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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】電波伝搬距離推定システム
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/84 20060101AFI20220224BHJP
   E05B 49/00 20060101ALI20220224BHJP
   B60R 25/24 20130101ALN20220224BHJP
【FI】
G01S13/84
E05B49/00 K
B60R25/24
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020216168
(22)【出願日】2020-12-25
(62)【分割の表示】P 2017016871の分割
【原出願日】2017-02-01
(65)【公開番号】P2021060416
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2021-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100140958
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100137888
【弁理士】
【氏名又は名称】大山 夏子
(72)【発明者】
【氏名】古賀 健一
(72)【発明者】
【氏名】今井 友美
(72)【発明者】
【氏名】岩下 明暁
(72)【発明者】
【氏名】菊間 信良
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-229965(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0143584(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0195723(US,A1)
【文献】特開2007-292744(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0052857(US,A1)
【文献】特開2006-284557(JP,A)
【文献】特開2009-145300(JP,A)
【文献】国際公開第2015/151836(WO,A1)
【文献】特開2010-071958(JP,A)
【文献】国際公開第2006/095463(WO,A1)
【文献】特開2014-159685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S13/00-13/95
H04B 1/59
E05B49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナを搭載する第1機器およびアンテナを搭載する第2機器を有し、前記第1機器と前記第2機器との間で往復する電波の伝搬距離を推定する電波伝搬距離推定システムにおいて、
複数の周波数成分を有する信号の合成波である第1の距離推定信号を前記第1機器の複数のアンテナが送信し、
前記第2機器のアンテナが、前記第1の距離推定信号の受信に基づき、前記複数の周波数成分を有する信号の合成波である第2の距離推定信号を送信し、
前記第1機器は、前記第1機器の各アンテナで受信された前記第2の距離推定信号ごとに、前記第1の距離推定信号に対する前記第2の距離推定信号の位相回転量を各周波数成分について算出し、
異なる周波数成分の複数の組み合わせごとに前記位相回転量の差分に基づいて前記伝搬距離を推定し、
前記第1機器は、前記複数のアンテナを対象に、アンテナ毎に前記伝搬距離を推定し、推定された全ての前記伝搬距離を距離の大きさ順に並べ替え、その並べ替えによって中央に位置する前記伝搬距離を選択することにより距値を取得する、ことを特徴とする電波伝搬距離推定システム。
【請求項2】
複数のアンテナを搭載する第1機器およびアンテナを搭載する第2機器を有し、前記第1機器と前記第2機器との間で往復する電波の伝搬距離を推定する電波伝搬距離推定システムにおいて、
複数の周波数成分を有する信号の合成波である第1の距離推定信号を前記第1機器の複数のアンテナが送信し、
前記第2機器のアンテナが、前記第1の距離推定信号の受信に基づき、前記複数の周波数成分を有する信号の合成波である第2の距離推定信号を送信し、
前記第1機器は、前記第1機器の各アンテナで受信された前記第2の距離推定信号ごとに、前記第1の距離推定信号に対する前記第2の距離推定信号の位相回転量を各周波数成分について算出し、
