、電子をそれに向けて能動的に誘導して引き寄せて、集束スポットサイズを決定するという点にある。
【0014】
従って、本開示の例示的実施形態の少なくとも一つの目的は、根本的に新規な概念の電子アンテナを導入すること、また、電子ビームを誘導及び集束させて、アンテナ素子において電子を収集して、アンテナ素子の上面の領域(その長さスケールはミリメートルからナノメートルまでと様々であり得る)内でX線を発生させるための根本的に異なる機構及び技術を提供することである。このようにして、集束スポットサイズが、アンテナ素子の上面のサイズを決して超えないサイズに制御され、集束スポットサイズが、カソードの形状及びサイズにあまり依存しなくなる。電子アンテナを備えるX線管は、ドリフトの無いマイクロ焦点又はナノ焦点性能を提供し、はるかに小型で、安価であり、耐久性があり、多用途である。このことは、同じ電子アンテナ方を用いる真空管での紫外線及び可視光の生成にも当てはまる。
【0015】
従って、本開示の例示的実施形態は、X線集束スポットの位置、形状及び寸法を定め、X線発生の副産物として発生する熱を散逸させるアンテナ素子及びアンテナベースを備える電子アンテナを対象としている。更に、例示的実施形態は、上記電子アンテナを備えるX線管を対象としている。以下で説明するようにアンテナ素子を多様な物質や構造で置換することによって、紫外線又は可視光を生成することができる。
【0016】
[アンテナ素子]
従来のアノードのようにディスクの形状にする代わりに、アンテナ素子は、例示的な一実施形態では薄いブレードの形状にされる。より多くの例示的な実施形態が以下で与えられる。
【0017】
ブレードの断面の寸法及び傾斜角度が、X線ビームの集束スポットの寸法を定める。
【0018】
アンテナ素子は、多様な金属や合金、例えば、WやW‐Re製となり得る。
【0019】
更に、アンテナ素子は、X線集束スポットの形状の要求に合うように多様な形状で作製可能である。
【0020】
更に、アンテナ素子は、ミリメートルスケールからナノメートルスケールまでの範囲内でX線集束スポットのサイズの要求に合うように多様なサイズで作製可能である。
【0021】
更に、アンテナ素子は、例示的な一実施形態では、各金属又は合金の薄いシートのEDM(放電加工,electrical discharge machining)や穴開けによって製造可能である。
【0022】
[アンテナベース]
アンテナ素子は、多様な金属、合金、化合物、複合材、好ましくは、高導電性、高熱伝導性、高融点、機械加工性、成形性を有するもので作製可能である。
【0023】
[アンテナ素子とアンテナベースの融合]
ベースと接触しているアンテナ素子の面は、ベースと同じ物質、又はベースとアンテナ素子との間の中間の物質の薄層でコーティング可能であり、アンテナ素子とベースとの間の熱親和性及び/又は電気親和性を向上させる。
【0024】
アンテナ素子とアンテナベースの融合又は接合は、ねじ及び/又はピボットから与えられる機械的圧力によって、又は真空鋳造によって行われ得る。
【0025】
[X線管の構成]
アンテナは、通常の固定アノードX線管や回転アノードX線管と同じカソードカップに対する空間的関係性で構成される。
【0026】
[X線デバイス]
本開示の例示的実施形態は上記電子アンテナを備えるX線デバイスを対象としている。
【0027】
上記電子アンテナを備えるX線デバイスは、一つのホットフィラメントカソードと組み合わせて、単一のホットカソードマイクロ焦点又はナノ焦点管で構成可能である。
【0028】
上記電子アンテナを備えるX線デバイスは、一つの電界放出カソードと組み合わせて、単一の電界放出カソードマイクロ焦点又はナノ焦点管で構成可能である。
【0029】
また、上記電子アンテナを備えるX線デバイスは、一つの電界放出カソードと一つのホットフィラメントカソードを保持するカソードカップと組み合わせて、二重カソードマイクロ焦点又はナノ焦点管でも構成可能である。
【0030】
