(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】回転切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 51/00 20060101AFI20220222BHJP
【FI】
B23B51/00 L
B23B51/00 S
(21)【出願番号】P 2021543192
(86)(22)【出願日】2021-02-03
(86)【国際出願番号】 JP2021003855
(87)【国際公開番号】W WO2021192629
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2021-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2020050718
(32)【優先日】2020-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川端 剛
(72)【発明者】
【氏名】川野 収一
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-193616(JP,U)
【文献】特開2001-322029(JP,A)
【文献】特開2005-313287(JP,A)
【文献】特開2008-068345(JP,A)
【文献】特開2009-208161(JP,A)
【文献】特開2012-045635(JP,A)
【文献】特開2015-217502(JP,A)
【文献】特開2017-094467(JP,A)
【文献】特開2018-008363(JP,A)
【文献】米国特許第06135681(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0086401(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102189287(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102228998(CN,A)
【文献】特開昭52-134182(JP,A)
【文献】特表2002-542951(JP,A)
【文献】米国特許第3395434(US,A)
【文献】米国特許第4710069(US,A)
【文献】独国特許出願公開第102011000882(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00-29/34
B23B 51/00-51/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
台金と、前記台金に設けられた切れ刃チップとを備えた回転切削工具であって、
前記切れ刃チップのすくい面に少なくとも一つの第1の溝が設けられ、
前記第1の溝は回転軸に対して傾斜した部分を有しており、
前記第1の溝の先端は前切れ刃またはコーナー面取り切れ刃に設けられており、
前記第1の溝の後端は外周切れ刃よりも内側に設けられており、前記外周切れ刃の
前記すくい面に平行な方向の凹凸が30μm以下であり、
前記切れ刃チップの前記すくい面に少なくとも一つの第2の溝が設けられ、前記第2の溝の先端は前記前切れ刃または前記コーナー面取り切れ刃に設けられており、前記第2の溝の後端は外周よりも内側に設けられており、前記第1の溝と前記第2の溝とが交差している、回転切削工具。
【請求項2】
前記第1の溝は先端から後端に向かうにつれて内周側に向かうように傾斜しており、前記第1の溝の後端付近には、前記すくい面および前記第1の溝の延びる方向と交差する壁面が設けられている、請求項1に記載の回転切削工具。
【請求項3】
台金と、前記台金に設けられた切れ刃チップとを備えた回転切削工具であって、
前記切れ刃チップのすくい面に少なくとも一つの第1の溝が設けられ、
前記第1の溝は回転軸に対して傾斜した部分を有しており、
前記第1の溝の先端は前切れ刃またはコーナー面取り切れ刃に設けられており、
前記第1の溝の後端は外周切れ刃よりも内側に設けられており、前記外周切れ刃の
前記すくい面に平行な方向の凹凸が30μm以下であり、
前記第1の溝は先端から後端に向かうにつれて内周側に向かうように傾斜しており、前記第1の溝の後端付近には、前記すくい面および前記第1の溝の延びる方向と交差する壁面が設けられている、回転切削工具。
【請求項4】
前記第1の溝は直線状であり、前記回転軸に対して5°以上85°以下の角度を有する請求項1から3のいずれか1項に記載の回転切削工具。
