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  • 特許-インク組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】インク組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20220222BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20220222BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
C09D11/322
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021069823
(22)【出願日】2021-04-16
(62)【分割の表示】P 2020183011の分割
【原出願日】2020-10-30
【審査請求日】2021-04-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183923
【氏名又は名称】株式会社DNPファインケミカル
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】山崎 史絵
(72)【発明者】
【氏名】井島 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】小谷 亮介
(72)【発明者】
【氏名】安井 涼馬
【審査官】▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-161998(JP,A)
【文献】特開2019-056089(JP,A)
【文献】特開2018-095739(JP,A)
【文献】国際公開第2018/207487(WO,A1)
【文献】特開2019-104866(JP,A)
【文献】国際公開第2020/241350(WO,A1)
【文献】特開2019-163429(JP,A)
【文献】特開2019-099776(JP,A)
【文献】特開2012-031284(JP,A)
【文献】特開2011-137083(JP,A)
【文献】特開2010-043153(JP,A)
【文献】特開2020-105307(JP,A)
【文献】特開2018-021100(JP,A)
【文献】特開2011-168685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット法によって吐出される活性エネルギー線硬化型のインク組成物であって、
前記インク組成物は、重合性化合物と、光輝性顔料と、を含有し、
さらに、前記重合性化合物とは異なるワックスを前記インク組成物全量中0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲で含有する
インク組成物。
【請求項2】
前記インク組成物をPETフィルムの表面に吐出し、活性エネルギー線を照射して該PETフィルムの表面に光輝性層を形成し、45°の入射角で入射光を該光輝性層に対して入射させ、その入射角に対する反射角から法線方向に15°角度を変更させた角度を測定角度として、その測定角度でのL表色系におけるL(明度指数)を測定したときに、前記L(明度指数)が100以上である
請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記ワックスの融点が20℃以上80℃以下の範囲である
請求項1又は2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記光輝性顔料は、金属含有光輝性顔料を含有する
請求項1から3のいずれかに記載のインク組成物。
【請求項5】
前記金属含有光輝性顔料の体積平均粒子径(D50)が0.01μm以上3.0μm以下であり、
前記金属含有光輝性顔料の体積平均粒子径(D90)が4.5μm以下であり、
前記金属含有光輝性顔料の厚みが10nm以上1.0μm以下である
請求項4に記載のインク組成物。
【請求項6】
インクジェット法によって活性エネルギー線硬化型のインク組成物を吐出する記録方法であって、
前記インク組成物は、重合性化合物と、光輝性顔料と、を含有し、
前記インク組成物は、さらに、前記重合性化合物とは異なるワックスを前記インク組成物全量中0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲で含有する
記録方法。
【請求項7】
インクジェット法によって活性エネルギー線硬化型のインク組成物を吐出する印刷物の製造方法であって、
前記インク組成物は、重合性化合物と、光輝性顔料と、を含有し、
前記インク組成物は、さらに、前記重合性化合物とは異なるワックスを前記インク組成物全量中0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲で含有する
印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にインクジェット法によって吐出される活性エネルギー線硬化型の光輝性加飾印刷用のインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷物の小ロット多品種化が進んでおり、従来のオフセット方式の印刷方法の代替として、オンデマンドプリントであるインクジェット方式の印刷方法が注目されている。インクジェット方式の印刷方法は、従来のオフセット方式の印刷方法と比較して、簡便であり、経済性や省エネルギー性等のメリットを有する。インクジェット方式は、プリンタヘッドから吐出したインクの微小液滴が記録媒体に着弾した後、乾燥、硬化、浸透等により定着してドットを形成し、このドットが多数集まることによって画像が形成される印刷方法である。
【0003】
インクジェット方式により得られた印刷物は微小液滴によって形成されたドットの集合体であるため、表面が均一になり難く、定着性や耐擦性が悪いことがあった。例えば、特許文献1には、顔料とポリオレフィンワックスを含むインク組成物であって、ポリオレフィンワックスは、インク組成物の被記録面への吐着により形成される塗膜の乾燥膜厚よりも大きい粒径を有することを特徴とするインク組成物に関する技術が記載されている。特許文献1によれば、このインク組成物は、耐擦性に優れた記録画像、特に記録直後からの耐擦性が向上した記録画像を得ることのできるものである。
【0004】
また、基材(記録媒体)やその表面の一部又は全面に着色層が積層された印刷物等の被体に金属調を有する画像を表現することが行われることがある。このような金属調の光沢性を付与する手法として、真鍮、アルミニウム微粒子等から作製された金属粉を用いたインキの塗布や、金属箔を用いた箔押し印刷、金属箔を用いた熱転写方式等が用いられてきた。
