(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】電子シンバルパッド
(51)【国際特許分類】
G10H 1/00 20060101AFI20220224BHJP
G10D 13/10 20200101ALI20220224BHJP
G10H 3/14 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
G10H1/00 A
G10D13/10 160
G10H3/14 Z
(21)【出願番号】P 2018085216
(22)【出願日】2018-04-26
【審査請求日】2020-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000130329
【氏名又は名称】株式会社コルグ
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】本橋 春彦
(72)【発明者】
【氏名】西川 達也
【審査官】菊池 智紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-295864(JP,A)
【文献】特開2014-093455(JP,A)
【文献】特開2005-037922(JP,A)
【文献】特開平09-325767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00- 7/12
G10D 13/00-13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子シンバルパッドの裏面に該当する基材と、
その表面が、前記基材の裏面に固定された複数の衝撃吸収片と、
その表面が、前記複数の衝撃吸収片の各裏面に固定され、前記基材に対してフローティング構造を形成するボードと、
前記ボードの裏面に固定された圧電素子と、
を含み、
前記ボードの長手方向の長さが、
前記電子シンバルパッドの周辺部の打撃音の中心周波数に対応する波長に任意の整数を乗算した値、または前記波長を任意の整数で除算した値である
電子シンバルパッド。
【請求項2】
電子シンバルパッドの裏面に該当する基材と、
その表面が、前記基材の裏面に固定された複数の衝撃吸収片と、
その表面が、前記複数の衝撃吸収片の各裏面に固定され、前記基材に対してフローティング構造を形成するボードと、
前記ボードの裏面に固定された圧電素子と、
を含み、
前記ボードは、その長手方向を前記電子シンバルパッドの半径方向と垂直な方向として、前記基材に固定されている
電子シンバルパッド。
【請求項3】
請求
項2に記載の電子シンバルパッドであって、
前記基材の裏面中央に配置された円形の回路収容部と、
前記基材の裏面端部に前記基材の周方向に沿って延伸された環状扇形のメンブレンスイッチを含み、
前記ボードは、前記回路収容部と前記メンブレンスイッチの間に位置して、前記回路収容部の円周方向および前記メンブレンスイッチの延伸方向に沿って湾曲する弓型形状である
電子シンバルパッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子シンバルパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
アコースティックのライドシンバルは、打撃された箇所に応じてその音色が幅広く変化する。従って、電子シンバルパッドにおいてアコースティックのライドシンバルの特性を模擬しようとする場合、打撃された箇所を特定する機構を設ければよい。例えば、特許文献1の電子ドラムシステムのドラムヘッドには、その中心から等間隔に位置する4つの箇所に4つのセンサが設けられている。電子ドラムシステムは、センサのそれぞれにおいて検出された振動開始時点の時間差に基づいて、ドラムヘッド上の打撃位置を特定する。この打撃位置の特定機構は電子シンバルパッドにも応用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のようにセンサを複数設けて打撃位置を特定する場合、センサの数に対応した多チャンネルの入力装置と、多チャンネルのケーブルが必要となり、コストが増大してしまうという課題がある(課題1)。
【0005】
