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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】偏光子および偏光板
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20220222BHJP
【FI】
G02B5/30
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020511065
(86)(22)【出願日】2019-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2019013918
(87)【国際公開番号】W WO2019189718
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2018066678
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】猿橋 友斗
(72)【発明者】
【氏名】澤田 浩明
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/018032(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/208695(WO,A1)
【文献】特開2015-052765(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0260894(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素を含有するポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、
ヨウ素含有量が15重量%~25重量%であり、
遊離ホウ酸含有量が0.4重量%以下である、偏光子。
【請求項2】
単体透過率が30.0%~41.0%である、請求項1に記載の偏光子。
【請求項3】
厚みが7μm以下である、請求項1または2に記載の偏光子。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の偏光子と、該偏光子の片側または両側に積層された保護フィルムと、を含む、偏光板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光子および偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な画像表示装置である液晶表示装置には、その画像形成方式に起因して、液晶セルの両側に偏光子(実質的には、偏光子を含む偏光板)が配置されている。偏光子は、代表的には、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルムをヨウ素等の二色性物質で染色することにより製造される(例えば、特許文献1および2)。近年、画像表示装置の薄型化の要望が高まっている。そのため、偏光子についても、さらなる薄型化が求められている。しかし、偏光子が薄くなればなるほど、耐熱性が低く、高温環境下で光学特性が変化しやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5048120号公報
【文献】特開2013-156391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、薄型で、かつ、非常に優れた耐熱性を有する偏光子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の偏光子は、ヨウ素を含有するポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、
遊離ホウ酸含有量が0.4重量%以下である。
1つの実施形態においては、上記偏光子の厚みは7μm以下である。
1つの実施形態においては、上記偏光子のヨウ素含有量は10重量%~25重量%である。
本発明の別の局面によれば、偏光板が提供される。この偏光板は、上記の偏光子と、該偏光子の片側または両側に積層された保護フィルムと、を含む。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、偏光子に含まれる遊離ホウ酸含有量を0.4重量%以下とすることにより、長く望まれながら実現することができなかった、薄型で、かつ、非常に優れた耐熱性を有する偏光子を実現することができた。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0008】