【請求項5】
複数の前記第1の溝が設けられ、複数の前記第1の溝の間隔は0.1mm以上2mm以下である請求項1から4のいずれか1項に記載の回転切削工具。
【請求項6】
前記第1の溝の断面形状は、V形、矩形、またはV形および矩形を合体させた形状である請求項1から5のいずれか1項に記載の回転切削工具。
【請求項7】
前記第1の溝の深さは、0.01mm以上0.8mm以下である請求項1から6のいずれか1項に記載の回転切削工具。
【請求項8】
前記第1の溝の幅は、0.01mm以上0.5mm以下である請求項1から7のいずれか1項に記載の回転切削工具。
【請求項9】
前記第1の溝の後端の端面形状は矩形であり、
その面の方向は前記前切れ刃または前記コーナー面取り切れ刃と平行である請求項1から8のいずれか1項に記載の回転切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転切削工具に関するものである。本出願は、2020年3月23日に出願した日本特許出願である特願2020-050718号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
従来、回転切削工具は、たとえば、特開2012-106334号公報(特許文献1)、実開昭58-44135号公報(特許文献2)および実開昭60-165108号公報(特許文献3)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-106334号公報
【文献】実開昭58-44135号公報
【文献】実開昭60-165108号公報
【発明の概要】
【0004】
台金と、台金に設けられた切れ刃チップとを備えた回転切削工具には、切れ刃チップのすくい面に少なくとも一つの第1の溝が設けられ、第1の溝は回転軸に対して傾斜した部分を有しており、第1の溝の先端は前切れ刃またはコーナー面取り切れ刃に設けられており、第1の溝の後端は外周切れ刃よりも内側に設けられており、外周切れ刃の凹凸が30μm以下である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、実施の形態1に従った回転切削工具の正面図である。
【
図2】
図2は、実施の形態1に従った回転切削工具の背面図である。
【
図3】
図3は、実施の形態1に従った回転切削工具の右側面図である。
【
図4】
図4は、実施の形態1に従った回転切削工具の左側面図である。
【
図5】
図5は、実施の形態1に従った回転切削工具の平面図である。
【
図6】
図6は、実施の形態1に従った回転切削工具の底面図である。
【
図7】
図7は、実施の形態1に従った回転切削工具の斜視図である。
【
図8】
図8は、
図5中のVIIIで囲んだ部分を拡大して示す図である。
【
図9】
図9は、
図7中のIXで囲んだ部分を拡大して示す図である。
【
図12】
図12は、実施の形態2に従った回転切削工具の正面図である。
【
図13】
図13は、実施の形態3に従った回転切削工具の正面図である。
【
図14】
図14は、実施の形態4に従った回転切削工具の正面図である。
【
図15】
図15は、実施の形態5に従った回転切削工具の正面図である。
【
図20】
図20は、実施の形態6に従った回転切削工具の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
従来の回転切削工具では、切り屑を分断することが困難であるという問題があった。
【0007】
[本開示の効果]
切り屑を分断することが可能な回転切削工具を提供することができる。
【0008】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0009】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に従った回転切削工具の正面図である。
図2は、実施の形態1に従った回転切削工具の背面図である。
図3は、実施の形態1に従った回転切削工具の右側面図である。
図4は、実施の形態1に従った回転切削工具の左側面図である。
図5は、実施の形態1に従った回転切削工具の平面図である。
図6は、実施の形態1に従った回転切削工具の底面図である。
図7は、実施の形態1に従った回転切削工具の斜視図である。
図8は、
図5中のVIIIで囲んだ部分を拡大して示す図である。
【0010】
図1から
