(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】構成刃先形成用部材及び構成刃先形成方法
(51)【国際特許分類】
B23B 27/14 20060101AFI20220224BHJP
B23C 5/16 20060101ALI20220224BHJP
B23B 51/00 20060101ALI20220224BHJP
B23D 65/00 20060101ALI20220224BHJP
B23P 15/28 20060101ALI20220224BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220224BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
B23B27/14 A
B23C5/16
B23B51/00 J
B23D65/00
B23P15/28 A
C08L101/00
C08K3/04
(21)【出願番号】P 2018550150
(86)(22)【出願日】2017-10-31
(86)【国際出願番号】 JP2017039226
(87)【国際公開番号】W WO2018088267
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2016221942
(32)【優先日】2016-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】松山 洋介
(72)【発明者】
【氏名】堀江 茂
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/157570(WO,A1)
【文献】特開2002-301632(JP,A)
【文献】特開平07-112311(JP,A)
【文献】国際公開第2015/152162(WO,A1)
【文献】特開2013-146819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23C 5/16
B23B 51/00
B23D 65/00
B23P 15/28
C08L 101/00
C08K 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が5×10
4以上、1×10
6以下である高分子量化合物(A)と、
重量平均分子量が1×10
3以上、5×10
4未満である中分子量化合物(B)と、
カーボン(C)と、を含有する樹脂ブロック
と、
前記樹脂ブロックの下に、ビッカース硬度300°以上の難削ブロックと、を備える、
構成刃先形成用部材。
【請求項2】
前記構成刃先形成用部材が、切削工具により前記構成刃先形成用部材を切削することにより前記切削工具の刃先に構成刃先を形成する構成刃先形成工程を有する、構成刃先形成方法に用いるものである、
請求項1に記載の構成刃先形成用部材。
【請求項3】
前記難削ブロックが、繊維強化複合材及び/又は難削金属材である、
請求項1
又は2に記載の構成刃先形成用部材。
【請求項4】
前記高分子量化合物(A)が、重量平均分子量5×10
4以上、1×10
6以下の熱可塑性樹脂であり、
前記中分子量化合物(B)が、重量平均分子量1×10
3以上、2×10
4以下の熱可塑性樹脂である、
請求項1~
3のいずれか一項に記載の構成刃先形成用部材。
【請求項5】
前記高分子量化合物(A)の含有量が、前記高分子量化合物(A)、前記中分子量化合物(B)、及び前記カーボン(C)の合計100質量部に対して、10~60質量部であり、
請求項1~
4のいずれか一項に記載の構成刃先形成用部材。
【請求項6】
前記中分子量化合物(B)の含有量が、前記高分子量化合物(A)、前記中分子量化合物(B)、及び前記カーボン(C)の合計100質量部に対して、10~75質量部であり、
請求項1~
5のいずれか一項に記載の構成刃先形成用部材。
【請求項7】
前記カーボン(C)の含有量が、前記高分子量化合物(A)、前記中分子量化合物(B)、及び前記カーボン(C)の合計100質量部に対して、5~70質量部である、
請求項1~
6のいずれか一項に記載の構成刃先形成用部材。
【請求項8】
前記難削ブロックの下に、粘着層をさらに有する、
請求項
1~
7のいずれか一項に記載の構成刃先形成用部材。
【請求項9】
前記粘着層が、アクリル系重合体を含む、
請求項
8に記載の構成刃先形成用部材。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の構成刃先形成用部材を、切削工具により切削することにより前記切削工具の刃先に構成刃先を形成する構成刃先形成工程を有する、
構成刃先形成方法。
【請求項11】
前記構成刃先形成工程において、前記切削工具が、ドリル、ルーター、エンドミル、正面フライス、バイト、ボーリングバー、電着工具、
又は丸鋸である、
請求項
10に記載の構成刃先形成方法。
【請求項12】
前記構成刃先形成工程において、前記切削工具を前記樹脂ブロック中で回転させる回転数が、100rpm以上である、
請求項
10又は11に記載の構成刃先形成方法。
【請求項13】
前記構成刃先形成工程において、前記切削工具を前記樹脂ブロック中に侵入させる速度が、1mm/min以上である、
請求項
10~
12のいずれか一項に記載の構成刃先形成方法。
【請求項14】
前記構成刃先形成工程において、前記切削工具を前記樹脂ブロック中に滞留させる滞留時間が、1秒以上である、
請求項11~
13のいずれか一項に記載の構成刃先形成方法。
【請求項15】
請求項1~
9のいずれか一項に記載の構成刃先形成用部材により得られた構成刃先を有する、
切削工具。
【請求項16】
請求項
10~14のいずれか一項に記載の構成刃先形成方法により得られた構成刃先を有する、
切削工具。
【請求項17】
請求項
15又は16に記載の切削工具を用いて、被加工材料を切削する切削工程を有する、
切削加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構成刃先形成用部材及び構成刃先形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)に代表される繊維強化複合材、中でも、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)は、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics)やアラミド繊維強化プラスチック(AFRP)、ステンレス鋼材(SUS)と比較して、引張り強さ、引張り弾性力が大きく、密度が小さいことから、近年、航空機や車両の外板などとして多用される傾向にある。ここで、CFRPとは、炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させたプリプレグを1枚又は2枚以上積層して、加熱成型又は加熱加圧成型してなるプラスチックを指す。このCFRPで形成された部材は、ボルトやリベットなどの締結要素を用いて構造体に固定される。このため、航空機部品などの構造体にCFRPを固定するときには、切削加工、中でも締結要素を通すための孔をCFRPに多数あける切削加工が必要になる。
【0003】
CFRPの切削加工において高品質な孔を得るために、既にいくつかの技術が提案されている。例えば工具の形状、例えばドリルのすくい面の曲率や先端角を段階的に変更するなどの方法が例示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、航空機の機体構造用材料(構造材)の主体は金属材であり、大部分はアルミニウム合金で占められている。また、機体構造の中でより高温となり得る箇所、例えば、ジェット排気箇所やアフターバーナー周辺には耐熱合金であるチタン合金やステンレス鋼などが使用されている。さらに、将来、航空機の高速化が進むと、空力加熱により従来のアルミニウム合金では強度が低下してしまう。そのため、今後は、機体構造の主体としてより硬いチタン合金やステンレス鋼が構造材として使用されることが見込まれる。これら、航空機の機体を構成する構造材は、金属材同士、あるいは金属材とCFRPなどの他の材質の構造材とをボルトで締結するために、ドリルによって孔あけ加工をする必要がある。