また、上記電子アンテナを備えるX線デバイスは、絶縁性アンテナベースを用いる場合には、複数の(熱電子又は電界放出)カソード及び電子アンテナ素子を備える複数の励起源を有するマイクロ焦点又はナノ焦点管でも構成可能である。
【0031】
更に、上記電子アンテナを備えるX線デバイスは、ゲート電極を備える電子エミッタと組み合わせて、三極電界放出マイクロ焦点又はナノ焦点管で構成可能である。
【0032】
更に、電界放出カソードは、ショットキー放出等の熱アシスト放出を可能にするように構成可能である。
【0033】
上記電子アンテナを備えるX線デバイスは、単一又は複数のアンテナ素子を回転ディスクに円形に埋め込む場合に、一つのタイプの回転アノードマイクロ焦点又はナノ焦点管で構成可能である。
【0034】
上記電子アンテナを備えるX線デバイスは、複数のアンテナ素子を回転ディスクに等角度間隔で半径方向(放射状)に埋め込む場合に、他のタイプの回転アノードマイクロ焦点又はナノ焦点管で構成可能である。
【0035】
[実施形態の例示的利点]
上記電子アンテナの機構や技術の使用は、より単純でより経済的な方法で、より小型のマイクロ焦点又はナノ焦点管を可能にする。また、上記電子アンテナの使用は、このタイプのマイクロ焦点管を、従来はマクロ焦点管が支配的であった応用において使用することも可能にする。
【0036】
[応用]
一部の例示的実施形態は、セキュリティX線スキャン装置における上述のX線発生デバイスの使用を対象としている。
【0037】
一部の例示的実施形態は、非破壊検査における上述のX線発生デバイスの使用を対象としている。
【0038】
一部の例示的実施形態は、全身若しくは一部又は器官のスキャン用の医療用イメージング装置、例えば、コンピュータトモグラフィスキャナ、(小型)Cアーム型スキャン装置、マンモグラフィ、アンギオグラフィ、歯科用イメージングデバイス等における上述のX線発生デバイスの使用を対象としている。
【0039】
一部の例示的実施形態は、地質調査装置、回折装置、蛍光発光分光法における上述のX線発生デバイスの使用を対象としている。
【0040】
一部の例示的実施形態は、X線位相コントラストイメージングにおける上述のX線発生デバイスの使用を対象としている。
【0041】
一部の例示的実施形態は、X線カラーCTイメージングにおける上述のX線発生デバイスの使用を対象としている。
【0042】
電子アンテナは、マイクロ焦点又はナノ焦点紫外線ビーム生成用のアノードにもなり得て、そのアンテナ素子は、アンテナ素子の上面に配置された一つ以上の量子井戸や量子ドットを備える。紫外線発生デバイスがそのような電子アンテナを備え得る。
【0043】
紫外線発生デバイスは、回転アノードマイクロ焦点又はナノ焦点管であり得て、一つ以上のアンテナ素子が回転アンテナベースディスクに円形に埋め込まれる。
【0044】
電子アンテナは、マイクロ焦点又はナノ焦点可視光ビーム生成用のアノードにもなり得て、そのアンテナ素子は、アンテナ素子の上面に配置された燐光物質又は蛍光物質の層を備える。可視光発生デバイスがそのような電子アンテナを備え得る。
【0045】
可視光発生デバイスは、回転アノードマイクロ焦点又はナノ焦点管であり得て、一つ以上のアンテナ素子が回転アンテナベースディスクに円形に埋め込まれる。
【0046】
以上の点は、添付図面に示されるような例示的実施形態の以下のより具体的な説明から明らかとなるものであり、図面においては、同じ参照符号が図面全体にわたって同じ部分を指称している。図面は必ずしも縮尺通りではなく、例示的実施形態を示すために誇張されている。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1A】従来技術のX線管を概略的に示すものであり、従来のアノードを備え、マクロ焦点ではないX線管の概略図である。
図1B】従来技術のX線管を概略的に示すものであり、従来のアノード及び電磁レンズを備えるマイクロ焦点X線管の概略図である。
図1C】従来技術のX線管を概略的に示すものであり、液体金属ジェットアノードを用いるマイクロ焦点X線発生を示す。