A.偏光子
A-1.偏光子の概略
本発明の実施形態による偏光子は、ヨウ素を含有するポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルムで構成され、遊離ホウ酸含有量が0.4重量%以下である。
【0009】
偏光子の遊離ホウ酸含有量は、好ましくは0.39重量%以下であり、より好ましくは0.38重量%以下である。遊離ホウ酸含有量の下限は、例えば0.01重量%である。このように、偏光子に含まれる全てのホウ酸の含有量ではなく、遊離ホウ酸の含有量に着目したことが、本発明の特徴のひとつである。偏光子の遊離ホウ酸含有量が上記の範囲内であることにより、耐熱性に優れ、高温環境下での光学特性(例えば、単体透過率)の変化が抑制され得る。偏光子の遊離ホウ酸含有量は、代表的には、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)法を用いて以下の手順により求めることができる。すなわち、偏光子を凍結粉砕して得た測定試料を、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール/クロロホルム(体積比:10/90)混合溶液と混合し、この混合物を濾過して得られた濾液中のホウ素含量を、ICP発光分析装置を用いて定量する。得られたホウ素含量は全てホウ酸に由来し、濾液中のホウ酸は全て偏光子の遊離ホウ酸に由来するものと見なし、ホウ素含量を偏光子の遊離ホウ酸含有量に換算する。1つの実施形態においては、偏光子の遊離ホウ酸含有量は、後述するように偏光子の製造方法における乾燥工程において従来の加熱温度よりも低い温度(好ましくは、50℃以下)で乾燥処理することにより、上記の範囲内に調整され得る。
【0010】
偏光子は、その厚みの上限が、1つの実施形態においては7μmであり、別の実施形態においては3μmであり、さらに別の実施形態においては2μmである。厚みの下限は、1つの実施形態においては0.5μmであり、別の実施形態においては0.6μmであり、さらに別の実施形態においては0.8μmである。本発明の実施形態によれば、厚みが薄い偏光子であっても後述のような所望の単体透過率を実現することができる。
【0011】
偏光子のヨウ素含有量は、十分な偏光性能と最適な単体透過率とを両立するよう適切に設定され得る。ヨウ素含有量は、好ましくは10重量%~25重量%であり、より好ましくは15重量%~25重量%である。本発明の実施形態によれば、このようにきわめて高いヨウ素含有量を有する偏光子において、従来は困難であった非常に優れた耐熱性を実現することができる。より詳細には、きわめて高いヨウ素含有量を有する偏光子において、高温環境下における光学特性の変化を顕著に抑制することができる。本明細書において「ヨウ素含有量」とは、偏光子(PVA系樹脂フィルム)中に含まれるすべてのヨウ素の量を意味する。より具体的には、偏光子中においてヨウ素はヨウ素イオン(I)、ポリヨウ素イオン(I 、I )等の形態で存在するところ、本明細書におけるヨウ素含有量は、これらの形態をすべて包含したヨウ素の量を意味する。ヨウ素含有量は、例えば、蛍光X線分析の検量線法により算出することができる。なお、ポリヨウ素イオンは、偏光子中でPVA-ヨウ素錯体を形成した状態で存在している。このような錯体が形成されることにより、可視光の波長範囲において吸収二色性が発現し得る。具体的には、PVAと三ヨウ化物イオンとの錯体(PVA・I )は470nm付近に吸光ピークを有し、PVAと五ヨウ化物イオンとの錯体(PVA・I )は600nm付近に吸光ピークを有する。結果として、ポリヨウ素イオンは、その形態に応じて可視光の幅広い範囲で光を吸収し得る。一方、ヨウ素イオン(I)は230nm付近に吸光ピークを有し、可視光の吸収には実質的には関与しない。したがって、PVAとの錯体の状態で存在するポリヨウ素イオンが、主として偏光子の吸収性能に関与し得る。
【0012】
偏光子の単体透過率(Ts)は、好ましくは30.0%~43.0%であり、より好ましくは35.0%~41.0%である。偏光子の偏光度は、好ましくは99.9%以上であり、より好ましくは99.95%以上であり、さらに好ましくは99.98%以上である。単体透過率を低く設定し偏光度を高くすることにより、コントラストを高くすることができ、黒表示をより黒く表示できるので、優れた画質の画像表示装置を実現することができる。なお、単体透過率は、積分球付き分光光度計で測定した値である。単体透過率は、JIS Z8701の2度視野(C光源)により測定して視感度補正を行なったY値であり、例えば、積分球付き分光光度計(日本分光株式会社製、製品名:V7100)を用いて測定することができる。