【0005】
これら金属の孔あけ加工においては、既にいくつかの技術が提案されている。例えば、チタン合金材は難削材であるため、ドリル寿命が非常に短い。このような課題に対し、切削油剤を噴霧して加工する方法やドリルの形状を変更することでドリルへの負荷を低減し、ドリルの寿命低下を回避する方法が例示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-210689号公報
【文献】特開2006-150557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
繊維強化複合材に対する切削加工は、通常、ドリルを用いてなされる。一般的なドリルによる孔あけでは、ドリル寿命が極端に短く、加工孔数が増えていくにつれて、ドリルの刃に摩耗が生じ、加工孔の品質が低下する。具体的には加工した孔の内径が小さくなりやすく、ドリルが貫通する出口部に炭素繊維の切れ残り(繊維強化複合材を形成する繊維の一部が切断されずに、切れ残りとして加工孔の周囲に残る現象である。)が発生しやすく、繊維強化複合材を形成するプリプレグの積層間の剥離(以下、「層間剥離」という)も発生しやすくなる。さらに、ドリルの刃の摩耗により、加工孔の内径が不均一となり、加工孔の凹凸を起点に層間剥離が生じることがある。このような現象は重大欠陥と認識されている。このように、ドリルの刃の摩耗に起因して、加工孔に品質上の問題が生じる可能性が高い。これに対し、航空機用のCFRPを用いた構造体の製造などでは、特に、高品質な切削加工が求められており、上記の繊維の切れ残りや層間剥離などの問題を解決することが極めて重要になる。
【0008】
CFRPの切削加工において、切削工具の摩耗が進み、切削抵抗が大きくなるほど、加工孔の品質問題は、発生し易くなる。特に、高強度の航空機用途のCFRPなどでは、炭素繊維が高密度に存在するため、ドリルが炭素繊維を擦過する頻度が増加することになり、切削工具の摩耗がより速く進行する。対策として、孔品質維持のために工具交換を早めることになり、加工コストに占める工具費の割合が高くなっているのが現状である。
【0009】
この点、特許文献1に記載のように、切削加工の難しい繊維強化複合材(例えば、CFRP)の加工性改良は、工具の面から検討されてきてはいるが、その効果は不十分である。
【0010】
さらに、通常、金属に対する切削加工はドリルを用いて行われるが、金属専用のドリルを使っても、ドリル寿命は短く、一般的なドリルを用いた場合は、ドリル寿命は極端に短い。また、加工孔数が増えていくにつれて、ドリルの刃に摩耗が生じ、加工孔の品質が低下する。具体的には加工した孔の内径が小さくなりやすく、ドリルが貫通する出口部にバリも発生しやすくなる。さらに、ドリルの摩耗により、ボルト締結する金属材とCFRPなどの他の材質の構造材との間に隙間が生じ、これらの構造材間に浮きが生じたり、生じた隙間に加工屑が入ることがある。このような現象は重大欠陥と認識されている。このように、ドリルの刃の摩耗に起因して、加工孔に品質上の問題が生じる可能性が高い。このような状況において、航空機用のチタン合金材を用いた構造体の製造などでは、特に、高品質な孔あけ加工が求められており、上記したドリル寿命や金属材と異種構造材との間に生じる浮きなどの問題を解決することが極めて重要になる。
【0011】
また、ドリルを用いて金属の孔あけ加工を行う場合、回転するドリルと金属間で摩擦熱が生じ、局所的に加工孔周辺の温度が上昇する。従って、加工孔数が多い場合、加工孔数が増えていくにつれて、ドリル及び被加工材料である金属に蓄熱されることになる。熱伝導率の低い金属の場合、熱放出が不十分なため、加工孔周辺の温度が上昇する。その際、金属の温度が上がると金属が軟化してしまうため、加工孔のドリルが貫通する出口部にバリが発生するようになる。また、金属の加工屑が、加工熱によってドリルに溶着してしまい、過剰な負荷がドリルにかかって加工装置が停止する場合もある。このように、孔あけ加工時の蓄熱に起因して、加工孔に品質上の問題が生じる可能性が高い。このような状況において、航空機用のチタン合金材を用いた構造体の製造などでは、特に、高品質な孔あけ加工が求められており、上記したバリに関する問題を解決することが極めて重要になる。
【0012】
このような加工箇所及びドリルの蓄熱を防ぐために、従来、切削油などを使用した湿式加工が行われている。しかし、湿式加工の場合、切削加工終了時に洗浄工程が必要となる。さらに、油分が加工孔周辺や内部に残留していた場合、貫通孔で締結する際の締結具であるネジの劣化や締結部で緩みが生じる可能性があり、これらの不具合は致命的な事故に繋がる恐れがある。
【0013】
この点、特許文献2に記載のように、孔あけ加工の難しい金属の加工性改良は、切削工具や切削加工方法の面から検討されているが、その効果は不十分である。
【0014】
また、従来の加工方法では、孔の直径及び用いるドリルビットの径が大きくなるにしたがい、小さい孔の孔形成加工に比べて、ドリルが摩耗しやすく、ドリルが貫通する入口部又は出口部(以下、まとめて「切削部周辺」ともいう。)においてバリ、欠け、又は繊維の切れ残りが発生しやすいという問題が生じる。これは、ドリルビットの径が大きいことで、切削加工で除かれる被加工材料の体積が大きくなり、ドリルビットへの負荷が大きくなるためである。
【0015】
さらに、従来の加工方法では、被加工材料の厚みが厚くなるに従い、厚みが薄い被加工材料の加工に比べて、切削工具が摩耗しやすく、切削工具が貫通する入口部又は出口部(以下、まとめて「切削部周辺」ともいう。)においてバリ、欠け、又は繊維の切れ残りが発生しやすいという問題が生じる。これは、被加工材料が厚いことで、切削加工で除かれる被加工材料の体積が大きくなり、切削工具への負荷が大きくなるためである。
【0016】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、被加工材料(特に、難削材)の切削加工において、切削工具の刃先の摩耗を低減させることができる構成刃先形成用部材、及び当該構成刃先形成用部材を用いた構成刃先形成方法を提供することを目的とする。なお、「難削材」とは、繊維強化複合材、難削金属材、又は繊維強化複合材と難削金属材との複合材をいう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、高分子量化合物(A)と、中分子量化合物(B)と、所定の平均粒子径を有するカーボン(C)と、を含む樹脂ブロックを備える構成刃先形成用部材であれば、上記課題を解決できることを見出して、本発明をするに至った。
【0018】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
〔1〕
重量平均分子量が5×10
4
以上、1×10
6
以下である高分子量化合物(A)と、
重量平均分子量が1×10
3
以上、5×10
4
未満である中分子量化合物(B)と、
カーボン(C)と、を含有する樹脂ブロックと、
前記樹脂ブロックの下に、ビッカース硬度300°以上の難削ブロックと、を備える、
構成刃先形成用部材。
〔2〕
前記構成刃先形成用部材が、切削工具により前記構成刃先形成用部材を切削することにより前記切削工具の刃先に構成刃先を形成する構成刃先形成工程を有する、構成刃先形成方法に用いるものである、
〔1〕に記載の構成刃先形成用部材。
〔3〕
前記難削ブロックが、繊維強化複合材及び/又は難削金属材である、
〔1〕又は〔2〕に記載の構成刃先形成用部材。
〔4〕
前記高分子量化合物(A)が、重量平均分子量5×10
4
以上、1×10
6
以下の熱可塑性樹脂であり、
前記中分子量化合物(B)が、重量平均分子量1×10
3
以上、2×10
4
以下の熱可塑性樹脂である、
〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の構成刃先形成用部材。
〔5〕
前記高分子量化合物(A)の含有量が、前記高分子量化合物(A)、前記中分子量化合物(B)、及び前記カーボン(C)の合計100質量部に対して、10~60質量部であり、
〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の構成刃先形成用部材。