異なる周波数成分の複数の組み合わせごとに前記位相回転量の差分に基づいて前記伝搬距離を推定し、
前記第1機器は、前記複数のアンテナを対象に、アンテナ毎に前記伝搬距離を推定するとともに、推定された前記伝搬距離をアンテナ単位で距離の大きさ順に並べ替え、その並べ替えによって中央に位置するアンテナ毎の前記伝搬距離を合成処理して得た前記伝搬距離を測距値として取得する、ことを特徴とする電波伝搬距離推定システム。
【請求項3】
複数のアンテナを搭載する第1機器およびアンテナを搭載する第2機器を有し、前記第1機器と前記第2機器との間で往復する電波の伝搬距離を推定する電波伝搬距離推定システムにおいて、
複数の周波数成分を有する信号の合成波である第1の距離推定信号を前記第1機器の複数のアンテナが送信し、
前記第2機器のアンテナが、前記第1の距離推定信号の受信に基づき、前記複数の周波数成分を有する信号の合成波である第2の距離推定信号を送信し、
前記第1機器は、前記第1機器の各アンテナで受信された前記第2の距離推定信号ごとに、前記第1の距離推定信号に対する前記第2の距離推定信号の位相回転量を各周波数成分について算出し、
異なる周波数成分の複数の組み合わせごとに前記位相回転量の差分に基づいて前記伝搬距離を推定し、
前記第1機器は、前記複数のアンテナを対象に、アンテナ毎に前記伝搬距離を推定するとともに、推定された前記伝搬距離をアンテナ単位で合成処理し、その合成処理で得たアンテナ毎の前記伝搬距離を距離の大きさ順に並べ替え、その並べ替えによって中央に位置する前記伝搬距離を測距値として取得する、ことを特徴とする電波伝搬距離推定システム。
【請求項4】
前記第1機器は、前記異なる周波数を規定する2つの周波数のうち、一方の周波数における前記第2の距離測定信号の振幅を第1の振幅とし、他方の周波数における前記第2の距離測定信号の振幅を第2の振幅とし、該異なる周波数間の位相回転量の差を算出することにより推定した前記伝搬距離を対象に、前記第1の振幅と前記第2の振幅とを掛け合わせた値に応じて該値が大きい程、より大きな係数による重み付けを行いつつ、他の異なる周波数間の位相回転量の差を算出することにより推定した前記伝搬距離との合成処理に用いる
請求項2又は3に記載の電波伝搬距離推定システム。
【請求項5】
前記第1機器は、前記複数のアンテナで受信した前記複数の周波数成分を含む前記第2の距離推定信号のうち、振幅が閾値以上の周波数のみを使用して、前記異なる周波数間の位相回転量の差を算出することにより前記伝搬距離を推定する
請求項1~4のいずれか一項に記載の電波伝搬距離推定システム。
【請求項6】
複数のアンテナを搭載する第1機器およびアンテナを搭載する第2機器を有し、前記第1機器と前記第2機器との間で往復する電波の伝搬距離を推定する電波伝搬距離推定システムにおいて、
複数の周波数の各々における周波数成分である第1の測距信号成分を前記第1機器の複数のアンテナが送信し、
前記第2機器のアンテナが、前記第1の測距信号成分の受信に基づき、前記複数の周波数の各々における周波数成分である第2の測距信号成分を送信し、
前記第1機器は、前記第1機器の各アンテナで受信された前記第2の測距信号成分ごとに、前記第1の測距信号成分に対する前記第2の測距信号成分の位相回転量を各周波数成分について算出し、
異なる周波数成分の複数の組み合わせごとに前記位相回転量の差分に基づいて前記伝搬距離を推定し、
前記第1機器は、前記複数のアンテナを対象に、アンテナ毎に前記伝搬距離を推定し、推定された全ての前記伝搬距離を距離の大きさ順に並べ替え、その並べ替えによって中央に位置する前記伝搬距離を選択することにより距値を取得する、ことを特徴とする電波伝搬距離推定システム。
【請求項7】
複数のアンテナを搭載する第1機器およびアンテナを搭載する第2機器を有し、前記第1機器と前記第2機器との間で往復する電波の伝搬距離を推定する電波伝搬距離推定システムにおいて、
複数の周波数の各々における周波数成分である第1の測距信号成分を前記第1機器の複数のアンテナが送信し、
前記第2機器のアンテナが、前記第1の測距信号成分の受信に基づき、前記複数の周波数の各々における周波数成分である第2の測距信号成分を送信し、
前記第1機器は、前記第1機器の各アンテナで受信された前記第2の測距信号成分ごとに、前記第1の測距信号成分に対する前記第2の測距信号成分の位相回転量を各周波数成分について算出し、
異なる周波数成分の複数の組み合わせごとに前記位相回転量の差分に基づいて前記伝搬距離を推定し、
