(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】可塑性半導体材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/547 20060101AFI20220222BHJP
C04B 35/645 20060101ALI20220222BHJP
C30B 29/52 20060101ALI20220222BHJP
C30B 11/00 20060101ALI20220222BHJP
C30B 33/02 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
C04B35/547
C04B35/645
C30B29/52
C30B11/00 Z
C30B33/02
(21)【出願番号】P 2020540435
(86)(22)【出願日】2018-02-12
(86)【国際出願番号】 CN2018076460
(87)【国際公開番号】W WO2019153335
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2020-07-20
(31)【優先権主張番号】201810117079.4
(32)【優先日】2018-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】510087966
【氏名又は名称】中国科学院上海硅酸塩研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】史 迅
(72)【発明者】
【氏名】劉 睿恒
(72)【発明者】
【氏名】▲ハオ▼ 峰
(72)【発明者】
【氏名】王 拓
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101786650(CN,A)
【文献】特表平5-505237(JP,A)
【文献】J. A. Muniz-Lerma,Synthesisof Hierarchical Dorsal Spine Ag2S Structures by a Solid-Vapor Reaction: TheEffect of Reagent Gas Composition,Journal of Nanomaterials,2012年,Article ID749481, 5 pages
【文献】S. I. Sadovnikov,Recentprogress in nanostructured silver sulfide: from synthesis and nonstoichiometryto properties,Journal of Materials Chemistry A,2017年,vol.5,p.17676-17704
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/547
C04B 35/645
C30B 29/52
C30B 11/00
C30B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される輝銀鉱系化合物を含
み、かつ、3%以上の引張変形量と、13%以上の曲げ変形量と、30 %以上の圧縮変形量とに耐えることができる、塑性変形能力を有する無機半導体材料。
Ag
2-δX
δS
1-ηY
η (I)
(式中、
0.1≦δ<0.5、
0.1≦η<0.5であり、XはCu、Au、Fe、Co、Ni、Zn、Ti及びVのうち少なくとも1つであり、YはN、P、As、Sb、Se、Te、O、Br、Cl、I及びFのうち少なくとも1つである。)
【請求項2】
前記無機半導体材料は、バンドギャップが0.5~1.5eVの範囲内で調整可能であり、導電率が0.001~250000S/mの範囲内で調整可能であることを特徴とする、請求項1に記載の無機半導体材料。
【請求項3】
前記半導体材料は、単結晶体または多結晶体であることを特徴とする、請求項1に記載の無機半導体材料。
【請求項4】
前記多結晶体は、結晶粒度が1μm~5mmの範囲内にあり、緻密度が95%以上であることを特徴とする、請求項
3に記載の無機半導体材料。
【請求項5】
不活性ガス雰囲気中または真空中で、原料を式(I)の化学量論比に従って850~1200℃の温度で1~20時間保温させることによって原料が均一に混合された溶体を形成した後、冷却によって塊状固体を得る工程と、
得られた塊状固体を用いて粉末製造・焼結プロセスによって多結晶材料を作製し、または、得られた塊状固体を用いて坩堝降下法によって単結晶材料を成長させる工程と、を備えることを特徴とする、請求項1に記載の無機半導体材料の製造方法。
【請求項6】
前記冷却の後にアニール処理工程を更に含むことを特徴とする、請求項
