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特許7029038ポリ(アリーレンエーテルスルホン)-ポリ(エチレングリコール)グラフト共重合体を含むリチウム二次電池用リチウム金属負極保護層、その形成方法およびそれを含むリチウム二次電池
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】ポリ(アリーレンエーテルスルホン)-ポリ(エチレングリコール)グラフト共重合体を含むリチウム二次電池用リチウム金属負極保護層、その形成方法およびそれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20220224BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20220224BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20220224BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20220224BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20220224BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/1395
H01M10/058
H01M10/0568
H01M10/0569
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020168974
(22)【出願日】2020-10-06
(65)【公開番号】P2021150278
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2020-10-06
(31)【優先権主張番号】10-2020-0031937
(32)【優先日】2020-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】508224890
【氏名又は名称】リサーチ アンド ビジネス ファウンデーション ソンギュングァン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】キム、ドゥク チュン
(72)【発明者】
【氏名】ル モン、アン
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ヒョン チュン
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/066219(WO,A1)
【文献】特表2013-514400(JP,A)
【文献】特開2013-235789(JP,A)
【文献】特開2005-142156(JP,A)
【文献】国際公開第2018/191024(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/134
H01M 4/1395
H01M 10/058
H01M 10/0568
H01M 10/0569
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池用リチウム金属負極保護層であって、
下記化学式1で示されるポリ(アリーレンエーテルスルホン)-ポリ(エチレングリコール)グラフト共重合体を含み、
【化1】


前記化学式1において、nは、60~80の整数であり、mは、40~45の整数である、前記リチウム二次電池用リチウム金属負極保護層。
【請求項2】
前記負極保護層は、リチウム金属表面に形成され、
イオン伝導率が0.27×10-3 S/cm以上であり、液体電解質の吸収率が55 %以上であることを特徴とする
請求項に記載のリチウム二次電池用リチウム金属負極保護層。
【請求項3】
前記負極保護層の引張強度は、2.0 MPa以上であり、破断伸び率は、60 %以上であることを特徴とする
請求項に記載のリチウム二次電池用リチウム金属負極保護層。
【請求項4】
前記負極保護層の熱分解温度(decomposition temperature:Tdと略称)は、200 ℃以上であることを特徴とする
請求項2又は請求項3に記載のリチウム二次電池用リチウム金属負極保護層。
【請求項5】
前記液体電解質は、
リチウム塩と、
エチレンカーボネート(EC)、アセトニトリル(ACN)およびジエチルカーボネート(DEC)の中から選択される1種以上の有機溶媒とを含むことを特徴とする
請求項2~請求項4のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用リチウム金属負極保護層。
【請求項6】
前記液体電解質は、有機溶媒としてエチレンカーボネート(EC)、アセトニトリル(ACN)およびジエチルカーボネート(DEC)を含み、
前記エチレンカーボネート(EC)、アセトニトリル(ACN)およびジエチルカーボネート(DEC)を3:3.5~4.5:2.5~3.5の体積比で含有することを特徴とする
請求項に記載のリチウム二次電池用リチウム金属負極保護層。
【請求項7】
前記リチウム塩は、LITFSI(Lithium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide)を含むことを特徴とする
請求項5又は請求項6に記載のリチウム二次電池用リチウム金属負極保護層。
【請求項8】
リチウム二次電池用リチウム金属負極保護層の形成方法であって、
下記化学式1で示されるポリ(アリーレンエーテルスルホン)-ポリ(エチレングリコール)グラフト共重合体を溶媒に溶解させて、第1の溶液を製造するステップと、
アルゴンガス雰囲気の下で、前記第1の溶液をリチウム金属の表面に塗布するステップとを含み
【化2】


