(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価方法、摩耗評価装置、及び鉱石の摩耗度測定装置
(51)【国際特許分類】
G01B 11/00 20060101AFI20220224BHJP
【FI】
G01B11/00 H
(21)【出願番号】P 2017169900
(22)【出願日】2017-09-05
【審査請求日】2020-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一比古
(72)【発明者】
【氏名】小野 正夫
(72)【発明者】
【氏名】高野 慧
(72)【発明者】
【氏名】正信 聡太郎
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-176809(JP,A)
【文献】特開2016-205945(JP,A)
【文献】特開2016-191608(JP,A)
【文献】特開2015-125014(JP,A)
【文献】小野正夫、高野慧、正信聡太郎、櫻井昭男,スラリー移送時の揚鉱管の摩耗試験方法と摩耗量の評価,評価・診断に関するシンポジウム講演論文集,日本機械学会,2013年12月,Vol. 12,p. 51-54
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
21/00-21/32
G01F 1/56-1/90
G01P 5/00-5/26
G01N 21/84-21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱石スラリー輸送用配管系の構成要素の内部の摩耗を評価する方法であって、前記鉱石スラリー輸送用配管系の複数箇所に鉱石スラリーに含まれる鉱石の移動速度を計測する移動速度測定手段を設け、前記移動速度測定手段により計測される前記鉱石の前記移動速度の前記複数箇所における差に基づいて、前記複数箇所の間に位置する前記構成要素の前記摩耗を評価するに当たり、
前記鉱石スラリー輸送用配管系の配管の前記複数箇所を透明撮影配管として構成し、前記移動速度測定手段として設けた高速度カメラにより前記透明撮影配管の中を移動する前記鉱石を撮影し、前記高速度カメラにより、前記鉱石が、
前記透明撮影配管の内面に接触することなく浮遊して移動する行程のみから計測した前記移動速度を用いることを特徴とする鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価方法。
【請求項2】
前記構成要素の前記摩耗を評価するに当り、前記構成要素の摩耗率を評価することを特徴とする請求項1に記載の鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価方法。
【請求項3】
前記構成要素の前記摩耗を評価するに当り、前記鉱石の前記移動速度の差から求められる前記鉱石の摩耗度から前記構成要素の前記摩耗を推定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価方法。
【請求項4】
前記鉱石の前記移動速度の差と前記構成要素の前記摩耗との関係を予め求めた結果に基づいて前記構成要素の前記摩耗を評価することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価方法。
【請求項5】
前記鉱石スラリー輸送用配管系の上流部と下流部に前記
高速度カメラを設け、前記上流部と前記下流部との間の前記構成要素の前記摩耗を評価することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価方法。
【請求項6】
前記鉱石スラリー輸送用配管系の中間部に前記
高速度カメラを設け、前記上流部と前記中間部との間及び/又は前記中間部と前記下流部との間の前記構成要素の前記摩耗を評価することを特徴とする請求項5に記載の鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価方法。
【請求項7】
前記鉱石スラリー輸送用配管系の複数の前記構成要素をそれぞれ上流側と下流側で挟み込むように前記
高速度カメラを設け、それぞれの前記構成要素の前記摩耗を評価することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価方法。
【請求項8】
前記鉱石として、前記鉱石スラリーに含まれる実際の鉱石よりも摩耗しやすい専用の測定用鉱石を用い、前記測定用鉱石を前記鉱石スラリー輸送用配管系に投入し、前記摩耗を評価することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価方法。
【請求項9】
前記複数箇所の間に位置する前記構成要素の前記摩耗を評価するに当り、前記鉱石スラリー輸送用配管系の実稼働とは別の専用の稼働モードで評価を行なうことを特徴とする請求項1から請求項
8のいずれか1項に記載の鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価方法。
【請求項10】
請求項
3、又は請求項3を引用する請求項4から請求項
9のいずれか1項に記載の鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価方法に用いる摩耗評価装置であって、前記鉱石スラリー輸送用配管系の前記複数箇所に設けた前記
高速度カメラと、前記複数箇所で前記
高速度カメラにより計測される前記鉱石の前記移動速度に基づいて前記鉱石の
前記摩耗度を推定する鉱石摩耗度推定手段と、前記鉱石摩耗度推定手段による前記鉱石の前記摩耗度の推定結果に基づいて前記構成要素の前記摩耗を評価する構成要素摩耗評価手段とを備えたことを特徴とする鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価装置。
【請求項11】
前記構成要素摩耗評価手段による複数の前記構成要素のそれぞれの前記摩耗の評価結果を比較する摩耗比較手段をさらに備えたことを特徴とする請求項
10に記載の鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価装置。
【請求項12】
少なくとも前記構成要素摩耗評価手段の評価結果を表示する表示手段をさらに備えたことを特徴とする請求項
10又は請求項
11に記載の鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価装置。
【請求項13】
請求項
3、又は請求項3を引用する請求項4から請求項
9のいずれか1項に記載の鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価方法に用いる前記