【0005】
そして、近年、金属光沢を有する塗膜を形成する上記の方法の他に、インクジェット方式の印刷方法への応用例が数多く見受けられ、その一つとして光輝性加飾印刷がある。インクジェット方式を用いた光輝性加飾印刷は、主としてインクジェットプリンター等を用いて行われる。例えば、特許文献2には、光輝性顔料と、所定の有機溶剤と、を含有することを特徴とする非水系インク組成物が開示されている。特許文献2によれば、このインク組成物は、金属光沢画像の耐擦性に優れた記録物が得られるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-48108号公報
【文献】特開2012-207119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、光輝性顔料と、有機溶剤と、を含有するようなインク組成物を用いて被体上に金属光沢画像を記録した場合、被体に良好な金属調の光沢性を付与するためには、光輝性顔料をインク塗膜表面近くに存在させるようにする必要がある。すると、インク組成物の塗膜から光輝性顔料が剥がれ落ちて印刷物の光沢性が低下することや、塗膜に傷が付きやすくなって印刷物の耐擦過性が不十分な場合があった。
【0008】
本発明は、良好な金属調の光沢性を維持しつつ、耐擦過性が良好な印刷物を得ることができるインク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、ワックスを所定量含有する活性エネルギー線硬化型のインク組成物であれば上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0010】
(1)インクジェット法によって吐出される活性エネルギー線硬化型のインク組成物であって、前記インク組成物は、重合性化合物と、光輝性顔料と、を含有し、さらに、ワックスを前記インク組成物全量中0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲で含有するインク組成物。
【0011】
(2)前記ワックスの融点が20℃以上80℃以下の範囲である(1)に記載のインク組成物。
【0012】
(3)前記光輝性顔料は、金属含有光輝性顔料を含有する(1)又は(2)に記載のインク組成物。
【0013】
(4)前記金属含有光輝性顔料の体積平均粒子径(D50)が0.01μm以上3.0μm以下であり、前記金属含有光輝性顔料の体積平均粒子径(D90)が4.5μm以下であり、前記金属含有光輝性顔料の厚みが10nm以上1.0μm以下である(3)に記載のインク組成物。
【0014】
(5)基材と、該基材の表面に形成された光輝性層と、を備え、前記光輝性層は、重合性化合物の硬化物と、光輝性顔料と、を含有し、前記光輝性層は、さらに、ワックスを前記光輝性層全量中0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲で含有する印刷物。
【0015】
(6)インクジェット法によって活性エネルギー線硬化型のインク組成物を吐出する記録方法であって、前記インク組成物は、重合性化合物と、光輝性顔料と、を含有し、前記インク組成物は、さらに、ワックスを前記インク組成物全量中0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲で含有する記録方法。
【0016】
(7)インクジェット法によって活性エネルギー線硬化型のインク組成物を吐出する印刷物の製造方法であって、前記インク組成物は、重合性化合物と、光輝性顔料と、を含有し、前記インク組成物は、さらに、ワックスを前記インク組成物全量中0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲で含有する印刷物の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明のインク組成物は、光沢性を維持しつつ、耐擦過性が良好な印刷物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例の光沢評価でのL表色系におけるL(明度指数)の測定角度を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0020】
<1.インク組成物>
本実施の形態に係るインク組成物は、インクジェット法によって吐出される活性エネルギー線硬化型のインク組成物である。そして、このインク組成物は、重合性化合物と、光輝性顔料と、を含有しており、被体の表面にインクジェット法によって吐出される。そして、このインク組成物に活性エネルギー線を照射すると、被体の表面に光輝性顔料を含有する光輝性層が形成されて、被体に金属調の光沢性を付与することができる。なお、本明細書において被体とは、記録媒体の表面そのものであっても、記録媒体の表面の一部又は全面に着色層が積層されたものであってもよく、特に限定されるものではない。また、詳しくは後述するが、本明細書において「着色層」とは、光輝性顔料とは異なる通常のインク組成物の使用されるような色材(染料・顔料)を含有する層を意味する。
【0021】
そして、このインク組成物はワックスをインク組成物全量中0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲で含有することを特徴とする。これにより被体の表面にスリップ性を付与することができる。さらに、光輝性顔料がインク塗膜表面近くに存在していても光輝性顔料が剥がれ落ちて光沢性が低下することを抑制することができる。これにより、光沢性を維持しつつ、耐擦過性が良好な印刷物を得ることができる。
【0022】
以下、本実施の形態に係るインク組成物に含まれる各成分について各々説明する。
【0023】
[光輝性顔料]
光輝性顔料は、被体に金属調の光沢性を付与する機能を有する。光輝性顔料としては、たとえばパール顔料や金属含有光輝性顔料を含むものが挙げられる。中でも光輝性顔料は金属含有光輝性顔料を含有することが好ましい。被体により好適な金属調の光沢性を付与することができる。
【0024】
なお、光輝性顔料は金属含有光輝性顔料を含有する場合、金属含有光輝性顔料の含有量が光輝性顔料全量中30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70量%以上であることがさらに好ましい。
【0025】
パール顔料としては、雲母、二酸化チタン被覆雲母、魚鱗箔、酸塩化ビスマス、二酸化ケイ素、金属酸化物、およびそれらの積層等の真珠光沢や干渉光沢を有する顔料が挙げられる。
【0026】