前記化学式1において、nは、60~80の整数であり、mは、40~45の整数である、前記リチウム二次電池用リチウム金属負極保護層の形成方法。
【請求項9】
前記溶媒は、テトラヒドロフラン(THF)を含むことを特徴とする
請求項に記載のリチウム二次電池用リチウム金属負極保護層の形成方法。
【請求項10】
リチウム二次電池であって、
正極、負極および液体電解質を含み、
前記負極は、リチウム金属の表面に請求項請求項7のいずれか一項に記載の保護層が形成されたものである、前記リチウム二次電池。
【請求項11】
前記液体電解質は、リチウム塩としてLITFSI(Lithium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide)を含み、
有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、アセトニトリル(ACN)およびジエチルカーボネート(DEC)を3:3.5~4.5:2.5~3.5の体積比で含有することを特徴とする
請求項10に記載のリチウム二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムデンドライト形成を抑制し、熱的/化学的安定性とリチウムイオンの伝導性を向上させることができるリチウム二次電池用リチウム金属負極保護層、その形成方法およびそれを含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、長寿命、高エネルギー密度および環境規制の保証により、電子装置、電気自動車などの様々な分野で活用されており、特にリチウム金属は、高い比容量(3860mAh/g)、軽量(0.53 g/cm)、低酸化還元電位(-3.040V)の性質により、リチウムイオン電池だけでなく、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池のような高エネルギー電池の理想的な負極材料として注目されている。
【0003】
しかし、リチウム金属負極を使用するリチウム二次電池システムは、低安全性と低寿命を引き起こす液体電解質の分解およびデンドライト形成により、商用化が制限されている。
【0004】
リチウム二次電池の充放電サイクルが繰り返される間、リチウム金属の高い反応性により、リチウム金属と液体電解質との間の不可逆反応が発生し、これにより、リチウム金属表面には、不安定な不溶性の固体層(SEI)が形成され、液体電解質は、乾燥される。
【0005】
不安定な不溶性の固体層(SEI)は、低引張強度を持つので、リチウム金属の体積変化に耐えられず、セルのすべての自由空間で制御されていないリチウムデンドライトの成長は、分離膜を浸透して、電池のクーロン効率(Coulombic efficiency:CEと略称)を低下させ、セルの短絡を起こし、過熱および火災を誘発する。
【0006】
これらの問題点を解決するために、塩の開発、添加剤を有する液体電解質と無機化合物またはポリマーを用いたリチウム金属表面の保護層堆積などの様々な研究が進められており、この中でも、保護層の技術は、低接触に起因する液体電解質とリチウム金属の副反応を制限して、CEを改善することができるだけでなく、均一なリチウム陽イオン分布を形成して、リチウムデンドライトの成長を抑制することができるため、多くの関心を受けている。
【0007】
そこで、最近までポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、PVDF-ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体とPVDF/無機粒子複合体などを用いたリチウム金属負極保護層に対する研究が行われたが、従来のリチウム金属負極保護層物質は、高抵抗のため、電池の性能を低下させ、保護層電解質との間の界面での化学的安定性が非常に低いだけでなく、イオン伝導度が低いという欠点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一目的は、優れた機械的強度とイオン伝導性を有するポリ(アリーレンエーテルスルホン)-ポリ(エチレングリコール)グラフト共重合体の合成方法を提供するものである。
【0009】
本発明の他の目的は、リチウムデンドライト形成を抑制し、熱的/化学的安定性およびリチウムイオンの伝導性を向上させることができるリチウム二次電池用リチウム金属負極保護層及びその形成方法を提供するものである。
【0010】
本発明のもう一つの目的は、前記リチウム二次電池用リチウム金属負極保護層を含むリチウム二次電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ポリ(アリーレンエーテルスルホン)-ポリ(エチレングリコール)グラフト共重合体の合成方法であって、下記化学式1-1で示される化合物と、下記化学式1-2で示される化合物をエステル化反応させて、下記化学式1で示されるポリ(アリーレンエーテルスルホン)-ポリ(エチレングリコール)グラフト共重合体を合成するステップを含むことを特徴とする。
【0012】
【化1】

前記化学式1-1において、nは、60~80の整数である。
【0013】
【化2】

前記化学式1-2において、mは、40~45の整数である。
【0014】
【化3】

前記化学式1において、nは、60~80の整数であり、mは、40~45の整数である。
【0015】
一実施形態では、前記反応は、4-ジメチルアミノピリジン(4-dimethylaminopyridine:DMAPと略称)およびN,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(N,N’-dicyclohexylcarbodiimide:DCCと略称)の存在下で行うことを特徴とする。
【0016】
一実施形態では、前記反応は、ジメチルホルムアミド(DMF)溶媒中で、60~100 ℃の温度で行うことを特徴とする。
【0017】
本発明は、リチウム二次電池用リチウム金属負極保護層であって、下記化学式1で示されるポリ(アリーレンエーテルスルホン)-ポリ(エチレングリコール)グラフト共重合体を含むことを特徴とする。
【0018】
【化4】

前記化学式1において、nは、60~80の整数であり、mは、40~45の整数である。
【0019】
一実施形態では、前記負極保護層は、リチウム金属表面に形成され、 イオン伝導率が0.27×10-3 S/cm以上であり、液体電解質の吸収率が55 %以上であることを特徴とする。
【0020】
一実施形態では、前記負極保護層の引張強度は、2.0 MPa以上であり、破断伸び率は、60 %以上であることを特徴とする。
【0021】
一実施形態では、前記負極保護層の熱分解温度(decomposition temperature:Tdと略称)は、200 ℃以上であることを特徴とする。
【0022】
一実施形態では、前記液体電解質は、リチウム塩と、エチレンカーボネート(EC)、アセトニトリル(ACN)およびジエチルカーボネート(DEC)の中から選択される1種以上の有機溶媒とを含むことを特徴とする。
【0023】
一実施形態では、前記液体電解質は、有機溶媒としてエチレンカーボネート(EC)、アセトニトリル(ACN)およびジエチルカーボネート(DEC)を含み、 前記エチレンカーボネート(EC)、アセトニトリル(ACN)およびジエチルカーボネート(DEC)を3:3.5~4.5:2.5~3.5の体積比で含有することを特徴とする。
【0024】
一実施形態では、前記リチウム塩は、LITFSI(Lithium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide)を含むことを特徴とする。
【0025】
本発明は、リチウム二次電池用リチウム金属負極保護層の形成方法であって、下記化学式1で示されるポリ(アリーレンエーテルスルホン)-ポリ(エチレングリコール)グラフト共重合体を溶媒に溶解させて、第1の溶液を製造するステップと、アルゴンガス雰囲気の下で、前記第1の溶液をリチウム金属の表面に塗布するステップとを含むことを特徴とする。
【0026】
【化5】

