(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】オルソケラトロジーレンズおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 9/013 20060101AFI20220222BHJP
G02C 7/04 20060101ALI20220222BHJP
G02C 7/06 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
A61F9/013 110
G02C7/04
G02C7/06
(21)【出願番号】P 2020547273
(86)(22)【出願日】2018-11-30
(86)【国際出願番号】 CN2018118438
(87)【国際公開番号】W WO2019109862
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-06-02
(31)【優先権主張番号】201711278012.0
(32)【優先日】2017-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201711276716.4
(32)【優先日】2017-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201721682214.7
(32)【優先日】2017-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201811416151.X
(32)【優先日】2018-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201821953457.4
(32)【優先日】2018-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520193806
【氏名又は名称】アイブライト メディカル テクノロジー (ペキン) カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ツァオ
(72)【発明者】
【氏名】シィエ、ジェンビン
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-534994(JP,A)
【文献】特表2008-507345(JP,A)
【文献】特表2013-533044(JP,A)
【文献】国際公開第2017/016440(WO,A1)
【文献】特表2012-524708(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0192251(US,A1)
【文献】特表2011-523097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/013
G02C 7/04
G02C 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着の際に人の目の角膜に面する内面と、前記内面と対向する外面とを含むオルソケラトロジーレンズであって、
前記内面は、その中心に位置するベースカーブゾーンを有し、
前記ベースカーブゾーンは、角膜の前面を圧迫して、前記角膜の前面を、前記ベースカーブゾーンの形状に一致するように形作るためのものであり、
前記ベースカーブゾーンは、角膜における光学結像の役割を果たす光学領を整形するものであり、
前記ベースカーブゾーンは、二つ以上の領域を含み、
前記二つ以上の領域のうち、少なくとも二つの領域が互いに異なる曲率半径を有
し、
前記ベースカーブゾーンの前記二つ以上の領域は、中心領域と、当該中心領域に隣接する第1隣接領域とを含み、
前記中心領域の曲率半径は、前記第1隣接領域の曲率半径より大きいことを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項2】
請求項1に記載のオルソケラトロジーレンズであって、
前記ベースカーブゾーンの前記二つ以上の領域は、中心に位置する円状の中心領域と、前記中心領域を取り囲む1つ以上の同心の円環領域とを含むことを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のオルソケラトロジーレンズであって、
前記ベースカーブゾーンは、三つ以上の領域を含み、
前記ベースカーブゾーンの前記三つ以上の領域は、中心に位置する円状の第1領域と、前記第1領域を取り囲む円環状の第2領域と、前記第2領域を取り囲む円環状の第3領域とを含み、
前記第2領域の曲率半径が前記第1領域の曲率半径よりも小さく、
前記第2領域の曲率半径が前記第3領域の曲率半径よりも小さいことを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項4】
請求項3に記載のオルソケラトロジーレンズであって、
前記第1領域および前記第3領域は、互いに同一の曲率半径を有することを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項5】
請求項3に記載のオルソケラトロジーレンズであって、
前記第1領域および前記第2領域の曲率半径は、下記の関係を満たすことを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
上記式において、R
A
は、前記第1領域の曲率半径[mm]であり、R
B
は、前記第2領域の曲率半径[mm]である。
【請求項6】
請求項3に記載のオルソケラトロジーレンズであって、
前記第1領域および前記第3領域の曲率半径は、6.0mm~10.5mmであることを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項7】
請求項3に記載のオルソケラトロジーレンズであって、
前記第2領域の曲率半径は、5.42mm~10.34mmであることを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項8】
請求項3に記載のオルソケラトロジーレンズであって、
前記ベースカーブゾーンは、円状であることを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項9】
請求項8に記載のオルソケラトロジーレンズであって、
前記ベースカーブゾーンの直径は、4.5mm~8.0mmであることを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項10】
請求項8に記載のオルソケラトロジーレンズであって、
前記第1領域の直径は、0.50mm~1.75mmであることを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項11】
請求項8に記載のオルソケラトロジーレンズであって、
前記第2領域の径方向幅は、0.75mm~1.5mmであることを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項12】
請求項8に記載のオルソケラトロジーレンズであって、
前記第3領域の径方向幅は、0.75mm~3.0mmであることを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項13】
請求項3に記載のオルソケラトロジーレンズであって、
前記ベースカーブゾーンは、楕円状であることを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項14】
請求項2に記載のオルソケラトロジーレンズであって、
前記ベースカーブゾーンは、三つ以上の領域を含み、
前記ベースカーブゾーンの前記二つ以上の領域は、曲率半径が径方向に沿って交替で変化することを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項15】
請求項2に記載のオルソケラトロジーレンズであって、
前記ベースカーブゾーンの前記二つ以上の領域
における異なる領域の曲率半径
は、中心から外側に向かうに従って小さくなることを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項16】
請求項2に記載のオルソケラトロジーレンズであって、
前記中心領域の直径は、1mmより大
きいことを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項17】
請求項
1に記載のオルソケラトロジーレンズであって、
前記ベースカーブゾーンの前記二つ以上の領域は、中央に位置する第1領域と、前記第1領域の両側に位置する第2領域および第3領域であり、
前記第1領域と、前記第2領域と、前記第3領域とによって前記ベースカーブゾーンが構成されることを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項18】
請求項
1に記載のオルソケラトロジーレンズであって、
前記ベースカーブゾーンの前記二つ以上の領域は、中央に位置する第1領域および前記第1領域の両側に位置する第2領域と第3領域であり、
前記ベースカーブゾーンは、前記第1領域と前記第2領域との間に位置する第1平滑過渡領域、および、前記第1領域と前記第3領域との間に位置する第2平滑過渡領域をさらに含み、
前記第1領域と、前記第2領域と、前記第3領域と、前記第1平滑過渡領域と、前記第2平滑過渡領域とによって前記ベースカーブゾーンが構成されることを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項19】
請求項
1に記載のオルソケラトロジーレンズであって、
前記ベースカーブゾーンの前記二つ以上の領域は、第1領域および第2領域であり、
前記第1領域は、一部が欠けた円環であり、
前記第2領域は、中心に欠けのない円形の部分を有し、
前記第1領域と前記第2領域によって前記ベースカーブゾーンが構成されることを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項20】
請求項
1に記載のオルソケラトロジーレンズであって、
前記ベースカーブゾーンの前記二つ以上の領域は、第1領域および第2領域であり、
前記第1領域は、一部が欠けた円環であり、
前記第2領域は、中心に欠けのない円形の部分を有し、
前記ベースカーブゾーンは、前記第1領域と前記第2領域との間に位置する平滑過渡領域をさらに含み、
前記第1領域と、前記第2領域と、前記平滑過渡領域とによって前記ベースカーブゾーンが構成されることを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項21】
請求項1に記載のオルソケラトロジーレンズであって、
下記の式によって算出されたΔTは、+0.5D~+5.0
Dであり、
上記式において、R
1は、前記ベースカーブゾーンの最大曲率半径[mm]であり、R