〔6〕
前記中分子量化合物(B)の含有量が、前記高分子量化合物(A)、前記中分子量化合物(B)、及び前記カーボン(C)の合計100質量部に対して、10~75質量部であり、
〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の構成刃先形成用部材。
〔7〕
前記カーボン(C)の含有量が、前記高分子量化合物(A)、前記中分子量化合物(B)、及び前記カーボン(C)の合計100質量部に対して、5~70質量部である、
〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の構成刃先形成用部材。
〔8〕
前記難削ブロックの下に、粘着層をさらに有する、
〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の構成刃先形成用部材。
〔9〕
前記粘着層が、アクリル系重合体を含む、
〔8〕に記載の構成刃先形成用部材。
〔10〕
〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載の構成刃先形成用部材を、切削工具により切削することにより前記切削工具の刃先に構成刃先を形成する構成刃先形成工程を有する、
構成刃先形成方法。
〔11〕
前記構成刃先形成工程において、前記切削工具が、ドリル、ルーター、エンドミル、正面フライス、バイト、ボーリングバー、電着工具、又は丸鋸である、
〔10〕に記載の構成刃先形成方法。
〔12〕
前記構成刃先形成工程において、前記切削工具を前記樹脂ブロック中で回転させる回転数が、100rpm以上である、
〔10〕又は〔11〕に記載の構成刃先形成方法。
〔13〕
前記構成刃先形成工程において、前記切削工具を前記樹脂ブロック中に侵入させる速度が、1mm/min以上である、
〔10〕~〔12〕のいずれか一項に記載の構成刃先形成方法。
〔14〕
前記構成刃先形成工程において、前記切削工具を前記樹脂ブロック中に滞留させる滞留時間が、1秒以上である、
〔11〕~〔13〕のいずれか一項に記載の構成刃先形成方法。
〔15〕
〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載の構成刃先形成用部材により得られた構成刃先を有する、
切削工具。
〔16〕
〔10〕~〔14〕のいずれか一項に記載の構成刃先形成方法により得られた構成刃先を有する、
切削工具。
〔17〕
〔15〕又は〔16〕に記載の切削工具を用いて、被加工材料を切削する切削工程を有する、
切削加工方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、被加工材料(特に、難削材)の切削加工において、切削工具の刃先の摩耗を低減させることができる構成刃先形成用部材、及び当該構成刃先形成用部材を用いた構成刃先形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態の構成刃先形成方法の一態様を表す概略図である。
【
図2】本実施形態の構成刃先形成方法の一態様を表す概略図である。
【
図3】実施例8の切削工具の刃先をV-LASER顕微鏡で倍率500倍にて観察した写真である。
【
図4】実施例8の切削工具の刃先をV-LASER顕微鏡で倍率1500倍にて観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0022】
〔構成刃先形成用部材〕
本実施形態の構成刃先形成用部材は、重量平均分子量が5×104以上、1×106以下である高分子量化合物(A)と、重量平均分子量が1×103以上、5×104未満である中分子量化合物(B)と、カーボン(C)と、を含有する樹脂ブロックを備える。
【0023】
本実施形態の構成刃先形成用部材は、切削工具により構成刃先形成用部材を切削することにより切削工具の刃先に構成刃先を形成する構成刃先形成工程を有する、構成刃先形成方法に用いることができる。
【0024】
図1に、本実施形態の構成刃先形成用部材の使用態様を表す概略図を示す。
図1に示されるように、本実施形態の構成刃先形成用部材は、樹脂ブロックbを備え、必要に応じて、樹脂ブロックbの下に、ビッカース硬度300°以上の難削ブロックcをさらに備える。構成刃先形成用部材に対して、樹脂ブロックb側から切削工具aを用いて切削加工を行うことにより、切削加工中に高温高圧下に曝される切削工具aの刃先に構成刃先が形成される。なお、「構成刃先」とは、切削加工中の高い圧力と温度により切屑の一部が切削工具の刃先に固着したものであって、薄い膜状又は層状で、刃先と似たような形状をとるものをいう。一般的には、刃先に構成刃先が形成されて丸くなると、切削力は低下し、切削面はむしりとられ、細いクラックができ、光沢がなくなるという問題がある。また、構成刃先の成長、脱落で刃先が切り込み方向に動揺し寸法精度を悪くするという問題も生じ得る。しかしながら、本実施形態の構成刃先形成用部材を用いて形成される構成刃先は、被加工材料(特に、難削材)の切削加工において、切削工具の刃先の摩耗を低減させることができ、切削工具の寿命を延ばすことが可能となるという有意な点を有する。その結果、切削工具に係るコストや、切削工具の交換工程などを削減でき、生産性に優れる切削加工も可能となる。ここで、「切削加工」とは、被加工材料を切削する加工であれば、特に限定されず、例えば、孔あけ加工、溝削加工、旋削加工、切断加工等が挙げられる。この中でも、本実施形態の構成刃先形成用部材は、ドリルを用いた孔あけ加工において好適である。
【0025】
以下、本実施形態の構成刃先形成用部材の構成についてより詳細に説明する。
【0026】
〔樹脂ブロック〕
樹脂ブロックは、重量平均分子量が5×104以上、1×106以下である高分子量化合物(A)と、重量平均分子量が1×103以上、5×104未満である中分子量化合物(B)と、カーボン(C)と、を含有する。
【0027】
〔高分子量化合物(A)〕
高分子量化合物(A)は潤滑剤として機能することができ、構成刃先形成用部材の潤滑性を向上させ、刃先を摩耗することなく構成刃先を形成することができる。さらに、高分子量化合物(A)は成形剤として機能することができ、構成刃先形成用部材の成形性を向上させる。
【0028】
高分子量化合物(A)としては、重量平均分子量が5×104以上、1×106以下であれば、特に限定されず、水溶性熱可塑性樹脂、非水溶性熱可塑性樹脂、水溶性熱硬化性樹脂、及び非水溶性熱硬化性樹脂が挙げられる。このなかでも、水溶性熱可塑性樹脂及び/又は非水溶性熱可塑性樹脂が好ましく、水溶性熱可塑性樹脂がより好ましい。水溶性熱可塑性樹脂及び非水溶性熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、以下で説明する水溶性樹脂及び非水溶性樹脂が挙げられる。なお、「水溶性樹脂」とは、25℃、1気圧において、水100gに対し、1g以上溶解する高分子化合物をいう。高分子量化合物(A)は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0029】
水溶性樹脂を用いた場合、水溶性樹脂が有する潤滑性によって、構成刃先がより効果的に形成される傾向にある。また、水溶性樹脂を用いることにより、構成刃先形成用部材の表面硬度が適度な柔らかさとなるため、構成刃先形成中において切削工具への負荷をさらに低減できる傾向にある。水溶性熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体等のポリアルキレンオキサイド化合物;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール化合物;ポリアルキレングリコールのエステル化合物;ポリアルキレングリコールのエーテル化合物;ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリプロピレングリコールモノステアレート、ポリグリセリンモノステアレート等のポリアルキレングリコールのモノステアレート化合物;水溶性ウレタン;ポリエーテル系水溶性樹脂;水溶性ポリエステル;ポリ(メタ)アクリル酸ソーダ;ポリアクリルアミド;ポリビニルピロリドン;ポリビニルアルコール;セルロース及びその誘導体等の糖類;変性ポリアミドが挙げられる。このなかでもポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリエーテル系水溶性樹脂が上記観点から好ましい。