高速度カメラを利用する前記鉱石の摩耗度測定装置であって、前記鉱石スラリー輸送用配管系に設けた前記
高速度カメラと、予め求めた前記鉱石の前記移動速度と前記鉱石の
前記摩耗度との関係を記憶する速度・摩耗度記憶手段と、前記
高速度カメラで計測される前記移動速度を前記速度・摩耗度記憶手段に適用して前記鉱石の前記摩耗度を導出する摩耗度導出手段とを備えたことを特徴とする鉱石の摩耗度測定装置。
【請求項14】
前記鉱石スラリー輸送用配管系に設けた前記透明撮影配管に対し、前記高速度カメラを所定の距離を隔てて2台設けることを特徴とす
る請求項
13に記載の鉱石の摩耗度測定装置。
【請求項15】
2台の前記高速度カメラは、同期をとって前記鉱石を撮影することを特徴とする請求項
14に記載の鉱石の摩耗度測定装置。
【請求項16】
前記透明撮影配管にスケールを、前記高速度カメラの撮影範囲内に入るように併設することを特徴とする請求項
14又は請求項
15に記載の鉱石の摩耗度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底熱水鉱床等で採掘された鉱石を海水等の流体と混合した鉱石スラリーとして輸送するスラリー輸送用配管系について、スラリー輸送用配管系を構成する配管類やスラリーポンプ等の各構成要素の相対的な摩耗を簡便に評価する摩耗評価方法、摩耗評価装置、及び鉱石の摩耗度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海底熱水鉱床などで採掘された鉱石を海上の母船又は採掘基地まで輸送(揚鉱)する場合、鉱石を海水と混合して鉱石スラリーとし、これを樹脂、ゴム又は金属から成る配管類及びスラリーポンプを用いて揚鉱する方法が提案されている(非特許文献1)。
採掘直後の鉱石は比較的鋭い角部を有しており、スラリー輸送中はその鋭い角部を有した鉱石が管内水流によって配管類の内壁やスラリーポンプの構成部品に衝突するため、衝突された配管類の内壁やスラリーポンプの構成部品は次第に摩耗していく。従って、採掘・揚鉱システムの稼働期間中に配管類やスラリーポンプの構成部品が摩耗により破損して使用不能に陥ることのないよう、配管類やスラリーポンプを含むスラリー輸送用配管系について、鉱石スラリーによる摩耗特性を把握しておくことが重要となる。
【0003】
非特許文献2には、このような配管類の内壁の摩耗特性を、
図9に示すような模擬鉱石を用いたスラリー循環式摩耗試験装置200によって評価した結果が示されている。
図9に示すスラリー循環式摩耗試験装置200は、水を満たしたタンク201の上部から模擬鉱石を一定量投入してスラリーとし、このスラリーをスラリーポンプ202で配管内を循環させることにより、途中に接続した摩耗量計測部203において配管類の内壁の摩耗試験を行うものである。なお、
図9において、矢印はスラリーの循環方向を示す。また、摩耗量計測部203の下流側に電磁流量計204が設けられている。
模擬鉱石を含むスラリーは、スラリー循環式摩耗試験装置200の配管内を循環するため、模擬鉱石は、摩耗試験の開始後に配管類の内壁等との多数回の衝突により摩耗して劣化し、角が取れて丸くなったり粒径が小さくなったりする。このため、
図10に示すように、時間の経過に伴って試験部配管の摩耗率(単位時間当たりの摩耗度)は顕著に低下する。
【0004】
一方、石又は粒子の形状や摩耗度(円磨度、角部の取れ具合)を分類・評価する方法としては、これまでに以下のようなものが提案されている。
非特許文献3には、石の長径(a軸)と中間径(b軸)との比(b/a)、及び中間径と短径(c軸)との比(c/b)をもとに、石の形状を球状(b/a>2/3 and c/b>2/3)、円盤状(b/a>2/3 and c/b<2/3)、棒状(b/a<2/3 and c/b>2/3)、又は小判状(b/a<2/3 and c/b<2/3)に分類することが記載されている。
また、非特許文献4には、円磨度印象図との比較により、円磨度を0.1~0.9までの9段階に分類することが記載されている。
また、非特許文献5には、マンガン団塊を中心に粗大非球形粒子の水力学的物性について、単一粒子の自由・干渉沈降速度、粒群の浮遊速度等を実験的に検討することが記載されている。
【0005】
また、特許文献1には、3個の光電検知器を用いて、スラリーの沈降速度を測定するスラリー平均粒子径測定装置が開示されている。
また、特許文献2には、試料セルの下部にレーザー光を照射し、その散乱光の空間強度分布から粒度分布を測定する粒度分布測定装置が開示されている。
また、特許文献3には、管内に気温よりも高温の流体が流れている配管の表面温度を赤外線カメラで測定して温度画像を形成し、温度画像に基づいて配管が加熱中であることを検出するとともに、配管表面の絶対温度の変化率の分布を算出することによって、配管の減肉を検出する配管検査装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公平7-81941号公報
【文献】特開2006-98212号公報
【文献】特開2013-228306号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】海底熱水鉱床開発計画 第1期 最終評価報告書,経済産業省資源エネルギー庁,独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC),海底熱水鉱床開発委員会(平成25年7月5日)
【文献】高野慧他:スラリー移送時の鉱石劣化が配管摩耗に及ぼす影響に関する実験的研究,日本船舶海洋工学会平成27年度春季講演会論文集(2015)
【文献】Zingg,Th. (1935): Beitrage zur Schotteranalysis. Min. Peterog. Mitt. Schweiz., 15, 39-140
【文献】Krumbein, W. C.: Measurement and geologicsignificance of shape and roundness of sedimentary particles. J. Sed. Petrol., 11, 64-72 (1941).
【文献】斉藤隆之他:粗大非球形粒子の水力学的物性に関する研究,『採鉱と保安』,第31巻,3号,pp.137-145(1985)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
配管類の内壁の摩耗特性を定量的に評価する際には、非特許文献2のように模擬鉱石を用いたスラリー循環式摩耗試験装置200等によって実験的に評価することが多いが、大がかりな試験装置の組み上げや摩耗試験の実施には多大な手間、時間及びコストを要する上、上述したように模擬鉱石が摩耗により劣化する等、実配管系における摩耗度との整合性に関してはなお課題を残している。