2は、前記ベースカーブゾーンの最小曲率半径[mm]であり、nは、角膜の屈折率であって、その値を1.3375とすることを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項22】
請求項1に記載のオルソケラトロジーレンズであって、
前記ベースカーブゾーンの最大曲率半径は、6.0mm~10.5m
mであることを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項23】
請求項1に記載のオルソケラトロジーレンズであって、
前記ベースカーブゾーンの最小曲率半径は、5.51mm~10.34m
mであることを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項24】
請求項1に記載のオルソケラトロジーレンズであって、
前記ベースカーブゾーンの直径は、4.5mm~7.0m
mであることを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項25】
請求項1に記載のオルソケラトロジーレンズであって、
前記ベースカーブゾーンは、円状であるオルソケラトロジーレンズ。
【請求項26】
請求項1に記載のオルソケラトロジーレンズであって、
前記ベースカーブゾーンは、楕円状であることを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項27】
装着の際に人の目の角膜に面する内面と、前記内面と対向する外面とを含むオルソケラトロジーレンズであって、
前記内面は、その中心に位置するベースカーブゾーンを有し、
前記ベースカーブゾーンは、角膜の前面を圧迫して、前記角膜の前面を、前記ベースカーブゾーンの形状に一致するように形作るためのものであり、
前記ベースカーブゾーンは、二つ以上の領域を含み、
前記二つ以上の領域のうち、少なくとも二つの領域が互いに異なる曲率半径を有し、
前記ベースカーブゾーンの前記二つ以上の領域は、二つ以上の扇形領域であり、
前記二つ以上の扇形領域によって前記ベースカーブゾーンが構成されることを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項28】
装着の際に人の目の角膜に面する内面と、前記内面と対向する外面とを含むオルソケラトロジーレンズであって、
前記内面は、その中心に位置するベースカーブゾーンを有し、
前記ベースカーブゾーンは、角膜の前面を圧迫して、前記角膜の前面を、前記ベースカーブゾーンの形状に一致するように形作るためのものであり、
前記ベースカーブゾーンは、二つ以上の領域を含み、
前記二つ以上の領域のうち、少なくとも二つの領域が互いに異なる曲率半径を有し、
前記ベースカーブゾーンの前記二つ以上の領域は、二つ以上の扇形領域であり、
前記ベースカーブゾーンは、互いに隣接する扇形領域間に位置する平滑過渡領域をさらに含み、
前記二つ以上の扇形領域と前記平滑過渡領域とによって前記ベースカーブゾーンが構成されることを特徴とするオルソケラトロジーレンズ。
【請求項29】
請求項1~28のいずれか一項に記載のオルソケラトロジーレンズの製造方法であって、
(a)前記ベースカーブゾーンの最大曲率半径を特定するステップと、
(b)装着者に必要な老眼矯正量を特定するステップと、
(c)下記の式によって前記ベースカーブゾーンの最小曲率半径を特定するステップであって、
上記式において、nは、角膜の屈折率であり、R1は、特定されたベースカーブゾーンの最大曲率半径[mm]であり、ΔTは、特定された装着者に必要な老眼矯正量[D]であり、R2は、ベースカーブゾーンの最小曲率半径[mm]である、該ステップと、
(d)前記ベースカーブゾーンが二つ以上の領域を含み、前記二つ以上の領域のうちの第1領域が前記最大曲率半径を有し、前記二つ以上の領域のうちの第2領域が前記最小曲率半径を有するように、オルソケラトロジーレンズを製造するステップと、を含むことを特徴とするオルソケラトロジーレンズの製造方法。
【請求項30】
請求項
29に記載のオルソケラトロジーレンズの製造方法であって、
前記ステップ(a)は、
(a1)角膜の屈折率を特定するステップと、
(a2)装着者の角膜前面の原始曲率半径を特定するステップと、
(a3)装着者に必要な屈折異常矯正量を特定するステップと、
(a4)下記の式によって、前記ベースカーブゾーンの最大曲率半径を特定するステップと、を含むことを特徴とするオルソケラトロジーレンズの製造方法。
上記式において、nは、特定された角膜の屈折率であり、Rは、特定された装着者の角膜前面の原始曲率半径[mm]であり、ΔKは、特定された屈折異常矯正量[D]であり、R1は、ベースカーブゾーンの最大曲率半径[mm]である。
【請求項31】
請求項
29または30に記載のオルソケラトロジーレンズの製造方法であって、
(e)装着者に必要な中距離の付加屈折度を特定するステップと、
(f)下記の式によって前記ベースカーブゾーンの中等曲率半径を特定するステップであって、
上記式において、nは、角膜の屈折率であり、R1は、特定されたベースカーブゾーンの最大曲率半径[mm]であり、ΔT´は、特定された中距離の付加屈折度[D]であり、R3は、ベースカーブゾーンの中等曲率半径である、該ステップと、をさらに含み、
前記ステップ(d)は、前記二つ以上の領域のうちの第3領域が前記中等曲率半径を有するように、オルソケラトロジーレンズを製造するステップをさらに含むことを特徴とするオルソケラトロジーレンズの製造方法。
【請求項32】
請求項
31に記載のオルソケラトロジーレンズの製造方法において、
前記ステップ(e)は、下記の式によって装着者に必要な中距離の付加屈折度を特定するステップをさらに含むことを特徴とするオルソケラトロジーレンズの製造方法。
上記式において、ΔT´は、装着者に必要な中距離の付加屈折度、すなわち中距離見に必要な老眼矯正量[D]であり、M´は、装着者に対して遠見視力が正確に矯正された上の中距離見の視距[mm]である。
【請求項33】
請求項
29または30に記載のオルソケラトロジーレンズの製造方法であって、
前記ステップ(b)は、下記の式によって装着者に必要な老眼矯正量を特定するステップをさらに含むことを特徴とするオルソケラトロジーレンズの製造方法。
上記式において、ΔTは、装着者に必要な老眼矯正量[D]であり、Mは、装着者に対して遠見視力が正確に矯正された上、近見の際に明視できる距離[mm]である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルソケラトロジーレンズに関し、より具体には、ベースカーブゾーンが2種以上の曲率半径を有するオルソケラトロジーレンズに関する。また、本発明は、オルソケラトロジーレンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
老眼は、中年以降になると、必ず現れる視力の問題である。年齢の増加につれて目の調節機能が落ちていくと、患者の近見困難が生じることで、近距離の仕事にあたって、静的屈折矯正のほかに凸レンズを加えるようにしなければ、明瞭に見える近見視力が得られない。これは、老眼という。現代、人々の生活水準の向上に伴い、特におしゃれ好きな中年女性にとって、自身のイメージに対する要求が高まり、常に若さを保ちたく、自分の老眼について知られたくないことが望まれている。現在では、老眼に対して、主として老眼鏡の使用、手術やマルチフォーカルコンタクトレンズの装着などの解決方法がある。老眼鏡の使用や昼間のマルチフォーカルコンタクトレンズの装着などは、便利性、矯正効果や安定性の面で問題があり、特に、老眼鏡の使用では、使用者のイメージに対する影響が大きくなる。手術とは、主として角膜インプラントまたは各種の多焦点眼内レンズの移植のことである。このような矯正方法は、不可逆であり、目の組織に損傷を与えるため、いずれも安全性に関してある程度に問題がある。それに、この年齢層の人は、一般的に白内障の発生率が高くなり、後続の白内障手術などの他の目の治療に直面するため、手術の方式によって、後続の手術に妨害する恐れがある。したがって、老眼に対して、隠蔽的かつ効果的で安全な矯正手段が求められている。
【0003】
眼球壁の前部の1/6である透明な無血管の線維膜は、角膜と呼ばれる。正常な角膜は、透明度が高く、組織学的には、上皮細胞層、ボーマン膜、実質層、デスメ膜、内皮細胞層の5つの層に分かれる。上皮細胞層は、感覚神経終末が豊富であり、角膜に対する障壁であり、再生可能かつ変形可能である。オルソケラトロジーレンズは、ガス透過性のあるハード材料製のレンズであり、夜間での装着によって、まぶた→角膜矯正レンズ→角膜のように圧迫力がかかり、角膜上皮細胞の移行・変形が促進され、角膜(レンズ)の曲率半径が変化することで、角膜の屈折度を変化させ、角膜の形態を一時的に変化させて、屈折異常を矯正する。これは、可逆的で非外科的な屈折矯正製品であって、通常は夜間での装着(夜間は装着して眠り、昼間は外す)になる。装着者は、装着後に、自分の屈折異常が「治癒された」と考え、かつ昼間では外部条件の制約を受けることがない。そのため、他の視力矯正方法手段と比較して、余計の妨害が生じることがなく、非常に優れた視力矯正手段である。
【0004】
オルソケラトロジーレンズは、屈折矯正の原理が普通のコンタクトレンズとは根本的に異なり、夜間に装着され、光学領自体は光学的な機能を果たすのではなく、一定時間の装着によって、角膜の前面をオルソケラトロジーレンズの光学領の後面(ベースカーブゾーンともいう)のような形状に矯正されることで、角膜自体の屈折力を変化させ、屈折矯正の効果が得られる。オルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンを、角膜自体のフラット軸の曲率半径よりも平坦にすると、近視矯正の機能を果たす。オルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンを、角膜自体のフラット軸の曲率半径よりも急峻にすると、遠視矯正の機能を果たす。
【0005】
オルソケラトロジーレンズの開発は、いくつの段階を経て、3つのカーブゾーン、4つのカーブゾーンや複数のカーブゾーンなどの複種の設計に区分され、どの段階の設計においても、そのベースカーブゾーンの設計が同様であり、一つの完全な円弧となっていて、いくつかの他のカーブが一緒に幾何学の設計を構成し、ベースカーブを補助して角膜に対する圧迫および整形を図ることで、レンズの内面、涙液、角膜上皮の間に生じる流体力学的な力やレンズの機械的な圧迫およびまぶたの動きによる合力が、角膜の中央領域にかかる。オルソケラトロジーレンズは、一般的に、ベースカーブゾーンと、リバースカーブゾーンと、アライメントカーブゾーンと、ペリフェラルカーブゾーンとの四つのカーブゾーンに区分される。