図8で示すように、実施の形態1に従った回転切削工具1は、台金2と、台金2に設けられた切れ刃チップ10とを備える。切れ刃チップ10のすくい面100に少なくとも一つの第1の溝11,12,13,14が設けられ、第1の溝11,12,13,14は回転軸9に対して傾斜した部分を有しており、第1の溝11,12,13,14の先端11a,12a,13a,14aは前切れ刃110に設けられている。第1の溝11,12,13,14の後端11b,12b,13b,14bは外周切れ刃120よりも内側に設けられており、外周切れ刃120の凹凸が30μm以下である。
【0011】
凹凸の測定は、以下のようにして行う。
(1)工具顕微鏡を使い、倍率30倍で、外周切れ刃120の部分をすくい面100に垂直な方向から見えるように、試料台に工具をセットする。工具顕微鏡の光軸がすくい面100に垂直な状態を維持しながら試料台を回転させて、工具顕微鏡のレンズに設けられた目盛りの基準線に切れ刃稜線を合わせ、試料台の回転軸を固定する。
【0012】
(2)試料台を動かし、目盛りの基準線が凹凸の最も内周側の部分と接する位置へ移動させる。
【0013】
(3)上記(2)で試料台が移動した距離をデジタル測定器で読み取り、この距離を凹凸の大きさとする。なお、ここでいう凹凸は、外周切れ刃の稜線部分に生じたチッピング(稜線の欠け)、稜線付近のすくい面側の剥離および溝が外周切れ刃部分にまで形成されることによる凹凸などである。
【0014】
前切れ刃110の作用部分に溝11,12,13,14の先端11a,12a,13a,14aを設けることで、切屑の幅方向が分断され、切屑幅を小さくできる。
【0015】
前切れ刃110で生じた切屑が後方へ伸びても、前切れ刃110後方に斜め方向に延びる第1の溝11,12,13,14がある部分では、切屑の長さ方向が分断される。このような分断作用によって切り屑を短くできる。前切れ刃110から第1の溝11,12,13,14までの距離が長くなるとこの作用は起こりにくくなる。
【0016】
第1の溝11,12,13,14が
図8のように外向きのものでは、第1の溝11,12,13,14の先端11a,12a,13a,14aを前切れ刃110の作用部分のできるだけ内周側(回転軸9に近い側)に設ければ良い。ただし、第1の溝11,12,13,14の先端11a,12a,13a,14aの位置は、加工条件や被加工材の種類により好ましい位置が変わる。これにより、第1の溝11,12,13,14の先端11a,12a,13a,14aより内周側で発生する切屑は幅が小さくなり、前切れ刃110後方に斜めの溝が無くても、幅の小さい切屑はカールしながら折れやすいので、長さ方向も小さくなりやすい。また、本開示の工具は回転工具切削なので、前切れ刃110の外周寄りの方が内周寄りよりも切屑長さが長くなり、生じる切屑は扇型になる。しかもこの切屑は半径の小さい扇型なのでカールしやすく折れやすい。一方、先端11a,12a,13a,14aより外周側で発生する切屑は第1の溝11,12,13,14による分断作用により切屑は細かく分断される。
【0017】
図9は、
図7中のIXで囲んだ部分を拡大して示す図である。
図8および
図9で示すように、第1の溝11,12,13,14の後端11b、12b、13b、14bは外周切れ刃120に到達していない。さらに、その他の溝15,16においての後端15b,16bは外周切れ刃120に到達していない。そのため、外周切れ刃120の凹凸を30μm以下とすることができる。外周切れ刃120の凹凸が大きいと凹凸形状が被加工物の孔の内表面に転写されるため加工精度が低下する。溝15,16の先端15a,16aは前切れ刃110に到達していない。第1の溝11,12,13,14の後端11b、12b、13b、14bの端面形状は矩形であり、その面の方向(端面の法線と直交する方向)は前切れ刃110と平行であってもよい。
【0018】
台金2および切れ刃チップ10がすくい面100を構成している。台金2にはフルート3が設けられている。フルート3は壁面301,302によって規定されている。壁面301,302は、台金2の長さ方向に沿って延びるように構成されている。
【0019】
図10は、
図5中のX-X線に沿った断面図である。
図11は、
図10中のXIで囲んだ部分を拡大して示す断面図である。
図10および
図11で示すように、台金2に切れ刃チップ10が埋め込まれている。切れ刃チップ10の表面であるすくい面100には第1の溝13,14および溝15,16が形成されている。第1の溝13,14および溝15,16は矩形である。
【0020】