また、スラリー循環式摩耗試験装置200等を用いたスラリー循環式摩耗試験では、スラリーが循環することにより鉱石がスラリーポンプやエルボーを通過する回数が実配管系と比べて著しく増加するため、配管系をポンプ部、エルボー部、直配管部、ホース部等の構成要素に分けた場合、構成要素毎の相対的な摩耗率を正しく評価することが難しい。
従って、鉱石スラリー輸送用配管系の構成要素毎の相対的な摩耗率を正しく評価するためには、各構成要素の摩耗に大きく影響する鉱石の摩耗度(角部の取れ具合)を簡便かつ定量的に評価することが重要である。
【0009】
しかし、従来提案されている石又は粒子の形状や摩耗度(円磨度)を分類・評価する方法において、配管系の構成要素の摩耗に大きく影響するような鉱石の摩耗度を簡便かつ定量的に評価しているものは見当たらない。
非特許文献3の方法では、石の形状を球状や円盤状に分類しているが、石の形状は円磨度とは関係がなく、例えば鋭い角部を有する石であっても形状が立方体に近ければ球状と分類されてしまう。
また、非特許文献4の方法では、分類する際に分類者の主観が入ってしまい、再現性に乏しい。
また、非特許文献5の方法では、粒子の沈降実験から、粒子の抗力係数や沈降速度とAlbartsonの形状係数Sf=c/√(ab)の関係を導いているが、非特許文献3と同様に形状係数Sfと粒子の円磨度とは関係がなく、非特許文献5においても粒子の摩耗度は考慮されていない。
また、特許文献1記載の測定装置は、平均粒子径を測定するものであり、鉱石の摩耗度を測定及び評価するものではない。
また、特許文献2記載の測定装置は、粒度分布を測定するものであり、鉱石の摩耗度を測定及び評価するものではない。
また、特許文献3の検査装置は、温度画像に基づいて配管の減肉を検出するものであり、鉱石の摩耗度を測定及び評価するものではなく、また鉱石の摩耗を利用して配管の構成要素の摩耗を評価するものでもない。
【0010】
そこで本発明は、スラリー輸送用配管系を構成する配管類やスラリーポンプ等の構成要素毎の相対的な摩耗を簡便かつ定量的に評価できる鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価方法及び摩耗評価装置と、それに用いる鉱石の摩耗度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載に対応した鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価方法においては、鉱石スラリー輸送用配管系の構成要素の内部の摩耗を評価する方法であって、鉱石スラリー輸送用配管系の複数箇所に鉱石スラリーに含まれる鉱石の移動速度を計測する移動速度測定手段を設け、移動速度測定手段により計測される鉱石の移動速度の複数箇所における差に基づいて、複数箇所の間に位置する構成要素の摩耗を評価するに当たり、鉱石スラリー輸送用配管系の配管の複数箇所を透明撮影配管として構成し、移動速度測定手段として設けた高速度カメラにより透明撮影配管の中を移動する鉱石を撮影し、高速度カメラにより、鉱石が、透明撮影配管の内面に接触することなく浮遊して移動する行程のみから計測した移動速度を用いることを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、鉱石スラリー輸送用配管系に含まれる配管類やスラリーポンプといった各構成要素に生じる摩耗を鉱石の移動速度の複数箇所における差に基づいて、簡便かつ定量的に評価できる。これにより、例えば鉱石スラリー輸送用配管系の稼働中においても重点的に摩耗状況を監視すべき構成要素の順位付けができ、また、構成要素の点検及び交換時期の決定を行う際の定量的な判断基準が得られるため、鉱石スラリー輸送用配管系全体の信頼性、稼働性及び安全性が向上する。また、高速度カメラにより透明撮影配管の中を移動する鉱石を撮影することで、鉱石の移動速度を簡便に取得することができる。また、透明撮影配管の内面に接触することなく浮遊して移動する行程のみから計測することで、鉱石の移動速度をより正確に取得することができる。
【0012】
請求項2記載の本発明は、構成要素の摩耗を評価するに当り、構成要素の摩耗率を評価することを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、摩耗率の評価に基づいて構成要素の摩耗を定量的に評価することができる。なお、「摩耗率」とは、単位時間当たりの摩耗度のことをいう。
【0013】
請求項3記載の本発明は、構成要素の摩耗を評価するに当り、鉱石の移動速度の差から求められる鉱石の摩耗度から構成要素の摩耗を推定することを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、鉱石の摩耗度に基づいて構成要素の摩耗を推定することができる。
【0014】
請求項4記載の本発明は、鉱石の移動速度の差と構成要素の摩耗との関係を予め求めた結果に基づいて構成要素の摩耗を評価することを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、構成要素の摩耗を簡便に評価することができる。
【0015】
請求項5記載の本発明は、鉱石スラリー輸送用配管系の上流部と下流部に高速度カメラを設け、上流部と下流部との間の構成要素の摩耗を評価することを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、鉱石スラリー輸送用配管系全体の構成要素の摩耗を評価することができる。
【0016】
請求項6記載の本発明は、鉱石スラリー輸送用配管系の中間部に高速度カメラを設け、上流部と中間部との間及び/又は中間部と下流部との間の構成要素の摩耗を評価することを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、鉱石スラリー輸送用配管系の上流部から中間部に至るまでの前半部分と、中間部から下流部に至るまでの後半部分の相対的な構成要素の摩耗を評価することができる。
【0017】
請求項7記載の本発明は、鉱石スラリー輸送用配管系の複数の構成要素をそれぞれ上流側と下流側で挟み込むように高速度カメラを設け、それぞれの構成要素の摩耗を評価することを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、各構成要素の摩耗をそれぞれ相対的に評価することができる。
【0018】