金属含有光輝性顔料としては、アルミニウム、銀、金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、銅等の単体金属;金属化合物;合金およびそれら混合物の少なくとも1種を挙げることができる。金属含有光輝性顔料としてはアルミニウムを含むものを使用することが好ましい。光輝性顔料としてアルミニウムを含むものを用いることで、被体により好適な金属調の光沢性を付与することができる。
【0027】
光輝性顔料の含有量の下限は、特に限定されるものではないが、インク組成物全量中0.3質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以上であることがさらに好ましい。これにより、被体により好適な金属調の光沢性を付与することができるようになる。光輝性顔料の含有量の上限は、特に限定されるものではないが、インク組成物全量中5.0質量%以下であることが好ましく、4.5質量%以下であることがより好ましく、4.0質量%以下であることがさらに好ましい。これにより、インク組成物や分散液中での光輝性顔料の分散性が向上する。
【0028】
金属含有光輝性顔料の体積平均粒子径(D50)が0.01μm以上3.0μm以下であり、体積平均粒子径(D90)が4.5μm以下であり、厚みが10nm以上1.0μm以下であることが好ましい。このような形状であることで、被体により好適な金属調の光沢性を付与することができる。
【0029】
金属含有光輝性顔料の体積平均粒子径(D50)の下限は、0.02μm以上であることがより好ましく、0.03μm以上であることがさらに好ましい。金属含有光輝性顔料の体積平均粒子径(D50)の上限は、2.7μm以下であることがより好ましく、2.5μm以下であることがさらに好ましい。金属含有光輝性顔料の体積平均粒子径(D90)は、4.0μm以下であることがより好ましく、3.5μm以下であることがさらに好ましい。
【0030】
金属含有光輝性顔料の厚みが10nm以上であることで、金属含有光輝性顔料の反射性、光輝性が向上し、被体により好適な金属調の光沢性を付与することができるようになる。金属含有光輝性顔料の厚みが1.0μm以下であることで、インク組成物や分散液中での金属含有光輝性顔料の分散性が向上する。
【0031】
金属含有光輝性顔料の厚みの下限は、15nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。金属含有光輝性顔料の厚みの上限は、0.8μm以下であることがより好ましく、0.5μm以下であることがさらに好ましい。
【0032】
なお、光輝性顔料の体積平均粒子径(D50)、体積平均粒子径(D90)及び厚みは、例えばシスメックス(株)製の「FPIA-3000S」、(株)島津製作所製レーザー回折式粒度分布計「SALD 7500nano」等を使用して測定することができる。
【0033】
光輝性顔料は、金属含有粒子を機械的に造形することによって、たとえばボールミルまたはアトリションミルの中で磨砕することによって得ることができる。金属含有粒子は、公知のアトマイズ法によって得ることもできる。
【0034】
また、光輝性顔料を製造する別な方法として、基材上に形成された金属含有薄膜を微粉砕することもまた可能である。そのような方法として、例えば、剥離用樹脂層を被覆した平坦な基材の上に、真空蒸着、イオンプレーティングまたはスパッタリング法等によって10nm以上1.0μm以下程度の金属含有薄膜を形成して金属含有薄膜を基材から剥離させて微粉砕する方法が挙げられる。なお、金属含有薄膜との文言は、金属酸化物等の金属化合物含有薄膜も含む概念で使用される。金属含有薄膜の厚さの下限は、10nm以上であることがより好ましく、15nm以上であることがさらに好ましい。金属含有薄膜の厚さの上限は、0.9μm以下であることがより好ましく、0.8μm以下であることがさらに好ましい。
【0035】
光輝性顔料の製造に用いられる基材の具体例は、ポリテトラフルオロエチレンフィルム;ポリエチレンフィルム;ポリプロピレンフィルム;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム;66ナイロン、6ナイロン等のポリアミドフィルム;ポリカーボネートフィルム;トリアセテートフィルム;ポリイミドフィルムである。好ましい基材は、ポリエチレンテレフタレートまたはその共重合体のフィルムである。
【0036】
光輝性顔料の製造に用いられる基材の好ましい厚さの下限は、特に限定されるものではないが10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましい。基材の厚みが10μm以上であることで取り扱い性が良好となる。シート状基材の好ましい厚さの上限は、特に限定されるものではないが、150μm以下であることが好ましく、145μm以下であることがより好ましく、140μm以下であることがさらに好ましい。基材の厚みが150μm以下であれることで、得られる積層体の柔軟性を向上させて、ロール化や剥離が容易となる。
【0037】
基材に被覆される剥離用樹脂層に用いる樹脂の具体例は、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、セルロース誘導体、ポリビニルアセタール、アクリル酸共重合体、変性ナイロン樹脂である。剥離用樹脂層に用いる樹脂を樹脂層とするには、樹脂溶液をシート状基材上にグラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、エクストルージョン塗布、ディップ塗布、スピンコート塗布等の塗布により、剥離用樹脂層を形成する。
【0038】
剥離用樹脂層の厚さの下限は、特に限定されるものではないが、0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることがさらに好ましい。0.1μm以上であることで金属含有薄膜を基材から容易に剥離させることが可能となる。剥離用樹脂層の厚さの上限は、特に限定されるものではないが、50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。50μm以下であることで金属含有薄膜を基材から容易に剥離させることが可能となる。
【0039】
なお、金属含有薄膜が形成された基材から、インク組成物やインク組成物の製造に用いられる分散液を製造してもよい。剥離用樹脂を溶解しうると共に光輝性顔料と反応しない溶媒中に浸漬するか、または浸漬と同時に超音波処理を行うとよい。このような溶媒としてはインク組成物を構成する重合性化合物や溶媒等が挙げられる。剥離用樹脂が光輝性顔料を分散させる分散剤としての機能を有し光輝性顔料の分散性が向上する。この場合、光輝性顔料の粒径及び膜厚は、金属含有薄膜を形成したときの条件や超音波分散時間により調整される。なお、剥離用樹脂溶解溶液から光輝性顔料を遠心分離により沈降分離させて光輝性顔料を回収し、インク組成物を構成する重合性化合物や溶媒等に光輝性顔料を分散させてもよい。