前記第1機器は、前記複数のアンテナを対象に、アンテナ毎に前記伝搬距離を推定するとともに、推定された前記伝搬距離をアンテナ単位で距離の大きさ順に並べ替え、その並べ替えによって中央に位置するアンテナ毎の前記伝搬距離を合成処理して得た前記伝搬距離を測距値として取得する、ことを特徴とする電波伝搬距離推定システム。
【請求項8】
複数のアンテナを搭載する第1機器およびアンテナを搭載する第2機器を有し、前記第1機器と前記第2機器との間で往復する電波の伝搬距離を推定する電波伝搬距離推定システムにおいて、
複数の周波数の各々における周波数成分である第1の測距信号成分を前記第1機器の複数のアンテナが送信し、
前記第2機器のアンテナが、前記第1の測距信号成分の受信に基づき、前記複数の周波数の各々における周波数成分である第2の測距信号成分を送信し、
前記第1機器は、前記第1機器の各アンテナで受信された前記第2の測距信号成分ごとに、前記第1の測距信号成分に対する前記第2の測距信号成分の位相回転量を各周波数成分について算出し、
異なる周波数成分の複数の組み合わせごとに前記位相回転量の差分に基づいて前記伝搬距離を推定し、
前記第1機器は、前記複数のアンテナを対象に、アンテナ毎に前記伝搬距離を推定するとともに、推定された前記伝搬距離をアンテナ単位で合成処理し、その合成処理で得たアンテナ毎の前記伝搬距離を距離の大きさ順に並べ替え、その並べ替えによって中央に位置する前記伝搬距離を測距値として取得する、ことを特徴とする電波伝搬距離推定システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器と携帯機との間で往復する電波の伝搬距離を推定する電波伝搬距離推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるスマートキーシステム(登録商標)において、中継器を使用した不正行為(リレーアタック)に対する対策のため、車載器と携帯機との間で往復する電波の伝搬時間を測定する技術が提案されている(例えば、特許文献1~2を参照)。
【0003】
伝搬時間に光速を乗じることで伝搬距離を算出しつつ、機器から携帯機までの距離を推定することが可能となる。そして、距離推定値が閾値を超えた場合にリレーアタックと判断し、ドア施開錠やエンジン始動を不許可とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-159685号公報
【文献】特開2014-17603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マルチパス(車両による乱反射やボディに発生する電流の再輻射等)により、電波の位相が乱されることで、距離推定の精度が大幅に劣化する場合がある。この場合、携帯機が車両付近にあるにも関わらず、距離推定値が閾値を超えてしまい、ドア施開錠やエンジン始動ができなくなる可能性がある。また、携帯機が遠くにあるにも関わらず、距離推定値が閾値以下となり、携帯機が車両付近にない状況でドア施開錠やエンジン始動が許可される可能性がある。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、その目的は、距離推定精度の向上を可能にした電波伝搬距離推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する電波伝搬距離推定装置は、機器と携帯機との間で往復する電波の伝搬距離を推定する電波伝搬距離推定装置において、前記機器に搭載された複数のアンテナから送信された複数の周波数成分を含む第1の距離推定信号を前記携帯機が受信し、前記携帯機が受信した前記第1の距離推定信号に基づいて第2の距離推定信号を前記機器に搭載された前記複数のアンテナへ返信することにより前記機器は前記第2の距離推定信号を受信し、前記機器は、送信した前記第1の距離推定信号と、受信した前記第2の距離推定信号との間に生じる各周波数における位相回転量について、異なる周波数間の位相回転量の差を算出することにより前記伝搬距離を推定するとともに、その推定した複数の前記伝搬距離の中央値を測距値として選択することをその要旨としている。
【0008】
この構成によれば、周波数と位相回転量との関係における傾きが電波の遅延時間を示すため、遅延時間に公知の光速を乗じることで伝搬距離を算出しつつ、機器から携帯機までの距離を推定することが可能となる。このような原理に基づき距離を推定するにあたり、マルチパスによる位相変動の影響が小さな測距値が採用され易くなり、距離推定精度が向上する。したがって、距離推定精度を向上できる。
【0009】