請求項8記載の本発明は、鉱石として、鉱石スラリーに含まれる実際の鉱石よりも摩耗しやすい専用の測定用鉱石を用い、測定用鉱石を鉱石スラリー輸送用配管系に投入し、摩耗を評価することを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、構成要素の相対的な摩耗をより確実に評価することができる。
【0019】
請求項9記載の本発明は、複数箇所の間に位置する構成要素の摩耗を評価するに当り、鉱石スラリー輸送用配管系の実稼働とは別の専用の稼働モードで評価を行なうことを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、専用の稼働モードにおける評価結果を実稼働に反映させることができる。
【0020】
請求項10記載に対応した鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価装置においては、鉱石スラリー輸送用配管系の複数箇所に設けた高速度カメラと、複数箇所で高速度カメラにより計測される鉱石の移動速度に基づいて鉱石の摩耗度を推定する鉱石摩耗度推定手段と、鉱石摩耗度推定手段による鉱石の摩耗度の推定結果に基づいて構成要素の摩耗を評価する構成要素摩耗評価手段とを備えたことを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、鉱石スラリー輸送用配管系の各構成要素に生じる摩耗を鉱石の摩耗度の推定結果に基づいて、簡便かつ定量的に評価できる。これにより、例えば鉱石スラリー輸送用配管系の稼働中においても、重点的に摩耗状況を監視すべき構成要素の順位付けが容易となる。
【0021】
請求項11記載の本発明は、構成要素摩耗評価手段による複数の構成要素のそれぞれの摩耗の評価結果を比較する摩耗比較手段をさらに備えたことを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、重点的に摩耗状況を監視すべき構成要素の順位付けをより正確に行うことができる。
【0022】
請求項12記載の本発明は、少なくとも構成要素摩耗評価手段の評価結果を表示する表示手段をさらに備えたことを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、構成要素の摩耗状況を作業者が把握しやすくなる。
【0023】
請求項13記載に対応した鉱石の摩耗度測定装置においては、鉱石スラリー輸送用配管系に設けた高速度カメラと、予め求めた鉱石の移動速度と鉱石の摩耗度との関係を記憶する速度・摩耗度記憶手段と、高速度カメラで計測される移動速度を速度・摩耗度記憶手段に適用して鉱石の摩耗度を導出する摩耗度導出手段とを備えたことを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、鉱石の摩耗度を簡便かつ定量的に導出することができる。
【0024】
請求項14記載の本発明は、鉱石スラリー輸送用配管系に設けた透明撮影配管に対し、高速度カメラを所定の距離を隔てて2台設けることを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、鉱石が一方の高速度カメラに対応する位置から他方の高速度カメラに対応する位置に至る全移動行程に基づいて鉱石の移動速度を算出することができる。また、一方の高速度カメラ又は他方の高速度カメラの画角内における鉱石の移動行程に基づいて鉱石の移動速度を算出することができる。
【0025】
請求項15記載の本発明は、2台の高速度カメラは、同期をとって鉱石を撮影することを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、2台の高速度カメラの撮影タイミングを合わせることができる。
【0026】
請求項16記載の本発明は、透明撮影配管にスケールを、高速度カメラの撮影範囲内に入るように併設することを特徴とする。
請求項16に記載の本発明によれば、鉱石の移動距離の把握が映像に収めたスケールを基に容易となる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価方法によれば、鉱石スラリー輸送用配管系に含まれる配管類やスラリーポンプといった各構成要素に生じる摩耗を鉱石の移動速度の複数箇所における差に基づいて、簡便かつ定量的に評価できる。これにより、例えば鉱石スラリー輸送用配管系の稼働中においても重点的に摩耗状況を監視すべき構成要素の順位付けができ、また、構成要素の点検及び交換時期の決定を行う際の定量的な判断基準が得られるため、鉱石スラリー輸送用配管系全体の信頼性、稼働性及び安全性が向上する。また、高速度カメラにより透明撮影配管の中を移動する鉱石を撮影することで、鉱石の移動速度を簡便に取得することができる。また、透明撮影配管の内面に接触することなく浮遊して移動する行程のみから計測することで、鉱石の移動速度をより正確に取得することができる。
【0028】
また、構成要素の摩耗を評価するに当り、構成要素の摩耗率を評価する場合には、摩耗率の評価に基づいて構成要素の摩耗を定量的に評価することができる。
【0029】
また、構成要素の摩耗を評価するに当り、鉱石の移動速度の差から求められる鉱石の摩耗度から構成要素の摩耗を推定する場合には、鉱石の摩耗度に基づいて構成要素の摩耗を推定することができる。
【0030】
また、鉱石の移動速度の差と構成要素の摩耗との関係を予め求めた結果に基づいて構成要素の摩耗を評価する場合には、構成要素の摩耗を簡便に評価することができる。
【0031】
また、鉱石スラリー輸送用配管系の上流部と下流部に高速度カメラを設け、上流部と下流部との間の構成要素の摩耗を評価する場合には、鉱石スラリー輸送用配管系全体の構成要素の摩耗を評価することができる。
【0032】
また、鉱石スラリー輸送用配管系の中間部に高速度カメラを設け、上流部と中間部との間及び/又は中間部と下流部との間の構成要素の摩耗を評価する場合には、鉱石スラリー輸送用配管系の上流部から中間部に至るまでの前半部分と、中間部から下流部に至るまでの後半部分の相対的な構成要素の摩耗を評価することができる。
【0033】
また、鉱石スラリー輸送用配管系の複数の構成要素をそれぞれ上流側と下流側で挟み込むように高速度カメラを設け、それぞれの構成要素の摩耗を評価する場合には、各構成要素の摩耗をそれぞれ相対的に評価することができる。
【0034】
また、鉱石として、鉱石スラリーに含まれる実際の鉱石よりも摩耗しやすい専用の測定用鉱石を用い、測定用鉱石を鉱石スラリー輸送用配管系に投入し、摩耗を評価する場合には、構成要素の相対的な摩耗をより確実に評価することができる。
【0035】
また、複数箇所の間に位置する構成要素の摩耗を評価するに当り、鉱石スラリー輸送用配管系の実稼働とは別の専用の稼働モードで評価を行なう場合には、専用の稼働モードにおける評価結果を実稼働に反映させることができる。