【0013】
A-2.PVA系樹脂フィルム
PVA系樹脂フィルムを形成するPVA系樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%以上100モル%未満であり、好ましくは95.0モル%~99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%~99.93モル%である。ケン化度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた偏光子を得ることができる。ケン化度が高すぎる場合には、ゲル化してしまうおそれがある。
【0014】
PVA系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択され得る。平均重合度は、通常1000~10000であり、好ましくは1200~4500、さらに好ましくは1500~4300である。なお、平均重合度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。
【0015】
PVA系樹脂フィルムの厚みは、特に制限はなく、所望の偏光子の厚みに応じて設定され得る。PVA系樹脂フィルムの厚みは、例えば、10μm~200μmである。
【0016】
1つの実施形態においては、PVA系樹脂フィルムは、基材上に形成されたPVA系樹脂層であってもよい。基材とPVA系樹脂層との積層体は、例えば、上記PVA系樹脂を含む塗布液を基材に塗布する方法、基材にPVA系樹脂フィルムを積層する方法等により得ることができる。
【0017】
B.偏光子の製造方法
B-1.偏光子の製造方法の概略
本発明の実施形態による偏光子の製造方法は、PVA系樹脂フィルムを、少なくとも延伸および染色することを含む。代表的には、当該製造方法は、PVA系樹脂フィルムを準備する工程、延伸工程、染色工程、架橋工程、洗浄工程、および乾燥工程を含む。また、必要に応じて延伸工程の前に膨潤工程を有してもよい。PVA系樹脂フィルムが供される各工程は、任意の適切な順序およびタイミングで行われ得る。したがって、各工程を上記の順序で行ってもよく、上記とは異なる順序で行ってもよい。必要に応じて、1つの工程を複数回行ってもよい。さらに、上記以外の工程(例えば、不溶化工程)を任意の適切なタイミングで行ってもよい。なお、PVA系樹脂フィルムが基材上に形成されたPVA系樹脂層である場合、基材とPVA系樹脂層との積層体が上記の工程に供される。
【0018】
以下、各工程について説明するが、上記のとおり各工程は任意の適切な順序で行われ得、記載順序に限定されるものではない。
【0019】
B-2.延伸工程
延伸工程において、PVA系樹脂フィルムは、代表的には3倍~7倍に一軸延伸される。延伸方向は、フィルムの長手方向(MD方向)であってもよく、フィルムの幅方向(TD方向)であってもよい。延伸方法は、乾式延伸であってもよく、湿式延伸であってもよく、これらを組み合せてもよい。また、架橋工程、膨潤工程、染色工程等を行う際にPVA系樹脂フィルムを延伸してもよい。なお、延伸方向は、得られる偏光子の吸収軸方向に対応し得る。
【0020】
B-3.膨潤工程
膨潤工程は、通常、染色工程の前に行われる。膨潤工程は、例えば、PVA系樹脂フィルムを膨潤浴に浸漬することにより行われる。膨潤浴としては、通常、蒸留水、純水等の水が用いられる。膨潤浴は、水以外の任意の適切な他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、アルコール等の溶媒、界面活性剤等の添加剤、ヨウ化物等が挙げられる。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。好ましくは、ヨウ化カリウムが用いられる。膨潤浴の温度は、例えば、20℃~45℃である。また、浸漬時間は、例えば、10秒~300秒である。
【0021】
B-4.染色工程
染色工程は、PVA系樹脂フィルムを二色性物質で染色する工程である。好ましくは二色性物質を吸着させることにより行う。当該吸着方法としては、例えば、二色性物質を含む染色液にPVA系樹脂フィルムを浸漬させる方法、PVA系樹脂フィルムに当該染色液を塗工する方法、当該染色液をPVA系樹脂フィルムに噴霧する方法等が挙げられる。好ましくは、染色液にPVA系樹脂フィルムを浸漬させる方法である。二色性物質が良好に吸着し得るからである。