図1は、オルソケラトロジーレンズの模式図である。同図において、「BC」は、ベースカーブゾーンであり、RCは、リバースカーブゾーンであり、ACは、アライメントカーブゾーンであり、PCは、任意のペリフェラルカーブゾーンである。オルソケラトロジーレンズは、例えば、アライメントカーブとペリフェラルカーブとが一体なストレートカーブとなる3つのカーブゾーンの設計であるオルソケラトロジーレンズのように、ペリフェラルカーブゾーンを有していなくてもよい。
【0006】
ベースカーブゾーンは、オルソケラトロジーレンズにおける主な治療ゾーンであり、典型なオルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンは、球面に設計されていて、その曲率半径が患者の度数下げ要求に応じて設計される。従来のオルソケラトロジーレンズは、ほとんど近視矯正に対して設計を行うものである。臨床使用中、一部の患者にオルソケラトロジーレンズの装着後に近視タイプの周辺デフォーカスが生じ、眼軸長の増加が抑制されることが発見された。そのため、オルソケラトロジーレンズは、一般的に青少年に対する近視の矯正および予防に用いられる。WO2004/015479には、ベースカーブゾーンは、角膜の平坦軸よりシャープである遠視矯正用のオルソケラトロジーレンズが開示されている。
【0007】
遠視と老眼とは、本質が異なり、前者は屈折異常の一種であるが、後者は調節力の喪失の一種である。老眼患者に対して、遠見視力を明視できるように確保するとともに近見の機能を実現することが必要である。現在では、老眼を矯正できるオルソケラトロジーレンズは、一つもない。
【0008】
ところが、角膜は、弾性体であって、整形中に生じた変化特徴が弾性体の変形特徴に合致するものであって、外力を受けると、変形するが、総体積が一定で、面形状が変化していくことになり、かつ矯正用レンズの圧力により、かかる力は、中心で最も高く、外側に向けて弱くなっていくように均一ではない。これらの特徴によって、角膜の最終形状が矯正用レンズのベースカーブゾーンの設計上の形状と完全に一致しないことで、最終の老眼矯正効果に影響を与える。従来のオルソケラトロジーレンズに関して、主に以下の問題が存在する。(1)弾性体の変形特徴は、狭い範囲であまりにも頻繁に曲率半径が変化するようにできなく、ベースカーブゾーンに過度な光学分割設計では、近視矯正領域と老眼矯正領域とを区別できない。(2)扇形領域の設計や非対称領域の設計には、位置合わせが困難であり、オルソケラトロジーレンズの装着時に、各矯正領域がいつも同じ位置にあることを保証できない。(3)圧力による弾性体の変形特徴を考慮していなく、角膜は、弾性体としてある箇所で、具体的に角膜の老眼矯正領域で隆起させようとすると、当該箇所の両側に圧迫力がかかることが必要であって、圧力の非対称設計、例えば、老眼矯正領域の両側にかかる圧力は、一方側に低く、他方側に高くなるもの、または圧力が一方側のみにかかるものは、老眼矯正領域を円滑に隆起させることができないことで、整形の失敗につながる。(4)角膜は、整形された後に、形状が段階的に変化していくため、中心領域の直径が大きすぎる(例えば、1.75mmを超える)と、中心領域まわりの領域(一般的に、老眼矯正領域)が瞳孔の外縁を越えて、老眼矯正領域の矯正能力が失われることになる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第1側面は、装着の際に人の目の角膜に面する内面と、前記内面と対向する外面とを含むオルソケラトロジーレンズであって、前記内面は、中心に位置するベースカーブゾーンを含み、前記ベースカーブゾーンは、角膜の前面を圧迫して、角膜の前面を、前記ベースカーブゾーンの形状に一致するように形作るためのものであり、前記ベースカーブゾーンは、二つ以上の領域を含み、前記二つ以上の領域のうち、少なくとも二つの領域が異なる曲率半径を有するオルソケラトロジーレンズを提供する。
【0010】
第1側面の一実施例において、前記ベースカーブゾーンの前記二つ以上の領域は、中心に位置する円状の中心領域と、前記中心領域を周回する1つ以上の同心の円環領域とを含む。
【0011】
第1側面の一実施例において、前記ベースカーブゾーンの前記二つ以上の領域は、曲率半径が径方向に沿って交替で変化する。
【0012】
第1側面の一実施例において、前記ベースカーブゾーンの前記二つ以上の領域は、曲率半径が中心から外側に向けて小さくなる。
【0013】
第1側面の一実施例において、前記中心領域の直径は、1mmより大きく、好ましくは2mmより大きい。
【0014】
第1側面の一実施例において、前記ベースカーブゾーンの前記二つ以上の領域は、二つ以上の扇形領域であり、前記二つ以上の扇形領域によって前記ベースカーブゾーンが構成される。
【0015】
第1側面の一実施例において、前記ベースカーブゾーンの二つ以上の領域は、二つ以上の扇形領域であり、前記ベースカーブゾーンは、隣接する扇形領域同士の間に位置する平滑過渡領域をさらに含み、前記二つ以上の扇形領域と前記平滑過渡領域とによって前記ベースカーブゾーンが構成される。
【0016】
第1側面の一実施例において、前記ベースカーブゾーンの二つ以上の領域は、不規則な形状である。
【0017】
第1側面の一実施例において、前記ベースカーブゾーンの二つ以上の領域は、中央に位置する第1領域および前記第1領域の両側に位置する第2領域と第3領域であり、前記第1領域と、前記第2領域と、前記第3領域とによって前記ベースカーブゾーンが構成される。
【0018】
第1側面の一実施例において、前記ベースカーブゾーンの二つ以上の領域、中央に位置する第1領域および前記第1領域の両側に位置する第2領域と第3領域であり、前記ベースカーブゾーンは、前記第1領域と前記第2領域との間に位置する第1平滑過渡領域および前記第1領域と前記第3領域との間に位置する第2平滑過渡領域をさらに含み、前記第1領域と、前記第2領域と、前記第3領域と、前記第1平滑過渡領域と、前記第2平滑過渡領域とによって前記ベースカーブゾーンが構成される。
【0019】
第1側面の一実施例において、前記ベースカーブゾーンの二つ以上の領域は、第1領域および第2領域であり、前記第1領域は、一部が欠けた円環であり、前記第2領域は、中心に欠けのない円形の部分を有し、前記第1領域と前記第2領域によって前記ベースカーブゾーンが構成される。
【0020】
第1側面の一実施例において、前記ベースカーブゾーンの二つ以上の領域は、第1領域および第2領域であり、前記第1領域は、一部が欠けた円環であり、前記第2領域は、中心に欠けのない円形の部分を有し、前記ベースカーブゾーンは、前記第1領域と前記第2領域との間に位置する平滑過渡領域をさらに含み、前記第1領域と、前記第2領域と、前記平滑過渡領域とによって前記ベースカーブゾーンが構成される。
【0021】
第1側面の一実施例において、下記の式によって算出されたΔTは、+0.5D~+5.0Dであって、好ましくは+0.75D~+3.5Dで、より好ましくは+1.0D~+3.0Dである。
【0022】
【0023】
上記式において、R1は、前記ベースカーブゾーンの最大曲率半径[mm]であり、R2は、前記ベースカーブゾーンの最小曲率半径[mm]であり、nは、角膜の屈折率であって、その値を1.3375とする。
【0024】
第1側面の一実施例において、前記ベースカーブゾーンの最大曲率半径は、6.0mm~10.5mmであって、好ましくは7.0mm~10.0mmである。
【0025】
第1側面の一実施例において、前記ベースカーブゾーンの最小曲率半径は、5.51mm~10.34mmであり、好ましくは5.65mm~9.85mmであり、より好ましくは6.53mm~9.71mmである。
【0026】
第1側面の一実施例において、前記ベースカーブゾーンの直径は、4.5mm~7.0mmであり、好ましくは5.0mm~6.8mmであり、より好ましくは5.2mm~6.5mmである。
【0027】
第1側面の一実施例において、前記ベースカーブゾーンは円状である。
【0028】
第1側面の一実施例において、前記ベースカーブゾーンは楕円状である。
【0029】
本開示の第2側面は、
装着の際に人の目の角膜に面する内面と、前記内面と対向する外面とを含むオルソケラトロジーレンズであって、前記内面は、中心に位置するベースカーブゾーンを含むオルソケラトロジーレンズの製造方法であって、
(a)前記ベースカーブゾーンの最大曲率半径を特定するステップと、
(b)装着者に必要な老眼矯正量を特定するステップと、
(c)下記の式によって前記ベースカーブゾーンの最小曲率半径を特定し、
【0030】
【0031】
上記式において、nは、角膜の屈折率であり、R1は、特定されたベースカーブゾーンの最大曲率半径[mm]であり、ΔTは、特定された装着者に必要な老眼矯正量[D]であり、R2は、ベースカーブゾーンの最小曲率半径[mm]であるステップと、
(d)前記ベースカーブゾーンは、二つ以上の領域を含み、前記二つ以上の領域のうちの第1領域が前記最大曲率半径を有し、前記二つ以上の領域のうちの第2領域が前記最小曲率半径を有するように、オルソケラトロジーレンズを製造するステップとを含むオルソケラトロジーレンズの製造方法を提供する。
【0032】
第2側面の一実施例において、ステップ(a)は、
(a1)角膜の屈折率を特定することと、
(a2)装着者の角膜前面の原始曲率半径を特定することと、
(a3)装着者に必要な屈折異常矯正量を特定することと、
(a4)下記の式によって、前記ベースカーブゾーンの最大曲率半径を特定することとを含み、
【0033】
【0034】
上記式において、nは、特定された角膜の屈折率であり、Rは、特定された装着者の角膜前面の原始曲率半径[mm]であり、ΔKは、特定された屈折異常矯正量[D]であり、R1は、ベースカーブゾーンの最大曲率半径[mm]である。
【0035】
第2側面の一実施例において、
(e)装着者に必要な中距離の付加屈折度を特定するステップと、
(f)下記の式によって前記ベースカーブゾーンの中等曲率半径を特定するステップとをさらに含み、
【0036】
【0037】
上記式において、nは、角膜の屈折率であり、R1は、特定されたベースカーブゾーンの最大曲率半径[mm]であり、ΔT´は、特定された中距離の付加屈折度[D]であり、R3は、ベースカーブゾーンの中等曲率半径であり、
前記ステップ(d)は、前記二つ以上の領域のうちの第3領域が前記中等曲率半径を有するように、オルソケラトロジーレンズを製造することをさらに含む。
【0038】
第2側面の一実施例において、ステップ(e)は、下記の式によって装着者に必要な中距離の付加屈折度を特定することを含み、
【0039】
【0040】
上記式において、ΔT´は、装着者に必要な中距離の付加屈折度であって、すなわち中距離見に必要な老眼矯正量[D]であり、M´は、装着者に対して遠見視力が正確に矯正された上の中距離見の視距[mm]である。
【0041】
第2側面の一実施例において、ステップ(b)は、下記の式によって装着者に必要な老眼矯正量を特定することを含み、
【0042】
【0043】
上記式において、ΔTは、装着者に必要な老眼矯正量[D]であり、Mは、装着者に対して遠見視力が正確に矯正された上、近見の際に明視できる距離[mm]である。
【0044】