【0040】
[ワックス]
本実施の形態に係るインク組成物はワックスをインク組成物全量中0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲で含有することを特徴とする。これにより本実施の形態に係るインク組成物により形成された光輝性層の表面にスリップ性を付与して得られる印刷物の耐擦過性を向上させることが可能となる。
【0041】
ここで、ワックスとは、常温またはそれ以下の温度で固体であって加熱すると液化する有機物やシリコーン化合物である。具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリエチレン混合ワックス、ポリプロピレンワックス、ポリプロピレン混合ワックス等の低分子量ポリオレフィンワックス類、軟化点を有するシリコーン(シリコン)類、シリコーン(シリコン)-アクリルワックス類、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類、エステルワックス、カルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ホホバ油等の植物系ワックス類、ミツロウ、ラノリン、鯨ロウ等の動物系ワックス類、モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、フィッシャートロプシュワックス等の鉱物系ワックス類、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、パラフィン混合ワックス等の石油系ワックス類、及びそれらの変性物が挙げられる。これらのワックスは、市販品として容易に入手することができる。本実施の形態に係るインク組成物において、ワックスは1種単独でも、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0042】
本実施の形態に係るインク組成物に含有されるワックスは、常温で液体のものであってもよく、融点は特に制限はされないが、融点の下限は20℃以上であることが好ましく、25℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることがさらに好ましい。ワックスの融点が20℃以上であることで、得られる印刷物のワックスが融けて表面がべたついて印刷物同士が接着してしまうことを抑制することができる。融点の上限は90℃以下であることが好ましく、85℃以下であることがより好ましく、80℃以下あることがさらに好ましい。ワックスの融点が90℃以下であることで、得られる印刷物の白化を抑制することが可能となったり、被体により好適な金属調の光沢性を付与することができる。
【0043】
本実施の形態に係るインク組成物において、ワックスの含有量は、インク組成物全量中0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲であればよいが、ワックスの含有量の下限は、インク組成物全量中0.07質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。ワックスの含有量がインク組成物全量中0.07質量%以上であることで、被体の表面により好適にスリップ性を付与することが可能となり、耐擦過性が良好な印刷物を得ることができる。ワックスの含有量の上限は、インク組成物全量中0.8質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。ワックスの含有量がインク組成物全量中0.8質量%以下であることで、被体により好適な金属調の光沢性を付与することができる。
【0044】
[重合性化合物]
重合性化合物とは、活性エネルギー線を照射することにより重合されるエチレン性不飽和二重結合を有する化合物である。活性エネルギー線とは、遠紫外線、紫外線、近紫外線、可視光線、赤外線、X線、γ線等の電磁波のほか、電子線、プロトン線、中性子線等が含まれる。
【0045】
重合性化合物としては、エチレン性不飽和二重結合が化合物中に1個有する単官能重合性化合物であってもよいし、エチレン性不飽和二重結合が化合物中に2個以上有する多官能重合性化合物であってもよい。なお、重合性化合物は、その分子量によってはオリゴマーやポリマーとも称される化合物をも含む概念である。
【0046】
単官能モノマーの例として、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)、トリメチロールプロパンフォルマルアクリレート(CTFA)、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)アクリレート、(2-メチル-2-イソブチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)(メタ)アクリレート、(シクロヘキサンスピロ-2-(1,3-ジオキソラン-4-イル))(メタ)アクリレート、アルキルシクロアルキルアクリレートである4-t-ブチルシクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、γ-ブチロラクトンアクリレート、クレゾールアクリレート、2-アクリロイロキシエチルフタレート、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチルフタレート、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタレート、2-アクリロイロキシプロピルフタレート、パラクミルフェノキシエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート、1-アダマンチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、3-3-5-トリメチルシクロヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、アクリロイルモルフォリン、N-ビニルカプロラクタム、イミドアクリレート、イソオクチルアクリレート、トリデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソデシルアクリレート、カプロラクトンアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリプロピレングリコールアクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、及び、これらのアクリレートにアルコキシ変性、及びカプロラクトン変性等の各種変性を有するもの、を挙げることができる。