【0022】
上記二色性物質としては、例えば、ヨウ素、二色性染料が挙げられる。好ましくは、ヨウ素である。二色性物質としてヨウ素を用いる場合、染色液としては、ヨウ素水溶液が好ましく用いられる。ヨウ素水溶液のヨウ素の含有量は、水100重量部に対して、好ましくは0.04重量部~5.0重量部である。ヨウ素の水に対する溶解度を高めるため、ヨウ素水溶液にヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物としては、ヨウ化カリウムが好ましく用いられる。ヨウ化物の含有量は、水100重量部に対して、好ましくは0.3重量部~15重量部である。
【0023】
染色液の染色時の液温は、任意の適切な値に設定することができ、例えば、20℃~50℃である。染色液にPVA系樹脂フィルムを浸漬させる場合、浸漬時間は、例えば、5秒~5分である。
【0024】
B-5.架橋工程
架橋工程においては、通常、架橋剤としてホウ素化合物が用いられる。ホウ素化合物としては、例えば、ホウ酸、ホウ砂等が挙げられる。好ましくは、ホウ酸である。架橋工程においては、ホウ素化合物は、通常、水溶液の形態で用いられる。
【0025】
ホウ酸水溶液を用いる場合、ホウ酸水溶液のホウ酸濃度は、例えば、1重量%~15重量%であり、好ましくは1重量%~10重量%である。ホウ酸水溶液には、ヨウ化カリウム等のヨウ化物、硫酸亜鉛、塩化亜鉛等の亜鉛化合物をさらに含有させてもよい。
【0026】
架橋工程は、任意の適切な方法により行うことができる。例えば、ホウ素化合物を含む水溶液にPVA系樹脂フィルムを浸漬する方法、ホウ素化合物を含む水溶液をPVA系樹脂フィルムに塗布する方法、または、ホウ素化合物を含む水溶液をPVA系樹脂フィルムに噴霧する方法が挙げられる。ホウ素化合物を含む水溶液に浸漬することが好ましい。
【0027】
架橋に用いる溶液の温度は、例えば、25℃以上であり、好ましくは30℃~85℃、さらに好ましくは40℃~70℃である。浸漬時間は、例えば、5秒~800秒であり、好ましくは8秒~500秒である。
【0028】
B-6.洗浄工程
洗浄工程は、代表的には、架橋工程以降に行われ得る。洗浄工程は、代表的には、PVA系樹脂フィルムを洗浄液に浸漬させることにより行われる。洗浄液の代表例としては、純水が挙げられる。純水にヨウ化カリウムを添加してもよい。
【0029】
洗浄液の温度は、例えば5℃~50℃である。浸漬時間は、例えば1秒~300秒である。
【0030】
B-7.乾燥工程
乾燥工程は、任意の適切な方法により行うことができる。乾燥方法としては、例えば、自然乾燥、送風乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥等が挙げられる。加熱乾燥が好ましく用いられる。乾燥時間短縮の観点から、加熱乾燥を行う場合、加熱温度は、好ましくは50℃以下であり、さらに好ましくは45℃以下であり、特に好ましくは40℃以下である。加熱温度の下限は、特に限定されないが加熱乾燥装置で設定し得る下限温度である。例えば30℃である。また、乾燥時間は、例えば、20秒~10分間である。1つの実施形態においては、2段階以上で加熱乾燥を行う。この場合、好ましくは、少なくともいずれかの段階の加熱温度が上記範囲内の温度である。加熱乾燥を行う場合に加熱温度を上記の範囲内とすることにより、非常に優れた耐熱性を有する偏光子が得られ得る。
【0031】
C.偏光板
本発明の実施形態による偏光子は、代表的には、その片側または両側に保護フィルムが積層された状態で(すなわち、偏光板として)使用される。実用的には、偏光板は、最外層として粘着剤層を有する。粘着剤層は、代表的には画像表示装置側の最外層となる。粘着剤層には、セパレーターが剥離可能に仮着され、実際の使用まで粘着剤層を保護するとともに、ロール形成を可能としている。
【0032】
保護フィルムとしては、任意の適切な樹脂フィルムが用いられる。樹脂フィルムの形成材料としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重合体樹脂等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル系樹脂」とは、アクリル系樹脂および/またはメタクリル系樹脂をいう。
【0033】