本開示の第3側面は、装着の際に人の目の角膜に面する内面と、前記内面と対向する外面とを含むオルソケラトロジーレンズであって、前記内面は、中心に位置するベースカーブゾーンを含み、前記ベースカーブゾーンは、中心の円状の第1領域と、前記第1領域を周回する円環状の第2領域と、前記第2領域を周回する第3領域とを含み、前記第2領域の曲率半径が前記第1領域の曲率半径より小さく、前記第2領域の曲率半径が前記第3領域の曲率半径より小さいオルソケラトロジーレンズを提供する。
【0045】
第3側面の一実施例において、前記第1領域と前記第3領域とは、同じ曲率半径を有する。
【0046】
第3側面の一実施例において、前記第1領域と前記第2領域との曲率半径が下記の関係を満たす。
【0047】
【0048】
上記式において、RAは、前記第1領域の曲率半径[mm]であり、RBは、前記第2領域の曲率半径[mm]である。
【0049】
第3側面の一実施例において、前記第1領域および前記第3領域の曲率半径が6.0mm~10.5mmであって、好ましくは7.0mm~10.0mmである。
【0050】
第3側面の一実施例において、前記第2領域の曲率半径が5.42mm~10.34mmであり、好ましくは6.22mm~9.85mmである。
【0051】
第3側面の一実施例において、前記ベースカーブゾーンは円状である。
【0052】
第3側面の一実施例において、前記ベースカーブゾーンの直径が4.5mm~8.0mmであり、好ましくは5.0mm~7.0mmであり、より好ましくは5.2mm~6.5mmである。
【0053】
第3側面の一実施例において、前記第1領域の直径が0.50mm~1.75mmであり、好ましくは0.50mm~1.5mmであり、より好ましくは1.0mmである。
【0054】
第3側面の一実施例において、前記第2領域の径方向幅が0.75mm~1.5mmであり、好ましくは1.0mm~1.25mmであり、より好ましくは1.0mmである。
【0055】
第3側面の一実施例において、前記第3領域の径方向幅が0.75mm~3.0mmであり、好ましくは1.0mm~2.0mmであり、より好ましくは1.0mm~1.75mmである。
【0056】
第3側面の一実施例において、前記ベースカーブゾーンは楕円状である。
【0057】
本開示は、少なくとも以下の利点を有する。
【0058】
(1)本開示のオルソケラトロジーレンズまたは本開示の方法によって製造されたオルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンは、一種以上の曲率半径を有することで、角膜が整形された後に1つ以上の焦点を形成するようにすることができるため、夜間にレンズを装着し、昼間にレンズを外す形態で、屈折異常および老眼を合わせて矯正し、利便性・外観性・効率性が良く、生活の質の向上に貢献できる。
【0059】
(2)普通のフレーム式の老眼鏡、普通のマルチフォーカルコンタクトレンズなどの矯正手法では、レンズと眼球とは同期できなく、患者が装着後にレンズの位置と物を見る際の位置に応じて調整することが必要であり、または、レンズが中心外れの際にグレア、かすみ、めまいなどの状態が現れる。これに対して、オルソケラトロジーレンズが装着の際に自然に中心に位置し、使用者の見る方向に関わらず、レンズの位置変化によるかすみや不適用が現れない。
【0060】
(3)老眼の患者は、年齢が高く、白内障発生の可能性が高い。本開示のオルソケラトロジーレンズは、角膜細胞の活性に基づき、可逆的な矯正であり、使用停止から一定の期間を経過すると、角膜が元の状態に戻り、損傷がないため、患者のその後の眼部治療に影響を与えなく、手術より安全である。
【0061】
用語の定義
【0062】
特に記載しない限り、下記の定義は、明細書に使用された用語に適用する。
【0063】
ベースカーブゾーン(BC)は、オルソケラトロジーレンズの最も中央に位置し、光学領における内面であって、角膜の前面がその形状になるように、角膜の前面を圧迫するものであり、この領域に対応する整形された角膜は、光学領になり、光学結像の役割を果たしている。
【0064】
リバースカーブゾーン(RC)は、ベースカーブゾーンに隣接する第2の領域であって、ベースカーブゾーンとアライメントカーブゾーンとをつながる役割、オルソケラトロジーレンズと角膜の前面との間に隙間を形成し、涙液を蓄えてその流通を促進する役割を果たしている。
【0065】
アライメントカーブゾーン(AC)は、リバースカーブゾーンに隣接して、角膜の形状にマッチングされ、位置決めの役割を果たしている。
【0066】
ペリフェラルカーブゾーン(PC)は、選択的に設けられ、オルソケラトロジーレンズの最も外側に位置し、アライメントカーブゾーンに隣接して、一般的にアライメントカーブゾーンよりも平坦であり、角膜表面に対して一定の跳上げ角度になり、角膜および矯正レンズ周辺における涙液や酸素の交換および流通を確保する。
【0067】
近見とは、近く、一般的に目から約30cm離れる箇所を見ることであり、それに対応する視力は近見視力になる。
【0068】
遠見とは、遠く、一般的に目から約5m離れる箇所を見ることであり、それに対応する視力は遠見視力になる。
【0069】
中距離見とは、中距離、一般的に目から約30cm~5m離れる箇所を見ることであり、それに対応する視力は中距離視力になる。
【0070】
径方向幅とは、径方向に沿った幅である。
【0071】
なお、別に定義しない限り、本明細書に用いる科技用語に関して、その意味は、いずれも当業者による通常の理解と一致しているものとする。仮に一致しない場合に、本明細書およびそれに含まれる定義を基準にする。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【
図1】オルソケラトロジーレンズの模式的な側面断面図である。
【
図2】本開示によるオルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンを模式的に示す。
【
図3A】本開示の一実施例によるオルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンを模式的に示す。
【
図3B】本開示の一実施例によるオルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンを模式的に示す。
【
図4A】本開示の一実施例によるオルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンを模式的に示す。
【
図4B】本開示の一実施例によるオルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンを模式的に示す。
【
図5A】本開示の一実施例によるオルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンを模式的に示す。
【
図5B】本開示の一実施例によるオルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンを模式的に示す。
【
図5C】本開示の一実施例によるオルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンを模式的に示す。
【
図5D】本開示の一実施例によるオルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンを模式的に示す。
【
図6】本開示によるオルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンの「シーソー」のような3領域構成および力を受けた後の角膜の細胞移行状況を模式的に示す。
【
図7】本開示によるオルソケラトロジーレンズの装着前後における角膜の屈折度の変化傾向を模式的に示す。同図において、横軸は、角膜の直径[mm]とし、縦軸は、装着前後における角膜の屈折度の変化、すなわち、この点における装着後の角膜の屈折度から、その点における装着前の角膜の屈折度を引いたもの[D]とし、実線は、ベースカーブゾーンの第1領域の直径を1mmとする場合を示し、点線は、ベースカーブゾーンの第1領域の直径を2mmとする場合を示す。
【
図8】本開示の実施例1において、オルソケラトロジーレンズの装着前後における装着者1の角膜屈折度の変化を模式的に示す。同図において、横軸は、角膜の直径[mm]とし、縦軸は、装着前後における角膜屈折度の変化、すなわち、この点における装着後の角膜の屈折度から、その点における装着前の角膜の屈折度を引いたもの[D]とする。
【
図9A】本開示の実施例1にいて、iTrace視機能アナライザの被写界深度測定機能によって測定された、オルソケラトロジーレンズの装着前における装着者1の被写界深度を示す。同図において、測定された瞳孔の大きさは3.0mmであり、横軸は、屈折度[D]とし、目の正面視(屈折度がゼロである)の前後に異なる屈折度を付加することを示し、縦軸は、正規化された対比感度とし、対比感度が50%に低下した際の、正面視の前後に付加する屈折度の差を目の被写界深度(DOF)とする。
【
図9B】本開示の実施例1にいて、iTrace視機能アナライザの被写界深度測定機能によって測定された、オルソケラトロジーレンズの装着後における装着者1の被写界深度を示す。同図において、測定された瞳孔の大きさは3.0mmであり、横軸は、屈折度[D]とし、目の正面視(屈折度がゼロである)の前後に異なる屈折度を付加することを示し、縦軸は、正規化した対比感度とし、対比感度が50%に低下した際の、正面視の前後に付加する屈折度の差を目の被写界深度(DOF)とする。
【
図10】本開示の実施例2において、オルソケラトロジーレンズの装着前後における装着者2の角膜屈折度の変化を模式的に示す。同図において、横軸は、角膜の直径[mm]とし、縦軸は、装着前後における角膜屈折度の変化、すなわち、この点における装着後の角膜の屈折度から、その点における装着前の角膜の屈折度を引いたもの[D]とする。
【
図11A】本開示の実施例2にいて、iTrace視機能アナライザの被写界深度測定機能によって測定された、オルソケラトロジーレンズの装着前における装着者2の被写界深度を示す。同図において、測定された瞳孔の大きさは3.0mmであり、横軸は、屈折度[D]とし、目の正面視(屈折度がゼロである)の前後に異なる屈折度を付加することを示し、縦軸は、正規化した対比感度とし、対比感度が50%に低下した際の、正面視の前後に付加する屈折度の差を目の被写界深度(DOF)とする。
【
図11B】本開示の実施例2にいて、iTrace視機能アナライザの被写界深度測定機能によって測定された、オルソケラトロジーレンズの装着後における装着者2の被写界深度を示す。同図において、測定された瞳孔の大きさは3.0mmであり、横軸は、屈折度[D]とし、目の正面視(屈折度がゼロである)の前後に異なる屈折度を付加することを示し、縦軸は、正規化した対比感度とし、対比感度が50%に低下した際の、正面視の前後に付加する屈折度の差を目の被写界深度(DOF)とする。