【0036】
また、本発明の鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価装置によれば、鉱石スラリー輸送用配管系の各構成要素に生じる摩耗を鉱石の摩耗度の推定結果に基づいて、簡便かつ定量的に評価できる。これにより、例えば鉱石スラリー輸送用配管系の稼働中においても、重点的に摩耗状況を監視すべき構成要素の順位付けが容易となる。
【0037】
また、構成要素摩耗評価手段による複数の構成要素のそれぞれの摩耗の評価結果を比較する摩耗比較手段をさらに備えた場合には、重点的に摩耗状況を監視すべき構成要素の順位付けをより正確に行うことができる。
【0038】
また、少なくとも構成要素摩耗評価手段の評価結果を表示する表示手段をさらに備えた場合には、構成要素の摩耗状況を作業者が把握しやすくなる。
【0039】
また、本発明の鉱石の摩耗度測定装置によれば、鉱石の摩耗度を簡便かつ定量的に導出することができる。
【0040】
また、鉱石スラリー輸送用配管系に設けた透明撮影配管に対し、高速度カメラを所定の距離を隔てて2台設ける場合には、鉱石が一方の高速度カメラに対応する位置から他方の高速度カメラに対応する位置に至る全移動行程に基づいて鉱石の移動速度を算出することができる。また、一方の高速度カメラ又は他方の高速度カメラの画角内における鉱石の移動行程に基づいて鉱石の移動速度を算出することができる。
【0041】
また、2台の高速度カメラは、同期をとって鉱石を撮影する場合には、2台の高速度カメラの撮影タイミングを合わせることができる。
【0042】
また、透明撮影配管にスケールを、高速度カメラの撮影範囲内に入るように併設する場合には、鉱石の移動距離の把握が映像に収めたスケールを基に容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本発明の一実施形態による鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価方法に用いる摩耗評価装置の概略図
【
図3】本発明の他の実施形態による鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価方法及び摩耗評価装置に用いる鉱石の摩耗度測定装置の概略図
【
図5】同鉱石の摩耗度測定装置の透明撮影配管を高速度カメラで撮影した写真
【
図7】同鉱石のスラリー流速に対する相対速度を鉱石重量で整理した結果を示す図
【
図8】同鉱石のスラリー流速に対する相対速度を鉱石重量で整理した結果を示す図
【
図10】同スラリー循環式摩耗試験装置を使用した摩耗試験における鉱石スラリー循環時間と配管摩耗率との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に、本発明の一実施形態による鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価方法、摩耗評価装置、及び鉱石の摩耗度測定装置について説明する。
図1は本実施形態による鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価方法に用いる摩耗評価装置の概略図、
図2は鉱石の摩耗度測定装置の配置例を示す図である。
【0045】
鉱石スラリー輸送用配管系は、鉱石スラリーの投入用タンク1、鉱石スラリーの回収用タンク2、配管3、及びスラリーポンプ4といった構成要素で構成されている。
配管3の一端は投入用タンク1に接続され、配管3の他端は回収用タンク2に接続されている。配管3は、二箇所の曲がり部分として第1エルボー部3Aと第2エルボー部3Bを有している。スラリーポンプ4は、第1エルボー部3Aと第2エルボー部3Bの間に位置する直管部分に接続されている。また、スラリーポンプ4と第2エルボー部3Bとの間には、長い直管が続く長大配管部3Cが設けられている。
なお、鉱石スラリー輸送用配管系における各構成要素の上下位置関係は、実際の配管系における各構成要素の上下位置関係とは無関係である。また、鉱石スラリーの投入用タンク1、鉱石スラリーの回収用タンク2等は備えない場合もあり、鉱石スラリー輸送用配管系は、
図1、
図2の構成に限定されない。
投入用タンク1に投入された海水等の流体51と鉱石52は、鉱石スラリー50となって配管3の内部を流れ、回収用タンク2に流入する。
【0046】
鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価装置は、鉱石52の摩耗度を測定する鉱石の摩耗度測定装置10と、摩耗度測定装置10による測定結果に基づいて配管3やスラリーポンプ4といった各構成要素の摩耗を評価する構成要素摩耗評価手段20と、構成要素摩耗評価手段20による評価結果を比較する摩耗比較手段30と、少なくとも構成要素摩耗評価手段20の評価結果を表示する表示手段40とを備える。
【0047】
摩耗度測定装置10は、鉱石スラリー50に含まれる鉱石52の移動速度を計測する移動速度測定手段11と、鉱石52の移動速度に基づいて鉱石52の摩耗度を推定する鉱石摩耗度推定手段12とを有する。
摩耗度測定装置10を用いて鉱石52の摩耗度を定量的に評価するにあたっては、配管中を輸送される鉱石スラリー50に含まれる鉱石52の移動速度を計測するための計測位置を複数設定し、設定した複数の計測位置の箇所に移動速度測定手段11を設ける。
移動速度測定手段11によって計測された複数箇所における鉱石52の移動速度の計測結果は、鉱石摩耗度推定手段12へ送出される。鉱石52の移動速度は、スラリー流速に対する鉱石52の相対速度であることが好ましい。
鉱石52は摩耗度(主に角部の取れ具合)によって流体抵抗が変化する。従って、鉱石52の移動速度の計測結果を受信した鉱石摩耗度推定手段12は、計測箇所における鉱石52の移動速度の差から鉱石52の摩耗度を求めることができる。
鉱石摩耗度推定手段12が推定した鉱石52の摩耗度は、構成要素摩耗評価手段20へ送出される。
なお、鉱石摩耗度推定手段12に代えて、予め求めた鉱石52の移動速度と鉱石52の摩耗度との関係を記憶する速度・摩耗度記憶手段と、移動速度測定手段11で計測される鉱石52の移動速度を速度・摩耗度記憶手段に適用して鉱石52の摩耗度を導出する摩耗度導出手段とを設け、これにより鉱石52の摩耗度を導出してもよい。
【0048】
スラリー輸送用配管系の配管3の内壁やスラリーポンプ4の構成部品は、金属、樹脂又はゴムから成る場合が殆どであり、一般的にその硬度は鉱石52の硬度よりも小さいため、鉱石52が配管3の内壁やスラリーポンプ4の構成部品に衝突して摩耗していく際には、同時に配管3の内壁やスラリーポンプ4の構成部品も摩耗していく。