【0030】
非水溶性樹脂を用いた場合、水溶性樹脂を用いた場合と比較して、構成刃先形成用部材の表面硬度が高くなる傾向にある。そのため、例えば、構成刃先形成工程時においての切削工具の刃先の食い付き性が向上し、さらに、構成刃先形成用部材の剛性が向上し、ハンドリング性がより向上する傾向にある。非水溶性熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ウレタン系重合体;アクリル系重合体;酢酸ビニル系重合体;塩化ビニル系重合体;ポリエステル系重合体;ポリエチレンワックス、スチレン単独重合体(GPPS)、スチレン-ブタジエン共重合体(HIPS)、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体(例えばMS樹脂)などで例示されるポリスチレン系樹脂;及びそれらの共重合体などが挙げられる。
【0031】
高分子量化合物(A)の重量平均分子量は、5×104以上であり、好ましくは6×104以上であり、より好ましくは1×105以上であり、さらに好ましくは1.25×105以上である。また、高分子量化合物(A)の重量平均分子量は、1×106以下であり、好ましくは8×105以下であり、より好ましくは7×105以下であり、さらに好ましくは6×105以下である。高分子量化合物(A)の重量平均分子量が5×104以上であることにより、成形性がより向上する傾向にある。また、高分子量化合物(A)の重量平均分子量が1×106以下であることにより、潤滑性がより向上する。なお、高分子量化合物(A)を2種以上用いる場合には、それぞれの化合物が、上記重量平均分子量を満たすことが好ましい。なお、本実施形態において、重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定することができる(以下同様とする)。
【0032】
高分子量化合物(A)は、重量平均分子量が3×105以上、1×106以下である高分子量化合物(A-1)及び/又は重量平均分子量が5×104以上、3×105未満である高分子量化合物(A-2)を含んでもよく、高分子量化合物(A-1)及び高分子量化合物(A-2)を共に含むことが好ましい。高分子量化合物(A-1)及び高分子量化合物(A-2)を併用することにより、成形性ならびに潤滑性がより向上し、刃先を摩耗することなく構成刃先をより効果的に形成することができる傾向にある。
【0033】
高分子量化合物(A-1)の重量平均分子量は、3×105以上であり、好ましくは4×105以上であり、より好ましくは4.5×105以上であり、さらに好ましくは5×105以上である。また、高分子量化合物(A-1)の重量平均分子量は、1×106以下であり、好ましくは8×105以下であり、より好ましくは7×105以下であり、さらに好ましくは6×105以下である。
【0034】
構成刃先形成用部材中の高分子量化合物(A-1)の含有量は、高分子量化合物(A)、中分子量化合物(B)、及びカーボン(C)の合計100質量部に対して、好ましくは5質量部以上であり、より好ましくは10質量部以上であり、さらに好ましくは15質量部以上である。また、樹脂ブロック中の高分子量化合物(A-1)の含有量は、高分子量化合物(A)、中分子量化合物(B)、及びカーボン(C)の合計100質量部に対して、好ましくは35質量部以下であり、より好ましくは30質量部以下であり、さらに好ましくは25質量部以下である。高分子量化合物(A-2)の含有量が5質量部以上であることにより、成形性がより向上する傾向にある。また、高分子量化合物(A-1)の含有量が35質量部以下であることにより、潤滑性がより向上し、刃先を摩耗することなく構成刃先をより効果的に形成することができる傾向にある。
【0035】
高分子量化合物(A-2)の重量平均分子量は、5×104以上であり、好ましくは6×104以上であり、より好ましくは1×105以上であり、さらに好ましくは1.25×105以上である。また、高分子量化合物(A-2)の重量平均分子量は、3×105未満であり、好ましくは2.5×105以下であり、より好ましくは2×105以下である。
【0036】
樹脂ブロック中の高分子量化合物(A-2)の含有量は、高分子量化合物(A)、中分子量化合物(B)、及びカーボン(C)の合計100質量部に対して、好ましくは5質量部以上であり、より好ましくは10質量部以上であり、さらに好ましくは15質量部以上である。また、樹脂ブロック中の高分子量化合物(A-2)の含有量は、高分子量化合物(A)、中分子量化合物(B)、及びカーボン(C)の合計100質量部に対して、好ましくは35質量部以下であり、より好ましくは30質量部以下であり、さらに好ましくは25質量部以下である。高分子量化合物(A-2)の含有量が5質量部以上であることにより、潤滑性がより向上し、刃先を摩耗することなく構成刃先をより効果的に形成することができる傾向にある。また、高分子量化合物(A-2)の含有量が35質量部以下であることにより、成形性がより向上する傾向にある。
【0037】
樹脂ブロック中の高分子量化合物(A)の含有量は、高分子量化合物(A)、中分子量化合物(B)、及びカーボン(C)の合計100質量部に対して、好ましくは10質量部以上であり、より好ましくは20質量部以上であり、さらに好ましくは25質量部以上であり、よりさらに好ましくは30質量部以上である。また、樹脂ブロック中の高分子量化合物(A)の含有量は、高分子量化合物(A)、中分子量化合物(B)、及びカーボン(C)の合計100質量部に対して、好ましくは60質量部以下であり、より好ましくは55質量部以下であり、さらに好ましくは50質量部以下である。高分子量化合物(A)の含有量が10質量部以上であることにより、潤滑性がより向上し、刃先を摩耗することなく構成刃先をより効果的に形成することができる傾向にある。また、高分子量化合物(A)の含有量が10質量部以上であることにより、追従性、靭性が向上し、曲面の切削加工性が向上する傾向にある。また、高分子量化合物(A)の含有量が65質量部以下であることにより、成形性がより向上する傾向にある。
【0038】
〔中分子量化合物(B)〕
中分子量化合物(B)は潤滑剤として機能することができ、構成刃先形成用部材の潤滑性を向上させ、刃先を摩耗することなく構成刃先を形成することができる。
【0039】
中分子量化合物(B)としては、重量平均分子量が1×103以上、5×104未満であれば、特に限定されないが、例えば、水溶性熱可塑性樹脂、非水溶性熱可塑性樹脂、水溶性熱硬化性樹脂、及び非水溶性熱硬化性樹脂が挙げられる。このなかでも、水溶性熱可塑性樹脂又は非水溶性熱可塑性樹脂が好ましく、水溶性熱可塑性樹脂がより好ましい。なお、水溶性熱可塑性樹脂又は非水溶性熱可塑性樹脂としては、上述の水溶性樹脂及び非水溶性樹脂と同じ種類の樹脂で、重量平均分子量が1×103以上、5×104未満の樹脂を使用することができる。中分子量化合物(B)は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0040】
中分子量化合物(B)としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール化合物;ポリエチレンオキサイドオレイルエーテル、ポリエチレンオキサイドセチルエーテル、ポリエチレンオキサイドステアリルエーテル、ポリエチレンオキサイドラウリルエーテル、ポリエチレンオキサイドノニルフェニルエーテル、ポリエチレンオキサイドオクチルフェニルエーテル等のポリアルキレンオキサイドのモノエーテル化合物;ポリエチレンオキサイドモノステアレート、ポリエチレンオキサイドソルビタンモノステアレート、ポリグリセリンモノステアレート等のポリアルキレンオキサイドのモノステアレート化合物;ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体等のポリアルキレンオキサイド化合物が挙げられる。この中でも、ポリエチレンオキサイドモノステアレートが好ましい。このような中分子量化合物(B)を用いることにより、潤滑性がより向上し、刃先を摩耗することなく構成刃先をより効果的に形成することができる傾向にある。