前記化学式1において、nは、60~80の整数であり、mは、40~45の整数である。
【0027】
一実施形態では、前記溶媒は、テトラヒドロフラン(THF)を含むことを特徴とする。
【0028】
本発明は、リチウム二次電池であって、正極、負極および液体電解質を含み、前記負極は、リチウム金属の表面に前記保護層が形成されたものである。
【0029】
一実施形態では、前記液体電解質は、リチウム塩としてLITFSI(Lithium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide)を含み、有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、アセトニトリル(ACN)およびジエチルカーボネート(DEC)を3:3.5~4.5:2.5~3.5の体積比で含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によると、リチウム金属の表面にポリ(アリーレンエーテルスルホン)-ポリ(エチレングリコール)グラフト共重合体(PAES-g-PEG)を薄膜コーティングして、負極保護層を形成することにより、ポリ(アリーレンエーテルスルホン)(PAES)上の高い機械的強度と熱的/化学的安定性を利用して、リチウムデンドライトの形成を抑制し、リチウム二次電池の長期安全性を確保することができ、ポリ(エチレングリコール)(PEG)上では高い液体電解質含有能力とエーテル基保有セグメントの柔軟な動きにより、リチウムイオンの円滑な輸送能力を提供し、保護層の抵抗を下げることができるので、リチウム二次電池の性能を向上させることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】実施例に基づいて合成されたPAES-g-PEGのプロトン核磁気共鳴(H-NMR)およびフーリエ変換赤外線(FT-IR)スペクトルを示した。
図2-A】1Mのリチウムビス(フルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)塩を含有する液体電解質の電気化学的および熱的特性を示した。
図2-B】1Mのリチウムビス(フルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)塩を含有する液体電解質の電気化学的および熱的特性を示した。
図2-C】1Mのリチウムビス(フルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)塩を含有する液体電解質の電気化学的および熱的特性を示した。
図2-D】1Mのリチウムビス(フルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)塩を含有する液体電解質の電気化学的および熱的特性を示した。
図3-A】実施例に係る保護層の液体電解質の吸収率、寸法膨張率、リチウムイオン伝導率を測定した結果を示した。
図3-B】実施例に係る保護層の液体電解質の吸収率、寸法膨張率、リチウムイオン伝導率を測定した結果を示した。
図3-C】実施例に係る保護層の液体電解質の吸収率、寸法膨張率、リチウムイオン伝導率を測定した結果を示した。
図3-D】実施例に係る保護層の液体電解質の吸収率、寸法膨張率、リチウムイオン伝導率を測定した結果を示した。
図4-A】実施例に係る保護層のコーティング前後のリチウム金属の表面形態および組成分析結果を示した。
図4-B】実施例に係る保護層のコーティング前後のリチウム金属の表面形態および組成分析結果を示した。
図4-C】実施例に係る保護層のコーティング前後のリチウム金属の表面形態および組成分析結果を示した。
図4-D】実施例に係る保護層のコーティング前後のリチウム金属の表面形態および組成分析結果を示した。
図4-E】実施例に係る保護層のコーティング前後のリチウム金属の表面形態および組成分析結果を示した。
図4-F】実施例に係る保護層のコーティング前後のリチウム金属の表面形態および組成分析結果を示した。
図4-G】実施例に係る保護層のコーティング前後のリチウム金属の表面形態および組成分析結果を示した。
図4-H】実施例に係る保護層のコーティング前後のリチウム金属の表面形態および組成分析結果を示した。
図4-I】実施例に係る保護層のコーティング前後のリチウム金属の表面形態および組成分析結果を示した。
図5-A】液体電解質浸漬後のリチウム金属と保護層コーティングリチウム金属の表面形態および組成分析の結果を示した。
図5-B】液体電解質浸漬後のリチウム金属と保護層コーティングリチウム金属の表面形態および組成分析の結果を示した。
図5-C】液体電解質浸漬後のリチウム金属と保護層コーティングリチウム金属の表面形態および組成分析の結果を示した。
図5-D】液体電解質浸漬後のリチウム金属と保護層コーティングリチウム金属の表面形態および組成分析の結果を示した。
図5-E】液体電解質浸漬後のリチウム金属と保護層コーティングリチウム金属の表面形態および組成分析の結果を示した。
図5-F】液体電解質浸漬後のリチウム金属と保護層コーティングリチウム金属の表面形態および組成分析の結果を示した。
図6-A】液体電解質浸漬後の保護層コーティングリチウム金属の10日間の界面抵抗の変化を測定した結果を示した。
図6-B】液体電解質浸漬後の保護層コーティングリチウム金属の10日間の界面抵抗の変化を測定した結果を示した。
図6-C】液体電解質浸漬後の保護層コーティングリチウム金属の10日間の界面抵抗の変化を測定した結果を示した。
図6-D】液体電解質浸漬後の保護層コーティングリチウム金属の10日間の界面抵抗の変化を測定した結果を示した。
図6-E】液体電解質浸漬後の保護層コーティングリチウム金属の10日間の界面抵抗の変化を測定した結果を示した。
図6-F】液体電解質浸漬後の保護層コーティングリチウム金属の10日間の界面抵抗の変化を測定した結果を示した。
図6-G】液体電解質浸漬後の保護層コーティングリチウム金属の10日間の界面抵抗の変化を測定した結果を示した。
図6-H】液体電解質浸漬後の保護層コーティングリチウム金属の10日間の界面抵抗の変化を測定した結果を示した。
図7-A】実施例に係る保護層を含むLiNMCo/PP/Li-Lセルと、比較例であるLiNMCo/PP/Liセルの放電用量およびサイクル性能を測定した結果を示した。
図7-B】実施例に係る保護層を含むLiNMCo/PP/Li-Lセルと、比較例であるLiNMCo/PP/Liセルの放電用量およびサイクル性能を測定した結果を示した。
図7-C】実施例に係る保護層を含むLiNMCo/PP/Li-Lセルと、比較例であるLiNMCo/PP/Liセルの放電用量およびサイクル性能を測定した結果を示した。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明は、様々な変更を加えることができ、様々な形態を持つことができるところ、特定の実施形態を図面に例示して本文に詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の開示形態について限定するものではなく、本発明の思想及び技術範囲に含まれるすべての変更、均等物ないし代替物を含むものと理解されるべきである。各図面を説明しながら類似の参照符号を類似の構成要素について使用した。
【0033】
本出願で使用した用語は、単に特定の実施形態を説明するために使用されたものであって、本発明を限定する意図ではない。単数の表現は、文脈上明らかに別の意味をしない限り、複数の表現を含む。本出願では、「含む」または「有する」などの用語は、明細書上に記載された特徴、段階、動作、構成要素、部分品またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするのであって、1つまたはそれ以上の他の特徴や段階、動作、構成要素、部分品またはこれらを組み合わせたものの存在または付加可能性を予め排除しないものと理解されるべきである。
【0034】
別に定義されない限り、技術的または科学的な用語を含めてここで使用されるすべての用語は、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者によって一般的に理解されるものと同じ意味を持っている。一般的に使用される辞書に定義されているような用語は、関連技術の文脈上持つ意味と一致する意味を有するものと解釈されるべきであり、本出願で明白に定義しない限り、理想的または過度に形式的な意味に解釈されない。
【0035】
本発明の実施形態に係るポリ(アリーレンエーテルスルホン)-ポリ(エチレングリコール)グラフト共重合体の合成方法は、下記化学式1-1で示される化合物と、下記化学式1-2で示される化合物をエステル化反応させて、下記化学式1で示されるポリ(アリーレンエーテルスルホン)-ポリ(エチレングリコール)グラフト共重合体を合成するステップを含む。
【0036】
【化6】