1つの実施形態においては、上記(メタ)アクリル系樹脂として、グルタルイミド構造を有する(メタ)アクリル系樹脂が用いられる。グルタルイミド構造を有する(メタ)アクリル系樹脂(以下、グルタルイミド樹脂とも称する)は、例えば、特開2006-309033号公報、特開2006-317560号公報、特開2006-328329号公報、特開2006-328334号公報、特開2006-337491号公報、特開2006-337492号公報、特開2006-337493号公報、特開2006-337569号公報、特開2007-009182号公報、特開2009-161744号公報、特開2010-284840号公報に記載されている。これらの記載は、本明細書に参考として援用される。
【0034】
基材とPVA系樹脂層との積層体を用いて偏光子を製造する場合には、基材を剥離せずにそのまま保護フィルムとして用いてもよい。また、基材を剥離して偏光子に保護フィルムを貼り合わせてもよい。
【実施例
【0035】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、各特性の測定方法は以下の通りである。
(1)単体透過率変化量Ts
実施例および比較例で得られた積層体の偏光子側に厚み1.0μmの接着層を介して反射型偏光子(3M社製、商品名「DBEF」)を貼り合わせた。次いで、熱可塑性樹脂基材を剥離し、当該剥離面に、厚み20μmのアクリル粘着剤層を介して厚み1.3mmの無アルカリガラスを貼り合せ、試験サンプルとした。この試験サンプルを80℃の条件で200時間加熱した(加熱試験)。試験前、加熱試験後の偏光子の単体透過率を、それぞれ、積分球付き分光光度計(日本分光株式会社製、製品名:V7100)を用いて測定した。加熱前の単体透過率Ts0および加熱試験後の単体透過率Ts1から、下記式を用いて単体透過率変化量Tsを求めた。
Ts(%)=Ts1-Ts0
(2)ヨウ素含有量
実施例および比較例で得られた積層体の偏光子について、蛍光X線分析装置(リガク社製、商品名「ZSX-PRIMUS II」、測定径:ψ20mm)を用いて蛍光X線強度(kcps)を測定した。一方、当該偏光子の厚み(μm)を、分光膜厚計(大塚電子社製、商品名「MCPD-3000」)を用いて測定した。得られた蛍光X線強度と厚みから下記式を用いてヨウ素含有量(重量%)を求めた。
(ヨウ素濃度)=20.5×(蛍光X線強度)/(フィルム厚み)
なお、ヨウ素含有量を算出する際の係数は測定装置によって異なるが、当該係数は適切な検量線を用いて求めることができる。
(3)遊離ホウ酸含有量
実施例および比較例で得られた偏光子をハサミで約5mm角に裁断したもの50mgを、鋼球とともに試料容器に充填した。その後、凍結粉砕装置JFC-300(日本分析工業株式会社製)を用い、冷媒としては液体窒素を用いて予冷7分、振動5分の条件で測定試料を凍結粉砕した。粉砕された測定試料を室温にて約30分放置した。得られた測定試料を、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール/クロロホルム(体積比:10/90)混合溶液3.5mLと混合し、室温で24時間放置した。得られた混合物を、0.45μmのフィルターを用いて濾過した。得られた濾液を、ホットプレート上でクロロホルムを除去後、残渣をテフロン(登録商標)製分解容器に移し取り、酸を加えて密栓した。この分解容器にマイクロ波を照射し、加圧酸分解した。分解後、超純水を加えて25mLに定容し、下記ホウ酸の定量条件により分析した。
<ホウ酸の定量条件>
装置名 :ICP発光分析装置SPS-3520UV(株式会社日立ハイテクサイエンス製)
測定波長 :B 249.848nm
得られたホウ素含量は全てホウ酸に由来するものと見なし、ホウ酸含量に換算した。このホウ酸含量を、偏光子の遊離ホウ酸含有量とした。
【0036】
[実施例1]
熱可塑性樹脂基材として、吸水率0.75%、Tg75℃の非晶質のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(IPA共重合PET)フィルム(厚み:100μm)を用いた。基材の片面に、コロナ処理を施し、このコロナ処理面に、ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(重合度1200、アセトアセチル変性度4.6%、ケン化度99.0モル%以上、日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ200」)を9:1の比で含む水溶液を25℃で塗布および乾燥して、厚み11μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、テンター延伸機を用いて、140℃で積層体の長手方向と直交する方向に4.5倍空中延伸した(延伸処理)。