図2】本開示の一部の例示的実施形態に係る電子アンテナ素子の例示的な例である。
図3A】本開示の一部の例示的実施形態に係るアンテナ素子及びアンテナベースを備える電子アンテナの概略図である。
図3B】電子アンテナと、それが電子を誘導して受けるための物理的原理との模式図である。
図4】本開示の一部の例示的実施形態に係る電子アンテナ素子が有し得る多様な形状の模式的例である。
図5】例示的な一実施形態における単一のアンテナ素子用の導電性アンテナベース、例えばCuの模式図である。
図6】本開示の一部に例示的な実施形態に係るアンテナベースが絶縁性物質、例えば、BNやAl製である場合の複数のアンテナ素子を備える電子アンテナの概略図である。
図7】一つのホットカソード及び電子アンテナを備えるX線管の概略図である。
図8】一つの電界放出カソード及び電子アンテナを備えるX線管の概略図である。
図9】二重カソード、つまり一つの電界放出カソード及び一つのホットフィラメントカソードと、電子アンテナとを備えるX線管の概略図である。
図10】電界放出カソードと、ゲート電極と、電子アンテナとを備えるX線管の概略図である。
図11A】本開示の一部の例示的実施形態に係る電子アンテナを用いる二タイプの回転アノード管の解決策を示す図である。
図11B】本開示の一部の例示的実施形態に係る電子アンテナを用いる二タイプの回転アノード管の解決策を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下の説明では、説明目的であって、限定的ではないものとして、例示的実施形態の完全な理解を提供するために、具体的な詳細、例えば、特性の構成要素、素子、方法等を与える。しかしながら、そのような具体的な詳細からは一見逸脱しているが固有に関連している他の方法でも例示的実施形態が実施可能であることは当業者に明らかである。場合によっては、例示的実施形態の説明を曖昧にしないために、周知の方法や素子の詳細な説明を省略する。本願で用いられている用語は、例示的な実施形態を説明する目的のものであり、本開示の実施形態を限定するものではない。
【0049】
[課題]
例示的実施形態をより良く説明するために、まず課題を認識して検討する。図1Aは、従来のX線管を示す。図1AのX線管は、ホットフィラメントカソード0110と、Cuシリンダ0130に埋め込まれたWディスクアノード0120とを備える真空ガラス管0100を特徴としている。アノード0120の面は、所定の傾斜角度又はアノード角度でカソード0110と向き合っている。電源0140によって与えられる電流は、フィラメントカソード0110を通過して、フィラメント0110の温度をそのフィラメントから電子のビーム0150を放出するレベルに上昇させる。次いで、ビーム0150中の電子は、電源0160によって与えられる電位差によってアノード0120に向けて加速される。結果としてのX線ビーム0170は窓0180を介してデバイスの外に向けられる。カソードとアノードとの間の電圧が、X線ビームのエネルギーを決定するが、マイクロ焦点ではない。典型的な「二重バナナ」形状の集束スポットが0190で示されている。
【0050】
図1Bは、送信アノード0120及び電磁レンズ0145を備える従来技術のマイクロ焦点X線デバイスの概略図である。レンズが管0100に余分なサイズ、重量及びコストを追加し、レンズを駆動させて、管の出力電圧と同期させるために追加の電源0165を必要とする。従って、このタイプのマイクロ焦点管は、サイズと重量とコストに関する問題と、X線ビームの横ドリフトに関する問題を有する。更なる情報については、例えば、www.phoenix-xray.comを参照。
【0051】
図1Cは、液体金属ジェットアノード0175を用いる従来技術のマイクロ焦点X線発生の概略図である。電子ビーム0150が液体金属ジェット0175に当たり、X線ビーム0170をもたらす。液体金属ジェットアノードは所謂オープンチューブを必要とし、これは、管の連続的ポンピングによって高真空条件が維持されることを意味する。このような解決策は嵩張り高価である。また、アノード物質は、低融点の金属に限定される。更なる情報については、例えば、www.excillum.comを参照。