前記化学式1-1において、nは、60~80の整数である。
【0037】
【化7】

前記化学式1-2において、mは、40~45の整数である。
【0038】
【化8】

前記化学式1において、nは、60~80の整数であり、mは、40~45の整数である。
【0039】
前記化学式1-1で示される化合物は、ポリ(アリーレンエーテルスルホン)(PAES)を主鎖とし、側鎖にカルボキシ基が導入された構造を有し、これらの構造を有する化合物(以下、PAES-COOHと命名する)はジメチルスルホキシド(DMSO)とトルエンを混合した溶媒に4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)吉草酸(HPV、4,4-bis(4-hydroxylphenyl)valeic acid)とビス(4-フルオロフェニル)スルホン(FPS、bis(4-flourophenyl) sulfone)を溶解させた後、160~180 ℃の温度で約3日間合成反応させて製造することができる。
【0040】
前記化学式1-2で示される化合物(以下、PEG-OHと命名する)は、エーテル基を含むポリ(エチレングリコール)(PEG)の末端にヒドロキシ基を含む構造を有する。
【0041】
したがって、本発明のPAEG-COOHとPEG-OHは、カルボキシ基とヒドロキシ基の存在により、エステル化反応して共重合体を合成することができる。
【0042】
このとき、エステル化反応性を高めるために、前記反応は、4-ジメチルアミノピリジン(4-dimethylaminopyridine:DMAPと略称)およびN、N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(N、N’-dicyclohexylcarbodiimide:DCCと略称)の存在下で行うことが好ましい。
【0043】
また、前記反応は、DMF溶媒中で60~100 ℃の温度で行うことができるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
一方、前記反応によって合成された共重合体は、ポリ(アリーレンエーテルスルホン)(PAES)にポリ(エチレングリコール)(PEG)がグラフトされた構造を有し、前記化学式1で示されることができる。
【0045】
前記化学式1で示される共重合体(以下、PAES-g-PEGと命名する)は、優れた機械的物性と熱的/化学的安定性を有するPAESと、リチウムイオンの輸送が円滑に起こることができる柔軟なエーテル基を含むPEGを繰り返し単位として含むために、リチウムイオン伝導性をブロックせずに、高い化学的/機械的安定性を有することができており、効果的なリチウム金属負極保護層物質として活用されることができる。
【0046】
すなわち、本発明の他の目的のために、リチウム二次電池用リチウム金属負極保護層は、前記化学式1で示されるポリ(アリーレンエーテルスルホン)-ポリ(エチレングリコール)グラフト共重合体(PAES-g-PEG)を含む。
【0047】
具体的に、前記負極保護層は、リチウム金属の表面に形成され、PAESとそれにグラフトされたPEGの相分離を通じ、PAES上の高い機械的強度と熱的/化学的安定性を利用して、リチウムデンドライトの形成を抑制することができ、PEG上の高い液体電解質含有能力とエーテル基保有セグメントの柔軟な動きにより、リチウムイオンの円滑な輸送能力を提供することができ、負極保護層の抵抗を下げることができる。
【0048】
すなわち、前記負極保護層は、PAES-g-PEGを含むことによって、0.27×10-3 S/cm以上の高いイオン伝導率を有し、55 %以上の液体電解質の吸収率を達成することができる。
【0049】
また、前記負極保護層の引張強度は、2.0 MPa以上であり、破断伸び率は60 %以上であり、前記負極保護層の熱分解温度(decomposition temperature:Tdと略称)は200 ℃以上で、優れた機械的強度と熱的/化学的安定性を示す。
【0050】
一方、前記負極保護層に吸収される液体電解質は、リチウム塩と、エチレンカーボネート(EC)、アセトニトリル(ACN)およびジエチルカーボネート(DEC)の中から選択された1種以上の有機溶媒を含むことができる。
【0051】
一実施形態として、前記液体電解質は、エチレンカーボネート(EC)、アセトニトリル(ACN)およびジエチルカーボネート(DEC)を含むことができ、このとき、前記エチレンカーボネート(EC)、アセトニトリル(ACN)およびジエチルカーボネート(DEC)を3:3.5~4.5:2.5~3.5の体積比で含有することが好ましいが、前記体積比で混合される場合には、高い電気化学的安定性を示すエチレンカーボネート(EC)およびジエチルカーボネート(DEC)と、低粘度を有するアセトニトリル(ACN)が適切に調和して混合液体電解質が高い伝導性および熱安定性を示すからである。
【0052】
また、前記リチウム塩は、熱安定性が高く、水分の非感受性を有するLITFSI(Lithium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide)を使用することが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0053】