【0047】
多官能モノマーの例として、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、長鎖脂肪族ジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ステアリン酸変性ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレンジ(メタ)アクリレート、トリグリセロールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、メトキシ化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、アクリル化イソシアヌレート、ビス(アクリロキシネオペンチルグリコール)アジペート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、テトラブロモビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールSジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、フタル酸ジ(メタ)アクリレート、リン酸ジ(メタ)アクリレート、亜鉛ジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート及びこれらの変性数違い、変性種違い、構造違いの(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0048】
[重合開始剤]
本実施の形態に係るインク組成物は必要に応じて重合開始剤を含有してもよい。重合開始剤は、活性エネルギー線の照射によりインク組成物中の重合性化合物の重合反応を促進するものであれば特に限定されない。なお、本実施の形態に係るインク組成物においては、重合開始剤は必ずしも必須でなく、例えば活性エネルギー線として電子線を用いる場合には重合開始剤は用いなくてもよい。
【0049】
重合開始剤の具体例として、例えば、チオキサントン等を含む芳香族ケトン類、α-アミノアルキルフェノン類、アミノアセトフェノン類、アミノベンゾエート類、α-ヒドロキシケトン類、アシルフォスフィンオキサイド類、芳香族オニウム塩類、有機過酸化物、チオ化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物等が挙げられる。
【0050】
重合開始剤の量は、重合性化合物の重合反応を適切に開始できる量であればよく、インク組成物全量中1.0質量%以上であることが好ましく、3.0質量%以上であることがより好ましく、5.0質量%以上であることがさらに好ましい。又、インク組成物全量中20.0質量%以下であることが好ましく、18.0質量%以下であることがより好ましく、15.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0051】
[重合禁止剤]
本実施の形態に係るインク組成物は、必要に応じて重合禁止剤を含有してもよい。重合禁止剤としては、特に限定されず、例えば、ジフェニルピクリルヒドラジド、トリ-p-ニトロフェニルメチル,p-ベンゾキノン、p-tert-ブチルカテコール、ピクリン酸、塩化銅、メチルハイドロキノン、メトキノン、tert-ブチルハイドロキノン、フェノチアジン類、ニトロソアミン類等の重合禁止剤を用いることができる。
【0052】
[表面調整剤]
本実施の形態に係るインク組成物は、必要に応じて表面調整剤を含有してもよい。表面調整剤としては特に限定されないが、具体例としては、ジメチルポリシロキサンを有するビックケミー社製「BYK-306」、「BYK-333」、「BYK-371」、「BYK-377」、エボニックデグサジャパン社製「TegoRad2010」「TegoRad2100」、「TegoRad2200N」、「TegoRad2300」等が挙げられる。
【0053】
[その他の添加剤]
本実施の形態に係るインク組成物は、その他の添加剤として、溶剤、樹脂、可塑剤、光安定化剤、酸化防止剤等、種々の添加剤を含有していても良い。
【0054】
なお、本実施の形態に係るインク組成物は、光輝性顔料とは異なる通常のインクジェット用のインク組成物の使用されるような色材(染料・顔料)は含有してもよい。色材はインク組成物全量中3.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが更に好ましく、0.2質量%以下であることが更になお好ましい。
【0055】
<2.インク組成物の製造方法>
インク組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。インク組成物には、分散機を用いて、重合性化合物、光輝性顔料、分散剤等で分散し、その後、必要に応じて重合開始剤、重合禁止剤、レベリング剤等を添加して均一に撹拌することにより、混合物を得て、その後光輝性顔料を添加して更にフィルターで濾過することによってインク組成物が得られる。
【0056】
(インク組成物の粘度及び表面張力)
本実施の形態に係るインク組成物の粘度は、インクジェット吐出性、吐出安定性の点から、吐出温度(例えば40℃)での粘度が30mPa・s以下であることが好ましく、25mPa・s以下であることがより好ましく、20mPa・s以下であることがさらに好ましい。又、本実施の形態に係るインク組成物の粘度は、3mPa・s以上であることが好ましく、5mPa・s以上であることがより好ましい。
【0057】
又、本実施の形態に係るインク組成物の表面張力は、インクジェットの吐出性、吐出安定性、基材へのレベリング性の点から、25℃での表面張力が20mN/m以上であることが好ましく、23mN/m以上であることがより好ましく、25mN/m以上あることがさらに好ましい。又、本実施の形態に係るインク組成物の表面張力は、40mN/m以下であることが好ましく、38mN/m以下であることがより好ましく、36mN/m以下であることがさらに好ましい。
【0058】
次に、本実施の形態に係るインク組成物により得られる印刷物について説明する。
【0059】
<3.印刷物>