従って、上記のようにスラリー輸送用配管系のある箇所において鉱石スラリー50に含まれる鉱石52の摩耗度を摩耗度測定装置10を用いて定量的に評価することにより、構成要素摩耗評価手段20は、その箇所よりも上流側に配置されている配管3の内壁やスラリーポンプ4の構成部品といった構成要素の摩耗を、鉱石52の摩耗度に基づいて評価することができる。これにより、例えば鉱石スラリー輸送用配管系の稼働中においても重点的に摩耗状況を監視すべき構成要素の順位付けができる。また、構成要素の摩耗を、例えば摩耗率を時間的に積分することにより摩耗度として求め、構成要素の点検及び交換時期の決定を行う際の定量的な判断基準が得られるため、鉱石スラリー輸送用配管系全体の信頼性、稼働性及び安全性が向上する。
【0049】
また、構成要素の摩耗を評価するにあたり、構成要素の摩耗度又は摩耗率を評価する場合には、摩耗度又は摩耗率の評価に基づいて構成要素の摩耗を簡便かつ定量的に評価することができる。
また、鉱石52の移動速度の差と構成要素の摩耗との関係を予め求めた結果に基づいて、構成要素の摩耗を評価することもできる。この場合は、構成要素の摩耗をより簡便に評価することができる。
また、構成要素の摩耗を評価するに当り、鉱石スラリー輸送用配管系の実稼働とは別の専用の稼働モードで評価を行なうこともできる。この場合は、専用の稼働モードにおける評価結果を実稼働に反映させることができる。
【0050】
構成要素摩耗評価手段20による評価結果は、摩耗比較手段30及び表示手段40に送出される。
構成要素の摩耗の評価結果を受信した摩耗比較手段30は、各構成要素の摩耗の評価結果を比較する。これにより、重点的に摩耗状況を監視すべき構成要素の順位付けをより正確に行うことができる。また、定量的な数値を示し、作業者の判断に役立てることができる。
表示手段40は、例えばディスプレーや表示板であり、構成要素の摩耗の評価結果を表示する。これにより、構成要素の摩耗状況を作業者が把握しやすくなる。また、摩耗比較手段30で評価した各構成要素の相対的な摩耗を表示してもよい。
【0051】
なお、投入用タンク1に投入する鉱石52は、模擬鉱石の他、実際の鉱石を用いることができる。また、模擬鉱石と実際の鉱石を混在させて用いることもできる。
実際の鉱石スラリー輸送用配管系では、
図9に示すスラリー循環式摩耗試験装置200のように鉱石スラリー50が配管を循環することはないので、数キロメートルに及ぶような長大配管を含む場合などを除けば、輸送中の鉱石が摩耗する度合いは比較的小さいと思われる。そこで、実際の鉱石よりも摩耗しやすい専用の測定用鉱石を模擬鉱石52として用意し、これを用いてスラリー中の模擬鉱石52の摩耗度を意図的に増大させた上で、模擬鉱石52の摩耗度を測定することにより、鉱石スラリー輸送用配管系を構成する各構成要素の相対的な摩耗率を確実に評価することができる。
実際の鉱石よりも摩耗しやすい専用の測定用鉱石としては、石灰岩、蛇紋岩、頁岩、粘板岩、玄武岩等、衝撃に対して比較的脆い性質を有する岩石を細かく砕いて砕石とし、砕石の粒径を実際の鉱石の粒径分布も勘案しながら篩等で適宜揃えたものを用いることができる。また、摩耗度(円磨度)の差異による流体抵抗の変化が顕著となるように予め角部の数や形状を定めておき(例えば角部が8個の立方体もしくは直方体、又は角部が多数個の金平糖形など)、それに合わせて細かい鉱物系の粉末材料を高温・高圧下で焼結したり、樹脂材料や金属材料を専用の型や3Dプリンターを用いて成型したりすることにより、同一形状の測定用鉱石を多数個製作し、これらを模擬鉱石52として用いることもできる。
【0052】
なお、本実施形態における計測位置は、投入用タンク1と第1エルボー部3Aとの間の配管3に設定した第1計測位置α、第1エルボー部3Aとスラリーポンプ4との間に設定した第2計測位置β、スラリーポンプ4と長大配管部3Cとの間に設定した第3計測位置γ、長大配管部3Cと第2エルボー部3Bとの間に設定した第4計測位置δ、第2エルボー部3Bと回収用タンク2との間に設定した第5計測位置εの計5箇所としているが、常にすべての計測位置に移動速度測定手段11を設ける必要は無く、例えば下記第1~3の設置例のように、摩耗を評価したい構成要素に応じて移動速度測定手段11を設ける箇所を選定すれば良い。
【0053】
[第1の設置例]
第1の設置例は、
図2(a)に示すように、第1計測位置α及び第5計測位置εに移動速度測定手段11を設けた例、すなわち鉱石スラリー輸送用配管系の上流部と下流部に移動速度測定手段11を設けた例である。
鉱石摩耗度推定手段12を用いて、第1計測位置αに設けた移動速度測定手段11が計測した鉱石52の移動速度と、第5計測位置εに設けた移動速度測定手段11が計測した鉱石52の移動速度に基づいて鉱石52の摩耗度を推定する。
そして、構成要素摩耗評価手段20を用いて、第1計測位置αにおける鉱石52の摩耗度と第5計測位置εにおける鉱石52の摩耗度との差を比較することにより、投入用タンク1と回収用タンク2を結ぶ鉱石スラリー輸送用配管系全体の構成要素の摩耗を評価することができる。
【0054】
[第2の設置例]
第2の設置例は、
図2(b)に示すように、第1計測位置α、第3計測位置γ及び第5計測位置εに移動速度測定手段11を設けた例、すなわち鉱石スラリー輸送用配管系の上流部と下流部に加えて中間部に移動速度測定手段11を設けた例である。
鉱石摩耗度推定手段12を用いて、第1計測位置αに設けた移動速度測定手段11が計測した鉱石52の移動速度と、第3計測位置γに設けた移動速度測定手段11が計測した鉱石52の移動速度と、第5計測位置εに設けた移動速度測定手段11が計測した鉱石52の移動速度に基づいて鉱石52の摩耗度を推定する。
そして、構成要素摩耗評価手段20を用いて、第1計測位置αにおける鉱石52の摩耗度と第3計測位置γにおける鉱石52の摩耗度との差を比較し、また、第3計測位置γにおける鉱石52の摩耗度と第5計測位置εにおける鉱石52の摩耗度との差を比較することにより、鉱石スラリー輸送用配管の前半部分(投入用タンク1からスラリーポンプ4まで)と後半部分(長大配管部3Cから回収用タンク2まで)の相対的な構成要素の摩耗を評価することができる。
なお、構成要素摩耗評価手段20を用いて、第1計測位置αにおける鉱石52の摩耗度と第5計測位置εにおける鉱石52の摩耗度との差を比較することにより、第1の設置例と同様に鉱石スラリー輸送用配管系全体の摩耗を評価することもできる。
【0055】
[第3の設置例]
第3の設置例は、
図2(c)に示すように、鉱石スラリー輸送用配管系の各構成要素を上流側と下流側から挟み込むように、第1計測位置α~第5計測位置εのすべてに移動速度手段11を設けた設置例である。