【発明を実施するための形態】
【0073】
以下の具体的な実施例は、本開示を解釈して説明するためのものに過ぎなく、本開示は、以下の具体的な実施例に限定されるものではない。これらの実施形態を基に種々の変化が加えるものは、本開示の要旨を逸脱しない限り、本開示の保護範囲に属すると理解すべきである。
【0074】
角膜の屈折状態は、主にその曲率半径で決める。実際の臨床応用において、角膜の曲率半径と角膜の屈折度との常用な換算関係は下記の式(1)のようになる。
【0075】
【0076】
ここで、Kは、角膜の屈折度[D]であり、Rは角膜前面の曲率半径[mm]であり、nは、角膜の屈折率である。nは、例えば1.3375であってもよい。
【0077】
図1に示されるように、オルソケラトロジーレンズは、装着際に目の角膜に面する内面ISと、内面と対向する外面OSとを含む。オルソケラトロジーレンズの内面ISは、中心に位置するベースカーブゾーンBCを含む。装着の際に、オルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンBCは、目の角膜の前面と接触する。患者(装着者ともいう)に屈折異常が現れたときに、オルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンBCによって目の角膜の前面の曲率半径、すなわち、上記の(1)におけるRが調整されることで、目の屈折異常が矯正されることが可能である。以下の
図2、
図3A-3B、
図4A-4Bおよび
図5A-5Dにおいて、ベースカーブゾーンBCは、円状であるが、一部の実施例において、ベースカーブゾーンBCは、他の形状、例えば楕円状、卵状などであってもよい。
【0078】
当業者が知っているように、オルソケラトロジーレンズの内面ISは、ベースカーブゾーンBCの径方向外側にある円環状のリバースカーブゾーンRCおよびリバースカーブゾーンRCの径方向外側にある円環状のアライメントカーブゾーンACをさらに含むことができる。オルソケラトロジーレンズの内面ISは、アライメントカーブゾーンACの径方向外側にある円環状のペリフェラルカーブゾーンPCをさらに含むことができる。
【0079】
ベースカーブゾーンは、治療の役割を担い、その設計が、装着者の角膜の原始形態および屈折状態に関連する。装着者の角膜の原始形態(主に曲率半径をいう)および必要な屈折矯正量によって、屈折光学式を用いてベースカーブゾーンの曲率半径が算出される。
【0080】
ベースカーブゾーン以外のほかの領域(リバースカーブゾーン、アライメントカーブゾーンおよびペリフェラルカーブゾーン)は、主にアライメントや涙液の流通を促す役割を担い、整形が安定に行われるようにベースカーブゾーンを補助する。アライメントカーブゾーンは、対応位置における角膜の形状とマッチングすることで、レンズが良好にフィットされ、レンズ位置が安定になる。試着レンズの試着によって、アライメントカーブゾーンのパーラメータが特定される。角膜の面形に対する正確な測定によって、面形の測定結果に一致するようにアライメントカーブゾーンのパーラメータが特定される。
【0081】
本開示の一形態では、オルソケラトロジーレンズの製造方法を創意的に提案し、この方法によって製造したオルソケラトロジーレンズは、ベースカーブゾーンには少なくとも異なる2種の曲率半径が備えられて、オルソケラトロジーレンズを目に装着後、角膜の光学領に少なくとも二つの焦点が生じさせることで、装着者の屈折異常および老眼が同時に矯正されるようになる。
【0082】
本開示のオルソケラトロジーレンズの製造方法は、他の補助領域のパーラメータの特定に関して、従来技術に類似する。より具体的に、まず、装着者の眼部のパーラメータを測定する。一部の実施例では、角膜トポグラフィ、角膜曲率計装置などの検査装置を用いて、主に各方向における角膜の曲率半径、乱視状況、非球面係数などを含む角膜形態を特定する。パーラメータの測定に加えて、パーラメータが既知である試着レンズを用いて、複数回の試着および評価によって装着者に対するベースカーブゾーン以外の他の補助ゾーンのパーラメータを特定する。または、計算機シミュレーションによって、補助ゾーンに対してアライメント状況を特定し、そのパーラメータを特定する。
【0083】
従来のオルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンは、屈折矯正の機能だけを果たして、一種の曲率半径だけを含む。本開示の方法で製造されたオルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンは、2種以上の曲率半径を備える。本開示の方法において、まず、ベースカーブゾーンの最大曲率半径を特定し、その後、特定されたベースカーブゾーンの最大曲率半径と装着者に必要な老眼矯正量とに基づき、屈折光学式を用いてベースカーブゾーンの最小曲率半径を算出する。ここで、装着者に必要な老眼矯正量は、検眼用レンズや試着などによって特定することができる。
【0084】
装着者に屈折異常が現れたときに、オルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンで角膜前面の曲率半径を調整し、屈折異常の矯正を図る。
【0085】
本開示の方法では、複数の方式、例えばレンズの試着、計算機シミュレーション、数学の計算などでベースカーブゾーンの最大曲率半径を特定することができる。
【0086】
一実施例では、装着者に複数種類の試着用オルソケラトロジーレンズ(これら試着用オルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンの各パーラメータが既知である)を装着させ、ある種類の試着用オルソケラトロジーレンズによって装着者の遠見視力が矯正されれば、この試着用オルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンの曲率半径を、本開示が製造しようとするオルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンの最大曲率半径として特定することができる。
【0087】
他の実施例では、角膜トポグラフィで装着者の角膜表面の形状を測定し、検眼機器で装着者に必要な屈折異常矯正量を特定し、矢高算出方式を用いて、本開示が製造しようとするオルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンの最大曲率半径を特定することができる。例えば、まず、装着者に必要な屈折異常矯正量をΔKとし、装着者の原始角膜の半径rにおける矢高をhとし、屈折異常矯正量ΔKによる矢高の差をΔhとして特定すると、最大曲率半径を有するベースカーブゾーンの領域は、半径rにおける矢高がh´=h+Δhとなる。そして、R1=(r2-h´2)/(2h´)の式を用いて、矢高をオルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンの最大曲率半径R1に換算する。
【0088】
他の実施例では、装着者の角膜前面の原始曲率半径および屈折異常矯正量に基づき、本開示が製造しようとするオルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンの最大曲率半径を特定することができる。ここで、自動検眼機、検眼用レンズなどで装着者の角膜前面の原始曲率半径および屈折異常矯正量を測定することができる。
【0089】
例えば、下記の式(2)によってベースカーブゾーンの最大曲率半径を特定することができる。
【0090】
【0091】
式(1)に合わせて下記の式(3)が得られる。
【0092】
【0093】
ここで、nは、角膜の屈折率であり、Rは、装着者の角膜前面の原始曲率半径[mm]であり、ΔKは、屈折異常矯正量[D]であり、R1はベースカーブゾーンの最大曲率半径[mm]である。
【0094】
本開示の方法では、下記の式(4)によってベースカーブゾーンの最小曲率半径が特定される。
【0095】
【0096】
式(2)に合わせて下記の式(5)が得られる。
【0097】
【0098】
ここで、nは、角膜の屈折率であり、R1は、ベースカーブゾーンの最大曲率半径[mm]であり、ΔTは、装着者に必要な老眼矯正量[D]であり、R2は、ベースカーブゾーンの最小曲率半径[mm]である。
【0099】
本開示の製造方法では、オルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンには、二つ以上の領域が含まれる。ベースカーブゾーンの二つ以上の領域のうち、第1領域が最大曲率半径を有するとともに、第2領域が最小曲率半径を有する。ベースカーブゾーンの二つ以上の領域の面形は、いずれも球面であってもよく、いずれも非球面であってもよく、または一部の領域の面形が球面で、残りの領域の面形が非球面であってもよい。
【0100】
一部の実施例では、本開示の方法で製造されたオルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンは、装着者の老眼状態に応じて、最大曲率半径および最小曲率半径の他に、一つ以上の中等曲率半径を含むようにして、装着者に近見視力と遠見視力との間で一つ以上の中距離視力を形成させるようにしてもよい。
【0101】
中等曲率半径の特定方法は、最小曲率半径の特定方法に似ている。本開示の方法では、下記の式(6)によってベースカーブゾーンの中等曲率半径が特定される。
【0102】
【0103】
式(2)に合わせて下記の式(7)が得られる。
【0104】
【0105】
ここで、nは、角膜の屈折率であり、R1は、ベースカーブゾーンの最大曲率半径[mm]であり、ΔT´は、装着者の中距離視力における必要な付加屈折度(中距離の付加屈折度ともいう)[D]であり、R3は、ベースカーブゾーンの中等曲率半径[mm]である。
【0106】
一部の実施例では、本開示の方法によって製造されたオルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンは、二つ以上の領域のうちの第3領域が中等曲率半径を有する。
【0107】
一部の実施例では、装着者の老眼度合に応じて、装着者に必要な老眼矯正量が特定される。装着者は、遠見視力が正確に矯正される上、近見の際に明視できる距離がM[mm]であると、装着者に必要な老眼矯正量は、下記の式(8)のようになる。
【0108】
【0109】
一般的に正常な目の老眼矯正量ΔTは、+0.5D~+5.0Dである。
【0110】
本開示の方法では、中距離の付加屈折度の特定手法は、装着者に必要な老眼矯正量の特定手法に似っている。一部の実施例では、装着者の中距離の視距に基づき、装着者に必要な中距離の付加屈折度を特定する。装着者は、遠見視力が正確に矯正される上、中距離の視距がM´[mm]であると、装着者に必要な中距離の付加屈折度は下記の式(9)のようになる。
【0111】
【0112】