5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記焼結は、放電プラズマ焼結またはホットプレス焼結を用いることを特徴とする、請求項
5に記載の製造方法。
【請求項8】
前記坩堝降下法は、前記塊状固体が収容された坩堝を、結晶降下炉における温度が830℃~950℃の範囲にある定温領域に配置する工程と、前記塊状固体が完全に溶けた後、0.1mm/h~10mm/hの降下速度で前記坩堝を降下させ、温度勾配が1℃/cm~100℃/cmに制御される工程と、を含むことを特徴とする、請求項
5に記載の製造方法。
【請求項9】
アニール処理の温度が400~650℃の範囲にあり、アニール処理の時間が1~300時間の範囲にあることを特徴とする、請求項
6に記載の製造方法。
【請求項10】
焼結では、温度が100~400℃の範囲にあり、圧力が10~100MPaの範囲にあり、焼結の時間が5~120分の範囲にあることを特徴とする、請求項
7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可塑性無機半導体材料及びその製造方法に関し、半導体材料の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、フレキシブルディスプレイ技術とウェアラブル電子製品の盛んな発展により、フレキシブル電子デバイスが広く注目されており、フレキシブル電子製品の中心的な処理装置であるフレキシブル半導体チップも、各研究機関や企業の研究ホットスポットになりつつある。一般的に、フレキシブル半導体チップの製造ルートは2つある。第1のルートは、有機半導体を基材とする技術である。有機物自体は一定の可変形性を持っているため、N型とP型への調整により製造されたチップ部品もある程度の変形に耐えられる。しかしながら、この経路では有機半導体のモビリティ(mobility)が低いため、デバイス性能の向上が大きく制限されている。また、有機半導体材料は、酸素や湿度の影響を極めて受けやすいため、半導体デバイスの信頼性を大きく損なうおそれがある。(Park S K, Jackson T N, Anthony J E, et al. High mobility solution processed 6,13-bis(triisopropyl-silylethynyl) pentacene organic thin film transistors[J]. Applied Physics Letters, 2007, 91(6):063514-063514-3.)。第2のルートは、PIなどの有機ポリマーを基板として利用し、その上にSi / Geなどの薄膜または半導体ナノワイヤコンポーネントなどの無機半導体を製造する技術である(Munzenrieder N, Salvatore G A, Kinkeldei T, et al. InGaZnO TFTs on a flexible membrane transferred to a curved surface with a radius of 2 mm[J]. 2013:165-166.)。無機半導体材料は次元が一定の範囲内にあれば、ある程度の曲げ変形に耐えることができるため、変形可能な有機ポリマー基板と結合すると、一定の変形に耐え得る半導体チップを製造することができる。この方法では、無機半導体デバイスの高性能化が維持されるものの、無機/有機材料の結合上の問題により、複数回の変形した後にチップに剥離や性能の低下が生じてしまう。また、プロセス条件及び製造能力上の制限により、この無機/有機材料を結合してなるフレキシブル半導体デバイスは、製造コストが高く、生産性が低い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記問題に対して、本発明の目的は、有機材料のように一定の変形に耐えることができるだけでなく、さらに電気的特性を調整可能な優れた半導体特性を持つ材料を提供し、これにより、効率のよいフレキシブル半導体デバイスの製造を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
一側面では、本発明は、下記式(I)で表される輝銀鉱系化合物を含み、塑性変形能力を有し且つ電気的特性を調整可能な無機半導体材料を提供している。
Ag2-δXδS1-ηYη (I)
式中、0≦δ<0.5、0≦η<0.5である。
Xは、Cu、Au、Fe、Co、Ni、Zn、Ti及びVのうち少なくとも1つである。
Yは、N、P、As、Sb、Se、Te、O、Br、Cl、I及びFのうち少なくとも1つである。
【0005】
本発明の無機半導体材料は、電気的特性を調整可能な半導体的な電気的性質を有することに加えて、圧縮、引張及び曲げ応力に対する非常に強い塑性変形能力を有し、フレキシブル電子デバイスの変形可能な半導体材料に対する要求を満たすことができ、次世代のフレキシブル半導体デバイスのための新しい解決策になりうる。