【0052】
[例示的実施形態]
本開示の例示的実施形態は、電子誘導及び受取素子、つまり、アンテナ素子及びアンテナベースを備える電子アンテナを対象としていて、通信用の信号としてではなくて、電磁放射用の刺激として電子を受けるように構成される。更に、例示的実施形態は、上記電子アンテナを備えるX線管を対象としている。
【0053】
電子アンテナはアンテナ素子及びアンテナベースを備える。アンテナ素子は、それに向かう全ての電子を受けて、所定の領域内に閉じ込めるように構造化及び構成される。一方、アンテナベースは、熱及び/又は電気を伝えるように構造化及び構成される。
【0054】
[アンテナ素子]
図2は、本開示の一部の例示的実施形態に係る薄いブレードの形状にされた電子アンテナ素子0200の模式的例を、電子を受けるためのその素子の上面又は上端0210と共に示す。0220はアンテナ素子の二つの面を指称し、θは傾斜角度又はアノード角度を示し、tはブレードの厚さを示し、Lは上面の長さを示す。上面の最大長さは10mmであり、10mmからナノメートルまでと様々であり得る。アノード角度θは、数度、例えば5度から45度までの間で様々であり得る。ブレードの断面の寸法及び傾斜角度θが、X線ビームの集束スポットの寸法を定め、ブレードの幅が集束スポットの幅を限定し、集束スポットの長さがl=Lsinθで限定されるようにする。孔0230は、アンテナベースに対して素子を位置決め及び固定するためのものである。アンテナ素子のL及びtは、X線集束スポットのサイズの要求に合うように多様なサイズにされ得る。好ましい範囲は、(L=10mm,t=0.1mm)から、半径10nmのディスクまでである。しかしながら、高パワー応用では、集束スポットの面積は8×8mmもの大きさとなり得る。
【0055】
図3Aは、本開示の例示的な一実施形態に係る電子アンテナの概略図であり、0300はブレード形状のアンテナ素子であり、アンテナベース0320を形成する二つの半シリンダ状ブロック0310の間に挟まれていて、アンテナ素子0300の二つの面0220がアンテナベース0320と接触している。例示的な一実施形態では、二つの半シリンダ状Cuブロック0310がアンテナベース0320として機能する。ブレードの上部は、シリンダ0330の傾斜前面に平行に突出するように構成される。突出の高さhは0.001~5mmの範囲内であり、集束スポットサイズに比例して決定される。アスペクト比は、高さを幅で割ったものh/tとして定義され、10~100の範囲内である。
【0056】
図3Bは、ホットフィラメントカソード及び電子アンテナのアセンブリの概略側面図を示し、また、アンテナの誘導及び集束原理を示す。アセンブリは、カソードカップ0305と、ホットフィラメント0315と、電子ビーム0325と、電子アンテナ素子0335と、アンテナベース0345とを備える。見て取れるように、電子ビーム全体がアンテナ素子0335上に集束される。
【0057】
アンテナ素子は、具体的な応用の要求に合うように多様な金属(W、Rh、Mo、Cu、Co、Fe、Cr、Sc等が挙げられるがこれらに限定されない)、又は合金(W‐Re、W‐Mo、Mo‐Fe、Cr‐Co、Fe‐Ag、Co‐Cu‐Fe等が挙げられるがこれらに限定されない)で作製可能である。
【0058】
図4は、本開示の一部の例示的実施形態に係る電子アンテナ素子が有し得る多様な形状の模式図である。アンテナ素子の上面は、X線集束スポットの形状の要求に合うように多様な形状にされ得て、十字0410、円形ディスク0420、楕円ディスク0430、正方形0440、長方形0450、いくつかの種類の線形セグメント0460~0480が挙げられるがこれらに限定されない。0490は0480の上面図であるので、アンテナ素子全体ともいえる。上面の縁は、局所的電場の具体的な分布に対する特定の要求を満たすように平滑にされ得る。上面の形状は、アンテナ素子の断面の形状を直接又は間接に反映していることに留意されたい。