上述したような液体電解質を使用する場合、負極保護層の機械的強度と熱的/化学的安定性が増加することになり、これにより、リチウムデンドライトの形成抑制効果が促進され、電極-界面との抵抗が減少されて、リチウム二次電池の性能が向上する効果がある。
【0054】
したがって、本発明の負極保護層は、前記エチレンカーボネート(EC)、アセトニトリル(ACN)およびジエチルカーボネート(DEC)を3:4:3の体積比で含有した液体電解質を使用することが最も好ましい。
【0055】
一方、本発明の他の実施形態であるリチウム二次電池用リチウム金属負極保護層の形成方法は、前記化学式1で示されるポリ(アリーレンエーテルスルホン)-ポリ(エチレングリコール)グラフト共重合体を溶媒に溶解させて、第1の溶液を製造するステップ、およびアルゴンガス雰囲気の下で、前記第1の溶液をリチウム金属の表面に塗布するステップを含むことができる。
【0056】
まず、前記化学式1で示されるポリ(アリーレンエーテルスルホン)-ポリ(エチレングリコール)グラフト共重合体を溶媒に溶解させて、第1の溶液を製造するステップを実行することができる。
【0057】
このとき、前記溶媒としては、特に制限されないが、テトラヒドロフラン(THF)を使用することが好ましく、混合物を約1~3時間攪拌させて第1の溶液を製造することができる。
【0058】
次に、アルゴンガス雰囲気の下で、前記第1の溶液をリチウム金属の表面に塗布するステップを実行する。
【0059】
具体的に、アルゴンガス雰囲気のグローブボックス内で、前記第1の溶液をドクターブレードを使用して、一定の厚さで、リチウム金属の表面に塗布することができる。その後、第1の溶液が塗布されたリチウム金属を室温で一日以上保存した後、約40~45 ℃の温度で真空乾燥して、リチウム金属表面上に保護層を形成することができる。
【0060】
一方、本発明の別の実施形態であるリチウム二次電池は、正極、負極、および液体電解質を含み、前記負極は、リチウム金属の表面に前記保護層が形成されることができる。
【0061】
このとき、前記液体電解質は、リチウム塩としてLITFSI(Lithium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide)を含み、エチレンカーボネート(EC)、アセトニトリル(ACN)およびジエチルカーボネート(DEC)を3:3.5~4.5:2.5~3.5の体積比で含有することが好ましい。
【0062】
本発明の実施形態によるリチウム二次電池は、リチウム金属の表面に保護層が形成された負極を含むので、保護層の高い機械的強度と熱的/化学的安定性およびリチウムイオン伝導性により、リチウムデンドライトの形成が抑制されて電池の長期安全性が確保され、電極-界面との間の抵抗が減少し、電池性能が向上する利点がある。
【0063】
以下、本発明の様々な実施例及び実験例について詳述する。しかし、下記の実施例は、本発明の一部の実施例に過ぎないものであり、本発明は下記の実施例に限定されるものと解釈されてはならない。
【0064】
PAES-g-PEG(poly(arylene ether sulfone)-g-poly(ethylene glycol))の合成
【0065】
【化9】
【0066】
1)PAES-COOHの合成
【0067】
脱水装置を含む500 mlの三口フラスコ内で、DMSO(80 g)とトルエン(70 g)の混合溶媒にHPV(5.72 g、0.02 mol)とFPS(5.08 g、0.02 mol)を溶解させた後、172 ℃の温度で3日間重合反応させた。その後、生成された固形物をテトラヒドロフラン(THF)と塩化水素(HCl)の混合溶液に溶解させ、イソプロピルアルコール(IPA)に沈殿させた後、蒸留水で不純物を除去し、乾燥させてPAES-COOHを得た。
【0068】
2)PAES-g-PEG(実施例1)の合成
【0069】
DMF溶媒にPAES-COOH(5.52 g)、PEG-OH(28 g)を添加し、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP、0.0412 g)およびN、N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC、4.64 g)を利用して、80 ℃の温度で2日間エステル化反応させた。その後、生成された固形物をエーテル溶液に沈殿させた後、蒸留水で不純物を除去し、乾燥させてPAES-g-PEG(>60 %の収率)を得た。
【0070】
図1は、実施例に基づいて合成されたPAES-g-PEGのH-NMR及びFT-IRスペクトルを示したものである。
【0071】
図1を参照すると、PAES-COOHと、これを主鎖とし、PEGがグラフティングされたPAES-g-PEG共重合体が合成されたことを確認することができる。
【0072】
EC/ACN/DEC液体電解質の合成
【0073】
エチレンカーボネート(EC)、アセトニトリル(ACN)およびジエチルカーボネート(DEC)を3/4/3の体積比で混合した後、室温で4時間攪拌して溶液を製造した。その後、1Mのリチウムビス(フルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)塩を添加し、24時間攪拌して、液体電解質を合成(実施例2a)した。
【0074】