そこで、センサを一つに絞ることを考える。例えば、打撃信号を電子シンバルパッドの基材の裏面に設けた単一のピックアップ(圧電素子)により取得することを考える。この場合、上述の方法ではなく、打撃信号の周波数に基づいてシンバルエッジ音とシンバルボウ音のレベルを決定する方法を用いることができる。電子シンバルパッドを打撃した場合、その打撃位置が中心に近づくにつれ打撃信号に含まれる低域成分が少なくなり、その打撃位置が外周に近づくにつれ打撃信号に含まれる低域成分が増加する傾向がある。従って、ピックアップ(圧電素子)により取得された打撃信号に低域成分が多い場合には、シンバルエッジ音のPCM信号のレベルを大きく再生し、ピックアップ(圧電素子)により取得された打撃信号に低域成分が少ない場合には、シンバルボウ音のPCM信号のレベルを大きく再生することで、アコースティックシンバルの特性を模擬することができる。
【0006】
しかしながら、この方法にも課題がある。ピックアップ(圧電素子)近傍が打撃された場合、ピックアップ(圧電素子)は、低域成分を多く含む打撃信号を検出する。ここで検出される低域成分はノイズであり、上述の傾向(打撃位置が外周に近づくにつれ…低域成分が増加する傾向)とは無関係に生じる。そのため、ピックアップ(圧電素子)近傍が打撃された場合、上述の傾向とは乖離した周波数特性の打撃信号が取得されることになる。これにより、シンバルエッジ音のPCM信号のレベルを大きく再生すべきでない場合に、シンバルエッジ音のPCM信号のレベルを大きく再生してしまうといった誤動作が生じうる(課題2)。
【0007】
センサを複数設け、一部のセンサでのみ低域成分を多く含む打撃信号が検出された場合、これをノイズとみなし、他のセンサの打撃信号に基づいて、シンバルエッジ音、シンバルボウ音のPCM信号のレベルを決定することにより、上述の課題を克服できるものの、この方法では、特許文献1と同様に課題1が生じる。
【0008】
そこで本発明では、単一のセンサでノイズの少ない打撃信号を取得することができる電子シンバルパッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電子シンバルパッドは、基材と、複数の衝撃吸収片と、ボードと、圧電素子を含む。基材は、電子シンバルパッドの裏面に該当する。衝撃吸収片は、その表面が、基材の裏面に固定される。ボードは、その表面が、複数の衝撃吸収片の各裏面に固定され、基材に対してフローティング構造を形成する。圧電素子は、ボードの裏面に固定される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電子シンバルパッドによれば、単一のセンサでノイズの少ない打撃信号を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】圧電素子に生じるノイズを軽減するための圧電素子を支持する部品の形状についての検討事項を説明する概略図であって、
図1(a)は、衝撃吸収片を用いてボードをフローティング構造としたことを説明する概略図、
図1(b)は、ボードの長手方向の好適な長さを説明する概略図。
【
図2】圧電素子に生じるノイズを軽減するための圧電素子および圧電素子を支持する部品の配置についての検討事項を説明する概略図であって、
図2(a)は、ボードの長手方向を電子シンバルパッドの半径方向と平行な方向とした例を説明する概略図、
図2(b)は、ボードの長手方向を電子シンバルパッドの半径方向と垂直な方向とした例を説明する概略図。
【
図3】他の部品の取り付けを考慮したボードの配置および形状についての検討事項を説明する概略図。
【
図6】実施例1の電子シンバルパッドの底面側に位置する部品の分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【0013】
[実施形態1]
以下、
図1(a)を参照して圧電素子に生じるノイズを軽減するための圧電素子を支持する部品の形状についての一つ目の検討事項を説明する。課題2は、ピックアップ(圧電素子)近傍を打撃した際に、ピックアップ(圧電素子)までの振動の伝達経路が短くなりすぎてしまい、他の部位を打撃したときに取得される打撃信号とは性質が異なる打撃信号が取得されることによる。そこで、同図に示すように、電子シンバルパッドの裏面に該当する基材10の裏面(同図では裏面が上方向を向いている)に、その表面(同図では表面が下方向を向いている)が固定された複数(例えば4つ)の衝撃吸収片11を設け、衝撃吸収片11の各裏面にその表面が固定されて基材10に対してフローティング構造を形成するボード12を設け、ボード12の裏面に圧電素子13を固定する(なお同図に示すように、ボード12と圧電素子13の間に衝撃吸収シート13Aを挟んでもよい)。