【0041】
中分子量化合物(B)の重量平均分子量は、1×103以上であり、好ましくは1.25×103以上であり、より好ましくは1.5×103以上であり、さらに好ましくは2×103以上であり、よりさらに好ましくは2.5×103以上であり、特に好ましくは3×103以上である。また、中分子量化合物(B)の重量平均分子量は、5×104未満であり、好ましくは2.5×104以下であり、より好ましくは2×104以下であり、さらに好ましくは1×104以下であり、よりさらに好ましくは7.5×103以下であり、特に好ましくは5×103以下である。中分子量化合物(B)の重量平均分子量が1×103以上であることにより、成形性がより向上する。また、中分子量化合物(B)の重量平均分子量が5×104未満であることにより、潤滑性がより向上し、刃先を摩耗することなく構成刃先をより効果的に形成することができる傾向にある。
【0042】
樹脂ブロック中の中分子量化合物(B)の含有量は、高分子量化合物(A)、中分子量化合物(B)、及びカーボン(C)の合計100質量部に対して、好ましくは10質量部以上であり、より好ましくは20質量部以上であり、さらに好ましくは30質量部以上である。また、樹脂ブロック中の中分子量化合物(B)の含有量は、高分子量化合物(A)、中分子量化合物(B)、及びカーボン(C)の合計100質量部に対して、好ましくは75質量部以下であり、より好ましくは60質量部以下であり、さらに好ましくは45質量部以下であり、よりさらに好ましくは40質量部以下である。中分子量化合物(B)の含有量が10質量部以上であることにより、潤滑性がより向上し、刃先を摩耗することなく構成刃先をより効果的に形成することができる傾向にある。また、中分子量化合物(B)の含有量が75質量部以下であることにより、成形性がより向上する傾向にある。
【0043】
分子量の異なる高分子量化合物(A)と中分子量化合物(B)は、各々、溶融粘度及び融点も相違し得る。このような高分子量化合物(A)と中分子量化合物(B)を併用することにより、例えば、高分子量化合物(A)のみを用いることにより、構成刃先形成用部材が著しく高粘度化したり、融点が著しく高くなったりすることに起因して、構成刃先形成用部材の成型性や潤滑性が低下することが抑制でき、また、中分子量化合物(B)のみを用いることにより、構成刃先形成用部材が著しく低粘度化したり、融点が著しく低くなったりすることに起因して、構成刃先形成用部材の成型性や潤滑性が低下することが抑制できる。
【0044】
上記のなかでも、重量平均分子量5×104以上、1×106以下の熱可塑性樹脂である高分子量化合物(A)と、重量平均分子量1×103以上、2×104以下の熱可塑性樹脂である中分子量化合物(B)との組み合わせが好ましい。
【0045】
〔カーボン(C)〕
カーボン(C)は固体潤滑剤として機能することができ、構成刃先形成用部材の潤滑性を向上させ、構成刃先を形成する成分の一つとなる。カーボン(C)としては、特に限定されないが、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、活性炭、アセチレンブラック、カーボンブラック、コロイド黒鉛、熱分解黒鉛、膨張化黒鉛、鱗片状黒鉛が挙げられる。この中でも、鱗片状の形状を有するカーボン(C)が好ましい。カーボン(C)が鱗片状の形状を有することにより、摩耗低減性能がより向上する傾向にある。カーボン(C)は1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
カーボン(C)の平均粒子径は、好ましくは100μm以上であり、より好ましくは125μm以上であり、さらに好ましくは150μm以上であり、よりさらに好ましくは175μm以上であり、さらにより好ましくは200μm以上であり、特に好ましくは225μm以上である。また、カーボン(C)の平均粒子径は、好ましくは1000μm以下であり、より好ましくは750μm以下であり、さらに好ましくは500μm以下であり、特に好ましくは300μm以下である。カーボン(C)の平均粒子径が100μm以上であることにより、潤滑性ならびに成形性がより向上する。また、カーボン(C)の平均粒子径が1000μm以下であることにより、切削工具の摩耗がより低下する傾向にある。なお、カーボン(C)を2種以上含む場合には、それぞれの平均粒子径が上記範囲を満たせばよい。
【0047】
本実施形態においてカーボン(C)の平均粒子径とは、メディアン径を指す。メディアン径とは、粒子径の累積分布曲線(個数基準)から得られる、その曲線で50%の高さとなる粒子直径(D50値)をいうものであり、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0048】
樹脂ブロック中のカーボン(C)の含有量は、高分子量化合物(A)、中分子量化合物(B)、及びカーボン(C)の合計100質量部に対して、好ましくは5質量部以上であり、より好ましくは15質量部以上であり、さらに好ましくは20質量部以上であり、よりさらに好ましくは25質量部以上であり、特に好ましくは30質量部以上である。また、樹脂ブロック中のカーボン(C)の含有量は、高分子量化合物(A)、中分子量化合物(B)、及びカーボン(C)の合計100質量部に対して、好ましくは70質量部以下であり、より好ましくは65質量部以下であり、さらに好ましくは60質量部以下である。カーボン(C)の含有量が5質量部以上であることにより、潤滑性がより向上する傾向にある。また、カーボン(C)の含有量が70質量部以下であることにより、成形性がより向上する傾向にある。
【0049】
〔その他の成分〕
本実施形態の構成刃先形成用部材は、必要に応じて、その他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、潤滑性向上成分、可塑剤、柔軟剤、表面調整剤、レベリング剤、帯電防止剤、乳化剤、消泡剤、ワックス添加剤、カップリング剤、レオロジーコントロール剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、光安定剤、核剤、有機フィラー、無機フィラー、固体潤滑剤、熱安定化剤、着色剤などが挙げられる。
【0050】
潤滑性向上成分としては、特に限定されないが、例えば、エチレンビスステアロアミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、メチレンビスステアルアミドなどで例示されるアマイド系化合物;ラウリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸などで例示される脂肪酸系化合物;ステアリン酸ブチル、オレイン酸ブチル、ラウリン酸グリコールなどで例示される脂肪酸エステル系化合物;流動パラフィン、などで例示される脂肪族炭化水素系化合物;オレイルアルコールなどで例示される高級脂肪族アルコールが挙げられ、これらのうち少なくとも1種を選択することができる。
【0051】
カーボン(C)以外の固体潤滑剤としては、特に限定されないが、例えば、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、モリブデン化合物、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミドなどが挙げられる。
【0052】
樹脂ブロックの厚みは、好ましくは0.05cm以上であり、より好ましくは0.1cm以上であり、さらに好ましくは0.2cm以上である。また、樹脂ブロックの厚みの上限は、特に限定されないが、例えば、5cm以下が好ましい。
【0053】
〔難削ブロック〕
難削ブロックとしては、ビッカース硬度300°以上のブロック体であれば特に限定されないが、例えば、繊維強化複合材及び/又は難削金属材が挙げられる。難削ブロックは、樹脂ブロックの下に位置し、樹脂ブロックを貫通してきた切削工具の刃先の受け入れ先として機能する。難削ブロックに侵入した切削工具の刃先は、より高温高圧下に曝されることとなり、樹脂ブロックから供給される成分により刃先を摩耗することなく構成刃先を形成することができる。なお、「ビッカース硬度」は、ビッカース硬度計により測定することができる。