上記電波伝搬距離推定装置について、前記機器は、前記複数のアンテナを対象に、アンテナ毎に前記伝搬距離を推定し、その推定した全ての前記伝搬距離を距離の大きさ順に並べ替え、その並べ替えによって中央に位置する前記伝搬距離を前記測距値として選択することとしてもよい。
【0010】
この構成によれば、マルチパスによる位相変動の影響が大きいと考えられる最大値及び最小値といった極値或いはそれに近い値を測距値として選択せず、中央の値を測距値として選択する。このように、マルチパスによる位相変動の影響が最小或いはそれに近いと考えられる値を測距値として選択することで、距離推定精度を向上できる。
【0011】
上記電波伝搬距離推定装置について、前記機器は、前記複数のアンテナを対象に、アンテナ毎に前記伝搬距離を推定するとともに、その推定した前記伝搬距離をアンテナ単位で距離の大きさ順に並べ替え、その並べ替えによって中央に位置するアンテナ毎の前記伝搬距離を合成処理して得た前記伝搬距離を前記測距値として選択することとしてもよい。
【0012】
この構成によれば、アンテナ単位でマルチパスによる位相変動の影響が大きいと考えられる最大値及び最小値といった極値或いはそれに近い値を合成処理の対象から外し、中央の値を合成処理の対象とする。このように、アンテナ単位でマルチパスによる位相変動の影響が最小或いはそれに近いと考えられる値を合成処理の対象とし、それらを合成処理して得た値を測距値として選択することで、距離推定精度を向上できる。
【0013】
上記電波伝搬距離推定装置について、前記機器は、前記複数のアンテナを対象に、アンテナ毎に前記伝搬距離を推定するとともに、その推定した前記伝搬距離をアンテナ単位で合成処理し、その合成処理で得たアンテナ毎の前記伝搬距離を距離の大きさ順に並べ替え、その並べ替えによって中央に位置する前記伝搬距離を前記測距値として選択することとしてもよい。
【0014】
この構成によれば、アンテナ単位で合成処理を行ってアンテナ毎の伝搬距離を得た上で、それらのうち、マルチパスによる位相変動の影響が大きいと考えられる最大値及び最小値といった極値或いはそれに近い値を測距値として選択せず、中央の値を測距値として選択する。このように、マルチパスによる位相変動の影響が最小或いはそれに近いと考えられる値を測距値として選択することで、距離推定精度を向上できる。
【0015】
上記電波伝搬距離推定装置について、前記機器は、前記異なる周波数を規定する2つの周波数のうち、一方の周波数におけるデータの振幅を第1の振幅とし、他方の周波数におけるデータの振幅を第2の振幅とし、該異なる周波数間の位相回転量の差を算出することにより推定した前記伝搬距離を対象に、前記第1の振幅と前記第2の振幅とを掛け合わせた値に応じて該値が大きい程、より大きな係数による重み付けを行いつつ、他の異なる周波数間の位相回転量の差を算出することにより推定した前記伝搬距離との合成処理に用いることとしてもよい。
【0016】
この構成によれば、重み付けに工夫を凝らした合成処理を経ることによって得た伝搬距離を測距値として選択することで、距離推定精度を向上できる。
上記電波伝搬距離推定装置について、前記機器は、前記複数のアンテナで受信した前記複数の周波数成分を含む前記第2の距離推定信号のうち、振幅が閾値以上のデータのみを使用して、前記異なる周波数間の位相回転量の差を算出することにより前記伝搬距離を推定することとしてもよい。
【0017】
この構成によれば、振幅が小さい部分において、位相変動が大きい傾向が見られるため、振幅が閾値未満のデータを距離推定の演算に使用せず、振幅が閾値以上のデータのみを使用して伝搬距離を推定することにより、より高精度化できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、距離推定精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】電波伝搬距離推定装置の概念図。
図2】自由空間での周波数と位相回転量との関係を示す特性図。
図3】マルチパスの影響を受けた位相特性。
図4】第1の実施の形態による測距値の選択方法。
図5】第2の実施の形態による測距値の選択方法。
図6】第3の実施の形態による測距値の選択方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施の形態)
以下、電波伝搬距離推定装置の第1の実施の形態について説明する。
図1に示すように、電波伝搬距離推定装置1は、周波数の異なるN個のサイン波を合成した測距信号を車載器2から携帯機3に無線で送信し、携帯機3はこれをそのまま送り返し、車載器2はその測距信号を受信する。車載器2から携帯機3への測距信号が第1の距離推定信号に相当し、携帯機3から車載器2への測距信号が第2の距離推定信号に相当する。車両が機器に相当する。