【0006】
前記無機半導体材料は、バンドギャップが0.5~1.5 eVの範囲内で調整可能であり、導電率が0.001~250000 S/mの範囲内で調整可能である。
【0007】
前記無機半導体材料は、3%以上の引張変形量と、13%以上の曲げ変形量と、30%以上の圧縮変形量とに耐えることができる。
【0008】
好ましくは、0≦δ<0.05、0≦η<0.05である。
【0009】
好ましくは、0.1≦δ<0. 5、0.1≦η<0.5である。
【0010】
前記半導体材料は単結晶体であってよい。
【0011】
更に、前記半導体材料は多結晶体であってよい。
【0012】
前記多結晶体は、結晶粒度が1μm~5mmの範囲内にあってよく、緻密度が95%以上であってよい。
【0013】
他方側では、本発明は上記無機半導体材料の製造方法を提供しており、以下の工程が含まれている。
【0014】
不活性ガス雰囲気中または真空中で、原料を式(I)の化学量論比に従って850~1200℃の温度で1~20時間保温させることによって原料が均一に混合された溶体を形成した後、冷却によって塊状固体を得る工程、及び、
得られた塊状固体を用いて粉末製造・焼結プロセスによって多結晶材料を作製し、または、得られた塊状固体を用いて坩堝降下法によって単結晶材料を成長させる工程。
【0015】
本発明は、プロセスがシンプルであるほか、制御が容易であり、工業化が期待される。
【0016】
好ましくは、前記冷却の後にアニール処理工程を更に含む。アニール処理工程では、温度が400~650℃の範囲にあり、アニール処理の時間が1~300時間の範囲にあることが好ましい。
【0017】
好ましくは、前記焼結は、放電プラズマ焼結またはホットプレス焼結を用いる。焼結では、温度が100~400℃の範囲にあり、圧力が10~100MPaの範囲にあり、焼結の時間が5~120分の範囲にあることが好ましい。
【0018】
好ましくは、前記坩堝降下法は以下の工程を含む。
【0019】
前記塊状固体が収容された坩堝を、結晶降下炉における温度が830℃~950℃の範囲にある定温領域に配置する工程。
【0020】
前記塊状固体が完全に溶けた後、0.1mm/h~10mm/hの降下速度で前記坩堝を降下させ、温度勾配が1℃/cm~100℃/cmに制御される工程。
【発明の効果】
【0021】
本発明の可塑性半導体材料は、有機材料のように一定の変形に耐えることができるだけでなく、さらに電気的特性を調整可能な優れた半導体特性を持っており、ことにより、効率のよいフレキシブル半導体デバイスの製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、実施例1において製作されたAg
2-δX
δS
1-ηY
η材料の断口のFE-SEM(電界放出形走査電子顕微鏡)像であり、そのうち、結晶粒度が5~10 μmの範囲にある。
【
図2】
図2は、実施例1-4において得られたAg
2-δX
δS
1-ηY
η材料のスペクトルデータを示している。
【
図3】
図3は、実施例1及び2における半導体材料の温度に対する導電率の変化関係を示している。温度が上がるにつれて導電率が著しく上昇し、典型的な半導体特性が現れ、また、ドープ成分の増加に伴い、Ag
1.8Cu
0.2S
0.9Se
0.1材料の導電率は基体に比べて2桁近く向上した。
【
図4】
図4は、実施例1および2において半導体材料に対する曲げ試験で得られた応力-ひずみ曲線である。
【
図5】
図5は、実施例1および2において半導体材料に対する圧縮試験で得られた応力-ひずみ曲線である。
【
図6】
図6は、実施例1および2において半導体材料に対する引張試験で得られた応力-ひずみ曲線である。
【
図7】
図7は、一実施例の多結晶可塑性半導体材料を製造するプロセスフロー図である。
【
図8】
図8は、一実施例の単結晶可塑性半導体材料を製造するプロセスフロー図である。
【
図9】
図9は、先端に尖った部分を有する結晶成長管の構造模式図である。
【
図10】
図10は、実施例2において得られたAg
2S半導体材料の結晶インゴットの実物の写真である。
【
図11】
図11は、実施例3及び4において得られたサンプルの導電率と温度との関係を示す図である。
【
図12】
図12は、実施例3及び4において得られたサンプルに対する曲げ試験での応力-ひずみ線図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を、添付図面及び下記の実施形態を結びつけてさらに説明する。下記の実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0024】