次いで、積層体を液温25℃の染色浴(ヨウ素濃度1.4重量%およびヨウ化カリウム濃度9.8重量%の水溶液)に12秒間浸漬させ、染色した(染色処理)。
次いで、積層体を液温25℃の洗浄浴(純水)に6秒間浸漬させた(第1洗浄処理)。
次いで、液温60℃の架橋浴(ホウ素濃度1重量%およびヨウ化カリウム濃度1重量%の水溶液)に16秒間浸漬させた(架橋処理)。
次いで、積層体を液温25℃の洗浄浴(ヨウ化カリウム濃度1重量%の水溶液)に3秒間浸漬させた(第2洗浄処理)。
次いで、積層体を25℃のオーブンで8秒間乾燥させた(第1乾燥処理)。
最後に、積層体を25℃のオーブンで13秒間乾燥させ(第2乾燥処理)、厚み1.2μmのPVA系樹脂層(偏光子)を有する積層体を得た。得られた偏光子のヨウ素含有量は18.5重量%、遊離ホウ酸含有量は0.32重量%、単体透過率は40.0%であった。
得られた積層体を上記(1)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0037】
[実施例2]
第1乾燥処理および第2乾燥処理において、積層体をそれぞれ30℃のオーブンで乾燥させたこと以外は実施例1と同様にして、偏光子を有する積層体を得た。得られた偏光子のヨウ素含有量は18.8重量%、遊離ホウ酸含有量は0.32重量%、単体透過率は39.9%であった。得られた積層体を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0038】
[実施例3]
第1乾燥処理および第2乾燥処理において、積層体をそれぞれ40℃のオーブンで乾燥させたこと以外は実施例1と同様にして、偏光子を有する積層体を得た。得られた偏光子のヨウ素含有量は18.6重量%、遊離ホウ酸含有量は0.39重量%、単体透過率は39.9%であった。得られた積層体を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0039】
[比較例1]
第2乾燥処理において、積層体を60℃のオーブンで乾燥させたこと以外は実施例3と同様にして、偏光子を有する積層体を得た。得られた偏光子のヨウ素含有量は19.1重量%、遊離ホウ酸含有量は0.45重量%、単体透過率は39.9%であった。得られた積層体を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0040】
[比較例2]
第1乾燥処理において、積層体を50℃のオーブンで乾燥させたこと以外は比較例1と同様にして、偏光子を有する積層体を得た。得られた偏光子のヨウ素含有量は19.2重量%、遊離ホウ酸含有量は0.48重量%、単体透過率は39.9%であった。得られた積層体を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0041】
[比較例3]
第1乾燥処理において、積層体を60℃のオーブンで乾燥させたこと以外は比較例1と同様にして、偏光子を有する積層体を得た。得られた偏光子のヨウ素含有量は19.3重量%、遊離ホウ酸含有量は0.57重量%、単体透過率は40.0%であった。得られた積層体を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1から明らかなように、本発明の実施例の偏光子は、比較例の偏光子に比べて、加熱試験後の単体透過率変化量が小さく、非常に優れた耐熱性を有することがわかる。具体的には、実施例の偏光子はTsが0.75%~0.80%であり、Tsがこの程度の値であれば、実用上、耐熱性の問題は生じないとされる。実施例の偏光子は、薄型であり、かつ、高温環境下における単体透過率変化量が顕著に抑制されている。このような優れた効果は、得られる偏光子の遊離ホウ酸含有量を低く抑えることにより、高温環境下でのポリエン化が防止されることで実現されると推定される。これは、従来は作製すら困難であった非常に薄い(例えば、厚み7μm以下の)偏光子を実際に作製したことによって新たに見出された課題を解決するものであり、予期せぬ優れた効果である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の偏光子は、液晶テレビ、液晶ディスプレイ、携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ、携帯ゲーム機、カーナビゲーション、コピー機、プリンター、ファックス、時計、電子レンジ等の液晶パネルに幅広く適用させることができる。