上記の実施形態に係るインク組成物を使用して得られる印刷物は、基材(記録媒体)と、この基材(記録媒体)の表面に積層された光輝性層と、を備える。そして、この光輝性層は、上記の実施形態に係るインク組成物に含有される重合性化合物の硬化物と、光輝性顔料と、を含有しており、光輝性層は、さらに、ワックスを光輝性層全量中0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲で含有することを特徴としている。これにより被体の表面にスリップ性を付与して、得られる印刷物の耐擦過性を向上させることが可能となる。なお、印刷物とは、少なくとも基材(記録媒体)と光輝性層とを備えていればよく、例えば、基材(記録媒体)と光輝性層に加え、通常のインク組成物によって形成された着色層、プライマー層、オーバーコート層、を備えていてもよい。
【0060】
以下、印刷物を構成する各層について説明する。
【0061】
[基材(記録媒体)]
基材(記録媒体)としては、特に限定はされず、樹脂基材、金属板ガラスなどの非吸収性基材であっても、紙や布帛などの吸収性基材であっても、受容層を備える基材のような表面塗工が施された基材であってもよく、種々の基材を使用することができる。
【0062】
非吸収性基材としては、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系合成紙、塩化ビニル樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂基材や、金属、金属箔コート紙、ガラス、合成ゴム、天然ゴム等を挙げることができる。
【0063】
吸収性基材としては、更紙、中質紙、上質紙、綿、化繊織物、絹、麻、布帛、不織布、皮革等を挙げることができる。
【0064】
表面塗工が施された基材としてはコート紙、アート紙、キャスト紙、軽量コート紙、微塗工紙等を挙げることができる。
【0065】
[プライマー層]
印刷物はプライマー層を備えていてもよい。プライマー層は、基材(記録媒体)の表面に形成され、着色層や光輝性層との接着性を向上させる機能を有する。
【0066】
プライマー層を形成することのできるプライマー剤としては活性エネルギー線硬化型のインク組成物であっても、溶剤を含有する溶剤型のインク組成物であっても、水を含有する水性型のインク組成物であってもよい。プライマー剤は、例えば、後述する着色層を形成するインク組成物であって、樹脂成分や重合性化合物を主成分とし、色材を除外又は減量して色彩を視認しないように調整したようなインク組成物であってもよい。着色層と同様の組成のプライマー剤を使用することで着色層との密着性を向上させることができる。また、プライマー剤は、例えば、従来公知のプライマー剤であってもよい。
【0067】
プライマー剤を基材(記録媒体)の表面を塗布する方法としてはどのような方法であってもよく、例えば、スプレー塗布、タオル、スポンジ、不織布、ティッシュ等を用いた塗布、ディスペンサー、刷毛塗り、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷、インクジェット、熱転写方式等のいずれであってもよい。
【0068】
[着色層]
印刷物は着色層を備えていてもよい。着色層とは、光輝性顔料とは異なる通常のインク組成物の使用されるような色材(染料・顔料)を含有する層であり、主に基材の表面又は基材の表面に形成された層(プライマー層、コーティング層や受理溶液の層等)の表面に塗布されたインク組成物により形成される層である。又、この着色層を形成するインク組成物は、活性エネルギー線硬化型のインク組成物であっても、色材を含有し、溶剤を含有する溶剤型のインク組成物であっても、色材を含有し、水を含有する水性型のインク組成物であってもよい。また、複数のインク組成物(例えば、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクを含む複数の層の場合等)であってもよい。上記の実施形態に係るインク組成物により形成される光輝性層は、光沢性を維持しつつ、耐擦過性が良好であるため、このような複数のインク組成物から形成された画像であることで、耐擦過性に優れ、光沢性によりその画像を際立たせる極めて意匠性に優れた印刷物となる。
【0069】
着色層には樹脂が含有されていてもよい。着色層に樹脂が含有される場合、この樹脂は、インク組成物に含まれるバインダー樹脂や高分子分散剤がそのままこのインク層の樹脂となってもよいし、インク組成物に含まれる重合性化合物が基材(記録媒体)の表面に吐出された後に活性エネルギー線を照射して重合されて形成された硬化物であってもよい。
【0070】
又、この着色層を形成するためのインク組成物の塗布方法は、特に限定されるものではない。例えば、スプレー法、コーター法、インクジェット法、グラビア法、フレキソ法等を挙げることができる。中でもインクジェット法により吐出(塗布)されることが好ましい。インクジェット法であれば、基材の任意の場所に吐出(塗布)することも、基材全面に吐出(塗布)することも容易である。
【0071】
着色層を形成するインク組成物の色材は、特に限定されるものではなく、染料系であってもよいし、顔料系であってもよい。着色層の耐水性や耐光性等の耐性が良好である顔料系インク組成物を使用することが好ましい。着色層を形成するインク組成物に用いることのできる顔料は特に限定されない。従来のインク組成物に使用されている有機顔料又は無機顔料等が挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。具体的な有機顔料としては、例えば、不溶性アゾ顔料、溶性アゾ顔料、染料からの誘導体、フタロシアニン系有機顔料、キナクリドン系有機顔料、ペリレン系有機顔料、ジオキサジン系有機顔料、ニッケルアゾ系顔料、イソインドリノン系有機顔料、ピランスロン系有機顔料、チオインジゴ系有機顔料、縮合アゾ系有機顔料、ベンズイミダゾロン系有機顔料、キノフタロン系有機顔料、イソインドリン系有機顔料、キナクリドン系固溶体顔料、ペリレン系固溶体顔料等の有機固溶体顔料等、無機顔料としては、酸化チタン、酸化亜等、その他の顔料として、カーボンブラック等が挙げられる。インク組成物に用いることのできる顔料は、複数の有機顔料や無機顔料を併用してもよく、顔料分散剤によって水溶性溶媒中に分散させた顔料分散体と自己分散型顔料を併用したものであってもよい。
【0072】
[光輝性層]
光輝性層は、上記の実施形態に係る重合性化合物と、光輝性顔料と、ワックスと、を含有するインク組成物により形成される層である。具体的には、重合性化合物と、光輝性顔料と、を含有するインク組成物が被体の表面にインクジェット法によって吐出され、活性エネルギー線を照射することで形成される重合性化合物の硬化物と、光輝性顔料と、ワックスと、を含有する層である。
【0073】
この光輝性層は、ワックスを光輝性層全量中0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲で含有する。これにより光輝性層の表面にスリップ性を付与して得られる印刷物の耐擦過性を向上させることが可能となる。