以上のように構成された回転切削工具1においては、第1の溝11,12,13,14は回転軸9に対して傾斜した部分を有しており、第1の溝11,12,13,14の先端11a,12a,13a,14aは前切れ刃110に設けられているため切り屑が分断されやすくなる。さらに第1の溝11,12,13,14の後端11b,12b,13b,14bは外周切れ刃120よりも内側に設けられており、外周切れ刃120の凹凸が30μm以下であるため、被加工物の孔を平滑にすることができる。
【0021】
(実施の形態2)
図12は、実施の形態2に従った回転切削工具の正面図である。
図12で示すように、実施の形態2に従った回転切削工具1においては、第1の溝11は内向きに設けられている。内向きとは第1の溝11が前切れ刃110から遠ざかるにつれて回転軸9に近づくように傾斜していることをいう。これとは反対に外向きとは内向きとは第1の溝11が前切れ刃110から遠ざかるにつれて回転軸9から遠ざかるように傾斜していることをいう。
【0022】
第1の溝11の先端11aは前切れ刃110に設けられている。第1の溝11の後端11bは外周切れ刃120に到達していない。外周切れ刃120の凹凸は30μm以下である。
【0023】
このように、第1の溝11が内向きに延びるものでは、第1の溝11の先端11aを前切れ刃110のできるだけ外周側に設けることが好ましい。これにより、第1の溝11の先端11aより外周側で発生する切屑は幅が小さくなる。前切れ刃110後方に斜めの溝が無くても、幅の小さい切屑はカールしながら折れやすいので、長さ方向も小さくなりやすい。また、この切屑は内周側にカールして先端11aの内周側で発生する切屑と絡んで分断されるものもあるので、切屑の長さ方向が小さくなりやすい。外周側にカールした場合は、加工面に接触して切屑の長さが短くなりやすいが、幅の小さい切屑なので、加工面への接触力は小さく、加工面に傷を付けることもない。一方、先端11aより内周側で発生する切屑は実施の形態1で説明した内周側で発生する切屑の幅が小さくなる理由に基づいて、切屑は細かく分断される。
【0024】
また、前切れ刃110のうち第1の溝11の先端11aより内周側の部分で発生した切屑は、すくい面100上を緩やかにカールしながら流れ、溝11に接触すると分断される。あるいはカールが不十分で分断されない切屑は、溝11に接触すると溝11に沿って流れるようになり、溝11の後端11bのほうに向かう。このときに溝11の後端11b付近にすくい面100および線311で示される溝11の延びる方向と交差する壁面301が設けられていれば、切屑がこの壁面301に接触し、カールする半径が小さくなるため切屑が分断されやすくなる効果が得られる。
【0025】
なお、カールする半径は通常小さくても5mm程度になり、10mmまたは20mm程度になるものも多いので、溝11の後端11bと壁面301との間隔は5mm以下であれば十分上記の効果が得られる。
【0026】
(実施の形態3)
図13は、実施の形態3に従った回転切削工具の正面図である。実施の形態1の回転切削工具1では第1の溝11が一つのみ設けられている点において、実施の形態1に従った回転切削工具1と異なる。第1の溝11の先端11aは前切れ刃110に設けられている。第1の溝11の後端11bは外周切れ刃120に到達していない。外周切れ刃120の凹凸は30μm以下である。一つの第1の溝11のみを設けるため、実施の形態1の回転切削工具1と比較して溝による効果は小さくなるものの、製造しやすくなる。
【0027】
(実施の形態4)
図14は、実施の形態4に従った回転切削工具の正面図である。
図14で示すように、実施の形態4に従った回転切削工具1では、第1の溝11が外向きに延び、第2の溝212が内向きに延びている。すなわち、第1の溝11と第2の溝212との延びる方向が異なっている点において、実施の形態1および2の回転切削工具1と異なる。先端11a,212aはいずれも前切れ刃110に到達している。これに対して後端11b、212bはいずれも外周切れ刃120に到達していない。
【0028】
第1の溝11および第2の溝212の先端11a,212aは前切れ刃110に設けられて長手方向に開放された形状とされている。第1の溝11,および第2の溝212の後端11b,12bは外周切れ刃120に到達しておらず、長手方向に閉じられた形状とされている。外周切れ刃120の凹凸は30μm以下である。内向きの第2の溝212と外向きの第1の溝11とを設けることで、内向きの溝および外向きの溝の両方の効果を奏することができる。
【0029】
さらに第1の溝11および第2の溝212が交差する部分において切屑が細かく分断されやすいという効果がある。
【0030】
(実施の形態5)
図15は、実施の形態5に従った回転切削工具の正面図である。