【0059】
円形ディスクの直径、楕円ディスクの軌道長半径(semi‐major axis)、正方形の辺、長方形の長辺は、10nm~10mmとなり得る。
【0060】
[アンテナベース]
アンテナベースは、多様な金属、合金、化合物又は複合材、好ましくは、高導電性、高熱伝導性、高融点、機械加工性や成形性を有するもので作製される。好ましい実施形態では、その物質として、Cu、Mo、BN、Alが挙げられるがこれらに限定されない。
【0061】
図5は、例示的な一実施形態における単一アンテナ素子用の導電性アンテナベース、例えばCuの模式図であり、0510はアンテナベースの側面図であり、0520はアンテナベースの上面図である。導電性ベースの利点は、電気フィードスルーとして使用可能であるという点である。
【0062】
図6は、本開示の一部の例示的実施形態に係る電気絶縁性物質、例えばBNやAl製のアンテナベースの概略図であり、0610はアンテナ素子の側面図であり、0620は、絶縁性アンテナベース0630として機能するBN又はAlのブロック同士の間に平行に挟まれた複数のアンテナ素子のうち一つである。この場合、多重集束スポット管を構成するように複数のアンテナ素子をアセンブリすることができる。これらアンテナ素子0620は必ずしも同じ物質で作製されるものではないことに留意されたい。
【0063】
[アンテナ素子とアンテナベースの融合]
ベースと接触しているアンテナ素子の面を、ベースと同じ物質、又はベースとアンテナ素子との間の中間の物質の薄層でコーティングして、アンテナ素子とベースとの間の熱親和性及び/又は電気親和性を向上させることができる。その層は、10μmから50nmまでの間の厚さを有し得る。
【0064】
アンテナ素子とアンテナベースの融合又は接合は、ねじ及び/又はピボットから与えられる機械的圧力によって、又は真空鋳造によって行われ得る。
【0065】
[X線管の構成]
本アンテナは、通常の固定アノードX線管や回転アノードX線管と同じカソードカップに対する空間的関係で構成される。
【0066】
[X線デバイス]
本開示の例示的実施形態は、上記電子アンテナを備えるX線デバイスを対象としている。前半の図面のものと変わりがない後半の図面におけるX線デバイスの特徴には同じ番号が付されている。
【0067】
上記電子アンテナを備えるX線デバイスは、一つのホットフィラメントカソードと組み合わせて、単一のホットカソードマイクロ焦点又はナノ焦点管で構成可能である。
【0068】
図7は、単一のホットカソード0110及び電子アンテナを備えるそのようなX線管の概略図であり、0720はアンテナ素子を示し、0730はアンテナベースを示す。
【0069】
上記電子アンテナを備えるX線デバイスは、一つの電界放出カソードと組み合わせて、単一の電界放出カソードマイクロ焦点又はナノ焦点管で構成可能である。
【0070】
図8は、一つの電界放出カソード0810と、一つのアンテナ素子0720及びアンテナベース0730を備える電子アンテナとを備えるそのようなX線管の概略図である。
【0071】
また、上記電子アンテナを備えるX線デバイスは、一つの電界放出カソード及び一つのホットフィラメントカソードを保持するカソードカップと組み合わせて、二重カソードマイクロ焦点又はナノ焦点管で構成可能である。
【0072】
図9は、二重カソード(つまり、一つの電界放出カソード及び一つのホットフィラメントカソード)と、アンテナ素子0720及びアンテナベース0730を備える電子アンテナとを備えるそのようなX線管の概略図であり、0910が二重カソードを保持するカソードカップを示し、0140がホットフィラメントカソード用の電力装置を示す。
【0073】