【0021】
図2に示すように、車載器2が現在送信している測距信号と、車載器2が受信した測距信号との間に生じている位相回転量を周波数毎に求め、さらに隣り合う周波数における位相回転量の差を求める。周波数と位相回転量との関係における傾きが測距信号の遅延時間を示すため、遅延時間に公知の光速cを乗じることで伝搬距離を算出しつつ、車載器2から携帯機3までの距離を推定することが可能となる。そして、距離推定値が閾値以下の場合にドア施開錠やエンジン始動を許可し、距離推定値が閾値を超えた場合にリレーアタックと判断し、ドア施開錠やエンジン始動を不許可とする。
【0022】
車載器2から送信する時刻tにおける測距信号をx(t)とすると、測距信号をx(t)は以下のように表される。
【0023】
【数1】
【0024】
同様に、車載器2が受信した測距信号をx’(t)とすると、x’(t)は以下のように表される。
【0025】
【数2】
【0026】
車載器2が受信した測距信号から、n番目の周波数fnにおける位相回転量θnを求めるには、次式により求められる。隣り合う周波数における位相回転量の差から、さらに続く式により距離dを求める。
【0027】
【数3】
【0028】
【数4】
【0029】
上記のように、周波数の異なるN個のサイン波を合成した測距信号を送受信することで、距離を推定することが可能となる。しかし、上記は自由空間での伝搬の場合である。自由空間では位相回転量は伝搬距離、周波数に比例し増大する(図2参照)。
ところが、図3に示すように、車両に取り付けたアンテナを用いて送受信する場合には、車体に流れる不要電流等の影響により、位相回転量は伝搬距離、周波数に比例しなくなってしまい、距離推定結果に誤差が生じてしまう。
【0030】
そこで、複数のアンテナ(上記車載器2に相当)と携帯機3との間で測距信号を往復させる。車両は、上記複数のアンテナから送信した測距信号x(t)と、上記複数のアンテナで受信した測距信号x’(t)との間に生じる各周波数における位相回転量について、異なる周波数間の位相回転量の差を算出することにより距離dを算出するとともに、その算出した複数の距離dの中央値を測距値として選択する。これにより、高い距離推定精度を得ることが可能となる。
【0031】
次に、電波伝搬距離推定装置1の作用について説明する。
図4に示すように、車両に複数のアンテナとして3個のアンテナ(便宜上、アンテナA~C)が搭載され、周波数の異なるN個のサイン波として4個のサイン波(便宜上、周波数f1~f4)を合成した測距信号を用いる場合を想定する。
【0032】
尚、アンテナAを対象に、周波数f1と周波数f2との間の位相回転量の差を算出することにより推定された伝搬距離が便宜上「距離1A」であるとする。また、アンテナAを対象に、周波数f2と周波数f3との間の位相回転量の差を算出することにより推定された伝搬距離が便宜上「距離2A」であるとする。さらに、アンテナAを対象に、周波数f3と周波数f4との間の位相回転量の差を算出することにより推定された伝搬距離が便宜上「距離3A」であるとする。
【0033】
一方、アンテナBを対象に、周波数f1と周波数f2との間の位相回転量の差を算出することにより推定された伝搬距離が便宜上「距離1B」であるとする。また、アンテナBを対象に、周波数f2と周波数f3との間の位相回転量の差を算出することにより推定された伝搬距離が便宜上「距離2B」であるとする。さらに、アンテナBを対象に、周波数f3と周波数f4との間の位相回転量の差を算出することにより推定された伝搬距離が便宜上「距離3B」であるとする。
【0034】
他方、アンテナCを対象に、周波数f1と周波数f2との間の位相回転量の差を算出することにより推定された伝搬距離が便宜上「距離1C」であるとする。また、アンテナCを対象に、周波数f2と周波数f3との間の位相回転量の差を算出することにより推定された伝搬距離が便宜上「距離2C」であるとする。さらに、アンテナCを対象に、周波数f3と周波数f4との間の位相回転量の差を算出することにより推定された伝搬距離が便宜上「距離3C」であるとする。
【0035】
そして、上記のように推定された全ての伝搬距離を距離の大きさ順に並べ替えたとき、本例では、大きいものから順に「3B>1A>2A>2C>3A>3C>1C>1B>2B」であったとする。この場合、上記並べ替えによって中央に位置する距離3Aを測距値として選択し、この距離3Aの1/2を車載器2から携帯機3までの距離として推定する。
【0036】