また、アセトニトリル(ACN)のみを含む溶液、ジエチルカーボネート(DEC)のみを含む溶液をそれぞれ用意し、ACN:DEC(1:1(v/v))の混合溶液を準備した後、1Mのリチウムビス(フルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)塩を添加し、24時間攪拌して、液体電解質をそれぞれ合成(順に、実施例2b、2c、2d)した。
【0075】
リチウム二次電池用リチウム金属負極保護層の製造
【0076】
リチウム金属の表面にPAES-g-PEG保護層を形成するために、実施例1に基づいて製造されたPAES-g-PEG(1.5 g)をテトラヒドロフラン(THF、10 ml)に溶解させ、2時間撹拌しした後、アルゴンガス雰囲気の下で、混合物をリチウム金属上に一定の厚さに塗布してPAES-g-PEGを、リチウム金属の両面にコーティングした。その後、室温のグローブボックス内で24時間保存した後、40 ℃の温度で真空乾燥させて残留溶媒を完全に除去して、リチウム二次電池用リチウム金属負極保護層を形成した。
【0077】
有機液体電解質の特性評価
【0078】
1Mのリチウムビス(フルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)塩を含有する液体電解質の電気化学的および熱的特性を確認し、その結果を図2-A~図2-Dに示した。
【0079】
図2-Aは、実施例に係る液体電解質のSS/PP/SSセルを介して測定されたインピーダンスのNyquist plotを示したものであり、図2-Cは、これにより、計算されたリチウム陽イオン伝導率の値である。
【0080】
図2-Cに示すように、液体電解質のリチウム陽イオン伝導率は低い粘度を有するACNの含有量が増加するにつれて増加する傾向を見せた。
【0081】
具体的に、リチウム陽イオン伝導率はACNのみを含む実施例2bの場合には、1.59×10-3 S/cmで最も高い値を示し、次に実施例2aであるEC/ACN/DEC(3/4/3、v/v/v)混合物が1.4×10-3 S/cmで高かった。
【0082】
図2-Bは、熱重量分析(TGA)を利用して、0.5 ℃/minの速度で25 ℃から80 ℃までの液体電解質の熱安定性を測定した結果を示したものである。
【0083】
図2-Bを参照すると、ACNからなる電解質の蒸発が最も高いことを知ることができ、実施例2aのEC/ACN/DEC(3/4/3、v/v/v)混合物は、ほぼ蒸発していないので、高い熱安定性を有することが分かることができる。
【0084】
一方、図2-Dは、SS/PP/Liセルを介してLSVを実行した結果を示したものである。
【0085】
図2-Dを参照すると、EC/ACN/DEC(3/4/3、v/v/v)の混合物は、0~5.5 Vの大きな電圧範囲で安定であるため、高い電気化学的安定性を有することを分かることができる。
【0086】
すなわち、本発明の実施例に係る1M LiTFSI EC/ACN/DEC(3/4/3、v/v/v)液体電解質は、実施例2a-2dに比べて高いリチウムイオン伝導性、熱的安定性、電気化学的安定性を有するので、最も好ましい液体電解質であることを分かることができる。
【0087】
PAES-g-PEG保護層と液体電解質の適合性評価
【0088】
実施例1によるPAES-g-PEG保護層と実施例2aによるEC/ACN/DEC液体電解質との適合性を確認するために、液体電解質の吸収率、寸法膨張率、リチウムイオン伝導率を測定し、万能引張試験機(UTM)を使用して測定した結果とTGA分析を行った結果を図3-A~図3-Dに示した。
【0089】
図3-Aを参照すると、実施例1の液体電解質の吸収率は55 %であるのに対し、寸法膨張率は約12 %で、高くないことが分かることができる。これは、PAES-g-PEGに基づく、本発明の保護層が、高い安定性でリチウム金属の表面を覆っていることを意味する。
【0090】
図3-Cは、55 %の液体電解質の吸収を有する保護層の(SS/SE/SS)セルで測定されたインピーダンスに基づいて描いたNyquist plotを示す。
【0091】
図3-Cに示すように、本発明の保護層のイオン伝導率は、室温で0.275×10-3 S/cmに測定され、これは実施例1の保護層がPEG上のエーテル基と配位された多数のリチウムイオンが存在するリチウムイオン伝導性層であることを意味する。
【0092】
図3-Bは、保護層の液体電解質の吸収前後の応力-変形曲線をUTMを使用して測定した結果を示したものである。
【0093】
液体電解質の吸収前の保護層は、4.0 MPaの高い引張強度と60 %の破断伸び率を示し、55 %の液体電解質を吸収後の保護層は、2.0 MPaの引張強度と80 %の破断伸び率を示した。破断伸び率が高いことから、液体電解質の吸収後の保護層は、高い機械的強度を有することが分かることができ、これにより、保護層がリチウムデンドライトの成長を制限する要素として作用することを示している。
【0094】
一方、保護層の熱安定性を測定した図3-Dを見ると、混合物からなる液体電解質(実施例2a)を吸収した保護層の減少が約5 %と最も小さかったし、これは保護層がリチウム二次電池に活用するための熱安定性の要件を満たす混合物の液体電解質との適合性を示すことを意味する
【0095】
PAES-g-PEG保護層が形成されたリチウム金属の安定性確認
【0096】
実施例1による保護層の抗酸化能力を確認するために、保護層コーティング前後のリチウム金属の表面形態と組成分析を行った(図4-A~図4-I参照)。表面形態は、原子間力顕微鏡(AFM)と電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を活用して分析し、組成分析は、X線光電子分光(XPS)分析を活用して実験した。