図15で示すように、実施の形態5に従った回転切削工具1では、2本の第1の溝11,13が内向き、1本の第2の溝212が外向きである。溝15の先端15aは前切れ刃110に到達していない。すべての後端11b,212b,13b,15bは外周切れ刃120に到達していない。
【0031】
第1の溝11,13の先端11a,13aおよび第2の溝212の先端212aは前切れ刃110に設けられている。第1の溝11,13の後端11b,13bおよび第2の溝212の後端212bは外周切れ刃120に到達していない。外周切れ刃120の凹凸は30μm以下である。
【0032】
図16から
図19は、溝の断面形状の一例を示す図である。
図16で示すように、第1の溝11の断面形状はV字状である。溝11の側面11dがすくい面100に対して角度をなしている。
図17で示すように、溝11はすくい面100に対して垂直な側面11dと、すくい面100に対して平行な底面11eとにより構成されていてもよい。
図18で示すように、
図18で示すように、溝11の入口付近にテーパ面11fが設けられ、
図17と同様の側面11dおよび底面11eが設けられてもよい。この形状を以下、V形底面付という。
図19で示すように、溝11が円弧状に形成されていてもよい。これらの溝11の断面形状は各実施の形態において採用される。
【0033】
すなわち、第1の溝11の断面形状は、V形、矩形、またはV形および矩形を合体させた形状、円形のいずれであってもよい。
【0034】
(実施の形態6)
図20は、実施の形態6に従った回転切削工具の正面図である。
図20で示すように、実施の形態6に従った回転切削工具1では、前切れ刃110と外周切れ刃120との間にコーナー面取り切れ刃130が設けられており、コーナー面取り切れ刃130に第1の溝11の先端11aが設けられている。溝11の後端11bは外周切れ刃120に到達していない。
【0035】
(実施例1)
各実施例に共通の事項として、実施例および比較例の工具を製作するために、平均粒子径5μmのダイヤモンドを焼結したダイヤモンド焼結体(以下、PCDと称する)を軸状の台金にろう付けし、PCDの先端および外周に切れ刃を形成するため、#1500のダイヤモンド砥石により刃付け研磨を行った。その後、PCDのすくい面上に溝を形成するものについては、ガルバノメーターミラーにより集光性を高めた高出力パルスYAGレーザーを用いて、PCDのすくい面上に溝を形成した。
【0036】
<第1および第2の溝形状と向きの違い>
第1および第2の溝の有無および第1および第2の溝形状の違いが切り屑に及ぼす影響について調べた。工具の基本的な形状と第1および第2の溝の一例を
図12から
図14に、第1および第2の溝の断面形状の例を
図16から
図19に示す。
【0037】
比較例としては、溝が外周切れ刃まであるもの(工具番号1-b)、第1の溝の無いもの(工具番号101)、溝が外周切れ刃と平行なもの(工具番号102)も製作した。第1および第2の溝の形状、向き、寸法などについては、表1に示す。
【0038】
【0039】
「溝の向き」において「外向き45°」とは
図13のように第1の溝が延びており回転軸9に対して45°の角度をなしていることをいう。「溝の向き」の欄において記載した角度はいずれも回転軸9に対してなす角度をいう。「溝断続長さW0」は、
図12で示すように先端11aの前切れ刃110の稜線が溝11を形成することにより無くなった部分の半径方向に沿った長さをいう。
【0040】
外周切れ刃120から測定した、最外周の第1の溝が前切れ刃と交差する位置は、表1の工具番号1から1-bまででは、0.3mm、工具番号1-cでは、0.3mm、工具番号2では、0.3mm、工具番号3では、0.3mm、工具番号102では、0.3mmである。外周切れ刃120から測定した、最外周の第2の溝が前切れ刃と交差する位置は、表1の工具番号2では、0.3mmである。
【0041】
以上の工具を使い、以下の条件で切削加工を行い、切屑処理性を評価した。
[切削条件]
被削材:アルミニウム合金(A6061)
加工孔:下孔直径5mm、深さ25mm
この孔を直径10mmに仕上げる。従って、取り代は片肉で2.5mm。
【0042】
切削速度:200m/min
送り量:0.2mm/rev
この評価では、切り屑が長さ5mm以下のカール状で且つ幅が片肉取り代以下のものを良好と判断した。評価結果を表2に示す。
【0043】
【0044】
表2の最終評価の「A」から「C」は以下の内容である。
評価A:切屑の幅・長さ(5mm以下)とも小さくなり、加工面に傷なし。
【0045】