これにより、基材10の何れかの領域が振動発生源になった場合に、圧電素子13までの振動の伝達経路が短くなりすぎることを防止する。本実施形態の電子シンバルパッドはフローティング構造を採用したため、基材10の何れかの領域において発生した振動は、基材10を伝搬し、衝撃吸収片11を伝搬し、ボード12を伝搬して、圧電素子13に伝わるため、振動の伝達経路が平準化され、取得される打撃信号が均質になり、課題2におけるノイズを軽減することができる。
【0014】
このとき圧電素子13は、複数の衝撃吸収片11の何れかとボード12を挟んで対向しない位置に固定されるのが好適である。衝撃吸収片11の何れかと圧電素子13がボード12を挟んで対向する場合、圧電素子13と振動発生源の振動伝達経路が短くなりすぎるおそれがあるからである。
【0015】
次に、
図1(b)を参照して圧電素子13に生じるノイズを軽減するための圧電素子13を支持する部品の形状についての二つ目の検討事項を説明する。圧電素子13を固定するボード12は、電子シンバルパッドに加えられる打撃音を良好に伝搬する形状であることが望ましい。例えば、電子シンバルパッドの周辺部の打撃音の中心周波数に対応する波長(λとする)に任意の整数(aとする)を乗算した値(λ×a)、または波長λを任意の整数aで除算した値(λ/a)を、ボード12の長手方向の長さとし、打撃音の波長λに対して良好に共振するようにすればさらに好適である。電子シンバルパッドの周辺部の打撃音には、おおよそ70~160Hzの周波数が多く含まれ、中心周波数は130~140Hz程度である。よって、少なくとも中心周波数を70Hz以上160Hz以下の所定の周波数として(より好適には中心周波数を130Hz以上400Hz以下の所定の周波数として)、ボード12の長手方向の長さを決めれば好適である。例えば、中心周波数を135Hzとした場合、対応する波長λ=340/135≒2.5mとなるため、例えばa=10とし、λ/a=0.25m(25cm)とすれば電子シンバルパッドの裏面に取付ける長さとして好適となる。
【0016】
次に
図2を参照して、圧電素子13に生じるノイズを軽減するための圧電素子13および圧電素子13を支持する部品の配置についての検討事項を説明する。圧電素子13およびこれを支持する部品の取り付け位置が打撃を受ける領域から離れすぎてしまうと、取得できる打撃信号のレベルが小さくなってしまう。そこで同図に示すように、圧電素子13およびこれを支持する部品は、演奏中に主に打撃を受ける領域AA(電子シンバルパッドのうち、演奏者に近い側、図中ドットハッチングを施した領域)内に配置することが望ましい。ここで、
図2(a)のように、ボード12の長手方向を電子シンバルパッドの半径方向と平行な方向として基材に固定した場合、
図2(b)のように、ボード12の長手方向を電子シンバルパッドの半径方向と垂直な方向として基材に固定した場合について比較する。
図2(a)の場合、例えば座標Z1に打撃が発生した場合に取得される打撃信号のレベルは、座標Z2に打撃が発生した場合に取得される打撃信号のレベルと比較して小さくなってしまい、取得される打撃信号のレベルのムラが大きい。一方、
図2(b)の場合、領域AAの大部分において、打撃信号を均一に取得することが可能である。従って、
図2(b)に示すように、ボード12の長手方向を電子シンバルパッドの半径方向と垂直な方向として基材に固定するのが好適である。
【0017】
次に
図3を参照して、他の部品の取り付けを考慮したボード12の配置および形状についての検討事項を説明する。電子シンバルパッドの裏面は、他の用途にも使用されるため、他の用途に用いる部品も取り付けられることがある。従って、これらの部品の取り付け位置が、ボード12の取り付け位置と重なり合わないように工夫する必要がある。同図に示すように、基材10の裏面中央には回路収容部、電源接続部などが配置される領域BB(図中縦線ハッチングを施した領域)、基材10の裏面端部にハンドミュート用のメンブレンスイッチが配置される領域CC(図中クロスハッチングを施した領域)を考えなければならない場合がある。例えば、領域BBは、電子シンバルパッドと同心円となる円形の領域であるものとし、領域CCは基材10の周方向に沿って延伸された環状扇形(あるいは三日月形状)であるものとする。この場合、ボード12は、領域BB(回路収容部、または電源接続部)と領域CC(メンブレンスイッチ)の間に位置すれば好適である。また、ボード12は、領域BB(回路収容部、または電源接続部)の円周方向および領域CC(メンブレンスイッチ)の延伸方向に沿って湾曲する弓型形状(あるいは環状扇形、あるいは三日月形状)であればさらに好適である。このようにボード12が湾曲していたとしても良好な共振の条件はさほど変化しない。従って、このような場合にもボード12の長手方向の長さ(弧長)をλ×a、λ/aとすれば好適である。