また、上記電子アンテナを備えるX線デバイスは、絶縁性アンテナベースが用いられる場合に、複数の(熱電子又は電界放出)カソード及び電子アンテナ素子を備える複数の励起源を有するマイクロ焦点又はナノ焦点管でも構成可能である。このような多重素子アンテナの概略図について図6を参照すると、0620はアンテナ素子であり、0630はアンテナベースである。
【0074】
更に、上記電子アンテナを備えるX線デバイスは、ゲート電極を備える電界電子エミッタと組み合わせて、三極電界放出マイクロ焦点又はナノ焦点管で構成可能である。
【0075】
図10は、電界放出カソード0810及びその電力ユニット0820と、ゲート電極1010と、アンテナ素子0720及びアンテナベース0730を備える一つの電子アンテナとを備えるそのようなX線管の概略図である。
【0076】
電界放出カソードは、ショットキー放出等の熱アシスト放出を可能にするように更に構成可能である。
【0077】
上記電子アンテナを備えるX線デバイスは、単一又は複数のアンテナ素子が回転ディスクに円形に挟まれる場合に、一つのタイプの回転アノードマイクロ焦点又はナノ焦点管で構成可能である。
【0078】
図11Aは、本開示の一部の例示的実施形態に係るそのタイプの回転アノードの解決策を示す。1110はアンテナベースとして機能する回転ディスクを示し、1120及び1130は、アンテナベースに挟まれた二つの円形アンテナ素子である。アンテナベース1110は上から見たものである。他の実施形態では二つよりも多くのアンテナフィラメントが存在し得る。複数のアンテナ素子の物質は異なってもよい。
【0079】
上記電子アンテナを備えるX線デバイスは、複数のアンテナ素子が回転ディスクに等角度間隔で半径方向(放射状)に挟まれる場合に、他のタイプの回転アノードマイクロ焦点又はナノ焦点管で構成可能である。
【0080】
図11Bは、本開示の一部の例示的実施形態に係るそのタイプの回転アノードの解決策を示す。1105は複数のアンテナ素子のうち一つを示し、1115はアンテナベースとして機能する回転ディスクを示し、1125はアンテナ素子同士の間の角度間隔を示し、αがその値を示す。アンテナ素子の数は、電子放出のパルス周波数及び回転速度によって決められる。アンテナベース1115は上から見たものである。
【0081】
[実施形態の例示的利点]
電子アンテナの概念及びそのX線管再設計における使用は、液体ジェットアノード法や従来のカソードとアノードとの間の電磁レンズを用いる方法よりも単純で経済的な方法で、より小型のマイクロ焦点又はナノ焦点X線管を可能にする。後者では、集束スポットサイズをナノメートル範囲に集束させることができるが、集束スポットのドリフトが顕著なものになり得て、その要因は特にレンズとカソードとアノードに印加される電圧の不安定である(2015年1月のX‐RAY WorX社のニュースレター)。上記電子アンテナの使用は、ドリフトの無い集束スポットをミリメートルからナノメートルスケールの範囲内のサイズで提供することを可能にする。固体アンテナベースに機械的に固定されていて動かない電子アンテナによって集束スポットサイズが決定されることによって、ドリフトの無い集束スポットが保証される。また、アンテナ素子の形状及びアンテナベースに対する大きな接触面積が、優れた熱管理解決策を提供する。また、上記電子アンテナの使用は、その結果のマイクロ焦点管を、従来はマクロ焦点管が支配的であった応用において使用することも可能にする。
【0082】
[応用]
本開示のX線デバイスが多数の分野において使用可能であることを理解されたい。例えば、空港のセキュリティスキャンやポストターミナルで見かけられるように、X線デバイスはセキュリティスキャン装置において使用可能である。
【0083】
本開示のX線デバイスの更なる例示的な使用は、医療用スキャンデバイス、例えばコンピュータトモグラフィ(CT)スキャン装置やCアーム型スキャン装置(小型Cアーム装置を含み得る)等におけるものである。X線デバイスのいくつかの例示的応用は、マンモグラフィ、獣医学イメージング、歯科用イメージングであり得る。
【0084】
本開示のX線デバイスの更なる例示的な使用は、地質調査装置、X線回折装置、X線蛍光発光分光法等におけるものである。