評価B:切屑の長さが少し大きい(5~10mm)が、加工面に傷はなし。
評価C:加工面に傷が発生したもの、または、傷は発生しなかったが切屑が10mm以上と長く、傷の発生可能性が極めて高いもの、または、傷は発生しなかったが、切屑長さは短くなっても幅方向が分断されずに広いままのもの。
【0046】
なお、以下の表4,6,8,10でもこの評価は同じである。
工具番号1、2の工具は、切り屑の幅は取り代よりも小さくなり、切り屑長さも3mmと短く分断されている。第1の溝の断面形状が半円の工具番号3の工具は、他の第1の溝形状に比べ、第1の溝幅に対して第1の溝深さが浅くなるため、切り屑幅を小さくすることができなかったと考えられる。また、同じ理由で切り屑の長さを短くする効果が、他の第1の溝形状に比べて小さかったが、カールさせる効果はあり、切屑長さは3mmと短くなっている。
【0047】
これに対し、第1の溝の無い工具番号101は、切り屑幅が取り代と同一で、切り屑長さは16mmでカールもせず、切屑分断の効果が無かった。以上の結果より、切り屑分断の効果は、加工条件によるものでなく第1の溝形状に差によるものであると考えられる。
【0048】
工具番号1-cの工具においては、すくい面100および溝11が延びる方向と交差する壁面301に切屑の擦れた痕が見られ、切屑分断に作用していることが確認された。このことから、前切れ刃110で生じた切屑は、溝11に沿って流れ、溝11の後端11b付近の壁面301に当たることで切屑が分断される効果がある。
【0049】
さらに、外周切れ刃の凹凸が30μmを超えると加工面に傷が発生し面粗さが低下した。
【0050】
(実施例2)
<第1の溝の角度の違い>
本実施例では、第1の溝の角度が切り屑の分断に及ぼす影響について試験を行った。
【0051】
第1の溝の角度の違いによる切り屑分断の差を確認するため、実施例1の工具形状を基本としつつ、第1の溝の本数は1本とした。
【0052】
第1の溝の角度を回転軸に対し、平行(0°)の工具および3°~87°の範囲で変更した工具を製作した。第1の溝の形状、向き、寸法などについては、表3に示す。いずれの第1の溝も先端は前切れ刃に交差している。
【0053】
【0054】
第1の溝が前切れ刃と交差する位置は、形状や製作上の制約があるため、工具により外周切れ刃から1.0mm、1.5mm、2.0mmの3種類の工具がある。具体的には、表3の工具番号103、11、12、13、14では1mm、工具番号15では1.5mm、工具番号16では2mmである。
【0055】
実施例1の工具番号1と同様、第1の溝断面形状は
図18の形状で第1の溝の幅Wは0.17mmである。
【0056】
また第1の溝が前切れ刃と交わることによりできる前切れ刃の断続部分の幅WOは、第1の溝の角度により異なるが、計算により算出できる。
【0057】
以上の工具を使い、以下の条件で切削加工を行い、切屑処理性を評価した。
[切削条件]
切削条件は、以下の通りである。
【0058】
被削材:アルミニウム合金(A6061)
加工孔:下孔直径5mm、深さ25mm
この孔を10mmに仕上げる。従って、取り代は片肉で2.5mm。
【0059】
切削速度:200m/min
送り量:0.2mm/rev
この評価も実施例1と同様、切り屑が長さ5mm以下のカール状で且つ幅が片肉取り代以下のものを良好と判断した。但し、加工中のビビリなどの発生状況も考慮して判断した。この評価結果を表4に示す。
【0060】
【0061】
工具番号11の角度3°の工具では、切り屑はカールしたものの長さがあまり短くならいため、最終評価をBとした。工具番号12~15の角度が5°~85°の工具では、切り屑幅、切り屑長さとも第1の溝による分断の効果が見られた。
【0062】
工具番号16の角度87°の工具は、切り屑分断の効果はあったが、孔の底付近を加工する際に少しビビリが発生する状況が見られた。これはWの寸法が3.25mm以上のような寸法と非常に大きくなり、この部分の切削抵抗が大きくなってビビリが発生したと考えられる。
【0063】
この結果から、第1の溝は回転軸に対して5°以上85°以下の角度を有することが好ましいことが分かった。
【0064】
(実施例3)
<第1の溝の深さの違い>
本実施例では第1の溝の深さが切り屑に及ぼす影響について調べた。
【0065】
工具形状は、実施例1の工具番号1の工具形状を基本形状とし、第1の溝の深さを変えた工具を製作した。第1の溝の形状、向き、寸法などについては、表5に示す。
【0066】
【0067】
第1の溝幅W、第1の溝の間隔Sは工具番号1と同じであり、最外周の第1の溝が前切れ刃と交差する位置は外周部から0.3mmの位置とした。