【実施例1】
【0018】
次に、
図4、
図5を参照して、実施例1の電子シンバルパッド1の構成を説明する。
図4に示すように、本実施例の電子シンバルパッド1の表面には、防音性を高めるため、ゴムシート91が貼られる。電子シンバルパッド1の表面の他の構造については説明を割愛する。
図5に示すように、電子シンバルパッド1の裏面には、前述の基材10と、基材10の裏面端部に固定されるハンドミュート用のメンブレンスイッチ15と、上述のボード12や圧電素子13を収容するセンサ収容部17と、制御回路基板や電源と接続する端子その他を収容する電源接続部18と、カバー19を含む。
【0019】
以下、
図6を参照して、本実施例の電子シンバルパッド1の裏面の構造を詳細に説明する。同図に示すように、電子シンバルパッド1の裏側には、上述した基材10、制御回路基板14、上述したメンブレンスイッチ15、4つの衝撃吸収片11、ボード12、圧電素子13、4つのクッション材16、上述したセンサ収容部17、上述した電源接続部18、上述したカバー19を含む。
【0020】
基材10は、電子シンバルパッド1の裏面に該当し、円形の硬質な樹脂板である。制御回路基板14は、基材10の裏面中央に固定されている。メンブレンスイッチ15は、基材10の裏面端部に固定されている。4つの衝撃吸収片11は、基材10の裏面にその表面が固定される。衝撃吸収片11は、例えば多孔質樹脂とすれば好適である。多孔質樹脂としては例えばPORON(高密度マイクロセルポリマーシート)などが好適である。衝撃吸収片11として弾性ゴムを用いてもよい。ボード12は、環状扇形(あるいは三日月形状)の硬質な樹脂板であって、制御回路基板14とメンブレンスイッチ15の間に位置し、4つの衝撃吸収片11のそれぞれがボード12の四隅のそれぞれに位置するように配置され、ボード12の表面と4つの衝撃吸収片11の裏面とが固定される。圧電素子13は、ボード12の裏面中央に、4つの衝撃吸収片11の何れともボード12を挟んで対向しない位置に固定される。なお、圧電素子13の表面に衝撃吸収シート13Aの裏面を接着し、この衝撃吸収シート13Aの表面がボード12の裏面に接着される構造とすればさらに好適である。
【0021】
4つのクッション材16は、ボード12の四隅のそれぞれに位置するように配置され、クッション材16の表面とボード12の裏面とが固定される。センサ収容部17は上面が開口し、ボード12と形状を合わせた浅い皿型の形状の硬質な樹脂ケースであって、4つの衝撃吸収片11、ボード12、圧電素子13、4つのクッション材16すべてを収容して、基材10に固定される。電源接続部18は、上面が開口した円形の皿形状の硬質な樹脂ケースであって、制御回路基板14を収容して基材10に固定される。カバー19は、電源接続部18の裏面に取り付けられる。
【0022】
このように、本実施例の電子シンバルパッド1によれば、電子シンバルパッド1の裏面に該当する基材10に対してフローティング構造としたボート12に圧電素子13を固定したため、単一のセンサのみで課題2で述べた打撃信号のノイズを軽減することができる。また、圧電素子13やボード12の配置、ボード12の形状を上述のような好適な条件とすることで、課題2で述べた打撃信号のノイズをさらに軽減し、他の部品の取り付けを考慮した形状とすることができる。
【0023】
なお、上記実施形態1で説明した打撃位置検出技術を用いれば、電子シンバルパッドのみならず、他の電子打楽器においても、打撃位置を反映させた楽音を発音することができる。
【符号の説明】
【0024】
1 電子シンバルパッド
10 基材
11 衝撃吸収片
12 ボード
13 圧電素子
13 衝撃吸収シート13A
14 制御回路基板
15 メンブレンスイッチ
16 クッション材
17 センサ収容部
18 電源接続部
19 カバー
91 ゴムシート