本開示は、オルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンが、少なくとも異なる二種の曲率半径を有し、目にオルソケラトロジーレンズを装着後、角膜の光学領に少なくとも二つの焦点を生じさせることで、患者の屈折異常と老眼が同時に矯正されることを創意的に提案する。
【0113】
本開示の他の形態は、オルソケラトロジーレンズを提供する。本開示によるオルソケラトロジーレンズは、ベースカーブゾーンが2つ以上の領域を含む。ベースカーブゾーンの2つ以上の領域のうち、少なく2つはお互いに曲率半径が異なる。ベースカーブゾーンの2つ以上の領域の面形は、いずれも球面であってもよく、いずれも非球面であってもよく、または一部の領域の面形が球面で、残りの領域の面形が非球面であってもよい。
図2に示されるベースカーブゾーンには、4つの領域A、B、CおよびDが含まれる。必要に応じて、4つの領域A、B、CおよびDが任意の形状でよい。4つの領域A、B、CおよびDのうち、少なくとも2つは、お互いに異なる曲率半径を有する。
【0114】
一部の実施例では、ベースカーブゾーン100の2つ以上の領域は、中心にある円状の中心領域1001および前記中心領域1001を取り囲む1つ以上の同心の円環領域1002、1003、1004・・・を含む。
【0115】
一部の実施例では、ベースカーブゾーン100の2つ以上の領域1001、1002、1003、1004・・・は曲率半径が径方向に沿って交替で変化する。特に、一部の実施例では、径方向に沿って交替で変化する、異なる2種の曲率半径を有するベースカーブゾーン100において、ベースカーブゾーン100の領域1002m-1は第1曲率半径を有し、ベースカーブゾーン100の領域1002mは、第1曲率半径と異なる第2曲率半径を有する。ここで、mは1以上の整数である。特に、一部の実施例では、径方向に沿って交替で変化する、異なる3種の曲率半径を有するベースカーブゾーン100において、ベースカーブゾーン100の領域1003m-2は第1曲率半径を有し、ベースカーブゾーン100の領域1003m-1は、第1曲率半径と異なる第2曲率半径を有し、ベースカーブゾーン100の領域1003mは第1曲率半径および第2曲率半径と異なる第3曲率半径を有する。ここで、mは1以上の整数である。他の実施例において、同様に、ベースカーブゾーン100が径方向に沿って交替で変化する、他の数の異なる曲率半径を有するようにしてもよい。
【0116】
例えば、一実施例では、オルソケラトロジーレンズ10は酸素透過性の高い硬質材料製である。オルソケラトロジーレンズ10の内面は、ベースカーブゾーン100と、リバースカーブゾーンと、アライメントカーブゾーンと、ペリフェラルカーブゾーンとを含む。オルソケラトロジーレンズ10は、全体の直径が10.4mmであって、そのうち、ベースカーブゾーン100の直径は、6.0mmであり、リバースカーブゾーンは、内径が6.0mmで、外径が7.8mmである。アライメントカーブゾーンは、内径が7.8mmで、外径は9.4mmである。ペリフェラルカーブゾーンは、内径が9.4mmで、外径が10.4mmである。オルソケラトロジーレンズ10の中心における厚さは0.22mmである。
【0117】
この実施例では、
図3Aに示されるように、ベースカーブゾーン100は、中心領域100
1と、中心領域100
1を取り囲む3つの同心の円環領域100
2、100
3および100
4とを含む。中心領域100
1は、直径が3mmである。円環領域100
2は、内径が3mmで、外径が4mmである。円環領域100
3は、内径が4mmで、外径が5mmである。円環領域100
3は、内径が5mmで、外径が6mmである。領域100
1、100
2、100
3および100
4の曲率半径は、交替で変化する。そのうち、中心領域100
1と円環領域100
3とは、曲率半径が同じで、例えば8.88mmとすることができ、円環領域100
2と100
4との曲率半径が同じで、例えば8.54mmとすることができる。
【0118】
当該オルソケラトロジーレンズ10を装着することで、レンズを外した患者の角膜に遠、近の2つの焦点を同時に提供する。角膜は、中心領域1001および円環領域1003に対応する2つの領域において屈折力が38.0Dであり、-5.0D近視の矯正ができることで、明視できる遠見視力ができている。角膜は、円環領域1002および1004に対応する2つの領域において屈折力が39.5Dであり、遠見視力の上に+1.5Dの付加屈折度が付加されたことで、老眼矯正を図る。
【0119】
図3Aに示された実施例では、ベースカーブゾーンは、3つの同心の円環領域を含む。また、ベースカーブゾーンは、他の数の同心の円環領域を含むようにしてもよい。
図3Aに示された実施例では、ベースカーブゾーンの各領域は、異なる2種の曲率半径が交替し、2つの焦点を提供する。また、ベースカーブゾーンの各領域は、異なる2種超えた曲率半径が交替することで、2つよりも多い焦点を提供するようにしてもよい。中心領域の直径および円環領域の幅(すなわち、外径と内径との差の半分)は、患者の瞳孔の大きさ、近見の明視度要求等に応じて調整することができる。
【0120】
一部の実施例では、ベースカーブゾーン100の2つ以上の領域1001、1002、1003・・・は、中心から外側に向けて曲率半径が小さくなる。
【0121】
例えば、一実施例では、オルソケラトロジーレンズ10は、酸素透過性の高い硬質材料製で、ベースカーブゾーン100と、リバースカーブゾーンと、アライメントカーブゾーンと、ペリフェラルカーブゾーンとを含む。オルソケラトロジーレンズ10は、全体の直径が10.9mmであり、そのうち、ベースカーブゾーン100の直径が6.5mmで、リバースカーブゾーンは、内径が6.5mmで、外径が8.3mmである。アライメントカーブゾーンは、内径が8.3mm、外径が9.9mmである。ペリフェラルカーブゾーンは内径が9.9mmで、外径が10.9mmである。オルソケラトロジーレンズ10は、中心における厚さが0.22mmである。
【0122】
この実施例では、
図3Bに示されるように、ベースカーブゾーン100は、中心領域100
1と、中心領域100
1を取り囲む4つの同心の円環領域100
2、100
3、100
4および100
5とを含む。中心領域100
1の直径は4mmである。円環領域100
2は、内径が4mmで、外径が4.5mmである。円環領域100
3は、内径が4.5mmで、外径が5mmである。円環領域100
4は、内径が5mmで、外径が5.5mmである。円環領域100
5は、内径が5.5mmで、外径が6.5mmである。領域100
1、100
2、100
3、100
4および100
5は、中心から外側に向けて曲率半径が小さくなる。例えば、中心領域100
1の曲率半径は、7.85mmであってもよく、円環領域100
2の曲率半径は7.76mmであってもよく、円環領域100
3の曲率半径は7.67mmであってもよく、円環領域100
4の曲率半径は7.58mmであってもよく、円環領域100
5の曲率半径は7.50mmであってもよい。
【0123】
当該オルソケラトロジーレンズ10は、装着者の角膜を、中心から外縁に向けて屈折力が順次に43.0D、43.5D、44.0D、44.5D、45.0Dとなるように徐々に変化する屈折度を実現し、+0.5Dから+2.0Dまで累進する付加屈折度を実現するように整形できる。
【0124】
図3Bに示される実施例では、ベースカーブゾーンは、中心領域と4つの同心の円環領域とを含み、中心から外側に向けて曲率半径が小さくなることで、異なる5種の屈折度を提供する。また、ベースカーブゾーンは、他の数量の同心の円環領域を含むことで、異なる他の数の屈折度を提供してもよい。中心領域の直径および円環領域の幅(すなわち外径と内径との差の半分)は、患者の瞳孔の大きさ、近見明視度の要求などに応じて調整することができる。
【0125】
近視化の周辺デフォーカスとは、目の光学系が周辺において屈折力が大きく、形成された焦点が網膜の前に位置することであって、臨床の証拠によれば、青少年近視のコントロールに用いられることが表明した。本開示の技術案によって、青少年がこの技術案のオルソケラトロジーレンズを装着することで、近視化の周辺デフォーカスが形成され、眼軸長の増加防止や近視の進行緩和が図れる効果もある。
【0126】
本開示の一部の実施例では、中心領域1001の直径は、1mmより大きく、好ましくは2mmより大きい。
【0127】
本開示の別の実施例では、ベースカーブゾーンの二つ以上の領域は、二つ以上の扇形領域であり、二つ以上の扇形領域によってベースカーブゾーンが構成される。本開示のまた別の実施例では、ベースカーブゾーンの二つ以上の領域は二つ以上の扇形領域であり、ベースカーブゾーンは隣接する扇形領域同士の間に位置する平滑過渡領域をさらに含み、二つ以上の扇形領域と平滑過渡領域とによってベースカーブゾーンが構成される。
【0128】
例えば、一実施例では、オルソケラトロジーレンズは、酸素透過性の高い硬質材料製で、ベースカーブゾーン100´、リバースカーブゾーン、アライメントカーブゾーンとペリフェラルカーブゾーンとを含む。オルソケラトロジーレンズ10´は、全体の直径が10.6mmであって、そのうち、ベースカーブゾーン100´の直径が6.2mmで、リバースカーブゾーンは、内径が6.2mmで、外径が8.0mmである。アライメントカーブゾーンは、内径が8.0mmで、外径が9.6mmである。ペリフェラルカーブゾーンは、内径が9.6mmで、外径が10.6mmである。オルソケラトロジーレンズの中心における厚さは0.16mmである。
【0129】
一実施例では、
図4Aに示されるように、オルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーン100´の二つ以上の領域は、扇形領域100´
1および100´
2であり、扇形領域100´
1および100´
2によってベースカーブゾーン100´が構成される。この実施例において、扇形領域100´
1の中心角は240°であり、扇形領域100´
2の中心角は120°である。
【0130】
一実施例では、
図4Bに示されるように、オルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーン100´の2つ以上の領域は、扇形領域100´
1および100´
2である。ベースカーブゾーン100´は、扇形領域100´
1と100´
2との間に位置する平滑過渡領域100´
3、100´
4を含み、扇形領域100´
1、100´
2と平滑過渡領域100´
3、100´
4とによってベースカーブゾーン100´が構成される。この実施例では、扇形領域100´
1の中心角が220°であり、扇形領域100´
2の中心角が100°である。扇形領域100´
1の曲率半径が9.0mmであり、扇形領域100´
2の曲率半径が9.78mmである。平滑過渡領域100´
3、100´
4の中心角は、いずれも20°である。
【0131】