【0054】
繊維強化複合材としては、マトリックス樹脂と強化繊維により構成される複合材であれば特に限定されない。マトリックス樹脂としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂;ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、PA(ポリアミド)樹脂、PP(ポリプロピレン)樹脂、PC(ポリカーボネート)樹脂、メチルメタアクリレート樹脂、ポリエチレン、アクリル、ポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられる。強化繊維としては、特に限定されないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維が挙げられる。また、強化繊維の形態としては、特に限定されないが、例えば、フィラメント、トウ、クロス、ブレード、チョップ、ミルドファイバー、フェルトマット、ペーパー、プリプレグ等が挙げられる。このような繊維強化複合材の具体例としては、特に限定されないが、例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、アラミド繊維強化プラスチック(AFRP)等の繊維強化プラスチック(FRP)が挙げられる。このなかでも、比較的に、引張り強さ、引張り弾性力が大きく、密度が小さい炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が好ましい。繊維強化複合材は、その他必要に応じて、無機フィラーや有機フィラー等を含んでいてもよい。なお、繊維強化プラスチック(FRP)は、強化繊維と、熱硬化性樹脂及び/又は熱可塑性樹脂と、を含む概念であり、このなかでも、強化繊維と、熱可塑性樹脂と、を含む繊維強化複合材は、FRTP(Fiber Reinforced Thermo Plastics)ともいう。例えば、炭素繊維と、熱可塑性樹脂と、を含む繊維強化複合材は、CFRTP(Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics)という。
【0055】
また、難削金属材としては、一般的に構造材として用いられている金属であれば特に限定されないが、例えば、チタン合金、アルミニウム合金、マグネシウム合金、低合金鋼、ステンレス鋼、耐熱合金が挙げられる。このなかでも、チタン合金が好ましく、さらに、チタン合金の中でも、チタン、アルミニウム及びバナジウムからなるより強度の高いTi-6Al―4Vが特に好ましい。難削金属材は、1種単独で用いても、2種以上を積層体として用いてもよい。
【0056】
難削ブロックの厚みは、好ましくは0.3cm以上であり、より好ましくは0.5cm以上であり、さらに好ましくは1cm以上である。また、難削ブロックの厚みの上限は、特に限定されないが、例えば、3cm以下が好ましい。
【0057】
〔粘着層〕
本実施形態の構成刃先形成用部材は、構成刃先形成用部材が構成刃先形成工程中に動かないように固定するために、難削ブロックの下に、粘着層を有していてもよい。
【0058】
粘着層の構成成分は、特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、例えば、ウレタン系重合体、アクリル系重合体、酢酸ビニル系重合体、塩化ビニル系重合体、ポリエステル系重合体及びそれらの共重合体が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド、シアネート樹脂などの樹脂が挙げられる。このなかでも、常温にて容易に粘着できることから、アクリル系重合体が好ましく、溶剤型アクリル粘着剤及びアクリルエマルジョン型粘着剤(水系)がより好ましい。
【0059】
粘着層は、その他必要に応じて、粘着層の成分に酸化防止剤等の劣化防止剤、炭酸カルシウム、タルク、シリカ等の無機フィラーを含んでもよい。
【0060】
粘着層の厚みは特に限定されるものではなく、好ましくは0.01mm以上であり、より好ましくは0.05mm以上である。また、粘着層の厚みは、好ましくは5mm以下であり、より好ましくは2.5mm以下である。
【0061】
〔構成刃先形成用部材の製造方法〕
本実施形態の構成刃先形成用部材の製造方法としては、特に制限されるものではなく、高分子材料などの樹脂と充填材(例えば、無機充填材)とを含む樹脂組成物を、ブロック状態に成形する従来公知の方法を広く利用することができる。例えば、高分子量化合物(A)、中分子量化合物(B)、及びカーボン(C)を、溶媒の存在下又は溶媒の非存在下で混合し、支持体に塗布、冷却、固化させてブロックを形成し、その後、支持体を除去、剥離して構成刃先形成用部材を得る方法;高分子量化合物(A)、中分子量化合物(B)、及びカーボン(C)を、溶媒の存在下又は溶媒の非存在下で混合し、ブロックの形状に押出成形して、必要に応じて切断することにより構成刃先形成用部材を得る方法などが挙げられる。
【0062】
構成刃先形成用部材が前述した難削ブロックとの積層体である場合、当該積層体を製造する方法としては、特に限定されず、樹脂ブロックと難削ブロックとを圧着させる方法が挙げられる。また、粘着層を構成刃先形成用部材の難削ブロックの面に形成する方法としては、工業的に使用される公知の方法であれば、特に限定されない。具体的には、ロール法やカーテンコート法、スプレー噴出法などで粘着層を形成する方法や、ロールやT-ダイ押出機等を使用し、予め所望の厚みの粘着層を形成する方法などが例示される。該粘着層の厚みは、特に限定されるものではなく、被加工材料の曲率や構成刃先形成用部材の構成により最適な厚みを、適宜、選択できる。
【0063】
〔構成刃先形成方法〕
本実施形態の構成刃先形成方法は、構成刃先形成用部材を、切削工具により切削することにより前記切削工具の刃先に構成刃先を形成する構成刃先形成工程を有する。構成刃先形成用部材が難削ブロックを有する場合には、樹脂ブロック側から切削工具の刃先を侵入させることが好ましい。
【0064】
前記構成刃先形成工程において、構成刃先形成用部材に侵入する工具の回転数、切削速度、工具の材質、工具表面のコーティング種、工具形状については特に限定されない。以下、構成刃先形成条件の一例を記載する。
【0065】
前記構成刃先形成工程において、切削工具が構成刃先形成用部材に侵入する切削工具の回転数は特に限定されるものではなく、好ましくは100rpm以上10,000rpm以下であり、より好ましくは200rpm以上8,000rpm以下である。また、切削工具の回転数は、好ましくは200rpm以上5,000rpm以下である。切削工具の回転数が100rpm以上であることにより、切削工具の刃先が、構成刃先を形成しやすい温度及び圧力環境下に曝されるため、構成刃先の形成が促進される傾向にある。
【0066】
前記構成刃先形成工程において、切削工具が構成刃先形成用部材に侵入する切削速度は特に限定されるものではなく、好ましくは1mm/min以上100mm/min以下であり、より好ましくは1mm/min以上50mm/min以下である。また、切削工具の回転数は、好ましくは1mm/min以上10mm/min以下である。
【0067】
前記構成刃先形成工程において、切削工具の材質は特に限定されるものではない。具体的には、鋼材、アルミ、ステンレス、タングステンからなるハイスピードステンレスや炭化タングステンとコバルトからなる超硬合金が挙げられる。
【0068】
前記構成刃先形成工程において、切削工具の表面に処理されるコーティングの有無、種類は特に限定されるものではない。具体的なコーティングの種類は、ダイヤモンドコーティング、ダイヤモンドライクコーティング、炭化チタン、窒化チタン、酸化アルミニウムが挙げられる。
【0069】
前記構成刃先形成工程において、切削工具の種類および形状は特に限定されるものではない。具体的にはドリル、ルーター、エンドミル、正面フライス、バイト、ボーリングバー、電着工具、丸鋸が挙げられる。
【0070】