以上説明したように、本実施の形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)算出した複数の距離dの中央値(本例では距離3A)を測距値として選択することで、マルチパスによる位相変動の影響が小さな測距値が採用され易くなり、距離推定精度が向上する。したがって、距離推定精度を向上できる。
【0037】
(2)マルチパスによる位相変動の影響が大きいと考えられる最大値及び最小値といった極値或いはそれに近い値を測距値として選択せず、中央の値(本例では距離3A)を測距値として選択する。このように、マルチパスによる位相変動の影響が最小或いはそれに近いと考えられる値を測距値として選択することで、距離推定精度を向上できる。
【0038】
(第2の実施の形態)
次に、電波伝搬距離推定装置の第2の実施の形態について説明する。
図5に示すように、上記第1の実施の形態と同じ想定のもと、本例では、推定された伝搬距離をアンテナ単位で距離の大きさ順に並べ替える。すなわち、アンテナAを対象に、大きいものから順に「1A>2A>3A」となり、アンテナBを対象に、大きいものから順に「3B>1B>2B」となり、アンテナCを対象に、大きいものから順に「2C>3C>1C」となる。
【0039】
そして、上記並べ替えによって中央に位置するアンテナ毎の距離2A,1B,3Cを合成処理する。本例では、合成処理として次のような最大比合成の処理を行う。すなわち、距離2Aの算出に用いた周波数f2,f3のうち、一方の周波数f2の振幅が便宜上「2mV」であり、他方の周波数f3の振幅が便宜上「3mV」であるとする。また、距離1Bの算出に用いた周波数f1,f2のうち、一方の周波数f1の振幅が便宜上「2mV」であり、他方の周波数f2の振幅が便宜上「1mV」であるとする。さらに、距離3Cの算出に用いた周波数f3,f4のうち、一方の周波数f3の振幅が便宜上「1mV」であり、他方の周波数f4の振幅が便宜上「2mV」であるとする。
【0040】
そして、この場合の最大比合成の処理では、上記並べ替えによって中央に位置するアンテナ毎の伝搬距離を対象に、その伝搬距離の算出に用いた2つの周波数のそれぞれの振幅を掛け合わせた値に応じて該値が大きい程、より大きな係数による重み付けを行いつつ、他のアンテナ毎の伝搬距離との加算処理に用いる。本例では、2つの振幅を掛け合わせた値の大きさに比例して、アンテナAの距離2Aに係数「0.6」の重み付けをするとともに、アンテナBの距離1BとアンテナCの距離3Cとにそれぞれ係数「0.2」の重み付けをした上で、アンテナ毎に伝搬距離と係数とを掛け合わせ、それらを加算して伝搬距離の最大比合成値を得る。尚、この場合の最大比合成値は、「距離2A×0.6+距離1B×0.2+距離3C×0.2」で表される。
【0041】
そして、上記最大比合成値を測距値として選択し、この最大比合成値の1/2を車載器2から携帯機3までの距離として推定する。
以上説明したように、本実施の形態によれば、以下の効果を奏することができる。
【0042】
(3)アンテナ単位でマルチパスによる位相変動の影響が大きいと考えられる最大値及び最小値といった極値或いはそれに近い値を合成処理の対象から外し、中央の値(本例では距離2A,1B,3C)を合成処理の対象とする。このように、アンテナ単位でマルチパスによる位相変動の影響が最小或いはそれに近いと考えられる値を合成処理の対象とし、それらを合成処理して得た値(本例では最大比合成値)を測距値として選択することで、距離推定精度を向上できる。
【0043】
(4)重み付けに工夫を凝らした合成処理を経ることによって得た伝搬距離(本例では最大比合成値)を測距値として選択することで、距離推定精度を向上できる。
(第3の実施の形態)
次に、電波伝搬距離推定装置の第3の実施の形態について説明する。
【0044】
図6に示すように、上記第1の実施の形態と同じ想定のもと、本例では、推定された伝搬距離をアンテナ単位で合成処理し、その合成処理で得たアンテナ毎の伝搬距離を距離の大きさ順に並べ替え、その並べ替えによって中央に位置する伝搬距離を測距値として選択する。
【0045】
本例では、アンテナ単位での合成処理として最大比合成の処理を行う。便宜上、具体的な数値を用いた説明は割愛するが、最大比合成の処理では、アンテナ単位で、伝搬距離の算出に用いた2つの周波数(アンテナAの距離1Aの例では周波数f1と周波数f2、アンテナCの距離3Cの例では周波数f3と周波数f4)のそれぞれの振幅を掛け合わせた値に応じて、上記第2の実施の形態と同じ原理で重み付けを行う。そして、アンテナ単位で、その重み付けの係数と対応する伝搬距離とを掛け合わせ、それらを加算する。これにより、アンテナ毎に伝搬距離の最大比合成値が得られることになる。
【0046】