【0074】
この光輝性層は、光輝性顔料を光輝性層全量中5.0質量%以下の割合で含有することが好ましく、4.5質量%以下の割合で含有することがより好ましく、4.0質量%以下の割合で含有することが好ましい。この光輝性層は、光輝性顔料を光輝性層全量中0.3質量%以上の割合で含有することが好ましく、0.5質量%以上の割合で含有することがより好ましく、1.0質量%以上の割合で含有することが好ましい。
【0075】
[オーバーコート層]
印刷物はオーバーコート層を備えていてもよい。オーバーコート層は、印刷物の最上面(例えば光輝性層や着色層の表面)に形成され、印刷物の耐久性を向上させる機能を有する。
【0076】
オーバーコート層を形成することのできるオーバーコート剤としては活性エネルギー線硬化型のインク組成物であっても、溶剤を含有する溶剤型のインク組成物であっても、水を含有する水性型のインク組成物であってもよい。オーバーコート剤は、例えば、上述した着色層を形成するインク組成物であって、樹脂成分や重合性化合物を主成分とし、色材を除外又は減量して色彩を視認しないように調整したようなインク組成物であってもよい。着色層と同様の組成のオーバーコート剤を使用することで着色層との密着性を向上させることができる。また、オーバーコート剤は、例えば、従来公知のオーバーコート剤であってもよい。
【0077】
オーバーコート剤を光輝性層や着色層の表面に塗布する方法としてはどのような方法であってもよく、例えば、スプレー塗布、タオル、スポンジ、不織布、ティッシュ等を用いた塗布、ディスペンサー、刷毛塗り、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷、インクジェット、熱転写方式等のいずれであってもよい。
【0078】
<4.記録方法>
上記の実施形態に係るインク組成物を用いて基材(記録媒体)の表面に記録する記録方法は、インクジェット法によって活性エネルギー線硬化型のインク組成物を吐出する記録方法である。インクジェット法によってインク組成物を吐出することで小ロットの印刷物の製造に対応可能となる。
【0079】
インクジェット記録装置は、ピエゾ方式、サーマル方式、静電方式等のいずれのインクジェット記録装置にも適用することができる。
【0080】
そして、インクジェット法によって吐出されたインク組成物に活性エネルギー線を照射する。活性エネルギー線は、遠紫外線、紫外線、近紫外線、可視光線、赤外線、X線、γ線等の電磁波のほか、電子線、プロトン線、中性子線の活性エネルギー線を挙げることができる。活性エネルギー線を照射する光源は特に限定されるものではなく、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、低圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、紫外線レーザー、太陽光、LEDランプ等が挙げられる。省エネルギーであり、印刷装置の設計設備の自由度が高いという観点から光源としてLEDランプを用いることがより好ましい。
【0081】
この記録方法で得られた印刷物であれば、光沢性を維持しつつ、耐擦過性が良好となる。
【0082】
<5.印刷物の製造方法>
上記の実施形態に係るインク組成物を基材の表面に吐出する記録方法は、印刷物の製造方法として定義することもできる。
【0083】
この製造方法で得られた印刷物であれば、光沢性を維持しつつ、耐擦過性が良好となる。
【実施例
【0084】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0085】
1.光輝性顔料の作成
(1)光輝性顔料1
下記組成の塗工液1を厚み100μmのPETフィルム上にバーコート法で均一に塗布し、60℃で10分間乾燥し、剥離樹脂層を形成した。
【0086】
塗工液1
・セルロースアセテートブチレート(ブチル化率35~39%、関東化学社製) 3%
・イソプロパノール 97%
【0087】
次に、(株)真空デバイス製「VE-1010方真空蒸着装置」を使用して、剥離樹脂層上に膜厚20nmの金属含有薄膜を形成して積層体を作製した。得られた積層体をイソプロパノール中に浸漬すると共に、(株)アズワン製「VS-150超音波分散機」を用いて剥離、粉砕、微分散処理を同時に12時間行い、光輝性顔料(アルミニウムからなる金属含有光輝性顔料)を含有する光輝性顔料分散液を得た。
【0088】
得られた光輝性顔料分散液を開き目5μmのSUSメッシュフィルターで濾過し、粗大粒子を除去した。次いで、イソプロパノールをエバポレーターにより濾液から留去し、フェノキシエチルアクリレートを加えて、光輝性顔料の濃度を調整し、光輝性顔料1を5質量%含有する光輝性顔料分散液1を調製した。この光輝性顔料1の体積平均粒子径(D50)は2.5μm、体積平均粒子径(D90)は3.5μm、厚みは40nmであった。
【0089】
(2)光輝性顔料2
上記と同様に光輝性顔料分散液を製造し、光輝性顔料分散液200gに対し、5gの酸価70のポリエステル樹脂(Crylcoat340、ベルギー国のUCBにより供給)および5gのエポキシ当量750のエポキシ樹脂(Araldit GT6063ES、スイス国のVanticoにより供給)を、100gのアセトンに溶解させたものを加えて1時間撹拌した後、上述の遠心分離と洗浄の操作を行い、アセトンをフェノキシエチルアクリレートに置き換え、表面保護処理された光輝性顔料2を5質量%含有する光輝性顔料分散液2を調製した。この光輝性顔料2の体積平均粒子径(D50)は2.3μm、体積平均粒子径(D90)は2.7μm、厚みは25nmであった。
【0090】
(3)光輝性顔料3
上記の光輝性顔料2の製造において、ポリエステル樹脂およびエポキシ樹脂をステアリン酸ステアリル1gに置き換えて同様の操作を行い、表面保護処理された光輝性顔料3を5質量%含有する光輝性顔料分散液3を調製した。この光輝性顔料3の体積平均粒子径(D50)は2.0μm、体積平均粒子径(D90)は2.5μm、厚みは20nmであった。
【0091】
(4)光輝性顔料4
上記の光輝性顔料2の製造において、ポリエステル樹脂およびエポキシ樹脂を、1gのDisperbyk180(リン酸基含有分散剤、酸価:95mgKOH/g添加剤、アミン価:95mgKOH/g添加剤;ビッグケミー社0.2gのオクチルホスホン酸に置き換え、フェノキシエチルアクリレートを1,6-ヘキサンジオールジアクリレートに置き換えて同様の操作を行い、表面保護処理された光輝性顔料4を5質量%含有する光輝性顔料分散液4を調製した。この光輝性顔料4の体積平均粒子径(D50)は1.9μm、体積平均粒子径(D90)は2.1μm、厚みは20nmであった。
【0092】
(5)光輝性顔料5