本件発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、従来の半導体材料の弱点に対して、塑性変形能力を持つ無機半導体材料及びその製造方法を新たに開発しており、変形に耐えられず、且つ割れやすいという半導体材料の特性を改善するに至った。
【0025】
本開示は、輝銀鉱系半導体化合物を主体とする半導体材料を提供している。前記半導体材料は下記式(I)で表される輝銀鉱系化学式を含む。
Ag2-δXδS1-ηYη (I)。
式中、Xは、Cu、Au、Fe、Co、Ni、Zn、Ti及びVのうちいずれか1種、または複種を組み合わせたものであってよい。Yは、N、P、As、Sb、Se、Te、O、Br、Cl、I及びFのうちいずれか1種、または複種を組み合わせたものであってよい。X,Yをドーピングすることで、材料のバンドギャップや導電率などの特性が調整される。
【0026】
本件発明者らは、Ag2Sが塑性変形能力を有し、その独特の可塑性及び電気的特性を広い範囲内で調整可能な特性を利用することで、様々の変形可能な半導体材料を得ることができることを初めて発見した。
【0027】
好ましくは、Xは、Cu、Zn及びNiのうちいずれか1種、または複種を組み合わせたものであってよい。
【0028】
好ましくは、Yは、Se、Te、Cl、Br及びIのうちいずれか1種、または複種を組み合わせたものであってよい。
【0029】
式中、0≦δ<0.5である。好ましくは、0<δ<0.5である。好ましい一例では、0≦δ<0.05である。別の好ましい一例では、0.1≦δ<0. 5である。
【0030】
式中,0≦η<0.5である。好ましくは、0<η<0.5である。好ましい一例では、0≦η<0.05である。別の好ましい一例では、0.1≦η<0.5である。
【0031】
好ましい一実施形態では、0≦δ<0.05、0≦η<0.05である。
【0032】
別の好ましい一実施形態では、δ=0、η=0である。即ち、式(I)はAg 2Sである。
【0033】
別の好ましい一実施形態では、0.1≦δ<0.5、0.1≦η<0.5である。
【0034】
別の好ましい一実施形態では、δ=0.2、η=0.1である。即ち、式(I)はAg1.8Cu0.2S0.9Se0.1である。
【0035】
前記半導体材料の結晶構造は、ラメラ積層構造になっている。つまり、ドープ原子X,Yは、輝銀鉱自体のラメラ積層構造に影響を与えることなく、対応する格子点位置に均一に配置できる。
【0036】
前記半導体材料は、単結晶材料(また、「単結晶体」とも称する)であってよい。単結晶材料とは、材料全体が1つの結晶粒からなるものである。
【0037】
前記半導体材料は、多結晶材料(また、「多結晶体」とも称する)であってもよい。多結晶材料とは、1つの物体が、無秩序に配列された多数の微小結晶からなるものである。当該多結晶材料の結晶粒度は1μm~5mmの範囲内にあってよい。また、当該多結晶材料の緻密度は95%以上、さらには98%以上であってよい。多結晶材料では、良好な可塑性と他の性能を持たせながら、製造プロセスをより簡単にすることができる。
【0038】
前記半導体材料は、ドープされたN型半導体材料であってもよいし、ドープされたP型半導体材料であってもよい。
【0039】
好ましい一実施形態では、前記半導体材料中の他の不純物の含有量は1at%以下である。
【0040】
前記半導体材料のバンドギャップは、0.5~1.5 eVの範囲内で調整可能であり、0.5~1.2 eVの範囲内で調整することが好ましい。
【0041】
前記半導体材料の導電率は、0.001~250000 S/mの範囲内で調整可能であり、0.01~1000 S/mの範囲内で調整することが好ましく、1~1000S/mの範囲内で調整することがさらに好ましい。
【0042】
前記半導体材料は良好な可塑性を有する。例えば、3%以上の引張変形量と、13%以上、さらには20%以上の曲げ変形量と、30%以上の圧縮変形量とに耐えることができる。
【0043】
ここに開示された半導体材料は、有機材料のように一定の変形に耐えることができるだけでなく、さらに半導体として優れた電荷輸送性能を持っている。これにより、効率の高いフレキシブル半導体デバイスの製造が可能となる。
【0044】
以下、例として、前記半導体材料の製造方法を説明する。
【0045】
(実施形態1)
図7は、実施形態1に係る可塑性半導体多結晶材料を製造するプロセスを示している。
【0046】
図7に示すように、まず、原料を固相反応法により、各成分が均一に分布した塊状固体(例えば結晶棒)に作製する。
【0047】
使用される原料としては、式(1)の構成元素の単体、または原料元素同士の化合物のいずれであってもよい。原料は、例えば純度99%が以上の高純度のものが好ましい。原料の形態は特に限定されず、ブロック状、粉末状、シート状のいずれであってもよい。原料の配合比は、式(1)の化学量論比に従えばよい。
【0048】