このオルソケラトロジーレンズを装着することによって、角膜が整形された後、遠見領域の屈折力が37.5Dになり、近見領域の屈折力が34.5Dになり、オルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーン100´の扇形領域100´1および100´2が角膜に+3.0Dの付加屈折度を提供可能であり、装着者に遠見と近見の双方の焦点ができ、両焦点の光エネルギー比が2.2:1である。二つの扇形領域は平滑過渡領域を介して繋がるため、装着後に患者の角膜に明確な領域分割の痕跡がない。
【0132】
図4A、4Bに示される実施例では、ベースカーブゾーンは、二つの扇形領域を含む。また、ベースカーブゾーンは、二つ以上の扇形領域を含み、二つ以上の焦点を生じさせるようにしてもよい。扇形領域および平滑過渡領域の中心角は、必要に応じて調整することができる。
【0133】
本開示の他の実施例では、ベースカーブゾーンの二つ以上の領域は、不規則な形状であってもよい。
【0134】
例えば、一実施例では、
図5Aに示されるように、ベースカーブゾーン100´´の二つ以上の領域は、中央に位置する第1領域100´´
1および前記第1領域100´´
1の両側に位置する第2領域100´´
2と第3領域100´´
3であって、第1領域100´´
1と、第2領域100´´
2と、第3領域100´´
3とによってベースカーブゾーン100´´が構成される。別の実施例では、
図5Bに示されるように、ベースカーブゾーン100´´の二つ以上の領域は、中央に位置する第1領域100´´
1および前記第1領域100´´
1の両側に位置する第2領域100´´
2と第3領域100´´
3であり、ベースカーブゾーン100´´は、第1領域100´´
1と第2領域100´´
2との間に位置する第1平滑過渡領域100´´
4と、第1領域100´´
1と第3領域100´´
3との間に位置する第2平滑過渡領域100´´
5とをさらに含み、第1領域100´´
1と、第2領域100´´
2と、第3領域100´´
3と、第1平滑過渡領域100´´
4と、第2平滑過渡領域100´´
5とよってベースカーブゾーン100´´が構成されるようにしてもよい。
【0135】
図5A、5Bに示される実施例では、第1領域100´´
1の曲率半径が7.30mmであり、第2領域100´´
2の曲率半径が7.00mmであり、第3領域100´´
3の曲率半径が7.63mmである。角膜が整形された後、第1領域100´´
1に46.2Dの屈折力が生じ、第2領域100´´
2に48.2Dの屈折力が生じ、第3領域100´´
3に44.2Dの屈折力が生じ、目に遠見、+2.0Dの中距離見、+4.0Dの近見の全範囲の視力を実現可能である。
【0136】
図5A、5Bに示される実施例では、ベースカーブゾーンの二つ以上の領域は、不規則な形状の3つの領域である。また、ベースカーブゾーンの二つ以上の領域は、不規則な形状の他の数の領域で、他の数の焦点を生じさせるものであってもよい。
【0137】
例えば、一実施例では、
図5Cに示されるように、ベースカーブゾーン100´´´の二つ以上の領域は、第1領域100´´´
1と第2領域100´´´
2であり、第1領域100´´´
1は一部が欠けた円環であり、第2領域100´´´
2は中心に欠けのない円形の部分を有し、第1領域100´´´
1と第2領域100´´´
2とによってベースカーブゾーン100´´´が構成される。この実施例では、第1領域100´´´
1の曲率半径が7.50mmであり、第2領域100´´´
2の曲率半径が7.85mmである。膜が整形された後、第1領域100´´´
1に45.0Dの屈折力が生じ、第2領域100´´´
2に43.0Dの屈折力が生じ、目に遠見、+2.0Dの近見の視力を実現可能である。第1領域100´´´
1の中心角は200°で、第2領域100´´´
2の中心角は160°である。第2領域100´´´
2は、中心に欠けのない円形の部分を有し、その直径が2.0mmである。別の実施例では、
図5Dに示されるように、ベースカーブゾーン100´´´の二つ以上の領域は、第1領域100´´´
1と第2領域100´´´
2であり
、第1領域100´´´
1は一部が欠けた円環であり、第2領域100´´´
2は中心に欠けのない円形の部分を有していて、ベースカーブゾーン100´´´は、第1領域100´´´
1と第2領域100´´´
2との間に位置する平滑過渡領域100´´´
3をさらに含み、第1領域100´´´
1と、第2領域100´´´
2と、平滑過渡領域100´´´
3とによってベースカーブゾーン100´´´が構成される。この実施例において、第1領域100´´´
1の曲率半径が8.44mmであり、第2領域100´´´
2の曲率半径が7.85mmであり、第3領域100´´´
3は、滑らかに過渡させる部分であり、幅が0.1mmで、その曲率半径が第1領域と第2領域との曲率半径の間になる。膜が整形された後、第1領域100´´´
1に40.0Dの屈折力が生じ、第2領域100´´´
2に43.0Dの屈折力が生じ、目に遠見、+3.0Dの近見の視力を実現可能である。第1領域100´´´
1の中心角が220°であり、第2領域100´´´
2の中心角が120°であり、第2領域100´´´
2は中心に欠けのない円形の部分を有し、その直径が1.8mmである。
【0138】
図5C、5Dに示される実施例では、ベースカーブゾーンの二つ以上の領域は不規則な形状の2つの領域である。また、ベースカーブゾーンの二つ以上の領域は、不規則な形状の他の数の領域で、他の数の焦点を生じさせるようにしてもよい。
【0139】
一部の実施例では、目の角膜の屈折度Kを38.0D~47.0Dとし、屈折異常矯正量ΔKを-6.0D~1.0Dとすると、式(2)によって算出されたベースカーブゾーンの最大曲率半径R1が6.0mm~10.5mmになる。上記の範囲に合わせて、式(5)によってベースカーブゾーンの最小曲率半径R2が算出される。表1は、本開示の一部の実施例によるデータを示す。ただし、角膜の屈折率nを1.3375とする。
【0140】
【0141】
本開示の一部の実施例では、オルソケラトロジーレンズによる目の老眼矯正量ΔTは、+0.5D~+5.0Dであり、好ましくは+0.75D~+3.5Dであり、より好ましくは+1.0D~+3.0Dである。
【0142】
本開示の一部の実施例では、オルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンの最大曲率半径は、6.0mm~10.5mmであり、好ましくは7.0mm~10.0mmである。
【0143】
本開示の一部の実施例では、オルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンの最小曲率半径は、5.51mm~10.34mmであり、好ましくは5.65mm~9.85mmであり、より好ましくは6.53mm~9.71mmである。
【0144】
本開示の一部の実施例では、オルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンの直径は、4.5mm~7.0mmであり、好ましくは5.0mm~6.8mmであり、より好ましくは5.2mm~6.5mmである。
【0145】
nを1.3375とすると、式(1)は以下のようになる。
【0146】
【0147】
患者に屈折異常が現れたときに、オルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンBCによって目の角膜前面の曲率半径、すなわち式(1)および式(10)におけるRを調整することで、屈折異常の矯正を実現できる。本開示の一部の実施例では、光軸に平行する方向から見て、ベースカーブゾーンBCが円状であるが、本開示の他の実施例では、光軸に平行する方向から見て、ベースカーブゾーンBCが他の形状、例えば楕円状、卵形などであるようにしてもよい。
【0148】
オルソケラトロジーレンズを装着したままで、目を閉じて寝ると、まぶたによってオルソケラトロジーレンズおよび角膜に圧迫力がかかる。人間の目が球形に近い形態であるため、前記圧迫力が角膜の中心における一番高い箇所から外縁へ向けて低減する。この圧迫力の特徴によって、オルソケラトロジーレンズ装着後、オルソケラトロジーレンズの中心領域の設計によらず、角膜の中心領域を隆起させることができなく、角膜の中心領域が必ず平坦化されることになる。したがって、老眼矯正用の領域は、オルソケラトロジーレンズの中心領域に設定できない。
【0149】
一方、目は、正常な瞳孔条件において、角膜の老眼矯正領域の結像を受け取れるようにするために、老眼矯正領域は、中心に十分に近づくことが必要である。
【0150】
なお、角膜の老眼矯正領域は、他の位置の曲率半径よりも小さく、「隆起」の状態であり、他の箇所の圧力によって角膜細胞が老眼矯正領域へ移行させるようにする必要がある。
【0151】
本開示の他の形態では、オルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンは、少なくとも異なる2種の曲率半径を有することで、目は、オルソケラトロジーレンズ装着後、角膜の光学領において段階的に変化する屈折度が生じ、患者の被写界深度が広がり、屈折異常および老眼が同時に矯正される。特に、本開示のオルソケラトロジーレンズは、装着の際、目の角膜に面する内面と、内面に対向する外面とを含む。内面は、中心にあるベースカーブゾーンを含む。ベースカーブゾーンは、中心に位置する円状の第1領域と、第1領域を取り囲む円環状の第2領域と、第2領域を取り囲む円環状の第3領域とを含み、第1領域、第2領域および第3領域の面形は、球面であってもよい。第2領域の曲率半径が第1領域の曲率半径より小さく、第2領域の曲率半径が第3領域の曲率半径より小さい。
【0152】
第1領域と第2領域との曲率半径の差によって、オルソケラトロジーレンズが角膜に対して異なる矯正性能が生じ、両領域の曲率半径の差は、オルソケラトロジーレンズの老眼矯正量に対する設計値となる。本開示のオルソケラトロジーレンズにおいて、老眼矯正量の設計値を0.5D~6.0Dとし、すなわち第1領域と第2領域の曲率半径が以下の条件を満たすようにすることが好ましい。
【0153】
【0154】
上式において、RA、RBは、第1領域、第2領域の曲率半径[mm]であり、337.5*(1/RB-1/RA)は、オルソケラトロジーレンズの第2領域の第1領域に対する老眼矯正量である。
【0155】
本開示のオルソケラトロジーレンズにおいて、ベースカーブゾーンの3つの領域が平坦-隆起-平坦の設計で、「シーソー」に似た形状に形成され、