【0097】
図4-A、図4-Bを参照すると、リチウム金属と空気中のリチウム金属の表面は粗いが、PAES-g-PEG保護層でコーティングされたリチウム金属の表面は、図4-Cに示したようのように滑らかなことが分かることができる。
【0098】
保護層のないリチウム金属の粗面は、リチウム、酸素、および炭酸塩(CO 2-)との間の反応から生成された手動層(LiCO塩)の形成に起因したものである。
【0099】
具体的に、図4-D、図4-Eを見ると、リチウム金属の表面に手動層が形成されて粗面を表すことを確認することができ、構成元素また、図4-G、図4-Hを介して確認することができる。
【0100】
しかし、実施例1のXPSスペクトルを示した図4-Iを参照すると、手動層のピークが生成されなかったし、これにより、保護層が空気中のリチウム金属の酸化を防ぐのに効果的に貢献することを分かることができる。
【0101】
リチウム金属(比較例)と、保護層がコーティングされたリチウム金属(実施例1)の液体電解質での安定性を確認するために、液体電解質に浸漬後の表面形態と組成分析を実行した(図5-A~図5-F参照)。表面形態は、AFMとFE-SEMを活用して分析し、組成分析は、XPS分析を活用して実験した。
【0102】
図5-A、図5-Bを比較すると、液体電解質に浸漬された後、リチウム金属の表面は、保護層でコーティングされたリチウム金属(実施例1)の表面よりも粗いことが分かることができる。これは、図5-Cからも確認できるように、リチウム金属の表面に鋭い表面層が形成されているからである。
【0103】
前記表面層は、五フッ化リン酸リチウム(LiPF)、フッ化リチウム(LiF)、リチウムエチレンカーボネートで構成され、これはリチウム金属と液体電解質の副反応で生成される。これは、XPSスペクトル(図5-Eを参照)でF 1sピークの強度が増加したことにより、分かることができる。
【0104】
一方、実施例1の場合、XPSスペクトル(図5-F)でピークF 1sの強度が比較例に比べて低いことから、PAES-g-PEG保護層がリチウムデンドライトの成長を効果的に防止することを分かることができる。
【0105】
PAES-g-PEG保護層(実施例1)と1M LiTFSI EC/ACN/DEC液体電解質(実施例2a)との間の化学的安定性を確認するために、10日間の界面抵抗の変化を測定し、その結果を図6-A~図6-Hに示した。
【0106】
図6-A~図6-Hに示したように、保護層がコーティングされていないリチウム金属(比較例)の界面抵抗は、大きな変化を見せたが、保護層がコーティングされたリチウム金属の界面抵抗は、リチウム金属の界面抵抗とは対照的に大きく変わらなかった。これは、保護層がないリチウム金属の表面には、リチウム塩で構成されたデンドライト層が形成されたからである。
【0107】
リチウムイオン電池の性能評価
【0108】
保護層が適用されたリチウムイオン電池の性能を評価するために、ガルバノスタティック充放電(Galvanostatic charge/discharge)実験と循環電圧電流法(cyclic voltammetry)を行い、LiNMCo/PP/Li-Lセルの放電容量とサイクル性能を評価し、これをLiNMCo/PP/Liセルと比較した(図7-A~図7-C参照)。
【0109】
図7-A、図7-Bを参照すると、LiNMCo/PP/Li-Lセルの放電容量は、PAES-g-PEG保護層の抵抗により、LiNMCo/PP/Liセルの放電容量よりもわずかに小さいものとが分かった。また、図7-CでLiNMCo/PP/Liセルは、様々なC-レートでLiNMCo/PP/Li-Lセルよりも高い比容量を有することが分かることができる。
【0110】
しかし、LiNNMCo/PP/Liセルの放電容量は、液体電解質でリチウム金属の表面に不安定な層が形成されて、リチウムデンドライトが生じやすい0.2 Cでのサイクル数が増加するにつれて大幅に減少することを確認することができる。
【0111】
一方、実施例1の保護層があるLiNMCo/PP/Li-Lセルは、比較例に比べて安定であり、放電容量が初期放電容量の96 %である98 mAh/gに維持された。
【0112】
したがって、本発明の実施例に係る保護層がリチウム金属表面上に存在する場合、保護層がリチウムイオン受容体の役割を実行して、カソード電極からリチウム金属負極まで液体電解質を介してリチウムイオンを効率的に転送するだけでなく、リチウムデンドライトの形成を防止し、リチウム二次電池の性能を向上させる効果がある。
【0113】
上記では、本発明の好ましい実施例を参照して説明したが、当該技術分野の熟練した当業者は、下記の特許請求の範囲に記載された本発明の思想及び領域から逸脱しない範囲内で、本発明を多様に修正及び変更させることができることを理解できるだろう。
本開示は下記の態様<1>~<14>も含む。
<1>
ポリ(アリーレンエーテルスルホン)-ポリ(エチレングリコール)グラフト共重合体の合成方法であって、
下記化学式1-1で示される化合物と、下記化学式1-2で示される化合物をエステル化反応させて、下記化学式1で示されるポリ(アリーレンエーテルスルホン)-ポリ(エチレングリコール)グラフト共重合体を合成するステップを含み、
【化10】