原料を混合して、溶融することにより溶融混合物を得る。一例では、原料を混合した後、850~1200℃に昇温して原料を溶融する。当該温度で1~20時間保温することができる。昇温速度は0.5~3℃/分の範囲にあってよい。
【0049】
一例では、原料を密閉容器に封入して溶融する。前記密閉容器は石英管であってよい。密閉容器は、通常の管状であってもよいし、先端に尖った部分を有する結晶成長管であってもよい。石英管を密閉容器として用いる場合、原料と石英管との反応を阻止するために、石英管の内壁に炭素膜を均一に塗布したり、黒鉛製坩堝に入れた原料を石英管に封入したりすることができる。
【0050】
熔融時の雰囲気は、不活性ガス雰囲気または真空のどちらでもよい。真空度は0.1~40000Paの範囲にあってもよく、好ましくは0.1~1000Paの範囲にある。
【0051】
得られた溶融混合物を冷却して塊状固体を得る。冷却の方法は、焼入れ媒体による急冷または徐冷のどちらでもよい。焼入れ媒体は、空気、水、飽和塩水、油、または液体窒素のいずれであってもよい。
【0052】
冷却後、成分をより均一にドーピングして、材料の結晶化度を向上させるために、塊状固体に対してアニール処理を行うことができる。アニール処理の温度は400~650℃の範囲にあってもよく、好ましくは550~650℃の範囲にある。アニール処理の時間は1~300時間の範囲にあってよく、好ましくは200~300時間の範囲にある。
【0053】
塊状固体を粉体に粉砕する。粉体の粒径は1~100μmの範囲にあってよい。
【0054】
粉体を焼結して多結晶材料を得る。焼結方法は、放電プラズマ焼結またはホットプレス焼結などの加圧焼結であってよい。焼結温度は100~400℃の範囲にあってよく、好ましくは200~300℃の範囲にある。かかる圧力は10~100MPaの範囲にあってよく、好ましくは30~60MPaの範囲にある。焼結時間は5~120分の範囲にあってよく、好ましくは5~30分の範囲にある。
【0055】
(実施形態2)
図8は、実施形態2において単結晶可塑性半導体材料を製造するプロセスを示している。
【0056】
図8に示すように、まず、原料を固相反応法により、各成分が均一に分布した塊状固体(例えば結晶棒)に作製する。当該工程は実施形態1と同一の方法を採用することができるので、重複する説明は省略する。
【0057】
その後、塊状固体から単結晶材料を作製する。一例では、坩堝降下法で成長させることによって前記単結晶半導体材料を得る。
【0058】
得られた塊状固体を、先端に尖った部分を有する結晶成長管(
図9参照)に入れる。前記結晶成長管は石英管であってよい。また、工程を簡素化するために、塊状固体を作製する際に先端に尖った部分を有する結晶成長管を密閉容器として利用する(即ち、最初の溶融の前に尖った尖端を有する結晶成長管を利用する)ことができる。こうすると、塊状固体を取り出してから結晶成長管に入れる必要がなくなる。
【0059】
前記塊状固体を入れた結晶成長管を結晶降下炉の定温領域に配置する。定温領域の温度は830℃~950℃の範囲にあってよい。定温領域の温度勾配は1℃/cm~100℃/cmの範囲にあってよく、好ましくは1°C/cm~5°C/cmの範囲にある。坩堝の降下速度は0.1mm/h~10mm/hの範囲にあってよく、好ましくは0.1mm/h~1mm/hの範囲にある。
【0060】
得られた単結晶半導体材料の寸法として、直径が1mm~50mmの範囲にあってよく、高さが5mm~50mmの範囲にあってよい。
【0061】
本開示の半導体材料は、例えばフレキシブル半導体チップなどのフレキシブル半導体デバイスの製造に利用することができる。本開示の製造方法はプロセスが制御可能であり、バッチ生産に適している。
【0062】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。なお、以下の実施例は、本発明をさらに説明するためのものであり、本発明の特許範囲を限定すると見なされるべきではない。当業者が本発明の上記内容によって行う非本質的な改良及び調整は、共に本発明の特許範囲に属する。下記例の具体的なプロセス変量も適合範囲内の一例にすぎず、即ち、当業者が本願の説明により適合範囲内で選ぶことができ、下記例の具体的な数値に限定されない。
【0063】
実施例1
Ag1.8Cu0.2S0.9Se0.1バルク多結晶材料
グローブボックス内で原料としてAg、Cu、S、Seの単体を1.8:0.2:0.9:0.1のモル比で準備した後、内壁に炭素膜が蒸着された石英管内に原料を封入し、真空引きしながらアルゴンプラズマ火炎で封止し、保護ガスとして石英管内にArガスを少量充填した。混合した原料を3°C/分の速度で900°Cまで昇温させて12時間溶融した。溶融完了後、焼入れ処理を行い、焼入れ媒体は塩水である。急冷して得られた結晶棒を石英管とともに500℃で100時間アニール処理し、バルクを細粉に粉砕し、焼結温度400°Cで、保温時間2分で、圧力30 MPaで放電プラズマ焼結を行ってAg1.8Cu0.2S0.9Se0.1バルク多結晶材料を得た。