そして、アンテナ毎の最大比合成値を距離の大きさ順に並べ替え、その並べ替えによって中央に位置する最大比合成値(例えばアンテナAの最大比合成値)を測距値として選択し、この最大比合成値の1/2を車載器2から携帯機3までの距離として推定する。
【0047】
以上説明したように、本実施の形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(5)アンテナ単位で合成処理を行ってアンテナ毎の伝搬距離(本例では最大比合成値)を得た上で、それらのうち、マルチパスによる位相変動の影響が大きいと考えられる最大値及び最小値といった極値或いはそれに近い値を測距値として選択せず、中央の値(本例ではアンテナAの最大比合成値)を測距値として選択する。このように、マルチパスによる位相変動の影響が最小或いはそれに近いと考えられる値を測距値として選択することで、距離推定精度を向上できる。
【0048】
(6)重み付けに工夫を凝らした合成処理を経ることによって得た伝搬距離(本例ではアンテナAの最大比合成値)を測距値として選択することで、距離推定精度を向上できる。
【0049】
尚、上記各実施の形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・合成処理として最大比合成の処理に代えて、重み付けを伴わずに伝搬距離を加算する、いわゆる等利得合成の処理を採用してもよい。また、最大比合成とは異なる別の方法で重み付けを行ってもよい。
【0050】
・最大比合成等の合成処理は、伝搬距離に変換した後に行うのではなく、伝搬距離に変換する前に行ってもよい。
・振幅の大小にかかわらず全てのデータを使用して、異なる周波数間の位相回転量の差を算出することにより伝搬距離を推定する代わりに、振幅が閾値以上のデータのみを使用して、異なる周波数間の位相回転量の差を算出することにより伝搬距離を推定してもよい。この構成によれば、振幅が小さい部分において、位相変動が大きい傾向が見られるため、振幅が閾値未満のデータを距離推定の演算に使用せず、振幅が閾値以上のデータのみを使用して伝搬距離を推定することにより、より高精度化できる。
【0051】
・該当する測距値として複数の測距値を選定し、それらの平均値を測距値として選択してもよい。
・原信号を変調処理等、電気的に処理した後の信号が測距信号x(t)として複数のアンテナから送信される。このため、車両内での変調処理等に伴い、複数のアンテナから送信される測距信号x(t)と原信号との間に位相回転量が生じることになるが、そうした車両内での位相回転量を事前に算出しておき、それを除外した補正後の位相回転量を基準とする測距信号x(t)を複数のアンテナから送信することとしてもよい。このように、原信号との間に生じる各周波数における位相回転量を除外した補正後の位相回転量を基準とする測距信号x(t)を複数のアンテナから送信することで、距離推定精度を向上できる。
【0052】
・車両に複数のアンテナとして2個或いは4個以上のアンテナを搭載し、各アンテナと携帯機3との間で測距信号を往復させつつ、上記各実施の形態と同様の原理で距離推定を行ってもよい。
【0053】
・周波数f1~f4を含む周波数帯域内で隣り合う周波数間の位相回転量の差を算出することにより伝搬距離を推定する代わりに、該周波数帯域内で隣り合わない異なる周波数間の位相回転量の差を算出することにより伝搬距離を推定してもよい。
【0054】
・機器は車両に限定されない。建物のドア等に複数のアンテナを搭載し、携帯機との間で往復する電波の伝搬距離を推定する電波伝搬距離推定装置に本発明を適用してもよい。そして、距離推定値が閾値を超えた場合にリレーアタックと判断し、ドア施開錠や電化製品の動作を不許可としてもよい。車両用或いは建物用の電子キーシステムに応用できることになる。
【0055】
次に、上記各実施の形態及び別例から把握できる技術的思想について記載する。
(イ)前記電波伝搬距離推定装置において、前記機器は、原信号との間に生じる各周波数における位相回転量を除外した補正後の位相回転量を基準とする前記第1の距離推定信号を前記複数のアンテナから送信すること。
【0056】
この構成によれば、機器内での変調処理等に伴い、複数のアンテナから送信する第1の距離推定信号と原信号との間に位相回転量が生じることになるが、そうした機器内での位相回転量を事前に算出しておき、それを除外した補正後の位相回転量を基準とすることで、距離推定精度を向上できる。
【符号の説明】
【0057】
1…電波伝搬距離推定装置、2…車載器(複数のアンテナ)、3…携帯機、A~C…ア
ンテナ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6