また、「切削加工」とは、被加工材料を切削する加工であれば、特に限定されず、例えば、孔あけ加工、溝削加工、旋削加工、切断加工等が挙げられる。中でもドリルを用いた孔あけ加工(以下、「ドリル孔あけ加工」ともいう)において好適である。
【0071】
また、構成刃先形成工程における、滞留時間は、1秒以上が好ましく、15秒以上が好ましく、30秒以上がより好ましい。滞留時間の上限は、特に限定されないが、10分以下が好ましい。滞留時間が1秒以上であることにより、切削工具の刃先が、構成刃先を形成しやすい温度及び圧力環境下に曝される時間が長くなるため、構成刃先の形成が促進される傾向にある。ここで、「滞留時間」は、切削工具を樹脂ブロック中に滞留させる時間をいう。難削ブロックがある場合には、滞留時間は、切削工具を樹脂ブロック及び難削ブロック中に滞留させる時間となる。
【0072】
〔切削工具〕
本実施形態の切削工具は、上記構成刃先形成用部材により得られた構成刃先を有する。このような切削工具は、上記構成刃先形成方法により構成刃先を形成することで得ることができ、上記構成刃先形成方法により得られた構成刃先を有する者とすることができる。
【0073】
〔切削加工方法〕
本実施形態の切削加工方法は、上記切削工具を用いて、被加工材料を切削する切削工程を有する。切削工程においては、一般的な切削加工における技術を用いることができる。例えば、切削加工を行う際、ガスや液体を用いて切削加工している箇所及び/又は切削工具を冷却しながら切削加工すること等が挙げられる。ガスを用いて切削加工している箇所及び/又は切削工具を冷却する方法としては、例えば、圧縮したガスを切削加工している箇所及び/又は切削工具に供給する方法、切削加工している箇所/又は切削工具付近のガスを吸引することによって、周囲からガスを切削加工箇所及び/又は切削工具に供給する方法が挙げられる。
【0074】
その他、孔形成以外の加工も上記と同様に行うことができる。切削加工する工具及び方法については、特に限定されるものではない。具体的には、ドリルの他、ルータ、フライス、エンドミル、サイドカッターなどで貫通孔、非貫通孔を形成する孔あけ加工や、ルータ、パイプカッター、エンドミル、メタルソーなどで、被加工材料を切断する加工などが挙げられる。また、切削工具の刃先に、硬度を高めて摩耗を抑制するために、チタンやダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボンなどのコーティング膜を形成していてもよい。
【0075】
対象とする被加工材料としては、特に限定されないが、例えば、繊維強化複合材、難削金属材、又は繊維強化複合材と難削金属材との複合材料が挙げられる。
【0076】
繊維強化複合材としては、マトリックス樹脂と強化繊維により構成される複合材であれば特に限定されない。マトリックス樹脂としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂;ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、PA(ポリアミド)樹脂、PP(ポリプロピレン)樹脂、PC(ポリカーボネート)樹脂、メチルメタアクリレート樹脂、ポリエチレン、アクリル、ポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられる。強化繊維としては、特に限定されないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維が挙げられる。また、強化繊維の形態としては、特に限定されないが、例えば、フィラメント、トウ、クロス、ブレード、チョップ、ミルドファイバー、フェルトマット、ペーパー、プリプレグ等が挙げられる。このような繊維強化複合材の具体例としては、特に限定されないが、例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、アラミド繊維強化プラスチック(AFRP)等の繊維強化プラスチック(FRP)が挙げられる。このなかでも、比較的に、引張り強さ、引張り弾性力が大きく、密度が小さい炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が好ましい。繊維強化複合材は、その他必要に応じて、無機フィラーや有機フィラー等を含んでいてもよい。なお、繊維強化プラスチック(FRP)は、強化繊維と、熱硬化性樹脂及び/又は熱可塑性樹脂と、を含む概念であり、このなかでも、強化繊維と、熱可塑性樹脂と、を含む繊維強化複合材は、FRTP(Fiber Reinforced Thermo Plastics)ともいう。例えば、炭素繊維と、熱可塑性樹脂と、を含む繊維強化複合材は、CFRTP(Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics)という。
【0077】
また、難削金属材としては、一般的に構造材として用いられている金属であれば特に限定されないが、例えば、チタン合金、アルミニウム合金、マグネシウム合金、低合金鋼、ステンレス鋼、耐熱合金が挙げられる。このなかでも、チタン合金が好ましく、さらに、チタン合金の中でも、チタン、アルミニウム及びバナジウムからなるより強度の高いTi-6Al―4Vが特に好ましい。チタン合金は、アルミニウム合金に比べて引っ張り強さは2倍も強く、耐食、耐熱性も優れた材料であるが、硬度が高い難削材のため、従来技術では、切削加工条件や切削工具の形状を特殊なものとする必要がある。しかし、本実施形態の切削工具を用いることで、切削加工条件や切削工具の形状を特殊なものとしなくてもよく、切削工具の寿命もより長くできる。用途面からは、航空機の機体構造用材料等に用いられる金属材料が好ましい。強度の高い金属ほど、本実施形態の切削工具を用いたことによる切削工具の寿命延長効果が顕著となる。難削金属材は、1種単独で用いても、2種以上を積層体として用いてもよい。
【0078】
さらに、繊維強化複合材と難削金属材との複合材料としては、特に限定されないが、例えば、上記繊維強化複合材と難削金属材が積層などにより複合化された材料が挙げられる。繊維強化複合材と難削金属材の最適な切削条件は、通常大きく異なり、繊維強化複合材においては、高速回転で低速送り量が適しており、難削金属材においては、低速回転で高速送り量が適している。これは、難削金属材では、例えば、ドリル孔あけ加工を行う場合、ドリルの温度上昇を抑え、ドリルの刃の摩耗を抑制するためである。特に、熱に弱いダイヤモンドコートドリルにおいて、このような孔あけ条件が必要になる。このように、相反する孔あけ条件に対して、実際の加工現場では、CFRPとチタン合金との境で孔あけ条件を変えたり、中庸をとった同一条件で孔あけ加工している。あるいは、例えば、ドリル孔あけ加工を行う場合、ドリルの温度上昇を防ぐため、航空機用途のチタン合金の孔あけ加工時に、切削油を注入したり、冷風を吹きつけながら、同時に集塵機で集塵する取り組みも行われている。しかしながら、本実施形態の切削工具を用いることで、摩擦熱で発熱しやすい難削金属材の孔あけ条件の制約を大きく緩和できる副次効果がある。
【実施例】
【0079】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明を具体的に説明する。なお、下記の実施例は本発明の実施形態の一例を示したに過ぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0080】
表1に、構成刃先形成用部材の製造に用いた各成分、粘着層、基材、切削加工に用いたルータービット、切削加工機器の仕様を示す。
【0081】
【0082】
なお、カーボン(C)の平均粒子径(メディアン径)は、カーボンをヘキサメタりん酸溶液とトリトン数滴からなる溶液に分散させ、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、投影したカーボンの粒子それぞれの最大長さを測定する。そして、粒子径の累積分布曲線(個数基準)を算出する。その累積分布曲線(個数基準)において50%の高さとなる粒子直径を平均粒子径とした。
【0083】
また、高分子量化合物(A)及び中分子量化合物(B)の重量平均分子量は、高分子量化合物(A)及び中分子量化合物(B)を0.05%の食塩水に溶解、分散させ、GPC(Gel Permeation Chromatography)カラムを備えた液体クロマトグラフィーを用いて、ポリエチレングリコールを標準物質として測定し、相対平均分子量として算出した。