【0064】
排水法試験の結果は、Ag
1.8Cu
0.2S
0.9Se
0.1の緻密度が99.2%に達することを示している。
図1では、実施例1において得られたAg
2-δX
δS
1-ηY
η材料の断口のFE-SEM(電界放出形走査電子顕微鏡)像が示されており、結晶粒度が5 μm-10μmの範囲にあることが分かる。吸収スペクトル測定試験の結果によれば、バンドギャップは0.73eVである(
図2参照)。4探針法測定試験の結果によれば、室温での導電率は20 S/mである(
図3参照)。3点曲げ試験で曲げ応力-ひずみ曲線を求め、サンプルは寸法が4mm×4mm×30mmであり、最大曲げ変形量が15%に達している。室温での圧縮変形試験のサンプルは尺寸が直径20mm×高さ20mmであり、最大圧縮変形量が40%である。引張試験のサンプルはダンベル状となり、ネック部の寸法が直径5mm×30mmであり、最大伸び率が3.2%である(
図4-
図6参照)。
【0065】
実施例2
Ag
2S半導体材料結晶インゴット
グローブボックス内で原料としてAgとSの単体を2:1のモル比で準備した後、底部が尖った形状になっている石英坩堝内に原料を封入し、真空引きしながらアルゴンプラズマ火炎で封止し、保護ガスとして石英管内にArガスを少量充填した。混合した原料を1000°Cで12時間溶融し、冷却する。その後、石英管を結晶降下炉に入れて、定温領域の温度830°Cで、温度勾配2℃/cmで、坩堝の降下速度1mm/hで、Ag
2S半導体材料結晶インゴットを得て、その写真は
図10に示されている。
【0066】
吸収スペクトル測定試験の結果によれば、バンドギャップは0.90eVである(
図2参照)。試験の結果によれば、実施例2において得られた材料の室温での導電率は0.15S/mである。室温での機械的特性試験の結果は、当該材料が良好な可塑性を有することを示しており、最大曲げ変形量が20%に達しており、圧縮変形量が50%に達しており、引張伸び率が4.2%に達している(
図4-
図6参照)。
【0067】
実施例3:Ag1.9Zn0.1S0.85I0.15
グローブボックス内で原料としてAg、Zn、S、Iの単体を1.9:0.1:0.85:0.15のモル比で準備した後、内壁に炭素膜が蒸着された石英管内に原料を封入し、真空引きしながらアルゴンプラズマ火炎で封止し、保護ガスとして石英管内にArガスを少量充填した。混合した原料を0.5°C/分の速度で1000°Cまで昇温させて12時間溶融した。溶融完了後、焼入れ処理を行い、焼入れ媒体は塩水である。急冷して得られた結晶棒を石英管とともに450°Cで200時間アニール処理し、バルク固体を細粉に粉砕し、焼結温度380°Cで、保温時間5分で、圧力40 MPaで放電プラズマ焼結を行って、Ag1.9Zn0.1S0.85I0.15バルク多結晶材料を得た。
【0068】
吸収スペクトル測定試験の結果によれば、バンドギャップは0.78eVである(
図2参照)。排水法試験の結果は、Ag
1.9Zn
0.1S
0.85I
0.15の緻密度が98.5%に達することを示している。4探針法測定試験の結果によれば、室温での導電率は0.1 S/mである(
図11参照)。3点曲げ試験で曲げ応力-ひずみ曲線を求め、サンプルは寸法が4mm×4mm×30mmであり、最大曲げ変形量が13%に達している(
図12参照)。
【0069】
実施例4:Ag1.85Ni0.15S0.6Te0.4
グローブボックス内で原料としてAg、Ni、S、Teの単体を1.85:0.15:0.6:0.4のモル比で準備した後、内壁に炭素膜が蒸着された石英管内に原料を封入し、真空引きしながらアルゴンプラズマ火炎で封止し、保護ガスとして石英管内にArガスを少量充填した。混合した原料を3°C/分の速度で850°Cまで昇温させて20時間溶融した。溶融完了後、徐冷した。徐冷して得られた結晶棒を石英管とともに550°Cで20時間アニール処理し、バルク固体を細粉に粉砕し、焼結温度300°Cで、昇温速度10℃/分で、保温時間30分、圧力30MPaでホットプレス焼結を行って、Ag1.85Ni0.15S0.6Te0.4バルク多結晶材料を得た。
【0070】
吸収スペクトル測定試験の結果によれば、バンドギャップは0.65eVである(
図2参照)。排水法試験の結果は、Ag
1.85Ni
0.15S
0.6Te
0.4の緻密度が99.6%に達することを示している。4探針法測定試験の結果によれば、室温での導電率が250 S/mであり、200℃での導電率が201050 S/mに達している(
図11参照)。3点曲げ試験で曲げ応力-ひずみ曲線を求め、サンプルは寸法が4mm×4mm×30mmであり、最大曲げ変形量が17%に達している(
図12参照)。