上記の光輝性顔料1の製造において、微細化処理やメッシュフィルターの開き目を変更して光輝性顔料5を含有する光輝性顔料分散液5を調製した。この光輝性顔料5の体積平均粒子径(D50)は1.2μm、体積平均粒子径(D90)は2.5μm、厚みは20nmであった。
【0093】
(6)光輝性顔料6
上記の光輝性顔料1の製造において、微細化処理やメッシュフィルターの開き目を変更して光輝性顔料6を含有する光輝性顔料分散液6を調製した。この光輝性顔料6の体積平均粒子径(D50)は0.02μm、体積平均粒子径(D90)は0.5μm、厚みは8nmであった。
【0094】
2.インク組成物の製造
上記の「光輝性顔料分散液」を使用して実験例のインク組成物を製造した。具体的には、上記の光輝性顔料分散液1~6と、重合性化合物と、光輝性顔料と、重合禁止剤と、ワックス1~4を用いて下記表の割合になるように実施例、比較例のインク組成物を調整した。単位は質量%である。
【0095】
【表1】
【0096】
表中、「PHEA」とは、フェノキシエチルアクリレート(共栄者化学社製)である。
【0097】
表中、「19NDA」とは、1,9-ノナンジオールジアクリレート(共栄社化学社製)である。
【0098】
表中、「IBXA」とは、イソボルニルアクリレート(共栄社化学社製)である。
【0099】
表中、「16HDA」とは、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(共栄社化学社製)である。
【0100】
表中、「重合禁止剤1」とは、フェノチアジン(川口化学薬品工業社製、ANTAGE TDP)である。
【0101】
表中、「重合開始剤1」とは、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル) ホスフィンオキシド(BASF社製、IRGACURE TPO)である。
【0102】
表中、「重合開始剤2」とは、2-(4-メチルベンジル)-2-(ジメチルアミノ)-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン(IGM Resins社製、Omnirad 379EG)である。
【0103】
表中、「重合開始剤3」とは、2,4-ジエチル-9-H-チオキサンテン-9-オン(Lambson社製、Speedcure DETX)である。
【0104】
表中、「ワックス1」とは、三井化学社製ポリエチレンワックス(ハイワックス110P 融点109℃)である。
【0105】
表中、「ワックス2」とは、シャムロック社製ポリエチレンワックス(Versaflow LV 液状ワックス)である。
【0106】
表中、「ワックス3」とは、日本精鑞社製パラフィンワックス(Paraffin Wax-115 融点48℃)である。
【0107】
表中、「ワックス4」とは、サゾール社製ポリエチレンワックス(PARAFOL22 融点40℃)である。
【0108】
3.評価
(1)光沢評価
実施例及び比較例のインク組成物を用いて得られた印刷物の光沢を評価した。具体的には、実施例及び比較例のインク組成物をインクジェット記録装置、富士フイルム(株)製「マテリアルプリンター DMP-2850」によって、PETフィルム(東洋紡(株)コスモシャインA4300)の表面に吐出し、活性エネルギー線として波長385nmのLEDランプを照射することにより、印刷物を製造した。得られた印刷物について、コニカミノルタ社製マルチアングル測色系CM-M6を使用して図1に示すように、印刷面から45°の入射角で入射光を光輝性層に対して入射させ、その入射角に対する反射角から法線方向に15°角度を変更させた角度を測定角度として、その測定角度でのL表色系におけるL(明度指数)を測定した。L(明度指数)が100以上であれば金属調の光沢を認識できる。以下の評価基準により光沢を評価した(表中「光沢」と表記)。
評価基準
A:明度指数が120以上であった。
B:明度指数が100以上120未満であった。
C:明度指数が100未満であった。
A、Bは実使用可能範囲内である。
【0109】
(2)耐傷性評価
実施例及び比較例の非水性インク組成物を用いて得られた印刷物の耐傷性を評価した。具体的には、上記で得られた印刷物について、コインで削り、目視で耐傷性を評価した。
評価基準
A:傷がほとんど見られなかった。
B:コインにより傷が少し見られたが実質上許容範囲内であった。
C:コインにより傷が見られ、基材が露出した。
A、Bは実使用可能範囲内である。
【0110】
(3)耐摩擦性評価
実施例及び比較例の非水性インク組成物を用いて得られた印刷物の耐摩擦性を評価した。具体的には、上記で得られた印刷物について、荷重200g、50往復で印刷面を互いに擦り、目視で耐摩擦性を評価した。
評価基準
A:光輝性層が剥がれなかった。
B:光輝性層がわずかに剥がれていたが実質上許容範囲内であった。
C:光輝性層が剥がれて基材が露出した。
A、Bは実使用可能範囲内である。
【0111】
上記表から分かるように、ワックスをインク組成物全量中0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲で含有する実施例のインク組成物は、光沢性を維持しつつ、耐擦過性が良好な印刷物を得ることができることが分かる。
【0112】
特に、ワックス3を含有する実施例4、6、9、10において、ワックスの含有量がインク組成物全量中0.07質量%以上である実施例4、6、10のインク組成物は、実施例9のインク組成物と比較しても耐傷性が良好であった。また、ワックス4を含有する実施例5、7において、ワックスの含有量がインク組成物全量中0.8質量%以下である実施例5のインク組成物は、実施例7のインク組成物と比較しても印刷物の光沢は良好であった。
【0113】
一方、ワックスを含有しない比較例1、3~5は、印刷物の耐擦過性が悪化していた。また、ワックスをインク組成物全量中0.05質量%未満の範囲で含有する比較例2は、印刷物の耐擦過性が悪化していた。さらに、ワックスをインク組成物全量中1.0質量%超の範囲で含有する比較例6は、得られる印刷物の光沢は悪化していた。
【符号の説明】
【0114】
1 印刷物
【要約】
【課題】良好な金属調の光沢性を維持しつつ、耐擦過性が良好な印刷物を得ることができるインク組成物を提供する。
【解決手段】インクジェット法によって吐出される活性エネルギー線硬化型のインク組成物であって、インク組成物は、重合性化合物と、光輝性顔料と、を含有し、さらに、ワックスをインク組成物全量中0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲で含有するインク組成物であり、ワックスの融点が20℃以上80℃以下の範囲であることが好ましい。
【選択図】なし
図1