鉱石摩耗度推定手段12を用いて、第1計測位置αに設けた移動速度測定手段11が計測した鉱石52の移動速度と、第2計測位置βに設けた移動速度測定手段11が計測した鉱石52の移動速度と、第3計測位置γに設けた移動速度測定手段11が計測した鉱石52の移動速度と、第4計測位置δに設けた移動速度測定手段11が計測した鉱石52の移動速度と、第5計測位置εに設けた移動速度測定手段11が計測した鉱石52の移動速度に基づいて鉱石52の摩耗度を推定する。
そして、構成要素摩耗評価手段20を用いて、第1計測位置αにおける鉱石52の摩耗度と第2計測位置βにおける鉱石52の摩耗度との差から第1エルボー部3Aの摩耗率を、第2計測位置βにおける鉱石52の摩耗度と第3計測位置γにおける鉱石52の摩耗度との差からスラリーポンプ4の構成部品の摩耗率を、第3計測位置γにおける鉱石52の摩耗度と第4計測位置δにおける鉱石52の摩耗度との差から長大配管部3Cの摩耗率を、第4計測位置δにおける鉱石52の摩耗度と第5計測位置εにおける鉱石52の摩耗度との差から第2エルボー部3Bの摩耗率を、それぞれ相対的に評価することができる。
なお、構成要素摩耗評価手段20を用いて、第1計測位置αにおける鉱石52の摩耗度と第5計測位置εにおける鉱石52の摩耗度との差を比較することにより、第1の設置例と同様に鉱石スラリー輸送用配管系全体の摩耗を評価することもできる。さらに、構成要素摩耗評価手段20を用いて、第1計測位置αにおける鉱石52の摩耗度と第3計測位置γにおける鉱石52の摩耗度との差を比較し、また、第3計測位置γにおける鉱石52の摩耗度と第5計測位置εにおける鉱石52の摩耗度との差を比較することにより、第2の設置例と同様に鉱石スラリー輸送用配管の前半部分と後半部分の相対的な摩耗を評価することもできる。
【0056】
このように、移動速度測定手段11を設置する箇所を適切に選定することによって、評価対象とする構成要素の摩耗を適切に評価することができる。
【0057】
次に、鉱石の移動速度と摩耗度との関係について説明する。
図3は本発明の他の実施形態による鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価方法及び摩耗評価装置に用いる鉱石の摩耗度測定装置の概略図であり、
図3(a)は正面図、
図3(b)は斜視図である。太矢印は鉱石スラリーの循環方向を示す。なお、上記した実施形態と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0058】
図3に示す摩耗度測定装置10は、スラリー循環式摩耗試験装置100に適用されており、スラリー循環式摩耗試験装置100内を流れる鉱石スラリー50に含まれる鉱石52の移動速度を計測するための計測位置における配管を透明撮影配管13としている。また、透明撮影配管13(計測位置)に設ける移動速度測定手段11として高速度カメラを用い、鉱石スラリー50の平均流速を計測する電磁流量計15を透明撮影配管13の下流側に設けている。透明撮影配管13は、配管外部に設置した高速度カメラ11による配管内部の撮影を可能とするために透明にした配管である。
高速度カメラ11により透明撮影配管13の中を移動する鉱石52を撮影し、撮影された映像(画像)から鉱石52の移動速度を算出し、摩耗度との関係を調べた。
なお、本発明において、移動速度測定手段11は、スラリー輸送配管系の複数箇所に設けるが、ここでは便宜上一箇所のみに移動速度測定手段11を設けている。
【0059】
スラリー循環式摩耗試験装置100は、流体51である水を満たした投入タンク(バッファタンク)1と、環状に配置された配管3と、配管3に接続されたスラリーポンプ4を備える。
透明撮影配管13は、配管3の直管部分の一部を置き換えた形で接続されており、配管3の一部を成している。透明撮影配管13は、例えば、内径80mmの透明塩化ビニル管である。
高速度カメラ11は、透明撮影配管13に正対して設けられている。高速度カメラ11は、第1高速度カメラ11Aと第2高速度カメラ11Bの2台からなる。第1高速度カメラ11A及び第2高速度カメラ11Bのシャッタースピードは1/4000sec、フレームレートは150fpsである。
投入タンク1は、透明撮影配管13の上流側に設置されている。水を満たした投入タンク1に鉱石52を投入して鉱石スラリー50とし、この鉱石スラリー50をスラリーポンプ4で送出することで配管3内及び透明撮影配管13内を循環させることができる。
【0060】
図4は
図3に示す透明撮影配管及び高速度カメラを上から見た図であり、透明撮影配管及び高速度カメラの配置を示している。なお、太矢印は鉱石スラリーの循環方向を示している。また、
図5は鉱石が透明撮影配管内を移動する様子を高速度カメラにより撮影した写真であり、
図5(a)は第1高速度カメラにより撮影した写真、
図5(b)は第2高速度カメラにより撮影した写真である。
図4に示すように、第1高速度カメラ11Aを透明撮影配管13の上流端部側に設け、第2高速度カメラ11Bを透明撮影配管13の下流端部側に設けている。第1高速度カメラ11Aの撮影レンズ中心と第2高速度カメラ11Bの撮影レンズ中心との間隔Lは435mmとしている。このように高速度カメラ11を所定の距離を隔てて2台並設することで、鉱石52が第1高速度カメラ11Aに対応する位置から第2高速度カメラ11Bに対応する位置に至る全移動行程に基づいて鉱石52の速度を算出することができる。また、第1高速度カメラ11A又は第2高速度カメラ11Bの画角内における鉱石52の移動行程に基づいて鉱石52の速度を算出することができる。
透明撮影配管13には、例えばmm単位の目盛りが刻まれたスケール14が貼り付けられている。スケール14は、上流端部側から下流端部側にかけて高速度カメラ11の撮影範囲に位置するように貼り付けられている。これによって、
図5に示すように鉱石52とスケール14を同一写真内に収めることができ、鉱石52の移動距離の把握が容易となる。
【0061】
図6はスラリー循環式摩耗試験装置に投入した模擬鉱石の外観写真である。模擬鉱石の大きさは、砕石5号(兵庫県姫路市家島町西島産)、粒径約10~20mmであり、岩種は、流紋岩である。
【0062】
鉱石の移動速度と摩耗度との関係を調べるにあたって、まず、模擬鉱石52をグループAとグループBの二つのグループに分けた。
グループAは、スラリー循環式摩耗試験装置100を循環させる前の初期状態の複数の模擬鉱石52の中から無作為に抽出した、循環前鉱石52aの集合である。
グループBは、スラリー循環式摩耗試験装置100を用いて初期状態から90分間循環させた後の複数の鉱石52の中から無作為に抽出した、循環後鉱石52bの集合である。
なお、グループA、B内には、粒径範囲の異なる3種類(粒径大・粒径中・粒径小)が混在している。
【0063】
図6(a)~(c)は、循環前鉱石52a(グループA)を撮影したものである。