【0084】
〔構成刃先形成用部材の作製方法〕
表2に示すような、樹脂ブロックの樹脂組成、難削ブロックとして用いた基材種類、及び構成にて、構成刃先形成用部材として積層体a~eを作製した。以下、各積層体の作製方法を示す。
【0085】
・積層体a
高分子量化合物(A)として、ポチエチレンオキサイド(アルコックスE-45、明成化学工業株式会社製)10質量部、ポリエチレンオキサイド(アルコックスR-150、明成化学工業株式会社製)20質量部、中分子量化合物(B)として、ポリエチレンオキサイドモノステアレート(ノニオンS-40、日油株式会社製)30質量部、及びカーボン(C)として、黒鉛(XD100、伊藤黒鉛工業株式会社)40質量部を、1軸押出機を使用して、温度140℃で押出機にて成形することにより、厚み1.0mmのシートを作製した。得られたシートを、10枚重ねて、80℃で30秒間プレスし、厚み10mmのブロックを得た。また、厚み0.12mmの両面テープ(No.5612、日東電工株式会社製)の強粘着面をこのブロックの片面に貼り付けた。さらに、厚み20mmのGFRP(G-10、利昌株式会社製)の片面に、前記ブロックの粘着面を介して、樹脂組成物からなるブロックと基材となるGFRPを積層させた積層体aを得た。
【0086】
・積層体b
高分子量化合物(A)として、ポチエチレンオキサイド(アルコックスE-45、明成化学工業株式会社製)10質量部、ポリエチレンオキサイド(アルコックスR-150、明成化学工業株式会社製)20質量部、中分子量化合物(B)として、ポリエチレンオキサイドモノステアレート(ノニオンS-40、日油株式会社製)30質量部、及びカーボン(C)として、黒鉛(XD100、伊藤黒鉛工業株式会社)40質量部を、1軸押出機を使用して、温度140℃で押出機にて成形することにより、厚み1.0mmのシートを作製した。また、厚み0.12mmの両面テープ(No.5612、日東電工株式会社製)の強粘着面をこのシートの片面に貼り付けた。さらに、厚み20mmのCFRP(茨木工業株式会社製)の片面に、前記シートの粘着面を介して、樹脂組成物からなるブロックと基材となるCFRPを積層させた積層体bを得た。
【0087】
・積層体c
高分子量化合物(A)として、ポチエチレンオキサイド(アルコックスE-45、明成化学工業株式会社製)10質量部、ポリエチレンオキサイド(アルコックスR-150、明成化学工業株式会社製)20質量部、中分子量化合物(B)として、ポリエチレンオキサイドモノステアレート(ノニオンS-40、日油株式会社製)30質量部、及びカーボン(C)として、黒鉛(XD100、伊藤黒鉛工業株式会社)40質量部を、1軸押出機を使用して、温度140℃で押出機にて成形することにより、厚み2.0mmのシートを作製した。また、厚み0.12mmの両面テープ(No.5612、日東電工株式会社製)の強粘着面をこのシートの片面に貼り付けた。さらに、厚み20mmのCFRP(茨木工業株式会社製)の片面に、前記シートの粘着面を介して、樹脂組成物からなるブロックと基材となるCFRPを積層させた積層体cを得た。
【0088】
・積層体d
高分子量化合物(A)として、ポチエチレンオキサイド(アルコックスE-45、明成化学工業株式会社製)10質量部、ポリエチレンオキサイド(アルコックスR-150、明成化学工業株式会社製)20質量部、中分子量化合物(B)として、ポリエチレンオキサイドモノステアレート(ノニオンS-40、日油株式会社製)30質量部、及びカーボン(C)として、黒鉛(XD100、伊藤黒鉛工業株式会社)40質量部を、1軸押出機を使用して、温度140℃で押出機にて成形することにより、厚み1.0mmのシートを作製した。得られたシートを、10枚重ねて、80℃で30秒間プレスし、厚み10mmのブロックを得た。また、厚み0.12mmの両面テープ(No.5612、日東電工株式会社製)の強粘着面をこのブロックの片面に貼り付けた。さらに、厚み20mmのCFRP(茨木工業株式会社製)の片面に、前記シートの粘着面を介して、樹脂組成物からなるブロックと基材となるCFRPを積層させた積層体dを得た。
【0089】
・積層体e
高分子量化合物(A)として、ポチエチレンオキサイド(アルコックスE-45、明成化学工業株式会社製)10質量部、ポリエチレンオキサイド(アルコックスR-150、明成化学工業株式会社製)20質量部、中分子量化合物(B)として、ポリエチレンオキサイドモノステアレート(ノニオンS-40、日油株式会社製)30質量部、及びカーボン(C)として、黒鉛(XD100、伊藤黒鉛工業株式会社)40質量部を、1軸押出機を使用して、温度140℃で押出機にて成形することにより、厚み1.0mmのシートを作製した。得られたシートを、10枚重ねて、80℃で30秒間プレスし、厚み10mmのブロックを得た。また、厚み0.12mmの両面テープ(No.5612、日東電工株式会社製)の強粘着面をこのブロックの片面に貼り付けた。さらに、厚み20mmのアルミ板(航空機用材アルミ板)の片面に、前記シートの粘着面を介して、樹脂組成物からなるブロックと基材となるアルミ板を積層させた積層体eを得た。
【0090】
【0091】
〔実施例1-10〕
実施例1から10では、作製した積層体aからeを用いて、表3に示す条件で工具の刃先に構成刃先を形成した。実施例1から4については、
図1に示すように、工具の先端から積層体に進入する加工方法であり、実施例5から10については、
図2に示すように、工具の側面から積層体に進入する加工方法である。いずれも積層体の樹脂ブロックと工具が最初に接触するように加工した。加工後の工具の刃先を観察し、構成刃先の形成とチッピング(欠け)について評価した結果を表3に示す。
【0092】
〔比較例1-3〕
比較例1から3では、積層体の代わりに樹脂ブロックを含まない基材のみを用いた以外は実施例1と同様にして加工を行った。加工後の工具の刃先を観察し、構成刃先の形成とチッピング(欠け)について評価した結果を表3に示す。
【0093】
〔評価:構成刃先の形成〕
実施例及び比較例において、工具の刃先を顕微鏡(V-LASER顕微鏡 VK―9700)にて観察し、構成刃先の形成状態を評価した。なお、
図3に、実施例8の切削工具の刃先をV-LASER顕微鏡で倍率500倍にて観察した写真を示す。
【0094】
〔評価:チッピング(欠け)〕
実施例及び比較例において、工具の刃先を顕微鏡(V-LASER顕微鏡 VK―9700)にて観察し、チッピング(欠け)の発生状態を評価した。なお、
図4に、実施例8の切削工具の刃先をV-LASER顕微鏡で倍率1500倍にて観察した写真を示す。
【0095】
【0096】
〔実施例11〕
次に、実施例8で作製した構成刃先を形成した工具を用いて、貫通溝形成加工を行った。被加工材料を、治具を用いてマシニングセンタに固定した。工具による切削加工は、被加工材料として厚み4mmのCFRPを用い、工具1本あたりの加工距離が5000mmの条件で行い、幅8mm、長さ5000mmの貫通溝を形成した。工具の出口側における貫通溝周辺の炭素繊維(以下、「CF」ともいう。)の切れ残りとCFRPの内層デラミの発生について評価した結果を表4に示した。
【0097】
〔比較例4、5〕
実施例1と同様にして、比較例2に用いた工具および新品工具を用いて、貫通溝形成加工を行った。被加工材料を、治具を用いてマシニングセンタに固定した。工具による切削加工は、被加工材料として厚み4mmのCFRPを用い、工具1本あたりの加工距離が5000mmの条件で行い、幅8mm、長さ5000mmの貫通溝を形成した。工具の出口側における貫通溝周辺の炭素繊維(以下、「CF」ともいう。)の切れ残りとCFRPの内層デラミの発生について評価した結果を表4に示した。
【0098】
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の構成刃先形成用部材は、被加工材料、特に難削材の切削加工において、その加工品質及び加工コストを低下させるシートとして、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0100】
a:切削工具
b:樹脂ブロック
c:難削ブロック