図6の矢印のように角膜の細胞の第2領域への移行を誘導する。ベースカーブゾーンの第1領域110は、比較的に平坦な形状になり(すなわち曲率半径が大きい)、角膜が中心において角膜を平坦化させる力を受け、角膜の細胞を両側に押しこむようにする。これは、レンズを装着して目を閉じる時に、角膜の力を受ける規則に合致していて、角膜の中心はオルソケラトロジーレンズの力を受ける支点となる。ベースカーブゾーンの第3領域130も比較的に平坦な形状になり(すなわち曲率半径が大きい)、角膜の細胞を両側に押し込む。ベースカーブゾーンの第2領域120は、比較的に急峻な形状になり(すなわち曲率半径が小さい)、角膜との間にスペースが形成され、逆方向の吸引力を生じ、第1領域110および第3領域130において圧迫された細胞が第2領域120へ移動させ、第2領域120における角膜の表面がより急峻または隆起させることで、角膜に対する「老眼矯正領域」を形作ることができた。第2領域120の両側の圧力が大きいほど、第2領域120における角膜の表面が隆起しやすい。第2領域120の径方向幅が小さいほど、第2領域120における角膜の表面が隆起しやすい。
【0156】
角膜が圧迫されて整形される際に、細胞の弾性表面の連続性、各領域における角膜表面の曲率半径が急に変化するのではなく、段階的に変化するため、ベースカーブゾーンの第2領域120が対応する角膜の老眼矯正領域の位置は、瞳孔の画像獲得可能の範囲を超えることを防ぐために、ベースカーブゾーンの第1領域110が大きすぎることが望ましくない。そこで、本開示のオルソケラトロジーレンズにおいて、ベースカーブゾーンの第1領域の直径は、0.50mm~1.75mmで、好ましくは0.50mm~1.5mmで、より好ましくは1.0mmである。
図7の実線は、本開示のオルソケラトロジーレンズを装着後、角膜の屈折度の変化傾向を示している。ここで、ベースカーブゾーンの第1領域の直径は1mmである。これによって、第1領域は、近視を矯正するように、角膜に対して平坦化させる機能を果たしていて、生じさせた屈折度の変化が約-2.5Dであることがわかる。第2領域は、老眼矯正領域であり、角膜に対する整形を行い、角膜の屈折度変化が第1領域よりも第2領域のほうが小さくようにすることで、角膜が第2領域にて老眼矯正領域を形成する。理論上、角膜の老眼矯正領域の位置はベースカーブゾーンの第2領域の位置に対応することになる。しかし、角膜表面の曲率半径が急に変化するのではなく、段階的に変化するため、角膜の老眼矯正領域は、第2領域の直径よりも大きい箇所、すなわち直径が約1.5mm程度の箇所に現れ、中心から外側に向けて屈折度が段階的に変化することになる。
図7の点線は、本開示のオルソケラトロジーレンズを装着後、角膜の屈折度の変化傾向を示している。ここで、ベースカーブゾーンの第1領域の直径は2mmである。これによって、第1領域の直径が1.75mmを超えると、角膜の老眼矯正領域、すなわち、屈折度の変化が小さくなる領域は、直径が3mm以上程度の箇所に現れ、同時に遠見も近見も明視できる機能を図れない。
【0157】
本開示の原理として、角膜の形状変化によって、角膜の光学特性を変化させることで、目の水晶体に対する調節力の要求を低減することである。この原理から、本開示のオルソケラトロジーレンズは、視覚疲労を軽減するのに用いられる。そして、本開示のオルソケラトロジーレンズは、角膜が整形された後に、第2領域における屈折度が第1領域における屈折度より大きいため、目に近視化の周辺デフォーカスが形成されるので、青少年の近視制御にも応用できる。
【0158】
実施例1
【0159】
装着者1は、角膜屈折度Kが42.00Dとし、曲率半径が8.04mmとし、近視度数は-2.50Dとする。装着者1のためのオーダーメイドのオルソケラトロジーレンズのパーラメータを表2に示す。
【0160】
【0161】
表2に示されるオルソケラトロジーレンズのパーラメータで、第1領域の曲率半径は、装着者1の角膜の曲率半径より大きく、8.71mmであるため、第1領域の面形は、装着者1の角膜に対して、より平坦であって、角膜を平坦化させ、近視矯正の役割を果たしている。第2領域の曲率半径は、第1領域の曲率半径より小さく、8.28mmであるため、第2領域の面形は、第1領域よりも急峻であり、角膜に対する圧迫を緩和する役割を果たしていて、老眼塑形領域とされる。第3領域の曲率半径は、第1領域の曲率半径と同じ、8.71mmであり、角膜を平坦化させ、角膜の細胞を両側に移行させる役割を果たしている。リバースカーブゾーン、アライメントカーブゾーンおよびペリフェラルカーブゾーンは、常套な構造であってもよい。例えば、リバースカーブゾーンは、径方向幅が0.8mmで、曲率半径が7.60mmであり、アライメントカーブゾーンは、径方向幅が0.9mmで、曲率半径が8.04mmであり、ペリフェラルカーブゾーンは、径方向幅が0.5mmで、曲率半径が10.26mmである。
【0162】
表2に示されるオルソケラトロジーレンズのパーラメータで、角膜にかかる圧迫力は、中心から外側へ向けて高い-低い-高いという分布になり、角膜の細胞の第1領域および第3領域のそれぞれから第2領域への移動および変形を促すことで、角膜は、第1領域において高度に平坦化され、第2領域において軽度で平坦化され、第3領域において高度に平坦化された形状に形作られる。
【0163】
角膜の細胞移行および変形は、累進過程である。
図8は、実施例1のオルソケラトロジーレンズを装着前後における角膜の屈折度の変化状況を示す。装着の結果から、角膜の中心領域の1mm以内では屈折度の変化が約-2.5Dであり、近視矯正できるように、装着者1の角膜に十分の屈折度変化ができている。オルソケラトロジーレンズのベースカーブゾーンの第1領域は、直径が1mmであるが、角膜の第1領域の曲率半径から第2領域の曲率半径まで変化するのに、約0.5mmの過渡領域が必要であり、角膜の直径約1.5mmの箇所から、屈折度の変化量が低下し始め、角膜の直径2.0mm程度の箇所で、屈折度の変化量が大幅に低下し、角膜の直径3.0mm程度の箇所で、屈折度の変化量が-1.5Dまで低下することで、目が正常な瞳孔直径以内に複数の焦点を形成可能になり、被写界深度が広がり、老眼が矯正されるようになる。
【0164】
実施例1のオルソケラトロジーレンズの作用で、装着者1が3.0mm瞳孔以内、約-1.5D程度の屈折度変化が得られた。
図9aおよび
図9bは、それぞれiTrace視機能アナライザの被写界深度測定機能によって測定された、オルソケラトロジーレンズの装着前後における装着者1の被写界深度を示す。これによって、実施例1のオルソケラトロジーレンズを装着後、装着者1の被写界深度の大幅の上昇が得られることで、老眼矯正の効果が得られたことがわかる。
【0165】
実施例2
【0166】
装着者2は、角膜屈折度Kが44.75Dで、曲率半径が7.54mmであり、近視なしである。装着者2のためのオーダーメイドのオルソケラトロジーレンズのパーラメータは表3に示す。
【0167】
【0168】
表3に示されるオルソケラトロジーレンズのパーラメータで、第1領域の曲率半径が7.54mmであって、装着者2の角膜の曲率半径と同じであり、正常な視距にする役割を果たしている。第2領域の曲率半径は、6.78mmであって、第1領域の曲率半径より小さいため、第2領域の面形が第1領域よりも急峻になり、老眼矯正領域とされ、角膜に対して負圧をかける役割を果たして、周辺領域の角膜細胞を、この領域に移行するように吸引する。第3領域の曲率半径は、7.54mmで、第1領域の曲率半径と同じであり、角膜細胞が両側に移行させる役割を果たしている。リバースカーブゾーンと、アライメントカーブゾーンと、ペリフェラルカーブゾーンとは、常套の構造でよい。例えば、リバースカーブゾーンは、径方向幅が0.8mmで、曲率半径が8.12mmであり、アライメントカーブゾーンは、径方向幅が0.9mmで、曲率半径が7.54mmであり、ペリフェラルカーブゾーンは、径方向幅が0.5mm、曲率半径が9.39mmである。
【0169】
表3に示されたオルソケラトロジーレンズのパーラメータで、中心から外側に向けて角膜にかかる圧迫力が、低い-より低い-低いという分布になり、角膜の細胞の第1領域および第3領域のそれぞれから第2領域への移動や変形を促し、角膜が第1領域において軽度に平坦化され、第2領域において隆起し、第3領域において軽度に平坦化させた形状に形作られる。装着者2自身は、近視なしのため、第1領域において平坦化されることによって、装着者2は、第1領域において遠視の方向へシフトするが、角膜が第2領域において隆起し、目自身より高い屈折度を提供し、第1領域から第2領域まで過渡領域が存在し、この過渡領域が目に正視の屈折度を提供する。
【0170】
角膜の細胞の移行および変形は、累進過程であり、
図10は、実施例2のオルソケラトロジーレンズを装着前後における角膜屈折度の変化状況を示す。装着の結果から、装着者2の角膜の直径1mm以内の屈折度の変化が±0.2D以下であることは、装着者2は角膜の中心領域において正視の状態を維持し、装着者2本来の屈折状態がほとんど変化しないことを表している。1mm以外から、角膜の屈折度が迅速に大きくなり、3.0mmの箇所で最も高い屈折度変化ができている。
【0171】
実施例2のオルソケラトロジーレンズの作用で、装着者2の角膜は、第2領域において隆起し、老眼矯正効果が得られた。
図11aおよび
図11bは、それぞれiTrace視機能アナライザの被写界深度測定機能によって測定された、オルソケラトロジーレンズの装着前後における装着者2の被写界深度を示す。これによって、実施例2のオルソケラトロジーレンズを装着後、装着者2の被写界深度がその分の上昇が得られたことがわかる。
【0172】
実施例3~9
【0173】
表4は、本開示のオルソケラトロジーレンズの一部の実施例を示す。本開示のオルソケラトロジーレンズに対して、ベースカーブゾーンの直径が4.5mm~8.0mmでよく、好ましくは5.0mm~7.0mmで、より好ましくは5.2mm~6.5mmである。一般的に、装着者は、角膜屈折度Kが40.15D~56.25Dで、屈折異常量KAが0~-8.0Dである。より一般的に、角膜屈折度Kが39.75D~46.22Dで、屈折異常量KAが0~-6.0Dである。第1領域の曲率半径RAは、角膜屈折度Kおよび屈折異常量との関係がRA=337.5/(K+KA)になる。
【0174】
これに対応して、第1領域および第3領域の曲率半径が6.0mm~10.5mmでよく、好ましくは7.0mm~10.0mmである。第2領域の曲率半径が5.42mm~10.34mmでよく、好ましくは6.22mm~9.85mmである。第1領域の直径が0.50mm~1.75mmでよく、好ましくは0.50mm~1.5mmで、より好ましくは1.0mmである。第2領域の径方向幅は、0.75mm~1.5mmでよく、好ましくは1.0mm~1.25mmで、より好ましくは1.0mmである。第3領域の径方向幅は、0.75mm~3.0mmでよく、好ましくは1.0mm~2.0mmで、より好ましくは1.0mm~1.75mmである。
【0175】
【0176】
例示的な実施例(一つ以上)を参照しながら本開示を説明したが、本開示が本明細書に記載した構成に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。本開示は、上記記載したステップの順番に制限されなく、一部のステップが別の順番でおよび/または他のステップと同時に行うことができる。したがって、本開示が開示した具体的な実施例に限定されるものではなく、請求項の範囲内に含まれるすべての実施例が含まれる。