図6(a)は粒径大(約19~22mm)の循環前鉱石52aを示し、
図6(b)は粒径中(約13~16mm)の循環前鉱石52aを示し、
図6(c)は粒径小(約8~11mm)の循環前鉱石52aを示している。循環前鉱石52aは、いずれの粒径においても、鋭い角部を有していることが分かる。
なお、循環前鉱石52aの表面に表示されているアルファベットは、グループ名とは無関係である。
【0064】
図6(d)~(f)は、循環後鉱石52b(グループB)を撮影したものである。
図6(d)は粒径大(約19~22mm)の循環後鉱石52bを示し、
図6(e)は粒径中(約13~16mm)の循環後鉱石52bを示し、
図6(f)は粒径小(約8~11mm)の循環後鉱石52bを示している。循環後鉱石52bは、いずれの粒径においても、循環中に配管3の内壁やスラリーポンプ4の構成部品との衝突により角部が取れて丸みを帯びている(円磨度が増している)ことが分かる。
なお、循環後鉱石52bの表面に表示されているアルファベットは、グループ名とは無関係である。
【0065】
次に、グループAの循環前鉱石52aを投入タンク1に一度に投入し、循環前鉱石52aが透明撮影配管13内を移動する様子を高速度カメラ11により撮影した。
第1高速度カメラ11Aと第2高速度カメラ11Bによる撮影は同期をとり、撮影完了後にスケール14を利用して循環前鉱石52aの配管軸方向移動距離と撮影コマ数から循環前鉱石52aの配管軸方向移動速度を算出し、この配管軸方向移動速度を循環前鉱石52aのデータとして記録した。
第1高速度カメラ11Aと第2高速度カメラ11Bの同期をとって撮影することで、2台の高速度カメラ11の撮影タイミングを合わせることができる。なお、同期をとる方法は、第1高速度カメラ11Aから同期信号を出し、第2高速度カメラ11Bがこの同期信号に合わせて撮影を行うことにより実行される。
また、循環前鉱石52aの重量を計測し、その計測結果を循環前鉱石52aのデータに含めた。
【0066】
同様に、グループBの循環後鉱石52bを投入タンク1に一度に投入し、循環後鉱石52bが透明撮影配管13内を移動する様子を高速度カメラ11により撮影した。
第1高速度カメラ11A及び第2高速度カメラ11Bによる撮影は同期をとり、撮影完了後にスケール14を利用して循環後鉱石52bの配管軸方向移動距離と撮影コマ数から循環後鉱石52bの配管軸方向移動速度を算出し、この配管軸方向移動速度を循環後鉱石52bのデータとして記録した。
また、循環後鉱石52bの重量を計測し、その計測結果を循環後鉱石52bのデータに含めた。
【0067】
図7及び
図8は、鉱石のスラリー流速に対する相対速度を鉱石重量で整理した結果を示す図である。横軸は鉱石重量(g)、縦軸は鉱石の相対速度(m/sec)であり、白菱形(◇)は粒径小の循環前鉱石52a(グループA)の測定結果、白丸(○)は粒径中の循環前鉱石52a(グループA)の測定結果、白四角(□)は粒径大の循環前鉱石52a(グループA)の測定結果、黒菱形(◆)は粒径小の循環後鉱石52b(グループB)の測定結果、黒丸(●)は粒径中の循環後鉱石52b(グループB)の測定結果、黒四角(■)は粒径大の循環後鉱石52b(グループB)の測定結果を示す。なお、撮影時のスラリー流速は平均3.09m/secであった。また、配管3内に投入した循環前鉱石52a(グループA)又は循環後鉱石52b(グループB)は、それぞれの撮影完了後に全て回収した。
図7は、鉱石52の相対速度を、第1高速度カメラ11Aから第2高速度カメラ11Bに至る全移動行程から算出した場合であり、この行程中には鉱石52が透明撮影配管13の内壁に衝突してバウンドしたり、内壁の底を擦るようにして移動する場合が含まれている。
一方、
図8は、第1高速度カメラ11A又は第2高速度カメラ11Bの画角内において、鉱石52が透明撮影配管13の内壁に衝突してバウンドしたり内壁の底を擦るようにして移動することのなかった行程、すなわち鉱石52が流体中に浮遊して移動する行程のみから鉱石52の移動速度を算出した場合を示している。
図7を見ると、粒径の小さい(軽い)鉱石52の場合を除き、鉱石52の相対速度と鉱石52の摩耗度(グループAとBの違い)との間には有意な相関は認められず、鉱石52の速度算出に用いる移動行程に、鉱石52が透明撮影配管13の内壁に衝突してバウンドしたり内壁の底を擦るようにして移動する場合が含まれていると、鉱石52の摩耗度をうまく評価できない場合があることがわかる。
一方、
図8を見ると、粒径の小さい(軽い)鉱石52の結果に一点例外があるのを除き、いずれの粒径(重量)においてもグループA(循環前)の相対速度がグループB(循環後)の相対速度を上回っており、鉱石52が流体中に浮遊して移動する行程のみから鉱石52の移動速度を算出した場合には、鉱石52のスラリー流速に対する相対速度から鉱石52の摩耗度をより良好に評価・分類できることがわかる。
【0068】
通常、実配管中を輸送される鉱石スラリー50に含まれる鉱石52の摩耗度を定量的に評価することは困難であるが、上述のように鉱石スラリー輸送用配管系の途中に設けた透明撮影配管13及び2台の高速度カメラ11等を用いて鉱石の摩耗度測定装置10を構成することにより、実際の配管3内を流れる鉱石スラリー50に含まれる鉱石52の摩耗度を、輸送作業を停止することなく定量的に評価することができる。
【0069】
なお、
図3に示す鉱石の摩耗度測定装置10においては、透明撮影配管13と2台の高速度カメラ11を用いて鉱石52の移動速度を計測し、電磁流量計15を用いて鉱石スラリー50の平均流速を計測したが、他の方法及び手段を用いて鉱石52の移動速度又は鉱石スラリー50の平均流速を計測してもよい。例えば、ドップラー式の超音波流量計を用いて鉱石52の平均的な移動速度を計測したり、透明撮影配管13とレーザー変位計を適宜組み合わせて鉱石52の移動速度を計測したりすることなどができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の鉱石スラリー輸送用配管系の摩耗評価方法、摩耗評価装置、及び鉱石の摩耗度測定装置は、鉱石スラリー輸送用配管系の各構成要素に生じる摩耗を簡便かつ定量的に評価できる。実際の鉱石スラリー輸送用配管系に適用することができる。これにより、鉱石スラリー輸送用配管系全体の信頼性、稼働性及び安全性を向上させることができる。また、摩耗試験用としての鉱石スラリー輸送用配管系にも適用できる。
【符号の説明】
【0071】
10 摩耗度測定装置
11 移動速度測定手段(高速度カメラ)
12 鉱石摩耗度推定手段
13 透明撮影配管
14 スケール
20 構成要素摩耗評価手段
30 摩耗比較手段
40 表示手段
50 鉱石スラリー
52 鉱石(模擬鉱石、実際の鉱石、測定用鉱石)