【0068】
また、第1の溝の内周側の位置は、外周部から2.5mmの位置とし、第1の溝の本数はすべて工具ともに3本とした。
【0069】
以上の工具を使い、以下の条件で切削加工を行い、切屑処理性を評価した。
[切削条件]
被削材:アルミニウム合金(A6061)
加工孔:下孔直径5mm、深さ25mm
この孔を10mmに仕上げる。従って、取り代は片肉で2.5mm。
【0070】
切削速度:200m/min
送り量:0.2mm/rev
この評価も実施例1と同じである。評価結果を表6に示す。
【0071】
【0072】
工具番号22から26の第1の溝深さ0.01mmから0.8mmの工具では、切屑がカールして細かく分断された。
【0073】
この結果から、第1の溝の深さは、0.01mm以上0.8mm以下が好ましいことが分かった。
【0074】
(実施例4)
<第1の溝の幅の違い>
本実施例では第1の溝幅Wの違いが切り屑に及ぼす影響について試験を行った。
【0075】
工具形状は、実施例1の工具番号1の形状を基本形状とし、第1の溝の幅が0.01mm~0.50mmの間で異なるものを製作した。第1の溝の形状、向き、寸法などについては、表7に示す。
【0076】
【0077】
第1の溝深さD、第1の溝の間隔Sは、工具番号1の工具と同じである。最外周の第1の溝が前切れ刃と交差する位置は、外周部から0.3mmの位置とした。
【0078】
工具番号34は、実施例1で製作した工具番号1と同一品である。
第1の溝の最外周部分は外周部から2.5mmの位置としたので第1の溝の本数は第1の溝幅によって異なっている。
【0079】
以上の工具を使い、以下の条件で切削加工を行い、切屑処理性を評価した。
[切削条件]
被削材:アルミニウム合金(A6061)
加工孔:下孔直径5mm、深さ25mm
この孔を10mmに仕上げる。従って、取り代は片肉で2.5mm。
【0080】
切削速度:200m/min
送り量:0.2mm/rev
この評価も実施例1と同じである。評価結果を表8に示す。
【0081】
【0082】
工具番号32~36の工具では、切屑がカールして分断され、小さい切屑が得られた。
(実施例5)
<第1の溝の間隔の違い>
本実施例では第1の溝の間隔Sの違いが切り屑に及ぼす影響について試験を行った。
【0083】
工具形状は、実施例1の工具番号1の形状を基本形状とし、第1の溝の間隔が異なるものを製作した。第1の溝の形状、向き、寸法などについては、表9に示す。
【0084】
【0085】
第1の溝深さD、第1の溝幅Wは、工具番号1と同じである。最外周の第1の溝が前切れ刃と交差する位置は、外周部から0.3mmの位置とした。
【0086】
第1の溝間隔Sが0.10mm~2.00mmの間で異なるものを製作した。工具番号44は、実施例1の工具番号1と同一品である。
【0087】
第1の溝の最外周部は、外周部から2.5mmの位置としたため、第1の溝の本数は第1の溝間隔によって異なる。
【0088】
以上の工具を使い、以下の条件で切削加工を行い、切屑処理性を評価した。
[切削条件]
被削材:アルミニウム合金(A6061)
加工孔:下孔直径5mm、深さ25mm
この孔を10mmに仕上げる。従って、取り代は片肉で2.5mm。
【0089】
切削速度:200m/min
送り量:0.2mm/rev
この評価も実施例1と同じである。評価結果を表10に示す。
【0090】
【0091】
工具番号43~45の工具では、切屑がカールして分断され、小さい切屑が得られた。
工具番号42の第1の溝間隔0.10mmの工具でも、前切れ刃が櫛状に近い形状のため、僅かに切り屑の溶着が見られたが、溶着は少なかったため、切屑をカールさせて分断する効果が低下するほどではなかった。
【0092】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0093】
回転切削工具は、アルミニウム合金、非鉄金属の嵌合穴加工に用いるドリルまたは、リーマに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 回転切削工具、2 台金、9 回転軸、10 切れ刃チップ、11,12,13,14 第1の溝、15,16 溝、11a,12a,13a,14a,15a,16a,212a 先端、11b,12b,13b,14b,15b,16b,212b 後端、11d 側面、11e 底面、11f テーパ面、100 すくい面、110 前切れ刃、120 外周切れ刃、130 コーナー面取り切れ刃、212 第2の溝、301,302 壁面、311 線。