【0085】
本開示のX線デバイスは、あらゆる非破壊検査装置において使用可能であることを理解されたい。
【0086】
本開示のX線デバイスは、位相コントラストイメージングやカラーCTスキャナにおいても使用可能であることを理解されたい。
【0087】
上述のように、電子アンテナは、X線以外の波長の放射の生成にも役立つ。X線ビームの生成についての上記説明の金属電子アンテナ素子を、紫外線放出物質(量子井戸や量子ドット等)を備えるアンテナ素子に置換することによって、紫外線の生成が可能となる。紫外線ビームの焦点の改善は、X線ビームと同様の利点を有する。固体アンテナベースに機械的に固定されて動かない電子アンテナ素子によって集束スポットサイズが決定されることによって、ドリフトの無い集束スポットが保証される。また、アンテナ素子の形状及びそのアンテナベースに対する大きな接触面積が優れた熱管理解決策を提供する。また、上記電子アンテナの使用は、その結果のマイクロ焦点管を、従来はマクロ焦点管が支配的であった応用において使用することを可能にする。
【0088】
同様に、X線ビームの生成についての上記説明の金属電子アンテナ素子を、可視光放出物質(燐光発光物質や蛍光発光物質等)を備えるアンテナ素子に置換することによって、可視光の生成が可能となる。可視光ビームの焦点の改善は、X線ビームと同様の利点を有する。固体アンテナベースに機械的に固定されて動かない電子アンテナ素子によって集束スポットサイズが決定されることによって、ドリフトの無い集束スポットが保証される。また、アンテナ素子の形状及びそのアンテナベースに対する大きな接触面積が優れた熱管理解決策を提供する。上記電子アンテナの使用は、その結果のマイクロ焦点管を、従来はマクロ焦点管が支配的であった応用において使用することを可能にする。
【0089】
本開示の例示的実施形態の説明は例示目的のものである。その説明は包括的なものではなく、開示されている厳密な形態に例示的実施形態を限定するものでもなく、修正や変更が、上記教示を考慮して可能なものであり、又は与えられている実施形態に対する多様な代替例の実践から得られるものであり得る。本願で検討されている例は、多様な例示的実施形態の原理及び特性とその実際の応用を説明して、当業者が多様な方法において、また想定している特定の使用に合うように多様な修正を行って例示的実施形態を利用することができるようにするために選択されて説明されているものである。本開示の実施形態の特徴は、方法、装置、モジュール、システム及びコンピュータプログラム製品の全ての可能な組み合わせにおいて組み合わせ可能である。本開示の複数の例示的実施形態は互いにあらゆる組み合わせにおいて実施可能であることを理解されたい。
【0090】
「備える」との用語は、列挙されている以外の他の要素やステップの存在を必ずしも排除するものではなく、また、単数形で記載の要素は、そのような要素が複数存在することを排除するものではない。更に、参照符号は特許請求の範囲を制限するものではないこと、例示的実施形態をハードウェア及びソフトウェアの両方を用いて少なくとも部分的に実施することができること、複数の「手段」や「ユニット」や「デバイス」が、同じ項目のハードウェアによって表され得ることに留意されたい。
【0091】
図面及び明細書には例示的実施形態が開示されている。しかしながら、そうした実施形態に多くの変更や修正を行うことができる。従って、具体的な用語が用いられているが、それら用語は汎用的で説明的な意味合いのみで用いられているものであって、限定目的のものではなく、実施形態の範囲は添付の特許請求の範囲によって定められるものである。
【符号の説明】
【0092】
0200、0300、0335、0620、0720、1105、1120、1130 アンテナ素子
0320、0345、0630、0730、1110、1115 アンテナベース
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B