前記化学式1-1において、nは、60~80の整数であり、
【化11】


前記化学式1-2において、mは、40~45の整数であり、
【化12】


前記化学式1において、nは、60~80の整数であり、mは、40~45の整数である、前記ポリ(アリーレンエーテルスルホン)-ポリ(エチレングリコール)グラフト共重合体の合成方法。
<2>
前記反応は、4-ジメチルアミノピリジン(4-dimethylaminopyridine:DMAPと略称)およびN,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(N,N’-dicyclohexylcarbodiimide:DCCと略称)の存在下で行うことを特徴とする、
<1>に記載のポリ(アリーレンエーテルスルホン)-ポリ(エチレングリコール)グラフト共重合体の合成方法。
<3>
前記反応は、ジメチルホルムアミド(DMF)溶媒中で、60~100 ℃の温度で行うことを特徴とする、
<1>に記載のポリ(アリーレンエーテルスルホン)-ポリ(エチレングリコール)グラフト共重合体の合成方法。
<4>
リチウム二次電池用リチウム金属負極保護層であって、
下記化学式1で示されるポリ(アリーレンエーテルスルホン)-ポリ(エチレングリコール)グラフト共重合体を含み、
【化13】


前記化学式1において、nは、60~80の整数であり、mは、40~45の整数である、前記リチウム二次電池用リチウム金属負極保護層。
<5>
前記負極保護層は、リチウム金属表面に形成され、
イオン伝導率が0.27×10 -3 S/cm以上であり、液体電解質の吸収率が55 %以上であることを特徴とする
<4>に記載のリチウム二次電池用リチウム金属負極保護層。
<6>
前記負極保護層の引張強度は、2.0 MPa以上であり、破断伸び率は、60 %以上であることを特徴とする
<5>に記載のリチウム二次電池用リチウム金属負極保護層。
<7>
前記負極保護層の熱分解温度(decomposition temperature:Tdと略称)は、200 ℃以上であることを特徴とする
<5>に記載のリチウム二次電池用リチウム金属負極保護層。
<8>
前記液体電解質は、
リチウム塩と、
エチレンカーボネート(EC)、アセトニトリル(ACN)およびジエチルカーボネート(DEC)の中から選択される1種以上の有機溶媒とを含むことを特徴とする
<5>に記載のリチウム二次電池用リチウム金属負極保護層。
<9>
前記液体電解質は、有機溶媒としてエチレンカーボネート(EC)、アセトニトリル(ACN)およびジエチルカーボネート(DEC)を含み、
前記エチレンカーボネート(EC)、アセトニトリル(ACN)およびジエチルカーボネート(DEC)を3:3.5~4.5:2.5~3.5の体積比で含有することを特徴とする
<8>に記載のリチウム二次電池用リチウム金属負極保護層。
<10>
前記リチウム塩は、LITFSI(Lithium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide)を含むことを特徴とする
<8>に記載のリチウム二次電池用リチウム金属負極保護層。
<11>
リチウム二次電池用リチウム金属負極保護層の形成方法であって、
下記化学式1で示されるポリ(アリーレンエーテルスルホン)-ポリ(エチレングリコール)グラフト共重合体を溶媒に溶解させて、第1の溶液を製造するステップと、
アルゴンガス雰囲気の下で、前記第1の溶液をリチウム金属の表面に塗布するステップとを含み
【化14】


前記化学式1において、nは、60~80の整数であり、mは、40~45の整数である、前記リチウム二次電池用リチウム金属負極保護層の形成方法。
<12>
前記溶媒は、テトラヒドロフラン(THF)を含むことを特徴とする
<11>に記載のリチウム二次電池用リチウム金属負極保護層の形成方法。
<13>
リチウム二次電池であって、
正極、負極および液体電解質を含み、
前記負極は、リチウム金属の表面に<4>~<10>のいずれか一つに記載の保護層が形成されたものである、前記リチウム二次電池。
<14>
前記液体電解質は、リチウム塩としてLITFSI(Lithium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide)を含み、
有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、アセトニトリル(ACN)およびジエチルカーボネート(DEC)を3:3.5~4.5:2.5~3.5の体積比で含有することを特徴とする
<13>に記載のリチウム二次電池。
図1
図2-A】
図2-B】
図2-C】
図2-D】
図3-A】
図3-B】
図3-C】
図3-D】
図4-A】
図4-B】
図4-C】
図4-D】
図4-E】
図4-F】
図4-G】
図4-H】
図4-I】
図5-A】
図5-B】
図5-C】
図5-D】
図5-E】
図5-F】
図6-A】
図6-B】
図6-C】
図6-D】
図6-E】
図6-F】
図6-G】
図6-H】
図7-A】
図7-B】
図7-C】